(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】音響特性計測システム、音響特性計測方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
G01H3/00 A
(21)【出願番号】P 2018181822
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】種橋 正夫
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-9310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に向けて配置され、集音した音波を第1集音信号に変換して出力する無指向性の第1マイクロホンと、
前記測定対象物に向けて配置され、集音した音波を第2集音信号に変換して出力する指向性の第2マイクロホンと、
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンのそれぞれから前記第1集音信号および前記第2集音信号を受信し、受信した前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれをフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成し、生成した前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを記憶する音響特性計測装置とを備え、
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンは、
前記測定対象物と前記第1マイクロホンと前記第2マイクロホンとの位置関係が一定になるように配置され、
前記音響特性計測装置は、
第1準備段階において、前記測定対象物が発生させ
た雑音を含まない測定対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトル
を記録し、
第2準備段階において、前記測定対象音を含まない雑音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトル
を記録し、
検査段階において、前記第1準備段階および前記第2準備段階で記録された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを用いて、前記測定対象音に基づいて生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルに含まれる前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンのそれぞれと前記測定対象音との間の音波の伝達特性と、前記雑音に基づいて生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルに含まれる前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンのそれぞれと前記雑音の雑音源との間の音波の伝達特性とに基づいて、検査対象
の検査対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成される前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルから前記測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出し、抽出した前記測定対象音信号を出力する音響特性計測システム。
【請求項2】
前記音響特性計測装置には、
前記検査対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号から前記測定対象音信号を抽出するよりも以前の
前記第1準備段階において、前記雑音を含まない前記測定対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号から生成された、前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルが記憶される請求項
1に記載の音響特性計測システム。
【請求項3】
前記音響特性計測装置には、
前記検査対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号から前記測定対象音信号を抽出するよりも以前の
前記第2準備段階において、前記測定対象音を含まない前記雑音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号から生成された、前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルが記憶される請求項
2に記載の音響特性計測システム。
【請求項4】
前記音響特性計測装置は、
前記第1マイクロホンから前記第1集音信号を受信する第1集音信号受信部と、
前記第1集音信号受信部によって受信される前記第1集音信号をフーリエ変換して前記第1周波数スペクトルを生成する第1フーリエ変換部と、
前記第2マイクロホンから前記第2集音信号を受信する第2集音信号受信部と、
前記第2集音信号受信部によって受信される前記第2集音信号をフーリエ変換して前記第2周波数スペクトルを生成する第2フーリエ変換部と、
前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルが記憶される記憶部と、
前記第1フーリエ変換部から前記第1周波数スペクトルを取得するとともに、前記第2フーリエ変換部から前記第2周波数スペクトルを取得し、取得した前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを前記記憶部に記憶させる計測制御部とを有し、
前記計測制御部は、
前記第1準備段階および前記第2準備段階において取得される前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルは前記記憶部に記憶させ、
検査段階において取得される前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルからは、前記第1準備段階および前記第2準備段階において取得された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを用いて前記測定対象音に基づいた
前記測定対象音信号を抽出する請求項
3に記載の音響特性計測システム。
【請求項5】
前記第1マイクロホンと前記第2マイクロホンとは、
前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンと前記雑音の雑音源との距離に対する、前記第1マイクロホンと前記第2マイクロホンとの距離の比率が、所定値以下になる位置に配置される請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の音響特性計測システム。
【請求項6】
雑音源からの雑音と測定対象物から発生する測定対象音とを含む検査対象音を検査する音響特性計測方法であって、
前記測定対象物に向けて配置された無指向性の第1マイクロホンと、前記測定対象物に向けて配置された指向性の第2マイクロホンと、前記測定対象物とが一定の位置関係で配置された状態で、
前記第1マイクロホンが集音した音波から変換される第1集音信号を受信し、
前記第2マイクロホンが集音した音波から変換される第2集音信号を受信し、
受信した前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれをフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成し、
第1準備段階において、前記測定対象物が発生させた雑音を含まない測定対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを記録し、
第2準備段階において、前記測定対象音を含まない雑音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを記憶し、
前記検査対象音を検査する検査段階においては、前記第1準備段階および前記第2準備段階に記憶した前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを用いて、
前記測定対象音に基づいて生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルに含まれる前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンのそれぞれと前記測定対象音との間の音波の伝達特性と、前記雑音に基づいて生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルに含まれる前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンのそれぞれと前記雑音の雑音源との間の音波の伝達特性とに基づいて、検査対象の前記検査対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成した前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルから
、前記測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する音響特性計測方法。
【請求項7】
雑音源からの雑音と測定対象物から発生する測定対象音とを含む検査対象音を検査するためのプログラムであって、
前記測定対象物に向けて配置された無指向性の第1マイクロホンと、前記測定対象物に向けて配置された指向性の第2マイクロホンと、前記測定対象物とが一定の位置関係で配置された状態で、
前記第1マイクロホンが集音した音波から変換される第1集音信号を受信する処理と、
前記第2マイクロホンが集音した音波から変換される第2集音信号を受信する処理と、
受信した前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれをフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成する処理と、
第1準備段階において、前記測定対象物が発生させた雑音を含まない測定対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを記録する処理と、
第2準備段階において、前記測定対象音を含まない雑音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを記憶する処理と、
前記検査対象音を検査する検査段階においては、前記第1準備段階および前記第2準備段階に記憶した前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルを用いて、
前記測定対象音に基づいて生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルに含まれる前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンのそれぞれと前記測定対象音との間の音波の伝達特性と、前記雑音に基づいて生成された前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルに含まれる前記第1マイクロホンおよび前記第2マイクロホンのそれぞれと前記雑音の雑音源との間の音波の伝達特性とに基づいて、検査対象の前記検査対象音に基づいた前記第1集音信号および前記第2集音信号のそれぞれから生成した前記第1周波数スペクトルおよび前記第2周波数スペクトルから
、前記測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する処理とをコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物から発生する測定対象音の音響特性を計測する音響特性計測システム、音響特性計測方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
生産現場において、製品から発生する音によってその製品の良否を判定する技術がある。測定対象物となる製品の周囲では、ベルトコンベアや、AGV(Automated Guided Vehicle)、電動ドライバ、設備ファンなどの駆動、作業者の会話などに起因して多数の雑音が発生する。それらの雑音が発生するタイミングや位置は一様ではないため、測定対象物の周囲で発生する騒音を除外して、測定対象物からの測定対象音を正確に測定することが求められる。
【0003】
特許文献1には、単一指向性マイクロホンと無指向性マイクロホンとを用いる騒音測定方法について開示されている。特許文献1の方法では、単一指向性マイクロホンによって測定しようとする騒音音響源において発生する騒音音響信号を第1の測定信号に変換し、無指向性マイクロホンによって上記騒音音響信号を含む音響信号を第2の測定信号に変換する。特許文献1の方法では、第1の測定信号をフーリエ変換して第1の測定フーリエ変換信号を生成し、第2の測定信号をフーリエ変換して第2の測定フーリエ変換信号を生成する。特許文献1の方法では、第1の測定フーリエ変換信号を共役化して第2の測定フーリエ変換信号に乗算するとともに、第1のフーリエ変換信号の2乗演算結果によって除算し、当該除算演算結果を平均化して騒音測定信号を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、単一指向性マイクロホンには騒音音響信号のみが入力され、雑音音響信号が入力されないことを前提としている。そして、単一指向性マイクロホンに入力された騒音音響信号を用いて、無指向性マイクロホンの音響信号から雑音音響信号を除去して騒音音響信号を抽出する。ところで、生産現場に配置された騒音発生源から発生する雑音音響信号の発生タイミングや、発生位置は一様ではない。そのため、特許文献1の手法には、雑音が騒音発生源からの測定対象音に反射した場合などにおいて、雑音が単一指向性マイクロホンに入力されてしまい、騒音測定信号に雑音音響信号が混入してしまうという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、雑音が含まれる検査対象音から、測定対象物が発生させた測定対象音を抽出できる音響特性計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の音響特性計測システムは、測定対象物に向けて配置され、集音した音波を第1集音信号に変換して出力する無指向性の第1マイクロホンと、測定対象物に向けて配置され、集音した音波を第2集音信号に変換して出力する指向性の第2マイクロホンと、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンのそれぞれから第1集音信号および第2集音信号を受信し、受信した第1集音信号および第2集音信号のそれぞれをフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成し、生成した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶する音響特性計測装置とを備え、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンは、測定対象物と第1マイクロホンと第2マイクロホンとの位置関係が一定になるように配置され、音響特性計測装置は、測定対象物が発生させる測定対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号のそれぞれから生成された第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルと、測定対象音を含まない雑音に基づいた第1集音信号および第2集音信号のそれぞれから生成された第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルとを用いて、検査対象の測定対象音を含む検査対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号のそれぞれから生成される第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルから測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出し、抽出した測定対象音信号を出力する音響特性計測システム。
【0008】
本発明の一態様の音響特性計測方法は、雑音源からの雑音と測定対象物から発生する測定対象音とを含む検査対象音を検査する音響特性計測方法であって、測定対象物に向けて配置された無指向性の第1マイクロホンと、測定対象物に向けて配置された指向性の第2マイクロホンと、測定対象物とが一定の位置関係で配置された状態で、第1マイクロホンが集音した音波から変換される第1集音信号を受信し、第2マイクロホンが集音した音波から変換される第2集音信号を受信し、受信した第1集音信号および第2集音信号のそれぞれをフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成し、測定対象音に基づいた周波数スペクトルを記録する第1準備段階と、雑音に基づいた周波数スペクトルを記憶する第2準備段階とにおいては、生成した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶し、検査対象音を検査する検査段階においては、第1準備段階および第2準備段階に記憶した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを用いて、生成した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルから測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する。
【0009】
本発明の一態様のプログラムは、雑音源からの雑音と測定対象物から発生する測定対象音とを含む検査対象音を検査するためのプログラムであって、測定対象物に向けて配置された無指向性の第1マイクロホンと、測定対象物に向けて配置された指向性の第2マイクロホンと、測定対象物とが一定の位置関係で配置された状態で、第1マイクロホンが集音した音波から変換される第1集音信号を受信する処理と、第2マイクロホンが集音した音波から変換される第2集音信号を受信する処理と、受信した第1集音信号および第2集音信号のそれぞれをフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成する処理と、測定対象音に基づいた周波数スペクトルを記録する第1準備段階と、雑音に基づいた周波数スペクトルを記憶する第2準備段階とにおいては、生成した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶する処理と、検査対象音を検査する検査段階においては、第1準備段階および第2準備段階に記憶した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを用いて、生成した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルから測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する処理とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、雑音が含まれる検査対象音から、測定対象物が発生させた測定対象音を抽出できる音響特性計測システムを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測システムの構成の一例を示す概念図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測システムが備える音響特性計測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測システムによる測定対象音に基づいた測定対象音信号の抽出方法について説明するための概念図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測システムが測定対象音の周波数スペクトルを測定する例について説明するための概念図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測システムが雑音の周波数スペクトルを測定する例について説明するための概念図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測システムが検査対象音を計測する例について説明するための概念図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測システムの各マイクロホンと雑音源との距離関係について説明するための概念図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測装置の動作の概要について説明するためのフローチャートである。
【
図9】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測装置の第1準備段階における動作について説明するためのフローチャートである。
【
図10】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測装置の第2準備段階における動作について説明するためのフローチャートである。
【
図11】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測装置の検査段階における動作について説明するためのフローチャートである。
【
図12】本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。また、図面中の矢印の向きは、一例を示すものであり、ブロック間の信号の向きを限定するものではない。
【0013】
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係る音響特性計測システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の音響特性計測システムは、生産現場などの雑音下において、測定対象物(計測対象物とも呼ぶ)である製品から発生する測定対象音によって、その製品の良否判定する用途などに用いられる。
【0014】
本実施形態においては、指向性の異なる2つのマイクロホン(無指向性マイクロホンおよび指向性マイクロホン)を用いて、雑音が含まれない測定対象音を事前に集音し、測定対象物から各マイクロホンへの音波の伝達特性を測定しておく。測定対象物を検査する際には、測定対象音を含まない雑音を集音し、雑音源から各マイクロホンへの音波の伝達特性を測定する。そして、測定対象音と雑音とが混在した測定対象音を集音し、その測定対象音の周波数スペクトルに伝達特性を当てはめることによって、雑音を除去した測定対象音を抽出する。
【0015】
図1は、本実施形態の音響特性計測システム1の構成の一例を示す概念図である。音響特性計測システム1は、計測対象物100から発生する測定対象音を測定する。音響特性計測システム1は、音響特性計測装置10、第1マイクロホン110、および第2マイクロホン120を備える。第1マイクロホン110と第2マイクロホン120とは、計測対象物100に対する位置関係が一定になるように配置される。
図1においては、音響特性計測システム1の設置環境に雑音源があるものとする。なお、
図1に図示した雑音源は一例であって、音響特性計測システム1の設置環境に存在する雑音源を一つに限定するものではない。
【0016】
第1マイクロホン110(無指向性マイクロホンとも呼ぶ)は、第2マイクロホン120と位置関係が固定された状態で配置される。第1マイクロホン110は、雑音源からの雑音や、計測対象物100からの測定対象音を集音する無指向性の集音装置である。第1マイクロホン110は、集音した音波を電気信号(以下、第1集音信号と呼ぶ)に変換して音響特性計測装置10に送信する。
【0017】
第2マイクロホン120(指向性マイクロホンとも呼ぶ)は、第1マイクロホン110と位置関係が固定された状態で、指向性の向きが計測対象物100に向かうように配置される。第2マイクロホン120は、雑音源からの雑音や、計測対象物100からの測定対象音を集音する指向性のある集音装置である。第2マイクロホン120は、集音した音波を電気信号(以下、第2集音信号と呼ぶ)に変換して音響特性計測装置10に送信する。
【0018】
音響特性計測装置10は、第1マイクロホン110と第2マイクロホン120とに接続される。音響特性計測装置10は、第1マイクロホン110から第1集音信号を受信し、第2マイクロホン120から第2集音信号を受信する。音響特性計測装置10は、受信した第1集音信号をフーリエ変換することによって周波数スペクトル(第1周波数スペクトルとも呼ぶ)を生成する。また、音響特性計測装置10は、受信した第2集音信号をフーリエ変換することによって周波数スペクトル(第2周波数スペクトルとも呼ぶ)を生成する。
【0019】
測定対象音の計測前(計測準備段階とも呼ぶ)に、音響特性計測装置10は、第1マイクロホン110および第2マイクロホン120によって集音される、雑音が含まれない測定対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号を受信する。音響特性計測装置10は、受信した第1集音信号および第2集音信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを生成する。そして、音響特性計測装置10は、生成した周波数スペクトルに基づいて、第1マイクロホン110と計測対象物100との間の伝達特性と、第2マイクロホン120と計測対象物100との間の伝達特性とを導出する。音響特性計測装置10は、導出した伝達特性を記憶する。
【0020】
測定対象音の計測時(計測段階とも呼ぶ)に、まず、音響特性計測装置10は、第1マイクロホン110および第2マイクロホン120によって集音される、測定対象音を含まない雑音に基づいた第1集音信号および第2集音信号を受信する。音響特性計測装置10は、受信した第1集音信号および第2集音信号をフーリエ変換して周波数スペクトル(第1周波数スペクトル、第2周波数スペクトル)を生成する。そして、音響特性計測装置10は、生成した周波数スペクトルに基づいて、第1マイクロホン110と雑音源との間の伝達特性と、第2マイクロホン120と雑音源との間の伝達特性とを導出する。音響特性計測装置10は、導出した伝達特性を記憶する。
【0021】
そして、音響特性計測装置10は、第1マイクロホン110および第2マイクロホン120によって集音される測定対象音と雑音とを含む音波に基づいた第1集音信号、第2集音信号を受信する。音響特性計測装置10は、第1集音信号をフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルを生成し、第2集音信号をフーリエ変換することによって第2周波数スペクトルを生成する。音響特性計測装置10は、生成した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルのそれぞれに、測定対象物および雑音源と各マイクロホンとの間の伝達特性を当てはめて測定対象音信号を抽出する。音響特性計測装置10は、抽出した測定対象音信号を出力する。例えば、音響特性計測装置10から出力される測定対象音信号は、上位システムや別のシステム、表示装置などに送信される。
【0022】
〔音響特性計測装置〕
次に、音響特性計測装置10の詳細構成および処理について図面を参照しながら説明する。
図2は、音響特性計測装置10の詳細構成の一例を示すブロック図である。
【0023】
図2のように、音響特性計測装置10は、第1集音信号受信部11、第1フーリエ変換処理部12、第2集音信号受信部13、第2フーリエ変換処理部14、計測制御部15、記憶部16、および信号送信部17を備える。
【0024】
第1集音信号受信部11は、第1マイクロホン110から第1集音信号を受信する。第1集音信号受信部11は、第1マイクロホン110から受信した第1集音信号を第1フーリエ変換処理部12に出力する。
【0025】
第1フーリエ変換処理部12は、第1集音信号受信部11から第1集音信号を取得する。第1フーリエ変換処理部12は、取得した第1集音信号をフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルを生成する。第1フーリエ変換処理部12は、生成した第1周波数スペクトルを計測制御部15に出力する。例えば、第1フーリエ変換処理部12は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)によって第1集音信号から第1周波数スペクトルを生成する。
【0026】
第2集音信号受信部13は、第2マイクロホン120から第2集音信号を受信する。第2集音信号受信部13は、第2マイクロホン120から受信した第2集音信号を第2フーリエ変換処理部14に出力する。
【0027】
第2フーリエ変換処理部14は、第2集音信号受信部13から第2集音信号を取得する。第2フーリエ変換処理部14は、取得した第2集音信号をフーリエ変換することによって第2周波数スペクトルを生成する。第2フーリエ変換処理部14は、生成した第2周波数スペクトルを計測制御部15に出力する。例えば、第2フーリエ変換処理部14は、高速フーリエ変換によって第2集音信号から第2周波数スペクトルを生成する。
【0028】
計測制御部15は、第1フーリエ変換処理部12から第1周波数スペクトルを取得し、第2フーリエ変換処理部14から第2周波数スペクトルを取得する。計測制御部15は、取得した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを用いて、計測準備段階と計測段階とで異なる処理を実行し、測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する。計測制御部15は、抽出した測定対象音信号を信号送信部17に出力する。
【0029】
計測準備段階(第1準備段階とも呼ぶ)において、計測制御部15は、雑音を含まない測定対象音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを取得する。例えば、雑音を含まない測定対象音は、計測対象物100、第1マイクロホン110、および第2マイクロホン120を遮音箱などの中のような雑音の無い環境下に配置することで測定できる。計測制御部15は、取得した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶部16に記憶させる。計測準備段階の第1周波数スペクトルには、第1マイクロホン110と計測対象物100との間の伝達特性(第1伝達特性)が含まれる。また、計測準備段階の第2周波数スペクトルには、第2マイクロホン120と計測対象物100との間の伝達特性(第2伝達特性)が含まれる。すなわち、計測準備段階において、記憶部16に記憶される第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルのそれぞれには、測定対象音に関する第1伝達特性および第2伝達特性が含まれる。
【0030】
計測段階の雑音計測時(第2準備段階とも呼ぶ)において、まず、計測制御部15は、測定対象音を含まない雑音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを取得する。例えば、測定対象音を含まない雑音は、計測対象物100から測定対象音を発生させない状況で測定できる。計測制御部15は、取得した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶部16に記憶させる。計測段階の雑音計測時の第1周波数スペクトルには、第1マイクロホン110と雑音源との間の伝達特性(第1伝達特性)が含まれる。また、計測段階の雑音計測時の第2周波数スペクトルには、第2マイクロホン120と雑音源との間の伝達特性(第2伝達特性)が含まれる。すなわち、計測準備段階において、記憶部16に記憶される第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルのそれぞれには、雑音に関する第1伝達特性および第2伝達特性が含まれる。なお、測定対象音を含まない雑音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルは、計測準備段階において取得しておいてもよい。
【0031】
そして、計測段階の検査時(検査段階とも呼ぶ)において、計測制御部15は、測定対象音と雑音とが混在する検査対象音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを取得する。計測制御部15は、測定対象音および雑音に関する第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶部16から取得する。計測制御部15は、測定対象音および雑音に関する第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを、検査対象音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルに当てはめて測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する。
【0032】
信号送信部17は、計測制御部15から測定対象音信号を取得する。信号送信部17は、取得した測定対象音信号を出力する。例えば、信号送信部17は、測定対象音信号(測定対象音)を用いる上位システムや別のシステム、表示装置などに測定対象音信号を送信する。
【0033】
以上が音響特性計測装置10の構成についての説明である。なお、
図2の音響特性計測装置10の構成は一例であって、本実施形態の音響特性計測装置10の構成を限定するものではない。
【0034】
〔測定対象音信号の抽出方法〕
次に、音響特性計測装置10による測定対象音信号の抽出方法について図面を参照しながら説明する。
【0035】
図3は、測定対象音T
Mと雑音T
Nとが混在する検査対象音に基づいた集音信号から測定対象音T
Mに基づいた周波数スペクトルS
M(測定対象音信号)を抽出する方法について説明するための概念図である。
【0036】
第1マイクロホン110は、測定対象音TMおよび雑音TNの少なくともいずれかを含む音波を集音し、第1集音信号ST1を生成する。第1マイクロホン110は、生成した第1集音信号ST1を第1フーリエ変換処理部12に出力する。第1フーリエ変換処理部12は、第1集音信号ST1をフーリエ変換し、第1周波数スペクトルSf1を生成する。第1フーリエ変換処理部12は、生成した第1周波数スペクトルSf1を計測制御部15に出力する。
【0037】
第2マイクロホン120は、測定対象音TMおよび雑音TNの少なくともいずれかを含む音波を集音し、第2集音信号ST2を生成する。第2マイクロホン120は、生成した第2集音信号ST2を第2フーリエ変換処理部14に出力する。第2フーリエ変換処理部14は、第2集音信号ST2をフーリエ変換し、第2周波数スペクトルSf2を生成する。第2フーリエ変換処理部14は、生成した第2周波数スペクトルSf2を計測制御部15に出力する。
【0038】
計測制御部15は、取得した第1周波数スペクトルSf1および第2周波数スペクトルSf2に基づいて、測定対象音TMに基づいた周波数スペクトルSM(測定対象音信号)を抽出する。計測制御部15は、抽出した周波数スペクトルSM(測定対象音信号)を出力する。
【0039】
図4は、第1準備段階において取得される測定対象音T
Mに基づいて第1周波数スペクトルX
0(f)および第2周波数スペクトルY
0(f)を生成する例について説明するための概念図である。
図4の例では、測定対象音T
Mに基づいた周波数スペクトルをS
0(f)、測定対象音T
Mに基づいた第1伝達特性をA
0(f)、第2伝達特性をB
0(f)とする。このとき、第1準備段階における第1周波数スペクトルX
0(f)および第2周波数スペクトルY
0(f)のそれぞれは、以下の式1および式2で表すことができる。
X
0(f)=A
0(f)×S
0(f)・・・(1)
Y
0(f)=B
0(f)×S
0(f)・・・(2)
図5は、第2準備段階において取得される雑音T
Nに基づいてから第1周波数スペクトルX
1(f)および第2周波数スペクトルY
1(f)を生成することについて説明するための概念図である。
図5の例では、雑音T
Nに基づいた周波数スペクトルをN
0(f)、雑音T
Nに基づいた第1伝達特性をA
1(f)、第2伝達特性をB
1(f)とする。このとき、第2準備段階における第1周波数スペクトルX
1(f)および第2周波数スペクトルY
1(f)のそれぞれは、以下の式3および式4で表すことができる。
X
1(f)=A
1(f)×N
0(f)・・・(3)
Y
1(f)=B
1(f)×N
0(f)・・・(4)
図6は、検査段階において取得される測定対象音T
Mの周波数スペクトルS(f)および雑音T
Nの周波数スペクトルN(f)から第1周波数スペクトルX(f)、第2周波数スペクトルY(f)を生成することについて説明するための概念図である。
図6の例では、測定対象音T
Mに基づいた周波数スペクトルをS(f)、雑音T
Nに基づいた周波数スペクトルをN(f)、雑音T
Nに基づいた第1伝達特性をA
2(f)、第2伝達特性をB
2(f)とする。第1マイクロホン110と計測対象物100との位置関係と、第2マイクロホン120と計測対象物100との位置関係とが固定されていれば、測定対象音に基づいた第1伝達特性および第2伝達特性のそれぞれは、A
0(f)およびB
0(f)である。このとき、検査段階における第1周波数スペクトルX(f)および第2周波数スペクトルY(f)のそれぞれは、以下の式5および式6で表すことができる。
X(f)=A
0(f)×S(f)+A
2(f)×N(f)・・・(5)
Y(f)=B
0(f)×S(f)+B
2(f)×N(f)・・・(6)
上述の式1および式2から、以下の式7の関係が成り立つ。
X
0(f)/Y
0(f)=A
0(f)/B
0(f)・・・(7)
生産工程において、雑音T
Nに基づいた第1伝達特性A
1(f)、第2伝達特性B
1(f)、第1伝達特性A
2(f)、および第2伝達特性B
2(f)の主要なパラメータは、第1マイクロホン110および第2マイクロホン120と雑音源との距離である。雑音T
Nは、各マイクロホンと雑音源との距離の2乗に比例して減衰する。
【0040】
図7は、第1マイクロホン110および第2マイクロホン120と、雑音源との距離関係について説明するための概念図である。なお、
図7においては、第1マイクロホン110および第2マイクロホン120と雑音源との距離が等しいとみなせるものとする。第1マイクロホン110および第2マイクロホン120と雑音源との距離をaとし、第1マイクロホン110と第2マイクロホン120と距離をbとする。距離bに比べて距離aを大きくするにつれて、雑音T
Nに基づいた第2伝達特性に対する第1伝達特性の比率(A
1(f)/B
1(f)およびA
2(f)/B
2(f))は1に近づいていく。すなわち、第1マイクロホン110と第2マイクロホン120との距離bを、第1マイクロホン110および第2マイクロホン120と雑音源の距離aに比べて所定の割合よりも小さく設定すれば、第2伝達特性に対する第2伝達特性の比率を1に近似できる。例えば、所定の割合は、1パーセントに設定できる。所定の割合を小さく設定するほど、測定対象音信号の測定精度が高くなる。
【0041】
例えば、第1マイクロホン110と第2マイクロホン120との距離を5ミリメートルに設定し、そこから半径1000ミリメートル以内に雑音源が位置しないように音響特性計測システム1を構成する。このとき、雑音TNに基づいた第1伝達特性と第2伝達特性との比A1(f)/B1(f)およびA2(f)/B2(f)は、それぞれ約0.99になる。すなわち、第1マイクロホン110および第2マイクロホン120と、雑音源との距離が1000ミリメートル以遠に設定すれば、検査結果への影響が1%以下になる。このとき、以下の式8の関係が成り立つ。
X1(f)/Y1(f)=A1(f)/B1(f)≒A2(f)/B2(f)・・・(8)
上記の式5を変形すると、以下の式9の関係が得られる。
N(f)=[X(f)-A0(f)×S(f)]/A1(f)・・・(9)
測定対象音TMに基づいた周波数スペクトルSM(f)は、A0(f)×S(f)またはB0(f)×S(f)である。ここでは、A0(f)×S(f)を求める例について説明する。上記の式7、式8、および式9を式6に代入し、第1マイクロホン110が集音した測定対象音TMに関するA0(f)×S(f)について整理すると、以下の式10の関係が成り立つ。
A0(f)×S(f)=Z1/Z2・・・(10)
ただし、式10において、Z1およびZ2のそれぞれは、以下の式11および式12で表される。
Z1=X0(f)×X1(f)×Y(f)-X0(f)×X(f)×Y1(f)・・・(11)
Z2=X1(f)×Y0(f)-X0(f)×Y1(f)・・・(12)
式10の左辺は、測定対象音TMに基づいた周波数スペクトルSM(測定対象信号)に相当する。式10の右辺のZ1およびZ2の各要素は既知の信号であるので、式10を用いれば、雑音TNを含まない測定対象音TMに基づいた周波数スペクトルSM(測定対象音信号)を算出できる。
【0042】
以上が、音響特性計測システム1による測定対象音信号の抽出方法についての説明である。なお、上記の測定対象音信号の抽出方法は一例であって、本実施形態の音響特性計測システム1による測定対象音信号の抽出方法を限定するものではない。
【0043】
(動作)
次に、音響特性計測装置10の動作について図面を参照しながら説明する。ここでは、動作の概要、第1準備段階、第2準備段階、および検査段階のそれぞれについて説明する。
【0044】
〔概要〕
図8は、音響特性計測装置10の動作の概要について説明するためのフローチャートである。以下の
図8のフローチャートに沿った説明においては、音響特性計測装置10を動作の主体として説明する。
【0045】
図8において、まず、第1準備段階において、音響特性計測装置10は、雑音を含まない測定対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号から、第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成する(ステップS11)。
【0046】
次に、第2準備段階において、音響特性計測装置10は、測定対象音を含まない雑音に基づいた第1集音信号および第2集音信号から、第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成する(ステップS12)。
【0047】
そして、検査段階において、音響特性計測装置10は、検査対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号から測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する(ステップS13)。このとき、音響特性計測装置10は、測定対象音および雑音に基づいた第1周波数スペクトルと第2周波数スペクトルとを用いて、測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する。
【0048】
以上が、
図8のフローチャートに沿った音響特性計測装置10の動作の概要についての説明である。なお、
図8のフローチャートに沿った音響特性計測装置10の動作は一例であって、本実施形態の音響特性計測装置10の動作を限定するものではない。
【0049】
〔第1準備段階〕
図9は、第1準備段階における音響特性計測装置10の動作(
図8のステップS11)について説明するためのフローチャートである。以下の
図9のフローチャートに沿った説明においては、音響特性計測装置10を動作の主体として説明する。
【0050】
図9において、まず、音響特性計測装置10は、雑音を含まない測定対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号を受信する(ステップS111)。
【0051】
次に、音響特性計測装置10は、受信した第1集音信号および第2集音信号をフーリエ変換し、測定対象音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成する(ステップS112)。
【0052】
そして、音響特性計測装置10は、測定対象音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶する(ステップS113)。
【0053】
以上が、
図9のフローチャートに沿った第1準備段階における音響特性計測装置10の動作についての説明である。
【0054】
〔第2準備段階〕
図10は、第2準備段階における音響特性計測装置10の動作(
図8のステップS12)について説明するためのフローチャートである。以下の
図10のフローチャートに沿った説明においては、音響特性計測装置10を動作の主体として説明する。
【0055】
図10において、まず、音響特性計測装置10は、測定対象音を含まない雑音に基づいた第1集音信号および第2集音信号を受信する(ステップS121)。
【0056】
次に、音響特性計測装置10は、受信した第1集音信号および第2集音信号をフーリエ変換し、雑音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成する(ステップS122)。
【0057】
そして、音響特性計測装置10は、雑音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶する(ステップS123)。
【0058】
以上が、
図10のフローチャートに沿った第2準備段階における音響特性計測装置10の動作についての説明である。
【0059】
〔検査段階〕
図11は、検査段階における音響特性計測装置10の動作(
図8のステップS13)について説明するためのフローチャートである。以下の
図11のフローチャートに沿った説明においては、音響特性計測装置10を動作の主体として説明する。
【0060】
図11において、まず、音響特性計測装置10は、検査対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号を受信する(ステップS131)。
【0061】
次に、音響特性計測装置10は、受信した第1集音信号および第2集音信号をフーリエ変換し、検査対象音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成する(ステップS132)。
【0062】
そして、音響特性計測装置10は、検査対象音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルから測定対象音に基づいた周波数スペクトル(測定対象信号)を抽出する(ステップS133)。このとき、音響特性計測装置10は、測定対象音および雑音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを用いて、測定対象音に基づいた周波数スペクトル(測定対象信号)を抽出する。
【0063】
以上が、
図11のフローチャートに沿った検査段階における音響特性計測装置10の動作についての説明である。なお、以上の
図9~
図11のフローチャートに沿った音響特性計測装置10の動作は一例であって、本実施形態の音響特性計測装置10の動作を限定するものではない。
【0064】
以上のように、本実施形態の音響特性計測システムは、第1マイクロホン、第2マイクロホン、および音響特性計測装置を備える。第1マイクロホンは、測定対象物に向けて配置され、集音した音波を第1集音信号に変換して出力する無指向性のマイクロホンである。第2マイクロホンは、測定対象物に向けて配置され、集音した音波を第2集音信号に変換して出力する指向性の第2マイクロホンである。第1マイクロホンおよび第2マイクロホンは、測定対象物と第1マイクロホンと第2マイクロホンとの位置関係が一定になるように配置される。音響特性計測装置は、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンのそれぞれから第1集音信号および第2集音信号を受信する。音響特性計測装置は、受信した第1集音信号および第2集音信号のそれぞれをフーリエ変換することによって第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを生成し、生成した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶する。また、音響特性計測装置は、測定対象音および雑音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを用いて、検査対象音に基づいた第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルから測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する。音響特性計測装置は、抽出した測定対象音信号を出力する。
【0065】
本実施形態の音響特性計測システムは、製品の生産工程において、対象製品の周囲から到来する雑音の影響を軽減する方法に関するものである。本実施形態の音響特性計測システムは、指向性の異なる2つのマイクを用いて、雑音が含まれない測定対象音のみの場合の周波数スペクトルと、測定対象音が含まれない雑音のみの場合の周波数スペクトルとを事前に生成しておく。本実施形態の音響特性計測システムは、事前に取得しておいた測定対象物および雑音源のそれぞれについて生成された周波数スペクトルには、各マイクロホンへの伝達特性が含まれる。本実施形態の音響特性計測システムは、測定対象物を検査する際に、測定対象音と雑音とが混在した検査対象音の周波数スペクトルに、事前に測定した周波数スペクトルを当てはめることにより、雑音を含まない測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する。
【0066】
また、音響特性計測装置は、測定対象音および雑音に基づいて生成された第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルに含まれる伝達特性に基づいて、検査対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号から測定対象音信号を抽出する。測定対象音および雑音に基づいて生成された第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルに含まれる伝達特性は、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンのそれぞれと測定対象音との間の音波の伝達特性である。
【0067】
また、音響特性計測装置には、第1準備段階において、雑音を含まない測定対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号から生成された、第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルが記憶される。第1準備段階は、検査対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号から測定対象音信号を抽出するよりも以前の段階である。
【0068】
また、音響特性計測装置には、第2準備段階において、測定対象音を含まない雑音に基づいた第1集音信号および第2集音信号から生成された、第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルが記憶される。第2準備段階は、検査対象音に基づいた第1集音信号および第2集音信号から測定対象音信号を抽出するよりも以前の段階である。
【0069】
また、音響特性計測装置は、第1集音信号受信部、第1フーリエ変換部、第2集音信号受信部、第2フーリエ変換部、記憶部、および計測制御部を有する。第1集音信号受信部は、第1マイクロホンから第1集音信号を受信する。第1フーリエ変換部は、第1集音信号受信部によって受信される第1集音信号をフーリエ変換して第1周波数スペクトルを生成する。第2集音信号受信部は、第2マイクロホンから第2集音信号を受信する。第2フーリエ変換部は、第2集音信号受信部によって受信される第2集音信号をフーリエ変換して第2周波数スペクトルを生成する。記憶部には、第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルが記憶される。計測制御部は、第1フーリエ変換部から第1周波数スペクトルを取得するとともに、第2フーリエ変換部から第2周波数スペクトルを取得し、取得した第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを記憶部に記憶させる。計測制御部は、第1準備段階および第2準備段階において取得される第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルは記憶部に記憶させる。計測制御部は、検査段階においては、第1準備段階および第2準備段階において取得された第1周波数スペクトルおよび第2周波数スペクトルを用いて測定対象音に基づいた測定対象音信号を抽出する。
【0070】
また、第1マイクロホンと第2マイクロホンとは、第1マイクロホンおよび第2マイクロホンと雑音源との距離に対する、第1マイクロホンと第2マイクロホンとの距離の比率が、所定値以下になる位置に配置される。
【0071】
以上のように、本実施形態の音響特性計測システムによれば、測定対象物の周囲から雑音が到来する生産工程においても、雑音が含まれない測定対象音を容易に取り出すことができるため、製品の良否判定を高精度化することができる。すなわち、本実施形態の音響特性計測システムによれば、検査対象音から雑音を除去することにより、生産工程における製品の音声検査を高精度化することができる。
【0072】
(ハードウェア)
ここで、本発明の各実施形態に係る音響特性計測装置の処理を実行するハードウェア構成について、
図12の情報処理装置90を一例として挙げて説明する。なお、
図12の情報処理装置90は、各実施形態の音響特性計測装置の処理を実行するための構成例であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0073】
図12のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95および通信インターフェース96を備える。
図12においては、インターフェースをI/F(Interface)と略して表記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス99を介して互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0074】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラムを主記憶装置92に展開し、展開されたプログラムを実行する。本実施形態においては、情報処理装置90にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ91は、本実施形態に係る音響特性計測装置による処理を実行する。
【0075】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリとすればよい。また、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリを主記憶装置92として構成・追加してもよい。
【0076】
補助記憶装置93は、種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって構成される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0077】
入出力インターフェース95は、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース95および通信インターフェース96は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0078】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器を接続するように構成してもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねる構成とすればよい。プロセッサ91と入力機器との間のデータ通信は、入出力インターフェース95に仲介させればよい。
【0079】
また、情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器を備え付けてもよい。表示機器を備え付ける場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられていることが好ましい。表示機器は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0080】
また、情報処理装置90には、必要に応じて、ディスクドライブを備え付けてもよい。ディスクドライブは、バス99に接続される。ディスクドライブは、プロセッサ91と図示しない記録媒体(プログラム記録媒体)との間で、記録媒体からのデータ・プログラムの読み出し、情報処理装置90の処理結果の記録媒体への書き込みなどを仲介する。記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。また、記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体や、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現してもよい。
【0081】
以上が、本発明の各実施形態に係る音響特性計測装置を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、
図12のハードウェア構成は、各実施形態に係る音響特性計測装置の演算処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、各実施形態に係る音響特性計測装置に関する処理をコンピュータに実行させるプログラムも本発明の範囲に含まれる。さらに、各実施形態に係るプログラムを記録したプログラム記録媒体も本発明の範囲に含まれる。
【0082】
各実施形態の音響特性計測装置の構成要素は、任意に組み合わせることができる。また、各実施形態の音響特性計測装置の構成要素は、ソフトウェアによって実現してもよいし、回路によって実現してもよい。
【0083】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 音響特性計測システム
10 音響特性計測装置
11 第1集音信号受信部
12 第1フーリエ変換処理部
13 第2集音信号受信部
14 第2フーリエ変換処理部
15 計測制御部
16 記憶部
17 信号送信部
100 計測対象物
110 第1マイクロホン
120 第2マイクロホン