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特許7196503圧電素子およびその製造方法、液体吐出ヘッド、ならびにプリンター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】圧電素子およびその製造方法、液体吐出ヘッド、ならびにプリンター
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20221220BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20221220BHJP
   H01L 41/27 20130101ALI20221220BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/09
H01L41/27
B41J2/14 301
B41J2/14 613
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018181531
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020053557
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】北田 和也
(72)【発明者】
【氏名】浅川 勉
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-270514(JP,A)
【文献】特開2017-050353(JP,A)
【文献】特開2017-143260(JP,A)
【文献】特開2008-270379(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020638(WO,A1)
【文献】特開2017-037932(JP,A)
【文献】特開2014-135504(JP,A)
【文献】特開2013-226818(JP,A)
【文献】特開2017-050352(JP,A)
【文献】特開2018-082051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
H01L 41/09
H01L 41/27
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の上方に設けられる第1電極と、
前記基体に接し、前記第1電極を覆って設けられる第1圧電体層と、
前記第1圧電体層上に設けられる第2圧電体層と、
前記第2圧電体層の上方に設けられる第2電極と、
を含み、
前記第1圧電体層は、カリウムおよびニオブを含み、Aサイトの主成分がカリウムであるペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、
前記第2圧電体層は、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、
前記第1圧電体層は、前記第2圧電体層に比べて、カリウムの原子濃度(atm%)が高く、
二次イオン質量分析法で得られる前記第1圧電体層および前記第2圧電体層の深さ方向のプロファイルにおいて、カリウムのプロファイルとナトリウムのプロファイルとは、交互に極大値を有し、
前記深さ方向において、前記第1圧電体層と前記基体との界面の位置と、カリウムのプロファイルの複数の極大値のうち前記界面に最も近い極大値の位置と、の間の距離は、前記界面の位置と、ナトリウムのプロファイルの複数の極大値のうち前記界面に最も近い極大値の位置と、の間の距離よりも小さく、
前記第2圧電体層のX線回折パターンにおいて、(100)面のピーク強度と(110)面のピーク強度との和に対する、(100)面のピーク強度の比は、0.78以上0.81以下である、圧電素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記基体は、酸化ジルコニウム層を有し、
前記第1圧電体層は、前記酸化ジルコニウム層に接する、圧電素子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1圧電体層の膜厚と前記第2圧電体層の膜厚との和は、500nm以上1050
未満である、圧電素子。
【請求項4】
基体の上方に第1電極を形成する工程と、
前記基体に接し、前記第1電極を覆う第1圧電体層を形成する工程と、
前記第1圧電体層上に第2圧電体層を形成する工程と、
前記第2圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記第1圧電体層は、カリウムおよびニオブを含み、Aサイトの主成分がカリウムであるペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、
前記第2圧電体層は、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、
前記第1圧電体層は、前記第2圧電体層に比べて、カリウムの原子濃度(atm%)が高く、
二次イオン質量分析法で得られる前記第1圧電体層および前記第2圧電体層の深さ方向のプロファイルにおいて、カリウムのプロファイルとナトリウムのプロファイルとは、交互に極大値を有し、
前記深さ方向において、前記第1圧電体層と前記基体との界面の位置と、カリウムのプロファイルの複数の極大値のうち前記界面に最も近い極大値の位置と、の間の距離は、前記界面の位置と、ナトリウムのプロファイルの複数の極大値のうち前記界面に最も近い極大値の位置と、の間の距離よりも小さく、
前記第2圧電体層のX線回折パターンにおいて、(100)面のピーク強度と(110)面のピーク強度との和に対する、(100)面のピーク強度の比は、0.78以上0.81以下である、圧電素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の圧電素子と、
液体を吐出するノズル孔が設けられるノズルプレートと、
を含み、
前記基体は、前記圧電素子により容積が変化する圧力発生室と、前記圧力発生室に連通し、前記圧力発生室に前記液体を供給する供給流路と、が設けられる流路形成基板を有し、
前記ノズル孔は、前記供給流路と連通する、液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させる搬送機構と、
前記液体吐出ヘッドおよび前記搬送機構を制御する制御部と、
を含む、プリンター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子およびその製造方法、液体吐出ヘッド、ならびにプリンターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の発達により薄膜を利用した素子が増えてきており、液体吐出ヘッドなどで使用される圧電素子においても薄膜化が行われている。しかし、薄膜は、クラックが生じやすいといった課題がある。
【0003】
例えば特許文献1では、ニオブ酸カリウムナトリウム((K1-x,Na)NbO:KNN)系の圧電体層において、所定量のシリコーンオイルを含ませることにより、クラックの発生を抑制できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-169467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、圧電体層表面の結晶面方位について考慮しておらず、圧電体層は、膜厚が大きくなると、特許文献1の観察倍率(500倍)では確認できなかった微細なクラックが発生する可能性がある。このようなクラックが発生した圧電体層は、電圧の印加に伴う変形により亀裂進展する虞れがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る圧電素子の一態様は、
基体の上方に設けられる第1電極と、
前記基体に接し、前記第1電極を覆って設けられる第1圧電体層と、
前記第1圧電体層上に設けられる第2圧電体層と、
前記第2圧電体層の上方に設けられる第2電極と、
を含み、
前記第1圧電体層は、カリウムおよびニオブを含み、Aサイトの主成分がカリウムであるペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、
前記第2圧電体層は、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、
前記第1圧電体層は、前記第2圧電体層に比べて、カリウムの原子濃度(atm%)が高い。
【0007】
前記圧電素子の一態様において、
二次イオン質量分析法で得られる前記第1圧電体層および前記第2圧電体層の深さ方向のプロファイルにおいて、カリウムのプロファイルとナトリウムのプロファイルとは、交互に極大値を有し、
前記深さ方向において、前記第1圧電体層と前記基体との界面の位置と、カリウムのプロファイルの複数の極大値のうち前記界面に最も近い極大値の位置と、の間の距離は、前記界面の位置と、ナトリウムのプロファイルの複数の極大値のうち前記界面に最も近い極大値の位置と、の間の距離よりも小さくてもよい。
【0008】
前記圧電素子の一態様において、
前記第2圧電体層のX線回折パターンにおいて、(100)面のピーク強度と(110)面のピーク強度との和に対する、(100)面のピーク強度の比は、0.60以上であってもよい。
【0009】
前記圧電素子の一態様において、
前記比は、0.75以上であってもよい。
【0010】
前記圧電素子の一態様において、
前記基体は、酸化ジルコニウム層を有し、
前記第1圧電体層は、前記酸化ジルコニウム層に接してもよい。
【0011】
前記圧電素子の一態様において、
前記第1圧電体層の膜厚と前記第2圧電体層の膜厚との和は、500nm以上であってもよい。
【0012】
本発明に係る圧電素子の製造方法の一態様は、
基体の上方に第1電極を形成する工程と、
前記基体に接し、前記第1電極を覆う第1圧電体層を形成する工程と、
前記第1圧電体層上に第2圧電体層を形成する工程と、
前記第2圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、
を含み、
前記第1圧電体層は、カリウムおよびニオブを含み、Aサイトの主成分がカリウムであるペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、
前記第2圧電体層は、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、
前記第1圧電体層は、前記第2圧電体層に比べて、カリウムの原子濃度(atm%)が高い。
【0013】
本発明に係る液体吐出ヘッドの一態様は、
前記圧電素子の一態様と、
液体を吐出するノズル孔が設けられるノズルプレートと、
を含み、
前記基体は、前記圧電素子により容積が変化する圧力発生室と、前記圧力発生室に連通し、前記圧力発生室に前記液体を供給する供給流路と、が設けられる流路形成基板を有し、
前記ノズル孔は、前記供給流路と連通する。
【0014】
本発明に係るプリンターの一態様は、
前記液体吐出ヘッドの一態様と、
前記液体吐出ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させる搬送機構と、
前記液体吐出ヘッドおよび前記搬送機構を制御する制御部と、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
図2】二次イオン質量分析法で得られる第1圧電体層および第2圧電体層の深さ方向のプロファイルを模式的に示す図。
図3】本実施形態に係る圧電素子の製造方法を説明するためのフローチャート。
図4】本実施形態に係る液体吐出ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
図5】本実施形態に係る液体吐出ヘッドを模式的に示す平面図。
図6】本実施形態に係る液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
図7】本実施形態に係るプリンターを模式的に示す斜視図。
図8】実施例1のX線回折の測定結果。
図9】実施例2のX線回折の測定結果。
図10】実施例3のX線回折の測定結果。
図11】実施例6のX線回折の測定結果。
図12】比較例1のX線回折の測定結果。
図13】比較例2のX線回折の測定結果。
図14】実施例6のX線回折の測定結果。
図15】比較例1のX線回折の測定結果。
図16】実施例1~6および比較例1,2のX線回折パターンの強度の比を示す表。
図17】実施例6の二次イオン質量分析法の測定結果。
図18】比較例1の二次イオン質量分析法の測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0017】
1. 圧電素子
まず、本実施形態に係る圧電素子について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る圧電素子100を模式的に示す断面図である。
【0018】
圧電素子100は、図1に示すように、第1電極10と、第1圧電体層20と、第2圧電体層22と、第2電極30と、を含む。圧電素子100は、基体2の上方に設けられている。図示の例では、圧電素子100は、基体2上に設けられている。
【0019】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下、「A」という)の「上方」に他の特定のもの(以下、「B」という)を形成する」などと用いる場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。
【0020】
基体2は、例えば、半導体、絶縁体などで形成された平板である。基体2は、単層であっても、複数の層が積層された積層体であってもよい。基体2は、上面が平面的な形状であれば内部の構造は限定されず、内部に空間などが形成された構造であってもよい。
【0021】
基体2は、例えば、圧電体層20,22の動作によって変形することのできる振動板230を有している。図示の例では、振動板230は、酸化シリコン層232と、酸化シリコン層232上に設けられた酸化ジルコニウム層234と、を有している。酸化シリコン層232は、シリコンと酸素とを含む層であり、例えば、シリカ(SiO)層である。酸化ジルコニウム層234は、ジルコニウムと酸素とを含む層であり、例えば、ジルコニア(ZrO)層である。ジルコニア層の結晶構造は、単斜晶、正方晶、立方晶、またはこれらの混晶である。図示の例では、基体2は、シリコン基板201を有し、振動板230は、シリコン基板201上に設けられている。
【0022】
なお、酸化ジルコニウム層234は、酸素を含む層であればよく、酸化ジルコニウム層234の代わりに、酸化チタン層、酸化アルミニウム層、酸化タンタル層などを用いても
よい。また、酸化ジルコニウム層234は、設けられておらず、酸化シリコン層232上に第1電極10および第1圧電体層20が設けられていてもよい。
【0023】
第1電極10は、基体2の上方に設けられている。図示の例では、第1電極10は、基体2上に設けられている。第1電極10の形状は、例えば、層状である。第1電極10の膜厚は、例えば、3nm以上200nm以下である。第1電極10は、例えば、白金層、イリジウム層などの金属層、それらの導電性酸化物層、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO:SRO)層などである。第1電極10は、上記に例示した層を複数積層した構造を有していてもよい。
【0024】
第1電極10は、圧電体層20,22に電圧を印加するための一方の電極である。第1電極10は、第1圧電体層20の下方に設けられた下部電極である。
【0025】
なお、図示はしないが、第1電極10と基体2との間には、第1電極10と基体2との密着性を向上させる密着層が設けられていてもよい。密着層は、例えば、チタン層、酸化チタン層などである。
【0026】
第1圧電体層20は、基体2に接し、第1電極10を覆って設けられている。図示の例では、第1圧電体層20は、酸化ジルコニウム層234に接している。第1圧電体層20は、酸化ジルコニウム層234上および第1電極10上に設けられている。第1圧電体層20は、基体2との界面Bを有している。
【0027】
第1圧電体層20の膜厚は、例えば、5nm以上300nm以下である。ただし、第1圧電体層20は、第2圧電体層22と組成が異なり、第2圧電体層22と電荷の偏り具合が異なるので、電気特性の観点から、第1圧電体層20の膜厚は、小さい方が好ましい。具体的には、第1圧電体層20の膜厚は、5nm以上25nm以下が好ましい。
【0028】
第1圧電体層20は、カリウム(K)およびニオブ(Nb)を含み、Aサイトの主成分がカリウムであるペロブスカイト型構造の複合酸化物を有する。「Aサイトの主成分がカリウムである」とは、Aサイトのカリウムの原子濃度がAサイトを構成する原子の中で最も高いことをいう。第1圧電体層20は、例えば、KNbO(KN)層であり、(KNa(1-x))NbOの場合には0.5<x<1である。第1圧電体層20は、(K0.45Na0.40Li0.15)NbO層であってもよい。第1圧電体層20は、第2圧電体層22に比べて、カリウムの原子濃度(atm%)が高い。
【0029】
なお、第1圧電体層20のAサイトの主成分がカリウムであること、および第1圧電体層20のカリウムの原子濃度(atm%)が第2圧電体層22のカリウムの原子濃度(atm%)よりも高いことは、例えば、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)の深さ方向分析、TEM-EDS(Transmission Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)などによって確認することができる。
【0030】
第2圧電体層22は、第1圧電体層20上に設けられている。第2圧電体層22の膜厚は、第1圧電体層20の膜厚よりも大きい。圧電体層20は、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、およびニオブ(Nb)を含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を有する。第2圧電体層は、KNN層が複数積層されて構成されていてもよい。第2圧電体層22は、さらに、マンガン(Mn)を含んでいてもよい。第2圧電体層22は、マンガンが添加されたKNN層が複数積層されて構成されていてもよい。第2圧電体層22がマンガンを含むことにより、圧電素子100のリーク電流を低減することができる。圧電体層20,22は、第1電極10と第2電極30との間に電圧が印加されることにより、変形することができる。
【0031】
第1圧電体層20の膜厚と第2圧電体層22の膜厚との和Tは、例えば、500nm以上2μm以下である。和Tは、第1圧電体層20の膜厚と第2圧電体層22の膜厚と和の最大値である。図示の例では、和Tは、第1圧電体層20の酸化ジルコニウム層234上に設けられた第1部分20aの膜厚と、第2圧電体層22の第1部分20a上に設けられた第2部分22aの膜厚と、の和であり、酸化ジルコニウム層234と第2電極30との間の距離である。和Tは、例えば、断面SEM(Scanning Electron Microscope)によって測定することができる。
【0032】
圧電体層20のX線回折(X‐ray diffraction:XRD)パターンにおいて、(100)面のピーク強度と(110)面のピーク強度との和に対する、(100)面のピーク強度の比Rは、0.60以上である。比Rは、好ましくは0.65以上であり、より好ましくは0.70以上であり、さらにより好ましくは0.75以上である。
【0033】
ここで、図2は、SIMSで得られる第1圧電体層20および第2圧電体層22の深さ方向のプロファイルを模式的に示す図である。図2では、カリウムのプロファイルK-Pと、ナトリウムのプロファイルNa-Pと、を図示している。図2の横軸は、圧電体層20,22の深さ方向、すなわち膜厚方向における位置である。図2の縦軸は、SIMSで検出される強度である。
【0034】
図2に示すように、カリウムのプロファイルK-PとナトリウムのプロファイルNa-Pとは、例えば、交互に極大値Mを有している。プロファイルK-P,Na-Pは、複数の極大値Mを有している。深さ方向において、第1圧電体層20と基体2との界面Bの位置D1と、プロファイルK-Pの複数の極大値Mのうち界面Bに最も近い極大値Mの位置D2と、の間の距離L1は、例えば、界面Bの位置D1と、プロファイルNa-Pの複数の極大値Mのうち界面Bに最も近い極大値Mの位置D3と、の間の距離L2よりも小さい。
【0035】
なお、圧電体層がKNN層のみから構成されている場合は、NaNbOの方がKNbOよりも結晶化温度が低くて結晶化し易いため、基体との界面には、ナトリウムの方が多く存在し易い。
【0036】
また、第1圧電体層20と基体2との界面Bの位置D1は、図示しないニオブのプロファイルにおいて、平均値の1/2となる位置である。このことは、後述する図17および図18において、同様である。
【0037】
第2電極30は、図1に示すように、第2圧電体層22の上方に設けられている。図示の例では、第2電極30は、第2圧電体層22上に設けられている。なお、図示はしないが、第2電極30は、さらに、圧電体層20,22の側面および基体2上に設けられていてもよい。
【0038】
第2電極30の形状は、例えば、層状である。第2電極30の膜厚は、例えば、15nm以上300nm以下である。第2電極30は、例えば、イリジウム層や白金層などの金属層、それらの導電性酸化物層、ルテニウム酸ストロンチウム層などである。第2電極30は、上記に例示した層を複数積層した構造を有していてもよい。
【0039】
第2電極30は、圧電体層20,22に電圧を印加するための他方の電極である。第2電極30は、第2圧電体層22の上方に設けられた上部電極である。
【0040】
圧電素子100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0041】
圧電素子100では、基体2に接し、第1電極10を覆って設けられる第1圧電体層20と、第1圧電体層20上に設けられる第2圧電体層22と、を含み、第1圧電体層20は、カリウムおよびニオブを含み、Aサイトの主成分がカリウムであるペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、第2圧電体層22は、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を有し、第1圧電体層20は、第2圧電体層22に比べて、カリウムの原子濃度(atm%)が高い。そのため、圧電素子100では、例えば第1圧電体層を有さず第2圧電体層が基体と接している場合に比べて、後述する「5. 実施例および比較例」に示すように、圧電体層20,22の部分20a,22aにクラックが発生し難い。
【0042】
圧電素子100では、比Rは、0.60以上であり、好ましくは0.75以上である。そのため、圧電素子100では、後述する「5. 実施例および比較例」に示すように、圧電体層20,22の部分20a,22aにクラックが発生し難い。
【0043】
圧電素子100では、第1圧電体層20の膜厚と第2圧電体層22の膜厚との和Tは、500nm以上である。和Tが大きいほどクラックが発生し易いが、圧電素子100では、和Tが500nm以上であっても、圧電体層20,22の部分20a,22aにクラックが発生し難い。
【0044】
2. 圧電素子の製造方法
次に、本実施形態に係る圧電素子100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図3は、本実施形態に係る圧電素子100の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0045】
図1に示すように、基体2を準備する(ステップS1)。具体的には、シリコン基板201を熱酸化することによって酸化シリコン層232を形成する。次に、酸化シリコン層232上にスパッタ法などによってジルコニウム層を形成し、該ジルコニウム層を熱酸化することによって酸化ジルコニウム層234を形成する。以上の工程により、基体2を準備することができる。
【0046】
次に、基体2上に第1電極10を形成する(ステップS2)。第1電極10は、例えば、スパッタ法や真空蒸着法などによって形成される。次に、第1電極10を、例えば、フォトリソグラフィーおよびエッチングによってパターニングする。
【0047】
次に、基体2に接し、第1電極10を覆う第1圧電体層20を形成する(ステップS3)。第1圧電体層20は、例えば、ゾルゲル法やMOD(Metal Organic Deposition)などの化学溶液堆積(Chemical Solution Deposition:CSD)法によって形成される。以下、第1圧電体層20の形成方法について説明する。
【0048】
まず、カリウムを含む金属錯体、およびニオブを含む金属錯体を、有機溶媒に溶解または分散させて第1前駆体溶液を調合する。
【0049】
次に、調合された第1前駆体溶液を、第1電極10上に、スピンコート法などを用いて塗布して前駆体層を形成する(塗布工程)。次に、前駆体層を、例えば130℃以上250℃以下で加熱して一定時間乾燥させ(乾燥工程)、さらに、乾燥した前駆体層を、例えば300℃以上450℃以下で加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。次に、脱脂した前駆体層を、例えば600℃以上750℃以下で加熱し、この温度で一定時間保持することによって結晶化させる(焼成工程)。以上の工程により、KN層からなる第1圧電体層20を形成することができる。
【0050】
次に、第1圧電体層20上に第2圧電体層22を形成する(ステップS4)。第2圧電体層22を形成する工程では、第1前駆体溶液の代わりに、第2前駆体溶液を用いる。第2前駆体溶液は、例えば、カリウムを含む金属錯体、ナトリウムを含む金属錯体、ニオブを含む金属錯体、およびマンガンを含む金属錯体を、有機溶媒に溶解または分散させて調合される。
【0051】
そして、調合された第2前駆体溶液に対して、第1圧電体層20を形成する工程と同様に、塗布工程から焼成工程までの工程を行う。次に、塗布工程から焼成工程までを複数回繰り返す。これにより、マンガンが添加された複数のKNN層からなる第2圧電体層22を形成することができる。
【0052】
乾燥工程および脱脂工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートが挙げられる。焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置が挙げられる。
【0053】
なお、第1前駆体溶液および第2前駆体溶液の調合に用いられる、カリウムを含む金属錯体としては、例えば、2-エチルヘキサン酸カリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。ナトリウムを含む金属錯体としては、例えば、2-エチルヘキサン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。ニオブを含む金属錯体としては、例えば、2-エチルヘキサン酸ニオブ、ペンタエトキシニオブなどが挙げられる。マンガンを含む金属錯体としては、例えば、2-エチルヘキサン酸マンガンなどが挙げられる。カルシウムを含む金属錯体としては、例えば、2-エチルヘキサン酸カルシウムなどが挙げられる。なお、2種以上の金属錯体を併用してもよい。例えば、カリウムを含む金属錯体として、2-エチルへキサン酸カリウムと酢酸カリウムとを併用してもよい。
【0054】
また、溶媒としては、例えば、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、オクタン、デカン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸、オクチル酸、2-nブトキシエタノール、n-オクタン、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0055】
次に、第2圧電体層22上に第2電極30を形成する(ステップS5)。第2電極30は、例えば、スパッタ法や真空蒸着法などによって形成される。次に、第2電極30および圧電体層20,22を、例えば、フォトリソグラフィーおよびエッチングによってパターニングする。なお、第2電極30と圧電体層20,22とは、別々の工程でパターニングされてもよい。
【0056】
以上の工程により、圧電素子100を製造することができる。
【0057】
圧電素子100の製造方法では、クラックが発生し難い圧電素子100を製造することができる。
【0058】
3. 液体吐出ヘッド
次に、本実施形態に係る液体吐出ヘッドについて、図面を参照しながら説明する。図4は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド200を模式的に示す分解斜視図である。図5は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド200を模式的に示す平面図である。図6は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド200を模式的に示す図5のVI-VI線断面図である。なお、図4図6では、互いに直交する3軸として、X軸、Y軸、およびZ軸を図示している。また、図4,6では、圧電素子100を簡略化して図示している。
【0059】
液体吐出ヘッド200は、図4図6に示すように、例えば、基体2と、圧電素子100と、流路形成基板210と、ノズルプレート220と、振動板230と、保護基板240と、回路基板250と、コンプライアンス基板260と、を含む。基体2は、流路形成基板210と、振動板230と、を有している。なお、便宜上、図5では、回路基板250の図示を省略している。
【0060】
流路形成基板210は、例えば、シリコン基板である。流路形成基板210には、圧力発生室211が設けられている。圧力発生室211は、複数の隔壁212によって区画されている。圧力発生室211は、圧電素子100により容積が変化する。
【0061】
流路形成基板210のうち、圧力発生室211の+X軸方向の端部には、供給路213および連通路214が設けられている。供給路213は、圧力発生室211の+X軸方向の端部をY軸方向から絞ることで、その開口面積が小さくなるように構成されている。連通路214のY軸方向の大きさは、圧力発生室211のY軸方向の大きさと、例えば同じである。連通路214の+X軸方向には、連通部215が設けられている。連通部215は、マニホールド216の一部を構成する。マニホールド216は、各圧力発生室211の共通の液室となる。このように、流路形成基板210には、供給路213、連通路214、および連通部215からなる供給流路217と、圧力発生室211とが形成されている。供給流路217は、圧力発生室211に連通し、圧力発生室211に液体を供給する。
【0062】
ノズルプレート220は、流路形成基板210の一方側の面に設けられている。ノズルプレート220の材質は、例えば、SUS(Steel Use Stainless)である。ノズルプレート220は、例えば接着剤や熱溶着フィルムなどによって、流路形成基板210に接合されている。ノズルプレート220には、Y軸に沿ってノズル孔222が並設されている。ノズル孔222は、圧力発生室211に連通している。
【0063】
振動板230は、流路形成基板210の他方側の面に設けられている。振動板230は、例えば、流路形成基板210上に設けられた酸化シリコン層232と、酸化シリコン層232上に設けられた酸化ジルコニウム層234と、により構成されている。
【0064】
圧電素子100は、例えば、振動板230上に設けられている。圧電素子100は、複数設けられている。圧電素子100の数は、特に限定されない。
【0065】
液体吐出ヘッド200では、電気機械変換特性を有する圧電体層20,22の変形によって、振動板230および第1電極10が変位する。すなわち、液体吐出ヘッド200では、振動板230および第1電極10が、実質的に振動板としての機能を有している。なお、振動板230を省略して、第1電極10のみが振動板として機能するようにしてもよい。流路形成基板210上に第1電極10を直接設ける場合には、第1電極10に液体が接触しないように、第1電極10を絶縁性の保護膜などで保護することが好ましい。
【0066】
第1電極10は、圧力発生室211ごとに独立する個別電極として構成されている。第1電極10のY軸方向の大きさは、圧力発生室211のY軸方向の大きさよりも小さい。第1電極10のX軸方向の大きさは、圧力発生室211のX軸方向の大きさよりも大きい。X軸方向において、第1電極10の両端部は、圧力発生室211の両端部より外側に位置している。第1電極10の-X軸方向の端部には、リード電極202が接続されている。
【0067】
第1圧電体層20のY軸方向の大きさは、例えば、第1電極10のY軸方向の大きさよりも大きい。第1圧電体層20のX軸方向の大きさは、例えば、圧力発生室211のX軸
方向の大きさよりも大きい。第1圧電体層20の+X軸方向の端部は、例えば、第1電極10の+X軸方向の端部よりも外側に位置している。第1電極10の+X軸方向の端部は、第1圧電体層20によって覆われている。一方、第1圧電体層20の-X軸方向の端部は、例えば、第1電極10の-X軸方向側の端部よりも内側に位置している。第1電極10の-X軸方向側の端部は、第1圧電体層20によって覆われていない。
【0068】
第2電極30は、例えば、第2圧電体層22および振動板230上に連続して設けられている。第2電極30は、複数の圧電素子100に共通する共通の電極として構成されている。
【0069】
保護基板240は、接着剤203によって流路形成基板210に接合されている。保護基板240には、貫通孔242が設けられている。図示の例では、貫通孔242は、保護基板240をZ軸方向に貫通しており、連通部215と連通している。貫通孔242および連通部215は、各圧力発生室211の共通の液室となるマニホールド216を構成している。さらに、保護基板240には、保護基板240をZ軸方向に貫通する貫通孔244が設けられている。貫通孔244には、リード電極202の端部が位置している。
【0070】
保護基板240には、開口部246が設けられている。開口部246は、圧電素子100の駆動を阻害しないための空間である。開口部246は、密封されていてもよいし、密封されていなくてもよい。
【0071】
回路基板250は、保護基板240上に設けられている。回路基板250には、圧電素子100を駆動させるための半導体集積回路(Integrated Circuit:IC)を含む。回路基板250とリード電極202は、接続配線204を介して電気的に接続されている。
【0072】
コンプライアンス基板260は、保護基板240上に設けられている。コンプライアンス基板260は、保護基板240上に設けられた封止層262と、封止層262上に設けられた固定板264と、を有している。封止層262は、マニホールド216を封止するための層である。封止層262は、例えば、可撓性を有する。固定板264には、貫通孔266が設けられている。貫通孔266は、固定板264をZ軸方向に貫通している。貫通孔266は、Z軸方向からみて、マニホールド216と重なる位置に設けられている。
【0073】
4. プリンター
次に、本実施形態に係るプリンターについて、図面を参照しながら説明する。図7は、本実施形態に係るプリンター300を模式的に示す斜視図である。
【0074】
プリンター300は、インクジェット式のプリンターである。プリンター300は、図7に示すように、ヘッドユニット310を含む。ヘッドユニット310は、例えば、液体吐出ヘッド200を有している。液体吐出ヘッド200の数は、特に限定されない。ヘッドユニット310は、供給手段を構成するカートリッジ312,314が着脱可能に設けられている。ヘッドユニット310を搭載したキャリッジ316は、装置本体320に取り付けられたキャリッジ軸322に軸方向移動自在に設けられており、液体供給手段から供給された液体を吐出する。
【0075】
ここで言う液体とは、物質が液相であるときの状態の材料であればよく、ゾル、ゲル等のような液状態の材料も液体に含まれる。また、物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散または混合されたものなども液体に含まれる。液体の代表的な例としては、インクや液晶乳化剤等が挙げられる。インクとは、一般的な水性インクおよび油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種の液体状組成物を包含するものとする。
【0076】
プリンター300では、駆動モーター330の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト332を介してキャリッジ316に伝達されることで、ヘッドユニット310を搭載したキャリッジ316は、キャリッジ軸322に沿って移動される。一方、装置本体320には、液体吐出ヘッドに対して、紙などの被記録媒体であるシートSを相対移動させる搬送機構としての搬送ローラー340が設けられている。シートSを搬送する搬送機構は、搬送ローラーに限られず、ベルトやドラムなどであってもよい。
【0077】
プリンター300は、液体吐出ヘッド200および搬送ローラーを制御する制御部としてのプリンターコントローラー350を含む。プリンターコントローラー350は、液体吐出ヘッド200の回路基板250と電気的に接続されている。プリンターコントローラー350は、例えば、各種データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、制御プログラムなどを記憶したROM(Read Only Memory)、CPU(Central Processing Unit)、および液体吐出ヘッド200へ供給するための駆動信号を発生する駆動信号発生回路などを備えている。
【0078】
なお、圧電素子100は、液体吐出ヘッドおよびプリンターに限らず、広範囲な用途に用いることができる。圧電素子100は、例えば、ジャイロセンサー、加速度センサーなどの各種センサー、音叉型振動子などのタイミングデバイス、超音波モーターなどの超音波デバイスに好適に用いることができる。
【0079】
5. 実施例および比較例
以下に実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例および比較例によって何ら限定されるものではない。
【0080】
5.1. 試料の作製
5.1.1. 実施例1
6インチのシリコン基板を熱酸化することで、SiO層を形成した。次に、SiO層上にスパッタ法によってジルコニウム層を形成し、熱酸化させることでZrO層を形成した。
【0081】
2-エチルヘキサン酸カリウム、および2-エチルヘキサン酸ニオブ溶液からなる溶液を用いて、KNbOとなるように第1前駆体溶液を調合した。次に、第1前駆体溶液をスピンコート法によりZrO層上に塗布し、第1前駆体層を形成した。次に、第1前駆体層を、180 ℃で加熱して乾燥させ、さらに380℃で加熱して脱脂させた後に、RTA装置を使用して、600℃で3分間、加熱処理を行った。以上の工程により、第1圧電体層としてKN層を形成した。SEMで観察したところ、KN層の膜厚は、84nmであった。
【0082】
次に、2-エチルヘキサン酸カリウム、2-エチルヘキサン酸ナトリウム、2-エチルヘキサン酸ニオブ溶液、および2-エチルヘキサン酸マンガンからなる溶液を用いて、(K0.5Na0.5)(Nb0.995Mn0.005)Oとなるように第2前駆体溶液を調合した。次に、第2前駆体溶液をスピンコート法によりKN層上に塗布し、第2前駆体層を形成した。そして、第1前駆体層と同様に乾燥および脱脂させた後、RTA装置を使用して、750℃で3分間、加熱処理を行った。以上の工程により、KNN層を形成した。さらに、第2前駆体溶液の塗布からRTA装置による加熱処理を、クラックが発生するまで繰り返し行い、第2圧電体層として、マンガンが添加された複数のKNN層を形成した。
【0083】
5.1.2. 実施例2
実施例2は、K1.02NbOとなるように第1前駆体溶液を調合したこと以外は、実施例1と同じである。
【0084】
5.1.3. 実施例3
実施例3は、K0.96NbOとなるように第1前駆体溶液を調合したこと以外は、実施例1と同じである。
【0085】
5.1.4. 実施例4
実施例4は、第1実施例の第1前駆体溶液を2倍に希釈し、KN層の膜厚を70nmとしたこと以外は、実施例1と同じである。
【0086】
5.1.5. 実施例5
実施例5は、第1実施例の第1前駆体溶液を4倍に希釈し、KN層の膜厚を25nmとしたこと以外は、実施例1と同じである。
【0087】
5.1.6. 実施例6
実施例6は、第1実施例の第1前駆体溶液を10倍に希釈し、KN層の膜厚を10nmとしたこと以外は、実施例1と同じである。
【0088】
5.1.7. 比較例1
比較例1は、(K0.5Na0.5)(Nb0.995Mn0.005)Oとなるように第1前駆体溶液を調合したこと以外は、実施例1と同じである。すなわち、比較例1では、実施例1のKN層の代わりに、KNN層を形成した。
【0089】
5.1.8. 比較例2
比較例2は、NaNbO(NN)となるように第1前駆体溶液を調合したこと以外は、実施例1と同じである。すなわち、比較例2では、実施例1のKN層の代わりに、NN層を形成した。
【0090】
5.2. クラック観察
クラックの観察は、各前駆体層のRTA装置による加熱処理後に、ニコン社製の位相差顕微鏡「OPTIPHOT200」を用い、接眼レンズを10倍とし、対物レンズを100倍として行った。
【0091】
クラックが発生したときの第1圧電体層の膜厚と第2圧電体層の膜厚との和、すなわちクラック発生膜厚は、実施例1~6では、1100nm程度であったのに対し、比較例1,2では、350nm~450nm程度であった。例えば、実施例5,6のクラック発生膜厚は、1050nmであり、比較例1のクラック発生膜厚は、450nmであった。
【0092】
これにより、第1圧電体層がKN層であると、第1圧電体層がKNN層やNN層である場合に比べて、クラックが発生し難いことがわかった。
【0093】
5.3. XRD測定
上記のように作製した試料に対して、XRD測定を行った。XRDは、Bruker社製D8 DISCOVER with GADDSを用いて、管電圧を50kV、管電流を100mA、検出器距離を15cm、コリメーター径を0.1mm、測定時間を120secとして測定した。そして、得られた2次元データを、付属のソフトで2θ範囲を20°~50°、χ範囲を-95°~-85°、ステップ幅を0.02°、強度規格化法をBin normalizedとして、X線回折強度曲線に変換した。
【0094】
図8図13は、第2圧電体層としてのKNN層を2層積層した後であって、3層目を積層する前のXRD測定結果である。図8は、実施例1の測定結果である。図9は、実施例2の測定結果である。図10は、実施例3の測定結果である。図11は、実施例6の測定結果である。図12は、比較例1の測定結果である。図13は、比較例2の測定結果である。
【0095】
図14および図15は、KNN層をクラックが発生するまで積層した後のXRD測定結果である。図14は、実施例6の測定結果である。図15は、比較例1の測定結果である。
【0096】
図8図11,14に示すように、実施例1~3,6では、2θ=22°付近のKNN層の(100)面のピーク強度が強く、2θ=32°付近のKNN層の(110)面のピークは、ほとんど確認できなかった。一方、比較例1,2では、(100)面のピークと同等以上の強度で(110)面のピークが確認された。また、45°~46.5°付近のピークは、KNN層の(100)面の2次の回折(すなわち、(200)面のピーク)であるため、(100)面の強度が強い図14では、(200)面の強度が強く出ている。なお、図8図14において、2θ=22°、32°、および45°~46.5°付近以外のピークは、KNN層以外に帰属されるピークである。
【0097】
図16は、実施例1~6および比較例1,2の比Rを示す表である。比Rは、上述のように、第2圧電体層のX線回折パターンにおいて、(100)面のピーク強度と(110)面のピーク強度との和に対する、(100)面のピーク強度の比である。図16では、実施例1~4および比較例2は、第2圧電体層としてのKNN層を2層積層した後であって、3層目を積層する前のXRD測定による比Rを示している。また、実施例5,6および比較例1では、KNN層を2層積層した後であって3層目を積層する前と、KNN層をクラックが発生するまで積層した後と、のXRD測定による比Rを示している。
【0098】
図16に示すように、実施例1~6の比Rは、0.60以上であった。一方、比較例1,2の比Rは、0.60より小さかった。比Rが0.60以上であれば、クラックが発生し難いことがわかった。さらに、比Rが0.75以上であれば、よりクラックが発生し難いことがわかった。
【0099】
5.4. SIMS測定
KNN層をクラックが発生するまで積層した後の実施例6および比較例1について、SIMS測定により、深さ方向の組成分布の調査を行った。SIMS測定では、CAMECA社製IMS-7f セクター型SIMSを用いて、1次イオンに15keVのCs+を10nAのビーム電流100μm角にラスタースキャンし、中心33μmφから負の2次イオンを検出した。質量分解能は、M/ΔM=5000に設定した。チャージアップの防止には、電子銃を使用した。
【0100】
図17は、実施例6の測定結果である。図18は、比較例1の測定結果である。図17および図18では、カリウム、ナトリウム、ニオブ、マンガン、酸素、およびジルコニウムのプロファイルを示している。図17および図18において、横軸は、深さ方向の位置に相当する。
【0101】
なお、SIMS測定では、強度は、元素ごとに感度が異なるため、異なる元素間の比較はできない。さらに、実施例6のKN層の膜厚は10nmと小さいため、図17におけるSIMSの測定速度では、KN層は確認できなかった。
【0102】
図17に示すように、カリウムのプロファイルとナトリウムのプロファイルとは、交互
に極大値を有した。また、圧電体層と酸化ジルコニウム層との界面Bの位置D1と、カリウムのプロファイルの複数の極大値のうち界面Bに最も近い極大値の位置D2と、の間の距離は、界面Bの位置D1と、ナトリウムのプロファイルの複数の極大値のうち界面Bに最も近い極大値の位置D3と、の間の距離よりも小さかった。
【0103】
なお、上記の「5. 実施例および比較例」では、ZrO層上に第1圧電体層を設けたが、ZrO層の代わりに、酸化チタン層、酸化アルミニウム層、酸化タンタル層、酸化シリコン層を用いても、ZrO層の場合と同じ挙動を示すと考えられる。
【0104】
本発明は、本願に記載の特徴や効果を有する範囲で一部の構成を省略したり、各実施形態や変形例を組み合わせたりしてもよい。
【0105】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0106】
2…基体、10…第1電極、20…第1圧電体層、20a…第1部分、22…第2圧電体層、22a…第2部分、30…第2電極、100…圧電素子、200…液体吐出ヘッド、201…シリコン基板、202…リード電極、203…接着剤、204…接続配線、210…流路形成基板、211…圧力発生室、212…隔壁、213…供給路、214…連通路、215…連通部、216…マニホールド、217…供給流路、220…ノズルプレート、222…ノズル孔、230…振動板、232…酸化シリコン層、234…酸化ジルコニウム層、240…保護基板、242,244…貫通孔、246…開口部、250…回路基板、260…コンプライアンス基板、262…封止層、264…固定板、266…貫通孔、300…プリンター、310…ヘッドユニット、312,314…カートリッジ、316…キャリッジ、320…装置本体、322…キャリッジ軸、330…駆動モーター、332…タイミングベルト、340…搬送ローラー、350…プリンターコントローラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18