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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】永久磁石同期モータの駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221220BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20221220BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02P29/024
H02P27/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018195013
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020065341
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】坂野 正太郎
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-121202(JP,A)
【文献】特開2017-034768(JP,A)
【文献】特開2011-155708(JP,A)
【文献】特開2015-126608(JP,A)
【文献】特開2016-165180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0304189(US,A1)
【文献】特開2015-142462(JP,A)
【文献】特開2011-041366(JP,A)
【文献】特開2010-246182(JP,A)
【文献】特許第6230677(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42-7/98
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相の永久磁石同期モータを駆動する三相のインバータと、前記インバータを構成する半導体スイッチング素子の駆動信号を生成する制御装置と、を有する永久磁石同期モータの駆動システムにおいて、
前記制御装置は、
前記インバータの異常を検知する第1機能と、
前記インバータの各相出力電流を検出する第2機能と、
前記第1機能により異常を検知した際に前記永久磁石同期モータの固定子巻線を短絡させるために、前記第2機能により検出した各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上下アームの短絡を回避しつつ全相の上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせるように前記駆動信号を生成する第3機能と、
を備え
前記駆動信号を生成する駆動回路が前記第1機能を備え、
前記第3機能は、更に、前記駆動回路により異常を検知した際に、前記インバータの全ての半導体スイッチング素子をOFFさせると共に、各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の短絡固着の有無を判断し、かつ、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子に短絡固着無しと判断した時に、前記インバータの全てのレグについて上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせて前記固定子巻線を短絡し、各相出力電流のバランス状態に応じて上アームまたは下アームの何れに開放固着が有るかを判断し、または固着故障が無いと判断することを特徴とした永久磁石同期モータの駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載した永久磁石同期モータの駆動システムにおいて、
前記第3機能は、更に、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子に短絡固着有りと判断した時に、前記インバータの異常発生レグ以外のレグについて上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせて前記固定子巻線を短絡し、各相出力電流のバランス状態に応じて上アームまたは下アームの何れに短絡固着が有るかを判断することを特徴とした永久磁石同期モータの駆動システム。
【請求項3】
三相の永久磁石同期モータを駆動する三相のインバータと、前記インバータを構成する半導体スイッチング素子の駆動信号を生成する制御装置と、を有する永久磁石同期モータの駆動システムにおいて、
前記制御装置は、
前記インバータの異常を検知する第1機能と、
前記インバータの各相出力電流を検出する第2機能と、
前記第1機能により異常を検知した際に前記永久磁石同期モータの固定子巻線を短絡させるために、前記第2機能により検出した各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上下アームの短絡を回避しつつ全相の上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせるように前記駆動信号を生成する第3機能と、
を備え、
前記第1機能を、前記駆動信号を生成する駆動回路以外の部分が備えており、
前記第3機能は、更に、前記第1機能により異常を検知した際に、前記各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の開放固着の有無を判断し、または固着故障が無いと判断することを特徴とした永久磁石同期モータの駆動システム。
【請求項4】
三相の永久磁石同期モータを駆動する三相のインバータと、前記インバータを構成する半導体スイッチング素子の駆動信号を生成する制御装置と、を有する永久磁石同期モータの駆動システムにおいて、
前記制御装置は、
前記インバータの異常を検知する第1機能と、
前記インバータの各相出力電流を検出する第2機能と、
前記第1機能により異常を検知した際に前記永久磁石同期モータの固定子巻線を短絡させるために、前記第2機能により検出した各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上下アームの短絡を回避しつつ全相の上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせるように前記駆動信号を生成する第3機能と、
を備え、
前記駆動信号を生成する駆動回路が前記第1機能を備え、
前記第3機能は、更に、前記駆動回路により異常を検知した際に、前記インバータの全ての半導体スイッチング素子をOFFさせると共に、各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の短絡固着の有無を判断し、
前記第3機能は、更に、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子に短絡固着有りと判断した時に、前記インバータの異常発生レグ以外のレグについて上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の一方側の素子をONさせて前記固定子巻線を短絡し、各相出力電流のバランス状態に応じて上アームまたは下アームの何れに短絡固着が有るかを判断し、短絡固着が有ると判断した時は、前記一方側の素子に代えて、他方側の素子をONさせることを特徴とした永久磁石同期モータの駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータにより永久磁石同期モータを駆動する駆動システムに関し、詳しくは、インバータを構成する半導体スイッチング素子の短絡故障や開放故障等を含む異常発生時に、異常発生部位を特定しながら同期モータの巻線を短絡して安全側への退避動作を行うフェイルセーフ技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図11は、永久磁石同期モータの駆動システムの主回路構成図である。
図11において、10は直流電源、20はIGBTやMOSFET等の半導体スイッチング素子Q,Q,Q,Q,Q,Qからなる三相の電圧型インバータ、PMSMは永久磁石同期モータである。以下では、永久磁石同期モータPMSMを単に同期モータとも言い、固定子巻線のみを図示する。
【0003】
上記の駆動システムにおいて、外的要因により同期モータの回転子が強制的に駆動されると、発電機動作により発生する回生電圧が過大になってスイッチング素子を破壊したり、人体に危険を及ぼす恐れがある。
このため、従来より、インバータの直流電圧等の異常を検出してフェイルセーフ動作を行う発明が種々提供されている。
【0004】
例えば、図12は、特許文献1に記載されたインバータのフェイルセーフ装置を示している。図12において、30は駆動切替回路であり、インバータ20の一相分のレグを構成するスイッチング素子Q,Qの駆動信号(ゲート信号)を生成する。この駆動切替回路30は、三相PWM駆動回路32と、過電圧検出回路31に接続された三相短絡駆動回路33と、各駆動回路32,33の出力信号に応じてスイッチング素子Q,Qの駆動信号を生成するアンド回路34及びオア回路35と、を備えている。
なお、過電圧検出回路31及び各駆動回路32,33は、他相のスイッチング素子に対する駆動信号の生成にも用いられる。
【0005】
上記従来技術において、正常時には、三相PWM駆動回路32からのPWM信号により、アンド回路34及びオア回路35を介してスイッチング素子Q,Qが駆動される。
また、インバータ20の直流電圧が過電圧検出回路31による設定電圧を超えると、三相短絡駆動回路33の出力信号がオア回路35を介してスイッチング素子Qに入力され、このスイッチング素子Qを他相のスイッチング素子Q,Qと共に短絡させる。これにより、同期モータの回転数を低下させてインバータ20の直流電圧を正常値にまで低下させることができる。
【0006】
更に、図13は、特許文献2に記載されたインバータのフェイルセーフ装置を示している。図13において、36は制御装置、37は直流電圧検出手段、38はフェイルセーフ機能を備えたインバータ駆動回路、38aはインバータ20のスイッチング素子をONさせる短絡手段、38bはスイッチング素子を間欠的にONさせる間欠短絡手段、38cはスイッチング素子をOFFさせる開放手段である。
【0007】
この従来技術では、図14に示すように、直流電圧検出手段37が検出した直流電圧と短絡閾値及びそれより小さい開放閾値との大小関係に応じて、短絡手段38aによる短絡動作(ステップS51,S52)、開放手段38cによる開放動作(ステップS53,S54)、または、間欠短絡手段38bによる間欠短絡動作を選択する。これにより、インバータ20の全相下アームの短絡(線間短絡)、全相上下アームの開放(線間開放)、または間欠的な短絡を行い、直流電圧上昇時のフェイルセーフ動作を行っている。
なお、特許文献2では、インバータの交流電圧やモータの回転速度に対しても、それぞれ所定の閾値との比較結果に基づく短絡動作、開放動作等を可能にしている。
【0008】
上述した特許文献1,2に記載された従来技術は、主にインバータの直流電圧が過電圧になった時のフェイルセーフ技術に関するものである。
これに対し、インバータを構成するスイッチング素子の短絡故障等を検出し、短絡した相(レグ)や上下アームを特定して退避動作を行う従来技術が、特許文献3~5に開示されている。
【0009】
例えば、特許文献3には、インバータの異常を検出して上下アームを全てオフしたにも関わらず一定値以上の相電流が流れる場合に、各相電流をスムージングした信号に基づく差電流と一相短絡、二相短絡(二相の同アーム短絡)、三相短絡(三相の同アーム短絡)の各電流レベルとをそれぞれ比較して短絡相数、短絡相及び上下アームを特定し、全相を短絡させた後に他のインバータによる退避運転を行う発明が開示されている。
なお、図15(a)は一相(U相)短絡時、図15(b)は二相(U相,V相)短絡時、図15(c)は三相短絡時の各相電流波形である。
【0010】
また、特許文献4には、同期モータの逆起電力により発生する三相交流電流がゼロクロスする相の有無及び相数に基づいて、一相,二相,三相短絡を判別し、一相または二相短絡時には短絡相の電流の向きに応じて上アームまたは下アームを短絡して安全動作を行う技術が開示されている。
更に、特許文献5には、一相短絡故障が発生した時に三相短絡制御を行い、その状態で一相開放故障(他の二相の短絡)が発生したことを検出して安全動作に移行する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第5813167号公報(段落[0011]~[0019]、図1図2等)
【文献】特許第5398815号公報(段落[0008]~[0013]、図1図5等)
【文献】特許第5003589号公報(段落[0024]~[0033]、図3図4等)
【文献】特開2016-123141号公報(段落[0040]~[0043]、図8等)
【文献】特許第5277817号公報(段落[0101]~[0120]、図7等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1,2に記載された従来技術は、スイッチング素子の短絡固着や開放固着等を対象としたものではなく、これらの故障発生時には同期モータを駆動できなくなる場合がある。
また、特許文献1~5に記載された従来技術では、インバータの全相の上アームまたは下アームのスイッチング素子をONさせてフェイルセーフ動作を行う際に、反対側アームのスイッチング素子に短絡固着や開放固着等が生じていると、例えば上下アームの短絡等により二次故障を招く恐れがある。
【0013】
そこで、本発明の解決課題は、インバータの各相出力電流のバランス状態に着目してスイッチング素子の短絡固着や開放固着等を検出し、上下アーム短絡を回避しつつ同期モータの固定子巻線を短絡させてフェイルセーフ動作を行うようにした永久磁石同期モータの駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、三相の永久磁石同期モータを駆動する三相のインバータと、前記インバータを構成する半導体スイッチング素子の駆動信号を生成する制御装置と、を有する永久磁石同期モータの駆動システムにおいて、
前記制御装置は、
前記インバータの異常を検知する第1機能と、
前記インバータの各相出力電流を検出する第2機能と、
前記第1機能により異常を検知した際に前記永久磁石同期モータの固定子巻線を短絡させるために、前記第2機能により検出した各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上下アームの短絡を回避しつつ全相の上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせるように前記駆動信号を生成する第3機能と、
を備え
前記駆動信号を生成する駆動回路が前記第1機能を備え、
前記第3機能は、更に、前記駆動回路により異常を検知した際に、前記インバータの全ての半導体スイッチング素子をOFFさせると共に、各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の短絡固着の有無を判断し、かつ、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子に短絡固着無しと判断した時に、前記インバータの全てのレグについて上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせて前記固定子巻線を短絡し、各相出力電流のバランス状態に応じて上アームまたは下アームの何れに開放固着が有るかを判断し、または固着故障が無いと判断することを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した永久磁石同期モータの駆動システムにおいて、
前記第3機能は、更に、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子に短絡固着有りと判断した時に、前記インバータの異常発生レグ以外のレグについて上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせて前記固定子巻線を短絡し、各相出力電流のバランス状態に応じて上アームまたは下アームの何れに短絡固着が有るかを判断することを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る発明は、三相の永久磁石同期モータを駆動する三相のインバータと、前記インバータを構成する半導体スイッチング素子の駆動信号を生成する制御装置と、を有する永久磁石同期モータの駆動システムにおいて、
前記制御装置は、
前記インバータの異常を検知する第1機能と、
前記インバータの各相出力電流を検出する第2機能と、
前記第1機能により異常を検知した際に前記永久磁石同期モータの固定子巻線を短絡させるために、前記第2機能により検出した各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上下アームの短絡を回避しつつ全相の上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせるように前記駆動信号を生成する第3機能と、
を備え、
前記第1機能を、前記駆動信号を生成する駆動回路以外の部分が備えており、
前記第3機能は、更に、前記第1機能により異常を検知した際に、前記各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の開放固着の有無を判断し、または固着故障が無いと判断することを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る発明は、三相の永久磁石同期モータを駆動する三相のインバータと、前記インバータを構成する半導体スイッチング素子の駆動信号を生成する制御装置と、を有する永久磁石同期モータの駆動システムにおいて、
前記制御装置は、
前記インバータの異常を検知する第1機能と、
前記インバータの各相出力電流を検出する第2機能と、
前記第1機能により異常を検知した際に前記永久磁石同期モータの固定子巻線を短絡させるために、前記第2機能により検出した各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上下アームの短絡を回避しつつ全相の上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子をONさせるように前記駆動信号を生成する第3機能と、
を備え、
前記駆動信号を生成する駆動回路が前記第1機能を備え、
前記第3機能は、更に、前記駆動回路により異常を検知した際に、前記インバータの全ての半導体スイッチング素子をOFFさせると共に、各相出力電流のバランス状態に応じて、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の短絡固着の有無を判断し、
前記第3機能は、更に、前記インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子に短絡固着有りと判断した時に、前記インバータの異常発生レグ以外のレグについて上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の一方側の素子をONさせて前記固定子巻線を短絡し、各相出力電流のバランス状態に応じて上アームまたは下アームの何れに短絡固着が有るかを判断し、短絡固着が有ると判断した時は、前記一方側の素子に代えて、他方側の素子をONさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、インバータの異常発生時に最終的に同期モータの巻線短絡を行う場合に、上下アーム短絡等の二次故障を回避しながら確実にフェイルセーフ動作を行うことができ、故障が発生したレグ(相)を特定してスイッチング素子の短絡固着の有無を判断することができる。
また、請求項またはに係る発明によれば、短絡固着または開放固着が発生したアームを特定し、または固着故障の有無を判断することができる。
更に、請求項に係る発明によれば、駆動回路以外の部分が異常を検知した場合に、開放固着が発生したアームを特定し、または固着故障の有無を判断することが可能である。
また、請求項4に係る発明によれば、インバータの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の短絡固着が有りと判断した時に、インバータの異常発生レグ以外のレグについて上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子の一方側の素子をONさせ、固定子巻線の短絡が成功した場合に、異常発生レグの上アームまたは下アームの半導体スイッチング素子が短絡固着していると判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る駆動システムの主回路構成図である。
図2図1におけるインバータの制御装置の機能ブロック図である。
図3】本発明の実施形態において異常を検知した時の制御シーケンスを示すフローチャートである。
図4】全ゲート遮断時の各相電流の説明図である。
図5】正常な巻線短絡時の各相電流の説明図である。
図6】上アームのスイッチング素子の短絡固着時における各相電流の説明図である。
図7】下アームのスイッチング素子の短絡固着時における各相電流の説明図である。
図8】上アームのスイッチング素子の開放固着時における各相電流の説明図である。
図9】下アームのスイッチング素子の開放固着時における各相電流の説明図である。
図10】本発明の実施形態において、その他の異常を検知した時の制御シーケンスを示すフローチャートである。
図11】永久磁石同期モータの駆動システムの主回路構成図である。
図12】特許文献1に記載された従来技術の構成図である。
図13】特許文献2に記載された従来技術の構成図である。
図14】特許文献2に記載されたフェイルセーフ動作を示すフローチャートである。
図15】一相,二相,三相短絡時の各相電流を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、この実施形態に係る駆動システムの主回路構成図である。図1において、10は直流電源、20はIGBT等の半導体スイッチング素子Q,Q,Q,Q,Q,Qからなる三相の電圧型インバータ、PMSMは永久磁石同期モータである。なお、スイッチング素子Q,Q,Q,Q,Q,Qには、MOSFETやパワトランジスタ等を用いても良い。
インバータ20の各相(U,V,W相)の出力線には、電流検出器40u,40v,40wが設けられ、各相の電流検出値は、図2に示す制御装置内の制御演算部52に入力されている。
【0022】
図2は、インバータ20の制御装置の機能ブロック図である。この制御装置は、スイッチング素子Q(i=u~z)のゲート信号を生成するゲート駆動回路51と、主としてソフトウェアからなる制御演算部52とを備えている。
制御演算部52は、電流検出器40u,40v,40wによる検出信号が入力される相電流検出機能52aと、スイッチング素子Qの短絡故障や開放故障等を含むインバータの異常を検知する異常検知機能52bと、相電流検出機能52a及び異常検知機能52bに基づいて後述の制御シーケンスを実行する制御シーケンス処理機能52cと、正常運転時にインバータ20をPWM制御するためにスイッチング素子Qに対するPWM信号を出力するPWM出力機能52dと、異常発生時にスイッチング素子Qを強制的にONさせるためのポート出力機能52eと、これらの出力機能52d,52eを切り替える切替機能52fと、を有する。
また、ゲート駆動回路51は、切替機能52fの出力に応じてスイッチング素子QをON/OFFさせるゲート信号を生成する。
【0023】
次に、この実施形態の動作を説明する。
制御シーケンス処理機能52cは、例えば、スイッチング素子の短絡故障や開放故障等の異常発生時に図3の制御シーケンスを実行し、最終的に同期モータPMSMの固定子巻線を短絡させてフェイルセーフ動作を行う。
【0024】
ここで、ゲート駆動回路51が有する異常検知機能としては、上下アームの瞬間的な短絡を検出してゲートを遮断するDESAT機能やセンス電流の過電流検知機能が知られている。しかし、これらの異常検知機能では異常発生レグの特定は可能であるが、アームの上下を特定できないと共に、異常が一過性のものか継続するもの(スイッチング素子の短絡固着や開放固着等)かの判別も不可能である。
そこで、本実施形態では、制御シーケンス処理機能52cにより、異常発生時の三相電流のバランスに着目してインバータの異常発生レグやアームの上下を特定しながら巻線短絡を行わせるようにした。
【0025】
以下、図3のフローチャート及び図4図10を参照しつつ異常発生時の制御シーケンスを説明する。
図3は、ゲート駆動回路51が有するDESAT機能等によってインバータ20の異常を検知した場合に、同期モータPMSMの固定子巻線を短絡するようにスイッチング素子を制御してフェイルセーフ動作を行うための制御シーケンスである。
【0026】
まず、インバータ20による同期モータPMSMの運転中に異常が検知されると、全てのスイッチング素子Q(i=u~z)に対するゲート信号を遮断し(ステップS1)、次にインバータ20の各相電流のバランスを判断する(ステップS2)。
スイッチング素子Qが正常である場合、全ゲート遮断によってOFFされたスイッチング素子Qは還流ダイオードのみに通流可能であるから、同期モータPMSMの固定子巻線の誘起電圧の極性に応じて、図4(a),(b),(c)に示す方向に回生電流が流れる。この時の各相電流I,I,Iの位相は図4(d)のように互いに120[°]ずつずれており、バランスが保たれている(ステップS2 OK)。
【0027】
この場合、全ゲート遮断指令に従って全てのスイッチング素子が正常にOFFしているため、短絡固着していないと判断することができる。
そこで、図2のポート出力機能52e、切替機能52f及びゲート駆動回路51を介して、全相の一方のアーム、例えば上アームのスイッチング素子をONすることにより巻線短絡を試みる(ステップS3)。
【0028】
次に、インバータ20の各相電流のバランスを再び判断する(ステップS4)。上アームのスイッチング素子が開放固着していなければ、全相の上アームのスイッチング素子はステップS3によりONしているので、各相電流I,I,Iはバランスしているはずである。
つまり、各相電流I,I,Iがバランスしている時には(ステップS4 OK)、少なくとも上アームのスイッチング素子は短絡固着または開放固着しておらず、上アームのスイッチング素子のONによる巻線短絡は正常に行われている。なお、図5(a)は上アームのスイッチング素子のONによって巻線短絡が正常に行われた時の電流経路であり、図5(b)は各相電流I,I,Iの波形図である。
【0029】
次に、下アームのスイッチング素子について固着故障の有無の確認が不要であれば(ステップS5 Yes)、上アームのスイッチング素子のONによる巻線短絡が成功したものとして処理を終了する(ステップS31)。
【0030】
また、ステップS2において各相電流I,I,Iがアンバランスである場合(ステップS2 NG)、上アームまたは下アームのスイッチング素子に短絡固着が発生していると判断できる。
ここで、図6(a),(b),(c)は、例えばU相上アームのスイッチング素子Qが短絡固着している場合の、固定子巻線の誘起電圧の極性に応じた電流経路を示している。前記ステップS1によって全ゲートが遮断されているので、誘起電圧による電流は、図6(a),(b)のようにインバータ20の還流ダイオードのみを介して流れる。しかし、例えばあるレグのスイッチング素子が短絡固着していると、このスイッチング素子を介して、他の二相を流れる電流の和の逆極性の電流が流れるため、各相の電流波形に基づいて短絡固着しているレグを特定することができる。
例えば、スイッチング素子Qに短絡固着が発生している場合には、図6(c)のようにスイッチング素子Qを介した電流経路が存在し、図6(d)に示す波形のU相電流I=-(I+I)が観察される。
【0031】
従って、短絡固着による異常発生レグはU相と判断し、他の二相(V相,W相)について、例えば上アームのスイッチング素子をONすることによって全相の上アームのスイッチング素子をON状態とし、巻線短絡を試行する(ステップS6)。
その結果、各相電流I,I,Iがバランスしていれば(ステップS7 OK)、上アームのスイッチング素子のONによる巻線短絡は成功し、異常発生レグであるU相の上アームのスイッチング素子が短絡固着していると判断して処理を終了する(ステップS32)。
【0032】
更に、図3のステップS7において各相電流I,I,Iがアンバランスであれば(ステップS7 NG)、異常発生レグであるU相の下アームのスイッチング素子Qが短絡固着している可能性がある。
ここで、図7(a),(b)は、スイッチング素子Qが短絡固着している場合に全ゲート遮断(ステップS1)を行って各相電流がアンバランスである場合(ステップS2 NG)の電流経路であり、図7(c),(d)はU相以外のV相,W相の上アームのスイッチング素子をONして巻線短絡を試行し(ステップS6)、各相電流がアンバランスである場合(ステップS7 NG)の電流経路である。
図7(e)は、異常発生レグであるU相以外のV相,W相について、下アームのスイッチング素子をONして巻線短絡を試行し、これが成功した場合(ステップS8,S33)の電流経路であり、U相の下アームのスイッチング素子Qが短絡固着していると判断して処理を終了する。
【0033】
また、図3のステップS4において各相電流I,I,Iがアンバランスであれば(ステップS4 NG)、上アームのスイッチング素子が開放固着しているため全相の上アームのスイッチング素子をONさせて巻線短絡を行うことができない可能性がある。そこで、全相の下アームのスイッチング素子をONさせて巻線短絡を行い、上アームにスイッチング素子の開放固着が発生していると判断して処理を終了する(ステップS9,S34)。
【0034】
図8(a)は、例えば上アームのスイッチング素子Qが開放固着している場合に、全ゲート遮断(ステップS1)を行って各相電流がバランスしている場合(ステップS2 OK)、の電流経路、図8(b),(c)は、全相の上アームのスイッチング素子をONして巻線短絡を試行し(ステップS3)、各相電流がアンバランスである場合(ステップS4 NG)の電流経路である。また、図8(d)は、その後に下アームのスイッチング素子をONして巻線短絡が成功し、上アームのスイッチング素子Qが開放固着していると判断した場合(ステップS9,S34)の電流経路である。
【0035】
更に、ステップS5において、下アームのスイッチング素子について固着故障の有無を確認する必要がある場合(ステップS5 No)、全相の下アームのスイッチング素子をONして巻線短絡を試行し(ステップS10)、その後に各相電流のバランスを再び判断する(ステップS11)。
そして、各相電流がバランスしていれば(ステップS11 OK)、巻線短絡が成功し、下アームのスイッチング素子に固着故障がないと判断する(ステップS35)。また、各相電流がアンバランスである場合(ステップS11 NG)、上アームのスイッチング素子を再度ONして巻線短絡を完了し、下アームのスイッチング素子が開放固着していると判断して処理を終了する(ステップS12,S36)。
【0036】
図9(a)は、例えばU相の下アームのスイッチング素子Qが開放固着している場合に、全ゲート遮断(ステップS1)を行って各相電流がバランスしている場合(ステップS2 OK)、の電流経路、図9(b)は、上アームのスイッチング素子をONして巻線短絡を試行し(ステップS3)、各相電流がバランスしている場合(ステップS4 OK)の電流経路である。
また、図9(c),(d)は、下アームのスイッチング素子について固着故障の有無の確認が必要な場合に(ステップS5 No)、下アームのスイッチング素子をONして巻線短絡を試行した結果、各相電流がアンバランスとなり(ステップS10,S11 NG)、その後に全相の上アームのスイッチング素子を再度ONして巻線短絡が成功した場合(ステップS12,S36)の電流経路である。
【0037】
なお、この種のモータ駆動システムでは、ゲート駆動回路51により検知される異常以外にも、インバータの各相電流の過電流や直流入力電圧の過電圧など様々な異常が発生し得る。これらの異常に対しても、不要な励磁電圧や回生トルクの発生を抑制するために、同期モータPMSMの巻線短絡によるフェイルセーフ動作を行うことが有効である。
上記の点に鑑み、ゲート駆動回路51の異常検知機能以外によって検知される異常(ここでは、その他の異常という)が発生した場合には、図10の制御シーケンスに従って最終的に巻線短絡を行うことが望ましい。
【0038】
図10において、その他の異常が検知されると、ゲート駆動回路51により検知される短絡固着は発生していないと想定し、例えば全相の上アームのスイッチング素子をONして巻線短絡を試行し(ステップS21)、その後に各相電流のバランスを判断する(ステップS22)。
以後の各ステップ(S23~S27及びS41~S44)は、図3における各ステップ(S5,S9~S12及びS31,S35,S36,S34)とそれぞれ同一であるため、詳述を省略する。
【0039】
なお、上述したその他の異常が発生した場合でも、スイッチング素子の開放固着の可能性は残るため、各相電流がアンバランスであって(ステップS22 NGまたはステップS26 NG)巻線短絡の成功時には、それぞれ上アームまたは下アームに開放固着が発生していると判断する(ステップS44,S43)。
この場合、開放固着が発生しているレグ(相)を特定することはできないが、電流波形に顕著な特徴があることは明白なため、波形の特徴を更に分析して固着発生レグを特定することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
10:直流電源
20:インバータ
40u,40v,40w:電流検出器
51:ゲート駆動回路
52:制御演算部
52a:相電流検出機能
52b:異常検知機能
52c:制御シーケンス処理機能
52d: PWM出力機能
52e:ポート出力機能
52f:切替機能
,Q,Q,Q,Q,Q,Q:半導体スイッチング素子
PMSM:永久磁石同期モータ
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