(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】被検査材の組織検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20221220BHJP
G01N 29/46 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/46
(21)【出願番号】P 2018230579
(22)【出願日】2018-12-10
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森永 武
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-253914(JP,A)
【文献】特開2013-257146(JP,A)
【文献】特開平02-278150(JP,A)
【文献】特開平07-301624(JP,A)
【文献】特開平04-095870(JP,A)
【文献】特開2012-159466(JP,A)
【文献】特開昭61-181957(JP,A)
【文献】特表2020-524561(JP,A)
【文献】特表2001-527509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-G01N 29/52
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域探触子によって所望の周波数分布を得るに必要な広帯域の超音波を被検査材へ向けて発振し、内部欠陥の無い被検査材から戻る
、後方散乱波を
含む検出信号を受振して、当該
検出信号の
前記周波数分布を得、当該周波数分布と
、後方散乱波が無いとした時の周波数分布を示す基準分布
との誤差の絶対値の和より
前記被検査材の結晶粒の大きさを検出する被検査材の組織検査方法。
【請求項2】
前記被検査材の複数位置で前記後方散乱波の周波数分布を得、これら周波数分布と基準分布の誤差の絶対値の和の平均値より被検査材の結晶粒の大きさを検出する請求項1に記載の被検査材の組織検査方法。
【請求項3】
前記基準分布として、発振される前記超音波の中心周波数と同一の中心周波数を有する正規分布を使用した請求項1又は2に記載の被検査材の組織検査方法。
【請求項4】
前記後方散乱波は、広帯域の超音波を被検査材に向けて発振し、表面反射波と底面反射波の間に存在し、結晶粒界から現れる散乱波であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の被検査材の組織検査方法。
【請求項5】
前記組織検査方法は、複数の被検査材の各々において、前記周波数分布と前記基準分布の誤差の絶対値の和の値を算出し、前記複数の被検査材の各絶対値の和の値の大きさを比較して、各被検査材の結晶粒の大小を検査する請求項1ないし4のいずれかに記載の被検査材の組織検査方法。
【請求項6】
前記被検査材が、微細な結晶粒からなる金属材料である請求項1ないし5のいずれかに記載の被検査材の組織検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波を使用して被検査材の結晶粒の大小を検査する組織検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料等では結晶粒の大きさがその物理的・化学的性質に大きく影響することが知られており、結晶粒の大きさを非破壊で検査することが要請されている。
【0003】
なお、特許文献1には、被検査材内に結晶粒の平均粒径の5倍以下かつ微細粒の平均粒径の5倍以上の中心波長の超音波を入射させ、被検査材内に生じる微細粒による後方散乱波成分を抽出して、微細粒の体積密度や数密度等を求める測定方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の要請に鑑みたもので、金属材料等の被検査材の結晶粒の大小を、超音波を使用して非破壊で簡易かつ確実に検査することができる被検査材の組織検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明では、広帯域探触子(1)によって所望の周波数分布を得るに必要な広帯域の超音波を被検査材(2)へ向けて発振し、内部欠陥の無い被検査材(2)から戻る、後方散乱波(Ur)を含む検出信号を受振して、当該検出信号の前記周波数分布(Lx)を得、当該周波数分布(Lx)と、後方散乱波が無いとした時の周波数分布を示す基準分布(Ln)との誤差(d)の絶対値の和(Σd)より前記被検査材(2)の結晶粒の大きさを検出する。
【0007】
内部欠陥の無い被検査材から戻る後方散乱波の強度は被検査材の結晶粒の大きさを良く反映しているから、後方散乱波の周波数分布と基準分布の誤差の絶対値の和を算出すれば、当該絶対値は被検査材の結晶粒の大きさに一義的に対応しており、上記誤差の絶対値の和より結晶粒の大きさを比較的単純な信号処理で確実に検出することができる。加えて、本第1発明の方法は、通常の探傷用の機器構成で実施することができるから、簡易かつ安価である。
【0008】
本第2発明では、前記被検査材(2)の複数位置で前記後方散乱波(Ur)の周波数分布(Lx)を得、これら周波数分布(Lx)と基準分布(Ln)の誤差(d)の絶対値の和(Σd)の平均値(Σdv)より被検査材(2)の結晶粒の大きさを検出する。
【0009】
本第2発明によれば、ノイズを排除して結晶粒の大きさをより確実に検出することができる。
【0010】
本第3発明では、前記基準分布として、発振される前記超音波の中心周波数と同一の中心周波数を有する正規分布を使用する。
【0011】
本第3発明によれば、基準分布を複雑な演算を要することなく簡易に得ることができる。
【0012】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の被検査材の組織検査方法によれば、金属材料等の被検査材の結晶粒の大小を、超音波を使用して非破壊で簡易かつ確実に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】被検査材の微細結晶粒が大きい場合の内部組織の概念図及び探傷器で受振される反射波の波形図である。
【
図4】被検査材の微細結晶粒が小さい場合の内部組織の概念図及び探傷器で受振される反射波の波形図である。
【
図7】後方散乱波の周波数分布と正規分布の誤差の絶対値の、和の平均値と被検査材の結晶粒の大きさの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0016】
図1に示すように、超音波探傷器の広帯域探触子1を被検査材2に向けてその内部を探傷し、内部欠陥が無いことを確認する。被検査材2内に欠陥が存在しない場合にも、探触子1から発振された超音波Ueが結晶粒界で反射して生じる後方散乱波(レイリー散乱等)Urが探触子1によって受振され、この後方散乱波Urの強度ksは式(1)に示すように粒径dのベキ数に比例することが知られている。なお、式(1)中、λは超音波の波長、nは粒子数、mは反射係数である。
【0017】
【0018】
探触子1で得られる反射波の一例を
図2に示す。
図2において、表面反射波Uaと底面反射波Ubの間に存在する探傷領域Drには、被検査材2に内部欠陥が存在しない状態で、被検査材2の結晶粒界からの後方散乱波Urが現れる。
【0019】
なお、結晶粒界における超音波の散乱強度は、結晶粒の粒径の6乗に比例することが知られているが、全体として、結晶粒の粒径が大きい場合には、
図3(a)のように、結晶粒界で散乱が強く起こる、そして、
図3(b)に示すように、超音波探傷装置で検出される超音波信号において、散乱波による成分の強度が大きくなる。一方、全体として結晶粒の粒径が小さい場合には、
図4(a)のように、結晶粒界での散乱が弱くなる。そして
図4(b)に示すように、超音波探傷装置で検出される超音波信号において、散乱波による成分の強度が小さくなる。このように、結晶組織を構成する結晶粒の粒径は、超音波の散乱強度に反映され、粒径が大きくなるほど散乱強度が大きくなる。また、これらの散乱強度は結晶組織に依存するものであり、被検査材の検出箇所によっては、均一な組織であったとしても微細なばらつきが生じることから、高精度かつ相対的な評価が求められる。
【0020】
そこで、探傷領域Drにおける後方散乱波Ur
を含む検出信号の波形を高速フーリエ変換(FFT)してその周波数分布を算出すると、内部欠陥が無い場合の探傷領域Drにおける後方散乱波
Urを含む検出信号の周波数分布曲線Lxは
図5に示すように、中心周波数(本実施形態では10MHz)にピークを有する正規分布曲線Ln(基準分布)に近いものとなる。
【0021】
ここにおいて、探傷領域における反射波の周波数分布曲線Lxの、正規分布曲線Lnからのずれ(誤差(絶対値)d)が後方散乱波Urによるものとして、その誤差の和Σdを算出すると、この誤差の和Σdは、被検査材1の結晶粒の大きさに良く対応する。
【0022】
そこで、本発明は、微細な結晶粒からなる均一な組織が求められる金属材料等において、その品質保証の観点から、高精度に結晶粒の大小を検査し、相対的な評価をすることが可能となる思想である。すなわち、微細な結晶粒からなる均一な組織である金属材料が、本発明の適した検査対象である。なお、本発明の結晶粒又は微細な結晶粒からなる均一な組織である金属材料とは、平均結晶粒径が20μm以下であり、より好ましくは平均結晶粒径が10μm以下である。ここで、平均結晶粒径の基準は、ASTM E 112又はJIS G0551に基づく。
【0023】
(実施例)
図6(1)~(3)に示すような、それぞれ微細結晶粒からなり、均一な組織を有しているチタン合金において、結晶粒が小さい被検査材A、結晶粒が中間の大きさの被検査材B、結晶粒が粗大な被検査材Cについて、検査位置を変えてそれぞれ5回づつ、上述した手順で誤差の和Σdを算出した結果を表1に示す。
【0024】
【0025】
検査位置を変えて複数回行うのは、超音波の散乱や減衰はたまたまその経路に大きな結晶粒がある等によって影響を受けるため、この影響を排除するためである。例えば被検査材2の周方向で4か所、長手方向でさらに1か所の検査位置を設定する等である。そして、5か所で行った各検査における誤差の5回の和Σdの平均値Σdvを算出して、被検査材A,B,Cについて各平均値Σdvを
図7に示すようにそれぞれ図上に描くと、結晶粒の大きさと誤差の和Σdの平均値Σdvは良く対応し、結晶粒が大きくなるほどこれに応じて平均値Σdvも大きくなる。
【0026】
そこで、予め被検査材2の切断面で結晶粒の大きさを確認して、実際の結晶粒の大きさと誤差の和Σdの平均値Σdvの関係を調べておく。これにより、ラインを流れる各被検査材2について、上述の方法で算出した誤差の和Σdの平均値Σdvから当該検査材2の結晶粒の大きさを予想し検出することができる。
【0027】
なお、本発明の組織検査方法は、複数の被検査材を対象とした場合に、各々の被検査材において、前記周波数分布と前記基準分布の誤差の絶対値の和の値を算出し、前記複数の被検査材の各絶対値の和の値の大きさを比較することで、各被検査材の結晶粒の大小を検査する方法としても適用できる。
【0028】
上記実施形態では5回の誤差の和の平均値を算出するようにしたが、他の複数回の誤差の和の平均値としても良く、あるいは平均値をとることなく、一回の検査における誤差の和で結晶粒の大きさを検出しても良い。また、基準分布は正規分布とする必要は無く、散乱波の周波数分布曲線Lxの最小二乗から求めた多項式近似曲線等を基準分布として使用しても良い。さらに上記実施形態では探傷領域と結晶粒の検知領域を一致させているが、必ずしも一致させる必要は無い。
【符号の説明】
【0029】
1…探触子、2…被検査材、Ln…正規分布(基準分布)、Lx…周波数分布、Ue…発振超音波、Ur…後方散乱波。