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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】過給機付エンジンのブローバイガス装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20221220BHJP
   F01M 13/04 20060101ALI20221220BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20221220BHJP
   F02B 33/36 20060101ALI20221220BHJP
   F02B 39/04 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F01M13/00 M
F01M13/00 G
F01M13/00 J
F01M13/04 E
F02F7/00 P
F02B33/36
F02B39/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019007967
(22)【出願日】2019-01-21
(65)【公開番号】P2019210930
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2018106858
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】山谷 光隆
【審査官】池田 匡利
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-031350(JP,A)
【文献】特開平09-324640(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0063942(KR,A)
【文献】欧州特許出願公開第01788206(EP,A2)
【文献】特許第3470419(JP,B2)
【文献】特開平06-108818(JP,A)
【文献】米国特許第04599862(US,A)
【文献】英国特許出願公告第00598131(GB,A)
【文献】特開2012-036829(JP,A)
【文献】特開2007-309257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F01M 13/04
F02F 7/00
F02B 33/36
F02B 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路におけるスロットルバルブの下流部分に駆動式過給機を備えた過給機付エンジンのブローバイガス装置であって、
PCVバルブと、
前記スロットルバルブと前記駆動式過給機との間に位置する前記吸気通路の部分と、エンジン本体との間に接続されていて、前記エンジン本体から排出されるブローバイガスを、前記PCVバルブを介して前記吸気通路に導入するブローバイガス通路と、
を備え、
前記駆動式過給機は、
ロータ室が内部に形成された過給機本体と、
前記過給機本体に設置された軸受部に軸支された回転軸と、
前記回転軸と一体に設けられていて、前記ロータ室の内部に回転可能に配置された過給ロータと、
を有し、
前記過給機本体は、前記軸受部に通ずる隙間からなる空間部を有し、
前記空間部が、前記PCVバルブよりも上流側に連通する連通路に接続されている、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、過給機付エンジンのブローバイガス装置において、
前記ブローバイガスは、前記エンジン本体の内部に設けられたオイルセパレータ室を通じて排出され、
前記連通路が、前記オイルセパレータ室に連通するとともに、前記空間部への前記ブローバイガスの流入量を抑制する流量抑制部を有している、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項3】
請求項2に記載の、過給機付エンジンのブローバイガス装置において、
前記連通路が更に、前記オイルセパレータ室への前記ブローバイガスの逆流を抑制する逆流抑制部を有している、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項4】
請求項3に記載の、過給機付エンジンのブローバイガス装置において、
前記逆流抑制部は逆止弁である、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項5】
吸気通路におけるスロットルバルブの下流部分に駆動式過給機を備えた過給機付エンジンのブローバイガス装置であって、
PCVバルブと、
前記スロットルバルブと前記駆動式過給機との間に位置する前記吸気通路の部分と、エンジン本体との間に接続されていて、前記エンジン本体から排出されるブローバイガスを、前記PCVバルブを介して前記吸気通路に導入するブローバイガス通路と、
を備え、
前記駆動式過給機は、
ロータ室が内部に形成された過給機本体と、
前記駆動式過給機の吸入側および吐出側の各々に設置された一対の軸受部と、
前記一対の軸受部に軸支された回転軸と、
前記回転軸と一体に設けられていて、前記ロータ室の内部に回転可能に配置された過給ロータと、
を有し、
前記過給機本体は、
吸入側の前記軸受部に通ずる隙間からなる吸入側空間部と、
吐出側の前記軸受部に通ずる隙間からなる吐出側空間部と、
を有し、
前記吸入側空間部が、前記PCVバルブよりも上流側に連通する第1連通路に接続され、
前記吐出側空間部が、前記ブローバイガス通路における前記PCVバルブの下流部分から分岐した第2連通路に接続されている、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項6】
請求項5に記載の、過給機付エンジンのブローバイガス装置において、
前記過給機本体は、前記軸受部と前記ロータ室との間を塞ぐシール材を有し、
前記吸入側空間部および前記吐出側空間部の各々は、前記シール材に隣接して前記回転軸の周囲に形成された環状の空間である、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項7】
請求項6に記載の、過給機付エンジンのブローバイガス装置において、
前記吸入側空間部は、前記過給機本体に設けられた環状段部と前記シール材とによって形成されている、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の、過給機付エンジンのブローバイガス装置において、
前記吐出側空間部は、前記シール材と該シール材に対向して配置されたシール材との間に形成されている、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項9】
請求項6に記載の、過給機付エンジンのブローバイガス装置において、
前記ブローバイガスは、前記エンジン本体の内部に設けられたオイルセパレータ室を通じて排出され、
前記第1連通路が、前記オイルセパレータ室に連通するとともに、前記吸入側空間部への前記ブローバイガスの流入量を抑制する流量抑制部を有している、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【請求項10】
請求項9に記載の、過給機付エンジンのブローバイガス装置において、
前記第1連通路が更に、前記オイルセパレータ室への前記ブローバイガスの逆流を抑制する逆流抑制部を有している、過給機付エンジンのブローバイガス装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、過給機付エンジンのブローバイガス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、過給機付エンジンの吸気装置が開示されている。そこには、ブローバイガスを導入するブローバイガス導入部をスーパーチャージャバイパス通路の分岐部と接続する構成が記載されている。
【0003】
一般に、駆動式過給機は、過給機本体の内部に一対の過給ロータを備えている。これら過給ロータは、ベアリングによる複数の軸受部を介して回転可能に支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平04-203213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、駆動式過給機の上流側の吸気通路に、排気ガスからなるEGR(排気再循環:Exhaust Gas Recirculation)ガスを導入する。EGRガスには、煤等のダストおよび/または凝縮水が混入する。従って、ダスト等が、過給機の軸受部と、これらに隣接して配置されるシール材に悪影響を与えるおそれがある。
【0006】
このため、各軸受部および各シール材の潤滑性、並びに、これらのシール性の確保が重要となっている。
【0007】
そこで、開示する技術の主たる目的は、過給機の軸受部およびシール材の潤滑性を向上することにある。更には、過給機の軸受部のダスト等の混入を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示する技術は、吸気通路におけるスロットルバルブの下流部分に駆動式過給機を備えた過給機付エンジンのブローバイガス装置(単にブローバイガス装置ともいう)に関する。
【0009】
前記ブローバイガス装置は、PCVバルブと、前記スロットルバルブと前記駆動式過給機との間に位置する前記吸気通路の部分と、エンジン本体との間に接続されていて、前記エンジン本体から排出されるブローバイガスを、前記PCVバルブを介して前記吸気通路に導入するブローバイガス通路と、を備える。なお、PCV(Positive Crankcase Ventilation)バルブは、ブローバイガスの流量を可変する公知のバルブである。
【0010】
前記駆動式過給機は、ロータ室が内部に形成された過給機本体と、前記過給機本体に設置された軸受部に軸支された回転軸と、前記回転軸と一体に設けられていて、前記ロータ室の内部に回転可能に配置された過給ロータと、を有している。前記過給機本体は、前記軸受部に通ずる隙間からなる空間部を有している。そして、前記空間部が、前記ブローバイガス通路における前記PCVバルブの下流部分から分岐した連通路に接続されている。
【0011】
このブローバイガス装置によれば、ブローバイガス通路におけるPCVバルブの下流部分から連通路が分岐しており、その連通路が、駆動式過給機の軸受部の近傍に設けられた空間部に接続されている。軸受部はロータ室に通じており、空間部はその軸受部と通じている。
【0012】
このため、駆動式過給機が非過給の時には、ロータ室が加圧されないので、空間部の内圧も相対的に低くなる。従って、ブローバイガス通路および連通路を通じて、空間部にブローバイガスが導入される。ブローバイガスは、エンジンの燃焼室から漏れ出すガスを意味する。そのため、ブローバイガスは、オイルミストを含む。ブローバイガスが含むオイルミストにより、軸受部(シール材)の潤滑性が向上する。
【0013】
一方、駆動式過給機が過給している時には、ロータ室が加圧される。そのため、駆動式過給機の空間部は内圧が高くなる。空間部の内圧が相対的に高くなると、軸受部にダスト等が混入しても、連通路を通じてブローバイガス通路に吸い出される。従って、軸受部のダスト等の混入を抑制できる。
【0014】
前記ブローバイガス装置はまた、前記過給機本体は、前記軸受部と前記ロータ室との間の隙間を塞ぐシール材を有し、前記空間部は、前記シール材にと隣接して前記回転軸の周囲に形成された環状の空間である、としてもよい。
【0015】
これによれば、ブローバイガスが含むオイルミストは、環状の空間からなる空間部に供給される。従って、シール材および軸受部の潤滑性が向上する。シール性も向上する。空間部の内圧が相対的に高くなれば、軸受部に混入したダスト等は、ブローバイガス通路に吸い出される。従って、過給機の軸受部のダスト等の混入を抑制できる。
【0016】
前記ブローバイガス装置はまた、前記軸受部は、前記駆動式過給機の吸入側に位置し、前記空間部は、前記過給機本体に設けられた環状段部と前記シール材とによって形成されている、としてもよい。
【0017】
これによれば、吸入側に位置する軸受部およびシール材の潤滑性等を向上できる。
【0018】
前記ブローバイガス装置はまた、前記軸受部は、前記駆動式過給機の吐出側に位置し、前記空間部は、前記シール材と該シール材に対向して配置されたシール材との間に形成されている、としてもよい。
【0019】
これによれば、吐出側に位置する軸受部およびシール材の潤滑性等の向上と、ダスト等の混入抑制とを実現できる。
【0020】
前記ブローバイガス装置の空間部はまた、前記PCVバルブよりも上流側に連通する連通路に接続されている、としてもよい。
【0021】
PCVバルブの上流側の内圧は、PCVバルブの下流側の内圧よりも高い。従って、PCVバルブよりも上流側に連通する連通路に空間部を接続すれば、PCVバルブの下流部分から分岐した連通路に接続するよりも、圧力差が大きくなって、よりいっそう空間部の内圧を相対的に低くできる。その結果、ブローバイガスを空間部に安定して導入できる。軸受部およびシール材の潤滑性等が更に向上する。
【0022】
この場合、前記ブローバイガスは、前記エンジン本体の内部に設けられたオイルセパレータ室を通じて排出され、前記連通路が、前記オイルセパレータ室に連通するとともに、前記空間部への前記ブローバイガスの流入量を抑制する流量抑制部を有している、とするのが好ましい。
【0023】
オイルセパレータ室では、気液分離により、オイルミストを含むブローバイガスが生成される。従って、空間部を、オイルセパレータ室に連通する連通路と接続すれば、空間部にオイルを効率よく供給できる。軸受部およびシール材の潤滑性等は、よりいっそう向上する。
【0024】
空間部を、オイルセパレータ室に連通する連通路と接続すれば、多量のブローバイガスを空間部に導入できる。ブローバイガスを、過度に空間部に導入すると、ロータ室に入り込むブローバイガスにより、吸気量が変動するおそれがある。吸気量が変動すると、エンジンの出力が低下するおそれがある。流量抑制部でブローバイガスの流入量を抑制することにより、そのような不具合を抑制できる。
【0025】
前記連通路が更に、前記オイルセパレータ室への前記ブローバイガスの逆流を抑制する逆流抑制部を有している、としてもよい。例えば、逆止弁を前記逆流抑制部として利用できる。
【0026】
ブローバイガスの逆流を抑制すれば、空間部に、より安定してブローバイガスを導入できる。逆止弁であれば、ブローバイガスの逆流を阻止できるので、効果的である。
【0027】
エンジンの仕様によっては、このような連通路を組み合わせるのが好ましい。
【0028】
例えば、前記駆動式過給機は、ロータ室が内部に形成された過給機本体と、前記駆動式過給機の吸入側および吐出側の各々に設置された一対の軸受部と、前記一対の軸受部に軸支された回転軸と、前記回転軸と一体に設けられていて、前記ロータ室の内部に回転可能に配置された過給ロータと、を有し、前記過給機本体は、吸入側の前記軸受部に通ずる隙間からなる吸入側空間部と、吐出側の前記軸受部に通ずる隙間からなる吐出側空間部と、を有し、前記吸入側空間部が、前記PCVバルブよりも上流側に連通する第1連通路に接続され、前記吐出側空間部が、前記ブローバイガス通路における前記PCVバルブの下流部分から分岐した第2連通路に接続されている、とするとよい。
【0029】
そうすれば、第1連通路は、第2連通路よりも相対的に高圧になる。そのため、吸入側空間部には、吐出側空間部よりも、ブローバイガスが、より安定して導入されるようになる。その結果、吸込側の軸受部及びシール材の潤滑性等を、安定して向上させることができる。
【0030】
そして、吐出側の軸受部に対しては、非過給時の圧力バランスを利用して、潤滑性等の向上とともに、吸い出し効果により、ダスト等の混入の抑制ができる。
【発明の効果】
【0031】
開示する技術によれば、過給機の軸受部およびシール材の潤滑性等の向上が実現できる。更には、過給機の軸受部のダスト等の混入の抑制も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施形態のエンジンを示す模式的な構成図である。
図2】吸気ユニットの具体的な構造を示す概略上面図である。
図3図2で示す矢印Aの方向から吸気ユニットを見た概略前面図である。
図4図2で示す矢印Bの方向から吸気ユニットを見た概略後面図である。
図5】(b)は、過給機の縦断面図である。(a)は、(b)のVa-Va線における断面図であり、(c)は、(b)のVc-Vc線における断面図である。
図6】過給機とブローバイガス還元システムとの接続を示す模式図である。
図7】(a)は、ブローバイガス通路の要部の構造を具体的に示す概略上面図である。(b)は、(a)に対応した概略後面図である。
図8A】過給時の吸気の流れを示す概略図である。
図8B】非過給時の吸気の流れを示す概略図である。
図9】応用例のエンジンを示す模式的な構成図である。
図10】応用例での吸気ユニットの具体的な構造を示す概略上面図である。
図11】応用例での過給機とブローバイガス還元システムとの接続を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0034】
図1に、過給機34を備えたエンジン1(単にエンジン1ともいう)の主な構成を示す。このエンジン1に、開示する技術を適用したブローバイガス装置が組み込まれている。
【0035】
図2図4に、エンジン1が備える吸気ユニット3の具体的な構造を示す。図2は、吸気ユニット3を上側から見た図である。図3は、図2で示す矢印Aの方向(前方)から吸気ユニット3を見た図である。図4は、図2で示す矢印Bの方向(後方)から吸気ユニット3を見た図である。
【0036】
エンジン1は、例えば、自動車(車両)に搭載される4ストローク式の内燃機関である。エンジン1は、駆動式(機械式)の過給機34を備えている。エンジン1の燃料は、特に限定はされない。本実施形態において、エンジン1の燃料はガソリンである。
【0037】
また、エンジン1は、詳細な図示は省略するが、列状に配置された4つのシリンダ(気筒)11を備えている。エンジン1は、いわゆる直列4気筒の横置きエンジン1である。エンジン1には、4つのシリンダ11が車幅方向に沿って並ぶように搭載されている。
【0038】
これにより、4つのシリンダ11が配列する方向(気筒列方向)であるエンジン1の左右方向は、車幅方向とほぼ一致している。エンジン1では、気筒列方向と、クランクシャフト15が延びる方向とが一致する。
【0039】
上下左右等の方向を各図に示す。特に断らない限り、「前」とは、自動車の前側を指す。「後」とは、自動車の後側を指す。「左」とは、車幅方向における一方側を指す。「右」とは、車幅方向における他方側を指す。また、「上」とは、エンジン1を自動車に搭載した状態の上側を指す。「下」とは、その下側を指す。
【0040】
(エンジン1の概略構成)
エンジン1は、4つのシリンダ11を有するエンジン本体10と、エンジン本体10の前側に配置されていて、吸気ポート18を介して各シリンダ11と連通する吸気通路30と、エンジン本体10の後側に配置されていて、排気ポート19を介して各シリンダ11と連通する排気通路50と、を備えている。
【0041】
吸気通路30は、吸気ユニット3を構成している。吸気ユニット3は、吸気(空気等のガス)が流れる複数の通路と、これら通路の途中に配置されたエアクリーナ31、過給機34、インタークーラ36、サージタンク38等の装置と、が一体に組み合わされて構成されている。エンジン本体10は、吸気ユニット3を通じて供給される吸気と、燃料とからなる混合気を、各シリンダ11内に形成された燃焼室16で燃焼させる。そして、エンジン本体10は、燃焼によって生じる排気ガスを、排気通路50を通じて排気する。
【0042】
具体的に、エンジン本体10は、シリンダブロック12と、シリンダブロック12の上に載置されるシリンダヘッド13と、を有している。シリンダブロック12の内部に、4つのシリンダ11が形成されている。これらシリンダ11は、クランクシャフト15が延びる方向に沿って並んでいる(図1では、1つのシリンダのみを示す)。
【0043】
各シリンダ11の内部には、ピストン14が、それぞれ摺動自在に挿入されている。各ピストン14は、コネクティングロッド141を介してクランクシャフト15と連結されている。ピストン14、シリンダ11、およびシリンダヘッド13により、燃焼室16が区画形成されている。なお、ここでいう「燃焼室」は、ピストン14が圧縮上死点に至ったときに形成される空間のみの意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる。
【0044】
シリンダヘッド13には、1つのシリンダ11につき、例えば2つの吸気ポート18が形成されている(図1には、1つの吸気ポート18のみを示す)。2つの吸気ポート18は、気筒列方向に隣接しており、それぞれ対応するシリンダ11と連通している。
【0045】
2つの吸気ポート18には、それぞれ吸気バルブ21が配設されている。吸気バルブ21は、燃焼室16と各吸気ポート18との間を開閉する。吸気バルブ21は、吸気動弁機構によって所定のタイミングで開閉する。
【0046】
吸気動弁機構は、図1に示すように、可変動弁機構23を有している。可変動弁機構23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲で連続的に変更するよう構成されている。これにより、各吸気バルブ21の開弁時期および閉弁時期は、連続的に変化する。
【0047】
また、シリンダヘッド13には、1つのシリンダ11につき、例えば2つの排気ポート19が形成されている(図1には、1つの排気ポート19のみを示す)。2つの排気ポート19は、気筒列方向に隣接しており、それぞれ対応するシリンダ11と連通している。
【0048】
2つの排気ポート19には、それぞれ排気バルブ22が配設されている。排気バルブ22は、燃焼室16と各排気ポート19との間を開閉する。排気バルブ22は、排気動弁機構によって所定のタイミングで開閉する。
【0049】
排気動弁機構は、図1に示すように、可変動弁機構24を有している。可変動弁機構24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲で連続的に変更するよう構成されている。これにより、各排気バルブ22の開弁時期および閉弁時期は、連続的に変化する。
【0050】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎にインジェクタ6が取り付けられている。各インジェクタ6は、例えば多噴口型の燃料噴射弁である。インジェクタ6は、各燃焼室16の内部に、燃料を直接噴射する。
【0051】
各インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留する燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62と、を備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設されている。
【0052】
また、シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25の先端は、燃焼室16の内部に臨んでいる。点火プラグ25の作動により、燃焼室16の中の混合気は、強制的に点火される。
【0053】
(吸気ユニット3)
吸気通路30の上流側の端部には、新気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。サージタンク38は、吸気を一時的に貯める容器状の装置である。サージタンク38は、吸気通路30の下流側の端部、すなわち、吸気通路30における吸気ポート18の上流側の部位に配設されている。吸気通路30におけるエアクリーナ31の下流側の部位に、スロットルバルブ32が配設されている。スロットルバルブ32は、エンジン1の運転状態に応じて、その開度が制御される。それにより、燃焼室16に導入される新気の量が調整される。
【0054】
吸気通路30におけるスロットルバルブ32の下流側の部位に、過給機34が配設されている。過給機34は、各燃焼室16に導入する吸気を過給する。過給機34は、エンジン1(具体的には、クランクシャフト15から伝達される動力)によって駆動される(機械式あるいは駆動式)。過給機34は、例えば、2軸ロータ式のルーツブロワとして構成されている。
【0055】
過給機34とクランクシャフト15との間には、電磁クラッチ34aおよび駆動プーリ34dが介設されている。駆動プーリ34dとクランクシャフト15とには、環状のタイミングベルトが巻き掛けられている。それにより、駆動プーリ34dとクランクシャフト15とが連動して回転する。なお、過給機34は、電気で駆動する電気式としてもよい。
【0056】
電磁クラッチ34aは、過給機34とクランクシャフト15との間を接続して駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。ECU7(制御装置)が電磁クラッチ34aの遮断および接続を切り替える。そうすることによって、過給機34のオン状態とオフ状態とが切り替わる。
【0057】
すなわち、エンジン1は、過給機34のオン状態とオフ状態とを切り替えることにより、燃焼室16に導入する吸気を過給する運転(過給運転)と、燃焼室16に導入する吸気を過給しない運転(自然吸気運転)とを切り替えることができる。過給機34の詳細については、別途後述する。
【0058】
インタークーラ36は、吸気通路30における過給機34の下流側の部位に配設されている。インタークーラ36は、過給機34を通過した吸気との間で熱交換を行い、過給機34で圧縮された吸気を冷却する。インタークーラ36は、例えば水冷式である。
【0059】
吸気通路30は、スロットルバルブ32の下流側であって過給機34の上流側の部位を構成する第1通路33と、過給機34の下流側であってインタークーラ36の上流側の部位を構成する第2通路35と、インタークーラ36の下流側であってサージタンク38の上流側の部位を構成する第3通路37と、サージタンク38の下流側であって、各吸気ポート18の上流側の部位を構成する独立通路39と、を有している。
【0060】
独立通路39は、吸気ポート18毎に、サージタンク38から複数に分岐するように形成されている。第1通路33、第2通路35、第3通路37、および独立通路39は、吸気通路30の主体となる主吸気通路30Aを構成している。
【0061】
吸気通路30には、この主吸気通路30Aとは別に、過給機34およびインタークーラ36を迂回するバイパス通路40が設けられている。詳細には、バイパス通路40は、第1通路33の途中の部位(上流側分岐部33a)から分岐して、サージタンク38(下流側分岐部)と連通するように接続されている。
【0062】
バイパス通路40には、バイパス通路40の流路断面積を変更するバイパスバルブ41が配設されている。バイパスバルブ41は、エンジン1の運転状態に応じて、バイパス通路40の流路断面積を変更する。それにより、バイパスバルブ41は、バイパス通路40を流れる吸気の流量を調節する。
【0063】
吸気通路30には、燃料タンク63で発生する蒸発燃料を、吸気通路30に導入する蒸発燃料通路66が配設されている。蒸発燃料通路66は、燃料タンク63の上部からキャニスタ67を介し、第1通路33に配設されたパージバルブ68に接続されている。なお、キャニスタ67は、蒸発した燃料を一時的に貯留する容器である。
【0064】
(排気通路50)
排気通路50は、吸気通路30とは逆の、エンジン本体10の後側に接続されている。図示は省略するが、排気通路50の上流側の端部は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。それら独立通路が、各シリンダ11の排気ポート19と接続されている。
【0065】
排気通路50には、1つ以上の触媒コンバータ51を有する排気浄化システムが配設されている。触媒コンバータ51は、三元触媒を含んで構成されており、排気通路50における排気ポート19の下流側に隣接して配置されている(いわゆる直キャタリスト)。なお、排気浄化システムは、三元触媒のみを含む構成に限られない。
【0066】
吸気通路30と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路30に導入する。詳しくは、EGR通路52の上流端は、排気通路50における触媒コンバータ51の下流側の部位に接続されていて、排気通路50と連通している。
【0067】
一方、EGR通路52の下流端は、吸気通路30における過給機34より上流側であってスロットルバルブ32の下流側の部位に連通するように構成されている(詳細は後述)。
【0068】
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラ53が配設されている。EGRクーラ53は、EGR通路52を流れる排気ガスを冷却する。EGR通路52を流れる排気ガスの流量は、EGRバルブ54によって調節される。EGRバルブ54の開度を調整することにより、冷却された排気ガス(外部EGRガス)の、吸気通路30への導入量が調節される。
【0069】
(ブローバイガス還元システム70)
エンジン1には、ブローバイガス還元システム70が配設されている。ブローバイガス還元システム70は、開示する技術を適用したブローバイガス装置を構成する。ブローバイガス還元システム70は、燃焼室16から漏れ出すガス(ブローバイガス)を、吸気通路30に導入して燃焼室16に還元する。ブローバイガスは、オイルミストを含む。
【0070】
詳細には、図1に示すように、シリンダヘッド13の上部には、シリンダヘッドカバー26が設置されている。そのシリンダヘッドカバー26の上部に、PCV(Positive Crankcase Ventilation)バルブ72が設けられている。シリンダヘッドカバー26の内部には、オイルセパレータ室27が設置されている(図6参照)。
【0071】
オイルセパレータ室27には、燃焼室16から漏れ出すガス、つまりブローバイガスが導入される。ブローバイガスは、オイル(エンジンオイル)を含む。オイルセパレータ室27では気液分離が行われる。それにより、ブローバイガスが含むオイルの大部分は分離される。従って、オイルセパレータ室27を通じて排出されるブローバイガスは、オイルミストを含む。
【0072】
PCVバルブ72は、このオイルセパレータ室27に連通する通路に接続されている。ブローバイガス還元システム70を構成するブローバイガス通路71は、その上流側の端部が、このPCVバルブ72と接続されている。PCVバルブ72は、ブローバイガス通路71に流入するブローバイガスの流量を可変する。
【0073】
ブローバイガス通路71の下流側の端部は、バイパス通路40の上流側の部位に接続されている。ブローバイガス通路71は、過給機34の吸入側と接続される第1連通路73と、過給機34の吐出側と接続される第2連通路74と、を有している。ブローバイガス通路71の詳細は後述する。
【0074】
(過給機34)
図5に示すように、過給機34は、ケーシング34b(過給機本体)を有している。ケーシング34bの内部には、ロータ室343およびギア室344が形成されている。ロータ室343およびギア室344の内部には、駆動側の回転軸および従動側の回転軸からなる一対の回転軸81,82が、気筒列方向に平行して延びるように配置されている。
【0075】
ケーシング34bには、吸入側の軸受部および吐出側の軸受部からなる一対の軸受部83,84が設置されている。回転軸81,82の各々は、これら一対の軸受部83,84によって回転自在に軸支されている。
【0076】
図6にも示すように、ロータ室343の左側には、小容量の軸受室345が、ケーシング34bから突出するように設けられている。軸受室345は、ケーシング34bの一部である。軸受室345は、各回転軸81,82の端部を収容する。軸受室345には、吸入側の軸受部83を構成するボールベアリングが収容されている。
【0077】
ロータ室343から軸孔345aを通じて軸受室345に突出した各回転軸81,82の端部が、そのボールベアリングを介して軸支されている。軸受室345にはシール材(吸入側シール材91)が設けられている。この吸入側シール材91が、軸孔345aと各回転軸81,82との間の隙間を塞いでいる。
【0078】
ギア室344は、ロータ室343の右側に隣接して配置されている。ロータ室343から軸孔344aを通じて各回転軸81,82がギア室344に突出している。ギア室344にも、軸孔344aと各回転軸81,82との間の隙間を塞ぐシール材が設けられている。ギア室344には、軸受室345とは異なり、2つのシール材92,93が設けられている。これについては後述する。
【0079】
ギア室344には、ギア346が収容されている。ギア346は、駆動側の回転軸81と従動側の回転軸82とを連動して回転させる。吐出側の軸受部84は、ギア346と共に、ギア室344に収容されている。ギア室344には、潤滑用のオイルが適量、充填されている。
【0080】
ロータ室343には、第1ロータ341および第2ロータ342が、互いに隣接して部分的に噛み合うように収容されている。第1ロータ341は、従動側の回転軸82に一体に固定されている。第2ロータ342は、駆動側の回転軸81に一体に固定されている。駆動側の回転軸81は、従動側の回転軸82よりも長く延びて、ギア室344から突出し、電磁クラッチ34aに連結されている。
【0081】
図5の右側においてVc-Vc線で示す断面図(c)のように、ケーシング34bの左側の端部には、ロータ室343に連通する吸入口34cが開口している。一方、ケーシング34bの前側の側面には、ロータ室343を露出させるV字状ないし三角形状に開口する吐出口34eが開口している。
【0082】
吸入口34cは、第1通路33に連通している。吐出口34eは、第2通路35に連通している。第1ロータ341および第2ロータ342が回転することにより、第1通路33を流れる吸気は、吸入口34cを通じてロータ室343に吸入される。ロータ室343に吸入された吸気は、右側に向かって送り出され、圧縮される。圧縮された吸気は、吐出口34eから吐出される。
【0083】
(吸気ユニット3のレイアウト)
図2に示すように、吸気ユニット3は、エンジン本体10の前側、具体的には、シリンダヘッド13およびシリンダブロック12の前面に沿うように配置されている。特に、過給機34とインタークーラ36とは、過給レスポンスを高めるべく、吸気ポート18の上流側の端部の近傍に集約して配置されている。
【0084】
過給機34は、左右方向に延びる横長なサージタンク38を間に挟むようにして、エンジン本体10の前側に配置されている。過給機34の後部とエンジン本体10の前部との間には、サージタンク38の寸法に応じた隙間が空いている。第1通路33は、過給機34の左側に気筒列方向に延設されている。第1通路33は、過給機34の左端部(吸入口34cが開口している端部)と接続されている。
【0085】
また、図3に示すように、過給機34およびインタークーラ36は、この順に上下方向に並設されている。そして、これらは上下に隣接している。第2通路35は、吐出口34eがある過給機34の前部と、インタークーラ36の前部とを接続するように、ほぼ上下方向に延設されている。
【0086】
サージタンク38は、図2図4に示すように、過給機34の後部と、複数の独立通路39との間の隙間に配置されている。第3通路37は、過給機34の下方を通過するように延設されている。インタークーラ36は、サージタンク38よりも下方に位置している。インタークーラ36の後部とサージタンク38の底部とが、第3通路37によって接続されている。
【0087】
バイパス通路40は、第1通路33の上流側分岐部33aから分岐して上方へ延びた後、右方へ延びている。バイパス通路40の下流側の端部は、二股に分岐し、サージタンク38の上部と接続されている(図2図4を参照。)。
【0088】
(過給機34へのブローバイガスの利用)
外部EGRガスには、煤、酸化物などのダスト、水蒸気等が含まれる。これら水蒸気等は、外部EGRガスの吸気への導入に伴って、過給機34のロータ室343に流入する。水蒸気は、EGRクーラ53で冷却されることにより、EGR通路52およびバイパス通路40において凝縮水となり、バイパス通路40から第1通路33に流入し、ひいては過給機34のロータ室343に流れ込むおそれがある。
【0089】
これらダストおよび凝縮水が、過給機34のロータ室343に流れ込むと、軸受部およびシール材に作用し、劣化させるおそれがある。そこで、このエンジン1では、ブローバイガス還元システム70により、エンジン1の運転状態に応じて、軸受部およびシール材の周辺の吸気を吸引したり、軸受部およびシール材の周辺へオイルを供給したりできるように工夫されている。
【0090】
具体的には、図1に示すように、ブローバイガス通路71におけるPCVバルブ72の下流側の部位から分岐する第1連通路73および第2連通路74が設けられている。そして、図6に示すように、第1連通路73および第2連通路74は、過給機34のケーシング34bを通って、吸入側および吐出側の各軸受部83,84の近傍まで達している。そして、第1連通路73および第2連通路74は、各軸受部83,84に通ずる隙間からなる空間部(吸入側環状空間部34f、吐出側環状空間部34h)に連通している。
【0091】
図6に、ブローバイガス通路71の要部を模式的に示す。図7に、ブローバイガス通路71の要部を具体的に示す。これら図に示すように、ブローバイガス通路71の下流側の端部は、下流側導入路71a、上流側導入路71b、第1分岐路73a、第2分岐路74aなどで構成されている。
【0092】
下流側導入路71aは、バイパス通路40における上流側分岐部33aの近傍の部位に接続されている。ブローバイガスは、下流側導入路71aの接続部位に開口する導入口(ブローバイガス導入口75)から、吸気通路30に導入されるようになっている。
【0093】
そして、下流側導入路71aにおけるブローバイガス導入口75の上流側の部位から、第1分岐路73aと第2分岐路74aとが分岐している。第1分岐路73aは、第2分岐路74aよりも上流側に位置している。第1分岐路73aは第1連通路73に連通している。第2分岐路74aは第2連通路74に連通している。
【0094】
上流側導入路71bは、下流側導入路71aの上流側に交差した状態で連なっている。詳細には、上流側導入路71bは気筒列方向に延びている。下流側導入路71aは、上流側導入路71bの下流側から曲がるように分岐して、気筒列方向と略垂直な横方向に延びている。そして、第1分岐路73aは、上流側導入路71bと真っ直ぐに連なるように、上流側導入路71bと下流側導入路71aとの屈曲部位から気筒列方向に延びている。
【0095】
対して、第2分岐路74aは、下流側導入路71aの途中から、第1分岐路73aと平行して気筒列方向に延びている。上流側導入路71bは、第1分岐路73aおよび第2分岐路74aよりも、大径の管で構成されている。
【0096】
このような上流側導入路71b、下流側導入路71a、および第1分岐路73aは、オイル分離供給部OPを構成している。オイル分離供給部OPは、ブローバイガスからオイルを分離して、特に、そのオイルを第1連通路73に供給する。そして、上流側導入路71bはストレート部を構成し、下流側導入路71aはクロス部を構成している。
【0097】
図2図4に示すように、第1連通路73および第2連通路74は、過給機34と、その上方に配置されたバイパス通路40との間を通って配設されている。オイル分離供給部OPは、第1通路33とバイパス通路40との間の僅かな隙間に配置されている。そして、オイル分離供給部OPは、ブローバイガス通路71によってコンパクトに構成されている。
【0098】
それにより、ブローバイガス通路71と各連通路73、74とのレイアウトは、有機的且つコンパクトに構成されている。また、各連通路73、74は気筒列方向に配設されている。従って、吸気はスムーズに流れるし、レイアウトに関してもコンパクト化が図れる。
【0099】
図5図6に示すように、ケーシング34bの各軸受室345に臨む軸孔345aの周囲には、環状の隙間からなる吸入側環状空間部34fが、それぞれ設けられている。吸入側環状空間部34fには、図6に拡大して示すように、軸孔34aよりも大径の環状段部34f1が、それぞれ設けられている。
【0100】
吸入側シール材91は、環状段部34f1を介して、吸入側環状空間部34fに隣接し、かつ臨んでいる。環状段部34f1は、吸入側環状空間部34fの容積を増大させる。なお、環状段部34f1は、ケーシング34bにおける各シール材の91の内側部分を、エンドミル(end mill)等を用いて切削することにより形成することができる。
【0101】
図5の断面図(c)に示すように、2つの吸入側環状空間部34f,34fは、縦孔からなる単一の第1接続路34gによって互いに接続されている。従って、2つの吸入側環状空間部34f,34fは、ドリル加工によって容易に連通させることができる。
【0102】
一方、ケーシング34bのギア室344に臨む各軸孔344aの周囲にも、環状の隙間からなる吐出側環状空間部34hがそれぞれ設けられている。ギア室344に臨む各軸孔344aの周囲には、隙間を隔てて、2つのシール材(外側シール材92および内側シール材93)が対向するように配置されている。外側シール材92は、ギア室344の側に位置し、内側シール材93はロータ室343の側に位置している。
【0103】
これら外側シール材92と内側シール材93との間に、吐出側環状空間部34hが設けられている。外側シール材92および内側シール材93の各々は、吐出側環状空間部34hに隣接し、かつ臨んでいる。図5において左側に示す断面図(a)のように、2つの吐出側環状空間部34h,34hもまた、吸入側環状空間部34fと同様に、縦孔からなる第2接続路34iによって互いに接続されている。
【0104】
第1連通路73は、第1接続路34gを介して、各吸入側環状空間部34fと接続されている。第2連通路74は、第2接続路34iを介して、各吐出側環状空間部34hと接続されている。
【0105】
このように、ブローバイガス通路71から、オイル分離供給部OPを通じて分岐する第1連通路73および第2連通路74の各々は、過給装置34における吸入側の軸受部83および吐出側の軸受部84のそれぞれの近傍に設けられた吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hの各々に連通している。従って、エンジン1の運転状態に応じて、軸受部83,84、およびシール材91,92,93の周辺の吸気を吸引したり、軸受部83,84、およびシール材91,92,93の周辺へオイルを供給したりできる。その一例を、過給時と非過給時(自然吸気時)との場合により、説明する。
【0106】
(過給時)
図8Aに、吸気通路30における過給時の吸気の流れを示す。例えば、アクセルが踏まれて加速が要求された場合などには、ECU7は、自動車の走行中に過給機34を作動(つまり、電磁クラッチ34aを接続)し、バイパスバルブ41の開度を適宜調整する。
【0107】
このとき、スロットルバルブ32は、通常、略全開に調整され、新気が負荷なく吸気通路30へ導入される。また、エンジン1の運転状態に応じて、EGRバルブ54の開度が適宜調整される。そうすることにより、外部EGRガスが、吸気通路30へ導入される。更に、PCVバルブ72の開度が適宜調整されることにより、ブローバイガスも、吸気通路30へ導入される。
【0108】
これにより、新気、外部EGRガス、およびブローバイガス(単に吸気ともいう)は、主吸気通路30Aを通じ、過給された状態で燃焼室16に導入される。このとき、バイパスバルブ41の開度調整により、過給機34を通過した吸気の一部は、バイパス通路40を通って過給機34の上流に逆流する。吸気の逆流量により、燃焼室16に導入する吸気の過給圧が調節される。
【0109】
このように過給機34が作動している場合には、ロータ室343の内部(吐出側)は高圧になる。そのため、ロータ室343の近傍に位置し、軸孔344aを通じてロータ室343と連通している吐出側環状空間部34hの内圧も、過給圧に応じて高くなる。通常、ブローバイガス通路71の内圧よりも、吐出側環状空間部34hの内圧の方が高い。
【0110】
従って、軸受部84およびシール材92,93の周辺に付着するダストおよび凝縮水は、吸気と共に、吐出側環状空間部34hおよび第2連通路74を通ってブローバイガス通路71に吸い出すことができる。その結果、軸受部84およびシール材92,93の劣化を抑制できる。
【0111】
一方、過給機34が作動している場合、ロータ室343の内部(吸入側)は低圧になる傾向がある。そのため、ロータ室343の近傍に位置し、軸孔345aを通じてロータ室343と連通している吸入側環状空間部34fの内圧は、過給圧に応じて低くなり易い。その場合、ブローバイガス通路71の内圧よりも、吸入側環状空間部34fの内圧の方が低くなる。
【0112】
そうなると、吸入側環状空間部34fに、ブローバイガスが導入される。吸入側環状空間部34fは、ギア室344とは異なり、オイルが十分で無く、潤滑不良になり易い軸受室345に通じている。そのため、これらにオイルを含むブローバイガスを供給することで、吸入側シール材91の潤滑性およびシール性、および吸入側の軸受部83の潤滑性を高めることができる。
【0113】
ロータ室343の内部(吸入側)も、吐出側と同様に高くなれば、軸受部83およびシール材91の周辺に付着するダスト等をブローバイガス通路71に吸い出すことができる。その場合、軸受部83およびシール材91の劣化を抑制できる。
【0114】
(非過給時)
図8Bに、吸気通路30における非過給時(自然吸気時)の吸気の流れを示す。例えば、アイドリング、惰性走行の場合などには、ECU7は、過給機34の作動を停止(つまり、電磁クラッチ34aを遮断)し、バイパスバルブ41を全開にする。
【0115】
このとき、スロットルバルブ32は、エンジン1の運転状態に応じて、適宜開度が調整され、適量の新気が吸気通路30へ導入される。また、エンジン1の運転状態に応じて、EGRバルブ54の開度が適宜調整されることにより、外部EGRガスが、吸気通路30へ導入される。更に、PCVバルブ72の開度が適宜調整されることにより、ブローバイガスも、吸気通路30へ導入される。
【0116】
これにより、吸気通路30を流れる吸気は、過給機34をバイパスして、自然吸気の状態で燃焼室16に導入される。このように過給機34が作動していない場合には、ロータ室343の内部は、非加圧状態になる。そのため、吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hの内圧も、高くなることはない。
【0117】
そのため、ブローバイガス通路71の内圧と、吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hの各々の内圧との差は相対的に小さい。それにより、エンジン1の運転状態によって、ブローバイガスの流動が変化し得る。
【0118】
すなわち、燃焼室16のポンプ作用に伴う圧力バランスの変化で、ブローバイガス通路71の内圧よりも吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hの各々の内圧の方が高くなったり、吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hの各々の内圧の方がブローバイガス通路71の内圧よりも高くなったりする。
【0119】
例えば、本願発明者らの種々の検討によれば、低負荷運転時には、吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hの内圧(負圧)は、ブローバイガス通路71の圧力(負圧)とほとんど差が生じない。圧力バランスが微妙な状態となる。
【0120】
このように、エンジン1の運転状態によって、吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hに、ブローバイガスが導入される場合がある。その場合、図6に模式的に示すように、ブローバイガスは、第1分岐路73aおよび第2分岐路74aを経由して、吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hに導入される。
【0121】
このとき、第1分岐路73aは、直線状に延びる上流側導入路71b(ストレート部)と、直線状に連なっている。そのため、ブローバイガスに含まれるオイルミストは、慣性によって第1連通路73に流入し易い。オイルミストよりも軽量なブローバイガスは、下流側導入路71a(クロス部)に流入し易い。その結果、比較的オイルを多量に含むブローバイガスが、第1連通路73に分配されて、吸入側環状空間部34fに流入する。
【0122】
上述したように、吸入側環状空間部34fは、オイルが十分で無く、潤滑不良になり易い軸受室345に通じている。そのため、吸入側シール材91の潤滑性およびシール性、および吸入側の軸受部83の潤滑性を高めることができる。
【0123】
<応用例>
図9に、開示する技術の応用例を示す。
【0124】
上述した実施形態では、吸入側環状空間部34fに接続される第1連通路73、および吐出側環状空間部34hに接続される第2連通路74の双方が、ブローバイガス通路71におけるPCVバルブ72の下流部分から分岐していた。それに対し、この応用例では、吸入側環状空間部34fに連通する第1連通路73は、PCVバルブ72の下流部分から分岐するのではなく、独立して、PCVバルブ72よりも上流側に連通するように構成されている。
【0125】
上述したように、非過給時のブローバイガスは、エンジン1の運転状態によって、吸入側環状空間部34fおよび吐出側環状空間部34hに、導入されたり導出されたりする。そして、吸入側環状空間部34fは、構造上、特に、ブローバイガスを導出してダスト等の混入を抑制するよりも、ブローバイガスを導入してシール性および潤滑性を高める方が好ましい。
【0126】
従って、エンジン1の仕様によっては、吸入側環状空間部34fに、より安定して、ブローバイガスを導入できるようにした方がよい場合がある。この応用例は、そのようなエンジン1に好適である。この応用例によれば、エンジン1の運転状態に影響されることなく、吸入側環状空間部34fに安定してブローバイガスを導入できる。
【0127】
図10に示すように、この応用例の第1連通路73(応用第1連通路73’ともいう)は、第1分岐路73aには接続されていない。応用第1連通路73’は、過給機34の吸入側の部位からバイパス通路40の近傍を通ってシリンダヘッドカバー26に向かって延びるように設置されている。
【0128】
それに伴い、図11に示すように、第1分岐路73aは無くなっている。この応用例では、第2分岐路74aおよび第2連通路74は、上述した実施形態と同じように構成されている。第1分岐路73aではなく、第2分岐路74aを無くして、第2連通路74を第1分岐路73aに接続してもよい。
【0129】
応用第1連通路73’の上流側は、直接、シリンダヘッドカバー26に接続されている。それにより、応用第1連通路73’は、オイルセパレータ室27に連通している。
【0130】
応用第1連通路73’の上流側の端部には、流路の断面積を小さくするオリフィス100(流量抑制部の一例)が設けられている。オリフィス100により、その上流側と下流側とで所定の圧力差が形成される。それにより、応用第1連通路73’を通じて、吸入側環状空間部34fに流入するブローバイガスの流入量が抑制される。オリフィス100は、流量の調整が可能な絞り弁であってもよい。
【0131】
吸入側環状空間部34fに流入するブローバイガスの流入量が多くなると、ロータ室343に入り込むブローバイガスにより、吸気量が変動するおそれがある。すなわち、応用第1連通路73’は、ブローバイガス通路71から分岐した第1連通路73と異なり、独立して、オイルセパレータ室27からブローバイガスを過給機34に導入する。そのため、過給機34に導入されるブローバイガスが増量する傾向がある。
【0132】
吸気量が変動すると、エンジン1の出力が低下するおそれがある。オリフィス100でブローバイガスの流入量を抑制することにより、そのような不具合を抑制できる。
【0133】
応用第1連通路73’の上流側の端部にはまた、オイルセパレータ室27へのブローバイガスの逆流を抑制するために、逆止弁101(逆流抑制部の一例)が設けられている。ブローバイガスの逆流を抑制すれば、エンジン1の運転状態に影響されることなく、吸入側環状空間部34fに、より安定してブローバイガスを導入できる。逆止弁101であれば、ブローバイガスの逆流を阻止できるので、効果的である。
【0134】
このように、この応用例によれば、構造上、潤滑不良になり易い吸込側のシール材91および軸受部83の潤滑性を、安定して向上させることができる。そして、潤滑不良には比較的なり難い吐出側の軸受部84に対しては、潤滑性の向上とともに、混入したダスト等を吸い出すことにより、ダスト等の混入の抑制ができる。
【0135】
なお、開示する技術は、上述した実施形態および応用例に限定されない。開示する技術は、これら以外の種々の構成をも包含する。
【0136】
例えば、第1連通路73および第2連通路74の双方を、PCVバルブ72の下流部分から分岐するのではなく、PCVバルブ72よりも上流側に連通するように構成してもよい。また、エンジンの仕様によっては、第1連通路73および第2連通路74のいずれか一方だけを設けてもよい。
【0137】
逆流抑制部は、必須ではない。また、逆流抑制部としては、逆止弁101が好ましいが、それに限らない。ブローバイガスの逆流を妨げるものであれば、逆流抑制部として利用できる。
【符号の説明】
【0138】
1 エンジン
3 吸気ユニット
10 エンジン本体
27 オイルセパレータ室
30 吸気通路
30A 主吸気通路
31 エアクリーナ
32 スロットルバルブ
33 第1通路
33a 上流側分岐部
34 過給機(駆動式過給機)
34b ケーシング(過給機本体)
34f 吸入側環状空間部(空間部)
34h 吐出側環状空間部(空間部)
341 第1ロータ(過給ロータ)
342 第2ロータ(過給ロータ)
343 ロータ室
344 ギア室
35 第2通路
36 インタークーラ
37 第3通路
38 サージタンク
39 独立通路
40 バイパス通路
41 バイパスバルブ
50 排気通路
51 触媒コンバータ
52 EGR通路
53 EGRクーラ
54 EGRバルブ
61 燃料供給システム
70 ブローバイガス還元システム(ブローバイガス装置)
71 ブローバイガス通路
71a 下流側導入路
71b 上流側導入路
72 PCVバルブ
73 第1連通路(連通路)
73a 第1分岐路
74 第2連通路(連通路)
74a 第2分岐路
75 ブローバイガス導入口
81 回転軸(駆動側)
82 回転軸(従動側)
83 軸受部(吸入側)
84 軸受部(吐出側)
91 吸入側シール材
92 外側シール材(シール材)
93 内側シール材
100 オリフィス(流量抑制部)
101 逆止弁(逆流抑制部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11