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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】圧縮比制御装置およびエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 15/02 20060101AFI20221220BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F02D15/02 A
F02D15/02 B
F02D45/00
F02D45/00 364Z
F02D45/00 368S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018063299
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019173667
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】梅本 義幸
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】寺本 潤
(72)【発明者】
【氏名】四井 和樹
(72)【発明者】
【氏名】井口 敬徳
【審査官】中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-332723(JP,A)
【文献】特開昭62-032213(JP,A)
【文献】特開2000-204963(JP,A)
【文献】特開2010-203308(JP,A)
【文献】特開2005-155506(JP,A)
【文献】特開2013-253529(JP,A)
【文献】特開2006-200508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0188571(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 15/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン負荷および燃焼室の最大燃焼圧力の少なくとも一方に相関を有する信号を検出する検出部と、
少なくとも前記エンジン負荷が所定負荷以下である場合、前記検出部の検出信号に基づいて、前記最大燃焼圧力が、予め設定された燃焼圧力上限値に近づくように、前記燃焼室の圧縮比を制御する制御部と、
を備え、
前記検出部は、エンジン回転数を検出する回転数検出センサ、前記燃焼室に供給される燃料の噴射量を検出する噴射量検出センサ、前記燃焼室内の圧力を検出する圧力検出センサ、および、前記燃焼室に供給される活性ガスの圧力である掃気圧を検出する掃気圧検出センサのうち少なくとも一つのセンサを有し、
前記制御部は、前記掃気圧検出センサが検出する前記掃気圧と、前記圧縮比と、比熱比とに基づいて、前記最大燃焼圧力を推定し、推定した前記最大燃焼圧力と、前記燃焼圧力上限値とを比較して、前記最大燃焼圧力が前記燃焼圧力上限値に近づくように、前記圧縮比を制御する
圧縮比制御装置。
【請求項2】
エンジン負荷および燃焼室の最大燃焼圧力の少なくとも一方に相関を有する信号を検出する検出部と、
少なくとも前記エンジン負荷が所定負荷以下である場合、前記検出部の検出信号に基づいて、前記最大燃焼圧力が、予め設定された燃焼圧力上限値に近づくように、前記燃焼室の圧縮比を制御する制御部と、
を備え、
前記検出部は、エンジン回転数を検出する回転数検出センサ、前記燃焼室に供給される燃料の噴射量を検出する噴射量検出センサ、前記燃焼室内の圧力を検出する圧力検出センサ、および、前記燃焼室に供給される活性ガスの圧力である掃気圧を検出する掃気圧検出センサのうち少なくとも一つのセンサを有し、
前記検出部は、可変ピッチプロペラの羽根の角度を検出する角度検出センサを有し、
前記制御部は、前記羽根の角度とエンジン回転数に基づいて、前記最大燃焼圧力を導出し、導出した前記最大燃焼圧力と、前記燃焼圧力上限値とを比較して、前記最大燃焼圧力が前記燃焼圧力上限値に近づくように、前記圧縮比を制御する
圧縮比制御装置。
【請求項3】
シリンダ内におけるピストンの上死点位置を変更する圧縮比可変機構を有する
請求項1または2に記載の圧縮比制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記圧力検出センサが検出する前記最大燃焼圧力と、前記燃焼圧力上限値とを比較して、前記最大燃焼圧力が前記燃焼圧力上限値に近づくように、前記圧縮比を制御する
請求項3に記載の圧縮比制御装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の圧縮比制御装置を備えるエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮比制御装置およびエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のクロスヘッド型エンジンは、ピストンロッドとクロスヘッドピンとの間に油圧機構を設けている。そして、特許文献1は、油圧機構を作動させることによりピストンロッドを上下に移動させ、クロスヘッド型エンジンの圧縮比を変更している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-20375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、例えば、ディーゼル油からガスに供給燃料が変更された場合に圧縮比を変更することで、燃費の向上が図られている。しかし、エンジンの燃費をより向上させる技術の開発が希求されている。
【0005】
本開示は、エンジンの燃費を向上することが可能な圧縮比制御装置およびエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る圧縮比制御装置は、エンジン負荷および燃焼室の最大燃焼圧力の少なくとも一方に相関を有する信号を検出する検出部と、少なくともエンジン負荷が所定負荷以下である場合、検出部の検出信号に基づいて、最大燃焼圧力が、予め設定された燃焼圧力上限値に近づくように、燃焼室の圧縮比を制御する制御部と、を備え、検出部は、エンジン回転数を検出する回転数検出センサ、燃焼室に供給される燃料の噴射量を検出する噴射量検出センサ、燃焼室内の圧力を検出する圧力検出センサ、および、燃焼室に供給される活性ガスの圧力である掃気圧を検出する掃気圧検出センサのうち少なくとも一つのセンサを有し、制御部は、掃気圧検出センサが検出する掃気圧と、圧縮比と、比熱比とに基づいて、最大燃焼圧力を推定し、推定した最大燃焼圧力と、燃焼圧力上限値とを比較して、最大燃焼圧力が燃焼圧力上限値に近づくように、圧縮比を制御する
また、上記課題を解決するために、本開示の他の態様に係る圧縮比制御装置は、エンジン負荷および燃焼室の最大燃焼圧力の少なくとも一方に相関を有する信号を検出する検出部と、少なくともエンジン負荷が所定負荷以下である場合、検出部の検出信号に基づいて、最大燃焼圧力が、予め設定された燃焼圧力上限値に近づくように、燃焼室の圧縮比を制御する制御部と、を備え、検出部は、エンジン回転数を検出する回転数検出センサ、燃焼室に供給される燃料の噴射量を検出する噴射量検出センサ、燃焼室内の圧力を検出する圧力検出センサ、および、燃焼室に供給される活性ガスの圧力である掃気圧を検出する掃気圧検出センサのうち少なくとも一つのセンサを有し、検出部は、可変ピッチプロペラの羽根の角度を検出する角度検出センサを有し、制御部は、羽根の角度とエンジン回転数に基づいて、最大燃焼圧力を導出し、導出した最大燃焼圧力と、燃焼圧力上限値とを比較して、最大燃焼圧力が燃焼圧力上限値に近づくように、圧縮比を制御する。
【0008】
シリンダ内におけるピストンの上死点位置を変更する圧縮比可変機構を有してもよい。
【0010】
制御部は、圧力検出センサが検出する最大燃焼圧力と、燃焼圧力上限値とを比較して、最大燃焼圧力が燃焼圧力上限値に近づくように、圧縮比を制御してもよい。
【0013】
また、本開示のエンジンは、上記圧縮比制御装置を備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示の圧縮比制御装置およびエンジンによれば、燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】エンジンの全体構成を示す説明図である。
図2図2(a)、(b)は、圧縮比可変機構および圧縮比制御装置の概略構成図である。
図3図3(a)、(b)は、変形例における圧縮比可変機構および圧縮比制御装置の概略構成図である。
図4】圧力検出センサによって測定されるシリンダ内の圧力の一例を示す図である。
図5図5(a)、図5(b)は、エンジン負荷と最大燃焼圧力との関係を表す図である。
図6図6(a)、図6(b)、図6(c)、図6(d)、図6(e)は、本実施形態におけるエンジンの性能を示す図である。
図7】圧縮比制御部による圧縮比の制御処理に係るフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
図1は、エンジン100の全体構成を示す説明図である。図1に示すように、エンジン100は、シリンダ110と、ピストン112と、ピストンロッド114と、クロスヘッド116と、連接棒118と、クランクシャフト120と、フライホイール122と、シリンダカバー124と、排気弁箱126と、燃焼室128と、排気弁130と、排気弁駆動装置132と、排気管134と、掃気溜136と、冷却器138と、シリンダジャケット140とを含んで構成される。
【0018】
シリンダ110内にピストン112が設けられる。ピストン112は、シリンダ110内を往復移動する。ピストン112には、ピストンロッド114の一端が取り付けられている。ピストンロッド114の他端には、クロスヘッド116のクロスヘッドピン150が連結される。クロスヘッド116は、ピストン112とともに往復移動する。ガイドシュー116aによって、クロスヘッド116の図1中、左右方向(ピストン112のストローク方向に垂直な方向)の移動が規制される。
【0019】
クロスヘッドピン150は、連接棒118の一端に設けられたクロスヘッド軸受118aに軸支される。クロスヘッドピン150は、連接棒118の一端を支持している。ピストンロッド114の他端と連接棒118の一端は、クロスヘッド116を介して接続される。
【0020】
連接棒118の他端は、クランクシャフト120に連結される。連接棒118に対してクランクシャフト120が回転可能である。ピストン112の往復移動に伴いクロスヘッド116が往復移動すると、クランクシャフト120が回転する。エンジン100には、回転数検出センサ184が設けられている。回転数検出センサ184は、クランクシャフト120の近傍に設けられており、クランクシャフト120の角度を検出することで、エンジン回転数を検出する。
【0021】
クランクシャフト120には、フライホイール122が取り付けられる。フライホイール122の慣性によってクランクシャフト120などの回転が安定化する。シリンダカバー124は、シリンダ110の上端に設けられる。シリンダカバー124には、排気弁箱126が挿通される。
【0022】
排気弁箱126の一端は、ピストン112に臨んでいる。排気弁箱126の一端には、排気ポート126aが開口する。排気ポート126aは、燃焼室128に開口する。燃焼室128は、シリンダカバー124とシリンダ110とピストン112に囲繞されてシリンダ110の内部に形成される。
【0023】
燃焼室128には、排気弁130の弁体が位置する。排気弁130のロッド部には、排気弁駆動装置132が取り付けられる。排気弁駆動装置132は、排気弁箱126に配される。排気弁駆動装置132は、排気弁130をピストン112のストローク方向に移動させる。
【0024】
排気弁130がピストン112側に移動して開弁すると、シリンダ110内で生じた燃焼後の排気ガスが、排気ポート126aから排気される。排気後、排気弁130が排気弁箱126側に移動して、排気ポート126aが閉弁される。
【0025】
排気管134は、排気弁箱126および過給機Cに取り付けられる。排気管134の内部は、排気ポート126aおよび過給機Cのタービンに連通する。排気ポート126aから排気された排気ガスは、排気管134を通って過給機Cのタービンに供給された後、外部に排気される。
【0026】
また、過給機Cのコンプレッサによって、活性ガスが加圧される。ここで、活性ガスは、例えば、空気である。加圧された活性ガスは、掃気溜136において、冷却器138によって冷却される。シリンダ110の下端は、シリンダジャケット140で囲繞される。シリンダジャケット140の内部には、掃気室140aが形成される。冷却後の活性ガスは、掃気室140aに圧入される。
【0027】
シリンダ110の下端側には、掃気ポート110aが設けられる。掃気ポート110aは、シリンダ110の内周面から外周面まで貫通する孔である。掃気ポート110aは、シリンダ110の周方向に離隔して複数設けられている。
【0028】
ピストン112が掃気ポート110aより下死点位置側に移動すると、掃気室140aとシリンダ110内の差圧によって、掃気ポート110aからシリンダ110内に活性ガスが吸入される。掃気室140aには、掃気圧検出センサ186が設けられている。掃気圧検出センサ186は、シリンダ110(燃焼室128)内に供給される活性ガスの圧力である掃気圧を検出する。
【0029】
掃気ポート110a近傍、または、シリンダ110のうち、掃気ポート110aからシリンダカバー124までの部位には、不図示の気体燃料噴射弁が設けられる。燃料ガスは、気体燃料噴射弁から噴射された後、シリンダ110内に流入する。
【0030】
また、シリンダカバー124には不図示のパイロット噴射弁が設けられる。パイロット噴射弁から適量の燃料油が燃焼室128内に噴射される。燃料油は、燃焼室128の熱で気化、着火、燃焼し、燃焼室128が昇温される。ピストン112で圧縮された燃料ガスおよび活性ガスの混合気は、燃焼室128の熱で着火されて燃焼する。ピストン112は、燃料ガス(混合気)の燃焼による膨張圧によって往復移動する。シリンダカバー124には、噴射量検出センサ188が設けられている。噴射量検出センサ188は、不図示の気体燃料噴射弁から燃焼室128に供給される燃料の噴射量を検出する。また、シリンダカバー124には、圧力検出センサ190が設けられている。圧力検出センサ190は、シリンダ110(燃焼室128)内の圧力を検出する。
【0031】
なお、回転数検出センサ184、掃気圧検出センサ186、噴射量検出センサ188、および、圧力検出センサ190は、後述する圧縮比制御部182に接続され、検出値(検出信号)を圧縮比制御部182に出力する。なお、図1中、信号の流れを破線の矢印で示す。
【0032】
ここで、燃料ガスは、例えば、LNG(液化天然ガス)をガス化して生成されるものとする。また、燃料ガスは、LNGに限らず、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油等をガス化したものを適用することもできる。
【0033】
エンジン100には、圧縮比可変機構Vが設けられている。また、エンジン100には、燃焼室128の圧縮比を制御する圧縮比制御装置180が設けられている。圧縮比制御装置180は、回転数検出センサ184、掃気圧検出センサ186、噴射量検出センサ188、圧力検出センサ190などの検出部と、圧縮比制御部182を含んで構成される。圧縮比制御部182は、回転数検出センサ184、掃気圧検出センサ186、噴射量検出センサ188、圧力検出センサ190などの検出部から得られる信号に基づいて、圧縮比可変機構Vを制御する。以下、圧縮比可変機構Vおよび圧縮比制御装置180について詳述する。
【0034】
図2(a)、(b)は、圧縮比可変機構Vおよび圧縮比制御装置180の概略構成図である。図2(a)は、ピストンロッド114とクロスヘッドピン150との連結部分を抽出した抽出図である。図2(b)は、圧縮比制御装置180の機能ブロック図である。図2(a)に示すように、クロスヘッドピン150のうち、ピストン112側の外周面には、平面部152が形成される。平面部152は、ピストン112のストローク方向に対して、大凡垂直な方向に延在する。
【0035】
クロスヘッドピン150には、ピン穴154が形成される。ピン穴154は、平面部152に開口する。ピン穴154は、平面部152からストローク方向に沿ってクランクシャフト120側(図2中、下側)に延在する。
【0036】
クロスヘッドピン150の平面部152には、カバー部材160が設けられる。カバー部材160は、締結部材162によってクロスヘッドピン150の平面部152に取り付けられる。カバー部材160は、ピン穴154を覆う。カバー部材160には、ストローク方向に貫通するカバー孔160aが設けられる。
【0037】
ピストンロッド114は、大径部114aおよび小径部114bを有する。大径部114aの外径は、小径部114bの外径よりも大きい。大径部114aは、ピストンロッド114の他端に形成される。大径部114aは、クロスヘッドピン150のピン穴154に挿通される。小径部114bは、大径部114aよりピストンロッド114の一端側に形成される。小径部114bは、カバー部材160のカバー孔160aに挿通される。
【0038】
油圧室154aは、ピン穴154の内部に形成される。ピン穴154は、大径部114aによってストローク方向に仕切られる。油圧室154aは、大径部114aで仕切られたピン穴154の底面154b側の空間である。
【0039】
また、圧縮比可変機構Vは、油圧調整機構Oを備えている。油圧調整機構Oは、油圧配管170と、油圧ポンプ172と、逆止弁174と、分岐配管176と、切換弁178と、を含んで構成される。
【0040】
底面154bには、油路156の一端が開口する。油路156の他端は、クロスヘッドピン150の外部に開口する。油路156の他端には、油圧配管170が接続される。油圧配管170には、油圧ポンプ172が連通する。油圧ポンプ172は、圧縮比制御部182からの指示に基づいて、不図示のオイルタンクから供給される作動油を油圧配管170に供給する。油圧ポンプ172と油路156との間に逆止弁174が設けられる。逆止弁174によって油路156側から油圧ポンプ172側への作動油の流れが抑制される。油圧ポンプ172から油路156を介して油圧室154aに作動油が圧入される。
【0041】
また、油圧配管170のうち、油路156と逆止弁174の間には分岐配管176が接続される。分岐配管176には、切換弁178が設けられる。切換弁178は、例えば、電磁弁である。切換弁178は、圧縮比制御部182からの指示に基づいて、開状態あるいは閉状態に制御される。油圧ポンプ172の作動中、切換弁178は閉弁される。油圧ポンプ172の停止中、切換弁178が開弁すると、油圧室154aから分岐配管176側に作動油が排出される。切換弁178のうち、油路156と反対側は、不図示のオイルタンクに連通する。排出された作動油は、オイルタンクに貯留される。オイルタンクは、油圧ポンプ172に作動油を供給する。
【0042】
油圧室154aの作動油の油量に応じて、大径部114aがストローク方向にピン穴154の内周面を摺動する。その結果、ピストンロッド114がストローク方向に移動する。ピストン112は、ピストンロッド114と一体に移動する。こうして、ピストン112の上死点位置が可変となる。
【0043】
このように、圧縮比可変機構Vは、上記の油圧室154a、および、ピストンロッド114の大径部114aを含んで構成される。圧縮比可変機構Vは、上死点位置を移動させることで、圧縮比を可変とする。すなわち、圧縮比可変機構Vは、油圧室154aに供給する作動油の油量を調整することにより、エンジン100のシリンダ110内におけるピストン112の上死点位置および下死点位置を変更することができる。
【0044】
ここでは、一つの油圧室154aが設けられる場合について説明した。しかし、大径部114aで仕切られたピン穴154のうち、カバー部材160側の空間154cも油圧室としてもよい。この油圧室は、油圧室154aと併用しても、単独で用いられてもよい。
【0045】
図2(b)では、主に圧縮比可変機構Vの制御に関する構成を示す。図2(b)に示すように、圧縮比制御装置180は、圧縮比制御部182を備える。圧縮比制御装置180は、例えば、ECU(Engine Control Unit)で構成される。圧縮比制御装置180は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等で構成され、エンジン100全体を制御する。
【0046】
圧縮比制御部182は、油圧ポンプ172および切換弁178を制御して、ピストン112の上死点位置を移動させる。こうして、圧縮比制御部182は、エンジン100の幾何的な圧縮比を制御する。
【0047】
図3(a)、(b)は、変形例における圧縮比可変機構Vaおよび圧縮比制御装置180aの概略構成図である。図3(a)は、変形例におけるピストンロッド114とクロスヘッドピン150との連結部分を抽出した抽出図である。図3(b)は、変形例における圧縮比制御装置180aの機能ブロック図である。
【0048】
圧縮比可変機構Vaは、上記の油圧室154a、および、ピストンロッド114の大径部114aを含んで構成される。また、圧縮比可変機構Vaは、油圧調整機構Oaを備えている。油圧調整機構Oaは、油圧ポンプ172と、揺動管302と、プランジャポンプ304と、リリーフ弁306と、プランジャ駆動部308と、リリーフ弁駆動部310と、を含んで構成される。
【0049】
油圧ポンプ172は、圧縮比制御部182からの指示に基づいて、不図示のオイルタンクから供給される作動油を揺動管302に供給する。揺動管302は、油圧ポンプ172とプランジャポンプ304とを接続する配管である。揺動管302は、クロスヘッドピン150に伴って移動するプランジャポンプ304と、固定された油圧ポンプ172との間において、揺動可能とされている。
【0050】
プランジャポンプ304は、クロスヘッドピン150に取り付けられる。プランジャポンプ304は、棒状のプランジャ304aと、プランジャ304aを摺動可能に収容する筒状のシリンダ304bとを有する。
【0051】
プランジャポンプ304は、クロスヘッドピン150の移動に伴って移動することで、プランジャ304aがプランジャ駆動部308と接触する。プランジャポンプ304は、プランジャ304aがプランジャ駆動部308と接触することで、シリンダ304b内を摺動し、作動油を昇圧して油圧室154aへと供給する。シリンダ304bには、端部に設けられた作動油の吐出側の開口に第1逆止弁304cが設けられる。また、シリンダ304bには、側周面に設けられた吸入側の開口に第2逆止弁304dが設けられている。
【0052】
プランジャ駆動部308は、圧縮比制御部182からの指示に基づいて、プランジャ304aと接触する接触位置と、プランジャ304aと接触しない非接触位置とに駆動される。プランジャ駆動部308は、プランジャ304aと接触することで、プランジャ304aをシリンダ304b側に押圧する。
【0053】
第1逆止弁304cは、シリンダ304bの内側に向けて弁体が付勢されることで閉弁する。第1逆止弁304cは、閉弁することで、油圧室154aに供給された作動油がシリンダ304b内へ逆流することを防止している。また、第1逆止弁304cは、シリンダ304b内の作動油の圧力が第1逆止弁304cの付勢部材の付勢力(開弁圧力)以上となると、弁体が作動油に押されることにより開弁する。
【0054】
第2逆止弁304dは、シリンダ304bの外側に向けて弁体が付勢されることで閉弁する。第2逆止弁304dは、閉弁することで、シリンダ304bに供給された作動油が油圧ポンプ172へ逆流することを防止している。また、第2逆止弁304dは、油圧ポンプ172から供給される作動油の圧力が第2逆止弁304dの付勢部材の付勢力(開弁圧力)以上となると、弁体が作動油に押されることにより開弁する。なお、第1逆止弁304cは、開弁圧力が第2逆止弁304dの開弁圧力よりも高く設定されている。
【0055】
リリーフ弁306は、クロスヘッドピン150に取り付けられる。リリーフ弁306は、油圧室154aおよび不図示のオイルタンクに接続される。リリーフ弁306は、棒状のロッド306aと、ロッド306aを摺動可能に収容する筒状の本体306bと、弁体306cとを有する。本体306bの内部には、油圧室154aから排出された作動油が流通する内部流路が形成されている。弁体306cは、本体306b内の内部流路に配される。
【0056】
リリーフ弁306は、クロスヘッドピン150の移動に伴って移動することで、ロッド306aがリリーフ弁駆動部310と接触する。リリーフ弁駆動部310は、圧縮比制御部182からの指示に基づいて、ロッド306aと接触する接触位置と、ロッド306aと接触しない非接触位置とに駆動される。リリーフ弁駆動部310は、ロッド306aと接触することで、ロッド306aを本体306b側に押圧する。ロッド306aは、本体306b側に押圧されることで、弁体306cを開弁させる。弁体306cが開弁されることで、油圧室154aに貯留された作動油がオイルタンクに戻される。
【0057】
プランジャ駆動部308およびリリーフ弁駆動部310は、例えば、プランジャポンプ304およびリリーフ弁306との相対位置を変化させることで作動制御するカム板からなる機構を含んで構成される。また、プランジャ駆動部308およびリリーフ弁駆動部310は、カム板の相対位置をアクチュエータで駆動させる機構を含んで構成される。
【0058】
図3(b)では、主に圧縮比可変機構Vaの制御に関する構成を示す。図3(b)に示すように、圧縮比制御装置180aは、圧縮比制御部182を備える。圧縮比制御装置180aは、例えば、ECU(Engine Control Unit)で構成される。圧縮比制御装置180aは、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等で構成され、エンジン100全体を制御する。
【0059】
圧縮比制御部182は、油圧ポンプ172と、プランジャ駆動部308と、リリーフ弁駆動部310を制御して、ピストン112の上死点位置を移動させる。こうして、圧縮比制御部182は、エンジン100の幾何的な圧縮比を制御する。
【0060】
ところで、エンジン100は、シリンダ110の耐久性からシリンダ110内の圧力に関して上限値(以下、シリンダ内圧上限値という)が定められている。図4は、圧力検出センサ190によって測定されるシリンダ110内の圧力の一例を示す図である。図4において、縦軸はシリンダ110内の圧力(シリンダ内圧)を表し、横軸はクランク角を表す。
【0061】
図4に示すようにクランク角が下死点から上死点に近づくにつれて、シリンダ110内の混合気(空気および燃料)は、ピストン112によって圧縮され、シリンダ110内の温度および圧力が上昇する(圧縮行程)。クランク角が下死点から上死点に到達する前のA点に到達したとき、シリンダ110内の混合気が燃焼し、その際に発生した熱によって燃焼ガスが膨張する(燃焼行程および膨張行程)。燃焼ガスの膨張による圧力上昇によりピストン112を押し下げる力が発生する。
【0062】
本実施形態では、圧力検出センサ190によって測定されるシリンダ110内の圧力のうち、クランク角がA点より前の圧縮行程における圧力を圧縮圧力Pcompという。また、圧力検出センサ190によって測定されるシリンダ110内の圧力のうち、クランク角がA点より後の燃焼行程および膨張行程における圧力を燃焼圧力Pという。また、燃焼圧力Pのうち最大の圧力を最大燃焼圧力Pmaxという。最大燃焼圧力Pmaxは、1回の燃焼周期のうち圧力検出センサ190によって測定されるシリンダ110内の最大圧力である。なお、図4中の破線は、圧縮行程において測定された圧力から推定されるA点より後の圧縮圧力を示し、図4中のB点は、推定した圧縮圧力のピーク位置(ピーク値)を示している。また、図4中のC点は、燃焼圧力Pのピーク位置(ピーク値)、すなわち、最大燃焼圧力Pmaxの位置を示している。
【0063】
上述したとおり、エンジン100には、シリンダ内圧上限値(燃焼圧力上限値)が定められている。そのため、エンジン100は、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値以下に抑制する必要がある。ここで、最大燃焼圧力Pmaxは、燃焼室128に供給される活性ガスの圧力である掃気圧Psに応じて変化する。具体的に、掃気圧Psが大きくなるほど最大燃焼圧力Pmaxは大きくなり、掃気圧Psが小さくなるほど最大燃焼圧力Pmaxは小さくなる。
【0064】
また、掃気圧Psは、エンジン負荷に応じて変化する。具体的に、エンジン負荷(例えば、エンジン回転数)が大きくなるほど掃気圧Psは大きくなり、エンジン負荷が小さくなるほど掃気圧Psは小さくなる。したがって、掃気圧Psが最も大きくなる、すなわち、エンジン負荷が最も大きくなるエンジン全負荷(100%負荷)時に、最大燃焼圧力Pmaxは最も大きくなる。そのため、エンジン100は、通常、燃焼室128の圧縮比を固定とした場合、エンジン全負荷時において最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値となるように圧縮比を設定する。
【0065】
図5(a)、図5(b)は、エンジン負荷と最大燃焼圧力Pmaxとの関係を表す図である。図5(a)、図5(b)において、縦軸は最大燃焼圧力Pmaxを表し、横軸はエンジン負荷を表す。図5(a)では、燃焼室128の圧縮比を固定とした場合のエンジン負荷と最大燃焼圧力Pmaxとの関係を表す。図5(b)では、燃焼室128の圧縮比を固定とした場合と可変とした場合におけるエンジン負荷と最大燃焼圧力Pmaxとの関係を表す。図5(a)および図5(b)において、一点鎖線は、シリンダ内圧上限値Pmax Limitを示す。
【0066】
図5(a)中の実線は、燃焼室128の圧縮比を固定とした場合のエンジン負荷に応じて変化する最大燃焼圧力Pmaxを示している。図5(a)に示すように、燃焼室128の圧縮比を固定にした場合、最大燃焼圧力Pmaxは、エンジン全負荷状態においてシリンダ内圧上限値Pmax Limitとなる。最大燃焼圧力Pmaxが大きくなるほど、燃料消費率を低減させる(すなわち、燃費を改善する)ことができるため、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitとなるエンジン全負荷状態において燃費が改善される。
【0067】
しかし、図5(a)に示すように、燃焼室128の圧縮比を固定とした場合、最大燃焼圧力Pmaxは、エンジン負荷がエンジン全負荷状態より小さい負荷状態においてシリンダ内圧上限値Pmax Limitに到達しない。したがって、図5(a)に示す例では、エンジン負荷がエンジン全負荷状態より小さい負荷状態においては、燃費改善の余地がある。
【0068】
そこで、本実施形態では、圧縮比制御部182は、少なくともエンジン負荷が所定負荷以下である場合、最大燃焼圧力Pmaxが、予め設定されたシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように、燃焼室128の圧縮比(圧縮比可変機構V)を制御する。本実施形態では、圧縮比制御部182は、圧力検出センサ190から出力される検出値(最大燃焼圧力Pmaxを含むシリンダ内圧)を取得することができる。したがって、圧縮比制御部182は、圧力検出センサ190によって検出される最大燃焼圧力Pmaxと、シリンダ内圧上限値Pmax Limitとを比較して、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように、圧縮比を制御する。
【0069】
圧縮比制御部182は、圧縮比可変機構Vを制御することで、燃焼室128の圧縮比を圧縮比ε0から圧縮比εnまでの間で変更することができる。圧縮比ε0は、燃焼室128の圧縮比が最小となる圧縮比である。また、圧縮比εnは、燃焼室128の圧縮比が最大となる圧縮比である。
【0070】
図5(b)中の実線は、本実施形態における燃焼室128の圧縮比を可変とした場合のエンジン負荷に応じて変化する最大燃焼圧力Pmaxを示している。本実施形態では、圧縮比制御部182は、エンジン全負荷状態において燃焼室128の圧縮比が最小の圧縮比ε0となるように圧縮比可変機構Vを制御する。図5に示すように、エンジン全負荷状態において燃焼室128の圧縮比を最小の圧縮比ε0とすると、最大燃焼圧力Pmaxはシリンダ内圧上限値Pmax Limitとなる。ここで、図5(b)における破線は、燃焼室128の圧縮比が最小の圧縮比ε0で固定されている状態のエンジン負荷に応じて変化する最大燃焼圧力Pmaxを示している。
【0071】
圧縮比制御部182は、エンジン全負荷状態より小さい負荷状態において燃焼室128の圧縮比が最小の圧縮比ε0より大きい圧縮比となるように、圧縮比可変機構Vを制御する。上述したように、最大燃焼圧力Pmaxは、掃気圧Psに応じて変化するが、燃焼室128の圧縮比に応じても変化する。具体的に、圧縮比が大きくなるほど最大燃焼圧力Pmaxは大きくなり、圧縮比が小さくなるほど最大燃焼圧力Pmaxは小さくなる。
【0072】
したがって、燃焼室128の圧縮比を最小の圧縮比ε0より大きい圧縮比に変更することで、掃気圧Psが減少し最大燃焼圧力Pmaxが小さくなるような場合においても、最大燃焼圧力Pmaxを大きくすることができる。その結果、エンジン全負荷状態より小さい負荷状態においても、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づけることができる。
【0073】
このように、圧縮比制御部182は、燃焼室128の圧縮比を変更することで、エンジン負荷が小さくなる場合においても、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitに維持させることができる。図5(b)に示すエンジン負荷領域R1は、燃焼室128の圧縮比を最小の圧縮比ε0から最大の圧縮比εnの範囲内で変更することで、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitに維持可能な範囲である。
【0074】
エンジン負荷領域R1において、圧縮比制御部182は、燃焼室128の圧縮比を可変とした場合(図5(b)中の実線)、燃焼室128の圧縮比を固定(図5(b)中の破線)とした場合よりも大きな圧縮比を得ることができる。上述したように、圧縮比が大きくなるほど、最大燃焼圧力Pmaxは大きくなる。
【0075】
したがって、エンジン負荷領域R1において、燃焼室128の圧縮比を最小の圧縮比ε0より大きい圧縮比とした場合の最大燃焼圧力Pmaxは、圧縮比を最小の圧縮比ε0とした場合の最大燃焼圧力Pmaxより大きくすることができる。このように、圧縮比制御部182は、エンジン負荷領域R1において、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitを超えない範囲で、燃焼室128の圧縮比を可能な限り大きくすることで、燃費を改善することができる。
【0076】
また、図5(b)に示すエンジン負荷領域R2は、燃焼室128の圧縮比を最大の圧縮比εnに設定しても、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limit未満となる範囲である。ここで、エンジン負荷領域R1は、エンジン全負荷を含むエンジン負荷領域である。また、エンジン負荷領域R2は、エンジン負荷領域R1より小さい負荷領域である。
【0077】
エンジン負荷領域R2において、最大燃焼圧力Pmaxは、燃焼室128の圧縮比を固定(破線)とした場合も可変(実線)とした場合も、シリンダ内圧上限値Pmax Limit未満となる。しかし、エンジン負荷領域R2において、燃焼室128の圧縮比を可変(実線)とした場合、圧縮比制御部182は、燃焼室128の圧縮比を固定(破線)とした場合よりも大きな圧縮比εnを得ることができる。
【0078】
したがって、エンジン負荷領域R2において、燃焼室128の圧縮比を可変(実線)としたときの最大燃焼圧力Pmaxは、圧縮比を固定(破線)とした場合の最大燃焼圧力Pmaxより大きくすることができる。このように、圧縮比制御部182は、エンジン負荷領域R2においても、燃焼室128の圧縮比を可能な限り大きくすることで、燃費を改善することができる。
【0079】
これにより、圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limit未満となる範囲で、圧縮比を最も高圧縮比に制御する。具体的に、圧縮比制御部182は、圧縮比を最大の圧縮比εnとしたときの最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limit未満となる場合、圧縮比を最大の圧縮比εnに維持するように制御する。
【0080】
図6(a)、図6(b)、図6(c)、図6(d)、図6(e)は、本実施形態におけるエンジン100の性能を示す図である。図6(a)は、図5(b)に示すエンジン負荷領域R1における燃料消費率(燃費)とエンジン負荷との関係を示す図である。図6(a)において、縦軸は燃料消費率を表し、横軸はエンジン負荷を表す。図6(a)中のエンジン負荷は、Ea、Eb、Ec、Ed、Eeの順で小さくなる。すなわち、エンジン負荷Ea、Eb、Ec、Ed、Eeの関係は、Ea>Eb>Ec>Ed>Eeとなる関係である。エンジン負荷Eaは、エンジン全負荷(100%負荷)を表す。以降の図6(b)~図6(e)中のエンジン負荷Ea、Eb、Ec、Ed、Eeも、図6(a)と同じ定義である。また、図6(a)において、破線は、燃料消費率が最小となる最小燃料消費率を表している。
【0081】
図6(b)は、図5(b)に示すエンジン負荷領域R1における最大燃焼圧力Pmaxとエンジン負荷との関係を示す図である。図6(b)において、縦軸は最大燃焼圧力Pmaxを表し、横軸はエンジン負荷を表す。また、図6(b)において、一点鎖線は、シリンダ内圧上限値Pmax Limitを表している。なお、シリンダ内圧上限値は、エンジン負荷に関わらず一定の値である。
【0082】
図6(c)は、図5(b)に示すエンジン負荷領域R1における圧縮圧力Pcompとエンジン負荷との関係を示す図である。図6(c)において、縦軸は圧縮圧力Pcompを表し、横軸はエンジン負荷を表す。ここで、圧縮圧力Pcompは、例えば図4中のB点のように、推定した圧縮圧力のピーク値である。また、図6(c)において、一点鎖線は、推定した圧縮圧力のピーク値の目標値(以下、目標圧縮圧力という)である。圧縮圧力Pcompのピーク値を目標圧縮圧力に近づけることで、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づけることができる。なお、圧縮圧力Pcompのピーク値が目標圧縮圧力となるとき、最大燃焼圧力Pmaxはシリンダ内圧上限値Pmax Limitとなる。
【0083】
図6(c)に示すように、目標圧縮圧力は、エンジン負荷に応じて変動し、一定の値ではない。具体的に、目標圧縮圧力は、エンジン負荷が小さくなるにつれて小さくなり、エンジン負荷が大きくなるにつれて大きくなる値である。これは、図4中のB点で示される圧縮圧力Pcompのピーク値と、図4中のC点で示される燃焼圧力Pのピーク値(最大燃焼圧力Pmax)との差Δが、エンジン負荷が大きくなるにつれて、大きくなるからである。エンジン負荷が大きくなるにつれて目標圧縮圧力を大きくすることで、エンジン負荷が大きくなるにつれて差Δが大きくなっても、最大燃焼圧力Pmaxをエンジン負荷に関わらず一様な値にすることができる。
【0084】
図6(d)は、図5(b)に示すエンジン負荷領域R1における掃気圧Psとエンジン負荷との関係を示す図である。図6(d)において、縦軸は掃気圧Psを表し、横軸はエンジン負荷を表す。図6(d)に示すように、掃気圧Psは、エンジン負荷が大きくなるにつれて大きくなり、エンジン負荷が小さくなるにつれて小さくなる。
【0085】
図6(e)は、図5(b)に示すエンジン負荷領域R1における有効圧縮比εefとエンジン負荷との関係を示す図である。図6(e)において、縦軸は有効圧縮比εefを表し、横軸はエンジン負荷を表す。図6(e)に示すように、有効圧縮比εefは、エンジン負荷が大きくなるにつれて小さくなり、エンジン負荷が小さくなるにつれて大きくなる。有効圧縮比εefとは、燃焼室128の実際の圧縮比であり、掃気ポート110aが閉じられた瞬間のシリンダ110内の容積と、ピストン112が上死点に達したときの燃焼室128の容積との比で表される。
【0086】
圧縮比制御部182は、図6(b)に示されるように、エンジン全負荷状態からエンジン負荷が、エンジン負荷Ea、Eb、Ec、Ed、Eeの順で小さくなるにつれて、燃焼室128の圧縮比を、圧縮比ε0、ε1、ε2、εn-1、εnの順で変化させる。ここで、圧縮比は、ε0、ε1、ε2、εn-1、εnの順で大きくなる値である。すなわち、圧縮比ε0、ε1、ε2、εn-1、εnの関係は、ε0<ε1<ε2<εn-1<εnとなる関係である。
【0087】
具体的に、圧縮比制御部182は、エンジン負荷Ea(エンジン全負荷)において、燃焼室128の圧縮比を、圧縮比ε0に設定する。エンジン負荷Eaにおいて圧縮比ε0に設定することにより、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitとすることができる。また、圧縮比制御部182は、エンジン負荷Ebにおいて、燃焼室128の圧縮比を、圧縮比ε1に設定する。エンジン負荷Ebにおいて圧縮比ε1に設定することにより、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitとすることができる。
【0088】
また、圧縮比制御部182は、エンジン負荷Ecにおいて、燃焼室128の圧縮比を、圧縮比ε2に設定する。エンジン負荷Ecにおいて圧縮比ε2に設定することにより、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitとすることができる。また、圧縮比制御部182は、エンジン負荷Edにおいて、燃焼室128の圧縮比を、圧縮比εn-1に設定する。エンジン負荷Edにおいて圧縮比εn-1に設定することにより、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitとすることができる。また、圧縮比制御部182は、エンジン負荷Eeにおいて、燃焼室128の圧縮比を、圧縮比εnに設定する。エンジン負荷Eeにおいて圧縮比εnに設定することにより、最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitとすることができる。
【0089】
本実施形態によれば、圧縮比制御部182は、少なくともエンジン負荷が所定負荷(エンジン全負荷)以下である場合、最大燃焼圧力Pmaxが、予め設定されたシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように、燃焼室128の圧縮比を制御する。圧縮比制御部182は、エンジン全負荷状態からエンジン負荷が小さくなるにつれて圧縮比を大きくする。これにより、図6(d)に示すように掃気圧Psが小さく変化する場合でも、図6(b)に示すように最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づけることができる。これにより、図6(a)に示すように、各エンジン負荷Ea~Eeにおいて燃料消費率を最小にする(すなわち、燃費を改善する)ことができる。
【0090】
図7は、圧縮比制御部182による圧縮比の制御処理に係るフローチャートを示す図である。
【0091】
まず、圧縮比制御部182は、圧力検出センサ190から出力される信号に基づいて、現在のシリンダ内圧を導出する(ステップS102)。つぎに、圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitより小さいか否か判定する(ステップS104)。圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitより小さい場合(ステップS104においてYES)、ステップS106に進む。一方、圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limit以上である場合(ステップS104においてNO)、ステップS110に進む。
【0092】
ステップS104においてYESである場合、圧縮比制御部182は、圧縮比可変機構Vを制御し、燃焼室128の圧縮比を増大させる(ステップS106)。圧縮比制御部182は、燃焼室128の圧縮比を増大させた後、燃焼室128の圧縮比が最大の圧縮比εnであるか否か判定する(ステップS108)。燃焼室128の圧縮比が最大の圧縮比εnである場合(ステップS108においてYES)、ステップS116に進む。燃焼室128の圧縮比が最大の圧縮比εnでない場合(ステップS108においてNO)、ステップS102に戻り、ステップS102~S104の処理を再び行う。
【0093】
ステップS104においてNOである場合、圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitより大きいか否か判定する(ステップS110)。圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitより大きい場合(ステップS110においてYES)、ステップS112に進む。一方、圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limit以下である、すなわち、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitとなった場合(ステップS110においてNO)、ステップS116に進む。
【0094】
ステップS110においてYESである場合、圧縮比制御部182は、圧縮比可変機構Vを制御し、燃焼室128の圧縮比を減少させる(ステップS112)。圧縮比制御部182は、燃焼室128の圧縮比を減少させた後、燃焼室128の圧縮比が最小の圧縮比ε0であるか否か判定する(ステップS114)。燃焼室128の圧縮比が最小の圧縮比ε0である場合(ステップS114においてYES)、ステップS116に進む。燃焼室128の圧縮比が最小の圧縮比ε0でない場合(ステップS114においてNO)、ステップS102に戻り、ステップS102、S104、S110の処理を再び行う。
【0095】
ステップS108またはステップS114においてYES、および、ステップS110においてNOである場合、圧縮比制御部182は、圧縮比可変機構Vを制御し、燃焼室128の圧縮比を維持させ(ステップS116)、当該圧縮比の制御処理を終了する。
【0096】
上記実施形態では、圧縮比制御部182は、圧力検出センサ190によって測定される最大燃焼圧力Pmaxに応じて圧縮比を変更する例を説明した。しかし、最大燃焼圧力Pmaxは、圧力検出センサ190によって測定されなくともよい。例えば、圧縮比制御部182は、圧力検出センサ190の代わりに、掃気圧検出センサ186によって測定される掃気圧Psに基づいて、最大燃焼圧力Pmaxを推定してもよい。
【0097】
具体的に、圧縮比制御部182は、掃気圧Psと、圧縮比と、比熱比に基づいて、最大燃焼圧力Pmaxを推定してもよい。圧縮比制御部182は、推定した最大燃焼圧力Pmaxと、シリンダ内圧上限値Pmax Limitとを比較して、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように、圧縮比を制御してもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxに応じて圧縮比を変更する例を説明した。しかし、これに限定されず、圧縮比制御部182は、エンジン負荷に応じて圧縮比を変更するようにしてもよい。例えば、圧縮比制御部182は、回転数検出センサ184によって検出されるエンジン回転数と、噴射量検出センサ188によって検出される燃料噴射量に基づいて、エンジン負荷を導出する。この場合、圧縮比制御部182は、エンジン負荷に対する圧縮比を示すマップが予め記憶されたROMを有する。したがって、圧縮比制御部182は、ROMに記憶されたマップを参照することで、導出したエンジン負荷に応じた圧縮比に変更することができる。
【0099】
また、圧縮比制御部182は、エンジン回転数に対する圧縮比を示すマップが予め記憶されたROMを有してもよい。この場合、圧縮比制御部182は、ROMに記憶されたマップを参照することで、回転数検出センサ184によって検出されるエンジン回転数に応じた圧縮比に変更することができる。このように、エンジン負荷またはエンジン回転数に応じた圧縮比に変更することで、圧縮比制御部182は、各エンジン負荷またはエンジン回転数において最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づけることができる。
【0100】
また、上記実施形態では、圧縮比制御部182は、最大燃焼圧力Pmaxに応じて圧縮比を変更する例を説明した。しかし、これに限定されず、圧縮比制御部182は、圧縮圧力Pcompに応じて圧縮比を変更するようにしてもよい。例えば、圧縮比制御部182は、圧力検出センサ190によって測定されるシリンダ内圧から、圧縮圧力Pcompのピーク値を推定する。この場合、圧縮比制御部182は、エンジン負荷またはエンジン回転数に対する目標圧縮圧力を示すマップが予め記憶されたROMを有する。したがって、圧縮比制御部182は、ROMに記憶されたマップを参照することで、推定した圧縮圧力のピーク値が目標圧縮圧力となる圧縮比に変更することができる。このように、圧縮圧力Pcompのピーク値が目標圧縮圧力となる圧縮比に変更することで、圧縮比制御部182は、各エンジン負荷において最大燃焼圧力Pmaxをシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づけることができる。
【0101】
また、圧縮比制御部182は、推定した圧縮圧力のピーク値と、上述した図4中のB点とC点の差Δから、最大燃焼圧力Pmaxを推定してもよい。この場合、圧縮比制御部182は、エンジン負荷またはエンジン回転数に対する差Δを示すマップが予め記憶されたROMを有する。したがって、圧縮比制御部182は、ROMに記憶されたマップを参照することで、推定した圧縮圧力のピーク値と差Δから最大燃焼圧力Pmaxを推定することができる。圧縮比制御部182は、推定した最大燃焼圧力Pmaxと、シリンダ内圧上限値Pmax Limitとを比較して、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように、圧縮比を制御してもよい。
【0102】
このように、エンジン100は、エンジン負荷および燃焼室128の最大燃焼圧力の少なくとも一方に相関を有する信号を検出する検出部(例えば、回転数検出センサ184、圧力検出センサ190など)を備えている。圧縮比制御部182は、このような検出部から取得される信号に基づいて、最大燃焼圧力Pmaxが予め設定されたシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように、圧縮比を制御することができる。
【0103】
また、エンジン100によって駆動される被駆動部材(例えば、船舶用プロペラ)の種類によっては、エンジン回転数が同じでもエンジン負荷が異なる場合がある。例えば、エンジン100によって駆動される被駆動部材として、固定ピッチプロペラと可変ピッチプロペラがある。固定ピッチプロペラは、羽根(翼)の角度が固定であるが、可変ピッチプロペラは、羽根の角度を変更することができる。そのため、可変ピッチプロペラは、固定ピッチプロペラと同じ回転数であっても、羽根の角度に応じてエンジン負荷が異なる場合がある。
【0104】
圧縮比制御部182は、エンジン100が固定ピッチプロペラを回転駆動する場合、上述した方法で最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように圧縮比を制御することができる。しかし、圧縮比制御部182は、エンジン100が可変ピッチプロペラを回転駆動する場合、上述した方法で最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように圧縮比を制御できない場合がある。
【0105】
そこで、圧縮比制御部182は、可変ピッチプロペラを回転駆動する際、上述した方法で圧縮比を制御できない場合、可変ピッチプロペラの羽根の角度とエンジン回転数に基づいて、例えば、最大燃焼圧力Pmaxを導出してもよい。そして、導出した最大燃焼圧力Pmaxと、シリンダ内圧上限値Pmax Limitとを比較して、最大燃焼圧力Pmaxがシリンダ内圧上限値Pmax Limitに近づくように、圧縮比を制御してもよい。
【0106】
具体的に、圧縮比制御部182は、可変ピッチプロペラVPの羽根の角度を検出可能な角度検出センサ192(図2および図3参照)から、可変ピッチプロペラVPの羽根の角度に関する情報を取得することができる。この場合、圧縮比制御部182は、可変ピッチプロペラVPの羽根の角度およびエンジン回転数に対する最大燃焼圧力Pmaxを示すマップが予め記憶されたROMを有する。したがって、圧縮比制御部182は、ROMに記憶されたマップを参照することで、現在の可変ピッチプロペラVPの羽根の角度およびエンジン回転数から最大燃焼圧力Pmaxを導出することができる。
【0107】
なお、ROMに記憶されたマップは、可変ピッチプロペラVPの羽根の角度およびエンジン回転数に対する圧縮比を示すマップであってもよい。この場合、圧縮比制御部182は、ROMに記憶されたマップを参照することで、現在の可変ピッチプロペラVPの羽根の角度およびエンジン回転数から圧縮比を導出することができる。また、圧縮比制御部182は、可変ピッチプロペラVPの羽根の角度と、エンジン回転数と、燃料噴射量に基づいて、エンジン負荷を導出することができる。したがって、ROMに記憶されたマップは、上述したマップ(例えば、エンジン負荷に対する圧縮比を示すマップ)であってもよい。
【0108】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0109】
例えば、上述した実施形態では、2サイクル型、ユニフロー掃気式、クロスヘッド型のエンジン100を例に挙げて説明した。しかし、エンジンの種類は、2サイクル型、ユニフロー掃気式、クロスヘッド型に限られない。少なくともエンジンであればよい。また、上述した実施形態では、シリンダ110(燃焼室128)内に気体燃料(燃料ガス)を供給する例について説明した。しかし、これに限定されず、シリンダ110(燃焼室128)内に液体燃料を供給するようにしてもよい。また、エンジン100は、例えば、気体燃料と液体燃料を使い分けるデュアルフューエル型であってもよい。また、エンジン100は、舶用に限らず、例えば、自動車用であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本開示は、圧縮比制御装置およびエンジンに利用することができる。
【符号の説明】
【0111】
100 エンジン
110 シリンダ
112 ピストン
128 燃焼室
180 圧縮比制御装置
182 圧縮比制御部
184 回転数検出センサ
186 掃気圧検出センサ
188 噴射量検出センサ
190 圧力検出センサ
192 角度検出センサ
V 圧縮比可変機構
VP 可変ピッチプロペラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7