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特許7196537石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20221220BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20221220BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
C22C38/00 301F
C22C38/38
C22C38/60
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018204699
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020070463
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 妃奈
(72)【発明者】
【氏名】長澤 慎
(72)【発明者】
【氏名】金子 道郎
(72)【発明者】
【氏名】澤村 充
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 和幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 実
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-084489(JP,A)
【文献】特開2014-019908(JP,A)
【文献】特開2016-027206(JP,A)
【文献】特開2010-064110(JP,A)
【文献】特開2016-089246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.01~0.20%、
Mn:0.1~2.0%、
Cr:0.1~1.54%、
Sn:0.060.18
を含有し、
Si:1.0%以下、
P:0.05%以下、
S:0.03%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.008%以下、
O:0.010%以下
に制限し、残部がFeおよび不純物からなる
石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Sb:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.30%未満、
Mo:1.0%以下、
W:1.0%以下
の1種又は2種以上を含有する、
請求項1に記載の石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼。
【請求項3】
さらに、質量%で、
Ti:0.10%以下、
Zr:0.20%以下、
Ca:0.050%以下、
Mg:0.050%以下、
REM:0.050%以下
の1種又は2種以上を含有する、
請求項1又は請求項2に記載の石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼。
【請求項4】
さらに、質量%で、
Nb:0.10%以下、
V:0.10%以下、
B:0.010%以下
の1種又は2種以上を含有する、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石炭を運搬する石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉内(以下、カーゴホールド内という場合がある。)の腐食が問題視されている。従来から、石炭が積載されるカーゴホールド内には塗装が施されていたが、石炭によるメカニカルダメージや、荷揚げ時の重機による疵・磨耗により、塗装が剥がれる場合が多く、生じた疵部が腐食環境に曝され、十分な防食効果が得られていない。
【0003】
塗膜形成による防食効果を維持するためには定期的な再塗装および補修が必要になるが、非常にコストがかかる。そのため、合金元素の微量添加により耐食性を向上させた耐食鋼が提案されている(例えば、特許文献1~4、参照)。
これらの特許文献に記載の技術は、SnやSb、Cuなどの酸による腐食を抑制する合金元素(耐酸元素)を添加し、低pH環境での耐食性の向上を狙った耐食鋼である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-262555号公報
【文献】特開2012-177190号公報
【文献】特開2013-227610号公報
【文献】特開2016-027198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、カーゴホールド内では、船倉の側壁部に生じた結露水中に、石炭に含まれる硫黄が溶け出し、温度の上昇によって硫酸が生成し、低pH環境となるため腐食が進行するものと考えられていた。しかし、本発明者らが、カーゴホールド内にて腐食した鋼材を分析した結果、地鉄界面からは塩化物イオン(Cl)認められたものの、硫酸イオン(SO 2-)は認められなかった。したがって、カーゴホールド内の主要腐食因子は硫酸イオン(SO 2-)ではなく、塩化物イオン(Cl)であると考えられる。
【0006】
従来、カーゴホールド内では硫酸によって鋼材の腐食が進行すると考えられていたため、耐酸元素を添加し、酸による腐食を促進する合金元素の添加は避けられていた。しかし、本発明者らによる検討の結果、カーゴホールド内では塩化物イオン(Cl)が腐食の主な原因であることが判明した。したがって、石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼の成分設計には、従来とは異なるコンセプトが必要になる。
即ち、本発明者らの研究により、硫酸イオンが影響する腐食形態ではなく、塩化物イオンが影響する腐食形態を考慮して船倉用耐食鋼の成分設計を行う必要があることがわかった。
【0007】
本発明は、SnやSb、Cuなどの耐酸元素を添加した従来技術に基づく耐食鋼の成分設計に比べて、カーゴホールド内の塩化物イオンが影響する腐食環境に、より適しており、更に腐食を抑制することができる石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの研究により、カーゴホールド内の鋼板表面に生成した錆層にはβ-FeOOHが含まれることを知見したことから、カーゴホールド内では塩化物イオン(Cl)が腐食の原因となり、中性塩化物環境とpHが低下した高濃度の塩化物環境(低pH高濃度塩化物環境)とが繰り返される腐食環境になっていると考えた。中性塩化物環境は、石炭が船倉に積載された状態(積荷状態という)の鋼材と石炭との界面の腐食環境であると考えられる。一方、低pH高濃度塩化物環境は、石炭が船倉から揚荷された状態(空荷状態という)の鋼材の表面の腐食環境であると考えられる。
【0009】
積荷状態では、港湾で保管されていた石炭に含まれている、海塩などの塩化物、及び、雨や冷却水などの水分によって、石炭と鋼材の表面との間に塩化物イオンを含む中性の溶液が常に存在する中性塩化物環境になっていると推定される。
一方、空荷状態では、船倉内に残留した海塩に含まれる塩化物が吸湿することなどによって、鋼材の表面に塩化物イオンが濃化した薄い水膜が形成され、腐食の進行に伴ってpHが低下し、鋼材の表面が低pH高濃度塩化物環境になっていると推定される。
【0010】
本発明者らは、カーゴホールド内が、中性塩化物環境と低pH高濃度塩化物環境とが繰り返される腐食環境になっているという推定に基づいて、鋼材の腐食を抑制する合金元素の検討を行った。そして、本発明者らは、中性塩化物環境での腐食を抑制するCrと、低pH高濃度塩化物環境での腐食を抑制するSnとを同時に含有させることによって、腐食を顕著に抑制することに成功した。
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0011】
[1]本発明は、質量%で、C:0.01~0.20%、Mn:0.1~2.0%、Cr:0.1~1.54%、Sn:0.060.18%を含有し、Si:1.0%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Al:0.10%以下、N:0.008%以下、O:0.010%以下に制限し、残部がFeおよび不純物からなる石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼に関する。
【0012】
[2]本発明において、さらに、質量%で、Sb:0.50%以下、Cu:0.50%以下、Ni:0.30%未満、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下の1種又は2種以上を含有する上記[1]に記載の石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼であっても良い。
【0013】
[3]本発明において、さらに、質量%で、Ti:0.10%以下、Zr:0.20%以下、Ca:0.050%以下、Mg:0.050%以下、REM:0.050%以下の1種又は2種以上を含有する、上記[1]又は[2]に記載の石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼であっても良い。
[4]本発明において、さらに、質量%で、Nb:0.10%以下、V:0.10%以下、B:0.010%以下の1種又は2種以上を含有する、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カーゴホールド内の腐食環境に適する、石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼を提供することができる。そして、本発明によれば、カーゴホールド内の腐食による部材切り替えや再塗装によるメンテナンスコストを大幅に低減することができる。したがって、本発明は産業上の貢献が極めて顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係る石炭専用船又は鉱炭兼用船の船倉用耐食鋼について詳しく説明する。
まず、本実施形態の船倉用耐食鋼の化学組成について述べる。なお、化学組成における各元素の含有量を示す「%」は、質量%を意味する。また、化学組成における数値範囲において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に指定しない限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。よって、例えば、0.01~0.20%は0.01%以上0.20%以下の範囲を意味する。
【0016】
(C:0.01~0.20%)
C(炭素)は、鋼の強度を増加させる元素であり、効果を十分に得るために、Cの含有量を0.01%以上とする。好ましくはC含有量を0.03%以上とする。一方、C含有量が過剰になると、セメンタイトの生成によって耐食性が低下するため、Cの含有量を0.20%以下とする。好ましくは、C含有量を0.15%以下とする。
【0017】
(Si:1.0%以下)
Si(ケイ素)は、脱酸剤として有用でかつ鋼の強度を増加させる元素である。脱酸はSi以外の元素でも可能であり、Siの含有量は0%でもよいが、効果を得るためにSi含有量を0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくはSi含有量を0.02%以上、さらに好ましくは0.05%以上とする。しかし、1.0%を超えてSiを含有させると母材および溶接継手部の靱性が損なわれるため、Siの含有量を1.0%以下に制限する。好ましくは、Si含有量を0.5%以下、より好ましくは0.3%以下とする。
【0018】
(Mn:0.1~2.0%)
Mn(マンガン)は、鋼の強度と靱性を向上させる元素であり、Mnの含有量を0.1%以上とする。好ましくはMn含有量を0.2%以上、より好ましくは0.5%以上とする。一方、Mnは、腐食の起点となるMnSを形成する元素であり、鋼材の耐食性の劣化を避けるため、Mnの含有量を2.0%以下とする。好ましくはMn含有量を1.5%以下、より好ましくは1.2%以下とする。
【0019】
(P:0.05%以下)
P(リン)は、不純物であり、鋼材の機械特性や溶接性を劣化させるため、Pの含有量を0.05%以下とする。好ましくは0.025%以下である。Pの含有量は0%でもよいが、製造コストの観点から、0.0001%以上のPを含有させてもよい。また、Pは、塩化物環境での鋼の耐食性を向上させる元素であり、Pの含有量を0.001%以上としてもよい。
【0020】
(S:0.03%以下)
S(硫黄)は、不純物であり、腐食を促進するMnSを形成するため、Sの含有量を0.03%以下に制限する。S含有量は0.005%以下が好ましく、より好ましくは0.003%以下とする。Sの含有量は0%でもよいが、製造コストの観点から、0.0001%以上のSを含有させてもよい。
【0021】
(Al:0.10%以下)
Al(アルミニウム)は、鋼の脱酸に有効な元素であり、0.10%以下を含有させる。好ましくは、Al含有量を0.07%以下とする。脱酸はAl以外の元素でも可能であり、Alの含有量は0%でもよいが、効果を得るためにAl含有量を0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくはAl含有量を0.01%以上とする。
【0022】
(Cr:0.1~3.0%)
Cr(クロム)は、中性塩化物環境で鋼のアノード溶解速度を低減する重要な元素であり、積荷状態のカーゴホールド内の耐食性を向上させるために、Crの含有量を0.1%以上とする。好ましくはCr含有量を0.2%以上、より好ましくは0.3%以上とする。一方、Crを過剰に含有させると溶接性を損なうので、Crの含有量を3.0%以下とする。好ましくはCr含有量を2.5%以下、より好ましくは2.0%以下とする。
【0023】
(Sn:0.05~0.50%)
Sn(錫)は、低pH高濃度塩化物環境で鋼のアノード溶解速度を低減し、また、カソード反応を抑制する重要な元素あり、空荷状態のカーゴホールド内の耐食性を向上させるために、Snの含有量を0.05%以上とする。好ましくはSn含有量を0.07%以上、より好ましくは0.10%以上とする。一方、Snを過剰に含有させると、製造性を損なうため、Snの含有量を0.50%以下とする。好ましくはSn含有量を0.35%以下とする。
【0024】
(N:0.008%以下)
N(窒素)は、不純物であり、鋼材の靭性を低下させる粗大な窒化物の形成を防止するため、N量を0.008%以下とする。好ましくはN含有量を0.006%以下とする。N含有量の下限は0%であってもよいが、製造コストの観点から、0.001%以上であってもよい。
【0025】
(O:0.010%以下)
O(酸素)は、不純物であり、鋼材の靭性を低下させる粗大な酸化物の形成を防止するため、O含有量を0.010%以下とする。好ましくはO含有量を0.006%以下、より好ましくは0.004%以下とする。O含有量の下限は0%であってもよいが、製造コストの観点から、0.0001%以上であってもよい。
【0026】
本実施形態に係る鋼材の上記各成分以外の成分は、Fe及び不純物である。ここで、不純物とは、厚鋼板を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。ただし、本発明においては、不純物のうち、P、S、N及びOについては、上述のように、上限を規定する必要がある。
【0027】
カーゴホールド内の腐食環境において、特に空荷状態での鋼材の耐食性を更に高めるために、上述の成分に加え、Sb、Cu、Ni、Mo、Wのうち、1種又は2種以上を本実施形態の船倉用耐食鋼に含有させてもよい。
【0028】
(Sb:0.50%以下)
Sb(アンチモン)は、Snと同様、空荷状態での耐食性を向上させる元素であり、Sbの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくはSb含有量を0.05%以上とする。一方、Sbを過剰に含有させると、製造性を損なうため、Sbの含有量を0.50%以下とする。好ましくはSb含有量を0.35%以下とする。
【0029】
(Cu:0.50%以下)
Cu(銅)は、Sn、Sbと同様、空荷状態での耐食性を向上させる元素であり、Cuの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくはCu含有量を0.05%以上とする。CuとSnとを共存させると、カーゴホールド内での耐食性が著しく向上するので、共存させるのが好ましい。一方、Cuを過剰に含有させると、製造性を損なうため、Cuの含有量を0.50%以下とする。好ましくはCu含有量を0.35%以下とする。
【0030】
(Ni:0.30%未満)
Niは、積荷状態および空荷状態のカーゴホールド内の耐食性を向上させる元素であり、Niの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくはNi含有量を0.05%以上とする。Niは、Cuを含有させた鋼を熱間圧延した際に生じる表面疵の抑制にも有効である。Niの含有量の上限は、コストの観点から0.30%未満とする。好ましくはNi含有量を0.20%以下とする。
【0031】
(Mo:1.0%以下)
Mo(モリブデン)は、酸素酸イオンMoO 2- を形成し、酸性溶液中にてインヒビターとして作用し、鋼のアノード溶解を抑制する元素である。空荷状態での耐食性を向上させるために、Moの含有量0.05%以上にすることが好ましい。より好ましくはMo含有量を0.1%以上とする。一方、Mo含有量は、1.0%を超えても効果が飽和するため、1.0%以下とする。好ましくは、Mo含有量を0.5%以下とする。
【0032】
(W:1.0%以下)
W(タングステン)は、Moと同様、酸素酸イオンWO を形成し、酸性溶液中にてインヒビターとして作用し、鋼のアノード溶解を抑制する元素である。空荷状態での耐食性を向上させるために、Wの含有量0.05%以上にすることが好ましい。より好ましくはW含有量を0.1%以上とする。一方、W含有量は、1.0%を超えても効果が飽和するため、1.0%以下とする。好ましくは、W含有量を0.5%以下とする。
【0033】
本実施形態の船倉用耐食鋼において、耐食性を低下させるMnSの生成の抑制や形態の制御を目的として、上述の成分に加え、Ti、Zr、Ca、Mg、REMの1種または2種以上を含有させてもよい。
【0034】
(Ti:0.10%以下)
Ti(チタン)は、硫化物や炭硫化物を形成する元素であり、腐食の起点となり耐食性を劣化させるMnSの生成を抑制するために、Tiの含有量を0.005%以上とすることが好ましい。より好ましくはTi含有量を0.01%以上とする。一方、Tiを過剰に含有させると靭性が劣化することがあるため、Ti含有量は0.10%以下とする。好ましくはTi量を0.05%以下とする。
【0035】
(Zr:0.20%以下)
Zr(ジルコニウム)は、硫化物を形成する元素であり、腐食の起点となり耐食性を劣化させるMnSの生成を抑制するために、Zrの含有量を0.005%以上とすることが好ましい。より好ましくはZr含有量を0.01%以上とする。一方、Zrを過剰に含有させると靭性が劣化することがあるため、Zr含有量は0.20%以下とする。好ましくはZr含有量を0.10%以下、より好ましくは0.05%以下とする。
【0036】
(Ca:0.050%以下)
(Mg:0.050%以下)
(REM:0.050%以下)
Ca、Mg、REMは、酸化物や硫化物の形態制御に用いられる元素であり、本実施形態の船倉用耐食鋼において1種又は2種以上を含有させてもよい。腐食の起点となり耐食性を劣化させるMnSの生成を抑制するために、Ca、Mg、REMのいずれかの元素の含有量を0.001%以上とすることが好ましい。また、これらの硫化物は腐食反応時に水に溶けてアルカリとなり、鋼材界面のpH低下を抑制する作用があるため、より好ましくはいずれかの元素の含有量を0.003%以上、さらに好ましくは0.005%以上とする。
一方、Ca、Mg、REMは過剰に含有させても効果が飽和するため、Ca、Mg、REMの含有量は0.050%以下とする。好ましくは0.030%以下、より好ましくは0.010%以下とする。
なお、REMは希土類金属元素、即ち、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuの総称である。REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
【0037】
本実施形態の船倉用耐食鋼において、鋼材の強度を高めるために、上述の成分に加え、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、B(ボロン)のうち、1種又は2種以上を含有させてもよい。
【0038】
(Nb:0.10%以下)
(V:0.10%以下)
Nb、Vは、炭化物や窒化物を形成し、鋼の強度を高める元素であり、いずれかの元素を0.005%以上含有させてもよい。好ましくは、Nb、Vのいずれかの元素の含有量を0.01%以上とする。一方、Nb、Vを過剰に含有させると、鋼材の靭性が低下するため、Nb、Vの含有量はそれぞれ0.10%以下とする。好ましくは、0.050%以下とする。
【0039】
(B:0.010%以下)
Bは、鋼の焼入れ性を高めて、強度を向上させる元素であり、0.0003%以上を含有させてもよい。好ましくはB含有量を0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。一方、Bを過剰に含有させると、鋼材の機械特性が損なわれる場合があるため、B含有量は0.010%以下とする。好ましくはB含有量を0.005%以下、さらに好ましくは0.003%以下とする。
【0040】
本実施形態において船倉用耐食鋼の形状は特に限定されず、鋼板、鋼帯、形鋼、鋼管、棒鋼、鋼線等であればよい。鋼板、鋼帯、形鋼、鋼管等の鋼材の厚さは特に限定されないが、通常3~50mmである。好ましい下限は6mm、より好ましくは10mmであり、好ましい上限は40mm、より好ましくは30mmである。
【0041】
次に、本実施形態に係る船倉用耐食鋼の製造方法について説明する。本実施形態に係る船倉用耐食鋼には、熱間圧延を施し、更に必要に応じて冷間圧延を施して製造される鋼板、形鋼、鋼管などが含まれる。
【0042】
本実施形態に係る船倉用耐食鋼は、常法で鋼を溶製し、成分の調整後、鋳造して得られた鋼片を熱間圧延し、更に必要に応じて冷間圧延を施して製造される。熱間圧延後は、そのまま水冷するか、又は空冷した後、再加熱して焼入れてもよい。熱間圧延後は、コイル状に巻き取ってもよい。熱間圧延後、冷間圧延して、更に熱処理を施してもよい。
【0043】
本実施形態において、鋼管を製造する場合は、鋼板を管状に成形して溶接してもよく、UO鋼管、電縫鋼管、鍛接鋼管、スパイラル鋼管などにすることができる。
鋼片に熱間押出や穿孔圧延を施して製造されるシームレス鋼管も本実施形態の船倉用耐食鋼に含まれる。
【実施例
【0044】
以下に、本発明の船倉用耐食鋼について実施例を示す。但し、以下に記載の実施例は具体的な例に沿って説明を行うものであり、本発明に係る請求項の内容を限定するものではない。
後記する表1、表2に示す化学組成の鋼片から、長さ100mm、幅60mm、厚み5mmの試験片を作製した。試験片の表面には、Sa2.5(ISO 8501-1)以上になるようにブラスト処理を施した。これらの試験片を用いてカーゴホールド内の環境を模擬した腐食試験を行った。
【0045】
腐食試験は、温度を40℃、相対湿度を98%に保持した試験槽内で行った。人工海水を含有させた石炭を試験片上に積載させた状態で試験槽内に1週間保持して積荷状態を再現し、次に、試験片の表面に付着した石炭をスクレーパーで軽く除去した状態で試験槽内に1週間保持して空荷状態を再現する工程を1サイクルとした。このサイクルを6サイクル行った後、スクレーパーにて試験片表面のさびを除去し、クエン酸アンモニウム溶液にてさびを除去した。
【0046】
その後、試験片の重量を測定し、試験前の試験片の重量から減じて腐食減量を求め、6サイクル(12週間)の腐食減量から腐食速度[mm/y]を算出した。yは年を意味する。
後記する表1、表2に示す鋼No.101はCr、Snの両方を含有しない従来鋼である。鋼No.101の腐食速度は、実際のカーゴホールド内に曝露した鋼材の腐食速度と同等であり、上記の腐食試験によってカーゴホールド内の環境を模擬できていることがわかった。各鋼の耐食性は、表1、表2の鋼No.101との腐食速度比(%)で評価した。
【0047】
化学組成と前記した試験の結果とを表1、表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1、表2に示したように、鋼No.1~11は、鋼No.101に対し腐食減量が抑制されており、耐食性が良好であった。
一方、Crを含み、Snを含まない鋼No.102や、CrとSnを複合添加していてもSn含有量が不足している鋼No.103は、耐食性の改善効果が不十分である。
また、Cr含有量、Sn含有量の両方が不足している鋼No.104は、酸性環境中でCrが悪影響となったため、鋼No.101よりも腐食減量が多くなったと考えられる。
Snを十分に含有しても、Cr含有量が不足している鋼No.105は、中性塩化物環境中での腐食抑制効果が小さくなり、十分な耐食性向上は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、カーゴホールド内の腐食による部材切り替えや再塗装によるメンテナンスコストを大幅に低減することができるので、産業上の貢献が極めて大きい。