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特許7196625硫化物固体電解質粒子及びその製造方法、並びに、全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質粒子及びその製造方法、並びに、全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20221220BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221220BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221220BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20221220BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20221220BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20221220BHJP
   C03C 10/16 20060101ALI20221220BHJP
   C03C 3/32 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01B1/10
H01B13/00 Z
C01B25/14
C03C10/16
C03C3/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019006298
(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公開番号】P2020114787
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】南 圭一
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026321(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216730(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176895(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/32
H01M 10/0562
H01M 4/62
H01B 1/06
H01B 1/10
H01B 13/00
C01B 25/14
C03C 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含み、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質粒子であって、
XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が、0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下である、硫化物固体電解質粒子(但し、XPSにより測定した、表面の酸素/硫黄元素比率が0.41であり且つ表面より32nm(SiO スパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.28である場合、XPSにより測定した、表面の酸素/硫黄元素比率が0.68であり且つ表面より32nm(SiO スパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.25である場合、XPSにより測定した、表面の酸素/硫黄元素比率が0.36であり且つ表面より32nm(SiO スパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.21である場合、及び、XPSにより測定した、表面より5nm(SiO スパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が15.3/25.0であり且つ表面より100nm(SiO スパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.7/34.6である場合を除く)
【請求項2】
CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.7±0.5deg、30.2±0.5deg、及び、31.6±0.5degに回折ピークを有する、請求項1に記載の硫化物固体電解質粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質粒子を製造する方法であって、
硫化物固体電解質材料を準備する工程と、
XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下となるように、前記硫化物固体電解質材料を、所定の水分濃度下で所定時間曝露後、乾燥する工程を有する、硫化物固体電解質粒子の製造方法。
【請求項4】
前記硫化物固体電解質材料を、曝露雰囲気露点の水分濃度(ppm)と曝露時間(h)との積で表される環境水分量(ppm・h)を3048ppm・h以内で曝露後、乾燥する工程を有する、請求項に記載の硫化物固体電解質粒子の製造方法。
【請求項5】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置された固体電解質層とを備える全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層の少なくともいずれか一つが、請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質粒子を含有する、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は硫化物固体電解質粒子及びその製造方法、並びに、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液体電解質を固体電解質に変更した全固体リチウム二次電池等の全固体電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
このような全固体電池の電池構成群は、正極、負極、および電解質が全て固体であるため、例えば有機電解液を用いたリチウム二次電池と比較して、電気抵抗が大きくなり、出力電流が小さなものとなる傾向にある。
【0003】
そこで、全固体リチウム二次電池の出力電流を大きなものとするために、電解質としてはイオン伝導性の高いものが望ましい。硫化物固体電解質においては、硫化物イオンが酸化物イオンに比べて分極率の大きなイオンであり、リチウムイオンとの静電的な引力が小さなものであることから、酸化物固体電解質に比べて高いイオン伝導性を示すと考えられている。
【0004】
特許文献1には、硫化物材料を含む硫化物層と、前記硫化物材料が酸化されてなる酸化物を含む酸化物層とを備え、前記酸化物層は、前記硫化物層の表面に位置し、XPS深さ方向分析により測定される前記酸化物層の最表面の酸素/硫黄元素比率をxとし、前記XPS深さ方向分析により測定される、SiO換算スパッタレートで前記酸化物層の最表面より32nm位置の酸素/硫黄元素比率をyとすると、1.28≦x≦4.06、かつ、x/y≧2.60、を満たす、硫化物固体電解質材料が開示されている。特許文献1には、硫化物固体電解質材料の最表面における酸素結合の割合を、前記特定の範囲のように十分に大きくすることにより、活物質と接することなどで高電位にさらされうる硫化物固体電解質材料の最表面における、硫化物固体電解質材料の電気分解を十分に抑制できる旨、酸化物層と硫化物層とが接する界面近傍における酸化物層において、前記特定の範囲のように酸素結合を少なくすることにより、高いイオン伝導性を維持でき、その結果、電池の充放電特性をより向上させることができる旨が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有し、硫化物固体電解質材料からなることを特徴とする硫化物固体電解質粒子が開示されている。特許文献2には、上記硫化物固体電解質粒子表面の酸素/硫黄元素比率が、表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率に対して2倍以上であることが好ましい旨が記載されており、実施例1として表面の酸素/硫黄元素比率が1.54、表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率が0.65である硫化物固体電解質粒子と、比較例として表面の酸素/硫黄元素比率が1.05、表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率が0.54である硫化物固体電解質粒子とが開示されている。特許文献2には、硫化物固体電解質粒子と酸化物活物質との界面での高抵抗部位の生成を抑制し、上記硫化物固体電解質粒子の劣化を抑制することができるため、全固体電池の耐久性を向上させることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-26321号公報
【文献】特開2012-94445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示されているような表面酸素比率が高い硫化物固体電解質材料では、実際には、固体電解質のイオン伝導度が急激に低下する。このような低いイオン伝導度を有する硫化物固体電解質材料を用いた全固体電池では、硫化物固体電解質材料と酸化物活物質との界面抵抗が大幅に増加し、初期抵抗が極めて高くなるため、特許文献1に記載されているような極めて低い充放電レートでしか作動できず、実使用上問題がある。
特許文献2で開示されている硫化物固体電解質粒子でも、十分なイオン伝導度を有するには、未だ不十分であり、向上が望まれる。
【0008】
一方で、硫化物固体電解質は、空気中の水分と硫化物固体電解質中の硫黄原子とが反応して硫化水素が発生するという問題があり、従来の硫化物固体電解質では硫化水素発生の抑制効果が十分ではないという問題がある。特に、例えばLiS/Pモル比率が3超過となるような、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質は、イオン伝導度が良好であるものの、空気中の水分と硫化物固体電解質中の硫黄原子とが反応して硫化水素が発生しやすい傾向がある。
【0009】
上記実情を鑑み、本開示では、十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる硫化物固体電解質粒子及びその製造方法、並びに、当該硫化物固体電解質粒子を含む電極又は固体電解質層を備える全固体電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の硫化物固体電解質粒子は、構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含み、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質粒子であって、
XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が、0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下であることを特徴とする。
【0011】
本開示の硫化物固体電解質粒子は、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.7±0.5deg、30.2±0.5deg、及び、31.6±0.5degに回折ピークを有するものであってもよい。
【0012】
本開示の硫化物固体電解質粒子の製造方法は、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を製造する方法であって、
硫化物固体電解質材料を準備する工程と、
XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下となるように、前記硫化物固体電解質材料を、所定の水分濃度下で所定時間曝露後、乾燥する工程を有することを特徴とする。
【0013】
本開示の硫化物固体電解質粒子の製造方法においては、前記硫化物固体電解質材料を、曝露雰囲気露点の水分濃度(ppm)と曝露時間(h)との積で表される環境水分量(ppm・h)を3048ppm・h以内で曝露後、乾燥する工程を有するものであってもよい。
【0014】
本開示の全固体電池は、正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置された固体電解質層とを備える全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層の少なくともいずれか一つが、前記硫化物固体電解質粒子を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる硫化物固体電解質粒子及びその製造方法、並びに、当該硫化物固体電解質粒子を含む電極又は固体電解質層を備える全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の硫化物固体電解質粒子の構成の一例を示す概略断面図である。
図2】本開示の全固体電池の発電要素の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.硫化物固体電解質粒子
本開示の硫化物固体電解質粒子は、構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含み、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質粒子であって、
XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が、0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下であることを特徴とする。
【0018】
本開示の硫化物固体電解質粒子は、XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が、0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下であり、粒子内部に比べて、粒子表面の酸素/硫黄元素比率が高く、表面が酸化されているものである。本開示の硫化物固体電解質粒子は、硫化物固体電解質の表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有する態様が挙げられる。
本開示の硫化物固体電解質粒子の一例について図面を参照しながら説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
図1に示すように、本開示の硫化物固体電解質粒子1は、構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含み、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質3の表面が酸化された酸化物層2によって覆われているものが挙げられる。
【0019】
本開示の硫化物固体電解質粒子では、構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含み、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質の表面及び表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率が、前記特定値を満たすように表面を酸化させていることにより、十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる。
本開示の硫化物固体電解質粒子に用いられる、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質は、前述のように、イオン伝導度が良好であるものの、空気中の水分と硫化物固体電解質中の硫黄原子とが反応して硫化水素が発生しやすい傾向がある。例えばLiS/Pモル比率が3超過となるような、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質は、前記Li、P、Sの組成によって、PS 3-ユニット等の他に、S2-ユニットが共存する組成範囲になり、当該S2-ユニットが、中でも水分と反応し易く、硫化水素を発生し易いからと考えられる。
特に、アルジロダイト型の結晶構造を有する硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高い一方で、硫化水素発生量が大きいという課題がある。
それに対して、本開示では、イオン伝導度を更に向上し、且つ、硫化物固体電解質内の硫化水素発生源であるS2-ユニットの量を少なくするために、硫化物固体電解質の構造内に存在するS2-ユニットの硫黄原子をハロゲン原子で置換し、且つ、表面に存在するS2-ユニットの硫黄原子を適切な範囲内で酸素原子に置換している。ハロゲン原子を含むことによって、Li、P、及びSを含み且つハロゲン硫化物固体電解質に比べて、イオン伝導度を向上することができる。しかし、硫化物固体電解質の構造内に存在するS2-ユニットの硫黄原子の全てをハロゲン原子に置換することは、構造保持の点から不可能であるため、構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含む組成にしただけでは、硫化水素の発生の抑制には不十分である。それに対して、本開示では、構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含み、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質の表面に存在するS2-ユニットの硫黄原子を、更に、酸素原子に置換する。硫化物固体電解質の表面を酸化するとイオン伝導度が低下していくが、本開示では、イオン伝導度を良好に保持する適切な範囲内で酸素原子に置換することによって、得られる硫化物固体電解質粒子は、十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる。
【0020】
[酸素/硫黄元素比率]
本開示の硫化物固体電解質粒子は、XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が0.29以上0.81以下である。
前記特定の硫化物固体電解質を含有し、XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が0.29未満であると、表面に存在するS2-ユニットの硫黄原子の酸素原子での置換が十分でないため、硫化水素の発生を十分に抑制できなくなる恐れがある。優れた硫化水素発生抑制効果を得る点からは、本開示の硫化物固体電解質粒子は、XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が0.60以上であることが好ましく、更に0.70以上であることが好ましい。
一方、前記特定の硫化物固体電解質を含有し、XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が0.81超過であると、当該硫化物固体電解質粒子のイオン伝導度が急激に低下する恐れがある。
【0021】
また、本開示の硫化物固体電解質粒子は、XPSにより測定した、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下である。表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置において、酸素/硫黄元素比率が0.29以下であることから、当該硫化物固体電解質粒子のイオン伝導度の低下を抑制でき、良好なイオン伝導度を維持できる。表面の酸素/硫黄元素比率が前記特定の範囲であれば、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率の下限値は特に限定されない。表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率は、通常、硫化物固体電解質粒子表面の酸素/硫黄元素比率より小さく、表面の酸素/硫黄元素比率に対して1/2以下であって良い。表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率は0.00であっても良いが、下限値が0.10程度であっても良い。
【0022】
本開示において、前記酸素/硫黄元素比率はXPS(X線光電子分光法)に基づいて測定される値である。XPSは、例えばXPS装置(ULVAC製、ULVAC-PHI)を用いて測定することができる。
前記XPS装置では、XPSとスパッタとの組み合わせによる深さ方向の分析も可能である。具体的には、一定のスパッタレートでスパッタしながら、XPS測定を行い、スパッタ時間とXPS強度の関係をグラフ化したデプスプロファイルを予め作成し、測定により得られたスパッタレートの値から、表面からの厚さを換算し、その位置での酸素/硫黄元素比率を測定することができる。
【0023】
本開示の硫化物固体電解質粒子が硫化物固体電解質の表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有する態様の場合、通常、酸素/硫黄元素比率は、表面からの深度が進むにつれて連続して減少し、硫化物固体電解質本来の酸素/硫黄元素比率に収束していく。このような硫化物固体電解質の表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有する態様の場合、酸化物層の剥離等の不具合を防止することができる点から好ましい。
【0024】
[硫化物固体電解質]
本開示の硫化物固体電解質粒子には、構成元素としてLi(リチウム)、P(リン)、S(硫黄)、及びハロゲンを含み、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質が用いられる。本開示の硫化物固体電解質粒子としては、LiS、P、及びLiX(ここで、Xはハロゲンからなる群から選択される1種以上の原子)から得られる、LiS-P-LiX系硫化物固体電解質であって、LiS/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質が用いられることが挙げられる。
ハロゲンは、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素)、及びI(ヨウ素)からなる群から選択される1種以上の原子であればよい。ハロゲンとしては、イオン伝導度の点から、I、Br、及び、Clからなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0025】
構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含む硫化物固体電解質としては、前記Li、P、S、及びハロゲン(X)を、LiS、P、及びLiXで換算して、例えば、一般式 a(LiX)・(1-a)(bLiS・(1-b)P)の組成を有するものが挙げられる。なお、aがLiXとLiSとPの合計モルに対するLiXの合計のモル比に該当し、bがLiSとPの合計モルに対するLiSのモル比に該当する。
aとしては、高イオン伝導性が得られる組成範囲の点から、0.1以上0.3以下であることが挙げられ、更に、0.15以上0.25以下であることが挙げられる。
また、bとしては、高イオン伝導性結晶が析出する組成範囲の点から、0.75超過0.95以下であることが挙げられ、更に、0.8以上0.9以下であることが挙げられる。
【0026】
構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含む硫化物固体電解質において、ハロゲンは、1種単独であっても良いし、2種以上含まれてもよい。
中でも、イオン伝導度の点から、構成元素としてLi、P、S、及びClを含む硫化物固体電解質であることが好ましく、LiS、P、及びLiClから得られる、LiS-P-LiCl系硫化物固体電解質が用いられることが挙げられる。
なお、ハロゲンが2種以上含まれる場合、2種以上の混合比率は限定されるものではない。前記と同様にLi、P、S、及びハロゲン(X)を、LiS、P、及びLiXで換算して、例えばLiCl及びLiBrを混合して用いる場合、cLiCl・(1-c)LiBrにおいて、cとしては、高イオン伝導性が得られる組成範囲の点から、0.0以上1.0以下であることが挙げられ、更に、0.5以上1.0以下であることが挙げられる。
【0027】
本開示の硫化物固体電解質粒子に用いられる硫化物固体電解質は、非晶質であっても良いし、少なくとも一部に結晶構造を含むものであっても良い。硫化物固体電解質粒子中の硫化物固体電解質の結晶状態は、例えば、硫化物固体電解質粒子に対してCuKα線を使用した粉末X線回折測定を行うことにより確認することができる。
本開示の硫化物固体電解質粒子に用いられる硫化物固体電解質は、イオン伝導度の点から、少なくとも一部に結晶構造を含むことが好ましく、例えば、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θ=25.7±0.5deg、30.2±0.5deg、及び、31.6±0.5degに回折ピークを有することが好ましい。
【0028】
本開示の硫化物固体電解質粒子に用いられる硫化物固体電解質は、構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含む硫化物固体電解質であるが、更に、他の元素を含んでいても良い。他の元素としては、例えば、酸素の他、炭素、水素、ジルコニア等が挙げられる。
本開示の硫化物固体電解質粒子に用いられる硫化物固体電解質は、酸素を除いて、Li、P、S、及びハロゲンで、構成元素の100モル%を占めるものであっても良い。
硫化物固体電解質における各元素のモル比は、原料における各元素の含有量を調製することにより制御できる。また、硫化物固体電解質における各元素のモル比や組成は、例えば、ICP発光分析法で測定することができる。
【0029】
[硫化物固体電解質粒子]
本開示における硫化物固体電解質粒子の形状としては、例えば真球状または楕円球状を挙げることができる。また硫化物固体電解質粒子が粒子形状である場合、その平均粒径は例えば0.1μm~100μmの範囲内であることが挙げられる。平均粒径は、0.5μm~20μmの範囲内であっても良く、0.5μm~10μmの範囲内であっても良い。
硫化物固体電解質粒子の平均粒径は、例えば、SEM等の電子顕微鏡を用いた画像解析に基づいて測定された値を用いることができる。
【0030】
本開示の硫化物固体電解質粒子の25℃におけるリチウムイオン伝導度は、下限が2.1mS/cm以上、好ましくは2.4mS/cm以上であり、上限は、特に限定されないが、3.4mS/cm以下であってもよい。
【0031】
[硫化物固体電解質粒子の製造方法]
本開示における硫化物固体電解質粒子の製造方法としては、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を得ることができる方法であれば、特に限定されるものではない。本開示の課題を解決する点から、硫化物固体電解質材料を準備する工程と、当該硫化物固体電解質材料の表面を前記特定の酸素/硫黄元素比率となるように酸化させる工程を有することが好ましい。
前記本開示の硫化物固体電解質粒子を製造する方法としては、例えば、下記の本開示の硫化物固体電解質粒子の製造方法で製造することが好適に用いられる。
【0032】
本開示の硫化物固体電解質粒子の製造方法は、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を製造する方法であって、
硫化物固体電解質材料を準備する工程と、
XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下となるように、前記硫化物固体電解質材料を、所定の水分濃度下で所定時間曝露後、乾燥する工程を有する。
【0033】
(硫化物固体電解質材料の準備)
本開示における硫化物固体電解質粒子に用いられる硫化物固体電解質材料は、本開示の課題を解決する点から、LiS、P、及びLiX(ここで、Xはハロゲンからなる群から選択される1種以上の原子)を含む原料組成物から製造されることが好ましい。前記原料組成物を、非晶質化して硫化物固体電解質ガラスとすることが好ましく、更に当該硫化物固体電解質ガラスを、結晶化しても良い。
【0034】
原料組成物を非晶質化する方法としては、例えば、メカニカルミリングおよび溶融急冷法等を挙げることができ、中でもメカニカルミリングが好ましい。常温での処理が可能であり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
また、溶融急冷法は、反応雰囲気や反応容器に制限がある。一方、メカニカルミリングは、目的とする組成の硫化物固体電解質ガラスを簡便に合成できるという利点がある。
メカニカルミリングは、乾式メカニカルミリングであっても良く、湿式メカニカルミリングであっても良いが、後者が好ましい。容器等の壁面に原料組成物が固着することを防止でき、より非晶質性の高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができるからである。
【0035】
メカニカルミリングは、原料組成物を、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えばボールミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルが好ましく、特に遊星型ボールミルが好ましい。所望の硫化物固体電解質ガラスを効率良く得ることができるからである。
【0036】
また、メカニカルミリングの各種条件は、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができるように設定する。例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、容器に原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。一般的に、回転数が大きいほど、硫化物固体電解質ガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物から硫化物固体電解質ガラスへの転化率は高くなる。
遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば200rpm~500rpmの範囲内、中でも250rpm~400rpmの範囲内であることが好ましい。
遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間~100時間の範囲内、中でも1時間~50時間の範囲内であることが好ましい。
ボールミルに用いられる容器および粉砕用ボールの材料としては、例えばZrOおよびAl等を挙げることができる。
粉砕用ボールの径は、例えば1mm~20mmの範囲内である。
【0037】
湿式メカニカルミリングに用いられる液体としては、原料組成物との反応で硫化水素を発生しない性質を有するものであることが好ましい。硫化水素は、液体の分子から解離したプロトンが、原料組成物や硫化物固体電解質ガラスと反応することによって発生し得る。そのため、上記液体は、硫化水素が発生しない程度の非プロトン性を有していることが好ましい。また、非プロトン性液体は、通常、極性の非プロトン性液体と、無極性の非プロトン性液体とに大別することができる。
極性の非プロトン性液体としては、特に限定されるものではないが、例えばアセトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類等を挙げることができる。
また、無極性の非プロトン性液体としては、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等の鎖状エーテル類;テトロヒドロフラン等の環状エーテル類;クロロホルム、塩化メチル、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル類;酢酸エチル等のエステル類;フッ化ベンゼン、フッ化ヘプタン、2,3-ジハイドロパーフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン等のフッ素系化合物を挙げることができる。なお、上記液体の添加量は、特に限定されるものではなく、所望の硫化物固体電解質を得ることができる程度の量であれば良い。
【0038】
また、得られた硫化物固体電解質ガラスを更に粉砕して、小粒径ガラスとしても良い。
小粒径ガラスにする場合、前記メカニカルミリングの場合と同様に、容器に得られた硫化物固体電解質ガラスと粉砕用ボールとを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。
小粒径ガラスとする場合の粉砕用ボールの径は、例えば0.3mm~1.0mmの範囲内である。
小粒径ガラスにする場合も、湿式メカニカルミリングとなるように、前記湿式メカニカルミリングに用いられる液体の存在下で、粉砕することが挙げられる。
【0039】
前記得られた硫化物固体電解質ガラス乃至小粒径ガラスを、結晶化しても良い。
結晶化する工程としては、前記得られた硫化物固体電解質ガラス乃至小粒径ガラスを、当該ガラスの結晶化温度以上で加熱することにより結晶化する工程が挙げられる。
【0040】
硫化物固体電解質ガラス乃至小粒径ガラスの結晶化温度(Tc)は、熱分析測定(DTA)により測定することができる。
加熱温度は、前記硫化物固体電解質ガラス乃至小粒径ガラスの熱分析測定により観測される結晶化温度(Tc)よりも高い温度であればよく、通常、195℃以上であり、200℃以上が挙げられる。一方、加熱温度の上限は特に限定されないが、結晶化温度(Tc)+20℃までであってよい。
加熱時間は、所望の結晶化度が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば1分間~24時間の範囲内であり、中でも、1分間~10時間の範囲内が挙げられる。
また、加熱は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
加熱処理の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。
加熱工程を経て得られる硫化物固体電解質は、加熱処理によって、ガラスが完全に結晶化していてもよく、完全に結晶化されずにガラスが残留して含まれていてもよい。
【0041】
(硫化物固体電解質材料の表面の水分曝露)
本開示の製造方法においては、XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下となるように、前記硫化物固体電解質材料を、所定の水分濃度下で所定時間曝露して、硫化物固体電解質材料表面を酸化し、酸化物層を形成する工程を有する。
【0042】
所定の水分濃度下で所定時間曝露する条件は、前記酸素/硫黄元素比率が前記特定の範囲内になるように適宜調節すればよい。予備的な実験として、所定の水分濃度下で所定時間曝露する工程、および後述する乾燥工程を行い、所望の量の上記酸化物層が形成されるような、条件を決定することができる。
【0043】
曝露雰囲気露点としては、例えば-80℃以上0℃以下が挙げられ、-70℃以上であって良く、更に、-40℃以下であって良い。
前記曝露雰囲気露点の水分濃度(体積分率)としては、例えば、前記露点-80℃以上0℃以下に対応する0.5ppm以上6032ppm以下が挙げられ、-70℃以上に対応する2ppm以上であってよく、更に、-40℃以下に対応する127ppm以下であって良い。
曝露時の水分濃度が高すぎると、PS 3-ユニットまで酸化されてしまうため、イオン伝導度低下の恐れがあるが、曝露雰囲気の水分濃度を前記範囲とすると、PS 3-ユニットより優先してS2-ユニットが酸化されるため、イオン伝導度を維持できる点から好ましい。
【0044】
所定の水分濃度下で曝露する時間は、水分濃度によって適宜調整されれば良いが、例えば、0.5時間以上96時間以下が挙げられ、製造効率の点から、48時間以下に調整することが好ましく、24時間以下に調整することが好ましい。
【0045】
所定の水分濃度下で所定時間曝露する条件は、前記酸素/硫黄元素比率が前記特定の範囲内になるように適宜調節すればよいが、例えば、曝露雰囲気露点の水分濃度(ppm)と曝露時間(h)との積で表される環境水分量(ppm・h)としては、3048ppm・h以内が挙げられる。
【0046】
前記硫化物固体電解質材料を所定の水分濃度下で曝露する方法としては、例えば、前記のように雰囲気露点を調節した、Arグローブボックス、ドライエアグローブボックス、ドライルーム等の中で、静置することが挙げられる。
【0047】
(乾燥工程)
当該乾燥工程は、前記表面の水分曝露工程により酸化されて、硫化物固体電解質材料表面に形成した酸化物層から水分を除去し、水分を含有しない酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子とする工程である。
【0048】
本工程に用いられる乾燥方法は、上記水分を含有しない酸化物層を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、通常用いられる方法を用いることができる。具体的には、上記硫化物固体電解質材料表面を、所定の雰囲気、温度、時間にて乾燥させる方法等が挙げられる。
例えば、予備的な実験として、上述した表面の水分曝露工程、および乾燥工程を行い、所望の量の上記酸化物層が形成される、雰囲気、温度および時間等の乾燥条件を決定することができる。
【0049】
上記乾燥させる際の雰囲気としては、水分含有酸化物層を乾燥して水分を除去することができ、水分を含有しない酸化物層を形成することができるものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、加熱乾燥や、真空雰囲気等を挙げることができ、素早く物理吸着水の脱水ができる点から、加熱乾燥が好ましい。
【0050】
水分を加熱乾燥する方法としては、例えば、100℃以上150℃以下程度の温度で加熱する方法が挙げられる。
加熱時間は、水分を除去することができる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば1分間~24時間の範囲内であり、中でも、1分間~10時間の範囲内が挙げられる。
また、加熱は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
加熱乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、ホットプレート、小型乾燥炉、小型真空加熱乾燥炉等を用いる方法を挙げることができる。
【0051】
[硫化物固体電解質粒子の用途]
本開示の硫化物固体電解質粒子の用途としては、例えば、全固体電池に用いることが挙げられる。全固体電池の種類としては、全固体リチウム電池、全固体リチウムイオン電池、全固体マグネシウム電池、全固体ナトリウム電池および全固体カルシウム電池等を挙げることができ、中でも全固体リチウム電池、全固体リチウムイオン電池、および全固体ナトリウム電池が好ましく、特に全固体リチウム電池、および全固体リチウムイオン電池が好ましい。
【0052】
2.全固体電池
本開示の全固体電池は、正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に配置された固体電解質層とを備える全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層の少なくともいずれか一つが、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有することを特徴とするものである。
【0053】
図2は、本開示の全固体電池の発電要素の一例を示す模式図である。図2に示される発電要素100は、正極層11と、負極層12と、正極層11および負極層12の間に配置された固体電解質層13とを有し、正極層11には、正極活物質20および硫化物固体電解質粒子1が含有され、これらが均一に混合されている。
【0054】
図2において、全固体電池の充電時には、例えば、正極層11の正極活物質20からリチウムイオンが引き抜かれ、このリチウムイオンが硫化物固体電解質粒子1および固体電解質層13を伝って負極層12へと到達する。これに対し、全固体電池の放電時には、負極層12から放出されたリチウムイオンが、固体電解質層13を伝って、正極活物質20へと達する。通常、全固体電池の充放電時には、正極活物質と硫化物固体電解質材料との界面をリチウムイオンが移動するため、全固体電池の高出力化を図るにはイオン伝導度を向上することが重要である。
図2においては、前記硫化物固体電解質粒子1の表面が所定の範囲で酸化されていることにより、正極活物質20と上記硫化物固体電解質粒子とが十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる。
なお、上記説明では、正極層が前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有する場合を例示したが、本開示は上記形態に限定されるものではない。
例えば、固体電解質層13が硫化物固体電解質粒子1を含有していても良いし、負極層12が負極活物質と前記本開示の硫化物固体電解質粒子1を含有していても良い。
本開示の全固体電池においては、十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制する点から、前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層のいずれにも、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有する態様であってもよい。
以下、本開示の全固体電池について各構成に分けて説明する。
【0055】
[正極層]
正極層は少なくとも正極活物質及び固体電解質を含有し、必要に応じ、導電材、及び、結着剤を含有する。前記固体電解質としては、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有することが、十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる点から好ましい。
正極層の固体電解質として、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有する場合、正極活物質としては、当該硫化物固体電解質粒子の表面が酸化されており、酸化されていない場合に比べて充放電サイクル後の抵抗増加率を抑制可能である点から、酸化物正極活物質が用いられることが好ましい。
酸化物正極活物質としては、例えば、一般式Li(Mは遷移金属元素であり、x=0.02~2.2、y=1~2、z=1.4~4)で表される正極活物質を挙げることができる。上記一般式において、Mは、Co、Mn、Ni、V、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられ、Co、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。このような酸化物正極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O、LiFeSiO、LiMnSiO等を挙げることができる。また、上記一般式Li以外の正極活物質としては、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型正極活物質を挙げることができる。
正極層における正極活物質としては、酸化物正極活物質以外の従来公知の正極活物質を用いても良い。
正極活物質の形状は特に限定されず、粒子状、板状等が挙げられる。
正極層における正極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば10質量%~99質量%の範囲内が挙げられ、20質量%~90質量%の範囲内であってもよく、40質量%~85質量%の範囲内であってもよい。
【0056】
正極層の固体電解質として、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有する場合、正極層における本開示の硫化物固体電解質粒子の含有量は、特に限定されないが、例えば1質量%~80質量%の範囲内、中でも5質量%~70質量%の範囲内、特に10質量%~50質量%の範囲内であってもよい。
正極層に、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有しない場合、固体電解質としては、後述の固体電解質層において例示した固体電解質を適宜選択して用いても良い。正極層に前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有しない場合の固体電解質の含有量は、前記硫化物固体電解質粒子の含有量と同様であって良い。
【0057】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素材料、カーボンファイバー等の繊維状炭素、及び、金属材料等を挙げることができる。
正極層における導電材の含有量は、特に限定されないが、例えば0質量%~10質量%の範囲内、中でも1質量%~5質量%の範囲内であってもよい。
【0058】
結着剤としては、特に限定されず、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。
正極層における結着剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、0質量%~20質量%の範囲内、中でも0.1質量%~10質量%の範囲内であってもよい。
【0059】
正極層の厚さは、特に限定されないが、例えば、10~250μm、中でも20~200μmであってもよい。
【0060】
[負極層]
負極層は少なくとも負極活物質及び固体電解質を含有し、必要に応じ、導電材、及び、結着剤を含有する。前記固体電解質としては、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有することが、十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる点から好ましい。
負極層の固体電解質として、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有する場合、負極活物質としては、当該硫化物固体電解質粒子の表面が酸化されており、酸化されていない場合に比べて充放電サイクル後の抵抗増加率を抑制可能である点から、酸化物負極活物質が用いられることが好ましい。
酸化物負極活物質としては、例えば、スピネル構造を有する活物質が挙げられ、具体的には、LiTi12、LiMn、LiMn12等を挙げることができる。
負極層における負極活物質としては、酸化物負極活物質以外の従来公知の負極活物質を用いても良い。従来公知の負極活物質としては、例えば、Li金属、グラファイト、Si金属、Si合金等が挙げられる。
負極活物質の形状は特に限定されず、粒子状、板状等が挙げられる。
【0061】
負極層における負極活物質、前記本開示の硫化物固体電解質粒子及び固体電解質の含有量はそれぞれ、前記正極層における正極活物質、前記本開示の硫化物固体電解質粒子及び固体電解質の含有量と同様であって良い。
【0062】
負極層における導電材及び結着剤、及びそれらの含有量は、正極層における導電材及び結着剤、及びそれらの含有量と同様であって良い。
【0063】
[固体電解質層]
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、必要に応じて結着剤等を含有していても良い。
固体電解質層に用いられる固体電解質としては、酸化物系固体電解質材料、及び、硫化物系固体電解質材料等が挙げられるが、中でも硫化物固体電解質材料であることが、リチウムイオン伝導度が高い点から好ましい。
固体電解質層の固体電解質としては、前記本開示の硫化物固体電解質粒子を含有することが、十分なイオン伝導度を有し、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる点から好ましい。
【0064】
前記本開示の硫化物固体電解質粒子とは異なる硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiI-LiO-LiS-P、LiBr-LiI-LiS-P、LiS-P等が挙げられる。
具体的には、Li11、LiPS、Li、Li13GeP16、Li10GeP12、15LiBr・10LiI・75(0.75LiS・0.25P)、70(0.06LiO・0.69LiS・0.25P)・30LiI等が挙げられる。なお、組成はモル表記である。
前記本開示の硫化物固体電解質粒子とは異なる硫化物系固体電解質材料としては、前記本開示の硫化物固体電解質粒子において、表面を酸化する工程を経ていない、表面の酸素濃度が前記本開示の硫化物固体電解質粒子の範囲を満たさないものを用いても良い。
【0065】
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。
固体電解質層における固体電解質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば50質量%以上であり、100質量%であってもよいが、70質量%~99.99質量%の範囲内であってもよく、90質量%~99.9質量%の範囲内であってもよい。
【0066】
必要に応じて含有していても良い結着剤としては、正極層における結着剤と同様であって良い。
固体電解質層における結着剤の含有量は、特に限定されないが、例えば0質量%~20質量%の範囲内、中でも0.1質量%~10質量%の範囲内であってもよい。
【0067】
上記固体電解質層の膜厚としては、特に限定されるものではなく、通常の全固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質膜の厚さと同様の厚さのものを用いることができる。
【0068】
[正極集電体および負極集電体]
図2には示されていないが、本開示の全固体電池には、通常、正極集電体および負極集電体が用いられる。前記正極集電体とは、上記正極層の集電を行うものである。上記正極集電体としては、正極集電体としての機能を有するものであれば特に限定されるものではない。上記正極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばSUS(ステンレス鋼)、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、銅、およびカーボン等を挙げることができる。前記正極集電体は、緻密金属集電体であっても良く、多孔質金属集電体であっても良い。
【0069】
また、前記負極集電体とは、上記負極層の集電を行うものである。上記負極集電体としては、負極集電体としての機能を有するものであれば特に限定されるものではない。上記負極集電体の材料としては、前記正極集電体と同様のものであってよい。
【0070】
また、本開示に用いられる上記正極集電体および上記負極集電体は、電池ケースの機能を兼ね備えたものであっても良い。具体的には、SUS製の電池ケースを用意し、その一部を集電部として用いる場合等を挙げることができる。
【0071】
[その他の構成]
全固体電池は、必要に応じ、正極、負極、及び、固体電解質層を収容する外装体を備える。
外装体の形状としては、特に限定されないが、ラミネート型等を挙げることができる。
外装体の材質は、電解質に安定なものであれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び、アクリル樹脂等の樹脂等が挙げられる。
【0072】
全固体電池としては、全固体リチウム電池、全固体リチウムイオン電池、全固体マグネシウム電池、全固体ナトリウム電池および全固体カルシウム電池等を挙げることができ、中でも全固体リチウム電池、全固体リチウムイオン電池、および全固体ナトリウム電池が好ましく、特に全固体リチウム電池、および全固体リチウムイオン電池が好ましい。
全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0073】
また、本開示の全固体電池の製造方法は、上述した全固体電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な全固体電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。全固体電池の製造方法の一例としては、正極層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。
【実施例
【0074】
(比較例1)
LiS(フルウチ化学株式会社)0.5503gとP(アルドリッチ)0.8874gとLiCl(高純度化学)0.2850gとを、5mm径のジルコニアボールの入ったジルコニアポット(45ml)に投入し、その後脱水ヘプタン(関東化学株式会社)を4g入れ蓋をした。これを遊星型ボールミル装置(Fritsch製 P-7)にセットし、20時間メカニカルミリングすることで硫化物固体電解質ガラスを得た。
前記硫化物固体電解質ガラスをカーボンコート付き石英管に入れて真空封入することでアンプルを作製した。これを500℃で3時間加熱させることによって硫化物固体電解質粒子C1を得た。硫化物固体電解質粒子C1のLi/Pモル比率は3.8であった。
得られた硫化物固体電解質粒子C1の表面及び表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率は、後述のXPS測定により行った。結果を表1に示す。
なお、得られた硫化物固体電解質粒子C1について、後述の粉末X線回折測定を行ったところ、2θ=25.7±0.5deg、30.2±0.5deg、及び、31.6±0.5degに回折ピークを有していた。
【0075】
(実施例1)
硫化物固体電解質材料として、比較例1と同様にして、硫化物固体電解質粒子C1を調製した。
前記硫化物固体電解質粒子C1の100mgを、露点-70℃雰囲気のArグローブボックス中で24時間曝露した。曝露後の硫化物固体電解質粒子を回収し、100℃で1時間乾燥させることにより、実施例1の硫化物固体電解質粒子1を製造した。硫化物固体電解質粒子1のLi/Pモル比率は3.8であった。
得られた硫化物固体電解質粒子1の表面及び表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率は、後述のXPS測定により行った。結果を表1に示す。
なお、得られた硫化物固体電解質粒子1について、後述の粉末X線回折測定を行ったところ、2θ=25.7±0.5deg、30.2±0.5deg、及び、31.6±0.5degに回折ピークを有していた。
【0076】
(実施例2)
硫化物固体電解質材料として、比較例1と同様にして、硫化物固体電解質粒子C1を調製した。
前記硫化物固体電解質粒子C1の100mgを、露点-50℃雰囲気のドライエアグローブボックス中で24時間曝露した。曝露後の硫化物固体電解質粒子を回収し、100℃で1時間乾燥させることにより、実施例2の硫化物固体電解質粒子2を製造した。硫化物固体電解質粒子2のLi/Pモル比率は3.8であった。
得られた硫化物固体電解質粒子2の表面及び表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率は、後述のXPS測定により行った。結果を表1に示す。
なお、得られた硫化物固体電解質粒子2について、後述の粉末X線回折測定を行ったところ、2θ=25.7±0.5deg、30.2±0.5deg、及び、31.6±0.5degに回折ピークを有していた。
【0077】
(実施例3)
硫化物固体電解質材料として、比較例1と同様にして、硫化物固体電解質粒子C1を調製した。
前記硫化物固体電解質粒子C1の100mgを、露点-40℃雰囲気のドライエアグローブボックス中で24時間曝露した。曝露後の硫化物固体電解質粒子を回収し、100℃で1時間乾燥させることにより、実施例3の硫化物固体電解質粒子3を製造した。硫化物固体電解質粒子3のLi/Pモル比率は3.8であった。
得られた硫化物固体電解質粒子3の表面及び表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率は、後述のXPS測定により行った。結果を表1に示す。
なお、得られた硫化物固体電解質粒子3について、後述の粉末X線回折測定を行ったところ、2θ=25.7±0.5deg、30.2±0.5deg、及び、31.6±0.5degに回折ピークを有していた。
【0078】
(比較例2)
硫化物固体電解質材料として、比較例1と同様にして、硫化物固体電解質粒子C1を調製した。
前記硫化物固体電解質粒子C1の100mgを、露点-40℃雰囲気のドライエアグローブボックス中で48時間曝露した。曝露後の硫化物固体電解質粒子を回収し、100℃で1時間乾燥させることにより、比較例2の硫化物固体電解質粒子C2を製造した。硫化物固体電解質粒子C2のLi/Pモル比率は3.8であった。
得られた硫化物固体電解質粒子C2の表面及び表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率は、後述のXPS測定により行った。結果を表1に示す。
なお、得られた硫化物固体電解質粒子C2について、後述の粉末X線回折測定を行ったところ、2θ=25.7±0.5deg、30.2±0.5deg、及び、31.6±0.5degに回折ピークを有していた。
【0079】
[評価]
(1)酸素/硫黄元素比率測定
実施例および比較例で得られた各硫化物固体電解質粒子の表面の酸素/硫黄元素比率と、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率をそれぞれXPSにより測定した。
XPS測定の条件は、以下のとおりである。
XPS測定装置:ULVAC製、ULVAC-PHI
<XPSの測定条件>
測定光源:Al(モノクロメータ)
分析エリア:200μmφ
パスエネルギー:(wide scan)187eV、(narrow scan)46eV
エネルギーStep:(wide scan)0.8eV、(narrow scan)0.1eV
<スパッタ条件>
加速電圧・電流:3.0kV、20mA
AMPL:(3mm×3mm)
スパッタレート:3.9nm/min(SiO換算)
深さ方向に各元素分布をとり、最表層のO/S元素比と30nmエッチングした時の内部のO/S元素比を求めた。30nm深さについてはSiエッチング速度が3.8nm/minであるところから算出した。
【0080】
(2)X線結晶回折測定
実施例および比較例で得られた各硫化物固体電解質粒子のXRDスペクトルは、粉末X線回折装置(商品名:RINT-UltimaIII、株式会社リガク製)によるCuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得た。なお、スキャンレートは1°/分、回折角は2θ=10~40°の範囲で測定した。
【0081】
(3)イオン伝導度
実施例および比較例で得られた各硫化物固体電解質粒子100mgを秤量し、ペレット成型機にて7MPaの圧力で仮プレスを行って、固体電解質ペレットを作製した。次に、当該固体電解質ペレットの両面に厚さ21μmのカーボンコート箔を設置した。当該カーボンコート箔で挟まれた固体電解質ペレットの両面を、更にステンレス(SUS)製のピンで挟んだ状態で、40MPaの圧力でコールド本プレスし、6Nのトルクでボルト締めして、イオン伝導度測定用セルとした。
イオン伝導度測定用セルを、交流インピーダンス測定装置(商品名:Solatron1260、ソーラトロン社製)にセットし、印加電圧10mV、測定周波数域0.01~1MHzの条件で、交流インピーダンス測定(25℃)を行った。
イオン伝導度は、交流インピーダンス測定によって得られた抵抗とペレット厚みから算出した。
【0082】
(4)硫化水素の発生量測定
露点-40℃のドライエアグローブボックス中に1.5Lのデシケータを用意し、各硫化物固体電解質粒子100mgと硫化水素センサーを入れ、硫化水素発生挙動を計測した。曝露30分後の硫化水素濃度と硫化物固体電解質粒子の質量から、単位質量当たりの硫化水素発生量(ml/g)を算出した。
【0083】
[結果]
下記表1は、実施例1~3及び比較例1~2の各硫化物固体電解質粒子の水分曝露条件と、各硫化物固体電解質粒子の表面及び表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率とを併せて比較した表である。
下記表2は、実施例1~3及び比較例1~2の各硫化物固体電解質粒子の表面及び表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率と、イオン伝導度、及び硫化水素の発生量とを併せて比較した表である。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示すように、所定の水分濃度下で所定時間曝露を行わず、表面の位置の酸素/硫黄元素比率が本開示で特定した酸素/硫黄元素比率よりも小さい硫化物固体電解質粒子を用いた比較例1では、硫化水素発生量が多く、抑制効果は不十分であった。また、表面及び表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率が本開示で特定した酸素/硫黄元素比率よりも多い硫化物固体電解質粒子を用いた比較例2では、イオン伝導度が極端に低下してしまった。
それに対して、構成元素としてLi、P、S、及びハロゲンを含み、Li/Pモル比率が3超過である硫化物固体電解質粒子であって、XPSにより測定した表面の酸素/硫黄元素比率が、0.29以上0.81以下であり、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率が0.29以下である、硫化物固体電解質粒子を用いた実施例1~3では、イオン伝導度の低下が抑制され、十分なイオン伝導度を有することが実証された。
従って、実施例1~3の硫化物固体電解質粒子を全固体電池に用いることにより、イオン伝導度を向上でき、且つ、硫化水素の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 硫化物固体電解質粒子
2 酸化物層
3 硫化物固体電解質
11 正極層
12 負極層
13 固体電解質層
20 正極活物質
100 発電要素
図1
図2