(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20221220BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20221220BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20221220BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20221220BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L29/78 653C
H01L29/78 652J
H01L29/78 658G
H01L29/78 658Z
H01L29/78 658F
H01L29/78 655A
H01L21/302 104Z
(21)【出願番号】P 2018156656
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正和
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-019045(JP,A)
【文献】特開2017-139441(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042333(WO,A1)
【文献】特開2012-004312(JP,A)
【文献】特開2014-053595(JP,A)
【文献】特開2006-108243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板のおもて面に、前記半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程と、
前記第1半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面に選択的に第2導電型の第2半導体層を形成する第2工程と、
前記第2半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第1半導体領域を形成する第3工程と、
前記第2半導体層および前記第1半導体領域を貫通して、前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第4工程と、
前記トレンチに水素アニールを行う第5工程と、
前記水素アニール後の前記トレンチに等方性ドライエッチングを行う第6工程と、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を形成する第7工程と、
前記トレンチの内部の前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する第8工程と、
前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜を形成する第9工程と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体層に電気的に接続される第1電極を形成する第10工程と、
前記半導体基板の裏面に第2電極を形成する第11工程と、
を含
み、
前記第6工程では、前記トレンチのエッチング量は30nm以上であることを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第6工程より後、前記第7工程より前、または、前記第5工程より後、前記第6工程より前に、
前記第2半導体層、前記第1半導体領域上にフィールド酸化膜を堆積する第12工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程より後、前記第2工程より前に、
前記第1半導体層の内に選択的に前記トレンチの底部と接し、幅が前記トレンチの幅よりも広い第2導電型の第2半導体領域を形成する第13工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第7工程より後、前記第8工程より前に、
前記ゲート絶縁膜に堆積後アニールを行う第14工程を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板のおもて面に設けられた、前記半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層と、
前記第1半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面に選択的に設けられた第2導電型の第2半導体層と、
前記第2半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記第2半導体層および前記第1半導体領域を貫通して、前記第1半導体層に達するトレンチと、
前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記ゲート電極上に設けられた層間絶縁膜と、
前記第1半導体領域および前記第2半導体層に電気的に接続される第1電極と、
前記半導体基板の裏面に設けられた第2電極と、
を備え、
前記トレンチの底部の隅の曲率半径は、0.2μmより小さく、前記トレンチの開口部の角の曲率半径は、0.3μmより大きいことを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記トレンチの底部の隅の曲率半径に対する前記トレンチの開口部の角の曲率半径の比は、1.5より大きいことを特徴とする請求項5に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記第1半導体層の内に選択的に設けられた前記トレンチの底部と接する第2導電型の第2半導体領域をさらに備え、
前記第2半導体領域の幅は、前記トレンチの幅よりも広いことを特徴とする請求項5または6に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高電圧や大電流を制御するパワー半導体装置の構成材料として、シリコン(Si)が用いられている。パワー半導体装置は、バイポーラトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)など複数種類あり、これらは用途に合わせて使い分けられている。
【0003】
例えば、バイポーラトランジスタやIGBTは、MOSFETに比べて電流密度は高く大電流化が可能であるが、高速にスイッチングさせることができない。具体的には、バイポーラトランジスタは数kHz程度のスイッチング周波数での使用が限界であり、IGBTは数十kHz程度のスイッチング周波数での使用が限界である。一方、パワーMOSFETは、バイポーラトランジスタやIGBTに比べて電流密度が低く大電流化が難しいが、数MHz程度までの高速スイッチング動作が可能である。
【0004】
しかしながら、市場では大電流と高速性とを兼ね備えたパワー半導体装置への要求が強く、IGBTやパワーMOSFETはその改良に力が注がれ、現在ではほぼ材料限界に近いところまで開発が進んでいる。パワー半導体装置の観点からシリコンに代わる半導体材料が検討されており、低オン電圧、高速特性、高温特性に優れた次世代のパワー半導体装置を作製(製造)可能な半導体材料として炭化珪素(SiC)が注目を集めている。
【0005】
炭化珪素は、化学的に非常に安定した半導体材料であり、バンドギャップが3eVと広く、高温でも半導体として極めて安定的に使用することができる。また、炭化珪素は、最大電界強度もシリコンより1桁以上大きいため、オン抵抗を十分に小さくすることができる半導体材料として期待される。このような炭化珪素の特長は、他の、シリコンよりバンドギャップが広いワイドバンドギャップ半導体である、例えば窒化ガリウム(GaN)にもあてはまる。このため、ワイドバンドギャップ半導体を用いることにより、半導体装置の高耐圧化を図ることができる。
【0006】
図15は、従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図15に示すように、炭化珪素からなる半導体基体(以下、炭化珪素半導体基体とする)のおもて面(p型炭化珪素エピタキシャル層103側の面)側に一般的なトレンチゲート構造のMOSゲートを備える。炭化珪素半導体基体(半導体チップ)は、炭化珪素からなるn
+型支持基板(以下、n
+型炭化珪素基板とする)101上にn型炭化珪素エピタキシャル層102、電流拡散領域であるn型高濃度領域106およびp型炭化珪素エピタキシャル層103となる各炭化珪素層を順にエピタキシャル成長させてなる。
【0007】
n型高濃度領域106には、隣り合うトレンチ118間(メサ部)に、第1p+型ベース領域104が選択的に設けられている。第1p+型ベース領域104は、p型炭化珪素エピタキシャル層103に接するように設けられている。また、n型高濃度領域106には、トレンチ118の底面を部分的に覆う第2p+型ベース領域105が選択的に設けられている。第2p+型ベース領域105は、n型炭化珪素エピタキシャル層102に達しない深さで設けられている。第2p+型ベース領域105と第1p+型ベース領域104は同時に形成されてもかまわない。
【0008】
符号107~111、113、115は、それぞれn+型ソース領域、p+型コンタクト領域、ゲート絶縁膜、ゲート電極、層間絶縁膜、ソース電極およびソース電極パッドである。n+型炭化珪素基板101の裏面側には裏面電極114が設けられる。
【0009】
また、チャネル移動度を向上させるために、フッ酸(HF)洗浄、純水洗浄、犠牲酸化、プラズマエッチャー、CDE(Chemical Dry Etching)、または、水素(H2)雰囲気中で水素とSiCとの反応により、表面領域を数nm~0.1μm程度エッチングすることにより、トレンチエッチング後の表面に残るパーティクルや酸化物系残さを除去することが公知である(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、
図15に記載のトレンチゲート構造の炭化珪素半導体装置の製造方法は、n
+型炭化珪素基板101上にn型炭化珪素エピタキシャル層102、電流拡散領域であるn型高濃度領域106およびp型炭化珪素エピタキシャル層103を順にエピタキシャル成長させ、イオン注入により、n
+型ソース領域107、p
+型コンタクト領域108を形成する。この後に、トレンチ118が形成される。
【0012】
図16は、従来の炭化珪素半導体装置のトレンチの製造方法を示すフローチャートである。まず、ドライエッチングによってp型炭化珪素エピタキシャル層103を貫通し、n型高濃度領域106に達するトレンチ118を形成する(ステップS31)。次に、トレンチ形成用のマスク酸化膜を除去する(ステップS32)。次に、トレンチ118の角を丸めるため、トレンチ118に対して水素アニールを行う(ステップS33)。
【0013】
上述したように、従来の製造方法は、n
+型ソース領域107を形成した後にトレンチ118を形成している。このため、トレンチ118形成時のエッチング後の水素アニールで、n
+型ソース領域107の一部がトレンチ118の底方向(
図15のz軸の負方向)にたれていく。たれていったn
+型ソース領域107の一部(以下、ソースだれと称する)がn型高濃度領域106に達すると、ドレイン領域とソース領域が短絡して、ドレイン領域とソース領域にリーク電流(以下、DSリークと称する)が発生し、炭化珪素半導体装置の特性が悪化する。
【0014】
このため、ドライ酸化を行い(ステップS34)、トレンチ118内に犠牲酸化膜を形成し、犠牲酸化膜を除去することで、ソースだれを除去している。DSリークを抑制するため、犠牲酸化膜の膜厚は30nm以上必要であり、従来は犠牲酸化膜の膜厚は60nmとしていた。次に、トレンチ118の底部および側壁に沿ってゲート絶縁膜109を形成する(ステップS35)。次に、ゲート絶縁膜109上に、ゲート電極110を形成する(ステップS36)。
【0015】
このように、従来の製造方法では、DSリークを抑制するため、犠牲酸化膜を形成していたが、犠牲酸化膜により、移動度が減少する。これは、犠牲酸化膜を形成する際に発生した炭素(C)がトレンチ118の側壁に残り、このC残渣により移動度が減少すると推定される。移動度は、半導体装置の各層で電子やホール等のキャリアの移動しやすさを表し、移動度が減少すると半導体装置の動作スピードが遅くなってしまう。
図17は、従来の炭化珪素半導体装置の犠牲酸化膜厚に対する移動度を示すグラフである。
図17において、横軸は犠牲酸化膜の膜厚を示し、単位はnmである。縦軸は移動度(μ
FE)を示し、単位はcm
2/Vsである。
図17に示すように、犠牲酸化膜が厚くなるほど移動度は低下して、60nmの従来条件では、犠牲酸化膜を形成しない場合に比べて移動度が20%程度減少している。
【0016】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、移動度を低下させることなく、トレンチ側壁のソースだれを取り除きDSリークを抑制できる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第1導電型の半導体基板のおもて面に、前記半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層を形成する第1工程を行う。次に、前記第1半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面に選択的に第2導電型の第2半導体層を形成する第2工程を行う。次に、前記第2半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第1半導体領域を形成する第3工程を行う。次に、前記第2半導体層および前記第1半導体領域を貫通して、前記第1半導体層に達するトレンチを形成する第4工程を行う。次に、前記トレンチに水素アニールを行う第5工程を行う。次に、前記水素アニール後の前記トレンチに等方性ドライエッチングを行う第6工程を行う。次に、前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を形成する第7工程を行う。次に、前記トレンチの内部の前記ゲート絶縁膜上にゲート電極を形成する第8工程を行う。次に、前記ゲート電極を覆う層間絶縁膜を形成する第9工程を行う。次に、前記第1半導体領域および前記第2半導体層に電気的に接続される第1電極を形成する第10工程を行う。次に、前記半導体基板の裏面に第2電極を形成する第11工程を行う。前記第6工程では、前記トレンチのエッチング量は30nm以上である。
【0018】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第6工程より後、前記第7工程より前、または、前記第5工程より後、前記第6工程より前に、前記第2半導体層、前記第1半導体領域上にフィールド酸化膜を堆積する第12工程を含むことを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第1工程より後、前記第2工程より前に、前記第1半導体層の内に選択的に前記トレンチの底部と接し、幅が前記トレンチの幅よりも広い第2導電型の第2半導体領域を形成する第13工程を含むことを特徴とする。
【0021】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第7工程より後、前記第8工程より前に、前記ゲート絶縁膜に堆積後アニールを行う第14工程を含むことを特徴とする。
【0022】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。第1導電型の半導体基板のおもて面に、前記半導体基板より低不純物濃度の第1導電型の第1半導体層が設けられる。前記第1半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面に選択的に第2導電型の第2半導体層が設けられる。前記第2半導体層の、前記半導体基板側に対して反対側の表面層に選択的に第1導電型の第1半導体領域が設けられる。前記第2半導体層および前記第1半導体領域を貫通して、前記第1半導体層に達するトレンチが設けられる。前記トレンチの内部にゲート絶縁膜を介してゲート電極が設けられる。前記ゲート電極上に層間絶縁膜が設けられる。前記第1半導体領域および前記第2半導体層に電気的に接続される第1電極が設けられる。前記半導体基板の裏面に第2電極が設けられる。前記トレンチの底部の隅の曲率半径は、0.2μmより小さく、前記トレンチの開口部の角の曲率半径は、0.3μmより大きい。
【0023】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記トレンチの底部の隅の曲率半径に対する前記トレンチの開口部の角の曲率半径の比は、1.5より大きいことを特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1半導体層の内に選択的に設けられた前記トレンチの底部と接する第2導電型の第2半導体領域をさらに備え、前記第2半導体領域の幅は、前記トレンチの幅よりも広いことを特徴とする。
【0025】
上述した発明によれば、水素アニール後にCDEを行っている。これにより、移動度の低下を抑制しつつトレンチ側壁のソースだれを取り除くことが可能になり、炭化珪素半導体装置のDSリークを抑制できる。このため、炭化珪素半導体装置の特性に劣化を抑制でき、信頼性が低下することを抑制できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置によれば、移動度を低下させることなく、トレンチ側壁のソースだれを取り除きDSリークを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチの一例を示す断面図である。
【
図3】従来の炭化珪素半導体装置のトレンチの一例を示す断面図である。
【
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その1)。
【
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その2)。
【
図6】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その3)。
【
図7】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その4)。
【
図8】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その5)。
【
図9】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その6)。
【
図10】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である(その7)。
【
図11】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチの形成方法を示すフローチャートである。
【
図12】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチの他の形成方法を示すフローチャートである。
【
図13】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のエッチング量に対する移動度を示すグラフである。
【
図14】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のエッチング量に対するDSリーク発生率を示すグラフである。
【
図15】従来の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【
図16】従来の炭化珪素半導体装置のトレンチの製造方法を示すフローチャートである。
【
図17】従来の炭化珪素半導体装置の犠牲酸化膜厚に対する移動度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および-は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。+および-を含めたnやpの表記が同じ場合は近い濃度であることを示し濃度が同等とは限らない。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0029】
(実施の形態)
本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製された炭化珪素半導体装置について、MOSFETを例に説明する。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【0030】
図1に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、炭化珪素からなる半導体基体(以下、炭化珪素半導体基体とする)のおもて面(p型炭化珪素エピタキシャル層3側の面)側に一般的なトレンチゲート構造のMOSゲートを備える。炭化珪素半導体基体(半導体チップ)は、炭化珪素からなるn
+型支持基板(以下、n
+型炭化珪素基板とする)1上にn型炭化珪素エピタキシャル層2、電流拡散領域であるn型高濃度領域6およびp型炭化珪素エピタキシャル層3となる各炭化珪素層を順にエピタキシャル成長させてなる。
【0031】
n+型炭化珪素基板(第1導電型の半導体基板)1の第1主面(おもて面)、例えば(0001)面(Si面)に、n型炭化珪素エピタキシャル層(第1導電型の第1半導体層)2が堆積されている。n+型炭化珪素基板1は、例えば窒素(N)がドーピングされた炭化珪素単結晶基板である。n型炭化珪素エピタキシャル層2は、n+型炭化珪素基板1よりも低い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている低濃度n型ドリフト層である。n型炭化珪素エピタキシャル層2の、n+型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面は、n型高濃度領域6が形成されている。n型高濃度領域6は、n+型炭化珪素基板1よりも低くn型炭化珪素エピタキシャル層2よりも高い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている高濃度n型ドリフト層である。以下、n+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素エピタキシャル層2と後述するp型炭化珪素エピタキシャル層(第2導電型の第2半導体層)3とを併せて炭化珪素半導体基体とする。
【0032】
図1に示すように、n
+型炭化珪素基板1の第2主面(裏面、すなわち炭化珪素半導体基体の裏面)には、裏面電極14が設けられている。裏面電極14は、ドレイン電極を構成する。裏面電極14の表面には、ドレイン電極パッド(不図示)が設けられている。
【0033】
炭化珪素半導体基体の第1主面側(p型炭化珪素エピタキシャル層3側)には、ストライプ状のトレンチ構造が形成されている。具体的には、トレンチ18は、p型炭化珪素エピタキシャル層3のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面からp型炭化珪素エピタキシャル層3を貫通してn型高濃度領域6に達する。トレンチ18の内壁に沿って、トレンチ18の底部および側壁にゲート絶縁膜9が形成されており、トレンチ18内のゲート絶縁膜9の内側にストライプ状のゲート電極10が形成されている。ゲート絶縁膜9によりゲート電極10が、n型高濃度領域6およびp型炭化珪素エピタキシャル層3と絶縁されている。ゲート電極10の一部は、トレンチ18の上方(ソース電極パッド15側)からソース電極パッド15側に突出していてもよい。
【0034】
n型高濃度領域6のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面層には、第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5が選択的に設けられている。第2p+型ベース領域5はトレンチ18の下に形成されており、第2p+型ベース領域5の幅はトレンチ18の幅よりも広い。第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5は、例えばアルミニウム(Al)がドーピングされている。
【0035】
第1p+型ベース領域4の一部をトレンチ18側に延在させることで第2p+型ベース領域5に接続した構造となっていてもよい。この場合、第1p+型ベース領域4の一部は、第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5とが並ぶ方向(以下、第1方向とする)xと直交する方向(以下、第2方向とする)yに、n型高濃度領域6と交互に繰り返し配置された平面レイアウトを有していてもよい。例えば、第1p+型ベース領域4の一部を第1方向xの両側のトレンチ18側に延在し、第2p+型ベース領域5の一部と接続する構造を第2方向yに周期的に配置してもよい。その理由は、第2p+型ベース領域5とn型炭化珪素エピタキシャル層2の接合部分でアバランシェ降伏が起こったときに発生するホールを効率よくソース電極13に退避させることでゲート絶縁膜9への負担を軽減し信頼性をあげるためである。
【0036】
n型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側には、p型炭化珪素エピタキシャル層3が設けられている。p型炭化珪素エピタキシャル層3の内部には、基体第1主面側にn+型ソース領域(第1導電型の第1半導体領域)7およびp+型コンタクト領域8が選択的に設けられている。n+型ソース領域7はトレンチ18に接している。また、n+型ソース領域7およびp+型コンタクト領域8は互いに接する。また、n型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側の表面層の第1p+型ベース領域4と第2p+型ベース領域5に挟まれた領域と、p型炭化珪素エピタキシャル層3と第2p+型ベース領域5に挟まれた領域にn型高濃度領域6が設けられている。
【0037】
図1では、2つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチ構造のMOSゲート(金属-酸化膜-半導体からなる絶縁ゲート)構造が並列に配置されていてもよい。
【0038】
層間絶縁膜11は、炭化珪素半導体基体の第1主面側の全面に、トレンチ18に埋め込まれたゲート電極10を覆うように設けられている。ソース電極13は、層間絶縁膜11に開口されたコンタクトホールを介して、n+型ソース領域7およびp+型コンタクト領域8に接する。ソース電極13は、層間絶縁膜11によって、ゲート電極10と電気的に絶縁されている。ソース電極13上には、ソース電極パッド15が設けられている。ソース電極13と層間絶縁膜11との間に、例えばソース電極13からゲート電極10側への金属原子の拡散を防止するバリアメタル(不図示)が設けられていてもよい。
【0039】
図2は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチの一例を示す断面図である。
図3は、従来の炭化珪素半導体装置のトレンチの一例を示す断面図である。ここで、
図2は、トレンチ18形成後、水素アニールを行い、その後、等方性ドライエッチングによりトレンチ18の側壁を45nmエッチングした時のトレンチの一例である。等方性ドライエッチングとして、今回は、CDE(Chemical Dry Etching)を用いた。また、
図3は、トレンチ118形成後、水素アニールを行い、ドライ酸化により犠牲酸化膜を形成し、エッチングにより犠牲酸化膜を除去した時のトレンチの一例である。
【0040】
詳細は製造方法で説明するが、実施の形態の製造方法では、トレンチ18形成後にCDEを行っている。CDEは等方性エッチングであるため、実施の形態の炭化珪素半導体装置のトレンチ18は、従来の炭化珪素半導体装置のトレンチ118に比べて、開口部の角が丸くなって、底部の隅が角張るようになる。トレンチ18の開口部とは、ドライエッチングでトレンチ18を形成した際に半導体層(
図1では、n
+型ソース領域7)に開口している部分であり、開口部の角とは、開口部近傍の半導体層の角になっている部分である。具体的には、
図2のG部である。また、トレンチ18の底部とは、トレンチ18の底の平らな部分であり、底部の隅とは、底部と側壁とが接する部分である。具体的には、
図2のC部である。
【0041】
例えば、
図2に示すように、実施の形態の一例のトレンチ18の開口部の角の曲率半径(Rg)は0.45μmで、
図3に示すように、従来の一例のトレンチ118の開口部の角の曲率半径(Rg’)は0.3μmであり、実施の形態の一例のトレンチ18は、従来の一例のトレンチ118より開口部の角が丸くなっている。また、
図2に示すように、実施の形態の一例のトレンチ18の底部の隅の曲率半径(Rc)は0.03μmで、
図3に示すように、従来の一例のトレンチ118の底部の隅の曲率半径(Rc’)は0.2μmで、実施の形態の一例のトレンチ18は、従来の一例のトレンチ118より底部の隅が角張っている。
【0042】
また、
図2に示すように、実施の形態の一例のトレンチ18のトレンチの底部の隅の曲率半径(Rc)に対するトレンチ18の開口部の角の曲率半径(Rg)の比(Rg/Rc)は15で、
図3に示すように、従来の一例のトレンチ118のトレンチの底部の隅の曲率半径(Rc’)に対するトレンチ118の開口部の角の曲率半径(Rg’)の比(Rg’/Rc’)は1.5で、実施の形態の一例のトレンチ18は、従来の一例のトレンチ118より曲率半径の比が大きくなっている。
【0043】
ここで、角の曲率半径とは、トレンチ18の側壁と半導体層の表面との間の曲がっている部分における点での曲率半径であり、隅の曲率半径はトレンチ18の側壁とトレンチ18の底部との間の曲がっている部分における点での曲率半径である。ここで、
図2のトレンチ18は、トレンチ18の側壁をCDEで45nmエッチングした時のトレンチの一例であり、実施の形態のトレンチ18は、従来のトレンチ118にCDEを行った状態である。このため、実施の形態のトレンチ18の開口部の角の曲率半径(Rg)およびトレンチ18の底部の隅の曲率半径(Rc)はエッチング量によって異なる。実施の形態のトレンチ18では、従来のトレンチ118より開口部の角が丸くなり、底部の隅が角張るため、実施の形態のトレンチ18では、トレンチ18の開口部の角の曲率半径(Rg)は0.3μmより大きくなり、トレンチ18の底部の隅の曲率半径(Rc)は0.2μmより小さくなる。また、トレンチ18のトレンチの底部の隅の曲率半径(Rc)に対するトレンチ18の開口部の角の曲率半径(Rg)の比(Rg/Rc)は1.5より大きくなる。
【0044】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
図4~
図10は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0045】
まず、n型の炭化珪素でできたn
+型炭化珪素基板1を用意する。そして、このn
+型炭化珪素基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aを、例えば30μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。この第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aは、n型炭化珪素エピタキシャル層2となる。ここまでの状態が
図4に示されている。
【0046】
次に、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の下部第1p
+型ベース領域4aを形成する。下部第1p
+型ベース領域4aと同時に、トレンチ18の底部となる第2p
+型ベース領域5を形成してもよい。隣り合う下部第1p
+型ベース領域4aと第2p
+型ベース領域5との距離が1.5μm程度となるよう形成する。下部第1p
+型ベース領域4aおよび第2p
+型ベース領域5の不純物濃度を例えば5×10
18/cm
3程度に設定する。ここまでの状態が
図5に示されている。
【0047】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の下部n型高濃度領域6aを設ける。下部n型高濃度領域6aの不純物濃度を例えば1×1017/cm3程度に設定する。
【0048】
次に、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bを、0.5μm程度の厚さで形成する。第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度が3×1015/cm3程度となるように設定する。以降、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aと第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bを合わせて、n型炭化珪素エピタキシャル層2となる。
【0049】
次に、第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の上部第1p+型ベース領域4bを、下部第1p+型ベース領域4aに重なるように形成する。下部第1p+型ベース領域4aと上部第1p+型ベース領域4bは連続した領域を形成し、第1p+型ベース領域4となる。上部第1p+型ベース領域4bの不純物濃度を例えば5×1018/cm3程度となるように設定する。
【0050】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第2炭化珪素エピタキシャル層2bの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の上部n型高濃度領域6bを設ける。上部n型高濃度領域6bの不純物濃度を例えば1×10
17/cm
3程度に設定する。この上部n型高濃度領域6bと下部n型高濃度領域6aは少なくとも一部が接するように形成され、n型高濃度領域6を形成する。ただし、このn型高濃度領域6が基板全面に形成される場合と、形成されない場合がある。ここまでの状態が
図6に示されている。
【0051】
次に、n型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、アルミニウム等のp型不純物をドーピングしたp型炭化珪素エピタキシャル層3を1.3μm程度の厚さで形成する。p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度は4×10
17/cm
3程度に設定する。ここまでの状態が
図7に示されている。
【0052】
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3および露出したn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。この開口部にリン(P)等のn型の不純物をイオン注入し、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面の一部にn
+型ソース領域7を形成する。n
+型ソース領域7の不純物濃度は、p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。次に、n
+型ソース領域7の形成に用いたイオン注入用マスクを除去し、同様の方法で、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成し、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面の一部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、p
+型コンタクト領域8を設ける。p
+型コンタクト領域8の不純物濃度は、p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。ここまでの状態が
図8に示されている。
【0053】
次に、1700℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理(アニール)を行い、第1p+型ベース領域4、第2p+型ベース領域5、n型高濃度領域6、n+型ソース領域7、p+型コンタクト領域8の活性化処理を実施する。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
【0054】
図11は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチの形成方法を示すフローチャートである。実施の形態のトレンチは、以下のように形成される。まず、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを例えば酸化膜で形成する。次に、ドライエッチングによってp型炭化珪素エピタキシャル層3を貫通し、n型高濃度領域6に達するトレンチ18を形成する(ステップS11)。トレンチ18の底部はn型炭化珪素エピタキシャル層2に形成された第2p
+型ベース領域5に達してもよい。次に、トレンチ形成用のマスク酸化膜を除去する(ステップS12)。
【0055】
次に、トレンチ18の底部およびトレンチ18の開口部の角を丸めるための水素アニールを行う(ステップS13)。水素アニールは、例えば、1500℃で行う。次に、ソースだれを取り除くため、CDEを行う(ステップS14)。CDEは例えば、代表的なフルオロカーボンガスである四フッ化炭素(CF4)と酸素(O2)とを4:1にした混合ガス雰囲気中で圧力を40Paにして、1500Wの電力によるマイクロ波で加熱した。これにより、CF4のプラズマで発生した 反応性の高いフッ素(F)原子(Fラジカル)がSiと反応して蒸気圧の高い四フッ化ケイ素(SiF4)となり排気され,エッチングが可能となる。
【0056】
また、C面は酸化速度が速いため、トレンチ18の底部は、Si面であることが好ましい。また、トレンチ18の側面はm面であることが好ましいが、a面でもかまわない。また、トレンチ18は例えば、幅が0.85μm程度で、深さが1.62μm程度で、アスペクト比(深さ/幅)は、1~3であることが好ましい。
【0057】
ここで、
図13は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のエッチング量に対する移動度を示すグラフである。
図13において、横軸はエッチング量を示し、単位はnmである。縦軸は移動度(μ
FE)を示し、単位はcm
2/Vsである。
図13に示すように、CDEでエッチングした場合、エッチング量に関わらず、移動度は57cm
2/Vs以上であり、従来の60nm程度の犠牲酸化膜を形成した場合の移動度50cm
2/Vsより高く、従来よりも5~10%程度向上している。このように、CDEではトレンチ18の側壁のC残渣が抑制できるため、移動度の低下が抑制されている。また、従来の製造方法のドライ酸化膜形成、ドライ酸化膜削除の2工程を、実施の形態の製造方法では、CDEの1工程のみにすることができる。
【0058】
また、
図14は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のエッチング量に対するDSリーク発生率を示すグラフである。
図14において、横軸はエッチング量を示し、単位はnmである。縦軸はDSリークが発生した割合を示し、単位は%である。
図14に示すように、CDEにより30nm以上エッチングした場合、DSリークが発生した割合が0%になり、トレンチ18側壁のソースだれを取り除きDSリークを抑制できる。このため、ステップS14のCDEによるエッチング量は30nm以上が好ましい。また、エッチング量が多すぎるとn
+型ソース領域7がすべてエッチングされてしまうため、エッチング量はn
+型ソース領域7の厚さ以下、例えば、200nm以下が好ましい。
【0059】
次に、炭化珪素半導体基体のおもて面に沿ってフィールド酸化膜を例えば、膜厚0.5μmで堆積する(ステップS15)。次に、素子構造が形成されオン状態のときに電流が流れる活性領域の周囲を囲んで耐圧を保持するエッジ終端領域の一部にフィールド酸化膜を残すようにエッチング除去する。ここまでの状態が
図9に示されている。
図9は活性領域の構造のみを示しているため、フィールド酸化膜は図示されていない。
【0060】
次に、n+型ソース領域7およびp+型コンタクト領域8の表面と、トレンチ18の底部および側壁と、に沿ってゲート絶縁膜9を形成する(ステップS16)。このゲート絶縁膜9は、酸素雰囲気中において1000℃程度の温度の熱処理で熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート絶縁膜9は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。HTOのような堆積法によってゲート絶縁膜9を形成した場合は、リーク電流の低減および比誘電率の向上のために堆積後アニール(PDA:Post Deposition Anneal)を行ってもよい。
【0061】
次に、ゲート絶縁膜9上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を設ける。この多結晶シリコン層はトレンチ18内を埋めるように形成してもよい。この多結晶シリコン層をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ18内部に残すことによって、ゲート電極10を形成する(ステップS17)。ゲート電極10の一部はトレンチ18外部に突出していてもよい。これにより、
図11のフローチャートが終了し、実施の形態のトレンチが形成される。
【0062】
次に、ゲート絶縁膜9およびゲート電極10を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜11を形成する。次に、層間絶縁膜11を覆うように、チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)からなるバリアメタル(不図示)を形成してもよい。層間絶縁膜11およびゲート絶縁膜9をフォトリソグラフィによりパターニングしn
+型ソース領域7およびp
+型コンタクト領域8を露出させたコンタクトホールを形成する。ここで、ゲート電極がストライプ状であるので、層間絶縁膜に設けられるコンタクトホールもやはりストライプ状となる。その後、熱処理(リフロー)を行って層間絶縁膜11を平坦化する。ここまでの状態が
図10に示されている。
【0063】
次に、コンタクトホール内および層間絶縁膜11の上にソース電極13となるニッケル(Ni)等の導電性の膜を設ける。この導電性の膜をフォトリソグラフィによりパターニングし、コンタクトホール内にのみソース電極13を残す。
【0064】
次に、n+型炭化珪素半導体基板1の第2主面上に、ニッケル等の裏面電極14を設ける。この後、1000℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理を行って、n+型ソース領域7、p+型コンタクト領域8およびn+型炭化珪素半導体基板1とオーミック接合するソース電極13および裏面電極14を形成する。
【0065】
次に、n+炭化珪素半導体基板1の第1主面上に、スパッタ法によって5μm程度の厚さのアルミニウム膜を堆積し、フォトリソグラフィによりソース電極13および層間絶縁膜11を覆うようにアルミニウムを除去し、ソース電極パッド15を形成する。
【0066】
次に、裏面電極14の表面に、例えばチタン(Ti)、ニッケルおよび金(Au)を順に積層することによって、ドレイン電極パッド(不図示)を形成する。以上のようにして、
図1に示す炭化珪素半導体装置が完成する。
【0067】
ここで、
図12は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のトレンチの他の形成方法を示すフローチャートである。この方式では、
図11と同様に、ドライエッチングによってトレンチ18を形成し(ステップS21)、マスク酸化膜を除去し(ステップS22)、水素アニールを行う(ステップS23)。この後、フィールド酸化膜を堆積する(ステップS24)してから、CDEを行う(ステップS25)。
【0068】
この形成方式では、CDEを先に行う
図11の場合に比べて、CDE直後のきれいな界面にゲート酸化膜を形成できる。一方、CDEを先に行う
図11の場合は、CDEによりフィールド酸化膜がエッチングされることがないという利点がある。この後、ゲート絶縁膜9を形成し(ステップS26)、ゲート電極10を形成する(ステップS27)ことで、
図12のフローチャートが終了し、実施の形態のトレンチが形成される。
【0069】
以上、説明したように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、水素アニール後にCDEを行っている。これにより、移動度の低下を抑制しつつトレンチ側壁のソースだれを取り除くことが可能になり、炭化珪素半導体装置のDSリークを抑制できる。このため、炭化珪素半導体装置の特性の劣化を抑制でき、信頼性が低下することを抑制できる。
【0070】
以上において本発明では、炭化珪素でできた炭化珪素基板の主面を(0001)面とし当該(0001)面上にMOSを構成した場合を例に説明したが、これに限らず、ワイドバンドギャップ半導体、基板主面の面方位などを種々変更可能である。また、本発明は、ゲートトレンチ以外のトレンチにも適用可能である。例えば、ソースコンタクト用のトレンチでもメタルカバレッジのためラウンド化が必要なため、水素アニールを行う。ここでもCDEを行うことによりソースだれを取り除くことができる。
【0071】
また、本発明の実施の形態では、トレンチ型MOSFETを例に説明したが、これに限らず、トレンチ構造を有するIGBTなどのMOS型半導体装置など様々な構成の半導体装置に適用可能である。また、上述した各実施の形態では、ワイドバンドギャップ半導体として炭化珪素を用いた場合を例に説明したが、窒化ガリウム(GaN)など炭化珪素以外のワイドバンドギャップ半導体を用いた場合においても同様の効果が得られる。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法および炭化珪素半導体装置は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用される高耐圧半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0073】
1、101 n+型炭化珪素基板
2、102 n型炭化珪素エピタキシャル層
2a 第1n型炭化珪素エピタキシャル層
2b 第2n型炭化珪素エピタキシャル層
3、103 p型炭化珪素エピタキシャル層
4、104 第1p+型ベース領域
4a 下部第1p+型ベース領域
4b 上部第1p+型ベース領域
5、105 第2p+型ベース領域
6、106 n型高濃度領域
6a 下部n型高濃度領域
6b 上部n型高濃度領域
7、107 n+型ソース領域
8、108 p+型コンタクト領域
9、109 ゲート絶縁膜
10、110 ゲート電極
11、111 層間絶縁膜
13、113 ソース電極
14、114 裏面電極
15、115 ソース電極パッド
18、118 トレンチ