(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】希土類焼結磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20221220BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
(21)【出願番号】P 2018189121
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 徹也
(72)【発明者】
【氏名】飯田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】廣田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】中村 元
(72)【発明者】
【氏名】吉田 三貴夫
(72)【発明者】
【氏名】福井 和也
(72)【発明者】
【氏名】笈田 陸弘
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146073(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/004794(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/161355(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/122256(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0206227(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0184370(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0329007(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0155083(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R
1
aR
2
bT
cM
dB
e組成(R
1
は、Sc及びYを含
みTb及びDyを除く希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、R
2はTb、Dyから選ばれる1種又は2種であり、TはFeあるいはFeとCo、MはAl、Cu、Zn、In、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta、Wの中から選ばれる1種又は2種以上であり、Bはホウ素、a~eは合金組成の原子%で、12≦a+b≦17、0.01≦d≦11、3≦e≦15、残部がc)からなる焼結磁石体であって、Nd
2Fe
14B型正方晶構造をとる主相粒子を有し、該焼結磁石体の表面より少なくとも500μm以内において、前記主相粒子の表面近傍の少なくとも一部に、原子%で表されるR
2濃度が粒子中心部よりも高いレイヤー1と、その外郭に形成された該レイヤー1よりも前記R
2濃度が低いレイヤー2と、さらにその外郭に形成された該レイヤー2よりも前記R
2濃度が高いレイヤー3とを含む多重のレイヤーを有する複層主相粒子が存在することを特徴とする希土類焼結磁石。
【請求項2】
上記複層主相粒子は、粒子中心部からレイヤー1、レイヤー2、レイヤー3へと、上記R
2濃度が増加又は減少のいずれの場合も原子%で1%/nm以下の変化率で変化している請求項1記載の希土類焼結磁石。
【請求項3】
上記複層主相粒子に含まれる上記レイヤー1、レイヤー2、レイヤー3の各R
2濃度から、粒子中心部の平均R
2濃度を差し引いた値をそれぞれ原子%でC1、C2、C3とし、C1の最大値をC1
max、C2の最小値をC2
min、C3の最大値をC3
max、C1
maxとC3
maxとでより小さい値をC
maxとしたとき、C1
maxは0.5%以上8%以下、C2
minはC
maxの70%以下、C3
maxは0.5%以上8%以下であり、C1は(C2
min+C
max)/2<C1≦C1
maxを、C2はC2
min≦C2≦(C2
min+C
max)/2を、C3は(C2
min+C
max)/2<C3≦C3
maxをそれぞれ満たす請求項1又は2記載の希土類焼結磁石。
【請求項4】
上記レイヤー1~3の厚さが、それぞれ0.02~1.5μmである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石。
【請求項5】
上記複層主相粒子と結晶粒界相を介して隣接する粒子には、該複層主相粒子の上記多重のレイヤーが存在する領域と対向する領域に上記多重のレイヤーが存在しない請求項1乃至4のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石。
【請求項6】
上記主相粒子三個以上に取り囲まれた三重点の少なくとも一部に、角部を有しない形状のR
1およびR
2を含む酸化物粒子が存在し、更に該酸化物粒子の少なくとも一部が、原子%で表されるR
2濃度が、該粒子の中心部よりも高いレイヤーAと、その外郭に形成された該レイヤーAよりも前記R
2濃度が低いレイヤーBと、さらにその外郭に形成された該レイヤーBよりも前記R
2濃度が高いレイヤーCとを含む多重のレイヤーを有する複層酸化物粒子である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石。
【請求項7】
上記複層酸化物粒子は、粒子中心部からレイヤーA、レイヤーB、レイヤーCへと、上記R
2濃度が増加又は減少のいずれの場合も原子%で1%/nm以下の変化率で変化している請求項6記載の希土類焼結磁石。
【請求項8】
上記複層酸化物粒子に含まれる上記レイヤーA、レイヤーB、レイヤーCの各R
2濃度から、粒子中心部の平均R
2濃度を差し引いた値をそれぞれ原子%でXA、XB、XCとし、XAの最大値をXA
max、XBの最小値をXB
min、XCの最大値をXC
max、XA
maxとXC
maxとでより小さい値をX
maxとしたとき、XA
maxは1%以上20%以下、XB
minはX
maxの70%以下、XC
maxは1%以上20%以下であり、XAは(XB
min+X
max)/2<XA≦XA
maxを、XBはXB
min≦XB≦(XB
min+X
max)/2を、XCは(XB
min+X
max)/2<XC≦XC
maxをそれぞれ満たす請求項6又は7記載の希土類焼結磁石。
【請求項9】
上記レイヤーA~Cの厚さが、それぞれ0.05~1μmである請求項6乃至8のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石。
【請求項10】
上記酸化物粒子にC、N、Fから選ばれる1種又は2種以上の元素が含まれている請求項6乃至9のいずれか1項に記載の希土類焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高価なTbやDyの使用量を低減させることが可能で高性能な希土類焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系焼結磁石は、ハードディスクドライブからエアコン、産業用モータ、ハイブリッド自動車や電気自動車の発電機・駆動モータ等へとその応用範囲を拡大し続けている。今後の発展が期待される用途であるエアコンのコンプレッサモータや車載用途では磁石が高温に曝されるために、高温下での特性の安定性、即ち耐熱性が要求され、DyやTbの添加が必須である一方、昨今の資源問題の観点からは如何にしてDyやTbを低減させるかが重要な課題となっている。
【0003】
かかるNd-Fe-B系磁石では、磁性を担う主成分のNd2Fe14B結晶粒の界面に逆磁区と呼ばれる逆向きに磁化された小さな領域が生成し、それが成長することで磁化反転すると考えられている。理論的には最大の保磁力はNd2Fe14B化合物の異方性磁場(6.4MA/m)と等しくなるが、結晶粒界近傍における結晶構造の乱れに起因した異方性磁場の低下や組織形態などに起因した漏洩磁場の影響などにより、実際に得られる保磁力は異方性磁場の15%程度(1MA/m)に留まる。
【0004】
このようなNd-Fe-B系磁石において、NdのサイトをDyやTbで置換した場合、異方性磁場がNd2Fe14Bよりも著しく高くなることが知られている。従って、Ndの一部をDyやTbで置換すると異方性磁場が増大し、保磁力も大きくなる。しかし、DyやTbは磁性化合物の飽和磁気分極を大きく低下させるので、これらの元素を添加して保磁力増大を図る限りにおいて、残留磁束密度の低下とのトレードオフは避けられない。
【0005】
このような磁化反転機構を考慮すれば、逆磁区の生成する主相粒界近傍でのみNdの一部をDyやTbで置換すれば、僅かな重希土類量でも保磁力は増大し、かつ残留磁束密度の低下を軽減できることになる。従来このような観点から二合金法と呼ばれる製法が開発されている(特許文献1)。この方法では、Nd2Fe14B化合物に近い組成の合金と、DyやTbを添加した焼結助剤合金とを別々に作製し、粉砕、混合した後に焼結するというものである。しかし、この方法では、焼結温度が1,050~1,100℃という高温であるために、DyやTbは5~10μm程の主相結晶粒の界面から1~4μm程度内部まで拡散してしまう上に、粒中心部との濃度差も大きくはない。より高い保磁力と残留磁束密度を達成させるためにはできるだけ薄い拡散領域に高い濃度で重希土類を濃化させた形態が好ましく、このため重希土類をより低温で拡散させることが重要となる。この問題を克服するために、以下の粒界拡散法が開発されている。
【0006】
粒界拡散法では、一旦焼結体を作製した後に焼結体表面よりDyあるいはTbを供給し、焼結温度よりも低い温度で液相となっているNdリッチ相を通じて重希土類を磁石内へ拡散させ、主相結晶粒の表面近傍のみでNdを高濃度の重希土類で置換させる。DyあるいはTbの供給形態に関しては以下に示すように多種に渡る技術が報告されており、粒界拡散法が高性能磁石の作製方法として高く位置づけられていることがわかる。
(1)スパッタによるDy/Tb金属膜(非特許文献1~3)
(2)非金属系化合物(フッ化物/酸化物等)粉末の塗布(特許文献2)
(3)フッ化物と水素化Caの塗布により熱処理時にフッ化物を重希土類金属に還元させて拡散させる(非特許文献4)
(4)Dy蒸気拡散(Dyメタル/合金を熱処理ボックスに投入し、拡散処理時に蒸気となったDyを磁石に拡散させる)(特許文献3~4、非特許文献5~6)
(5)金属系(単体、水素化物、合金)粉末の塗布(特許文献5~6、非特許文献7~8)
【0007】
しかしながら、いずれの方法においても、残留磁束密度を大きく低下させない範囲での保磁力増大効果の程度には限界があり、例えば厚さ3mm程度の焼結体に適用した場合には、Dy拡散で400kA/m程度、Tb拡散で700kA/m程度の保磁力増大が限界である。
【0008】
一方、粒界拡散による保磁力の増大を向上させるために好適な母材(粒界拡散前の異方性焼結体)についても種々検討が行われている。例えば、本発明者らは、Dy/Tbの拡散経路を確保することで高い保磁力増大効果が得られることを見出している(特許文献7)。また、拡散した重希土類が磁石内に存在するNdの酸化物と反応することが拡散量を低減させているとして、予めフッ素を母材に添加して酸化物を酸フッ化物とすることで、Dy/Tbとの反応性を低減させ、拡散量を確保するという提案もなされている(特許文献8)。ただし、これらの手法を用いても磁力の増大量には限界があり、更なる保磁力の増大が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平6-207203号公報
【文献】国際公開第2006/043348号
【文献】特開2008-263223号公報
【文献】国際公開第2008/023731号
【文献】国際公開第2008/129784号
【文献】特開2009-289994号公報
【文献】特開2008-147634号公報
【文献】特開2011-82467号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】K.T.Park, K.Hiraga and M.Sagawa, “Effect of Metal-Coating and Consecutive Heat Treatment on Coercivity of Thin Nd-Fe-B Sintered Magnets”, Proceedings of the Sixteen International Workshop on Rare-Earth Magnets and Their Applications, Sendai, p.257 (2000)
【文献】鈴木俊治、町田憲一、“高性能微小希土類磁石の開発と応用”、マテリアルインテグレーション、16,(2003),17-22
【文献】町田憲一、川嵜尚志、鈴木俊治、伊東正浩、堀川高志、“Nd-Fe-B系焼結磁石の粒界改質と磁気特性”、粉体粉末冶金協会講演概要集 平成16年度春季大会,p.202
【文献】伊東正浩、町田憲一、鈴木俊治、李 徳善、西本大夢、“Nd-Fe-B系焼結磁石の粒界拡散Dy量と保磁力との関係”、日本金属学会春季講演大会概要集、(2007),336
【文献】町田憲一、鄒 敏、堀川高志、李 徳善、“金属蒸気収着による高保磁力Nd-Fe-B系燒結磁石の作製と評価”、第32回日本磁気学会学術講演会概要集、(2008),375
【文献】高田幸生、福本恵紀、金子裕治、“Nd-Fe-B磁石の保磁力に及ぼすDy拡散処理の効果”、粉体粉末冶金協会講演概要集、平成22年度春季大会、(2010),92
【文献】町田憲一、西本大夢、李 徳善、堀川高志、伊東正浩、“粒界改質に希土類金属微粉末を用いたNd-Fe-B系焼結磁石の高保磁力化”、日本金属学会春季講演大会概要集、(2009),279
【文献】大野直子、笠田竜太、松井秀樹、香山 晃、今成文郎、溝口徹彦、佐川眞人、“Dy改質処理を施したネオジム磁石の微細構造の研究”、日本金属学会春季講演大会概要集、(2009),115
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来の問題点に鑑みなされたもので、従来の粒界拡散技術により作製されたものよりも高性能なR-Fe-B系焼結磁石(RはScおよびYを含む希土類元素から選ばれる2種以上)を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、Nd-Fe-B系焼結磁石に代表されるR-Fe-B系焼結磁石(RはSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)に対し、種々の粒界拡散パターンと保磁力増大効果ならびに金属組織との関連を精査した結果、下記のように、磁石表面近傍に存在する粒子の独自な形態が保磁力増大量を著しく向上させ、しかも高価なTbやDyの使用量を低減し得ることを知見し、本発明を完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記の粒子形態を有する希土類焼結磁石を提供する。
[1] R1
aR2
bTcMdBe組成(R1
は、Sc及びYを含みTb及びDyを除く希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、R2はTb、Dyから選ばれる1種又は2種であり、TはFeあるいはFeとCo、MはAl、Cu、Zn、In、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta、Wの中から選ばれる1種又は2種以上であり、Bはホウ素、a~eは合金組成の原子%で、12≦a+b≦17、0.01≦d≦11、3≦e≦15、残部がc)からなる焼結磁石体であって、Nd2Fe14B型正方晶構造をとる主相粒子を有し、該焼結磁石体の表面より少なくとも500μm以内において、前記主相粒子の表面近傍の少なくとも一部に、原子%で表されるR2濃度が粒子中心部よりも高いレイヤー1と、その外郭に形成された該レイヤー1よりも前記R2濃度が低いレイヤー2と、さらにその外郭に形成された該レイヤー2よりも前記R2濃度が高いレイヤー3とを含む多重のレイヤーを有する複層主相粒子が存在することを特徴とする希土類焼結磁石。
[2] 上記複層主相粒子は、粒子中心部からレイヤー1、レイヤー2、レイヤー3へと、上記R2濃度が増加又は減少のいずれの場合も原子%で1%/nm以下の変化率で変化している[1]の希土類焼結磁石。
[3] 上記複層主相粒子に含まれる上記レイヤー1、レイヤー2、レイヤー3の各R2濃度から、粒子中心部の平均R2濃度を差し引いた値をそれぞれ原子%でC1、C2、C3とし、C1の最大値をC1max、C2の最小値をC2min、C3の最大値をC3max、C1maxとC3maxとでより小さい値をCmaxとしたとき、C1maxは0.5%以上8%以下、C2minはCmaxの70%以下、C3maxは0.5%以上8%以下であり、C1は(C2min+Cmax)/2<C1≦C1maxを、C2はC2min≦C2≦(C2min+Cmax)/2を、C3は(C2min+Cmax)/2<C3≦C3maxをそれぞれ満たす[1]又は[2]の希土類焼結磁石。
[4] 上記レイヤー1~3の厚さが、それぞれ0.02~1.5μmである[1]~[3]のいずれかの希土類焼結磁石。
[5] 上記複層主相粒子と結晶粒界相を介して隣接する粒子には、該複層主相粒子の上記多重のレイヤーが存在する領域と対向する領域に上記多重のレイヤーが存在しない[1]~[4]のいずれかの希土類焼結磁石。
[6] 上記主相粒子三個以上に取り囲まれた三重点の少なくとも一部に、角部を有しない形状のR1およびR2を含む酸化物粒子が存在し、更に該酸化物粒子の少なくとも一部が、原子%で表されるR2濃度が、該粒子の中心部よりも高いレイヤーAと、その外郭に形成された該レイヤーAよりも前記R2濃度が低いレイヤーBと、さらにその外郭に形成された該レイヤーBよりも前記R2濃度が高いレイヤーCとを含む多重のレイヤーを有する複層酸化物粒子である[1]~[5]のいずれかの希土類焼結磁石。
[7] 上記複層酸化物粒子は、粒子中心部からレイヤーA、レイヤーB、レイヤーCへと、上記R2濃度が増加又は減少のいずれの場合も原子%で1%/nm以下の変化率で変化している[6]の希土類焼結磁石。
[8] 上記複層酸化物粒子に含まれる上記レイヤーA、レイヤーB、レイヤーCの各R2濃度から、粒子中心部の平均R2濃度を差し引いた値をそれぞれ原子%でXA、XB、XCとし、XAの最大値をXAmax、XBの最小値をXBmin、XCの最大値をXCmax、XAmaxとXCmaxとでより小さい値をXmaxとしたとき、XAmaxは1%以上20%以下、XBminはXmaxの70%以下、XCmaxは1%以上20%以下であり、XAは(XBmin+Xmax)/2<XA≦XAmaxを、XBはXBmin≦XB≦(XBmin+Xmax)/2を、XCは(XBmin+Xmax)/2<XC≦XCmaxをそれぞれ満たす[6]又は[7]の希土類焼結磁石。
[9] 上記レイヤーA~Cの厚さが、それぞれ0.05~1μmである[6]~[8]のいずれかの希土類焼結磁石。
[10] 上記酸化物粒子にC、N、Fから選ばれる1種又は2種以上の元素が含まれている[6]~[9]のいずれかの希土類焼結磁石。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高性能で、かつTbあるいはDyの使用量を削減することが可能なR-Fe-B系焼結磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)は実施例1(M1)、(B)は比較例2(C1)の焼結磁石の表面から100μm内部における走査電子顕微鏡写真(反射電子像)である。
【
図2】(A)は実施例1(M1)の磁石表面から100μm内部における走査電子顕微鏡写真(反射電子像)、(B)は(A)中に記された線分ABにおけるTbの濃度プロファイルを示すグラフである。
【
図3】(A)は実施例1(M1)の磁石体表面から300μm内部における酸化物粒子を示す透過電子顕微鏡写真、(B)は(A)中の線分DEにおけるTb濃度プロファイルを示すグラフである。
【
図4】(A)は実施例2(M2)の磁石体表面から100μm内部における走査電子顕微鏡写真(反射電子像)、(B)は(A)内に記された線分FGにおけるTbの濃度プロファイルを示すグラフである。
【
図5】(A)は実施例3(M3)の磁石体表面から100μm内部における走査電子顕微鏡写真(反射電子像)、(B)は(A)内に記された線分IJにおけるDyの濃度プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、以下の説明において、元素を示す符号「R」について特に説明がない場合には、この「R」はScおよびYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素を表す。
【0017】
本発明の希土類焼結磁石は、上記のとおり、上記Nd2Fe14B型正方晶構造の結晶相を主相とした、上記R1
aR2
bTcMdBe組成を有する焼結磁石体であり、上記[1]のとおり、磁石表面近傍に存在する粒子として上記多重レイヤーを有する独自の形態の複層主相粒子を有するものである。
【0018】
このような独自の形態を有する焼結磁石体は、R-T-B系磁石体(RはScおよびYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、TはFeあるいはFeとCo)にR2(R2はTbおよびDyから選ばれる1種または2種)を拡散させることにより得ることが可能である。例えば、Nd2Fe14B型結晶相を主相とした、R1
aR2
bTcMdBe組成(R1はScおよびYを含み、TbおよびDyを除く希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、R2はTbおよびDyから選ばれる1種または2種、TはFeあるいはFeとCo、MはAl、Cu、Zn、In、Si、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta、Wの中から選ばれる1種又は2種以上であり、Bはホウ素、a~eは合金組成の原子%で、12≦a+b<17、0.01≦d≦11、3≦e≦15、残部がc)からなる異方性焼結体の表面から、R2(R2はTbおよびDyから選ばれる1種または2種)を拡散させることにより、得ることができる。
【0019】
上記R1
aR2
bTcMdBe組成の異方性焼結体は、常法に従い、母合金を粗粉砕、微粉砕、成形、焼結することにより得ることができる。この場合、母合金には、R、T、M、Bを含有する。RはSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上で、具体的にはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが挙げられ、好ましくはNd、Pr、Dyを主体とする。これらSc及びYを含む希土類元素は合金全体の12原子%以上、17原子%未満、特に13~15原子%であることが好ましい。Nd及び/又はPrを全Rに対して80原子%以上、特に85原子%以上含有することが好ましい。TはFe、あるいはFeとCoであり、FeはT全体の85原子%以上、特に90原子%以上含有することが好ましく、Tは合金全体の56~82原子%、特に67~81原子%含有することが好ましい。MはAl、Cu、Zn、In、P、S、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、Sn、Sb、Hf、Ta、Wの中から選ばれる1種又は2種以上を0.01~11原子%、特に0.05~4原子%含有することが好ましい。Bはホウ素であり、合金全体の3~15原子%、特に5~7原子%含有することが好ましい。なお、不可避的不純物あるいは意図的な添加元素としてC、N、O、Fが焼結磁石中に含有されていてもよい。
【0020】
上記母合金は、原料金属あるいは原料合金を真空あるいは不活性ガス、好ましくはアルゴン(Ar)雰囲気中で溶解した後、平型やブックモールドに鋳込むか、あるいはストリップキャストにより鋳造することで得ることができる。また、本発明磁石を構成する合金の主相を構成するR2Fe14B化合物組成に近い組成の合金と焼結温度で液相助剤となるRリッチな合金とを別々に作製し、粗粉砕後に秤量混合する、いわゆる二合金法も本発明には適用可能である。但し、主相組成に近い合金に対して、鋳造時の冷却速度や合金組成に依存してα-Feが残存し易く、R2Fe14B化合物相の量を増やす目的で必要に応じて均質化処理を施すことが好ましい。その条件としては真空あるいはAr雰囲気中にて好ましくは700~1,200℃で1時間以上熱処理する。液相助剤となるRリッチな合金については上記鋳造法のほかに、いわゆる液体急冷法やストリップキャスト法も適用できる。
【0021】
上記母合金は、通常0.05~3mm、特に0.05~1.5mmに粗粉砕される。粗粉砕工程にはブラウンミルあるいは水素粉砕が用いられ、ストリップキャストにより作製された合金の場合は水素粉砕が好ましい。粗粉砕された母合金末は、例えば高圧窒素を用いたジェットミルにより通常0.1~30μm、特に0.2~20μmに微粉砕される。
【0022】
得られた微粉末は磁場中圧縮成形機で所定の形状に成形され、焼結炉に投入される。焼結は真空あるいは不活性ガス雰囲気中、通常900~1,250℃、特に1,000~1,100℃で行われる。得られた焼結磁石は、正方晶R2Fe14B化合物を主相として60~99体積%、特に80~98体積%含有することが好ましく、残部は0.5~20体積%のRに富む相、0~10体積%のBに富む相、0.1~10体積%のRの酸化物及び不可避的不純物により生成した炭化物、窒化物、水酸化物、フッ化物のうち少なくとも1種あるいはこれらの混合物又は複合物からなる。
【0023】
得られた焼結磁石ブロックは必要に応じて所定形状に研削された後、以下に詳細を説明する粒界拡散工程に供される。その大きさに特に限定はないが、粒界拡散工程において、磁石体に吸収されるR2は磁石体の比表面積が大きい、即ち寸法が小さいほど多くなるので、磁石全体として保磁力の増大を図る場合には、上記焼結磁石の形状の最大部の寸法は100mm以下、特に50mm以下でかつ磁気異方性化した方向の寸法が30mm以下、特に15mm以下であることが好ましい。なお、上記焼結磁石の最大部の寸法及び磁気異方性化した方向の寸法の下限に特に制限はなく適宜選定されるが、特に上記焼結磁石の形状の最大部の寸法は1mm以上とすることが好ましく、磁気異方性化した方向の寸法は0.5mm以上とすることが好ましい。また、磁石の表層部や角部など、特定の部位のみの保磁力の増大を図る場合には、供される焼結磁石ブロックの大きさに制限はない。
【0024】
このようにして得られた焼結磁石(異方性焼結体)の表面から上記R2を拡散させることにより、上記独自の粒子形態を磁石体の表面近傍に形成することができる。
【0025】
この粒界拡散の工程は、焼結磁石表面にR2、典型的にはDy及び/又はTb、あるいはこれらを含む物質を存在させ、拡散のための熱処理を施すものであり、Dy及び/又はTb、あるいはこれらを含む物質を存在させる方法としては公知の方法を採用し得る。ここで、本発明においては、例えばこの拡散処理を複数回施すことにより、上記独自の粒子形態を形成することができ、さらにはDyあるいはTb以外の希土類R3を含む物質を磁石表面に存在させ、拡散のための熱処理を施す工程が複数回の拡散処理の中間に導入されることが好適である。すなわち、典型的にはDy及び/又はTb元素を拡散させ,続いてDyあるいはTb以外の希土類R3元素を拡散させ,さらに続いてDy及び/又はTb元素を拡散させる。ここで、上記R3は拡散処理によって磁石内に取り込まれるDy,Tb以外の希土類元素であるが、磁石内に取り込まれた後は上記R1の一部となる。このような処理により、上記レイヤー1、レイヤー2及びレイヤー3を含む多重レイヤーを有する複層主相粒子が磁石体の表面近傍に存在する上記独自の粒子形態が得られ、従来の拡散処理では達成困難な高い保磁力が得られる。なお、上記多重レイヤーを有する複層主相粒子を得るための方法としては、上記の3回の拡散処理を施す方法に制限されるものではなく、拡散の回数や拡散元素、更には後述する拡散条件等は適宜変更することができ、結果的に上記多重レイヤーを有する複層主相粒子が形成されるものであれば、いずれの方法、条件をも採用し得る。
【0026】
この複層主相粒子について説明すると、金属組織的に著しい特徴としては特に磁石表面近傍における主相結晶粒の少なくとも一部に化合物中の希土類濃度だけが異なる複数の層が存在しており、この複数層は、結晶粒中央部と比較して原子%で表されるR2濃度が高いレイヤー1、その外郭にレイヤー1よりもR2濃度が低いレイヤー2、さらにその外郭にレイヤー2よりもR2濃度が高いレイヤー3の少なくとも三層を含む多重レイヤーである。この場合、これらレイヤー1~3の濃度変化は、特に制限されるものではないが、例えば粒子の中心部からレイヤー1、レイヤー2、レイヤー3へと、上記R2濃度が増加又は減少のいずれの場合も原子%で1%/nm以下の変化率で変化することが好ましく、より好ましい変化率は0.5%/nm以下である。なお、各レイヤー内においては変化率が0%/nmの部分が含まれていてもよい。
【0027】
上記レイヤー1~3の厚さは、特に限定されるものではないが、それぞれ0.02~1.5μmであることが好ましく、より好ましくは0.05~1μmであり、より詳細にはレイヤー1では0.1~1μm、レイヤー2では0.05~0.5μm、レイヤー3では0.05~0.5μmであることが好ましい。
【0028】
また、各レイヤーのR2濃度の濃度差は、特に制限されるものではないが、以下の条件を満足する濃度差とすることが好ましい。即ち、上記レイヤー1、レイヤー2、レイヤー3のR2濃度から、粒子中心部の平均R2濃度を差し引いた値をそれぞれ原子%でC1、C2、C3とし、C1の最大値をC1max、C2の最小値をC2min、C3の最大値をC3max、C1maxとC3maxとでより小さい値をCmaxとしたとき、C1maxは0.5%以上8%以下、C2minはCmaxの70%以下、C3maxは0.5%以上8%以下とすることができ、また、C1は(C2min+Cmax)/2<C1≦C1maxを、C2はC2min≦C2≦(C2min+Cmax)/2を、C3は(C2min+Cmax)/2<C3≦C3maxをそれぞれ満たす範囲とすることが好ましい。なお、レイヤー1とレイヤー3とは、同程度のR2濃度であっても、いずれかがより高いR2濃度であってもよい。
【0029】
ここで、母材作製時に二合金法を適用した場合には主相粒子には二合金法独特なコアシェル構造ができる。この場合のコアとシェルは化合物中の希土類濃度だけが異なるだけという点では上記レイヤー1~3と類似しているが、粒界拡散法とは異なり,拡散処理温度より高い焼結温度にてR2を拡散させるためにシェルの厚さは通常0.5~1μm以上と上記レイヤーと比較しても厚く、また濃度差も上記レイヤーよりは低いために走査型電顕における反射電子像、あるいはEDSによる組成像により上記レイヤーとは異なる形態であることが容易に判別できる。すなわち、上記三重レイヤーは、結晶粒中央部と比較して上記R2濃度がわずかに高いシェル部の外郭に更にR2濃度が高いレイヤー1、該レイヤー1よりもR2濃度が低いレイヤー2、該レイヤー2よりもR2濃度が高いレイヤー3の三層を有するものである。
【0030】
なお、本発明焼結磁石の主相粒子であるNd2Fe14B型結晶相は、正方晶構造をとる粒子であり、好ましくは平均結晶粒径が2~15μm、より好ましくは2.2~8μmである。この主相粒子の平均結晶粒径が2μm未満であると配向が乱れやすくなって残留磁束密度が低くなる場合があり、一方15μmを超えると保磁力が低くなるなどの不都合を生じることがある。また、この主相粒子の内、上記多重レイヤーを有する複層主相粒子は、少なくとも焼結磁石体表面から500μm以内に存在していればよい。
【0031】
更に、本発明の希土類焼結磁石は、焼結磁石体表面より少なくとも500μm以内において、主相粒子三個以上に取り囲まれた三重点に存在する角部を有しない形状のR1、R2の(R1、R2は上記と同様)の酸化物粒子の少なくとも一部が、原子%で表されるR2濃度が、該粒子の中心部よりも高いレイヤーAと、その外郭に形成された該レイヤーAよりも前記R2濃度が低いレイヤーBと、さらにその外郭に形成された該レイヤーBよりも前記R2濃度が高いレイヤーCとを含む多重のレイヤーを有する複層酸化物粒子であることが好ましい。このような多重レイヤー構造を有する複層酸化物粒子は、上記複数回の拡散処理によって形成することが可能である。なお、このレイヤーA~Cも上記複層主相粒子の場合と同様にR2濃度が増加又は減少のいずれの場合でも原子%で1%/nm以下の変化率で変化するものであることが好ましく、より好ましい変化率は0.5%/nm以下である。なお、各レイヤー内においては変化率が0%/nmの部分が含まれていてもよい。
【0032】
このレイヤーA~Cの厚さは、特に限定されるものではないが、それぞれ0.05~1μmであることが好ましく、より好ましくは0.1~0.8μmであり、より詳細にはレイヤーAでは0.1~0.5μm、レイヤーBでは0.1~0.8μm、レイヤーCでは0.1~0.5μmであることが好ましい。
【0033】
また、各レイヤーのR2濃度の濃度差は、特に制限されるものではないが、以下の条件を満足する濃度差とすることが好ましい。即ち、上記レイヤーA、レイヤーB、レイヤーCのR2濃度から、粒子中心部の平均R2濃度を差し引いた値をそれぞれ原子%でXA、XB、XCとし、XAの最大値をXAmax、XBの最小値をXBmin、XCの最大値をXCmax、XAmaxとXCmaxとでより小さい値をXmaxとしたとき、XAmaxは1%以上20%以下、XBminはXmaxの70%以下、XCmaxは1%以上20%以下とすることができ、XAは(XBmin+Xmax)/2<XA≦XAmaxを、XBはXBmin≦XB≦(XBmin+Xmax)/2をXCは(XBmin+Xmax)/2<XC≦XCmaxをそれぞれ満たす範囲とすることが好ましい。なお、レイヤーAとレイヤーCとは、同程度のR2濃度であっても、いずれかがより高いR2濃度であってもよい。
【0034】
このような、主相粒子における多重レイヤーを有し、更には酸化物粒子においても多重レイヤーを有する焼結磁石が、従来の粒界拡散磁石よりも高い保磁力を示す理由については明らかではないが、このような組織形態を有する磁石体では主相粒子表面におけるR2濃度が従来の拡散処理によるR2濃度より高くなっているためと推察される。
【0035】
上述のように、粒界拡散処理は、焼結磁石表面に上記R2、R3、あるいはこれらを含む物質を存在させ、熱処理を施すものであるが、この場合に焼結磁石表面にR2、R3、あるいはこれらを含む物質(拡散材料)を存在させる方法としては、拡散材料を粉末状にして磁石体表面にコーティングする、拡散材料をPVDやCVDにより磁石体表面にコーティングする、拡散材料を蒸気化してこれを磁石体表面に接触させる等の方法が採用される。より具体的には、R2又はR3の酸化物、フッ化物、酸フッ化物、水素化物、水酸化物等の化合物の粉末、R2又はR3の粉末、R2又はR3を含む合金粉末、あるいはR2又はR3のスパッタ膜や蒸着膜、R2又はR3を含む合金のスパッタ膜や蒸着膜を磁石体表面にコーティングさせる、R2又はR3のフッ化物と水素化カルシウム等の還元剤を混合して付着させる方法などが挙げられ、いずれの手法でも適用可能である。また、高温で飽和蒸気圧の高いDyやSm、あるいはそれらの合金を減圧下で熱処理することでDyやSmを蒸気として磁石体に付着させるなどの方法(以後、蒸気拡散と称する)も好適に採用できる。
【0036】
上記拡散処理において、結晶粒子表層部に濃化して結晶磁気異方性を高める効果はDy、Tbが大きく寄与することから、1回目あるいは最終回での拡散処理における拡散材料中のDy及び/又はTbの全希土類成分中の割合を、50原子%以上とすることが好ましく、より好ましくは70原子%以上、更に好ましくは90原子%以上である。また、拡散材料中のNd及び/又はPrの全希土類成分中の割合は、母材である異方性焼結体に含まれているNd及び/又はPrの全希土類成分中の割合より低いことが好ましい。一方、繰り返される拡散処理の中間における拡散材料についてはNd及び/又はPrの含有量は、50原子%以上が好ましく、より好ましくは70原子%以上、更に好ましくは90原子%以上である。なお、拡散処理によって磁石中に取り込まれるDy又はTbの量は、おおよそ0.01~1原子%程度である。
【0037】
ここで、本発明希土類焼結磁石の組成R1
aR2
bTcMdBeにおいて、R2のDy、Tbから選ばれる1種又は2種は、すべてが上記拡散処理によって磁石内に取り込まれたものであってもよく、また母合金にもR2が含まれており、拡散処理によって取り込まれたDy、Tb又はその両方がR2の一部を構成するものであってもよい。例えば、R2として少なくともTbを含有しない母合金にTbを拡散させることにより、拡散により導入されたTbが希土類焼結磁石の組成R1
aR2
bTcMdBeにおけるR2の少なくとも一部又は全部を構成する態様や、R2として少なくともDyを含有しない母合金にDyを拡散させることにより、拡散により導入されたDyが希土類焼結磁石の組成R1
aR2
bTcMdBeにおけるR2の少なくとも一部又は全部を構成する態様などを本発明は含んでいる。
【0038】
拡散材料を磁石体表面に存在させて拡散のための熱処理を施す場合、蒸気拡散以外の方法において磁石体は真空あるいはアルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中で熱処理される。また蒸気拡散においては拡散源となる蒸気の量を制御するため、所定の圧力が設定される。拡散処理温度は磁石体の焼結温度以下とされる。即ち、当該焼結磁石の焼結温度(以下、TS℃と称する)より高い温度で処理すると、(1)焼結磁石の組織が変質し、高い磁気特性が得られなくなる、(2)熱変形により加工寸法が維持できなくなる、(3)拡散させたRが磁石の結晶粒界面だけでなく内部にまで拡散してしまい残留磁束密度が低下する等の問題が生じるために、処理温度は焼結温度以下、好ましくは(TS-10)℃以下とする。なお、温度の下限は適宜選定されるが、通常600℃以上である。吸収処理時間は1分~100時間である。1分未満では吸収処理が完了せず、100時間を超えると、焼結磁石の組織が変質する、不可避的な酸化や成分の蒸発が磁気特性に悪い影響を与えるといった問題が生じ易い。より好ましくは30分~50時間、特に1時間~30時間である。
【0039】
本発明の焼結磁石体を得るために拡散処理を複数回繰り返すことが好適であることは上述のとおりであるが、その際に拡散元素種だけでなく熱処理条件を変化させることも有効である。具体的には、例えば拡散処理を繰り返す毎に処理温度は低く,処理時間は長くすることで、本発明磁石をより効率的に製造することが可能となる。
【0040】
以上のような拡散処理により、磁石内のNdに富む粒界相成分に、Dy及び/又はTbが濃化し、このDy及び/又はTbがR2Fe14B主相粒子の表層部付近で置換され、上述した多重レイヤーが主相粒子の少なくとも一部に形成され、焼結磁石の表面から少なくとも500μm以内の範囲、好ましくは800μm以内の範囲に上記多重レイヤーを有する複層主相粒子を存在させることができる。その結果、残留磁束密度の低減をほとんど伴わずにR-Fe-B系焼結磁石の保磁力が効率的に増大され、しかも効率的に磁力性能を向上されることができるので、Tb及び/又はDyの使用量も削減することができる。
【0041】
本発明の希土類焼結磁石には、特に制限されるものではないが、上記拡散処理後に低温での熱処理(以下、この処理を時効処理と称する)を施すことが好ましい。この時効処理の処理温度は、上記拡散処理の処理温度未満、好ましくは200℃以上で拡散処理温度より10℃低い温度以下、更に好ましくは350℃以上で拡散処理温度より10℃低い温度以下であることが望ましい。また、その雰囲気は真空あるいはAr、He等の不活性ガス中であることが好ましい。時効処理の時間は1分~10時間、好ましくは10分~5時間、特に30分~2時間である。
【0042】
なお、拡散処理前の上述した研削加工時において、研削加工機の冷却液に水系のものを用いた場合、あるいは加工時に研削面が高温に曝される場合、被研削面に酸化膜が生じ易く、この酸化膜が磁石体へのDy/Tbの吸収反応を妨げることがある。このような場合には、アルカリ、酸あるいは有機溶剤のいずれか1種以上を用いて洗浄するか、あるいはショットブラストを施して、その酸化膜を除去することで適切な吸収処理を行うことができる。アルカリとしては、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸ナトリウム等、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、クエン酸、酒石酸等、有機溶剤としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを使用することができる。この場合、上記アルカリや酸は、磁石体を浸食しない適宜濃度の水溶液として使用することができる。
【0043】
また、上記拡散処理あるいはそれに続く時効処理を施した磁石に対して、アルカリ、酸あるいは有機溶剤のいずれか1種以上により洗浄する、あるいは実用形状に研削することもできる。更には、かかる拡散処理、時効処理、洗浄又は研削後にメッキ又は塗装を施すこともできる。
【0044】
以上のようにして得られた永久磁石材料は、保磁力の増大した高性能な永久磁石として用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例と比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0046】
[実施例1及び比較例1、2]
Ndが14.5原子%、Coが2.0原子%、Alが0.5原子%、Cuが0.2原子%、Bが6.1原子%、Feが残部からなる薄板状の合金を、純度99質量%以上のNd、Co、Al、Fe、Cuメタルとフェロボロンを用いてAr雰囲気中で高周波溶解した後、銅製単ロールに注湯するストリップキャスト法により得た。この合金を室温にて0.11MPaの水素下に曝して水素を吸蔵させた後、真空排気を行いながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させ、冷却してから篩にかけ、50メッシュ以下の粗粉末とした。
【0047】
続いて、上記粗粉末を、高圧窒素ガスを用いたジェットミルにて、粉末の質量中位粒径3.5μmに微粉砕した。得られた微粉末を窒素雰囲気下1.2MA/mの磁界中で配向させながら、約100MPaの圧力でブロック状に成形した。次いで、この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1,060℃で2時間焼結して焼結磁石ブロックを作製した。この焼結磁石ブロックをダイヤモンドカッターにより10×10×厚み(配向方向)3mm寸法に全面研削加工した後、アルカリ溶液、純水、硝酸、純水の順で洗浄・乾燥して焼結磁石体を得た。
【0048】
次いで、フッ化テルビウム粉末を重量分率50%でエタノールと混合した混濁液に、超音波を印加しながら上記焼結磁石体を30秒間浸した。なお、フッ化テルビウム粉末の平均粒子径は5μmであった。引き上げた磁石体を真空デシケータに入れ、室温にてロータリーポンプによる排気雰囲気下で30分間乾燥させた。その後、このフッ化テルビウムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中900℃で3時間という条件で1回目の拡散処理を施した。
【0049】
炉から取り出した磁石を、フッ化ネオジム粉末を重量分率50%でエタノールと混合した混濁液に超音波を印加しながら30秒間浸した。なお、フッ化ネオジム粉末の平均粒子径は3μmであった。引き上げた磁石を真空デシケータに入れ、室温にてロータリーポンプによる排気雰囲気下で30分間乾燥させた。その後、このフッ化ネオジムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中850℃で5時間という条件で2回目の拡散処理を施した。
【0050】
更に、炉から取り出した磁石を、上記1回目の拡散処理で使用したフッ化テルビウム粉末とエタノールの混濁液に超音波を印加しながら30秒間浸した。引き上げた磁石を真空デシケータにいれ、室温にてロータリーポンプによる排気雰囲気下で30分間乾燥させた。その後、このフッ化テルビウムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中800℃で15時間という条件で3回目の拡散処理を施した。
【0051】
上記3回の拡散処理した磁石体に対し、さらに真空中500℃で1時間熱処理して急冷する時効処理を施し、本発明の焼結磁石体を得た。これを磁石体M1(実施例1)とする。比較のために拡散処理なしで時効処理のみを施した磁石体P1(比較例1)と、1回目の拡散処理と時効処理のみを施した磁石体C1(比較例2)も作製した。
【0052】
M1およびC1の磁石体の表面から100μm内部における走査電子顕微鏡写真(反射電子像)を
図1に示す。粒界拡散処理を施したM1およびC1では一部の結晶粒で外殻部近傍にコントラストの明るいレイヤーが観察される。これはR
2Fe
14B結晶粒の表層部の一部においてRの一部がTbに置換したことによる。磁石体
M1について
図1とは別の視野の走査電子顕微鏡写真と写真内に記された線分ABにおけるTbの濃度プロファイルを
図2に示す。なお、Tb濃度プロファイルの測定にはTEM-EDSを用い、その時の試料片は、電子線の照射方向と二粒子間粒界における界面の試料片厚さ方向が平行となるように試料片を回転させた。
図2のとおり、M1においては主相粒子内部中心側ではTbは存在しておらず、外郭に向かってTb濃度の高い層、それよりもTb濃度が低い層、最も外郭側に再びTb濃度の高い層の存在が認められる。線分AB上の二粒子間粒界との交点をCとすると、線分BCが含まれる写真右側(B側)の粒子におけるTb濃度プロファイルは本発明における多重(本例では三重)のレイヤーに対応している。すなわち、粒界側からTb濃度の高い領域があり、続いて極小をとる形でTb濃度の低い領域がある。さらに極大をとる形でその内側にTb濃度の高い領域が認められる。この
図2(B)に示された濃度プロファイルのとおり、この三重のレイヤーは、Tb濃度が増加又は減少のいずれの場合も、原子%で1%/nm以下の変化率でTb濃度が変化していることが分かる。
【0053】
一方、線分ACが含まれる写真左側(A側)の粒子における濃度プロファイルは、
図2(B)に示されているように粒子表面から単調に減少しており、従来の粒界拡散処理後の磁石体によく観察される一般的な濃度プロファイルである。
図2に示されるように、本発明による磁石では、上述の三重レイヤーが認められる領域と二粒子間粒界を介して対向する別の粒子の領域では三重レイヤーが存在しているという形態は観察されなかった。
【0054】
さらに、磁石体M1の三重点における酸化物相を観察すると、
図3に示したように、従来の磁石或いは従来の粒界拡散処理した磁石では全く観察されないユニークな濃度プロファイルが認められた。
図3に、磁石体の表面から300μm内部において観察された、酸化物粒子の透過電子顕微鏡写真(
図3(A))と写真内の線分DEにおけるTb濃度プロファイル(
図3(B))を示す。
図3(A)のとおり、M1磁石内部の三重点に存在する酸化物相は、角部のない滑らかな形状を呈しており、その中心部から外郭に向かってTb濃度の高いレイヤーA、それよりもTb濃度が低いレイヤーB、さらに最も外郭側に再びTb濃度の高いレイヤーCからなる多重(本例では三重)のレイヤーの存在が認められる。この
図3(B)に示された濃度プロファイルのとおり、この三重のレイヤーA~Cは、Tb濃度が増加又は減少のいずれの場合も、原子%で1%/nm以下の変化率でTb濃度が変化していることが分かる。
【0055】
また、上記磁石体M1、P1およびC1の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、(BH)max)を測定した。結果を表1に示す。表1のとおり、拡散処理を施していない磁石(P1)の保磁力に対して本発明による磁石M1は950kAm-1の保磁力増大が認められる。また、残留磁束密度の低下は5mTであり、(BH)maxの低下もほとんどなかった。従来の拡散処理を施した磁石C1の保磁力増大効果は750kAm-1であり、本発明の保磁力増大量には及ばないことがわかる。
【0056】
[実施例2及び比較例3、4]
Ndが13.5原子%、Dyが1.0原子%、Coが3.0原子%、Alが0.5原子%、Cuが0.2原子%、Zrが0.1原子%、Bが6.0原子%、Feが残部からなる薄板状の合金を、純度99質量%以上のNd、Dy、Co、Al、Fe、Cu、Zrメタルとフェロボロンを用いてAr雰囲気中で高周波溶解した後、銅製単ロールに注湯するストリップキャスト法により得た。この合金を室温にて0.11MPaの水素下に曝して水素を吸蔵させた後、真空排気を行いながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させ、冷却してから篩にかけ、50メッシュ以下の粗粉末とした。
【0057】
続いて、上記粗粉末を、高圧窒素ガスを用いたジェットミルにて、粉末の質量中位粒径3.0μmに微粉砕した。得られた微粉末を窒素雰囲気下1.2MA/mの磁界中で配向させながら、約100MPaの圧力でブロック状に成形した。次いで、この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1,040℃で2時間焼結して焼結磁石ブロックを作製した。この焼結磁石ブロックをダイヤモンドカッターにより12×12×厚み(配向方向)5mm寸法に全面研削加工した後、アルカリ溶液、純水、硝酸、純水の順で洗浄・乾燥して焼結磁石体を得た。
【0058】
次いで、酸化テルビウム粉末を重量分率50%でエタノールと混合した混濁液に、超音波を印加しながら上記焼結磁石体を30秒間浸した。なお、酸化テルビウム粉末の平均粒子径は0.3μmであった。引き上げた磁石体をドライヤの熱風により約1分間乾燥させた。その後、この酸化テルビウムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中920℃で10時間という条件で1回目の拡散処理を施した。
【0059】
炉から取り出した磁石を、フッ化ネオジム粉末を重量分率50%でエタノールと混合した混濁液に超音波を印加しながら30秒間浸した。なお、フッ化ネオジム粉末の平均粒子径は3μmであった。引き上げた磁石をドライヤの熱風により約1分間乾燥させた。その後、このフッ化ネオジムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中850℃で10時間という条件で2回目の拡散処理を施した。
【0060】
更に、炉から取り出した磁石を、フッ化テルビウム粉末を重量分率50%でエタノールと混合した混濁液に超音波を印加しながら磁石体を30秒間浸した。なお、フッ化テルビウム粉末の平均粒子径は5μmであった。引き上げた磁石をドライヤの熱風により約1分間乾燥させた。その後、このフッ化テルビウムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中800℃で20時間という条件で3回目の拡散処理を施した。
【0061】
上記3回の拡散処理した磁石体に対し、さらに真空中500℃で1時間熱処理して急冷する時効処理を施し、本発明の焼結磁石体を得た。これを磁石体M2(実施例2)とする。比較のために拡散処理なしで時効処理のみを施した磁石体P2(比較例3)と、1回目の拡散処理と時効処理のみを施した磁石体C2(比較例4)も作製した。
【0062】
M2の磁石体の表面から100μm内部における走査電子顕微鏡写真(反射電子像)と写真内に記された線分FGにおけるTbの濃度プロファイルをそれぞれ
図4(A)、
図4(B)に示す。なお、Tb濃度プロファイルの測定は実施例1と同様である。
図4のとおり、M2においては主相粒子内部中心側ではTbは存在しておらず,外郭に向かってTb濃度の高い層、それよりもTb濃度が低い層、最も外郭側に再びTb濃度の高い層の存在が認められ、線分FG上の二粒子間粒界との交点をHとすると、線分FHが含まれる写真左側の粒子におけるTb濃度プロファイルは実施例1と同様に本発明の多重(本例では三重)のレイヤーに対応している。
【0063】
また、上記磁石体M2、P2およびC2の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、(BH)max)を測定した。結果を表1に示す。表1のとおり、拡散処理を施していない磁石(P2)の保磁力に対して本発明による磁石M2は850kAm-1の保磁力増大が認められる。また、残留磁束密度の低下は3mTであり、(BH)maxの低下もほとんどなかった。従来の拡散処理を施した磁石C1の保磁力増大効果は750kAm-1であり、本発明の保磁力増大量には及ばないことがわかる。
【0064】
[実施例3及び比較例5、6]
Ndが13.5原子%、Tbが0.5原子%、Coが1.0原子%、Alが0.2原子%、Cuが0.2原子%、Zrが0.1原子%、Gaが0.1原子%、Bが5.8原子%、Feが残部からなる薄板状の合金を、純度99質量%以上のNd、Dy、Co、Al、Fe、Cu、Zr、Gaメタルとフェロボロンを用いてAr雰囲気中で高周波溶解した後、銅製単ロールに注湯するストリップキャスト法により得た。この合金を室温にて0.11MPaの水素下に曝して水素を吸蔵させた後、真空排気を行いながら500℃まで加熱して部分的に水素を放出させ、冷却してから篩にかけ、50メッシュ以下の粗粉末とした。
【0065】
続いて、上記粗粉末を、高圧窒素ガスを用いたジェットミルにて、粉末の質量中位粒径2.5μmに微粉砕した。得られた微粉末を窒素雰囲気下1.2MA/mの磁界中で配向させながら、約100MPaの圧力でブロック状に成形した。次いで、この成形体をAr雰囲気の焼結炉内に投入し、1,030℃で2時間焼結して焼結磁石ブロックを作製した。焼結磁石ブロックをダイヤモンドカッターにより7×7×厚み(配向方向)6mm寸法に全面研削加工した後、アルカリ溶液、純水、硝酸、純水の順で洗浄・乾燥して焼結磁石体を得た。
【0066】
次いで、酸化ジスプロシウム粉末を重量分率50%で純水と混合した混濁液に、超音波を印加しながら上記焼結磁石体を30秒間浸した。なお、酸化ジスプロシウム粉末の平均粒子径は0.25μmであった。引き上げた磁石をドライヤの熱風により約2分間乾燥させた。その後、この酸化ジスプロシウムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中850℃で20時間という条件で1回目の拡散処理を施した。
【0067】
炉から取り出した磁石を、水酸化ネオジム粉末を重量分率50%で純水と混合した混濁液に超音波を印加しながら30秒間浸した。なお、水酸化ネオジム粉末の平均粒子径は0.4μmであった。引き上げた磁石をドライヤの熱風により約2分間乾燥させた。その後、この水酸化ネオジムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中800℃で20時間という条件で2回目の拡散処理を施した。
【0068】
更に、炉から取り出した磁石を、上記1回目の拡散処理で使用した酸化ジスプロシウムと純水の混濁液に超音波を印加しながら30秒間浸した。引き上げた磁石をドライヤの熱風により約2分間乾燥させた。その後、この酸化ジスプロシウムにより覆われた磁石体に対し、Ar雰囲気中800℃で30時間という条件で3回目の拡散処理を施した。
【0069】
上記3回の拡散処理した磁石体に対し、さらに真空中500℃で1時間熱処理して急冷する時効処理を施し、本発明の焼結磁石体を得た。これを磁石体M3(実施例3)とする。比較のために拡散処理なしで時効処理のみを施した磁石体P3(比較例5)と1回目の拡散処理と時効処理のみを施した磁石体C3(比較例6)も作製した。
【0070】
M3の磁石体の表面から100μm内部における走査電子顕微鏡写真(反射電子像)と写真内に記された線分IJにおけるDyの濃度プロファイルをそれぞれ
図5(A)、
図5(B)に示す。なお、Dy濃度プロファイルの測定は実施例1と同様である。
図5のとおり、M3においては主相粒子内部中心側ではDyは存在しておらず、外郭に向かってDy濃度の高い層、それよりもDy濃度が低い層、最も外郭側に再びDy濃度の高い層の存在が認められ、線分IJ上の二粒子間粒界との交点をKとすると、線分JKが含まれる写真右側の粒子におけるDy濃度プロファイルは、実施例1、2のTb濃度プロファイルと同様に、本発明の多重(本例では三重)のレイヤーに対応している。
【0071】
また、上記磁石体M3、P3およびC3の磁気特性(保磁力、残留磁束密度、(BH)max)を測定した。結果を表1に示す。表1のとおり、拡散処理を施していない磁石(P3)の保磁力に対して本発明による磁石体M3は620kAm-1の保磁力増大が認められる。なお、実施例1及び2ではTbを拡散させているのに対し、本例ではDyを拡散させているために保磁力増大量そのものは実施例1、2よりも小さくなっている。また、残留磁束密度の低下は7mTであり、(BH)maxの低下もほとんどなかった。従来の拡散処理を施した磁石C3の保磁力増大効果は410kAm-1であり、本発明の保磁力増大量には及ばないことがわかる。
【0072】
以上、実施例1~3及び比較例1~6の結果から明らかなように、主相粒子における多重レイヤー、更には酸化物相においても多重レイヤーを有する本発明の希土類焼結磁石は、高い磁気特性を発現することができ、本発明によれば、高性能で、かつTbやDyの使用量を削減することが可能なR-Fe-B系焼結磁石が得られることが確認された。
【0073】