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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ガスバリア積層体および包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20221220BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221220BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/30 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018119837
(22)【出願日】2018-06-25
(65)【公開番号】P2019127027
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018007295
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡村 賢吾
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/060147(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/192500(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/069143(WO,A1)
【文献】特開2014-065155(JP,A)
【文献】特開2016-193509(JP,A)
【文献】特開2014-65155(JP,A)
【文献】国際公開第2005/037535(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料からなるフィルム基材と、その上に設けられた被覆層を備える積層体であって、
前記被覆層が、ポリカルボン酸系重合体と、一般式R1Si(ORで表されるシランカップリング剤、その加水分解物、及びそれらの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のケイ素含有化合物とを、99.5:0.5~80.0:20.0の質量比で含有した層と、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が0.58以上、0.65以下を示す多価金属化合物を含有する層とを含み、
前記多価金属化合物が、酸化亜鉛であり、
前記フィルム基材と前記被覆層の間に、密着層と、無機酸化物からなる無機蒸着層とを備えることを特徴とするガスバリア積層体。
(ただし、前記ケイ素含有化合物の質量は、前記シランカップリング剤換算の質量であり、一般式のRはグリシジルオキシ基又はアミノ基を含む有機基であり、Rはアルキル基であり、3個のRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記フィルム基材上に改質処理層を備え、前記改質処理層上に無機酸化物からなる無機蒸着層を備え、前記無機蒸着層上に前記被覆層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項3】
前記無機酸化物が、酸化アルミニウムもしくは、酸化ケイ素であることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア積層体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のガスバリア積層体を用いて成ることを特徴とする包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉、魚、卵、豆製品のような含硫アミノ酸が内容物に多く存在した場合、加熱殺菌処理される際に発生する不快なレトルト臭を抑制し、且つガスバリア性が劣化しにくく、優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体および包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の包装に用いられる包装材料に対しては、内容物の変質を防止することが求められており、長期保存に適した方法としてレトルト処理やボイル処理など加熱による殺菌処理が行われる。このとき、タンパク質を構成するアミノ酸には硫黄を含む含硫アミノ酸(メチオニン、シスチン、システインなど)が多く含まれる肉、魚、卵、豆製品は、前記処理後に不快なレトルト臭を発生する。レトルト臭とは、いわゆるレトルト食品(100℃以上の温度で加圧、加熱殺菌を施して常温流通される食品)での特有の臭いを示すが、ボイル処理を施した食品においても認められる同様の臭いも含めてレトルト臭と表記する。レトルト臭は、含硫アミノ酸が加熱処理される際に、加水分解によって発生する硫化水素、メチルメルカプタン等の硫黄化合物による臭気に由来する。
【0003】
レトルト臭対策として、食品そのものに胡椒、スパイスなど強い刺激臭によってレトルト臭を気付かなくする方法が取られているが、食品の風味に制約が生まれるため調理メニューが限定されてしまう。
【0004】
そこで、包装材料によるレトルト臭の低減方法が検討された。
【0005】
例えば特許文献1によると、亜鉛系アイオノマー樹脂または亜鉛系アイオノマー樹脂を含有する熱可塑性樹脂からなるフィルムが提案されている。
【0006】
また、特許文献2ではTi、Al、Mg、Ca、Siから選ばれる一種以上の元素とZnが主成分とされる酸化物凝集体粒子からなる脱臭剤を含有する熱可塑性樹脂フィルムが考案されている。しかし、食品用包装材料は、食品の酸化防止をするために酸素バリア性が必要となるのに対し、前述のフィルムには酸素バリア性はないため、別途バリア性フィルムが必要となる。
【0007】
特許文献3では、酸素バリア性を備えたバリア層に亜鉛化合物を含ませたフィルムを提案しており、食品の酸化防止機能とレトルト臭低減を両立しているが、水蒸気バリア性に関してはAl箔や透明蒸着フィルムに接着性コートを施して、亜鉛化合物を積層させることで実現している。しかし、接着性コートと亜鉛化合物をオフラインにて塗工すると、接着性コートを最表面で巻き取ってしまうとブロッキングする問題があり、インライン塗工が必要となるため特別な同時塗工装置が必要となる課題が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-75360号公報
【文献】特開平2-95436号公報
【文献】特開2008-254765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、含硫アミノ酸成分が多く存在する
内容物に対して、加熱処理(レトルト殺菌処理あるいはボイル処理)を施しても、不快なレトルト臭を抑制し、且つガスバリア性が劣化しにくく、優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体および包装体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のために、請求項1に記載の発明は、
プラスチック材料からなるフィルム基材と、その上に設けられた被覆層を備える積層体であって、
前記被覆層が、ポリカルボン酸系重合体と、一般式R1Si(ORで表されるシランカップリング剤、その加水分解物、及びそれらの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のケイ素含有化合物とを、99.5:0.5~80.0:20.0の質量比で含有した層と、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が0.58以上、0.65以下を示す多価金属化合物を含有する層とを含み、前記多価金属化合物が、酸化亜鉛であり、前記フィルム基材と前記被覆層の間に、密着層と、無機酸化物からなる無機蒸着層とを備えることを特徴とするガスバリア積層体である。
(ただし、前記ケイ素含有化合物の質量は、前記シランカップリング剤換算の質量であり、一般式のR1はグリシジルオキシ基又はアミノ基を含む有機基であり、Rはアルキル基であり、3個のRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0011】
また請求項2に記載の発明は、
前記フィルム基材上に改質処理層を備え、前記改質処理層上に無機酸化物からなる無機蒸着層を備え、前記無機蒸着層上に前記被覆層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア積層体である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、
前記無機酸化物が、酸化アルミニウムもしくは、酸化ケイ素であることを特徴とする請求項1または2に記載のガスバリア積層体である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、
請求項1~3のいずれかに記載のガスバリア積層体を用いて成ることを特徴とする包装体である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガスバリア積層体は、フィルム基材の一方の面に密着層、無機蒸着層、所定の構成の被覆層を順次積層してなるため、硫黄化合物を多く含む内容物の包装体として、レトルト処理を行っても、従来から問題となっていたレトルト臭(加熱処理により発生する硫化水素ガスに基づく臭い)を抑制し、且つ、ガスバリア性が劣化しにくく、優れたガスバリア性を有するため、内容物の長期保存が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るガスバリア積層体の一実施形態を示す断面概略図である。
図2】本発明に係るガスバリア積層体の第二の実施形態を示す断面概略図である。
図3】プレーナ型プラズマ処理装置によりフィルム表面をRIE処理する態様の一例を示す模式図である。
図4】ホローアノード型プラズマ処理装置によりフィルム表面をRIE処理する態様の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面をもって説明する。なお、以下の説明において、同等の部材等には同じ符号を付して説明を省略することがある。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るガスバリア積層体5は、プラスチック基材1の上に密着層2、無機蒸着層3、被覆層4を順次積層してなる。
ただし本発明において、密着層2および無機蒸着層3は必須ではない。
また本発明は、上記の層に限るものではなく、必要に応じて他の機能を有する層を積層しても構わない。例えば、表面保護層、シーラント層、絵柄層、などの機能層を積層させてもよい。これらの機能層は、単層あるいは複数の層を組み合わせてもかまわない。
【0020】
本発明に用いるプラスチック基材1としては、特に限定されるものではなく、透明で加熱温度200℃以上でも形態を保つものならば公知のものを使用することができる。例えば、ポリエステル系フィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系フィルム(ナイロン-6、ナイロン-66等)、ポリスチレン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリエーテルスルホン系フィルム、アクリル系フィルム、セルロース系フィルム(トリアセチルセルロース又はジアセチルセルロース等)などが挙げられる。特に限定されないが、熱収縮率が低いフィルムが好ましい。
【0021】
実際的には、用途や要求物性により適宜選定をすることが望ましく、医療用品、薬品、食品等の包装には、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドなどを用いることができる。また、フィルムの厚さは、特に限定されない。用途に応じて6μmから200μm程度のものが使用することができる。
【0022】
またプラスチック基材1には、この積層面にバリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理、易接着層などのコート層を設けても構わない。
【0023】
本発明の密着層2は、プラスチック基材1上に設けられ、プラスチック基材1と無機蒸着層3との間の密着性能向上と、表面を平滑にすることで次工程の無機蒸着層を欠陥なく均一に製膜し、さらに蒸着膜の微小なバリア欠陥を補助し高いバリア性能を発現する、という二つの効果を得ることを目的としている。
【0024】
上記の効果を満たす密着層を構成する材料としては非水性樹脂が好ましく、例えばシランカップリング剤や有機チタネート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリイミド、メラミン、フェノールなどが挙げられる。密着層の耐熱水性を考慮すると、ウレタン結合およびウレア結合を少なくとも一つ以上有する有機高分子が含まれることがより好ましい。
【0025】
上記ウレタン結合およびウレア結合はあらかじめ重合段階で導入したポリマーを使用しても、アクリルおよびメタクリル系ポリオールなどのポリオールとイソシアネート基を持つイソシアネート化合物、またはアミノ基を持つアミン樹脂とエポキシ基及びグリシジル基を持つエポキシ化合物などを反応させてウレタン結合を形成させたものや、イソシアネート化合物と水または酢酸エチル等の溶剤、またはアミノ基を持つアミン樹脂との反応によりウレア結合をさせた物でも良い。
【0026】
そして本発明者が鋭意検討の結果、非水性樹脂の密着層はアクリルポリオールとポリエステルポリオール及びイソシアネート化合物、シランカップリング剤等との複合物がより好ましいとの知見を得た。
【0027】
アクリルポリオールとは、アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物もしくは、アクリル酸誘導体モノマーおよびその他のモノマーとを共重合させて得られる高分子化合物のうち、末端にヒドロキシル基をもつもので、後に加えるイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応させるものである。
またポリエステルポリオールとは、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、メチルフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびこれらの反応性誘導体等の酸原料と、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスヒドロキシエチルテレフタレート、トリメチロールメタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のアルコール原料から周知の製造方法で得られたポリエステル系樹脂の内末端に2個以上のヒドロキシル基をもつもので、後に加えるイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応させるものである。
【0028】
イソシアネート化合物とは、アクリルポリオール及びポリエステルポリオールと反応してできるウレタン結合により基材や無機酸化物との密着性を高めるために添加されるもので、主に架橋剤もしくは硬化剤として作用する。これを達成するためにイソシアネート化合物としては、芳香族系のトリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、脂肪族系のキシレンジイソシアネート(XDI)やヘキサレンジイソシアネート(HMDI)などのモノマー類と、これらの重合体、誘導体が用いられ、これらが単独かまたは混合物等として用いられる。
【0029】
また上記シランカップリング剤とは、任意の有機官能基を含むシランカップリング剤を用いることができ、例えばエチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤或あるいはその加水分解物の1種ないしは2種以上を用いることができる。
【0030】
上記コーティング液の塗布方法としては、通常用いられるキャスト法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キットコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法等の従来公知の方法を用いることが可能である。
【0031】
続いて、本発明の第二の実施形態について図面をもって説明する。
【0032】
図2に示すように、本発明の第二の実施形態に係るガスバリア積層体25は、プラスチック基材1の上にリアクティブイオンエッチング処理により形成された改質処理層22、無機蒸着層3、被覆層4を順次積層してなる。
ただし本発明は、上記の層に限るものではなく、必要に応じて他の機能を有する層を積層しても構わない。例えば、表面保護層、シーラント層、絵柄層、などの機能層を積層させてもよい。これらの機能層は、単層あるいは複数の層を組み合わせてもかまわない。
【0033】
またプラスチック基材1には、その積層面にバリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、フレーム処理などの各種前処理を施しても構わない。
【0034】
プラスチック基材1の、無機蒸着層3が設けられる面には、リアクティブイオンエッチング(以下「RIE」ともいう。)処理により改質処理層22が形成されている。すなわち改質処理層22とは、プラスチック基材1の表面近傍が、RIE処理により層状に改質された態様となっている部位を指すものである。
RIE処理にはプラズマが利用される。プラズマ中に発生したラジカルやイオンにより、プラスチック基材1表面に官能基を付与する化学効果が得られる。また、イオンエッチングによって表面不純物を除去すると共に、表面粗さを大きくする物理的効果も得られる。そのため、RIE処理により前記化学効果および前記物理的効果が発現している改質処理層22により、プラスチック基材1と無機蒸着層3との間の密着性が向上し、高温高湿環境下においてもプラスチック基材1と無機蒸着層3との間の剥離が生じにくくなる。そのため、ガスバリア積層体25全体の耐熱性が向上し、ボイル処理、レトルト処理、加熱調理等の加熱処理を行ったときの、プラスチック基材1と無機蒸着層3との間のデラミネーションの発生やガスバリア性の劣化等が抑制される。
【0035】
プラスチック基材1へのRIE処理は、RIE方式のプラズマ処理装置として、公知のものを用いて実施できる。該プラズマ処理装置としては、巻取り式のインラインプラズマ処理装置が好ましい。巻取り式のインラインプラズマ処理装置としては、プレーナ型プラズマ処理装置、ホローアノード型プラズマ処理装置等を用いることができる。
【0036】
図3を用いて、プレーナ型プラズマ処理装置により、フィルム基材表面をRIE処理する方法の一例を説明する。
本例で用いるプレーナ型プラズマ処理装置は、図示しない真空室内に、電極(カソード)6と、フィルム基材9を保持する円筒型の処理ロールとを備え、処理ロール8の内側に電極6が配置されている。
このようなプレーナ型プラズマ処理装置の処理ロール8の外側に、RIE処理する方法のガスを導入し、フィルム基材9を処理ロール8に沿って搬送しながら電極6に電圧を印加すると、処理ロール8の外側でプラズマが発生し、プラズマ中のラジカルが、対極である処理ロール8側に引き寄せられ、フィルム基材9の表面に作用する。また、カソードである電極6側にフィルム基材9が設置されているため、フィルム基材9上に高い自己バイアスが得られ、この高い自己バイアスにより、プラズマ中のイオン7がフィルム基材9側に引き寄せられ、フィルム基材9の表面にスパッタ作用(物理的作用)が働き、RIE処理が行われる。
電圧を印加する電極6が処理ロール8の外側に配置されている装置でプラズマ処理する場合、フィルム基材9はアノード側に配置されることになる。この場合、高い自己バイアスは得られず、フィルム基材9にはラジカルのみが作用する。ラジカルの作用は化学反応だけであり、化学反応だけではフィルム基材と無機蒸着層との密着性を充分に向上させることができない。
【0037】
図4を用いて、ホローアノード型プラズマ処理装置により、フィルム基材表面をRIE処理する方法の一例を説明する。
本例で用いるホローアノード型プラズマ処理装置は、図示しない真空室内に電極(アノード)8と、フィルム基材9を保持し、電極6の対極(カソード)として機能する処理ロール9と、インピーダンスを整合させるためのマッチングボックス11と、ガス導入ノズル10と、電極6の両端に配置された遮蔽板12とを備える。
電極6は、処理ロール8側が開口した箱型である。ガス導入ノズル10が、電極6の上方に配置され、電極6および遮蔽板12と、処理ロール8との間の空隙に、RIE処理を行うためのガスを導入できるようになっている。マッチングボックス11は、電極6の背
面に配置され、電極6に接続されている。遮蔽板12は、処理ロール8の外周に沿った局面形状を有しており、処理ロール8の外側に、処理ロール8と対向するように配置されている。
電極6の面積(Sa)は、処理ロール8側に開口した箱型であることにより、対極となるフィルム基材9の処理面の面積(Sc)、つまり、電極6の開口の大きさよりも大きく(Sa>Sc)なっている。
【0038】
このようなホローアノード型プラズマ処理装置の電極6および遮蔽板12と、処理ロール8との間の空隙にガスを導入し、フィルム基材9を処理ロール8に沿って搬送しながら、マッチングボックス11から電極6に電圧を印加すると、箱型の電極6の内側でプラズマが発生し、プラズマ中のラジカルが、対極である処理ロール8側に引き寄せられ、フィルム基材9の表面に作用する。また、Sa>Scであることにより、フィルム基材9上に高い自己バイアスが発生し、この高い自己バイアスにより、プラズマ中のイオン7がフィルム基材9側に引き寄せられ、フィルム基材9の表面にスパッタ作用(物理的作用)が働き、RIE処理が行われる。
Sa>Scではない装置で、プラズマ処理すると、高い自己バイアスは得られず、フィルム基材9にはラジカルのみが作用する。ラジカルの作用は化学反応だけであり、化学反応だけではフィルム基材と無機蒸着層との密着性を充分に向上させることができない。
【0039】
ホローアノード型プラズマ処理装置は、さらに、箱型の電極6中に磁石を組み込んで自記電極とした磁気アシスト・ホロアノード型プラズマ処理装置であってもよい。磁気電極から発生される磁界により、プラズマ閉じ込め効果をさらに高め、大きな自己バイアスで高いイオン電流密度を得ることができる。これによって、より強力で安定したRIE処理を高速で行うことが可能となる。
【0040】
RIE処理を行うためのガス種としては、例えば、アルゴン、酸素、窒素、水素を使用することができる。これらのガスは単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
RIE処理は、2基以上のプラズマ処理装置は同じものを使用する必要はない。例えば、プレーナ型プラズマ処理装置でフィルム基材を処理し、その後連続してホローアノード型プラズマ処理装置を用いて処理を行うこともできる。
【0041】
本発明の無機蒸着層3は、バリア性の高い材料として酸化アルミニウム(AlOx)、酸化珪素(SiOx)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化マグネシウム(MgO)又はインジウム-スズ酸化物(ITO)などを用いることができる。材料コスト、バリア性能、透明性から無機酸化物である酸化アルミニウムもしくは酸化珪素が好ましい。
【0042】
無機蒸着層3の厚みは、10nm以下では薄膜の連続性に問題があり、また300nmを越えるとカールやクラックが発生しやすく、バリア性能に悪影響を与え、かつ可撓性が低下するため、好ましくは20nm~200nmである。使用用途によって適宜厚みを設定すればよい。
【0043】
無機蒸着層3の成膜は、真空成膜手段によって作成できる。バリア性能や膜均一性の観点から好ましい。成膜手段には、真空蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)などの公知の方法があるが、成膜速度が速く生産性が高いことから真空蒸着法が好ましい。また真空蒸着法の中でも、特に電子ビーム加熱による成膜手段は、成膜速度を照射面積や電子ビーム電流などで制御し易いことや蒸着材料への昇温降温が短時間で行えることから有効である。
【0044】
本発明の被覆層4は、下記の層(A)と、多価金属化合物を含有する層(B)とを含む。層(A):ポリカルボン酸系重合体(A1)(以下「(A1)成分」)と、下記一般式
(1)で表されるシランカップリング剤、その加水分解物及びそれらの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のケイ素含有化合物(A2)(以下「(A2)成分」)とを、99.5:0.5~80.0:20.0の質量比(但し、前記(A2)成分の質量は前記シランカップリング剤換算の質量である)で含有している層(A)である。
Si(OR ・・・(1)
[式(1)中、R はグリシジルオキシ基又はアミノ基を含む有機基であり、R はアルキル基であり、3個のRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0045】
層(A)中の(A1)成分のカルボキシ基の多くがイオン架橋を形成していない状態では、層(A)は柔軟性がある。そのため、延伸等の虐待が加えられたときに、層(A)に欠陥が生じにくい。そのため、虐待後、ガスバリア積層体にレトルト処理、ボイル処理および調湿処理からなる群から選択される少なくとも1種の処理を施したときに、ガスバリア性の劣化が生じにくい。
また、層(A)とともに層(B)を有することで、レトルト処理、ボイル処理および調湿処理からなる群から選択される少なくとも1種の処理を施した際に、層(A)に含まれる(A1)成分と層(B)に含まれる多価金属化合物が反応して、(A1)成分のカルボキシ基が多価金属イオンとがイオン架橋を形成し、優れたガスバリア性を有するガスバリア積層体とすることができる。
【0046】
[層(A)]
(A1)成分のポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体である。
(A1)成分としては、たとえば、エチレン性不飽和カルボン酸の(共)重合体;エチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体;アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチン等の分子内にカルボキシル基を有する酸性多糖類が挙げられる。
前記エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。
前記エチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。
これらのポリカルボン酸系重合体は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
(A1)成分としては、上記の中でも、得られるガスバリア積層体のガスバリア性の観点から、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸及びクロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位を含む重合体が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位を含む重合体が特に好ましい。
該重合体において、前記アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体から誘導される構成単位の割合は、80mol%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがより好ましい(ただし、該重合体を構成する全構成単位の合計を100mol%とする)。該重合体は、単独重合体でも、共重合体でもよい。
該重合体が、上記構成単位以外の他の構成単位を含む共重合体である場合、該他の構成単位としては、例えば前述のエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能なエチレン性不飽和単量体から誘導される構成単位などが挙げられる。
【0048】
(A1)成分の数平均分子量は、2,000~10,000,000の範囲内が好ましく、5,000~1,000,000がより好ましい。数平均分子量が2,000未満では、得られるガスバリア積層体は充分な耐水性を達成できず、水分によってガスバリア性や透明性が悪化する場合や、白化の発生が起こる場合がある。他方、数平均分子量が10,000,000を超えると、塗工によって層(A)を形成する際に、粘度が高くなり塗工性が損なわれる場合がある。
【0049】
(A1)成分は、カルボキシ基の一部が予め塩基性化合物で中和されていてもよい。(A1)成分の有するカルボキシ基の一部を予め中和することにより、耐水性や耐熱性をさらに向上させることができる。塩基性化合物としては、多価金属化合物、一価金属化合物およびアンモニアからなる群から選択される少なくとも1種の塩基性化合物が好ましい。
多価金属化合物としては、層(B)の説明で挙げる多価金属化合物と同様のものが挙げられ、多価金属化合物である塩基性化合物としては、例えば酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。一価金属化合物である塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
カルボキシ基の中和度としては、層(A)を、(A1)成分と(A2)成分とを含有するコーティング液(a)からなる塗膜を乾燥することにより形成する場合は、該コーティング液(a)の塗工性や塗液安定性の観点から、30mol%以下であることが好ましく、25mol%以下であることがより好ましい。(A1)成分としては、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
(A2)成分は、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤(以下「シランカップリング剤(1)」ということがある。)、その加水分解物及びそれらの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のケイ素含有化合物である。(A2)成分は、少量でも、無機蒸着層3と層(A)との密着性を向上させ、耐熱性、耐水性等を向上させる。
Si(OR ・・・(1)
[式(1)中、Rはグリシジルオキシ基又はアミノ基を含む有機基であり、Rはアルキル基であり、3個のRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【0051】
前記一般式(1)中、Rにおける有機基としては、例えば、グリシジルオキシアルキル基、アミノアルキル基等が挙げられる。Rのアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
シランカップリング剤(1)の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0052】
(A2)成分は、シランカップリング剤(1)自体であってもよく、該シランカップリング剤(1)が加水分解した加水分解物でもよく、これらの縮合物であってもよい。
加水分解物としては、前記一般式(1)中の3つのORのうち少なくとも1つがOHとなったものが挙げられる。縮合物としては、少なくとも2分子の加水分解物のSi-OH同士が縮合してSi-O-Si結合を形成したものが挙げられる。なお、以下においては、シランカップリング剤の加水分解物が縮合したものを、加水分解縮合物と記すことがある。
【0053】
(A2)成分としては、例えばゾルゲル法を用いて、シランカップリング剤(1)の加水分解および縮合反応を行ったものを用いることができる。通常、シランカップリング剤(1)は、加水分解が容易におこり、また、酸、アルカリ存在下では容易に縮合反応がおこるため、シランカップリング剤(1)のみ、その加水分解物のみ、またはそれらの縮合
物のみで存在することは稀である。すなわち(A2)成分は、通常、シランカップリング剤(1)、その加水分解物、およびこれらの縮合物が混在している。また、加水分解物には、部分加水分解物、完全加水分解物が含まれる。
【0054】
(A2)成分としては、少なくとも加水分解縮合物を含むことが好ましい。加水分解縮合物を製造する際の方法としては、シランカップリング剤(1)を、上述の(A1)成分および水を含む液に直接混合してもよく、シランカップリング剤(1)に水を加えることによって、加水分解およびそれに続く縮合反応を行い、ポリカルボン酸系重合体と混合する前に、加水分解縮合物を得てもよい。
【0055】
層(A)は、(A1)成分と、(A2)成分とを、99.5:0.5~80.0:20.0の質量比で含有する。但し、(A2)成分の質量は、前記シランカップリング剤(1)換算の質量である。つまり、(A2)成分は、上記のとおり、通常、シランカップリング剤(1)、その加水分解物、およびこれらの縮合物が混在するが、(A2)成分の質量は、シランカップリング剤(1)に換算した値、すなわちシランカップリング剤(1)の仕込み量である。この質量比が上記範囲であると、耐虐待性に優れるガスバリア積層体を得ることができる。また、無機蒸着層3と被覆層4との密着性に優れ、デラミネーションが生じにくい。また、上記範囲で(A2)成分を含有することで、層(A)を、相分離のない均一な層とすることができる。
【0056】
さらに、(A2)成分が存在することにより、本発明のガスバリア積層体が酸に対する耐性を有する。シランカップリング剤(1)として、Rがグリシジルオキシ基を含む有機基であるもの(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)を用いる場合には、(A1)成分と(A2)成分との質量比は、99.5:0.5~90.0:10.0であることが好ましく、99.0:1.0~95.0:5.0であることが特に好ましい。
【0057】
シランカップリング剤(1)として、Rがアミノ基を含む有機基であるもの(γ-アミノプロピルトリメトキシシランや、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)を用いる場合には、(A1)成分と(A2)成分との質量比は、99.0:1.0~80.0:20.0であることが好ましく、95.0:5.0~80.0:20.0であることが特に好ましい。
【0058】
層(A)には、各種の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては可塑剤、樹脂、分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、アンチブロッキング剤、膜形成剤、粘着剤、酸素吸収剤等が挙げられる。
例えば可塑剤としては、公知の可塑剤から適宜選択して使用することが可能である。該可塑剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンオキサイド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、エリトリトール、グリセリン、乳酸、脂肪酸、澱粉、フタル酸エステルなどを例示することができる。
【0059】
これらは必要に応じて、混合物で用いてもよい。これらの中でも、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、グリセリン、澱粉が、延伸性とガスバリア性の観点から好ましい。このような可塑剤が含まれる場合には、耐虐待性をさらに向上させることができる。
添加剤として、ポリビニルアルコール等の水酸基を2つ以上有する化合物を含む場合、
該化合物の水酸基と、(A1)成分のカルボキシ基の一部とがエステル結合を形成していてもよい。層(A)に添加剤が含まれている場合には、(A1)成分と添加剤との質量比((A1)成分:添加剤)は通常は70:30~99.9:0.1の範囲であり、80:20~98:2であることが好ましい。
【0060】
層(A)の厚さは、ガスバリア性の観点から、好ましくは0.01~5μmの範囲であり、より好ましくは0.02~3μmの範囲であり、さらに好ましくは0.04~1.2μmの範囲である。なお、被覆層が層(A)を複数含む場合でも、被覆層中の層(A)の合計の好ましい厚さは上記と同じである。
【0061】
(層(A)の形成方法)
層(A)は、通常、コーティング法により形成することができる。具体的には、(A1)成分と(A2)成分とを含有するコーティング液(a)からなる塗膜を乾燥することにより形成できる。コーティング液(a)に含まれる(A1)成分、(A2)成分としてはそれぞれ、前記と同様のものを用いることができる。
【0062】
コーティング液(a)は、(A1)成分と(A2)成分とを、99.5:0.5~80.0:20.0の質量比(但し、前記(A2)成分の質量は前記シランカップリング剤(1)換算の質量である)で含有することが好ましい。好ましい理由は前記と同じである。シランカップリング剤(1)として、Rがグリシジルオキシ基を含む有機基であるもの(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)を用いる場合には、(A1)成分と(A2)成分との質量比は、99.5:0.5~90.0:10.0であることが好ましく、99.0:1.0~95.0:5.0であることが特に好ましい。
【0063】
シランカップリング剤(1)として、Rがアミノ基を含む有機基であるもの(γ-アミノプロピルトリメトキシシランや、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)を用いる場合には、(A1)成分と(A2)成分との質量比は、99.0:1.0~80.0:20.0であることが好ましく、95.0:5.0~80.0:20.0であることが特に好ましい。なお、通常は、コーティング液(a)に含まれる(A1)成分と(A2)成分との質量比と、該コーティング液(a)を用いて形成される層(A)における(A1)成分と(A2)成分との質量比とは同様であるが、例えば(A1)成分と添加剤とが反応した場合や、(A1)成分と(A2)成分とが反応した場合等には、異なる場合がある。
【0064】
コーティング液(a)は、必要に応じて、(A1)成分及び(A2)成分以外に、上述した添加剤を含んでいてもよい。添加剤を含む場合、(A1)成分と添加剤との質量比の好ましい範囲は前記と同じである。
【0065】
コーティング液(a)は、(A1)成分と(A2)成分と必要に応じて含まれる添加剤とを、溶媒と混合することにより調製できる。コーティング液(a)に用いる溶媒としては、(A1)成分及び(A2)成分を溶解し得るものであれば特に限定は無いが、通常、シランカップリング剤(1)の加水分解反応を行うための水が必要であることから、水、水と有機溶媒との混合溶媒等が好ましい。(A1)成分の溶解性、コストの点では、水が最も好ましい。
【0066】
アルコール等の有機溶媒は、シランカップリング剤(1)の溶解性、コーティング液(a)の塗工性を向上する点で好ましい。有機溶媒としては、炭素数1~5のアルコールおよび炭素数3~5のケトンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶媒等を用いることが好ましい。
このような有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、
イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。水と有機溶媒との混合溶媒としては、上述した水と有機溶媒との混合溶媒が好ましく、水と炭素数1~5のアルコールとの混合溶媒がより好ましい。混合溶媒としては、水が20~95質量%の量で存在し、有機溶媒が80~5質量%の量で存在する(ただし、水と有機溶媒との合計を100重量%とする)ものが好ましい。
【0067】
コーティング液(a)においては、ガスバリア性および塗工性の観点から、コーティング液(a)中の(A1)成分と、(A2)成分と、必要に応じて含まれる添加剤との合計含有量(固形分)が、コーティング液(a)の総重量に対して、0.5~50質量%が好ましく、0.8~30質量%がより好ましく、1.0~20質量%が特に好ましい。
【0068】
このコーティング液(a)を、層(A)を積層する面(例えば無機蒸着層3上等)に塗工して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥することにより層(A)を形成できる。コーティング液(a)の塗工方法としては、特に限定されず、公知のコート法のなかから適宜選択でき、例えばキャスト法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キットコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法等が挙げられる。コーティング液(a)の塗工量は、形成する層(A)の厚さに応じて設定される。
【0069】
コーティング液(a)を塗工した後、乾燥により、塗膜に含まれるコーティング液(a)の溶媒を除去することによって、層(A)が形成される。乾燥方法としては、特に限定は無く、例えば熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等の方法が挙げられる。これらの方法はいずれかを単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。
【0070】
このようにして形成される層(A)には、(A1)成分と(A2)成分とが含まれ、さらに、コーティング液(a)に添加剤等の他の成分が含まれる場合には、当該他の成分が含まれている。コーティング液(a)の添加剤として、ポリビニルアルコール等の水酸基を2つ以上有する化合物を用いた場合、上記乾燥、熟成処理、熱処理等の際に、該化合物の水酸基と(A1)成分のカルボキシ基の一部とが反応してエステル結合を形成していてもよい。
【0071】
[層(B)]
層(B)は、多価金属化合物を含有する。多価金属化合物とは、金属イオンの価数が2以上の多価金属の化合物である。多価金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属;チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属;アルミニウム、ケイ素が挙げられる。多価金属としては、耐熱性、耐水性、透明性の観点から、カルシウムまたは亜鉛が特に好ましい。すなわち、多価金属化合物としては、カルシウム化合物または亜鉛化合物が好ましい。
【0072】
また多価金属化合物としては、例えば多価金属の単体、酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩(例えば、酢酸塩)もしくは無機酸塩、多価金属酸化物のアンモニウム錯体もしくは2~4級アミン錯体、またはそれらの炭酸塩もしくは有機酸塩が挙げられる。これらの多価金属化合物の中でも、ガスバリア性、高温水蒸気や熱水に対する耐性、製造性の観点から、アルカリ土類金属、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウムまたはケイ素の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩または酢酸塩、銅または亜鉛のアンモニウム錯体またはそれらの炭酸塩を用いることが好ましい。
これらの中でも、工業的生産性の観点からは、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化カ
ルシウム、炭酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸カルシウムが好ましく、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0073】
層(B)を、多価金属化合物を含有するコーティング液(b)からなる塗膜を乾燥することにより形成する場合、多価金属化合物の形態は、粒子状であっても、非粒子状であっても、溶解していてもよいが、分散性、ガスバリア性、生産性の観点からは、粒子状であることが好ましい。また、このような粒子の平均粒子径は特に限定されないが、ガスバリア性、コーティング適性の観点から、平均粒子径が5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。
【0074】
層(B)は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、多価金属化合物のほかに、各種添加剤を含有してもよい。該添加剤としては、例えば、層(B)を、多価金属化合物を含有するコーティング液(b)からなる塗膜を乾燥することにより形成する場合、コーティング液(b)に用いる溶媒に可溶又は分散可能な樹脂、該溶媒に可溶又は分散可能な分散剤、界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、増粘剤等を含有してもよい。
上記の中でも、コーティング液(b)に用いる溶媒に可溶または分散可能な樹脂を含有することが好ましい。これにより、コーティング液(b)の塗工性、製膜性が向上する。このような樹脂としては、例えば、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂等が挙げられる。
【0075】
また、コーティング液(b)に用いる溶媒に可溶又は分散可能な分散剤を含有することが好ましい。これにより、多価金属化合物の分散性が向上する。該分散剤としては、アニオン系界面活性剤や、ノニオン系界面活性剤を用いることができる。該界面活性剤としては、(ポリ)カルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルフォコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、芳香族リン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、アルキルアリル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ソルビタンアルキルエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の各種界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
層(B)に上記のような添加剤が含まれている場合には、多価金属化合物と添加剤との質量比(多価金属化合物:添加剤)は、30:70~99:1の範囲内であることが好ましく、50:50~98:2の範囲内であることが好ましい。
【0077】
層(B)の厚さは、ガスバリア性の観点から、好ましくは0.01~5μmの範囲であり、より好ましくは0.03~3μmの範囲であり、さらに好ましくは0.1~1.2μmの範囲である。なお、被覆層が層(B)を複数含む場合でも、被覆層中の層(B)の合計の好ましい厚さは上記と同じである。
【0078】
(層(B)の形成方法)
層(B)の形成方法としては、例えば、コーティング法、ディッピング法等が挙げられる。これらの中でも、生産性の観点から、コーティング法が好ましい。以下、コーティング法により層(B)を形成する場合について説明する。
【0079】
コーティング法による層(B)の形成は、具体的には、多価金属化合物を含有するコーティング液(b)からなる塗膜を乾燥することにより形成できる。コーティング液(b)に含まれる多価金属化合物としては、前記と同様なものを用いることができ、カルシウム化合物または亜鉛化合物が好ましく、更に亜鉛化合物が特に好ましい。
【0080】
コーティング液(b)は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、多価金属化合物のほかに、各種添加剤等を含んでいてもよい。該添加剤としては、例えば、コーティング液(b)に用いる溶媒に可溶又は分散可能な樹脂、該溶媒に可溶又は分散可能な分散剤、その他の界面活性剤、柔軟剤、安定剤、膜形成剤、増粘剤等が挙げられる。上記の中でも、コーティング液(b)には、コーティング液(b)の塗工性、成膜性を向上させる目的で、コーティング液(b)に用いる溶媒に可溶または分散可能な樹脂を混合して用いることが好ましい。このような樹脂としては、前述の層(B)が含有してもよい各種添加剤として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0081】
また、添加剤として、多価金属化合物の分散性を向上させる目的で、コーティング液(b)に用いる溶媒に可溶又は分散可能な分散剤を混合して用いることが好ましい。該分散剤としては、層(B)が含有してもよい各種添加剤として、前記で挙げたものと同様のものが挙げられる。コーティング液(b)に添加剤が含まれている場合には、多価金属化合物と添加剤との質量比(多価金属化合物:添加剤)は、30:70~99:1の範囲内であることが好ましく、50:50~98:2の範囲内であることが好ましい。
【0082】
コーティング液(b)に用いる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルフォキシド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。また、これらの溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0083】
これらの中でも、塗工性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また製造性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。なお、コーティング液(a)から形成される層(A)は耐水性が優れているために、コーティング液(b)に用いる溶媒として水を用いることができる。
【0084】
コーティング液(b)においては、コーティング適性の観点から、コーティング液(b)中の多価金属化合物及び添加剤の合計含有量が、コーティング液(b)の総重量に対して1~50質量%の範囲であることが好ましく、3~45質量%の範囲であることがより好ましく、5~40質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0085】
このコーティング液(b)を、層(B)を積層する面(例えば層(A)等)に塗工して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥することにより層(B)を形成できる。コーティング液(b)の塗工方法としては、特に限定されず、公知のコート法のなかから適宜選択でき、例えばキャスト法、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キットコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法等が挙げられる。コーティング液(b)の塗工量は、形成する層(B)の厚さに応じて設定される。
【0086】
コーティング液(b)を塗工した後、乾燥により、塗膜に含まれるコーティング液(b)の溶媒を除去することによって、層(B)が形成される。乾燥方法としては、特に限定は無く、例えば熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等の方法が挙げられる。これらの方法はいずれかを単独で用いても2種以上を組み合わせてもよい。乾燥温度としては特に限定は無いが、溶媒として上述した水や、水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、通常、50~160℃が好ましい。また乾燥の際の圧力は、通常、常圧または減圧下で行い、設備の簡便性の観点から常圧で行うことが好ましい。このようにして形成される層(B)には、多価金属化合物が含まれ、さらに、コーティング液(b)に添加剤等の他の成分が含まれる場合には、当該他の成分が含まれている。
【0087】
加熱殺菌処理方法として、レトルト処理、ボイル処理、いずれか1種のみであっても2種を組み合わせてもよい。
レトルト処理は、一般に食品等を保存するために、カビ、酵母、細菌などの微生物を加圧殺菌する処理である。通常は、105~140℃、0.15~0.30MPaで、10~120分の条件で加圧殺菌処理する。レトルト装置は、加熱蒸気を利用する蒸気式と加圧過熱水を利用する熱水式等があり、内容物となる食品等の殺菌条件に応じて適宜使い分ける。
ボイル処理は、食品等を保存するため湿熱殺菌する処理である。通常は、内容物にもよるが、食品等を包装したガスバリア積層体を、60~100℃、大気圧下で、10~120分の条件で湿熱殺菌処理を行う。ボイル処理は、通常、熱水槽を用いて行うが、一定温度の熱水槽の中に浸漬し、一定時間後に取り出すバッチ式と、熱水槽の中をトンネル式に通して殺菌する連続式がある。
【0088】
本発明のガスバリア積層体5は、無機蒸着層3と被覆層4を備えることで、優れたガスバリア性とレトルト臭抑制効果を有する。本発明のガスバリア性積層体は、温度30℃、相対湿度70%RHにおける酸素透過度が、好ましくは30cc/m・day・MPa以下であり、より好ましくは15cc/m・day・MPa以下であり、特に好ましくは1.5cc/m・day・MPa以下である。該酸素透過度は低いほど好ましく、その下限としては特に限定はないが通常は0.01cc/m・day・MPa以上である。
【0089】
また、本発明のガスバリア積層体は、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が、通常は5g/m・day以下であり、好ましくは5g/m・day以下であり、特に好ましくは1g/m・day以下である。該水蒸気透過度は低いほど好ましく、その下限としては特に限定はないが通常は0.01g/m・day以上である。
【0090】
また、レトルト臭の抑制効果は紫外線吸光度によって評価できる。その理由は以下による。すなわち、内容物に含硫アミノ酸成分が多い場合、レトルト処理時に発生する硫化水素がガスバリア層に浸透し、硫化水素は酸化亜鉛と反応して硫化亜鉛を生じる。酸化亜鉛は本来、被覆層内で亜鉛イオンがカルボキシ基とイオン架橋を形成してバリア性を発揮するが、硫化亜鉛を生じてしまうと、酸化亜鉛がその分不足してしまい、バリア性を劣化させることになる。従って、ガスバリア層を劣化させないためには、酸化亜鉛の量を増加させることになり、その結果、被覆層の紫外線吸光度が上がる。
すなわち、紫外線吸光度が高いほど、レトルト臭の抑制、優れたガスバリア性能を有することができる。しかし、これにより製造上のコストアップは勿論、透明度が落ち外観性能を低下させてしまうため、紫外線吸光度が高すぎることは好ましくない。
本発明者の知見によれば、紫外線吸光度は0.3以上、0.7以下であれば、充分なバリア性を有する。
【実施例
【0091】
以下に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0092】
<密着層形成用組成物の調整>
アクリルポリオールとトリイジルイソシアネートを、アクリルポリオールのOH基に対してNCO基が等量となるように加え、全固形分が5w%になるよう酢酸エチルで希釈し、さらにこれにβ-(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランを全固形分に対し5w%添加して混合し、密着層形成用組成物(コーティング溶液)を得た。
【0093】
<改質処理層22の形成>
プラズマ処理装置として、図3に示したのと同様の構成を有するプレーナ型プラズマ処理装置を用い、RIE処理により改質処理層22を形成した。プラズマ発生ガスとして、アルゴン/酸素混合ガスを電極部へ導入し、電極部に周波数13.5MHzの高周波電源を用いて電圧を印加してプラズマを発生させ、RIE処理を行った。このとき印加電力は150W、自己バイアス値は600V、プラズマ密度Epd値は、500W・sec/m2とした。
【0094】
<被覆層4形成用組成物の調整>
コーティング液(a):以下の手順で調製した。
数平均分子量200,000のPAA水溶液(東亞合成製 アロンA-10H、固形分濃度25質量%)20gを蒸留水58.9gで溶解した。その後、アミノプロピルトリメトキシシライン(APTMS:アルドリッチ製)0.44gを添加し、攪拌を行い均一な溶液とし、これをコーティング液(a)とした。
【0095】
コーティング液(b):以下の手順で調製した。
酸化亜鉛微粒子水分散液(住友大阪セメント製 ZE143)100gと硬化剤Liofol HAERTER UR 5889‐21(Henkel製)1gを混合してコーティング液(b)を得た。
【0096】
参考例1]
2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ製、ルミラー(登録商標)P60、厚さ12μm)のコロナ処理側に、グラビアコート機を用いてグラビアコート法によって厚み0.1μmとなるように密着層2を作成し、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、金属アルミニウムを蒸発させ、そこに酸素ガスを導入し、酸化アルミニウムを蒸着して厚さ20nmの無機蒸着層3を形成した。この無機蒸着層3上に、被覆層4を形成するため、コーティング溶液(a)を、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、80℃で5分間乾燥し、層(A)を形成した。この層(A)上に、コーティング液(b)を、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が0.30を目標値として濃度調整をし、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B1)を形成した。なお実際の紫外線吸光度は、下記の測定方法に従い実測し、下記表1に記載した。また他の実施例・比較例も同様に実測した。
これにより[PET(12μm)/密着層2(0.1μm)/無機蒸着層3(20nm)/被覆層4:層(A)(1μm)/層(B1)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。なおここで( )内の値は各層の厚さを表し、以下の例も同様である。
【0097】
次に、ガスバリア積層体の層上に、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP:東レフィルム加工(株)製 CPP、トレファンNO ZK207、厚さ60μm)を、2液型の接着剤(三井化学製 A525/A52)を用いて、ドライラミネート法によってラミネートして[ガスバリア層/接着剤層/CPP(60μm)]の構成を有するラミネートフィルムを得た。
次に、このラミネートフィルムを、10cm×10cmの大きさに切り出した。切り出したフィルム片2枚を、CPP層を内側にして重ね合わせ、ヒートシールにて包装体を形成し、その中に含硫アミノ酸含有物として濃度0.3%/LのL-システイン水溶液150ml(関東化学(株)製、L-システイン使用)を充填した後、同じくヒートシールにて、密封包装した。その後、貯湯式レトルト釜を用いて0.18MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。
【0098】
[実施例2]
参考例1と同様の操作を行って、被覆層4の層(A)を形成した後、この層(A)上に、コーティング液(b)を、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が、0.60を目標値として濃度調整をし、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B2)を形成した。これにより[PET(12μm)/密着層2(0.1μm)/無機蒸着層3(20nm)/被覆層4:層(A1)(1μm)/層(B2)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。
その後、参考例1と同様にラミネートフィルムを得て、ヒートシールにて包装体を形成し、その中に濃度0.3%/LのL-システイン水溶液150ml(関東化学(株)製、L-システイン使用)を充填した後、同じくヒートシールにて、密封包装した。その後、貯湯式レトルト釜を用いて0.18MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。
【0099】
[比較例1]
参考例1と同様の操作を行って、被覆層4の層(A)を形成した後、この層(A)上に、コーティング液(b)を、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が、0.10を目標値として濃度調整をし、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B3)を形成した。
これにより[PET(12μm)/密着層2(0.1μm)/無機蒸着層3(20nm)/被覆層4:層(A)(1μm)/層(B3)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。
その後、参考例1と同様にラミネートフィルムを得て、ヒートシールにて包装体を形成し、その中に濃度0.3%/LのL-システイン水溶液150ml(関東化学(株)製、L-システイン使用)を充填した後、同じくヒートシールにて、密封包装した。その後、貯湯式レトルト釜を用いて0.18MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。
【0100】
[比較例2]
参考例1と同様の操作を行って、被覆層4の層(A)を形成した後、この層(A)上に、コーティング液(b)を、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が、0.20を目標値として濃度調整をし、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B4)を形成した。これにより[PET(12μm)/密着層2(0.1μm)/無機蒸着層3(20nm)/被覆層4:層(A)(1μm)/層(B4)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。
その後、参考例1と同様にラミネートフィルムを得て、ヒートシールにて包装体を形成し、その中に濃度0.3%/LのL-システイン水溶液150ml(関東化学(株)製、L-システイン使用)を充填した後、同じくヒートシールにて、密封包装した。その後、貯湯式レトルト釜を用いて0.18MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。
【0101】
参考例3]
2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET:東レ製、ルミラー(登録商標)P60、厚さ12μm)のコロナ処理側に、RIE処理を施し、改質処理層22とした。
RIE処理面上に、電子線加熱方式による真空蒸着装置により、金属アルミニウムを蒸発させ、そこに酸素ガスを導入し、酸化アルミニウムを蒸着して厚さ20nmの無機蒸着層3を形成した。この無機蒸着層3上に、被覆層4を形成するため、コーティング溶液(a)を、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、80℃で5分間乾燥し、層(A)を形成した。この層(A)上に、コーティング液(b)を、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が0.30を目標値として濃度調整をし、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B1)を形成した。なお実際の紫外線吸光度は、下記の測定方法に従い実測し、下記表1に記載した。また他の実施例・比較例も同様に実測した。
これにより[PET(12μm)/改質処理層22/無機蒸着層3(20nm)/被覆層4:層(A)(1μm)/層(B1)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。
【0102】
次に、ガスバリア積層体の層上に、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP:東レフィルム加工(株)製 CPP、トレファンNO ZK207、厚さ60μm)を、2液型の接着剤(三井化学製 A525/A52)を用いて、ドライラミネート法によってラミネートして[ガスバリア層/接着剤層/CPP(60μm)]の構成を有するラミネートフィルムを得た。
次に、このラミネートフィルムを、10cm×10cmの大きさに切り出した。切り出したフィルム片2枚を、CPP層を内側にして重ね合わせ、ヒートシールにて包装体を形成し、その中に含硫アミノ酸含有物として濃度0.3%/LのL-システイン水溶液150ml(関東化学(株)製、L-システイン使用)を充填した後、同じくヒートシールにて、密封包装した。その後、貯湯式レトルト釜を用いて0.18MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。
【0103】
[実施例4]
参考例3と同様の操作を行って、被覆層4の層(A)を形成した後、この層(A)上に、コーティング液(b)を、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が、0.60を目標値として濃度調整をし、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B2)を形成した。
これにより[PET(12μm)/改質処理層22/無機蒸着層3(20nm)/被覆層4:層(A)(1μm)/層(B2)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。
その後、参考例3と同様にラミネートフィルムを得て、ヒートシールにて包装体を形成し、その中に濃度0.3%/LのL-システイン水溶液150ml(関東化学(株)製、L-システイン使用)を充填した後、同じくヒートシールにて、密封包装した。その後、貯湯式レトルト釜を用いて0.18MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。
【0104】
[比較例3]
参考例3と同様の操作を行って、被覆層4の層(A)を形成した後、この層(A)上に、コーティング液(b)を、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が、0.10を目標値として濃度調整をし、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B3)を形成した。
これにより[PET(12μm)/改質処理層22/無機蒸着層3(20nm)/被覆
層4:層(A)(1μm)/層(B3)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。
その後、参考例3と同様にラミネートフィルムを得て、ヒートシールにて包装体を形成し、その中に濃度0.3%/LのL-システイン水溶液150ml(関東化学(株)製、L-システイン使用)を充填した後、同じくヒートシールにて、密封包装した。その後、貯湯式レトルト釜を用いて0.18MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。
【0105】
[比較例4]
参考例3と同様の操作を行って、被覆層4の層(A)を形成した後、この層(A)上に、コーティング液(b)を、吸光光度法により測定される波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値とする紫外線吸光度が、0.20を目標値として濃度調整をし、乾燥後の厚さが1μmとなるようにバーコーターを用いて塗工した後、90℃で2分間乾燥させた後に50℃で3日間熟成処理して、層(B4)を形成した。
これにより[PET(12μm)/改質処理層22/無機蒸着層3(20nm)/被覆層4:層(A)(1μm)/層(B4)(1μm)]の構成を有するガスバリア積層体を得た。
その後、参考例3と同様にラミネートフィルムを得て、ヒートシールにて包装体を形成し、その中に濃度0.3%/LのL-システイン水溶液150ml(関東化学(株)製、L-システイン使用)を充填した後、同じくヒートシールにて、密封包装した。その後、貯湯式レトルト釜を用いて0.18MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った。
【0106】
<評価及び方法>
参考例1,3、実施例2、4及び比較例1~4で得られたガスバリア積層体及びレトルト処理を行った包装体について、以下の(1)~(4)に示す測定及び評価を行った。
【0107】
(1)紫外線吸光度の評価:ガスバリア積層体について評価した。
分光光度計(株式会社島津製作所製 島津自記分光光度計UV-2450)を用いた。また、測定の際は積分球付属装置を使用した。測定範囲は、波長300~550nmにて行い、波長350nmにおける吸光度から波長500nmの吸光度を差し引いた値に、同様の方法で、多価金属化合物を含有する層を含まない状態(2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに密着層2及び無機蒸着層3を積層、または2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに改質処理層22及び無機蒸着層3を積層)での測定値0.02を差し引いた値を紫外線吸光度とした。
【0108】
(2)ガスバリア性の評価:ガスバリア積層体及びレトルト処理を行った包装体について、下記のように酸素透過度および水蒸気透過度を評価した。
なお、レトルト処理を行った包装体については、レトルト処理した後、包装体に充填されていた濃度0.3%/LのL-システイン水溶液を抜き、一晩乾燥させたガスバリア積層体に対し、測定を行った。
[酸素透過度の測定方法]
酸素透過度は、酸素透過度測定装置(Modern Control社製 OXTRAN
2/20)を用いて、温度30℃、相対湿度70%の条件で測定した。測定方法は、JIS K-7126、B法(等圧法)に準拠し、測定値は単位[cc/m ・day・MPa]で表記した。
[水蒸気透過度の測定方法]
水蒸気透過度は、水蒸気透過度測定装置(Modern Control社製 PERMATRAN 3/31)を用いて温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。測定方法は、JIS K-7129に準拠し、測定値は単位[g/m ・day]で表記した。
【0109】
(3)密着性評価: レトルト処理を行った包装体について評価した。
レトルト処理した後、包装体に充填されていた濃度0.3%/LのL-システイン水溶液を抜き、一晩乾燥させたガスバリア積層体に対し、JIS K 6854-3(T形剥離)に基づいて密着性評価を行った。なお、積層体と基材とが剥離せず密着したまま包装体が切れてしまった場合は「基材切れ」と表示した。
【0110】
(4)レトルト臭(代替評価として硫化水素濃度を測定):レトルト処理を行った包装体について評価した。
レトルト処理した後、包装体を開封し、包装体内の硫化水素濃度を、北川式ガス検知器(光明理化学工業株式会社製 ガス採取器AP-20B及び、硫化水素検知管)を用いて定量した。
【0111】
上記記載の測定方法で測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0112】
<評価結果>
表1から、参考例1では、レトルト処理を行った包装体は、充分な密着性を有し、包装体内の硫化水素濃度が低く、酸素透過度で1[cc/m・day・MPa]レベル、水蒸気透過度で3[g/m・day]レベルが得られて良好であり、参考例3、実施例2、4でも同様に密着性、硫化水素濃度の低さ、酸素・水蒸気透過度の低さが得られて良好な結果が得られた。
【0113】
一方、比較例1~4では、ガスバリア積層体の状態では酸素透過度、水蒸気透過度共に、実施例1~4と同レベルであるが、含硫アミノ酸を多く含む内容物(本評価では、代替評価として、濃度0.3%/LのL-システイン水溶液を使用)を入れ、レトルト処理を行うことにより、酸素透過度、水蒸気透過度が高くなっており、ガスバリア性が劣化した。また、硫化水素濃度も高くなっていることから、レトルト処理の際に生じた不快なレトルト臭を抑制できていないことを示している。更に比較例1、3では、密着性が不足している。そのため、比較例1~4の積層体では、レトルト処理用の包装材料としては不適である。
【0114】
以上の結果から、本発明によれば、肉、魚、卵、豆製品などの含硫アミノ酸が内容物に多く存在した際、加熱殺菌処理を施しても実施の形態において、密着性、硫化水素濃度の低下、酸素バリア性、水蒸気バリア性が高いガスバリア積層体および包装体が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の実施の形態に係るガスバリア積層体は、食品等の加熱殺菌工程を含む包装分野、特に肉、魚、卵、豆製品等の含硫アミノ酸が内容物に多く存在した際、加熱殺菌工程にて発生する硫化水素濃度を減らし、かつ密着性やバリア性が良好な包装材料を提供できる。
【符号の説明】
【0116】
1 プラスチック基材
2 密着層
22 改質処理層
3 無機蒸着層
4 被覆層
5、25 ガスバリア積層体
6 電極
7 イオン
8 処理ロール
9 フィルム基材
10 ガス導入ノズル
11 マッチングボックス
12 遮蔽板
図1
図2
図3
図4