(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20221220BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20221220BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20221220BHJP
B60W 20/17 20160101ALI20221220BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20221220BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20221220BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W20/17
B60L3/00 H
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2018241289
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水口 博貴
(72)【発明者】
【氏名】小久保 聡
(72)【発明者】
【氏名】大井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 智紀
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095169(JP,A)
【文献】特開2017-100580(JP,A)
【文献】特開2013-233910(JP,A)
【文献】特開2013-169953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/48
B60K 6/54
B60W 20/17
B60L 3/00
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてのエンジンおよびモータジェネレータと、前記エンジンのクランクシャフトのエンジントルクおよび前記モータジェネレータのモータシャフトのモータトルクのうち少なくとも一方に基づく駆動トルクを選択された変速比で車輪側に伝達するトランスミッションと、前記エンジンと前記トランスミッションとの間に設けられて前記クランクシャフトの振動を弾性部材によって低減するダンパと、を備えた車両のモータ制御装置であって、
前記モータシャフトの回転角度としてのモータ角と前記ダンパの下流側の前記トランスミッションのトランスミッションシャフトの回転角度としてのシャフト角との差分に基づいて、前記エンジントルクの変動に応じて前記モータシャフトが発生させる第1捩れトルクを算出する第1トルク算出部と、
前記第1捩れトルクと前記エンジンの駆動状態を示す駆動状態値とに基づいて、前記モータシャフトの振動を制振するために前記モータジェネレータに出力させる第1制振トルクを算出する第1制振トルク算出部と、
前記第1制振トルクに基づいて、前記モータジェネレータに与えるモータトルク指令値を出力するモータトルク指令出力部と、
を備え
、
前記駆動状態値は、前記エンジンの回転数および前記エンジンの負荷率に基づいて決定する、モータ制御装置。
【請求項2】
前記クランクシャフトの回転角度としてのクランク角と前記シャフト角との差分に基づいて、前記エンジントルクの変動に応じて前記ダンパが発生させる第2捩れトルクを算出する第2トルク算出部と、
前記第2捩れトルクと前記エンジンの前記駆動状態値とに基づいて、前記ダンパの振動を制振するために前記モータジェネレータに出力させる第2制振トルクを算出する第2制振トルク算出部と、
を、さらに含み、
前記モータトルク指令出力部は、前記エンジンの回転数に応じて、前記第1制振トルクと前記第2制振トルクの少なくとも一方に基づいて、前記モータジェネレータに与えるモータトルク指令値を出力する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータトルク指令出力部は、前記エンジンの回転数に応じて、前記第1制振トルクと前記第2制振トルクの切替ゲインを取得し、当該切替ゲインにしたがう前記第1制振トルクに基づく前記モータトルク指令値と前記第2制振トルクに基づく前記モータトルク指令値を出力する、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータトルク指令出力部は、前記エンジンと前記トランスミッションとの間に設けられるクラッチが、前記クランクシャフトと前記トランスミッションシャフトとを接続する接続状態になっている場合に、前記モータトルク指令値を出力し、前記クラッチが前記クランクシャフトと前記トランスミッションシャフトとの接続を遮断する遮断状態になっている場合に、または、前記クラッチが接続状態になっている場合に前記車両を加速させる加速操作が行われていない場合に、前記モータトルクをゼロにする前記モータトルク指令値を出力する、請求項1から
請求項3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力源としてのエンジンおよびモータジェネレータと、エンジンのエンジントルクおよびモータジェネレータのモータトルクのうち少なくとも一方に基づく駆動トルクを選択された変速比で車輪側に伝達するトランスミッションと、エンジンのクランクシャフトの振動を低減するダンパと、を備えた車両が知られている。また、エンジンの振動(トルク変動)によってダンパが発生させる捩れトルクとは逆位相のモータトルクを出力してダンパの捩れトルクを相殺することで、ダンパにおける捩れトルクに応じてドライブシャフト等で発生する振動を低減する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような車両の場合、ダンパ以外で発生する捩れトルクが原因でドライブシャフトが振動(共振)する場合がある。例えば、モータジェネレータのモータシャフトは、トランスミッションを介してドライブシャフトにトルク伝達を行う。そのため、エンジンのクランクシャフトの振動(トルク変動)によりモータシャフトに捩れトルクが発生させられ、その捩れトルクに起因する振動によりドライブシャフトが共振して大きな振動が生じてしまう場合がある。
【0005】
そこで、実施形態の課題の一つは、モータジェネレータのモータシャフトで発生する捩れトルクを低減し、結果的にドライブシャフトの振動(共振)の低減ができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態にかかるモータ制御装置は、例えば、動力源としてのエンジンおよびモータジェネレータと、上記エンジンのクランクシャフトのエンジントルクおよび上記モータジェネレータのモータシャフトのモータトルクのうち少なくとも一方に基づく駆動トルクを選択された変速比で車輪側に伝達するトランスミッションと、上記エンジンと上記トランスミッションとの間に設けられて上記クランクシャフトの振動を弾性部材によって低減するダンパと、を備える。そして、モータ制御装置は、上記モータシャフトの回転角度としてのモータ角と上記ダンパの下流側の上記トランスミッションのトランスミッションシャフトの回転角としてのシャフト角との差分に基づいて、上記エンジントルクの変動に応じて上記モータシャフトが発生させる第1捩れトルクを算出する第1トルク算出部と、上記第1捩れトルクと上記エンジンの駆動状態を示す駆動状態値とに基づいて、上記モータシャフトの振動を制振するために上記モータジェネレータに出力させる第1制振トルクを算出する第1制振トルク算出部と、上記第1制振トルクに基づいて、上記モータジェネレータに与えるモータトルク指令値を出力するモータトルク指令出力部と、を備える。そして、上記駆動状態値は、上記エンジンの回転数および上記エンジンの負荷率に基づいて決定する。この構成によれば、例えば、モータシャフトで発生する振動の原因となる第1捩れトルクを第1制振トルクにより低減可能となり、結果的にドライブシャフトの振動(共振)が低減できる。また、例えば、ドライブシャフトで発生している振動(共振)の原因となるエンジンの駆動状態をより反映させた制振トルクの算出が可能になり、ドライブシャフトの振動(共振)の低減をより効果的に行うことができる。
【0007】
また、実施形態のかかるモータ制御装置は、例えば、上記クランクシャフトの回転角度としてのクランク角と上記シャフト角との差分に基づいて、上記エンジントルクの変動に応じて上記ダンパが発生させる第2捩れトルクを算出する第2トルク算出部と、上記第2捩れトルクと上記エンジンの上記駆動状態値とに基づいて、上記ダンパの振動を制振するために上記モータジェネレータに出力させる第2制振トルクを算出する第2制振トルク算出部と、を、さらに含む。そして、上記モータトルク指令出力部は、上記エンジンの回転数に応じて、上記第1制振トルクと上記第2制振トルクの少なくとも一方に基づいて、上記モータジェネレータに与えるモータトルク指令値を出力してもよい。この構成によれば、例えば、ダンパで発生する振動の原因となる第2捩れトルクを第2制振トルクにより低減可能となる。この場合、エンジン状態(回転数)によりドライブシャフトにおける振動(共振)で支配的となる振動元が、ダンパとなったりモータシャフトとなったりする。そのため、エンジン回転数に応じて、第1制振トルクと第2制振トルクをそれぞれ使い分けることにより、ドライブシャフトの振動(共振)の低減をより効果的に行うことができる。
【0008】
また、実施形態のかかるモータ制御装置の上記モータトルク指令出力部は、例えば、上記エンジンの回転数に応じて、上記第1制振トルクと上記第2制振トルクの切替ゲインを取得し、当該切替ゲインにしたがう上記第1制振トルクに基づく上記モータトルク指令値と上記第2制振トルクに基づく上記モータトルク指令値を出力するようにしてもよい。この構成によれば、エンジンの状態(回転数)により、変化するドライブシャフトの共振(振動)を、エンジン回転数に応じて、第1制振トルクと第2制振トルクの大きさを変化させることにより、効果的に低減することができる。
【0010】
また、実施形態のかかるモータ制御装置の上記モータトルク指令出力部は、例えば、上記エンジンと上記トランスミッションとの間に設けられるクラッチが、上記クランクシャフトと上記トランスミッションシャフトとを接続する接続状態になっている場合に、上記モータトルク指令値を出力し、上記クラッチが上記クランクシャフトと上記トランスミッションシャフトとの接続を遮断する遮断状態になっている場合に、または、上記クラッチが接続状態になっている場合に上記車両を加速させる加速操作が行われていない場合に、上記モータトルクをゼロにする上記モータトルク指令値を出力するようにしてもよい。この構成によれば、例えば、クランクシャフトの振動がクラッチを介して車輪側に伝達されるか否かに応じて、ドライブシャフトの振動(共振)の影響を低減するためのモータトルクを発生させるか否かを切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態にかかるモータ制御装置を含む車両の駆動システムの構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態において考慮すべき、ドライブシャフトで発生しているトルクの変動(振動)の原因となるダンパ共振とモータシャフト共振の位置を例示的かつ模式的な図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかるモータ制御装置が有する機能モジュール群を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【
図4】
図4は、エンジンの回転数とエンジン負荷率に応じて変化するクランクシャフトのトルク変動(振動)に対応して変化させる制振トルクのトルクゲインの遷移を示す例示的かつ模式的な説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態にかかるモータ制御装置において、ドライブシャフトで発生しているトルクの変動(振動)を示す図であり、ダンパの振動に対応する制振トルクを付与する制御を実行した場合のドライブシャフトのトルク変動の変化の様子を示す例示的かつ模式的な説明である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかるモータ制御装置において、ドライブシャフトで発生しているトルクの変動(振動)を示す図であり、モータシャフトの振動に対応する制振トルクを付与する制御を実行した場合のドライブシャフトのトルク変動の変化の様子を示す例示的かつ模式的な説明である。
【
図7】
図7は、実施形態にかかるモータ制御装置において、ダンパの振動に対応する制振トルクとモータシャフトの振動に対応する制振トルクを用いた制御を切り替える場合のシフト段ごとのエンジン回転数と切替ゲインの関係を示す例示的かつ模式的な説明図である。
【
図8】
図8は、
図7の切替ゲインを用いて制振トルクの切替制御を実行した場合の、ドライブシャフトのトルクの変動を示す例示的かつ模式的な説明図である。
【
図9】
図9は、実施形態にかかるモータ制御装置において、ダンパの振動に対応する制振トルクとモータシャフトの振動に対応する制振トルクを用いた制御を切り替える場合のシフト段ごとのエンジン回転数と切替ゲインの他の関係を示す例示的かつ模式的な説明図である。
【
図10】
図10は、実施形態にかかるモータ制御装置が実行する一連の処理を示した例示的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用、結果、および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や、派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
【0013】
図1は、実施形態にかかるモータ制御装置10を含む車両Vの駆動システム100の構成を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0014】
図1に示されるように、実施形態にかかる車両Vの駆動システム100は、エンジン12と、モータジェネレータ14と、トランスミッション16と、ダンパ18と、クラッチ20と、モータ制御装置10と、を備えている。
【0015】
エンジン12およびモータジェネレータ14は、車両Vの動力源である。エンジン12は、エンジンECU(不図示)の制御に応じてエンジントルクを出力し、クランクシャフト22を回転させる。同様に、モータジェネレータ14は、モータ制御装置10の制御に応じてモータトルクを出力し、モータシャフト24を回転させる。
【0016】
トランスミッション16は、エンジン12のクランクシャフト22のエンジントルクおよびモータジェネレータ14のモータシャフト24のモータトルクのうち少なくとも一方に基づく駆動トルクを選択された変速比で車輪W側に伝達する。駆動トルクは、ドライブシャフト26を介して車輪W側に伝達される。
【0017】
ダンパ18は、クランクシャフト22の振動(エンジントルクの変動)を低減(吸収)するトルク変動吸収装置である。ダンパ18は、一般的なダンパと同様の弾性部材を有しており、エンジントルクの変動に応じて、ダンパトルクを発生させる。
【0018】
クラッチ20は、エンジン12(ダンパ18)とトランスミッション16との間に設けられ、エンジン12のクランクシャフト22とトランスミッション16のトランスミッションシャフト28との接続/遮断を切り替える。クラッチ20は、クランクシャフト22とトランスミッションシャフト28とを接続する接続状態になっている場合に、クランクシャフト22とトランスミッションシャフト28との間のトルク(の少なくとも一部)の伝達を実施する。また、クラッチ20は、クランクシャフト22とトランスミッションシャフト28との接続を遮断する遮断状態になっている場合に、ダンパ18と当該ダンパ18の下流側に配置されたトランスミッション16のトランスミッションシャフト28との間のトルクの伝達を遮断する。
【0019】
モータ制御装置10は、例えば、プロセッサやメモリなどを備えたマイクロコンピュータとして構成されたECU(Electronic Control Unit)である。モータ制御装置10は、モータジェネレータ14に指令値としてのモータトルク指令値を与えることで、モータジェネレータ14のモータトルクを制御する。
【0020】
モータ制御装置10は、車両Vに設けられる各種のセンサを、制御に利用することができる。
図1に示される例では、各種のセンサとして、クランク角センサ30と、モータ角センサ32と、シャフト角センサ34、アクセルポジションセンサ36と、ストロークセンサ38と、シフトポジションセンサ40等が例示されている。
【0021】
クランク角センサ30は、クランクシャフト22の回転角度としてのクランク角を検出する。モータ角センサ32は、モータシャフト24の回転角度としてのモータ角を検出する。シャフト角センサ34は、トランスミッション16のトランスミッションシャフト28の回転角度としてシャフト角を検出する。
【0022】
アクセルポジションセンサ36は、例えばアクセルペダルなどといった、車両Vを加速させる加速操作を行うための加速操作部(不図示)の操作量(踏み込み量、操作位置)などを検出することで、ドライバにより加速操作が行われているか否かを検出する。ストロークセンサ38は、例えばクラッチペダルなどといった、クラッチ20を操作するためのクラッチ操作部(不図示)の操作量(踏み込み量、操作位置)などを検出することで、クラッチ20が接続状態になっているか遮断状態になっているかを検出する。シフトポジションセンサ40は、トランスミッション16に現在設定されている変速段(シフト段)を検出する。
【0023】
ところで、実施形態にかかるダンパ18のような一般的なダンパが設けられた構成において、エンジン12(クランクシャフト22)のトルク変動(振動)に起因してダンパ18に捩れトルクが発生して、当該ダンパ18が振動する場合がある。この場合、ダンパ18で発生した捩れトルクとは逆位相のモータトルクを出力することで、ダンパ18における捩れトルクを相殺して振動を低減する技術が知られている。
【0024】
しかしながら、車両Vの駆動システム100場合、ダンパ18以外で発生する捩れトルクが原因でドライブシャフト26が振動(共振)する場合がある。例えば、モータジェネレータ14のモータシャフト24は、トランスミッション16を介してドライブシャフト26にトルク伝達を行う。そのため、エンジン12のクランクシャフト22の振動(トルク変動)によりモータシャフト24に捩れトルクが発生させられ、その捩れトルクに起因する振動によりドライブシャフトが共振して大きな振動が生じてしまう場合がある。
【0025】
図2は、ドライブシャフト26で発生しているトルクの変動(振動)を示す図である。
図2において、エンジン12の回転数の低い領域で発生しているトルク変動が、ダンパ18の捩れトルクに起因する振動によりドライブシャフト26で表れるダンパ共振Mである。また、エンジン12の回転数の高い領域で発生しているトルク変動が、モータシャフト24の捩れトルクに起因する振動によりドライブシャフト26で表れるシャフト共振Sである。エンジン12の回転数の低域側で主として発生するダンパ共振Mは、前述したように、ダンパ18で発生した捩れトルクとは逆位相のモータトルクを与えることで低減できる。つまり、ダンパ18における捩れトルクを相殺して、ダンパ18における振動を低減することができる。一方、エンジン12の回転数の高域側で主として発生するシャフト共振Sについては、エンジン12の回転数が高くなるほど振動が小さくなることから、従来考慮されなかった。しかし、駆動システム100の構成によって、シャフト共振Sの位置が低域側にシフトして、例えば制振対象領域(車両Vの通常走行において常用されるエンジン回転数の領域)に入ってしまう場合がある。シャフト共振Sの位置は、車両Vの構成、例えば、トランスミッション16の構成や剛性、慣性等、種々の要素によって変化する。そこで、本実施形態では、シャフト共振Sに着目し、当該シャフト共振の低減により、車両V自体の振動抑制による乗り心地の向上を実現する。具体的には、モータシャフト24の捩れトルクを算出し、当該捩れトルクを相殺するような制振トルクをモータジェネレータ14で発生させることにより、モータシャフト24のトルク変動(振動)を低減し、結果的にドライブシャフト26におけるシャフト共振Sの発生を低減する。
【0026】
図3は、実施形態にかかるモータ制御装置10が有する機能モジュール群を示した例示的かつ模式的なブロック図である。
【0027】
図3に示されるように、モータ制御装置10は、制振要否判定部42、シャフトトルク算出部44(第1トルク算出部ともいう)、第1ゲイン算出部46、第1制振トルク算出部48、ダンパトルク算出部50(第2トルク算出部ともいう)、第2ゲイン算出部52、第2制振トルク算出部54、切替ゲイン算出部56、制振トルク算出部58、フィルタ処理部60、指令トルク決定部62、駆動制御部64等を備える。実施形態では、これらの機能モジュール群の一部または全部が、専用のハードウェア(回路)によって実現されてもよい。なお、本実施形態において、切替ゲイン算出部56、制振トルク算出部58、フィルタ処理部60、指令トルク決定部62、駆動制御部64をまとめて、「モータトルク指令出力部」ともいう。
【0028】
また、
図3に示されるように、モータ制御装置10は、第1ゲイン算出部46が参照するデータとして、第1ゲインマップ66を備える。また、第2ゲイン算出部52が参照するデータとして第2ゲインマップ68を備える。
【0029】
制振要否判定部42は、アクセルポジションセンサ36およびストロークセンサ38の検出結果に基づいて、ダンパ18の振動の原因となるダンパトルクおよびモータシャフト24の振動の原因となるシャフトトルクを相殺してドライブシャフト26の振動(共振)を低減するためのモータトルクの出力の要否を判定する。なお、以下の説明では、ドライブシャフト26の振動を低減するためのモータトルクを、制振トルクと表現することがある。
【0030】
例えば、クラッチ20が遮断状態になっている場合や、クラッチ20が接続状態になっていたとしても加速操作が行われていない場合(アクセルペダルがオフ状態のとき)などにおいては、エンジントルクの変動がドライブシャフト26側に伝達されないので、制振トルクを出力する必要がない。したがって、このような場合、制振要否判定部42は、制振トルクがゼロになるように、制振トルクを出力する必要がない旨を指令トルク決定部62に通知する。なお、駆動システム100がモータジェネレータ14のみのモータトルクで走行している場合、エンジン12は停止し、エンジントルクの変動がドライブシャフト26側に伝達されないので、制振トルクを出力する必要がない。制振要否判定部42は、この判定を、エンジン12とモータジェネレータ14を統合的に制御する図示しないハイブリッドECU等からの信号に基づいて実行することができる。
【0031】
一方、クラッチ20が接続状態になっており、かつ加速操作が行われている場合は、エンジントルクの変動がドライブシャフト26側に伝達されるので、制振トルクによって振動を低減する必要がある。したがって、このような場合、制振要否判定部42は、ダンパトルクおよびシャフトトルクを相殺するための制振トルクが出力されるように、制振トルクを出力する必要がある旨を指令トルク決定部62に通知する。
【0032】
シャフトトルク算出部44は、シャフト角センサ34およびモータ角センサ32の検出結果に基づいて、モータシャフト24が発生させるシャフトトルクTs(第1捩れトルク)を算出(推定)する。モータシャフト24の捩れ角は、シャフト角センサ34の検出結果としてのトランスミッションシャフト28のシャフト角θ1とし、モータ角センサ32の検出結果としてのモータ角θ2とした場合、シャフト角θ1とモータ角θ2との差分に基づいて算出することができる。そして、モータシャフト24のばね定数をKsとすると、シャフトトルクTsは、Ts=Ks(θ1-θ2)で算出することができる。
【0033】
第1ゲイン算出部46は、第1制振トルク算出部48において、モータシャフト24の制振トルク(第1制振トルク)を決定する場合に利用する第1ゲインGs(シャフトトルクゲイン)を算出する。エンジン12(クランクシャフト22)で発生する振動の大きさは、エンジン12の回転数とエンジン12の負荷率に応じて変化する。例えば、
図4に示すように、エンジン12の負荷率が大きい程、エンジン12(クランクシャフト22)の振動が大きくなる。その結果、モータシャフト24における振動(トルク変動)も大きくなり、制振のためにはより大きな制振トルクが必要になる。逆に、エンジン12の負荷率が小さければ、エンジン12(クランクシャフト22)の振動は小さくなる。つまり、モータシャフト24における振動(トルク変動)も小さくなり、制振のために必要な制振トルクは小さくて済む。
図4に示すような、エンジン12の回転数と負荷率とトルクゲインとの関係は、予め試験等により算出可能であり、例えばマップ化しておき、第1ゲインマップ66に記憶しておくことができる。エンジン12の回転数は、エンジン回転数取得部70から取得する。エンジン回転数取得部70は、例えば、クランク角センサ30の検出結果に基づいてエンジン12の回転数を推定して取得してもよいし、専用のセンサにより回転数を検出して取得してもよい。また、エンジン回転数取得部70は、モータジェネレータ14とエンジン12とが動力的に繋がっている場合には、エンジン12の回転数をモータジェネレータ14の回転数から取得してもよい。また、エンジン12の負荷率は、例えば、アクセルポジションセンサ36の検出結果と、予め試験等で取得した負荷率とアクセルペダルの踏み込み量(アクセルポジション)とを対応付けたマップとを参照して推定することができる。また、図示を省略しているが、エンジン12のスロットル開度を検出するスロットルセンサの検出結果やエンジンECUからの情報に基づいてエンジン12の負荷率を推定してもよい。なお、エンジン12の回転数が高くなるほど、ドライブシャフト26における振動(共振)が小さくなる傾向が知られている。したがって、
図4に示すように、エンジン12の回転数が例えば一定値を超えるとトルクゲインが減少するようにマップを設定するようにしてもよい。なお、トルクゲインは、エンジン12の駆動状態を示す駆動状態値と表現することもできる。
【0034】
第1制振トルク算出部48は、第1制振トルクTm1を、シャフトトルク算出部44で算出したシャフトトルクTsと第1ゲイン算出部46で算出した第1ゲインGs(駆動状態値)との乗算(Tm1=Ts×Gs)に基づいて算出する。なお、モータシャフト24の制振には、同位相の制振トルクを用いるため、第1制振トルクTm1は、「+」となる。
【0035】
ダンパトルク算出部50は、クランク角センサ30およびシャフト角センサ34の検出結果に基づいて、ダンパ18が発生させるダンパトルクTd(第2捩れトルク)を算出(推定)する。ダンパ18の捩れ角は、クランク角センサ30の検出結果としてのクランク角θ3とし、トランスミッションシャフト28のシャフト角θ1とした場合、クランク角θ3とシャフト角θ1との差分に基づいて算出することができる。そして、ダンパ18の弾性部材のばね定数をKdとすると、ダンパトルクTdは、Td=Kd(θ3-θ1)で算出することができる。
【0036】
第2ゲイン算出部52は、第2制振トルク算出部54において、ダンパ18の制振トルク(第2制振トルク)を決定する場合に利用する第2ゲインGd(ダンパトルクゲイン)を算出する。前述したように、エンジン12(クランクシャフト22)で発生する振動の大きさは、エンジン12の回転数とエンジン12の負荷率に応じて変化する。したがって、
図4に示すマップと同様のダンパ18用のマップを第2ゲインマップ68に記憶しておくことにより、エンジン回転数取得部70が取得するエンジン12の回転数と、アクセルポジションセンサ36の検出結果に基づいて推定されるエンジン12の負荷率に応じた第2ゲインGd(ダンパトルクゲイン)を算出することができる。
【0037】
第2制振トルク算出部54は、第2制振トルクTm2を、ダンパトルク算出部50で算出したダンパトルクTdと第2ゲイン算出部52で算出した第2ゲインGd(駆動状態値)との乗算(Tm2=-Td×Gd)に基づいて算出する。なお、前述したように、ダンパ18の制振には、逆位相の制振トルクを用いるため、第2制振トルクTm2は、「-」が付される。
【0038】
ところで、
図2で示したように、ドライブシャフト26のトルク変動(振動)は、エンジン12の回転数によって支配的となる共振が異なる。
図5は、ダンパ18のみが振動していると仮定した場合に駆動システム100を駆動させて、ドライブシャフト26が振動(共振)している場合に、ダンパ18に対応する第2制振トルクTm2を付与する制御を実行した場合のドライブシャフト26のトルク変動の変化の様子を示す例示的かつ模式的な説明である。二点鎖線で示すトルク変動T0が、上述した第2制振トルクTm2を付与しない場合のトルク変動(制御なし変動)を示す例である。一方、一点鎖線で示すトルク変動T2が、第2制振トルクTm2を付与した場合のトルク変動(制御あり変動)を示す例である。
図5に示されるように、エンジン12の回転数が低い領域(例えば、回転数A未満の領域)では、ダンパ18の振動に対応する制振効果が表れ、ドライブシャフト26の振動が低減されている。一方、回転数A以上の高域側では、ドライブシャフト26の振動は低減されているものの十分には、低減されず、車両Vの乗り心地の悪化の原因になりうる。
【0039】
図6は、モータシャフト24のみが振動していると仮定した場合に、駆動システム100を駆動させて、ドライブシャフト26が振動(共振)している場合に、モータシャフト24に対応する第1制振トルクTm1を付与する制御を実行した場合のドライブシャフト26のトルク変動の変化の様子を示す例示的かつ模式的な説明である。二点鎖線で示すトルク変動T0が、上述した第1制振トルクTm1を付与しない場合のトルク変動(制御なし変動)を示す例である。一方、破線で示すトルク変動T1が、第1制振トルクTm1を付与した場合のトルク変動(制御あり変動)を示す例である。
図6に示されるように、エンジン12の回転数が高い領域(例えば、回転数A以上の領域)では、モータシャフト24の振動に対応する制振効果が表れ、ドライブシャフト26の振動が低減されている。一方、回転数A未満の低域側では、ドライブシャフト26の振動は悪化して、非制御の場合より振動が大きくなっている。つまり、車両Vの乗り心地の悪化の原因になりうる。
【0040】
したがって、エンジン12の回転数に応じて、制振対象を切り替えることにより、エンジン12の回転数の全域において、効果的な制振が可能となる。そこで、本実施形態のモータ制御装置10は、切替ゲイン算出部56を備える。切替ゲイン算出部56は、例えば、エンジン回転数取得部70から取得されるエンジン12の回転数に基づいて、切替ゲインを算出する。例えば、切替ゲイン算出部56は、シフトポジションセンサ40から取得されるシフト段情報Shおよびエンジン回転数取得部70から取得されるエンジン12の回転数Neに基づいて、ダンパ18の振動に対応する制振制御とモータシャフト24の振動に対応する制振制御のいずれを支配的に実行させるかを決定する切替ゲインG1,G2を算出する(G1=f(Ne,Sh),G2=f(Ne,Sh))。
【0041】
図7は、モータ制御装置10において、ダンパ18の振動に対応する制振トルクとモータシャフト24の振動に対応する制振トルクを用いた制御を切り替える場合のシフト段ごとのエンジン回転数と切替ゲインの関係を示す例示的かつ模式的な説明図である。
図7は、例えば、トランスミッション16のシフト段が「5th」の場合の切替パターンを示す図である。
図7の場合、エンジン12の回転数が低域側でダンパ18の振動に対応する制振制御を最大で実施するように一点鎖線で示す切替ゲインG2
(5)を例えば、「1」としている。一方、この場合、モータシャフト24の振動に対応する制振制御を非実施とするように実線で示す切替ゲインG1
(5)を「0」としている。そして、シフト段が「5th」の場合に予め試験等で定めたエンジン12の回転数Aに達した場合、ダンパ18の制振制御用の切替ゲインG2
(5)を漸減させる。また、モータシャフト24の制振制御用の切替ゲインG1
(5)を漸増させる。そして、シフト段が「5th」の場合に予め試験等で定めたエンジン12の回転数Bに達した場合に、完全にダンパ18の制振制御用の切替ゲインG2
(5)からモータシャフト24の制振制御用の切替ゲインG1
(5)に切り替わるようにする。
【0042】
図3に戻り、制振トルク算出部58は、第1制振トルク算出部48で算出された第1制振トルクTm1(モータシャフト24の制振用のトルク)と第2制振トルク算出部54算出された第2制振トルクTm2(ダンパ18の制振用のトルク)と、切替ゲイン算出部56で算出された切替ゲインG1,G2とに基づき、エンジン12の回転数に応じたトルク指令値Tmを算出する。すなわち、トルク指令値Tmは、Tm=Tm1×G1+Tm2×G2で算出できる。
【0043】
フィルタ処理部60は、制振トルク算出部58の算出結果にフィルタリング処理を施し、エンジン12の爆発による脈動周波数に対応した振動成分を抽出する。フィルタ処理部60は、まず、エンジン12の脈動周波数feを算出する。脈動周波数feは、エンジン回転数取得部70等によって取得可能なエンジン12の回転数Neと、エンジン12の気筒数n、エンジン12のサイクル数cに基づき、fe=Ne×n/60×cで算出できる。なお、気筒数nとサイクル数cは、エンジン12に対して固定値であるため、脈動周波数feは、回転数によって変化する。フィルタ処理部60は、現在のエンジン12の回転数に応じた脈動周波数feを通過帯域とするバンドパスフィルタF(s)を算出する。そして、フィルタ処理部60は、制振トルク算出部58で算出したトルク指令値Tmに算出したバンドパスフィルタF(s)を適用し、モータジェネレータ14の性能や目標制振性能によって決定される上下限処理を実行する。つまり、モータジェネレータ14に適した実トルク指令値Tm_bpf(Tm_bpf=F(s)×Tm)を決定する。
【0044】
指令トルク決定部62は、制振要否判定部42の判定結果に基づき、駆動制御部64に対してモータトルク指令値Tm_reqを出力する。つまり、ドライブシャフト26の振動(共振)を低減するためのモータトルクの出力の要否の判定結果に基づき、振動(共振)の低減が必要な場合、フィルタ処理部60を通過させた結果として得られた実トルク指令値Tm_bpfに基づきモータトルク指令値Tm_reqを駆動制御部64に出力する。したがって、指令トルク決定部62は、適切なタイミングで、モータジェネレータ14を性能範囲内で動作させるようなモータトルク指令値Tm_reqを出力する。そして、駆動制御部64は、モータトルク指令値Tm_reqにしたがいモータジェネレータ14を駆動する。
【0045】
図8において、制振制御を非実行の場合のドライブシャフト26のトルク変動T0が二点鎖線で示され、モータシャフト24のみの制振制御を行った場合のドライブシャフト26のトルク変動T1が破線で示され、ダンパ18のみの制振制御を行った場合のドライブシャフト26のトルク変動T2が一点鎖線で示されている。そして、切替ゲイン算出部56の切替ゲインにしたがう切替制御を行った場合のドライブシャフト26のトルク変動Tが実線で示されている。
図8に示されるように、制振制御において、切替制御を実行して決定したモータトルク指令値Tm
_reqにしたがいモータジェネレータ14に制振制御トルクを発生させることにより、エンジン12の回転数A未満の領域では、ダンパ18の振動に対応する制振制御が支配的となる。その結果、回転数A未満の領域でドライブシャフト26の振動(共振)の低減が実行できる。また、エンジン12の回転数A以上の領域では、モータシャフト24の振動に対応する制振制御が支配的となる。その結果、回転数A以上の領域でドライブシャフト26の振動(共振)の低減が実行できる。すなわち、エンジン12の回転数の全領域において、制振制御の非実行時に比べドライブシャフト26の振動(共振)の低減が実行できる。
【0046】
切替ゲインG1,G2を用いた第1制振トルクTm1と第2制振トルクTm2との切り替えのタイミング(例えば、
図7のおける回転数Aのタイミング)は、ドライブシャフト26の振動(共振)の特徴が切り替わるタイミングで行われるように予め設定することができる。ドライブシャフト26の振動(共振)の位置は、車種やエンジン12、モータジェネレータ14等、駆動システム100の構成によって予め算出することができる。例えば、ダンパ18の振動に起因するダンパ共振Mは算出可能である。同様に、モータシャフト24の振動に起因するシャフト共振Sは算出可能である。したがって、ドライブシャフト26の振動において、ダンパ共振Mが支配的となる領域とシャフト共振Sが支配的となる領域とが切り替わる、「節」の位置が特定可能である。この「節」の位置(例えば、
図7の回転数Aの位置)で、第1制振トルクTm1と第2制振トルクTm2との切り替えを実施すれば、第1制振トルクTm1と第2制振トルクTm2のそれぞれによって効果的に制振ができる制振制御が実現できる。
【0047】
なお、ドライブシャフト26の共振点(ダンパ18の振動による共振点およびモータシャフト24の振動による共振点)は、ドライブシャフト26の剛性やドライブシャフト26に作用する慣性によって変化する。例えば、トランスミッション16がシフトダウンする場合、ドライブシャフト26に影響する慣性が変化する。また、トランスミッション16がシフトダウンするとエンジン12の回転数が上昇し、それに伴い共振点の位置も高回転側に移動する。したがって、切替ゲインG1,G2を用いた第1制振トルクTm1と第2制振トルクTm2との切り替えのタイミングは、トランスミッション16のシフト段に応じて変更するようにしてもよい。例えば、シフト段が「5th」からシフトダウンして「4th」になった場合、
図7に示すように、切替タイミングが高回転側にシフトし、二点鎖線で示すダンパ18の制振制御用の切替ゲインG2
(4)および太破線で示すモータシャフト24の制振制御用の切替ゲインG2
(4)となる。逆に、シフト段が「6th」の場合、切替タイミングが低回転側にシフトする。このように、トランスミッション16のシフト段によって、ダンパ18の振動に対応する制振制御とモータシャフト24の振動に対応する制振制御を切り替えることによって、駆動システム100の駆動状態に応じた、より効率的な制振制御が可能となる。
【0048】
図9は、モータ制御装置10において、ダンパ18の振動に対応する制振トルクとモータシャフト24の振動に対応する制振トルクを用いた制御を切り替える場合のシフト段ごとのエンジン回転数と切替ゲインの他の関係を示す例示的かつ模式的な説明図である。
図5、
図8に示すように、ダンパ18の振動に対応する制振制御は、エンジン12の回転数の高域側(例えば、回転数A以上の領域)においても、ドライブシャフト26の振動(共振)の低減に寄与する。したがって、
図9の切替ゲインの切替パターンでは、トランスミッション16のシフト段に拘わらず(例えば、5th,4thに拘わらず)、ダンパ18の振動に対応する制振制御をエンジン12の回転数の全領域について、最大で実施するように切替ゲインG2
(5)を例えば「1」としている。そして、例えば、シフト段が「5th」の場合に予め試験等で定めたエンジン12の回転数Aに達した場合、実線で示すモータシャフト24の制振制御用の切替ゲインG1
(5)を漸増させる。その結果、回転数A以上の領域においては、モータシャフト24の振動に対応する制振効果が追加され、ドライブシャフト26振動(共振)をさらに効果的に低減させることができる。また、この場合、ダンパ18の振動に対応する制振制御を実施する場合の切替ゲインG2
(5)は一定とするので、制御が簡略化される。なお、
図9の切替パターンにおいても、例えば、シフト段が「5th」からシフトダウンして「4th」になった場合、
図9に示すように、切替タイミングが高回転側にシフトし、太破線で示すモータシャフト24の制振制御用の切替ゲインG1
(4)となる。逆に、シフト段が「6th」の場合、切替タイミングが低回転側にシフトする。
図9に示すような切替ゲインG1,G2を用いる場合も、
図8で示す例と同様に、エンジン12の回転数の全領域において、制振制御の非実行時に比べドライブシャフト26の振動(共振)の低減が実行できる。
【0049】
以上のように構成されるモータ制御装置10が実行する一連の処理の流れの例を
図10に示すフローチャートを用いて説明する。なお、
図10のフローチャートの処理は、所定の処理周期で繰り返し実行されるものとする。
【0050】
図10に示されるように、モータ制御装置10の制振要否判定部42は、制振トルクによる制振が必要か否かを判断する。前述したように、この判断は、アクセルポジションセンサ36の検出結果と、ストロークセンサ38の検出結果と、に基づいて行われる(S100)。
【0051】
S100において、制振が必要だと判断された場合(S100のYes)、ダンパトルク算出部50は、クランク角センサ30の検出結果(クランク角θ3)と、シャフト角センサ34の検出結果(シャフト角θ1)と、ダンパ18の弾性部材のばね定数Kdとに基づき、ダンパトルクTd(Td=Kd(θ3-θ1))を算出する(S102)。そして、第2制振トルク算出部54は、ダンパトルク算出部50が算出したダンパトルクTdと、第2ゲイン算出部52がエンジン回転数と負荷率および第2ゲインマップ68を参照して算出した第2ゲインGdと、に基づき、ダンパ18の振動を制振するための第2制振トルクTm2(Tm2=-Td×Gd)を算出する(S104)。
【0052】
また、シャフトトルク算出部44は、シャフト角センサ34の検出結果(シャフト角θ1)と、モータ角センサ32の検出結果(モータ角θ2)とモータシャフト24のばね定数Ksとの基づき、シャフトトルクTs(Ts=Ks(θ1-θ2))を算出する(S106)。そして、第1制振トルク算出部48は、シャフトトルク算出部44が算出したシャフトトルクTsと、第1ゲイン算出部46がエンジン回転数と負荷率および第1ゲインマップ66を参照して算出した第1ゲインGsと、に基づき、モータシャフト24の振動を制振するための第1制振トルクTm1(Tm1=Ts×Gs)を算出する(S108)。
【0053】
また、切替ゲイン算出部56は、シフトポジションセンサ40から取得されるシフト段情報Shおよびエンジン回転数取得部70から取得されるエンジン12の回転数Neに基づいて、切替ゲインG1(G1=f(Ne,Sh))、切替ゲインG2(G2=f(Ne,Sh))を算出する(S110)。前述したように、切替ゲインG1,G2は、ダンパ18の振動に対応する制振制御とモータシャフト24の振動に対応する制振制御のいずれを支配的に実行させるかを決定する。
【0054】
制振トルク算出部58は、第1制振トルク算出部48が算出した第1制振トルクTm1と第2制振トルク算出部54が算出した第2制振トルクTm2と、切替ゲイン算出部56が算出した切替ゲインG1,G2とに基づき、エンジン12の回転数に応じたトルク指令値Tm(Tm=Tm1×G1+Tm2×G2)を算出する(S112)。
【0055】
続いて、フィルタ処理部60は、エンジン回転数取得部70によって取得可能なエンジン12の回転数Neと、エンジン12の気筒数n、エンジン12のサイクル数cに基づき、エンジン12の脈動周波数fe(fe=Ne×n/60×c)を算出する(S114)。また、フィルタ処理部60は、現在のエンジン12の回転数に応じた脈動周波数feを通過帯域とするバンドパスフィルタF(s)を算出する(S116)。そして、フィルタ処理部60は、算出したバンドパスフィルタF(s)を制振トルク算出部58で算出したトルク指令値Tmに適用するモータトルクフィルタ処理を実行する(S118)。つまり、モータジェネレータ14の性能や目標制振性能によって決定される上下限処理を実行し、モータジェネレータ14に適した実トルク指令値Tm_bpf(Tm_bpf=F(s)×Tm)を決定する。
【0056】
指令トルク決定部62は、フィルタ処理部60を通過させた結果として得られた実トルク指令値Tm
_bpfに基づきモータトルク指令値Tm
_reqを決定する(S120)。そして、駆動制御部64は、モータトルク指令値Tm
_reqにしたがう制御信号をモータジェネレータ14に出力し(S122)、モータジェネレータ14もよる制振制御を実行し、このフローを一旦終了し、次の制御周期で、S100からの処理を繰り返し実行する。その結果、
図8に実線で示すように、ドライブシャフト26のトルク変動Tを低減することができる。
【0057】
なお、S100において、制振が不必要だと判断された場合(S100のNo)、例えば、ドライバが操作するアクセルペダルが踏み込まれていない場合やクラッチペダルが踏み込まれ、クラッチ20が遮断状態になっている場合である。この場合、指令トルク決定部62は、モータトルクをゼロにするモータトルク指令値Tm_reqを決定する(S124)。そして、S122に移行し、駆動制御部64は、モータトルクをゼロにする、モータトルク指令値Tm_reqにしたがう制御信号をモータジェネレータ14に出力して、このフローを一旦終了する。
【0058】
なお、
図1に示す駆動システム100のブロック図、
図3に示すモータ制御装置10が有する機能モジュール群、
図10に示すフローチャートは、一例であり、同様の機能を実現できればよく、適宜変更可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0059】
以上、本開示のいくつかの実施形態を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上述した実施形態およびその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲とに含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10…モータ制御装置、12…エンジン、14…モータジェネレータ、16…トランスミッション、18…ダンパ、20…クラッチ、22…クランクシャフト、24…モータシャフト、26…ドライブシャフト、28…トランスミッションシャフト、30…クランク角センサ、32…モータ角センサ、34…シャフト角センサ、36…アクセルポジションセンサ、38…ストロークセンサ、40…シフトポジションセンサ、42…制振要否判定部、44…シャフトトルク算出部、46…第1ゲイン算出部、48…第1制振トルク算出部、50…ダンパトルク算出部、52…第2ゲイン算出部、54…第2制振トルク算出部、56…切替ゲイン算出部、58…制振トルク算出部、60…フィルタ処理部、62…指令トルク決定部、64…駆動制御部、66…第1ゲインマップ、68…第2ゲインマップ、70…エンジン回転数取得部、100…駆動システム。