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特許7196607グルコース測定方法およびグルコースセンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】グルコース測定方法およびグルコースセンサ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20221220BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20221220BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20221220BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20221220BHJP
   G01N 33/66 20060101ALN20221220BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALN20221220BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C12M1/34 E
G01N27/416 338
G01N27/327 353R
G01N27/30 A
G01N33/66 C
C12Q1/32 ZNA
C12N15/53
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018533949
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2018023776
(87)【国際公開番号】W WO2019017148
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2017140041
(32)【優先日】2017-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017151687
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018017142
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】川井 淳
(72)【発明者】
【氏名】岸本 高英
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/065770(WO,A1)
【文献】特開2015-084676(JP,A)
【文献】特開2017-000137(JP,A)
【文献】特開2013-116102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/00-3/00
G01N 27/00-27/92
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース脱水素酵素のD-グルコースおよびD-キシロースに対するミカエリス定数(Km)を測定する工程、並びに10mMのD-グルコース溶液に対し20mMのD-キシロースをスパイクした溶液に対する応答値を測定する工程を含み、かつ、下記の特性(1)及び(2)を備えるグルコース脱水素酵素を用いる、グルコースセンサの製造方法。
(1)D-グルコースに対するKmが0.1mM以上、100mM以下
(2)D-キシロースに対するKmが600mM以上、3000mM以下
【請求項2】
グルコース脱水素酵素のD-キシロースに対するKmが619mM以上、3000mM以下である、請求項1に記載のグルコースセンサの製造方法。
【請求項3】
グルコース脱水素酵素のD-キシロースに対するKmが736mM以上、3000mM以下である、請求項1に記載のグルコースセンサの製造方法。
【請求項4】
グルコース脱水素酵素が、さらに、酵素電極法でのD-キシロース作用性(10mMのグルコース溶液に対する応答値に対して、10mMのD-グルコース溶液に対し20mMのD-キシロースをスパイクした溶液に対する応答値の割合(%))が95%以上、105%以下である、請求項1に記載のグルコースセンサの製造方法。
【請求項5】
グルコース脱水素酵素が、さらに、酵素電極法でのD-キシロース作用性(10mMのグルコース溶液に対する応答値に対して、10mMのD-グルコース溶液に対し20mMのD-キシロースをスパイクした溶液に対する応答値の割合(%))が97%以上、103%以下である、請求項1に記載のグルコースセンサの製造方法。
【請求項6】
グルコース脱水素酵素が、以下の(a)から(f)に示す理化学的特性を有する、請求項1に記載のグルコースセンサの製造方法。
(a)至適温度50~55℃
(b)温度安定性50℃、15分処理後の残存活性が80%以上
(c)至適pH 7.0付近
(d)pH安定性4.0~8.0(25℃、16時間)
(e)糖含有量20~50%
(f)D-グルコースに対するKm 50~70mM
【請求項7】
グルコース脱水素酵素が、以下の(a)から(f)に示す理化学的特性を有する、請求項1に記載のグルコースセンサの製造方法。
(a)至適温度50~70℃
(b)温度安定性50℃、15分処理後の残存活性が80%以上
(c)至適pH 6.5~7.5
(d)pH安定性2.5~10.0(25℃、16時間)
(e)糖含有量10~40%
(f)D-グルコースに対するKm 10~90mM
【請求項8】
グルコース脱水素酵素が、以下の(a)から(f)に示す理化学的特性を有する、請求項1に記載のグルコースセンサの製造方法。
(a)至適温度45~50℃
(b)温度安定性45℃、15分処理後の残存活性が80%以上
(c)至適pH 6.0~6.5
(d)pH安定性3.5~6.5(25℃、16時間)
(e)糖含有量20~50%
(f)D-グルコースに対するKm 5~20mM
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース測定方法およびグルコースセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
血糖自己測定(SMBG:Self-Monitoring of Blood Glucose)は、糖尿病患者自身が自己の血糖値を日常的に測定、管理し、血糖値をコントロールすることにより治療に活用する上で重要である。近年、SMBGのために、電気化学バイオセンサを用いた簡易型の自己血糖測定器が広く用いられている。この種の典型的なバイオセンサは、絶縁性の基板上に電極、酵素反応層を形成した装置が挙げられる。
【0003】
バイオセンサに用いられるグルコース測定用酵素としては、グルコース脱水素酵素(以下、「GDH」とも表す。)及びグルコースオキシダーゼ(以下、「GO」とも表す。)(EC 1.1.3.4)等が知られている。GDHは、必要とする補酵素の違いによって、さらに、ピロロキノリンキノン依存型グルコース脱水素酵素(以下、「PQQGDH」とも表す。)(EC 1.1.5.2(旧EC 1.1.99.17))や、フラビン結合型グルコース脱水素酵素(例えば、フラビンアデニンジヌクレオチド依存性グルコース脱水素酵素(以下、「FADGDH」とも表す。)(EC 1.1.99.10))等に分類される。
【0004】
GOを用いたグルコース測定方法は、測定サンプル中の溶存酸素の影響を受けやすく、溶存酸素が測定結果に影響を及ぼすことが指摘されている。これに対し、PQQGDHを用いた方法では溶存酸素の影響を受けないが、マルトースやラクトースといったグルコース以外の糖類にも作用することが指摘されている。さらにFADGDHを用いる方法では、溶存酸素の影響を受けず、かつ、マルトースやラクトースにもほとんど作用しないことが知られている。
【0005】
糖尿病患者が血糖測定を行う上で問題となる糖として、マルトースやラクトース以外にD-キシロースもあげられる。D-キシロースは、医療現場においては小腸からの炭水化物吸収能を評価するキシロース吸収に用いられる。そのため糖尿病患者が該試験を受けている際に、D-キシロース作用性を有するグルコース脱水素酵素を用いて血糖測定を行うと、測定値の正確性を損ねる可能性がある。
【0006】
特にSMBGセンサにおいて、夾雑物質による影響の評価方法については、米国FDAより非特許文献1が公開されている。非特許文献1によると、D-キシロースの影響は、グルコース溶液に対して200mg/dLの濃度でD-キシロースをスパイクした溶液での応答値を測定し、スパイクなしの条件での応答値に対して95%信頼区間での応答値を示すことが推奨されている。
そのため、SMBGセンサ上でのD-キシロース作用性に関する評価は、スパイク試験を用いて行われることが多い。また、D-キシロースの影響がないことを確実に担保するために、スパイク試験で採用するD-キシロース濃度は非特許文献1に記載の濃度よりも高く設定し性能評価を行う場合がある。
【0007】
ところで、SMBGセンサにおける実用上のD-キシロース作用性が、非特許文献1のようにスパイク試験で評価されることが多いのに対し、SMBGセンサで使用するFADGDHのD-キシロース作用性は、現状では、水系におけるD-キシロースへの作用性を主体として論じられていることが多い。例えば、特許文献1には、D-グルコースへの作用性を100%とした際のD-キシロースの作用性が2%以下であるFADGDHを用いることにより、正確にD-グルコース量を測定することができるとの内容の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4648993号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Self-Monitoring Blood Glucose Test Systems for Over-the-Counter Use : Guidance for Industry and Food and Drug Administration Staff 2016年10月11日発行(http://www.raps.org/Regulatory-Focus/News/2016/10/07/25966/FDA-Finalizes-Two-Guidance-Documents-on-Blood-Glucose-Monitoring-Systems/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、SMBGセンサで使用するFADGDHのD-キシロース作用性の評価は、これまで水系におけるD-キシロースへの作用性を主体として論じられており、この評価方法に基づきD-キシロースへの作用性が低いとされるFADGDHについて多くの報告がある。しかし、水系におけるD-キシロースへの作用性の低いFADGDHが、必ずしもセンサ系においてもキシロースの影響を受けないとは限らないという問題がある。実際に、水系における評価方法が、実際にSMBGセンサに代表されるグルコースセンサおけるD-キシロースへの作用性を反映しているかという点に関しては、単純にそれぞれの基質に対する反応性を比較する以外に、グルコースセンサ上で実用上D-キシロースに対する影響がないことを反映するGDHの理化学特性は、これまでには報告されていない。
【0011】
本発明の課題は、これまで明らかにされていなかったグルコースセンサ上で実用上D-キシロースに対する影響がないことを反映するGDHの理化学特性を見出すことにある。より具体的には、グルコースセンサにおけるGDHのD-キシロースへの作用性を反映する、水系でのGDHの評価方法を構築することにより、実用上D-キシロースに対する影響を低減させたグルコースセンサ及びグルコース測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った結果、GDHがグルコースセンサに適用された際にD-キシロースに対する影響がないことを満足する理化学特性として、D-グルコースに対するGDHのミカエリス定数(以下、「Km」とも表す。)が100mM以下かつ、D-キシロースに対するGDHのミカエリス定数が600mM以上であることが重要であることを見出し、該特性を有するGDHを用いることで、実用上D-キシロースの影響を受けないと言えるグルコースセンサを作製できることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、以下に代表される発明が提供される。
項1.下記の特性(1)及び(2)を備えるグルコース脱水素酵素を用いるグルコース測定方法。
(1)D-グルコースに対するKmが0.1mM以上、100mM以下
(2)D-キシロースに対するKmが600mM以上、3000mM以下
項2.グルコース脱水素酵素のD-キシロースに対するKmが619mM以上、3000mM以下である項1に記載のグルコース測定方法。
項3.グルコース脱水素酵素のD-キシロースに対するKmが736mM以上、3000mM以下である項1に記載のグルコース測定方法。
項4.グルコース脱水素酵素を備えた酵素電極を用いる項1から3のいずれかに記載のグルコース測定方法。
項5.グルコース脱水素酵素が、さらに、酵素電極法でのD-キシロース作用性(10mMのグルコース溶液に対する応答値に対して、10mMのD-グルコース溶液に対し20mMのD-キシロースをスパイクした溶液に対する応答値の割合(%))が95%以上、105%以下である項1から4のいずれかに記載のD-グルコースを測定する方法。
項6.下記の特性(1)及び(2)を備えるグルコース脱水素酵素が、カーボン電極または金属電極上に備わるグルコースセンサ。
(1)D-グルコースに対するKmが0.1mM以上、100mM以下
(2)D-キシロースに対するKmが600mM以上、3000mM以下
項7.グルコース脱水素酵素が、さらに、酵素電極法でのD-キシロース作用性(10mMのグルコース溶液に対する応答値に対して、10mMのD-グルコース溶液に対し20mMのD-キシロースをスパイクした溶液に対する応答値の割合(%))が95%以上、105%以下である項6に記載のグルコースセンサ。
項8.カーボン電極または金属電極上に、さらに、メディエーターを備えた項6または7に記載のグルコースセンサ。
項9.グルコース脱水素酵素のキシロースに対するミカエリス定数(Km)を測定する工程を含むグルコースセンサの製造方法。
項10.グルコース脱水素酵素のキシロースに対するKmを測定し、かつ、Kmが600mM以上であるグルコース脱水素酵素を選択する工程を含む項9に記載のセンサの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、特にD-キシロースによる影響を受けることなく、正確な血糖測定が可能なグルコース測定方法およびグルコース測定用センサの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1において、GDH1~4のD-キシロースに対するミカエリス定数(Km)と酵素電極法でのD-キシロース作用性を示す図である。
図2】実施例2において、GDH-5及び6のD-キシロース濃度に対する反応速度の関係を検討した結果を示す図である。
図3】実施例2において、GDH-5及び6のD-キシロース濃度の逆数に対する反応速度の逆数の関係(ラインウィーバー・バークプロット)を示す図である。
図4】実施例2において、GDH1~6のD-キシロースに対するミカエリス定数(Km)と酵素電極法でのD-キシロース作用性を示す図である。
図5】酵素電極を用いてD-グルコースを測定する方法の原理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の態様の一つは、D-キシロースに対するミカエリス定数(Km)が600mM以上であるグルコース脱水素酵素を用いて、酵素電極法によりD-グルコースを測定する方法である。
本発明のグルコース測定方法は、以下の反応を触媒するグルコース脱水素酵素を利用することを特徴とする。
D-グルコース + 電子受容体(酸化型) → D-グルコノ-δ-ラクトン + 電子受容体(還元型)
【0018】
本発明に用いるグルコース脱水素酵素は特に限定されないが、フラビン結合型グルコース脱水素酵素が好ましい。フラビンは、ジメチルイソアロキサジンの10位に置換基をもつ一群の誘導体であり、フラビン分子種を補酵素とする酵素であれば特に限定されるものではない。フラビン化合物としては、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、フラビンアデニンモノヌクレオチド(FMN)などが挙げられるが、FADが特に好ましい。
【0019】
本発明で用いるグルコース脱水素酵素はD-グルコースに対する親和性が十分に高く、D-キシロースに対する親和性が十分に低いことを特徴とする。より具体的には、D-グルコースに対する親和性として、D-グルコースに対するKmが100mM以下であり、D-キシロースに対する親和性としてD-キシロースに対するKmが600mM以上である。D-グルコースに対するKmおよびD-キシロースに対するKm以外の特性については特に限定されない。例えば、D-グルコースに対するKmは、100mM以下であればよく、さらに好ましくは90mM以下である。D-グルコースに対するKmが小さいことが重要であるため、その下限については特に限定されるものではないが、0.1mMより大きく、好ましくは1mM以上であり、より好ましくは5mM以上、さらに好ましくは10mM以上である。D-キシロースに対するKmは600mM以上であればよく、好ましくは619mM以上、さらに好ましくは650mM以上、700mM以上、736mM以上、750mM以上、あるいは819mM以上であり、特に好ましくは850mM以上である。D-キシロースに対するKmが大きいことが重要であるため、その上限に関しては特に限定されるものではないが、D-キシロースの溶解度から推測し、Kmの上限として3M以下であることが好ましい。より好ましくは2.5M以下、2M以下あるいは1.5M以下である。特に好ましくは1.3M以下である。
【0020】
本発明で用いるグルコース脱水素酵素のその他の特性は特に限定されないが、例えば、至適温度は、35℃から65℃であることが好ましく、40℃から60℃がより好ましく、45℃から55℃がさらに好ましい。
温度安定性は、50℃、15分処理後の残存活性が70%以上であることが好ましく、75%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
至適pHは、5.0から8.5であることが好ましく、5.5から8.0がより好ましく、6.0から7.5がさらに好ましい。
pH安定性は、25℃、16時間処理条件下で、2.5から10.0であることが好ましく、3.5から9.0がより好ましく、4.5から8.0がさらに好ましい。
糖含有量は、5%から50%であることが好ましく、10%から40%がより好ましく、20%から30%がさらに好ましい。
【0021】
特には、基本的な特性として、D-キシロースに対するKm以外には、以下のような性質を有するグルコース脱水素酵素が好ましい。
至適温度 50~55℃
温度安定性 50℃、15分処理後の残存活性が80%以上
至適pH 7.0付近
pH安定性 4.0~8.0(25℃、16時間)
糖含有量 20~50%
D-グルコースに対するKm 50~70mM
【0022】
または、以下のような性質を有するグルコース脱水素酵素であってもよい。
至適温度 50~70℃
温度安定性 50℃、15分処理後の残存活性が80%以上
至適pH 6.5~7.5
pH安定性 2.5~10.0(25℃、16時間)
糖含有量 10~40%
D-グルコースに対するKm 10~90mM
【0023】
または、以下のような性質を有するグルコース脱水素酵素であってもよい。
至適温度 45~50℃
温度安定性 45℃、15分処理後の残存活性が80%以上
至適pH 6.0~6.5
pH安定性 3.5~6.5(25℃、16時間)
糖含有量 20~50%
D-グルコースに対するKm 5~20mM
【0024】
本発明で用いるグルコース脱水素酵素の由来は特に限定されない。例えば、ペニシリウム(Penicillium)属やアスペルギルス(Aspergillus)属、タラロマイセス(Talaromyces)属などの糸状菌や、ムコール(Mucor)属、アブシディア(Absidia)属、及びアクチノムコール(Actinomucor)属などのケカビ科に分類される微生物などが挙げられる。
【0025】
ペニシリウム属では、ペニシリウム・イタリカム(Penicillium italicum)及びペニシリウム・リラシノエキヌラタム(Penicillium lilacinoechinulatum)などの種が例示される。また、アスペルギルス属では、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus Fluvus)などの種が例示される。また、ケカビ科に分類される微生物としては、ムコール(Mucor)、アクチノムコール(Actinomucor)、リゾムコール(RhizohMucor)シルシネラ(Circinella)、パラシテラ(Parasitella)、ザイゴリンカス(Zygorhynchus)、ディクラノフォラ(Dicranophora)、スピネラス(Spinellus)、スポロディニエラ(Sporodiniella)、リゾパス(Rhyzopus)、アブシジア(Absidia)、クラミドアブシジア(Chlamidoabsidia)及びサーモムコール(Thermomucor)などの属が例示される。ムコール属では、ムコール・ギリエルモンディ(Mucor guilliermondii)、ムコール・プライニ(Mucor prainii)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)、ムコール・ヒエマリス(Mucor hiemalis)及びムコール・シルシネロイデス(Mucor circinelloides)などの種が例示される。
【0026】
本発明で用いるグルコース脱水素酵素は、天然に由来するものを抽出・精製して得てもよいし、既にそのアミノ酸配列やアミノ酸配列をコードする遺伝子配列などの情報(例えば、配列番号5のアミノ酸配列)が知られている場合は、それらの情報に基づき、遺伝子工学的な手法により生産されたものであっても構わない。本発明で用いるグルコース脱水素酵素は、天然由来の酵素であってもよいし、公知の遺伝子工学的な手法等によって、天然由来酵素のアミノ酸配列が改変されたもの及び化学修飾等が施されたもの(以下、あわせて「改変体」ともいう。)であってもよい。
【0027】
前記改変体の好ましい例としては、D-キシロースに対するミカエリス定数が600mM以上であるグルコース脱水素酵素である限りにおいて、配列番号5に記載のアミノ酸配列と70%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上)の同一性を持つグルコース脱水素酵素が挙げられる。また、前記改変体の好ましい例としては、D-キシロースに対するミカエリス定数が619mM以上であるグルコース脱水素酵素である限りにおいて、配列番号5に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなるものであっても良い。
【0028】
本発明のグルコース測定方法の一態様は、以下の(I)および/または(II)の特性を有する。
(I)D-キシロースに対するミカエリス定数(Km)が619mM以上であるグルコース脱水素酵素を用いて、酵素電極法により、D-グルコースを測定する。
(II)酵素電極法でのD-キシロース作用性(10mMのD-グルコース溶液に対する応答値に対して、10mMのD-グルコース溶液に対し20mMのD-キシロースをスパイクした溶液に対する応答値の割合(%))が80%以上120%以下であり、好ましくは85%以上115%以下であり、さらに好ましくは90%以上110%以下であり、さらに好ましくは95%以上105%以下であり、さらに好ましくは97%以上103%以下である。
【0029】
これに対し、グルコース測定における基質特異性の評価基準として従来用いられてきた「水系におけるD-キシロースへの作用性」は現実には「酵素電極法でのD-キシロース作用性」との相関が見られないことがわかった。このような結果が生じた原因は、従来、FADGDHのD-グルコースに対するD-キシロースの作用性を、水系での任意の一点の基質濃度における作用性だけで表現してきたからであると考えられる。例えば、特許文献1記載のムコール・プライニ由来FADGDHのD-キシロース作用性は、その実施例によると50mMにて取得されており、1.4%とあるが、発明者らの検討では、測定に使用する基質濃度を200mMに変更して測定を行うと、水系では、200mMのD-グルコースへの作用性を100%とした際の200mMのD-キシロースの作用性は3.6%であった。この結果は、「水系におけるD-キシロースへの作用性」が、測定に供する基質の濃度に依存する指標であることを示している。
【0030】
本発明のグルコースセンサは、D-キシロースに対するミカエリス定数(Km)が600mM以上、3000mM以下であり、かつ、D-グルコースに対するKmが0.1mM以上、100mM以下であるグルコース脱水素酵素を用いることを特徴とするものである。
【0031】
本発明のグルコースセンサとしては、特に限定されるものではないが、上述のようなSMBGセンサが挙げられる。グルコースに応答して得られたシグナル強度から血糖値を算出するための演算装置並びに算出された血糖値を表示するためのディスプレイを具備していてもよい。さらに本発明のグルコースセンサは、反応層上に検体となる血液もしくは血液の希釈液を滴下するタイプであってもよいし、被検者の皮膚を窄孔し血液を採取するための針及び/または血液を移送させる流路を具備するか、またはこれらを装着することが可能な態様であってもよい。あるいは、持続的に血糖を測定できるタイプのCGM(Continuous Glucose Monitoring)やFGM(Flash Glucose Monitoring)などに用いられるセンサであってもよい。
【0032】
本発明において、D-グルコース濃度の測定は、例えば以下のようにして行うことができる。すなわち、グルコースセンサ上の電極に接続された反応層にD-グルコースを含む試料を加えて反応させ、さらに電極に一定の電圧を印加する。電流をモニタリングし、電圧印加開始から一定時間に蓄積される電流を積算するか、あるいは電圧印加開始から一定時間を経過したある時点での電流値を測定する。この値を基に、標準濃度のD-グルコース溶液により作成したキャリブレーションカーブに従い、試料中のD-グルコース濃度を計算することができる。
【0033】
1.グルコース脱水素酵素活性測定法
本発明において、グルコース脱水素酵素の活性は、以下の組成からなる試薬を用いた方法に従い、基質存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量を1単位(U)として定義する。
<試薬>
50mM PIPES緩衝液(pH6.5;0.1%TritonX-100を含む)
24mM PMS溶液
2mM 2,6-ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D-グルコース溶液
上記溶液を混合して200mM D‐グルコース、0.068mM DCPIP、1.63mM PMS、0.1% TritonX‐100、35mM PIPES緩衝液(pH6.5)となるように反応試薬を調製する。
【0034】
<測定条件>
まず、反応試薬3mlを37℃で5分間予備加温する。これにGDH溶液0.1mlを添加し、ゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて、同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から、次の式に従ってGDH活性を求める。GDH活性における1単位(U)とは、濃度200mMのD-グルコース存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量として定義する。
【0035】
【数1】
【0036】
なお、式中の3.0は反応試薬+酵素溶液の液量(ml)、16.3は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)、0.1は酵素溶液の液量(ml)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
【0037】
2.グルコース脱水素酵素のD-グルコースに対するミカエリス定数
グルコース脱水素酵素のD-グルコースに対するミカエリス定数(Km)は、本発明においてはラインウィーバー・バークプロットから算出する。具体的には、上記1記載のD-グルコース脱水素酵素活性測定法において30mM、50mM、100mMおよび200mMの4点のD-グルコース濃度における反応速度を測定することで算出できる。
【0038】
3.グルコース脱水素酵素の水系でのD-キシロース作用性の評価方法
グルコース脱水素酵素の水系でのD-キシロース作用性は、上記1に記載のグルコース脱水素酵素活性測定法において、基質濃度を50mM及び200mMの2水準に設定した2種類の方法で、それぞれグルコース及びD-キシロースに対する反応性を取得し、グルコースへの反応性に対するキシロースへの反応性の割合を算出することで評価する。キシロースに対する反応性は、以下の測定条件で取得する
【0039】
<試薬>
50mM PIPES緩衝液(pH6.5;0.1%TritonX-100を含む)
24mM PMS溶液
2mM 2,6-ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)溶液
1M D-キシロース溶液
上記溶液を混合して50mMまたは200mM D‐キシロース、0.068mM DCPIP、1.63mM PMS、0.1% TritonX‐100、35mM PIPES緩衝液(pH6.5)となるように反応試薬を調製する。
【0040】
<測定条件>
まず、反応試薬3mlを37℃で5分間予備加温する。これにGDH溶液0.1mlを添加し、ゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、600nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検はGDH溶液の代わりにGDHを溶解する溶媒を試薬混液に加えて、同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から、上記1に記載の方法によりキシロースに対する反応性を求める。
【0041】
4.グルコース脱水素酵素のD-キシロースに対するミカエリス定数
グルコース脱水素酵素のD-キシロースに対するミカエリス定数(Km)は、本発明においてはラインウィーバー・バークプロットから算出する。具体的には、上記1記載のグルコース脱水素酵素活性測定法において基質をD-グルコースからD-キシロースに変更し、各種D-キシロース濃度における反応速度を測定することで算出できる。算出のために用いるD-キシロース濃度は、その酵素のミカエリス定数に応じて適切な濃度を設定できるが、本発明では、Kmが0mM~100mMの間であれば、30mM、50mM、100mM及び200mMの4点、Kmが100mM~500mMの間であれば、50mM、200mM、600mMおよび1000mMの4点、Kmが500mM~1500mMの間であれば、50mM、200mM、600mMおよび1400mMの4点をプロットするものとする。
【0042】
5.酵素電極法
本発明に用いる酵素電極法は特に限定されない。図5に酵素電極を用いてD-グルコースを測定する方法の原理の一例を示す。グルコース脱水素酵素は、メディエーター(電子受容体)の存在下で、グルコースの水酸基を酸化してグルコノ-δ-ラクトンを生成する反応を触媒する。FADGDHがD-グルコースに作用する際に、補酵素FADはFADH2(還元型)となるが、メディエーターとしてフェリシアン化物(例えば「Fe(CN)3-)を存在させると、FADH2(還元型)はこれをフェロシアン化物(この場合「Fe(CN)4-)へと変換し、自らはFAD(酸化型)へと戻る。フェロシアン化物は電位を与えると、電子を電極に渡してフェリシアン化物へと戻るので、こうした電子伝達物質をメディエーターとすることにより、電気化学的なシグナル検出が可能になる。
【0043】
電極に用いる電気化学測定法は、特に限定されるものではないが、一般的なポテンショスタットやガルバノスタットなどを用いることにより、種々の電気化学的な測定手法を適用することができる。具体的な測定手法としては、アンペロメトリー、ポテンショメトリー、クーロメトリーなどの様々な手法が挙げられるが、アンペロメトリーにより、還元されたメディエーターが印加により酸化される際に生ずる電流値を測定する方法が特に好ましい。この場合の印加電圧としては、10~700mVが好ましく、50~500mVがより好ましく、100~400mVが更に好ましい。
【0044】
測定システムとしては、二電極系であっても三電極系であってもよい。作用電極にはカーボン電極を用いてもよいし、白金、金、銀、ニッケル、パラジウムなどの金属電極を用いてもよい。カーボン電極の場合、パイロロティックグラファイトカーボン、グラッシーカーボン(GC)、カーボンペースト、PFC(plastic formed carbon)などを用いることができる。金属電極の場合、金が特に好ましい。通常は、作用電極上にグルコース脱水素酵素が担持されてなる。酵素の電極への固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどが挙げられる。官能基および該官能基と該担体とを繋ぐスペーサーを介して担体に保持させてもよい。あるいはフェリシアン化物、フェロセンあるいはその誘導体のようなメディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。一例として、グルタルアルデヒドを用いて、FADGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする方法である。参照電極としては、特に限定されるものではなく、電気化学実験において一般的なものを適用することができるが、例えば飽和カロメル電極、銀-塩化銀などが挙げられる。
【0045】
グルコース濃度の測定は、例えば以下のようにして行うことができる。まず、恒温セルに緩衝液を入れ、一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極としてFADGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、D-グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のD-グルコース溶液により作成したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
【0046】
測定に必要な溶液の量を少なくし、小スケールで簡便に測定するために、印刷電極を用いてもよい。この場合、電極は絶縁基板上に形成されてなることが好ましい。印刷電極の作製方法は、具体的には、フォトリゾグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術により、電極が基板上に形成されることが望ましい。また、絶縁基板の素材としては、シリコン、ガラス、セラミック、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどが挙げられ、各種の溶媒や薬品に対する耐性の強いものを用いるのがより好ましい。
【0047】
電極の形状は特に限定されるものではなく、円形、楕円形、四角形などの形状が挙げられるが、円形であることが、固定化する酵素溶液のマウントのしやすさの点から特に好ましい。また、円形の形状である場合、その半径は3mm以下であることが好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましい。酵素溶液をマウントする容量としては1~5μL程度が好ましく、2~3μL程度の量で行うのがより好ましい。酵素溶液をマウントした後の固定化反応は、湿潤条件下で静置して行うのが好ましい。
【0048】
酵素反応に用いる溶液の種類は、特に限定されるものではないが、PBSのようなリン酸緩衝液、あるいはTRIS、MOPS、PIPES、HEPES、MES、TESなどのGOODの緩衝液などが例示される。緩衝液のpHとしては4.0~9.0程度が好ましく、より好ましくは5.0~8.0程度、更に好ましくは6.0~7.5程度である。また、緩衝液の濃度としては、1~200mM程度が好ましく、より好ましくは10~150mM程度、更に好ましくは20~100mM程度である。また、添加物として、各種の有機酸、塩、防腐剤などの物質を必要に応じて共存させることも可能である。
【0049】
本発明のグルコースセンサの態様は特に限定されるものではないが、例えば、電極上にGDHおよび電子伝達体を保持したチップを装着できる態様からなるものが好ましい。電極上に形成される反応層には、GDHおよび電子伝達体のほかに、反応促進剤、増粘剤、安定化剤、pH緩衝剤その他の成分を含んでいてもよい。
【0050】
酵素反応と電極間の電子移動を仲介するために、メディエーターを用いてもよい。適用できるメディエーターの種類は特に限定されるものではないが、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、フェレドキシン類、フェロセンおよびその誘導体等が例示される。より具体的には、ベンゾキノン/ハイドロキノン、フェリシアン/フェロシアン化物(カリウムもしくはナトリウム塩)、フェリシニウム/フェロセンなどが挙げられる。フェナジンメトサルフェート、1-メトキシ-5-メチルフェナジウムメチルサルフェイト、2,6-ジクロロフェノールインドフェノールなどを用いてもよい。その他にも、オスミウム、コバルト、ルテニウムなどの金属錯体を用いることも可能である。水溶性の低い化合物をメディエーターとして用いる場合、有機溶媒を用いると、酵素自体の安定性を損なったり、酵素活性を失活させたりする可能性がある。そこで、水溶性を高めるために、ポリエチレングリコール(PEG)のような親水性高分子により修飾された化合物をメディエーターとして用いてもよい。反応系におけるメディエーター濃度は、1mM~1M程度の範囲が好ましく、5~500mMがより好ましく、10~300mMが更に好ましい。またメディエ-ターについても種々の官能基による修飾体を用いるなどして、酵素とともに電極上に固定化させて用いてもよい。
【0051】
反応促進剤としては特に限定されないが、ポリグルタミン酸などが挙げられる。
【0052】
増粘剤としては、塗布した組成物をグルコースセンサの反応層上に保持するに必要な粘性を担保できる物質であれば特に限定されない。例えばプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリ-γ-グルタミン酸、カルボシキメチルセルロース、ポリビニルピロリドンおよび粘土が好適な例として挙げられる。粘土としては、カオリナイト構造やパイロフィライト構造を持つもの、たとえば、パイロフィライト(Pyrophyllite)、マイカ(Mica)、スメクタイト(Smectite)、バーミキュライト(Vermiculite)、クロライト(Chlorite)、カオリナイト(Kaolinite)、ハロイサイト(Halloysite)などが挙げられる。これらの中でも、スメクタイトが好適な増粘剤の例として挙げられる。スメクタイトは、さらにモンモリロナイト(Montmorillonite)、バイデライト(Beidelite)、ノントロナイト(Nontronite)、サポナイト(Saponite)、ヘクトライト(Hectorite)などに分類される。スメクタイトは合成スメクタイトであってもよく、例えば、「ルーセンタイト」シリーズ(コープケミカル株式会社製)などの市販品を入手できる。
【0053】
増粘剤の組成中への添加量は、上記組成物の安定性を高める効果の認められる範囲であれば特に限定されないが、液体状での濃度として好ましくは0.01%以上5%以下であり、より好ましくは0.1%以上1%以下である。また、加温または凍結乾燥等による固体状の組成においては、好ましい添加量は0.5%以上70%以下であり、より好ましくは4.5%以上30%以下である。
【0054】
安定化剤としては特に限定されないが、例えばグリシルグリシン、ソルビトールおよびアドニトール(adonitol)などの物質が挙げられる。その添加量は、上記組成物の安定性を高める効果の認められる範囲であれば特に限定されないが、液体状での濃度として好ましくは0.1%以上10%以下であり、より好ましくは0.2%以上2%以下である。また、加温または凍結乾燥等を経ることによる固体状の組成においては、好ましい添加量は1%以上80%以下であり、より好ましくは2%以上50%以下である。
【0055】
安定化剤と増粘剤とを組合せる場合、その組合せは特に限定されないが、好ましくはグリシルグリシンとカルボキシメチルセルロール、グリシルグリシンとスメクタイト、グリシルグリシンとポリビニルピロリドン、ソルビトールとカルボキシメチルセルロール、ソルビトールとスメクタイト、ソルビトールとポリビニルピロリドン、アドニトールとカルボキシメチルセルロール、アドニトールとスメクタイト、アドニトールとポリビニルピロリドンである。これら組合せの中で、より好適にはグリシルグリシンとスメクタイト、ソルビトールとスメクタイトまたはアドニトールとスメクタイトである。
【0056】
その他の成分としては特に限定されないが、例えば、界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤を用いる場合には、TritonX-100、Tween20、デオキシコール酸ナトリウム、エマルゲン430等が挙げられる。
【0057】
前記反応層の組成物は液状であってもよく、あるいは乾燥し固体化した状態であってもよい。固体化の方法としては、加温により水分を蒸発させる方法、常温以上の温度で風乾する方法、真空状態に置くことで水分を蒸発させる方法、凍結した状態で真空に置いて水分を除去する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
酵素反応は、所望の容量の反応溶液中に、所望の量の酵素とメディエーターを加えて混合された状態において、基質を含有する試料溶液、例えば血液を所定量加えると同時に測定を開始する。電気化学的な検出方法としては、特に限定されるものではないが、酵素反応が進行するとメディエーターを介在した電子の移動に伴って生ずる電流の変化を、シグナルとして測定することが好ましい。測定に供する試料は特に制約されるものではなく、酵素の基質を成分として含有するか含有する可能性のある水溶液はもとより、血液、体液、尿などの生体試料であってもよい。また、測定に際しては、可能な範囲で反応温度を一定にして行ってもよい。また、マイクロ流路デバイス等を用いることにより、微量解析に展開することも可能である。
【0059】
6.酵素電極法におけるD-キシロース作用性の評価方法
酵素電極法におけるキシロースに対する反応性は、下記の方法で作製したセンサチップを用い、10mMのグルコース溶液に対し、20mM(300mg/dLに相当)のD-キシロースをスパイクした溶液で評価する。なお、この条件は、非特許文献1に記載の条件を参考に、非特許文献1の推奨条件より厳しく設定したものである。
【0060】
<センサチップ作製>
絶縁性基板に作用電極、対向電極および参照電極を配した電極センサを、有限会社バイオデバイステクノロジー(石川県能美市)より、委託製造により入手した。本電極センサは、4.0mm×17mmの基板上に電極が印刷されている。このセンサの作用電極(面積約1.3mm)上に試薬層となる水溶液を3μLマウントした。試薬層となる水溶液には、下記の組成からなる。
1000U/ml FAD-GDH
200mM フェリシアン化カリウム
50mM リン酸カリウムバッファー (pH7.0)
これを50℃で10分加温することにより乾燥させ、FADGDHが1枚当たり3U固定化されたグルコースセンサチップを得る。
【0061】
<測定条件>
10mMのグルコース溶液及び10mMのグルコース溶液に対し、20mMのD-キシロースをスパイクした溶液を調製する。ポテンショスタットに接続した上記チップに、これら試料溶液5μLをマイクロピペットで滴下し、滴下から5秒後に+300mVの電圧を印加、電流値を測定する。10mMのグルコース溶液に対する応答値に対して、10mMのグルコース溶液に対し、20mMのD-キシロースをスパイクした溶液に対する応答値の割合(%)を酵素電極法におけるキシロースに対する作用性と定義する。この値が100%であれば、D-キシロースからの影響を全く受けないことを示す。この値が100%から離れるほど、D-キシロースから正または負の影響を受けていることになる。
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0063】
<実施例1> グルコース脱水素酵素の特性比較
4種類のFADGDH(後述のGDH1~4)についてその特性を比較した。比較した項目および各項目の測定方法は、次の通りである。
(a)基質濃度50mMでの水系でのD-キシロース作用性
測定法:「3.グルコース脱水素酵素の水系でのD-キシロース作用性の評価方法」に記載の方法
(b)水系でのD-キシロースに対するミカエリス定数(Km)
測定法:「4.グルコース脱水素酵素のD-キシロースに対するミカエリス定数」に記載の方法
(c)水系でのD-グルコースに対するミカエリス定数(Km)
測定法:「2.グルコース脱水素酵素のD-グルコースに対するミカエリス定数」に記載の方法
(d)酵素電極法でのD-キシロース作用性
測定法:「6.酵素電極法におけるD-キシロース作用性の評価方法」に記載の方法
【0064】
GDH-1は特許第5277482号の配列番号8のDNA配列を特許第5588578号記載のクリプトコッカス sp. S-2 D11菌株(FERM BP-11482)を用いて遺伝子組み換え発現させたものである(特許第5277482の配列番号8がコードするアミノ酸配列は配列番号1である。)。GDH-2は配列番号2のアミノ酸配列(特開2013-116102号の配列番号1記載のアミノ酸配列)を有するGDHを特許第5588578号記載のクリプトコッカス sp. S-2 D11菌株(FERM BP-11482)を用いて遺伝子組み換え発現させたものである。
【0065】
GDH-3は配列番号3のアミノ酸配列(特許第4648993号の配列番号1記載のアミノ酸配列)を有するGDHを特許5588578号に記載のクリプトコッカス sp. S-2 D11菌株(FERM BP-11482)を用いて遺伝子組み換えにより発現させたものである。GDH-4は配列番号4のアミノ酸配列(特開2015-146773号の配列番号1記載のアミノ酸配列)を有するGDHをアスペルギルス・オリゼ-NS4株(Transformation System for Aspergillus oryzae with Double Auxotorophic Mutations, niaD and sC(Bioscience Biotechnology Biochemistry,1997 Vol.61,1367-1369))を用いて遺伝子組み換えにより発現させたものである。
GDH1~4における各種酵素特性を比較した結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に挙げた酵素は、D-グルコースに対するKmが14~82mMであり、グルコースに対する親和性は十分に高い。まず、GDH-2、GDH-3の結果を採り上げる。これら2種類のGDHは水系でのD-キシロース作用性が低く、特に基質濃度50mMでの水系でのキシロース作用性(a)を評価の尺度に用いた場合には2%以下となり、有用な酵素であるとの評価となるが、酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)を評価の尺度に用いた場合はGDH-2、GDH-3いずれの場合も、スパイク法で120%を超える値であった。したがって、SMBGセンサによるグルコース測定に際しても、D-キシロースに対する影響を大きく受ける可能性が示された。
【0068】
次に、GDH-1、GDH-4の結果を取りあげる。GDH-4の水系でのD-キシロース作用性(a)は、GDH-1の水系でのD-キシロース作用性(a)の1/4程度となっている。水系でのD-キシロース作用性(a)が、SMBGセンサ上で使用するGDHのD-キシロースに対する影響を評価する上で適切な指標であるならば、GDH-1とGDH-4の酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)にも顕著な差が見られるはずである。ところが、GDH-1とGDH-4の酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)の差は10%程度であり、水系でのD-キシロース作用性(a)の差から期待されるほどの効果を確認できない。
【0069】
ここで、GDH-1~4のD-キシロースに対するKm(b)と酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)に注目する。GDH-1~4のD-キシロースに対するKm(b)と酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)との比較(図1)から、D-キシロースに対するKm(b)と酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)との間には、一定の相関が期待された。
【0070】
D-キシロースに対するKm(b)に依存して酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)が減少し、GDH-1~4のD-キシロースに対するKm(b)と酵素電極法でのキシロース作用性(d)から回帰直線を作成すると、D-キシロースに対するKm(b)が619mM以上となった際に、酵素電極法でのキシロース作用性(d)が抑えられる可能性が考えられた。
【0071】
<実施例2> GDH-5、GDH-6の取得及び特性比較
実施例1の結果から導かれた前記の仮説を検証するために、D-キシロースに対するKm(b)が619mM以上となるGDHを探索した。特開2015-84676の実施例1には、サッカロマイセス属酵母を宿主とした、FADGDHランダム変異ライブラリーの構築について記載がある。配列番号5のアミノ酸配列記載のGDHをコードするDNAから、特開2015-84676の実施例1記載の方法に基づく方法で、1000株からなるサッカロミセス属酵母を宿主とした、FADGDHランダム変異ライブラリーを構築した。
【0072】
すなわち、プラスミドとしてpYESMh6754(特開2013-116102参照)を用いて、エラープローンPCRにより、FADGDH遺伝子へのランダム変異の導入を実施した。pYESMh6754上にはFADGDH遺伝子を挟んで、GAL1プロモーターとCYC1ターミネーターが配置されている。GAL1プロモーターとCYC1ターミネーターに相補的に結合可能な、プライマーを用い、Diversify PCR Random Mutagenesis Kit(Clontech社)を用い、当製品に添付のプロトコールに従ってランダム変異の導入を実施した。これにより、一定の割合で変異が導入されたFADGDH遺伝子を含むDNA断片を取得した。次に、取得した一定の割合で変異が導入されたFADGDH遺伝子を含むDNA断片を、制限酵素KpnI及び、NotIにて処理し、同じく制限酵素KpnI及びNotIで処理したベクターpYES3(インビトロジェン社)と混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ラーゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このように、ライゲーションしたDNAをエシェリヒア・コリDH5α株コンピテントセル(東洋紡績製コンピテントハイDH5α)に当製品に添付のプロトコールに従ってそれぞれ形質転換し、該形質転換体を取得した。該形質転換体をLB培地で培養し、プラスミドを抽出し、プラスミド内に挿入されたFADGDH遺伝子内に一定の割合で変異が導入されたランダム変異プラスミドライブラリーを得た。続いて、サッカロミセス・セレビシエINVSc1(インビトロジェン社)へ、ランダム変異プラスミドライブラリーの形質転換を行った。生育したコロニー約2000株をサッカロマイセスを宿主としたFADGDHランダム変異ライブラリーとした。
【0073】
上記のように構築されたライブラリーに含まれる形質転換体を、特開2015-84676の実施例2記載の方法に基づく方法で培養した。すなわち、構築されたサッカロマイセスを宿主としたFADGDHランダム変異ライブラリーを、ScreenMates(マトリックス・テクノロジー社)の各培養セルに分注した、3% 酵母エキス、1% ポリペプトン、3% ガラクトースを含む培地に植菌し、25℃にて60時間の振とう培養を行った。次に、得られた培養液を、2000rpmにて15分間遠心し培養上清を得た。
【0074】
培養上清の200mMと600mM濃度でのD-キシロースに対する作用性の比較から、D-キシロースに対する親和性が低いことが期待される改変型GDHを選抜した。選抜した改変型GDHについて、精製を行い、50mM、200mM、600mM、1400mM濃度でのD-キシロースに対する反応速度を確認することによって、D-キシロースに対するKm(b)が819mMであるGDH-5及び、D-キシロースに対するKm(b)が1271mMであるGDH-6を取得した。GDH-5及び6の50mM、200mM、600mM、1400mM濃度でのD-キシロースに対する反応速度の関係を検討した結果を図2に、ミカエリス定数(Km)計算の根拠となるラインウィバー・バークプロットの結果を図3に示す。
【0075】
D-キシロースに対するKm(b)が819mMであるGDH-5及びD-キシロースに対するKm(b)が1271mMであるGDH-6について、基質濃度200mMでの水系でのD-キシロース作用性、基質濃度50mMでの水系でのD-キシロース作用性(a)、酵素電極法でのD-キシロース作用性(c)を測定し、GDH1~4と比較を行った結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
その結果、D-キシロースに対するKm(b)が819mMであるGDH-5及び、D-キシロースに対するKm(b)が1271mMであるGDH-6の酵素電極法でのD-キシロース作用性(c)は100~101%であり、D-キシロースとの作用がほぼ見られないことを確認した。GDH-1~6のD-キシロースに対するKm(b)と酵素電極法でのD-キシロース作用性(c)との比較を図4に示す。
【0078】
図4に示される結果から、D-キシロースに対するKm(b)が約736mM未満の範囲では、D-キシロースに対するKm(b)が大きいほど酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)は小さくなる。D-キシロースに対するKm(b)が約736mM以上の領域において、酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)はほぼ確認されず、D-キシロースによるグルコース測定への影響がみられない状態が維持されている。
【0079】
ここで、GDH-2とGDH-5を比較する。表2において、GDH-2とGDH-5は、基質濃度50mMでの水系でのD-キシロース作用性(a)が1%程度であり、この点を評価の基準に用いた場合、共にD-キシロース作用性の面で有用な酵素という扱いになる。ところが、GDH-2とGDH-5の酵素電極法でのD-キシロース作用性(d)には大きな乖離が見られることが明らかとなった。GDH-2は、酵素電極法でのD-キシロース作用性が120%となり、SMBGセンサでのグルコース測定においてD-キシロースへの影響が懸念される一方、GDH-5は、酵素電極法でのD-キシロース作用性が100%となり、SMBGセンサでのグルコース測定においてもD-キシロースへの影響を受ける度合いが小さいといえる。
【0080】
このように、水系でのD-キシロース作用性の評価だけでは、SMBGセンサ上で使用するGDHが、実用上D-キシロースに対する影響がないことを評価する理化学特性としては十分ではないことが示され、それに代わる指標として、D-キシロースに対するKm(b)が有用であることが見出された。本実施例の結果によれば、D-キシロースに対するKm(b)が619mM以上であれば、SMBGセンサ上で実用上D-キシロースに対する影響を受ける度合いが小さいことを満足する理化学特性を有するGDHであるといえる。
【0081】
このような現象が見られる理由として、以下のようなことが考えられる。
溶液中での酵素の反応速度が分単位の観察によって計算されるのに対し、酵素電極法に代表されるセンサ系では、秒単位あるいはミリ秒単位の変化を電流応答値として観察している。実施例1の結果より、D-キシロースに対する親和性が低い、すなわちKmが十分に大きい酵素を使用した酵素電極法においては、瞬間的に測り込まれるD-キシロース分解に由来の電流応答値が少なく抑えられるため、D-キシローススパイク条件下での電流応答値の変動が小さくなるであろうと推測された。
【0082】
なお、GDH1~6を用いて、それぞれの水系でのD-キシロース作用性を、基質濃度を200mMに変更した場合においても測定した。その結果は、GDH-1が9.9%、GDH-2が4.9%、GDH-3が3.6%、GDH-4が4.6%、GDH-5が1.8%、GDH-6が1.6%であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明により、正確な血糖測定が可能なグルコース測定方法およびグルコース測定用センサ等の提供が可能となり、糖尿病医療の現場における正確な血糖値の管理において広く利用されることが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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