(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】多相モータ用ステータ装置及びこれを備えた多相モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/14 20060101AFI20221220BHJP
H02K 21/14 20060101ALI20221220BHJP
H02K 16/00 20060101ALI20221220BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H02K1/14 C
H02K21/14 M
H02K16/00
H02K1/02 A
(21)【出願番号】P 2019003598
(22)【出願日】2019-01-11
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 伸雄
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-233189(JP,A)
【文献】特開2012-125054(JP,A)
【文献】実開昭55-112447(JP,U)
【文献】実開昭59-138387(JP,U)
【文献】特開平08-317623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/14
H02K 21/14
H02K 16/00
H02K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無方向性の磁気特性を有する材料から構成され且つ内周部又は外周部に周方向に沿って並べて配設されていると共に各々が軸方向に延在する複数の磁極部を有する環状のステータコアと、該ステータコアの前記複数の磁極部の径方向の背面側に近接して配設された環状の励磁コイルとを備えたステータをN個(Nは3以上の自然数)以上備え、
N個以上の前記ステータは、それぞれの中心を一致させて積層されていると共に、その積層方向の両端部には、両端部のステータのそれぞれの相に対応する磁気回路を拡張する磁気回路拡張部材が設けられ
、
前記磁気回路拡張部材は、前記両端部のステータのそれぞれの相に対応する前記磁気回路の磁気抵抗が、前記両端部のステータに狭まれた中間のステータの各相に対応する磁気回路の磁気抵抗と一致又は略一致するように前記両端部のステータのそれぞれの相に対応する前記磁気回路を拡張する構成となっている多相モータ用ステータ装置。
【請求項2】
前記磁気回路拡張部材は、電磁鋼板、薄板状の電磁鋼板を積層した積層体又は磁性粉を圧縮した成形体から構成されている請求項
1に記載の多相モータ用ステータ装置。
【請求項3】
前記ステータコアは、少なくとも前記複数の磁極部が、磁性粉を圧縮した成形体から構成されている請求項
1又は2に記載の多相モータ用ステータ装置。
【請求項4】
各前記ステータコアは、環状のステータヨーク部を2つ備え、
2つの前記ステータヨーク部は、軸方向に対向して配置されており、それぞれの内周部又は外周部には、対向する相手側へと伸びる複数の前記磁極部が設けられており、
前記2つのステータヨーク部は、前記励磁コイルを挟持していると共に互いの各前記磁極部が周方向に沿って交互に並ぶように噛み合わせて配置されている請求項1~
3のいずれか1項に記載の多相モータ用ステータ装置。
【請求項5】
N個以上の前記ステータは、ステータ間に非磁性体からなる介在物を介在させて積層されている請求項1~
4のいずれか1項に記載の多相モータ用ステータ装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の多相モータ用ステータ装置と、
前記多相モータ用ステータ装置と同心に且つ前記N個以上のステータの各前記複数の磁極部とそれぞれ径方向に所定間隙を空けて対向して配置された環状のロータヨークと、該ロータヨークの内周部及び外周部のうち前記複数の磁極部と対向する側に設けられた、各前記ステータの前記磁極部とそれぞれ径方向に所定間隙をもって対向すると共に、周方向に沿って異なる磁極が交互に繰り返し配置されたN個の磁石部とを有するロータと、を備える多相モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば爪形の磁極等の軸方向に延在する磁極を有する複数のステータを積層してなる多相モータ用ステータ装置及びこれを備えた多相モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸方向に延在する爪形の磁極を有するクローポール構成のステータを複数個積層させてなるモータステータ組立体を備えた電動機が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の電動機は、クローポール構成の3個のステータを積層させてモータステータ組立体を構成している。そのため、積層方向の両端のステータと、これらに挟まれた中間のステータとで磁気抵抗が不平衡となる。即ち、中間のステータは、その挟み込まれた両端部で両端のステータの一部も磁路として磁束を通すことができるが、両端のステータは、中間のステータと接しない側で自身以外の磁路が存在しない。そのため、両端のステータに対して中間のステータの磁気抵抗が低くなり、両端と中間とで磁気抵抗が不平衡となる。その結果、トルクリップルが発生する。
【0005】
そこで、本発明は、このような従来の技術の有する未解決の課題に着目してなされたものであって、3個以上のステータを積層してなるステータ装置の端部相と中間相との磁気抵抗の不平衡を低減するのに好適な多相モータ用ステータ装置及びこれを備えた多相モータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る多相モータ用ステータ装置は、無方向性の磁気特性を有する材料から構成され且つ内周部又は外周部に周方向に沿って並べて配設されていると共に各々が軸方向に延在する複数の磁極部を有する環状のステータコアと、該ステータコアの前記複数の磁極部の径方向の背面側に近接して配設された環状の励磁コイルとを備えたステータをN個(Nは3以上の自然数)以上備える。そして、N個以上の前記ステータは、それぞれの中心を一致させて積層されていると共に、その積層方向の両端部には、両端部のステータのそれぞれの相に対応する磁気回路を拡張する磁気回路拡張部材が設けられている。
【0007】
また、上記目的を達成するために、本発明の第2の態様に係る多相モータは、上記第1の態様に係る多相モータ用ステータ装置と、前記多相モータ用ステータ装置と同心に且つ前記N個以上のステータの各前記複数の磁極部とそれぞれ径方向に所定間隙を空けて対向して配置された環状のロータヨークと、該ロータヨークの内周部及び外周部のうち前記複数の磁極部と対向する側に設けられた、各前記ステータの前記磁極部とそれぞれ径方向に所定間隙をもって対向すると共に、周方向に沿って異なる磁極が交互に繰り返し配置されたN個の磁石部とを有するロータとを備える。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明に係る多相モータ用ステータ装置であれば、積層方向の両端部に磁気回路拡張部材を設けるようにしたので、両端部のステータを含んで構成される磁気回路を拡張することが可能となる。これにより、磁気回路拡張部材を設けなかった場合と比較して、両端部の各相に対応する磁気回路の磁気抵抗を低減することが可能となる。その結果、中間のステータを含んで構成された中間相の磁気回路と両端の相の磁気回路との間の磁気抵抗の不平衡を低減することが可能となる。また、このステータ装置を備えた多相モータであれば、磁気抵抗の不平衡を低減することで駆動時のトルクリップルを低減することが可能となるのでより安定した動作が可能な多相モータを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る多相モータの斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る多相モータの斜視図である。同図では、サイドフレームを取り外した状態を示している。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る多相モータの側面図である。同図では、サイドフレームを取り外した状態を示している。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るステータ装置の斜視図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係るステータ装置から磁気回路拡張部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係るステータ装置を軸線に沿って切った模式的な断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係る磁気回路拡張部材の斜視図である。
【
図9】(a)は、磁気回路拡張部材を設けなかった場合の各相の磁束の流れの一例を示す模式的な部分断面図であり、(b)は、磁気回路拡張部材を設けた場合の各相の磁束の流れの一例を示す模式的な部分断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係るステータ装置を軸線に沿って切った模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の第1~第2実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものも含まれており、部材ないし部分の縦横の寸法や縮尺は実際のものとは異なる場合があることに留意すべきである。従って、具体的な寸法や縮尺は以下の説明を参酌して判断すべき場合がある。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0011】
また、以下に示す第1~第2実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
〔第1実施形態〕
〔構成〕
まず、本発明の第1実施形態に係る多相モータ用ステータ装置2(以下、単に「ステータ装置2」と称す)を備えた多相モータ1の構成を説明する。
この多相モータ1は、
図1~
図3及び
図6に示すように、ステータ装置2と、ロータ装置3と、サイドフレーム4と、トップフレーム5Aと、ボトムフレーム5Bと、回転軸6と、減速ギア7と、ステータ固定用部材8と、軸受9A及び9Bとを備える。
【0013】
サイドフレーム4は、円筒状をなしており、その軸方向の一端部にフランジ4aが形成され、他端部にフランジ4bが形成されている。加えて、側面には、3つの励磁コイル24の各端末部24b(後述)を外部に引き出すために、軸方向に長尺な略矩形の切り欠きからなる引出部4cが設けられている。更に、フランジ4a及び4bには、それぞれ周方向に等間隔に且つ軸方向に貫通して形成された4つのボルト孔が設けられている。また、フランジ4a及び4bの外形は、軸方向から平面視して略八角形に構成されている。
【0014】
トップフレーム5Aは、軸方向から平面視してフランジ4aの外形と同様の略八角形の板状部材から構成されており、その軸方向の一端側の板面中央には、回転軸6の挿通用の軸孔を有するボス部50Aが設けられている。加えて、軸方向の他端側の板面中央には、減速ギア7を覆うように構成された円筒状のカバー部51Aが設けられている。更に、トップフレーム5Aの外径側の端部には、周方向に等間隔に且つ板面を軸方向に貫通して形成された固定用の4つのボルト孔が設けられている。そして、トップフレーム5Aは、サイドフレーム4の軸方向の一端側のフランジ4aの端面に、ボルト孔の位置を合わせて当接され、ボルト110によってサイドフレーム4に固定されている。
以下、多相モータ1のトップフレーム5Aが設けられた側を「トップ側」と称する。
【0015】
ボトムフレーム5Bは、軸方向から平面視してフランジ4bの外形と同様の略八角形の板状部材から構成されており、その軸方向の他端側の板面中央には、回転軸6の挿通用の軸孔を有する環状のボス部50Bが設けられている。このボス部50Bの軸穴の周囲にはステータ装置2の固定用の4つのボルト孔が周方向に等間隔に且つ板面を貫通して設けられている。また、ボトムフレーム5Bのトップ側の板面中央には、ボス部50Bと同じ外径を有する環状のボス部51Bが設けられている。更に、ボトムフレーム5Bの外径側の端部には、周方向に等間隔に且つ板面を軸方向に貫通して形成された固定用の4つのボルト孔が設けられている。そして、ボトムフレーム5Bは、サイドフレーム4の他端側のフランジ4bの端面に、ボルト孔の位置を合わせて当接され、ボルト110によってサイドフレーム4に固定されている。
以下、多相モータ1のボトムフレーム5Bが設けられた側を「ボトム側」と称する。
【0016】
回転軸6は、その軸方向の略中央部分がステータ装置2の内側に配置されたロータ装置3の内周部に固定されており、ステータ装置2よりもトップ側の部分は、減速ギア7の内周部、トップフレーム5Aの軸孔を通って外部へと突出している。一方、ステータ装置2よりもボトム側の部分は、ステータ固定用部材8の内周部、ボトムフレーム5Bの軸孔を通って外部へと突出している。更に、回転軸6のトップ側は、トップフレーム5Aの軸孔の内周部に軸受9Aを介して回転自在に支持され、ボトム側は、ボトムフレーム5Bの軸孔の内周部に軸受9Bを介して回転自在に支持されている。
【0017】
減速ギア7は、トップフレーム5Aのカバー部51Aの内側に配置され、回転軸6を内部の歯車(図示略)に形成された軸穴に嵌挿した状態でトップフレーム5Aにボルトを介して固定されている。この減速ギア7は、図示省略するが、例えば、平歯車、太陽歯車、遊星歯車、ウォームギア等から構成され、回転軸6の回転速度を設定された減速比に基づいて減速する。
【0018】
ステータ固定用部材8は、環状をなしており、そのトップ側の端部がステータ装置2のボトム側の端部にステータ装置2と同心に固定されている。このステータ固定用部材8のボトム側の端部には、周方向に等間隔にステータ装置2の固定用の4つのボルト孔(図示略)が設けられている。即ち、ステータ装置2は、ステータ固定用部材8を介してボルト130によりボトムフレーム5Bに固定されている。
【0019】
ステータ装置2は、
図1~
図6に示すように、軸方向に積層されたU相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wと、U相ステータ21U及びW相ステータ21Wの軸方向外側の端面に設けられた磁気回路拡張部材23A及び23Bとを備える。
【0020】
U相ステータ21Uは、U相ステータコア210Uと、U相励磁コイル24Uとを備え、V相ステータ21Vは、V相ステータコア210Vと、V相励磁コイル24Vとを備え、W相ステータ21Wは、W相ステータコア210Vと、W相励磁コイル24Wとを備える。
【0021】
なお、第1実施形態において、U相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wは、いずれも同様の構成を有しており、以下、区別する必要が無い場合に、単に「ステータ21」と称する。同様に、U相ステータコア210U、V相ステータコア210V及びW相ステータコア210Wについても、区別する必要が無い場合に、単に「ステータコア210」と称する。また、U相励磁コイル24U、V相励磁コイル24V及びW相励磁コイル24Wについても、区別する必要が無い場合に、単に「励磁コイル24」と称する。
【0022】
各相ステータのステータコア210は、第1実施形態において、表面を電気絶縁した軟磁性の磁性粉を圧縮して成形した成形体(以下、「圧粉コア」と称す)から構成されている。ここで、磁性粉としては、例えば加圧時の塑性変形性に優れる純鉄または鉄系合金等の粉末を使用する。粉末からなる圧粉コアは磁気的等方性を有しているため、磁路の形成方向に制約がないのが特長である。即ち、圧粉コアは、無方向性の磁気特性を有している。
【0023】
このステータコア210は、環状の第1のステータヨーク部210Aと、第1のステータヨーク部210Aの内周部に設けられた8つの爪状の第1の磁極部212Aとを備える。加えて、環状の第2のステータヨーク部210Bと、第2のステータヨーク部210Bの内周部に設けられた8つの爪状の第2の磁極部212Bとを備える。
【0024】
具体的に、第1のステータヨーク部210Aは、円筒状の本体部2100Aと、その軸方向の一方側(
図5ではトップ側)の端部から内径側に突出した円帯状且つ板状の帯部2101Aとを有する。
【0025】
各第1の磁極部212Aは、第1のステータヨーク部210Aの帯部2101Aの内径部から更に中心に向かって平面視略台形且つ板状に突出した爪底部2120Aと、この爪底部2120Aから軸方向の他方側(
図5ではボトム側)に向かって立設した略半円錐台形状の爪部2121Aとを有する。また、各第1の磁極部212Aの爪部2121Aは略台形状の切断面2122Aを内径側に向けた姿勢で立設している。以下、この略台形状の切断面2122Aを「磁極面2122A」と称する。
【0026】
また、第1のステータヨーク部210Aの外周部には、円周方向に等間隔に、励磁コイル24の引き出し用の3つの溝部と、これら3つの溝部の奥部にそれぞれ形成された切り欠き部とが設けられている。
【0027】
第2のステータヨーク部210Bは、円筒状の本体部2100Bと、その軸方向の一方側(
図5ではボトム側)の端部から内径側に突出した円帯状且つ板状の帯部2101B(図示略)とを有する。
【0028】
各第2の磁極部212Bは、第2のステータヨーク部210Bの帯部2101Bの内径部から更に中心に向かって平面視略台形且つ板状に突出した爪底部2120Bと、この爪底部2120Bから軸方向の他方側(
図5ではトップ側)に向かって立設した略半円錐台形状の爪部2121Bとを有する。また、各第2の磁極部212Bの爪部2121Bは略台形状の切断面(磁極面)2122Bを内径側に向けた姿勢で立設している。
【0029】
ここで、第2のステータヨーク部210Bは、外周部に形成された溝部及び切り欠き部の位置が第1のステータヨーク部210Aと異なる以外は、第1のステータヨーク部210Aと同様の形状を有している。
【0030】
そして、ステータコア210は、第1のステータヨーク部210A及び第2のステータヨーク部210Bを同心に且つ第1の磁極部212A側と第2の磁極部212B側とを軸方向に対向させて両者の帯部2101A及び2101Bの対向位置で励磁コイル24を狭持すると共に、互いの各第1の磁極部212A及び212Bが周方向に沿って交互に並ぶように両者を噛み合わせた構成となっている。
【0031】
具体的に、第1実施形態では、第1の磁極部212Aと第2の磁極部212Bとを周方向に「22.5°」ずつ位置をずらして噛み合わせた構成となっている。この状態において、第1のステータヨーク部210Aの励磁コイル24の引き出し用の3つの溝部及びその切り欠き部と、第2のステータヨーク部210Bの励磁コイル24の引き出し用の3つの溝部及びその切り欠き部とは、それぞれの周方向の位置が一致するように構成されている。これにより、両者の溝部及び切り欠き部は軸方向にひとつながりの溝及び切り欠きを構成する。加えて、ひとつながりの3つの溝のうちいずれか1つの溝の切り欠きから、励磁コイル24の巻線部24aの一部と端末部24bとが外側に引き出されている。
【0032】
また、励磁コイル24は、
図7に示すように、例えば平角のアルミ線を環状且つ径方向に複数段巻き回したものを軸方向に2段重ねた構成の巻線部24aと、巻線部24aの始端部及び終端部をY字状に折り曲げてなる端末部24bとから構成されている。なお、平角線に限らず、丸線を圧縮して形成したものを使用してもよいし、材質もアルミ線に限らず、銅クラッドアルミ線、銅線、マグネシウム線等の他の材質のものから構成してもよい。
【0033】
図1~
図6に戻って、U相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wは、第1のステータヨーク部210Aをトップ側に向けて、トップ側からボトム側に向かってU相、V相、W相の順番で積層されている。なお、V相ステータ21Vは、自身の磁極部をU相ステータ21Uの磁極部に対して電気角で120°(機械角で15°)位相をずらした状態で積層されている。また、W相ステータ21Wは、自身の磁極部をV相ステータ21Vの磁極部に対して電気角で120°(機械角で15°)位相をずらした状態で積層されている。
【0034】
そのため、U相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wは、これらの励磁コイル24の引き出し用の3つの溝及びその切り欠きの周方向位置が、電気角で「120°」ずつ位相をずらした状態で積層したときに一致するように構成されている。これにより、U相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wの各3つの溝はそれぞれ軸方向にひとつながりとなる。
以上説明したステータ装置2の構成により、第1実施形態に係る多相モータ1は、クローポール型のモータとして構成されている。
【0035】
一方、磁気回路拡張部材23Aは、第1実施形態において、U相ステータ21Uの軸方向(積層方向)の端面の形状と同一の平面形状を有している。加えて、無方向性の磁気特性を有する薄板状の電磁鋼板を、複数積層して構成されている。そして、例えば接着剤等によって、U相ステータ21Uの端面に貼り付けられている。これにより、U相ステータ21Uのトップ側にU相の磁気回路を拡張して、U相の磁気回路の磁気抵抗をV相の磁気回路の磁気抵抗と同程度にまで低減している。
【0036】
この磁気回路拡張部材23Aは、
図8に示すように、外周部のU相ステータ21Uの3つの溝とそれぞれ軸方向に対向する位置に設けられた、溝の形状に合わせて径方向内側に凹む3つの凹部23aを有している。加えて、内周部のU相ステータ21Uの8つの第1の磁極部212Aと軸方向に対向する位置にそれぞれ設けられた、第1の磁極部212Aの軸方向の端面の形状に合わせて径方向内側に突出する8つの凸部23bを有している。かかる形状によって、磁気回路拡張部材23Aは、U相ステータ21Uの第1のステータヨーク部210A及び複数の第1の磁極部212Aの端面部分の全体と当接した状態で貼り付けられた状態となる。
【0037】
磁気回路拡張部材23Bは、3つの凹部23aの位置がW相ステータ21Wの3つの溝と軸方向に対向する位置に設けられている以外は、磁気回路拡張部材23Aと同様の構成となる。即ち、W相ステータ21Wのボトム側にW相の磁気回路を拡張して、W相の磁気回路の磁気抵抗をV相の磁気回路の磁気抵抗と同程度にまで低減している。また、かかる形状によって、磁気回路拡張部材23Bは、W相ステータ21Uの第2のステータヨーク部210B及び複数の爪状の第2の磁極部212Bの端面部分の全体と当接した状態で貼り付けられた状態となる。
【0038】
ロータ装置3は、円筒状のロータヨーク31と、ロータヨーク31の外周部におけるU相ステータ21Uの内周部の第1及び第2の磁極部212A及び212Bの磁極面2122A及び2122Bと所定間隙を空けて対向する位置に設けられた、周方向に沿って異なる磁極が交互に繰り返し配置された構成のリング状のU相磁石部32Uとを備える。加えて、ロータヨーク31の外周部におけるV相ステータ21Vの内周部の第1及び第2の磁極部212A及び212Bの磁極面2122A及び2122Bと所定間隙を空けて対向する位置に設けられた、U相磁石部32Uと同一構成のV相磁石部32Vを備える。更に、ロータヨーク31の外周部におけるW相ステータ21Wの内周部の第1及び第2の磁極部212A及び212Bの磁極面2122A及び2122Bと所定間隙を空けて対向する位置に設けられた、U相磁石部32Uと同一構成のW相磁石部32Wを備える。
【0039】
なお、U相磁石部32U、V相磁石部32V及びW相磁石部32Wは、N極及びS極の磁極の周方向の位置が同一となる(軸方向に重なる)ように設けられている。また、U相磁石部32U、V相磁石部32V及びW相磁石部32Wは、リング状の磁石に限らずセグメント型の磁石で構成してもよい。
【0040】
〔磁気回路拡張部材23A及び23Bの作用について〕
まず、
図9(a)に示すように、ステータ装置2において、磁気回路拡張部材23A及び23Bを設けなかった場合を説明する。この場合、U相ステータ21UとW相ステータ21Wとに挟まれたV相ステータ21Vに対応するV相の磁気回路の磁気抵抗は、U相ステータ21U、W相ステータ21Wにそれぞれ対応する端部相(U相、W相)の磁気回路の磁気抵抗よりも低くなる。即ち、U相ステータ21Uを単独で積層した場合のU相の磁気回路を流れるU相磁石部32Uからの磁束Buよりも、V相の磁気回路を流れるV相磁石部32Vからの磁束Bvの方が流れやすい状態となっている。同様に、W相ステータ21Wを単独で積層した場合のW相の磁気回路を流れるW相磁石部32Wからの磁束Bwよりも、V相の磁気回路を流れる磁束Bvの方が流れやすい状態となっている。
【0041】
これは、V相の磁気回路が、U相ステータ21Uの第2のステータヨーク部210Bと、W相ステータ21Wの第1のステータヨーク部210Aとを両方とも共有しているためである。即ち、V相の磁気回路は、上記共有部分によって回路が積層方向の両端側に拡張されている。
【0042】
一方、U相の磁気回路は、V相ステータ21V側でV相ステータ21Vの第1のステータヨーク部210Aのみを共有し、W相の磁気回路は、V相ステータ21V側でV相ステータ21Vの第2のステータヨーク部210Bのみを共有している。即ち、U相ステータ21U及びW相ステータ21Wはそれぞれ、V相ステータ21V側とは反対側に他のステータが存在しないため反対側で共有できるステータヨーク部が存在しない。
【0043】
その結果、V相の磁気回路は、磁束の流れる断面積がU相及びW相の磁気回路よりも大きくなる。加えて、V相ステータ21Vは、U相ステータ21U及びW相ステータ21Wと材料及び製法が同一であるため透磁率は同一となる。そのため、V相の磁気回路は、片側だけ共有となっているU相及びW相の磁気回路よりも磁気抵抗が低くなる。
【0044】
これに対して、磁気回路拡張部材23A及び23Bを設けた場合は、U相の磁気回路は磁気回路拡張部材23Aの分だけV相ステータ21V側とは反対側にも拡張され、W相の磁気回路は磁気回路拡張部材23Bの分だけV相ステータ21V側とは反対側にも拡張される。これにより、拡張された分だけ磁束の流れる断面積が大きくなり、磁気回路拡張部材23A及び23Bを設けなかった場合と比較して磁気抵抗が低くなる。
【0045】
即ち、第1実施形態では、磁気回路拡張部材23A及び23Bを、U相及びW相の磁気回路の磁気抵抗がV相の磁気回路の磁気抵抗と一致又は略一致するように、U相及びW相の磁気回路の磁気抵抗を減少させることが可能な形状及び素材で構成している。
【0046】
これにより、
図9(b)に示すように、端部相であるU相及びW相の磁気回路の磁気抵抗と、中間相であるV相の磁気回路の磁気抵抗とが均一化又は略均一化され、磁気抵抗の不平衡によって生じるトルクリップルを低減することが可能となる。
【0047】
〔第1実施形態の作用及び効果〕
第1実施形態に係るステータ装置2は、無方向性の磁気特性を有する材料から構成されたU相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wを備える。U相ステータ21Uは、U相ステータコア210U及びU相励磁コイル24Uを備え、V相ステータ21Vは、V相ステータコア210V及びV相励磁コイル24Vを備え、W相ステータ21Wは、W相ステータコア210W及びW相励磁コイル24Wを備える。更に、U相ステータコア210U、V相ステータコア210V及びW相ステータコア210Wはそれぞれ、第1のステータヨーク部210Aと、第1のステータヨーク部210Aの内周部に周方向に沿って並べて配設されていると共に各々が軸方向に延在する8つの爪状の第1の磁極部212Aとを備える。加えて、第2のステータヨーク部210Bと、第2のステータヨーク部210Bの内周部に周方向に沿って並べて配設されていると共に各々が軸方向に延在する8つの爪状の第2の磁極部212Bとを備える。第1のステータヨーク部210A及び第2のステータヨーク部210Bは、軸方向に同心に対向して配置されており、各第1の磁極部212Aは、対向する第2のステータヨーク210B側へと伸びており、各第2の磁極部212Bは、対向する第1のステータヨーク210A側へと伸びている。更に、第1のステータヨーク部210A及び第2のステータヨーク部210Bは、励磁コイル24を挟持していると共に互いの各第1及び第2の磁極部212A及び212Bが周方向に沿って交互に並ぶように噛み合わせて配置されている。
【0048】
そして、U相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wは、それぞれの中心を一致させてトップ側からU相、V相、W相の順に積層されていると共に、その積層方向の両端部には、両端部のU相ステータ21U及びW相ステータ21Wの各相にそれぞれ対応する磁気回路の磁気抵抗を拡張する磁気回路拡張部材23A及び23Bが設けられている。
【0049】
この構成であれば、磁気回路拡張部材23A及び23Bによって、U相及びW相の各相に対応する磁気回路を拡張することが可能となる。これにより、U相及びW相の磁気回路の磁気抵抗を磁気回路拡張部材23A及び23Bを設けなかった場合と比較して低減することが可能となる。その結果、V相の磁気回路と、U相及びW相の磁気回路との間の磁気抵抗の不平衡を低減することが可能となる。
【0050】
また、第1実施形態に係るステータ装置2は、更に、磁気回路拡張部材23A及び23Bが、U相及びW相に対応する磁気回路の磁気抵抗が、V相に対応する磁気回路の磁気抵抗と一致又は略一致するようにU相及びW相に対応する磁気回路を拡張する構成となっている。
この構成であれば、U相、V相及びW相の磁気回路の磁気抵抗を均一化又は略均一化することが可能となるので、磁気抵抗の不平衡をより確実に低減することが可能となる。
【0051】
また、第1実施形態に係るステータ装置2は、更に、U相、V相及びW相ステータコア210U、210V及び210Wが、少なくとも複数の第1及び第2の磁極部212A及び212Bが、表面を絶縁した磁性粉を圧縮した成形体(圧粉コア)から構成されている。更に、磁気回路拡張部材23A及び23Bが、薄板状の電磁鋼板を積層した積層体(積層コア)から構成されている。
【0052】
この構成であれば、ステータコアの少なくとも磁極部を圧粉コアによって構成したので、3次元的な広がりを持つ磁気回路を構成することが可能となり、磁気性能を向上することが可能となる。加えて、磁気回路拡張部材23A及び23Bを、圧粉コアよりも磁気特性の優れた積層コアによって構成したので、圧粉コアで構成した場合と比較して磁気回路拡張部材23A及び23Bを薄く構成することが可能となる。これにより、装置をよりコンパクトに構成することが可能となる。
【0053】
また、第1実施形態に係る多相モータ1は、ステータ装置2と、ステータ装置2と同心に且つU相、V相及びW相ステータ21U、21V及び21Wの各複数の第1及び第2の磁極部212A及び212Bとそれぞれ径方向に所定間隙を空けて対向して配置されたロータ装置3とを備える。このロータ装置3は、環状のロータヨーク31と、該ロータヨーク31の外周部に設けられた、U相ステータ21Uの複数の第1の磁極部212A及び212Bと径方向に所定間隙をもって対向すると共に、周方向に沿って異なる磁極が交互に繰り返し配置されたU相磁石部32Uを有する。加えて、V相ステータ21Vの複数の第1の磁極部212A及び212Bの磁極面と径方向に所定間隙をもって対向して配置された、U相磁石部32Uと同構成のV相磁石部32Vを備える。更に、W相ステータ21Wの複数の第1の磁極部212A及び212Bと径方向に所定間隙をもって対向して配置された、U相磁石部32Uと同構成のW相磁石部32Wを備える。
【0054】
この構成であれば、上記ステータ装置2と同等の作用及び効果が得られると共に、かかる作用及び効果によってモータ駆動時のトルクリップルを低減することが可能となるのでより安定した動作が可能な多相モータを提供することが可能となる。
【0055】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
〔構成〕
第2実施形態は、上記第1実施形態の多相モータ1のステータ装置2において、U相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wを積層する際に、各ステータ間に介在物を介在させた点が上記第1実施形態と異なる。
以下、上記第1実施形態と同様の構成部については同じ符号を付して適宜説明を省略し、異なる点を詳細に説明する。
【0056】
第2実施形態に係るステータ装置2Aは、
図10に示すように、上記第1実施形態のステータ装置2において、U相ステータ21UとV相ステータ21Vとの間と、V相ステータ21VとW相ステータ21Wとの間とに、それぞれ環状の介在物25を介在させた構成となっている。
ここで、介在物25は、例えば、非磁性体から構成されており、物質に限らず単に隙間を空けるだけでもよい。
【0057】
また、ステータ装置2Aは、上記第1実施形態のステータ装置2において、積層コアから構成された磁気回路拡張部材23A及び23Bに代えて、同形状の圧粉コアから構成された磁気回路拡張部材26A及び26Bを備えた構成となっている。
【0058】
〔第2実施形態の作用及び効果〕
第2実施形態に係るステータ装置2Aは、U相ステータ21U、V相ステータ21V及びW相ステータ21Wが、各ステータ間に非磁性体からなる介在物25を介在させて積層されている。
この構成であれば、ステータ同士を当接させて積層する構成と比較して、共有部分を流れる磁束を低減することが可能となるので、各相間の磁気抵抗の不平衡を低減することが可能となる。
【0059】
また、第2実施形態に係るステータ装置2Aは、更に、積層方向の両端部に磁気回路拡張部材26A及び26Bを設けた。
この構成であれば、各相間の磁気抵抗の不平衡をより低減することが可能となる。
【0060】
ここで、介在物25を介在させただけでは、磁束の回り込みなどが要因でV相ステータ21Vの隣接するステータとの磁気回路の共有化を完全に防ぐことができず、各相間の磁気抵抗の不平衡は完全には解消されない。そこで、磁気回路拡張部材26A及び26Bを設けることで解消できなかった分を補うことが可能となる。
【0061】
また、介在物25を介在させることで、介在させなかった場合と比較して各相間の磁気抵抗の差を小さくできるので、磁気回路拡張部材26A及び26Bを、形状を第1実施形態の磁気回路拡張部材23A及び23Bと同じままで、積層コアよりも磁気特性の劣る圧粉コアから構成することが可能となる。なお、磁気抵抗の差の大きさによっては、磁気回路拡張部材26A及び26Bをより薄型に構成することが可能となる。
【0062】
〔変形例〕
なお、上記各実施形態では、磁気回路拡張部材の形状を平面視でステータ端面と同形状にした例を説明したが、この構成に限らず、磁気回路の拡張機能を有していれば、例えば平面視で円帯状など他の形状としてもよい。
また、上記第1実施形態では、磁気回路拡張部材を積層コアから構成し、上記第2実施形態では圧粉コアから構成したが、この構成に限らず、電磁鋼板からなる非積層型のコアから構成してもよい。
【0063】
また、上記各実施形態では、3相の各ステータを、位相を「120°」ずつずらして配置する構成としたが、この構成に限らない。例えば、3相の各ステータを、位相をずらさずに配置し、ロータ装置3の磁石部側を、位相を「120°」ずつずらして配置する構成とするなど他の構成としてもよい。
また、上記各実施形態では、多相モータ1を3相モータとして構成する例を説明したが、この構成に限らず、4相以上の構成としてもよい。
【0064】
また、上記各実施形態では、ステータコア210を、表面を電気絶縁した磁性粉を圧縮して成形した成形体(圧粉コア)から構成した例を説明したが、この構成に限らず、例えば、薄板状の電磁鋼板を積層した積層体(積層コア)、非積層型の電磁鋼板などから構成してもよい。また、例えば、第1の磁極部212A及び212Bの部分を圧粉コアで構成し、その他の部分を積層コアで構成するなど組み合わせた構成としてもよい。
【0065】
また、上記各実施形態では、板状の磁気回路拡張部材を、両端部のステータの端面に貼り付ける構成としたが、この構成に限らない。例えば、端面と近接させて(隙間を空けて)設けたり、拡張機能を有するペースト状の鉄粉を端面に塗布したりするなど他の構成としてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 多相モータ
2,2A ステータ装置
3 ロータ装置
4 サイドフレーム
4a,4b フランジ
4c 引出部
5A トップフレーム
5B ボトムフレーム
6 回転軸
7 減速ギア
8 ステータ固定用部材
9A,9B 軸受
21U,21V,21W U相,V相,W相ステータ
23A,23B,26A,26B 磁気回路拡張部材
23a 凹部
23b 凸部
24U,24V,24W U相,V相,W相励磁コイル
24a 巻線部
24b 端末部
31 ロータヨーク
32U,32V,32W U相,V相,W相磁石部
210U,210V,210W U相,V相,W相ステータコア
210A,210B 第1,第2のステータコア部
211A,211B 第1,第2のステータヨーク
212A,212B 磁極部