(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20221220BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221220BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20221220BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/01 401
B41J2/14
B41J2/175 501
(21)【出願番号】P 2019009155
(22)【出願日】2019-01-23
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】中島 吉紀
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172324(JP,A)
【文献】特開2010-064477(JP,A)
【文献】特開2016-175220(JP,A)
【文献】特開2016-187926(JP,A)
【文献】特開2019-014171(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0007105(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/18
B41J 2/01
B41J 2/14
B41J 2/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口から吐出される液体を貯留する液体貯留室と、
前記液体貯留室に液体を供給する供給流路と、
前記液体貯留室から液体を排出する排出流路と、
前記排出流路から排出された液体を前記供給流路に循環させる循環動作を制御する循環制御部と、
前記吐出口から液体を吐出する吐出動作を制御する吐出制御部と
を具備する液体吐出装置であって、
前記循環制御部は、前記循環動作による液体の流速を、前記吐出動作中における前記循環動作による液体の流速よりも低下させた後に、前記循環動作を停止させ、
前記供給流路は、第1流路と、前記第1流路に並列に接続された第2流路とを含み、
前記循環制御部は、液体が通過する流路を前記第1流路から前記第2流路に切替えることで、前記循環動作による液体の流速を低下させる
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
吐出口から吐出される液体を貯留する液体貯留室と、
前記液体貯留室に液体を供給する供給流路と、
前記液体貯留室から液体を排出する排出流路と、
前記排出流路から排出された液体を前記供給流路に循環させる循環動作を制御する循環制御部と、
前記吐出口から液体を吐出する吐出動作を制御する吐出制御部と
を具備する液体吐出装置であって、
前記循環制御部は、前記吐出動作中かつ前記循環動作中における前記液体貯留室内の液体の圧力を負圧に維持し、
前記循環制御部は、前記吐出動作が終了した後に継続される前記循環動作中における前記液体貯留室内の液体の前記圧力を、前記吐出動作中かつ前記循環動作中における前記液体貯留室内の液体の前記圧力よりも上昇させることで、前記液体貯留室内の液体の前記圧力を負圧から正圧に変化させた後に、前記循環動作を停止させる
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
前記排出流路に接続され、液体を貯留する貯留容器と、
前記液体貯留室内の圧力を調整する圧力調整部と、を具備し、
前記圧力調整部は、前記貯留容器を鉛直方向に上昇させることによって前記液体貯留室内の液体の前記圧力を上昇させる
ことを特徴とする
請求項2の液体吐出装置。
【請求項4】
前記液体貯留室内の液体の前記圧力を検出する圧力センサーを具備し、
前記循環制御部は、前記圧力センサーによる検出値に応じて前記圧力調整部を制御することで、前記液体貯留室内の液体の前記圧力を調整する
ことを特徴とする
請求項3の液体吐出装置。
【請求項5】
前記循環動作を停止させた後に、前記循環動作が停止される前に鉛直方向に上昇させられた前記貯留容器を前記圧力調整部が鉛直方向に下降させることによって、前記液体貯留室内の液体の圧力を負圧まで経時的に変化させる
ことを特徴とする
請求項3又は請求項4の液体吐出装置。
【請求項6】
前記供給流路に設けられ、前記供給流路を開放する開状態と前記供給流路を閉塞する閉状態とを切替える開閉弁を具備し、
前記循環制御部は、前記液体貯留室内の液体の前記圧力を負圧から正圧に変化させた後の前記循環動作が継続している状態で前記開閉弁を前記開状態から前記閉状態に遷移させることで前記循環動作を停止させる
ことを特徴とする
請求項2から請求項5の何れかの液体吐出装置。
【請求項7】
前記供給流路に供給される液体に圧力を付与する圧送機構を具備し、
前記圧送機構の動作は、前記循環動作の停止後も継続される
ことを特徴とする
請求項2から請求項6の何れかの液体吐出装置。
【請求項8】
吐出口から吐出される液体を貯留する液体貯留室と、
前記液体貯留室に液体を供給する供給流路と、
前記液体貯留室から液体を排出する排出流路と、
前記排出流路から排出された液体を前記供給流路に循環させる循環動作を制御する循環制御部と、
前記吐出口から液体を吐出する吐出動作を制御する吐出制御部と
を具備する液体吐出装置であって、
前記循環制御部は、前記循環動作を停止したときの液体の慣性力が、前記吐出動作中に前記循環動作を停止したときの液体の慣性力よりも低減される状態にした後に、前記循環動作を停止させ、
前記供給流路は、第1流路と、前記第1流路に並列に接続された第2流路とを含み、
前記循環制御部は、液体が通過する流路を前記第1流路から前記第2流路に切替えることで前記循環動作による液体の流速を低下させることにより、前記循環動作を停止したときの液体の慣性力が低減される状態にする
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項9】
前記第2流路の流路抵抗は、前記第1流路の流路抵抗よりも高い
ことを特徴とする請求項1又は
請求項8の液体吐出装置。
【請求項10】
前記排出流路に設置され、前記液体の逆流を抑制する逆流抑制部
を具備する請求項1から
請求項9の何れかの液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインク等の液体を吐出口から吐出する技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、液体を吐出する液体吐出ヘッドとインクを貯留するタンクとが設置された環状の流路により液体を循環させる循環型の液体吐出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
循環型の液体吐出装置において液体の循環を停止すると、液体の慣性力により液体吐出ヘッド内の液室に過度な負圧が発生する場合がある。液室に過度な負圧が発生すると、吐出口から外気が引込まれ、結果的に気泡が液体に混入する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る液体吐出装置は、吐出口から吐出される液体を貯留する液体貯留室と、前記液体貯留室に液体を供給する供給流路と、前記液体貯留室から液体を排出する排出流路と、前記排出流路から排出された液体を前記供給流路に循環させる循環動作を制御する循環制御部と、前記吐出口から液体を吐出する吐出動作を制御する吐出制御部とを具備する液体吐出装置であって、前記循環制御部は、前記循環動作による液体の流速を、前記吐出動作中における前記循環動作による液体の流速よりも低下させた後に、前記循環動作を停止させる。
【0006】
本発明の好適な態様に係る液体吐出装置は、吐出口から吐出される液体を貯留する液体貯留室と、前記液体貯留室に液体を供給する供給流路と、前記液体貯留室から液体を排出する排出流路と、前記排出流路から排出された液体を前記供給流路に循環させる循環動作を制御する循環制御部と、前記吐出口から液体を吐出する吐出動作を制御する吐出制御部とを具備する液体吐出装置であって、前記循環制御部は、前記液体貯留室内の液体の圧力を、前記吐出動作中における前記液体貯留室内の液体の圧力よりも上昇させた後に、前記循環動作を停止させる。
【0007】
本発明の好適な態様に係る液体吐出装置は、吐出口から吐出される液体を貯留する液体貯留室と、前記液体貯留室に液体を供給する供給流路と、前記液体貯留室から液体を排出する排出流路と、前記排出流路から排出された液体を前記供給流路に循環させる循環動作を制御する循環制御部と、前記吐出口から液体を吐出する吐出動作を制御する吐出制御部とを具備する液体吐出装置であって、前記循環制御部は、前記循環動作を停止したときの液体の慣性力が、前記吐出動作中に前記循環動作を停止したときの液体の慣性力よりも低減される状態にした後に、前記循環動作を停止させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置の構成を例示するブロック図である。
【
図2】液体吐出装置におけるインクの流路の説明図である。
【
図3】循環ポンプの構成および第1状態の説明図である。
【
図4】循環ポンプの構成および第2状態の説明図である。
【
図5】液体吐出装置の動作の具体的な手順を例示するフローチャートである。
【
図10】第2実施形態の液体吐出装置におけるインクの流路の説明図である。
【
図11】第3実施形態の液体吐出装置におけるインクの流路の説明図である。
【
図12】第4実施形態の液体吐出装置におけるインクの流路の説明図である。
【
図13】第5実施形態の液体吐出装置におけるインクの流路の説明図である。
【
図14】第6実施形態の液体吐出装置におけるインクの流路の説明図である。
【
図15】第6実施形態における液体吐出装置の動作の具体的な手順を例示するフローチャートである。
【
図20】液体貯留室内の圧力の時間変化を表すグラフである。
【
図21】第7実施形態の液体吐出装置におけるインクの流路の説明図である。
【
図22】第8実施形態における液体吐出装置の動作の一部を例示するフローチャートである。
【
図23】第9実施形態における液体吐出装置の動作の一部を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置100Aを例示する構成図である。第1実施形態の液体吐出装置100Aは、液体の一例であるインクを媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象が媒体12として利用される。
図1に例示される通り、液体吐出装置100Aには、インクを貯留する液体容器14が設置される。例えば液体吐出装置100Aに着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、または、インクを補充可能なインクタンクが、液体容器14として利用される。
【0010】
図1に例示される通り、液体吐出装置100Aは、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体吐出ヘッド26とを具備する。制御ユニット20は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、液体吐出装置100Aの各要素を制御する。搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで媒体12をY方向に搬送する。
【0011】
移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで液体吐出ヘッド26をX方向に沿って往復させる。X方向は、媒体12が搬送されるY方向に交差する。例えばX方向とY方向とは相互に直交する。第1実施形態の移動機構24は、液体吐出ヘッド26を収容する略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定された搬送ベルト244とを具備する。なお、複数の液体吐出ヘッド26を搬送体242に搭載した構成、または、液体容器14を液体吐出ヘッド26とともに搬送体242に搭載した構成も採用され得る。
【0012】
液体吐出ヘッド26は、液体容器14から供給されるインクを制御ユニット20による制御のもとで複数の吐出口の各々から媒体12に吐出する。搬送機構22による媒体12の搬送と搬送体242の反復的な往復とに並行して各液体吐出ヘッド26が媒体12にインクを吐出することで、媒体12の表面に画像が形成される。
【0013】
図2は、液体吐出装置100Aにおけるインクの流路の説明図である。
図2に例示される通り、液体吐出ヘッド26は、液体貯留室31と内部供給流路32と内部排出流路33と複数の駆動素子34と複数の吐出口35とを具備する。液体貯留室31は、インクを貯留する内部空間である。内部供給流路32は、液体貯留室31にインクを供給するための流路であり、内部排出流路33は、液体貯留室31からインクを排出するための流路である。すなわち、内部供給流路32から供給されるインクのうち複数の吐出口35から吐出されないインクが内部排出流路33から液体吐出ヘッド26の外部に排出される。液体貯留室31は、複数の吐出口35にわたり共通する共通液室311と、共通液室311に連通する複数の圧力室312とを含む。内部供給流路32および内部排出流路33は、液体貯留室31のうち共通液室311に連通する。
【0014】
圧力室312と駆動素子34とは吐出口35毎に形成される。圧力室312は、吐出口35に連通する空間である。共通液室311から供給されるインクが複数の圧力室312の各々に充填される。駆動素子34は、圧力室312内のインクの圧力を変動させる。例えば圧力室312の壁面を変形させることで当該圧力室312の容積を変化させる圧電素子、または、圧力室312内のインクの加熱により圧力室312内に気泡を発生させる発熱素子が、駆動素子34として好適に利用される。駆動素子34が圧力室312内のインクの圧力を変動させることで、当該圧力室312内のインクが吐出口35から吐出される。
【0015】
図2に例示される通り、液体吐出装置100Aは、以上に説明した液体吐出ヘッド26のほか、圧送機構41と循環ポンプ42と外部供給流路43と外部排出流路44と循環流路45と貯留容器46と圧力調整部47とを具備する。
【0016】
圧送機構41は、液体容器14に貯留されたインクに圧力を付与して送出する。すなわち、圧送機構41はインクを圧送する。例えば液体容器14を加圧することでインクを送出する加圧機構、または、液体容器14からインクを吸引および送出する供給ポンプが、圧送機構41として好適に利用される。圧送機構41から送出されたインクは外部供給流路43に供給される。
【0017】
循環ポンプ42は、供給口に供給されるインクを排出口から送出する。外部供給流路43は、循環ポンプ42の排出口と液体吐出ヘッド26の内部供給流路32とを連通する管路である。循環ポンプ42から送出されたインクと圧送機構41から送出されたインクとが、外部供給流路43と内部供給流路32とを経由して液体貯留室31に供給される。すなわち、外部供給流路43および内部供給流路32は、液体貯留室31にインクを供給する供給流路51を構成する。
【0018】
図3および
図4は、循環ポンプ42の具体的な構成および動作を説明するための模式図である。循環ポンプ42は、第1容器421および第2容器422と、制御ユニット20による制御のもとで開閉される4個の弁(425~428)とを具備する。
【0019】
第1容器421および第2容器422の各々は、制御ユニット20による制御のもとで加圧または減圧される。第1容器421の内部には、インクを収容した状態で変形可能な第1パック423が設置される。同様に、第2容器422の内部には、インクを収容した状態で変形可能な第2パック424が設置される。
【0020】
第1弁425は、第1パック423と循環流路45とを連通する流路に設置される。第2弁426は、第1パック423と外部供給流路43とを連通する流路に設置される。第3弁427は、第2パック424と循環流路45とを連通する流路に設置される。第4弁428は、第2パック424と外部供給流路43とを連通する流路に設置される。
【0021】
図3に例示された第1状態は、第1弁425および第4弁428が閉状態に維持され、第2弁426および第3弁427が開状態に維持される状態である。第1状態では、第1容器421が加圧され、第2容器422が減圧される。第1容器421の加圧により第1パック423が収縮することで、第1弁425よりも下流側にあるインクは外部供給流路43側に流出する。また、第2容器422の減圧により第2パック424が拡張することで、第4弁428よりも上流側にあるインクは循環流路45を介して第2パック424に流入する。
【0022】
図4に例示された第2状態は、第1弁425および第4弁428が開状態に維持され、第2弁426および第3弁427が閉状態に維持される状態である。第2状態では、第1容器421が減圧され、第2容器422が加圧される。第2容器422の加圧により第2パック424が収縮することで、第3弁427よりも下流側にあるインクは外部供給流路43側に流出する。また、第1容器421の減圧により第1パック423が拡張することで、第2弁426よりも上流側にあるインクは循環流路45を介して第1パック423に流入する。
【0023】
以上に説明した第1状態および第2状態の一方から他方に交互に遷移することで、循環流路45から外部供給流路43に対してインクが送出される。なお、圧送機構41についても循環ポンプ42と同様の構成を採用することができる。
【0024】
図2の貯留容器46は、インクを貯留する容器である。外部排出流路44は、液体吐出ヘッド26の内部排出流路33と貯留容器46とを連通する管路である。液体貯留室31から排出されたインクが内部排出流路33と外部排出流路44とを経由して貯留容器46に供給される。すなわち、外部排出流路44および内部排出流路33は、液体貯留室31からインクを排出する排出流路52を構成する。
【0025】
循環流路45は、貯留容器46と循環ポンプ42の供給口とを連通する管路である。すなわち、貯留容器46に貯留されたインクが循環流路45を経由して循環ポンプ42の供給口に供給される。以上の説明から理解される通り、液体貯留室31に貯留されたインクのうち吐出口35から吐出されないインクは、内部排出流路33→外部排出流路44→貯留容器46→循環流路45→循環ポンプ42→外部供給流路43→内部供給流路32→液体貯留室31、という経路で循環する。すなわち、液体貯留室31から排出された液体を当該液体貯留室31に循環させる動作(以下「循環動作」という)が実行される。
【0026】
循環動作は、液体吐出ヘッド26が制御ユニット20による制御のもとで各吐出口35からインクを吐出する動作(以下「吐出動作」という)に並行して実行される。制御ユニット20は、循環動作と吐出動作とを制御する。すなわち、第1実施形態の制御ユニット20は、循環動作を制御する循環制御部、および、吐出動作を制御する吐出制御部として機能する。
【0027】
圧力調整部47は、制御ユニット20による制御のもとで液体貯留室31内の圧力を調整する。例えば貯留容器46を鉛直方向に昇降することで液体貯留室31内のインクの圧力を水頭に応じて調整する昇降機構が、圧力調整部47として好適に利用される。ただし、圧力調整部47の具体的な構成は任意であり、公知の種々の機構が圧力調整部47として採用され得る。
【0028】
図2に例示される通り、供給流路51には第1流量調整部61と開閉弁71とが設置される。具体的には、外部供給流路43に第1流量調整部61および開閉弁71が設置される。ただし、液体吐出ヘッド26の内部供給流路32に第1流量調整部61および開閉弁71の一方または双方を設置してもよい。
【0029】
第1流量調整部61は、供給流路51内のインクの流量を調整する機構である。具体的には、第1流量調整部61は、第1流路611と第2流路612と切替弁613とを含む。第1流路611および第2流路612は、供給流路51の一部を構成する。第1流路611と第2流路612とは相互に並列に接続される。すなわち、第2流路612は、特定の位置で第1流路611から分岐し、当該地点から液体貯留室31側に離間した位置で第1流路611に合流するバイパス流路である。第2流路612の流路抵抗は第1流路611の流路抵抗よりも高い。例えば第2流路612の流路面積は第1流路611の流路面積よりも小さい。
【0030】
切替弁613は、第1流路611の開放と閉塞とを切替える弁機構である。制御ユニット20は、切替弁613の状態を、第1流路611を開放する開状態と、第1流路611を閉塞する閉状態との何れかに制御する。切替弁613が開状態にある場合、循環ポンプ42から供給流路51に供給されるインクは第1流路611を通過する。他方、切替弁613が閉状態にある場合、循環ポンプ42から供給流路51に供給されるインクは第2流路612を通過する。前述の通り、第2流路612の流路抵抗は第1流路611の流路抵抗よりも高い。したがって、切替弁613が閉状態にある場合に供給流路51から液体貯留室31に供給されるインクの流速V2は、切替弁613が開状態にある場合に供給流路51から液体貯留室31に供給されるインクの流速V1よりも低い(V2<V1)。
【0031】
以上の説明から理解される通り、制御ユニット20が切替弁613を開状態から閉状態に遷移させることで循環動作によるインクの流速が低下する。すなわち、制御ユニット20は、インクが通過する流路を第1流路611から第2流路612に切替えることで、循環動作によるインクの流速を低下させる。なお、流量調整用の弁機構を第2流路612に設置することで、第2流路612を通過する流量を変更できる構成も好適である。
【0032】
図2の開閉弁71は、供給流路51の開放と閉塞とを切替える弁機構である。制御ユニット20は、開閉弁71の状態を、供給流路51を開放する開状態と、供給流路51を閉塞する閉状態との何れかに制御する。開閉弁71が開状態にある場合、循環ポンプ42から送出されるインクは供給流路51を通過して液体貯留室31に供給される。他方、開閉弁71が閉状態にある場合、循環ポンプ42から送出されるインクの流動は開閉弁71により阻止される。以上の説明から理解される通り、開閉弁71が開状態にある場合には循環動作が継続され、開閉弁71が閉状態にある場合には循環動作が停止される。すなわち、制御ユニット20が開閉弁71を開状態から閉状態に遷移させることで循環動作が停止する。以上の説明から理解される通り、制御ユニット20は、第1流量調整部61および開閉弁71を制御することで循環動作を制御する。
【0033】
図5は、液体吐出装置100Aの動作の具体的な手順を例示するフローチャートである。液体吐出装置100Aの電源の投入または待機状態からの復帰を契機として
図5の処理が開始される。
図5の処理が開始される時点では、切替弁613は開状態にある。なお、以下の各図面においては、例えば
図6に図示される通り、符号S1で指示された図形により開状態が表現され、符号S2で指示された図形により閉状態が表現される。
【0034】
制御ユニット20は、
図6に例示される通り、開閉弁71を閉状態に制御する(Sa1)。開閉弁71が閉状態に維持された状態で、制御ユニット20は、圧力調整部47を制御することで液体貯留室31内の圧力を圧力P1に調整する(Sa2)。圧力P1は、例えば-2.5kPa程度の負圧である。
【0035】
制御ユニット20は、
図7に例示される通り、開閉弁71を閉状態から開状態に遷移させる(Sa3)。開閉弁71が開状態に遷移することで、液体吐出ヘッド26の液体貯留室31から排出されたインクを当該液体貯留室31に循環させる循環動作が開始される。切替弁613は開状態にあるから、循環動作では、第1流路611を経由した流速V1のインクが液体貯留室31に供給される。以上に説明した循環動作の開始により、液体貯留室31内の圧力は圧力P1から圧力P2に上昇する。圧力P2は、例えば-1kPa程度の負圧である。すなわち、液体貯留室31内が負圧に維持された状態で循環動作が継続される。
【0036】
制御ユニット20は、循環動作が継続された状態で、液体吐出ヘッド26に吐出動作を実行させる(Sa4)。吐出動作は、外部装置または利用者から終了が指示されるまで反復される(Sa5:NO)。吐出動作の終了が指示されると(Sa5:YES)、制御ユニット20は、液体吐出ヘッド26に吐出動作を終了させる(Sa6)。なお、
図7に例示される通り、開閉弁71は開状態に維持されるから、吐出動作の終了後も循環動作は継続される。
【0037】
吐出動作が終了すると、制御ユニット20は、
図8に例示される通り、切替弁613を開状態から閉状態に遷移させる(Sa7)。切替弁613が閉状態に遷移する時点では開閉弁71は開状態に維持される。切替弁613が閉状態に遷移することで、供給流路51に供給されたインクが第1流路611を通過する状態から第2流路612を通過する状態に移行する。したがって、循環動作によるインクの流速は、吐出動作中の循環動作によるインクの流速V1を下回る流速V2に低下する。すなわち、制御ユニット20は、インクが通過する流路を第1流路611から第2流路612に切替えることで、循環動作によるインクの流速を低下させる。インクの速度の低下後も循環動作は継続される。
【0038】
制御ユニット20は、
図9に例示される通り、切替弁613が閉状態に維持された状態で開閉弁71を開状態から閉状態に遷移させる(Sa8)。開閉弁71が閉状態に遷移することで循環動作によるインクの流動が阻止される。すなわち、循環動作が停止する。以上の説明から理解される通り、第1実施形態の制御ユニット20は、循環動作によるインクの流速を吐出動作中の循環動作によるインクの流速V1よりも低下させた後に、循環動作を停止させる。
【0039】
以上の手順で停止した液体吐出装置100Aの動作を再開する場合には、
図5に例示した処理が再び実行される。なお、
図5のステップSa8における循環動作の停止後も圧送機構41の動作は継続される。したがって、
図5の処理が開始されると、循環動作を迅速に再開することが可能である。
【0040】
ところで、循環動作によるインクの流速V1が維持された状態で循環動作を停止させる構成(以下「比較例1」という)では、循環動作の停止により発生するインクの慣性力により液体貯留室31内に過度な負圧が発生する可能性がある。液体貯留室31内に過度な負圧が発生すると、各吐出口35から外気が引込まれ、液体吐出ヘッド26内のインクに気泡が混入する可能性がある。
【0041】
比較例1とは対照的に、第1実施形態では、循環動作によるインクの流速を循環動作の停止前に低下させるから、循環動作の停止に起因したインクの慣性力が低減される。したがって、第1実施形態によれば、比較例1と比較して、液体貯留室31内の圧力が過度な負圧に変動する可能性を低減できる。液体貯留室31内の負圧に起因して各吐出口35から外気が引込まれることが抑制されるから、液体貯留室31内のインクに混入する可能性を低減することができる。以上の説明から理解される通り、循環動作によるインクの流速を低下させる動作は、循環動作を停止したときのインクの慣性力を低減する動作に相当する。
【0042】
<第2実施形態>
第2実施形態を説明する。以下の各例示において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0043】
図10は、第2実施形態の液体吐出装置100Aにおけるインクの流路の説明図である。
図10に例示される通り、第2実施形態の液体吐出装置100Aは、第1実施形態の液体吐出装置100Aに逆流抑制部36を追加した構成である。逆流抑制部36以外の構成および液体吐出装置100Aの動作は、第1実施形態と同様である。したがって、第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0044】
図10に例示される通り、逆流抑制部36は排出流路52に設置される。
図10では、液体吐出ヘッド26の内部排出流路33に逆流抑制部36を設置した構成が例示されている。ただし、外部排出流路44に逆流抑制部36を設置してもよい。逆流抑制部36は、インクの逆流を抑制する弁機構である。具体的には、逆流抑制部36は、液体貯留室31から貯留容器46に向かう順方向のインクを通過させ、貯留容器46から液体貯留室31に向かう逆方向については微量のインクのみを通過させる。第2実施形態の逆流抑制部36は、逆方向に移動する異物を阻止する機能を具備する。例えば、テーパー状の台座361が形成された空間内に剛性の球体362を収容したフロート型の逆止弁が逆流抑制部36として好適に利用される。なお、逆方向のインクの流動を完全に阻止する弁機構を逆流抑制部36として利用してもよい。
【0045】
逆流抑制部36が設置された構成では、貯留容器46から液体貯留室31に向かう逆方向のインクの流動が抑制されるから、循環動作の停止に起因して顕著な負圧が液体貯留室31内に発生し易く、かつ、負圧の解消に長時間が必要であるという傾向がある。したがって、第2実施形態の構成のもとでは、循環動作の停止前にインクの流速を低下させることで液体貯留室31内の過度な負圧を抑制する構成が特に有効である。なお、第2実施形態で例示した逆流抑制部36は、以下に例示する第3実施形態から第5実施形態にも同様に適用される。
【0046】
<第3実施形態>
図11は、第3実施形態の液体吐出装置100Aにおけるインクの流路の説明図である。
図11に例示される通り、第3実施形態では、第1実施形態の第1流量調整部61が第2流量調整部62に置換される。第2流量調整部62は供給流路51に設置される。具体的には、外部供給流路43に第2流量調整部62が設置される。ただし、液体吐出ヘッド26の内部供給流路32に第2流量調整部62を設置してもよい。
【0047】
第2流量調整部62は、供給流路51内のインクの流量を調整する弁機構である。制御ユニット20は、第2流量調整部62を制御することで、供給流路51から液体貯留室31に供給されるインクの流量を調整する。供給流路51内におけるインクの流量に応じて循環動作によるインクの流速が変化する。例えば、流路内に突出するニードルを回転させることで流量を調整するニードルバルブ、流路内の球体の角度を変化させることで流量を調整するボールバルブ、流路を構成する弾性体のチューブに対する押圧力を変化させることで流量を調整するチューブバルブが、第2流量調整部62として好適に利用される。
【0048】
第3実施形態の制御ユニット20は、
図5のステップSa7において、第2流量調整部62を制御することで供給流路51内のインクの流量を減少させる。供給流路51内の流量が減少することで、循環動作によるインクの流速は低下する。循環動作によるインクの流速が第1実施形態と同様に流速V1から流速V2に低下するように、制御ユニット20は第2流量調整部62を制御する。すなわち、第3実施形態の制御ユニット20は、第2流量調整部62により供給流路51内の流量を減少させることで、循環動作によるインクの流速を低下させる。ステップSa7以外の動作は第1実施形態と同様である。したがって、第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0049】
<第4実施形態>
図12は、第4実施形態の液体吐出装置100Aにおけるインクの流路の説明図である。
図12に例示される通り、第4実施形態の液体吐出装置100Aは、第1実施形態における第1流量調整部61を省略し、連通流路48と第3流量調整部63とを設置した構成である。
【0050】
連通流路48は、供給流路51と排出流路52とを連通する管路である。具体的には、外部供給流路43と外部排出流路44とが連通流路48により相互に連通される。ただし、液体吐出ヘッド26の内部に形成された連通流路48により内部供給流路32と内部排出流路33とを連通してもよい。
【0051】
第3流量調整部63は、連通流路48内のインクの流量を調整する弁機構である。制御ユニット20は、第3流量調整部63を制御することで供給流路51内のインクの流量を調整する。第2流量調整部62と同様に、例えばニードルバルブ、ボールバルブまたはチューブバルブ等の各種の弁機構が第3流量調整部63として好適に利用される。なお、連通流路48が液体吐出ヘッド26の内部に設置された構成では、第3流量調整部63も液体吐出ヘッド26の内部に設置される。
【0052】
第4実施形態の制御ユニット20は、循環動作が継続される期間内(Sa3~Sa6)において、連通流路48内のインクの流量を、第3流量調整部63の制御により流量Q1に維持する。流量Q1は、例えばゼロまたはゼロに近い少量である。他方、循環動作の停止前のステップSa7において、制御ユニット20は、連通流路48内のインクの流量を、第3流量調整部63の制御により流量Q2に増加させる。供給流路51から連通流路48に流入するインクの流量が増加することで、供給流路51から液体貯留室31に供給されるインクの流量は減少する。液体貯留室31に供給されるインクの流量が減少することで、循環動作によるインクの流速は低下する。循環動作によるインクの流速が第1実施形態と同様に流速V1から流速V2に低下するように、制御ユニット20は第3流量調整部63を制御する。すなわち、第4実施形態の制御ユニット20は、第3流量調整部63により連通流路48内の流量を増加させることで、循環動作によるインクの流速を低下させる。第3流量調整部63の制御以外の動作は第1実施形態と同様である。したがって、第4実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0053】
<第5実施形態>
図13は、第5実施形態の液体吐出装置100Aにおけるインクの流路の説明図である。
図13に例示される通り、第5実施形態の液体吐出装置100Aは、第1実施形態における第1流量調整部61を省略した構成である。
【0054】
前述の通り、圧送機構41から送出されたインクは供給流路51を経由して液体貯留室31に供給される。循環動作によるインクの流速は、圧送機構41がインクに付与する圧力に依存する。第5実施形態の制御ユニット20は、圧送機構41を制御することで循環動作によるインクの流速を制御する。具体的には、
図5のステップSa7において、制御ユニット20は、圧送機構41がインクに付与する圧力を低下させることで、循環動作によるインクの流速を流速V1から流速V2に低下させる。ステップSa7以外の動作は第1実施形態と同様である。したがって、第5実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。
【0055】
<第6実施形態>
図14は、第6実施形態の液体吐出装置100Bにおけるインクの流路の説明図である。
図14に例示される通り、液体吐出装置100Bは、第1実施形態の液体吐出装置100Aから第1流量調整部61を省略した構成である。すなわち、第6実施形態の液体吐出装置100Bは、液体吐出ヘッド26、圧送機構41、循環ポンプ42、外部供給流路43、外部排出流路44、循環流路45、貯留容器46、および圧力調整部47を具備する。各要素の構成は第1実施形態と同様である。
【0056】
図15は、液体吐出装置100Bの動作の具体的な手順を例示するフローチャートである。液体吐出装置100Bの電源の投入または待機状態からの復帰を契機として
図15の処理が開始される。
【0057】
制御ユニット20は、
図16に例示される通り、開閉弁71を閉状態に制御する(Sb1)。開閉弁71が閉状態に維持された状態で、制御ユニット20は、圧力調整部47を制御することで液体貯留室31内の圧力を圧力P1に調整する(Sb2)。圧力P1は、例えば-2.5kPa程度の負圧である。
【0058】
制御ユニット20は、
図17に例示される通り、開閉弁71を閉状態から開状態に遷移させる(Sb3)。開閉弁71が開状態に遷移することで、液体吐出ヘッド26の液体貯留室31から排出されたインクを当該液体貯留室31に循環させる循環動作が開始される。以上に説明した循環動作の開始により、液体貯留室31内の圧力は圧力P1から圧力P2に上昇する。圧力P2は、例えば-1kPa程度の負圧である。すなわち、液体貯留室31内が負圧に維持された状態で循環動作が継続される。なお、圧力P1および圧力P2は、例えば大気圧を基準として-4kPa以上かつ-1kPa以下の範囲内の数値に設定される。
【0059】
制御ユニット20は、循環動作が継続された状態で、液体吐出ヘッド26に吐出動作を実行させる(Sb4)。吐出動作は、外部装置または利用者から終了が指示されるまで反復される(Sb5:NO)。吐出動作の終了が指示されると(Sb5:YES)、制御ユニット20は、液体吐出ヘッド26に吐出動作を終了させる(Sb6)。なお、
図17に例示される通り、開閉弁71は開状態に維持されるから、吐出動作の終了後も循環動作は継続される。
【0060】
吐出動作が終了すると、制御ユニット20は、
図18に例示される通り、圧力調整部47を制御することで、液体貯留室31内のインクの圧力を圧力P3に上昇させる(Sb7)。例えば圧力調整部47は、貯留容器46を鉛直方向に上昇させることで液体貯留室31内の圧力を圧力P3に上昇させる。圧力P3は、吐出動作中における液体貯留室31内のインクの圧力P2よりも高い。圧力P3は、例えば大気圧を基準として0kPa以上かつ3kPa以下の範囲内の数値に設定される。例えば圧力P3は、+3kPa程度の正圧である。すなわち、液体貯留室31内のインクの圧力が負圧から正圧に変化する。液体貯留室31内の圧力の上昇後も循環動作は継続される。
【0061】
制御ユニット20は、
図19に例示される通り、液体貯留室31内のインクが圧力P3に維持された状態で開閉弁71を開状態から閉状態に遷移させる(Sb8)。開閉弁71が閉状態に遷移することで循環動作が停止する。以上の説明から理解される通り、第6実施形態の制御ユニット20は、液体貯留室31内のインクの圧力を、吐出動作中における液体貯留室31内のインクの圧力P2よりも上昇させた後に、循環動作を停止させる。
【0062】
以上の手順で停止した液体吐出装置100Bの動作を再開する場合には、
図15に例示した処理が再び実行される。なお、
図15のステップSb8における循環動作の停止後も圧送機構41の動作は継続される。したがって、
図15の処理が開始されると、循環動作を迅速に再開することが可能である。
【0063】
ところで、液体貯留室31内の圧力が吐出動作中の圧力P2に維持された状態で循環動作を停止させる構成(以下「比較例2」という)では、循環動作の停止により発生するインクの慣性力により液体貯留室31内に過度な負圧が発生する可能性がある。
【0064】
比較例2とは対照的に、第6実施形態では、循環動作による液体貯留室31内のインクの圧力を循環動作の停止前に上昇させるから、比較例2と比較して、液体貯留室31内の圧力が過度な負圧まで低下する可能性を低減できる。したがって、液体貯留室31内の負圧に起因して各吐出口35から外気が引込まれることが抑制され、液体貯留室31内のインクに混入する可能性を低減することができる。また、第6実施形態では、循環動作の停止前に液体貯留室31内の圧力Pを正圧まで上昇させるから、循環動作を停止した状態が長時間にわたり継続する場合でも、吐出口35からの外気の引込みが効果的に抑制される。
【0065】
図20は、液体貯留室31内の圧力Pの時間変化を表すグラフである。
図20の横軸は、循環動作が停止される時点を起点とした経過時間tである。経過時間tのゼロは、
図15のステップSb8において開閉弁71が開状態から閉状態に切替わる時点に相当する。
図20には、第6実施形態における液体貯留室31内の圧力Pの時間変化F1と、比較例2における圧力Pの時間変化F2とが併記されている。また、
図20には、吐出口35内のインクのメニスカスを維持するための、液体貯留室31内の圧力Pの範囲Rが図示されている。すなわち、液体貯留室31内の圧力Pが範囲Rの上限値RHを上回ると吐出口35からインクが流出し、圧力Pが範囲Rの下限値RLを下回ると吐出口35から外気が引込まれる。
【0066】
図20に例示される通り、比較例2では、循環動作を停止した直後に、液体貯留室31内の圧力Pが、インクの慣性力により、範囲Rの下限値RLを下回る負圧まで低下する。したがって、比較例2では吐出口35からの外気の引込みが問題となる。他方、第6実施形態では、循環動作が停止される時点において液体貯留室31内の圧力Pが圧力P3まで上昇している。したがって、循環動作の停止に起因したインクの慣性力により液体貯留室31内の圧力Pが低下しても、当該圧力Pは範囲R内に維持される。以上のように第6実施形態によれば、液体貯留室31内の圧力Pが過度な負圧まで低下する可能性が低減される。したがって、吐出口35からの外気の引込みが抑制され、液体貯留室31内のインクに混入する可能性を低減することができる。
【0067】
なお、ステップSb7において液体貯留室31内のインクの圧力Pを圧力P3に上昇させることで、循環動作によるインクの流速および流量が低下する。したがって、第6実施形態において液体貯留室31内の圧力Pを上昇させる動作は、循環動作を停止したときのインクの慣性力を低減する動作に相当する。
【0068】
<第7実施形態>
図21は、第7実施形態の液体吐出装置100Bにおけるインクの流路の説明図である。
図21に例示される通り、第7実施形態の液体吐出装置100Bは、第6実施形態の液体吐出装置100Bに逆流抑制部36を追加した構成である。逆流抑制部36以外の構成および液体吐出装置100Bの動作は、第6実施形態と同様である。したがって、第7実施形態においても第6実施形態と同様の効果が実現される。逆流抑制部36は、第2実施形態において前述した通り、排出流路52に設置され、インクの逆流を抑制する。
【0069】
図20には、前述の比較例2に逆流抑制部36を追加した構成(以下「比較例3」という)における液体貯留室31内の圧力Pの時間変化F3が併記されている。逆流抑制部36が設置された比較例3では、循環動作の停止に起因して比較例2よりも顕著な負圧が液体貯留室31内に発生し、かつ、負圧の解消に長時間が必要である、という傾向が
図20から確認できる。したがって、循環動作の停止前に圧力Pを上昇させることで液体貯留室31内の過度な負圧を抑制する構成は、第7実施形態のように逆流抑制部36が設置された構成に特に有効である。なお、第7実施形態で例示した逆流抑制部36は、以下に例示する第8実施形態および第9実施形態にも同様に適用される。
【0070】
<第8実施形態>
第8実施形態における液体吐出装置100Bの構成は第6実施形態と同様である。
図22は、第8実施形態における液体吐出装置100Bの動作の一部を例示するフローチャートである。ステップSb1からステップSb8の動作は、
図15を参照して説明した第6実施形態と同様である。したがって、第8実施形態においても第6実施形態と同様の効果が実現される。
【0071】
ステップSb8において循環動作を停止させると、制御ユニット20は、圧力調整部47を制御することで、液体貯留室31内の圧力Pを循環動作の開始前の圧力P1まで経時的に変化させる(Sc1)。具体的には、圧力調整部47は、ステップSb7で上昇させた貯留容器46を徐々に鉛直方向に下降させることで、液体貯留室31内の圧力Pを圧力P1まで強制的に変化させる。例えば40秒程度の時間をかけて圧力Pが圧力P1まで徐々に変化する。
【0072】
以上に説明した通り、第8実施形態では、循環動作の停止後に液体貯留室31内の圧力Pが循環動作の開始前の圧力P1まで経時的に変化するから、循環動作の停止の直後における液体貯留室31内の圧力変動が抑制される。したがって、液体貯留室31内の圧力Pの不意な変動により吐出口35から外気が引込まれる可能性を低減することが可能である。
【0073】
<第9実施形態>
第9実施形態における液体吐出装置100Bの構成は第7実施形態と同様である。すなわち、第9実施形態の液体吐出装置100Bは逆流抑制部36を具備する。
図23は、第9実施形態における液体吐出装置100Bの動作の一部を例示するフローチャートである。第9実施形態では、第6実施形態と同様の動作にステップSc2が追加される。ステップSc2以外の動作は、
図15を参照して説明した第6実施形態と同様である。したがって、第9実施形態においても第6実施形態と同様の効果が実現される。
【0074】
ステップSb7において液体貯留室31内の圧力Pを上昇させると、制御ユニット20は、圧力調整部47を制御することで、上昇後の圧力P3の近傍において圧力Pを反復的に微細に変動させる(Sc2)。具体的には、圧力調整部47は、ステップSb7で上昇させた貯留容器46を鉛直方向に振動させることで、液体貯留室31内の圧力Pを、圧力P3を基準として周期的に変動させる。圧力Pの変動が継続している状態で循環動作が停止される(Sb8)。
【0075】
以上のように圧力Pが反復的に変動することで、逆流抑制部36を構成する球体362が台座361に対して反復的に接触および離間する。球体362が台座361から離間した状態では貯留容器46から液体貯留室31に向けてインクが逆流する。したがって、循環動作の停止の直後における液体貯留室31内の負圧を迅速に解消することが可能である。
【0076】
<変形例>
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0077】
(1)循環動作によるインクの流速を循環動作の停止前に低下させる第1実施形態から第5実施形態の構成と、液体貯留室31内の圧力Pを循環動作の停止前に上昇させる第6実施形態から第9実施形態の構成とを組合せてもよい。以上の構成によれば、循環動作の停止により液体貯留室31内の圧力Pが過度な負圧に変動する可能性を、さらに効果的に低減することができる。
【0078】
(2)前述の各形態において、液体貯留室31内の圧力Pを検出する圧力センサーを設置してもよい。制御ユニット20は、圧力センサーによる検出値に応じて圧力調整部47を制御することで、液体貯留室31内の圧力Pを調整する。例えば、
図20に例示した範囲R内に圧力Pが維持されるように、制御ユニット20は検出値に応じて圧力調整部47を制御する。以上の構成によれば、圧力Pを適切な範囲R内に高精度に維持することが可能である。
【0079】
(3)前述の各形態では、内部供給流路32と外部供給流路43とで供給流路51を構成したが、内部供給流路32および外部供給流路43の一方のみで供給流路51を構成してもよい。すなわち、内部供給流路32または外部供給流路43は省略され得る。また、前述の各形態では、内部排出流路33と外部排出流路44とで排出流路52を構成したが、内部排出流路33および外部排出流路44の一方のみで排出流路52を構成してもよい。すなわち、内部排出流路33または外部排出流路44は省略され得る。
【0080】
(4)前述の各形態では、液体吐出ヘッド26を搭載した搬送体242を往復させるシリアル方式の液体吐出装置を例示したが、複数の吐出口35が媒体12の全幅にわたり分布するライン方式の液体吐出装置にも本発明を適用することが可能である。
【0081】
(5)前述の各形態で例示した液体吐出装置は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示パネル等の表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。また、生体に関する有機物の溶液を吐出する液体吐出装置は、例えばバイオチップを製造する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0082】
100A,100B…液体吐出装置、12…媒体、14…液体容器、20…制御ユニット、22…搬送機構、24…移動機構、242…搬送体、244…搬送ベルト、26…液体吐出ヘッド、31…液体貯留室、311…共通液室、312…圧力室、32…内部供給流路、33…内部排出流路、34…駆動素子、35…吐出口、36…逆流抑制部、361…台座、362…球体、41…圧送機構、42…循環ポンプ、43…外部供給流路、44…外部排出流路、45…循環流路、46…貯留容器、47…圧力調整部、48…連通流路、51…供給流路、52…排出流路、61…第1流量調整部、62…第2流量調整部、63…第3流量調整部、71…開閉弁。