(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】絶縁ゲート型半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20221220BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20221220BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20221220BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01L29/78 658E
H01L29/78 652E
H01L29/78 652J
H01L29/78 652K
H01L29/78 652M
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 655A
H01L29/78 658A
(21)【出願番号】P 2018152425
(22)【出願日】2018-08-13
【審査請求日】2021-07-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161562
【氏名又は名称】阪本 朗
(72)【発明者】
【氏名】磯野 美紀
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 豊
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健志
(72)【発明者】
【氏名】辻 英徳
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-146580(JP,A)
【文献】国際公開第2005/010974(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0145211(US,A1)
【文献】国際公開第2014/155651(WO,A1)
【文献】特開2016-063111(JP,A)
【文献】特開2019-169487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336、29/12、
29/739、29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化シリコンからなる一導電型のチャネル形成領域の上面に炭素原子の数に比べてシリコン原子の数が多い相対シリコン過剰層を形成する工程と、
前記相対シリコン過剰層をV族元素からなる置換原子を含むガスで熱処理して、前記置換原子を前記相対シリコン過剰層の余剰シリコンと結合させた終端層を形成する工程と、
前記チャネル形成領域の上方に前記終端層あるいは前記相対シリコン過剰層を介してゲート絶縁膜を形成する工程と、
前記ゲート絶縁膜の上に、前記チャネル形成領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項2】
反対導電型の輸送領域の上部の一部に、前記チャネル形成領域の前記上面が前記輸送領域の上面と共通の面となるように、前記チャネル形成領域を埋め込む工程と、
前記チャネル形成領域の上部の一部に、前記輸送領域よりも高不純物密度で反対導電型の主電極領域を埋め込む工程と
を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記相対シリコン過剰層は、大気圧の水素ガス雰囲気中、1300℃以上、1500℃以下の範囲での熱処理により炭素原子が格子位置から抜けた空格子点を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記相対シリコン過剰層は、前記炭素原子の数に対する前記シリコン原子の数の比率が1.2以上、1.5以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記相対シリコン過剰層は、前記チャネル形成領域の前記上面にシリコン原子層を堆積して形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記置換原子が窒素原子であり、前記ゲート絶縁膜を形成する前に、前記相対シリコン過剰層を大気圧の窒素ガス雰囲気中、1200℃以上、1500℃以下の範囲で熱処理して、前記終端層が形成されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記終端層の上面に単結晶の窒化アルミニウムを堆積して界面保護層を形成することを特徴とする請求項6に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記置換原子が窒素原子であり、前記ゲート絶縁膜を形成した後に、前記相対シリコン過剰層を大気圧の一酸化窒素ガス雰囲気中、1300℃以上、1500℃以下の範囲で熱処理して前記終端層が形成されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記置換原子の90%以上が前記シリコン原子と3配位の結合状態を取ることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記チャネル形成領域の前記上面の面方位が、(0001)面、(000-1)面、(11-20)面、及び(1-100)面のいずれかであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の絶縁ゲート型半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ゲート型半導体装置の製造方法に係り、特に炭化シリコン(SiC)を用いた絶縁ゲート型半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCを用いたMOS電界効果トランジスタ(FET)では、半導体層上にゲート絶縁膜を形成する際に、高密度の界面準位ができる。そのため、チャネルの移動度が低くなり、MOSFETのオン抵抗等の電気的特性が劣化するという課題がある。これに対して、イオン注入に由来する炭素(C)欠陥が生じた界面を低圧プラズマ窒化によって窒素(N)で終端することで界面準位密度を低減する方法が特許文献1にて提案されている。
【0003】
特許文献1では、表面のシリコン(Si)又は炭素(C)をNで置換した3配位構造は界面準位を持たないことを第一原理計算から明らかにしている。しかし、実際の表面処理においては複雑な反応が起こり、3配位以外の界面準位を持つ構造も形成される。そのため、界面準位密度の低減が困難で、チャネルの移動度が減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を鑑み、界面準位密度の低減ができ、半導体装置の電気的特性の劣化を抑制することが可能な絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、(a)炭化シリコンからなる一導電型のチャネル形成領域の上面に炭素原子の数に比べてシリコン原子の数が多い相対シリコン過剰層を形成する工程と、(b)相対シリコン過剰層をV族元素からなる置換原子を含むガスで熱処理して、置換原子を相対シリコン過剰層の余剰シリコンと結合させた終端層を形成する工程と、(c)チャネル形成領域の上方に終端層あるいは相対シリコン過剰層を介してゲート絶縁膜を形成する工程と、(d)ゲート絶縁膜の上に、チャネル形成領域の表面ポテンシャルを制御するゲート電極を形成する工程と、を含む絶縁ゲート型半導体装置の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、界面準位密度の低減ができ、半導体装置の電気的特性の劣化を抑制することが可能な絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の一例を示す断面概略図である。
【
図2】SiC半導体層の最表面の構造の一例を説明する結晶格子の概略図である。
【
図3】第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図4】第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図3に引き続く断面概略図である。
【
図5】第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図4に引き続く断面概略図である。
【
図6】第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図5に引き続く断面概略図である。
【
図7】第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図6に引き続く断面概略図である。
【
図8】第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図7に引き続く断面概略図である。
【
図9】比較例1による絶縁ゲート型半導体装置を示す断面概略図である。
【
図10】比較例2による絶縁ゲート型半導体装置を示す断面概略図である。
【
図11】実施例1および比較例1,2の半導体装置の評価結果を示す表である。
【
図12】第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の他の例を説明するための断面概略図である。
【
図13】第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の他の例を説明するための
図12に引き続く断面概略図である。
【
図14】第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の一例を示す断面概略図である。
【
図15】第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図16】第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図15に引き続く断面概略図である。
【
図17】第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図16に引き続く断面概略図である。
【
図18】比較例の半導体装置の一例を示す断面概略図である。
【
図19】第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の移動度の評価結果を示す表である。
【
図20】第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の一例を示す断面概略図である。
【
図21】第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図22】第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図21に引き続く断面図である。
【
図23】第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための
図22に引き続く断面図である。
【
図24】第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の評価結果を示す表である。
【
図25】その他の実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の一例を示す断面概略図である。
【
図26】その他の実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の他の例を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は実際のものとは異なる場合がある。また、図面相互間においても寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。
【0011】
本明細書においてMISトランジスタのソース領域は絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のエミッタ領域として選択可能な「一方の主電極領域(第1主電極領域)」である。又、MIS制御静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)等のサイリスタにおいては、一方の主電極領域はカソード領域として選択可能である。MISトランジスタのドレイン領域は、IGBTにおいてはコレクタ領域を、サイリスタにおいてはアノード領域として選択可能な半導体装置の「他方の主電極領域(第2主電極領域)」である。本明細書において単に「主電極領域」と言うときは、当業者の技術常識から妥当な第1主電極領域又は第2主電極領域のいずれかを意味する。
【0012】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。また以下の説明では、一導電型がp型、これと反対となる反対導電型がn型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、一導電型をn型、反対導電型をp型としても構わない。またnやpに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物密度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし同じnとnとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物密度が厳密に同じであることを意味するものではない。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0013】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置は、MISトランジスタに属するプレーナゲート型MOSFETである。
図1に示すように一導電型(p型)のチャネル形成領域(ベース領域)3を備え、チャネル形成領域3の表面に反転チャネルを形成する。反対導電型(n-型)の輸送領域(ドリフト領域)2を更に備え、チャネル形成領域3は輸送領域2の上部に設けられている。輸送領域2はチャネル形成領域3の表面に形成された反転チャネルを介して注入されたキャリア(電子)がドリフト電界で輸送される領域である。
図1の断面図上、輸送領域2は逆T字型をなしている。そして逆T字型の上部を挟むように、チャネル形成領域3が、輸送領域2の上部の左右に対向して配置されている。チャネル形成領域3の上面と、逆T字型をなす輸送領域2の最上面は、同一の面をなしている。それぞれのチャネル形成領域3の上部には、輸送領域2よりも高不純物密度のn
+型のソース領域(第1主電極領域)4が選択的に設けられる。左右のソース領域4を跨いでチャネル形成領域3及び輸送領域2の上面に、V族元素で終端された終端層8を介して絶縁ゲート型電極構造(9,10)が設けられる。絶縁ゲート型電極構造(9,10)は、酸化膜等からなるゲート絶縁膜9及びゲート絶縁膜9上のゲート電極(制御電極)10で構成される。ゲート電極10は、チャネル形成領域3の表面ポテンシャルを、ゲート絶縁膜9を介して静電的に制御して、チャネル形成領域3の表面に反転チャネルを形成する。
【0014】
終端層8を終端するV族元素として、窒素(N)、燐(P)、砒素(As)等が用いられる。MOSトランジスタのゲート絶縁膜9であるシリコン酸化膜(SiO2膜)の他MISトランジスタの場合は、ゲート絶縁膜9としてシリコン酸窒化(SiON)膜が採用可能である。ゲート絶縁膜9としてストロンチウム酸化物(SrO)膜、アルミニウム酸化物(Al2O3)膜等の誘電体膜を用いてもよい。更に、マグネシウム酸化物(MgO)膜、イットリウム酸化物(Y2O3)膜、ハフニウム酸化物(HfO2)膜、ジルコニウム酸化物(ZrO2)膜、タンタル酸化物(Ta2O2)膜、ビスマス酸化物(Bi2O2)膜等の誘電体膜も採用可能である。又、これら誘電体膜のいずれか1つの単層膜或いはこれらの複数を積層した複合膜等を用いても良い。ゲート電極10の材料としては、例えば燐(P)等の不純物を高濃度に添加したポリシリコン層(ドープドポリシリコン層)が使用可能である。
【0015】
ゲート電極10上には層間絶縁膜11を介してソース電極(表面電極)14が配置される。層間絶縁膜11としては、「NSG」と称される燐(P)や硼素(B)を含まないノンドープのSiO2膜が採用可能である。しかし、層間絶縁膜11としては、燐を添加したシリコン酸化膜(PSG)、硼素を添加したシリコン酸化膜(BSG)、硼素及び燐を添加したシリコン酸化膜(BPSG)、シリコン窒化物(Si3N4)膜等でもよい。
【0016】
層間絶縁膜11の間に露出したソース領域4及びチャネル形成領域3に物理的に接するようにソースコンタクト層12が設けられる。層間絶縁膜11及びソースコンタクト層12を覆うようにバリアメタル層13が設けられる。ソース電極14は、バリアメタル層13及びソースコンタクト層12を介してソース領域4及びチャネル形成領域3にオーミック接続されている。例えば、ソースコンタクト層12がニッケルシリサイド(NiSix)膜、バリアメタル層13が窒化チタン(TiN)膜、ソース電極14がアルミニウム(Al)膜で構成できる。ソース電極14は、ゲート表面電極(図示省略)と分離して配置されている。
【0017】
輸送領域2の下面には、
図1に示すように、輸送領域2に接してn
+型のドレイン領域(第2主電極領域)1が配置されている。ドレイン領域1の下面には、ドレイン電極(裏面電極)15が配置されている。ドレイン電極15としては、例えば金(Au)からなる単層膜や、Al、ニッケル(Ni)、Auの順で積層された金属膜が使用可能である。更にその最下層にモリブデン(Mo)、タングステン(W)等の金属膜やニッケル(Ni)とチタン(Ti)を堆積させてSiCと反応させた合金層を積層してもよい。
【0018】
SiC結晶には結晶多形が存在し、主なものは立方晶の3C、及び六方晶の4H、6Hである。室温における禁制帯幅は3C-SiCでは2.23eV、4H-SiCでは3.26eV、6H-SiCでは3.02eVの値が報告されている。本発明の実施形態では、4H-SiCを用いて説明する。第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置においては、ドレイン領域1はSiCからなる半導体基板(SiC基板)を用いる。SiC基板を用いた場合、輸送領域2はSiCからなるエピタキシャル層(SiC層)で構成された構造を例示する。SiC基板の面方位は、(1-100)面(m面)を用いて説明するが、(11-20)面(a面)、(000-1)面(C 面)、及び(0001)面(Si面)を用いてもよい。
【0019】
図1に示すように、第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、ゲート電極10に電圧を印加してゲート絶縁膜9とチャネル形成領域3との界面にチャネルとなる反転層を形成する。このとき、ソース電極14とドレイン電極15間に電圧を印加することで、ソース領域4からキャリア(電子)がチャネルに注入される。注入されたキャリアは、輸送領域2を走行してドレイン領域1に流れ込む。
【0020】
通常、ゲート絶縁膜9に用いるSiO2膜を熱酸化法等で形成すると、SiO2膜とSiC半導体層の界面にC原子が残留し、高密度の界面準位が形成される。界面準位に電子が捕獲されると、クーロン散乱等により電子移動度が低下する。SiO2膜とSiC半導体層の界面をN原子で終端することで、界面準位密度を低減する方法が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、SiC表面のSi原子又はC原子をN原子で置換した3配位構造が界面準位を持たないことを第1原理計算から明らかにしている。また、界面に導入するN原子の総量を多くして、N原子による終端構造を増加させることも提案されている。
【0021】
しかし、実際の表面終端処理においては、複雑な反応が起こり、3配位以外の構造も形成される。例えば、CN構造が界面準位を作ることが第1原理計算から判明しており、N原子の総量だけでなく、終端構造の化学種まで制御することが必要である。
【0022】
第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、後述するように、終端処理の前に、チャネル層が表面に形成されるチャネル形成領域3の最表面でのC原子数に対するSi原子数のSi/C比率を1.2以上、1.5以下にしている。
図2(a)に示すように、通常の水素(H)終端した表面ではSi/C比率は略1であり、窒化処理を行っても界面準位を作るCN構造等も形成される。一方、
図2(b)に示すように、Si/C比率を略1.2以上1.5以下とすることで、C欠損、即ちC原子の空格子点をN原子が置換することが容易となる。そのため、N原子の90%以上がSi原子と3配位の結合状態(Si
3N)を取るようにすることができる。その結果、界面準位密度を低減し、チャネルの移動度の低下を防止することが可能となる。
【0023】
(第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法)
次に、
図3~
図8に示す工程図を用いて、第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を、プレーナゲート型MOSFETの場合を一例に説明する。なお、以下に述べるMOSFETの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0024】
まず、窒素(N)等のn型不純物が添加されたn
+型のSiC基板(基板)1sを用意する。基板1sは4H-SiC基板であり、面方位が(1-100)面(m面)である。基板1sの上面に、n
-型の輸送領域(ドリフト領域)2をエピタキシャル成長させる。輸送領域2の上面側から、フォトリソグラフィ技術及び多段イオン注入技術などにより、Al等のp型不純物を選択的に注入する。熱処理を行うことにより注入されたp型不純物イオンを活性化させ、
図3に示すように、輸送領域2の上部にp型のチャネル形成領域(ベース領域)3を選択的に形成する。
【0025】
次に、チャネル形成領域3の上面に、フォトリソグラフィ技術及び多段イオン注入技術等を用いて、N等のn型不純物イオンを選択的に注入する。その後、熱処理を行うことにより注入されたn型不純物イオンを活性化させる。この結果、
図4に示すように、チャネル形成領域3の上面にn
+型のソース領域4が選択的に埋め込まれる。
【0026】
次に、大気圧の水素(H
2)ガス中、1300℃以上1500℃以下の温度で1分~5分間の熱処理を行う。この熱処理により、チャネル形成領域3、輸送領域2及びソース領域4の露出面においてC原子が格子位置から抜け空格子点が生成される。この結果、
図5に示すように、露出面の最表面層にSi原子がC原子に比べ相対的に多い相対シリコン過剰層7が形成される。C原子数に対するSi原子数の比率は、1.2以上1.5以下である。このように、相対シリコン過剰層7には余剰Si原子が存在する。なお、Si原子の脱出を抑制するため、H
2ガスに微量、例えば1%以下のシラン(SiH
4)を添加したガスを用いて熱処理を行ってもよい。
【0027】
引き続き、大気圧のN
2ガス中、1200℃以上1500℃以下の温度で5分~60分間、望ましくは10分~15分間の窒化処理を行う。窒化処理により、
図6に示すように、C原子が抜けた空格子点に置換原子のNが置換した終端層8が形成される。終端層8では、N原子は、90%以上が余剰Si原子と3配位の結合状態を取るようにしている。
【0028】
窒化処理後、化学気相成長法(CVD法)等により、
図7に示すように、終端層8の上面にゲート絶縁膜9を堆積する。堆積条件は、例えば減圧下でSiH
4及び酸素(O
2)を用い、400℃以上700℃以下の温度であり、堆積厚さは、例えば100nm程度である。
【0029】
CVD法等により、ゲート絶縁膜9の上面にP等の不純物を高濃度で添加したドープドポリシリコン層を堆積する。引き続き、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング等により、ドープドポリシリコン層及びゲート絶縁膜9の一部を選択的に除去する。この段階でゲート絶縁膜9が除去された部分の終端層8も同時に除去される。ただし、ウェットエッチングを用いて終端層8を残すプロセスでもよい。その結果、
図8に示すように、ソース領域4の一部、チャネル形成領域3及び輸送領域2の上面に堆積されたゲート絶縁膜9、及びドープドポリシリコン層からなるゲート電極10を有する絶縁ゲート型電極構造(9,10)が形成される。
【0030】
次に、CVD法等により、ゲート電極10及びゲート絶縁膜9からなる絶縁ゲート型電極構造(9,10)の上面に絶縁膜を堆積する。そして、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチングにより、堆積した絶縁膜を選択的に除去する。この結果、
図1に示したように、層間絶縁膜11にソースコンタクトホール及びゲートコンタクトホールが開孔される。次いで、スパッタリング法又は蒸着法等により、Ni膜等の金属層を堆積し、フォトリソグラフィ技術及び反応性イオンエッチング(RIE)等を用いて、金属層をパターニングする。その後、高速熱処理(RTA)で例えば1000℃で熱処理をすることでソースコンタクト層12を形成する。次に、スパッタリング法等により、TiN膜及び(Ti)/TiN/Ti積層膜等の金属層を堆積し、フォトリソグラフィ技術及びRIE等を用いて、金属層をパターニングしてバリアメタル層13を形成する。この結果、
図1に示すように、ソースコンタクト層12がチャネル形成領域3及びソース領域4の上面に形成される。また、バリアメタル層13が層間絶縁膜11及びソースコンタクト層12を被覆するように形成される。
【0031】
次に、スパッタリング法等によりAl膜等の金属層を堆積して、ソース電極14を形成する。次いで、スパッタリング法又は蒸着法等により、ドレイン領域1の下面の全面にAu等からなるドレイン電極15を形成する。このようにして、
図1に示した第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置半導体装置が完成する。
【0032】
第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法では、大気圧のH2熱処理により、チャネル形成領域3の最表面にSi/C比率が1.2以上1.5以下の相対シリコン過剰層7を形成している。また、窒化処理を、酸素を含まない大気圧のN2ガス雰囲気で行っている。そのため、界面に残留するC原子を低減することができる。また、C原子の空格子点をN原子が置換することが容易となり、N原子の90%以上がSi原子と3配位の結合状態(Si3N)を取るようにすることができる。その結果、界面準位密度を低減し、チャネルの移動度の低下を防止することが可能となる。
【0033】
第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置について、電界移動度の評価を行った。実施例1の試料は、
図1の構成である。比較例1の試料では、
図9に示すように、相対シリコン過剰層を形成する大気圧のH
2熱処理を行わず、半導体層30の上面を直接窒化処理して終端層18を形成している。比較例2の試料では、
図10に示すように、半導体層30の上面を減圧下、1500℃で5分間加熱処理してSi原子が抜けた欠陥層を窒化処理して終端層18aを形成している。
【0034】
図11には、各半導体装置の輸送領域2の表面をX線光電子分光分析法(XPS)で評価した結果を示す。表面Si/C比は、XPSスペクトルにおいて、検出角度を15°以下で測定したSi2pとC1sの信号のピーク面積比から算出した。N量及びSi
3N量は、XPSスペクトルにおいて、N1sピーク面積と、そのスペクトルをピーク分離したSi
3Nピーク面積の比から算出した。
【0035】
図11の表に示すように、実施例1の試料は、Si/C比が1.2、N量が4.2×10
14cm
-2、Si
3N量が4.2×10
14cm
-2であり、Si
3N比率が100%である。実施例1の試料では、C原子が少ない相対シリコン過剰層が形成され、窒化処理により、終端層8においてN原子のほとんどがSi原子と3配位結合していることが確認できる。一方、比較例1の試料は、Si/C比が1.0、N量が3.2×10
14cm
-2、Si
3N量が2.1×10
14cm
-2であり、Si
3N比率が67%である。比較例1の試料では、C原子が少ない相対シリコン過剰層を形成していないので、窒化処理により、終端層18でのN原子の量も減少し、3配位結合構造も減少している。比較例2の試料は、Si/C比が0.83、N量が4.2×10
14cm
-2、Si
3N量が3.2×10
14cm
-2であり、Si
3N比率が75%である。比較例2の試料では、Si原子の欠損が見られ、終端層18aでのN原子の量は実施例1の試料と同等ではあるが、Si
3N量が減少している。比較例2の試料では、Si原子が抜けた空格子点にNが置換し、CN結合構造が生成されていることを示している。
【0036】
図11には、各半導体装置を用いて評価した電界移動度の結果も示している。実施例1の電界移動度は81cm
2/Vsであるのに対し、比較例1,2の試料はそれぞれ70cm
2/Vs、68cm
2/Vsであり、いずれも実施例1よりも減少している。このように、第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、チャネルの移動度の低下を防止することができる。
【0037】
このように、第1実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、窒化処理の前に、チャネル形成領域3の最表面でのC原子数に対するSi原子数のSi/C比率を1.2以上、1.5以下にした相対シリコン過剰層7を形成している。そのため、相対シリコン過剰層7においてC原子の空格子点をN原子が置換することが容易となり、N原子の90%以上がSi原子と3配位の結合状態(Si3N)を取るようにすることができる。その結果、界面準位密度を低減し、チャネルの移動度の低下を防止することが可能となる。
【0038】
なお、
図5に示したように、相対シリコン過剰層7の形成は、ソース領域4の形成後に大気圧のH
2ガスによる熱処理で行っているが限定されない。例えば、輸送領域2をエピタキシャル成長後に相対シリコン過剰層7を形成してもよい。この場合、相対シリコン過剰層7を形成に引き続き、チャネル形成領域3及びソース領域4が形成される。また、熱処理に代えて、エピタキシャル成長により、相対シリコン過剰層7を形成してもよい。例えば、輸送領域2をエピタキシャル成長後、輸送領域2の上面に、Cを含むガスが供給律速となるような低C/Si比で数nmの厚さでエピタキシャル成長してもよい。この場合のエピタキシャル成長条件は、例えば、SiH
4ガスとプロパン(C
3H
8)ガスを用いる場合、通常の成長条件よりもC
3H
8の分圧を30%~80%程度低減し、1500℃で0.5分ほど成長すればよい。
【0039】
また、上述の説明では、
図6及び
図7に示したように、窒化処理による終端層8を形成後にゲート絶縁膜9を堆積している。しかし、ゲート絶縁膜9を堆積後に窒化処理を行って終端層8を形成してもよい。
【0040】
図12に示すように、相対シリコン過剰層7を形成後に、LPCVD等により、相対シリコン過剰層7の上面にゲート絶縁膜9を堆積する。その後、
図13に示すように、ゲート絶縁膜9の上から相対シリコン過剰層7を窒化して終端層8を形成する。この場合、N
2ガスでは窒化処理はできず、一酸化窒素(NO)ガスを用い、1300℃以上1500℃以下の温度で、30分間程度窒化処理を行うことで、界面準位密度を低減することができる。
【0041】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置は、
図14に示すように、チャネル形成領域3の上に設けられた終端層8a及び終端層8aの上に設けられたゲート絶縁膜9を備える。終端層8aは、
図15に示す、Si/C比率が1.2以上、1.5以下となるように過剰なSi原子を有する相対シリコン過剰層17を窒化することで形成される。第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置は、相対シリコン過剰層17の作製方法が第1実施形態と異なる。他の構成は第1実施形態と同様であるので重複する記載は省略する。
【0042】
第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、過剰なSi原子を有する相対シリコン過剰層17をチャネル形成領域(ベース領域)3の最表面に設け、Si/C比率を1.2以上、1.5以下にしている。そのため、Si原子の間の空格子点をN原子が置換することが容易となる。そのため、N原子の90%以上がSi原子と3配位の結合状態(Si3N)を取るようにすることができる。その結果、界面準位密度を低減し、チャネルの移動度の低下を防止することが可能となる。
【0043】
(第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法)
次に、
図15~
図17に示す工程図を用いて、第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を、プレーナゲート型MOSFETの場合を一例に説明する。なお、以下に述べるMOSFETの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0044】
まず、
図3に示したように、窒素(N)等のn型不純物が添加されたn
+型のSiC基板(基板)1sを用意する。基板1sは4H-SiC基板であり、面方位が(1-100)面(m面)である。基板1sの上面に、n
-型の輸送領域(ドリフト領域)2をエピタキシャル成長させる。輸送領域2の上面側から、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入技術などにより、Al等のp型不純物を選択的に注入する。熱処理を行うことにより注入されたp型不純物イオンを活性化させ、輸送領域2の上部にp型のチャネル形成領域3を選択的に形成する。
【0045】
図4に示したように、チャネル形成領域3の上面に、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入技術等を用いて、N等のn型不純物イオンを選択的に注入する。その後、熱処理を行うことにより注入されたn型不純物イオンを活性化させる。この結果、チャネル形成領域3の上面にn
+型のソース領域4が選択的に埋め込まれる。
【0046】
次に、減圧H
2雰囲気中、1500℃程度で平坦化処理を行う。引き続き、分子線エピタキシ法(MBE)等により、真空中、20℃以上100℃以下の温度でSi分子線をチャネル形成領域3、輸送領域2及びソース領域4の上面に照射し、Siを1原子層~2原子層程度の厚さで堆積する。引き続き、真空中、800℃以上1100℃以下の温度で熱処理を行い、
図15に示すように、Si原子が過剰な相対シリコン過剰層17を形成する。水素による平坦化処理でSi原子が抜けるがMBEで堆積したSi原子によって補充することができる。また、Si原子は、Si/C比率が1.2以上1.5以下となるように堆積する。
【0047】
次に、大気圧のN
2ガス中、1200℃以上1500℃以下の温度で5分~60分間、望ましくは10分~15分間の窒化処理を行う。窒化処理により、
図16に示すように、Si原子の間の空格子点に置換原子のNが置換した終端層8aが形成される。終端層8aでは、N原子の90%以上が余剰Si原子と3配位の結合状態を取るようにしている。
【0048】
窒化処理後、LPCVD等により、終端層8aの上面にゲート絶縁膜9を堆積する。堆積条件は、例えばSiH
4及びO
2を用い、400℃以上700℃以下の温度であり、堆積厚さは、例えば100nm程度である。引き続き、CVD等により、ゲート絶縁膜9の上面にポリシリコン層を堆積する。フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング等により、ポリシリコン層及びゲート絶縁膜9の一部を選択的に除去する。この段階でゲート絶縁膜9が除去された部分の終端層8も同時に除去される。その結果、
図17に示すように、ソース領域4の一部、チャネル形成領域3及び輸送領域2の上面に終端層8aを介して堆積されたゲート絶縁膜9、及びポリシリコン層からなるゲート電極10を有する絶縁ゲート型電極構造(9,10)が形成される。
【0049】
CVD法等により、ゲート電極10及びゲート絶縁膜9からなる絶縁ゲート型電極構造(9,10)の上面に
図14に示した層間絶縁膜11を形成する。次いで、スパッタリング法又は蒸着法等により、Ni膜等の金属層を堆積し、フォトリソグラフィ技術、RIE及びRTA等を用いて、ソースコンタクト層12を形成する。次に、スパッタリング法等により、TiN膜及び(Ti)/TiN/Ti積層膜等の金属層を堆積し、フォトリソグラフィ技術及びRIE等を用いて、バリアメタル層13を形成する。更に、スパッタリング法等によりAl膜等の金属層を堆積して、ソース電極14を形成する。次いで、スパッタリング法又は蒸着法等により、ドレイン領域1の下面の全面にAu等からなるドレイン電極15を形成する。このようにして、
図14に示した第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置が完成する。
【0050】
第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、過剰なSi原子を有する相対シリコン過剰層17をチャネル形成領域3の最表面に設け、Si/C比率を1.2以上、1.5以下にしている。そのため、Si原子の間の空格子点をN原子が置換することが容易となる。そのため、N原子の90%以上がSi原子と3配位の結合状態(Si3N)を取るようにすることができる。その結果、界面準位密度を低減し、チャネルの移動度の低下を防止することが可能となる。
【0051】
実施例2の試料として、
図14に示した半導体装置を用い、電界移動度の評価を行っている。比較例3の試料として、
図18に示すように、Si原子が過剰な相対シリコン過剰層17を形成せずに窒化処理を行った終端層18bを有する半導体装置を準備した。窒化処理及びゲート絶縁膜9の条件は、実施例2の試料と同様である。
【0052】
図19に、移動度の評価結果を示す。
図19の表に示すように、実施例2の試料の電界移動度が82cm
2/Vsであるのに対し、比較例3の試料は65cm
2/Vsと減少している。このように、第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、チャネルの移動度の低下を防止することができる。
【0053】
一般的に、SiCを用いるMOSFETでは、ゲート絶縁膜界面でのラフネス散乱等のキャリア散乱により移動度が低下する。ゲート絶縁膜をCVD等で堆積して形成する場合、従来では犠牲酸化や水素熱処理などを経て、ゲート絶縁膜が成膜される。よって、成膜前の表面形状がラフネス散乱に影響する。比較例3の試料での前処理では界面のSiCの組成が炭素過剰となる。その結果、比較例3の試料では、ミクロな表面荒れが発生し、ラフネス散乱を低減することが難しい。一方、実施例2の試料では、MBEによりSi原子を堆積しているので、界面の平坦化ができる。更に、界面がSi過剰の組成となり、表面のあれを抑制することが可能となる。
【0054】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置は、
図20に示すように、チャネル形成領域(ベース領域)3の上に設けられた終端層8、終端層8の上に設けられた界面保護層27、及び界面保護層27の上に設けられたゲート絶縁膜9を備える。界面保護層27には、禁制帯幅が6.2eVの窒化アルミニウム(AlN)が用いられる。第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置は、終端層8とゲート絶縁膜9との間に界面保護層27が設けられる点が第1及び第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置と異なる。他の構成は第1及び第2実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置と同様であるので重複する記載は省略する。
【0055】
SiC半導体層の表面を窒化処理した後に酸化膜を形成する場合、酸化膜形成過程で、窒化処理した半導体層表面のN原子の面密度が減少する可能性があり、界面特性の向上が限定的になる。第3実施形態では、窒化処理して形成した終端層8の上面にAlN等からなる界面保護層27を堆積する。チャネル形成領域3の上面に形成される終端層8が界面保護層27で覆われる。そのため、終端層8のN原子の面密度の減少を防止することができ、界面特性、特に界面準位密度を低減することが可能となる。なお、AlNとSiCとの間の格子不整合は、略0.9%であり、堆積するAlN膜の厚さは、5nm以上30nm以下が望ましい。また、窒化ボロンアルミニウムガリウム(BxAl1-x-yGayN)層(x<0.4、y<0.4)等の混晶を用いてもよい。混晶の組成を調整することによりSiC層との格子整合を取ることができる。
【0056】
(第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法)
次に、
図21~
図23に示す工程図を用いて、第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置の製造方法を、プレーナゲート型MOSFETの場合を一例に説明する。なお、以下に述べるMOSFETの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0057】
まず、
図3に示したように、窒素(N)等のn型不純物が添加されたn
+型のSiC基板(基板)1sを用意する。基板1sは4H-SiC基板であり、面方位が(1-100)面(m面)である。基板1sの上面に、n
-型の輸送領域(ドリフト領域)2をエピタキシャル成長させる。輸送領域2の上面側から、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入技術などにより、Al等のp型不純物を選択的に注入する。熱処理を行うことにより注入されたp型不純物イオンを活性化させ、輸送領域2の上部にp型のチャネル形成領域(ベース領域)3を選択的に形成する。
【0058】
図4に示したように、チャネル形成領域3の上面に、フォトリソグラフィ技術及びイオン注入技術等を用いて、N等のn型不純物イオンを選択的に注入する。その後、熱処理を行うことにより注入されたn型不純物イオンを活性化させる。この結果、チャネル形成領域3の上面にn
+型のソース領域4が選択的に埋め込まれる。
【0059】
次に、大気圧の水素(H
2)ガス中、1300℃以上1500℃以下の温度で1分~5分間の熱処理を行う。この熱処理により、チャネル形成領域3、輸送領域2及びソース領域4の露出面においてC原子が格子位置から抜け空格子点が生成される。この結果、
図5に示したように、露出面の最表面層にC原子がSi原子に比べ相対的に少ない相対シリコン過剰層が形成される。C原子数に対するSi原子数の比率は、1.2以上1.5以下である。このように、相対シリコン過剰層7には余剰Si原子が存在する。なお、Si原子の脱出を抑制するため、H
2ガスに微量、例えば1%以下のシラン(SiH
4)を添加したガスを用いて熱処理を行ってもよい。
【0060】
次に、大気圧のN
2ガス中、1200℃以上1500℃以下の温度で5分~60分間、望ましくは10分~15分間の窒化処理を行う。窒化処理により、
図21に示すように、Si原子の間の空格子点に置換原子のNが置換した終端層8が形成される。終端層8では、N原子の90%以上が余剰Si原子と3配位の結合状態を取るようにしている。
【0061】
窒化処理後、減圧有機金属化学気相成長法(LPMOCVD)等により、
図22に示すように、終端層8の上面に、AlNからなる界面保護層27を堆積する。堆積条件は、例えばトリメチルアルミニウム(TMA)及びアンモニア(NH
3)を用い、300℃以上500℃以下の温度であり、堆積厚さは、5nm以上30nm以下である。なお、LPMOCVDによる原子層堆積法(ALD)は、原子層単位で成膜できるので、好ましい。
【0062】
AlN堆積後、LPCVD等により、界面保護層27の上面にゲート絶縁膜9を堆積する。堆積条件は、例えばSiH
4及びO
2を用い、400℃以上700℃以下の温度であり、堆積厚さは、例えば100nm程度である。引き続き、CVD等により、ゲート絶縁膜9の上面にポリシリコン層を堆積する。フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング等により、ポリシリコン層、ゲート絶縁膜9及び界面保護層27の一部を選択的に除去する。この段階で界面保護層27が除去された部分の終端層8も同時に除去される。その結果、
図23に示すように、ソース領域4の一部、チャネル形成領域3及び輸送領域2の上面に、界面保護層27及び終端層8を介して堆積されたゲート絶縁膜9、及びポリシリコン層からなるゲート電極10を有する絶縁ゲート型電極構造が形成される。
【0063】
CVD法等により、ゲート電極10及びゲート絶縁膜9からなる絶縁ゲート型電極構造の上面に
図20に示した層間絶縁膜11を形成する。次いで、スパッタリング法又は蒸着法等により、Ni膜等の金属層を堆積し、フォトリソグラフィ技術、RIE及びRTA等を用いて、ソースコンタクト層12を形成する。次に、スパッタリング法等により、TiN膜及び(Ti)/TiN/Ti積層膜等の金属層を堆積し、フォトリソグラフィ技術及びRIE等を用いて、バリアメタル層13を形成する。更に、スパッタリング法等によりAl膜等の金属層を堆積して、ソース電極14を形成する。次いで、スパッタリング法又は蒸着法等により、ドレイン領域1の下面の全面にAu等からなるドレイン電極15を形成する。このようにして、
図20に示した第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置が完成する。
【0064】
第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、窒化処理して形成した終端層8の上面にAlN等からなる界面保護層27を堆積する。チャネル形成領域3の上面に形成される終端層8は、ゲート絶縁膜9の形成時には界面保護層27で覆われる。そのため、終端層8のN原子の面密度の減少を防止することができる。その結果、界面準位密度を低減し、チャネルの移動度の低下を防止することが可能となる。
【0065】
第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置に係る半導体装置を、実施例3の試料として作製し、電界移動度の評価を行った。比較のために、上面に終端層8を設け、界面保護層27は設けていない実施例1の試料も同時に評価した。
【0066】
図24には、各半導体素子の電界移動度及び表面窒素面密度の評価結果を示す。N原子の面密度については、電界移動度の測定後に絶縁ゲート型電極構造をフッ酸(HF)等によりウェットエッチングで除去してXPSで評価した。
【0067】
図24の表に示すように、実施例3の試料は、電界移動度が90cm
2/Vsであり、実施例1の試料よりも大きい。また、半導体層30の表面におけるN原子の面密度は、実施例3の試料が1.2×10
15cm
-2である。実施例1の試料のN原子の面密度は、4.2×10
14cm
-2である。実施例3の試料に比べて、実施例1の試料では終端層8のN原子面密度が減少している。
【0068】
SiC半導体層30の最表面のSi原子又はC原子の面密度は、1.22×10
15cm
-2である。N原子が最表面のSi原子を終端した場合、N原子の面密度は1.22×10
15cm
-2程度となる。
図24の表から、実施例3の試料では、半導体層30の最表面のSi原子を窒化した終端構造が維持されていることが理解できる。これに対し、界面保護層27がないと、実施例1の試料に見られるように、窒化した終端構造は維持することが困難となることがわかる。
【0069】
このように、第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置では、窒化処理して形成した終端層8の上面にAlN等からなる界面保護層27を堆積する。そのため、終端層8のN原子の面密度の減少を防止することができる。その結果、界面準位密度を低減し、チャネルの移動度の低下を防止することが可能となる。
【0070】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明の第1~第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0071】
上述のように、第1~第3実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置に係る半導体装置においては、4H-SiCを用いたプレーナゲート型MOSFETを例示したが、6H-SiC、3C-SiCを用いた半導体装置に適用することも可能である。更に、トレンチゲート型MOSFETにも適用することも可能である。例えば、
図25に示すように、ソース領域4の上面から、ソース領域4及びチャネル形成領域3を貫通して輸送領域2に達するようにトレンチ6を設ける。トレンチ6の底面及び側面を窒化して終端層8を設ける。トレンチ6の底面及び側面に終端層8を介してゲート絶縁膜9が設けられる。トレンチ6内にはゲート絶縁膜9を介してゲート電極10が埋め込まれ、絶縁ゲート型電極構造(9,10)が構成される。また、
図26に示すように、終端層8とゲート絶縁膜9の間に界面保護層27を設けてもよい。
【0072】
図1等では逆T字型をなす輸送領域2の上部を挟むように1対のベース領域がチャネル形成領域3として左右に対向して配置された構造を示したが、例示に過ぎない。半導体基板そのものをチャネル形成領域3とし、チャネル形成領域3の一部を挟むように第1及び第2の主電極領域を互いに対峙させた構造でもよい。第1及び第2の主電極領域が半導体基板の上面に対峙する構造の場合も、チャネル形成領域の上面には、最表面層のシリコン原子がV族元素の置換原子と結合した終端層が設けられる。また、この終端層の上面に、単結晶の窒化アルミニウムからなる界面保護層を設けてもよい。更に、この終端層又は界面保護層の上面にゲート絶縁膜を介してゲート電極が配置されることにより絶縁ゲート型半導体装置が構成できる。ゲート電極は、チャネル形成領域の表面ポテンシャルを、ゲート絶縁膜を介して静電的に制御して、チャネル形成領域3の表面に反転チャネルを形成する。
【0073】
このように、上記の実施形態及び各変形例において説明される各構成を任意に応用した構成等、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0074】
1…ドレイン領域(第2主電極領域)
1s…基板
2…輸送領域(ドリフト領域)
3…チャネル形成領域(ベース領域)
4…ソース領域(第1主電極領域)
6…トレンチ
7…相対シリコン過剰層
8、8a、18、18a、18b…終端層
9…ゲート絶縁膜
10…ゲート電極(制御電極)
11…層間絶縁膜
12…ソースコンタクト層
13…バリアメタル層
14…表面電極(ソース電極)
15…裏面電極(ドレイン電極)
27…界面保護層
30…半導体層
40…表面電極
41…裏面電極