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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】塩素含有樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20221220BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20221220BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221220BHJP
   C08K 5/57 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K9/06
C08K3/013
C08K5/57
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018171622
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041106
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕市
(72)【発明者】
【氏名】田井 康寛
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/143455(WO,A1)
【文献】特開2008-163139(JP,A)
【文献】特開平09-031302(JP,A)
【文献】特開2020-041105(JP,A)
【文献】特開平04-296371(JP,A)
【文献】特開平07-233318(JP,A)
【文献】特表平07-500618(JP,A)
【文献】特表平09-509689(JP,A)
【文献】特開2000-026687(JP,A)
【文献】特開2002-129063(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073633(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂と、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物で表面処理したFe-Cr系、Fe-Co-Cr系、及び、Bi-Mn系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料とを含むことを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
更に鉛系安定剤、非鉛系安定剤、及び、有機スズ系安定剤の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
更に過塩素酸化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
更に酸化亜鉛を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物を用いてなることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニルに代表される塩素含有樹脂は、柔軟性が高く加工しやすいうえ、機械的強度等の物性にも優れるため、樹脂パイプの材料等の様々な用途に広く使用されている。
塩化ビニル樹脂パイプは、通常カーボン含有顔料にて着色され生産されているが、夏場のパイプ温度上昇による曲りを防止する目的で、カーボンを使用しない有機顔料でグレー色を発色させることによりカーボン特有の熱吸収を抑え、パイプの曲りや変形を低減する技術が開発され、用いられている(特許文献1参照)。その他に、無機系遮熱顔料を用いた塩化ビニル系樹脂管が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-031291号公報
【文献】特開2013-159774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、カーボンを使用しないで塩素含有樹脂をグレーに着色する方法として、有機顔料や無機系遮熱顔料による方法が知られているが、有機顔料は加工方法等、成分の分散性に影響する調製条件次第では、赤や青色が強く発色したり、光源によって見え方が変わるメタメリズムという現象がみられるという課題がある。無機系遮熱顔料はメタメリズムや色変化が起こりにくいが、無機系遮熱顔料のほとんどは鉄系の顔料であり、分散性不良によるプレートアウト、鉄イオンによる耐候性の低下が生じるという課題や、鉄系顔料の鉄がイオン化することにより塩素含有樹脂の劣化が起こるという課題があり、実用化には至っていないのが現状である。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、メタメリズムや色変化が発生しにくく、耐候性に優れ、塩素含有樹脂の劣化も抑制された塩素含有樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、メタメリズムや色変化が発生しにくく、耐候性に優れ、塩素含有樹脂の劣化も抑制された塩素含有樹脂組成物について検討し、塩素含有樹脂に対して、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物及び/又はシリコーン化合物で表面処理したFe-Cr系、Fe-Co-Cr系、及び、Bi-Mn系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料を添加することで、得られる塩素含有樹脂組成物がこれらの特性に優れた組成物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、塩素含有樹脂と、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物及び/又はシリコーン化合物で表面処理したFe-Cr系、Fe-Co-Cr系、及び、Bi-Mn系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料とを含むことを特徴とする塩素含有樹脂組成物である。
【0008】
上記塩素含有樹脂組成物は、更に鉛系安定剤、非鉛系安定剤、及び、有機スズ系安定剤の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0009】
上記塩素含有樹脂組成物は、更に過塩素酸化合物を含むことが好ましい。
【0010】
上記塩素含有樹脂組成物は、更に酸化亜鉛を含むことが好ましい。
【0011】
本発明はまた、本発明の塩素含有樹脂組成物を用いてなることを特徴とする成形体でもある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塩素含有樹脂組成物は、メタメリズムや色変化の発生が抑制され、かつ、耐候性に優れると共に塩素含有樹脂の劣化も抑制されたものであることから、送水管等の材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0014】
1.塩素含有樹脂組成物
本発明の塩素含有樹脂組成物は、塩素含有樹脂に対して、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物及び/又はシリコーン化合物で表面処理したFe-Cr系、Fe-Co-Cr系、及び、Bi-Mn系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料を配合したものである。
以下に、本発明の塩素含有樹脂組成物を構成する各成分について順に説明する。
【0015】
[塩素含有樹脂]
本発明において塩素含有樹脂としては、塩素原子を含む樹脂(重合体)である限り特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂が好ましい。これにより、柔軟性や難燃性に優れる成形体が得られる。
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン等の単独重合体;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-マレイミド共重合体等の共重合体;等が挙げられる。なお、塩素含有樹脂と塩素非含有樹脂とのブレンド品を使用してもよいし、また塩化ビニル系樹脂を得るための重合方法は特に限定されない。
【0016】
[無機顔料]
本発明の塩素含有樹脂組成物は、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物及び/又はシリコーン化合物で表面処理したFe-Cr系、Fe-Co-Cr系、及び、Bi-Mn系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料を含む。
アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物及び/又はシリコーン化合物を用いて無機顔料の表面処理を行うことで、無機顔料を含む塩素含有樹脂組成物が耐水性、耐候性に優れたものとなる。
アルキルアルコキシシラン化合物としては、好ましくは、アルキル基の炭素数が6~10のものであり、より好ましくは、アルキル基の炭素数が8~10のものである。
【0017】
上記無機顔料の表面処理に使用されるアルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物としては、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、デシルトリメトキシシランが好ましい。
【0018】
上記無機顔料の表面処理に使用されるアルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物の使用量は、最終的に得られる被覆層を有する無機顔料100重量%に対し、表面処理剤による被覆量が0.1~10重量%の範囲となるように調節することが好ましい。より好ましくは1~6重量%の範囲である。
【0019】
上記シリコーン化合物としては、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサンが挙げられる。これらの中でもメチルハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
【0020】
上記無機顔料の表面処理に使用されるシリコーン化合物の使用量は、最終的に得られる被覆層を有する無機顔料100重量%に対し、シリコーン化合物による被覆量が0.1~10重量%の範囲となるように調節することが好ましい。より好ましくは1~6重量%の範囲である。
【0021】
本発明の塩素含有樹脂組成物が含む無機顔料は、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物による表面処理と、シリコーン化合物による表面処理の両方がされていることが好ましい。これにより、無機顔料を含む塩素含有樹脂組成物が耐水性、耐候性に更に優れたものとなる。表面処理は、シリコーン化合物で表面処理をした後にアルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物で表面処理をしてもよく、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物で表面処理をした後にシリコーン化合物で表面処理をしてもよい。
【0022】
上記無機顔料に対して、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物による表面処理と、シリコーン化合物による表面処理の両方を行う場合、最終的に得られる被覆層を有する無機顔料100重量%に対し、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物による被覆量とシリコーン化合物による被覆量の合計が0.1~10重量%の範囲となるように調節することが好ましい。より好ましくは1~6重量%の範囲である。
【0023】
上記無機顔料を表面処理する方法は特に制限されないが、例えば、無機顔料と表面処理剤とを乾式又は湿式で混合することや乾式処理した後熱処理すること等により行うことができる。
【0024】
Fe-Cr系無機顔料としては、例えばBlack 6340、Black 6350(アサヒ化成工業社製、何れも商品名)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
Fe-Co-Cr系無機顔料としては、例えばBlack 9590(大日本精化社製、商品名)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
Bi-Mn系無機顔料としては、例えばBlack 6301、Black 6303(アサヒ化成工業社製、商品名)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0025】
本発明の塩素含有樹脂組成物において、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物及び/又はシリコーン化合物で表面処理したFe-Cr系、Fe-Co-Cr系、及び、Bi-Mn系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料の含有量は、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~1重量部であることが好ましい。このような量であることで、塩素含有樹脂組成物をより十分にグレーに着色しつつ、顔料構成金属イオンによる塩素含有樹脂劣化を最小限にできる。無機顔料の含有量は、より好ましくは、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~0.5重量部であり、更に好ましくは、0.01~0.3重量部である。
【0026】
[過塩素酸化合物]
本発明の塩素含有樹脂組成物は、更に過塩素酸含有ハイドロタルサイト、過塩素酸金属塩等の過塩素酸化合物を含むことが好ましい。無機顔料を含む塩素含有樹脂組成物に過塩素酸化合物を含むことで、耐水性、耐候性に更に優れたものとなる。
過塩素酸金属塩としては、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸アルカリ金属塩;過塩素酸マグネシウム、過塩素酸バリウム、過塩素酸カルシウム等の過塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
上記過塩素酸含有ハイドロタルサイトは、過塩素酸イオンを含むハイドロタルサイトであり、ハイドロタルサイトは特に制限されないが、マグネシウム元素(Mg)及び/又は亜鉛元素(Zn)と、アルミニウム元素(Al)とを含むものが好ましい。
【0028】
上記ハイドロタルサイトとして特に好ましくは、下記一般式(1):
{(Mg)(Zn)}(Al)(OH)(An-x/n・mHO (1)
(式中、An-は、n価の層間アニオンを表す。x、y及びzは、0<x<1、0≦y<1、0.2≦z≦0.4、x+y+z=1を満たす数であって、かつx+yとzとの比{(x+y)/z}は2.0以上、3.0以下である。n及びmは、それぞれ1≦n≦4、及び、0≦mを満たす数である。)で表されるものである。これにより、塩素含有樹脂組成物の耐熱性や熱安定性がより向上する。
【0029】
上記一般式(1)中、n価の層間アニオンとして、過塩素酸イオン(ClO )を含むが、その他のアニオンを含んでいてもよい。その他のアニオンとしては特に限定されないが、反応性及び環境負荷低減の観点から、水酸化物イオン(OH)、炭酸イオン(CO 2-)及び硫酸イオン(SO 2-)からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。中でも、炭酸イオンが好ましい。
【0030】
x、y及びzは、0<x<1、0≦y<1、0.2≦z≦0.4、x+y+z=1を満たす数であって、かつx+yとzとの比{(x+y)/z}は2.0以上、3.0以下である。
ここで、y=0であるものは、Mg/Al系ハイドロタルサイトと称され、0<yであるものは、亜鉛変性ハイドロタルサイトと称される。本発明では、これらのいずれも好適に使用できる。
【0031】
x+yとzとの比{(x+y)/z}は、好ましくは2.25以下、より好ましくは2.1以下である。
【0032】
nは、1≦n≦4を満たす数であり、層間アニオンの価数によって変わる。
【0033】
ハイドロタルサイトは、吸油量が50ml/100g以下であることが好ましい。これにより、本発明の塩素含有樹脂組成物から得られる成形品の光沢が向上する。ハイドロタルサイトの吸油量は、より好ましくは、45ml/100g以下であり、更に好ましくは40ml/100g以下である。また、耐熱性の観点から5ml/100g以上であることが好ましい。より好ましくは10ml/100g以上である。
ハイドロタルサイトの吸油量は、JIS K5101-13-1(2004年:精製あまに油法)に準拠して測定することができる。
【0034】
本発明の塩素含有樹脂組成物において、過塩素酸化合物の含有量は、塩素含有樹脂100重量部に対して、過塩素酸化合物として、0.01~0.3重量部であることが好ましい。このような量であることで、耐候性の向上、耐熱性の向上が認められる。過塩素酸化合物の含有量は、より好ましくは、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~0.2重量部であり、更に好ましくは、0.01~0.1重量部である。
【0035】
[安定剤]
本発明の塩素含有樹脂組成物は、更に鉛系安定剤、非鉛系安定剤、及び、有機スズ系安定剤の少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの安定剤を含むことで、塩素含有樹脂組成物が加工時の熱安定性に優れたものとなる。
【0036】
鉛系安定剤としては、鉛白、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜燐酸鉛、シリカゲル共沈硅酸鉛等の無機系鉛安定剤;ステアリン酸鉛、ラウリン酸鉛、安息香酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ナフテン酸鉛等の有機酸鉛安定剤が挙げられる。
【0037】
非鉛系安定剤としては、バリウム亜鉛系安定剤、カルシウム亜鉛系安定剤、マグネシウム亜鉛系、バリウム亜鉛系安定剤、バリウムカドミウム系安定剤、有機酸亜鉛等が挙げられる。
【0038】
上記有機酸亜鉛における有機酸としては特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、2-エチルヘキシル酸、ネオデカン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸、安息香酸、モノクロル安息香酸、p-t-ブチル安息香酸、ジメチルヒドロキシ安息香酸、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ安息香酸、トルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、クミン酸、n-プロピル安息香酸、アミノ安息香酸、N,N-ジメチルアミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、サリチル酸、p-t-オクチルサリチル酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、オクチルメルカプトプロピオン酸等の1価有機カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヒドロキシフタル酸、クロルフタル酸、アミノフタル酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、メタコン酸、イタコン酸、アコニット酸、チオジプロピオン酸等の2価有機カルボン酸;等の他、2価有機カルボン酸のモノエステル又はモノアミド化合物、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、メロファン酸、ピロメリット酸等の3価又は4価の有機カルボン酸のジ又はトリエステル;等が挙げられる。中でも、炭素数12~20の高級脂肪酸が好ましい。具体的には、適度な滑性と塩素含有樹脂との相溶性がある、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸の亜鉛塩等が好ましい。
【0039】
有機スズ系安定剤としては、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等が挙げられる。
【0040】
上記安定剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合、上記のものの中でも、有機酸鉛安定剤、有機酸亜鉛のいずれか一方又は両方と、無機系鉛安定剤とを併用することが好ましい。これらを含むことで、塩素含有樹脂組成物が耐水性、耐候性により優れた組成物となる。
【0041】
本発明の塩素含有樹脂組成物における安定剤の含有量は特に限定されないが、塩素含有樹脂100重量部に対して0.1~10重量部であることが好ましい。これにより、塩素含有樹脂組成物を耐水性、耐候性により優れ、また、加工に必要な耐熱性を付与することができる。より好ましくは、塩素含有樹脂100重量部に対して0.5~5重量部であり、更に好ましくは、1~5重量部である。
【0042】
本発明の塩素含有樹脂組成物が有機酸鉛安定剤、有機酸亜鉛のいずれか一方又は両方と、無機系鉛安定剤とを含む場合、無機系鉛安定剤の使用量は、有機酸鉛安定剤、有機酸亜鉛の合計100重量部に対して、0.1~10重量部であることが好ましい。このような割合であることで、有機酸鉛安定剤、有機酸亜鉛のいずれか一方又は両方と、無機系鉛安定剤とを併用することの効果がより十分に発揮され、塩素含有樹脂組成物が耐候性により優れた組成物となる。無機系鉛安定剤の使用量は、より好ましくは、有機酸鉛安定剤、有機酸亜鉛の合計100重量部に対して、0.5~5重量部であり、更に好ましくは、1~5重量部である。
【0043】
[酸化亜鉛]
本発明の塩素含有樹脂組成物はまた、酸化亜鉛を含むことが好ましい。酸化亜鉛を含むことで、塩素含有樹脂組成物が耐熱性に優れたものとなる。
【0044】
上記酸化亜鉛としては、比表面積が1~100m/gであるものが好ましい。このような比表面積の酸化亜鉛を用いることで、塩素含有樹脂組成物が耐熱性により優れたものとなる。酸化亜鉛の比表面積は、より好ましくは、1~50m/gであり、更に好ましくは、1~30m/gである。
酸化亜鉛の比表面積は、窒素吸着法により測定することができる。
【0045】
本発明の塩素含有樹脂組成物が酸化亜鉛を含む場合、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~1重量部の割合で含むことが好ましい。より好ましくは、0.01~0.5重量部であり、更に好ましくは、0.01~0.3重量部である。
【0046】
[離型剤]
本発明の塩素含有樹脂組成物は更に、離型剤を含んでいてもよい。離型剤としては、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられるが、これらの中でもジペンタエリスリトールヘキサステアレートを含むことが好ましい。これにより、本発明の塩素含有樹脂組成物のかすれや筋引きの発生を抑制することができる。
【0047】
本発明の塩素含有樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、塩素含有樹脂100重量部に対して0.01~5.0重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.01~2.0重量部である。
【0048】
[充填剤]
本発明の塩素含有樹脂組成物は更に、充填剤を含んでいてもよい。これにより、成形品の寸法安定性や成形品の強度が向上するので、成形体用途に好ましい樹脂組成物となる。
【0049】
充填剤としては特に限定されず、無機塩類、無機酸化物、無機水酸化物等の無機粉体が挙げられ、例えば、亜鉛、チタン、鉄、セリウム、バリウム、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、硼素、ジルコニウム等の塩類、酸化物、水酸化物、複合酸化物が挙げられる。塩類としては特に限定されず、例えば、硫酸塩、炭酸塩、塩化塩、酢酸塩、硝酸塩等が挙げられる。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、硫酸マグネシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸亜鉛、チタン酸亜鉛、チタン酸バリウム、タルク等が挙げられ、中でも、炭酸カルシウムが好適である。
【0050】
上記塩素含有樹脂組成物が充填剤を含む場合、その含有量は特に限定されないが、プレートアウトの発生を抑制する点から、塩素含有樹脂100重量部に対して40重量部以下であることが好ましい。より好ましくは30重量部以下である。また下限は1重量部以上が好ましく、より好ましくは2重量部以上、更に好ましくは3重量部以上である。最も好ましくは、比表面積が20m/g以下である炭酸カルシウムの含有量がこれらの好ましい範囲内にあることである。
【0051】
[その他の成分]
本発明の塩素含有樹脂組成物は更に、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。例えば、耐熱助剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋助剤、可塑剤等の各種添加剤が挙げられる。添加剤はそれぞれ特に限定されないが、例えば、耐熱助剤としてはジペンタリスリトール等の多価アルコール化合物や、エポキシ樹脂等のエポキシ化合物が挙げられ、滑剤としてはステアリン酸モノグリセライド、パルミチン酸モノグリセライド、ステアリン酸、パルミチン酸、ポリエチレンワックス等が挙げられ、紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、芳香族ベンゾエート系化合物等が挙げられ、酸化防止剤としてはフェノール系化合物等が挙げられ、架橋助剤としてはトリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられ、可塑剤としてはジオクチルフタレート(DOP)やトリオクチルトリメリテート(TOTM)、ジオクチルアジペート(DOA)等が挙げられる。
【0052】
2.成形体
本発明の塩素含有樹脂組成物は、メタメリズムや色変化の発生が起こりにくく、耐候性に優れ、塩素含有樹脂の劣化も抑制された組成物であるから、パイプ等に成形して好適に用いることができる。このような、本発明の塩素含有樹脂組成物を用いてなる成形体もまた、本発明の1つである。
成形体の形状は特に限定されず、板状、シート状、フィルム状、膜状等の平面形状の他、ひも状、棒状、ペレット状、管状等のいずれの形状であってもよい。
【実施例
【0053】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0054】
1.原料
後述の表1~3に記載する原料は以下のとおりである。
[塩素含有樹脂]
塩化ビニル系樹脂:信越化学工業社製、TK-1000、重合度1000
【0055】
[顔料]
カーボン系グレー顔料:
カーボンブラック(大日精化社製PMP1720):酸化チタン(堺化学工業社製R-3L)=1:9(重量比)の混合顔料
酸化チタン:堺化学工業社製、R-3L
有機系グレー顔料:大日精化社製、クロモブラックA-1103(遮熱用有機黒色顔料)
Fe-Cr系黒色顔料:アサヒ化成工業社製、BLACK6350(化学組成:Chromium Greeen-Black Hematite)
Fe-Cr系黒色顔料表面A処理品:上記Fe-Cr系黒色顔料に対し、3%のメチルハイドロジェンポリシロキサン処理をしたもの
Fe-Cr系黒色顔料表面B処理品:上記Fe-Cr系黒色顔料に対し、3%のデシルトリメトキシシラン処理をしたもの
Bi-Mn系黒色顔料:アサヒ化成工業社製、BLACK6301(化学組成:Bismuth Manganese Perovskite)
Bi-Mn系黒色顔料表面A処理品:上記Bi-Mn系黒色顔料に対し、3%のメチルハイドロジェンポリシロキサン処理をしたもの
Bi-Mn系黒色顔料表面B処理品:上記Bi-Mn系黒色顔料に対し、3%のデシルトリメトキシシラン処理をしたもの
Bi-Mn系黒色顔料表面C処理品:上記Bi-Mn系黒色顔料に対し、3%のジメチルポリシロキサン処理をしたもの
Bi-Mn系黒色顔料表面D処理品:上記Bi-Mn系黒色顔料に対し、3%のデシルトリメトキシシラン処理をし、その後に3%メチルハイドロジェンポリシロキサン処理をしたもの
*上記A~Dの表面処理は、全て20Lヘンシェルミキサーに原料となる顔料を所定量仕込み、高速撹拌しながら、各処理剤を所定量投入した。その後、120℃まで高速撹拌し、取り出し後に冷却した後、アトマイザーで粉砕することにより行った。
【0056】
[過塩素酸化合物]
過塩素酸含有ハイドロタルサイト:協和化学社製、アルカマイザー5
過塩素酸ナトリウム:和光純薬社製、1級試薬
【0057】
[安定剤]
ステアリン酸鉛:堺化学工業社製、SZ-2000
カルシウム亜鉛系安定剤:堺化学工業社製、LHR-219(含有量25%)
【0058】
[酸化亜鉛]
酸化亜鉛:堺化学工業社製、微細酸化亜鉛(比表面積:8.9m/g)
[充填剤]
炭酸カルシウム:日東粉化社製、ソフトン1200
【0059】
2.実施例1~8、比較例1~8
20Lヘンシェルミキサーに表1、2に記載のとおりに各成分を添加し、40℃まで撹拌混合して塩素含有樹脂組成物を調製した。得られた塩素含有樹脂組成物について、以下の方法により特性の評価を行った。結果を表1、2に示す。
<特性評価>
上記のようにして得られた塩素含有樹脂組成物のコンパウンドを180℃の8インチロールで5分混練し、得られたロールシートを180℃5分プレスし、1mm厚の試験片を作成した。その試験片を用いて、下記条件で試験を実施した。
(1)ギアオーブン耐熱性試験:
上記試験片をギアオーブン(ESPEC社製ギアオーブン;条件180℃)に入れ、30分後に取出し、変色の程度を確認し、全く変色ないもの◎、やや変色するものを○、変色しているが許容できるものを△、変色が明らかに認められるものを×とした。
(2)プレス耐熱性試験:
上記試験片を用い、190℃で10分、50kg/cmの圧力で加熱し、常温まで冷却後、プレスシートの変色の程度を確認した。全く変色ないもの◎、やや変色するものを○、変色しているが許容できるものを△、変色が明らかに認められるものを×とした。
(3)サンシャインウェザー耐候性試験:上記試験片を用い、サンシャインウェザーメーター(スガ試験機製,BP63℃)にて200時間後の変色の程度を確認し、全く変色ないもの◎、やや変色するものを○、変色しているが許容できるものを△、変色が明らかに認められるものを×とした。
(4)フェードメーター耐候性試験:
上記試験片を用い、フェードメーター(スガ試験機社製)にて200時間後の変色の程度を確認し、全く変色ないもの◎、やや変色するものを○、変色しているが許容できるものを△、変色が明らかに認められるものを×とした。
(5)パイプ表面温度測定:
3灯式赤外線ランプを用い、試料(試験片)との距離30cmで、照射10分後のパイプ表面の温度を非接触温度計で測定した。
(6)メタメリズム評価
上記試験片を用い、170℃で10分50kg/cmの圧力で加熱し、常温まで冷却し、プレスシートを作成した。そのシートを太陽光と蛍光灯光で観察し、色変化がないものを○、赤っぽくみえたり、青っぽく見えたり、2つの光源で変化が認められるものを×とした。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
3.実施例9~17
表3に記載のとおりに各成分を使用した以外は実施例1~8、比較例1~8と同様にして塩素含有樹脂組成物を調製し、特性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
実施例1~8と比較例1~8との比較から、塩素含有樹脂に、シリコーン化合物又はアルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物で表面処理をした無機顔料を添加することでメタメリズムや色変化が発生しにくく、耐候性、耐熱性に優れ、塩素含有樹脂の劣化も抑制された塩素含有樹脂組成物となることが確認された。
【0065】
更に、実施例9~17と実施例1~8との比較から、塩素含有樹脂に、アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物及び/又はシリコーン化合物で表面処理をした無機顔料を添加し、更に過塩素酸化合物を添加することで、耐候性、耐熱性に極めて優れ、また塩素含有樹脂の劣化も抑制された塩素含有樹脂組成物となることが確認された。