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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】直動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20221220BHJP
   F16H 25/20 20060101ALI20221220BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F16H25/24 A
F16H25/20 E
F16H25/22 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018097853
(22)【出願日】2018-05-22
(65)【公開番号】P2019203535
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 靖巳
(72)【発明者】
【氏名】平田 清孝
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特許第5293887(JP,B2)
【文献】実開昭61-96017(JP,U)
【文献】特開昭58-113659(JP,A)
【文献】特開2016-102569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/20
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転運動要素及び直線運動要素を有し、前記回転運動要素に伝達された回転運動を直線運動に変換するボールねじ機構を備え、
前記ボールねじ機構は、前記直線運動要素に設けられて内周面にスプライン孔部を形成した円筒部と、当該円筒部の外周面から半径方向に突出する突起とを有し、
前記突起は、前記直線運動要素の縮み方向のストロークエンドにおいて前記回転運動要素に形成した凸状係止部が当接することで当該回転運動要素の回転運動が規制されており、
前記円筒部は、前記直線運動要素の外周に形成したスプライン軸部の一端から他端に向けて前記スプライン孔部をスプライン結合することで前記直線運動要素に固定されており、
前記スプライン軸部の軸部側スプライン歯の歯先は、
前記スプライン軸部の前記一端側に形成された第1歯先と、前記スプライン軸部の前記他端側に前記第1歯先より半径方向寸法を小さくして形成された第2歯先と、を備え、
前記スプライン軸部の一端側では、前記第1歯先が前記スプライン孔部の隣接する孔部側スプライン歯の間の歯底との間に隙間を設けながらスプライン結合され、
前記スプライン軸部の他端側では、前記第2歯先の一部が前記孔部側スプライン歯の歯底側の歯面に干渉して圧入力を発生させた状態でスプライン結合されているとともに、
前記第2歯先の一部が前記孔部側スプライン歯に圧入力を発生させてスプライン結合している位置と、前記直線運動要素の縮み方向のストロークエンドにおいて前記突起及び前記凸状係止部が当接する位置とが、前記スプライン軸部の軸心に直交する同一平面上で一致していることを特徴とする直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記第2歯先の前記一部は、前記第1歯先と同一形状の歯先を半径方向内方に潰すことで面方向から突出した干渉部であることを特徴とする請求項1記載の直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記第1歯先及び前記第2歯先を備えた前記軸部側スプライン歯は、前記スプライン軸部の軸心を中心とした軸対象の位置に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1歯先及び前記第2歯先を備えた前記軸部側スプライン歯は、前記スプライン軸部の全周の軸部側スプライン歯に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動要素に伝達された回転運動を直線運動に変換するボールねじ機構を備えた直動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の直動アクチュエータは、ボールねじ軸とこれに多数のボールを介して螺合するボールねじナットとを有するホールねじ機構を有し、ボールねじ軸及びボールねじナットの一方を回転駆動する回転運動要素とし、他方を直線移動させる直線運動要素としている。
上記直動アクチュエータには、直線運動要素の軸方向の移動を制限するためにストローク制限機構を備えているものがある(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載の直動アクチュエータは、直線運動要素であるボールねじ軸のボールねじ部と、これに多数のボールを介して螺合する回転運動要素であるボールねじナットとを有するボールねじ機構を有した装置である。
【0003】
そして、特許文献1のストローク制限機構は、ボールねじ軸のボールねじ部と同軸に設けた軸部に半径方向に突出する突起を設け、ボールねじナットに係止部(特許文献1ではストッパー部と記載)を設け、ボールねじナットの回転によりボールねじ軸を縮み方向にストロークさせたときに、所定位置で突起が係止部に当接し、ボールねじナットの回転が規制されてボールねじ軸のストロークを制限する。
また、突起は、内周面にスプライン孔を形成した円筒部の外周面から半径方向に突出して形成されている。
【0004】
ボールねじ軸の軸部の外周にはスプライン軸部が形成されており、円筒部のスプライン孔が軸部のスプライン軸部にスプライン結合することで、軸部に対する円筒部の周方向移動を規制している。また、円筒部からはみ出しているスプライン軸部の一部の円周方向の複数箇所に加締部を設けることで、軸部に対する円筒部の軸方向移動を規制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5293887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のストローク制限機構は、ボールねじ軸の軸部の軸心と円筒部の軸心が一致するように調芯性を向上させてスプライン軸部及びスプライン孔をスプライン結合しなければならない。このような調芯性を向上させるためには、両者のスプライン歯を高精度に加工する必要があり、製造コストが増大するおそれがある。
また、特許文献1は、円筒部からはみ出しているスプライン軸部の一部に加締め部を設けて軸部に対する円筒部の軸方向移動を拘束しているが、円筒部の軸方向移動の拘束のために加工工程が増大するので、製造コストがさらに増大する。
【0007】
そこで、本発明は、直線運動要素の軸部と突起を設けた筒状体とをスプライン結合する際の調芯性を向上させることができ、軸部に対する筒状体の軸方向移動を確実に拘束することができるとともに、これらを製造コストの低減化を図りながら実現することができる直動アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る直動アクチュエータは、回転運動要素及び直線運動要素を有し、回転運動要素に伝達された回転運動を直線運動に変換するボールねじ機構を備え、ボールねじ機構は、直線運動要素に設けられて内周面にスプライン孔部を形成した円筒部と、円筒部の外周面から半径方向に突出する突起とを有し、突起は、直線運動要素の縮み方向のストロークエンドにおいて回転運動要素に形成した凸状係止部が当接することで回転運動要素の回転運動が規制されており、円筒部は、直線運動要素の外周に形成したスプライン軸部の一端から他端に向けて前記スプライン孔部をスプライン結合することで直線運動要素に固定されており、スプライン軸部の軸部側スプライン歯の歯先は、スプライン軸部の一端側に形成された第1歯先と、スプライン軸部の他端側に第1歯先より半径方向寸法を小さくして形成された第2歯先と、を備え、スプライン軸部の一端側では、第1歯先がスプライン孔部の隣接する孔部側スプライン歯の間の歯底との間に隙間を設けながらスプライン結合され、スプライン軸部の他端側では、第2歯先の一部が孔部側スプライン歯の歯底側の歯面に干渉して圧入力を発生させた状態でスプライン結合されているとともに、第2歯先の一部が前記孔部側スプライン歯に圧入力を発生させてスプライン結合している位置と、直線運動要素の縮み方向のストロークエンドにおいて突起及び凸状係止部が当接する位置とが、スプライン軸部の軸心に直交する同一平面上で一致している。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る直動アクチュエータによれば、直線運動要素の軸部と突起を設けた筒状体とをスプライン結合する際の調芯性を向上させることができる。また、軸部に対する筒状体の軸方向移動を確実に拘束することもできる。そして、調芯性の向上と、軸部に対する筒状体の軸方向移動の拘束を、製造コストの低減化を図りながら実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る第1実施形態の直動アクチュエータを示す正面図である。
図2図1の側面図である。
図3図1のA-A線上の断面図である。
図4図2のB-B線上の断面図である。
図5】ボールねじナットを示す図であって、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は(c)のD-D線上の断面図である。
図6】第1実施形態のボールねじ軸の要部を示す図であって、(a)はインボリュートセレーション軸部を拡大して示した図、(b)は(a)のE-E線上の断面図であり、(c)は(b)のF-F線上の断面図であり、(d)は(b)のG-G線上の断面図である。
図7】第1実施形態の回り止め部材を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は正面図の要部拡大図、(d)は断面図である。
図8】ボールねじ機構の正面図である。
図9】第1実施形態のインボリュートセレーション軸部のセレーション歯の第2歯先の一部が、インボリュートセレーション孔部の孔部側セレーション歯に干渉している状態を示す図である。
図10】第2実施形態のボールねじ軸のインボリュートセレーション軸部を拡大して示した図である。
図11】第2実施形態の回り止め部材を示す図であって、(a)は断面図、(b)は(a)のH-H線上の断面図であり、(c)は(a)のI-I線上の断面図である。
図12】第2実施形態のインボリュートセレーション孔部の孔部側セレーション歯の第4歯先の一部がインボリュートセレーション軸部のセレーション歯に干渉している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の第1及び第2実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
また、以下に示す第1及び第2実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
なお、以下の説明で記載されている「上」、「下」、「底」、「前」、「後」等の方向を示す用語は、添付図面の方向を参照して用いられている。
【0013】
[第1実施形態の直動アクチュエータの構成]
図1は、第1実施形態の直動アクチュエータを示す正面図、図2は、側面図、図3は、図1のA-A線上の断面図、図4は、図2のB-B線上の断面図である。
図中、符号10は直動アクチュエータであって、この直動アクチュエータ10は、ともに例えばアルミニウム又はアルミニウム合金でダイキャスト成形された主ハウジング11A及び副ハウジング11Bを有する。
主ハウジング11Aは、図3に示すように、電動モータ12を前面側に装着するモータ装着部13と、このモータ装着部13と並列に配設されたボールねじ機構20を背面側に装着するボールねじ機構装着部14とを有する。これらモータ装着部13及びボールねじ機構装着部14は、互いの中心軸が平行となるように形成されている。
【0014】
モータ装着部13は、図3に示すように、前面側に形成された電動モータ12の取付フランジ12aを取付けるフランジ取付部13aと、このフランジ取付部13aの背面側に形成された電動モータ12の大径部12bを挿入する大径孔部13bと、この大径孔部13bの背面側に連通する電動モータ12の小径部12cを挿入する小径孔部13cと、この小径孔部13cの背面側に連通するピニオン収納部13dとを有する。
ボールねじ機構装着部14は、背面側に形成したモータ装着部13の小径孔部13cに対応する位置に形成したボールねじ機構収納部14aと、このボールねじ機構収納部14aに連通して前方に延長する円筒部14bと、この円筒部14bの前端に連通するシール収納部14cとを有する。
【0015】
副ハウジング11Bは、図3に示すように、主ハウジング11Aの背面側に形成したピニオン収納部13d及びボールねじ機構収納部14aを覆う形状に構成されている。この副ハウジング11Bは、主ハウジング11Aのピニオン収納部13d及びボールねじ機構収納部14aに対応するピニオン収納部16及びボールねじ機構収納部17を形成し、さらに下部側にブリーザ18を形成している。ここで、ボールねじ機構収納部17には背面側に収容筒部17aを形成している。この収容筒部17aの後述するボールねじナット22の軸方向端面と接触する位置にスラストニードル軸受17bを配置している。
【0016】
電動モータ12は、図3に示すように、その出力軸12dの先端にピニオンギヤ15を装着している。そして、電動モータ12をモータ装着部13に装着する。この電動モータ12の装着は、電動モータ12をピニオンギヤ15側からモータ装着部13に挿入して、ピニオンギヤ15をピニオン収納部13dに収納した状態で、取付フランジ12aをフランジ取付部13aに取付けることにより行う。
一方、ボールねじ機構20は、図4に示すように、主ハウジング11A及び副ハウジング11Bのボールねじ機構収納部14a及び17にシール付の転がり軸受21a及び21bによって回転自在に支持されているボールねじナット22と、このボールねじナット22に多数のボール23を介して螺合するボールねじ軸24とを備えている。
【0017】
ボールねじナット22は、図5に示すように、内周面にボールねじ溝25a及びボール循環溝25bを形成したナット円筒部材25で構成している。ここで、ボールねじナット22のボール循環方式としては、図5(d)に示すように、例えばボール循環部が1巻きに1箇所存在するS字状の循環溝25bをボールねじナット22と一体に形成した形態を採用している。そして、循環溝25bは冷間鍛造によって形成され、ボールねじ溝25aは切削加工により形成される。
ナット円筒部材25は、外周面における軸方向の両端部側をボールねじ機構収納部14aに転がり軸受21a及び21bを介して回転自在に支持されている。そして、ナット円筒部材25の外周面の転がり軸受21a及び21bの内輪間にドリブン用スプライン軸部25cを形成している。さらに、正面から見て扇状の凸状係止部25dをナット円筒部材25の前面側端面に一体に突出形成している。ここで、この凸状係止部25dの周方向の側面は平面である。
【0018】
また、ナット円筒部材25は、図3に示すように、ドリブン用スプライン軸部25cにドリブンギヤ26をスプライン結合している。このドリブンギヤ26は電動モータ12の出力軸12dに装着されたピニオンギヤ15に噛合している。ドリブンギヤ26には、内周面にドリブン用スプライン軸部25cに噛合するインボリュートセレーション孔部26aを形成している。
ボールねじ軸24は、図4に示すように、主ハウジング11Aに形成した円筒部14b及び副ハウジング11Bに形成した収納筒部17aに装着されている。
【0019】
このボールねじ軸24は、軸方向の中央部より後端側(図4の右側)に形成されたボールねじ部31と、このボールねじ部31の前端側(図4の左側)に連接するボールねじ部31より小径のインボリュートセレーション軸部32と、このインボリュートセレーション軸部32の前端に連接するインボリュートセレーション軸部32より小径で、先端に二面幅33aを形成した連結軸部33とで構成されている。
ボールねじ軸24のインボリュートセレーション軸部32には、図6(a)、(b)に示すように、周方向に複数のセレーション歯38が形成されている。
セレーション歯38は、図6(b)に示すように、連結軸部33側に第1歯先38aが軸方向に沿って形成され、ボールねじ部31側に第2歯先38bが形成されている。
【0020】
第1歯先38aは、図6(c)に示すように、先端までの半径方向寸法をr1とした三角山形状として形成されている。
第2歯先38bは、図6(d)に示すように、三角山形状の第1歯先38aの先端を半径方向内方に潰すことで形成され、先端までの半径方向寸法をr2とし、歯面方向から干渉部38b1、38b2が膨出した形状とされている。ここで、第2歯先38bの先端までの半径方向寸法r2は、第1歯先38aの先端までの半径方向寸法r1より小さく設定されている(r2<r1)。
この第1歯先38a及び第2歯先38bを備えたセレーション歯38は、インボリュートセレーション軸部32の軸線を中心とした軸対象の位置に複数形成されている。
【0021】
そして、図3に示すように、ボールねじ軸24のインボリュートセレーション軸部32に、回り止め部材34が結合している。
回り止め部材34は、図7に示すように、内周面にインボリュートセレーション孔部35aを形成した円筒部35と、この円筒部35の外周面に形成されて半径方向外方に突出するストッパー36とを有している。
ストッパー36は、軸方向から見て四角形状に突出している部位であり、円筒部35の外周面の互いに周方向に離間した位置で立ち上がっている第1ストッパー側面36a及び第2ストッパー側面36bと、これら第1及び第2ストッパー側面36a,36bの立上がり縁部で連結しているストッパー端面36cとを有している。
【0022】
第1ストッパー側面36aは平面であり、後述するストロークエンドにおいてボールねじナット22の凸状係止部25dの周方向の平面とした側面が面接触状態で当接する。
なお、第1ストッパー側面36a及び凸条係止部25dの周方向の側面の両者は平面に限らず、円筒面或いは球面の曲面であってもよい。
第2ストッパー側面36bは、ストッパー端面36cから円筒部35の外周面に向かうに従い、第1ストッパー側面36aとの距離が徐々に増大している勾配面として形成されている。
【0023】
図7(b)に示すように、第1ストッパー側面36aと円筒部35の外周面が交差する位置を第1交差位置43aとし、第2ストッパー側面36bと円筒部35の外周面が交差する位置を第2交差位置43bとしている。
これにより、ストッパー36は、ストッパー端面36cの軸直交方向の幅寸法をaとし、第1交差位置43a及び第2交差位置43bの間のストッパー36の基端側の軸直交方向の幅寸法をbとすると、a < b の関係を有して形成されている。
また、図7(c)に示すように、ストッパー36の重心位置をGとし、ストッパー36の基端から重心位置Gまでの高さ寸法をe1とし、重心位置Gからストッパー端面36cまでの高さ寸法をe2とすると、e1 < e2 の関係を有して形成されている。
【0024】
さらに、図7(d)に示すように、回り止め部材34は、円筒部35の軸方向寸法をL1とし、ストッパー36の軸方向寸法をL2とすると、L1 > L2 の関係を有しているとともに、ストッパー36は、円筒部36の一端側開口部に寄った位置で形成されている。
上記構成の回り止め部材34は、ボールねじ軸24のインボリュートセレーション軸部32に、円筒部35のインボリュートセレーション孔部35aが嵌め合わされることで結合される。
【0025】
そして、図3及び図8に示すように、回り止め部材34のストッパー36がボールねじナット22の凸条係止部25dに当接したときに、ボールねじ軸24が縮み方向のストロークエンド位置となる。
図4に示すように、ボールねじナット22の軸長は、ボールねじ軸24のボールねじ部31の軸長と略同一寸法に設定されており、ボールねじ軸24が縮み方向のストロークエンド位置に移動すると、ボールねじ部31の全域がボールねじナット22に収納されている。
また、図4に示すように、主ハウジング11Aの円筒部14bの内周面には、ガイド部材40が装着されている。
【0026】
ガイド部材40は、円柱を断面で見て、円の直径以下の弦に沿った平面で軸方向に切断して形成される柱体であり、軸方向に沿った案内溝40cが形成されている。
ガイド部材40は、主ハウジング11Aの円筒部14bに形成した支持孔41aの内部に保持されている。この案内溝40cに、ボールねじ軸24の回り止め部材34のストッパー36が係合している。
そして、ガイド部材40の前端側の外周面には、円周方向に支持孔41aの突条41cに係合する係合溝40dが形成されている。
【0027】
さらに、主ハウジング11Aには、ボールねじ機構装着部14におけるシール収納部14cにボールねじ軸24の連結軸部33の外周面に摺接するシール50を装着し、このシール50を止め輪51によって固定している。
ここで、本発明に記載されている回転運動要素がボールねじナット22に対応し、本発明に記載されている直線運動要素がボールねじ軸24に対応し、本発明に記載されているスプライン軸部がインボリュートセレーション軸部32に対応している。また、本発明に記載されている突起がストッパー36に対応し、本発明に記載されている軸部側スプライン歯がセレーション歯38に対応している。さらに、本発明に記載されているスプライン孔部がインボリュートセレーション孔部35aに対応し、本発明に記載されている孔部側スプライン歯が孔部側セレーション歯39に対応している。
【0028】
[第1実施形態の直動アクチュエータの組立方法]
次に、第1実施形態の直動アクチュエータ10の組立方法を説明する。
直動アクチュエータ10で使用されるボールねじ機構20は、予め、製造工場においてユニット化された状態で組立工場に搬送されてくる。
ユニット化されたボールねじ機構20は、ボールねじ軸24のインボリュートセレーション軸部32と回り止め部材34の円筒部35のインボリュートセレーション孔部35aが結合している。
【0029】
また、ボールねじ軸24のボールねじ部31にはグリースが塗付されているとともに、ボールねじナット22内にボール23を介して螺合されている。
そして、ボールねじ軸24のボールねじ部31の全域がボールねじナット22に収納されるように、ボールねじ軸24を縮み方向のストロークエンド位置まで移動させて保持している。
ここで、回り止め部材34をボールねじ軸24に固定する方法は、回り止め部材34の円筒部35に連結軸部33を挿通した後、円筒部35のインボリュートセレーション孔部35aを、インボリュートセレーション軸部32の連結軸部33から嵌め合わせていく。
【0030】
この際、円筒部35が、インボリュートセレーション孔部35aの孔部側セレーション歯(図9の破線で示す符号39)の歯底と、インボリュートセレーション軸部32の第1歯先38aとの間に隙間を設けながらボールねじ部31側に移動していく。
そして、円筒部35がボールねじ部31側にさらに移動すると、図9に示すように、インボリュートセレーション軸部32の第2歯先38aに形成した干渉部38b1,38b2が、インボリュートセレーション孔部35aの孔部側セレーション歯39の歯底側の断面に干渉し、孔部側セレーション歯39に圧入力を発生させた状態でインボリュートセレーション軸部32が嵌め合わされていく。
【0031】
したがって、回り止め部材34は、インボリュートセレーション孔部35aとインボリュートセレーション軸部32の結合によってボールねじ軸24に対して回転不能とされるとともに、インボリュートセレーション軸部32の第2歯先38aに形成した干渉部38b1,38b2が、インボリュートセレーション孔部35aの孔部側セレーション歯39に圧入力を発生させた状態で干渉するので、ボールねじ軸24の軸方向移動が拘束されてボールねじ軸24に固定される。
そして、直動アクチュエータ10の組立方法は、先ず、主ハウジング11Aの支持孔41aにガイド部材40を装着保持する。
【0032】
次に、支持孔41aの突条41cにガイド部材40の係合溝40dを対向させた状態で、ガイド部材40を支持孔41a内に挿入して係合溝40d内に突条41cを係合し、支持孔41a内部に軸方向の移動を阻止したガイド部材40を配置する。
次に、ユニット化されたボールねじ機構20のボールねじナット22のナット円筒部材25の外周面に、ドリブンギヤ26をスプライン結合させ、その両脇に転がり軸受21a及び21bを装着し、これら転がり軸受21a及び21bの内輪によってドリブンギヤ26を固定する。
【0033】
次に、ボールねじ機構20を主ハウジング11Aのボールねじ機構収納部14aに連結軸部33側から挿入し、ストッパー36を主ハウジング11Aに装着されたガイド部材40の案内溝40cに係合させる。
次に、転がり軸受21aの外輪をボールねじ機構収納部14aの内周面に嵌合させながらドリブンギヤ26をボールねじ機構収納部14aに収納して、主ハウジング11Aへのボールねじ機構20の装着を完了する。
次に、電動モータ12をそのピニオンギヤ15側から主ハウジング11Aのモータ装着部13内に挿入して、ピニオンギヤ15をボールねじ機構20のドリブンギヤ26に噛合させる。そして、電動モータ12の取付フランジ12aをフランジ取付部13aにボルト締めする。
【0034】
なお、電動モータ12の主ハウジング11Aへの装着は、主ハウジング11Aへのボールねじ機構20の装着前に行うようにしてもよい。
このように主ハウジング11Aへの電動モータ12及びボールねじ機構20の装着を終了すると、主ハウジング11Aの背面側に図示しないパッキンを介して副ハウジング11Bを装着してボルト締め等の固定手段で固定し、主ハウジング11Aのシール収納部14cにシール50を挿入し、止め輪51で抜け止めすることにより、直動アクチュエータ10の組立を完了する。
【0035】
[第1実施形態の直動アクチュエータの動作]
この状態で、電動モータ12を回転駆動して、ピニオンギヤ15からドリブンギヤ26に回転駆動力を伝達して、ボールねじナット22を、例えば図8で見て時計方向に回動させる場合を考える。この場合には、ボールねじナット22の回転力はボール23を通じてボールねじ軸24に伝達されることにより、ボールねじ軸24はボールねじナット22と同一方向の時計方向に回動しようとする。
このとき、ボールねじ軸24に固定されている回り止め部材34のストッパー36も時計方向に回動しようとするが、ストッパー36がガイド部材40の案内溝40c内に係合しているので、時計方向の回動が規制される。このため、回り止め部材34は、ストッパー36の回動が規制されることで、ボールねじ軸24の回り止め機能を発揮する。
【0036】
そして、ボールねじナット22を図8で見て時計方向に回動し続けることにより、ボールねじ軸24は図3及び図4で見て左方に回動せずに移動する。このとき、ストッパー36は、ガイド部材40の案内溝40c内を滑りながら移動する。
その後、ボールねじナット22を図8で見て時計方向の回転を継続してボールねじ軸24が所望の前進位置に達したときに、電動モータ12を停止させることにより、ボールねじ軸24の前進を停止させる。
一方、ボールねじ軸24が前方側の所望の前進位置に達している状態から電動モータ12を逆転駆動して、ボールねじナット22が図8で反時計方向に回転すると、ボールねじ軸24は、そのストッパー36がガイド部材40の案内溝40cに係合しているので、回り止めされながら軸方向に回動せずに後退する。このとき、ストッパー36は、ガイド部材40の案内溝40c内を滑りながら移動する。
【0037】
そして、軸方向に後退しているボールねじ軸24に固定されているストッパー36と、反時計方向に回転しているボールねじナット22の凸状係止部25dとが円周方向で対面すると、図8に示すように、ストッパー36の第1ストッパー側面36aが凸状係止部25dに当接する。
このように、ストッパー36の第1ストッパー側面36a及びボールねじナット22の凸状係止部25dが面接触状態で当接することで、ボールねじナット22のこれ以上の逆回転が規制され、ボールねじ軸24が縮み方向のストロークエンド位置に達する。
この縮み方向のストロークエンド位置では、ボールねじ部31の全域がボールねじナット22に収納される。
【0038】
[第1実施形態の直動アクチュエータの作用効果]
次に、第1実施形態の直動アクチュエータ10の作用効果について説明する。
回り止め部材34をボールねじ軸24に固定する際、回り止め部材34の円筒部35に連結軸部33を挿通した後、円筒部35のインボリュートセレーション孔部35aを、インボリュートセレーション軸部32の連結軸部33から嵌め合わせていく。
この際、円筒部35は、インボリュートセレーション孔部35aの孔部側セレーション歯39の間の歯底とインボリュートセレーション軸部32の第1歯先38aとの間に隙間を設けながらボールねじ部31側に移動していく。これにより、円筒部35は、インボリュートセレーション軸部32の軸線に対して円筒部35の軸線が一致するように矯正されながら第2歯先38b側に移動していく。
【0039】
これにより、円筒部35のインボリュートセレーション孔部35aをインボリュートセレーション軸部32にスプライン結合する際の調芯性を向上させることができる。
また、円筒部35がボールねじ部31側移動していくと、インボリュートセレーション軸部32の第2歯先38aに形成した干渉部38b1,38b2が、インボリュートセレーション孔部35aの孔部側セレーション歯39の歯底側に干渉し、孔部側セレーション歯39に圧入力を発生させた状態でインボリュートセレーション軸部32に嵌め合わされ、ボールねじ軸24の軸方向移動が拘束されてボールねじ軸24に固定される。
これにより、インボリュートセレーション軸部32に対して円筒部35の軸方向移動を確実に拘束することができる。
【0040】
そして、インボリュートセレーション軸部32の第2歯先38b及びインボリュートスプライン孔部35aの孔部側セレーション歯39をさほど高精度に形成しなくても、円筒部35及びインボリュートセレーション軸部32の調芯性を高めることができるので、製造コストの低減化も図ることができる。
なお、インボリュートセレーション軸部32の第1歯先38a及び第2歯先38bを備えたセレーション歯38は、第1実施形態では、インボリュートセレーション軸部32の軸線を中心とした軸対象の位置に複数形成したが、インボリュートセレーション軸部32の全周のセレーション歯38に形成すると、調芯性をさらに向上させることができる。
【0041】
[第2実施形態の直動アクチュエータの構成]
次に、図10から図12は、第2実施形態の直動アクチュエータ10の要部を示すものである。
図10に示すように、第2実施形態のボールねじ軸24のインボリュートセレーション軸部32には、連結軸部33側からボールねじ部31側に複数のセレーション歯38が形成されている。インボリュートセレーション軸部32のセレーション歯38は、連結軸部33側からボールねじ部31側に三角山形状とした同一形状の歯が全周にわたって形成されている。
【0042】
また、図11(a)に示すように、第2実施形態の回り止め部材34の円筒部35の内周面にはインボリュートセレーション孔部52が形成されている。
インボリュートセレーション孔部52には、インボリュートセレーション軸部32の連結軸部33側でスプライン結合するセレーション歯53が形成されているとともに、インボリュートセレーション軸部32のボールねじ部31側でスプライン結合するセレーション歯54が形成されている。
インボリュートセレーション軸部32の連結軸部33側でスプライン結合するセレーション歯53は、図11(b)に示すように、先端までの半径方向寸法をr3とした三角山形状の第3歯先53aが軸方向に沿って形成されている。
【0043】
また、インボリュートセレーション軸部32のボールねじ部31側でスプライン結合するセレーション歯54は、図11(c)に示すように、第4歯先54aが軸方向に沿って形成されている。
第4歯先54aは、三角山形状の第3歯先53aの先端を半径方向外方に潰すことで形成され、先端までの半径方向寸法をr4とし、歯面方向から干渉部54b1、54b2が膨出した形状とされている。ここで、第4歯先54bの先端までの半径方向寸法r4は、第3歯先53aの先端までの半径方向寸法r3より大きく設定されている(r3<r4)。
【0044】
この第3歯先53aを備えたセレーション歯53及び第4歯先54aを備えたセレーション歯54は、インボリュートセレーション孔部52の軸線を中心とした軸対象の位置に複数形成されている。
ここで、本発明に記載されている孔部側スプライン歯がセレーション歯53、54に対応し、本発明に記載されているスプライン孔部がインボリュートセレーション孔部52に対応し、本発明に記載されている軸部側スプライン歯がセレーション歯38に対応している。
【0045】
[第2実施形態の直動アクチュエータの作用効果]
次に、第2実施形態の直動アクチュエータ10の作用効果について説明する。
回り止め部材34をボールねじ軸24に固定する際、回り止め部材34の円筒部35に連結軸部33を挿通した後、円筒部35のインボリュートセレーション孔部52を、インボリュートセレーション軸部32の連結軸部33から嵌め合わせていく。
この際、円筒部35がボールねじ部31側に移動していくと、インボリュートセレーション孔部52のセレーション歯54の第4歯先54aに形成した干渉部54b1,54b2が、インボリュートセレーション軸部32のセレーション歯38の歯底側の歯面に干渉し、セレーション歯38に圧入力を発生させた状態でインボリュートセレーション軸部32に嵌め合わされ、ボールねじ軸24の軸方向移動が拘束されてボールねじ軸24に固定される。
【0046】
これにより、インボリュートセレーション軸部32に対して円筒部35の軸方向移動を確実に拘束することができる。
また、インボリュートセレーション孔部52のセレーション歯54及びインボリュートセレーション軸部32のセレーション歯38をさほど高精度に形成しなくても、円筒部35及びインボリュートセレーション軸部32の調芯性を高めることができるので、製造コストの低減化も図ることができる。
【0047】
なお、第2実施形態においても、第3歯先53aを有するセレーション歯53及び第4歯先54aを有するセレーション歯54を、インボリュートセレーション孔部52の軸線を中心とした軸対象の位置に複数形成したが、インボリュートセレーション孔部52の全周にわたってセレーション歯53,54を形成すると、調芯性をさらに向上させることができる。
また、第1及び第2実施形態においては、ボールねじナット22を電動モータによって回転駆動して、ボールねじ軸24を直線運動要素とした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、逆にボールねじ軸24を回転駆動源によって回動する回転運動要素とし、ボールねじナット22を直線運動要素とした場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 直動アクチュエータ
11A 主ハウジング
11B 副ハウジング
12 電動モータ
12a 取付フランジ
12b 大径部
12c 小径部
12d 出力軸
13 モータ装着部
13a フランジ取付部
13b 大径孔部
13c 小径孔部
13d ピニオン収納部
14 ボールねじ機構装着部
14a ボールねじ機構収納部
14b 円筒部
14c シール収納部
15 ピニオンギヤ
16 ピニオン収納部
17 ボールねじ機構収納部
17a 収納筒部
17b スラストニードル軸受
18 ブリーザ
20 ボールねじ機構
21a,21b 転がり軸受
22 ボールねじナット
23 ボール
24 ボールねじ軸
25 ナット円筒部材
25a ボールねじ溝
25b ボール循環溝
25c ドリブン用スプライン軸部
25d 凸状係止部
26 ドリブンギヤ
26a インボリュートセレーション孔部
31 ボールねじ部
32 インボリュートセレーション軸部
33a 二面幅
33 連結軸部
34 回り止め部材
35 円筒部
35a インボリュートセレーション孔部
36 ストッパー
36a 第1ストッパー側面
36b 第2ストッパー側面
36c ストッパー端面
38 インボリュートセレーション軸部のセレーション歯
38a 第1歯先
38b 第2歯先
38b1、38b2 干渉部
39 孔部側セレーション歯
43a 第1交差位置
43b 第2交差位置
40c 案内溝
40d 係合溝
41a 支持孔
41c 突条
50 シール
51 止め輪
52 インボリュートセレーション孔部
53 連結軸部側でスプライン結合するセレーション歯
53a 第3歯先
54 ボールねじ部側でスプライン結合するセレーション歯
54a 第4歯先
54b1、54b2 干渉部
a ストッパー端面の軸直交方向の幅寸法
b ストッパーの基端側の軸直交方向の幅寸法
G ストッパーの重心位置
e1 ストッパーの基端から重心位置までの高さ寸法
e2 重心位置からストッパー端面までの高さ寸法
L1 円筒部の軸方向寸法
L2 ストッパーの軸方向寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12