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  • 特許-誘電体組成物および電子部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 201L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018171827
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020043310
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/163842(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Aab415+αで表される複合酸化物と、Alの酸化物と、を含み、
前記Aは少なくともBaを含み、前記Bは少なくともZrを含み、前記Cは少なくともNbを含み、
前記aが2.50以上3.50以下であり、前記bが0.50以上1.50以下であり、
前記Alの酸化物は、Baを含む複合酸化物である誘電体組成物。
【請求項2】
前記一般式は、(Ba1‐xA1xa(Zr1‐yB1yb(Nb1‐zC1z415+αで表され、
前記A1は、Mg、CaおよびSrからなる群から選ばれる1種以上を含み、前記B1は、TiおよびHfからなる群から選ばれる1種以上を含み、前記C1は、Taを含み、
前記xは0.50以下であり、前記yは0.50以下であり、前記zは0.50以下である請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
密度が4.40g/cm3以上である請求項1または2に記載の誘電体組成物。
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載の誘電体組成物を含む誘電体層と、電極層と、を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物、および、当該誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に組み込まれる電子回路あるいは電源回路には、誘電体が発現する誘電特性を利用する積層セラミックコンデンサのような電子部品が多数搭載される。このような電子部品の誘電体を構成する材料(誘電体材料)としては、チタン酸バリウム系の誘電体組成物が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、近年、電子部品の用途が拡大し、高電圧の環境下においても十分に機能することが求められている。ところが、このような環境では、チタン酸バリウム系の誘電体組成物の誘電特性が低下し、十分に対応できない。そのため、このような用途においても高い誘電特性を発揮できる誘電体組成物が求められている。
【0004】
特許文献1は、チタン酸バリウム系誘電体組成物以外の誘電体組成物として、一般式BaTiNb30で表される強誘電体材料において、Ba、TiおよびNbの一部を他の元素で置換した誘電体組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-274607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の誘電体組成物は、高電界強度下における比誘電率が低いという問題があった。
【0007】
また、回路基板に搭載されている電子部品には、回路基板の撓み等の変形により応力が印加されることがある。そのため、誘電体組成物には機械的強度が高いことが求められる。
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高い機械的強度を有し、高電界強度下における比誘電率が高い誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の誘電体組成物は、
[1]一般式A15+αで表される複合酸化物と、Alの酸化物と、を含み、
Aは少なくともBaを含み、Bは少なくともZrを含み、Cは少なくともNbを含み、
aが2.50以上3.50以下であり、bが0.50以上1.50以下である誘電体組成物である。
【0010】
[2]一般式は、(Ba1-xA1(Zr1-yB1(Nb1-zC115+αで表され、
A1は、Mg、CaおよびSrからなる群から選ばれる1種以上を含み、B1は、TiおよびHfからなる群から選ばれる1種以上を含み、C1は、Taを含み、
xは0.50以下であり、yは0.50以下であり、zは0.50以下である[1]に記載の誘電体組成物である。
【0011】
[3]Alの酸化物は、Baを含む複合酸化物である[1]または[2]に記載の誘電体組成物である。
【0012】
[4]密度が4.40g/cm以上である[1]から[3]のいずれかに記載の誘電体組成物である。
【0013】
[5][1]から[4]のいずれかに記載の誘電体組成物を含む誘電体層と、電極層と、を備える電子部品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い機械的強度を有し、高電界強度下における比誘電率が高い誘電体組成物と、その誘電体組成物から構成される誘電体層を備える電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.積層セラミックコンデンサ
1.1 積層セラミックコンデンサの全体構成
1.2 誘電体層
1.3 内部電極層
1.4 外部電極
2.誘電体組成物
2.1 複合酸化物
2.2 Alの酸化物
3.積層セラミックコンデンサの製造方法
4.本実施形態における効果
5.変形例
【0017】
(1.積層セラミックコンデンサ)
(1.1 積層セラミックコンデンサの全体構成)
本実施形態に係る電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が図1に示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0018】
(1.2 誘電体層)
誘電体層2は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。その結果、誘電体層2を有する積層セラミックコンデンサは、高い機械的強度を有し、高い電界強度(たとえば、25V/μm)が印加されても、高い比誘電率(たとえば、200以上)を示すことができる。
【0019】
誘電体層2の1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。通常は、層間厚みは100μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下である。本実施形態では、また、誘電体層2の積層数は特に限定されないが、本実施形態では、たとえば20以上であることが好ましい。
【0020】
(1.3 内部電極層)
本実施形態では、内部電極層3は、各端面が素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。
【0021】
内部電極層3に含有される導電材としては特に限定されないが、誘電体層と同時焼成される場合には、Pd、Pt、Ag-Pd合金等の公知の貴金属を用いることが好ましい。また、内部電極層3がスパッタリング等で形成される場合、あるいは、誘電体層の焼成後に、内部電極層3が形成される場合、導電材として公知の卑金属を用いることができる。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0022】
(1.4 外部電極)
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂など公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0023】
(2.誘電体組成物)
本実施形態に係る誘電体組成物は、Ba、ZrおよびNbを少なくとも含む複合酸化物と、Alの酸化物と、を含有している。誘電体組成物において、複合酸化物は主成分である。具体的には、複合酸化物は、本実施形態に係る誘電体組成物100質量%中に、80質量%以上含有され、90質量%以上含まれることが好ましい。
【0024】
また、誘電体組成物は、上記の複合酸化物から構成される主成分粒子と、主成分粒子間に存在する粒界と、を有している。粒界には、上記のAlの酸化物、主成分から拡散した成分等が存在している。
【0025】
主成分粒子の平均粒径は0.01~4μmの範囲内であることが好ましい。また、主成分粒子の平均粒径は0.1μm以上であることがより好ましい。一方、主成分粒子の平均粒径は1μm以下であることがより好ましい。主成分粒子の平均粒径を上記の範囲内とすることにより、高い機械的強度を有する誘電体組成物が得られやすい。
【0026】
本実施形態では、主成分粒子の平均粒径はコード法により算出されるコード径の平均値とする。具体的には、主成分粒子が現れた写真上で任意に直線を引き、当該直線と粒界との交点の数で、当該直線の長さを割ることにより、コード径を算出する。コード径は10本程度の直線について算出し、その平均値を主成分粒子の平均粒径とする。
【0027】
(2.1 複合酸化物)
当該複合酸化物に含まれる酸素以外の元素は、価数を基準として、3つの元素グループ(「A」、「B」および「C」)に分けられ、当該複合酸化物は一般式A15+αで表される。
【0028】
「A」は2価の元素であり、Baが含まれる。「B」は4価の元素であり、Zrが含まれる。「C」は5価の元素であり、Nbが含まれる。また、上記の一般式における「a」は、「C」を構成する元素が一般式において4原子含まれている場合における「A」の原子数割合を示し、上記の一般式における「b」は、「C」を構成する元素が一般式において4原子含まれている場合における「B」の原子数割合を示している。
【0029】
本実施形態では、当該複合酸化物は、リラクサー強誘電体であり、一般式A15で表される複合酸化物をベースとしている。この複合酸化物では、結晶構造における所定のサイトを、価数の異なる「B」と「C」とが所定の割合で占有している。これにより生じる局所的な構造がもたらす不均質性に起因して、所定の誘電特性が得られると考えられる。
【0030】
一般式A15で表される複合酸化物は、組成の自由度が高く、「A」、「B」および「C」を構成する元素の原子数割合は化学量論比からある程度変化する。したがって、一般式における「C」の原子数4を基準とすると、「a」および「b」は所定の範囲を有している。
【0031】
本実施形態では、「a」は2.50以上であり、2.70以上であることが好ましい。また、「a」は、3.50以下であり、3.30以下であることが好ましい。
【0032】
また、本実施形態では、「b」は0.50以上であり、0.70以上であることが好ましい。また、「b」は、1.50以下であり、1.30以下であることが好ましい。
【0033】
「a」および「b」が上記の範囲内である場合には、一般式A15+αで表される複合酸化物は、好適な誘電特性を示す。
【0034】
なお、当該複合酸化物では、酸素(O)量は、「A」、「B」および「C」の構成比、酸素欠陥等により変化することがある。そこで、本実施形態では、一般式A15で表される複合酸化物における化学量論比を基準として、化学量論比からの酸素の偏倚量を「α」で表す。「α」の範囲としては特に制限されず、たとえば-1以上1以下程度である。
【0035】
本実施形態では、「A」は、Baを少なくとも含むが、Ba以外の2価元素A1を含んでもよい。「A1」は、Mg、CaおよびSrからなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。Baに加えて、「A」に「A1」が含まれる場合、本実施形態に係る複合酸化物は、(Ba1-xA115+αと表すことができる。式中、「x」は0.00以上であることが好ましい。一方、「x」は0.50以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましい。「A」に「A1」が含まれても好適な誘電特性が得られる。
【0036】
なお、「A1」としてMgが含まれる場合、比誘電率が低下する傾向にある。したがって、高い比誘電率を得るという観点からは、「A」を構成する総原子数を1とした場合に、Mgの原子数の割合は0.10以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましい。
【0037】
また、「B」は、Zrを少なくとも含むが、Zr以外の4価元素B1を含んでもよい。「B1」は、TiおよびHfからなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。Zrに加えて、「B」に「B1」が含まれる場合、本実施形態に係る複合酸化物は、A(Zr1-yB115+αと表すことができる。式中、「y」は0.00以上であることが好ましい。一方、「y」は0.50以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましい。「B」に「B1」が含まれても好適な誘電特性が得られる。
【0038】
なお、「B1」としてTiが含まれる場合、抵抗率が低下する傾向にある。したがって、本実施形態では、Tiは、本発明の効果が得られる程度で含まれることが好ましい。具体的には、「B」を構成する総原子数を1とした場合に、Tiの原子数の割合は0.20以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。高い抵抗率を得るという観点からは、Tiが実質的に含まれていないことが好ましい。ここで、「Tiが実質的に含まれていない」とは、不可避的不純物に起因する量程度であればTiが含まれてもよいことを意味する。
【0039】
また、「C」は、Nbを少なくとも含むが、Nb以外の5価元素C1を含んでもよい。「C1」は、Taを含むことが好ましい。Nbに加えて、「C」に「C1」が含まれる場合、本実施形態に係る複合酸化物は、A(Nb1-zC115+αと表すことができる。式中、「z」は0.00以上であることが好ましい。一方、「z」は0.50以下であることが好ましい。
【0040】
なお、「A」を構成する総原子数を1とした場合に、Mg、CaおよびSr以外の2価元素A1の原子数の割合は、0.10以下であることが好ましい。「B」を構成する総原子数を1とした場合に、TiおよびHf以外の4価元素B1の原子数の割合は、0.10以下であることが好ましい。「C」を構成する総原子数を1とした場合に、Ta以外の5価元素C1の原子数の割合は、0.10以下であることが好ましい。
【0041】
以上より、一般式A15+αは、(Ba1-xA1(Zr1-yB1(Nb1-zC115+αで表すことができる。「a」、「b」、「x」、「y」、「z」および「α」は上述した範囲である。
【0042】
(2.2 Alの酸化物)
本実施形態に係る誘電体組成物は、上記の複合酸化物以外に、副成分として、Alの酸化物を含有する。Alの酸化物を含むことにより、誘電体組成物の抵抗率が高く、しかも高い電界強度を印加した場合であっても、良好な誘電特性が得られる。さらに、Alの酸化物を含むことにより、上記の複合酸化物から構成される主成分粒子の平均粒径を小さくすることができる。その結果、高い機械的強度を有する誘電体組成物が得られやすい。Alの酸化物としては、たとえば、Alが例示される。
【0043】
Alの酸化物は、主として、焼結助剤としての役割を有している。すなわち、当該誘電体組成物の原料中に、Alの酸化物の原料が含まれることにより、焼成時に誘電体組成物の焼結を促進する。したがって、十分な特性を発揮できる程度の焼結性を得るために必要な焼成温度を低くできる。換言すれば、同じ焼成温度で焼成して得られる誘電体組成物の密度を高めることができる。本実施形態では、誘電体組成物の密度は4.40g/cm以上であることが好ましく、4.70g/cm以上であることがより好ましい。
【0044】
また、誘電体組成物の焼結性の向上に伴い、誘電体組成物の特性も向上する。したがって、Alの酸化物を含むことにより、焼成温度が低くても、誘電体組成物の密度が高くなり、その結果、抵抗率、比誘電率等の誘電特性が向上する。
【0045】
本実施形態では、Alの酸化物の含有量は、上記の複合酸化物100質量%に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。一方、Alの酸化物の含有量は、上記の複合酸化物100質量%に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
また、Alの酸化物は、Baを含むことが好ましく、AlとBaとを含む複合酸化物であることがより好ましい。AlとBaとを含む複合酸化物としてはAlの原子数よりも、Baの原子数が少ないことが好ましい。このような複合酸化物としては、たとえば、0.82BaO・6Al、1.32BaO・6Al、BaAlが例示され、1.32BaO・6Alが好ましい。
【0047】
また、本実施形態に係る誘電体組成物は、本発明の効果を奏する範囲内において、上述した複合酸化物およびAlの酸化物以外に、他の成分を含んでいてもよい。他の成分の含有量は、誘電体組成物100質量%中20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。特に、SiO、MnO、CuOおよびFeからなる群から選ばれる1種以上の成分の含有量は、合計で、誘電体組成物100質量%中0.5質量%以下であることが好ましい。これらの成分は、誘電体組成物の焼結性を低下させ、誘電体組成物の誘電特性および物理特性が低下するからである。
【0048】
(3.積層セラミックコンデンサの製造方法)
次に、図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例について以下に説明する。
【0049】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様の公知の方法で製造することができる。公知の方法としては、たとえば、誘電体組成物の原料を含むペーストを用いてグリーンチップを作製し、これを焼成して積層セラミックコンデンサを製造する方法が例示される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0050】
まず、誘電体組成物の出発原料を準備する。出発原料としては、上記の誘電体組成物を構成する複合酸化物を用いることができる。また、複合酸化物に含まれる各金属の酸化物を用いることができる。また、焼成により当該複合酸化物を構成する成分となる各種化合物を用いることができる。各種化合物としては、たとえば炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等が例示される。また、Alの酸化物の原料としては、複合酸化物の原料と同様に、酸化物、各種化合物等を用いることができる。本実施形態では、上記の出発原料は粉末であることが好ましい。
【0051】
準備した出発原料のうち、複合酸化物の原料を、所定の割合に秤量した後、ボールミル等を用いて所定の時間、湿式混合を行う。混合粉を乾燥後、大気中において700~1300℃の範囲で熱処理を行い、複合酸化物の仮焼き粉末を得る。また、Alの酸化物が複合酸化物である場合、当該複合酸化物を構成する各成分の原料を熱処理してAlの酸化物の仮焼き粉末を得ることが好ましい。
【0052】
続いて、グリーンチップを作製するためのペーストを調製する。得られた仮焼き粉末と、Alの酸化物の原料粉末またはAlの酸化物の仮焼き粉末と、バインダと、溶剤と、を混練し塗料化して誘電体層用ペーストを調製する。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。また、誘電体層用ペーストは、必要に応じて、可塑剤や分散剤等の添加物を含んでもよい。
【0053】
内部電極層用ペーストは、上述した導電材の原料と、バインダと、溶剤と、を混練して得られる。バインダおよび溶剤は、公知のものを用いればよい。内部電極層用ペーストは、必要に応じて、共材や可塑剤や分散剤等の添加物を含んでもよい。
【0054】
外部電極用ペーストは、内部電極層用ペーストと同様にして調製することができる。
【0055】
得られた各ペーストを用いて、グリーンシートおよび内部電極パターンを形成し、これらを積層してグリーンチップを得る。
【0056】
得られたグリーンチップに対し、必要に応じて、脱バインダ処理を行う。脱バインダ処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、保持温度を好ましくは200~350℃とする。
【0057】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、素子本体を得る。本実施形態では、空気中で焼成を行う。その他の焼成条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、保持温度を好ましくは1200~1450℃とする。
【0058】
上記のようにして得られた素子本体の誘電体層を構成する誘電体組成物は、上述した誘電体組成物である。この素子本体に端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0059】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサが製造される。
【0060】
(4.本実施形態における効果)
本実施形態では、誘電体組成物は、上述した組成を有する複合酸化物と、Alの酸化物とを含有している。
【0061】
当該複合酸化物はリラクサー強誘電体であり、高い電界強度下において、チタン酸バリウム系誘電体よりも高い比誘電率を有することを期待される。複合酸化物を主成分として含む誘電体組成物が緻密である場合には、このような誘電特性、物理特性等は十分に得られる。しかしながら、誘電体組成物が緻密でない場合には、同じ組成を有していても、これらの特性は悪化する傾向にある。
【0062】
したがって、複合酸化物の焼結を促進する焼結助剤は重要である。焼結助剤としては、SiO、MnO等がよく用いられるが、本実施形態では、誘電体組成物がAlの酸化物を含むことにより、誘電体組成物が十分に焼結する。その結果、特に、高電界強度下において高い比誘電率が得られる。また、誘電体組成物がAlの酸化物を含むことにより、主成分粒子の平均粒径を小さくすることができる。その結果、高い機械的強度が容易に得られる。一方、本実施形態に係る誘電体組成物がSiO、MnO等を含んでいても、当該誘電体組成物は十分に焼結せず、平均粒径も大きい。その結果、誘電体組成物の密度は低く、誘電特性および物理特性も十分ではない。
【0063】
すなわち、本発明の効果は、上述した組成を有する複合酸化物とAlの酸化物との組み合わせにより初めて得られる効果である。
【0064】
このような効果を得るには、Aを構成するBaを上述した2価元素A1で所定の割合で置換する、Bを構成するZrを上述した4価元素B1で所定の割合で置換する、Cを構成するNbを上述した5価元素C1で所定の割合で置換してもよい。
【0065】
さらに、Alの酸化物が、AlとBaとの複合酸化物である場合には上述した効果がさらに向上する。
【0066】
(5.変形例)
上述した実施形態では、本発明に係る電子部品が積層セラミックコンデンサである場合について説明したが、本発明に係る電子部品は、積層セラミックコンデンサに限定されず、上述した誘電体組成物を有する電子部品であれば何でもよい。
【0067】
また、上述した実施形態では、電子部品として、積層セラミックコンデンサに代表される積層電子部品について説明したが、誘電体層が1層である単層電子部品であってもよい。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変してもよい。
【実施例
【0069】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実験1)
まず、誘電体組成物の主成分である複合酸化物の出発原料として、炭酸バリウム(BaCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化チタン(TiO)、酸化ニオブ(Nb)および酸化タンタル(Ta)の粉末を準備した。また、Alの酸化物の出発原料として、酸化アルミニウム(Al)および炭酸バリウム(BaCO)の粉末を準備した。焼成後の誘電体組成物が表1に示す組成を有するように、準備した出発原料を秤量した。なお、Alの酸化物は、複合酸化物100質量%に対して5質量%含有されるように秤量した。
【0071】
また、複合酸化物の比較例の出発原料として、チタン酸バリウム(BaTiO)の粉末を準備した。さらに、Alの酸化物の比較例の出発原料として、酸化シリコン(SiO)、酸化マンガン(MnO)、酸化銅(CuO)および酸化鉄(Fe)の粉末を準備した。焼成後の誘電体組成物が表1に示す組成を有するように準備した出発原料を秤量した。なお、SiO等は、複合酸化物100質量%に対して5質量%含有されるように秤量した。
【0072】
次に、秤量した複合酸化物の出発原料の各粉末を、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式混合し、混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、得られた混合原料粉末を、大気中において保持温度900℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行い、複合酸化物の仮焼き粉末を得た。
【0073】
また、Alの酸化物がAlとBaとの複合酸化物である場合には、秤量したAlおよびBaCOの各粉末を、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式混合し、混合物を乾燥して混合原料粉末を得た。その後、得られた混合原料粉末を、大気中において保持温度1300℃、保持時間2時間の条件で熱処理を行い、Alの酸化物の仮焼き粉末を得た。
【0074】
得られた複合酸化物の仮焼き粉末に、必要に応じてAl酸化物の仮焼き粉末またはAlの酸化物の原料粉末を加えて秤量し、分散媒としてのイオン交換水を用いてボールミルにより16時間湿式粉砕し、粉砕物を乾燥した。
【0075】
乾燥した粉末100質量%に対して、バインダとしてのポリビニルアルコール樹脂を6重量%含む水溶液を10質量%加えて造粒し、造粒粉を得た。
【0076】
得られた造粒粉をφ12mmの金型に投入し、0.6ton/cmの圧力で仮プレス成形し、さらに、1.2ton/cmの圧力で本プレス成形して、円盤状のグリーン成形体を得た。
【0077】
得られたグリーン成形体を空気中で焼成し、円盤状の焼結体を得た。焼成条件は、昇温速度を200℃/h、保持温度を1300℃、保持時間を2時間とした。
【0078】
密度は以下のようにして測定した。焼成後の円盤状のコンデンサ試料の直径を3か所測定して直径Rを得た。次に円盤状のコンデンサ試料の厚みを3か所測定して厚みhを得た。得られたRとhを使用し、円盤状のコンデンサ試料の体積V(=1/4・π・R・h)を算出した。ここでのπは円周率を示す。続いて、円盤状のコンデンサ試料の質量mを測定し、m/Vを計算することで円盤状のコンデンサ試料の密度を得た。3個の試料について評価した密度の結果の平均値を表1に示す。
【0079】
得られた焼結体の表面を鏡面研磨し、空気中で昇温速度を200℃/h、保持温度を1200℃、保持時間を2時間としてサーマルエッチングを行った。サーマルエッチング後にSEMで焼結体の表面を観察し、主成分粒子を特定して主成分粒子のコード径を以下のようにして測定した。
【0080】
SEMで撮影した焼結体の表面の写真に任意の線を引き、線を横切る粒界の数を数えた後に、線の長さを粒界の数で割ることでコード径を計算した。線は10本引き、それぞれの線においてコード径を測定した。測定したコード径の平均値を主成分粒子の平均粒径とした。平均粒径を表1に示す。
【0081】
コード径を測定した焼結体とは別の焼結体の両主面にIn-Ga合金を塗布して、一対の電極を形成することにより、円盤状のセラミックコンデンサの試料を得た。
【0082】
円盤状のセラミックコンデンサ試料に対し、基準温度(25℃)において、デジタル抵抗メータ(ADVANTEST社製R8340)を用いて絶縁抵抗を測定した。得られた絶縁抵抗と、有効電極面積と、誘電体層の厚みとから抵抗率を算出した。抵抗率は高いほうが好ましく、本実施例では、抵抗率が1×10(Ω・m)以上である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0083】
続いて、比誘電率を測定するための試料を作製した。上記で準備した複合酸化物の仮焼き粉末に、必要に応じてAl酸化物の仮焼き粉末またはAlの酸化物の原料粉末を加えて誘電体組成物の原料粉末を得た。得られた誘電体組成物の原料粉末とバインダと溶剤とを混合してペーストを作製した。得られたペーストを用いてグリーンシートを形成し、その上にPd電極を印刷し、脱バインダ処理、空気中で焼成を行って、積層セラミックコンデンサ試料を作製した。Pd電極間の距離(誘電体層の厚み)は5μmであり、誘電体層の層数は4層とした。
【0084】
得られた積層セラミックコンデンサ試料に対して、基準温度(25℃)において、直流電圧を印加しない場合と、直流電圧を印加した場合とで、比誘電率を評価した。まず、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量を測定した。そして、直流電圧を印加しない場合、すなわち、電界強度が0V/μmである場合の比誘電率(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定により得られた静電容量とに基づき算出した。続いて、電界強度が25V/μmとなるように直流電圧を印加した状態で、上記の測定条件により静電容量を測定した。測定により得られた静電容量から、電界強度が25V/μmである場合の比誘電率を算出した。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では、電界強度が25V/μmである場合の比誘電率が200以上である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0085】
また、誘電体組成物の機械的強度を以下のようにして測定した。得られた造粒粉を5×53mmの金型に投入し、0.6ton/cmの圧力で仮プレス成形し、さらに、1.2ton/cmの圧力で本プレス成形してグリーン成形体を作製した。得られたグリーン成形体を空気中で焼成し、断面が長方形の角柱の焼結体を得た。焼成条件は、昇温速度を200℃/h、保持温度を1300℃、保持時間を2時間とした。
【0086】
得られた焼結体を全長36mm以上45mm未満、幅4.0±0.1mm、厚さ3.0±0.1mmとなるように加工し、面取りを行い、試験用のサンプルとした。各試料について得られた10個のサンプルに対して、JIS R 1601に規定されている試験方法に基づき3点曲げ試験を行った。本実施例では、3点曲げ強さの平均値が40MPa以上である試料を良好(○)であると判断し、40MPa未満である試料を不良(×)であると判断した。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1より、組成式BaZrNb15で表される複合酸化物の化学量論組成を基準として、Nbの原子数に対するBaおよびZrの原子数割合が上述した範囲である複合酸化物を主成分として含み、さらにAlの酸化物を含む試料は、Alの酸化物を含まない試料に比べて、抵抗率、比誘電率、密度および3点曲げ強さのいずれも良好であることが確認できた。また、Alの酸化物として、AlよりもAlとBaとの複合酸化物の方が好ましいことが確認できた。
【0089】
一方、焼結助剤としてよく用いられるSiO、MnO、CuOおよびFeを含む試料は、Alの酸化物を含む試料に比べて、抵抗率、比誘電率、密度および3点曲げ強さのいずれも劣ることが確認できた。また、チタン酸バリウム系誘電体組成物は、直流電圧を印加しない時の比誘電率は大きいものの、直流電圧を印加した時の比誘電率は、Alの酸化物を含む試料に比べて非常に劣ることが確認できた。
【0090】
(実験2)
焼成後の誘電体組成物が表2に示す組成を有するように、準備した出発原料を秤量した以外は、実験1と同じ方法により、円盤状のセラミックコンデンサ試料を作製した。また、作製した円盤状のセラミックコンデンサ試料に対して、実験1と同じ方法により、抵抗率、直流電圧を印加しない場合の比誘電率、密度、平均粒径および3点曲げ強さを評価した。結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表2より、「a」および「b」を上述した範囲内で変化させた場合には、高い抵抗率および機械的強度を維持しつつ、比誘電率が向上することが確認できた。
【0093】
(実験3)
実施例3の試料において、焼成後の誘電体組成物が表3に示す組成を有するように、準備した出発原料を秤量した以外は、実験1と同じ方法により、円盤状のセラミックコンデンサ試料を作製した。また、作製した円盤状のセラミックコンデンサ試料に対して、実験1と同じ方法により、密度、平均粒径および3点曲げ強さを評価した。結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3より、Ba、ZrおよびNbを上述した元素で上述した割合で置換しても密度が同程度であり、高い機械的強度を維持できることが確認できた。
【0096】
(実験4)
焼成後の誘電体組成物が表4に示す組成を有するように、準備した出発原料を秤量した以外は、実験1と同じ方法により、円盤状のセラミックコンデンサ試料および積層セラミックコンデンサ試料を作製した。また、作製した円盤状のセラミックコンデンサ試料および積層セラミックコンデンサ試料に対して、実験1と同じ方法により、抵抗率、直流電圧を印加しない場合の比誘電率、密度、平均粒径および3点曲げ強さを評価した。結果を表4に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
表4より、「a」および「b」を上述した範囲内で変化させた場合、あるいは、Ba、ZrおよびNbを上述した元素で上述した割合で置換した場合、高い抵抗率および機械的強度を維持できることが確認できた。
【0099】
本実施例では、抵抗率に関して、いわゆる単層セラミックコンデンサについて評価を行ったが、誘電体層と内部電極とが積層された積層セラミックコンデンサについても、本実施例のコンデンサ試料と同様の抵抗率を示す。
【符号の説明】
【0100】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極
図1