(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】定着装置、画像形成装置、および印刷物の生産方法
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221220BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20221220BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20221220BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G15/00 303
G03G15/20 510
G03G9/087 325
G03G9/097 368
(21)【出願番号】P 2018114324
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 千晶
(72)【発明者】
【氏名】吉江 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕文
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-256693(JP,A)
【文献】特開2018-041013(JP,A)
【文献】特開2013-130778(JP,A)
【文献】特開2011-123373(JP,A)
【文献】特開2012-013761(JP,A)
【文献】特開2017-126029(JP,A)
【文献】特開2012-098494(JP,A)
【文献】特開2004-012580(JP,A)
【文献】特開2015-064449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0207044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/113
9/16
13/20
13/34
15/00
15/20
15/36
21/00-21/02
21/14
21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録紙上に形成されたトナー画像を当該記録紙上に定着させるために加熱する定着部材と、
前記定着部材とともに前記記録紙を挟持することにより前記記録紙上のトナー画像に加圧するための加圧部材と、
前記加圧部材を加熱するためのヒーターと、
前記ヒーターによる前記加圧部材の加熱温度を制御する制御部と、を備え、
前記トナー画像は、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックの中の1以上のトナーのみの組み合わせによって形成され、
前記制御部は、前記トナー画像の光沢度の設定を3種類以上の設定の中から取得し、前記設定における光沢度が低いほど前記加熱温度を高く制御
し、
前記加圧部材を冷却する冷却部材をさらに備える、定着装置。
【請求項2】
前記加圧部材はベルト形状を有する、請求項
1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記記録紙の厚みおよび前記設定における光沢度に従って前記加熱温度を制御する、請求項1
または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記設定における光沢度に従って、前記定着部材と前記加圧部材とが前記記録紙を挟持する圧力を調整する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記トナー画像を構成するトナーの粒子は、結着樹脂をイオン架橋する金属元素を0.05~0.40%含有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記金属元素は、アルミニウムまたはマグネシウムを含む、請求項
5に記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の定着装置と、前記トナー画像を形成する画像形成部とを備える、画像形成装置。
【請求項8】
画像形成装置において記録紙上にトナー画像を形成された印刷物を生産する方法であって、
前記画像形成装置は、記録紙上のトナー画像を定着するために前記記録紙を挟持する定着部材および加圧部材と、前記加圧部材を加熱するためにヒーターとを含み、
前記トナー画像の光沢度の設定を3種類以上の設定の中から取得するステップと、
前記光沢度の設定に従って前記加圧部材を加熱する条件を設定するステップと、
記録紙上に形成されたトナー画像を形成するステップと、
前記定着部材と前記加圧部材とを用いて、前記記録紙上のトナー画像を前記条件に従って定着するステップとを備え、
前記トナー画像を構成するトナーは、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックの中の1以上のトナーであり、
前記トナー画像を構成するトナーの粒子は、結着樹脂をイオン架橋する金属元素を0.05~0.40%含有
し、
前記加圧部材を冷却するステップをさらに備える、印刷物の生産方法。
【請求項9】
前記金属元素は、アルミニウムまたはマグネシウムを含む、請求項
8に記載の印刷物の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真方式の画像形成におけるトナー画像の定着に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成では、記録紙上に形成された未定着トナー像が、熱と圧力を付与する定着工程によって記録紙上に定着する。従来、未定着トナー像を記録紙上に定着させる定着装置として、様々な装置が提案されている。このような画像形成において形成された画像の光沢度を制御する方法として、特許文献1(特開2004-286992号公報)は、定着装置における定着時間および定着温度を変える技術を提供している。
【0003】
また、特許文献2(特開2016-177206号公報)は、定着時間および定着温度が制御されても、トナー画像が定着用のニップ部から排出された後、当該トナー画像の光沢度が変化することを指摘している。そして、特許文献2は、定着用のニップ部の上流側および/または下流側で記録材の温度を調整する手段を設けることにより、ニップ部を通過した後のトナー画像の硬化の速度を調整し、それにより目標とする光沢度の画像を得ることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-286992号公報
【文献】特開2016-177206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、ニップ部の上流側/下流側の温度調整手段を設けることにより、定着装置が大きくなる上に、当該手段がエネルギーを消費することによって、目標とする光沢度を得るために必要とされるエネルギー量が増加する。
【0006】
本開示は、係る実情に鑑み考え出されたものであり、その目的は、装置の大型化を回避しつつエネルギーの消費量を抑えながら、トナー画像の光沢度を制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従うと、記録紙上に形成されたトナー画像を当該記録紙上に定着させるために加熱する定着部材と、定着部材とともに記録紙を挟持することにより記録紙上のトナー画像に加圧するための加圧部材と、加圧部材を加熱するためのヒーターと、ヒーターによる加圧部材の加熱温度を制御する制御部と、を備え、制御部は、トナー画像の光沢度の設定を取得し、設定における光沢度が低いほど加熱温度を高く制御する、定着装置が提供される。
【0008】
定着装置は、加圧部材を冷却する冷却部材をさらに備えていてもよい。
加圧部材はベルト形状を有していてもよい。
【0009】
制御部は、記録紙の厚みおよび設定における光沢度に従って加熱温度を制御してもよい。
【0010】
制御部は、設定における光沢度に従って、定着部材と加圧部材とが記録紙を挟持する圧力を調整してもよい。
【0011】
トナー画像を構成するトナーの粒子は、結着樹脂をイオン架橋する金属元素を0.05~0.40%含有してもよい。
【0012】
金属元素は、アルミニウムまたはマグネシウムを含んでいてもよい。
本開示の他の局面に従うと、上記定着装置と、トナー画像を形成する画像形成部とを備える、画像形成装置が提供される。
【0013】
本開示のさらに他の局面に従うと、画像形成装置において記録紙上にトナー画像を形成された印刷物を生産する方法が提供される。画像形成装置は、記録紙上のトナー画像を定着するために記録紙を挟持する定着部材および加圧部材と、加圧部材を加熱するためにヒーターとを含む。方法は、トナー画像の光沢度の設定を取得するステップと、光沢度の設定に従って加圧部材を加熱する条件を設定するステップと、記録紙上に形成されたトナー画像を形成するステップと、定着部材と加圧部材とを用いて、記録紙上のトナー画像を条件に従って定着するステップとを備える。トナー画像を構成するトナーの粒子は、結着樹脂をイオン架橋する金属元素を0.05~0.40%含有する。
【0014】
上記方法において、金属元素は、アルミニウムまたはマグネシウムを含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、印刷設定としてトナー画像の光沢度の設定が取得されると、当該設定に従って加圧部材の加熱温度が制御される。これにより、装置の大型化を回避しつつエネルギーの消費量を抑えながら、トナー画像の光沢度が制御される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】画像形成装置の一例であるMFP500の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図1のMFP500の定着ユニット60およびその近傍の構成を模式的に示す図である。
【
図3】MFP500のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【
図4】トナー(1)~(8)の金属元素の含有量を示す図である。
【
図5】挙動「弾性回復」を説明するための図である。
【
図6】ニップ部における加圧部材の温度の相違による光沢度の相違を説明するための図である。
【
図7】MFP500における用紙の印刷のためにCPU101が実行する処理の一例のフローチャートである。
【
図8】9つの条件下のそれぞれにおいて生成された印刷物についてのトナー画像の光沢の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しつつ、定着装置および画像形成装置の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらの説明は繰り返さない。
【0018】
[1]画像形成装置の概略構成
図1は、画像形成装置の一例であるMFP500の構成を模式的に示す図である。
図1では、画像形成装置の一例として、タンデム型のカラー画像形成ユニットを搭載した画像形成装置が例示される。
【0019】
図1を参照して、MFP500は、制御部100と画像形成部200とを含む。画像形成部200は、典型的には、スキャナーユニット800がプリント対象の原稿の内容を光学的に読取って得られる画像情報に基づいて、給紙カセット1に装填されている用紙Pに対して、カラーもしくはモノクロの画像を形成する。スキャナーユニット800には、ADF(Auto Document Feeder:原稿自動搬送装置)900が連結されており、このADF900からプリント対象の原稿が順次搬送されるようになっている。
【0020】
より具体的には、画像形成部200は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色の別に、プロセスユニット30C,30M,30Y,30K(以下、「プロセスユニット30」とも総称する。)を含む。各色のプロセスユニット30は、転写ベルト8の移動方向に沿って配列されており、対応する色のトナー像を転写ベルト8上に順次形成する。
【0021】
プロセスユニット30C,30M,30Y,30Kは、それぞれ、1次転写ローラー10C,10M,10Y,10K(以下、「1次転写ローラー10」とも総称する。)と、感光体11C,11M,11Y,11K(以下、「感光体11」とも総称する。)と、現像ローラー12C,12M,12Y,12K(以下、「現像ローラー12」とも総称する。)と、プリントヘッド13C,13M,13Y,13K(以下、「プリントヘッド13」とも総称する。)と、帯電チャージャー14C,14M,14Y,14K(以下、「帯電チャージャー14」とも総称する。)と、トナーユニット15C,15M,15Y,15K(以下、「トナーユニット15」とも総称する。)とを含む。
【0022】
各プロセスユニット30は、操作パネル300などに対するユーザーの操作に応じたプリント要求を受取ると、プリントすべき画像を構成する各色のトナー像を感光体11上に形成するとともに、他のプロセスユニット30とタイミングを合わせて、当該形成した各色のトナー像を転写ベルト8上に転写する。このとき、1次転写ローラー10が対応する感光体11上のトナー像を転写ベルト8へ移動させる。
【0023】
各プロセスユニットでは、帯電チャージャー14が回転する感光体11の表面を帯電させるとともに、プリントヘッド13がプリントすべき画像情報に従って、感光体11の表面を露光する。これにより、感光体11の表面には、形成すべきトナー像を表わす静電潜像が形成される。その後、現像ローラー12が、感光体11の表面に対して、トナーユニット15のトナーを供給する。これにより、感光体11上に、トナー像として、静電潜像が現像される。その後、1次転写ローラー10が、駆動モータ9によって回転する転写ベルト8上に、各感光体11の表面に現像されたトナー像を順次転写する。これにより、各色のトナー像が重ね合わされて、用紙Pに転写すべきトナー像が形成される。
【0024】
画像形成部200は、プリントされるトナー像の濃度を安定化させるために、転写ベルト8上のトナー濃度を検出するための濃度センサー31を含む。
【0025】
当該濃度センサー31を用いた画像安定化制御として、転写ベルト8上に現像器の現像出力を変えて、トナー濃度を変え印字したトナー濃度検出用パッチを数パッチ形成する。画像形成部200は、濃度センサー31を用いてトナー濃度を検出し、その結果に応じて、現像器の現像出力にフィードバックを行うことにより、印字時に常に安定したトナー濃度を得ることが可能である。装置本体のメインスイッチがオンした場合、トナーカートリッジが交換された場合、所定枚数を印字した場合等に画像安定化制御を実行することが可能である。
【0026】
画像形成部200は、給紙カセット1を含む。給紙カセット1では、給紙ローラー1Aが、給紙カセット1に装填されている用紙Pを取り出す。この取り出された用紙Pは、搬送ローラー74などによって搬送経路3に沿って搬送される。搬送ローラー74は、用紙Pをタイミングセンサーに到達した位置で待機させる。その後、搬送ローラー74は、転写ベルト8上に形成されたトナー像が2次転写ローラー5に到達するタイミングに合わせて、用紙Pを2次転写ローラー5へ搬送する。
【0027】
2次転写ローラー5および対向ローラー6により、転写ベルト8上のトナー像が用紙Pへ転写される。典型的には、2次転写ローラー5にトナー像の有する電荷に応じた所定の電位(たとえば、約+2000V)を印加しておくことで、転写ベルト8上のトナー像が2次転写ローラー5側へ電気的に引き寄せる力が生じ、これにより、トナー像の用紙Pへの転写が行われる。
【0028】
さらに、用紙Pへ転写されたトナー像は、定着ベルト605および加圧ローラー609等を含む定着装置(後述する
図2の定着ユニット60)において処理されることにより、用紙Pに定着する。トナー像が定着した用紙Pは、排紙トレイに出力される。これにより、一連のプリントプロセスは完了する。MFP500において、定着ベルト605は定着部材の一例であり、加圧ローラー609は加圧部材の一例である。
【0029】
搬送経路3に沿って、平滑度センサー66が設けられている。平滑度センサー66は、搬送経路3上の用紙Pの表面の平滑度を検出し、制御部100へ出力する。MFP500は、平滑度センサー66として、空気漏洩式を含むいかなる方式のセンサーを備えることができる。
【0030】
[2]定着ユニットおよびその近傍の構成
図2は、
図1のMFP500の定着ユニット60およびその近傍の構成を模式的に示す図である。
図2に示されるように、定着ユニット60は、加熱部60Aと加圧部60Bとを含む。加熱部60Aは、加熱ローラー601と定着ローラー602とを含む。加熱ローラー601と定着ローラー602には、定着ベルト605が張架されている。
図2では、説明を容易にするために、加熱ローラー601と定着ローラー602との配列が、
図1に対して時計回りに90度回転された状態で示されている。
【0031】
加熱ローラー601の内部には、ヒーター63が収容されている。ヒーター63は、定着ベルト605の表面を加熱する。加熱の目標温度は、たとえば、80~250℃である。定着ベルト605の表面には、
図1では図示されていない温度センサーが設けられている(
図3の「温度センサー64」)。MFP500では、当該温度センサーによって定着ベルト605の温度がモニターされ、この温度は図示されていない温度制御回路にフィードバックされる。これにより、定着ベルト605は、所定の温度に制御される。
【0032】
定着ローラー602では、金属の円筒状基体が、ゴム603によって被覆されている。ゴムは、耐熱性を有する。ゴムの材料は、たとえば、シリコーンゴム、または、フッ素ゴムである。ゴム硬度は、5度~50度程度である。ゴムの厚みは、たとえば、1mm~50mm程度である。ゴム表面の離型性を上げるため、定着ローラー602の円筒状基体を被覆する素材は、フッ素系の樹脂等であっても良い。
【0033】
定着ベルト605は、たとえば、金属または樹脂等の基体にゴム層を被覆し、さらに、ゴム層の表面に離型層が設けられることによって生成される。基体が樹脂によって構成される場合、当該樹脂は、ポリイミド等の耐熱性の高い樹脂であることが好ましい。ゴム層は、耐熱性の高いシリコーンゴムまたはフッ素ゴムによって構成されることが好ましい。ゴム層の厚さは、たとえば、0.1mm~5mm程度である。ゴム硬度は、たとえば、5度~50度程度である。離型層は、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)またはPTFA(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素系樹脂によって構成される。
【0034】
定着ベルト605のMD-1硬度(typeC)は、85°以上95°以下が好ましい。MD-1硬度が85°未満では、凹凸部境界面への接触面積が大きくなり、画像乱れが発生する可能性が高くなる。さらに、85°未満では、定着ベルト605の耐久性も悪化し得る。MD-1硬度が95°を超えると、凸部への接触面積が減り、定着強度が悪化するおそれがある。
【0035】
加圧部60Bは、主に、加圧ローラー609によって構成される。加圧ローラー609では、金属の円筒状基体609Aが、ゴム609Bによって被覆されている。ゴム609Bは、たとえば、シリコーン系、フッ素系等の耐熱性の高いゴムである。ゴム609Bの厚さは、たとえば、0.1mm~20mm程度である。ゴム609Bの硬度は、たとえば、5度~50度程度である。ゴム609Bの表面には、離型層が設けられることが好ましい。
【0036】
加圧部60Bを速く加熱するために、加圧ローラー609の内部に熱源(ヒーター)が設置されても良い。
【0037】
定着ユニット60は、後述の
図3に示されるように、定着ローラー用モーター61と加圧ローラー用モーター62とを含む。定着ローラー用モーター61は、定着ローラー602を回転駆動する。定着ローラー用モーター61として、たとえばサーボモーターが実装される。矢印DR1は、定着ローラー602が回転する向きを示す。
【0038】
加圧ローラー用モーター62は、加圧ローラー609を回転駆動する。加圧ローラー用モーター62として、たとえばパルスモーターが実装される。矢印DR2は、加圧ローラー609が回転する向きを示す。
【0039】
定着ベルト605は、加圧ローラー609と当接する。定着ベルト605と加圧ローラー609とが当接する部分は、用紙Pの搬送経路3の一部を構成する。当該部分では、用紙P上に形成されたトナーTNによる像(以下、適宜「トナー像」ともいう)が定着される。本明細書では、定着ベルト605と加圧ローラー609とが当接する部分を、「ニップ部」ともいう。
【0040】
MFP500では、加圧ローラー609内に、補助ヒーター610が収容されている。補助ヒーター610は、加圧ローラー609を加熱する。補助ヒーター610は、たとえば、1本以上のガラス管ヒーターによって構成される。加圧ローラー609が補助ヒーター610によって加熱され、用紙Pが加圧ローラー609と当接(または、加圧ローラー609の近傍を通過)することにより、用紙Pでは、定着ベルト605から受けた熱が保温される。これにより、用紙Pにおける温度低下の度合いが緩やかになる。
【0041】
MFP500は、さらに、冷却用部材630を含む。冷却用部材630は、たとえば、加圧ローラー609に当接するローラーによって構成され、加圧ローラー609の回転に従って回転する。
図2中の矢印DR3は、冷却用部材630の回転方向を表す。冷却用部材630は、たとえば、スチール、アルミ合金、ステンレスなどによって構成される。冷却用部材630は、加圧ローラー609と当接することによって、加圧ローラー609を冷却する。MFP500では、加圧ローラー609の加熱温度が調整される。MFP500は、加圧ローラー609と冷却用部材630との距離を調整する部材を備えていてもよい。MFP500では、加圧ローラー609の冷却が必要なときにのみ当該部材が加圧ローラー609と冷却用部材630とを当接させるような制御が実施されてもよい。
【0042】
[3]MFPのハードウェア構成
図3は、MFP500のハードウェア構成を模式的に示す図である。
【0043】
図3に示されるように、制御部100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103を含む。CPU101は、ROM102から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMl03に展開し、展開したプログラムと協働してMFP500の各ブロックの動作を制御する。このとき、記憶部72に格納されている各種データが参照される。記憶部72は、例えば不揮発性の半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ)および/またはハードディスクドライブで構成される。
【0044】
制御部100は、通信部71を介して、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の通信ネットワークに接続された外部の装置(例えばパーソナルコンピューター)との間で、各種のデータを送受信する。制御部100は、例えば、外部の装置から送信された画像データを受信し、この画像データに基づいて用紙Pに画像を形成する。通信部71は、例えばLANカード等の通信制御カードで構成される。
【0045】
スキャナーユニット800は、ADF900(
図1参照)およびスキャナーを含む。ADF900は、原稿トレイに載置された原稿を搬送機構により搬送して原稿画像走査装置12へ送り出す。スキャナーは、原稿トレイに載置された多数枚の原稿Dの画像(両面を含む)を連続して一挙に読み取ることができる。
【0046】
スキャナーユニット800のスキャナーは、ADF900からコンタクトガラス上に搬送された原稿又はコンタクトガラス上に載置された原稿を光学的に走査し、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサーの受光面上に結像させ、原稿画像を読み取る。スキャナーユニット800は、スキャナーによる読取結果に基づいて画像データを生成する。この画像データには、画像処理部310において所定の画像処理が施される。
【0047】
操作パネル300は、例えばタッチパネル付のユニットによって実現され、表示部301および操作部302として機能する。表示部301は、たとえば、LCD(Liquid Crystal Display)によって実現され、制御部100から入力される表示制御信号に従って、各種操作画面、画像の状態表示、各機能の動作状況等の表示を行う。操作部302は、テンキー、スタートキー等の各種操作キーと、タッチパネル内のタッチセンサーとによって実現される。操作部302は、ユーザーによる各種入力操作を受け付けて、操作信号を制御部100に出力する。
【0048】
画像処理部310は、画像データに対して、初期設定又はユーザー設定に応じたデジタル画像処理を行う回路等を備える。例えば、画像処理部310は、制御部100の制御下で、階調補正データ(階調補正テーブル)に基づいて階調補正を行い、入力画像データに対する各種の処理(階調補正、色補正、シェーディング補正、等の各種補正処理、および、圧縮処理、を含む)を実行する。制御部100は、これらの処理が施された画像データに基づいて、画像形成部200を制御する。
【0049】
定着ユニット60は、さらに、加圧ローラー609と定着ベルト605との距離を調節するための駆動モーター640を含む。駆動モーター640は、たとえば、加圧ローラー609を変位させる。
【0050】
定着ユニット60において、定着ローラー用モーター61、加圧ローラー用モーター62、駆動モーター640、ヒーター63、および、補助ヒーター610は、制御部100によって制御される。
【0051】
温度センサー64は、定着ベルト605の表面に設けられている。温度センサー621は、加圧ローラー609の表面に設けられている。温度センサー64および温度センサー621は、それぞれ、その検出出力を制御部100へと出力する。
【0052】
[4]トナーの調製
MFP500における画像形成で利用されるトナーの調製方法について説明する。
【0053】
[4-1]トナーの母体粒子
MFP500において利用されるトナーは、結着樹脂、および、金属元素を含む。トナーは、離型剤(ワックス)を含んでいてもよい。以下に、これらのそれぞれについて説明する。
【0054】
[4-1-1]結着樹脂
結着樹脂としては、特に限定されず、公知の種々のものを用いることができ、例えば、非晶性樹脂(ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂など)、結晶性樹脂(結晶性ポリエステル樹脂など)、などが挙げられる。
【0055】
[非晶性樹脂]
結着樹脂の一例である非晶性樹脂は、たとえば、ビニル樹脂、非晶性ポリエステル樹脂などである。ビニル樹脂は、ビニル単量体の重合体である。具体的なビニル樹脂としては、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂等が挙げられる。
【0056】
優れた耐熱保管性を得る観点から、トナー粒子は、結着樹脂としてスチレン-アクリル樹脂を含有し、トナー粒子中のスチレン-アクリル樹脂の含有量が5質量%以上であることが好ましい。耐熱保管性と低温定着性を両立する観点からは、トナー粒子中のスチレン-アクリル樹脂の含有量は、80質量%以下であることが好ましい。
【0057】
ビニル単量体とは、ビニル基を有する重合性単量体であり、1種を単独で又は複数種のビニル単量体を組み合わせて使用することができる。下記単量体は、ビニル単量体の例示である。なかでも、多官能性ビニル類を使用することにより、架橋構造を有する重合体を得ることができる。スチレン-アクリル樹脂は、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸系単量体に、さらに他のビニル単量体を組み合わせた共重合体であってもよい。
【0058】
また、スチレン-アクリル系樹脂を得るための重合性単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、クロルスチレンなどのスチレン系単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、などの(メタ)アクリレートエステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸などのカルボン酸系単量体などを使用することができる。
【0059】
なかでも、多官能性ビニル類を使用することにより、イオン架橋構造を有する重合体を得ることができる。スチレン-アクリル樹脂は、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸系単量体に、さらに他のビニル単量体を組み合わせた共重合体であってもよい。
【0060】
なかでも、酸基を有するビニル単量体は、ビニル樹脂同士がイオン架橋しやすくなり、ビニル樹脂中の酸基の含有量を調整することで、イオン架橋の度合いを制御しやすくなることから、好ましい。
【0061】
酸基とは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基等のイオン性解離基をいう。カルボキシ基を有するビニル単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。スルホン酸基を有するビニル単量体としては、たとえば、スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。リン酸基を有するビニル単量体としては、たとえば、アシドホスホオキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0062】
結着樹脂のガラス転移点(Tg)は、30~60℃であることが好ましく、より好ましくは35~50℃である。結着樹脂のガラス転移点が上記範囲にあることにより、低温定着性および耐熱保管性が両立して得られる。
【0063】
結着樹脂のガラス転移点は、たとえば、「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定される。
【0064】
測定手順としては、試料(結着樹脂)3.0mgをアルミニウム製パンに封入し、ホルダーにセットする。リファレンスは空のアルミニウム製パンを使用した。測定条件としては、測定温度0℃~200℃、昇温速度10℃/分、降温速度10℃/分で、Heat-cool-Heatの温度制御で行い、その2nd.Heatにおけるデータをもとに解析を行い、第1の吸熱ピークの立ち上がり前のベースラインの延長線と、第1のピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間で最大傾斜を示す接線を引き、その交点をガラス転移点として示す。
【0065】
[非晶性ポリエステル樹脂]
結着樹脂の他の例である非晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸単量体と多価アルコール単量体との重合反応によって得られるポリエステル樹脂のうち、非晶性を示す樹脂をいう。
【0066】
非晶性ポリエステル樹脂は、上述した結晶性ポリエステル樹脂と同様に、エステル化触媒を使用し、多価カルボン酸単量体と多価アルコール単量体を重合することにより、合成することができる。
【0067】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価カルボン酸単量体としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、マロン酸、メサコニン酸、イソフタル酸ジメチル、フマル酸、ドデセニルコハク酸、1,10-デカンジカルボン酸等を挙げることができる。これらのなかでは、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸、ドデセニルコハク酸又はトリメリット酸が好ましい。
【0068】
非晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価アルコール単量体としては、例えば、2価又は3価のアルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物(BPA-EO)、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(BPA-PO)、グリセリン、ソルビトール、1,4-ソルビタン、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらのなかではビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物が好ましい。
【0069】
なかでも、非晶性ポリエステル樹脂は、トリメリット酸由来の構造を有することが好ましい。
【0070】
このような非晶性ポリエステル樹脂は多くのイオン架橋を形成することができる。イオン架橋が多いほどトナーが溶融しにくい。このため、イオン架橋の度合いを調整することによりトナーの溶融性を容易に調整することができる。
【0071】
[結晶性ポリエステル樹脂]
結着樹脂のさらに他の例である結晶性ポリエステル樹脂は、たとえば、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸)単量体と2価以上のアルコール(多価アルコール)単量体との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂のうち、結晶性を示すポリエステル樹脂である。トナー粒子がより優れた低温定着性を備えるために、結着樹脂として結晶性ポリエステル樹脂が採用され得る。
【0072】
結晶性ポリエステル樹脂の合成方法は特に制限されない。一例では、エステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸単量体及び多価アルコール単量体を重合する(エステル化する)ことにより、結晶性ポリエステル樹脂が形成され得る。
【0073】
多価カルボン酸単量体は、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価カルボン酸単量体としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、1,10-デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)等の飽和脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸;これらカルボン酸化合物の無水物、炭素数1~3のアルキルエステル等が挙げられる。
【0074】
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多価アルコール単量体は、1分子中にヒドロキシ基を2個以上含有する化合物である。
【0075】
結晶性ポリエステル樹脂の合成に使用できる多価アルコール単量体としては、例えば1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブテンジオール等の脂肪族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。
【0076】
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
使用可能なエステル化触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;アミン化合物等が挙げられる。
【0077】
上記結晶性ポリエステル樹脂等の結晶性樹脂の融点(Tm)は、優れた低温定着性、耐熱性及び耐ホットオフセット性を両立する観点から、65~85℃の範囲内にあることが好ましく、70~80℃の範囲内がより好ましい。
【0078】
[4-1-2]金属元素
トナー粒子は、結着樹脂をイオン架橋する金属元素を含有する。トナー粒子中の金属元素の含有量は、0.05~0.40質量%の範囲内にあることが好ましく、0.15~0.40質量%の範囲内がより好ましく、0.15~0.35質量%の範囲内がさらに好ましい。
【0079】
上記範囲内の金属元素を含有することにより、トナーが弾性回復(
図5を参照して後述)する程度が制御され得る。より具体的には、本実施の形態では、トナーが金属元素を含有することによりトナー内の結着樹脂がイオン架橋される。結着樹脂がイオン架橋されることにより、トナーの弾性回復の程度がプロセス条件(たとえば、加圧ローラー609の加熱温度)によって調整され得る。本実施の形態では、金属元素を含有するトナーを用い、かつ、プロセス条件を制御することにより、トナーの弾性回復の程度が制御される。そして、トナーの弾性回復の程度の制御により、用紙P上に形成されるトナー画像の光沢が制御される。
【0080】
[4-1-3]離型剤(ワックス)
トナーが離型剤を含有する場合、当該離型剤は、公知のワックスであってよく、特に限定されるない。
【0081】
より具体的には、使用できる離型剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックスなどの長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトンなどのジアルキルケトン系ワックス、カルナバワックス、モンタンワックス、ベヘン酸ベヘネート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、1,18-オクタデカンジオールジステアレート、トリメリット酸トリステアリル、ジステアリルマレエートなどのエステル系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミドなどのアミド系ワックスなどが挙げられる。
【0082】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して1~30質量部であることが好ましく、より好ましくは5~20質量部である。離型剤の含有割合が上記範囲内であることにより、定着分離性が得られる。
【0083】
[4-2]着色剤
トナー粒子に着色剤が含有される場合において、着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
【0084】
黒色のトナーを得るための着色剤としては、たとえば、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、マグネタイト、フェライトなどの磁性体、染料、非磁性酸化鉄を含む無機顔料などの、公知の種々のものが使用され得る。
【0085】
カラーのトナーを得るための着色剤としては、染料、有機顔料などの公知のものを任意に使用することができ、具体的には、有機顔料としては例えばC.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同81:4、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222、同238、同269、C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185、C.I.ピグメントオレンジ31、同43、C.I.ピグメントブルー15;3、同60、同76などを挙げることができ、染料としては例えばC.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同68、同11、同122、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162、C.I.ソルベントブルー25、同36、同69、同70、同93、同95などを挙げることができる。
【0086】
上記された、各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種類が単独で使用されてもよいし、2種類以上が組み合わせて使用されてもよい。
【0087】
着色剤の含有割合は、結着樹脂100質量部に対して1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは2~8質量部である。
【0088】
[4-3]荷電制御剤
トナー粒子に荷電制御剤が含有される場合においては、公知の正帯電制御剤または負帯電制御剤を用いることができる。
【0089】
より具体的には、正帯電制御剤としては、例えば「ニグロシンベースEX」(オリエント化学工業社製)などのニグロシン系染料、「第4級アンモニウム塩P-51」(オリエント化学工業社製)、「コピーチャージPX VP435」(ヘキストジャパン社製)等の第4級アンモニウム塩、アルコキシ化アミン、アルキルアミド、モリブデン酸キレート顔料、および「PLZ1001」(四国化成工業社製)等のイミダゾール化合物などが挙げられる。
【0090】
また、負帯電制御剤としては、例えば、「ボントロンS-22」(オリエント化学工業社製)、「ボントロンS-34」(オリエント化学工業社製)、「ボントロンE-81」(オリエント化学工業社製)、「ボントロンE-84」(オリエント化学工業社製)、「スピロンブラックTRH」(保土谷化学工業社製)等の金属錯体、チオインジゴ系顔料、「コピーチャージNX VP434」(ヘキストジャパン社製)等の第4級アンモニウム塩、「ボントロンE-89」(オリエント化学工業社製)等のカリックスアレーン化合物、「LR147」(日本カーリット社製)等のホウ素化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カーボン等のフッ素化合物などが挙げられる。負帯電制御剤として用いられる金属錯体としては、上記に示したもの以外にもオキシカルボン酸金属錯体、ジカルボン酸金属錯体、アミノ酸金属錯体、ジケトン金属錯体、ジアミン金属錯体、アゾ基含有ベンゼン-ベンゼン誘導体骨格金属体、アゾ基含有ベンゼン-ナフタレン誘導体骨格金属錯体などの各種の構造を有するものが挙げられる。
【0091】
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、通常0.01~10質量部であることが好ましい。
【0092】
[4-4]コア・シェル構造
MFP500は、上述したトナー粒子をそのままトナーとして用いてもよいし、コア・シェル構造を有するトナーを用いてもよい。コア・シェル構造では、トナー粒子がコア粒子を構成し、シェル層が当該コア粒子の表面を被覆する。
【0093】
シェル層は、コア粒子の少なくとも一部を被覆していればよく、部分的にコア粒子が露出していてもよい。コア・シェル構造の断面は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)等の公知の観察手段によって、確認することができる。
【0094】
コア・シェル構造の場合は、コア粒子とシェル層でガラス転移点、融点、弾性率等の特性を異ならせることができ、目的に応じたトナー粒子の設計が可能である。例えば、結着樹脂、着色剤、離型剤等を含有し、ガラス転移点(Tg)が比較的低いコア粒子の表面に、ガラス転移点(Tg)が比較的高い樹脂を凝集、融着させて、シェル層を形成することができる。
【0095】
コア・シェル構造の場合、シェル層が、トリメリット酸由来の構造を有するポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
【0096】
[4-5]外添剤
トナーは、流動性、帯電性、クリーニング性などの改良の観点から、外添剤を添加されてもよい。
【0097】
外添剤は、例えば、無機微粒子である。無機微粒子は、たとえば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、もしくは、酸化チタン微粒子等の無機酸化物微粒子、ステアリン酸アルミニウム微粒子、もしくは、ステアリン酸亜鉛微粒子等の無機ステアリン酸化合物微粒子、または、チタン酸ストロンチウム、もしくは、チタン酸亜鉛等の無機チタン酸化合物微粒子である。
【0098】
上記された無機微粒子は、耐熱保管性および環境安定性の観点から、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、または、シリコーンオイルなどによって表面処理が行われていることが好ましい。
【0099】
外添剤を構成する無機微粒子は、平均一次粒子径が30nm以下のものであることが好ましい。無機微粒子によって構成される外添剤が上記の粒径を有するものであることにより、トナーが画像形成時において外添剤の遊離が生じにくいものとなる。外添剤の添加量は、トナー中0.05~5質量%、好ましくは0.1~3質量%とされる。
【0100】
[4-6]現像剤
MFP500において用いられるトナーは、磁性または非磁性の一成分現像剤として使用され得るが、キャリアと混合されることによって二成分現像剤として使用されてもよい。
【0101】
トナーが二成分現像剤として使用される場合、キャリアの一例は、従来公知の材料からなる磁性粒子である。磁性粒子は、たとえば、鉄等の強磁性金属、強磁性金属とアルミニウムおよび鉛等の合金、フェライトおよびマグネタイト等の強磁性金属の化合物であり、特にフェライト粒子が好ましい。
【0102】
キャリアは、たとえば、磁性粒子の表面を樹脂などの被覆剤で被覆したコートキャリア、または、バインダー樹脂中に磁性体微粉末を分散したバインダー型キャリアである。
【0103】
キャリアの平均粒径は、体積基準のメジアン径で20~100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは25~80μmの範囲内とされる。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置ヘロス(HELOS、シンパティック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
【0104】
[4-7]トナー粒子の平均粒径
MFP500において利用されるトナー粒子の平均粒径は、たとえば、体積基準のメジアン径で3~9μmであることが好ましく、より好ましくは3~8μmである。粒径は、例えば、トナー粒子が後述する乳化凝集法に従って製造される場合、使用される凝集剤の濃度、有機溶媒の添加量、融着時間、および/または重合体の組成によって制御され得る。
【0105】
体積基準のメジアン径が上記の範囲にあることにより、転写効率が高くなり、これにより、用紙P上に形成される画像において、ハーフトーンの画質が向上し、さらに、細線およびドットの画質が向上する。
【0106】
トナー粒子の体積基準のメジアン径は、たとえば、「マルチサイザー3」(ベックマン・コールター社製)に、データ処理用ソフト「SoftwareV3.51」を搭載したコンピューターシステムを接続した測定装置が用いられることにより、測定および算出され得る。
【0107】
具体的には、試料(トナー粒子)0.02gが、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加される。その後、界面活性剤溶液を添加された試料に対して、1分間の超音波分散が行なわれ、これにより、トナー粒子分散液が調製される。このトナー粒子分散液が、サンプルスタンド内の「ISOTON_II」(ベックマン・コールター社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまで、たとえばピペットによって注入される。当該濃度範囲に調整されることにより、再現性のある測定値が得られる。その後、測定装置において、測定粒子カウント数が25000個、アパーチャ径が50μmに設定される。測定範囲である1~30μmの範囲が256分割され、頻度値が算出され、体積積算分率の大きい方から50%の粒径が、トナー粒子の体積基準のメジアン径として特定される。
【0108】
[4-8]トナー粒子の平均円形度
MFP500において利用されるトナー粒子は、転写効率の向上の観点から、平均円形度が0.930~1.000であることが好ましく、より好ましくは0.950~0.995である。トナー粒子の平均円形度は、たとえば、「FPIA-2100」(Sysmex社製)を用いて測定される。
【0109】
具体的には、たとえば、試料(トナー粒子)が、界面活性剤を含む水溶液に投入された後、1分間の超音波分散処理が実行される。これにより、トナー粒子が水溶液中で分散する。その後、「FPIA-2100」(Sysmex社製)により、測定条件:HPF(高倍率撮像)モードにて、HPF検出数3,000~10,000個の適正濃度で、撮影が行われる。これにより、個々のトナー粒子について、次の式(T)に従って、円形度が算出される。
【0110】
円形度=(粒子像と同じ投影面積をもつ円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)…式(T)
平均円形度は、たとえば、各トナー粒子の円形度が加算されることによって得られた値が、全トナー粒子数で除されることによって、算出される。
【0111】
[4-9]トナー貯蔵弾性率
本発明のトナーは、温度170℃における貯蔵弾性率(G´170)が1×102~1×103(Pa)であることが、光沢度安定性や耐高温オフセット性の観点で好ましい。G´170の値が1×102Paより小さいと、温度変化に対する光沢度の変化が鋭敏で、画像の先端と後端で光沢度変化が生じやすく安定した画像が得られず、高温オフセットが起こりやすい。また、G’170の値が1×103Paより大きいとトナーが十分に溶けきれず光沢度不足となる。
【0112】
トナーの粘弾性特性は、たとえば、粘弾性測定装置(レオメーター)「RDA-II型」(レオメトリックス社製)を用いて測定され得る。
【0113】
測定治具:直径10mmのパラレルプレートを使用する。
測定試料:トナーを加熱・溶融後に直径約10mm,高さ1.5~2.0mmの円柱状試料に成型して使用する。
【0114】
測定周波数:6.28ラジアン/秒に設定する。
測定歪の設定:初期値を0.1%に設定し、自動測定モードにて測定を行う。
【0115】
試料の伸長補正:自動測定モードにて調整する。
[4-10]トナー軟化点
MFP500において利用されるトナーの軟化点(Tsp)は、90~110℃であることが好ましい。軟化点(Tsp)が上記範囲であることにより、定着時にトナーに加わる熱の影響をより低減させることができる。これにより、着色剤に負担をかけずに画像形成が行えるので、より広く安定した色再現性を発現させることが期待される。
【0116】
トナーの軟化点(Tsp)は、たとえば、以下の方法(m1)~(m3)を単独で、または、組み合わせることにより制御することができる。
【0117】
(m1)結着樹脂を形成すべき重合性単量体の種類や組成比を調整する。
(m2)連鎖移動剤の種類や添加量により結着樹脂の分子量を調整する。
【0118】
(m3)ワックス等の種類や添加量を調整する。
トナーの軟化点(Tsp)は、たとえば、「フローテスターCFT-500」(島津製作所社製)を用いて測定される。測定では、トナーは、高さ10mmの円柱形状に成形される。測定機は、トナーを、昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーより1.96×106Paの圧力を加え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。これにより、測定機は、当該フローテスターのプランジャー降下量-温度間の曲線(軟化流動曲線)を描く。一例では、最初に流出する温度が、溶融開始温度として特定される。降下量5mmに対する温度が、軟化点温度として特定される。
【0119】
[4-11]トナーの製造方法
トナーの製造方法として、たとえば、混練・粉砕法、乳化分散法、懸濁重合法、分散重合法、乳化重合法、乳化重合凝集法、ミニエマルジョン重合凝集法、カプセル化法、または、その他の公知の方法が採用され得る。好ましくは、トナーの製造方法として、画像の高画質化を達成するために小粒径化されたトナーを得る必要があることを考慮して、製造コストおよび製造安定性の観点から、乳化重合凝集法が採用される。
【0120】
乳化凝集法によるトナー粒子の製造方法は、結着樹脂粒子の水系分散液と、着色剤よりなる微粒子の水系分散液と、を混合し、結着樹脂粒子及び着色剤粒子を凝集させることにより、トナー粒子を形成する方法である。以下、トナーの製造方法の一例として、乳化凝集法によるトナーの製造方法を説明する。
【0121】
(工程1)結晶性樹脂、非晶性樹脂等の結着樹脂粒子の分散液調整工程
例えば、結晶性樹脂として結晶性ポリエステル樹脂を使用する場合、結晶性ポリエステル樹脂を合成し、有機溶媒中に溶解又は分散させて油相液を調製して、この油相液を転相乳化して水系媒体中にポリエステル樹脂粒子を分散させる。油滴の粒径を所望の粒径に制御した後、有機溶媒を除去することにより、ポリエステル樹脂の水系分散液を得ることができる。
【0122】
油相液に使用する有機溶媒としては、油滴の形成後の除去処理が容易である観点から、沸点が低く、かつ水への溶解性が低いものが好ましい。具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0123】
有機溶媒の使用量は、結晶性ポリエステル樹脂100質量部に対して、通常1~300質量部の範囲内である。
【0124】
油相液の乳化分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。
水系媒体の使用量は、油相液100質量部に対して、50~2000質量部の範囲内であることが好ましく、100~1000質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0125】
水系媒体中には、油滴の分散安定性を向上させる目的で、界面活性剤等が添加されていてもよい。
【0126】
結晶性ポリエステル樹脂粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径(D50)で100~400nmの範囲内にあることが好ましい。
【0127】
結晶性ポリエステル樹脂粒子の体積基準のメジアン径(D50)は、マイクロトラックUPA-150(日機装社製)を用いて測定することができる。
【0128】
結着樹脂としてビニル樹脂が使用される場合、ミニエマルション重合法によりビニル樹脂粒子の水系分散液を調製することができる。具体的には、界面活性剤を含有する水系媒体中にビニル単量体と水溶性のラジカル重合開始剤を添加し、機械的エネルギーを加えて液滴を形成する。ラジカル重合開始剤からのラジカルにより、液滴中において重合反応が進行する。なお、液滴中に油溶性の重合開始剤が含有されていてもよい。
【0129】
ビニル樹脂粒子は、各層の組成が異なる2層以上の多層構造を有していてもよい。多層構造を有するビニル樹脂粒子の分散液は、多段階の重合反応によって得ることができる。例えば、2層構造を有するビニル樹脂の分散液は、ビニル単量体を重合(第1段重合)させてビニル樹脂粒子の分散液を調製した後、さらに重合開始剤とビニル単量体を添加し、重合(第2段重合)させることにより、得ることができる。
【0130】
〔界面活性剤〕
ここで、上記着色剤微粒子分散液やコア用結着樹脂微粒子の重合時に使用する水系媒体に用いられる界面活性剤について説明する。
【0131】
界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、スルホン酸塩(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アリールアルキルポリエーテルスルホン酸ナトリウム)、硫酸エステル塩(ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウムなど)、脂肪酸塩(オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウムなど)などのイオン性界面活性剤を好適なものとして例示することができる。また、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドの組み合わせ、ポリエチレングリコールと高級脂肪酸とのエステル、アルキルフェノールポリエチレンオキサイド、高級脂肪酸とポリエチレングリコールとのエステル、高級脂肪酸とポリプロピレンオキサイドとのエステル、ソルビタンエステルなどのノニオン性界面活性剤も使用することができる。
【0132】
以下、コア用結着樹脂微粒子重合工程で使用される重合開始剤および連鎖移動剤について説明する。
【0133】
〔重合開始剤〕
水溶性の重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸及びその塩、過酸化水素などを挙げることができる。
【0134】
また、油溶性重合開始剤としては、2,2′-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル、1,1′-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2′-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系またはジアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキサイド、t-ブチルヒドロペルオキサイド、ジ-t-ブチルペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス-(t-ブチルペルオキシ)トリアジンなどの過酸化物系重合開始剤や過酸化物を側鎖に有する高分子開始剤などが挙げられる。
【0135】
〔連鎖移動剤〕
得られるコア用の結着樹脂の分子量を調整することを目的として、一般的に用いられる連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、特に限定されるものではなく、例えばn-オクチルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン、n-オクチル-3-メルカプトプロピオン酸エステル等のメルカプトプロピオン酸エステル、ターピノーレン、および、α-メチルスチレンダイマー等が使用される。
【0136】
(工程2)着色剤微粒子分散液調製工程
工程2では、水系媒体中に着色剤を添加して分散機によって分散処理することにより、着色剤が微粒子状に分散された着色剤微粒子の分散液を調製する処理が行われる。具体的には、着色剤の分散処理は界面活性剤濃度を臨界ミセル濃度(CMC)以上にした状態の水系媒体中で行われる。分散処理に使用する分散機は特に限定されないが、好ましくは、超音波分散機、機械式ホモジナイザ、マントンゴーリン、圧力式ホモジナイザ等の加圧分散機、サンドグラインダ、ゲッツマンミルやダイヤモンドファインミルなどの媒体型分散機が挙げられる。
【0137】
この着色剤微粒子分散液における着色剤微粒子の分散径は、体積基準のメディアン径で40~200nmであることが好ましい。
【0138】
この着色剤微粒子の体積基準のメディアン径は、「MICROTRAC UPA-150(HONEYWELL社製)」を用い、下記測定条件下により測定されるものである。
【0139】
・サンプル屈折率:1.59
・サンプル比重:1.05(球状粒子換算)
・溶媒屈折率:1.33
・溶媒粘度:0.797(30℃)、1.002(20℃)
・0点調整・測定セルにイオン交換水を投入し調整した。
【0140】
(工程3)凝集・融着工程
工程3では、コア用結着樹脂微粒子と着色剤微粒子とを水系媒体中で凝集、融着させてコア粒子となるべき会合粒子を形成する処理が行われる。当該凝集・融着工程においては、コア用結着樹脂微粒子や着色剤微粒子とともにワックス微粒子や荷電制御剤などの内添剤微粒子を凝集、融着させることができる。
【0141】
ここで、「塩析/融着」とは、凝集と融着を並行して進め、所望の粒子径まで成長したところで、凝集停止剤を添加して粒子成長を停止させ、さらに、必要に応じて粒子形状を制御するための加熱を継続して行うことをいう。
【0142】
塩析/融着法は、コア用結着樹脂微粒子と着色剤微粒子とが存在している水系媒体中に、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩及び3価の塩などからなる塩析剤を臨界凝集濃度以上の凝集剤として添加し、次いで、コア用結着樹脂微粒子のガラス転移点以上であって、かつ、コア用結着樹脂微粒子と着色剤微粒子の融解ピーク温度以上の温度に加熱することで塩析を進行させると同時に凝集・融着を行うものである。ここで、塩析剤であるアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩は、アルカリ金属として、リチウム、カリウム、ナトリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられ、好ましくはカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムが挙げられる。
【0143】
(工程4)第1の熟成工程
工程4では、会合粒子を熱エネルギーにより熟成させる処理が行われる。(工程3)凝集・融着工程の加熱温度、および/または、(工程4)の第1の熟成工程の加熱温度と時間が制御されることにより、粒径が一定(分布が狭く)にされ得、かつ、コア粒子の表面が平滑かつ均一的な形状を有するものにされ得る。具体的には、(工程3)凝集・融着工程において加熱温度を低めにして、コア用結着樹脂微粒子同士の融着の進行を抑制させて均一化を促進させ、(工程4)第1の熟成工程で加熱温度を低めに、かつ、時間を長くしてコア粒子の表面が均一な形状のものに制御する。
【0144】
(工程5)シェル層形成工程
工程5では、コア-シェル構造の粒子を形成するシェル化処理が行われる。より具体的には、コア粒子の分散液中にシェル用結着樹脂微粒子の分散液を添加してコア粒子の表面にシェル用結着樹脂微粒子を凝集・融着させ、これにより、コア粒子の表面にシェル用結着樹脂微粒子を被覆させる。
【0145】
工程5は、低温定着性と耐熱保存性の両方の性能を付与するための好ましい製造条件である。カラー画像を形成する場合に、二次色について高い色再現性を得るために、このシェル層形成を行うことが好ましい。
【0146】
具体的には、コア粒子の分散液を(工程3)凝集・融着工程及び(工程4)第1の熟成工程における加熱温度を維持した状態でシェル用結着樹脂微粒子の分散液を添加し、加熱撹拌を継続しながら数時間かけてゆっくりとシェル用結着樹脂微粒子をコア粒子表面に被覆させてコア-シェル構造の粒子を形成させる。加熱撹拌時間は、1~7時間が好ましく、3~5時間が特に好ましい。
【0147】
(工程6)第2の熟成工程
工程6は、(工程5)シェル層形成工程によりコア-シェル構造の粒子が所定の粒径になった段階で実施される。より具体的には、塩化ナトリウムなどの停止剤を添加して粒子成長を停止させ、その後もコア粒子に付着させたシェル用結着樹脂微粒子を融着させるために数時間加熱撹拌を継続する。そして、コア粒子の表面を被覆するシェル用結着樹脂微粒子による層の厚さを100~300nmとする。このようにして、コア粒子の表面にシェル用結着樹脂微粒子を固着させてシェル層が形成されることにより、丸みを帯び、しかも形状の揃ったコア-シェル構造のトナー粒子が形成される。
【0148】
なお、本実施の形態では、「[4-12-1]トナー(1)」等のトナーの具体的な製造方法の説明において後述されるように、トナーに金属元素を含有させるために、分散液に金属化合物(塩化マグネシウム等)が添加されてもよい。
【0149】
(工程7)ろ過、洗浄工程
工程7では、先ず、トナー粒子の分散液を冷却する処理が行われる。冷却処理条件としては、1~20℃/minの冷却速度で冷却することが好ましい。冷却処理方法としては特に限定されるものではなく、反応容器の外部より冷媒を導入して冷却する方法や、冷水を直接反応系に投入して冷却する方法を例示することができる。
【0150】
次いで、所定温度まで冷却されたトナー粒子の分散液からトナー粒子を固液分離し、その後、固液分離されたトナーケーキ(ウエット状態にあるトナー粒子をケーキ状に凝集させた集合物)から界面活性剤や塩析剤などの付着物を除去する洗浄処理が行われる。ここで、ろ過処理方法としては、遠心分離法、ヌッチェ等を使用して行う減圧ろ過法、フィルタープレス等を使用して行うろ過法など特に限定されるものではない。
【0151】
(工程8)乾燥工程
工程8では、洗浄処理されたトナーケーキを乾燥する処理が行われる。工程8で使用される乾燥機としては、スプレードライヤー、真空凍結乾燥機、減圧乾燥機などを挙げることができ、静置棚乾燥機、移動式棚乾燥機、流動層乾燥機、回転式乾燥機、撹拌式乾燥機などを使用することが好ましい。乾燥処理されたトナー粒子の水分は、5質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは2質量%以下とされる。なお、乾燥処理されたトナー粒子同士が、弱い粒子間引力で凝集している場合には、当該凝集体を解砕処理してもよい。ここに、解砕処理装置としては、ジェットミル、ヘンシェルミキサー(登録商標)、コーヒーミル、フードプロセッサー等の機械式の解砕装置を使用することができる。
【0152】
(工程9)外添処理工程
工程9では、(工程8)乾燥工程で乾燥処理されたトナー粒子に対して外添剤を添加する処理が行われる。外添剤の添加方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、コーヒーミルなどの機械式の混合装置を用いて添加することができる。
【0153】
[4-12]トナーの製造の具体例
以下、本実施の形態について言及されるトナー(1)~(8)のそれぞれの具体的な製造方法の具体例を説明する。以下の説明では、トナーの具体的な製造方法が説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載では、「部」または「%」の表示が用いられるが、特に断りが無い限りこれらの表示は「質量部」または「質量%」のそれぞれを意味する。
【0154】
[4-12-1]トナー(1)
〔スチレン-アクリル樹脂粒子の分散液〕
(第1段重合)
撹拌装置、温度センサー、温度制御装置、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた反応容器に、あらかじめイオン交換水2900質量部にアニオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム2.0質量部を溶解させたアニオン性界面活性剤を仕込み、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
【0155】
この界面活性剤溶液に重合開始剤である過硫酸カリウム(KPS)9.0質量部を添加し、内温を78℃にした。次に、下記組成の単量体溶液を3時間かけて滴下し、滴下終了後、78℃において1時間にわたって加熱、撹拌することで重合(第1段重合)を行い、スチレン-アクリル樹脂粒子の分散液(I)を調製した。
【0156】
スチレン 520質量部
n-ブチルアクリレート 260質量部
メタクリル酸 60質量部
n-オクチルメルカプタン 13質量部
(第2段重合)
撹拌装置を取り付けたフラスコ内において、下記組成の単量体溶液に、離型剤としてエステル系ワックス(融点:73℃)51質量部を添加し、85℃に加温して溶解させてワックス溶解液を調製した。
【0157】
スチレン 90質量部
n-ブチルアクリレート 25質量部
2-エチルへキシルアクリレート 26質量部
メタクリル酸 10質量部
n-オクチルメルカプタン 5質量部
一方、アニオン性界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウム2質量部をイオン交換水1100質量部に溶解させた界面活性剤溶液を90℃に加温した。この界面活性剤溶液に、スチレン-アクリル樹脂粒子の分散液(I)を、スチレン-アクリル樹脂の固形分換算で28質量部添加した。その後、循環経路を有する機械式分散機クレアミックス(エム・テクニック社製)により、上記ワックス溶解液を1時間混合して分散させ、分散粒子径350nmの乳化粒子を含有する分散液を調製した。この分散液に、重合開始剤である過硫酸カリウム(KPS)2.5質量部をイオン交換水110質量部に溶解させた重合開始剤水溶液を添加し、90℃において2時間にわたって加熱及び撹拌することによって重合(第2段重合)を行って、スチレン-アクリル樹脂粒子の分散液(II)を調製した。
【0158】
その後、30℃まで冷却し、スチレン-アクリル樹脂粒子の分散液を得た。
この分散液中のスチレン-アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は32500であり、数平均分子量(Mn)は10800であった。
【0159】
〔結晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液〕
撹拌装置、温度センサー、冷却管及び窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、多価カルボン酸であるセバシン酸320質量部及び多価アルコールである1,6-ヘキサンジオール175質量部を仕込み、撹拌しながら1時間かけて内温を200℃にまで昇温させた。均一に撹拌された状態であることを確認した後、触媒としてTi(OBu)4を、多価カルボン酸の仕込み量に対して0.003質量%の量で投入した。生成する水を留去しながら、6時間かけて内温を200℃から240℃まで昇温させ、温度240℃の条件で6時間かけて脱水縮合反応を継続して重合を行うことにより、結晶性ポリエステル樹脂を得た。この結晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は67.3℃、数平均分子量(Mn)は6500であった。
【0160】
コンデンサー、温度計、水滴下装置、アンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(東京理化器械株式会社製:BJ-30N)に、上記結晶性ポリエステル樹脂320質量部と、メチルエチルケトン(溶剤)180質量部と、イソプロピルアルコール(溶剤)100質量部とを入れ、水循環式恒温槽にて70℃に維持しながら、100rpmで撹拌混合しつつ樹脂を溶解させた。
【0161】
その後、撹拌回転数を150rpmにし、水循環式恒温槽を66℃に設定し、10質量%アンモニア水(試薬)17質量部を10分間かけて投入した後、66℃に保温されたイオン交換水を7質量部/分の速度で、合計900質量部滴下し転相させて、乳化液を得た。
【0162】
すぐに、得られた乳化液800質量部とイオン交換水700質量部とを2リットルのナスフラスコに入れ、トラップ球を介して真空制御ユニットを備えたエバポレーター(東京理化器械社製)にセットした。ナスフラスコを回転させながら、60℃の湯バスで加温し、突沸に注意しつつ7kPaまで減圧し溶剤を除去した。溶剤回収量が1100質量部になった時点で常圧に戻し、ナスフラスコを水冷して分散液を得た。得られた分散液に溶剤臭は無かった。この分散液中の樹脂粒子の体積基準のメジアン径(D50)は150nmであった。その後、イオン交換水を加えて固形分濃度が20質量%になるように調整し、これを結晶性ポリエステル樹脂分散液とした。
【0163】
〔非晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液〕
窒素導入管、脱水管、撹拌器及び熱電対を装備した容量10リットルの四つ口フラスコに、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物500質量部、テレフタル酸120質量部、フマル酸65質量部、トリメリット酸40質量部及びエステル化触媒(オクチル酸スズ)2質量部を入れ、240℃で8時間縮重合反応させ、さらに10kPaで1時間反応させることにより、非晶性ポリエステル樹脂を得た。この非晶性ポリエステル樹脂のガラス転移点(Tg)は61℃、軟化点(Tsp)は108℃、重量平均分子量(Mw)は42000であった。
【0164】
次に、コンデンサー、温度計、水滴下装置、アンカー翼を備えたジャケット付き3リットル反応槽(東京理化器械株式会社製:BJ-30N)を水循環式恒温槽にて40℃に維持しながら、該反応槽に酢酸エチル180質量部とイソプロピルアルコール110質量部との混合溶剤を投入した。さらに、上記非晶性ポリエステル樹脂を300質量部投入して、スリーワンモーターにより150rpmで撹拌し、溶解させて油相を得た。この撹拌されている油相に10質量%アンモニア水溶液を、滴下時間5分間で14質量部滴下し、10分間混合した後、イオン交換水900質量部を毎分8質量部の速度で滴下して転相させて、乳化液を得た。
【0165】
すぐに、得られた乳化液800質量部とイオン交換水700質量部とを2リットルのナスフラスコに入れ、トラップ球を介して真空制御ユニットを備えたエバポレーター(東京理化器械株式会社)にセットした。ナスフラスコを回転させながら、60℃の湯バスで加温し、突沸に注意しつつ10kPaまで減圧し溶剤を除去した。溶剤回収量が1000質量部になった時点で常圧に戻し、ナスフラスコを水冷して分散液を得た。得られた分散液に溶剤臭は無かった。この分散液における樹脂粒子の体積基準のメジアン径(D50)は140nmであった。その後、固形分濃度が20質量%になるようにイオン交換水を加えて、非晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液を得た。
【0166】
〔着色剤粒子の分散液〕
ドデシル硫酸ナトリウム95質量部をイオン交換水1600質量部に撹拌溶解し、この溶液を撹拌しながら、銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue 15:3)420質量部を徐々に添加した。次いで、撹拌装置クレアミックス(エム・テクニック社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子の分散液を調製した。分散液中の着色剤粒子の平均粒径は、体積基準のメジアン径で110nmであった。
【0167】
〔金属元素の添加〕
撹拌装置、温度センサー及び冷却管を取り付けた反応容器に、上記スチレン-アクリル樹脂粒子の分散液を固形分換算で260質量部、イオン交換水2000質量部を投入した。5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを10.0に調整した後、上記着色剤粒子の分散液を固形分換算で40質量部投入した。次に、塩化マグネシウム120質量部をイオン交換水60質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃において10分間かけて添加した。3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて80℃まで昇温した。結晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液を固形分換算で20質量部と、ブロックポリマー粒子分散液を固形分換算で40質量部を混合させた分散液を30分間かけて投入し、80℃を保持したままコア粒子の成長反応を継続した。
【0168】
この状態でコールターマルチサイザー3(コールター・ベックマン社製)にてコア粒子の粒径を測定し、体積基準のメジアン径(D50)が6.0μmになった時点で、非晶性ポリエステル樹脂粒子の分散液を固形分換算で40質量部を30分間かけて投入し、シェル層を形成した。反応液の上澄みが透明になった時点で、塩化ナトリウム190質量部をイオン交換水760質量部に溶解した水溶液を添加して粒子成長を停止させた。その後、昇温し、95℃の状態で加熱撹拌することにより、粒子の融着を進行させ、測定装置FPIA-2100(Sysmex社製)を用いてトナー粒子の平均円形度を測定(HPF検出数を4000個として測定)し、平均円形度が0.95になった時点で30℃に冷却し、コア・シェル構造のトナー粒子の水系分散液を得た。
【0169】
得られたトナー粒子の水系分散液を遠心分離機で固液分離し、トナー粒子のウェットケーキを形成し、これを遠心分離機により濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで35℃のイオン交換水で洗浄した。洗浄後、フラッシュジェットドライヤー(セイシン企業社製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥した。
【0170】
乾燥後のトナー粒子に、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)1質量%及び疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm)0.3質量%を添加し、ヘンシェルミキサーにより混合することにより、トナー(1)を得た。
【0171】
[4-12-2]トナー(2)
トナー粒子の作製において、トナー(1)の塩化マグネシウムの量を120質量部から105質量部へ変更した以外は、トナー(1)と同様にして、トナー(2)を作製した。
【0172】
[4-12-3]トナー(3)
トナー粒子の作製において、トナー(1)の塩化マグネシウムの量を120質量部から60質量部へ変更した以外は、トナー(1)と同様にして、トナー(3)を作製した。
【0173】
[4-12-4]トナー(4)
トナー粒子の作製において、トナー(1)の塩化マグネシウムの量を120質量部から60質量部へ、水酸化ナトリウム水溶液添加後のpHを10.0から10.5へ変更した以外は、トナー(1)と同様にして、トナー(4)を作製した。
【0174】
[4-12-5]トナー(5)
トナー粒子の作製において、トナー(1)の塩化マグネシウム120質量部から硫酸アルミニウム80質量部へ、水酸化ナトリウム水溶液添加後のpHを10.0から9.5へ変更した以外は、トナー(1)と同様にして、トナー(5)を作製した。
【0175】
[4-12-6]トナー(6)
トナー粒子の作製において、トナー(1)の塩化マグネシウム120質量部から硫酸アルミニウム60質量部へ変更した以外は、トナー(1)と同様にして、トナー(6)を作製した。
【0176】
[4-12-7]トナー(7)
トナー粒子の作製において、トナー(1)の塩化マグネシウムの量を120質量部から40質量部へ、水酸化ナトリウム水溶液添加後のpHを10.0から10.5へ変更した以外は、トナー(1)と同様にして、トナー(7)を作製した。
【0177】
[4-12-8]トナー(8)
トナー粒子の作製において、トナー(1)の塩化マグネシウムの量を120質量部から130質量部へ変更した以外は、トナー(1)と同様にして、トナー(8)を作製した。
【0178】
[4-13]現像剤(1)~(8)
上記トナー(1)~(8)のそれぞれに、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径65μmのフェライトキャリアをトナー濃度が6質量%となるように添加して混合することにより、現像剤(1)~(8)を製造した。
【0179】
[4-14]金属元素の含有量
各トナー(1)~(8)中の金属元素の含有量は、酸分解:ICP-OESにより、次のようにして測定した。
【0180】
(前処理)
試料(トナー)3質量部をポリオキシエチルフェニルエーテルの0.2質量%水溶液35質量部に添加して分散させた。この分散液を、超音波ホモジナイザーUS-1200T(日本精機製作所社製)により25℃で5分間処理し、外添剤をトナー表面から取り除いて測定用の試料を得た。
【0181】
上記試料100mgを密閉式マイクロ波分解装置ETHOS1(マイルストーンゼネラル社製)にセットし、硫酸、硝酸による分解を行った。このとき、未分解物がある場合は塩酸、フッ化水素酸、過酸化水素等を用いて目的成分を溶出させた。分解液は超純水を用いて適宜希釈した。試薬は、関東化学社製の超高純度試薬を用いた。
【0182】
(測定)
高周波誘導結合プラズマ発光分析装置SPS3520UV(エスアイアイナノテクノロジー社製)に、上記前処理を施した試料をセットし、結着樹脂のイオン架橋に寄与する金属元素AlおよびMgの含有量を測定した。このとき、各金属元素の検出波長は以下の通りとした。
【0183】
Al:167.079nm
Mg:279.553nm
なお、検量線は、試料を含まない分解液に、関東化学社製の各元素の原子吸光用標準液を添加し、試料液と同じ酸濃度になるように調整した溶液を用いて作成した。測定結果を
図4に示す。なお、トナー(1)~(4),(7)~(8)からはMgのみが検出されたため、トナー(1)~(4),(7)~(8)についてはMgの含有量が示される。トナー(5)~(6)からはAlのみが検出されたため、トナー(5)~(6)についてはAlの含有量が示される。
【0184】
[5]弾性回復
図5は、本実施の形態において考慮する挙動「弾性回復」を説明するための図である。
【0185】
図5は、用紙P上にトナーTNの像が形成されてからトナーTNが定着するまでの、5つの状態(状態1~5)を示す。(状態1)は、用紙Pが定着ユニット60のニップ部に到達する前の状態を表す。
【0186】
(状態2)は、用紙Pがニップ部に到達した直後の状態を示す。(状態2)では、定着部材ST(
図2の定着ベルト605)による加熱および加圧によって、トナーTNに矢印D1で表される向きの力が印加される。当該力が印加されることにより、トナーTNの粒子は変形を開始する。
【0187】
(状態3)は、(状態2)よりも用紙Pの搬送が進展したが用紙Pは依然としてニップ部に位置する状態を示す。(状態3)では、矢印D1で表される向きの加熱および加圧が継続されることにより、(状態2)と比較してトナーTNの変形が進む。
【0188】
(状態4)は、用紙Pがニップ部を通過した状態を表す。定着部材STによる押圧が解除されたことにより、用紙P上のトナーTNにおいて、トナーTNの弾性により、矢印D1と反対の向きの復元力が発生する。これにより、トナーTNは元に戻ろうとする。このような、トナーTNの元に戻ろうとする挙動を「弾性回復」と呼ぶ。
【0189】
(状態5)は、(状態4)よりも弾性回復が進んだ状態を表す。(状態5)では、(状態4)と比較して、ニップ部における挟持が解消された後の経過時間が長いため、トナーTNにおける形状の回復が進んでいる。
【0190】
[6]トナーの成分と弾性回復
図6は、ニップ部における加圧部材の温度の相違による光沢度の相違を説明するための図である。
図6のグラフでは、横軸はニップ部における加圧部材(加圧ローラー609)の加熱温度を表わす。縦軸は、ニップ部を通過した後の用紙P上に形成されたトナー像の光沢度を表す。
図6のグラフには、3種類のトナー(トナーA,B,C)についての結果が示される。
【0191】
より具体的には、グラフG01は、トナーAについて、加熱部材(定着ベルト605)の温度が160℃に制御された状態で、加圧部材の温度を所与の4種類の温度(T1,T2,T3,T4)のそれぞれに制御されたときのトナー像の光沢度を表す。
【0192】
グラフG02は、トナーAについて、加熱部材の温度が140℃に制御された状態で、加圧部材の温度を上記4種類の温度(T1,T2,T3,T4)のそれぞれに制御されたときのトナー像の光沢度を表す。
【0193】
グラフG03は、トナーBについて、加熱部材の温度が160℃に制御された状態で、加圧部材の温度を上記4種類の温度(T1,T2,T3,T4)のそれぞれに制御されたときのトナー像の光沢度を表す。
【0194】
グラフG04は、トナーCについて、加熱部材の温度が160℃に制御された状態で、加圧部材の温度を上記4種類の温度(T1,T2,T3,T4)のそれぞれに制御されたときのトナー像の光沢度を表す。
【0195】
グラフG01と比較すると、グラフG02では、加圧部材の温度に拘わらず光沢度が低い。グラフG02では、定着温度が低い。これにより、グラフG02では、定着温度が低いことによってトナー溶融性が低くなった(あまり溶けていない)ことにより、光沢度が低下したと考えられる。
【0196】
グラフG01と比較すると、グラフG03,G04では、加圧部材の温度が変化したときの挙動が異なる。より具体的には、グラフG01では、加圧部材の温度が変化しても光沢度には大きな影響が見られないのに対し、グラフG03,G04では、加圧部材の温度の上昇とともに光沢度が低下している。
【0197】
加圧部材の温度が高いほどニップ部通過後のトナーの温度低下が遅れ、これにより、所与の温度に低下する迄に弾性回復が生じやすくなることが想定される。
【0198】
ここで、トナーB,Cは、いずれも、トナー樹脂とイオン架橋構造を構築する金属元素(マグネシウム、アルミニウム、等)を含有するのに対し、トナーAは、そのような金属元素を含有しない。これにより、トナー樹脂とイオン架橋構造を構築する金属元素を含有するトナーが使用されると、そのような金属元素を含有しないトナーが使用されるよりも、ニップ部通過後のトナーの温度低下の遅れがより大きく弾性回復の発生に寄与する。すなわち、前者のトナーが使用されると、後者のトナーが使用されるよりも、温度低下の遅れがより大きく弾性回復の発生に寄与する。したがって、トナーB,Cが利用されると、トナーAが利用されたときよりも、加圧部材の制御温度が上昇したときの光沢度の低下の度合いが大きい。
【0199】
[7]制御の概要
MFP500のCPU101は、形成される画像の光沢とプロセス条件とを関連付ける情報(以下、「関連情報」とも言う)にアクセス可能である。プロセス条件は、加圧ローラー609の温度と、ニップ部の挟持圧力(定着ベルト605と加圧ローラー609とによって用紙Pが挟持される圧力)とを含む。CPU101は、光沢の設定を受け付けると、上記関連情報から、設定された光沢に対応するプロセス条件を取得し、取得したプロセス条件に従ってMFP500を制御する。
【0200】
一例では、設定される光沢の度合いが高いほど、プロセス条件における加圧ローラー609の設定温度は低くなる。なお、加圧ローラー609の設定温度が低いほど、定着ベルト605によって加熱されたトナーTNの温度低下の速度が高くなる。
【0201】
他の例では、設定される光沢の度合いが高いほど、プロセス条件におけるニップ部の挟持圧力は低くなる。なお、挟持圧力が低いほど、定着ベルト605によって加熱されたトナーTNの温度低下の速度が高くなる。
【0202】
ここで、トナーTNの温度低下の速度と、形成される画像の光沢の度合いとの関係について説明する。トナーTNの温度低下の速度が低い場合、ニップ部を通過した後の用紙におけるトナーTNにおいて弾性回復の度合いは比較的小さい。すなわち、弾性回復が十分生じる前に、トナーTNの温度低下が完了する。したがって、トナーTNの温度低下の速度が低い場合、弾性回復の度合いが小さくなり、これにより、形成された画像の光沢の度合いが高くなる。
【0203】
光沢の度合いの設定に対応してCPU101が取得するプロセス条件は、加圧ローラー609の温度およびニップ部の挟持圧力の一方のみを含んでいてもよいし、双方を含んでいてもよい。
【0204】
[8]処理の流れ
図7は、MFP500における用紙の印刷のためにCPU101が実行する処理の一例のフローチャートである。
図7に示された処理は、たとえばCPU101が所与のプログラムを実行することによって実現される。以下、
図7を参照して、当該処理の流れを説明する。
【0205】
ステップS10にて、CPU101は、プリント要求(たとえば、印刷ジョブの開始指示の入力)があったか否かを判断する。CPU101は、当該指示があったと判断するとステップS12へ制御を進め(ステップS10にてYES)、そうでなければステップS20へ制御を進める(ステップS10にてNO)。なお、CPU101は、印刷開始の指示が光沢度の設定を含む場合には、ステップS22へ制御を進め、ステップS22,S24の制御を実行した後、ステップS12へ制御を進めてもよい。
【0206】
ステップS12にて、CPU101は、プロセスユニット30C,30M,30Y,30Kを制御して、用紙P上に画像を形成する。
【0207】
ステップS14にて、CPU101は、定着ユニット60を制御することにより、用紙P上に形成された画像を定着ユニット60にて定着させる。
【0208】
ステップS20にて、CPU101は、光沢度の設定を受け付けたか否かを判断する。MFP500では、プリント要求ごとに光沢度が設定される場合もあれば、デフォルトの設定として光沢度が設定される場合もある。ステップS20では、デフォルトの設定としての光沢度の設定の有無が判断される。CPU101は、光沢度の設定が要求されたと判断するとステップS22へ制御を進め(ステップS20にてYES)、そうでなければステップS10へ制御を戻す(ステップS20にてNO)。なお、CPU101は、上記のように、ステップS10において受け付けられたプリント要求が光沢度の設定を含む場合には、ステップS22へ制御を進めてもよい。
【0209】
ステップS22にて、CPU101は、光沢度の設定を取得する。
ステップS24にて、CPU101は、ステップS22にて取得した設定に対応するプロセス条件を取得し、当該条件に従った制御を実現する。プロセス条件の一例は、加圧部材(加圧ローラー609)の制御温度である。他の例は、ニップ部において用紙Pを挟持する圧力である。CPU101は、たとえば、駆動モーター640を制御することにより定着ベルト605と加圧ローラー609との距離を調整し、これにより、ニップ部における挟持圧力を制御する。
【0210】
ステップS24の制御の後、CPU101は、プリント要求に応じて用紙P上での画像形成および当該画像の定着を実行する。これにより、上記プロセス条件に従った環境下で画像を形成された印刷物が生成される。
【0211】
[9]実施例
図8は、9つの条件下のそれぞれにおいて生成された印刷物についてのトナー画像の光沢の具体例を示す図である。
【0212】
図8に示された例1~9は、MFP500として市販のカラー複写機bizhub PRO C6500(コニカミノルタ社製)を、プロセス条件が変更できるように改造することによって行なわれた画像形成の結果を表わす。トナー画像として、トナー付着量8.5g/m
2のベタ画像が、OKトップコート+128g/m
2(王子製紙製)上に形成された。定着処理は、定着速度300mm/secで行なわれた。
【0213】
図8の例は、条件として、トナー種、金属元素、および、プロセス条件を含む。トナー種は、上記のトナー(1)~(8)のいずれかを表わす。金属元素は、トナー樹脂との間でイオン架橋構造を構築する元素であって、マグネシウム(Mg)またはアルミニウム(Al)を表わす。プロセス条件は、定着部材温度(定着ベルト605の制御温度)、加圧部材温度(加圧ローラー605の制御温度)、および、ニップ部の挟持圧力を含む。
【0214】
たとえば、例1は、トナー種として上記トナー(1)を利用した。トナー(1)は、金属元素として、マグネシウムを、0.40質量%含有する。
図8では、例1の条件下において、3つのプロセス条件のそれぞれでの結果を示す。1つ目のプロセス条件は、定着部材温度160℃、加圧部材温度30℃、および、挟持圧力200kPaを含む。2つ目のプロセス条件は、1つ目のプロセス条件に対して加圧部材温度のみが相違し、加圧部材温度60℃を含む。3つ目のプロセス条件は、1つ目のプロセス条件に対して加圧部材温度のみが相違し、加圧部材温度90℃を含む。
【0215】
図8の例は、評価結果として、トナー画像の光沢と、トナーの定着強度とを含む。光沢は、光沢計GM-268PLUS(コニカミノルタ社製)を用いて計測された、入射角60度の光沢を表わす。定着強度は、用紙P上に形成されたトナー画像を消しゴム(ライオン事務器社製、砂消し「LION 26111」)を押圧荷重1kgfで2回擦り、画像濃度の残存率をX-Rite社製「X-Rite model 404」により測定することによって得られた3段階のランク評価(◎:画像濃度残存率が90%以上/○:画像濃度残存率が80%以上90%未満/△:画像濃度残存率が80%未満)を表わす。
【0216】
例1では、いずれの加圧部材温度においても定着強度として「○」が維持された。
光沢については、加圧部材温度が高いほど、光沢度が低下した。この傾向は、例2~例7においても見られた。このことは、加圧部材温度が高くなるほど、ニップ部による定着の後、トナーの温度が緩やかに低下し、これにより、弾性回復の度合いが高くなったことによると推測される。
【0217】
例1と例8と例9とを比較すると、金属元素の含有量が高い方から例9,例1,例8の順に、各加圧部材温度において低い光沢度を呈している。すなわち、金属元素の含有量が高いほど光沢度が低くなることを意味する。このことは、金属元素の含有量が増えることにより、トナー樹脂と金属とのイオン架橋構造の構築度合いが向上し、これにより、弾性回復の度合いが高くなったことによると推測される。
【0218】
なお、金属元素の含有量が高いほど光沢度が低くなる傾向は、例2と例4においても見られた。
【0219】
ここで、例9では、トナー画像の光沢の低下が実現された一方で、定着強度も低下している(定着強度:評価「△」)。定着強度の低下の要因としては、トナーにおける金属元素の含有量が多くなるとトナーの粘弾性が高くなり、これにより、定着時にトナーの変形が起こりにくくなることが想定される。このことから、トナーにおける金属元素の含有量は、0.05~0.40質量%程度が好ましく、0.15~0.40質量%がさらに好ましく、0.15~0.35%がさらに好ましいと言える。
【0220】
例3では挟持圧力が調整されたのに対し、例2では挟持圧力が調整されていない。例2と比較して、例3では、加圧部材温度の上昇とともに挟持圧力を低下させることにより、より大きく光沢度の低下が実現されている。このことから、挟持圧力の低下によっても、ニップ後のトナーの弾性回復を促進し、これにより、トナー画像の光沢度の低下が実現されると想定される。
【0221】
例1~例5,例8,および例9のトナーはマグネシウム(Mg)を含有しているのに対し、例6および例7のトナーはアルミニウム(Al)を含有している。例6および例7において示されるように、トナーがアルミニウムを含有する場合も、加圧部材温度の上昇によってトナー画像の光沢度の低下が実現されている。また、例6と例7とを比較することにより、アルミニウムの含有量の増加とともに、トナー画像の光沢度の低下の度合いが向上している。すなわち、トナーが金属元素としてマグネシウムの代わりにアルミニウムを含有する場合であっても、同様の効果が実現される。
【0222】
本開示では、プロセス条件等を調整することにより、ニップ後の用紙Pに形成されたトナー画像におけるトナーの温度低下の速度を調整し、これにより、用紙P上に形成されたトナー画像の光沢を調整する。この概念は、用紙P自体の厚みに従ったプロセス条件の調整としても実現され得る。一例では、同じ光沢度を得るために、用紙Pが厚いほど、加圧部材(加圧ローラー609)の制御温度が高く設定され得る。用紙Pが厚いほど、用紙Pの表面と裏面の温度差が大きいため、用紙Pの表面に形成されたトナー画像におけるトナーの温度が裏面に伝わることによりトナーの温度低下の速度が大きくなるからである。
【0223】
今回開示された各実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。また、実施の形態および各変形例において説明された発明は、可能な限り、単独でも、組合わせても、実施することが意図される。
【符号の説明】
【0224】
30,30C,30K,30M,30Y プロセスユニット、60 定着ユニット、60A 加熱部、60B 加圧部、61 定着ローラー用モーター、62 加圧ローラー用モーター、63 ヒーター、64,621 温度センサー、100 制御部、101 CPU、500 MFP、610 補助ヒーター。