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  • 特許-鉛蓄電池用負極及び鉛蓄電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用負極及び鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221220BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20221220BHJP
   H01M 10/08 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
H01M10/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018179402
(22)【出願日】2018-09-25
(65)【公開番号】P2020053168
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158540
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 博生
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100187768
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 優作
(72)【発明者】
【氏名】藤森 智貴
(72)【発明者】
【氏名】森嶋 翔也
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-123760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/14
H01M 10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛及びカーボンブラックを含む負極合剤を有し、
上記カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積が16,000mL・m/100g以上28,000mL・m/100g以下であり、
上記カーボンブラックの含有量が、上記鉛(100質量%)に対して、0.1質量%以上1.0質量%以下であり、
上記カーボンブラックの比表面積が70/g以上240/g以下である鉛蓄電池用負極。
【請求項2】
請求項1の鉛蓄電池用負極を備える鉛蓄電池。
【請求項3】
ナトリウムイオンを含む電解液をさらに備え、
上記電解液におけるナトリウムイオンの含有量が0mmol/L超30mmol/L以下である請求項の鉛蓄電池。
【請求項4】
アイドリングストップ車用である請求項又は請求項の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用負極及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用等、様々な用途で広く使用されている。例えば車載用の鉛蓄電池は、セルモータ駆動用電源や車内電気機器用電源として用いられている。
【0003】
鉛蓄電池においては、各種性能を改善するために、負極活物質に対してカーボン等の添加剤が添加されている(特許文献1参照)。特許文献1には、リグニンスルホン酸ナトリウム塩、硫酸バリウム及びオイルファーネスブラックが負極活物質に添加された鉛蓄電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-152955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の燃費向上を目的として、エンジンのアイドリングを停止するシステムが普及しつつある。これらのシステムを採用した自動車(アイドリングストップ車)に備わる鉛蓄電池においては、従来の自動車に備わる蓄電素子と比べて、充放電の頻度が高い。また、短い時間でより多くの電力を充電できることが求められる。このように、アイドリングストップ車用の鉛蓄電池においては、効率のよい充電が可能であることが要求されるが、従来の鉛蓄電池は、この要求に十分に応えられるものではない。ここで、アイドリングストップ寿命試験として、所定の短時間の充放電を繰り返す試験方法が、電池工業会規格SBA S 0101に規定されている。充電の効率が悪いと、このようなアイドリングストップ寿命試験において、放電電圧の低下が早く、寿命が短くなる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、鉛蓄電池の充電効率を改善することができる鉛蓄電池用負極、及び充電効率が良い鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、鉛及びカーボンブラックを含む負極合剤を有し、上記カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積が16,000mL・m/100g以上28,000mL・m/100g以下である鉛蓄電池用負極である。
【0008】
本発明の他の一態様は、当該鉛蓄電池用負極を備える鉛蓄電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉛蓄電池の充電効率を改善することができる鉛蓄電池用負極、及び充電効率が良い鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用負極は、鉛及びカーボンブラックを含む負極合剤を有し、上記カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積が16,000mL・m/100g以上28,000mL・m/100g以下である鉛蓄電池用負極である。
【0012】
当該鉛蓄電池用負極は、鉛蓄電池の充電効率を改善することができる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。充放電を繰り返すことにより負極合剤内で粗大化する硫酸鉛が、充電受入性等を低下させる原因の一つであることが知られている。硫酸鉛は、充電時には還元され、電解液に溶出するものの、充放電が繰り返されるにつれて、硫酸塩は還元及び溶出し難くなり、粗大化が進む。そこで、硫酸鉛の周囲にカーボンブラックによる導電性ネットワークを形成することで、充電時に硫酸鉛を効率よく還元し、硫酸鉛の粗大化を抑制できると考えられる。一方、カーボンブラックのDBP吸油量は、カーボンブラックが構築する導電性ネットワークの発達度合いを示す。また、カーボンブラックの比表面積は、反応面積の大きさを示す。カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積が16,000mL・m/100g未満と小さい場合、導電性ネットワークの発達が不十分な状態と考えられる。この場合、充電時に硫酸鉛に十分な量の電気が流れないため、硫酸鉛の還元を十分に行うことができず、充電効率が改善されない。逆に、カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積が28,000mL・m/100g超と大きい場合、流れる電気量は増大し、硫酸鉛の還元は生じやすくなると考えられるものの、カーボンブラック表面において電解反応の活性点が増える。このため、電解反応によるガス発生が多くなり、充電効率が悪くなる。また、電解反応が増えることで、減液量も多くなることからも好ましくない。これに対し、カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積が16,000mL・m/100g以上28,000mL・m/100g以下の範囲である場合、十分な導電性ネットワークを構築しつつ、電解反応の活性点の増加が抑えられた状態となっていると推測される。このような状態の場合、充電時に十分な電気量が流れるため、負極合剤の内部の硫酸鉛まで十分に還元することができるとともに、ガスの発生も抑制され、この結果、充電効率が良好になると推測される。
【0013】
本明細書において、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K 6217-4に準拠して測定された値とする。カーボンブラックの比表面積は、以下の方法により測定されたBET比表面積とする。まず、カーボン0.1gを計量し窒素吸着法を用いた細孔径分布測定を行う。得られる吸着等温線のP/P0=0.06~0.3の領域から5点を抽出してBETプロットを行い、その直線のy切片と傾きからBET比表面積が算出できる。
【0014】
上記カーボンブラックの比表面積が70m/g以上240m/g以下であることが好ましい。カーボンブラックの比表面積を上記範囲とすることで、充電効率をより良くすることができる。
【0015】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池は、当該鉛蓄電池用負極を備える鉛蓄電池である。当該鉛蓄電池は、上述した本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用負極を備えるため、充電効率が良い。
【0016】
当該鉛蓄電池は、ナトリウムイオンを含む電解液をさらに備え、上記電解液におけるナトリウムイオンの含有量が0mmol/L超30mmol/L以下であることが好ましい。このように、ナトリウムイオンの含有量が比較的少ない電解液を用いることで、充電効率がより良好になる。
【0017】
当該鉛蓄電池は、アイドリングストップ車用であることが好ましい。当該鉛電池は、充電効率が良いため、短時間での効率的な充電が要求されるアイドリングストップ車に好適に用いることができる。
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用負極及び鉛蓄電池について、順に詳説する。
<鉛蓄電池用負極>
本発明の鉛蓄電池用負極の一実施形態に係る負極板は、負極集電体と負極合剤とを具備する。負極合剤は、負極集電体に保持されている。
【0019】
(負極集電体)
負極集電体は、通常、格子板状である。負極集電体は、鉛(Pb)又は鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛又は鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)が挙げられる。
【0020】
負極集電体に用いられる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金等が挙げられる。これらの鉛又は鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cu等の元素を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、鉛合金層は複数でもよい。
【0021】
(負極合剤)
負極合剤は、鉛及びカーボンブラックを含む。
【0022】
鉛は、負極活物質として機能する成分であり、通常、負極合剤における主成分である。負極合剤に占める鉛の含有量は、例えば90質量%以上99.99質量%以下とすることができる。負極合剤中の鉛の一部又は全部は、硫酸鉛等として存在していてもよい。
【0023】
カーボンブラックは、炭素を主成分とする粒子として負極合剤中に存在する。負極合剤に含まれるカーボンブラックのDBP吸油量の下限としては、50mL/100gが好ましく、80mL/100gがより好ましく、110mL/100gがさらに好ましい。一方、カーボンブラックのDBP吸油量の上限としては、300mL/100gが好ましく、250mL/100gがより好ましく、220mL/100gがさらに好ましい。カーボンブラックのDBP吸油量が上記範囲であることで、カーボンブラックにより形成される導電性ネットワークがより適度な状態となり、良好な導電性が発揮されることにより、充電効率をより良好にすることができる。
【0024】
カーボンブラックの比表面積の下限としては、例えば50m/gであってもよいが、70m/gが好ましく、100m/gがより好ましいことがある。一方、カーボンブラックの比表面積の下限としては、例えば300m/gであってもよいが、240m/gが好ましく、200m/gがより好ましく、130m/gがさらに好ましいこともある。カーボンブラックの比表面積が上記範囲であることで、ガスが発生する電解反応を抑制しつつ、良好な導電性を確保することができる。このため、充電効率をより良好にすることができる。また、比表面積を上記上限以下とすることで、電解液の減少を抑制することができる。
【0025】
カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積の下限は16,000mL・m/100gであり、18,000mL・m/100gが好ましく、20,000mL・m/100gがより好ましい。一方、この積の上限は28,000mL・m/100gであり、25,000mL・m/100gがより好ましい。カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積が上記範囲であることで、カーボンブラックによる良好な導電性の確保と、電解反応の抑制とをバランスよく達成し、充電効率を良好にすることができる。
【0026】
カーボンブラックは、DBP吸油量と比表面積との積が16,000mL・m/100g以上28,000mL・m/100g以下のものである限り特に限定されず、種々のカーボンブラックが用いられる。カーボンブラックとしては、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、また、2種以上併用してもよい。
【0027】
カーボンブラックのDBP吸油量、比表面積及びこれらの積は、DBP吸油量や比表面積の異なる2種以上の市販のカーボンブラックを混合することなどにより所望する値に調整することができる。
【0028】
負極合剤中におけるカーボンブラックの、鉛(100質量%)に対する含有量の下限としては、0.1質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましい。カーボンブラックの含有量を上記下限以上とすることで、十分な導電性を確保し、充電の効率性をより高めることができる。カーボンブラックの鉛(100質量%)に対する含有量の上限としては、1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。カーボンブラックの含有量を上記上限以下とすることで、電解反応を抑制し、充電効率をより良くすることができる。
【0029】
なお、各成分の含有量は、満充電状態(SOC100%)における含有量とする。鉛蓄電池を満充電状態にする充電条件は以下の通りである。液式(ベント式)電池の場合、25℃、水槽中、0.2Cで2.5V/セルに達するまで定電流充電をおこなった後、さらに0.2Cで2時間、定電流充電を行う。制御弁式(密閉式)電池の場合、25℃、気槽中、0.2C、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mC以下になった時点で充電を終了する。なお、1Cは、電池の公称容量を1時間で放電する電流値であり、例えば公称容量が30Ahの電池であれば1Cは30Aである。
【0030】
負極合剤には、その他、必要に応じて、カーボンブラック以外の炭素質材料、硫酸バリウム、リグニン等の他の添加剤を含有させることができる。
【0031】
(負極の製造方法)
負極板は、未化成の負極板を化成処理することにより得られる。未化成の負極板は、通常、負極活物質の原料となる一酸化鉛を主成分とする鉛粉末を用いて作製される。具体的には、負極集電体に負極合剤ペーストを充填し、常法に従って熟成及び乾燥することにより未化成の負極板を作製する。負極合剤ペーストは、例えば、一酸化鉛を主成分とする鉛粉末に添加剤としてカーボンブラックとリグニンと硫酸バリウムとを所定の比率で混合した後、水と50%希硫酸を所定の比率で混合することにより得ることができる。未化成の負極板の熟成及び乾燥は、室温より高温かつ高湿度で行うことが好ましい。
【0032】
得られた未化成の負極板を化成処理することにより、鉛粉末が海綿状鉛となった負極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池又は極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成し、負極板として用いることができる。
<鉛蓄電池>
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池は、負極としての負極板と、正極としての正極板と、電解液とを備える。負極板と正極板との間にはセパレータが配置される。負極板、正極板及びセパレータは、電解液中に浸漬している。当該鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池でもよく、制御弁式鉛蓄電池でもよいが、液式鉛蓄電池であることが好ましい。
【0033】
(負極板)
負極板は、上述した本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用負極が用いられる。
【0034】
(正極板)
正極板は、ペースト式、クラッド式等に分類できる。
【0035】
ペースト式正極板は、通常、格子板状の正極集電体と、正極合剤とを具備する。正極合剤は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛又は鉛合金の鋳造や、鉛又は鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0036】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極合剤と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。
【0037】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性及び機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系等が好適である。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、鉛合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Sb系合金を用いることが好ましい。
【0038】
正極合剤は、正極活物質(通常、二酸化鉛又は硫酸鉛)を含む。正極合剤は、正極活物質に加え、必要に応じて、硫酸スズ、鉛丹などの添加剤を含んでもよい。
【0039】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合と同様に、正極集電体に、常法によって得られた正極合剤ペーストを充填し、熟成及び乾燥することにより得られる。正極合剤ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸等を混練することで調製することができる。その後、未化成の正極板を化成する。クラッド式正極板は、芯金が挿入された多孔質なガラスチューブに鉛粉又はスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0040】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。この電解液は、ナトリウムイオンを含むことが好ましい。電解液におけるナトリウムイオンの含有量の上限としては、例えば40mmol/Lであってもよいが、30mmol/Lが好ましく、20mmol/L又は15mmol/Lがより好ましいこともある。ナトリウムイオンの含有量を上記上限以下とすることで、充電効率をより良好にすることができる。一方、電解液がナトリウムイオンを含有する場合、その含有量は、0mmol/L超であればよいが、この含有量の下限としては、0.1mmol/Lが好ましく、1mmol/Lがより好ましく、3mmol/L、5mmol/L又は10mmol/Lがさらに好ましいこともある。ナトリウムイオンの含有量を上記下限以上とすることで、電解液の減少を抑制できる傾向にある。
【0041】
ナトリウムイオンは、例えば硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の塩として電解液に添加することで、電解液に含有させることができる。
【0042】
電解液には、ナトリウムイオン以外の金属イオンがさらに含有していてもよい。但し、電解液におけるナトリウムイオン以外の金属イオンの合計含有量の上限としては、70mmol/Lが好ましいことがあり、50mmol/Lがより好ましいことがあり、20mmol/Lがさらに好ましいこともある。
【0043】
電解液は、必要に応じてゲル化させていてもよい。ゲル化の程度は、特に限定されない。流動性を有するゾルからゲル状態の電解液を用いてもよく、流動性を有さないゲル状態の電解質を用いてもよい。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重の下限は、例えば1.25g/cmであり、1.28g/cmが好ましい。一方、この比重の上限は、例えば1.35g/cmであり、1.32g/cmが好ましい。
【0044】
(セパレータ)
セパレータには、不織布シート、微多孔膜等が用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて適宜選択すればよい。不織布シートは、ポリマー繊維やガラス繊維を主体とするシートであり、例えば60質量%以上が繊維成分で形成されている。一方、微多孔膜は、例えばポリマー粉末、シリカ粉末及びオイルを含む組成物をシート状に押し出し成形した後、オイルを抽出して細孔を形成することにより得られる。セパレータを構成する材料は、耐酸性を有するものが好ましく、ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0045】
(用途)
当該鉛蓄電池は、充電効率が良い。従って、当該鉛蓄電池は、自動車用等、一般的な鉛蓄電池が使用される各種用途に幅広く用いることができる。特に、多数の充放電が繰り返され、優れた充電効率が要求されるアイドリングストップ車用として好適に用いることができる。
【0046】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。鉛蓄電池1は、極板群11、電解液(図示せず)及びこれらを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16及び正極端子17を具備する蓋15で密閉されている。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0047】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2及び正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状セパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚6に負極柱9が接続され、正極棚5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0048】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記実施形態においては、正極及び負極をそれぞれ正極板及び負極板として説明したが、正極及び負極は、それぞれ板状に限定されるものではない。
【実施例
【0049】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
(1)未化成の負極板の作製
一酸化鉛を主成分とする鉛粉末に、添加剤としてDBP吸油量が150mL/100g、比表面積が107m/gのカーボンブラックと質量平均分子量が6000のリグニンと平均一次粒子径が0.3μmの硫酸バリウムとを所定の比率で混合した。この混合物にさらに水と50%希硫酸とを所定の比率で加えて混練し、負極合剤ペーストを得た。負極合剤ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成及び乾燥し、未化成の負極板を得た。なお、カーボンブラックは、化成後に満充電した鉛蓄電池の負極合剤における鉛に対する含有量が0.3質量%になるように、負極合剤ペーストに配合した。
【0051】
(2)未化成の正極板の作製
原料の一酸化鉛を主成分とする鉛粉と水と50%希硫酸とを所定の比率にて混合して、正極合剤ペーストを得た。正極合剤ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、常法に従って熟成及び乾燥し、未化成の正極板を得た。
【0052】
(3)電解液の調製
水に硫酸及び硫酸ナトリウムと炭酸ナトリウムとの混合物を添加し、ナトリウムイオンの含有量が20mmol/Lの電解液を調製した。
【0053】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚を同極同士の極板を集合溶接して極板群を形成した。極板群をポリプロピレン製の電槽に収容して、極板群を直列で溶接をし、電解液を注液して電槽内で化成を施し、実施例1の液式の鉛蓄電池を組み立てた。
【0054】
<実施例2~12及び比較例1~7>
用いたカーボンブラックのDBP吸油量及び比表面積を表1に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~12及び比較例1~7の鉛蓄電池を組み立てた。なお、各実施例及び比較例において、カーボンブラックのDBP吸油量及び比表面積は、DBP吸油量及び比表面積の異なる市販のカーボンブラックを単独で、又は複数種を混合することにより調整した。
【0055】
<実施例13~16>
用いたカーボンブラックのDBP吸油量及び比表面積、並びに電解液中のナトリウムイオンの含有量を表2に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例13~16の鉛蓄電池を組み立てた。
【0056】
[評価]
<アイドリングストップ(IS)寿命>
各鉛蓄電池に対して、以下の要領でアイドリングストップ寿命試験を実施した。0℃の雰囲気下で、300A×1.0秒間の放電と、25A×25秒間の放電と、14.0V×30秒間の充電を30サイクル繰り返す毎に6hの微小電流(20mA)放電をした。なお、微小電流放電は、エンジン停止時の暗電流放電を模擬している。上記サイクル30サイクルと6hの微小電流放電とを繰り返し、300A放電時の放電電圧が7.2V未満になった時点を寿命とした。IS寿命が長い場合と、充電効率が優れると判断できる。
【0057】
<減液量>
上記IS寿命試験の前後で、電池の重量を測定してその重量の減少量を減液量とした。
【0058】
各評価結果を表1、2に示す。なお、表1における各評価結果は、比較例7を基準(100%)とした相対値として示す。また、表2における各評価結果は、実施例16を基準(100%)とした相対値として示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1に示されるように、実施例1~12の鉛蓄電池は、いずれもIS寿命が110%以上であり、充電効率が良好な結果となった。また、各実施例においては、減液量も少なく、特に、カーボンブラックの比表面積が小さい場合、減液量がより小さくなる傾向が示された。一方、カーボンブラックのDBP吸油量と比表面積との積が16,000mL・m/100g未満の比較例1、2及び上記積が28,000mL・m/100g超の比較例3~7の鉛蓄電池は、いずれもIS寿命が110%未満であり、充電効率が不十分な結果となった。
【0062】
また、表2に示されるように、電解液中のナトリウムイオンの含有量を少なくすることで、IS寿命が長くなり、充電効率がより高まる結果となった。一方、電解液中のナトリウムイオンの含有量が多い方が、減液量は少ないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の鉛蓄電池は、自動車、バイク、電動車両(フォークリフトなど)、産業用蓄電装置などの電源として用いられ、特にアイドリングストップ車用の電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0064】
1 鉛蓄電池
2 負極板
3 正極板
4 セパレータ
5 正極棚
6 負極棚
7 正極柱
8 貫通接続体
9 負極柱
11 極板群
12 電槽
13 隔壁
14 セル室
15 蓋
16 負極端子
17 正極端子
18 液口栓
図1