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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】枯節香の香気・風味の付与又は増強方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20221220BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20221220BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20221220BHJP
   A23L 5/20 20160101ALI20221220BHJP
   A23B 4/00 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
A23L5/00 H
A23L5/00 K
A23L27/00 Z
A23L27/20 D
A23L5/20
A23B4/00 505Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018230123
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020089341
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】笠原 美紀
(72)【発明者】
【氏名】中島 慧
(72)【発明者】
【氏名】古林 和敏
(72)【発明者】
【氏名】菱谷 尚子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-135522(JP,A)
【文献】特開2006-187254(JP,A)
【文献】Biosci. Biotechnol. Biochem.,2017年,vol.81, no.8,pp.1561-1568
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00-5/49
A23L 27/00-27/60
A23B 4/00-4/32
FSTA/CAplus/REGISTRY/AGRICOLA/
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを配合することを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の製造方法。
【請求項2】
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを以下の条件を満たすように、魚節由来成分を含有する飲食品に配合する、請求項記載の製造方法:
[条件]
(1)魚節由来成分を含有する飲食品中の3成分の重量比が、2,4-ヘプタジエナール:1-ペンテン-3-オール:1-ヘプタノール=1:15~163:8~27;且つ
(2)魚節由来成分を含有する飲食品への2,4-ヘプタジエナールの配合量が0.03重量ppm以上0.1重量ppm以下。
【請求項3】
魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを配合することを含む、枯節香の香気・風味の付与又は増強方法。
【請求項4】
2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールを配合することを含む、請求項記載の方法。
【請求項5】
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを配合することを含む、請求項記載の方法。
【請求項6】
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを以下の条件を満たすように、魚節由来成分を含有する飲食品に配合する、請求項記載の方法:
[条件]
(1)魚節由来成分を含有する飲食品中の3成分の重量比が、2,4-ヘプタジエナール:1-ペンテン-3-オール:1-ヘプタノール=1:15~163:8~27;且つ
(2)魚節由来成分を含有する飲食品への2,4-ヘプタジエナールの配合量が0.03重量ppm以上0.1重量ppm以下。
【請求項7】
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の枯節香の香気・風味の付与又は増強剤。
【請求項8】
2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールを含む、請求項記載の剤。
【請求項9】
2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールの重量比が、1:15~163である、請求項記載の剤。
【請求項10】
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを含む、請求項記載の剤。
【請求項11】
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの重量比が、1:15~163:8~27である、請求項10記載の剤。
【請求項12】
魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを配合することを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の加熱劣化臭のマスキング方法。
【請求項13】
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の加熱劣化臭のマスキング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚節由来成分を含有する飲食品に対して枯節香の香気・風味を付与、又は増強するための方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
かつお節に代表される魚節は和風料理のだしの原料として古くより広く用いられてきた食品である。魚節が重用される大きな理由の一つとしては、魚節が呈する香気や風味の良さが挙げられる。
【0003】
魚節は、その製造方法の違いにより「荒節」及び「枯節」の2つに大別される。「荒節」は原料魚の頭と内臓部分を取り除き、これを煮熟した後に骨を除き、さらに焙乾させたものである。「枯節」は、荒節の表面のタール部分を削りとったもの(裸節)に、カビ付け・乾燥を最低2回以上繰り返したものである。枯節の製造には数か月の期間を要するが、得られた枯節は、焙乾工程やカビ付け工程の作用により魚節中の脂肪分や苦味・酸味成分等が分解され、結果として白木のような非常に上品な香気・風味を呈し、高級食材と位置付けられる。
【0004】
かかる枯節の香気成分については古くから多くの研究報告がなされている。例えば、非特許文献1では、かつお節特有の風味に寄与する成分について、背、腹、及び血合肉部といった部位別に検討している。また、非特許文献2では、かつお節の焙乾工程が香気成分に与える影響について検討している。さらに、非特許文献3では、かつお節の製造工程における香気とその成分の変化について検討している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hosokawa et al., Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi, Vo1.37, No.10, 814~818(1990)
【文献】Fujiwara et al., Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 62(12), 563-571, 2015
【文献】Ishiguro et al., Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi Vol. 48, No. 8, 570~577 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1~3は、いずれもかつおを原料とした枯節や荒節の香気・風味成分について着目したものであるが、枯節香の香気・風味成分を構成する多数ある化合物の一部について言及するに留まり、枯節香の香気・風味を構成する主要成分を具体的に特定し、かかる主要成分を用いて飲食品に対し枯節香を付与し、又は増強せしめるような方法を教示又は示唆するものではない。
【0007】
従って、飲食品に対して枯節香の好ましい香気・風味を付与し、又は増強することができる方法の構築には依然として強いニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを配合することにより、該飲食品に非常に好ましい枯節香の香気・風味を付与し、或いは該飲食品の有する枯節香の香気・風味を顕著に増強できることを見出した。加えて、これらの成分を特定の割合で組み合わせて配合することにより、枯節香の香気・風味を付与又は増強できるだけでなく、加熱・保温された魚節由来成分を含有する飲食品に生じる加熱劣化臭をマスキングできることをも見出した。かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを配合することを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の製造方法。
[2]2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールを配合することを含む、[1]記載の製造方法。
[3]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを配合することを含む、[1]記載の製造方法。
[4]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを以下の条件を満たすように、魚節由来成分を含有する飲食品に配合する、[3]記載の製造方法:
[条件]
(1)魚節由来成分を含有する飲食品中の3成分の重量比が、2,4-ヘプタジエナール:1-ペンテン-3-オール:1-ヘプタノール=1:15~163:8~27;且つ
(2)魚節由来成分を含有する飲食品への2,4-ヘプタジエナールの配合量が0.03重量ppm以上0.1重量ppm以下。
[5]魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを配合することを含む、枯節香の香気・風味の付与又は増強方法。
[6]2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールを配合することを含む、[5]記載の方法。
[7]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを配合することを含む、[5]記載の方法。
[8]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを以下の条件を満たすように、魚節由来成分を含有する飲食品に配合する、[7]記載の方法:
[条件]
(1)魚節由来成分を含有する飲食品中の3成分の重量比が、2,4-ヘプタジエナール:1-ペンテン-3-オール:1-ヘプタノール=1:15~163:8~27;且つ
(2)魚節由来成分を含有する飲食品への2,4-ヘプタジエナールの配合量が0.03重量ppm以上0.1重量ppm以下。
[9]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の枯節香の香気・風味の付与又は増強剤。
[10]2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールを含む、[9]記載の剤。
[11]2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールの重量比が、1:15~163である、[10]記載の剤。
[12]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを含む、[9]記載の剤。
[13]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの重量比が、1:15~163:8~27である、[12]記載の剤。
[14]魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを配合することを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の加熱劣化臭のマスキング方法。
[15]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の加熱劣化臭のマスキング剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、魚節由来成分を含有する飲食品に対して、非常に簡便に枯節香の香気・風味を付与し、又は、枯節香の香気・風味を増強することができる。また、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを特定の割合で組み合わせて配合することで、魚節由来成分(特に「魚節だし」)を加熱・保温した際に生じる加熱劣化臭をマスキングすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において「枯節香の香気・風味」とは、ひきたての枯節のだしが有する、枯節本来の肉質と白木のような香気・風味をいう。また、「香気」とは、飲食せずに鼻だけで感じる香り(トップフレーバー)を意味し、「風味」とは、飲食時の口腔内から鼻へ抜ける香り(レトロネーザルフレーバー)を意味するものとする。なお、本発明に用いられる2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び/又は1-ヘプタノールは市販品を用いればよい。本明細書において、濃度がA%の魚節だし(例、かつおだし)とは、Agの魚節(例、かつおぶし)の粉末を90℃以上の熱水(100-A)gに加えて良く撹拌した後、3分静置し、ペーパーフィルターを用いてろ過して得たろ液を意味する。調製するだしのスケールは、必要量に応じて変更して良いことは言うまでもない。
【0012】
1.魚節由来成分を含有する飲食品の製造方法
本発明は、魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを配合することを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と称する場合がある)を提供する。
【0013】
魚節とは、頭部・内臓等を除去した生魚を煮熟してタンパク質を凝固させた後、冷却して、水分が26%以下になるように燻し、乾燥させたものを意味する。魚節に用いられる原料としては、カツオ(マガツオ、ソウダカツオ等)、ムロアジ、サバ、サンマ、マグロ、ウルメ等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の製造方法において、飲食品に含有される魚節由来成分は、荒節及び枯節のいずれに由来するものであってもよく、さらに、雄節、雌節、及び亀節のいずれに由来するものであってもよい。好ましい態様はカツオの荒節であり、さらに好ましい様態は枯節である。
【0014】
本発明の製造方法において、魚節由来成分を含有する飲食品には、上記した魚節の成分を含有する飲食品であれば特に限定されず、あらゆる飲食品が含まれる。例えば、魚節由来成分を含有する飲食品としては、魚節だしを含有するスープ類(だし、味噌汁、吸物等)、魚節だしを含有する麺類(パスタ、ラーメン、うどん等)、魚節だしを含有する惣菜類(だし巻き卵、肉じゃが、筑前煮等)等が挙げられるほか、魚節だし成分を含有する粉末又は液体調味料等もまた、魚節由来成分を含有する飲食品に含まれる。好ましい一態様において、魚節由来成分を含有する飲食品は、魚節より抽出しただし(例、かつおだし等)であり得る。
【0015】
本発明の製造方法は、魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを配合することを特徴とする。2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールを単独で添加する実施形態において、各成分の配合量は本発明の所望の効果を得られる限り特に限定されず、消費者の嗜好や飲食品の種類などに応じて適宜設定すればよいが、例えば以下のような配合量で飲食品に添加することで、該飲食品に対して好ましい枯節香の香気・風味を付与し、又は該飲食品の枯節香の香気・風味を増強することができる。
[2,4-ヘプタジエナール]
(i)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.3%以上1.5%以下である場合、通常0.025重量ppm以上0.05重量ppm未満、好ましくは0.025重量ppm以上0.045重量ppm以下、より好ましくは0.025重量ppm以上0.04重量ppm以下、さらに好ましくは0.025重量ppm以上0.035重量ppm以下、特に好ましくは0.025重量ppm以上0.03重量ppm以下;
(ii)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が1.5%より大きく10%以下(好ましくは1.5%より大きく7%以下、より好ましくは1.5%より大きく5%以下、特に好ましくは1.5%より大きく4%以下)である場合、通常0.025重量ppm以上0.075重量ppm未満、好ましくは0.025重量ppm以上0.065重量ppm以下、より好ましくは0.025重量ppm以上0.06重量ppm以下、さらに好ましくは0.025重量ppm以上0.055重量ppm以下、特に好ましくは0.025重量ppm以上0.05重量ppm以下。
[1-ペンテン-3-オール]
(i)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.6%以上0.9%以下である場合、通常0.75重量ppm以上1.75ppm未満、好ましくは0.75重量ppm以上1.7重量ppm以下、より好ましくは0.75重量ppm以上1.65重量ppm以下、さらに好ましくは0.75重量ppm以上1.6重量ppm以下、特に好ましくは0.75重量ppm以上1.5重量ppm以下;
(ii)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.9%より大きく2.1%以下である場合、通常0.75重量ppm以上3.25重量ppm未満、好ましくは0.75重量ppm以上3.20重量ppm以下、より好ましくは0.75重量ppm以上3.15重量ppm以下、さらに好ましくは0.75重量ppm以上3.10重量ppm以下、特に好ましくは0.75重量ppm以上3.0重量ppm以下;
(iii)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が2.1%より大きく10%以下(好ましくは2.1%より大きく7%以下、より好ましくは2.1%より大きく5%以下、特に好ましくは2.1%より大きく4%以下)である場合、通常0.75重量ppm以上5.25重量ppm未満、好ましくは0.75重量ppm以上5.20重量ppm以下、より好ましくは0.75重量ppm以上5.15重量ppm以下、さらに好ましくは0.75重量ppm以上5.10重量ppm以下、特に好ましくは0.75重量ppm以上5.0重量ppm以下。
[1-ヘプタノール]
(i)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.6%以上0.9%以下である場合、通常0.25重量ppm以上0.5重量ppm未満、好ましくは0.25重量ppm以上0.45重量ppm以下、より好ましくは0.25重量ppm以上0.4重量ppm以下、さらに好ましくは0.25重量ppm以上0.35重量ppm以下、特に好ましくは0.25重量ppm以上0.3重量ppm以下;
(ii)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.9%より大きく10%以下(好ましくは0.9%より大きく7%以下、より好ましくは0.9%より大きく5%以下、特に好ましくは0.9%より大きく4%以下)である場合、通常0.25重量ppm以上1.0重量ppm未満、好ましくは0.25重量ppm以上0.9重量ppm以下、より好ましくは0.25重量ppm以上0.85重量ppm以下、さらに好ましくは0.25重量ppm以上0.80重量ppm以下、特に好ましくは0.25重量ppm以上0.75重量ppm以下。
【0016】
本発明の製造方法の一態様において、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの2種以上を組み合わせて配合してもよい。本発明の製造方法の好ましい一態様において、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの3成分を魚節由来成分を含有する飲食品に配合することができる。この場合、例えば、各成分を以下の条件を満たすように配合することで、非常に好ましい枯節香の香気・風味付与又は増強効果を得ることができる。なお、3成分を組合せて配合する場合の喫食時における飲食品中の魚節だし濃度は、所望の効果が得られる限り特に限定されないが、通常0.3%~10%、好ましくは0.6%~9%、より好ましくは0.9%~8%、さらに好ましくは1.5%~6%、なおさらに好ましくは2.1%~5%、特に好ましくは2.5%~3.5%である。
【0017】
[条件]
(1)魚節由来成分を含有する飲食品中の3成分の重量比が、2,4-ヘプタジエナール:1-ペンテン-3-オール:1-ヘプタノール=1:15~163:8~27(好ましくは、1:40~60:8~27);且つ
(2)魚節由来成分を含有する飲食品への2,4-ヘプタジエナールの配合量が0.03重量ppm以上0.1重量ppm以下。
【0018】
なお、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの3成分を上記した通りの特定の濃度で魚節由来成分を含有する飲食品に配合することにより、枯節香の香気・風味を付与又は増強できるだけでなく、加熱及び/又は保温された魚節由来成分が呈する「加熱劣化臭」をマスキングすることが可能となる。従って、本発明の製造方法は、加熱劣化臭がマスキングされた魚節由来成分を含有する飲食品の製造方法、又は、枯節香の香気・風味が付与又は増強され、且つ、加熱劣化臭がマスキングされた、魚節由来成分を含有する飲食品の製造方法とも言い換えることができる。なお、本明細書において「加熱劣化臭」とは、魚節だし等の魚節由来成分を加熱又は保温した際に生じる、カラメル様の甘い焦げ風味を意味する。従って、加熱劣化臭のマスキング効果は、加熱又は保温された魚節由来成分を含有する飲食品に対して高い効果を発揮する。マスキング効果が良好に得られる飲食品の例としては、加熱又は保温された魚節だし又はこれを含有する飲食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明の製造方法において、魚節由来成分を含有する飲食品へ各成分を添加/配合するタイミングは特に限定されず、飲食品の調理前、調理中、調理後、又は喫食時のいずれのタイミングであってもよい。一例を挙げると、魚節を用いてだしを調製し、これに2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールのいずれか又は2種以上を添加することで、枯節香の香気・風味が付与又は増強された魚節だしを調製することができる。これを原材料の一つとして飲食品の調理時に配合することで、枯節香の好ましい香気・風味を有する飲食品を製造することができる。
【0020】
2.枯節香の香気・風味の付与又は増強方法
本発明はまた、魚節由来成分を含有する飲食品に、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを配合することを含む、枯節香の香気・風味の付与又は増強方法(以下、単に「本発明の方法」と称する場合がある)を提供する。
【0021】
本発明の方法における魚節、魚節由来成分を含有する飲食品、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び/又は1-ヘプタノールの配合量、及び、配合タイミング等は、本発明の製造方法において説明したものと同様である。
【0022】
本発明の方法の一態様において、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの3成分を特定の濃度で魚節由来成分を含有する飲食品に配合することにより、枯節香の香気・風味を付与又は増強するのみならず、魚節由来成分が呈する「加熱劣化臭」をマスキングすることもできる。従って、本発明の方法は、魚節由来成分を含有する飲食品の加熱劣化臭のマスキング方法、又は、魚節由来成分を含有する飲食品に枯節香の香気・風味を付与又は増強し、且つ、加熱劣化臭をマスキングする方法とも言い換えることができる。加熱劣化臭のマスキング効果は、加熱及び/又は保温された魚節由来成分を含有する飲食品に対して高い効果を発揮する。マスキング効果が良好に得られる飲食品の例としては、加熱及び/又は保温された魚節だし(例、かつおだし等)又はこれを含有する飲食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
3.枯節香の香気・風味付与又は増強剤
本発明はまた、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールからなる群から選択される少なくとも1つを含む、魚節由来成分を含有する飲食品の枯節香の香気・風味付与又は増強剤(以下、単に「本発明の剤」と称する場合がある)を提供する。本発明の剤は、魚節由来成分を含有する飲食品に添加/配合することで、該飲食品に対して好ましい枯節香の香気・風味を付与することができる。
【0024】
本発明の剤における、魚節及び魚節由来成分を含有する飲食品等については本発明の製造方法において説明したものと同様である。
【0025】
本発明の剤が、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールを単独で含有する場合、各成分の含有量は、本発明の所望の効果を得られる限り特に限定されず、消費者の嗜好や飲食品の種類などに応じて適宜設定すればよいが、例えば、魚節由来成分を含有する喫食時の飲食品中の各成分の濃度が以下に示される濃度となるように添加できるような配合量とすることができる。
【0026】
[2,4-ヘプタジエナール]
(i)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.3%以上1.5%以下である場合、通常0.025重量ppm以上0.05重量ppm未満、好ましくは0.025重量ppm以上0.045重量ppm以下、より好ましくは0.025重量ppm以上0.04重量ppm以下、さらに好ましくは0.025重量ppm以上0.035重量ppm以下、特に好ましくは0.025重量ppm以上0.03重量ppm以下;
(ii)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が1.5%より大きく10%以下(好ましくは1.5%より大きく7%以下、より好ましくは1.5%より大きく5%以下、特に好ましくは1.5%より大きく4%以下)である場合、通常0.025重量ppm以上0.075重量ppm未満、好ましくは0.025重量ppm以上0.065重量ppm以下、より好ましくは0.025重量ppm以上0.06重量ppm以下、さらに好ましくは0.025重量ppm以上0.055重量ppm以下、特に好ましくは0.025重量ppm以上0.05重量ppm以下。
[1-ペンテン-3-オール]
(i)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.6%以上0.9%以下である場合、通常0.75重量ppm以上1.75ppm未満、好ましくは0.75重量ppm以上1.7重量ppm以下、より好ましくは0.75重量ppm以上1.65重量ppm以下、さらに好ましくは0.75重量ppm以上1.6重量ppm以下、特に好ましくは0.75重量ppm以上1.5重量ppm以下;
(ii)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.9%より大きく2.1%以下である場合、通常0.75重量ppm以上3.25重量ppm未満、好ましくは0.75重量ppm以上3.20重量ppm以下、より好ましくは0.75重量ppm以上3.15重量ppm以下、さらに好ましくは0.75重量ppm以上3.10重量ppm以下、特に好ましくは0.75重量ppm以上3.0重量ppm以下;
(iii)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が2.1%より大きく10%以下(好ましくは2.1%より大きく7%以下、より好ましくは2.1%より大きく5%以下、特に好ましくは2.1%より大きく4%以下)である場合、通常0.75重量ppm以上5.25重量ppm未満、好ましくは0.75重量ppm以上5.20重量ppm以下、より好ましくは0.75重量ppm以上5.15重量ppm以下、さらに好ましくは0.75重量ppm以上5.10重量ppm以下、特に好ましくは0.75重量ppm以上5.0重量ppm以下。
[1-ヘプタノール]
(i)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.6%以上0.9%以下である場合、通常0.25重量ppm以上0.5重量ppm未満、好ましくは0.25重量ppm以上0.45重量ppm以下、より好ましくは0.25重量ppm以上0.4重量ppm以下、さらに好ましくは0.25重量ppm以上0.35重量ppm以下、特に好ましくは0.25重量ppm以上0.3重量ppm以下;
(ii)喫食時における飲食品中の魚節だし濃度が0.9%より大きく10%以下(好ましくは0.9%より大きく7%以下、より好ましくは0.9%より大きく5%以下、特に好ましくは0.9%より大きく4%以下)である場合、通常0.25重量ppm以上1.0重量ppm未満、好ましくは0.25重量ppm以上0.9重量ppm以下、より好ましくは0.25重量ppm以上0.85重量ppm以下、さらに好ましくは0.25重量ppm以上0.80重量ppm以下、特に好ましくは0.25重量ppm以上0.75重量ppm以下。
【0027】
或いは、本発明の剤の一態様において、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの2種以上を組み合わせて配合してもよい。例えば、本発明の剤が、2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールを有効成分として含有させることができる。この場合、本発明の剤中における2,4-ヘプタジエナール及び1-ペンテン-3-オールの重量比を1:15~163とすることが好ましい。或いは、2,4-ヘプタジエナール、及び1-ヘプタノールを含有させてもよい。この場合は、本発明の剤中における2,4-ヘプタジエナール及び1-ヘプタノールの重量比を1:8~27とすることが好ましい。さらに好ましい一態様において、本発明の剤は、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの3成分を含有させることができる。この場合、本発明の剤中の3成分の重量比を、2,4-ヘプタジエナール:1-ペンテン-3-オール:1-ヘプタノール=1:15~163:8~27(好ましくは、2,4-ヘプタジエナール:1-ペンテン-3-オール:1-ヘプタノール=1:40~60:8~27)とすることが好ましい。
【0028】
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの3成分を上記範囲で含有する本発明の剤を、魚節由来成分を含有する飲食品へ、2,4-ヘプタジエナールの喫食時濃度の範囲が0.03重量ppm以上0.1重量ppm以下となるように添加した場合、該飲食品において枯節香の好ましい香気・風味を付与し又は増強させることができる。加えて、3成分を同時に添加した場合、加熱及び/又は保温された魚節由来成分が呈する「加熱劣化臭」をマスキングすることが可能となる。従って、本発明の剤は、魚節由来成分を含有する飲食品の加熱劣化臭のマスキング剤、又は、魚節由来成分を含有する飲食品に枯節香の香気・風味を付与又は増強し、且つ、加熱劣化臭をマスキングするための剤とも言い換えることができる。加熱劣化臭のマスキング効果は、加熱及び/又は保温された魚節由来成分を含有する飲食品に対して高い効果を発揮する。マスキング効果が良好に得られる飲食品の例としては、加熱及び/又は保温された魚節だし(例、かつおだし等)又はこれを含有する飲食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明の剤を魚節由来成分を含有する飲食品へ添加/配合するタイミングは特に限定されず、飲食品の調理前、調理中、調理後、又は喫食時のいずれのタイミングであってもよい。一例を挙げると、魚節を用いてだしを調製し、本発明の剤を添加することで、枯節香の香気・風味が付与又は増強された魚節だしを調製することができる。これを原材料の一つとして飲食品に配合することで、枯節香の好ましい香気・風味を有する飲食品を製造することができる。
【0030】
また、本発明の剤の形状は特に限定されず、固形状(粉末状、顆粒状)、スラリー状、液状、又はペースト状のいずれの形状であってもよい。取り扱いが簡便であることから固形状とすることが好ましい。この場合、本発明の剤は飲食品に直接添加・配合してもよいし、水、溶媒、又は分散媒等に一旦溶解又は分散させたうえで、次いで飲食品に添加・配合してもよい。
【0031】
また、本発明の剤は、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの少なくとも1つを含有する他、通常食品に添加し得る成分をその他の成分として配合することもできる。本発明の剤に配合し得る成分としては、例えば、pH調整剤、酸化防止剤、保存料、甘味料、香料、調味料、栄養強化剤、増粘剤、及び、安定剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
以下、本発明について実施例でさらに説明するが、本発明の技術範囲はこれら実施例によって制限されるものではない。本実施例において官能評価は事前に十分に訓練された専門パネルにより行われたものである。また本発明において「%」とは、特に断りのない限り「重量%」を意味し、「ppm」とは、特に断りのない限り「重量ppm」を意味する。
【0033】
また、本実施例において用いられた2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、1-ヘプタノールは、別に記載がない限り、全てシグマアルドリッチジャパン(株)製のものを用いた。
【実施例
【0034】
[実施例1]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールの枯節の香気・風味付与効果1(単独添加)
市販の9gのかつお節の粉末を90℃以上の熱水291gに加えて良く撹拌し、3分静置した後、これをペーパーフィルターを用いてろ過した。得られたろ液を「3%濃度かつおだし」とした。また、2,4-ヘプタジエナール水溶液(100ppm)、1-ペンテン-3-オール水溶液(100ppm)、1-ヘプタノール水溶液(100ppm)を調製した。調製した各水溶液を用いて、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールを以下の表1~表3に示される添加濃度となるように3%濃度かつおだしに添加し、枯節香の香気・風味の付与・増強に対する効果を検討した。評価は専門パネル1名で実施し、次の4段階の評価基準で評価した。なお、各成分の添加前の3%濃度かつおだしの評点は0点とした。また、異風味が生じた濃度域にはコメントを残した。結果を表1~3に示す。
【0035】
[評価基準]
0点:添加前の3%濃度かつおだしと同等の枯節香の香気・風味である
1点:添加前の3%濃度かつおだしより枯節香の香気・風味があるが弱い
2点:添加前の3%濃度かつおだしより枯節香の香気・風味がやや強い
3点:添加前の3%濃度かつおだしより枯節香の香気・風味が強い
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
表1~3に示される通り、各成分を独立して添加したとき、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、1-ヘプタノールは、いずれもかつおだしの枯節香の香気・風味を増強し得ることが示された。
【0040】
[実施例2]飲食品中の魚節由来成分の含有量に関する検討
市販のかつお節の粉末を90℃以上の熱水に添加して、だし濃度が0.30%、0.60%、0.90%、1.50%、2.10%、又は3.00%となるようにかつおだしを調製した。調製した各種濃度のかつおだしに対して、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールを以下表4~6に示される各種濃度となるように添加し、枯節香の香気・風味の発現について評価した。また、対照として香料無添加の90℃以上の熱水(かつおだし濃度0.00%)に対しても各種成分を添加し、その効果を評価した。評価は官能試験を用いて行い、専門パネルは1名で実施した。2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールを添加する前の各種濃度のかつおだしの枯節香の香気・風味に関する官能試験結果を表4に示す。また、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールの添加後の官能試験の結果を表5~7に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
表5~7の結果から、対照(0.00%濃度のかつおだし)では2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールのいずれを添加しても、枯節香の香気・風味は付与されなかった。一方で、0.30%濃度では、2,4-ヘプタジエナールのみ枯節香の香気・風味の付与効果が認められた。0.60%濃度以上では、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールのいずれも枯節香の香気・風味を増強し、効果が認められた。本結果から、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールは、どのような飲食品に対しても枯節香の香味・風味を付与できるのではなく、魚節由来成分が飲食品に含まれていることが必要であることが示唆された。
【0046】
[参考例1]枯節に含まれる2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノール量の検討
調製工程の異なる枯節6種類及び荒節1種類を用いて、3%かつおだしを調製し、当該だし中の2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノール量をGC/MSにより定量した。なお、使用した枯節6種はいずれも市販品であり、その産地(鰹節加工場所)は、枯節1:枕崎、枯節2:海外、枯節3:枕崎(実施例1、2で用いた市販品)、枯節4:枕崎、枯節5:枕崎、枯節6:枕崎、荒節1:枕崎であった。結果を表8に示す。表8中、単位は「ppm」であり、「N.D.」は成分が未検出であったことを示す。
【0047】
【表8】
【0048】
表8で示される通り、枯節又は荒節の種類によって、枯節香のキー成分である2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの量は変動することが示された。
【0049】
[実施例3]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの枯節の香気・風味付与効果2(組合せ添加)
枯節香のキー成分3種を組み合わせて用いた場合に、本発明の効果に影響を与え得るかどうかを検討した。具体的には、参考例1で用いた6種の枯節及び1種の荒節の計7種のかつお節から3%かつおだしを調製した。得られた7種の3%濃度かつおだしに対して、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、1-ヘプタノールを、それぞれ表9に示される添加濃度となるように添加した。キー成分の添加前、及び添加後のかつおだしの枯節香の香気・風味の強さの評価は、専門パネル4名で実施し、以下の4段階の評価基準を用いて評価した。また、枯節香の香気・風味の程度の評価に合わせて、加熱劣化臭の程度についても評価を実施した。なお、評点は専門パネル4名の平均値である。結果を表9に示す。表中、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、1-ヘプタノールの濃度の単位は「ppm」である。
【0050】
[枯節香の香気・風味の評価基準]
0点:枯節香の香気・風味を感じない
1点:枯節香の香気・風味が弱い
2点:枯節香の香気・風味がやや強い
3点:枯節香の香気・風味が強い
[加熱劣化臭の評価基準]
-:加熱劣化臭を感じない
+:加熱劣化臭を弱く感じる
++:加熱劣化臭を感じる
+++:加熱劣化臭を強く感じる
【0051】
【表9】
【0052】
表9に示される通り、いずれの枯節においても好ましい枯節香の香気・風味が付加又は増強されることが示された。また、加熱劣化臭を評価した枯節1では、加熱劣化臭がマスキングされていることも確認された。加えて、一定量の2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを添加すれば、荒節より調製したかつおだしであっても好ましい枯節香の香気・風味を付与することができた。興味深いことに、枯節1~6及び荒節1は、枯節香の発現に関わる2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの元々の含有量が異なるものの、元々の該成分の含有量の差はあまり大きな影響を与えるものではなく、いずれの節に対しても、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを特定の量で添加/配合すれば、同等程度の枯節香付与又は増強効果を得られることが示された。
【0053】
[実施例4]枯節香の香気・風味を付与又は増強し得る組成物の調製
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを表10に記載の通り配合し、魚節由来のだしに対する枯節香の香気・風味を付与又は増強し得る組成物を調製した。なお、該組成物のその他の配合物として、ヘキサナール、4-ヘプタナール、及び、1-オクテン-3-オール等を配合したが、これらは枯節香の香気・風味の付与/増強に関与するものではないことを確認している(データ非開示)。調製した組成物を、枯節3の3%濃度かつおだしに対して以下の表11中の添加例1~4に示される通りの添加量にて添加し、枯節香の香気・風味の強さについて4段階評価にて実施した。評価は官能試験で行い、専門パネル1名で実施した。評価基準は次の通りである。結果を表11に示す。
【0054】
【表10】
【0055】
[評価基準]
0点:枯節香の香気・風味を感じない
1点:枯節香の香気・風味が弱い
2点:枯節香の香気・風味がやや強い
3点:枯節香の香気・風味が強い
【0056】
【表11】
【0057】
表11に示される通り、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールを1:50:10の重量比で含有する組成物は、2,4-ヘプタジエナールが0.03ppm~0.075ppm、1-ペンテン-3-オールが1.5ppm~3.75ppm、及び1-ヘプタノールが0.3ppm~0.75ppmの範囲となる場合、いずれも枯節香の香気・風味を増強し得ることが示された。
【0058】
[比較例1]2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、及び1-ヘプタノールの枯節の香気・風味付与効果3(魚節以外の成分への添加)
2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールを添加する対象として、カツオを煮熟して得られる煮汁、又は該煮汁を濃縮して得られるかつおエキスを用いた場合の枯節香の香気・風味付与効果を確認した。5%濃度のカツオ煮汁及び2%濃度のかつおエキスに対して、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールをそれぞれ添加し、枯節香の香気・風味の発現を評価した。評価は、専門パネル1名で実施した。結果を表12及び13に示す。
【0059】
【表12】
【0060】
【表13】
【0061】
表12及び13に示される通り、カツオ煮汁及びかつおエキスでは、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールを添加しても、枯節香の香気・風味は付与されなかった。本実施例より、2,4-ヘプタジエナール、1-ペンテン-3-オール、又は1-ヘプタノールによる枯節香の付与又は増強においては、これらの成分と「魚節」由来の成分との相互作用が重要であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、荒節や枯節等の魚節由来成分を含有する飲食品に対して、枯節香の香気・風味を付与し、或いは、枯節香の香気・風味を増強することができる。従って、本発明は食品生産分野において極めて有用であり得る。