(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電動機の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20221220BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20221220BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20221220BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 F
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2018075640
(22)【出願日】2018-04-10
【審査請求日】2021-02-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正治 満博
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-050977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02M 7/48
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM周波数を制御対象の電動機の駆動周波数に比例させる同期PWM制御を実行する電動機の制御方法において、
前記電動機の所定の回転周期あたりの同期PWMパルス数を決定する同期パルス数決定ステップと、
決定された前記同期PWMパルス数に基づく前記同期PWM制御により前記電動機を制御する制御ステップと、を含み、
前記同期パルス数決定ステップでは、前記電動機の回転速度に相関のある状態量と前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化速度とに基づいて、又は、前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度に基づいて、前記同期PWMパルス数を決定
し、
前記電動機の回転速度に相関のある状態量とは、当該電動機が備える回転子の回転数、機械角速度、及び、電気角速度のいずれかであり、
前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量とは、当該回転座標上における電圧ベクトルの位相であり、
前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量とは、前記電気角速度と、前記回転座標上における電圧ベクトルの位相が変化する角速度とを合成した角速度である、
電動機の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機の制御方法において、
前記同期パルス数決定ステップでは、前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化方向が、前記電動機の回転方向の逆方向である場合には、当該状態量の変化速度に応じて前記同期PWMパルス数を増加させる、
電動機の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電動機の制御方法において、
前記同期パルス数決定ステップでは、前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化方向が、前記電動機の回転方向と同じ方向である場合には、当該状態量の変化速度に応じて前記同期PWMパルス数を減少させる、
電動機の制御方法。
【請求項4】
PWM周波数を制御対象の電動機の駆動周波数に比例させる同期PWM制御と、前記PWM周波数を固定して前記電動機を制御する非同期PWM制御のいずれか一方のPWM制御方式を選択して実行する電動機の制御方法において、
前記同期PWM制御と前記非同期PWM制御とを切替え、いずれか一方を実行するPWM制御方式切替ステップと、
前記PWM制御方式切替ステップにおいて切替えられた前記PWM制御方式により前記電動機を制御する制御ステップと、を含み、
前記PWM制御方式切替ステップでは、前記電動機の回転速度に相関のある状態量と前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化速度とに基づいて、又は、前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度に基づいて前記PWM制御方式を切替え
、
前記電動機の回転速度に相関のある状態量とは、当該電動機が備える回転子の回転数、機械角速度、及び、電気角速度のいずれかであり、
前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量とは、当該回転座標上における電圧ベクトルの位相であり、
前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量とは、前記電気角速度と、前記回転座標上における電圧ベクトルの位相が変化する角速度とを合成した角速度である、
電動機の制御方法。
【請求項5】
請求項
4に記載の電動機の制御方法において、
前記PWM制御方式切替ステップでは、前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度が0近傍の所定の範囲内にある場合には、前記PWM制御方式を前記非同期PWM制御に切替える、
電動機の制御方法。
【請求項6】
PWM周波数を制御対象の電動機の駆動周波数に比例させる同期PWM制御を実行するコントローラを備える電動機の制御装置において、
前記コントローラは、
前記電動機の回転速度に相関のある状態量と前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化速度とに基づいて、又は、前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度に基づいて、前記電動機の一駆動周期あたりの同期PWMパルス数を決定し、
決定された前記同期PWMパルス数に基づく前記同期PWM制御により前記電動機を制御
し、
前記電動機の回転速度に相関のある状態量とは、当該電動機が備える回転子の回転数、機械角速度、及び、電気角速度のいずれかであり、
前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量とは、当該回転座標上における電圧ベクトルの位相であり、
前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量とは、前記電気角速度と、前記回転座標上における電圧ベクトルの位相が変化する角速度とを合成した角速度である、
電動機の制御装置。
【請求項7】
PWM周波数を制御対象の電動機の駆動周波数に比例させる同期PWM制御と、前記PWM周波数を固定して前記電動機を制御する非同期PWM制御のいずれか一方のPWM制御方式を選択して実行するコントローラを備える電動機の制御装置において、
前記コントローラは、
前記電動機の回転速度に相関のある状態量と前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化速度とに基づいて、又は、前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度に基づいて前記同期PWM制御と前記非同期PWM制御とを切替え、
切替えられたいずれか一方の前記PWM制御方式によって前記電動機を制御
し、
前記電動機の回転速度に相関のある状態量とは、当該電動機が備える回転子の回転数、機械角速度、及び、電気角速度のいずれかであり、
前記電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量とは、当該回転座標上における電圧ベクトルの位相であり、
前記電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量とは、前記電気角速度と、前記回転座標上における電圧ベクトルの位相が変化する角速度とを合成した角速度である、
電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、同期PWM制御によって電動機を駆動する駆動装置において、電動機の電気角と電動機に印加したい電圧(電圧指令)の位相角とに応じてキャリア信号の周波数を可変にするとともに、電動機の電気角に相当する電動機の回転数に応じて電気角一周期あたりの同期パルス数を切替えることにより、電動機の制御性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、電動機へのトルク要求が変化した場合に、これに伴って電動機に印加される電圧の位相も変化する。このとき、トルク要求の変化率によっては電圧位相の変化率と電気角度の変化率が釣り合う場面が発生する。この場合、電動機の回転数に応じて決定された同期パルス数に対して、電圧指令の位相角に応じてキャリア周波数を小さくしたい状況と、電動機の電気角に応じてキャリア周波数を大きくしたい状況とが重なり、キャリア周波数が適切に変更されない場面が発生し得る。その場合には、電動機を流れる電流が乱れて、過電流を生じさせ得るという問題がある。
【0005】
本発明は、電動機へのトルク要求が変化するのに応じて電動機に印加される電圧の位相が変化した場合でも、電動機を流れる電流の乱れが発生することを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電動機の制御方法は、PWM周波数を制御対象の電動機の駆動周波数に比例させる同期PWM制御を実行する電動機の制御方法であって、電動機の一駆動周期あたりの同期PWMパルス数を決定する同期パルス数決定ステップと、決定されたPWMパルス数に基づく同期PWM制御により電動機を制御する制御ステップとを含む。同期パルス数決定ステップでは、電動機の回転速度に相関のある状態量と電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化速度とに基づいて、又は、電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度に基づいて同期PWMパルス数を決定する。なお、電動機の回転速度に相関のある状態量とは、当該電動機が備える回転子の回転数、機械角速度、及び、電気角速度のいずれかであり、電動機に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量とは、当該回転座標上における電圧ベクトルの位相であり、電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量とは、電気角速度と、回転座標上における電圧ベクトルの位相が変化する角速度とを合成した角速度である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電動機に印加される電圧の位相の変化を考慮して同期PWMパルス数が決定されるので、電動機へのトルク要求が変化するのに応じて電動機に印加される電圧の位相が変化した場合でも、電動機を流れる電流の乱れが発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電動機の制御方法が適用される電気自動車の主要構成を示す図である。
【
図2】
図2は、電流ベクトル制御部の詳細を示す図である。
【
図3】
図3は、電圧位相制御部の詳細を示す図である。
【
図4】
図4は、電圧位相とトルクとの関係を示す図である。
【
図5】
図5は、制御切替判定部の詳細を示す図である。
【
図6】
図6は、制御モード切り替えの詳細を説明するための図である。
【
図8】
図8は、変調切換判定部の詳細を示す図である。
【
図9】
図9は、同期パルス数の推移を示す図である。
【
図10】
図10は、非同期PWM制御器の詳細を示す図である。
【
図12】
図12は、同期PWM制御器における閾値テーブルの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、各PWM制御器における動作とPWMパルス生成に関する信号を示す図である。
【
図14】
図14は、一実施形態に係る電動機の制御方法の一制御周期を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、電圧位相の変動と同期PWMキャリア信号の推移を説明する図である。
【
図16】
図16は、電圧位相変動時の同期PWMパルスの一例を示す図である。
【
図17】
図17は、電圧位相変動時の同期PWMパルスの一例を示す図である。
【
図18】
図18は、従来技術によるトルク応答と電流応答とを示すタイムチャートである。
【
図19】
図19は、一実施形態の電動機の制御方法によるトルク応答と電流応答とを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[一実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る電動機の制御方法が適用される電気自動車の主要構成を示すブロック図である。以下では、
図1を参照して各ブロックの構成について説明する。なお、本発明に係る電動機の制御方法は、車両の駆動源の一部または全部として機能する電動機(モータ9)を備える電動車両に適用可能である。電動車両には、電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車も含まれる。
【0010】
電流ベクトル制御部1は、モータ9へ印加する電流を制御することによって、モータ9の駆動を制御する電流制御(電流ベクトル制御)を実行する。具体的には、電流ベクトル制御部1は、目標トルクT
*と、モータ9の回転数Nと、バッテリ19の電圧検出値V
dcと、dq軸電流検出値i
d、i
qとに基づいて、モータ9に所望のトルクを発生(出力)させるためのd軸電流指令値i
*
d、およびdq軸電圧指令値v
*
di_fin、v
*
qi_finを算出して、dq軸電圧指令値v
*
di、v
*
qiを出力切替器3に出力するとともに、d軸電流指令値i
*
dを電圧相制御部2に出力する。目標トルクT
*は、アクセルの踏み込み量(アクセル開度)などに応じて定まるトルク指令値である。電流ベクトル制御部1の詳細については、
図2を参照して後述する。
【0011】
電圧位相制御部2は、モータ9へ印加する電圧の位相を制御することによって、モータ9の駆動を制御する電圧位相制御を実行する。具体的には、電圧位相制御部2は、目標トルクT
*と、モータ9の回転数Nと、バッテリ19の電圧検出値V
dcと、dq軸電流検出値i
d、i
qとに基づいて、モータ9に所望のトルクを発生させるためのdq軸電圧指令値v
*
di_fin、v
*
qi_finを算出して、出力切替器3に出力する。電圧位相制御部2の詳細については、
図3を参照して説明する。
【0012】
制御切替判定部13は、モータ9を制御する方法(制御モード)として、電流ベクトル制御と電圧位相制御のいずれを実行するかを判定する。具体的には、制御切替判定部13は、d軸電流指令値i*
d、dq軸電流検出値id、iq、dq軸最終電圧指令値v*
d_fin、v*
q_fin、及び、バッテリ19の電圧検出値Vdcに基づいて、電流ベクトル制御を実行するか、電圧位相制御を実行するかを選択し、選択した制御モードに対応する制御モード信号を出力切替器3に出力する。
【0013】
出力切替器3は、制御切替判定部13で選択された制御モードに応じた最終の電圧指令値(dq軸最終電圧指令値v
*
d_fin、v
*
q_fin)を出力する。具体的には、出力切替器3は、出力される制御モード信号に基づいて、電流ベクトル制御部1の出力(dq軸電圧指令値v
*
di_fin、v
*
qi_fin)と、電圧位相制御部2の出力(dq軸電圧指令値v
*
dv_fin、v
*
qv_fin)のいずれかを選択してdq軸最終電圧指令値v
*
d_fin、v
*
q_finとして座標変換器4と、ベクトル変換器14と、制御切替判定部13とに出力する。出力切替器3の詳細については、
図4を参照して後述する。
【0014】
座標変換器4は、dq軸からUVW相への座標変換を行う変換器である。座標変換器4は、次の(1)式を用いて、モータ9の電気角度検出値θに基づいて、出力切替器3から出力されるd軸電圧指令値v*
d_fin、及び、q軸電圧指令値v*
q_finを座標変換し、変換結果を三相電圧指令値vu
*、vv
*、vw
*として非同期PWM制御器5に出力する。なお、PWM(パルス幅変調)はPuls Width Modulationの略語である。
【0015】
【0016】
非同期PWM制御器5には、座標変換器4から三相電圧指令値v*
u、v*
v、v*
wが入力されるとともに、電圧センサ7からの電圧検出値Vdcが入力される。なお、電圧センサ7は、バッテリ19からインバータ6へ供給される駆動電圧を検出するセンサである。そして、非同期PWM制御器5は、三相電圧指令値v*
u、v*
v、v*
wと電圧検出値Vdcとの比率に基づいて算出した比較値と、周波数が一定のキャリア三角波との大小判定(コンペアマッチ)に基づく、いわゆる三角波比較方式の非同期PWM制御を実現するための強電素子駆動信号D*
uua、D*
ula、D*
vua、D*
vla、D*
wua、D*
wlaを生成し、PWM出力切替器17に出力する。
【0017】
一方、ベクトル変換器14は、dq軸電圧指令値を電圧ベクトルのノルムと位相とに変換する変換器である。ベクトル変換器14は、次の(2)式を用いて、出力切替器3から出力されるd軸電圧指令値v
*
d_fin、及び、q軸電圧指令値v
*
q_finを電圧ベクトルのノルムV
*
a_finと、位相α
*
finに変換して、同期PWM制御器16に出力する。また、ベクトル変換器14は、電圧位相α
*
finを変調切換判定部15にも出力する。
【数2】
【0018】
変調切換判定部15は、電圧位相α*
finとモータ9の電気角度θとに基づいて、PWM制御における変調モード(同期、非同期)の切替判定を実行するとともに、同期PWM制御時における同期PWMパルス数(以下単に「同期パルス数」ともいう)を決定する。そして、変調切換判定部15は、判定した変調モードをPWM出力切替器17に出力するとともに、決定した同期パルス数を、要求同期パルス数numとして同期PWM制御器16に出力する。変調モードの切替判定、及び、要求同期パルス数numの算出方法の詳細については後述する。
【0019】
同期PWM制御器16は、インバータ6のスイッチング周波数がモータ9の電気角周波数(駆動周波数)に同期する強電素子駆動信号を算出する。具体的には、同期PWM制御器16は、電圧ノルムV*
a_finと、電圧位相α*
finと、電気角度θと、電圧検出値Vdcと、要求同期パルス数numとに基づいて、インバータ6のスイッチング周波数がモータ9の電気角周波数に同期する強電素子駆動信号D*
uus、D*
uls、D*
vus、D*
vls、D*
wus、D*
wlsを生成し、PWM出力切替器17に出力する。
【0020】
PWM出力切替器17は、変調切換判定部15の判定した変調モードに応じた強電素子駆動信号を出力する。具体的には、PWM出力切替器17は、変調切換判定部15が出力する変調モードに従って、非同期PWM制御器5が出力する強電素子駆動信号と同期PWM制御器16が出力する強電素子駆動信号のいずれかを選択して、強電素子駆動信号D*
uu、D*
ul、D*
vu、D*
vl、D*
wu、D*
wlとしてインバータ6に出力する。
【0021】
本実施形態のインバータ6は、3相6アームで構成され、相ごとに2つずつ計6つのパワー素子を備えている。インバータ6は、PWM出力切替器17から出力される強電素子駆動信号に基づいてパワー素子のそれぞれを駆動させることで、三相PWM電圧vu、vv、vwを生成する。生成した三相PWM電圧vu、vv、vwは、モータ9に印加される。
【0022】
モータ9は三相で駆動しているため、インバータ6とモータ9とは三相と対応する3つの配線で接続されている。モータ9には、u相配線を介してPWM電圧vuが入力され、v相配線を介してPWM電圧vvが入力され、w相配線を介してPWM電圧vwが入力される。u相配線には電流センサ8uが設けられ、v相配線には電流センサ8vが設けられている。電流センサ8uにより検出されたu相電流値iu、及び、電流センサ8vにより検出されたv相電流値ivは、座標変換器12に出力される。なお、三相電流であるiu、iv、及び、iwの和はゼロになるため、w相電流値iwは、-iu-ivにより求めることができる。
【0023】
座標変換器12は、以下(3)式を用いて、UVW相からdq軸への座標変換を行う。
【0024】
【0025】
(3)式に示したように、座標変換器12は、u相電流値iu、及び、V相電流値ivに対して、回転センサ10から出力される電気角検出値θに基づく座標変換を行う。そして、座標変換器12は、変換結果であるd軸電流値id、及び、q軸電流値iqを、電流ベクトル制御部1、及び、電圧位相制御部2に出力する。
【0026】
回転センサ10は、モータ9に隣接して設けられており、モータ9の回転子の電気角θを検出する。回転センサ10は、検出した電気角θを、電気角検出値θとして座標変換器4、12と、回転数演算器11とに出力する。
【0027】
回転数演算器11は、電気角検出値θの時間当たりの変化量からモータ9の回転数Nを算出し、電流ベクトル制御部1と電圧位相制御部2に出力する。
【0028】
次に、上述した電流ベクトル制御部1、電圧位相制御部2、制御切替判定部13、出力切替器3、変調切換判定部15、非同期PWM制御器5、及び同期PWM制御器16に係る各ブロックの詳細について説明する。なお、本実施形態におけるこれらの各ブロックは、少なくとも一つ以上のコントローラが備える機能部として構成される。当該コントローラは、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)から構成される。
【0029】
[電流ベクトル制御部]
図2は、本実施形態の電流ベクトル制御部1を実現するブロック構成の一例を示す図である。電流ベクトル制御部1は、電流指令値演算器21、非干渉電圧演算器22、PI補償器23、フィルタ24、減算器25、および加算器26を有する。なお、
図2では、d軸電圧指令値v
*
di_finの算出に関する信号のみを示し、これと同様に各ブロックに入出力されるq軸電圧指令値v
*
qi_finの算出に関する信号は割愛している。
【0030】
電流指令値演算器21は、目標トルクT*と、d軸電流指令値i*
d、及び、q軸電流指令値i*
qと、を対応させたテーブルを記憶している。このテーブルは、あらかじめ実験または解析により求めた所望のトルク(目標トルク)を最も効率よく発生させる電流値が格納されている。また、このテーブルには、モータ9の温度特性が考慮されてもよい。電流指令値演算器21は、このテーブルを参照して、入力される目標トルクT*と、モータ9の回転数Nと、バッテリ19の電圧検出値Vdcとに応じたd軸電流指令値i*
dを求め、求めた指令値を減算器25に出力する。また、電流指令値演算器21は、求めた指令値を、電圧位相制御部2へも出力する。
【0031】
減算器25は、d軸電流指令値i*
dと、d軸電流検出値idとの偏差を演算して、PI補償器23に出力する。
【0032】
PI補償器23は、いわゆるPI制御を実行する演算器である。より詳細には、PI補償器23は、d軸電流指令値i*
dに実電流(d軸電流検出値id)を追従させるべく、d軸電流指令値i*
dと、d軸電流検出値idとの偏差に基づくフィードバック制御を行うために、以下式(4)を用いて、電流フィードバック電圧指令値vdi'を算出する。電流フィードバック電圧指令値vdi'は、加算器26に出力される。
【0033】
【0034】
ただし、式(4)中のKdpはd軸の比例ゲインを示し、Kdiは、d軸の積分ゲインを示す。
【0035】
非干渉電圧演算器22は、あらかじめ記憶しているテーブルを参照して、入力される目標トルクT*と、モータ9の回転数Nと、バッテリ19の電圧検出値Vdcとに応じて、d軸非干渉化電圧指令値v*
d_dcplを求め、求めた指令値をフィルタ24に出力する。ここで用いられるテーブルは、予め実験または解析により求めた所望のトルクを最も効率よく発生させる電流値に対応する干渉電圧値が格納されている。
【0036】
フィルタ24は、いわゆるローパスフィルタである。フィルタ24は、干渉電圧が、dq軸に流れる電流に依存していることを考慮したローパスフィルタであり、目標とするd軸電流の応答性を満足する時定数に設定されている。フィルタ処理が施されたd軸非干渉化電圧指令値vd_dcpl_fltは、加算器26に出力される。
【0037】
そして、以下式(5)で表すとおり、加算器26において、dq軸非干渉化電圧指令値vd_dcpl_fltと、PI補償器23の出力値vdi'とが加算されることにより、dq軸において電流が流れる際に発生する干渉電圧が抑制されたd軸電圧指令値v*
di_finが算出される。また、図中では割愛されているが、q軸電圧指令値v*
qi_finも上述したd軸電圧指令値v*
di_finと同様に算出される。算出されたdq軸電圧指令値v*
di_fin、v*
qi_finは、出力切替器3に出力される。
【0038】
【0039】
次に、
図3を参照して、電圧位相制御部2の詳細について説明する。
【0040】
[電圧位相制御部]
図3は、本実施形態の電圧位相制御部2を実現するブロック構成の一例を示す図である。電圧位相制御部2は、変調器31、電圧位相テーブル32、フィルタ33、トルク演算器34、PI補償器35、電圧位相指令値制限器36、ベクトル変換器37、加算器38、および、減算器39を有する。なお、
図3では、d軸電圧指令値v
*
dv_finの算出に関する信号のみを示し、これと同様に各ブロックに入出力されるq軸電圧指令値v
*
qv_finの算出に関する信号は割愛している。
【0041】
変調器31は、バッテリ19の電圧検出値Vdcと、予め記憶された値である基準変調率M*とに基づいて、以下式(6)を用いて電圧ノルム指令値V*
aを算出する。算出した電圧ノルム指令値V*
aは、電圧位相テーブル32と、ベクトル変換器37とに出力される。なお、ここでの変調率は、相間電圧(例えばU-V相間の電圧vu-vv)の基本波成分の振幅の電圧検出値Vdcに対する比率と定義される。変調率1以下では、PWM制御によって疑似正弦波電圧が生成可能な通常変調領域となり、1を超える場合は、PWM制御によって疑似正弦波を生成しようとしても上下限が制限される過変調領域となる。なお、例えば変調率が約1.1になると、PWM制御によって疑似正弦波を生成しようとしても、出力される電圧はいわゆる矩形波電圧となる。
【0042】
【0043】
電圧位相テーブル32は、あらかじめ実験または解析により求めたテーブルを用いて、入力される目標トルクT*、モータ9の回転数N、および、電圧ノルム指令値V*
aに応じた電圧位相指令値αff(フィードフォワード電圧位相指令値)を求める。電圧位相指令値αffは、加算器38に出力される。なお、ここで用いられるテーブルには、予め実験により計測した、ノミナル状態における各指標の動作点ごとの電圧位相指令値が格納されている。
【0044】
トルク演算器34は、予め実験等により計測した、モータ9へと流れるd軸及びq軸の電流値と、モータ9に発生するトルクとの関係を示すテーブルを記憶している。トルク演算器34は、このテーブルを参照して、dq軸電流検出値id、iqから、モータ9に発生しているトルクの推定値としてのトルク推定値Testを算出し、算出した値を減算器39に出力する。
【0045】
フィルタ33は、ローパスフィルタであり、入力される目標トルクT*の高周波ノイズを除去して(ノイズカット処理)、トルク参照値Trefとして減算器39に出力する。
【0046】
減算器39は、トルク参照値Trefと、トルク推定値Testとの偏差を演算して、当該偏差をPI補償器35に出力する。
【0047】
PI補償器35は、いわゆるPI制御を実行する演算器である。PI補償器35は、トルク参照値Trefとトルク推定値Testとの偏差に基づくフィードバック制御を行うために、下記式(7)を用いて、電圧位相指令値αfb(フィードバック電圧位相指令値)を算出する。算出された電圧位相指令値αfbは、加算器38に出力される。
【0048】
【0049】
ただし、式(7)中のKαpは比例ゲインを示し、Kαiは積分ゲインを示す。
【0050】
加算器38は、フィードフォワード電圧位相指令値αffとフィードバック電圧位相指令値αfbとを加算して得た値(電圧位相指令値)を電圧位相指令値制限器36に出力する。
【0051】
電圧位相指令値制限器36は、加算器38の出力値を所定の範囲αminからαmaxの範囲に制限し、制限された値を電圧位相指令値α
*としてベクトル変換器37に出力する。ここでの所定の範囲αminからαmax(以下、「上下限値α」とも称する)について、
図4を参照して説明する。
【0052】
図4は、モータ9の電圧位相とトルクとの関係の一例を示す図である。制御対象であるモータ9が例えば
図4に示す特性を示す場合は、電圧位相とトルクとの相関が維持される範囲として、図中の曲線のピークトゥピークである±115°が上下限値αに設定される。
【0053】
また、電圧位相指令値制限器36は、加算器38から出力される値(電圧位相指令値)が上下限値αを超えている間(上下限値αに張り付いている間)は、電圧位相指令値α*が上下限値αによって制限されていることを通知する信号をPI補償器35に送信する。PI補償器35は、該信号により電圧位相指令値α*が制限されていることを通知されている間は、いわゆるアンチワインドアップのために積分値の更新を停止する。
【0054】
ベクトル変換器37は、変調器31から出力された電圧ノルム指令値V*aと電圧位相指令値制限器36によるリミット処理後の電圧位相指令値α*とを入力して、以下式(8)を用いてdq軸電圧指令値v*
dv_fin、v*
qv_finを算出する。算出されたdq軸電圧指令値v*
dv_fin、v*
qv_finは、座標変換器4と、ベクトル変換器14と、制御切替判定部13とに出力される。
【0055】
【0056】
次に、
図5を参照して、制御切替判定部13の詳細について説明する。
【0057】
[制御切替判定部]
制御切替判定部13は、変調器41と、フィルタ42、43、45、46、47と、ノルム演算器44と、制御モード判定器48とを有する。
【0058】
変調器41は、
図3を参照して説明した変調器31と同様に、バッテリ19の電圧検出値V
dcと、予め記憶された値である基準変調率M
*とに基づいて、上記式(6)を用いて電圧ノルム指令値V
*
aを算出する。算出した電圧ノルム指令値V
*
aは、制御モード判定器48に出力される。電圧ノルム指令値V
*
aは、制御モード判定器48において、電圧位相制御への制御モード切替可否の指標として用いられる。
【0059】
フィルタ42、43は、同等の特性に設定されたローパスフィルタであり、それぞれに入力されるd軸最終電圧指令値v*
d_finとq軸最終電圧指令値v*
q_finとに対してノイズカット処理を施すことにより得た、d軸最終電圧指令値v*
d_fin_fltおよびq軸最終電圧指令値v*
q_fin_fltをノルム演算器44に出力する。
【0060】
ノルム演算器44は、入力されるd軸最終電圧指令値v*
d_fin_fltおよびq軸最終電圧指令値v*
q_fin_fltに基づいて、以下式(9)を用いて平均化電圧ノルムV*
a_fin_fitを算出する。算出された平均化電圧ノルムV*
a_fin_fltは、制御モード判定器48に出力される。平均化電圧ノルムV*
a_fin_fltは、制御モード判定器48において、電圧位相制御への制御モード切替可否の指標として用いられる。
【0061】
【0062】
フィルタ45は、ローパスフィルタであって、入力されるd軸電流検出値idに対してノイズカット処理を施すことにより平均化d軸電流検出値id_fltを得て、制御モード判定器48に出力する。平均化d軸電流検出値id_fltは制御モード判定器48において、電流ベクトル制御への制御モード切替可否の指標として使用される。
【0063】
フィルタ46は、
図3で示すフィルタ33と同様の特性を有するローパスフィルタであり、入力されるd軸電流指令値i
*
dに対してノイズカット処理を施し、d軸電流参照値i
*
d_refを出力する。d軸電流参照値i
*
d_refは、フィルタ47に出力される。
【0064】
フィルタ47は、フィルタ45と同等の特性のローパスフィルタである。フィルタ47は、d軸電流検出値id_flt側と遅れを揃えることを目的としてd軸電流参照値i*
d_refにフィルタ処理を施すことによりd軸電流閾値i*
d_thを得て、制御モード判定器48に出力される。d軸電流閾値i*
d_thは制御モード判定器48において、電流ベクトル制御への制御モード切替可否の指標として使用される。
【0065】
制御モード判定器48は、電流ベクトル制御から電圧位相制御への切り替え、および、電圧位相制御から電流ベクトル制御への切り替え、の可否(要否)を判定する。具体的には、
図6を参照して説明する。
【0066】
図6は、制御モード判定器48において実行される制御モード切り替え判定を説明するための図である。制御モード判定器48は、
図6で示すように、電流ベクトル制御が選択されている際に、平均化電圧ノルムV
*
a_fin_fltが電圧ノルム指令値V
*
a以上であることを検知した場合に、電流ベクトル制御から電圧位相制御へ切り替えると判定する。また、制御モード判定器48は、電圧位相制御が選択されている際に、平均化d軸電流検出値i
d_fltがd軸電流閾値i
*
d_th以上であることを検知した場合に、電圧位相制御から電流ベクトル制御へ切り替えると判定する。このようにして決定された制御モードは、制御モード信号として出力切替器3に出力される。
【0067】
次に、
図7を参照して、出力切替器3の詳細について説明する。
【0068】
[出力切替器]
図7で示すように、出力切替器3は、制御モード信号に応じて、電流ベクトル制御と電圧位相制御とを切替える。制御モード信号が電流ベクトル制御を指示する場合は、出力切替器3は、電流ベクトル制御部1から出力されるdq軸電圧指令値v
*
di_fin、v
*
qi_finを、dq軸最終電圧指令値v
*
d_fin、v
*
q_finとして出力する。制御モード信号が電圧位相制御を指示する場合は、出力切替器3は、電圧位相制御部2から出力されるdq軸電圧指令値v
*
dv_fin、v
*
qv_finを、dq軸最終電圧指令値v
*
d_fin、v
*
q_finとして出力する。出力切替器3が出力するdq軸最終電圧指令値v
*
d_fin、v
*
q_finは、座標変換器4、ベクトル変換器14、及び制御切替判定部13に入力される。
【0069】
次に、
図8を参照して、変調切換判定部15の詳細について説明する。
【0070】
[変調切換判定部]
変調切換判定部15は、電圧位相角速度演算器71と、電気角速度演算器72と、絶対値処理器73と、同期パルス数判定器74と、変調切換判定器75と、加算器76とを有する。
【0071】
電圧位相角速度演算器71は、下記(10)式を用いて、ベクトル変換器14から出力される電圧位相指令値α*
finの時間当たりの変化量である電圧位相角速度ωαを算出して、加算器76に出力する。電圧位相角速度ωαは、後段の制御において、モータ9に印加される電圧の回転座標上(dq軸座標系)における位相に相関のある状態量の変化速度として用いられる。
【0072】
【0073】
電気角速度演算器72は、上記(10)式を用いて、モータ9の電気角度検出値θの時間当たりの変化量である電気角速度ωreを算出して、加算器76に出力する。電気角速度ωreは、後段の制御において、モータ9の回転速度に相関のある状態量として用いられる。ただし、電気角速度ωreに代えて、モータ9が備える回転子の回転数、又は、モータ9の機械角速度をモータ9の回転速度に相関のある状態量として用いることもできる。
【0074】
加算器76は、電圧位相角速度ωαと電気角速度ωreとを加算して得た値ωre_αを絶対値処理器73に出力する。
【0075】
絶対値処理器73は、入力される値ωre_αの絶対値を総和角速度|ωre_α|として算出する。この総和角度|ωre_α|は、モータ9において、固定座標上(静止座標系)における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度として算出される。より具体的には、総和角速度|ωre_α|は、電気角速度ωreと、回転座標上において電圧ベクトルの位相が変化する角速度(電圧位相角速度ωα)とを合成した角速度として算出される。算出された総和角速度|ωre_α|は、同期パルス数判定器74と変調切換判定器75とに出力される。
【0076】
同期パルス数判定器74では、総和角速度|ω
re_α|に基づき、
図9で示すような同期パルス数パターンに従って、同期PWM制御中におけるPWM周波数を設定するための同期パルス数を決定する。決定した同期パルス数は、要求同期パルス数numとして、同期PWM制御器16に出力される。
【0077】
図9は、本実施形態における同期パルス数の推移例を示す図である。横軸は、モータ9の極数が4である場合に、モータ9に印加される電圧の回転座標上における位相(ω
α)に相関のある状態量としての回転数|ω
re_α|/2π・60/4[rpm]を示し、縦軸は、電気角周期[180°](回転周期)あたりの同期パルス数を示している。
【0078】
図示するように、本実施形態の同期パルス数は、モータ9の回転数が大きくなるほど小さくなるように設定される。換言すると、本実施形態の同期パルス数判定器74は、モータ9に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化方向が、モータ9の回転方向と同じ方向である場合には、当該状態量の変化量に応じて同期パルス数を減少させる。これにより、トルク要求の変化により生じる過渡的なPWM周波数の上昇による強電素子の温度上昇を抑制することができる。他方、同期パルス数判定器74は、モータ9に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化方向が、モータ9の回転方向と逆方向である場合には、当該状態量の変化量に応じて同期パルス数を増加させる。これにより、トルク要求の変化により生じる過渡的なPWM周波数の低下による電流の乱れを抑制することができる。
【0079】
なお、図中のdNは、同期パルス数の切り替え時(図示する▽(a、b…)と△(a’、b’…)間の推移時)に発生し得るチャタリングを防止するために設定されたヒステリシスである。
【0080】
変調切換判定器75は、下記の表1に基づいて、総和角速度|ωre_α|と、閾値ωth1およびωth2との比較によって、非同期PWM制御と同期PWM制御の変調モードのいずれかを選択する。選択されたモードは、変調モード信号としてPWM出力切替器17に出力される。
【0081】
【0082】
閾値ωth1およびωth2は、総和角速度|ωre_α|が変化することによって生じるPWMパルスの粗密や停止による電流の乱れやインバータ6が有する強電素子のスイッチング損失の増加を抑制する観点から予め実験等により定めた値が適宜設定される。ただし、0<ωth1<ωth2とする。
【0083】
これにより、例えば、モータ9に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度としての総和角速度|ωre_α|が0近傍の所定の範囲内にある場合には、非同期PWM制御が選択される。その結果、同期PWM制御中の同期PWMパルス数が上記観点から許容できる範囲の上限に達した場合等、同期PWMパルスが停止してしまう条件時であっても、変調切換判定器75は、総和角速度|ωre_α|に基づいて同期PWM制御から非同期PWM制御に切替えると判定することができる。これにより、PWM周波数が低下することによる電流の乱れを抑制することができる。
【0084】
次に、
図10を参照して、非同期PWM制御器5の詳細について説明する。
【0085】
[非同期PWM制御部]
非同期PWM制御器5は、電圧利用率向上処理器61と、U相比較値換算器62と、V相比較値換算器63と、W相比較値換算器64と、U相比較器65と、V相比較器66と、W相比較器67と、を有する。
【0086】
電圧利用率向上処理器61は、入力される三相電圧指令値v*
u、v*
v、v*
wに対して、相間電圧の正弦波生成を最大化するために、三次高調波重畳処理等の公知の処理方法を用いた電圧利用率向上処理を施し、三相電圧指令値v*
u'、v*
v'、v*
w'を算出する。算出された三相電圧指令値v*
u'、v*
v'、v*
w'は、対応する相のU、V、W相比較値換算器62、63、64にそれぞれ出力される。
【0087】
U相比較値換算器62は、バッテリ19の電圧検出値VdcとU相電圧指令値v*
u'とから、下記式(11)を用いてU相比較値(デューティ比)thuを算出し、U相比較器65に出力する。
【0088】
【0089】
V相比較値換算器63は、バッテリ19の電圧検出値VdcとV相電圧指令値v*
v'とから、下記式(12)を用いてU相比較値(デューティ比)thvを算出し、V相比較器66に出力する。
【0090】
【0091】
W相比較値換算器64は、バッテリ19の電圧検出値VdcとW相電圧指令値v*
w'とから、下記式(13)を用いてU相比較値(デューティ比)thwを算出し、W相比較器67に出力する。
【0092】
【0093】
各相の比較演算器(U、V、W相比較器65、66、67)では、一定周波数のキャリア三角波と、各相の比較値(U、V、W相比較値thu、thv、thw)とのコンペアマッチに基づき、非同期PWM制御時のPWMパルスとしての強電素子駆動信号D*
uua、D*
ula、D*
vua、D*
vla、D*
wua、D*
wlaを生成して、PWM出力切替器17に出力する。なお、本実施形態におけるキャリア三角波の周波数は、例えば5kHzとする。
【0094】
次に、
図11を参照して、同期PWM制御器16について説明する。
【0095】
[同期PWM制御部]
同期PWM制御器16は、変調器換算器51と、閾値テーブル52と、U相比較器53と、V相比較器54と、W相比較器55と、加算器56と、シフト器57、58とを有する。本実施形態の同期PWM制御器16では、モータ9の電気角度θをキャリア信号の基準として、当該キャリア信号と閾値として設定されるPWMスイッチングさせたい位相とのコンペアマッチに基づいてパルス生成を行う、いわゆる位相参照方式の同期PWM制御が実行される。
【0096】
同期PWM制御器16は、加算器56によって、電圧位相α*
finと電気角度θとを加算した値(θ+α*
fin)をU相のキャリア信号(U相同期PWMキャリア信号)として、U相比較器53に出力するとともに、シフト器57、58にも出力する。
【0097】
シフト器57は、加算器56の出力に対して位相を-2/3πシフトしたものをV相のキャリア信号(V相同期PWMキャリア信号)として算出し、V相比較器54に出力する。
【0098】
シフト器58は、加算器56の出力に対して位相を2/3πシフトしたものをW相のキャリア信号(W相同期PWMキャリア信号)として算出し、W相比較器55に出力する。
【0099】
変調器換算器51は、以下式(14)を用いて、電圧位相Vα*
finとバッテリ19の電圧検出値Vdcとから変調率Mfinを算出し、閾値テーブル52に出力する。
【0100】
【0101】
閾値テーブル52は、変調率M
finと要求同期パルス数numとから、予め格納された閾値テーブルを参照して、変調率M
finに対応する閾値th
1~th
xを求める。ここでの
xは、要求同期パルス数numに4を乗算した値から2を引いた値が設定される(4×num-2)。一例として、要求同期パルス数numが3の場合における閾値テーブルを
図12に示す。
【0102】
図12は、同期PWM制御における閾値テーブルの一例を示す図である。横軸は変調率M
finを示し、縦軸は同期PWM閾値[°]を示している。
【0103】
図示するように、変調率Mfinが0の場合における同期PWM閾値は、PWMパルスのデューティ比が50[%]となるように等間隔に設定されている。そして、変調率Mfinが大きくなるほど、電気角度が0~180[°]の範囲ではON区間がより長く、電気角度が180~360[°]ではOFF区間がより長く推移するように設定されている。
【0104】
以上説明した非同期PWM制御器5と同期PWM制御器16とによって生成あるいは使用される信号(PWM信号)の動作と、それに基づく制御演算との関係について、
図13を参照して説明する。
【0105】
図13は、各PWM信号の動作と制御演算との関係を表した図である。横軸は時間を表している。縦軸は、中央に制御演算の割込みタイミングを示し、その上方に非同期PWM制御において用いられる各信号、下方に同期PWM制御において用いられる各信号を示す。
【0106】
制御演算開始の割込みは、選択されている変調モードによらず、非同期PWM制御器5で使用されるキャリア信号(三角波)の山谷毎に発生し(t1~t12)、これに対応する制御演算は、割込み発生時にサンプリングされた電気角度検出値θや電流検出値iu、ivを用いて実行される。制御演算結果は、次の割込み発生時に非同期PWM制御器5と同期PWM制御器16のそれぞれに反映される。
【0107】
図示するように、例えばt2のタイミングで割込みが発生した場合には、t2のタイミングでサンプリングされた上記検出値を用いた制御演算が実行される。そして、次のサンプリングタイミングであるt3において、t2で実行された制御演算の結果に基づき、非同期PWM制御器5であれば比較値th
uが、同期PWM制御器16であれば比較値th
1~th
10がそれぞれ更新される。なお、非同期PWM制御器5におけるV、W相比較値th
v、th
wは、図示するU相比較値th
uと位相が±2/3πずれた値であるため
図13においては割愛する。非同期PWM制御器5と非同期PWM制御器16とがこのように構成されることにより、変調モードによらず、制御周期や制御演算結果の出力の遅れ時間を一定にすることができる。
【0108】
以下では、これまで説明した一実施形態の電動機(モータ9)の制御方法を適用した一制御周期の流れを、
図14を参照して説明する。
【0109】
図14は、一実施形態の電動機の制御方法を示すフローチャートである。
図14で示す開始から終了までにかかる一制御周期は、車両システムが起動している間、一定の間隔で常時実行するように上記コントローラにプログラムされている。
【0110】
ステップS1では、コントローラ(座標変換器12)は、電流検出値(u相電流値iu、及び、V相電流値iv)に対して座標変換処理を施し、d軸電流値id、及び、q軸電流値iqを算出する。
【0111】
ステップS2では、コントローラ(回転数演算器11)は、モータ9の電気角度θから、回転数Nを算出する。
【0112】
ステップS3では、コントローラは、目標トルクT*と、バッテリ19の電圧検出値Vdcとを取得する。
【0113】
ステップS4では、コントローラ(制御切替判定部13)は、ステップS1~S3において取得した情報に基づいて、電流ベクトル制御と電圧位相制御の何れの制御モードによりモータ9を制御するかを決定する(
図6参照)。
【0114】
ステップS5では、コントローラ(出力切替器3)は、制御切替判定部13により決定された制御モードに応じて、電流ベクトル制御と電圧位相制御とを切替える。出力切替器3に入力される制御モード信号が電流ベクトル制御を指示する場合は、続いてステップS6の処理が実行される。制御モード信号が電圧位相制御モードを指示する場合は、続いてステップS7の処理が実行される。
【0115】
ステップS6では、コントローラ(出力切替器3)は、電流ベクトル制御部1から出力されるdq軸電圧指令値v*
di_fin、v*
qi_finを、dq軸最終電圧指令値v*
d_fin、v*
q_finとして出力する。これにより、モータ9は電流ベクトル制御により制御される。
【0116】
ステップS7では、コントローラ(出力切替器3)は、電圧位相制御部2から出力されるdq軸電圧指令値v*
dv_fin、v*
qv_finを、dq軸最終電圧指令値v*
d_fin、v*
q_finとして出力する。これにより、モータ9は、電圧位相制御により制御される。
【0117】
ステップS8では、コントローラ(変調切換判定部15)は、電圧位相角速度ωαと電気角速度ωreとに基づいて、PWM制御における変調モード(同期、非同期)を決定する。すなわち、ステップS8は、PWM制御方式切替ステップである。
【0118】
ステップS9では、コントローラ(PWM出力切替器17)は、変調切換判定部15により決定された変調モードに応じて、非同期PWM制御モードと、同期PWM制御モードとを切替える。PWM出力切替器17に入力される変調モード信号が非同期PWM制御を指示する場合は、続いてステップS10~S13の処理が実行される。変調モード信号が同期PWM制御を指示する場合は、続いてステップS14~S18の処理が実行される。
【0119】
[非同期PWM制御]
ステップS10では、コントローラ(座標変換器4)は、d軸電圧指令値v*
d_fin、及び、q軸電圧指令値v*
q_finに対して座標変換処理を施し、三相電圧指令値v*
u、v*
v、v*
wを算出する。
【0120】
ステップS11では、コントローラ(非同期PWM制御器5)は、三相電圧指令値v*
u、v*
v、v*
wに対して、相間電圧の正弦波生成を最大化する電圧利用率向上処理を施し、三相電圧指令値v*
u'、v*
v'、v*
w'を算出する。
【0121】
ステップS12では、コントローラ(非同期PWM制御器5)は、PWMパルスを生成するための比較値(U、V、W相比較値thu、thv、thw)を算出して、キャリア三角波の比較値として設定する。
【0122】
ステップS13では、コントローラ(非同期PWM制御器5)は、三角波と各相の比較値(U、V、W相比較値thu、thv、thw)とのコンペアマッチにより、PWMパルスとしての強電素子駆動信号D*
uua、D*
ula、D*
vua、D*
vla、D*
wua、D*
wlaを生成し、PWM出力切替器17を介してインバータ6に出力する。これにより、モータ9は、非同期PWM制御により制御される。
【0123】
[同期PWM制御]
ステップS14では、コントローラ(ベクトル変換器14)は、d軸電圧指令値v*
d_finとq軸電圧指令値v*
q_finとに基づいて電圧ベクトルのノルムV*
a_finと、位相α*
finとを算出する。
【0124】
ステップS15では、コントローラ(変調切換判定部15)は、電圧位相角速度ωαと電気角速度ωreとに基づいて、同期PWM制御時における同期パルス数を決定する。すなわち、ステップS15は、同期パルス数決定ステップである。
【0125】
ステップS16では、コントローラ(同期PWM制御器16)は、電圧位相α*
finを考慮した同期PWMキャリア信号(θ+α*
fin)を算出する。
【0126】
ステップS17では、コントローラ(同期PWM制御器16)は、電圧位相α*
finと電圧検出値Vdcとから変調率Mfinを算出する。
【0127】
ステップS18では、コントローラ(同期PWM制御器16)は、変調率Mfinと要求同期パルス数numとから、予め格納された閾値テーブルを参照して、変調率Mfinに対応する閾値th1~thx(同期PWM閾値)を求め、同期PWMキャリア信号との比較値として設定する。そして、同期PWM制御器16は、PWMパルスとしての強電素子駆動信号D*
uus、D*
uls、D*
vus、D*
vls、D*
wus、D*
wlsを生成し、PWM出力切替器17を介してインバータ6に出力する。これにより、モータ9は、同期PWM制御により制御される。
【0128】
以上が本実施形態の電動機の制御方法による制御フローの概要である。以下では、
図15~19を参照して、本願発明の課題と、本実施形態の電動機の制御方法による作用効果について説明する。
【0129】
[課題]
まず、
図15、16を参照して、従来技術における課題の概略を説明する。
図15では、横軸は時間が示されており、縦軸は、上から順に、トルク要求(目標トルクT
*)、電気角度検出値θ、電圧位相α
*
fin、及び、同期PWMキャリア信号(θ+α
*
fin)が示されている。同期PWMのキャリア信号は電気角度θと電圧位相α
*
finとを合成して作られる。従って、特にt2からt3の間の挙動から分かるように、モータ9の回転速度が一定(傾きが一定)であっても、キャリア信号の傾きは電圧位相α
*
finの変化に応じて変化(傾きが低下)してしまう。このような場合では、
図16に示すような問題が発生する。
【0130】
図16は、
図15で示したように電圧位相α
*
finが変化した場合の同期PWMパルスの一例を示す図である。横軸は時間軸を示し、縦軸は、比較値th
1~th
10、及び、同期PWM制御時の強電素子駆動信号D
*
uusを示している。
【0131】
電圧位相α
*
finの変化に応じてキャリア信号が変化(傾きが低下)した場合に生成されるPWMパルスには、電圧位相α
*
finが変化しない定常状態に比べて、スイッチングしない通電間隔が長引いてしまう場面が生じ得る(図中のt2-t3間参照)。このような場面が発生すると、モータ9に印加される時間当たりの平均電圧が偏り、モータ9を流れる電流が乱れてしまう。このような課題に対する本実施形態の電動機の制御方法による作用効果を
図17~19を参照して説明する。
【0132】
[作用効果]
図17は、本実施形態による作用効果を説明するための図である。
図17は、
図16と同様に、横軸は時間軸を示し、縦軸は、比較値th
1~th
34、及び、同期PWM制御時の強電素子駆動信号D
*
uusを示している。
【0133】
本実施形態では、同期パルス数が電気角速度ω
reだけでなく電圧位相の角速度ωαも考慮して設定される(
図9参照)。より具体的には、モータ9に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量(電圧位相α
*
fin)の変化方向が、モータ9の回転方向(電気角度θ)と逆方向である場合には、当該状態量の変化量に応じて同期パルス数を増加させる。従って、
図15を用いて上述した場面(t2-t3間)でも、キャリア信号の傾き低下に応じて同期パルス数を適切に増加させることができる。
【0134】
また、変調モードも、電気角速度ω
reだけでなく電圧位相の角速度ωαも考慮して選択される(
図9参照)。従って、キャリア信号の傾きがさらに低下してキャリア信号の変化が横ばいとなり(不図示)、スイッチングが生じないような場面でも、同期PWM制御から非同期PWM制御への切り替え判定が成立して、通電間隔が過度に長くなることを防ぐことができる。
【0135】
また、
図15を参照して上述した場面とは逆に、電圧位相α
*
finの傾きが正側に変化するような場合には、キャリア信号の傾きは大きくなる。このような場合には、
図16のt2-t3間で示す状況とは逆に、より大きい傾きを示すキャリア信号に応じてスイッチング回数が増加してしまう。そうすると、インバータ6のスイッチング損失が増加するので、インバータ6が有する強電素子の発熱が耐熱上限を超える虞が生じる。このような場面でも、本実施形態の電動機の制御方法によれば電圧位相α
*
finに基づいて算出される電圧位相の角速度ω
αに応じて同期パルス数を減少させるように作用するので、スイッチング損失の増加によって強電素子が発熱することを抑制することができる。
【0136】
図18、19は、同期パルス数判定及び変調モード切り替え判定時に、電圧位相角速度を考慮しない従来例と、電圧位相角速度ωαを考慮する本実施形態とのそれぞれの制御結果を比較するタイムチャートである。
図18は従来例による制御結果を示し、
図19は本実施形態による制御結果を示している。両図とも、横軸は時間を示し、縦軸は、上段はトルクの変化を示し、下段はdq軸電流の変化を示している。
【0137】
図18で示す従来例では、トルク要求、およびdq軸電流要求のステップ的な増加に対して、トルク応答、およびdq軸電流応答が大きく振動している。
【0138】
これに対して、
図19で示すとおり、本実施形態の制御結果によれば、従来例に比べて振動を大幅に減少させることができており、トルク要求、およびdq軸電流要求のステップ的な増加に対する滑らかなトルク応答を得ることができる。
【0139】
以上、一実施形態の電動機の制御方法は、PWM周波数を制御対象の電動機(モータ9)の駆動周波数に比例させる同期PWM制御を実行するモータ9の制御方法であって、モータ9の一駆動周期あたりの同期PWMパルス数を決定する同期パルス数決定ステップと、決定されたPWMパルス数に基づく同期PWM制御によりモータ9を制御する制御ステップと、を含む。同期パルス数決定ステップでは、モータ9の回転速度に相関のある状態量とモータ9に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化速度とに基づいて、又は、電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度に基づいて同期PWMパルス数を決定する。これにより、モータ9に印加される電圧の位相の変化を考慮して同期PWMパルス数が決定されるので、モータ9へのトルク要求が変化するのに応じて電動機に印加される電圧の位相が変化した場合でも、トルク要求の変化により生じる過渡的なPWMパルスの粗密による電流の乱れや、インバータ6のスイッチング損失が増加することにより生じる強電素子の温度上昇を抑制することができる。
【0140】
また、一実施形態の電動機の制御方法は、PWM周波数を制御対象のモータ9の駆動周波数に比例させる同期PWM制御と、PWM周波数を固定してモータ9を制御する非同期PWM制御のいずれか一方のPWM制御方式(PWM制御モード)を実行するモータ9の制御方法であって、同期PWM制御と非同期PWM制御とを切替えるPWM制御方式切替ステップと、PWM制御方式切替ステップにおいて切替えられたPWM制御方式によりモータ9を制御する制御ステップとを含む。PWM制御方式切替ステップでは、モータ9の回転速度に相関のある状態量とモータ9に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化速度とに基づいて、又は、電動機に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度に基づいてPWM制御方式を切替える。これにより、トルク要求の変化により生じる過渡的なPWMパルスの周波数(PWM周波数)が低下することによる電流の乱れを抑制することができる。
【0141】
また、一実施形態の電動機の制御方法によれば、PWM制御方式切替ステップでは、モータ9に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量の変化速度が0近傍の所定の範囲内にある場合には、PWM制御モードを非同期PWM制御モードに切替える。これにより、同期PWMパルスが停止してしまう条件時であっても、同期PWM制御から非同期PWM制御に切替えることによりPWM周波数が低下することを防止することができるので、PWM周波数が低下することによる電流の乱れを回避することができる。
【0142】
また、一実施形態の電動機の制御方法によれば、同期パルス数決定ステップでは、モータ9に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化方向が、モータ9の回転方向の逆方向である場合には、当該状態量の変化量に応じて同期パルス数を増加させる。これにより、トルク要求の変化により生じる過渡的なPWM周波数の低下による電流の乱れを抑制することができる。
【0143】
また、一実施形態の電動機の制御方法によれば、同期パルス数決定ステップでは、モータ9に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量の変化方向が、モータ9の回転方向と同じ方向である場合には、当該状態量の変化量に応じて同期パルス数を減少させる。これにより、トルク要求の変化により生じる過渡的なPWM周波数の上昇による強電素子の温度上昇を抑制することができる。
【0144】
また、一実施形態の電動機の制御方法によれば、モータ9の回転速度に相関のある状態量とは、モータ9が備える回転子の回転数N、機械角速度、及び、電気角速度(ωre)のいずれかであり、モータ9に印加される電圧の回転座標上における位相に相関のある状態量とは、当該回転座標上における電圧ベクトルの位相(ωα)であり、モータ9に印加される電圧の固定座標上における電圧ベクトルの位相に相関のある状態量とは、電気角速度ωreと、回転座標上における電圧ベクトルの位相が変化する角速度ωαとを合成した角速度ωre_αである。これにより、本発明にかかる電動機の制御方法を、一般的に用いられるdq軸回転座標上の制御構成における状態変数を用いて簡易に実現することができる。
【0145】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。例えば、
図8で示すブロック構成は一例である。変調切換判定部15は、同期パルス数判定器74と変調切換判定器75との双方を備える必要は必ずしもなく、いずれか一方のみを備える構成であっても良い。
【符号の説明】
【0146】
9…電動機(モータ)
ステップS8…PWM制御方式切替ステップ
ステップS15…同期パルス数決定ステップ