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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】モータシステム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20221220BHJP
   B60L 3/00 20190101ALN20221220BHJP
   B60L 15/20 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
H02P27/08
B60L3/00 J
B60L15/20 J
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018147014
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020022333
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
(72)【発明者】
【氏名】野辺 大悟
(72)【発明者】
【氏名】小俣 隆士
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/056045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
B60L 3/00
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
二次電池である第1電源と、
二次電池である第2電源と、
3相のそれぞれで正極側、負極側に分かれて接続された第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子に並列に電流が逆方向に流れるように接続された第1整流素子とを有し、前記第1電源からの直流電力を交流電力に変換して前記モータに出力する第1インバータと、
3相のそれぞれで正極側、負極側に分かれて接続された第2のスイッチング素子と、前記第2のスイッチング素子に並列に電流が逆方向に流れるように接続された第2整流素子とを有し、前記第2電源からの直流電力を交流電力に変換して前記モータに出力する第2インバータと、
前記第1インバータ及び前記第2インバータの駆動を制御して、前記モータを駆動する駆動制御部と、
を備え、
前記駆動制御部は、
前記モータの回転速度が所定速度以下の場合に、
前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方のインバータにおいて、3相の負極側の前記スイッチング素子を同時にオンするとともに3相の正極側の前記スイッチング素子を同時にオフする第1動作と、前記一方のインバータにおいて、3相の正極側の前記スイッチング素子を同時にオンするとともに3相の負極側の前記スイッチング素子を同時にオフする第2動作と、前記第1インバータ及び前記第2インバータの他方のインバータにおいて、3相の正極側の前記スイッチング素子を同時にオンするとともに3相の負極側の前記スイッチング素子を同時にオフする第3動作と、前記他方のインバータにおいて、3相の負極側の前記スイッチング素子を同時にオンするとともに3相の正極側の前記スイッチング素子を同時にオフする第4動作と、を、所定の順序で行うサイクルを繰り返し行う、
モータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、2つの電源と、2つのインバータを有し、2つのインバータの出力で1つのモータを駆動するモータシステムを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、2つの電源と、2つのインバータとを含み、2つのインバータの出力で1つのモータを駆動するモータシステムが知られている(特許文献1参照)。このシステムでは、スター結線のモータの各相を、直列接続した2つの巻線で構成し、一方のインバータを各相の巻線端に接続し、他方のインバータを巻線同士の中間点に接続する。これにより、一方のインバータからの出力で、直列接続した2つの巻線(第1の駆動巻線)を使用してモータが駆動され、他方のインバータからの出力で中間点から内側の巻線(第2駆動巻線)を使用してモータが駆動される。そして、そのモータで車両の車輪が駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-324871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のシステムでは、モータに通電されることで発生するモータトルクが、モータに作用する負荷トルク以下となる場合に、モータ及び車輪がロックする。ロック時を含むモータの極低速時には、2つのインバータの両方で一部のスイッチング素子に電流が継続して集中しやすくなる。このことは素子温度(スイッチング素子温度)が上昇する原因となる。また、インバータの極低速時における制御性を高くすることが望まれる。特許文献1には、上記のモータシステムの極低速時における素子温度の上昇を抑制するとともにインバータの制御性を高くする手段は開示されていない。
【0005】
本開示は、2つの電源及び2つのインバータでモータを駆動する構成において、極低速時にインバータの素子温度の上昇を抑制できるとともにインバータの制御性を高くできるモータシステムの実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示のモータシステムは、モータと、二次電池である第1電源と、二次電池である第2電源と、3相のそれぞれで正極側、負極側に分かれて接続された第1のスイッチング素子と、前記第1のスイッチング素子に並列に電流が逆方向に流れるように接続された第1整流素子とを有し、前記第1電源からの直流電力を交流電力に変換して前記モータに出力する第1インバータと、3相のそれぞれで正極側、負極側に分かれて接続された第2のスイッチング素子と、前記第2のスイッチング素子に並列に電流が逆方向に流れるように接続された第2整流素子とを有し、前記第2電源からの直流電力を交流電力に変換して前記モータに出力する第2インバータと、前記第1インバータ及び前記第2インバータの駆動を制御して、前記モータを駆動する駆動制御部と、を備え、前記駆動制御部は、前記モータの回転速度が所定速度以下の場合に、前記第1インバータ及び前記第2インバータの一方のインバータにおいて、3相の正極側の前記スイッチング素子を同時にオンするとともに3相の負極側の前記スイッチング素子を同時にオフするか、または3相の負極側の前記スイッチング素子を同時にオンするとともに3相の正極側の前記スイッチング素子を同時にオフする、モータシステムである。
【0007】
かかる構成とすることで、モータの回転速度が所定速度以下の場合に、一方のインバータにおいて、3相の正極側または負極側のスイッチング素子が同時にオンされ、逆の極のスイッチング素子が全部オフされる。一方のインバータでは、3相のうち、2相のスイッチング素子に電流が流れ、残りの1相では整流素子に電流が流れることで、一方のインバータがモータの中性点として使用される。一方のインバータ側の電源からはモータに電流が流れない。このため、一方のインバータにおいて、オフされる側の1つのスイッチング素子に集中して大電流が流れることを抑制できるので、極低速時にインバータの素子温度の上昇を抑制できる。さらに、モータが極低速で回転する場合に、一方のインバータにおいて、オンされた状態のスイッチング素子は、頻繁なスイッチングを行う必要がない。これにより、インバータの制御性を高くできる。
【発明の効果】
【0008】
本明細書に開示のモータシステムによれば、極低速時にインバータの素子温度の上昇を抑制できるとともに、インバータの制御性を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るモータシステムの全体構成を示す図である。
図2】制御装置の構成を示す図である。
図3】1つのインバータの場合におけるモータ電圧ベクトルVを説明する図である。
図4】2つのインバータの場合におけるモータ電圧ベクトルVの分配例を示す図である。
図5】実施形態において、第1インバータ及び第2インバータの制御方法を示すフローチャートである。
図6】実施形態において、ロック時における第1、第2各インバータの通電状態を示す図である。
図7】比較例において、ロック時における第1、第2各インバータの通電状態を示す図である。
図8】実施形態の別例において、ロック時における第1、第2各インバータの通電状態を示す図である。
図9】実施形態の別例において、第1インバータ及び第2インバータの制御方法を示すフローチャートである。
図10】実施形態の別例において、ロック時に、3相同時にオンするスイッチング素子が変化する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、モータシステムの構成について図面を参照して説明する。以下では全ての図面において同等の要素には同一の符号を付して説明する。なお、本開示は、ここに記載される例に限定されるものではない。
【0011】
「システム構成」
図1は、モータシステムの構成を示す図である。モータ10は、動力を生成する電動機として機能するだけでなく、電力を生成する発電機としても機能する。モータ10はU,V,W相の3相のモータであり、3相のコイル10u,10v,10wを有している。
【0012】
各コイル10u,10v,10wは、リアクトル成分、抵抗成分、誘起電力(逆起電力)成分からなるため、図においてはこれらを直列接続したものとして示している。なお、モータシステムは車両に搭載され、モータ10は車両走行の駆動力を発生する電動機、あるいは、エンジン動力または制動トルクにより発電する発電機として機能する。
【0013】
3相のコイル10u,10v,10wの一端には、直流電力を交流電力に変換する第1インバータ12が接続され、3相のコイル10u,10v,10wの他端には、直流電力を交流電力に変換する第2インバータ14が接続されている。第1インバータ12には、第1コンデンサ16及び第1電池18が並列接続され、第2インバータ14には、第2コンデンサ20及び第2電池22が並列接続されている。この例では、第1及び第2電源として、それぞれ二次電池である第1及び第2電池18,22を使用しているが、それぞれコンデンサなどの別の蓄電手段としてもよい。
【0014】
第1インバータ12及び第2インバータ14の構成は同一であり、いずれも、並列接続された三つのレグを有し、各レグは、直列接続された2つのアーム(正極アーム及び負極アーム)を有しており、各相のレグの中間点が対応する相のコイル10u,10v,10wの端部にそれぞれ接続されている。そのため、力行の際には、第1電池18からの直流電力が第1インバータ12で交流電力に変換されてモータ10に出力され、回生(発電)の際にはモータ10からの電力が第1インバータ12を介し第1電池18に供給される。また、第2インバータ14、第2電池22もモータ10と同様の電力のやり取りを行う。
【0015】
各アームは、スイッチング素子u1~u4、v1~v4、w1~w4と、スイッチング素子と逆方向に電流を流す整流素子(例えば逆流ダイオード)D1、D2が並列接続されて構成される。スイッチング素子u1~u4、v1~v4、w1~w4は、例えばIGBTなどのトランジスタである。これにより、第1インバータ12は、3相のそれぞれで正極側、負極側に分かれて接続されたスイッチング素子u1、u2、v1、v2、w1、w2と、各スイッチング素子に並列に電流が逆方向に流れるように接続された整流素子D1とを有する。スイッチング素子u1、u2、v1、v2、w1、w2は、第1のスイッチング素子に相当し、整流素子D1は、第1整流素子に相当する。
【0016】
第2インバータ14は、3相のそれぞれで正極側、負極側に分かれて接続されたスイッチング素子u3、u4、v3、v4、w3、w4と、各スイッチング素子に並列に電流が逆方向に流れるように接続された整流素子D2とを有する。スイッチング素子u3、u4、v3、v4、w3、w4は、第2のスイッチング素子に相当し、整流素子D2は、第2整流素子に相当する。
【0017】
正極側(図1の上側)である正極アームのスイッチング素子u1、u3、v1、v3、w1、w3をオンすることで対応する相のコイルに向けて電流が流れる。負極側(図1の下側)である負極アームのスイッチング素子u2、u4、v2、v4、w2、w4をオンすることで対応する相のコイルから電流が引き抜かれる。
【0018】
制御装置24が電池情報、モータ情報、車両情報などに基づき、第1インバータ12、及び第2インバータ14のスイッチング信号を作成し、これらのスイッチングを制御する。速度検出部62がモータ10の回転速度を検出し、その検出信号が制御装置24の駆動制御部60に供給される。速度検出部62は、例えばレゾルバを含んで構成される。速度検出部62の機能の一部が、制御装置24により実現されてもよい。例えば、速度検出部が、モータのロータ回転角θを検出する角度検出部と、角度検出部の検出信号からモータの回転速度を算出する速度算出部とから構成されてもよい。速度算出部は、制御装置24の一部の機能により実現する。
【0019】
「制御装置の構成」
図2には、制御装置24の構成が示されている。車両制御部30には、アクセルペダル、ブレーキペダルの操作量、車速など車両走行に関する車両情報、第1電池18及び第2電池22の充電状態(SOC1,SOC2)、温度(T1,T2)などの電池情報が供給される。
【0020】
そして、車両制御部30は、アクセルペダル、ブレーキペダルの操作量などから、モータ10の出力要求(目標出力トルク)についてのトルク指令を算出する。
【0021】
算出されたトルク指令は、モータ制御部32の電流指令生成部34に供給される。電流指令生成部34は、トルク指令に基づいて、モータ10のベクトル制御における目標となる電流指令であるd軸、q軸電流idcom,iqcomを算出する。
【0022】
3相/2相変換部36には、第1電池18、第2電池22の電池電圧VB1,VB2、モータ10のロータ回転角θ、現在の各相電流iu,iv,iwが供給される。3相/2相変換部36は、検出された各相電流iu,iv,iwをd軸、q軸電流id,iqに変換する。
【0023】
電流指令生成部34からの目標となる電流指令(d軸、q軸電流)idcom,iqcomと、3相/2相変換部36からの現在のd軸、q軸電流id,iqは、PI制御部38に供給され、電圧ベクトルV(d軸励磁電圧指令vd、q軸トルク電圧指令vq)が算出される。PI制御部38は、P(比例)制御、I(積分)制御などのフィードバック制御により電圧指令(モータ電圧ベクトルV(vd、vq))を算出する。なお、予測制御などのフィードフォワード制御を組み合わせてもよい。
【0024】
算出されたモータ電圧ベクトルV(電圧指令vd,vq)は、分配部40に供給される。分配部40は、モータ電圧ベクトルV(電圧指令vd,vq)を、第1インバータ12用の第1インバータ電圧ベクトルV(INV1)(電圧指令vd1,vq1)と、第2インバータ14用の第2インバータ電圧ベクトルV(INV2)(電圧指令vd2,vq2)に分配する。分配部40の分配については後述する。
【0025】
分配部40からの電圧指令vd1,vq1は2相/3相変換部42に供給され、ここで第1インバータ用の3相の電圧指令Vu1,Vv1,Vw1に変換されて出力され、電圧指令vd2,vq2は、2相/3相変換部44に供給され、ここで第2インバータ用の3相の電圧指令Vu2,Vv2,Vw2に変換されて出力される。
【0026】
2相/3相変換部42からの第1インバータ用の3相の電圧指令Vu1,Vv1,Vw1は第1インバータ制御部46に供給され、第2インバータ用の3相の電圧指令Vu2,Vv2,Vw2は、第2インバータ制御部48に供給される。
【0027】
第1インバータ制御部46には、ロータ回転角θ、第1インバータ入力電圧VH1が供給されており、PWMキャリア(三角波)と電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の比較によって第1インバータ12におけるスイッチング素子のON/OFF用のスイッチング信号を生成し、これを第1インバータ12に供給する。第2インバータ制御部48も同様にして、第2インバータ14におけるスイッチング素子のON/OFF用のスイッチング信号を生成し、これを第2インバータ14に供給する。モータ制御部32、第1インバータ制御部46、第2インバータ制御部48は、駆動制御部60に含まれる。
【0028】
このようにして、制御装置24からの信号によって、第1インバータ12、第2インバータ14のスイッチングが制御され、所望の電流がモータ10に供給される。このとき、第1インバータ制御部46が第1インバータ12の駆動を制御し、第2インバータ制御部48が第2インバータ14の駆動を制御することで、モータ10が駆動される。
【0029】
さらに、駆動制御部60は、3相ON指令部52を含んでいる。3相ON指令部52は、速度検出部62からモータ10の回転速度の検出信号が供給される。3相ON指令部52は、モータ10の回転速度が所定速度以下の場合に、第2インバータ14において、3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4を同時にオンするとともに、3相の正極側のスイッチング素子u3、v3、w3を同時にオフする。このとき、3相ON指令部52は、分配部40と、第2インバータ制御部48とに、第2インバータ14の3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4を同時にオンするための指令信号を供給する。これにより、極低速時にインバータの素子温度の上昇を抑制できる。極低速時のインバータの制御は、後で詳述する。
【0030】
「2つのインバータにおける出力の分配」
図2における分配部40は、上位の制御部である車両制御部30から供給される各種情報(分配用情報)や、第1及び第2インバータ12,14の動作状態を示すインバータ情報などに基づいて、モータ電圧ベクトルV(vd,vq)を、第1及び第2インバータ電圧ベクトルV(INV1)、V(INV2)に分配する。この分配は、モータ電圧ベクトルを維持しつつ、2つのインバータ電圧ベクトルに分配することで、大きさの変更、位相の変更、正負の変更を含む。
【0031】
「出力の分配比率の変更」
このモータ電圧ベクトルVの分配について図3図4を参照して説明する。図3は、1つのインバータの場合におけるモータ電圧ベクトルVを説明する図であり、図4は、2つのインバータの場合におけるモータ電圧ベクトルVの分配例を示す図である。図4において、太実線は、第1インバータ電圧ベクトルV(INV1)を、太破線は、第2インバータ電圧ベクトルV(INV2)を示している。図3図4では、ベクトルが重なる場合に、適宜ずらして、見やすくしている。
【0032】
図3には、1つのインバータによる通常のモータ駆動の際の電圧、電流のベクトル制御について示してある。モータの出力要求に応じて、モータ電圧ベクトルV(d軸電圧vd、q軸電圧vq)、モータ電流ベクトルI(d軸電流id、q軸電流iq)が決定される。そして、モータ電圧×モータ電流が出力(電力)になる。
【0033】
ここで、本例のシステムでは、第1インバータ12、第2インバータ14の2つのインバータを有している。従って、2つのインバータからの出力を均等にしないこともできる。図4では、第1インバータ12の出力についての電圧ベクトルV(INV1)(第1インバータ電圧ベクトル)と、第2インバータの出力についての電圧ベクトルV(INV2)(第2インバータ電圧ベクトル)について、その位相は変更せず、大きさを異ならせている。この場合、モータ10の出力(電力)に変化はないが、第1インバータ12と、第2インバータ14におけるスイッチング信号の形状(波形)が変化する。なお、第1及び第2インバータ12,14の出力のd軸成分をvd(INV1),vd(INV2)とすると、d軸成分vd=vd(INV1)+vd(INV2)であり、q軸成分vq=vq(INV1)+vq(INV2)である。
【0034】
図4に示すように、2つのインバータ出力である、電圧ベクトルV(INV1)、V(INV2)の位相を維持しつつ、分配の比率を変更することで、スイッチング信号の波形が変化する。従って、モータ10への相電圧の形状が変化するとともに、スイッチング回数が増減しパルス幅も変化する。第1インバータ12の電圧ベクトルV(INV1)及び第2インバータ14の電圧ベクトルV(INV2)は、互いに位相を異ならせることもできる。
【0035】
「極低速時のインバータ制御」
モータ10の極低速時には、上述のように速度検出部62、3相ON指令部52を用いて、第1、第2インバータ12,14の一方のインバータを制御することで、インバータの素子温度の上昇を抑制できる。具体的には、3相ON指令部52は、速度検出部62から供給されるロータの回転速度が、極低速に対応する所定速度以下と判定した場合に、分配部40に指令信号を出力し、モータ電圧ベクトルVを、第1インバータ12が100%、第2インバータ14が0%となる比率で分配させる。分配部40は、その指令信号に応じた電圧指令を2相/3相変換部42、44に供給する。
【0036】
さらに、3相ON指令部52は、第2インバータ制御部48に、第2インバータ14において3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4を、同時にオンさせるように指令信号を出力する。第2インバータ制御部48は、その指令信号に応じて、第2インバータ14の3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4を、同時にオンさせる。この状態で、後述のように第2インバータ14はモータ10の中性点として使用され、モータ10は第1電池18からの電流で駆動され、第2電池22からの電流はモータ10に供給されない。
【0037】
図5は、実施形態において、第1インバータ12及び第2インバータ14の制御方法を示すフローチャートである。図5に示す処理は、駆動制御部60(図2)で実行される。ステップS11において、3相ON指令部52(図2)により、モータ10の回転速度が所定速度以下か否かが判定される。所定速度は、例えば、ロック時の0、または0付近の極低速の速度である。ステップS11は、モータ10が通電されていることが確認された場合に実行されてもよい。
【0038】
ステップS11の判定が肯定(YES)の場合には、ステップS12において、3相ON指令部52(図2)が第2インバータ制御部48(図2)を介して第2インバータ14の3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4を同時にオンするとともに、3相の正極側のスイッチング素子u3、v3、w3を同時にオフする。これと同時に、第1インバータ12によりモータ10を停止または回転させ、処理が終了する。
【0039】
ステップS12において、車輪がロック状態であり、モータ10の回転速度が0である場合には、第1インバータ12の各相の所定位置のスイッチング素子のみがオンされることで、モータ10の各コイルに直流電流が流れてモータが停止する。モータの回転速度が0以外の場合、例えばロック状態に近いが、まだ回転している場合には、第1インバータ12のスイッチング素子のみがスイッチング動作することによりモータが回転する。
【0040】
一方、ステップS11の判定が否定(NO)の場合には、ステップS13において、第1、第2インバータ12,14の通常駆動でモータを回転させて、処理が終了する。
【0041】
図6は、実施形態において、モータ10のロック時における第1、第2各インバータ12,14の通電状態を示す図である。図6では、内側に斜線を示した矩形部分によりスイッチング素子がオフされることを示している。また、スイッチング素子の左隣に示した矢印により電流方向を示しており、太線矢印が、細線矢印より大きい電流が流れることを示している。また、破線矢印により整流素子Diの電流方向を示している。以下、整流素子はDiの符号を付して説明する。
【0042】
図6に示す例では、第2インバータ14において、3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4が同時にオンされるとともに、第2インバータ14の3相の正極側のスイッチング素子u3、v3、w3の全部がオフされている。スイッチング素子w4はオンされて通電経路が開いているが、電流は流れず、後述のように、電流はスイッチング素子w4に並列接続された整流素子Diに流れている。
【0043】
一方、第1インバータ12の2相(U相、V相)では、正極側のスイッチング素子u1、v1がオンされ、残りの1相(W相)では負極側のスイッチング素子w2がオンされている。これにより、モータ10の各コイル10u、10v、10wには、図6に各コイル10u、10v、10wの下の矢印で示す方向に直流電流が流れて、モータ10が停止している。このとき、第2インバータ14では、3相の正極側のスイッチング素子u3、v3、w3の全部がオフされているので、第2電池22からの電流はモータ10のコイルには流れない。第1電池18からの電流は、第1インバータ12の正極側の2つのスイッチング素子u1、v1を流れた後、コイル10u、10vを通って、第2インバータ14の負極側の2相(U相、V相)のスイッチング素子u4、v4を流れる。その後、第2インバータ14の負極側の残りの1相(W相)で、整流素子Diに電流が流れた後、コイル10w、第1インバータ12の負極側のスイッチング素子w2を通過する。これにより、第2インバータ14がモータ10の中性点として使用される。また、後で図7を用いて説明する比較例の場合と異なり、第2インバータ14の正極側のスイッチング素子w3に集中して大電流が流れることがない。このため、第2インバータ14において、1つのスイッチング素子に集中して大電流が流れることを抑制できるので、極低速時にインバータの素子温度の上昇を抑制できる。さらに、第2インバータ14で3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4が全部オンされているので、モータ10が極低速で回転する場合にこれらのスイッチング素子u4、v4、w4のオンオフが切り換わる頻繁なスイッチングを行う必要がない。これにより、スイッチングを抑制しながらモータ10を回転させることができるので、インバータの制御性を高くできる。
【0044】
「比較例」
図7は、比較例において、ロック時における第1、第2各インバータ12,14の通電状態を示す図である。比較例では、モータ10のロック時に、例えば第1インバータ12では、2相の正極側のスイッチング素子u1、v1と1相の負極側のスイッチング素子w2がオンされ、第2インバータ14では2相の負極側のスイッチング素子u4、v4と1相の正極側のスイッチングw4がオンされる。図7において、第1インバータ12及びモータ10の各コイル10u、10v、10wの電流方向は、図6の場合と同様である。
【0045】
このような比較例では、第2インバータ14において、1相のスイッチング素子w3に大電流が継続して集中しやすくなる。このため、このスイッチング素子w3の温度が上昇しやすくなる。図1図6の実施形態では、このスイッチング素子w3がオフされ、その代わりにスイッチング素子w4に並列接続された整流素子Diに電流が流れることで、このような不都合を防止できる。
【0046】
「実施形態のモータ回転時の制御」
図1図6に示した実施形態において、モータ10が通電されるがモータ10に作用する負荷トルクが大きくなる等により、ロック状態に近い極低速でモータ10がまだ回転する場合もある。実施形態では、この場合も、第2インバータ14の3相の負極側スイッチング素子u4、v4、w4を同時にオンするように制御することで、一部のスイッチング素子に大電流が長期間継続して流れることを抑制して、第2インバータ14の素子温度の上昇を抑制できる。このときには、第1インバータ12では、モータの回転に応じて各相のスイッチング素子がスイッチングされる。さらに、上記のように第2インバータ14で3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4が全部オンされているので、第2インバータ14のスイッチングを抑制できることにより、インバータの制御性を高くできる。
【0047】
「実施形態の別例」
図8は、実施形態の別例において、ロック時における第1、第2各インバータ12,14の通電状態を示す図である。本例の場合には、図1図6の構成と異なり、駆動制御部60(図2)は、モータ10の回転速度が所定速度以下の場合に、第2インバータ14の3相正極側のスイッチング素子u3、v3、w3を同時にオンするとともに、3相負極側のスイッチング素子u4、v4、w4を同時にオフする。スイッチング素子w3はオンされているが、電流は流れず、スイッチング素子w3に並列接続された整流素子Diに電流が流れる。これにより、第2電池22からの電流はモータ10のコイルには流れない。これとともに、第1インバータ12の2相(U相、V相)では、負極側のスイッチング素子u2、v2がオンされ、残りの1相(W相)では正極側のスイッチング素子w1がオンされている。これにより、モータ10の各コイル10u、10v、10wの電流方向は、図6の場合と逆になるが、直流電流が流れることでモータ10が停止している。この場合も、第2インバータ14の一部のスイッチング素子(本例の場合は負極側のスイッチング素子w4)に大電流が流れることを抑制できるので、インバータの素子温度の上昇を抑制できる。
【0048】
上記の図1図6、または、図8を用いて説明した例では、第2インバータ14の負極側、または正極側の3相のスイッチング素子を同時にオンする場合を説明した。一方、第2インバータ14の代わりに、第1インバータ12において、正極側の3相のスイッチング素子を同時にオンし、負極側の3相のスイッチング素子を同時にオフするか、または、負極側の3相のスイッチング素子を同時にオンし、正極側の3相のスイッチング素子を同時にオフしてもよい。
【0049】
図9は、実施形態の別例において、第1インバータ12及び第2インバータ14の制御方法を示すフローチャートである。図10は、モータのロック時に、3相同時にオンするスイッチング素子が変化する様子を示す図である。
【0050】
本例の場合には、図1図6の構成と異なり、駆動制御部60(図2)は、モータ10の回転速度が所定速度以下の場合に、第1、及び第2インバータ12,14で、3相同時にオンするスイッチング素子を切り換えている。
【0051】
具体的には、図9のステップS21において、3相ON指令部52(図2)により、モータ10の回転速度が所定速度以下か否かが判定される。
【0052】
ステップS21の判定が肯定(YES)の場合には、ステップS22において、図10(a)に示すように、3相ON指令部52が第2インバータ制御部48(図2)を介して第2インバータ14の3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4を同時にオン、3相の正極側のスイッチング素子u3、v3、w3を同時にオフとし、その状態を所定時間継続する。このときの状態は、図6の状態と同じである。このとき、第1インバータ12では各相の所定位置のスイッチング素子u1、v1、w2がオンされてモータ10が停止する。モータ10には、第1電池18からの電流が供給される。
【0053】
次いで、図9のステップS23において、図10(b)に示すように、3相ON指令部52が第2インバータ制御部48を介して第2インバータ14の3相の正極側のスイッチング素子u3、v3、w3を同時にオン、3相の負極側のスイッチング素子u4、v4、w4を同時にオフとし、その状態を所定時間継続する。このときに第1インバータ12でオンされるスイッチング素子は、ステップS21、図10(a)の場合と同様である。
【0054】
次いで、ステップS24において、図10(c)に示すように、3相ON指令部52が第1インバータ制御部46(図2)を介して第1インバータ12の3相の正極側のスイッチング素子u1、v1、w1を同時にオン、3相の負極側のスイッチング素子u2、v2、w2を同時にオフとし、その状態を所定時間継続する。このとき、第2インバータ14では各相の所定位置のスイッチング素子u4、v4、w3がオンされてモータ10が停止する。モータ10には、第2電池22からの電流が供給される。
【0055】
最後に、ステップS25において、図10(d)に示すように、3相ON指令部52が第1インバータ制御部46を介して第1インバータ12の3相の負極側のスイッチング素子u2、v2、w2を同時にオン、3相の正極側のスイッチング素子u1、v1、w1を同時にオフとし、その状態を所定時間継続する。このときに第2インバータ14でオンされるスイッチング素子は、ステップS24、図10(c)の場合と同様である。ステップS25の終了により、処理が終了する。図9のステップS21において、再度、モータ10の回転速度が所定速度以下であると判定されると、再度、ステップS22~S25の処理が繰り返される。ステップS21の判定が否定(NO)の場合のステップS26の処理は、図5のステップS13と同様である。
【0056】
本例の構成によれば、正極側、または負極側でスイッチング素子を3相同時にオンするインバータとは別のインバータの一部のスイッチング素子に、大電流が継続して集中して流れることを抑制できる。例えば、図10(a)(b)では、第1インバータ12のスイッチング素子w2に電流が継続して集中する可能性があるが、図10(c)では、そのスイッチング素子w2がオフされるので、素子温度の上昇を抑制できる。
【0057】
一方、図10(c)(d)では、第2インバータ14のスイッチング素子w3に電流が継続して集中する可能性があるが、図10(a)では、そのスイッチング素子w3がオフされるので、素子温度の上昇を抑制できる。これにより、第1、及び第2インバータ12,14の素子温度の上昇を抑制できる。なお、図9のステップS22~S25の処理の順序ならびに実施処理は図9の例に限定するものではなく、適宜変更することができる。
【0058】
また、第1及び第2インバータ12,14で一部のスイッチング素子に電流が継続して集中することをさらに抑制するために、図9のステップS21で肯定判定(YES)がされた場合に、ステップS22とステップS24とを交互に所定回数繰り返す構成とすることもできる。このとき、図10(a)の状態と図10(c)の状態とが交互に繰り返される。これにより、図10(a)(c)の第1インバータ12のW相負極側のスイッチング素子w2と、第2インバータ14のW相正極側のスイッチング素子w3とで、電流が集中する状態と、通電が停止される状態とを交互に切り換えることができる。このため、一部のスイッチング素子に継続して電流が集中することをさらに抑制できるので、素子温度の上昇をさらに抑制できる。本例において、その他の構成及び作用は、図1図6の構成と同様である。
【0059】
図2において、駆動制御部60は、上位の制御部となる車両制御部30と別の構成とした。しかし、車両制御部30が駆動制御部60の機能を実施してもよい。また、駆動制御部60を下位のマイコンで構成してもよい。さらに、駆動制御部60の一部または全部をハードで構成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 モータ、12 第1インバータ、14 第2インバータ、16,20 コンデンサ、18 第1電池(第1電源)、22 第2電池(第2電源)、24 制御装置、25 充電器、26 リレー、30 車両制御部、32 モータ制御部、34 電流指令生成部、36 3相/2相変換部、38 PI制御部、40 分配部、42,44 2相/3相変換部、46 第1インバータ制御部、48 第2インバータ制御部、52 3相ON指令部、60 駆動制御部、62 速度検出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10