(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】摩耗量推定システム、補正システム、異常検知システム、寿命検知システム、工作機械及び摩耗量推定方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4065 20060101AFI20221220BHJP
B23Q 15/28 20060101ALI20221220BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20221220BHJP
B23Q 15/16 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G05B19/4065
B23Q15/28
B23Q17/09 B
B23Q15/16
(21)【出願番号】P 2018166120
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2020-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149098
【氏名又は名称】小野 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149102
【氏名又は名称】松山 習
(74)【代理人】
【識別番号】100136102
【氏名又は名称】上田 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100180633
【氏名又は名称】水谷 靖
(72)【発明者】
【氏名】三好 巧人
(72)【発明者】
【氏名】山田 栄二
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-208921(JP,A)
【文献】特開平04-315555(JP,A)
【文献】特開平08-132332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4065
B23Q 15/16
B23Q 15/28
B23Q 17/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を用いて、同一仕様の被加工物を同一条件で繰り返し加工する工作機械において、前記工具の摩耗量を推定するシステムであって、
前記工具の加工開始時点からの摩耗量をW、経過時間をt、初期段階及び定常段階を0<t≦t1としたときの初期段階と定常段階との境界の時刻をT
0(T
0=t
0)、定数をA
1、A
2、α
1、α
2としたときに、W=A
1t
α1(t≦T
0)・・・(式1)からW=A
2t
α2(T
0<t)・・・(式2)への線形変換Pを記憶する記憶部と、
同一仕様の加工中の前記工具について、
前記加工中の工具の摩耗量の測定によって前記式1を算出する算出部と、
前記記憶部から前記線形変換Pを読み出して、前記算出部で算出した前記式1から線形変換した式2を前記加工中の工具の前記式2と推定する推定部と、
を備える、摩耗量推定システム。
【請求項2】
前記記憶部は、α
1が1未満の式1及びα
2が1未満の式2から特定された前記線形変換Pを記憶する、請求項1に記載の摩耗量推定システム。
【請求項3】
前記記憶部は、α
1>α
2を満たす式1及び式2のみから特定された前記線形変換Pを記憶する、請求項1または2に記載の摩耗量推定システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の摩耗量推定システムと、
前記摩耗量推定システムで推定された摩耗量に基づいて、前記加工中の工具の位置を補正する補正部と、
を備える、補正システム。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の摩耗量推定システムと、
前記摩耗量推定システムで推定される摩耗量と、前記加工中の工具について測定された摩耗量との差が所定値を超えると、前記工作機械に異常が生じたと判定する判定部と、
を備える、異常検知システム。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の摩耗量推定システムと、
前記加工中の工具の摩耗量の測定によって算出される式2が、前記摩耗量推定システムで推定される前記式2から変化すると、前記工具の寿命に達したと判定する判定部と、
を備える、寿命検知システム。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の摩耗量推定システムと、
前記被加工物を加工する前記工具と、
前記被加工物を載置する載置部と、
を備える、工作機械。
【請求項8】
工具を用いて、同一仕様の被加工物を同一条件で繰り返し加工する工作機械において、前記工具の摩耗量を推定する方法であって、
前記工具の加工開始時点からの摩耗量をW、経過時間をt、初期段階及び定常段階を0<t≦t1としたときの初期段階と定常段階との境界の時刻をT
0(T
0=t
0)、定数をA
1、A
2、α
1、α
2としたときに、W=A
1t
α1(t≦T
0)・・・(式1)からW=A
2t
α2(T
0<t)・・・(式2)への線形変換Pを記憶する記憶部を準備する工程と、
同一仕様の加工中の前記工具について、
前記加工中の工具の摩耗量の測定によって前記式1を算出する工程と、
前記記憶部から前記線形変換Pを読み出して、算出した前記式1から線形変換した式2を前記加工中の工具の前記式2と推定する工程と、
を備える、摩耗量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩耗量推定システム、補正システム、異常検知システム、寿命検知システム、工作機械及び摩耗量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工具を用いて、同一仕様の被加工物を、工具の摩耗量を補正して、同一条件で繰り返し加工する工作機械が知られている。このような工作機械は、例えば、特開平8-132332号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
特許文献1には、工具の作用面を検出する位置を少なくとも3回測定して基準位置と測定位置とのずれ量を測定時刻とともに記憶し、ずれ量と測定時刻との関係に基づいて時刻とずれ量との関係を示す曲線の関数を求めた後、曲線の関数と現在時刻とに基づいてずれ量を求めて工具の指令位置を補正するようにした工作機械における位置ずれ補正方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ずれ量を推定する曲線の関数は、測定した点を滑らかに結ぶことにより求めることが記載されている。曲線の関数は多く存在するので、求められた曲線の関数は不正確になる恐れがある。求められた曲線の関数が不正確であると、工具の摩耗量を推定する精度が悪くなる。この場合、工具の指令位置を正確に補正できない。
【0006】
本発明は、推定される工具の摩耗量の精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点からの摩耗量推定システムは、工具を用いて、同一仕様の被加工物を同一条件で繰り返し加工する工作機械において、工具の摩耗量を推定するシステムであって、工具の加工開始時点からの摩耗量をW、経過時間をt、定数をA1、A2、α1、α2としたときに、W=A1tα1(t≦T0)・・・(式1)からW=A2tα2(T0<t)・・・(式2)への線形変換Pを記憶する記憶部と、同一仕様の加工中の工具について、式1を算出する算出部と、記憶部から線形変換Pを読み出して、算出部で算出した式1から線形変換した式2を加工中の工具の式2と推定する推定部と、を備える。
【0008】
本発明の第2の観点からの摩耗量推定方法は、工具を用いて、同一仕様の被加工物を同一条件で繰り返し加工する工作機械において、工具の摩耗量を推定する方法であって、工具の加工開始時点からの摩耗量をW、経過時間をt、定数をA1、A2、α1、α2としたときに、W=A1tα1(t≦T0)・・・(式1)からW=A2tα2(T0<t)・・・(式2)への線形変換Pを記憶する記憶部を準備する工程と、同一仕様の加工中の工具について、式1を算出する工程と、記憶部から線形変換Pを読み出して、算出した式1から線形変換した式2を加工中の工具の式2と推定する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明は、推定される工具の摩耗量の精度を向上する摩耗量推定システム、補正システム、異常検知システム、寿命検知システム、工作機械及び摩耗量推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態における工作機械の模式図である。
【
図2】
図2は、実施の形態における工具の経過時間に対する摩耗量を示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態における工作機械の制御構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施の形態における式1から式2を推定する手段を説明するための図である。
【
図5】
図5は、実施の形態における摩耗量推定方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施の形態における補正方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施の形態における摩耗量推定システムで特定された関係式と、動作中の工具の測定値とを示す図である。
【
図8】
図8は、実施の形態における誤差指標のパラメータを説明するための図である。
【
図9】
図9は、実施の形態における誤差指標を説明するための図である。
【
図10】
図10は、実施の形態における別の誤差指標を説明するための図である。
【
図11】
図11は、実施の形態におけるさらに別の誤差指標を説明するための図である。
【
図12】
図12は、実施の形態における異常検知方法を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、実施の形態における寿命検知方法を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、実施例における工具の摩耗量を示す図である。
【
図16】
図16は、実施例における工具の経過時間に対する摩耗量を示す図である。
【
図17】
図17は、実施例におけるlog
10A
1、log
10A
2及びα
1の三次元プロットを示す図である。
【
図18】
図18は、実施例におけるlog
10A
1、α
1及びα
2の三次元プロットを示す図である。
【
図19】
図19は、実施例における実測値と推定値とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0012】
図1~
図13を参照して、本発明の一実施の形態である摩耗量推定システム、補正システム、異常検知システム、寿命検知システム、工作機械及び摩耗量推定方法について説明する。
【0013】
(工作機械)
図1に示すように、工作機械1は、工具2を用いて、同一仕様の被加工物5を同一条件で繰り返し加工する。これにより、被加工物を同じ形状の加工物に加工することができる。
【0014】
「同一仕様の被加工物」とは、製造された条件が同一の被加工物である。なお、被加工物の材料は、特に限定されず、金属であってもよく、金属以外の材料であってもよい。「同一条件で繰り返し加工する」とは、複数の被加工物のそれぞれが同じ形状に加工されるために同じ条件で加工されることを意味する。
【0015】
工作機械1は、工具2と、支持部3と、載置部4と、を備える。工具2は、被加工物5を加工する。加工する方法は、特に限定されず、例えば切削加工などである。支持部3は、工具2を支持する。支持部3は、左右(x軸)方向、前後(y軸)方向、及び上下(z軸)方向に移動可能である。支持部3の移動によって、工具2の位置を移動できる。載置部4は、被加工物5を載置する。なお、支持部3は、載置部4に載置された被加工物5に対して、相対的に移動する。このため、載置部4が左右方向、前後方向及び上下方向に移動可能であってもよい。
【0016】
工作機械1は、NC(numerical control)工作機械であり、工作機械1の動作を制御する数値制御装置をさらに備える。制御装置は、被加工物に対する工具2の経路など加工に必要な作業の工程を、対応する数値情報で指令する。
【0017】
工作機械1の動作を続けると、工具2による被加工物5の加工によって、工具2は摩耗する。また、工作機械1の動作中、工具2が寿命に達したり、破損したりする。このように、同じ形状の加工物に加工できない時には、同一仕様の別の工具2に交換する。「同一仕様の工具」とは、製造された条件が同一の工具である。
【0018】
(摩耗量推定システム)
<経過時間に対する摩耗量の関係式>
まず、関係式について
図2を参照して説明する。工具2の加工開始時点からの経過時間tに対する摩耗量Wは、
図2に示すモデルで表現できる。工具の摩耗時期は、加工開始時点からの経過時間に対して、摩耗量がW
1以下の初期段階(0<t≦t
0)、摩耗量がW
1を超えてW
2以下の定常段階(t
0<t≦t
1)、及び摩耗量がW
2を超える末期段階(t
1<t)がある。初期段階は、摩耗量変化の大きい状態である。定常段階は、摩耗量変化が小さくなり安定した状態である。末期段階は、急速に摩耗量が大きくなり、寿命に達する状態である。
【0019】
工具2が寿命に達するまでの初期段階及び定常段階(0<t≦t
1)においては、W=At
α(0<α<1)の関係式で表される。関係式の精度を高めるため、時刻T
0を境界として関係式の定数を変えることで、W=A
1t
α1(t≦T
0)・・・(式1)及びW=A
2t
α2(T
0<t)・・・(式2)で表される。T
0が
図2に示す初期段階と定常段階との境界の時刻t
0(T
0=t
0)であることが好ましい。
【0020】
t≦T0及びT0<tのそれぞれにおいて、異なる時間に対する摩耗量の測定値が2以上あると、A1、α1、A2及びα2を算出できるので、式1及び式2を決定できる。
【0021】
経過時間tは、新たな同一仕様の工具を設置して加工を開始した時点を0として、加工の継続中において経過した時間である。この経過時間tは、1つの被加工物5を加工する時間が同じであり、同じペースで連続して加工することを意味する。経過時間tは、工具の交換に要する時間などを含まない。このため、経過時間tと加工数とは、比例する。つまり、工具2の加工開始時点からの摩耗量をW、加工数をx、定数をA’及びα’(<1)としたときに、W=A’xα’で表すこともできる。このように、被加工物及び加工条件が同一であれば、工具の摩耗量は経過時間t、つまり、加工数に依存する。
【0022】
<摩耗量推定システムの構成>
図3に示すように、工作機械1の制御装置は、摩耗量推定システム10を備える。摩耗量推定システム10は、
図1に示す工作機械において、工具2の摩耗量を推定するシステムである。
【0023】
摩耗量推定システム10は、記憶部11と、測定部12と、算出部13と、推定部14と、を備える。記憶部11は、例えば、フラッシュメモリなどの不揮発性記憶装置により実現される。算出部13及び推定部14を含む制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などの演算処理装置により実現される。
【0024】
記憶部11は、工具2の加工開始時点からの摩耗量をW、経過時間をt、定数をA1、A2、α1、α2としたときに、W=A1tα1(t≦T0)・・・(式1)からW=A2tα2(T0<t)・・・(式2)への線形変換Pを記憶する。
【0025】
記憶部11に記憶される線形変換Pは、同一仕様の工具2の加工開始時点からの経過時間に対する摩耗量の複数の測定値に基づいて特定される。線形変換Pを特定する同一仕様の工具2は、1つの特定の工作機械の同一仕様の工具であってもよく、別の同一仕様の工作機械に取り付けられた同一仕様の工具であってもよい。「同一仕様の工作機械」とは、同一の操作によって同一の加工物を製造する工作機械である。
【0026】
ここで、記憶部11が記憶する線形変換Pについて、説明する。線形変換Pは、例えば、以下のように特定される。
【0027】
1つの工具について、t≦T
0の複数の測定値から式1のA
1を求めるとともに、T
0<tの複数の測定値から式2のA
2及びα
2を求める。具体的には、式1は、時刻T
0までの時間に対する摩耗量を測定した複数の測定値から算出される。式2は、時刻T
0を超えた後の時間に対する摩耗量を測定した複数の測定値から算出される。式1は初期段階での関係式であり、式2は定常段階での関係式であることが好ましい。つまり、T
0は、
図2に示す初期段階と定常段階との境界の時刻t
0(T
0=t
0)であることが好ましい。また、式2は、
図2におけるt
1までの測定値により算出されることが好ましい。
【0028】
なお、T0は、任意に設定することが可能である。T0は、式1及び式2の精度を考慮して、測定数に基づいて設定されてもよい。
【0029】
α1及びα2は、特に限定されないが、1未満であることが好ましい。つまり、記憶部11は、α1が1未満の式1及びα2が1未満の式2から特定された線形変換Pを記憶する。本発明者は、鋭意研究の結果、初期段階及び定常段階のα1及びα2は1未満であることを見出した。このため、記憶部11の線形変換Pは、α1及びα2が1以上のノイズを除く測定値に基づいて特定されるので、推定される工具の摩耗量の精度をより向上できる。
【0030】
本実施の形態の記憶部11は、α1>α2を満たす式1及び式2のみから特定された線形変換Pを記憶する。本発明者は、初期段階ではαが大きく、初期段階から定常段階に移行するとαが小さくなることを見出した。記憶部11の線形変換Pは、α1>α2を満たす正確な測定値のみに基づいて特定されるので、推定される工具の摩耗量の精度をより向上できる。
【0031】
このように求めたデータ系列i(i=1,2,・・・,n)に対して、式1のA1
(i)及びα1
(i)については、下記の式3を初期摩耗モデルとし、式2のA2
(i)及びα2
(i)については、下記の式4を定常摩耗モデルとする。
【0032】
【0033】
【0034】
次に、各モデルの要素に対し、平均値μを下記の式5~8、標準偏差σを下記の式9~12のように、計算する。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
次に、平均値のベクトルを下記の式13及び14で表し、標準偏差のベクトルを下記の式15及び16で表す。なお、平均値のベクトルμx,μy、標準偏差のベクトルσx,σyは、記憶部11に記憶される。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
次に、各パラメータを正規化する。具体的には、各データについて、下記の式17~22に示すように、正規化パラメータX(i),Y(i)を算出する。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
次に、式19及び式22の正規化パラメータX(i),Y(i)から、線形変換Pを下記の式23から求める。なお、線形変換Pは、最小二乗法により導出される。
【0056】
【0057】
このように求められた同一仕様の工具2についての線形変換Pとしての線形変換行列を記憶部11は記憶する。
【0058】
測定部12は、加工(動作)中の工具2の加工開始時点からの経過時間における摩耗量を測定する。測定部12は、工具2の加工面の摩耗量を測定してもよく、加工物の形状を測定することにより工具2の摩耗量を求めてもよい。本実施の形態の測定部12は、例えば、工具2による加工後の加工物を空気マイクロメータで測定して、工具2の摩耗量を求める。
【0059】
算出部13は、同一仕様の加工中の工具2について、式1を算出する。つまり、算出部13は、時間T0までの複数の測定値に基づいて、W=A1tα1で表される関係式のA1及びα1を算出する。これにより、工具の摩耗量を表す式1を決定する。
【0060】
算出部13は、A1及びα1を算出して式1を決定するために、1つの工具2について少なくとも2以上の測定値を用いる。算出部13は、加工開始時点から時間T0までの全ての加工物を測定した測定値を用いてもよく、加工開始時点から時間T0までの一部の加工物を測定した測定値を用いてもよい。算出部13は、初期段階の測定値のみを用いてA1及びα1を算出することが好ましい。
【0061】
推定部14は、記憶部11から線形変換Pを読み出して、算出部13で算出した式1から線形変換した式2を加工中の工具2の式2と推定する。算出部13で初期段階の式1を算出した場合、推定部14により定常段階の式2を取得できる。推定部14で式2を取得することによって、時刻T0を超える経過時間に対する摩耗量を推定できる。
【0062】
ここで、推定部14で式2を推定する手段について、
図4を参照して説明する。
【0063】
算出部13で算出したA1及びα1から、下記の式24で表される初期摩耗モデルパラメータxを求める。
【0064】
【0065】
次に、記憶部11から式13の平均μx及び式15の標準偏差σxを読み出して、下記の式25により、正規化初期摩耗モデルXを算出する。
【0066】
【0067】
上記式25のX1及びX2は、下記の式26及び式27で表される。
【0068】
【0069】
【0070】
次に、記憶部11から線形変換Pを読み出して、正規化初期摩耗モデルXから正規化定常摩耗モデルYを算出する。
【0071】
次に、記憶部11から式14の平均μy及び式16の標準偏差σyを読み出して、下記の式28~30の逆正規化により、式29で表される定常摩耗モデルパラメータyを求める。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
求められた式29の定常摩耗モデルパラメータから、A2及びα2を導出できる。これにより、式2のA2及びα2が特定されるので、式2を取得できる。
【0077】
なお、摩耗量推定システムは、加工中の工具の時刻T0を超える時間に対する摩耗量を測定する測定部と、この測定値に基づいて式2を算出する算出部と、をさらに備えてもよい。この場合、記憶部11は、算出部により取得した式1及び式2に基づいて求められる線形変換Pを記憶してもよい。
【0078】
<摩耗量推定方法>
続いて、
図5を参照して、摩耗量推定方法について説明する。
【0079】
まず、工具の加工開始時点からの摩耗量をW、経過時間をt、定数をA1、A2、α1、α2としたときに、W=A1tα1(t≦T0)・・・(式1)からW=A2tα2(T0<t)・・・(式2)への線形変換Pを記憶する記憶部11を準備する(ステップS1)。
【0080】
次に、測定部12により、加工中の工具2の加工開始時点からの経過時間に対する摩耗量を複数測定する(ステップS2)。このステップS2では、時間T0までに摩耗量を測定することによって、時間T0までの複数の測定値を得る。
【0081】
次に、算出部13により、複数の測定値に基づいて、W=A1tα1のA1及びα1を算出する(ステップS3)。これにより、同一仕様の加工中の工具2についての式1を取得できる。
【0082】
次に、記憶部11から線形変換Pを読み出して、算出した式1から線形変換した式2を加工中の工具の式2と推定する(ステップS4)。これにより、加工中の工具についての式2を取得できる。
【0083】
以上のステップS1~S4を実施することにより、加工中の工具2について、加工開始時点からの経過時間に対する摩耗量を表す関係式である式2を決定できる。このため、加工中の工具2について、加工開始時点からの経過時間に対する摩耗量を推定できる。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態の摩耗量推定システム及び摩耗量推定方法は、記憶部11から、線形変換Pを読み出して、算出部13で算出した式1から線形変換した式2を加工中の工具2の式2と推定する。
【0085】
本発明者は、鋭意研究の結果、加工開始時点からの経過時間tと、工具の摩耗量Wとの関係を式1及び式2で表すことができることを見出した。さらに、式1から式2への線形変換Pが存在することを本発明者が見出して、本発明を完成させた。
【0086】
本実施の形態によれば、加工中の工具の式1を算出し、この式1を記憶部11の線形変換Pに基づいて線形変換することにより、加工中の工具2の式2を推定できる。このため、推定される工具2の摩耗量の精度を向上できる。
【0087】
また、本実施の形態では、同一仕様の工具2についてデータ数が少なくても、線形変換Pを特定することができる。このため、摩耗量推定システム10は、容易に摩耗量を推定できる。
【0088】
なお、本実施の形態では、T0は初期段階と定常段階との境界近傍として、1つの工具2について式1及び式2からなる関係式の線形変換Pを記憶部11に記憶する。本発明の摩耗量推定システム及び摩耗量推定方法は、例えば、3つ以上の式からなる関係式の線形変換を記憶する記憶部11を備えてもよい。
【0089】
(補正システム)
<補正システムの構成>
工作機械1の制御装置は、
図3に示すように、補正システム20を備える。補正システム20は、
図1に示す工作機械1において、被加工物5が同じ形状に加工されるために、工具2の摩耗量に応じて工具2の位置を補正するシステムである。
【0090】
補正システム20は、上述した摩耗量推定システム10と、補正部21と、を備える。摩耗量推定システム10は、推定部14で取得した式2から、動作中の工具2の加工開始時点からの経過時間に対する摩耗量を推定する。
【0091】
補正部21は、推定される摩耗量に基づいて、動作中の工具2の位置を補正する。具体的には、補正部21は、推定された摩耗量に基づいて、動作中の工具2を支持する支持部3の位置の補正量を算出し、支持部3に補正指令を送る。なお、補正部21は、周知技術を採用可能である。
【0092】
<補正方法>
図6に示すように、上述した摩耗量推定方法によって取得した関係式から、動作中の工具2の経過時間に対する摩耗量を推定する(ステップS10)。
【0093】
次に、補正部21において、推定された摩耗量に応じて、支持部3の位置の補正量を算出する(ステップS11)。次いで、補正量に基づいて支持部3の位置を変更するように、支持部3の位置決め手段に補正指令を送る。これにより、支持部3の位置を補正できるので、摩耗量に基づいて、加工中の工具2の位置を補正できる(ステップS12)。
【0094】
以上説明したように、本実施の形態の補正システム20及び補正方法によれば、上述した摩耗量推定システム10を備えるので、推定される摩耗量の精度を向上できる。したがって、同一仕様の工具2を用いて加工する工作機械1において、工具2の位置を補正する精度を向上できる。
【0095】
また、摩耗量推定システムで式1及び式2を同定することで、工具2の使用期間全般に渡って摩耗量を推定できるので、一定時間ごとの測定を省略できる。したがって、補正するための作業工数を削減できるので、人件費の削減もできる。
【0096】
(異常検知システム)
<異常検知システムの構成>
工作機械1の制御装置は、
図3に示すように、異常検知システム30を備える。異常検知システム30は、
図1に示す工作機械1において、工作機械1の異常を検知するシステムである。工作機械1の異常は、工具2の異常、冷却水の供給の不具合などを含む。
【0097】
異常検知システム30は、上述した摩耗量推定システム10と、測定部と、異常判定部31と、異常表示部32と、を備える。摩耗量推定システム10は、推定部14で取得した式2から、加工中の工具2の加工開始時点からの経過時間に対する摩耗量を推定する。
【0098】
摩耗量の推定後に、測定部は、摩耗量を測定する。具体的には、測定部は、加工後の加工物の形状を測定して、動作中の工具2の摩耗量を算出する。本実施の形態の測定部は、摩耗量推定システム10の測定部12と兼用する。なお、異常検知システムの測定部は、摩耗量推定システムの測定部12と別に設けられてもよい。
【0099】
異常判定部31は、摩耗量推定システム10で推定される摩耗量と、同一仕様の工具2について測定された摩耗量との差が所定値を超えると、工作機械1に異常が生じたと判定する。本実施の形態では、異常判定部31は、測定値と推定値との差を算出して、差が所定値を超えると、異常表示部32に異常を表示する指令を送る。
【0100】
測定値と推定値との差は、摩耗量推定システム10で取得した式2から推定される摩耗量と、測定した摩耗量との差でもよく、摩耗量推定システム10で取得した式2と、測定により算出した式2との差でもよい。
【0101】
具体例として、
図7に、摩耗量推定システムで取得した関係式と、動作中の工具の摩耗量の測定値とを示す。
図7では、経過時間190で、推定される摩耗量と測定値との差が大きい。異常判定部31は、経過時間190で、差が所定値より大きいと判定する。
【0102】
ここで、異常と判定する所定値について、説明する。
図8に示すように、摩耗量推定システム10によって、経過時間sまでの測定値によって推定された関係式をW(s
n|t)とする。測定時刻s
nにおける誤差指標をE(s
n)とすると、例えば、下記の式32~34の3つの式で表される。なお、式33~34において、i番目の測定点における測定時刻をs
i、摩耗量をW
iとする。
【0103】
【0104】
上記式32は、測定時刻snまでの関係式のt=snにおける誤差である。
【0105】
【0106】
上記式33は、測定時刻snまでの関係式と測定時刻sn-1までの関係式の間の誤差を見るもので、各測定点における平均二乗誤差である。
【0107】
【0108】
上記式34は、式33の平均二乗誤差を連続的に捉えたものである。
【0109】
前の測定時刻sn-1における誤差指標E(sn-1)を求め、その変化率であるR(sn)=E(sn)/E(sn-1)を算出する。R(sn)が0.5以上1.5以下の場合には、所定値以内であり、R(sn)が0.5未満または1.5を超える場合には、所定値を超える。
【0110】
誤差指標E
1(s
n)~E
3(s
n)から演算されるR(s
n)を
図9~
図11に示す。なお、
図9~
図11の一番上の摩耗量の測定値は、
図7と同じである。
図9~
図11に示すように、経過時間190で、R(s
n)が1.5を超える。
【0111】
異常判定部31は、R(sn)が1.5を超えるタイミングで、工作機械1に異常が発生したと判定する。なお、初期段階は、R(sn)を正確に判断できない場合があるので、異常判定部31は、定常段階において、R(sn)が1.5を超える場合及び0.5未満の場合に、測定値と推定値との差が所定値を超えると判定してもよい。
【0112】
異常表示部32は、異常判定部31からの指令に基づき、使用者に異常を知らせるために、異常が発生したことを表示する。なお、異常表示部32は、視覚的に認識されるものでもよく、聴覚的に認識されるものでもよい。後者は、例えば、警報を発するブザー等である。
【0113】
工作機械1の制御装置は、異常判定部31により工作機械1に異常が生じたと判定されると、工作機械1の動作を停止する停止部をさらに備えてもよい。例えば、異常判定部31は、測定値と推定値との差が所定値を超えると、停止部に、工作機械1の動作を停止する指令を送る。停止部は、異常判定部31からの指令に基づき、工作機械1の動作を停止する。
【0114】
また、工作機械1の制御装置は、異常検知システムがオン動作とオフ動作とをするように制御してもよい。例えば、制御装置は、初期段階では異常検知システムをオフ動作し、定常段階に入ってから異常検知システムをオン動作する。
【0115】
<異常検知方法>
図12に示すように、上述した摩耗量推定方法によって、推定部14で取得した式2から、動作中の工具2の経過時間に対する摩耗量を推定する(ステップS10)。次に、動作中の工具2の摩耗量を測定する(ステップS21)。
【0116】
次に、摩耗量推定システム10で推定される摩耗量と、加工中の工具2について測定された摩耗量との差が所定値以内であるか否かを判断する(ステップS22)。ステップS22で所定値以内であると判断すると、ステップS23に移行する。ステップS23では、工作機械1に異常がないので、同じ工具2による加工を続行する。一方、ステップS21で所定値を超えると判断すると、ステップS24に移行する。ステップS24では、工作機械1に異常が生じたと判定する。
【0117】
以上説明したように、本実施の形態の異常検知システム30及び異常検知方法によれば、上述した摩耗量推定システム10を備えるので、推定される摩耗量の精度を向上できる。推定される摩耗量と測定した摩耗量との差で異常を判断するので、同一仕様の工具2を用いて加工する工作機械1において、異常を判定する精度を向上できる。また、工作機械1に生じた異常を早期に検知できるので、不良品を低減できる。
【0118】
(寿命検知システム)
<寿命検知システムの構成>
工作機械1の制御装置は、
図3に示すように、寿命検知システム40を備える。寿命検知システム40は、
図1に示す工作機械1において、工具2の寿命を検知するシステムである。本実施の形態の寿命検知システム40は、
図2における定常段階から末期段階への変化点を工具2の寿命として、早期に検知する。
【0119】
寿命検知システム40は、上述した摩耗量推定システム10と、測定部と、寿命判定部41と、寿命表示部42と、通知部43と、を備える。摩耗量推定システム10は、動作中の工具2について、式2を決定する。
【0120】
式2の決定後に、測定部は、摩耗量を測定する。具体的には、測定部は、加工後の加工物の形状を測定して、動作中の工具2の摩耗量を算出する。本実施の形態の測定部は、摩耗量推定システムの測定部12と兼用する。なお、測定部は、摩耗量推定システムの測定部12と別に設けられてもよい。
【0121】
寿命判定部41は、加工中の工具2の摩耗量の測定によって算出される式2が、摩耗量推定システム10で推定される式2から変化すると、工具2の寿命に達したと判定する。「式2が変化する」とは、式2で表されるグラフの形状が変わることを意味し、多少の係数が変化するものは含まれない。具体的には、
図2に示すように、末期段階の関係式は、W=At
α(α<1)で表すことができない形状であるので、式2が変化する。
【0122】
本実施の形態では、摩耗量推定システム10の算出部13が、動作中の工具2の直近の複数の測定値から式2を算出し、寿命判定部41が、式2の形状が変化するか否かを判断する。寿命判定部41は、式2が変化したと判断すると、寿命表示部42に寿命に達したことを表示する指令を送る。
【0123】
寿命判定部41は、摩耗量推定システム10で特定された式2から推定される摩耗量と、動作中の工具2について測定された摩耗量との差が所定値を超えるときに、工具2の寿命であると判定してもよい。
【0124】
また、本発明者は、
図2に示す初期段階及び定常段階のαは1未満であり、寿命に達した後のαは1を超えることを見出した。このため、本実施の形態の寿命判定部41は、αが1を超えると、工具2の寿命に達したと判断する。
【0125】
寿命表示部42は、寿命判定部41からの指令に基づき、寿命に達したことを表示する。寿命表示部42は、視覚的に認識されるものでもよく、聴覚的に認識されるものでもよい。また、寿命表示部42は、異常表示部32と兼用してもよく、別に配置されてもよい。
【0126】
工具2の寿命は、予測しにくく、急に到達することに本発明者は着目した。そこで、寿命検知システム40は、寿命が近いことを予め知らせる通知部43を含む。通知部43により寿命が近いことが通知されると、測定頻度を増やすなどの対策をとることができるので、寿命を超えた工具を使用することを抑制できる。本実施の形態の通知部は、2つの観点から寿命が近いことを通知する。
【0127】
1つの観点からの通知部43は、W=Atαにおいて、測定値から算出したαが、初期段階における1未満の最大値を超えると、寿命が近いことを通知する。具体的には、算出部13は、直近の複数の測定値からαを算出し、通知部43は、算出されたαが初期段階における1未満の最大値を超えるか否かを判断する。αが初期段階の1未満の最大値を超える場合には、動作中の工具2の寿命が近いことを知らせるために、警報を発するように表示部に指令を送る。
【0128】
本発明者は、初期段階のαは、定常段階のαよりも大きいことを見出した。上述したように、本発明者は、初期段階においてαが1以上の場合はノイズであることを特定した。さらに、本発明者は、初期段階にノイズがない状態でαの1未満の最大値が測定された後、その最大値を超える値が測定された場合に、寿命が近いことを突き止めた。このため、通知部43は、初期段階においてノイズを除いた最大値を特定し、定常段階においてその最大値を超えるときに、寿命が近いことを通知することで、寿命の予測ができる。
【0129】
また、別の観点の通知部は、同一仕様の工具の寿命データを記憶する記憶部11から寿命データを読み出して、同一仕様の工具の寿命の時間を通知する。本実施の形態では、摩耗量推定システム10の記憶部11は、複数の同一仕様の工具の寿命データをさらに記憶する。通知部43は、記憶部11から複数の寿命データを読み出して、最短の寿命を選択して、選択した最短の時間になると、寿命が近いことを通知する。なお、この通知部は、記憶部11を読み出した制御をするが、この通知部の機能は、オン動作及びオフ動作を任意に選択できる。
【0130】
<寿命検知方法>
図13に示すように、上述した摩耗量推定方法によって、動作中の工具2について、式2を推定する(ステップS10)。次に、動作中の工具2の摩耗量を複数測定する(ステップS21)。その後、算出部13で、動作中の工具2について、加工時間と摩耗量との式2を算出する(ステップS31)。
【0131】
次に、動作中の工具2の式2が、摩耗量推定方法で決定された式2から変化したか否かを判断する(ステップS32)。ステップS32で変化していないと判断すると、ステップS33に移行する。ステップS33では、工具2の寿命に達してないので、同じ工具2による加工を続行する。一方、ステップS32で変化したと判断すると、ステップS34に移行する。ステップS34では、工具2の寿命に達したと判定する。
【0132】
以上説明したように、本実施の形態の寿命検知システム40及び寿命検知方法によれば、上述した摩耗量推定システム10を備えるので、式2の変化で寿命を判定できる。したがって、同一仕様の工具2を用いて加工する工作機械において、工具2の寿命を判定する精度を向上できる。また、工具2の寿命を早期に検知できるので、寿命に達した工具2を交換することによって、不良品を低減できる。また、寿命に達するまで工具2を使用できるので、コスト面においても有利である。
【0133】
ここで、本実施の形態の工作機械1は、
図3に示すように、摩耗量推定システム10、補正システム20、異常検知システム30、及び寿命検知システム40を備える。本発明の工作機械は、摩耗量推定システムを備えていれば特に限定されず、補正システム、異常検知システム及び寿命検知システムのいずれか1つまたは2つを備えていてもよい。
【実施例】
【0134】
(実施例1)
本実施例では、工具の加工開始時点からの経過時間tと、摩耗量Wとの関係式について説明する。
【0135】
まず、1つの工作機械1において、工具2を用いて、同一仕様の金属の被加工物5を同一条件で繰り返し加工し、摩耗量を測定した。9個の同一仕様の工具について測定したデータを
図14に示す。
図14において、領域Aでは、工具4に異常が発生した。領域Bでは、工作機械1を停止した。
【0136】
図14から、領域A及びBのように、異常が生じた測定点を除いて、正常に動作している測定値を抜き出したものを
図15に示す。
【0137】
次に、
図15において、各工具を交換した時点を加工開始時点として0に揃え、縦軸を反転したものを
図16に示す。本発明者は、
図16で表すデータを蓄積し、鋭意研究した結果、工具の加工開始時点からの経過時間tと摩耗量Wとの関係を、W=At
α(A及びα(<1)は定数)の関係式で表すことができることを見出した。なお、
図16に示す関係式は、9個の関係式の相乗平均を求めたものである。
【0138】
以上のように、経過時間と摩耗量との関係の基本となる式を特定するために本発明者が鋭意研究した結果、W=Atαという関係式を見出した。本発明の摩耗量推定システム、補正システム、異常検知システム、寿命検知システム、工作機械及び摩耗量推定方法は、見出した関係式を用いて、工具2の摩耗量を推定するので、推定される工具の摩耗量の精度を向上できる。
【0139】
(実施例2)
本実施例では、W=A1tα1(t≦T0)・・・(式1)からW=A2tα2(T0<t)・・・(式2)への線形変換について説明する。
【0140】
図16で表すデータを蓄積した結果、T
0を境界として、A及びαの定数を変えることにより、W=At
αの関係式の精度が高まることを本発明者は見出した。すなわち、W=A
1t
α1(t≦T
0)・・・(式1)とW=A
2t
α2(T
0<t)・・・(式2)とで構成される関係式により、摩耗量を推定する精度をより向上できる。
【0141】
T
0が
図2に示す初期段階と定常段階との境界の時刻t
0(T
0=t
0)として、実施例1と同様に27個の同一仕様の工具について式1及び式2を求めた。そして、式1のA
1及びα
1と、式2のA
2及びα
2との関係を本発明者が鋭意検討した結果、
図17及び
図18に示すように、式1から式2への線形変換Pが存在することを見出した。
【0142】
続いて、線形変換Pを記憶した記憶部11を備える摩耗量推定システムの精度を以下のように確認した。
【0143】
具体的には、
図17及び
図18に示した27個の同一仕様の工具の測定値に基づいて、実施の形態にしたがって線形変換Pを記憶した記憶部11を準備した(ステップS1)。次に、測定部12により、加工中の同一仕様の工具2の加工開始時点からの経過時間に対する摩耗量を複数測定した(ステップS2)。次に、算出部13により、複数の測定値に基づいて、W=A
1t
α1のA
1及びα
1を算出した(ステップS3)。これにより、加工中の工具2についての式1を取得した。
【0144】
次に、記憶部11から線形変換Pを読み出して、算出した式1から線形変換した式2を加工中の工具の式2と推定した(ステップS4)。これにより、加工中の工具についての式2を取得した。式2のA
2から求めたlog
10A
2及びα
2を
図19の推定値として示す。
【0145】
また、T
0経過後も、測定部12により、加工中の工具2の加工開始時点からの経過時間に対する摩耗量を複数測定した。その結果を
図19の測定値として示す。
【0146】
図19に示すように、本発明の摩耗量推定システムで推定された推定値と、測定値とは、近似することがわかった。したがって、本発明の摩耗量推定システムによれば、推定される工具の摩耗量の精度を向上できることを確認した。
【0147】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0148】
1 :工作機械
2 :工具
3 :支持部
4 :載置部
5 :被加工物
10 :摩耗量推定システム
11 :記憶部
12 :測定部
13 :算出部
14 :推定部
20 :補正システム
21 :補正部
30 :異常検知システム
31 :異常判定部
32 :異常表示部
40 :寿命検知システム
41 :寿命判定部
42 :寿命表示部
43 :通知部