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  • 特許-監視装置、電気設備およびガスセンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】監視装置、電気設備およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/117 20060101AFI20221220BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G08B17/117
G01N27/12 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018165017
(22)【出願日】2018-09-04
(65)【公開番号】P2020038471
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-08-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)『平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト/超高効率データ抽出機能を有する学習型スマートセンシングシステム研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適応を受ける特許出願』
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 誠
【審査官】松原 徳久
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-185789(JP,A)
【文献】特開平06-186188(JP,A)
【文献】特開2010-071700(JP,A)
【文献】特開平06-308065(JP,A)
【文献】特開2018-021863(JP,A)
【文献】特開2012-098085(JP,A)
【文献】特開2007-017217(JP,A)
【文献】特開2002-323468(JP,A)
【文献】特開2002-168817(JP,A)
【文献】特開2018-136291(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165182(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K1/00-19/00
G01N25/00-27/24
G08B17/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の触媒を含む第1の選択燃焼層を含む第1のガス感知部と、
第1の触媒とは異なる第2の触媒を含む第2の選択燃焼層を含む第2のガス感知部と、
前記第1のガス感知部におけるガス感知結果と、前記第2のガス感知部におけるガス感知結果とに基づいて、3種類のガス成分の各ガス成分の有無を検知する検知部と
を備えるガスセンサ。
【請求項2】
前記ガスセンサは、1-ブタノール、2-エチル,1-ヘキサノール、および、トリイソプロピルベンゼンの3種類のガス成分のうち、少なくとも1種類のガス成分を検出する
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記第1の触媒は白金パラジウム(PtPd)であり、前記第2の触媒はパラジウム(Pd)である
請求項2に記載のガスセンサ
【請求項4】
前記ガスセンサは、前記第1のガス感知部および前記第2のガス感知部のそれぞれに対してヒーターを有しており、
前記ガスセンサは、前記第1のガス感知部がガスを検知するときのヒーター温度と、前記第2のガス感知部がガスを検知するときのヒーター温度とが異なるように、それぞれの前記ヒーターを制御する
請求項2または3に記載のガスセンサ
【請求項5】
前記ガスセンサは、前記第1のガス感知部および前記第2のガス感知部の一方におけるガス検知結果に基づいて、他方における前記ヒーター温度を制御する
請求項4に記載のガスセンサ
【請求項6】
前記ガスセンサは、監視対象から揮発したガス成分を検出し、
前記検知部は、ガス成分の検知結果に基づいて、いずれの種類の前記監視対象が過熱状態であるかを検知する
請求項2から5のいずれか一項に記載のガスセンサ
【請求項7】
監視対象から揮発したガス成分を検出する第1のガス感知部と前記監視対象から揮発したガス成分を検出する第2のガス感知部と、
前記第1のガス感知部におけるガス感知結果と、前記第2のガス感知部におけるガス感知結果とに基づいて、3種類のガス成分の各ガス成分の有無を検知する検知部と
を備えるガスセンサ。
【請求項8】
前記第1のガス感知部は前記3種類のガス成分のうちの2種類のガス成分に対する感度が前記第2のガス感知部と比べて高く、前記第2のガス感知部は前記3種類のガス成分のうち、前記第1のガス感知部とは異なる組み合わせの2種類のガスに対する感度が前記第1のガス感知部と比べて高い
請求項7に記載のガスセンサ。
【請求項9】
監視対象の過熱を監視する監視装置であって、
前記監視対象から揮発したガス成分を検出する請求項1から8のいずれか一項に記載のガスセンサを備え、
前記検知部は、前記ガスセンサにおけるガス成分の検出結果に基づいて、前記監視対象が過熱状態か否かを検知する
監視装置。
【請求項10】
前記検知部における検知結果を無線送信する無線部を更に備える
請求項に記載の監視装置。
【請求項11】
前記検知部における検知結果に基づいて警報を発生する警報部を更に備える
請求項に記載の監視装置。
【請求項12】
絶縁材料を含む電気装置と、
前記絶縁材料を前記監視対象とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の監視装置と
を備える電気設備。
【請求項13】
前記電気装置を収容する筐体部を更に備え、
前記ガスセンサは、前記筐体部において前記電気装置よりも上方に配置されている
請求項12に記載の電気設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視装置、電気設備およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気設備内における配線等の部品の過熱による火災を検知する技術として、火災検知器が知られている。過熱異常を監視する技術が記載された先行技術文献として下記の文献がある。
特許文献1 特開2012-98085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
火災検知器は、発火に伴う熱の上昇、または、煙の存在を検出することで火災の発生を検知する。このため、発火前における配線等の過熱を検出することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、監視対象の過熱を監視する監視装置を提供する。監視装置は、監視対象から揮発したガス成分を検出するガスセンサを備えてよい。監視装置は、ガスセンサにおけるガス成分の検出結果に基づいて、監視対象が過熱状態か否かを検知する検知部を備えてよい。ガスセンサは、1-ブタノール、2-エチル,1-ヘキサノール、および、トリイソプロピルベンゼンの3種類のガス成分のうち、少なくとも1種類のガス成分を検出してよい。
【0005】
ガスセンサは、第1の触媒を含む第1の選択燃焼層を含む第1のガス感知部を有してよい。ガスセンサは、第1の触媒とは異なる第2の触媒を含む第2の選択燃焼層を含む第2のガス感知部を有してよい。検知部は、第1のガス感知部におけるガス感知結果と、第2のガス感知部におけるガス感知結果とに基づいて、3種類のガス成分の各ガス成分の有無を検知してよい。
【0006】
第1の触媒は白金パラジウム(PtPd)であってよい。第2の触媒はパラジウム(Pd)であってよい。
【0007】
ガスセンサは、第1のガス感知部および第2のガス感知部のそれぞれに対してヒーターを有してよい。ガスセンサは、第1のガス感知部がガスを検知するときのヒーター温度と、第2のガス感知部がガスを検知するときのヒーター温度とが異なるように、それぞれのヒーターを制御してよい。
【0008】
ガスセンサは、第1のガス感知部および第2のガス感知部の一方におけるガス検知結果に基づいて、他方におけるヒーター温度を制御してよい。
【0009】
検知部は、ガス成分の検知結果に基づいて、いずれの種類の監視対象が過熱状態であるかを検知してよい。
【0010】
監視装置は、検知部における検知結果を無線送信する無線部を備えてよい。監視装置は、検知部における検知結果に基づいて警報を発生する警報部を備えてよい。
【0011】
本発明の第2の態様においては、絶縁材料を含む電気装置と、絶縁材料を監視対象とする第1の態様に係る監視装置とを備える電気設備を提供する。
【0012】
電気設備は、電気装置を収容する筐体部を備えてよい。ガスセンサは、筐体部において電気装置よりも上方に配置されていてよい。
【0013】
本発明の第3の態様においては、第1の触媒を含む第1の選択燃焼層を含む第1のガス感知部と、第1の触媒とは異なる第2の触媒を含む第2の選択燃焼層を含む第2のガス感知部と、第1のガス感知部におけるガス感知結果と、第2のガス感知部におけるガス感知結果とに基づいて、3種類のガス成分の各ガス成分の有無を検知する検知部とを備えるガスセンサを提供する。
【0014】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一つの実施形態に係る監視システム400の一例を示す図である。
図2】ガスセンサ104の一例を示す断面図である。
図3A】第1のガス感知部140-1における各ガス成分に対する感度を、ヒーター温度毎に示している。
図3B】第2のガス感知部140-2における各ガス成分に対する感度を、ヒーター温度毎に示している。
図4】過熱される部材の種類に応じた、発生ガス種および発生ガス量の一例を示す図である。
図5】CVケーブルを加熱したときの感知層146の抵抗値の変化を示している。
図6】監視装置100の他の構成例を示す図である。
図7】電気設備200におけるガスセンサ104の配置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る監視システム400の一例を示す図である。監視システム400は、監視対象における過熱を監視する複数の監視装置100と、集中管理装置300とを備える。
【0018】
それぞれの監視装置100は、監視対象から揮発したガス成分を検出することで、監視対象の過熱を監視する。本例において監視対象は、絶縁材料を含む電気装置202である。電気装置202は、一例として電気回路を含む。絶縁材料は、配線を被覆する絶縁体、電気素子を絶縁する絶縁体、その他、電気装置202に用いられる絶縁体の材料である。本例の監視装置100は、絶縁材料が過熱されたときに揮発するガス成分を検出する。
【0019】
監視装置100は、(1)1-ブタノール、(2)2-エチル,1-ヘキサノール、および、(3)トリイソプロピルベンゼンの3種類のガス成分のうち、少なくとも1種類のガス成分を検出する。本例の監視装置100は、当該3種類のガス成分のそれぞれについて、ガス成分の有無を検出する。絶縁材料が過熱されたときに発生するガス成分は、絶縁材料の種類によって異なる。このため、これらのガス成分の発生を検知することで、いずれの種類の絶縁材料が過熱しているかを検知できる。また、電気装置202のいずれの箇所が過熱しているかを判別することが容易になる。
【0020】
一例として絶縁材料は、CVケーブルの被覆材、IVケーブルの被覆材、および、電気装置の端子等の電気部品を被覆する絶縁カバーとして用いられている。CVケーブルの被覆材は、例えば架橋ポリエチレン絶縁ビニルを主成分として含んでおり、過熱されると、2-エチル,1-ヘキサノールのガス成分が比較的に多く発生する。IVケーブルの被覆材は、例えばビニル絶縁体であり、過熱されると、トリイソプロピルベンゼンのガス成分が比較的に多く発生する。絶縁カバーは、例えば塩化ビニルを主成分として含んでおり、過熱されると、1-ブタノールのガス成分が比較的に多く発生する。なお絶縁材料が用いられている箇所は、上述したケーブルの被覆材等には限定されない。
【0021】
監視装置100は、ガスセンサ104および検知部106を備える。監視装置100は、電源部102および無線部108を更に備えてもよい。ガスセンサ104は、監視対象(本例では電気装置202)から揮発したガス成分を検出する。当該ガス成分は、上述した(1)~(3)の3種類のガス成分のうちの少なくとも1種類である。本例のガスセンサ104は、当該3種類のガス成分のそれぞれを検出可能なガスセンサである。
【0022】
ガスセンサ104は、低消費電力のガスセンサであることが好ましい。本例のガスセンサ104は、半導体製造技術で微細に加工されたMEMS(Micro Electro Mechanical System)ガスセンサである。ガスセンサ104は、シリコン等の半導体基板上に形成されていてよい。ガスセンサ104は、消費電力を低減すべく、所定の周期でガス検出動作を行い、ガス検出時以外は停止していてよい。
【0023】
検知部106は、ガスセンサ104におけるガス成分の検出結果に基づいて、監視対象が過熱状態か否かを検知する。検知部106は、ガスセンサ104における検出結果に基づいて、上述した(1)~(3)のガス成分のいずれが発生しているかを判別してよい。検知部106は、特定したガス成分の種類に基づいて、監視対象における過熱箇所を解析してもよい。
【0024】
電源部102は、ガスセンサ104に電力を供給する。電源部102は、電池であってよい。ガスセンサ104がMEMSガスセンサ等の低消費電力のセンサであれば、電池からでも長期間にわたって電力を供給できる。ガスセンサ104が電池駆動可能であれば、ガスセンサ104を様々な監視対象に容易に設けることができる。電源部102は、監視装置100の他の構成要素にも電力を供給してよい。
【0025】
無線部108は、検知部106における検知結果を、集中管理装置300に無線送信する。無線部108は、検知部106が検知結果を更新する毎に、検知結果を送信してよい。本例の無線部108は、集中管理装置300からの信号を受信する受信機能を有していない。これにより、監視装置100を小型化し、且つ、低消費電力化できる。ただし無線部108は受信機能を有していてもよい。
【0026】
集中管理装置300は、それぞれの監視装置100から受信した検知結果を記録する。集中管理装置300は、それぞれの監視装置100から受信した検知結果に基づいて、それぞれの電気設備200の管理者に、電気装置202が過熱状態であるか否かに関する情報を提供してよい。集中管理装置300は、電気装置202が過熱状態である場合に、電気装置202を制御する制御信号を、電気設備200に送信してよい。当該制御信号は、電気装置202を停止させ、または、消費電力を低下させる信号であってよい。
【0027】
集中管理装置300は、ガスセンサ104におけるガス検知結果を時系列に記録してよい。ガス検知結果には、ガスセンサ104が検知したガス成分の濃度に関する情報が含まれていてよい。集中管理装置300は、それぞれのガスセンサ104におけるガス検知結果の履歴に基づいて、それぞれの電気装置202が正常状態におけるガス検知結果のモデルを生成してよい。集中管理装置300は、現在のガス検知結果と当該モデルとの比較結果に基づいて、電気装置202が過熱状態か否かを判別してよい。
【0028】
図2は、ガスセンサ104の一例を示す断面図である。本例のガスセンサ104は、第1のガス感知部140-1と、第2のガス感知部140-2とを有する。それぞれのガス感知部140は、特定のガス成分に対して感度を有する。ガスセンサ104は、2つのガス感知部140における検出結果に基づいて、3種類のガス成分を検知する。
【0029】
本例では、それぞれのガス感知部140は、上述した(1)~(3)の3種類のガス成分に対する感度が異なる。より具体的には、第1のガス感知部140-1は、上述した3種類のガス成分のうちの2種類のガス成分に対する感度が比較的に高く、第2のガス感知部140-2は、上述した3種類のガス成分のうち、第1のガス感知部140-1とは異なる組み合わせの2種類のガス成分に対する感度が比較的に高い。
【0030】
本例では、第1のガス感知部140-1は、(2)2-エチル,1-ヘキサノール、および、(3)トリイソプロピルベンゼンに対する感度が、(1)1-ブタノールに対する感度よりも高い。感度とは、例えばそれぞれのガス成分の濃度変化に対する、ガス感知部140の出力変化の度合いである。感度が高いほど、ガス成分の濃度変化に対して、ガス感知部140の出力が大きく変化する。
【0031】
本例では、第2のガス感知部140-2は、(2)2-エチル,1-ヘキサノール、および、(1)1-ブタノールに対する感度が、(3)トリイソプロピルベンゼンに対する感度よりも高い。これにより、例えば、第1のガス感知部140-1および第2のガス感知部140-2の両方においてガス成分が検知された場合には、(2)2-エチル,1-ヘキサノールが存在していると推測でき、第1のガス感知部140-1だけでガス成分が検知された場合には、(3)トリイソプロピルベンゼンが存在していると推測でき、第2のガス感知部140-2だけでガスが検知された場合には、(1)1-ブタノールが存在していると推測できる。
【0032】
図2においては、半導体薄膜を用いた半導体式ガスセンサを示しているが、ガスセンサ104はこれに限定されない。ガスセンサ104は、電気化学式、接触燃焼式、熱伝導式等の他の方式の感知部であってよい。
【0033】
本例のガスセンサ104は、半導体基板110、薄膜積層部120、絶縁層130、2つのヒーター132、および、2つのガス感知部140を備えている。半導体基板110は、一例としてシリコン基板である。半導体基板110には、他の領域よりも基板厚が小さいダイヤフラム112が設けられている。ダイヤフラム112は、半導体基板110を貫通して設けられていてよい。
【0034】
薄膜積層部120は、半導体基板110の上面に積層されている。本例の薄膜積層部120は、熱酸化膜122、窒化膜124および酸化膜126を有する。熱酸化膜122は、半導体基板110の上面を熱酸化して形成されてよい。本例の熱酸化膜122はSiO膜である。
【0035】
窒化膜124は、例えばプラズマCVD法により、熱酸化膜122の上面に積層される。本例の窒化膜124は、Si膜である。酸化膜126は、例えばプラズマSVD法により、窒化膜124の上面に積層される。本例の酸化膜126は、SiO膜である。薄膜積層部120は、ダイヤフラム構造の支持層及び熱絶縁層として機能する。
【0036】
ヒーター132は、薄膜積層部120の上面に形成される。ヒーター132は、白金、金およびニッケルの少なくともいずれかと、クロムおよびタングステンの少なくともいずれかとを含む膜である。本例のヒーター132は、酸化膜126の上面において、ガス感知部140の下方に設けられている。ヒーター132は、例えばスパッタ法で成膜する。
【0037】
絶縁層130は、例えばスパッタ法により、薄膜積層部120の上面に形成される。絶縁層130は、ヒーター132を覆って設けられている。本例の絶縁層130は、SiO膜である。
【0038】
ガス感知部140は、絶縁層130の上面に設けられている。2つのガス感知部140は、異なる半導体基板110に設けられていてよく、共通の半導体基板110に設けられていてもよい。ダイヤフラム112は、ガス感知部140毎に設けられていてよい。それぞれのダイヤフラム112は、少なくともガス感知部140およびヒーター132の少なくとも一方と重なる範囲に形成されてよい。ダイヤフラム112を設けることで、ヒーター132からの熱が半導体基板110に逃げることを抑制でき、ガス感知部140を効率よく過熱できる。
【0039】
それぞれのガス感知部140は、選択燃焼層148、感知層146、電極144、および、接合層142を有する。接合層142は、絶縁層130の上面に部分的に形成される。それぞれのガス感知部140は、2つの接合層142を有してよい。接合層142は、スパッタ法により形成してよい。本例の接合層142は、タンタルまたはチタンを含む材料で形成されている。
【0040】
電極144は、それぞれの接合層142の上面に形成される。電極144は、スパッタ法により形成してよい。本例の電極144は、白金または金を含む材料で形成されている。接合層142は、電極144と絶縁層130とを接続する。接合層142は、電極144よりも薄い膜であってよい。例えば接合層142の厚みは50nmであり、電極144の厚みは200nmである。
【0041】
感知層146は、一方の電極144の上面から、他方の電極144の上面まで延在して設けられている。2つの電極144の間において、感知層146は絶縁層130の上面に接して設けられてよい。感知層146は、スパッタ法により形成してよい。本例の感知層146は、SbをドープしたSnO膜である。ガスセンサ104は、2つの電極144の間における感知層146の抵抗値を検出することで、対象ガスを検知する。
【0042】
感知層146は、ガス成分が存在しない雰囲気では、表面に酸素が負電荷吸着している。表面に酸素が負電荷吸着すると、感知層146中のキャリア電子が少なくなり、感知層146の電気的な抵抗値は高くなる。一方で、特定のガス成分が存在すると、感知層146の表面に吸着していた酸素がガス成分と反応して、感知層146中のキャリア電子が増大する。このため、感知層146の抵抗値は低くなる。ヒーター132は、それぞれの感知層146における吸着酸素とガス成分との反応を促進すべく、感知層146を加熱する。
【0043】
選択燃焼層148は、感知層146を覆って設けられている。選択燃焼層148は、特定のガス成分を感知層146まで通過させ、水素等の可燃性ガスを燃焼して除去する。また、選択燃焼層148は触媒を担持している。選択燃焼層148に含まれる触媒の種類を選択することで、感知層146の表面に吸着した酸素と感度よく反応するガス成分を選択できる。
【0044】
本例の選択燃焼層148は、Alに触媒を担持させた焼結材である。選択燃焼層148は、スクリーン印刷法により感知層146の全体を覆うように塗布した後、例えば500℃で1時間以上焼成することで形成できる。選択燃焼層148を形成した後、半導体基板110の下面をエッチングして、ダイヤフラム112を形成する。選択燃焼層148は、感知層146の上面を覆うように塗布してもよい。
【0045】
第1のガス感知部140-1の第1の選択燃焼層148-1は、第1の触媒を含む。本例において第1の触媒は白金パラジウム(PtPd)である。第2のガス感知部140-2の第2の選択燃焼層148-2は、第1の触媒とは異なる第2の触媒を含む。本例において第2の触媒はパラジウム(Pd)である。
【0046】
第1の選択燃焼層148-1が触媒として白金パラジウムを担持することで、第1のガス感知部140-1は、2-エチル,1-ヘキサノールと、トリイソプロピルベンゼンの2つのガス成分に対して感度を有する。つまり、第1のガス感知部140-1における第1の感知層146-1の抵抗値は、2-エチル,1-ヘキサノール、および、トリイソプロピルベンゼンの少なくとも一方のガス成分が存在する場合に、急激に小さくなる。
【0047】
第2の選択燃焼層148-2が触媒としてパラジウムを担持することで、第2のガス感知部140-2は、2-エチル,1-ヘキサノールと、1-ブタノールの2つのガス成分に対して感度を有する。つまり、第2のガス感知部140-2における第2の感知層146-2の抵抗値は、2-エチル,1-ヘキサノール、および。1-ブタノールの少なくとも一方のガス成分が存在する場合に、急激に小さくなる。
【0048】
上述したように検知部106は、第1のガス感知部140-1におけるガス感知結果と、第2のガス感知部140-2におけるガス感知結果とに基づいて、3種類のガス成分の各ガス成分の有無を検知する。本例においてガス感知結果とは、2つの感知層146の各抵抗値の測定結果である。
【0049】
図3Aは、第1のガス感知部140-1における各ガス成分に対する感度を、ヒーター温度毎に示している。本例の感度は相対的な値である。値が5以上である感度を、1ppmのガス成分を検出可能な感度とする。
【0050】
白金パラジウムを触媒として含む第1のガス感知部140-1は、ヒーター温度が50℃以上250℃以下の範囲で、2-エチル,1-ヘキサノールと、トリイソプロピルベンゼンの2つのガス成分に対して感度を有する。第1のガス感知部140-1の下方に設けられたヒーター132-1は、当該温度範囲に制御されてよい。
【0051】
図3Bは、第2のガス感知部140-2における各ガス成分に対する感度を、ヒーター温度毎に示している。パラジウムを触媒として含む第2のガス感知部140-2は、ヒーター温度が50℃以上300℃以下の範囲で、2-エチル,1-ヘキサノールと、1-ブタノールの2つのガス成分に対して感度を有する。第2のガス感知部140-2の下方に設けられたヒーター132-2は、当該温度範囲に制御されてよい。
【0052】
なお、ヒーター132の温度は、ガス成分に対する感度が比較的に高くなる温度であり、且つ、選択燃焼層148において不要なガス成分の燃焼を促進させるべくある程度高い温度であることが好ましい。ガスセンサ104は、第1のガス感知部140-1がガスを検知するときのヒーター132-1の温度と、第2のガス感知部140-2がガスを検知するときのヒーター132-2の温度とが異なるように、それぞれのヒーター132を制御してよい。本例においてヒーター132-1の温度は150℃に設定され、ヒーター132-2の温度は、200℃に設定されている。
【0053】
図4は、過熱される部材の種類に応じた、発生ガス種および発生ガス量の一例を示す図である。図4の例では、各部材を200℃に加熱した状態での発生ガスを調べている。例えばCVケーブルが過熱状態になると、2-エチル,1-ヘキサノールが比較的多く発生し、α,α-ジメチル-ベンジルアルコールおよびアセトフェノンが中程度発生する。
【0054】
また、IVケーブルが過熱状態になると、トリイソプロピルベンゼンが比較的に多く発生し、ジメチルベンゼンが中程度発生し、2-エチル,1-ヘキサノールが小程度発生する。また、絶縁カバーが過熱状態になると、1-ブタノールが比較的に多く発生し、ジブチル-4-メチルフェノールが中程度発生し、ベンズアルデヒドおよびベンジルアルコールが小程度発生する。
【0055】
ガスセンサ104が、それぞれの部材からの発生ガス量が多い、2-エチル,1-ヘキサノール、トリイソプロピルベンゼン、1-ブタノールを検出することで、それぞれの部材の過熱状態を容易に検出できる。ガスセンサ104は、各部材から発生する他のガス成分を検出してもよい。
【0056】
また、ガスセンサ104は、第1のガス感知部140-1および第2のガス感知部140-2の一方におけるガス検知結果に基づいて、他方におけるヒーター132の温度を制御してもよい。例えばガスセンサ104は、第2のガス感知部140-2を、50℃から100℃程度の比較的に低いヒーター温度で駆動させてよい。図4に示すように、2-エチル,1-ヘキサノールは、IVケーブルからも少量揮発する。第2のガス感知部140-2は、2-エチル,1-ヘキサノールと、1-ブタノールに対して感度を有するので、第2のガス感知部140-2を駆動しておくことで、CVケーブルから揮発した2-エチル,1-ヘキサノール、IVケーブルから揮発した2-エチル,1-ヘキサノール、および、絶縁カバーから揮発した1-ブタノールを検出できる。このため、3つの部材のいずれかが過熱状態になった場合に、第2のガス感知部140-2により揮発ガスを検出できる。
【0057】
ガスセンサ104は、第2のガス感知部140-2が何らかの揮発ガスを検出するまで、第1のガス感知部140-1のヒーター温度を低く(例えばヒーターに電力を供給しない)しておき、第2のガス感知部140-2が何らかの揮発ガスを検出した場合に、所定のガス検出温度(例えば150℃)にヒーター132-1を制御してよい。なお、ガスセンサ104は、低温で駆動している第2のガス感知部140-2が何らかの揮発ガスを検出した場合に、所定のガス検出温度(例えば200℃)にヒーター132-2を制御してよい。このような動作により、ガスセンサ104の消費電力を更に低減できる。
【0058】
図5は、CVケーブルを加熱したときの感知層146の抵抗値の変化を示している。図5においては、縦横高さのサイズが500mm×500mm×1000mmの密閉容器内において対象部材をホットプレートで加熱し、密閉容器内のガスセンサ104の感知層146の抵抗値を測定した。
【0059】
図5において縦軸は、清浄空気雰囲気中における感知層146の抵抗値Rairを、対象部材を加熱した状態における感知層146の抵抗値Rgasで除算した値を示している。上述したように、感知層146の抵抗値は、吸着酸素と反応するガス成分が存在する雰囲気では低下する。つまり、図5においては、縦軸の値が大きいほどガスセンサ104が感知したガス成分の濃度が高いことを示している。
【0060】
図5における横軸は、対象部材の温度(本例ではホットプレートの温度)を示している。また、図5の例では、第2のガス感知部140-2の感知層146-2の抵抗値を測定した。また、図5の例では、それぞれのガス感知部140のヒーター温度として、250℃、350℃、450℃の場合についてそれぞれ測定した。
【0061】
図5に示すように、対象部材を加熱していくと、温度が200℃近傍において、感知層146の抵抗値Rgasが急激に低下している。これは、対象部材から所定のガス成分が揮発しているためと考えられる。一方で、対象部材を200℃まで加熱しても、対象部材において発火または発煙は観測されなかった。つまり、本例のガスセンサ104を用いることで、対象部材の発火または発煙前に、対象部材の過熱を検出ことができる。
【0062】
図6は、監視装置100の他の構成例を示す図である。本例の監視装置100は、警報部109を備える。監視装置100は、図1に示した無線部108に代えて警報部109を備えてよく、無線部108および警報部109の両方を備えていてもよい。
【0063】
警報部109は、検知部106における検知結果に基づいて、所定の警報を発生する。警報部109は、検知部106において所定のガス成分が検知された場合に警報を発生してよい。警報部109は、サイレン等の警告音を警報として発生してよく、対象部材が過熱状態であることを伝える音声を警報として発生してもよい。この場合、警報部109は警報を発生するスピーカ等の報知部を有する。また警報部109は、対象部材が過熱状態であることを示す情報を表示するディスプレイ等の表示部を有してもよい。警報部109は、対象部材が過熱状態である場合に所定の点灯状態になるランプ等の点灯部を有してもよい。
【0064】
図7は、電気設備200におけるガスセンサ104の配置例を示す図である。電気設備200は、電気装置202を収容する筐体部204を備える。本例のガスセンサ104は、筐体部204の内部において、電気装置202よりも上方に配置されている。本例における上方とは、重力方向における上方である。ガスセンサ104は、重力方向において電気装置202の真上に配置されていてよく、真上以外の上方の領域に配置されていてもよい。
【0065】
ガスセンサ104が検出する3種類のガス成分、2-エチル,1-ヘキサノール、トリイソプロピルベンゼン、および、1-ブタノールは、空気よりも重いため、通常は電気装置202よりも下方に流れる。しかし、これらのガス成分は、絶縁材料が過熱状態となり揮発したガス成分のため、加熱された空気とともに電気装置202よりも上方に流れやすい。このため、ガスセンサ104を電気装置202よりも上方に配置することで、これらのガス成分を効率よく検出して、電気装置202の過熱状態を効率よく監視することができる。
【0066】
図7においては、ガスセンサ104以外の監視装置100の構成を省略している。監視装置100の他の構成は、少なくとも一部が筐体部204の内部に配置されていてよく、少なくとも一部が筐体部204の外側に配置されていてもよい。
【0067】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0068】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0069】
100・・・監視装置、102・・・電源部、104・・・ガスセンサ、106・・・検知部、108・・・無線部、109・・・警報部、110・・・半導体基板、112・・・ダイヤフラム、120・・・薄膜積層部、122・・・熱酸化膜、124・・・窒化膜、126・・・酸化膜、130・・・絶縁層、132・・・ヒーター、140・・・ガス感知部、142・・・接合層、144・・・電極、146・・・感知層、148・・・選択燃焼層、200・・・電気設備、202・・・電気装置、204・・・筐体部、300・・・集中管理装置、400・・・監視システム
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7