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特許7196609高密度糸束の製造方法およびそれを用いた血液浄化カラムの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】高密度糸束の製造方法およびそれを用いた血液浄化カラムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20221220BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20221220BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
A61M1/18 515
B01D63/02
A61M1/36 161
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019000958
(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公開番号】P2019126719
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2018008613
(32)【優先日】2018-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紘平
(72)【発明者】
【氏名】阪上 正信
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-296808(JP,A)
【文献】特開平09-000895(JP,A)
【文献】国際公開第98/022161(WO,A1)
【文献】特開昭60-054711(JP,A)
【文献】特開平08-168525(JP,A)
【文献】特開2017-104852(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094478(WO,A1)
【文献】特開昭63-242307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18,1/36
B01D 63/02,69/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸同士の隙間が低減された高密度糸束を製造する方法であって、
所定本数の糸を束ねてなる糸束の一端を把持し、前記糸束の一端側における長手方向の少なくとも一部分を、前記糸束の外周に備えられた型材により外力を加えて所定の径まで縮径させて維持する工程と、
前記糸束と前記型材とを前記糸束の軸を中心に相対的に回転させながら、前記型材を前記糸束の他端側に向けて前記糸束の長手方向に相対的に移動させることにより、前記糸束を略全長にわたり前記所定の外径に縮径する工程とを含む、高密度糸束の製造方法。
【請求項2】
前記糸の断面形状が複数混在することを特徴とする、請求項1に記載の高密度糸束の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高密度糸束の製造方法により製造された高密度糸束と、両端が開放された略円筒ケースと、を少なくとも用いた血液浄化カラムの製造方法であって、前記両端が開放された略円筒ケースの内空に、前記高密度糸束を収容する血液浄化カラムの製造方法。
【請求項4】
前記所定本数の糸を束ねてなる糸束の一端を把持する工程が、
前記所定本数の糸を束ねてなる糸束を保護シートで包みこんだ後に、前記保護シートで包まれた前記糸束の一端を把持する工程である、請求項1または2に記載の高密度糸束の製造方法。
【請求項5】
前記保護シートが略四角形状であって、かつ一端から他端に渡り形成されてなる1以上の切込みを有し、
前記所定本数の糸を束ねてなる糸束を保護シートで包みこむ工程が、
前記保護シートの切込みが糸束の周方向に配置されるように、前記所定本数の糸を束ねてなる糸束を保護シートで包み込む工程である、請求項に記載の高密度糸束の製造方法。
【請求項6】
前記保護シートが、引張荷重10N以上200N以下の範囲内で複数に分割可能である、請求項またはに記載の高密度糸束の製造方法。
【請求項7】
前記保護シートの厚みが10μm以上100μm以下の範囲内である、請求項のいずれかに記載の高密度糸束の製造方法。
【請求項8】
請求項のいずれかに記載の高密度糸束の製造方法により製造された保護シートで包まれた高密度糸束と、両端が開放された略円筒ケースと、を少なくとも用いた血液浄化カラムの製造方法であって、
前記両端が開放された略円筒ケースの内空に、前記保護シートで包まれた高密度糸束を収容した状態で、前記高密度糸束の一端における前記高密度糸束を除く前記保護シートを把持し、
前記高密度糸束の他端における前記保護シートを除く前記高密度糸束と、前記略円筒ケースとをともに把持し、前記把持された保護シートを引抜く工程を含む、血液浄化カラムの製造方法。
【請求項9】
前記両端が開放された略円筒ケースの内空に、前記高密度糸束を収容した状態において、
前記高密度糸束の断面積の総和と、前記略円筒ケースの内空の断面積との比で表されるケース内充填率が、40%以上80%以下の範囲内である、請求項またはに記載の血液浄化カラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度な糸束の製造方法であって、および、その方法を用いて製造された高密度な糸束を用いた、任意の血液成分を選択的に吸着する血液浄化カラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者の血液を血液浄化カラムに体外循環させ、任意の血液成分を選択的に除去することで、血液を浄化する療法は広く知られている。このような血液浄化カラムは、血液成分吸着体と、血液成分吸着体を収容するケースと、血液の流入口および流出口とを備えて構成されている。従来から、血液浄化療法において、上記血液浄化カラムに浄化前の血液を流入口から流入させ、カラム内部を通過させ、浄化後の血液を流出口から排出する方法で使用されている。血液成分吸着体と血液が接触することで血液成分中の除去ターゲット物質を血液成分吸着体に吸着することができる。
【0003】
このような血液浄化カラムは、治療の観点から、血液浄化カラムに循環させるために患者から体外に持ち出す血液量は、できる限り低く抑えることが望ましい。これは、患者から体外に持ち出す血液量が多すぎると、急激な血圧低下を招く恐れがあるためである。
【0004】
またこのような血液浄化カラムは、除去性能の観点からは、性能を向上させるためにケース内に血液成分吸着体をできる限り隙間無く、かつ、多数充填し、血液と血液成分吸着体との接触面積を増加させることが望ましい。例えば、上記血液成分吸着体は糸、または繊維を一方向に引き揃えてなる糸束であることが望ましい。これは、ビーズ、編地、細い短繊維と比較して、糸束であればケースの長手方向すなわち、血液入口から流出口に向かう方向に対して平行に収容することが可能であり、血液成分吸着体をできる限り多数充填した場合に血液流動抵抗の軽減において有利であるためである。
【0005】
さらに、血液と血液成分吸着体との接触面積を増加させるには、血液成分吸着体の表面積を増大させることが有効であり、血液成分吸着体、すなわち、糸の表面積を増大させるには、糸は細く、かつ、断面は円ではない異形断面であることが望ましい。
【0006】
そのため、上記の理想的な血液浄化カラムの製造方法として、細く、かつ、断面は円でない糸を多数束ねた糸束を両端が開放された略円筒ケースに収容する必要がある。
【0007】
しかし、この製造方法には、(1)ケース内径以上の直径を有する糸束をケース内径以下に縮径する、(2)その縮径した糸束を隙間無くケース内に収容する、(3)その縮径した糸束を傷つけることなくケース内に収容する、といった課題がある。
【0008】
例えば、特許文献1には全体が略U字状のかたちをしてなる糸束を薄物によりU時の両先端部は残して、U字の折れ曲がり部分を束ね纏めて被覆した状態で、予め筒状に形成されたシート状物内に前記糸束を挿入し、前記シート状物を前記糸束ごと半径方向に絞り込むことにより、前記糸束の径を縮めておいて、縮めたままの前記糸束を前記シート状物の内面をいわばガイドとして前部へ滑らせるようにしながらそのままケース内へ押し出して装填するとともに、装填後に前記糸束を覆う薄物を抜き取る方法が提案されている。
【0009】
例えば、特許文献2には包装シートを糸束体の周囲に覆った状態で前記糸束体を長手方向の両端部で両外側へ引っ張りつつ前記包装シートと共に予め定めた回転方向に回転させながら、前記包装シートの周方向の複数個所で前記糸束体を次第に絞り、前記包装シートの周囲の複数個所を順次溶着させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平9-000895号公報
【文献】国際公開第2013/065193号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら特許文献1に係る発明においては、糸束を外周方向から圧迫し、単糸同士を弾性変形させることで糸束全体を縮径しているため、糸束が元の形状に戻ろうとする反発力が大きく、縮径するために大きな力を必要とする。また、反発力が大きいため縮径後直ぐ、復元してしまう前にケースに収容する必要があり、製造工程の手順や設備のレイアウト設計の自由度が低い。
【0012】
さらには、糸束の反発力が大きいため、薄いシートを引抜くときに、薄いシートとケースとの摩擦力および薄いシートと糸束の摩擦力が大きくなり、薄いシートが引抜けず、引抜くときに薄いシートが破損し、ケース内部に残留する恐れがある。あるいは、薄いシートとともに糸束を構成する一部の単糸が随伴されて引き抜けてしまい、所望の糸束とは異なる糸本数となってしまう恐れがある。
【0013】
また、特許文献2に係る発明においては、糸束を回転させながら周方向より糸束全体を縮径しているが、糸束の両端を把持しているため、単糸同士の自由度が小さい。すなわち、糸束を回転させながら縮径させているが、特許文献1と同様に単糸同士を弾性変形させて糸束全体を縮径しているため、反発力が大きくなってしまう。そのため、特許文献2にあるように、包装シートの周方向を、接着や溶着などの手段を用いて固定しないと、縮径した糸束の形状を保持することができない。
【0014】
また、特許文献1および2においては、具体的な縮径対象となる糸束、縮径前後での糸束の比較が一切例示されていない。
【0015】
本発明の目的は、上述のような課題が解決できる高密度糸束の製造方法を提供することであり、さらにはその高密度糸束を用いた血液浄化カラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した目的を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、所定本数の糸を束ねた糸束の一端を把持し、糸束の一部分を型材にて所定の径に保持しながら、糸束の他端を自由にせしめつつ、糸束を回転させながら引き絞ることで、糸同士の整列を促しながら糸束を略全長に渡って縮径でき、かつ縮径後の糸束の反発力を小さくすることが可能であることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明は、
糸同士の隙間が低減された高密度糸束を製造する方法であって、
所定本数の糸を束ねてなる糸束の一端を把持し、前記糸束の一端側における長手方向の少なくとも一部分を、前記糸束の外周に備えられた型材により外力を加えて所定の径まで縮径させて維持する工程と、
前記糸束と前記型材とを前記糸束の軸を中心に相対的に回転させながら、前記型材を前記糸束の他端側に向けて前記糸束の長手方向に相対的に移動させることにより、前記糸束を略全長にわたり前記所定の外径に縮径する工程とを含む、高密度糸束の製造方法である。
【0018】
また、本発明は、前記高密度糸束の製造方法により製造された高密度糸束と、両端が開放された略円筒ケースと、を少なくとも用いた血液浄化カラムを製造する方法であって、前記両端が開放された略円筒ケースの内空に、前記高密度糸束を収容する血液浄化カラムの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高密度糸束の製造方法を用いれば、糸束の一部分を縮径することで、糸束全体を一度に縮径するよりも小さな力で糸束を縮径することができる。
【0020】
また、糸束の他端を自由にした状態で、糸束を回転させながら縮径することにより、単糸同士の整列を促し、縮径後に単糸同士の反発力を抑制し、糸束の復元による拡径を抑えることができる。
【0021】
また、縮径後の糸束の復元による拡径を抑えることができるため、保護シートの外周を溶着にて固定する必要がない。
【0022】
また、縮径使用する型材を糸束の他端まで相対的に移動させることで、一定長以上の糸束を任意に縮径することができる。
【0023】
さらには、ケース内径以下に縮径された保護シートを含む高密度糸束を、ケースに収容した状態から保護シートのみを破損させることなく引き抜き除去することができる。
【0024】
これにより、製造工程の手順や設備のレイアウト設計の自由度が高く、かつ、より多くの糸束をケースに収容することができ、さらには、高除去性能かつ患者から体外へ持ち出す血液容量が小さい血液浄化カラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】本発明の実施形態の手順(1)の動作を示す概略構造図である。
図1B】本発明の実施形態の手順(2)の動作を示す概略構造図である。
図1C】本発明の実施形態の手順(3)の動作を示す概略構造図である。
図1D】本発明の実施形態の手順(3)の動作を示す概略構造図である。
図1E】本発明の実施形態の手順(4)の動作を示す概略構造図である。
図1F】本発明の実施形態の手順(5)の動作を示す概略構造図である。
図1G】本発明の実施形態の手順(5)の動作を示す概略構造図である。
図1H】本発明の実施形態の手順(6)の動作を示す概略構造図である。
図1I】本発明の実施形態の手順(6)の動作を示す概略構造図である。
図1J】本発明の実施形態の手順(6)の動作を示す概略構造図である。
図1K】本発明の実施形態の手順(7)の動作を示す概略構造図である。
図2】本発明における型材の形状の一例を示す構造図である。
図3】本発明における型材の形状の一例を示す構造図である。
図4】本発明の実施例における形材の形状と配置の概略構造図である。
図5】異形断面糸の断面図である。
図6】本発明における保護シートの形状の一例を示す構造図である。
図7】本発明における保護シートの形状の一例を示す展開構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、糸同士の隙間が低減された高密度糸束を製造する方法であって、所定本数の糸を束ねてなる糸束の一端を把持し、前記糸束の一端側における長手方向の少なくとも一部分を、前記糸束の外周に備えられた型材により外力を加えて所定の径まで縮径させて維持する工程と、前記糸束と前記型材とを前記糸束の軸を中心に相対的に回転させながら、前記型材を前記糸束の他端側に向けて前記糸束の長手方向に相対的に移動させることにより、前記糸束を略全長にわたり前記所定の外径に縮径する工程とを含む、高密度糸束の製造方法に関する。
【0027】
ここで、本発明にいう高密度糸束とは、糸束に外力を加えて所定の径に縮径させることにより、糸同士の隙間が低減された糸束をいう。よって、高密度とは、外力を加えることによって所定の径に縮径され、糸同士の隙間が外力を加える前より低減された状態をさしている。
【0028】
以下、本発明の高密度糸束の製造方法の一例として、図1A図1Jに示す実施形態例を参照しながら説明する。
【0029】
本発明の高密度糸束は、図1に示す初期状態から開始され、以下に記載する手順(1)~(7)の順に製造されることが好ましい。
【0030】
実施形態例
[手順(1)]
図1Aを参照して手順(1)を説明する。糸束1を保護シート2で覆う。前記糸束1に前記保護シート2を前記保護シート2の巻き始めと巻き終わりが十分重なり合うまで覆う。
【0031】
なお、前記保護シート2の形状は特に限定されないが、製作のし易さ、取扱いのし易さの観点から、略四角形状であることが好ましい。
【0032】
この作業は手作業、機械操作による作業、のいずれの手段でもよい。前記保護シート2は厚みが厚いと、略円筒ケース5に前記保護シート2を含む前記糸束1を収容し前記保護シート2のみを引き抜く際、前記略円筒ケース5と縮径された前記糸束1との間に隙間ができ、被処理流体がショートパスする恐れがある。一方で前記保護シート2の厚みが薄すぎると前記保護シート2を前記略円筒ケース5から引き抜く途中で破損させてしまい、前記略円筒ケース5内に前記保護シート2が残留する恐れがある。そのため、本発明で用いられる保護シートの厚みは、10μm以上100μm以下が好ましく、25μm以上50μm以下がさらに好ましい。
【0033】
また、前記保護シート2の厚みは、シックネスゲージ、例えば、547-301(ミツトヨ製)を用いて測定することができる。
【0034】
保護シート2の材質としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートが好ましく例示される。
【0035】
前記糸束1の強度が高く、前記糸束1が縮径時に損傷しない場合、必ずしも前記糸束1を前記保護シート2で覆う必要はない。
【0036】
[手順(2)]
図1Bを参照して手順(2)を説明する。前記保護シート2が巻かれた前記糸束1の一端を前記保護シート2の上から把持部3が把持する。このとき、前記糸束1の把持されている一端以外は図示しない方法で支えられている。
【0037】
[手順(3)]
図1C図1Dとを参照して手順(3)を説明する。型材4に前記糸束1の長手方向の軸方向に向かって外力を加え、前記型材4を前記糸束1が図2に示す前記型材4の径D0まで縮径される位置で保持する。例えば、前記型材4として、図2に示すように円を2分割した形状を示すがこの限りではなく、図3のように円を3分割した形状でもよいし、3分割以上でもよい。
【0038】
また、前記糸束1の縮径にあたっては、前記糸束1と前記保護シート2が前記型材4に挟み込まれないようにするために、前記型材4を図4に示す形状および配置とするのが好ましい。前記型材4の材質は、ステンレス、鉄、アルミ、エンジニアリングプラスチックなどが好ましく挙げられるが、たわみや変形が少なく、糸と接触しても変形や変質しにくいため、ステンレスがより好ましい、また厚みは強度の観点から2mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましい。また型材に加える外力を小さくする観点から厚みは10mm以下が好ましく、5mm以下がさらに好ましい。また糸束1を傷つけないよう糸束との接触部は角取り加工をすることが好ましく、前記型材4の厚みをt、角取り加工の半径をRとしたとき、t/4≦R≦t/2の範囲で設けていることが好ましく、t/3≦R≦t/2の範囲で設けることがさらに好ましい。型材4は本実施形態例に限定されず、縮径前の型材は縮径前の前記糸束1の直径以上の直径を有し、縮径時に所定の直径を有する型材であれば良く、縮径時に糸束1と保護シートを噛み込まない構造であれば良い。
【0039】
[手順(4)]
図1Eを参照して手順(4)を説明する。前記型材4を手順(3)の保持した状態において、前記把持部3を一定方向に前記糸束1の長手方向を中心軸として回転させることで、前記糸束1を一定方向に回転させる。前記糸束1の回転時、必ずしも前記把持部3のみが回転している必要はなく、前記糸束1と前記型材4が前記糸束1の長手方向を中心軸として相対的に回転していればよい。
【0040】
[手順(5)]
図1F図1Gを参照して手順(5)を説明する。前記糸束1が手順(4)における回転している状態で、前記型材4を前記糸束1の他端まで移動させる。これにより、前記糸束1の略全体を縮径し、高密度な糸束を得ることができる。必ずしも前記型材4を前記糸束1の他端まで移動させる必要はなく、相対的に前記型材4と前記糸束1の他端が近づけば、前記糸束1の略全体を縮径できる。
【0041】
このとき、前記把持部3の回転速度に対して、前記型材4を前記糸束1の他端まで相対的に移動させる移動速度が速過ぎる場合、前記糸束1が十分に縮径されず、略円筒ケース5に前記糸束1を収容する際の抵抗が大きく前記糸束1が座屈してしまい、前記略円筒ケースに前記糸束1を収容できない恐れがある。もしくは、前記略円筒ケース5に収容できたとしても前記糸束1の反発力が大きく、前記保護シート2を引き抜くときに、摩擦力が大きく、前記保護シート2が破損し前記略円筒ケース内に残留する恐れや、前記保護シート2が引き抜けない恐れがある。
【0042】
そのため、前記把持部3の回転速度と、前記型材4を前記糸束1の他端まで相対的に移動させる移動速度との適切な比率は、前記糸束1の状態によって適宜選定されることが好ましい。
【0043】
[手順(6)]
図1H図1Iを参照して手順(6)を説明する。両端が開放された前記略円筒ケース5少なくとも1個以上に、手順(1)~(5)において得られた前記保護シート2を含む高密度な糸束1を収容する。
【0044】
次に、前記保護シート2で覆われた前記糸束1の一端における前記保護シート2を除く前記糸束1の一部分を図示しない方法で把持し、さらに前記略円筒ケース5全てを固定した状態において、前記保護シート2で覆われた前記糸束1の他端における前記糸束1を除く前記保護シート2のみを図示しない方法で把持し、前記保護シート2のみを把持した部分と固定した略円筒ケースとの距離を相対的に遠ざけることで、前記略円筒ケース5から前記保護シート2のみを引抜く。これにより、前記略円筒ケース5の内径より大きい前記糸束1を傷つけることなく前記略円筒ケース5に収容することができる。
【0045】
ここで、前記保護シート2で覆われた前記糸束1の一端における前記保護シート2を除く前記糸束1の一部を把持しやすいように、把持する部分のみ前記保護シート2を予め覆わない方法が好ましく例示される。
【0046】
また、前記保護シート2で覆われた前記糸束1の他端における前記糸束1を除く前記保護シート2のみを把持しやすいように、前記保護シート2のみを前記糸束1の他端の端面に対し飛び出るように予め覆う方法が好ましく例示される。
【0047】
また、少なくとも1個以上の前記略円筒ケース5の固定方法は、一つずつ個別に固定してもよいし、同一機構にて固定してもよいし、手で固定してもよい。
【0048】
また、前記糸束1を前記保護シート2で覆っていない場合は、前記保護シート2を前記略円筒ケースから引き抜く工程は必要ない。
【0049】
一方で、前述のとおり、前記保護シート2を引き抜くときに、摩擦力が大きく、前記保護シート2が破損し前記略円筒ケース5内に残留することや、前記保護シート2が引き抜けないことを防ぐために、前記保護シート2は、前記円筒ケース5内に挿入された状態において、前記糸束1の軸方向に複数に分割可能な態様とすることが好ましい。ここで、「複数に分割可能」とは、1の保護シートを、2以上の複数の保護シート片に分割することが可能であることを意味する。具体的な形状として、図6に示すように、前記保護シート2の糸束1周方向の一端から他端に渡り形成されてなる、1以上の切込みを有することが挙げられる。
【0050】
すなわち、本発明の高密度糸束の製造方法の一態様として、前記保護シートが略四角形状であって、かつ一端から他端に渡り形成されてなる1以上の切込みを有し、前記保護シートの切込みが糸束の周方向に配置されるように、前記所定本数の糸を束ねてなる糸束を保護シートで包み込む工程を含む、高密度糸束の製造方法が好ましく例示される。
【0051】
ここで図1Jを参照して、前記糸束1の軸方向に複数に分割可能な、前記糸束1周方向の一端から他端に渡り1以上の切込みを有する前記保護シート2を用いて、保護シートを引き抜く方法の一様態を説明する。
【0052】
両端が開放された前記略円筒ケース5少なくとも1個以上に、手順(1)~(5)において得られた前記保護シート2を含む高密度な糸束1が収容された状態から、前記保護シート2を保護シートの引抜き方向34に向かって引き抜くときに、前記糸束1周方向の一端から他端に渡って形成される1以上の切込み7によって前記保護シート2が引き裂かれる様態にて複数に分割される。図1Jでは、分割後の保護シート片である、保護シート2Aおよび2Bの2つに分割されている態様を示している。
【0053】
前記保護シート2が、保護シート2Aおよび2Bのそれぞれに分割されたことにより、前記略円筒ケース5に収容された前記糸束1から反発力を受ける面積が小さくなる。その結果、前記保護シート2Aを引き抜くための力が小さくなり、容易に引く抜くことができる。一方で、分割されたことによって前記略円筒ケース5に残されたもう一方の前記保護シート2Bにおいても、前記糸束1長手方向の反対側の端部から、前記保護シート2Bの引き抜き方向35に向かって引き抜くことで、先に引き抜いた保護シート2Aと同様に、容易に引き抜くことができる。
【0054】
このとき、前記保護シートを前記糸束の軸方向に複数に分割可能な引張荷重は、10N以上200N以下の範囲内であることが好ましい。本発明で用いられる保護シートの分割可能な引張荷重は、糸束を保護する点と、操作性の点からは10N以上であることが好ましく、50N以上であることがさらに好ましい。一方、前記所定本数の糸を束ねてなる糸束を保護シートで包みこんだ状態において、該糸束の軸方向に対して容易に分割ができる観点で、200N以下であることが好ましく、150N以下であることがさらに好ましい。
【0055】
前記引張荷重は、フォースゲージ、例えば、FGP-20(日本電産シンポ製)を用いて、前記保護シート2を把持し、そのまま糸束1軸方向に引くことで前記引張荷重を測定することができる。
【0056】
前記切込み7の形成手段は特に限定されないが、例えば、円形刃を装着したロータリーカッターを用いることで、容易に切込みを形成することができる。
【0057】
また、本発明における前記保護シート2の切込み7の長さbは、図7に示すとおり、前記保護シート2における前記糸束1の周方向の長さで示される。前記切込み7の長さbは、前記保護シート2を前記糸束1の軸方向に複数に分割可能な引張荷重が10N以上200N以下の範囲内であればよく、保護シートの厚みや材質によって任意に決定されるが、
容易に形成できる観点で、1mm以上10mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0058】
さらに、前記切込み7を複数形成する場合において、その間隔についても特に限定しないが、前記保護シート2を前記糸束1の軸方向に複数に分割可能な引張荷重が10N以上200N以下の範囲内であることを条件に適宜設定される。
【0059】
前記保護シート2を前記糸束1の軸方向に複数に分割する1以上の切込み7の、前記保護シート2における前記糸束1長手方向の形成される位置については特に限定されないが、保護シートを引き抜くために必要な力を小さくする観点から、糸束長手方向の中心位置に形成することが好ましい。
【0060】
なお、ここに示した保護シートの切込みの形成については、両端が開放された前記略円筒ケース5少なくとも1個以上に、手順(1)~(5)において得られた前記保護シート2を含む高密度な糸束1が収容された状態から、前記保護シート2の引き抜きが困難な場合に、前記保護シート2の引抜きを簡便にするための方策であり、前期保護シート2の引き抜きが容易なものについては、本切り込みを形成する必要はない。
【0061】
[手順(7)]
図1Kを参照して手順(7)を説明する。前記略円筒ケース5に収容された前記糸束1を前記略円筒ケースの端面から所定の長さだけ離れた位置で切断し、被処理流体が流通可能な箇所を少なくとも1つ以上を有するヘッダーを前記略円筒ケースの両端に取付ける。取付方法は、接着でもよいし、超音波溶着で溶着してもよい。また、前期略円筒ケースと前期ヘッダーの間にOリングを挟みこみ、外側からネジで固定してもよく、これにより製造される血液浄化カラムに流出入する被処理流体が前記ヘッダーの被処理流体が流通可能な箇所以外から外部に漏れ出さない取付方法であればよい。
【0062】
本発明において、各値は以下の通り求める
[糸径(μm)、異形度]
糸の糸径d0は、1本の糸の軸方向に直交する任意断面の断面積A0と同じ面積となる真円の直径によって表し、次式1により求める。
d0=2×(A0/π)1/2・・・(式1)
異形度は、1本の糸の軸方向に直交する任意断面の糸の断面積A0と糸の断面の周長L0によって表し、次式2により求める。
異形度=L0/2×(π×A0)1/2・・・(式2)
図5は、糸が十字糸の場合の模式図を示している。
【0063】
糸径d0および異形度の測定方法は以下の通りである。まず、測定対象となる糸の両端を、0.1g/mmの張力を付与した状態で固定し、無作為の位置で切断する。その後、切断面を光学顕微鏡、例えばスカラ社製DIGITALMICROSCOPEDG-2で拡大して写真撮影する。撮影の際、同一倍率でスケールも撮影する。当該画像をデジタル化した後、例えばスカラ(株)の画像解析ソフト「MicroMeasurever.1.04」を用い、糸の断面積A0と糸の断面の周長L0を計測する。そして、式1および式2により各糸の糸径d0および異形度を求める。この測定を測定対象の糸における任意の10箇所の断面について行い、値を平均化し、糸径d0であれば小数点以下第2位を四捨五入した値を糸径d0とし、また異形度であれば小数点以下第3位を四捨五入した値を異形度とする。
【0064】
[縮径率(%)]
縮径率は、型材の径D0と縮径前の糸束の軸方向に直交する任意断面での糸束直径D1によって表し、次式3により求める。
縮径率=(D1-D0)/D1×100・・・(式3)
[糸束直径(mm)]
糸束直径D1の算出方法は以下の通りである。まず、厚さ0.01mm、幅10mm、長さ300mmのSUS304の薄板を糸束の周方向に巻きつけ、薄板の両端を荷重300gで引張り保持した状態における糸束周長測定し、その値をπで除すことで求められる。
【0065】
[糸束充填率(%)]
糸束充填率は、糸束の軸方向に直交する任意断面の糸束の断面積の総和A1と、同断面での糸束の糸束直径D1によって表し、次式4により求める
糸束充填率=A1/(0.25×π×D1)×100・・・(式4)
[ケース内充填率(%)]
ケース内充填率は、略円筒ケース5の軸方向に直交する任意断面の糸束の断面積の総和A0と、同断面での略円筒ケースの内径D2によって表し、次式5によって求める。
ケース内充填率=A1/(0.25×π×D2)×100・・・式(5)
本発明において、血液浄化カラムとしてのケース内充填率は、40%以上80%以下の範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、カラムとしての吸着性能と被処理液の通過性を両立しやすいため好ましい。
【実施例
【0066】
以下、図1A図1Jに示した手順を用いて、本発明の実施の一例を示す。なお、本発明は以下の実施例によってなんら限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
糸束1として、糸の断面が十字形状であり、糸径109.2μm、異形度1.27を有する十字糸と糸の断面が楕円形状であり、糸径111.3μm、異形度1.14を有する楕円糸が17対7の割合で、211,200本束ねられ、両端がテープ(仁礼工業株式会社製、GJ18W-50)で固定された糸束(糸束直径71.1mm、糸束長250mm、糸束充填率48.4%)を用意した。
【0068】
次に、保護シート2として、鏡面加工したSUS304の板材との静止摩擦係数が0.28である、ポリエチレンテレフタレート製の厚み50μmのシートを用意し、270mm×300mmの大きさに切断し、これを手で糸束1に巻いた。
【0069】
次に、把持部3にて、保護シート2を巻いた糸束1の一端から長手方向に15mmまでの部分を把持した。
【0070】
次に、材質SUS304、厚み5mm、角取り半径2.5、直径65mmを有する図4に示す型材3個に外力を加え、直径65mmの円ができる位置で型材3個を保持した。
【0071】
次に、糸束1の端部を把持している把持部3を回転速度100rpmで回転させた。
【0072】
次に、把持部3を100rpmで回転させたまま、型材4を糸束の他端まで移動速度60mm/分で移動させた。
【0073】
次に、これにより得られた高密度な糸束を、両端が開放された透明な略円筒ケース5(内径65.3mm、長さ46.5mm、材質ポリカーボネード)3個に収容した。略円筒ケース5に収容された高密度な糸束のケース内充填率は59.8%であった。
【0074】
次に、高密度な糸束の保護シート2を除く糸束1の一端を固定し、かつ略円筒ケース3個を固定した状態で、糸束1の他端の糸束を除く保護シート2のみを把持し、保護シート2を引き抜いた。保護シート2の把持には、フイルムチャック(日本計測システム株式会社GF-1K1)を用いた。引き抜いた結果、糸束の損傷および略円筒ケース内部への保護シート2の残留が無いことを目視にて確認した。
【0075】
次に、略円筒ケース5に収容された高密度糸束を定長に切断し、定長の高密度糸束が収容された略円筒ケース5を3個得た。
【0076】
次に、非処理流体の出入り口を少なくとも1つ以上を有するヘッダーを略円筒ケース5の両端に溶着にて取り付けることで、血液浄化カラムを得た。
【0077】
[実施例2]
型材4を移動速度450mm/分で移動させた以外の条件は、実施例1と同様の条件で実施した結果、糸束の損傷および略円筒ケース内部5への保護シート2の残留が無いことを目視にて確認し、ヘッダーを略円筒ケース5の両端に溶着にて取り付けることで、血液浄化カラムを得た。
【0078】
[実施例3]
保護シート2に前記糸束1の軸方向に複数に分割可能に、前記糸束1周方向の一端から他端に渡り長さ1mmの切込みを1mmの間隔で連続的に形成した。このときの保護シートを複数に分割するための軸方向の引張荷重は150Nであった。型材4を移動速度600mm/分で移動させ、保護シート2を引き抜く力は150Nとした。これら以外の条件は、実施例1と同様の条件で実施した結果、糸束の損傷および略円筒ケース内部5への保護シート2の残留が無いことを目視にて確認した。その後、ヘッダーを略円筒ケース5の両端に溶着にて取り付けることで、血液浄化カラムを得た。
【0079】
[比較例1]
型材4を移動速度600mm/分で移動させた以外の条件は、実施例1と同様の条件で実施した結果、保護シート2がフイルムチャックの把持部分から破断し、略円筒ケース5内部から保護シート2を引抜くことができなかった。
【0080】
[比較例2]
把持部3の回転速度を0rpmとした以外の条件は、実施例1と同様の条件で実施した結果、略円筒ケース5に糸束を収容する途中で、糸束1が座屈し、略円筒ケース5内に糸束を収容することができなかった。
【0081】
[比較例3]
型材4を移動速度600mm/分で移動させ、保護シート2を引き抜く力は150Nとした以外の条件は、実施例1と同様の条件で実施した。換言すれば、保護シートに切込みが無い以外は、実施例3と同じ条件である。その結果、保護シート2がフイルムチャックの把持部分から破断し、略円筒ケース5内部から保護シート2を引抜くことができなかった。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【符号の説明】
【0084】
1 糸束
2 保護シート
2A 保護シート(分割後の保護シート片)
2B 保護シート(分割後の保護シート片)
3 把持部
4 型材
5 略円筒ケース
6 切断箇所
7 切込み
31 型材に外力を加える方向
32 回転方向
33 型材の移動方向
34 保護シートの引抜方向
35 保護シートの引抜方向
D0 形材の径
t 型材の厚み
b 切込みの長さ
R 型材の糸束接触部分の稜部曲面形状の曲面半径
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図2
図3
図4
図5
図6
図7