(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ステアリング装置及びステアリング装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20221220BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20221220BHJP
F16C 25/08 20060101ALI20221220BHJP
F16C 35/073 20060101ALI20221220BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20221220BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B62D5/04
F16C19/18
F16C25/08 Z
F16C35/073
F16H25/22 A
F16H25/24 B
(21)【出願番号】P 2018192123
(22)【出願日】2018-10-10
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山花 大基
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 竜太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
(72)【発明者】
【氏名】西尾 大輔
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102012007329(DE,A1)
【文献】特開2011-012812(JP,A)
【文献】特開2018-119630(JP,A)
【文献】特開2005-233358(JP,A)
【文献】特開2012-180860(JP,A)
【文献】特開2016-008639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
F16C 19/18,35/073
F16H 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに支持され両端部がリンク機構を介して転舵輪に連結されるとともに、前記ハウジングに対し軸線方向に相対移動して前記転舵輪を転舵するシャフトと、
前記シャフトの外周面に形成される外周転動溝と、前記外周転動溝の径方向外方に配置される筒状のナットと、前記ナットの内周面に形成される内周転動溝と、前記外周転動溝と前記内周転動溝との間で転動する複数の転動体と、を備える、ボールねじ装置と、
モータを駆動源とし、前記ボールねじ装置の前記ナットを回転させ前記シャフトに前記軸線方向への駆動力を付与する駆動力付与装置と、
前記ハウジングに対して前記ナットを支持する支持ユニットと、
を備えるステアリング装置であって、
前記支持ユニットは、
前記ナットの外周面の前記軸線方向における第一端側において、周方向に形成され前記軸線方向で対向する前記第一端側の第一溝側面と第二端側の第二溝側面とを備える環状溝と、
前記ナットの前記外周面において、前記環状溝よりも前記第二端側に形成される軸受支持部と、
前記ハウジングに支持される外輪と、前記軸線方向への移動が不能となるよう前記軸受支持部に支持されるとともに前記環状溝側に第一内輪端面を備える内輪と、を備える転がり軸受と、
前記第一内輪端面と当接する内輪当接部端面を備える内輪当接部と、前記第一内輪端面と前記内輪当接部端面とが当接した状態で前記環状溝の前記第一溝側面と当接する第一進入部端面、及び前記第二溝側面と隙間を介して対向する第二進入部端面と、を備える進入部と、を備えるリテーナと、
前記隙間内において、前記第二溝側面及び前記第二進入部端面と接触した状態で配置される隙間部材と、を備える、ステアリング装置。
【請求項2】
前記隙間部材は、Oリング形状であり、軸直交断面の形状は円形である、請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記リテーナ及び前記隙間部材の少なくとも一方は弾性体により形成される、請求項1又は
2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記ナットの硬度は、前記隙間部材の硬度よりも大きく、前記隙間部材の前記硬度は前記リテーナの硬度以上である、請求項
2又は3に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記転がり軸受は、複列のアンギュラ玉軸受である、請求項1-
4の何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記環状溝の前記第一溝側面と、前記環状溝の前記第一端側における前記ナットの前記外周面とが成す角度は90度より大きい、請求項1-
5の何れか1項に記載のステアリング装置。
【請求項7】
請求項1に記載のステアリング装置の製造方法であって、
前記支持ユニットにおける前記リテーナの前記ナットへの組み付けは、
前記リテーナの素材である筒状のリテーナ素材を前記ナットの前記第一端側の外周側に挿入する第一工程と、
前記軸線方向に延在する前記筒状の前記リテーナ素材の先端を、治具である筒状のパンチの内側に挿入した後、前記パンチを前記第一端側から前記第二端側に向かって付勢し、前記リテーナ素材の前記第二端側の端面を前記内輪の前記第一端側の端面と当接した状態とする第二工程と、
前記パンチを前記第一端側から前記第二端側に向かって前進させることにより、前記パンチの内側形状を前記リテーナ素材の外周面に転写するとともに、前記環状溝内に前記リテーナ素材の肉を塑性変形させて進入させ、前記第一溝側面と対向する前記環状溝の第二溝側面側の端面を前記隙間部材と当接させて前記進入部の素材である進入部素材を形成する第三工程と、
前記パンチを前記第二端側から前記第一端側に向かって後退させ、前記パンチが前進する方向への前記進入部素材に対する圧縮応力を解放し前記進入部を形成する第四工程と、を備えるステアリング装置の製造方法。
【請求項8】
前記リテーナ及び前記隙間部材の少なくとも一方は弾性体により形成される、請求項
7に記載のステアリング装置の製造方法。
【請求項9】
前記ナットの硬度は、前記隙間部材の硬度よりも大きく、前記隙間部材の前記硬度は前記リテーナの硬度以上である、請求項
8に記載のステアリング装置の製造方法。
【請求項10】
前記転がり軸受は、複列のアンギュラ玉軸受である、請求項
7-9の何れか1項に記載のステアリング装置の製造方法。
【請求項11】
前記環状溝の前記第一溝側面と、前記環状溝の前記第一端側における前記ナットの前記外周面とが成す角度は90度より大きい、請求項
7-10の何れか1項に記載のステアリング装置の製造方法。
【請求項12】
前記パンチの前記内側形状は、テーパ部を備える、請求項
7-11の何れか1項に記載のステアリング装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置及びステアリング装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラック軸(シャフト)に対し、電動モータにより軸方向推力を発生させてシャフトの作動を補助するアシスト式のステアリング装置がある。このようなステアリング装置では、シャフトの外周面におねじが形成され、シャフトの径方向外方に配置されるナットの内周面にめねじが形成される。そして、対向するおねじとめねじとの間に複数のボールが配置されボールねじ装置が構成される。
【0003】
通常、ナットは筒状に形成され一端側が転がり軸受を介してハウジングに支持される。また、ナットの他端側にモータからの回転駆動力が伝達される。このとき、ナットの一端側を支持する転がり軸受は、モータによって回転駆動されるナットの回転軸線位置が精度よく維持されるよう高い剛性を有していることが望ましい。
【0004】
このような要求に対応可能な転がり軸受としては、一例として内輪又は外輪にスラスト方向の与圧を付与し、内部における玉と外輪の軌道及び内輪の軌道との間の隙間をなくすことで高い支持剛性を得ることができる複列アンギュラ玉軸受(複列軸受)が挙げられる。そして、複列アンギュラ玉軸受の軸線方向への移動を安価に規制するための手段として、例えば、特許文献1に記載の技術が利用できる。
【0005】
特許文献1に記載の技術では、軸線方向における転がり軸受の移動を、リテーナ(支持リング)を用いて規制している。具体的には、軸線方向におけるリテーナの一方の端面が、複列アンギュラ玉軸受の一方であるリテーナ側の内輪の端面に当接している。また、リテーナの軸線方向他方が縮径方向に変形され、変形された部分の一部がナットの外周面周方向に形成された溝内に押し込まれ、リテーナの他方の端面が、溝内の側面に当接する。これにより、リテーナは、複列アンギュラ玉軸受の一方の内輪の端面と溝内の側面との間において軸線方向への移動が不能となるよう保持される。従って、リテーナの一方の端面と当接する複列アンギュラ玉軸受の内輪もリテーナ側に向かって移動不能となり、軸線方向における移動が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、リテーナを変形させ、ナットの外周面上に形成された溝内に押し込むことにより、リテーナの他方の端面を溝内の側面に当接させている。このため、リテーナの軸線方向他方を縮径方向に変形させ溝内に押し込んだ際、溝内に押し込まれた肉部で形成されるリテーナの他方の端面と溝内の側面とが確実に当接しているか否かを判断するのは困難である。当接していない場合、軸受の軸線方向への移動が良好に規制できない虞がある。
【0008】
そこで、本発明では、軸受の軸線方向への移動を確実に規制可能とする低コストな構造の支持ユニットを備えるステアリング装置及びステアリング装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1.ステアリング装置)
本発明の一態様に係るステアリング装置は、ハウジングと、前記ハウジングに支持され両端部がリンク機構を介して転舵輪に連結されるとともに、前記ハウジングに対し軸線方向に相対移動して前記転舵輪を転舵するシャフトと、前記シャフトの外周面に形成される外周転動溝と、前記外周転動溝の径方向外方に配置される筒状のナットと、前記ナットの内周面に形成される内周転動溝と、前記外周転動溝と前記内周転動溝との間で転動する複数の転動体と、を備える、ボールねじ装置と、モータを駆動源とし、前記ボールねじ装置の前記ナットを回転させ前記シャフトに前記軸線方向への駆動力を付与する駆動力付与装置と、前記ハウジングに対して前記ナットを支持する支持ユニットと、を備える。
【0010】
前記支持ユニットは、前記ナットの外周面の前記軸線方向における第一端側において、周方向に形成され前記軸線方向で対向する前記第一端側の第一溝側面と第二端側の第二溝側面33bとを備える環状溝と、前記ナットの前記外周面において、前記環状溝よりも前記第二端側に形成される軸受支持部と、前記ハウジングに支持される外輪と、前記軸線方向への移動が不能となるよう前記軸受支持部に支持されるとともに前記環状溝側に第一内輪端面を備える内輪と、を備える転がり軸受と、前記第一内輪端面と当接する内輪当接部端面を備える内輪当接部と、前記第一内輪端面と前記内輪当接部端面とが当接した状態で前記環状溝の前記第一溝側面と当接する第一進入部端面、及び前記第二溝側面と隙間を介して対向する第二進入部端面と、を備える進入部と、を備えるリテーナと、前記隙間内において、前記第二溝側面及び前記第二進入部端面と接触した状態で配置される隙間部材とを備える。
【0011】
このように、支持ユニットのリテーナの進入部が環状溝内に進入し、リテーナの両端部のうち内輪当接部端面が内輪の第一内輪端面と当接し、進入部の第一進入部端面が環状溝の第一溝側面と当接している。これにより、リテーナが転がり軸受のリテーナ側への移動を確実に規制する。また、本発明では、環状溝内の隙間内において、隙間部材が第二溝側面及び第二進入部端面と接触した状態で配置される。このため、進入部は、環状溝内において、第二端側に向かって移動できない。従って、第一進入部端面と環状溝の第一溝側面とが離間することはなく、よってリテーナは転がり軸受のリテーナ側への移動を確実に規制することができる。このように、隙間部材を環状溝内の隙間に追加するという非常に低コストな構成によって、リテーナによる軸受の内輪の第一端側への移動をさらに確実に防止することができる。
【0014】
(2.ステアリング装置の製造方法)
本発明の一態様に係るステアリング装置の製造方法は、上記に記載の第一の態様に係るステアリング装置の製造方法であって、前記支持ユニットにおける前記リテーナの前記ナットへの組み付けは、前記リテーナの素材である筒状のリテーナ素材を前記ナットの前記第一端側の外周側に挿入する第一工程と、前記軸線方向に延在する前記筒状の前記リテーナ素材の先端を、治具である筒状のパンチの内側に挿入した後、前記パンチを前記第一端側から前記第二端側に向かって付勢し、前記リテーナ素材の前記第二端側の端面を前記内輪の前記第一端側の端面と当接した状態とする第二工程と、前記パンチを前記第一端側から前記第二端側に向かって前進させることにより、前記パンチの内側形状を前記リテーナ素材の外周面に塑性変形させて転写するとともに、前記環状溝内に前記リテーナ素材の肉を塑性変形により進入させて、前記第二溝側面側の端面を前記隙間部材、又は前記第二溝側面と当接させて前記進入部の素材である進入部素材を形成する第三工程と、前記パンチを前記第二端側から前記第一端側に向かって後退させ、前記パンチが前進する方向への前記進入部素材に対する圧縮応力を解放し前記進入部を形成する第四工程と、を備える。
【0015】
このような製造方法により、第四工程においてパンチが後退し進入部素材に対する圧縮応力を解放すると、進入部素材は、それまで付勢されていた前進方向への圧縮応力と進入部素材が備える縦弾性係数とに応じた量だけ伸長する。また、このとき、環状溝内の隙間内では、パンチが後退し圧縮応力が解放された状態において、隙間部材が第二溝側面及び第二進入部端面と接触状態で配置される。換言すると、進入部素材に対する圧縮応力が解放されていない状態においては、隙間部材も所定量圧縮されており、このため、圧縮応力が解放された状態では、隙間部材は、進入部素材と同様に、前進方向への圧縮応力と隙間部材が備える縦弾性係数とに応じた量だけ伸長する。これにより、進入部は、圧縮応力が解放された際における、進入部素材及び隙間部材の両者の伸長により、第二溝側面と第二進入部端面との接触が良好に確保される。このため、進入部は、環状溝内において、第二端側に向かって移動できず、リテーナは転がり軸受のリテーナ側への移動を確実に規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す概略図である。
【
図2】第一実施形態に係るボールねじ装置と支持ユニットを示す部分の拡大断面図である。
【
図4】支持ユニットの組み付け手順を示すフローチャートである。
【
図5A】
図3の組み付け手順においてフローチャートのS10に対応する図である。
【
図5B】
図3の組み付け手順においてフローチャートのS20に対応する図である。
【
図5C】
図3の組み付け手順においてフローチャートのS30に対応する図である。
【
図5D】
図3の組み付け手順においてフローチャートのS40に対応する図である。
【
図6】第二実施形態に係る
図3に対応する支持ユニットの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<1.第一実施形態>
(1-1.ステアリング装置の構成)
以下、第一実施形態に係る本発明の支持ユニットが適用される電動パワーステアリング装置を図面に基づいて説明する。
図1は、電動パワーステアリング装置(ステアリング装置に相当)の全体を示す図である。電動パワーステアリング装置は、操舵補助力によって操舵力を補助するステアリング装置である。
【0019】
電動パワーステアリング装置10(以後、ステアリング装置10とのみ称する)は、両端部がリンク機構(図略)を介して車両の転舵輪28,28に連結されるシャフト20をシャフト20の軸線方向と一致するA方向(
図1の左右方向)に往復相対移動させることにより、転舵輪28,28の向きを転舵する装置である。なお、
図1において、左側を第一端側、右側を第二端側とする。
【0020】
図1に示すように、ステアリング装置10は、ハウジング11と、ステアリングホイール12と、操舵軸13と、トルク検出装置14と、電動モータM(モータに相当。以後、モータMとのみ称す)と、前述したシャフト20と、操舵補助装置30(駆動力付与装置に相当)と、ボールねじ装置40と、支持ユニット50とを備える。
【0021】
ハウジング11は、車両に固定される固定部材である。ハウジング11は、筒状に形成され、シャフト20をA方向に往復移動可能に挿通し支持する。ハウジング11は、第一ハウジング11aと、第一ハウジング11aのA方向第一端側(
図1中、左側)に固定された第二ハウジング11bとを備える。
【0022】
ステアリングホイール12は、操舵軸13の端部に固定され、車室内において操舵軸13の軸線周りに回転可能に支持される。操舵軸13は、運転者の操作によってステアリングホイール12に加えられるトルクをシャフト20に伝達する。
【0023】
操舵軸13のシャフト20側の端部には、ラックアンドピニオン機構を構成するピニオン13aが形成される。トルク検出装置14は、操舵軸13の捩れ量に基づいて、操舵軸13に加えられるトルクを検出する。
【0024】
シャフト20は、A方向に延伸している。シャフト20の外周面には、ラック22が形成される。ラック22は、操舵軸13のピニオン13aに噛合し、ピニオン13aとともにラックアンドピニオン機構を構成する。また、シャフト20は、両端部に上述したリンク機構の一部を構成するジョイント25,25を有する。ジョイント25,25の両端部には、タイロッド26,26が連結される。タイロッド26,26の先端は、ナックルアーム27,27を介して左右の転舵輪28,28に連結される。
【0025】
これにより、ステアリングホイール12が操舵されると、ラックアンドピニオン機構を介して、シャフト20が直線往復移動される。このA方向に沿った移動がタイロッド26,26を介してナックルアーム27,27に伝達されることにより、転舵輪28,28が転舵され、車両の進行方向が変更される。
【0026】
ハウジング11のA方向両端には、ブーツ29,29の一端部が固定される。ブーツ29,29は、例えば樹脂製で、主にジョイント25,25とタイロッド26,26とのジョイント部分を覆い、A方向に伸縮可能な筒状の蛇腹部を有する。ブーツ29,29の他端部はタイロッド26,26に固定される。ブーツ29,29は、埃や水などの異物が、ハウジング11の内部およびジョイント25,25の内部に侵入することを抑制する。
【0027】
また、シャフト20は、ラック22とは異なる位置の外周面に外周転動溝23が形成される。外周転動溝23は、後述するナット21の内周面に形成される内周転動溝21aとともにボールねじ装置40を構成し、操舵補助装置30(駆動力付与装置)により操舵補助力が伝達される。
【0028】
操舵補助装置30は、ハウジング11に固定されるモータMを駆動源として、ナット21を回転させ、シャフト20に操舵補助力となる軸線方向への駆動力を付与する機構である。操舵補助装置30は、モータM、モータMを駆動する制御部ECU及び駆動力伝達機構32を備える。モータM、及びモータMを駆動するための制御部ECUは、ハウジング11の第一ハウジング11aに固定されるケース31に固定され収容される。制御部ECUは、トルク検出装置14の出力信号に基づいて、操舵補助トルクを決定し、モータMの出力を制御する。
【0029】
図2に示すように、駆動力伝達機構32は、駆動プーリ36、従動プーリ34及び歯付きベルト35を備える。駆動プーリ36、及び従動プーリ34は、それぞれ、はす歯の外歯を備える歯付きのプーリである。歯付きベルト35は、はす歯で形成された内歯を内周側に複数有する円環状のゴムベルトである。
【0030】
駆動プーリ36は、モータMの出力シャフト37の先端に出力シャフト37と一体回転可能に設けられる。出力シャフト37は、所定量だけシャフト20の軸線と平行にオフセットされて配置される。このとき、オフセットされる所定量は任意に設定すればよい。
【0031】
従動プーリ34は、歯付きベルト35を介して駆動プーリ36と連結され、後に説明するナット21の第二端側(
図2参照)の従動プーリ支持部213の外周側にナット21と一体回転可能に設けられる。歯付きベルト35は、従動プーリ34の外周と駆動プーリ36の外周との間に、各外周に設けられた各はす歯と噛合した状態で掛け渡される。
【0032】
これにより、駆動力伝達機構32は、駆動プーリ36と従動プーリ34との間で回転駆動力(駆動力)を伝達する。即ち、駆動力伝達機構32は、モータMから従動プーリ34を介してナット21へ回転駆動力を伝達する。また、A方向(軸線方向)においてナット21の第一端側(
図2において左側)の外周面には軸受支持部212を備える。軸受支持部212には、後述する複列アンギュラ玉軸受70の内輪が支持される。また、複列アンギュラ玉軸受70の外輪は、第二ハウジング11bの内周面11b1に相対回転可能に支持される。これにより、ナット21は、第二ハウジング11bに対して相対回転可能に支持される。
【0033】
(1-2.ボールねじ装置40)
図2に示すように、ボールねじ装置40は、シャフト20の外周面に形成される上述した外周転動溝23と、外周転動溝23の径方向外方に配置される上述した筒状のナット21と、ナット21の内周面に形成される上述した内周転動溝21aと、外周転動溝23と内周転動溝21aとの間で転動する複数の転動ボール24(転動体に相当)と、図略のデフレクタと、を備える。ボールねじ装置40は駆動力の伝達経路において、操舵補助装置30とシャフト20との間に配置され、駆動力をシャフト20に伝達する。
【0034】
外周転動溝23とナット21の内周転動溝21aとが対向して配置され、それぞれ対応する外周転動溝23と内周転動溝21aとの間で複数の転動ボール24が転動する転動路R1が形成される。複数の転動ボール24は、転動路R1内に転動可能に配列される。これにより、外周転動溝23と、内周転動溝21aとが、複数の転動ボール24を介して螺合する。
【0035】
転動路R1を転動する複数の転動ボール24は、ナット21内に配置されたデフレクタ(図略)と、ナット21内に形成され各デフレクタ間を接続する通路(図略)と、を介して無限循環される。デフレクタによる転動ボール24の無限循環については、公知の技術であるので、詳細な説明については省略する。
【0036】
上記の構成により、操舵補助装置30は、ステアリングホイール12の回転操作(操舵)に応じてモータMを駆動し、モータMの出力シャフト37及び駆動プーリ36を回転させる。駆動プーリ36の回転は、歯付きベルト35を介して従動プーリ34に伝達され、従動プーリ34が回転することにより、従動プーリ34に一体的に設けられるナット21が回転する。そして、ナット21が回転することにより、シャフト20の軸線方向への操舵補助力(駆動力に相当)が、ボールねじ装置40が有する複数の転動ボール24を介してシャフト20に伝達される。これにより、シャフト20がハウジング11に対して軸方向に相対移動される。
【0037】
(1-3.支持ユニット50について)
次に、支持ユニット50について
図3に基づき説明する。支持ユニット50は、ハウジング11に対しナット21を相対回転可能に支持する装置である。支持ユニット50は、何れも上述した環状溝33、軸受支持部212、複列アンギュラ玉軸受70(転がり軸受に相当)、及びリテーナ80と、隙間部材90と、を備える。なお、ナット21は、例えば、SCM430(JIS規格)等により形成される。
【0038】
環状溝33は、
図3に示すように、ナット21の外周面において、軸受支持部212よりも軸線方向における第一端側に形成される。環状溝33は、ナット21の外周面の周方向に形成され、環状溝33内に軸線方向で対向する第一端側の第一溝側面33aと第二端側の第二溝側面33bと、を備える。
図3に示すように、本実施形態においては、環状溝33の第一溝側面33aとナット21における環状溝33より第一端側の外周面とが成す傾斜角度αは90度より若干大きい方が好ましい。傾斜角度αは任意に設定すればよい。
【0039】
図2,
図3に示すように、複列アンギュラ玉軸受70(転がり軸受)は、前述したように、径方向において、ナット21のA方向における第一端側(
図2において左側)の軸受支持部212と第二ハウジング11bの内周面11b1との間に配置される。これにより、複列アンギュラ玉軸受70は、ナット21を、第二ハウジング11b(ハウジング11)に対して相対回転可能に支持する。
【0040】
図2,
図3に示すように、複列アンギュラ玉軸受70は、A方向において、ナット21の第二端側の従動プーリ支持部213に配置される従動プーリ34に隣接して配置される。具体的には、従動プーリ34の第一端側の端面34aが、後述する第二端側の複列アンギュラ玉軸受70の内輪51の第二端側の第二内輪端面51b2と当接し、複列アンギュラ玉軸受70の第二端側方向への移動を規制する。
【0041】
図2に示すように、複列アンギュラ玉軸受70は、内輪51,51と、外輪52と、内輪51,51の外周面に形成された軌道面51a,51aと外輪52の内周面に形成された軌道面52a,52aとの間に収容される複数個の軸受ボール54と、保持器56と、第一シール部材57と、第二シール部材58と、を備える。なお、保持器56及び第一,第二シール部材57,58は、通常のアンギュラ玉軸受で使用される保持器及びシール部材と同様のものでよく、詳細な説明については省略する。
【0042】
図3に示すように、第一端側の内輪51は、環状溝33側(第一端側)に第一内輪端面51b1を備える。内輪51は、ナット21と同様、例えば、SCM430(JIS)等により形成される。
図2に示すように、外輪52は、筒状部材である。外輪52は、第二ハウジング11bの内周面11b1と外輪52の外周面とが対向するよう第二ハウジング11b(ハウジング11)の内周側に配置される。
図2に示すように、外輪52のA方向(軸線方向)における内周面のほぼ中央部には径方向内方に突出した凸部52cが形成される。
【0043】
外輪52の第一端側の軌道面52aは、外輪52の第一端側(左側)の内周面と凸部52cの側面(
図2において左側面)とによって形成される。第二端側の軌道面52aは、外輪52の第二端側(右側)の内周面と凸部52cの側面(
図2において右側面)とによって形成される。本実施形態において、軌道面52a,52aは、A方向(軸線方向)において互いに背向している。
【0044】
図2に示すように、軌道面52a,52aの各断面形状(半径R、図略)は、ともに軸受ボール54を、中心点を通って切断した断面における外周線の一部の形状(半径R)とほぼ一致するよう形成される。軌道面52a,52aは、共にアンギュラ溝である。また、内輪51,51の軌道面51a,51aは、それぞれ外輪52の各軌道面52a,52aと対向するよう形成されるアンギュラ溝である。
【0045】
上記の複列アンギュラ玉軸受70では、内輪51,51にスラスト方向の与圧を付与し、内部における軸受ボール54と外輪52の軌道面52a,52a及び内輪51,51の軌道面51a,51aとの間の隙間をなくすことで高い支持剛性を得ることができる。
【0046】
図3に示すように、リテーナ80は、内輪当接部81と、環状溝33内に配置される進入部82と、を備える。リテーナ80は、例えばS15C、SPCC、又はSPCD(JIS)等により形成される。進入部82は、リテーナ80のうちの環状溝33の外側部分に配置される部位である。進入部82は、環状溝33内の進入部82から第二端側、及びナット21の径方向外方に向かって、軸線に対し傾斜を有して延在している。
【0047】
つまり、進入部82は、外周面にテーパ面81aを備える。また、内輪当接部81は、第二端側(複列アンギュラ玉軸受70側)に、内輪当接部端面81bを備える。そして、内輪当接部81は、内輪当接部端面81bが複列アンギュラ玉軸受70における第一端側の内輪51の第一内輪端面51b1と当接するよう配置される。
【0048】
進入部82は、前述したように、リテーナ80のうち環状溝33内に進入した部位である。進入部82は、内輪当接部81と一体的に接続される。そして、進入部82は、内輪51の第一内輪端面51b1とリテーナ80の内輪当接部81の内輪当接部端面81bとが当接した状態で、環状溝33の第一溝側面33aと当接する第一進入部端面82aを備える。第一進入部端面82aは、環状溝33の第一溝側面33aの傾斜角度αに対応する角度で形成され、第一溝側面33aと当接する。
【0049】
また、進入部82は、環状溝33の第二溝側面33bと所定の隙間Fを介して対向する第二進入部端面82bを備える。このとき、所定の隙間は、後述する隙間部材90の大きさに応じた大きさである。また、第二進入部端面82bは、内輪当接部81の外周面に形成されるテーパ面81aと概ね平行に形成される。従って、環状溝33の第二溝側面33bと第二進入部端面82bとは、テーパ面81aが有する角度分だけ相対的に傾斜した状態で対向する。
【0050】
隙間部材90は、第二溝側面33bと第二進入部端面82bとの間の隙間F内において、第二溝側面33b及び第二進入部端面82bとそれぞれ接触した状態で配置される。このとき、隙間部材90は、第二溝側面33bと第二進入部端面82bとの間で押圧され、若干圧縮された状態であってもよいし、圧縮されてはいないが、第二溝側面33bと第二進入部端面82bとの間に全く隙間がない状態であるだけでもよい。
【0051】
また、隙間部材90は、例えば、バネ鋼等による弾性体により形成される。また、隙間部材90は、Oリング形状であり、軸直交断面の形状は円形又は楕円である。このとき、ナットの硬度A、隙間部材90の硬度B、及びリテーナ80の硬度Cの相関関係は、下記式(1)のとおりである。効果等の詳細については、以降で詳述する製造方法において説明する。
ナット21の硬度A>隙間部材90の硬度B≧リテーナ80の硬度C・・・・・(1)
【0052】
(1-4.製造方法)
次に、ステアリング装置10の製造方法について、
図4のフローチャート及び
図5A~
図5Dに基づき説明する。具体的には、支持ユニット50におけるリテーナ80のナット21への組み付けについて説明する。
【0053】
第一工程S10では、
図5Aに示すリテーナ80の素材である筒状のリテーナ素材80Aをナット21の第一端側の外周側に挿入する。つまり、ナット21の第一端側の端部をリテーナ素材80Aの内側に挿通させ、複列アンギュラ玉軸受70の近傍に配置する。リテーナ素材80Aは、複列アンギュラ玉軸受70側に配置される大径の円筒部80A2と環状溝33側に配置される小径の円筒部80A1とを備える。なお、このとき、リテーナ80が形成された際には、内輪当接部端面81bとなるリテーナ素材80Aの端面80A3が複列アンギュラ玉軸受70側に面して配置される。
【0054】
第二工程S20では、
図5Bに示すように、軸線方向に延在する筒状のリテーナ素材80Aの第一端側の先端を、治具である筒状のパンチ83の内側に挿入する。そして、その後、矢印Ar1に示すように、パンチ83を第一端側から第二端側に向かって付勢する。これにより、リテーナ素材80Aの第二端側の端面80A3を、複列アンギュラ玉軸受70が備える内輪51の第一端側の第一内輪端面51b1(端面)と当接した状態とする。
【0055】
次に、第三工程S30では、
図5Cに示すように、パンチ83を矢印Ar1に示す方向である第一端側から第二端側に向かってさらに前進させ、パンチ83の内側形状をリテーナ素材80Aの小径の円筒部80A1の外周面に塑性変形により転写する。このとき、パンチ83は内側にテーパ部83aを備える。これにより、パンチ83を矢印Ar1に示す方向に前進させると、テーパ部83aが、小径の円筒部80A1の外周面にテーパ面81aを転写して形成するとともに小径の円筒部80A1の内周側を、
図5Cの矢印Ar2に示す方向に変形させながら縮径させる。
【0056】
なお、このとき、環状溝33の第一溝側面33aは、ナット21の外周面に対し、90degより若干大きい傾斜角度αで形成されている。このため、パンチ83のテーパ部83aが、リテーナ素材80Aの内周面を、前進方向に付勢しながら縮径させる際、小径の円筒部80A1の内周面の余肉は、傾斜角度αで形成される第一溝側面33aを通って環状溝33内に良好に流れ込む。
【0057】
その後、パンチ83をさらに矢印Ar1方向に前進させると、リテーナ素材80Aの内周面の肉は、環状溝33内に充填され、やがて第二溝側面33bと角度(傾斜)を有して対向する端面が隙間部材90と当接し、進入部素材82Aを形成する(
図5C参照)。このとき、隙間部材90は、進入部素材82Aの第二溝側面33b側の端面と第二溝側面33bとの間に挟持され、所定の圧縮応力σ(図略)を付与された状態で保持される。
【0058】
また、このとき、上述したように、ナットの硬度A、弾性体である隙間部材90の硬度B、及び進入部素材82A(=リテーナ80)の硬度Cの相関関係は、上記式(1)で示したように、A>B≧Cである。このため、所定の圧縮応力σを付与された状態の進入部素材82A及び隙間部材90は、付与される圧縮応力に応じた分だけ弾性圧縮される。また、このとき、
図5Cに示すように、環状溝33の第一溝側面33aと、第一溝側面33aと対向する進入部素材82Aの第一溝側面33a側の端面との間には、若干の隙間が生じている場合がある。これは、パンチ83が、Ar1方向にリテーナ素材80Aを押圧し続けているためである。ただし、このような隙間を有している態様に限らず、隙間を有していなくてもよい。
【0059】
次に、第四工程S40では、
図5Dに示すように、パンチ83を、第三工程S30における第二端側の最終位置から第一端側に向かって後退させる(矢印Ar3参照)。これにより、パンチ83が前進方向に付与していた進入部素材82Aに対する圧縮応力σを解放する。圧縮応力σが解放されると、進入部素材82A及び隙間部材90は、付与されていた圧縮応力σの大きさに応じて変形していた弾性変形分だけ伸長する。
【0060】
これにより、進入部素材82A及び隙間部材90が、第二溝側面33bを起点とし、矢印Ar4の方向に伸長する。そして、進入部82(リテーナ80)が形成され、第一溝側面33aと対向する進入部82の第一進入部端面82aが、第一溝側面33aと確実に当接する。このとき、進入部82の第二進入部端面82bは、第二溝側面33bとの間に所定の隙間Fを備える。そして、隙間Fには、隙間部材90が配置され、隙間部材90は、第二進入部端面82bと第二溝側面33bとに挟持されている。
【0061】
このように、リテーナ80においては、第一進入部端面82aが、第一溝側面33aと確実に当接する。また、リテーナ80の第二端側の内輪当接部端面81bは、複列アンギュラ玉軸受70が備える内輪51の第一端側の第一内輪端面51b1と確実に当接する。これにより、複列アンギュラ玉軸受70が備えるリテーナ80側の内輪51の第一端側への移動が確実に規制される。従って、複列アンギュラ玉軸受70の内輪51、内輪51の間に隙間が生じ、例えば、作動中にラトル音が発生することはない。また、付与されていた与圧が解除される虞もない。
【0062】
<2.第一実施形態の変形例>
上記第一実施形態においては、支持ユニット50が備えるリテーナ80及び隙間部材90を共に弾性部材としたが、この態様には限らない。変形例1(図略)としてリテーナ80及び隙間部材90の何れか一方のみが弾性部材であってもよい。これによっても相応の効果は期待できる。
【0063】
また、上記第一実施形態では、支持ユニット50の転がり軸受は、転動体として玉(ボール)を適用した複列のアンギュラ玉軸受であるとしたが、この態様には限らない。変形例2(図略)として、複数の転動体が、複数の円すいころであってもよい。つまり、転がり軸受は、複列の円すいころ軸受であっても良い。これによっても、第一実施形態と同様の効果が期待できる。また、転がり軸受は、複列に限らず、単列の転がり軸受けであってもよい。これによっても、相応の効果が期待できる。
【0064】
また、上記第一実施形態において、環状溝33の第一溝側面33aは、ナット21の外周面に対し、90degより若干大きい傾斜角度αで形成された。しかし、この態様には限らない。変形例3(図略)として、環状溝33の第一溝側面33aは、ナット21の外周面に対し、90degであってもよい。また、環状溝33の第一溝側面33aは、ナット21の外周面に対し、90degを大きく超える角度であってもよい。これらによっても相応の良好な効果は得られる。
【0065】
<3.第一実施形態及び変形例による効果>
上記第一実施形態によれば、ステアリング装置10の支持ユニット50は、ナット21の外周面の軸線方向における第一端側において、周方向に形成され軸線方向で対向する第一端側の第一溝側面33aと第二端側の第二溝側面33bとを備える環状溝33と、ナット21の外周面において、環状溝33の第二端側に形成される軸受支持部212と、ハウジング11に支持される外輪52と、軸線方向への移動が不能となるよう軸受支持部212に支持されるとともに環状溝33側に第一内輪端面51b1を備える内輪51と、を備える複列アンギュラ玉軸受70(転がり軸受)と、第一内輪端面51b1と当接する内輪当接部端面81bを備える内輪当接部81と、第一内輪端面51b1と内輪当接部端面81bとが当接した状態で環状溝33の第一溝側面33aと当接する第一進入部端面82a、及び第二溝側面33bと隙間を介して対向する第二進入部端面82bと、を備える進入部82と、を備えるリテーナ80と、隙間内において第二溝側面33b及び第二進入部端面82bと接触した状態で配置される隙間部材90と、を備える。
【0066】
このように、支持ユニット50のリテーナ80の進入部82が環状溝33内に進入し、リテーナ80の両端部のうち内輪当接部端面81bが内輪51の第一内輪端面51b1と当接し、進入部82の第一進入部端面82aが環状溝33の第一溝側面33aと当接している。これにより、リテーナ80が複列アンギュラ玉軸受70のリテーナ80側への移動を確実に規制する。また、本発明では、環状溝33内の隙間F内において、隙間部材90が第二溝側面33b及び第二進入部端面82bと接触した状態で配置される。このため、進入部82は、環状溝33内において、第二端側に向かって移動不能である。従って、第一進入部端面82aと環状溝33の第一溝側面33aとが離間することはなく、リテーナ80は複列アンギュラ玉軸受70(転がり軸受)のリテーナ80側への移動を確実に規制する、つまり、ガタつき無く固定することができる。このように、隙間部材90を環状溝33内の隙間Fに追加するという非常に低コストな構成によって、リテーナ80による複列アンギュラ玉軸受70(転がり軸受)の内輪51の第一端側への移動をさらに確実に防止することができる。
【0067】
また、上記第一実施形態によれば、隙間部材90は、Oリング形状であり、軸直交断面の形状は円形である。これにより、隙間部材90が、環状溝33の第二溝側面33b及び進入部82の第二進入部端面82bに挟持された際、接触する方向、位置に関わらず、隙間部材90は進入部82を、良好に第一溝側面33aの方向に付勢できる。
【0068】
また、第一実施形態によれば、転がり軸受は、複列のアンギュラ玉軸受70である。これにより、支持ユニット50を用いて内輪51を軸方向に固定する際に、内輪51,51に所定の与圧を付与するよう製造すれば、軸受として高い剛性を確保できる。
【0069】
また、第一実施形態に係るステアリング装置10の製造方法によれば、リテーナ80の素材である筒状のリテーナ素材80Aをナット21の第一端側の外周側に挿入する第一工程S10と、軸線方向に延在する筒状のリテーナ素材80Aの先端を、治具である筒状のパンチ83の内側に挿入した後、パンチ83を第一端側から第二端側に向かって付勢し、リテーナ素材80Aの大径の円筒部80A2の端面80A3を内輪51の第一端側の第一内輪端面51b1と当接した状態とする第二工程S20と、を備える。また、パンチ83を第一端側から第二端側に向かって前進させることにより、パンチ83の内側形状を小径の円筒部80A1の外周面に転写するとともに、環状溝33内に小径の円筒部80A1の内周側の肉を塑性変形により進入させて、第二溝側面33b側の端面を隙間部材90と当接させて進入部82の素材である進入部素材82Aを形成する第三工程S30と、パンチ83を第二端側から第一端側に向かって後退させ、パンチ83が前進する方向への進入部素材82Aに対する圧縮応力σを解放し進入部82を形成する第四工程S40と、を備える。
【0070】
このような製造方法により、第四工程S40においてパンチ83が後退し進入部素材82Aに対する圧縮応力σを解放すると、進入部素材82Aは、それまで付勢されていた前進方向への圧縮応力σと進入部素材82Aが備える縦弾性係数とに応じた量だけ伸長する。また、このとき、環状溝33内の隙間F内では、パンチ83が後退し圧縮応力σが解放された状態において、隙間部材90が第二溝側面33b及び第二進入部端面82bと接触状態で配置される。換言すると、進入部素材82Aに対する圧縮応力σが解放されていない状態においては、隙間部材90も所定量圧縮されており、このため、圧縮応力σが解放された状態では、隙間部材90は、進入部素材82Aと同様に、前進方向への圧縮応力と隙間部材90が備える縦弾性係数とに応じた量だけ伸長する。これにより、進入部82は、圧縮応力σが解放された際における、進入部素材82A及び隙間部材90の両者の伸長により、第二溝側面33bと第二進入部端面82bとの接触が良好に確保される。このため、進入部82は、環状溝33内において、第二端側に向かって移動できず、リテーナ80は複列アンギュラ玉軸受70(転がり軸受)のリテーナ80側への移動を確実に規制することができる。
【0071】
また、上記第一実施形態の製造方法によれば、リテーナ80及び隙間部材90の少なくとも一方は弾性体により形成される。これにより、第一実施形態の製造方法における第四工程S40において、パンチ83を、第一端側に向かって(矢印Ar3方向)後退させた場合、圧縮応力σが解放されると、リテーナ80及び隙間部材90の少なくとも一方が大きく伸長する。これにより、進入部82の第一進入部端面82aを第一溝側面33aに向かって移動させ、第一進入部端面82aを第一溝側面33aに良好に当接させることができる。
【0072】
また、上記第一実施形態の製造方法によれば、ナット21の硬度は、隙間部材90の硬度よりも大きく、隙間部材90の硬度はリテーナ80の硬度以上である。このように、ナット21の硬度は、隙間部材90及びリテーナ80の硬度より大きい。よって、第一実施形態の製造方法における第四工程S40において、パンチ83を、第一端側に向かって後退させた場合、硬く変形しにくいナット21を起点として隙間部材90及びリテーナ80の進入部82の良好な伸長が期待できる。これにより、進入部82の第一進入部端面82aを第一溝側面33aに良好に当接させることができる。
【0073】
また、上記第一実施形態の製造方法によれば、環状溝33の第一溝側面33aと、環状溝33の第一端側におけるナット21の外周面とが成す角度は90度より大きい。これにより、第一実施形態の製造方法における第三工程S30において、パンチ83を、第二端側に向かって前進させ、進入部素材82Aを環状溝33内に進入させていく際、侵入部素材が環状溝33内にスムーズに進入しやすい。
【0074】
また、上記第一実施形態の製造方法によれば、パンチ83の内側形状は、テーパ部83aを備える。このように、テーパ部83aを備えることにより、進入部素材82Aの内周側をも所望の形状に塑性変形させ、環状溝33内に好適に進入させることができる。
【0075】
<4.第二実施形態>
次に、第二実施形態のステアリング装置100(
図1参照)について説明する。上記第一実施形態においては、ステアリング装置10の支持ユニット50が、環状溝33の内部に、第二溝側面33bと進入部82の第二進入部端面82bとにそれぞれ接触した状態で配置された隙間部材90を備えた。そして、このとき、隙間部材90は、第二溝側面33b及び第二進入部端面82bの間の隙間Fに配置された。しかしこの態様に限らず、第二実施形態として、支持ユニット150は、隙間部材90を備えていなくてもよい。以下では、支持ユニット50と異なる部分についてのみ説明し、その他の同様部分の説明は省略する。ただし支持ユニット150と同様の部分については、構成に同じ符号を付して説明する。
【0076】
図6に示すように、支持ユニット150は、第一実施形態の進入部82に相当する進入部182が、第一進入部端面182aと、第二進入部端面182bと、を備える。なお、支持ユニット50と同様、内輪当接部81は、第一内輪端面51b1と当接する内輪当接部端面81bを備える。第一進入部端面182aは、第一内輪端面51b1と内輪当接部端面81bとが当接した状態で環状溝133の第一溝側面133aと当接する。また、第二進入部端面182bは、第二溝側面133bと直接当接する。
【0077】
このため、第二溝側面133bは、第一実施形態における第二溝側面33bよりも、第一溝側面133aに向かってせり出す形状で、かつ第二溝側面133bに沿った傾斜面形状で形成される。なお、せり出す形状は、
図7の変形態様に示す段差形状であって段差の角部が第二進入部端面182bに当接する形状でもよい。第二実施形態の場合、第二進入部端面182bが直接当接する第二溝側面133bは、ナット21の一部である。従って、硬度が隙間部材90よりも高い。
【0078】
このため、第一実施形態の製造方法における第四工程S40において、パンチ83を、第一端側に向かって(矢印Ar3参照)後退させ、圧縮応力σが解放されても、第一実施形態における隙間部材90のときのように大きく伸長することはない。このため、進入部182の第一進入部端面182aが第一溝側面133aに向かって移動する量は小さい。しかし、進入部182の弾性力によって変形した分の伸びが望めるため、相応の効果は期待できる。
【0079】
<5.その他>
なお、上記第一、第二実施形態において、支持ユニット50,150が備える軸受としては、二個の内輪51、51を備えた複列アンギュラ玉軸受70を適用したが、この態様には限らない。複列アンギュラ玉軸受は、使用する内輪のうち、第一端側に配置される内輪が、ナット21と別体で形成され、第二端側では、ナット21と一体的に形成された第二内輪を備えて形成しても良い。これにより、低コスト化が図れる。
【0080】
また、本発明は、上記第一,第二実施形態のステアリング装置10に限らず、ステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置に適用してもよい。さらには、自動運転用の車両用操舵装置に適用してもよい。
【0081】
また、上記第一,第二実施形態では、支持ユニット50,150をラックパラレル型のステアリング装置10に適用したが、この態様には限らない。一例として、モータの回転軸がシャフト20の軸線と同一位置(同軸)に配置されるタイプのステアリング装置(例えば、特許第5120040号公報に記載のステアリング装置)に適用してもよい。さらに、支持ユニット50,150は、軸受を使用するあらゆる装置に適用できる。
【符号の説明】
【0082】
10,100;電動パワーステアリング装置(ステアリング装置)、 11;ハウジング、 20;シャフト、 21;ナット、 21a;内周転動溝、 23;外周転動溝、 24;転動ボール、 30;操舵補助装置(駆動力付与装置)、 33,133;環状溝、 212;軸受支持部、 33a,133a;第一溝側面、 33b,133b;第二溝側面、 40;ボールねじ装置、 50,150;支持ユニット、 51;内輪、 51b1;第一内輪端面、 52;外輪、 54;軸受ボール(転動体)、 70;複列アンギュラ玉軸受(転がり軸受)、 80;リテーナ、 80A;リテーナ素材、 80A3;端面、 81;内輪当接部、 81a;テーパ面、 81b;内輪当接部端面、 82,182;進入部、 82A;進入部素材、 82a,182a;第一進入部端面、 82b,182b;第二進入部端面、 83;パンチ、 83a;テーパ部、 90;隙間部材、 M;電動モータ(モータ)。