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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/18 20060101AFI20221220BHJP
   B60T 8/36 20060101ALI20221220BHJP
   B60T 8/48 20060101ALI20221220BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/36
B60T8/48
B60T8/17 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018179288
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020050037
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】児玉 博之
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-205838(JP,A)
【文献】特開2019-048594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
F16K 31/06-31/11
H02K 16/00-16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体ポンプ、及び、調圧弁を含む制動液の還流路と、
前記流体ポンプを駆動する電気モータと、
前記調圧弁、及び、前記電気モータを制御して、ホイールシリンダの制動液圧を調整するコントローラと、
を備える車両の制動制御装置であって、
前記調圧弁は、第1弁コイル、及び、第2弁コイルを有し、
前記電気モータは、第1モータコイル、及び、第2モータコイルを有し、
前記コントローラは、前記第1弁コイルに通電を行う回路、及び、前記第1モータコイルに通電を行う回路を含む第1駆動回路と、前記第2弁コイルに通電を行う回路、及び、前記第2モータコイルに通電を行う回路を含む第2駆動回路と、を含んで構成され
前記第1、第2駆動回路に係る部材の最大出力は、前記車両の制動制御装置として要求される最大出力に比較して小さくされ、
前記コントローラは、前記電気モータ、及び、前記調圧弁に要求される出力が相対的に小さい場合には、前記第1、第2駆動回路に係る部材のうちの一方を駆動し、前記第1、第2駆動回路に係る部材のうちの他方を駆動しないが、前記要求される出力が相対的に大きい場合には、前記第1、第2駆動回路に係る部材の両方を駆動する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記第1、第2駆動回路に係る部材に同一のものを採用する、請求項1に記載の車両の制動制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「失陥時であっても信頼性の高い失陥時対応制御を達成可能であって、かつ、完全な冗長系よりもコンパクトなブレーキ制御装置を提供すること」を目的に、「複数の車輪に設けられたホイールシリンダと、前記ホイールシリンダ内を加圧する液圧源と、各ホイールシリンダに対応して設けられホイールシリンダ内の圧力を増減圧する制御弁と、状態量通信線を介して入力された車両の状態量に基づいて前記全ての制御弁及び前記液圧源を制御する第1制御部と、前記車輪の制御系統を対角系統又は前後系統にグループ化し、状態量通信線を介して入力された車両の状態量に基づいて前記グループ化された第1の系統と第2の系統の内、前記第2の系統の制御弁及び前記液圧源を制御可能な第2制御部と、を有し、前記第2制御部は、前記第1制御部の異常時には、前記第2の系統の制御弁及び前記液圧源を制御する」ことが記載されている。
【0003】
特許文献1の装置では、第1制御部の異常時には、第1の系統と第2の系統の内の第2の系統の制御弁及び前記液圧源を制御するため、制動力の不足が懸念され得る。そこで、出願人は、特許文献2、3に記載されるような制動制御装置を開発している。
【0004】
特許文献2の装置では、第1コイル及び第2コイルを有する電気モータと、電気モータによって駆動され還流路を形成し制動液圧を発生する流体ポンプと、還流路けられ制動液圧を調整する第1電磁弁と、還流路に第1電磁弁に対して直列に設けられ制動液圧を調整する第2電磁弁と、第1コイルに通電し第1電磁弁を制御する第1制御部及び第2コイルに通電し第2電磁弁を制御する第2制御部を有するコントローラと、が備えられる。
【0005】
また、特許文献3の装置では、第1コイル及び第2コイルを有する電気モータと、電気モータによって駆動され制動液圧を発生する流体ポンプと、流体ポンプを含む第1還流路と流体ポンプを含み第1還流路に対して並列に設けられた第2還流路と、第1還流路に設けられ制動液圧を調整する第1調圧弁と、第2還流路に設けられ制動液圧を調整する第2調圧弁と、第1コイルに通電し第1調圧弁を制御する第1制御部及び第2コイルに通電し第2調圧弁を制御する第2制御部を有するコントローラと、が備えられる。
【0006】
これらの制動制御装置では、2つの電磁弁が直列、又は、並列に設けられ、制動制御装置の冗長性が確保されているが、更なる小型、軽量化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-207662号
【文献】特願2017-151171号
【文献】特願2017-162562号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、制動制御装置の冗長性が確保された上で、小型、軽量化され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両の制動制御装置は、流体ポンプ(HPx、HPy、HQ)、及び、調圧弁(UAx、UAy、UB)を含む制動液の還流路(KNx、KNy、KO)と、前記流体ポンプ(HPx、HPy、HQ)を駆動する電気モータ(MT)と、前記調圧弁(UAx、UAy、UB)、及び、前記電気モータ(MT)を制御して、ホイールシリンダ(CW)の制動液圧(Pw)を調整するコントローラ(ECU)と、を備える。
【0010】
更に、本発明に係る車両の制動制御装置は、前記調圧弁(UAx、UAy、UB)は、第1弁コイル(A1x、A1y、B1)、及び、第2弁コイル(A2x、A2y、B2)を有し、前記電気モータ(MT)は、第1モータコイル(C1)、及び、第2モータコイル(C2)を有する。前記コントローラ(ECU)は、前記第1弁コイル(A1x、A1y、B1)に通電を行う回路、及び、前記第1モータコイル(C1)に通電を行う回路を含む第1駆動回路(DR1)と、前記第2弁コイル(A2x、A2y、B2)に通電を行う回路、及び、前記第2モータコイル(C2)に通電を行う回路を含む第2駆動回路(DR2)と、を含んで構成される。前記第1、第2駆動回路(DR1、DR2)に係る部材の最大出力は、前記車両の制動制御装置として要求される最大出力に比較して小さくされる。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記電気モータ(MT)、及び、前記調圧弁(UAx、UAy、UB)に要求される出力が相対的に小さい場合には、前記第1、第2駆動回路(DR1、DR2)に係る部材のうちの一方を駆動し、前記第1、第2駆動回路(DR1、DR2)に係る部材のうちの他方を駆動しない。これに対し、前記要求される出力が相対的に大きい場合には、前記第1、第2駆動回路(DR1、DR2)に係る部材の両方を駆動する。例えば、前記第1、第2駆動回路(DR1、DR2)に係る部材には、同一のものが採用される。

【0011】
上記構成によれば、電気モータMTのみならず、調圧弁UA、UBのコイル(巻線)が冗長化されている。このため、制動制御装置が、更に、小型・軽量化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車両の制動制御装置SCの第1の実施形態を説明するための全体構成図である。
図2】第1の実施形態でのコントローラECU、電気モータMT、及び、調圧弁UAの構成を説明するための概略図である。
図3】調圧制御処理を説明するためのフロー図である。
図4】車両の制動制御装置SCの第2の実施形態を説明するための全体構成図である。
図5】第2の実施形態でのコントローラECU、電気モータMT、及び、調圧弁UBの構成を説明するための概略図である。
【0013】
<構成部材等の記号、記号末尾の添字>
以下の説明において、「ECU」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「i」~「l」は、それが何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、4つの各ホイールシリンダにおいて、右前輪ホイールシリンダCWi、左前輪ホイールシリンダCWj、右後輪ホイールシリンダCWk、及び、左後輪ホイールシリンダCWlと表記される。更に、記号末尾の添字「i」~「l」は、省略され得る。添字「i」~「l」が省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を表す。例えば、「WH」は各車輪、「CW」は各ホイールシリンダを表す。
【0014】
制動系統に係る記号の末尾に付された添字「x」、「y」は、2つの制動系統において、それが何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、2つの制動系統において、「x」は一方側系統、「y」は他方側系統を示す。例えば、2つのマスタシリンダ流体路において、一方側マスタシリンダ流体路HMx、及び、他方側マスタシリンダ流体路HMyと表記される。更に、記号末尾の添字「x」、「y」は省略され得る。添字「x」、「y」が省略された場合には、各記号は、その総称を表す。例えば、「HM」は、各系統のマスタシリンダ流体路を表す。
【0015】
流体路において、リザーバRVに近い側が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側が「下部」と称呼される。また、制動液BFの還流路KN、KOにおいて、流体ポンプHPの吐出部に近い側が「上流側」と称呼され、該吐出部から離れた側が「下流側」と称呼される。
【0016】
<車両の制動制御装置の第1実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第1の実施形態について説明する。第1の実施形態では、2系統の流体路のうちで、一方側系統(一方側マスタシリンダ室Rmxに係る系統)は、右前輪WHiのホイールシリンダCWi、及び、左後輪WHlのホイールシリンダCWlに接続され、他方側系統(他方側マスタシリンダ室Rmyに係る系統)は、左前輪WHjのホイールシリンダCWj、及び、右後輪WHkのホイールシリンダCWkに接続される。つまり、2系統の流体路として、所謂、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用されている。なお、第1の実施形態では、2系統流体路として、前後型(「II型」ともいう)のものでもよい。この場合、一方側系統には前輪ホイールシリンダCWi、CWj(=CWf)が、他方側系統には後輪ホイールシリンダCWk、CWl(=CWr)が、夫々、接続される。制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP、ホイールシリンダCW、マスタリザーバRV、及び、マスタシリンダCMが備えられる。
【0017】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。
【0018】
ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCW内の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(摩擦ブレーキ力)が発生される。そして、制動トルクよって、車輪WHに制動力が発生される。
【0019】
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」であり、単に、「リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダCMは、制動操作部材BPに、ブレーキロッド等を介して、機械的に接続されている。マスタシリンダCMは、タンデム型であり、プライマリ、セカンダリマスタピストンPF、PGによって、その内部が、一方側、他方側マスタシリンダ室Rmx、Rmyに分けられている。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダCMの一方側、他方側マスタシリンダ室Rmx、RmyとリザーバRVとは連通状態にある。
【0020】
制動操作部材BPが操作されると、マスタシリンダCM内のプライマリ、セカンダリマスタピストンPF、PGが、前進方向Haに押され、マスタシリンダ室Rmx、Rmyは、リザーバRVから遮断される。更に、制動操作部材BPの操作が増加されると、プライマリ、セカンダリマスタピストンPF、PGは、前進方向Haに移動され、マスタシリンダ室Rmx、Rmyの体積は減少し、制動液BFは、マスタシリンダCMから、ホイールシリンダCWに向けて圧送される。結果、ホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwが増加される。制動操作部材BPの操作が減少されると、プライマリ、セカンダリマスタピストンPF、PGは、後退方向Hbに移動され、マスタシリンダ室Rmx、Rmyの体積は増加し、制動液BFは、ホイールシリンダCWからマスタシリンダCMに向けて戻される。結果、制動液圧Pwは減少される。
【0021】
車両には、制動操作量センサBA、車輪速度センサVW、運転支援装置SJ、及び、制動制御装置SCが備えられる。
【0022】
制動操作量センサBAによって、運転者による制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Baが検出される。具体的には、制動操作量センサBAとして、マスタシリンダCM内の液圧(マスタシリンダ液圧)Pm(=Pmx、Pmy)を検出するマスタシリンダ液圧センサPM(=PMx、PMy)、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。つまり、操作量センサBAは、マスタシリンダ液圧センサPM、操作変位センサSP、及び、操作力センサFPの総称であり、操作量Baは、マスタシリンダ液圧Pm、操作変位Sp、及び、操作力Fpの総称である。ここで、「Pmx=Pmy」であるため、マスタシリンダ液圧センサPMx、PMyのうちの何れか1つは省略可能である。
【0023】
車輪速度センサVWによって、各車輪WHの回転速度である、車輪速度Vwが検出される。車輪速度Vwの信号は、車輪WHのロック傾向を抑制するアンチスキッド制御等に採用される。車輪速度センサVWによって検出された各車輪速度Vwは、コントローラECUに入力される。コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。
【0024】
運転支援装置SJによって、自車両が障害物に衝突しないよう、自動制動が実行される。運転支援装置SJは、距離センサOB、及び、運転支援コントローラECJにて構成される。距離センサOBによって、自車両が走行している先に存在する物体(他の車両、固定物、自転車、人、動物等)と、自車両との間の距離(相対距離)Obが検出される。例えば、距離センサOBとして、カメラ、レーダ等が利用される。また、固定物が地図情報に記憶されている場合には、距離センサOBとして、ナビゲーションシステムが利用され得る。検出された相対距離Obは、運転支援コントローラECJに入力される。コントローラECJでは、相対距離Obに基づいて、車両の要求減速度Gdが演算される。要求減速度Gd(自動制動制御の目標値)は、通信バスBSを介して、制動制御装置SCの制動コントローラECUに送信される。そして、制動制御装置SCによって、車体減速度Gxが、要求減速度Gdに一致するよう、制動液圧Pwが調整される。
【0025】
マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとは、マスタシリンダ流体路HM、及び、ホイールシリンダ流体路HWによって接続されている。ここで、流体路は、作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニットの流路、ホース等が該当する。一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyの一方端部は、マスタシリンダCM(特に、一方側、他方側マスタシリンダ室Rmx、Rmy)に接続される。一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyの他方端部Bwx、Bwyは、ホイールシリンダ流体路HWに接続される。即ち、一方側マスタシリンダ流体路HMxは、部位Bwxにて、ホイールシリンダ流体路HWi、HWlに分岐される。他方側マスタシリンダ流体路HMyは、部位Bwyにて、ホイールシリンダ流体路HWj、HWkに分岐される。マスタシリンダCM、ホイールシリンダCW、及び、流体路HM、HWには、制動液BFが満たされている。
【0026】
≪制動制御装置SC≫
制動制御装置SCは、マスタシリンダCMとホイールシリンダCWとの間で、マスタシリンダ流体路HMに設けられる。一方側マスタシリンダ流体路HMxに係る構成と、他方側マスタシリンダ流体路HMyに係る構成は同じである。制動制御装置SCは、一方側、他方側流体ポンプHPx、HPy、電気モータMT、一方側、他方側調圧弁UAx、UAy、一方側、他方側調整液圧センサPQx、PQy、及び、制動コントローラECUにて構成される。
【0027】
2つの流体ポンプHPx、HPyが、マスタシリンダ流体路HMの夫々に対して設けられる。一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyには、それらをバイパスするよう、流体路HMx、HMyに対して並列に、一方側、他方側バイパス流体路HBx、HByが設けられる。つまり、一方側、他方側バイパス流体路HBx、HByの一方端部Bsx、Bsyが、一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyに接続される。また、一方側、他方側バイパス流体路HBx、HByの他方端部Btx、Btyが、一方端部Bsx、Bsyの下部(部位Bsx、BsyとホイールシリンダCWとの間)にて、一方側、他方側マスタシリンダ流体路HMx、HMyに接続される。一方側、他方側流体ポンプHPx、HPyが、一方側、他方側バイパス流体路HBx、HByに設けられる。具体的には、一方側、他方側流体ポンプHPx、HPyの吸込み部が、部位Bsx、Bsyに接続される。また、一方側、他方側流体ポンプHPx、HPyの吐出部が、部位Btx、Btyに接続される。換言すれば、流体ポンプHPによって、制動液BFは、調圧弁UAの上部Bsから吸い込まれ、調圧弁UAの下部Btに吐出される。
【0028】
一方側、他方側バイパス流体路HBx、HByには、一方側、他方側逆止弁(「チェック弁」ともいう)GHx、GHyが設けられる。例えば、一方側、他方側逆止弁GHx、GHyは、一方側、他方側流体ポンプHPx、HPyの吐出部の付近に設けられる。逆止弁GHによって、制動液BFは、部位Bsから部位Btに向けては移動可能であるが、部位Btから部位Bsに向けての移動(即ち、制動液BFの逆流)が阻止される。従って、電気モータMTは、一方向に限って回転駆動される。
【0029】
1つの電気モータMTによって、2つの流体ポンプHPx、HPyが駆動される。電気モータMTには、回転角Kaを検出するよう、回転角センサKAが設けられる。流体ポンプHPと電気モータMTとが一体となって回転するよう、電気モータMTと流体ポンプHPとが固定される。即ち、流体ポンプHP、及び、電気モータMTによって電動ポンプが構成される。電気モータMTが回転駆動されると、破線矢印で示す様に、制動液BFの還流路KN(=KNx、KNy)が形成される。「還流路」は、制動液BFが循環して、再び元の流れに戻る流体路である。
【0030】
一方側、他方側調圧弁UAx、UAyが、上記の還流の中に設けられる。つまり、一方側、他方側調圧弁UAx、UAyは、一方側、他方側流体ポンプHPx、HPyにおいて、吸込み部と吐出部との間に設けられる。従って、一方側流体ポンプHPxが回転される場合、一方側マスタシリンダ流体路HMxでは、「Bsx→HPx→GHx→Btx→UAx→Bsx」の一方側還流路(制動液BFが循環するための流体路)KNxが形成される。また、他方側流体ポンプHPyが回転される場合、他方側マスタシリンダ流体路HMyでは、「Bsy→HPy→GHy→Bty→UAy→Bsy」の他方側還流路KNyが形成される。
【0031】
一方側、他方側調圧弁UAx、UAyは、調圧弁駆動信号(即ち、通電状態)Ua(=Uax、Uay)に基づいて開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(「比例弁」、又は、「差圧弁」ともいう)である。調圧弁UAとして、常開型電磁弁が採用される。一方側、他方側調圧弁UAx、UAyによって、一方側、他方側還流路KNx、KNyが絞られて、調圧弁UAの上流側の液圧(流体ポンプHPと調圧弁UAとの間の液圧であり、「調整液圧」という)Pqx、Pqyが調節される。
【0032】
コントローラECUによって、電気モータMTが駆動されると、流体ポンプHPが制動液BFを吐出し、制動液BFの循環する流れである還流KNが形成される。コントローラECUによって、調圧弁UAに通電が行われると、調圧弁UAの開弁量が減少され、制動液BFの流れが絞られる。このときのオリフィス効果によって、一方側、他方側調整液圧Pqx、Pqyは、マスタシリンダ液圧Pmx、Pmy(調圧弁UAの下流側の液圧)から増加される。例えば、制動操作部材BPが操作されていない場合(即ち、「Pm=0」の場合)には、調整液圧Pqは、「0」から増加するよう調節される。一方側、他方側調整液圧Pqx、Pqy(=Pq)を検出するよう、一方側、他方側調整液圧センサPQx、PQy(=PQ)が設けられる。なお、2つの調整液圧センサPQx、PQyのうちの少なくとも1つは省略可能である。例えば、液圧センサPQx、PQyが、共に省略され得る。この場合には、一方側、他方側調整液圧Pqx、Pqyは、一方側、他方側調圧弁UAx、UAyの「通電量(電流値)に対する液圧の特性(所謂、電流-液圧特性)」に基づいて調整される。
【0033】
制動コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUには、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムとが含まれている。制動コントローラECUは、車載通信バスBSを介して、運転支援コントローラECJ等の他システムのコントローラ(電子制御ユニット)とネットワーク接続されている。例えば、運転支援コントローラECJから、通信バスBSを介して、自動制動制御を実行するよう、要求減速度Gdが、コントローラECUに送信される。各コントローラ(ECU等)には、車載の発電機AL、及び、蓄電池BTから電力が供給される。
【0034】
<第1の実施形態に係るコントローラECU等の構成>
図2の概略図を参照して、第1の実施形態における、コントローラECU、電気モータMT、及び、一方側、他方側調圧弁(電磁弁)UAx、UAyの構成について説明する。
【0035】
制動コントローラECUには、電力源BT(蓄電池)、AL(発電機)から、電力が供給される。制動コントローラECUによって、電気モータMT、及び、一方側、他方側調圧弁UAx、UAyが駆動される。コントローラECUは、マイクロプロセッサMP、及び、第1、第2駆動回路DR1、DR2を含んで構成される。マイクロプロセッサMPには、後述する、電気モータMT、及び、調圧弁UAx、UAyを制御するためのアルゴリズムがプログラムされている。制動制御装置SCの信頼度を向上するよう、マイクロプロセッサMPは冗長化されている。加えて、電気モータMT、及び、調圧弁UAx、UAyを駆動する電気回路が、第1、第2駆動回路DR1、DR2として冗長化されている。更に、電気モータMT、及び、調圧弁UAx、UAyを小型化するために、第1、第2駆動回路DR1、DR2には昇圧回路SH(DC/DCコンバータ)が含まれている。昇圧回路SHによって、電気モータMT、及び、調圧弁UAx、UAyの駆動電圧が、電力源BT等の電圧(電源電圧)よりも高くされる。また、昇圧回路SHによって、電気モータMTのみの駆動電圧が増加され、調圧弁UAの駆動電圧は電源電圧のままとされてもよい。更に、第1、第2駆動回路DR1、DR2の昇圧回路SHは省略されてもよい(即ち、コントローラECUには、昇圧回路SHが含まれない)。
【0036】
図2(a)で示すように、コントローラECUの電力源は、第1、第2蓄電池BT1、BT2、及び、第1、第2発電機AL1、AL2で構成される。つまり、電力源BT、ALは、二重化されている。第1電力源BT1、AL1によって、第1駆動回路DR1に電力が供給される。また、第2電力源BT2、AL2によって、第2駆動回路DR2に電力が供給される。なお、第1蓄電池BT1は第1発電機AL1によって、第2蓄電池BT2は第2発電機AL2によって、夫々充電される。また、マイクロプロセッサMPも、第1、第2蓄電池BT1、BT2等から電力供給を受ける。
【0037】
図2(b)で示すように、第1、第2発電機AL1、AL2のうちの1つが省略され得る。この場合には、2つの蓄電池BT1、BT2は、1つの発電機ALによって充電される。また、図2(c)で示すように、第1、第2発電機AL1、AL2のうちの1つが省略されるとともに、第1、第2蓄電池BT1、BT2のうちの1つが省略されてもよい。この場合、1つの蓄電池BTは、1つの発電機ALによって充電され、第1、第2駆動回路DR1、DR2は、この蓄電池BTによって電力供給される。
【0038】
第1、第2駆動回路DR1、DR2には、電気モータMTを駆動するよう、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によって3相ブリッジ回路が形成される。モータ駆動信号Mtに基づいて、各スイッチング素子の通電状態が制御され、電気モータMTの出力が制御される。また、駆動回路DR1、DR2には、調圧弁UAx、UAy(=UA)を駆動するよう、電磁弁用の駆動回路が含まれる。調圧弁駆動信号Uaに基づいて、調圧弁UAの励磁状態(通電状態)が制御され、調圧弁UAが駆動される。
【0039】
電気モータMTは、2つの巻線組C1、C2を含んで構成される。第1モータ巻線組(「第1モータコイル」ともいう)C1は、コントローラECUの第1駆動回路DR1によって通電される。また、第2モータ巻線組(「第2モータコイル」ともいう)C2は、コントローラECUの第2駆動回路DR2によって通電される。従って、電気モータMTは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。電気モータMTでは冗長(二重系)の構成が採用されるため、「第1モータコイルC1、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「第2モータコイルC2、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、電気モータMTは作動が可能である。
【0040】
例えば、電気モータMTとして、3相ブラシレスモータが採用される。ブラシレスモータMTには、モータのロータ位置(回転角)Kaを検出する回転角センサKAが設けられる。第1モータコイルC1、及び、第2モータコイルC2には、3相(U相、V相、W相)のコイル組(巻線組)が、夫々、形成される。回転角(実際値)Kaに基づいて、2つの3相モータコイルC1、C2の通電方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、ブラシレスモータMTが回転駆動される。なお、冗長性を確保するため、回転角センサKAにも、2組の検出部が採用され得る。
【0041】
実際の回転角Kaは、公知の方法(例えば、120度通電を行い誘起電圧のゼロクロスを検出する方法、中性点電位を利用する方法、dq回転座標モデルの推定誘起電圧を利用する方法、αβ固定座標モデルに対して拡張カルマンフィルタを適用する方法、状態オブザーバを利用した方法)によって推定可能である。従って、回転角Kaが推定演算される場合には、回転角センサKAは省略される。
【0042】
一方側系統の調圧弁UAxは、2つの巻線A1x、A2xを含んで構成される。一方側第1調圧弁巻線(「一方側第1弁コイル」ともいう)A1xは、コントローラECUの第1駆動回路DR1によって通電される。また、一方側第2調圧弁巻線(「一方側第2弁コイル」ともいう)A2xは、コントローラECUの第2駆動回路DR2によって通電される。従って、調圧弁UAxは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。一方側調圧弁UAxでは、冗長(二重系)の構成が採用されるため、「第1弁コイルA1x、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「第2弁コイルA2x、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、一方側調圧弁UAxは作動が可能である。
【0043】
同様に、他方側系統の調圧弁UAyは、2つの巻線A1y、A2yを含んで構成される。他方側第1調圧弁巻線(「他方側第1弁コイル」ともいう)A1yは、コントローラECUの第1駆動回路DR1によって通電される。また、他方側第2調圧弁巻線(「他方側第2弁コイル」ともいう)A2yは、コントローラECUの第2駆動回路DR2によって通電される。従って、調圧弁UAyは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって駆動される。他方側調圧弁UAyでは、冗長(二重系)の構成が採用されるため、「第1弁コイルA1y、第1駆動回路DR1、又は、それに係る部材」、及び、「第2弁コイルA2y、第2駆動回路DR2、又は、それに係る部材」のうちの何れか1つが作動不調になっても、他方側調圧弁UAyは作動が可能である。
【0044】
第1駆動回路DR1に係る部材(=DR1、C1、A1x、A1y)と、第2駆動回路DR2に係る部材(=DR2、C2、A2x、A2y)とは、同一のものが採用される。即ち、第1駆動回路DR1に係る部材、及び、第2駆動回路DR2に係る部材では、最大出力が同じである。例えば、電気モータMT、及び、調圧弁UAに要求される出力(要求出力)が相対的に小さい場合には、第1駆動回路DR1に係る部材、及び、第2駆動回路DR2に係る部材のうちの一方が駆動され、第1駆動回路DR1に係る部材、及び、第2駆動回路DR2に係る部材の他方は駆動されない。そして、電気モータMT、及び、調圧弁UAに要求される出力が相対的に大きい場合には、第1駆動回路DR1に係る部材、及び、第2駆動回路DR2に係る部材の両方が駆動される。つまり、急制動時等に要求される制動制御装置SCの最大要求出力に比較して、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2の最大出力が小さく設定され得る。このため、電気モータMT、及び、調圧弁UAが、完全に冗長化されても、装置SCの大型化が回避され得る。
【0045】
最大出力において、第1駆動回路DR1に係る部材(=DR1、C1、A1x、A1y)と、第2駆動回路DR2に係る部材(=DR2、C2、A2x、A2y)とで、異なるものが採用され得る。最大出力が大きい側が「メイン部材」と称呼され、小さい側が「サブ部材」と称呼される。例えば、第1駆動回路DR1に係る部材がメイン部材とされ、第2駆動回路DR2に係る部材がサブ部材とされる。つまり、第1駆動回路DR1に係る部材の最大出力が、第2駆動回路DR2に係る部材の最大出力よりも大きく設定される。この場合、急制動時ではない通常制動時には、要求出力が小さいため、第1駆動回路DR1に係る部材(メイン部材)のみによって、制動液圧Pwの調整が行われる。そして、急制動時等で、要求出力が大きい場合には、第1駆動回路DR1に係る部材(メイン部材)に加え、第2駆動回路DR2に係る部材(サブ部材)も駆動される。なお、最大出力が小さい第2駆動回路DR2では、昇圧回路SHが省略されてもよい。上記同様に、制動制御装置SCが完全に冗長化されても、装置は小型化され得る。
【0046】
<調圧制御の処理>
図3のフロー図を参照して、調圧制御の処理について説明する。「調圧制御」は、液圧Pq(=Pw)を調節するための、電気モータMT、及び、調圧弁UAの駆動制御である。該制御のアルゴリズムは、コントローラECU内のマイクロプロセッサMPにプログラムされている。
【0047】
ステップS110にて、各種の信号が読み込まれる。具体的には、操作量Ba、調整液圧Pq、回転角Ka、車輪速度Vw、及び、要求減速度Gdが読み込まれる。各信号(Pq等)は、制動制御装置SCに備えられたセンサ(PQ等)によって検出される。また、信号(Gd等)は、通信バスBSを介して、他のコントローラ(ECJ等)から受信される。
【0048】
ステップS120にて、操作量Baに基づいて、目標減速度Gtが演算される。目標減速度Gtは、車両減速度Gxの目標値である。目標減速度Gtは、演算マップZgtに従って、操作量Baが「0」から所定値boの範囲では、「0」に決定され、操作量Baが所定値bo以上では、操作量Baが増加するに伴い、「0」から単調増加するよう演算される。また、ステップS120では、自動制動制御の要求減速度Gdに基づいて、要求減速度Gdが目標減速度Gtとして決定される(即ち、「Gt=Gd」)。例えば、操作量Baに応じた目標減速度Gt[Ba]と、要求減速度Gdとが比較され、それらのうちで大きい方が、最終的な目標減速度Gtとして決定される(即ち、「Gt=MAX(Gt[Ba],Gd)」)。
【0049】
ステップS130にて、目標減速度Gtに基づいて、目標液圧Ptが演算される。目標液圧Ptは、調整液圧Pqの目標値である。調整液圧Pq(制動液圧Pw)と車両減速度(実際値)Gxとは一対一に対応するため、目標減速度Gtが所定の関係に基づいて、目標液圧Ptに変換される。
【0050】
ステップS140にて、目標液圧Ptに基づいて、目標回転数Ntが演算される。目標回転数Ntは、電気モータMTの回転数の目標値である。目標回転数Ntは、演算マップZntに従って、目標液圧Ptが「0」から所定値poの範囲では、所定回転数noに決定され、目標液圧Ptが所定値po以上では、目標液圧Ptが増加するに伴い、所定回転数noから単調増加するよう演算される。調整液圧Pqは、調圧弁UAのオリフィス効果によって発生されるが、このオリフィス効果を得るためには、或る程度の流量が必要となる。このため、目標液圧Ptが「0」から所定値poの範囲では、目標回転数Ntが、液圧発生に最低限必要な値(予め設定された定数)noに決定される。目標液圧Ptの時間変化量(増加勾配)dPに基づいて、増圧勾配dPが大きいほど、目標液圧Ptに応じた目標回転数Ntが大きくなるよう修正され得る。これにより、電気モータMTの実際の回転数Naの応答性が向上される。
【0051】
ステップS140では、電気モータMTの回転角(検出値)Kaに基づいて、回転速度(単位時間当りの回転数)Naが演算される。具体的には、回転角Kaが時間微分されて、実回転数Naが演算される。目標回転数Nt、及び、実回転数Naに基づいて、電気モータMTの回転数フィードバック制御(「回転数サーボ制御」ともいう)が実行される。このフィードバック制御では、電気モータMTの回転数が制御変数とされて、第1、第2駆動回路DR1、DR2によって、電気モータMT(第1、第2モータコイルC1、C2)への通電量(例えば、供給電流)が制御される。具体的には、モータ回転数における目標値Ntと実際値Naとの偏差hN(=Nt-Na)に基づいて、偏差hN(回転数偏差)が「0」となるよう(つまり、実際値Naが目標値Ntに近づくよう)、電気モータMTへの通電量が調整される。
【0052】
ステップS150では、目標液圧Pt、及び、調整液圧(検出値)Pqに基づいて、調圧弁UAx、UAyの液圧フィードバック制御(「液圧サーボ制御」ともいう)が実行される。このフィードバック制御では、調整液圧が制御変数とされて、第1、第2駆動回路DR1、DR2によって、調圧弁UA(弁コイルA1、A2)への通電量が制御される。具体的には、目標液圧Ptと調整液圧Pqとの偏差hP(=Pt-Pq)に基づいて、偏差hP(液圧偏差)が「0」となるよう(つまり、調整液圧Pqが目標液圧Ptに近づくよう)、調圧弁UAへの通電量が調整される。
【0053】
一方側、他方側液圧センサPQx、PQyが省略される場合には、一方側、他方側調整液圧Pqx、Pqyは検出されない。この場合には、調整液圧Pqは、調圧弁UAの電流-液圧特性に基づいて制御される。「電流-液圧特性」は、調圧弁UAに対する通電量(電流値)と調整液圧Pqとの関係を表している。従って、目標液圧Pt、及び、予め設定された電流-液圧特性に基づいて、調圧弁UAの目標通電量が決定される。そして、駆動回路DRに設けられた通電量センサによって検出される実際の通電量が目標通電量に一致するよう、通電量フィードバック制御が実行される。
【0054】
<制動制御装置SCの第2の実施形態>
図4の全体構成図を参照して、制動制御装置SCの第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、マスタシリンダ流体路HMx、HMyにて、還流路KNx、KNyが形成されて、調整液圧Pqが、マスタシリンダ液圧Pmから増加するよう調節された(所謂、「インライン調圧」である)。第2の実施形態では、プライマリマスタピストンPFの後方(制動操作部材BPに近い側)にサーボ室Rsが設けられ、サーボ室Rsに供給される調整液圧Pbによって、マスタシリンダ液圧Pm(=Pw)が調節される。ここで、調整液圧Pbは、大気圧(=「0」)から増加される。
【0055】
上述した様に、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「i」~「l」は、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を、夫々、示す。記号末尾の添字「i」~「l」は、省略される。省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を表す。制動系統に係る記号の末尾に付された添字「x」、「y」は、2つの制動系統において、「x」は一方側系統、「y」は他方側系統を示す。記号末尾の添字「x」、「y」は省略される。省略された場合には、各記号は、その総称を表す。流体路において、リザーバRVに近い側が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側が「下部」と称呼される。また、制動液BFの還流路KN、KOにおいて、流体ポンプHPの吐出部に近い側が「上流側」と称呼され、吐出部から離れた側が「下流側」と称呼される。
【0056】
≪調圧ユニットYB≫
以下、第1の実施形態と相違する点を主に説明する。第2の実施形態に係る制動制御装置SCでは、調圧ユニットYBを含んで構成される。調圧ユニットYBは、電気モータMT、流体ポンプHQ、逆止弁GC、調圧弁UB、及び、調整液圧センサPBにて構成される。
【0057】
電気モータMT、及び、流体ポンプHQによって、電動ポンプが形成される。電気モータMTと流体ポンプHQとが一体となって回転するよう、電気モータMTと流体ポンプHQとが固定される。電気モータMTは、制動液圧Pwを増加するための動力源である。電気モータMTは、コントローラECUによって制御される。
【0058】
流体ポンプHQの吸込口には、第1リザーバ流体路HRが接続される。また、流体ポンプHQの吐出口には、調圧流体路HBが接続される。第1リザーバ流体路HRはマスタリザーバRVに接続される。このため、流体ポンプHQが回転駆動されることによって、制動液BFが、リザーバ流体路HRから、吸込口を通して吸入される。そして、制動液BFは、流体ポンプHQの吐出口から調圧流体路HBに排出される。例えば、流体ポンプHQとしてギヤポンプが採用される。
【0059】
調圧流体路HBには、逆止弁GC(「チェック弁」ともいう)が設けられる。例えば、流体ポンプHQの吐出部の近くに、逆止弁GCが設けられる。逆止弁GCによって、制動液BFは、リザーバ流体路HRから調圧流体路HBに向けては移動可能であるが、調圧流体路HBからリザーバ流体路HRに向けての移動(即ち、制動液BFの逆流)が阻止される。
【0060】
調圧弁UBは、調圧流体路HB、及び、第2リザーバ流体路HTに接続される。換言すれば、調圧流体路HBは、流体ポンプHQと調圧弁UBとを結ぶ流体路である。第1リザーバ流体路HRと同様に、第2リザーバ流体路HTは、リザーバRVに接続される。調圧弁UBは、調圧弁UAと同様に、通電状態(例えば、供給電流)に基づいて開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(「比例弁」、又は、「差圧弁」ともいう)である。調圧弁UBとして、常開型の電磁弁が採用される。調圧弁UBは、調圧弁駆動信号Ubに基づいて、コントローラECUによって制御される。
【0061】
電動ポンプが作動している場合には、制動液BFは、破線矢印(KO)で示すように、リザーバRVを含み、「HR→HQ→GC→UB→HT→RV→HR」の順で還流している。つまり、調圧ユニットYBでは、流体ポンプHQ、逆止弁GC、調圧弁UBを含む、制動液BFの還流路(制動液BFの流れが、再び元の流れに戻る流体路)が形成されている。調圧弁UBは、部位Bcにて、第1リザーバ流体路HRに接続されてもよい。この場合、制動液BFの還流路KOは、「HR→HQ→GC→UB→HR」の順となる。
【0062】
調圧弁UBが全開状態にある場合(常開型であるため、非通電時)、調圧流体路HB内の液圧(調整液圧)Pbは低く、略「0(大気圧)」である。調圧弁UBへの通電量が増加され、調圧弁UBによって還流路KOが絞られると、調整液圧Pbは増加される。即ち、調圧弁UBのオリフィス効果によって調整液圧Pbの調整が行われる。調整液圧Pbを検出するよう、調圧流体路HB(特に、逆止弁GCと調圧弁UBとの間)に調整液圧センサPBが設けられる。検出された調整液圧Pbは、コントローラECUに入力される。
【0063】
調圧流体路HBは、部位Bb(調圧弁UBの上流側)にて、サーボ流体路HSに分岐される。サーボ流体路HSは、サーボ室Rsに接続される。サーボ室Rsは、「マスタシリンダCMの内周面、底部」、及び、「マスタピストンPFの端面」によって区画された液圧室である。従って、第2の実施形態では、マスタシリンダCMは、3つの液圧室Rmx、Rmy、Rsを有する。サーボ室Rsには、調整液圧Pbに調圧された制動液BFが供給される。サーボ室Rsは、動力伝達経路において、マスタピストンPFと制動操作部材BPとの間に設けられる。このため、調整液圧Pbが増加されると、サーボ室RsによってマスタピストンPF、PGが前進方向Haに押され、マスタシリンダ液圧Pmx、Pmy(=Pw)が増加される。一方、調整液圧Pbが減少されると、前進方向Haの押圧力が減少される。結果、マスタピストンPF、PGが後退方向Hbに戻され、マスタシリンダ液圧Pmx、Pmyが減少される。
【0064】
一方側、他方側マスタシリンダ液圧Pmx、Pmy(即ち、制動液圧Pw)を検出するよう、一方側、他方側マスタシリンダ液圧センサPMx、PMyが設けられる。第2の実施形態では、マスタシリンダ液圧Pmx、Pmyは、調整液圧Pbの結果であるため、制動操作量Baとしては採用されない。従って、操作量Baとして、操作変位Sp、及び、操作力Fpのうちの少なくとも1つが採用される。
【0065】
液圧室Rs、Rmの受圧面積rs、rmの関係は既知であるため、調整液圧センサPB、一方側マスタシリンダ液圧センサPMx、及び、他方側マスタシリンダ液圧センサPMyのうちの少なくとも1つは省略され得る。
【0066】
<第2の実施形態のコントローラECU等の構成>
図5の概略図を参照して、第2の実施形態のコントローラECU、電気モータMT、及び、調圧弁UBの構成について説明する。第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様の冗長系が構成される。基本的な構成は、第1の実施形態と同じであるため、簡単に説明する。
【0067】
コントローラECUには、電力源BT(蓄電池)、AL(発電機)から、電力が供給される。コントローラECUによって、電気モータMT、及び、調圧弁UBが駆動される。コントローラECUは、マイクロプロセッサMP、及び、第1、第2駆動回路DR1、DR2にて構成される。マイクロプロセッサMP、及び、第1、第2駆動回路DR1、DR2が冗長化されている。
【0068】
加えて、図5(a)のように、コントローラECUの電力源である蓄電池BT1、BT2、及び、夫々の蓄電池BT1、BT2を充電する発電機AL1、AL2が冗長化(二重化)されている。第1、第2蓄電池BT1、BT2によって、第1、第2駆動回路DR1、DR2の夫々に電力が供給される。また、図5(b)のように、第1、第2発電機AL1、AL2のうちの1つが省略され、2つの蓄電池BT1、BT2が、1つの発電機ALによって充電されてもよい。更に、図5(c)のように、1つの発電機ALによって充電される、1つの蓄電池BTによって、第1、第2駆動回路DR1、DR2に電力が供給されてもよい。2つの蓄電池BT1、BT2が設けられる場合には、蓄電池BT1、BT2からマイクロプロセッサMPに電力が供給される。
【0069】
駆動回路DR1、DR2には、電気モータMTの駆動用のスイッチング素子によるブリッジ回路が設けられる。モータ駆動信号Mtに基づいて、各スイッチング素子の通電状態が制御され、電気モータMTの出力が制御される。駆動回路DR1、DR2には、調圧弁UBを駆動するよう、電磁弁用の駆動回路が含まれる。調圧弁駆動信号Ubに基づいて、調圧弁UBの励磁状態(即ち、通電量)が制御され、調圧弁UBが駆動される。更に、第1、第2駆動回路DR1、DR2には、電源電圧(蓄電池BT等の電力源の電圧)を増加するよう、昇圧回路SHが含まれる。昇圧回路SHによって、電気モータMT、及び、調圧弁UBの駆動電圧が、電源電圧から増加される。また、昇圧回路SHによって、電気モータMTのみの駆動電圧が増加され、調圧弁UBの駆動電圧は電源電圧のままとされてもよい。更に、第1、第2駆動回路DR1、DR2の昇圧回路SHは省略され、コントローラECUには、昇圧回路SHが含まれなくてもよい。
【0070】
電気モータMTは、第1、第2モータコイルC1、C2を含んでいる。第1モータコイルC1は第1駆動回路DR1によって通電され、第2モータコイルC2は第2駆動回路DR2によって通電される。つまり、電気モータMTは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって通電され、駆動される。電気モータMTでは冗長構成が採用されるため、2つの駆動系のうちの何れか一方が作動不調になっても、2つの駆動系のうちで適正に作動する他方によって、電気モータMTは駆動される。なお、電気モータMTには、回転角Kaを検出するよう、冗長化された回転角センサKA(例えば、2組の検出部を有するセンサ)が設けられる。回転角Kaが推定して演算される場合には、回転角センサKAは省略されてもよい。
【0071】
調圧弁UBは、第1、第2弁コイルB1、B2(電磁弁用の巻線)を含んでいる。第1弁コイルB1は第1駆動回路DR1によって通電され、第2弁コイルB2は第2駆動回路DR2によって通電される。つまり、調圧弁UBは、第1駆動回路DR1、及び、第2駆動回路DR2のうちの少なくとも1つによって通電され、駆動される。調圧弁UBでも冗長構成が採用されるため、2つの駆動系のうちの何れか一方が作動不調になっても、2つの駆動系のうちで適正に作動する他方によって、調圧弁UBは駆動される。
【0072】
第1の実施形態と同様に、第1駆動回路DR1に係る部材(=DR1、C1、B1)と、第2駆動回路DR2に係る部材(=DR2、C2、B2)とは、同一のものが採用され、それらの最大出力が等しい。例えば、電気モータMT、及び、調圧弁UBへの要求出力が小である場合には、2つの構成部材(DR1、DR2等)のうちの一方が駆動され、他方は駆動されない。要求出力が大である場合には、両方の構成部材(DR1、DR2等)が駆動される。つまり、制動制御装置SCに要求される最大出力に比較して、第1、第2駆動回路DR1、DR2の最大出力は小さいため、冗長化による装置SCの大型化が抑制される。
【0073】
最大出力において、2つの構成部材(DR1、DR2等)に主従関係が設けられる。つまり、2つの構成部材(DR1、DR2等)のうちの一方の最大出力が、他方の最大出力よりも大きく設定される。通常制動時(急制動時ではなく、要求出力が小である場合)には、メイン部材(最大出力が大きい側)のみによって、マスタシリンダ液圧Pm(即ち、制動液圧Pw)の調整が行われる。一方、急制動時等であり、要求出力が大である場合には、メイン部材、及び、サブ部材(最大出力が小さい側)の両方が駆動される。なお、最大出力が小さいサブ部材の駆動回路では、昇圧回路SHが省略されてもよい。上記同様、制動制御装置SCが完全に冗長化された上で、装置の小型・軽量化は維持され得る。
【0074】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果(制動制御装置SCが冗長化された上での、制動制御装置SCの小型・軽量化の達成)を奏する。
【0075】
上記実施形態では、内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)を備えた車両(ハイブリット車を含む)に適用されることを想定している。従って、バッテリィBTは、オルタネータALにて充電される。本発明に係る制動制御装置SCは、電気自動車にも適用可能である。該車両に適用される場合には、オルタネータALは省略される。
【0076】
上記実施形態では、リニア型の調圧弁UA、UBには、通電量に応じて開弁量が調整されるものが採用された。例えば、調圧弁UA、UBは、オン・オフ弁ではあるが、弁の開閉がデューティ比で制御され、液圧が線形に制御されるものでもよい。
【0077】
上記実施形態では、流体ポンプHP、HQの駆動源として、ブラシレスモータが例示された。ブラシレスモータに代えて、電気モータMTとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用され得る。この場合、ブリッジ回路として、4つのスイッチング素子(パワートランジスタ)にて形成されるHブリッジ回路が用いられる。ブラシレスモータの場合と同様に、電気モータMTは、第1、第2モータコイルC1、C2を有し、これらは、第1、第2駆動回路DR1、DR2によって駆動(通電)される。電気モータMTには、回転角Kaを検出するよう、二重系の回転角センサKAが設けられる。なお、回転角Kaが推定可能である場合には、回転角センサKAは不要である。
【0078】
上記実施形態では、2系統の流体路として、所謂、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用された。2系統流体路として、前後型(「II型」ともいう)のものが採用され得る。この場合、一方側系統には前輪ホイールシリンダCWi、CWjが、他方側系統には後輪ホイールシリンダCWk、CWlが、夫々接続される。
【符号の説明】
【0079】
SC…制動制御装置、BP…制動操作部材、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、RV…マスタリザーバ、BA…操作量センサ、HPx…一方側流体ポンプ、HPy…他方側流体ポンプ、HQ…流体ポンプ、ECU…コントローラ(電子制御ユニット)、MT…電気モータ、C1…第1モータコイル、C2…第2モータコイル、UAx…一方側調圧弁、UAy…他方側調圧弁、A1x…一方側第1弁コイル、A2x…一方側第2弁コイル、A1y…他方側第1弁コイル、A2y…他方側第2弁コイル、UB…調圧弁、B1…第1弁コイル、B2…第2弁コイル、DR1…第1駆動回路、DR2…第2駆動回路、SH…昇圧回路、BT1…第1蓄電池、BT2…第2蓄電池、YB…調圧ユニット、KNx…一方側還流路、KNy…他方側還流路、KO…還流路、PQ…調整液圧センサ、PB…調整液圧センサ。


図1
図2
図3
図4
図5