(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】力率改善回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
H02M7/12 Q
H02M7/12 A
(21)【出願番号】P 2018189380
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】勝又 洋樹
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-114993(JP,A)
【文献】特開2000-295771(JP,A)
【文献】特開平10-014237(JP,A)
【文献】特開2001-339937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0026766(US,A1)
【文献】鎌田浄他2名,”小容量リニアアンプとLCフィルタを用いた低歪みスイッチング電力増幅器の提案”,電気論D,第127巻第5号,2007年,pp.457-464
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
H02M 1/15
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源から出力される交流電圧を直流電圧に変換すると共に力率を改善する力率改善回路であって、
前記交流電源から出力される交流電圧を整流する整流回路と、
前記整流回路と直列に接続されるインダクタと、
前記整流回路と前記インダクタとの間に接続されるコンデンサと、
前記インダクタに流れる電流を検出し、検出した電流の値を示す電流情報を出力する電流検出回路と、
前記コンデンサと直列に接続され、特定の電圧を出力する電圧出力部と、
前記電流情報に基づき、前記電圧出力部が出力する電圧を制御する電圧制御部と、
を備え
、
前記電圧制御部は、
前記電流情報の特定の周波数域を通過させるバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタの出力を積分する積分部と、
前記積分部の出力の低周波数域を除去するハイパスフィルタと、
を備える力率改善回路。
【請求項2】
交流電源から出力される交流電圧を直流電圧に変換すると共に力率を改善する力率改善回路であって、
前記交流電源から出力される交流電圧を整流する整流回路と、
前記整流回路と直列に接続されるインダクタと、
前記整流回路と前記インダクタとの間に接続されるコンデンサと、
前記インダクタに流れる電流を検出し、検出した電流の値を示す電流情報を出力する電流検出回路と、
前記コンデンサと直列に接続され、特定の電圧を出力する電圧出力部と、
前記力率改善回路の出力電圧を特定の値に制御する電流指令と前記電流情報に基づき、前記電圧出力部が出力する電圧を制御する電圧制御部と、
を備え
、
前記電圧制御部は、
前記電流情報から前記電流指令を減じる減算部と、
前記減算部の出力を積分する積分部と、
前記積分部の出力の低周波数域を除去するハイパスフィルタと、
を備える力率改善回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源から出力される交流電圧を直流電圧に変換すると共に力率を改善する力率改善回路に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、インバータ回路から発生するノイズを低減する技術が開示されている。非特許文献1に開示されるインバータ回路は、インダクタと、インダクタと直列に接続されるフィルタキャパシタと、フィルタキャパシタと直列に接続されるリニアアンプとを備える。インダクタ、フィルタキャパシタ及びリニアアンプは、高周波ノイズを低減するノイズフィルタを構成する。リニアアンプは、2つのバンドパスフィルタ(BPF)1,バンドパスフィルタ(BPF)2と、フィルタキャパシタに流れる電流を検出する電流検出回路で検出された電流icを用いてvz/ic=Z(s)となる電圧を出力する電圧出力部とを備える。リニアアンプは、BPF1の特定周波数成分fbpf1を抽出し、抽出した特定周波数成分fbpf1に対して比例演算を行うことによって、抵抗動作指令値を生成する。またリニアアンプは、BPF2の特定周波数成分fbpf2を抽出し、抽出した特定周波数成分fbpf2に対して積分演算を行うことによって、コンデンサ動作指令値を生成する。特定周波数成分fbpf1は等価的に抵抗Rzと見なすことができるため、ノイズフィルタのLC共振を低減するダンピング抵抗として作用する。特定周波数成分fbpf2は等価的にコンデンサCzと見なすことができるため、Czを負数に設定することによってフィルタキャパシタCとコンデンサCzが直列接続されることで得られる合成容量値を大きくできる。従って、ノイズフィルタのノイズ減衰性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】鎌田浄、船渡寛人、小笠原悟司、「小容量リニアアンプとLCフィルタを用いた低歪みスイッチング電力増幅器の提案」、電気論D、127巻、5号、pp.457-464(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に開示される従来技術では、フィルタキャパシタに流れる電流を検出する電流検出回路がノイズフィルタに設けられているため、この電流検出回路が設けられる分だけノイズフィルタが大型化し、ノイズフィルタを備える力率改善回路の小型化の妨げになるという課題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ノイズを低減しながら小型化できる力率改善回路を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る力率改善回路は、交流電源から出力される交流電圧を直流電圧に変換すると共に力率を改善する力率改善回路であって、交流電源から出力される交流電圧を整流する整流回路と、整流回路と直列に接続されるインダクタと、整流回路とインダクタとの間に接続されるコンデンサと、インダクタに流れる電流を検出し、検出した電流の値を示す電流情報を出力する電流検出回路と、コンデンサと直列に接続され、特定の電圧を出力する電圧出力部と、電流情報に基づき、電圧出力部が出力する電圧を制御する電圧制御部と、を備え、前記電圧制御部は、前記電流情報の特定の周波数域を通過させるバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタの出力を積分する積分部と、前記積分部の出力の低周波数域を除去するハイパスフィルタと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ノイズを低減しながら小型化できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る力率改善回路の構成図
【
図5】入力電流の波形とインダクタに流れる電流の波形を示す図
【
図6】第1平滑コンデンサに流れる電流の波形を示す図
【
図7】実施の形態1に係る力率改善回路の効果を説明するための図
【
図9】本発明の実施の形態2に係る力率改善回路の構成図
【
図10】実施の形態2に係るノイズ低減回路の構成図
【
図11】入力電流の波形とインダクタに流れる電流の波形を示す図
【
図12】
図10に示される電圧制御部の減算部から出力される電流の波形を示す図
【
図13】実施の形態2に係る力率改善回路の効果を説明するための図
【
図14】HPFのカットオフ周波数が変動した場合の伝導ノイズの解析結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態に係る力率改善回路を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る力率改善回路の構成図である。力率改善回路100-1は、ノイズフィルタ1、整流回路2、第1平滑コンデンサ3、インダクタ4、電流検出回路5、ダイオード6、スイッチング素子7、第2平滑コンデンサ8、入力電圧検出回路10、駆動回路11、出力電圧検出回路12及び力率改善制御回路13を備える。
【0011】
ノイズフィルタ1は、交流電源200と整流回路2との間に設けられ、交流電源200側に漏洩するノイズを低減する回路である。整流回路2は、例えば交流電源200から出力される交流電圧を全波整流して出力する回路である。整流回路2は、4つのダイオードを組み合わせたダイオードブリッジで構成される。なお整流回路2は、ダイオードブリッジに限定されず、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor)を組み合わせて構成してもよい。整流回路2の正極側端子は、インダクタ4の一端に接続されると共に、第1平滑コンデンサ3の一端に接続される。整流回路2の負極側端子は、負極側母線Nに接続される。
【0012】
第1平滑コンデンサ3の他端は、ノイズ低減回路9-1に接続される。ノイズ低減回路9-1の構成の詳細は後述する。インダクタ4の他端は、ダイオード6のアノードに接続される。インダクタ4とダイオード6との間には電流検出回路5が設けられる。電流検出回路5は例えばCT(Current Transformer)である。電流検出回路5は、インダクタ4に流れる電流を検出し、検出した電流の値を示す電流情報として出力する。電流情報は、ノイズ低減回路9-1及び力率改善制御回路13に入力される。
図1に示される「IL」は、インダクタ4に流れる電流を表す。
【0013】
インダクタ4とダイオード6とには、スイッチング素子7が接続される。スイッチング素子7は、インダクタ4にエネルギーを蓄積させ又はインダクタ4に蓄積されたエネルギーを放出させるためにスイッチング動作を行うスイッチ手段であり、例えばNチャネル型のMOSFETである。MOSFETのドレインは、インダクタ4の他端とダイオード6のアノードとに接続される。MOSFETのソースは負極側母線Nに接続される。MOSFETのゲートは、駆動回路11に接続される。MOSFETのゲートには、駆動回路11から出力される駆動信号が入力される。駆動信号は、力率改善制御回路13で生成されるPWM(Pulse Width Modulation)信号がスイッチング素子7の駆動可能な電圧に増幅された信号である。なおスイッチング素子7はMOSFETに限定されず、スイッチング動作可能なものであればよく、バイポーラトランジスタ、FET(Field Effect Transistor)などでもよい。
【0014】
ダイオード6のカソードは、正極側母線Pを介して、第2平滑コンデンサ8の一端と負荷300の一端とに接続される。第2平滑コンデンサ8の他端は、負極側母線Nを介して、整流回路2の負極側端子と、ノイズ低減回路9-1と、スイッチング素子7のソースと、負荷300の他端とに接続される。ダイオード6は、第2平滑コンデンサ8に蓄積されたエネルギーが放出されたときに流れる電流が整流回路2に流れることを防止する。
【0015】
入力電圧検出回路10は、整流回路2の入力側に印加される電圧を検出し、検出した電圧の値を示す電圧情報として出力する。入力電圧検出回路10から出力される電圧情報は力率改善制御回路13に入力される。
図1に示される「Vin」は、整流回路2に印加される電圧を表す。出力電圧検出回路12は、第2平滑コンデンサ8の両端に印加される電圧を検出し、検出した電圧の値を示す電圧情報として出力する。出力電圧検出回路12から出力される電圧情報は力率改善制御回路13に入力される。
図1に示される「Vd」は、第2平滑コンデンサ8に印加される電圧を表す。
【0016】
力率改善制御回路13は、入力電圧検出回路10から出力される電圧情報と、出力電圧検出回路12から出力される電圧情報と、電流検出回路5から出力される電流情報とに基づき、スイッチング素子7をスイッチング動作するためのPWM信号を生成する。PWM信号を生成するための構成については公知のため説明を割愛する。
【0017】
力率改善回路100-1では、インダクタ4、スイッチング素子7及びコンデンサにより、整流回路2の出力電圧を昇圧するチョッパ回路が構成され、チョッパ回路で昇圧される電圧は、第2平滑コンデンサ8で平滑されて、負荷300に印加される。
【0018】
次にノイズ低減回路9-1の構成を説明する。
図2は
図1に示されるノイズ低減回路の構成図である。ノイズ低減回路9-1は、電圧出力部92と、電圧出力部92の出力電圧を制御する電圧制御部91-1とを備える。
【0019】
電圧出力部92は、
図1に示される第1平滑コンデンサ3と直列に接続され、特定の電圧を出力することによってコンデンサと直列に接続されるインピーダンスを模擬するための電圧Vcmpを出力する。電圧制御部91-1は、電流情報の特定の周波数域を通過させるバンドパスフィルタ(BPF)91aと、バンドパスフィルタ91aの出力を積分する積分部91bとを備える。
【0020】
バンドパスフィルタ91aは、非特許文献1に開示されるリニアアンプのバンドパスフィルタ2に相当する。積分部91bは、非特許文献1に開示されるリニアアンプの積分部Iに相当する。非特許文献1との相違点は、非特許文献1の従来技術ではフィルタキャパシタCに流れる電流icを検出する電流検出回路から出力される電流情報がバンドパスフィルタ2に入力されるのに対して、実施の形態1に係る電圧制御部91-1では、インダクタ4に流れる電流ILを検出する電流検出回路5で検出された電流情報が入力されることである。また実施の形態1に係る電圧制御部91-1は、バンドパスフィルタ91a及び積分部91bに加えて、インダクタ4に流れる電流に含まれる電源周波数の2倍の高周波成分を除去するためのハイパスフィルタ(HPF)91cを備える。ハイパスフィルタ91cは積分部91bの出力の低周波数域を除去するフィルタである。
【0021】
図3は電圧出力部の構成図である。電圧出力部92は、例えば出力段がプッシュプル回路で構成されるオペアンプである。オペアンプの非反転入力端子には、電圧制御部91-1から出力される電圧指令V
o
*が入力される。第1平滑コンデンサ3に流れる電流Irecはオペアンプ出力端子へ流入し、オペアンプの電源電圧(例えば±15V)を生成する不図示の電源回路を経由して、
図1に示される負極側母線Nに流れる。
【0022】
次に実施の形態1に係る力率改善回路100-1の動作について説明する。
図4から
図6には、力率改善回路100-1の動作のシミュレーション結果の一例が示される。
【0023】
図4は入力電圧及び出力電圧の波形を示す図である。
図4の左側には、力率改善回路100-1の入力電圧、すなわち整流回路2で整流された電圧Vinの1周期における絶対値と、力率改善回路100-1の出力電圧、すなわち第2平滑コンデンサ8に印加される電圧Vdとが示される。
図4の右側には、
図4の左側に示される電圧の内、0.085(s)付近の電圧が拡大して示される。
【0024】
図5は入力電流の波形とインダクタに流れる電流の波形を示す図である。
図5の横軸は時間を表し、縦軸は電流を表す。
図5の左側には、電圧Vinの1周期にインダクタ4へ流れる電流ILと、力率改善回路100-1への入力電流Iinとが示される。
図5の右側には、
図5の左側に示される電流の内、0.085(s)付近の電流が拡大して示される。
【0025】
図6は第1平滑コンデンサに流れる電流の波形を示す図である。
図6の横軸は時間を表し、縦軸は電流を表す。
図6の左側には、電圧Vinの1周期に第1平滑コンデンサ3へ流れる電流Irecが示される。
図6の右側には、
図6の左側に示される電流の内、0.085(s)付近の電流が拡大して示される。
【0026】
図4から
図6によれば、インダクタ4に流れる電流ILのリプル成分が、第1平滑コンデンサ3に流れる電流Irecと逆位相かつ相似形であることが分かる。このことから、力率改善回路100-1は、非特許文献1に開示される技術のように電流Irecを検出しなくても、インダクタ4に流れる電流を検出するための電流検出回路5から出力される電流情報を代用することができる。
【0027】
図7は実施の形態1に係る力率改善回路の効果を説明するための図である。
図7の横軸は周波数を表し、縦軸は伝導ノイズのレベルを表す。普通実線は、ノイズ低減回路9-1が設けられていない力率改善回路で計測される伝導ノイズのレベルを表す。鎖線は、非特許文献1に開示される従来技術で計測される伝導ノイズのレベルを表す。太実線は、実施の形態1に係る力率改善回路100-1で計測される伝導ノイズのレベルを表す。
図7から分かるように、実施の形態1に係る力率改善回路100-1によれば、非特許文献1に開示される従来技術と同等の伝導ノイズ低減性能を実現できる。
【0028】
また実施の形態1に係る力率改善回路100-1では、非特許文献1に開示される従来技術のように、フィルタキャパシタすなわち
図1に示される第1平滑コンデンサ3に流れる電流を検出する電流検出回路が不要なため、従来技術のように電流検出回路の追加を要することなく、従来技術と同等レベルの伝導ノイズ低減性能を実現できる。
【0029】
以上に説明したように実施の形態1に係る力率改善回路100-1は、第1平滑コンデンサ3と直列に接続され、特定の電圧を出力する電圧出力部92と、電圧制御部91-1とを備え、電圧制御部91-1は、インダクタ4に流れる電流を検出するための電流検出回路5から出力される電流情報に基づき、電圧出力部92が出力する電圧を制御するように構成されている。この構成により、第1平滑コンデンサ3に流れる電流を検出するための電流検出回路を用いることなく、従来技術と同等レベルの伝導ノイズ低減性能を実現しながらノイズ低減回路9-1を小型化できる。従って、ノイズ低減回路9-1が小型化される分だけで、力率改善回路100-1の小型化を図ることが可能になる。また、第1平滑コンデンサ3に流れる電流を検出するための電流検出回路を用いる必要がないため、力率改善回路100-1を構成する部品の数が低減されると共に、力率改善回路100-1の構成が簡素化されるため、力率改善回路100-1の製造コストが低減され、さらに力率改善回路100-1の信頼性が向上する。
【0030】
実施の形態2.
実施の形態1に係る力率改善回路100-1では、第1平滑コンデンサ3に流れる電流を検出するための電流検出回路を用いることなく、従来技術と同等レベルの伝導ノイズ低減性能を実現できる。しかしながら、力率改善回路100-1では、
図2に示されるように、電圧制御部91-1にバンドパスフィルタ91aが用いられているため、電圧制御部91-1の定数変動による影響を顕著に受け易い。このことを
図8を用いて具体的に説明する。
図8はBPFの変動特性による影響を説明する図である。
図8の横軸は周波数を表し、縦軸は伝導ノイズのレベルを表す。普通実線は、バンドパスフィルタ91aの中心周波数(BPF-fc)が最適値である場合に計測される伝導ノイズのレベルを表す。破線は、バンドパスフィルタ91aの中心周波数が最適値から1%変動した場合に計測される伝導ノイズのレベルを表す。太実線は、バンドパスフィルタ91aの中心周波数が最適値から5%変動した場合に計測される伝導ノイズのレベルを表す。
図8より、バンドパスフィルタ91aの中心周波数が数%変動するだけで、伝導ノイズが大きく悪化することが分かる。これは、バンドパスフィルタ91aのゲイン・位相特性が中心周波数付近で急激に変化することに起因して、バンドパスフィルタ91aの中心周波数が僅かに変動した場合でも、低減対象の伝導ノイズの周波数(例えば62kHz)において、バンドパスフィルタ91aのゲイン・位相の値が大きく変化するためである。例えば、バンドパスフィルタ91aがオペアンプIC(Integrated Circuit)、抵抗及びコンデンサで構成されている場合、抵抗値が数kΩの1つの抵抗器に対して、僅か数Ωの抵抗値の変動が起きると、伝導ノイズの低減性能が10dB程度変動する。このため、バンドパスフィルタ91aが用いられている場合、バンドパスフィルタ91aに高精度な電気部品が使用される場合でも、伝導ノイズの低減性能の低下を回避することが困難である。このようなことに鑑みてバンドパスフィルタ91aを用いることなく伝導ノイズの低減を実現するように構成例を実施の形態2で説明する。
【0031】
図9は本発明の実施の形態2に係る力率改善回路の構成図である。
図10は実施の形態2に係るノイズ低減回路の構成図である。実施の形態1との相違点は以下の通りである。実施の形態2に係る力率改善回路100-2は、ノイズ低減回路9-1の代わりにノイズ低減回路9-2を備える。ノイズ低減回路9-2は、電圧制御部91-1の代わりに電圧制御部91-2を備える。実施の形態2に係る力率改善回路100-2は、力率改善制御回路13で生成される入力電流指令値Iin
*が電圧制御部91-2に入力されるように構成される。
【0032】
力率改善制御回路13は、電圧指令Vd*から第2平滑コンデンサ8に印加される電圧Vdを減じる減算部13aと、減算部13aの出力に対してPI(Proportional Integral)制御を行うPI制御部13bと、PI制御部13bの出力と入力電圧検出回路10で検出された電圧Vinとを乗じる乗算部13cとを備える。また力率改善制御回路13は、乗算部13cの出力結果である入力電流指令値Iin*から電流検出回路5で検出された電流ILを減じる減算部13dと、減算部13dの出力に対してPI制御を行うPI制御部13eとを備える。力率改善制御回路13は、PI制御部13eの出力である変調率指令Duty*に基づき、スイッチング素子7をスイッチング動作するためのPWM信号を生成する。
【0033】
電圧制御部91-2は、バンドパスフィルタ91aの代わりに減算部91dを備え、減算部91dは、インダクタ4に流れる電流(IL)から、入力電流指令値Iin
*を減算する。
図11を用いて、減算部91dの動作を具体的に説明する。
図11は入力電流の波形とインダクタに流れる電流の波形を示す図である。
図12は
図10に示される電圧制御部の減算部から出力される電流の波形を示す図である。
図11及び
図12から分かるように、電流(IL)から入力電流指令値Iin
*を減算した後の波形は、電流(IL)に重畳されるリプル成分の波形と等しく、このリプル成分の波形は、
図6に示す電流Irecの波形と相似形であることが分かる。そのため、減算部91dでは、入力電流指令値Iin
*から電流(IL)が減算されることによって電流(IL)に含まれるリプル成分が抽出され、抽出されたリプル成分は積分部91bで積分される。
【0034】
図13は実施の形態2に係る力率改善回路の効果を説明するための図である。
図13の横軸は周波数を表し、縦軸は伝導ノイズのレベルを表す。普通実線は、実施の形態1に係る力率改善回路100-1で計測される伝導ノイズのレベルを表す。太実線は、実施の形態2に係る力率改善回路100-2で計測される伝導ノイズのレベルを表す。
図13から分かるように、実施の形態2に係る力率改善回路100-2によれば、実施の形態1のバンドパスフィルタ91aを用いることなく、実施の形態1に係る力率改善回路100-1と同等レベルのノイズ低減性能を実現できている。
【0035】
このように実施の形態2に係る実施の形態2に係る力率改善回路100-2では、実施の形態1のバンドパスフィルタ91aを用いることなく、実施の形態1に係る力率改善回路100-1と同等レベルのノイズ低減性能を実現できているが、ハイパスフィルタ(HPF)91cについては、実施の形態1と同様に利用されている。その理由を
図14を用いて説明する。
図14はHPFのカットオフ周波数が変動した場合の伝導ノイズの解析結果を示す図である。
図14の横軸は周波数を表し、縦軸は伝導ノイズのレベルを表す。太実線は、ハイパスフィルタ91cのカットオフ周波数が最適値である場合、すなわちカットオフ周波数に誤差がない場合に計測される伝導ノイズのレベルを表す。普通実線は、ハイパスフィルタ91cのカットオフ周波数が最適値から10%変動した場合に計測される伝導ノイズのレベルを表す。
図14より、ハイパスフィルタ91cのカットオフ周波数が変動しても伝導ノイズ低減性能はほとんど変化していないことが分かる。これは、ハイパスフィルタ91cのカットオフ周波数は、低減対象の伝導ノイズの周波数から十分離れるように設計することが可能であり、従ってカットオフ周波数に変動が起きたとしても、低減対象の周波数におけるハイパスフィルタのゲイン・位相特性がほとんど変化しないためである。
【0036】
以上に説明したように実施の形態2に係る力率改善回路100-2は、減算部91dと、減算部91dの出力を積分する積分部91bと、積分部91bの出力の低周波数域を除去するハイパスフィルタ91cとを備え、減算部91dは、インダクタ4に流れる電流を検出するための電流検出回路5から出力される電流情報から電流指令である入力電流指令値Iin*を減じるように構成されている。この構成により、バンドパスフィルタ91aを構成するための高精度な部品を用いることなく、実施の形態1に係る力率改善回路100-1と同等レベルのノイズ低減性能を実現可能である。高精度な部品を用いる必要がないため、実施の形態1に比べて、力率改善回路100-2の製造コストをより一層低減できる。さらに電圧制御部91-2の構成が簡素化されるため、力率改善回路100-2の信頼性をより一層向上させることができる。
【0037】
なお実施の形態1,2の力率改善制御回路13の機能は、例えばソフトウェア、ファームウェア、ソフトウェアとファームウェアとの組合せなどにより実現される。ソフトウェアとファームウェアは、不図示のメモリにプログラムとして記述される。メモリは、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)及びEEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)といった揮発性、又は不揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク及びDVD(Digital Versatile Disc)が該当する。
【0038】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0039】
2 整流回路、2 バンドパスフィルタ、3 第1平滑コンデンサ、4 インダクタ、5 電流検出回路、6 ダイオード、7 スイッチング素子、8 第2平滑コンデンサ、9-1 ノイズ低減回路、9-2 ノイズ低減回路、10 入力電圧検出回路、11 駆動回路、12 出力電圧検出回路、13 力率改善制御回路、13a 減算部、13b PI制御部、13c 乗算部、13d 減算部、13e PI制御部、91-1 電圧制御部、91-2 電圧制御部、91a バンドパスフィルタ、91b 積分部、91c ハイパスフィルタ、91d 減算部、92 電圧出力部、100-1 力率改善回路、100-2 力率改善回路、200 交流電源、300 負荷。