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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】調圧バルブ
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/16 20060101AFI20221220BHJP
   F16K 31/363 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F01M1/16 F
F16K31/363
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018223125
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2020084920
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】岸 真人
(72)【発明者】
【氏名】井手 健太
(72)【発明者】
【氏名】磯田 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】堀川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 暁之
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188702(JP,A)
【文献】特開2014-101809(JP,A)
【文献】特開2005-105886(JP,A)
【文献】特開2018-080760(JP,A)
【文献】特開2017-020562(JP,A)
【文献】特開2005-133716(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3524784(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/16
F16K 31/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプから吐出されるオイルが流入する流入口およびオイルが流出する複数の流出口が形成されたハウジングと、
前記ハウジング内に移動可能に設けられ、前記複数の流出口の各々の開口面積を調整することにより油圧を調整する弁体とを備え、
前記複数の流出口は、エンジンの複数のオイル供給箇所としての互いに異なる要求油圧特性を有する第1オイル供給箇所、第2オイル供給箇所および第3オイル供給箇所にそれぞれ対応する要求油圧のオイルを供給する第1流出口、第2流出口および第3流出口を含み、
前記弁体は、エンジン回転数の増加に合わせて、前記ハウジング内において第1方向に移動するように構成され、
前記第1流出口および前記第2流出口は、互いに異なる開口面積を有するとともに、前記第1方向の位置が互いにオーバーラップする位置に配置されている、調圧バルブ。
【請求項2】
前記第1流出口の前記第1方向とは反対の第2方向側の端部と、前記第2流出口の前記第2方向側の端部とは、前記第1方向にずれて配置されている、請求項に記載の調圧バルブ。
【請求項3】
前記ハウジングの前記第1方向に直交する方向の断面において、少なくとも前記第1流出口および前記第2流出口は、それぞれ、前記第1方向に延びる中心軸線周りの周方向に異なる位置に設けられている、請求項またはに記載の調圧バルブ。
【請求項4】
前記第1流出口および前記第2流出口の一方は、前記第1オイル供給箇所としての第1油圧デバイスの要求油圧に合わせてオイルを供給するように構成され、
前記第1流出口および前記第2流出口の他方は、前記第2オイル供給箇所としての第2油圧デバイスの要求油圧に合わせてオイルを供給するように構成されており、
前記第3流出口は、前記第3オイル供給箇所としてのメインオイルギャラリの要求油圧に合わせてオイルを供給するように構成されている、請求項のいずれか1項に記載の調圧バルブ。
【請求項5】
前記弁体は、前記第1方向の移動に伴い前記第1流出口の開口面積および前記第2流出口の開口面積を小さくする第1弁部と、前記第1方向の移動に伴い前記第3流出口の開口面積を大きくする第2弁部とを有する、請求項のいずれか1項に記載の調圧バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調圧バルブに関し、特に、ハウジング内に移動可能に設けられる弁体を備える調圧バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジング内に移動可能に設けられる弁体を備える調圧バルブが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、ハウジング内に移動可能な状態で配置されている弁体を備える流量調整弁(調圧バルブ)が開示されている。上記特許文献1の流量調整弁のハウジングには、オイルポンプからのオイルが流入する第1流入孔および第2流入孔と、第1流入孔に連通する第1流出孔と、第2流入孔に連通する第2流出孔とが形成されている。
【0004】
上記特許文献1の流量調整弁では、第1流出孔から流出したオイルは、ピストンジェットに供給されるだけでなく、弁開閉時期制御装置およびターボチャージャにも供給される。また、上記特許文献1の流量調整弁では、第2流出孔から流出したオイルは、メインギャラリに供給される。
【0005】
ここで、上記特許文献1の流量調整弁では、ピストンジェットの要求油圧を満たすとともに、ピストンジェットに余剰油圧(油量)を発生させないようにするため、上記余剰油圧を第2流出孔からメインギャラリに逃がすことにより、オイルポンプのむだな仕事を低減させている。なお、要求油圧とは、オイルが供給されるエンジンの各部において、エンジン回転数に応じて必要とされるオイルの油圧またはオイルの油圧に対応する油量を示す広い概念である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6007746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の流量調整弁は、ピストンジェット(第1オイル供給箇所)の要求油圧のみ満たすものである。このため、ピストンジェットの要求油圧だけでなく、ピストンジェットとは異なる要求油圧を有する弁開閉時期制御装置(第2オイル供給箇所)の上記要求油圧も満たすことにより、オイルポンプのむだな仕事をより低減させることが望まれている。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、オイルポンプのむだな仕事をより低減させることが可能な調圧バルブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における調圧バルブは、オイルポンプから吐出されるオイルが流入する流入口およびオイルが流出する複数の流出口が形成されたハウジングと、ハウジング内に移動可能に設けられ、複数の流出口の各々の開口面積を調整することにより油圧を調整する弁体とを備え、複数の流出口は、エンジンの複数のオイル供給箇所としての互いに異なる要求油圧特性を有する第1オイル供給箇所、第2オイル供給箇所および第3オイル供給箇所にそれぞれ対応する要求油圧のオイルを供給する第1流出口、第2流出口および第3流出口を含み、弁体は、エンジン回転数の増加に合わせて、ハウジング内において第1方向に移動するように構成され、第1流出口および第2流出口は、互いに異なる開口面積を有するとともに、第1方向の位置が互いにオーバーラップする位置に配置されている。なお、要求油圧特性とは、第1オイル供給箇所、第2オイル供給箇所および第3オイル供給箇所の各々において、エンジン回転数に応じて必要とされるオイルの油圧またはオイルの油圧に対応する油量の傾向を示す。
【0010】
この発明の一の局面による調圧バルブでは、上記のように、複数の流出口に、エンジンの複数のオイル供給箇所としての互いに異なる要求油圧特性を有する第1オイル供給箇所、第2オイル供給箇所および第3オイル供給箇所にそれぞれ対応する要求油圧のオイルを供給する第1流出口、第2流出口および第3流出口を設ける。これにより、第1オイル供給箇所、第2オイル供給箇所および第3オイル供給箇所の各々に対応する専用の第1流出口、第2流出口および第3流出口により、第1オイル供給箇所、第2オイル供給箇所および第3オイル供給箇所の各々の要求油圧を個別に満たすことができる。この結果、第1オイル供給箇所、第2オイル供給箇所および第3オイル供給箇所の各々における余剰油圧の発生を抑制することができるので、オイルポンプのむだな仕事をより低減させることができる。
また、第1流出口および第2流出口が互いに異なる開口面積を有することにより、第1流出口から流出するオイルの油圧と第2流出口から流出するオイルの油圧とに差異を生じさせることができる。また、第1流出口および第2流出口の各々の第1方向の位置が互いにオーバーラップする位置に配置されることにより、第1方向に移動する弁体による第1流出口および第2流出口の各々が閉じ状態になるタイミングを合わせることができる。これらの結果、簡易な構成で第1オイル供給箇所および第2オイル供給箇所の各々に互いに異なる油圧のオイルを供給することができるとともに、第1流出口および第2流出口のいずれかが弁体により完全に閉塞することに起因して第1オイル供給箇所または第2オイル供給箇所へのオイルの供給が途絶えることを防止することができる。なお、閉じ状態とは、完全に閉じられた状態のみならず、第1流出口、第2流出口および第3流出口が、それぞれ、弁体により微小な隙間を残して大部分を閉じた状態を含む広い概念である。
【0013】
上記一の局面による調圧バルブにおいて、好ましくは、第1流出口の第1方向とは反対の第2方向側の端部と、第2流出口の第2方向側の端部とは、第1方向にずれて配置されている。
【0014】
このように構成すれば、第1方向に移動する弁体による第1流出口および第2流出口の各々を閉じ始めるタイミングをずらすことができる。これにより、第1流出口および第2流出口の各々を同じタイミングで閉じ始める場合よりも、オイルの油圧の急激な変化を抑制することができるので、オイルポンプにかかる負荷の増大を抑制することができる。
【0015】
上記一の局面による調圧バルブにおいて、好ましくは、ハウジングの第1方向に直交する方向の断面において、少なくとも第1流出口および第2流出口は、それぞれ、第1方向に延びる中心軸線周りの周方向に異なる位置に設けられている。
【0016】
このように構成すれば、ハウジングの第1方向に直交する方向の断面において、第1流出口および第2流出口が配置されていない場合よりも、第1流出口および第2流出口を設けるために必要なハウジングの第1方向の長さを小さくすることができる。これにより、調圧バルブを第1方向において小型化することができる。
【0017】
上記一の局面による調圧バルブにおいて、好ましくは、第1流出口および第2流出口の一方は、第1オイル供給箇所としての第1油圧デバイスの要求油圧に合わせてオイルを供給するように構成され、第1流出口および第2流出口の他方は、第2オイル供給箇所としての第2油圧デバイスの要求油圧に合わせてオイルを供給するように構成されており、第3流出口は、第3オイル供給箇所としてのメインオイルギャラリの要求油圧に合わせてオイルを供給するように構成されている。
【0018】
このように構成すれば、第1油圧デバイスの要求油圧に合わせて第1流出口が閉じ状態になった際に生じる余剰油圧、および、第2油圧デバイスの要求油圧に合わせて第2流出口が閉じ状態となった際に生じる余剰油圧の両方を、第3流出口から流出させてメインオイルギャラリに供給することができる。これにより、メインオイルギャラリではエンジン回転数の増加に合わせて要求油圧が増加するので、第1油圧デバイスに生じる余剰油圧、および、第2油圧デバイスの余剰油圧を用いてメインオイルギャラリの回転数に応じて増加する要求油圧を満たすことにより、第1油圧デバイスに生じる余剰油圧、および、第2油圧デバイスの余剰油圧の両方を有効に利用することができる。
【0019】
上記一の局面による調圧バルブにおいて、好ましくは、弁体は、第1方向の移動に伴い第1流出口の開口面積および第2流出口の開口面積を小さくする第1弁部と、第1方向の移動に伴い第3流出口の開口面積を大きくする第2弁部とを有する。
【0020】
このように構成すれば、弁体の弁部の数を流出口の数よりも小さくすることにより、弁体の形状が複雑になることを抑制することができるので、調圧バルブの構造の大型化および複雑化を抑制することができる。
【0021】
なお、本出願では、上記一の局面による調圧バルブにおいて、以下の構成も考えられる。
【0022】
(付記項1)
すなわち、上記一の局面による調圧バルブにおいて、第1流出口、第2流出口および第3流出口は、それぞれ、ハウジングのエンジンの取付面側に設けられている。
【0023】
このように構成すれば、調圧バルブのエンジンへの取付の際、第1流出口、第2流出口および第3流出口を、それぞれ、第1流出口、第2流出口および第3流出口に対応するエンジン側の油路に容易に接続することができる。
【0024】
(付記項2)
上記一の局面による調圧バルブにおいて、第1流出口は、第1油圧デバイスにオイルを供給するように構成され、第2流出口は、第1油圧デバイスよりも小さい要求油圧を有する第2油圧デバイスにオイルを供給するように構成されており、第2流出口の第1方向とは反対の第2方向側の端部は、第1流出口の第2方向側の端部よりも第1方向側に配置されている。
【0025】
このように構成すれば、第2流出口を閉じ始めるタイミングを第1流出口よりも遅らせることができるので、第2流出口から第2油圧デバイスに供給されるオイルの油圧の上昇を、第1油圧デバイスに供給されるオイルの油圧の上昇よりも緩やかにすることができる。これにより、第1油圧デバイスよりも小さい要求油圧を有する第2油圧デバイスに対して、オイルの油圧の上昇に起因する負荷の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態による調圧バルブおよび調圧バルブから分配されるオイルの循環を示した模式図である。
図2】一実施形態によるピストンジェット、可変カムタイミング機構およびメインオイルギャラリのそれぞれのエンジン回転数に対する第1要求油圧、第2要求油圧および第3要求油圧を示したグラフである。
図3】一実施形態による調圧バルブをエンジン本体に取り付けた状態を示した断面図である。
図4図3の100-100線に沿った断面図である。
図5図4の110-110線に沿った断面図である。
図6】一実施形態による調圧バルブをY1方向側から視たときの側面図である。
図7】一実施形態による調圧バルブの弁体の斜視図である。
図8】一実施形態による調圧バルブの初期状態(エンジン始動前)を示した断面図である。
図9】一実施形態による調圧バルブの第1所定回転数の状態を示した断面図である。
図10】一実施形態による調圧バルブの第2所定回転数の状態を示した断面図である。
図11】一実施形態の変形例による調圧バルブを示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1図7を参照して、エンジンEに設けられる調圧バルブ2bの構成について説明する。
【0029】
図1に示すように、車両(自動車)用のエンジンEは、内部にオイルV(エンジンオイル)を循環させてエンジンEの各部としての複数のオイル供給箇所SにオイルVを供給するように構成されている。具体的には、エンジンEは、オイルパン1と、オイルポンプ2aおよび調圧バルブ2bを含むオイル供給装置2を備えている。
【0030】
オイルパン1は、エンジンE内を循環するオイルVを貯留するように構成されている。オイルポンプ2aは、オイルパン1内のオイルVを吸い上げ、所定の油圧を発生させた状態(圧縮状態)のオイルVを吐出するように構成されている。オイルポンプ2aは、クランクシャフト(図示せず)の駆動力を利用し、オイルパン1内から吸い上げたオイルVに所定の油圧を発生させるように構成されている。したがって、オイルポンプ2aでは、エンジン回転数の上昇に伴い、オイルポンプ2aから吐出されるオイルVの所定の油圧も上昇する。
【0031】
調圧バルブ2bは、オイルポンプ2aから吐出された所定の油圧のオイルVを、エンジンEの各部のオイル供給箇所Sに分配するように構成されている。なお、調圧バルブ2bについての詳細な説明は後述する。
【0032】
調圧バルブ2bから分配されたオイルVは、複数のオイル供給箇所Sの各々の機能に応じて、油圧駆動・潤滑・冷却などに用いられる。ここで、複数のオイル供給箇所Sは、エンジン本体M内に配置されたエンジンEを構成するデバイスである。
【0033】
図2に示すように、複数のオイル供給箇所Sは、第1オイル供給箇所S1と、第2オイル供給箇所S2と、第3オイル供給箇所S3とを含んでいる。
【0034】
第1オイル供給箇所S1は、エンジン回転数が第1所定回転数R1(低回転)の状態において、第1~第3オイル供給箇所S1~S3の中で最も大きい要求油圧D(以下、第1要求油圧D1)を必要とするデバイスである。また、第1オイル供給箇所S1は、エンジン回転数が第1所定回転数R1以上になると、必要とされる第1要求油圧D1が抑制される(飽和する)デバイスである。
【0035】
具体的には、第1オイル供給箇所S1は、第1油圧デバイス3a(図1参照)の一例であるピストンジェット3を有している。第1油圧デバイス3aであるピストンジェット3は、第1要求油圧D1のオイルVをピストン(図示せず)の裏側にオイルVを噴射することによって、ピストンを冷却する機能を有している。ピストンジェット3では、第1所定回転数R1以上のエンジン回転数において、第1要求油圧D1を増加させたとしても、ピストンの冷却の効果が限定的になり余剰油圧(油量)となるので、第1所定回転数R1以上になると、必要とされる第1要求油圧D1が抑制される。このように、第1要求油圧D1とは、第1オイル供給箇所S1(ピストンジェット3)において、エンジン回転数に応じて必要とされるオイルVの油圧を示す。
【0036】
第2オイル供給箇所S2は、エンジン回転数が第1所定回転数R1(低回転)の状態において、第1~第3オイル供給箇所S1~S3の中で中間の要求油圧D(以下、第2要求油圧D2)を必要とするデバイスである。また、第2オイル供給箇所S2は、エンジン回転数が第2所定回転数R2以上になると、必要とされる第2要求油圧D2が抑制される(飽和する)デバイスである。
【0037】
具体的には、第2オイル供給箇所S2は、第2油圧デバイス4a(図1参照)の一例である可変カムタイミング機構4(以下、VCT(Variable Cam Timing)4)を有している。第2油圧デバイス4aであるVCT4は、第2要求油圧D2のオイルVにより運転状態に応じてカムシャフト(図示せず)の位相を制御する機能を有している。VCT4は、第2所定回転数R2以上のエンジン回転数において、第2要求油圧D2を増加させたとしても、VCT4に余剰油圧が生じてしまうので、第2所定回転数R2以上になると、必要とされる第2要求油圧D2が抑制される。このように、第2要求油圧D2とは、第2オイル供給箇所S2(VCT4)において、エンジン回転数に応じて必要とされるオイルVの油圧を示す。
【0038】
第3オイル供給箇所S3は、エンジン回転数が第1所定回転数R1(低回転)の状態において、第1~第3オイル供給箇所S1~S3の中で最低の要求油圧D(以下、第3要求油圧D3)を必要とするデバイスである。また、第3オイル供給箇所S3は、エンジン回転数が第1所定回転数R1以上になると必要とされる第3要求油圧D3が増加するとともに、エンジン回転数が第2所定回転数R2以上になると必要とされる第3要求油圧D3が増加するデバイスである。
【0039】
具体的には、第3オイル供給箇所S3は、メインオイルギャラリ5を有している。メインオイルギャラリ5とは、ピストン(図示せず)、シリンダ(図示せず)およびクランクシャフトの軸受(図示せず)などの摺動部材にオイルVを供給する基幹の流路である。メインオイルギャラリ5では、エンジン回転数が高回転になるに伴い、冷却・潤滑のために多量のオイルVが必要となるデバイスである。このように、第3要求油圧D3とは、第3オイル供給箇所S3(メインオイルギャラリ5)において、エンジン回転数に応じて必要とされるオイルVの油圧に対応する油量を示す。
【0040】
このため、メインオイルギャラリ5では、第1所定回転数R1以上になると第1オイル供給箇所S1に生じる余剰油圧により、第3要求油圧D3を増加させている。すなわち、第3要求油圧D3の傾きα2は、第1所定回転数R1以上になると第1要求油圧D1の傾きα1の分だけ大きくなる。また、メインオイルギャラリ5では、第2所定回転数R2以上になると第2オイル供給箇所S2においても生じる余剰油圧により、第3要求油圧D3を増加させている。すなわち、第3要求油圧D3の傾きβ2は、第2所定回転数R2以上になると第2要求油圧D2の傾きβ1の分だけ大きくなる。なお、傾きα1、α2、β1およびβ2とは、エンジン回転数に対する油圧の変化の割合であり、エンジン回転数の増加量に対する油圧の増加量の比率を表している。
【0041】
ここで、図1に示すように、エンジンEでは、オイル供給装置2により第1オイル供給箇所S1(以下、ピストンジェット3)、第2オイル供給箇所S2(以下、VCT4)および第3オイル供給箇所S3(以下、メインオイルギャラリ5)に供給されたオイルVは、オイルパン1に還流される。
【0042】
(調圧バルブ)
本実施形態の調圧バルブ2bは、複数のオイル供給箇所Sの各々に適量のオイルVを供給することにより、複数のオイル供給箇所Sの各々において生じる余剰油圧を減少させるように構成されている。すなわち、調圧バルブ2bは、複数のオイル供給箇所Sの各々の要求油圧Dに合わせて、オイルポンプ2aから吐出された所定の油圧のオイルVを分配するように構成されている。
【0043】
このような調圧バルブ2bは、図3および図4に示すように、ピストンジェット3へ繋がる第1油路6(図5参照)、VCT4へ繋がる第2油路7およびメインオイルギャラリ5へ繋がる第3油路8に連通した状態で、エンジン本体Mに取り付けられるように構成されている。
【0044】
調圧バルブ2bは、ハウジング21と、キャップ22と、付勢部材23と、弁体24とを含んでいる。調圧バルブ2bは、キャップ22により閉塞されたハウジング21内の弁体収納空間25において、弁体24を付勢部材23の付勢力に抗して移動させることにより、オイルポンプ2aから吐出された所定の油圧のオイルVを分配させるように構成されている。
【0045】
ここで、調圧バルブ2bでは、ハウジング21内における弁体24の移動方向をX方向とし、X方向の一方をX1方向(特許請求の範囲の「第1方向」の一例)とし、X方向の他方をX2方向(特許請求の範囲の「第2方向」の一例)とする。調圧バルブ2bでは、ハウジング21とエンジン本体Mとが隣り合う方向をY方向とし、Y方向のエンジン本体M側をY1方向とし、Y方向のハウジング21側をY2方向とする。調圧バルブ2bでは、X方向およびY方向に直交する方向をZ方向とし、Z方向の一方をZ1方向とし、Z方向の他方をZ2方向とする。
【0046】
ハウジング21は、弁体24を収納するように構成されている。具体的には、ハウジング21には、X2方向に窪んだ凹形状の弁体収納空間25が形成されている。ここで、弁体収納空間25は、スライド空間25aと、油圧供給空間25bとを有している。
【0047】
スライド空間25aは、X方向にスライド移動可能な状態で弁体24を収納するように構成されている。具体的には、スライド空間25aは、図5に示すように、X方向に直交する方向において、弁体24の大きさと略同じ大きさを有している。また、スライド空間25aは、X方向に直交する断面において、弁体24の後述する第1弁部24a(第2弁部24b)の断面形状と略同じ略円形状に形成されている。
【0048】
図3および図4に示すように、油圧供給空間25bは、オイルVを貯留することにより、スライド空間25aに収納された弁体24をX1方向にスライド移動させる油圧を発生させるように構成されている。具体的には、油圧供給空間25bは、VCT4へ繋がる第2油路7から延びる分岐油路7aを介して、第2油路7と連通している。つまり、油圧供給空間25bでは、VCT4に供給されるオイルVを流入させることにより、VCT4の第2要求油圧D2に対応した油圧が発生する。これにより、油圧供給空間25bでは、第2所定回転数R2のエンジン回転数まで油圧は比例的に上昇するが、第2所定回転数R2を超えると油圧の上昇は抑制される(図2参照)。
【0049】
また、油圧供給空間25bは、X方向に直交する方向の断面において、スライド空間25aよりも小さい。
【0050】
(流入口および複数の流出口)
ハウジング21は、図3および図4に示すように、オイルポンプ2aから吐出されたオイルVが流れる流入油路9を、ピストンジェット3に繋がる第1油路6(図5参照)、VCT4に繋がる第2油路7およびメインオイルギャラリ5に繋がる第3油路8に、分岐させるように構成されている。ここで、ハウジング21には、オイルポンプ2aから吐出されるオイルVが流入する流入口26および複数の流出口27が形成されている。
【0051】
流入口26は、流入油路9に連通するように構成されている。つまり、流入口26は、流入油路9の下流側端部に接続されている。流入口26は、ハウジング21のY2方向側の端部からY1方向にスライド空間25aまで貫通している。
【0052】
流入口26は、オイルポンプ2aから吐出される所定の油圧のオイルVを流入可能なように構成されている。ここで、流入口26は、Y1方向側から視て略円形状を有している。流入口26は、複数の流出口27のいずれよりも大きい直径を有している。流入口26は、X方向の中央部分に配置されているとともに、Z方向の中央部分に配置されている。
【0053】
複数の流出口27は、エンジンEの複数のオイル供給箇所Sとしての互いに異なる要求油圧特性を有するピストンジェット3、VCT4およびメインオイルギャラリ5にそれぞれ対応する要求油圧DのオイルVを供給する第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cを有している。つまり、複数の流出口27は、要求油圧特性が互いに異なる複数のオイル供給箇所Sの数に合わせて設けられている。
【0054】
〈第1流出口〉
図3および図6に示すように、第1流出口27aは、所定の油圧のオイルVから第1要求油圧D1(図2参照)を満たすオイルVをピストンジェット3に流出可能なように構成されている。すなわち、第1流出口27aは、ピストンジェット3の第1要求油圧D1を満たすようにオイルVを供給するように構成されている。
【0055】
具体的には、第1流出口27aのY2方向側の第1開口面積A1が、第1要求油圧D1により設定される。ここで、第1流出口27aは、Y1方向側から視て略円形状を有している。第1流出口27aは、第2流出口27bおよび第3流出口27cよりも小さい直径を有している。第1流出口27aは、ハウジング21のX方向の中央部分よりもX2方向側に配置されているとともに、ハウジング21のZ方向の中央部分よりもZ1方向側に配置されている。
【0056】
図5に示すように、第1流出口27aは、第1油路6に連通するように構成されている。つまり、第1流出口27aは、第1油路6の上流側端部に接続されている。第1流出口27aは、ハウジング21のY1方向側の端部からY2方向にスライド空間25aまで貫通している。
【0057】
第1流出口27aは、スライド空間25aのZ1方向側の部分に連通している。すなわち、第1流出口27aとスライド空間25aとを連通させる第1連通口28は、Z方向において、スライド空間25aの中央部よりもZ1方向側に配置されている。第1連通口28は、Y方向に沿った断面において、Y1方向に行くにしたがいZ2方向に曲がる略円弧状により形成されている。これらにより、第1連通口28を通過するオイルVの流れ方向は、Y1方向に行くにしたがいZ1方向に傾斜する斜め方向である。
【0058】
〈第2流出口〉
図3および図6に示すように、第2流出口27bは、所定の油圧のオイルVから第2要求油圧D2(図2参照)を満たすオイルVをVCT4に流出可能なように構成されている。すなわち、第2流出口27bは、VCT4の第2要求油圧D2を満たすようにオイルVを供給するように構成されている。
【0059】
具体的には、第2流出口27bのY2方向側の第2開口面積A2が、第2要求油圧D2により設定される。ここで、第2流出口27bは、Y1方向側から視て略円形状を有している。第2流出口27bは、第1流出口27aよりも大きくかつ第3流出口27cよりも小さい直径を有している。第2流出口27bは、ハウジング21のX方向の中央部分よりもX2方向側に配置されているとともに、ハウジング21のZ方向の中央部分よりもZ2方向側に配置されている。
【0060】
図5に示すように、第2流出口27bは、第2油路7に連通するように構成されている。つまり、第2流出口27bは、第2油路7の上流側端部に接続されている。第2流出口27bは、ハウジング21のY1方向側の端部からY2方向にスライド空間25aまで貫通している。
【0061】
第2流出口27bは、スライド空間25aのZ2方向側の部分に連通している。すなわち、第2流出口27bとスライド空間25aとを連通させる第2連通口29は、Z方向において、スライド空間25aの中央部よりもZ2方向側に配置されている。第2連通口29は、Y方向に沿った断面において、Y1方向に行くにしたがいZ1方向に曲がる略円弧状により形成されている。これらにより、第2連通口29を通過するオイルVの流れ方向は、Y1方向に行くにしたがいZ2方向に傾斜する斜め方向である。
【0062】
〈第3流出口〉
図3および図6に示すように、第3流出口27cは、所定の油圧のオイルVから第3要求油圧D3(図2参照)を満たすオイルVをメインオイルギャラリ5に流出可能なように構成されている。すなわち、第3流出口27cは、メインオイルギャラリ5の第3要求油圧D3を満たすようにオイルVを供給するように構成されている。
【0063】
具体的には、第3流出口27cのY2方向側の第3開口面積A3が、第3要求油圧D3により設定される。ここで、第3流出口27cは、Y1方向側から視て略円形状を有している。第3流出口27cは、第1流出口27aおよび第2流出口27bよりも大きい直径を有している。第3流出口27cは、ハウジング21のX方向の中央部分よりもX1方向側に配置されているとともに、ハウジング21のZ方向の中央部分に配置されている。
【0064】
図3に示すように、第3流出口27cは、第3油路8に連通するように構成されている。つまり、第3流出口27cは、第3油路8の上流側端部に接続されている。第3流出口27cは、ハウジング21のY1方向側の端部からY2方向にスライド空間25aまで貫通している。
【0065】
第3流出口27cは、図3および図6に示すように、スライド空間25aのZ方向の中央部分に連通している。すなわち、第2流出口27bとスライド空間25aとを連通させる第3連通口30は、Z方向において、スライド空間25aの中央部分に配置されている。これにより、第3連通口30を通過するオイルVの流れ方向は、Y1方向に沿った方向である。
【0066】
〈第1流出口、第2流出口および第3流出口の互いの位置関係〉
図4および図6に示すように、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cは、ぞれぞれ、ピストンジェット3、VCT4およびメインオイルギャラリ5の要求油圧Dに応じた位置に配置されている。具体的には、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、それぞれの第1要求油圧D1および第2要求油圧D2が抑制されるので、ハウジング21の弁体24の閉じ側の部分に配置されている。第3流出口27cは、第3要求油圧D3が抑制されないので、ハウジング21の弁体24の開放側の部分に配置されている。なお、閉じ側の部分とは、スライド空間25aのうち、エンジン回転数の上昇に伴う弁体24のスライド移動により開口が閉じられる側を示す。また、開放側の部分とは、スライド空間25aのうち、エンジン回転数の上昇に伴う弁体24のスライド移動により開口が開放される側を示す。
【0067】
第1流出口27aおよび第2流出口27bは、各々、弁体24の大型化を抑制するように配置されている。つまり、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、各々、X方向における中心点同士のずれを、X方向における流入口26の中心点と第3流出口27cの中心点とのずれよりも小さくなるように配置されている。
【0068】
詳細には、図6に示すように、第2流出口27bは、X方向において、第1流出口27aに収まる位置に配置されている。つまり、第2流出口27bは、X方向において、第1流出口27aのX方向の直径の範囲内に配置され、第1流出口27aとオーバーラップしている。
【0069】
図5に示すように、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、Z方向において異なる位置に配置されている。つまり、第1流出口27aは、第2流出口27bのZ1方向側に配置されている。また、ハウジング21のX1方向に直交する方向の断面において、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、それぞれ、X1方向に延びる中心軸線C周りの周方向に異なる位置P1、P2に配置されている。なお、X1方向に延びる中心軸線Cとは、Y方向の断面において、スライド空間25aおよび弁体24の中心を通りY方向に延びる軸線である。
【0070】
図2および図6に示すように、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、各々、第1要求油圧D1を抑制するタイミングと第2要求油圧D2を抑制するタイミングとをずらすように構成されている。すなわち、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、第2要求油圧D2を抑制するタイミングを第1要求油圧D1を抑制するタイミングよりも遅らせるように構成されている。
【0071】
具体的には、第2流出口27bの弁体24による閉じ開始位置は、ハウジング21において、第1流出口27aの弁体24による閉じ開始位置とはずれた位置に配置されている。つまり、第1流出口27aのX2方向側の端部127aと、第2流出口27bのX2方向側の端部127bとは、X1方向にずれた位置に配置されている。
【0072】
詳細には、第1流出口27aは、ピストンジェット3にオイルVを供給するように構成されている。第2流出口27bは、ピストンジェット3よりも小さい第2要求油圧D2を有するVCT4にオイルVを供給するように構成されている。これらのため、第2流出口27bのX2方向側の端部127bは、第1流出口27aのX2方向側の端部127aよりもX1方向側に配置されている。
【0073】
図4に示すように、第1流出口27aは、第1所定回転数R1(図2参照)ではなく第2所定回転数R2(図2参照)において、弁体24により閉じ状態になるように構成されている。つまり、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、それぞれ、弁体24による閉じ開始位置E1と閉じ開始位置E2とを異ならせているが、弁体24による閉じ状態の位置E3を略同じになるように構成されている。具体的には、第1流出口27aのX1方向側の端部と、第2流出口27bのX1方向側の端部とは、X方向において略同じ位置に配置されている。つまり、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、互いに異なる開口面積を有するとともに、X1方向の位置が互いにオーバーラップする位置に配置されている。
【0074】
図2および図3に示すように、第3流出口27cは、エンジン回転数の増加とともに要求油圧Dが増加するメインオイルギャラリ5へオイルVを供給するように構成されている。具体的には、第3流出口27cは、エンジン始動前、弁体24により閉じ状態となっているが、エンジン始動と共に弁体24により開放されていくように構成されている。すなわち、第3流出口27cのX2方向側の端部は、弁体24による開放開始位置である。第3流出口27cのX2方向側の端部は、X方向において、流入口26のX1方向側の端部と略同じ位置である。また、第3流出口27cのX1方向側の端部は、弁体24による開放位置である。第3流出口27cのX1方向側の端部は、X方向において、流入口26のX1方向側の端部よりもX1方向側の位置に配置されている。
【0075】
図3および図6に示すように、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cは、それぞれ、ハウジング21のエンジンEの取付面側に配置されている。また、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、各々、X方向において、流入口26の中央部よりもX2方向側に配置されている。第3流出口27cは、X方向において、流入口26の中央部よりもX1方向側に配置されている。すなわち、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cは、それぞれ、エンジン本体Mへの接続が容易な位置に配置されている。
【0076】
(弁体および付勢部材)
図4および図7に示すように、弁体24は、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cの各々の開閉状態を調節するように構成されている。つまり、弁体24は、付勢部材23からのX2方向側への付勢力と、油圧供給空間25bからのX1方向側への押圧力とがつり合う位置への移動により、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cの各々の開閉状態を調節するように構成されている。
【0077】
ここで、弁体24は、エンジン始動前の状態において、付勢部材23からのX2方向側への付勢力により、スライド空間25aにおいて最もX2方向側の位置に配置される。弁体24は、エンジン始動後において、抑制された状態の第2要求油圧D2の押圧力により、スライド空間25aにおいて最もX1方向側の位置に配置される。
【0078】
具体的には、弁体24は、第1弁部24aと、第2弁部24bと、第1弁部24aと第2弁部24bとを接続する軸部24cとを有している。
【0079】
第1弁部24aは、X1方向の移動に伴い第1流出口27aの第1開口面積A1および第2流出口27bの第2開口面積A2を小さくするように構成されている。第1弁部24aは、略円柱形状(図7参照)を有している。第1弁部24aのX方向に直交する方向の断面の大きさは、スライド空間25aのX方向に直交する方向の大きさと略同じである。第1弁部24aのX方向の長さは、第1流出口27aのX方向の長さよりも大きい。
【0080】
第2弁部24bは、X1方向の移動に伴い第3流出口27cの第3開口面積A3を大きくするように構成されている。第2弁部24bは、略有底円筒形状(図4参照)を有している。すなわち、第2弁部24bには、X1方向側の側面部からX2方向に窪んだ凹部124bが形成されている。第2弁部24bのX方向に直交する方向の断面の大きさは、スライド空間25aのX方向に直交する方向の大きさと略同じである。第2弁部24bのX方向の長さは、第3流出口27cのX方向の長さよりも大きい。
【0081】
軸部24cは、略円柱形状(図7参照)を有している。軸部24cのX方向に直交する方向の断面の大きさは、スライド空間25aのX方向に直交する方向の大きさよりも小さい。軸部24cのX方向の長さは、第2流出口27bのX1方向側の端部から第3流出口27cのX1方向側の端部までの長さよりも大きい。
【0082】
付勢部材23は、圧縮コイルばねを有している。付勢部材23では、X1方向側の端部がキャップ22のX2方向側の部分に当接しているとともに、X2方向側の端部が第2弁部24bのX1方向側の部分に当接している。
【0083】
ここで、調圧バルブ2bでは、スライド空間25aのうち、第1弁部24aのX1方向側の内周面、第2弁部24bのX2方向側の内周面およびハウジング21の内周面に囲まれる軸部24c以外の空間が、流入口26から流入したオイルVを分岐させるための分岐空間31である。分岐空間31には、流入口26から流入したオイルVが一時的に貯留される。
【0084】
〈弁体の移動と第1流出口、第2流出口および第3流出口との関係〉
図2および図8図10を参照して、弁体24の移動と第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cとの関係について説明する。
【0085】
図8に示すように、初期状態(エンジン始動前)において、調圧バルブ2bでは、第1弁部24aにより、第1流出口27aおよび第2流出口27bが開放状態にされる。また、第2弁部24bにより、第3流出口27cが閉じ状態にされる。
【0086】
図8の初期状態からエンジン回転数を上昇させることにより、図9に示す第1所定回転数R1(図2参照)の状態になる。この際、調圧バルブ2bでは、第1弁部24aにより、第1流出口27aが閉じ開始状態にされるとともに、第2流出口27bが開放状態に維持される。また、調圧バルブ2bでは、第3流出口27cが一部開放状態にされる。これにより、第1流出口27aの流路抵抗が第1弁部24aにより増加し、第3流出口27cにおける第2弁部24bによる流路抵抗が減少する。この結果、図2に示すように、第1流出口27aからピストンジェット3に供給されるオイルVの油圧の増加量の分だけ、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cの中で最も流路抵抗が低い第3流出口27cから流出するオイルVの油圧が増加する。
【0087】
図9の第1所定回転数R1の状態からエンジン回転数を上昇させることにより、図10に示す第2所定回転数R2(図2参照)の状態になる。この際、調圧バルブ2bでは、第1弁部24aにより、第1流出口27aが一部閉じ状態にされるとともに、第2流出口27bが閉じ開始状態にされる。また、調圧バルブ2bでは、第3流出口27cが一部開放状態にされる。これにより、第1流出口27aおよび第2流出口27bの流路抵抗が第1弁部24aにより増加するとともに、第3流出口27cにおける第2弁部24bによる流路抵抗がさらに減少する。この結果、図2に示すように、第2流出口27bからVCT4に供給されるオイルVの油圧の増加量の分だけ、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cの中で最も流路抵抗が低い第3流出口27cから流出するオイルVの油圧がさらに増加する。
【0088】
第2所定回転数R2の状態からエンジン回転数を上昇させると、調圧バルブ2bでは、第1弁部24aにより第1流出口27aが閉じ状態にされるとともに、第2流出口27bが閉じ状態にされる。この際、第2流出口27bから流出するオイルVの油圧が上がり、油圧供給空間25bに供給されるオイルVの油圧が上昇した場合、弁体24のX1方向へのスライド移動とともに第1弁部24aにより第1流出口27aおよび第2流出口27bが閉塞される。そのため、第2流出口27bから流出するオイルVの油圧供給空間25bへの供給が断たれるので、油圧供給空間25b内のオイルVの油圧が下がり、弁体24のX2方向へのスライド移動とともに第1弁部24aにより第1流出口27aおよび第2流出口27bが開放される。閉じ状態では、第2所定回転数R2の状態からエンジン回転数を上昇させた場合、上記した弁体24の移動が繰り返されることになる。また、調圧バルブ2bでは、第3流出口27cが完全に開放状態にされる。
【0089】
このように、調圧バルブ2bは、第1弁部24aにより第1流出口27aおよび第2流出口27bを閉じるとともに、第2弁部24bにより第3流出口27cを開放することにより、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cに分配されるオイルVの油圧を調整するように構成されている。
【0090】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0091】
本実施形態では、上記のように、複数の流出口27に、エンジンEの複数のオイル供給箇所Sとしての互いに異なる要求油圧特性を有する第1オイル供給箇所S1、第2オイル供給箇所S2および第3オイル供給箇所S3にそれぞれ対応する要求油圧DのオイルVを供給する第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cを設ける。これにより、第1オイル供給箇所S1、第2オイル供給箇所S2および第3オイル供給箇所S3の各々に対応する専用の第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cにより、第1オイル供給箇所S1、第2オイル供給箇所S2および第3オイル供給箇所S3の各々の要求油圧Dを個別に満たすことができる。この結果、第1オイル供給箇所S1、第2オイル供給箇所S2および第3オイル供給箇所S3の各々における余剰油圧の発生を抑制することができるので、オイルポンプ2aのむだな仕事をより低減させることができる。
【0092】
また、本実施形態では、上記のように、弁体24を、エンジン回転数の増加に合わせて、ハウジング21内においてX1方向に移動するように構成する。また、第1流出口27aおよび第2流出口27bを、互いに異なる第1開口面積A1および第2開口面積A2を有するとともに、X1方向の位置が互いにオーバーラップする位置に配置する。これにより、第1流出口27aおよび第2流出口27bが互いに異なる第1開口面積A1および第2開口面積A2を有することにより、第1流出口27aから流出するオイルVの油圧と第2流出口27bから流出するオイルVの油圧とに差異を生じさせることができる。また、第1流出口27aおよび第2流出口27bの各々のX1方向の位置が互いにオーバーラップする位置に配置されることにより、X1方向に移動する弁体24による第1流出口27aおよび第2流出口27bの各々が閉じ状態になるタイミングを合わせることができる。これらの結果、簡易な構成で第1オイル供給箇所S1および第2オイル供給箇所S2の各々に互いに異なる油圧のオイルVを供給することができるとともに、第1流出口27aおよび第2流出口27bのいずれかが弁体24により完全に閉塞することに起因して第1オイル供給箇所S1または第2オイル供給箇所S2へのオイルVの供給が途絶えることを防止することができる。
【0093】
また、本実施形態では、上記のように、第1流出口27aのX1方向とは反対のX2方向側の端部127aと、第2流出口27bのX2方向側の端部127bとを、X1方向にずれて配置する。これにより、X1方向に移動する弁体24による第1流出口27aおよび第2流出口27bの各々を閉じ始めるタイミングをずらすことができる。この結果、第1流出口27aおよび第2流出口27bの各々を同じタイミングで閉じ始める場合よりも、オイルVの油圧の急激な変化を抑制することができるので、オイルポンプ2aにかかる負荷の増大を抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態では、上記のように、ハウジング21のX1方向に直交する方向の断面において、少なくとも第1流出口27aおよび第2流出口27bを、それぞれ、X1方向に延びる中心軸線周りの周方向に異なる位置P1、P2に設ける。これにより、ハウジング21のX1方向に直交する方向の断面において、第1流出口27aおよび第2流出口27bが配置されていない場合よりも、第1流出口27aおよび第2流出口27bを設けるために必要なハウジング21のX1方向の長さを小さくすることができる。この結果、調圧バルブ2bをX1方向において小型化することができる。
【0095】
また、本実施形態では、上記のように、第1流出口27aを、ピストンジェット3の要求油圧Dに合わせてオイルVを供給するように構成する。第2流出口27bを、VCT4の要求油圧Dに合わせてオイルVを供給するように構成する。第3流出口27cを、メインオイルギャラリ5の要求油圧Dに合わせてオイルVを供給するように構成する。これにより、ピストンジェット3の要求油圧Dに合わせて第1流出口27aが閉じ状態になった際に生じる余剰油圧、および、VCT4の要求油圧Dに合わせて第2流出口27bが閉じ状態となった際に生じる余剰油圧の両方を、第3流出口27cから流出させてメインオイルギャラリ5に供給することができる。この結果、メインオイルギャラリ5ではエンジン回転数の増加に合わせて要求油圧Dが増加するので、ピストンジェット3に生じる余剰油圧、および、VCT4の余剰油圧を用いてメインオイルギャラリ5の回転数に応じて増加する要求油圧を満たすことにより、ピストンジェット3に生じる余剰油圧、および、VCT4に生じる余剰油圧の両方を有効に利用することができる。
【0096】
また、本実施形態では、上記のように、弁体24に、X1方向の移動に伴い第1流出口27aの第1開口面積A1および第2流出口27bの第2開口面積A2を小さくする第1弁部24aと、X1方向の移動に伴い第3流出口27cの第3開口面積A3を大きくする第2弁部24bとを設ける。これにより、弁体24の弁部の数を流出口の数よりも小さくすることにより、弁体24の形状が複雑になることを抑制することができるので、調圧バルブ2bの構造の大型化および複雑化を抑制することができる。
【0097】
また、本実施形態では、上記のように、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cを、それぞれ、ハウジング21のエンジンEの取付面側に設ける。これにより、調圧バルブ2bのエンジンEへの取付の際、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cを、それぞれ、第1流出口27a、第2流出口27bおよび第3流出口27cに対応するエンジンE側の第1油路6、第2油路7および第3油路8に容易に接続することができる。
【0098】
また、本実施形態では、上記のように、第1流出口27aを、ピストンジェット3にオイルVを供給するように構成する。第2流出口27bを、ピストンジェット3よりも小さい第2要求油圧D2を有するVCT4にオイルVを供給するように構成する。第2流出口27bのX2方向側の端部127bを、第1流出口27aのX2方向側の端部127aよりもX1方向側に配置する。これにより、第2流出口27bを閉じ始めるタイミングを第1流出口27aよりも遅らせることができるので、第2流出口27bからVCT4に供給されるオイルVの油圧の上昇を、ピストンジェット3に供給されるオイルVの油圧の上昇よりも緩やかにすることができる。これにより、ピストンジェット3よりも小さい第2要求油圧D2を有するVCT4に対して、オイルVの油圧の上昇に起因する負荷の増大を抑制することができる。
【0099】
[変形例]
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0100】
たとえば、上記実施形態では、オイルポンプ2aは、クランクシャフトを駆動源とするオイルポンプ2aである例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、オイルポンプは、電動オイルポンプでもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、第1油圧デバイス3aは、ピストンの冷却に用いられるピストンジェット3である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1油圧デバイスは、油圧駆動または潤滑に用いられるデバイスでもよく、たとえば、チェーンテンショナ、ターボカム、ターボチャージャ、HLA(Hydrauic Lash Adjuster)またはVCR(Variable Compression Ratio)などであってもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、複数のオイル供給箇所Sは、第1~第3オイル供給箇所S1~S3を有している例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数のオイル供給箇所は、第4オイル供給箇所以上の数のオイル供給箇所を有していてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、複数の流出口27は、第1~第3流出口27cを有している例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、複数の流出口は、オイル供給箇所の要求油圧に合わせた開口面積を有していれば、第4流出口以上の数の流出口を有していてもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、ハウジング21に流入口26が1つ設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、流入口は、ハウジングに複数設けられてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、ハウジング21のX1方向に直交する方向の断面において、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、それぞれ、X1方向に延びる中心軸線周りの周方向に異なる位置P1、P2に配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ハウジングのX1方向に直交する方向の断面において、第1流出口および第2流出口は、それぞれ、X1方向に延びる中心軸線周りの周方向に異なる位置に配置せず、X方向において異なる位置に配置してもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、第1流出口27aおよび第2流出口27bは、第2要求油圧D2を抑制するタイミングを第1要求油圧D1を抑制するタイミングよりも遅らせるように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1要求油圧を抑制するタイミングと第2要求油圧を抑制するタイミングとを同じタイミングにしてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、付勢部材23は、圧縮コイルばねを有している例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、付勢部材は、圧縮コイルばね以外のばねを用いてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、第1流出口27aのX2方向側の端部127aと、第2流出口27bのX2方向側の端部127bとは、X1方向にずれた位置に配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図11に示す変形例のように、第1流出口227aのX2方向側の端部327aと、第2流出口227bのX2方向側の端部327bとを略同じ位置に配置し、第1弁部224aのX1方向側の端部において、Z1方向側の部分210よりもZ2方向側の部分211をX2方向にずれた位置に配置してもよい。また、第1流出口の第1開口面積と第2流出口の開口面積を同じにするとともに、第1流出口のX2方向側の端部と、第2流出口のX2方向側の端部とを、X1方向に同じ置に配置してもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、調圧バルブ2bには、オイルVを貯留することにより、弁体24をX1方向にスライド移動させる油圧を発生させる油圧供給空間25bが設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、調圧バルブは、油圧ではなく、モータまたはソレノイドにより弁体をスライド移動させてもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、スライド空間25aは、X方向に直交する断面において、弁体24の断面形状と略同じ円形状に形成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、スライド空間は、X方向に直交する断面において、略矩形形状などの略多角形形状であってもよく、その場合、弁体の断面形状も略同じ形状に形成される。
【0111】
また、上記実施形態では、弁体24は、第1弁部24aと、第2弁部24bとを有している例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、弁体は、1個の弁部または3個以上の弁部を有していてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、油圧供給空間25bには、VCT4に供給されるオイルVが流入する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、油圧供給空間には、ピストンジェットに供給されるオイルが流入してもよい。
【符号の説明】
【0113】
2a オイルポンプ
3a 第1油圧デバイス
4a 第2油圧デバイス
5 メインオイルギャラリ
21 ハウジング
24 弁体
24a、224a 第1弁部
24b 第2弁部
26 流入口
27 複数の流出口
27a、227a 第1流出口
27b,227b 第2流出口
27c 第3流出口
127a 端部
127b 端部
A1 第1開口面積(開口面積)
A2 第2開口面積(開口面積)
A3 第3開口面積(開口面積)
D 要求油圧
P1、P2 異なる位置
S オイル供給箇所
S1 第1オイル供給箇所
S2 第2オイル供給箇所
S3 第3オイル供給箇所
V オイル
X1 X1方向(第1方向)
X2 X2方向(第2方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11