(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】エンジンの冷却装置
(51)【国際特許分類】
F02M 26/33 20160101AFI20221220BHJP
F01P 3/20 20060101ALI20221220BHJP
F01P 11/16 20060101ALI20221220BHJP
F01P 7/16 20060101ALI20221220BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20221220BHJP
F02B 23/10 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F02M26/33 301
F01P3/20 F
F01P11/16 E
F01P7/16 A
F01P3/02 F
F02B23/10 320
(21)【出願番号】P 2019012510
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】柴田 顕太郎
(72)【発明者】
【氏名】小口 智弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 久善
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080925(JP,A)
【文献】特開2014-181654(JP,A)
【文献】特開2012-041904(JP,A)
【文献】特開2016-065515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/00
F01P 7/14
F01P 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に還流されるEGRガスを冷却するためのEGRクーラを備えたエンジンの冷却装置であって、
エンジン本体を経由して冷却水を循環させる第1冷却水経路と、
エンジン本体を経由して冷却水を循環させる経路であって、前記第1冷却水経路から冷却水を分流させ、前記EGRクーラ
及びヒータコアを経由させる第2冷却水経路と、
前記第2冷却水経路の途中に配置される流量制御バルブと、
前記エンジン本体の壁面温度を取得する第1温度取得部と、
前記EGRクーラ内の冷却水の温度を取得する第2温度取得部と、
前記流量制御バルブを制御する制御部と、を備え、
前記エンジン本体は、シリンダブロックとシリンダヘッドとを備え、
前記第1冷却水経路は、前記シリンダブロックと、前記シリンダヘッドの燃焼室に隣接する位置における吸気ポート及び排気ポートの周辺と、ラジエータとの間で冷却水を循環させるように設けられ、
前記第2冷却水経路は、前記シリンダブロックと、前記シリンダヘッドの排気ポート周辺であってかつ前記第1冷却水経路よりも反燃焼室側の位置と、前記EGRクーラとの間で冷却水を循環させるように設けられ、
前記第2温度取得部は、EGR温度、EGR流量及び前記エンジン本体における冷却水の温度を取得し、前記EGRクーラ内におけるEGRガス流通部分から冷却水流通部分に亘る温度勾配を示す所定の水温モデルに基づき当該EGRクーラ内の冷却水の温度を求め、
前記制御部は、前記エンジン本体の温度が予め設定された設定温度よりも低いときには、当該設定温度以上のときに比べて前記第2冷却水経路における冷却水の流量を低減する流量規制制御を実行するとともに、前記第2温度取得部により求められた前記EGRクーラ内の冷却水の温度が、当該冷却水の沸騰を抑制するために予め設定された閾値温度以上であるときには、前記流量規制制御の実行を回避する、ことを特徴とする、エンジンの冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの冷却装置において、
前記制御部は、前記エンジン本体の温度が前記設定温度よりも低いときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を「0」にする一方、前記設定温度以上のときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を第1流量とするとともに、前記流量規制制御の実行を回避するときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を前記第1流量、又は当該第1流量よりも少ない第2流量とする、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの冷却装置において、
前記閾値温度を第1閾値温度と定義したときに、
前記制御部は、前記EGRクーラ内の冷却水の温度が、前記第1閾値温度以上であってかつ当該第1閾値温度よりも高い第2閾値温度よりも低いときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を前記第2流量とし、前記第2閾値温度以上であるときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を前記第1流量とする、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【請求項4】
請求項1乃至
3の何れか一項に記載のエンジンの冷却装置において、
前記エンジン本体は、少なくとも低負荷低回転の運転領域では、前記燃焼室内の混合気の一部を点火プラグによる点火点から火炎伝播によりSI燃焼させるとともにその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼が実行されるものである、ことを特徴とするエンジンの冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGRガスを冷却するためのEGRクーラを備え、このEGRクーラに冷却液を循環させるエンジンの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)の冷却装置では、エンジン(シリンダブロックなど)にウォータジャケットを設け、ウォータポンプの駆動により、ウォータジャケットを経由するように冷却水を循環させることで、エンジン全体を冷却する。エンジンがEGRクーラを備えている場合には、当該EGRクーラに用いられる冷却水は、エンジンの冷却を兼ねた冷却水である。すなわち、EGRクーラを冷却するための流路は、通常、エンジンの冷却を行うメインの冷却水回路から分岐し、EGRクーラを経由して前記冷却水回路に合流するように設けられる。但し、EGRクーラを冷却するための冷却水回路を、エンジンの冷却を行うメインの冷却水回路とは別個独立に設けた冷却装置も考えられている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンの冷却装置では、暖機時にウォータポンプを停止させて(又は実質的に停止させた状態として)冷却水の流通を停止させ、暖機が進むと、ウォータポンプを作動させて冷却水の流通を開始させる制御が実行される。これは、燃焼室の温度上昇を促して、エンジンの燃焼状態を早期に安定化させるためである。
【0005】
しかし、エンジンの運転状態によっては、冷却水の流通開始前に、排気通路から吸気通路へのEGRガスの還流が開始される場合がある。このような場合には、EGRクーラ内に滞留している冷却水の温度が上昇し、この温度上昇によりEGRクーラに部分的な変形が生じ、最悪の場合にはクラックが発生することが考えられる。このようなトラブルは未然に防止することが求められる。
【0006】
近年、火花点火をきっかけに混合気の一部を火炎伝播により強制的に燃焼(SI燃焼)させ、その他の混合気を自着火により燃焼(CI燃焼)させることを企図した部分圧縮着火燃焼(SPCCI燃焼)を実行させることが可能なエンジンが開発されているが、このようなエンジンでは、安定した燃焼状態を確保するために燃焼室の温度を比較的高い温度にすることが求められる。そのため、冷却水の実質的な流通の開始が一般的なエンジン(SI燃焼のみを実行させるエンジン)に比べて遅くなる傾向があり、前記トラブルの発生リスクが高くなることが予想される。
【0007】
なお、このような不都合を解消するために、特許文献1に開示されるような冷却装置を採用することも考えられる。しかし、メインの冷却水回路とは別に、EGRクーラを冷却するための専用の冷却水回路を設けることは、重量増加に伴う燃費性能の悪化やコストアップなど、多くの解決すべき課題を伴うこととなり現実的ではない。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みて成されたものであり、冷間時のエンジンの燃焼安定性を確保しながら、EGRクーラ内の冷却水温の上昇に伴うEGRクーラの損傷を未然に防止できるようにする、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面に係るエンジンの冷却装置は、エンジン本体を経由して冷却水を循環させる第1冷却水経路と、エンジン本体を経由して冷却水を循環させる経路であって、前記第1冷却水経路から冷却水を分流させ、前記EGRクーラ及びヒータコアを経由させる第2冷却水経路と、前記第2冷却水経路の途中に配置される流量制御バルブと、前記エンジン本体の壁面温度を取得する第1温度取得部と、前記EGRクーラ内の冷却水の温度を取得する第2温度取得部と、前記流量制御バルブを制御する制御部と、を備え、前記エンジン本体は、シリンダブロックとシリンダヘッドとを備え、前記第1冷却水経路は、前記シリンダブロックと、前記シリンダヘッドの燃焼室に隣接する位置における吸気ポート及び排気ポートの周辺と、ラジエータとの間で冷却水を循環させるように設けられ、前記第2冷却水経路は、前記シリンダブロックと、前記シリンダヘッドの排気ポート周辺であってかつ前記第1冷却水経路よりも反燃焼室側の位置と、前記EGRクーラとの間で冷却水を循環させるように設けられ、前記第2温度取得部は、EGR温度、EGR流量及び前記エンジン本体における冷却水の温度を取得し、前記EGRクーラ内におけるEGRガス流通部分から冷却水流通部分に亘る温度勾配を示す所定の水温モデルに基づき当該EGRクーラ内の冷却水の温度を求め、前記制御部は、前記エンジン本体の温度が予め設定された設定温度よりも低いときには、当該設定温度以上のときに比べて前記第2冷却水経路における冷却水の流量を低減する流量規制制御を実行するとともに、前記第2温度取得部により求められた前記EGRクーラ内の冷却水の温度が、当該冷却水の沸騰を抑制するために予め設定された閾値温度以上であるときには、前記流量規制制御の実行を回避するものである。
【0010】
この冷却装置では、エンジン本体の暖機時など、エンジン本体の温度が設定温度以下のときには、基本的に流量規制制御が実行される。これにより、エンジン本体に対して第2冷却水経路を通じて冷却水が導入されることが抑制され、エンジン本体の昇温が促進される。しかも、エンジン本体が設定温度に達する前であっても、EGRガスの還流が開始されることによりEGRクーラ内の冷却水の温度が閾値温度以上となるような場合には、流量規制制御が回避される。これにより、EGRクーラ内に滞留した冷却水の温度上昇が抑制され、当該温度上昇に起因するEGRクーラの損傷が未然に防止される。
【0011】
なお、上記「流量規制制御の実行を回避する」とは、流量規制制御が未だ実行されていない場合は、当該制御を行わないことを意味し、既に流量規制制御が実行されている場合には、当該制御を停止することを意味する。
【0012】
この冷却装置において、前記制御部は、前記エンジン本体の温度が前記設定温度よりも低いときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を「0」にする一方、前記設定温度以上のときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を第1流量とするとともに、前記流量規制制御の実行を回避するときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を前記第1流量、又は当該第1流量よりも少ない第2流量とする。
【0013】
この構成によると、流量規制制御の実行時には、第2冷却水経路を通じてエンジン本体に冷却水が導入されることが阻止され、これによりエンジン本体の昇温が効果的に促進される一方、流量規制制御の実行が回避されるときには、EGRクーラ内の冷却水の温度上昇が効果的に抑制される。
【0014】
この場合、前記閾値温度を第1閾値温度と定義すると、前記制御部は、前記EGRクーラ内の冷却水の温度が、前記第1閾値温度以上であってかつ当該第1閾値温度よりも高い第2閾値温度よりも低いときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を前記第2流量とし、前記第2閾値温度以上であるときには、前記第2冷却水経路の冷却水の流量を前記第1流量とするのが好適である。
【0015】
この構成によれば、EGRクーラ内の冷却水の温度に応じて第2冷却水経路の流量が段階的に切り替えられる。そのため、第2冷却水経路を通じてエンジン本体に導入される冷却水の量を必要最小限に抑えながら、EGRクーラ内の冷却水の温度上昇を抑制することが可能となる。
【0016】
なお、上記各態様の冷却装置において、前記エンジンは、少なくとも低負荷低回転の運転領域では、前記燃焼室内の混合気の一部を点火プラグによる点火点から火炎伝播によりSI燃焼させるとともにその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼が実行されるものである。
【0017】
このようなエンジンでは、部分圧縮着火燃焼の燃焼安定性を確保するために、エンジン本体の温度を比較的高い温度(設定温度)まで暖機することが求められる。つまり、エンジン始動後、第2の冷却水経路を通じてエンジン本体に冷却水の流通が開始されるまでの時間が長期化する傾向があり、EGRガスの還流が開始されることによってEGRクーラ内の冷却水の温度が上昇する可能性がある。そのため、上記各態様の冷却装置は、このようなエンジンの冷却装置として特に有用である。
【発明の効果】
【0018】
上記の各態様に係るエンジンの冷却装置によれば、冷間時のエンジンの燃焼安定性を確保しながら、EGRクーラ内の冷却水温の上昇に伴うEGRクーラの損傷を未然に防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明が適用されるエンジンの全体構成を概略的に示すシステム図である。
【
図2】上記エンジンの冷却装置の全体構成を概略的に示す回路図である。
【
図3】エンジン本体の要部を示す概略断面図である。
【
図4】上記エンジンの制御系統を示すブロック図である。
【
図5】上記エンジン(温間時)の運転領域を燃焼形態の相違によって区分けした運転マップである。
【
図6】エンジン始動時に冷却装置に対して行われる制御の手順を示すフローチャートである。
【
図7】エンジンが温間状態にあるときに冷却装置に対して行われる制御の手順を示すフローチャートである。
【
図8】冷却水の温度算出の考え方を説明するEGRクーラのモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
[1.エンジンの全体構成]
図1は、本発明の制御装置が適用される車両用エンジン(以下、単にエンジンという)の好ましい実施形態を示す図である。この図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流する外部EGR装置50とを備えている。
【0022】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。エンジン本体1は、典型的には複数の(例えば4つの)気筒を有する多気筒型のものであるが、ここでは簡略化のため、1つの気筒2のみに着目して説明を進める。
【0023】
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力を受けてピストン5が上下方向に往復運動する。
【0024】
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、コネクティングロッド8を介してピストン5と連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。クランク軸7は、トルクコンバータ等を介して図外の自動変速機と連結されている。
【0025】
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室の容積との比は、後述するSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)に好適な値として、13以上30以下、好ましくは14以上18以下の高圧縮比に設定される。幾何学的圧縮比を14以上の高圧縮比に設定することで、燃焼室6内において混合気に圧縮着火が発生し易い環境とすることができる。
【0026】
シリンダブロック3には、クランク角センサSN1及び水温センサSN5が組付けられている。クランク角センサSN1は、クランク軸7の回転角度(クランク角)およびクランク軸7の回転数(エンジン回転数)を検出する。水温センサSN5は、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する。
【0027】
シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気を燃焼室6に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路40に導出するための排気ポート10と、吸気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁11と、排気ポート10の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁12とが設けられている。
【0028】
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
【0029】
吸気弁11用の動弁機構には、吸気弁11の開閉時期を変更可能な吸気VVT13が内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構には、排気弁12の開閉時期を変更可能な排気VVT14が内蔵されている。吸気VVT13(排気VVT14)は、いわゆる位相式の可変機構であり、電動モータの作動により吸気弁11(排気弁12)の開弁時期および閉弁時期を同時にかつ同量だけ変更する。
【0030】
シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と吸入空気とが混合された混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。
【0031】
吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
【0032】
吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。
【0033】
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN2と、吸気の温度を検出する吸気温センサSN3と、吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN4とが設けられている。エアフローセンサSN2および吸気温センサSN3は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の流量および温度を検出する。吸気圧センサSN4は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。
【0034】
過給機33は、電磁クラッチ34を介してエンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33としては、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを用いることができる。
【0035】
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
【0036】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガスは、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
【0037】
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。
【0038】
外部EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部位と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部位とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(以下、EGRガスと称す)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。
【0039】
EGR通路51には、還流されるEGRガスの温度及び流量を検出するEGR温度センサSN6及びEGR流量センサSN7が設けられている。EGR温度センサSN6は、EGR通路51におけるEGRクーラ52の直上流側の位置に配置され、EGR流量センサSN7は、EGR弁53に対応する位置に設けられている。
【0040】
[2.冷却装置の全体構成]
図2は、上記エンジンの冷却装置の全体構成を示す回路図である。同図に示すように、冷却装置60は、ウォータポンプ61と、冷却水を循環させるための第1~第3の冷却水経路62~64と、連絡経路65と、バルブ用経路66とを備えている。
【0041】
ウォータポンプ61は、上記エンジンによって受動的に駆動されるポンプであって、シリンダブロック3の一側面に組付けられている。
【0042】
第1冷却水経路62は、ウォータポンプ61から吐出される冷却水を、シリンダブロック3、シリンダヘッド4の燃焼室側及びラジエータ71を経由してウォータポンプ61に戻すように循環させる経路である。
図2中の実線矢印は、温間時の第1冷却水経路62における冷却水の流れを示している。
【0043】
シリンダブロック3に形成されるブロック側ウォータジャケット62aやシリンダヘッド4に形成される燃焼室側ウォータジャケット62bは、各々、この第1冷却水経路62の一部を構成している。なお、燃焼室側ウォータジャケット62bとは、
図3に示すように、燃焼室6の近傍であって吸気ポート9及び排気ポート10の各バルブシート部の周辺に形成されたウォータジャケットである。
【0044】
第1冷却水経路62におけるラジエータ71とウォータポンプ61との間の位置には、冷却水の温度が設定温度(設定水温)になると開弁する第1サーモスタットバルブ72が介設されている。第1サーモスタットバルブ72は、設定温度の切り替えが可能な可変サーモスタットバルブであり、後記PCM100の制御により、後述する第1、第2の運転領域A1、A2に対応する温度(116°C)と、第3運転領域A3に対応する温度(90°)との間で設定温度の切り替えが行われる。
【0045】
なお、第1サーモスタットバルブ72及び後記第2サーモスタットバルブ78の設定温度は、正確にはエンジン本体1の壁面温度に対応した冷却水の温度であるが、以下の説明では、便宜上、可変サーモスタットバルブの設定温度(設定水温)とエンジン本体1の壁面温度とは等価なものとして説明することにする。
【0046】
第2冷却水経路63は、第1冷却水経路62の一部をバイパスする経路であって、当該第1冷却水経路62から冷却水の一部を分流させ、前記EGRクーラ52及び空調用のヒータコア74を経由させてウォータポンプ61に戻す経路である。
図2中の一点鎖線矢印は、温間時の第2冷却水経路63における冷却水の流れを示している。
【0047】
シリンダヘッド4に形成される排気ポート側ウォータジャケット63bは、この第2冷却水経路63の一部を構成している。なお、排気ポート側ウォータジャケット63bとは、
図3に示すように、前記燃焼室側ウォータジャケット62bよりも下流側(排気ガスの流動方向における下流側)の位置で排気ポート10の周囲に形成されたウォータジャケットである。
【0048】
第2冷却水経路63におけるヒータコア74とウォータポンプ61との間の位置には、ソレノイドバルブ等からなる流量制御バルブ75が介設されている。この流量制御バルブ75は、後記PCM100により開閉制御される。第2冷却水経路63は、ヒータコア74と流量制御バルブ75との間の位置で、連絡経路65を介して前記第1冷却水経路62に接続されている。
【0049】
第3冷却水経路64は、前記第2冷却水経路63とは別に、第1冷却水経路62の一部をバイパスする経路であって、当該第1冷却水経路62から冷却水の一部を分流させ、詳しくはブロック側ウォータジャケット62aから冷却水の一部を分流させ、当該冷却水を、ATFウォーマ76及びオイルクーラ77を経由させてウォータポンプ61に戻す経路である。
図2中の破線矢印は、温間時の第3冷却水経路64における冷却水の流れを示している。
【0050】
第3冷却水経路64のうち、ATFウォーマ76と第1冷却水経路62(ブロック側ウォータジャケット62a)との接続部分との間の位置には第2サーモスタットバルブ78が介設されている。第2サーモスタットバルブ78は、設定温度が固定されたサーモスタットバルブである。当例では、第2サーモスタットバルブ78の設定温度(設定水温)は50°Cに設定されている。
【0051】
バルブ用経路66は、第1冷却水経路62から冷却水の一部を分流させ、詳しくは燃焼室側ウォータジャケット62bから冷却水の一部を分流させ、当該冷却水を、前記スロットル弁32及びバイパス弁39を経由させて第2冷却水経路63に合流させる経路である。つまり、バルブ用経路66は、温感時の冷却水の熱を利用してスロットル弁32及びバイパス弁39を暖機する。
【0052】
[3.制御系統]
図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるPCM100は、エンジン等を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0053】
PCM100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、PCM100は、上述したクランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、吸気温センサSN3、吸気圧センサSN4、水温センサSN5、EGR温度センサSN6及びEGR流量センサSN7と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転数、吸気流量、吸気温、吸気圧、エンジン水温、EGRガス温度及びEGRガス流量)がPCM100に逐次入力されるようになっている。
【0054】
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度(以下、アクセル開度という)を検出するアクセルセンサSN8と、車両の走行速度(以下、車速という)を検出する車速センサSN9とが設けられており、これらのセンサSN8、SN9による検出信号もPCM100に逐次入力される。
【0055】
PCM100は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、PCM100は、吸気VVT13、排気VVT14、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、EGR弁53、ウォータポンプ61、第1サーモスタットバルブ72および流量制御バルブ75等と電気的に接続されており、上記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0056】
具体的に、PCM100は、所定のプログラムが実行されることによって、演算部101、燃焼制御部102、および冷却水制御部103を機能的に具備する。なお、演算部101は、本発明の「第1温度取得部」及び「第2温度取得部」に相当し、冷却水制御部103は、本発明の「制御部」に相当する。
【0057】
燃焼制御部102は、燃焼室6での混合気の燃焼を制御する制御モジュールであり、エンジンの出力トルク等がドライバーの要求に応じた適切な値となるようにエンジンの各部(吸・排気VVT13,14、インジェクタ15、点火プラグ16‥‥等)を制御する。
冷却水制御部103は、前記冷却装置60を制御する制御モジュールであり、エンジンの運転状態に応じて、エンジン各部に対して適量の冷却水が循環するように上記ウォータポンプ61及び流量制御バルブ75等を制御する。演算部101は、これら各制御部102,103による制御目標値を決定したり、エンジンの運転状態を判定するといった各種演算を実行するための制御モジュールである。
【0058】
[4.運転状態に応じた燃焼制御]
図5は、エンジン本体1が温間状態のときのエンジンの回転数/負荷に応じた制御の相違を説明するための運転マップである。同図に示すように、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって3つの運転領域A1~A3に大別される。これらの運転領域A1~A3を、それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2及び第3運転領域A3と称す。第3運転領域A3は、回転数が高い高速領域である。第1運転領域A1は、第3運転領域A3よりも低速側の領域のうち高負荷側の一部を除いた低・中速/低負荷の領域である。第2運転領域A2は、第1、第3運転領域A1、A3以外の残余の領域、つまり低・中速/高負荷領域である。以下、各運転領域A1~A3で選択される基本的な燃焼制御について説明する。
【0059】
<第1、第2運転領域>
低・中速/低負荷の第1運転領域A1および低・中速/高負荷の第2運転領域A2では、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことである。CI燃焼とは、ピストン5の圧縮等により十分に高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、このSI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる燃焼形態である。なお、「SPCCI」は「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
【0060】
SPCCI燃焼では、SI燃焼による熱発生とCI燃焼による熱発生とがこの順に連続して発生する。このSI燃焼とCI燃焼との比率を運転条件に応じてコントロールすることがSPCCI燃焼を安定させる上で重要となる。当実施形態では、SPCCI燃焼(SI燃焼およびCI燃焼)による全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合であるSI率が適正な値になるようにエンジンの各部が制御される。
【0061】
SPCCI燃焼が行われる第1、第2の運転領域A1、A2では、このSI率が予め定められた目標値に一致するように、エンジンの各部が制御される。すなわち、第1、第2の運転領域A1、A2では、エンジン負荷・回転数が異なる種々の条件ごとに、SI率の目標値である目標SI率がそれぞれ定められている。そして、点火プラグ16による火花点火の時期(点火時期)、インジェクタ15からの燃料の噴射量/噴射時期、およびEGR率(外部EGR率および内部EGR率)といった複数の制御量が、上記目標SI率を実現可能な組合せとなるように制御される。なお、外部EGR率とは、燃焼室6内の全ガスのうち外部EGRガス(EGR通路51を通じて燃焼室6に還流される排気ガス)が占める重量割合のことであり、内部EGR率とは、燃焼室6内の全ガスのうち内部EGRガス(内部EGRにより燃焼室6に残留する既燃ガス)が占める重量割合のことである。
【0062】
例えば、点火時期および燃料の噴射量/噴射時期は、上記目標SI率などを考慮して予め定められたマップにより決定される。すなわち、マップには、エンジン負荷・回転数の条件ごとに、上記目標SI率を実現するのに適した点火時期および燃料の噴射量/噴射時期がそれぞれ記憶されている。PCM100は、このマップに記憶された点火時期および噴射量/噴射時期に従って、インジェクタ15および点火プラグ16を制御する。
【0063】
一方、外部EGR率および内部EGR率は、所定のモデル式を用いた演算により決定される。すなわち、PCM100は、燃焼サイクルごとに、上記目標SI率を実現するために火花点火の時点で必要とされる筒内温度(目標筒内温度)を所定のモデル式を用いて算出するとともに、この算出した目標筒内温度に基づいて、EGR弁53の開度および吸・排気弁11,12のバルブタイミングを決定する。より具体的に、PCM100は、吸気温センサSN3により検出される吸入空気(新気)の温度と、燃焼室6の圧縮が実質的に開始される時点である吸気弁11の閉弁時期(IVC)とを含む各種パラメータを、当該パラメータを入力要素とする上記モデル式に代入することにより、上記目標筒内温度を実現するのに必要な外部EGR率および内部EGR率を算出する。そして、算出された外部EGR率を実現するのに必要なEGR弁53の開度を目標開度として算出し、この目標開度が実現されるようにEGR弁53を制御する。
【0064】
なお、第1、第2の運転領域A1、A2では、上記のような点火時期および噴射量/噴射時期の制御と併せて、スロットル弁32が次のように制御される。すなわち、第1運転領域A1では、基本的に、理論空燃比相当の空気量よりも多くの空気が吸気通路30を通じて燃焼室6に導入されるように、つまり、燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)が、理論空燃比(14.7)よりも大きくなるように(空気過剰率λ>1となる)、スロットル弁32の開度が設定される。一方、第2運転領域A2では、理論空燃比相当の空気量が燃焼室6に導入されるような開度、つまり、空燃比(A/F)が理論空燃比に略一致するように(λ≒1となる)、スロットル弁32の開度が設定される。
【0065】
<第3運転領域>
第1、第2の運転領域A1、A2よりも回転数が高い第3運転領域A3では、通常のSI燃焼が実行される。例えば、少なくとも吸気行程の一部と重複する所定期間にわたりインジェクタ15から燃料が噴射されるとともに、圧縮行程後期に点火プラグ16による火花点火が実行される。そして、この火花点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
【0066】
この第3運転領域A3では、スロットル弁32は、理論空燃比相当の空気量又はこれよりも少ない空気量が燃焼室6に導入されるような開度、つまり燃焼室6内の空燃比(A/F)が、理論空燃比若しくはこれよりもややリッチな値(λ≦1)となるような開度に設定される。
【0067】
[5.冷却装置の制御]
図6は、上記PCM100により前記冷却装置60に対して行われる制御の手順を示すフローチャートである。
【0068】
このフローチャートの制御は、上記エンジンが始動することによりスタートする。このフローチャートの制御がスタートすると、PCM100の演算部101は、水温センサSN5からの出力情報、すなわちエンジン本体1の冷却水の温度からエンジン本体1の燃焼室近傍の壁面温度T1を算出し、冷却水制御部103が、この壁面温度T1が予め設定された設定壁面温度Ta(本発明の設定温度に相当する)未満か否かを判定する(ステップS1)。この設定壁面温度Taは、前記第1運転領域A1の燃焼形態であるSPCCI燃焼を安定的に実行させるのに適した温度であり、当例では例えば116°Cに設定されている。なお、エンジンの始動時、第1冷却水経路62の第1サーモスタットバルブ72の設定温度は、この設定壁面温度Taと同じ温度(116°C)に設定されている。
【0069】
ステップS1でYesと判定した場合には、演算部101は、さらにEGRクーラ52内の冷却水の温度(クーラ内水温T2)を算出し、冷却水制御部103は、このクーラ内水温T2が予め設定された第1閾値温度Tα未満か否かを判定する(ステップS3)。演算部101は、具体的には、EGR温度センサSN6、EGR流量センサSN7及び水温センサSN5により検出されるEGR温度、EGR流量(外部EGR流量)及び冷却水の水温などに基づいて所定の水温モデル式からクーラ内水温T2を算出する。
【0070】
ここで、
図8は、EGRクーラ52のモデル図である。EGRクーラ52の境界壁を挟んで左側がEGRガスの流通部分を、右側が冷却水の流通部分を示している。図中の実線は、t1時点にEGRクーラ52にEGRガスが導入されたときのEGRクーラ52内の温度勾配を示しており、図中の破線は、t2時点でEGRクーラ52にEGRガスが導入されたときのEGRクーラ52内の温度勾配を各々示している。EGRクーラ52にEGRガスが継続的に導入されると、EGRガスから冷却水への熱移動により、同図に示すように、温度勾配を伴いながら冷却水の温度が初期温度から徐々に上昇する。上記水温モデル式は、このような温度勾配を加味してEGRクーラ52の冷却水の温度を算出するように定められており、演算部101は、EGR温度、EGR流量(外部EGR流量)及び冷却水の水温を逐次取り込みながら上記水温モデル式から冷却水の温度を算出する。
【0071】
なお、第1閾値温度Tαは、EGRクーラ52内の冷却水の沸騰を抑制するために予め設定された温度であって、当例では、冷却水が沸騰し始める温度110°C又はその前後の温度に設定されている。
【0072】
ステップS3において、クーラ内水温T2が第1閾値温度Tα未満である場合には(ステップS3でYesの場合)、冷却水制御部103は、第2冷却水経路63に対して「止水モード」の制御を実行する(ステップS5)。具体的には、冷却水制御部103は、第2冷却水経路63における冷却水の流量が「0」となるように流量制御バルブ75の開度を制御する。これにより、第2冷却水経路63における冷却水の流れを停止させ、その後、処理をステップS1にリターンする。当例では、このステップS5の処理が本発明の「流量規制制御」に相当する。
【0073】
一方、壁面温度T1が設定壁面温度Ta以上である場合(ステップS1でNo)、若しくはクーラ内水温T2が第1閾値温度Tα以上である場合(ステップS3でNo)には、ステップS7に移行され、
図7に示すフローチャートの制御が実行される。
【0074】
図7は、エンジンが温間状態にあるときに冷却装置60に対して行われる制御の手順を示すフローチャートである。
【0075】
このフローチャートの制御では、演算部101は、まず、壁面温度T1が設定壁面温度Ta未満か否かを判定する(ステップS11)。ここで、Yesと判定すると、演算部101は、さらにクーラ内水温T2を算出し、冷却水制御部103がこのクーラ内水温T2が第1閾値温度Tα未満か否かを判定する(ステップS13)。これらステップS11、S13の処理は、基本的には
図6のステップS1、S3の処理と同じである。
【0076】
上記ステップS11でNoと判定した場合、すなわち壁面温度T1が設定壁面温度Ta以上である場合には、冷却水制御部103は、「通常モード」の制御を実行する(ステップS19)。具体的には、冷却水制御部103は、流量制御バルブ75が全開又はそれに近い開度となるように制御し、処理をステップS11にリターンする。当例では、この「通常モード」時の第1冷却水経路62の冷却水の流量が本発明の「第1流量」に相当する。
【0077】
また、ステップS13でNoと判定された場合には、冷却水制御部103は、さらにクーラ内水温T2が第2閾値温度Tβ(>Tα)未満か否かを判定する(ステップS15)。第2閾値温度Tβは、当例では125°C又はその前後の値に設定されている。
【0078】
ここでYesと判定した場合には、冷却水制御部103は、「減量モード」の制御を実行する(ステップS17)。具体的には、「通常モード」の開度よりも小さい予め設定された開度となるように流量制御バルブ75を制御し、処理をステップS11にリターンする。当例では、この「減量モード」時の第1冷却水経路62の冷却水の流量が本発明の「第2流量」に相当する。なお、ステップS15でNoと判定された場合には、冷却水制御部103は、処理をステップS19に移行する。
【0079】
以上のようなフローチャート(
図6、
図7)による制御が実行された場合の冷却装置60における冷却水の流通状態は概略的には次の通りである。
【0080】
冷間状態においてエンジンが始動された直後は、燃焼室6の壁面温度T1は、第1、第2のサーモスタットバルブ72、78の設定温度(116°C及び50°C)に達しておらず、また、クーラ内水温T2も第1閾値温度Tαに達していない。従って、第1、第2のサーモスタットバルブ72、78及び流量制御バルブ75は何れも閉じられており(
図6のステップS1~S5)、第1~第3の何れの冷却水経路62~64についても冷却水は流通していない。このように、エンジン始動の直後は、冷却装置60において冷却水の循環が規制されることで、エンジン本体1の暖気(昇温)が促進される。
【0081】
なお、ウォータポンプ61は、遠心ポンプである。従って、ウォータポンプ61は、エンジンの始動と共に作動はするものの、第1、第2のサーモスタットバルブ72、78及び流量制御バルブ75が閉じられた状態では冷却水を圧送できず、実質的に冷却水の流れは停止した状態が維持される。
【0082】
エンジン本体1の暖気が進み、壁面温度T1が第2サーモスタットバルブ78の設定温度(50°C)以上になると、第2サーモスタットバルブ78が開き第3冷却水経路64のみを通じて冷却水の循環が開始される。この時点では、冷却水はラジエータ71を経由しておらず、よって、エンジン本体1の暖気が促進される。そして、壁面温度T1が設定壁面温度Ta以上になると、すなわち、第1サーモスタットバルブ72の設定温度(116°C)以上になると、第1サーモスタットバルブ72が開くと共に、流量制御バルブ75が「通常モード」で制御される(
図7のステップS11、S19)。これにより、第1~第3の全ての冷却水経路62~64を通じて冷却水の循環が開始される(
図2中の各矢印参照)。
【0083】
なお、上記エンジンでは、上述の通り運転状態(エンジン負荷・回転数など)に応じてEGR率(外部EGR率)が決定されるため、壁面温度T1が第1サーモスタットバルブ72の設定温度(116°C)以上となる前にEGR通路51を通じて燃焼室6にEGRガスが還流される場合がある。このようにEGRガスの還流が開始されると、EGRクーラ52に滞留している冷却水の温度が上昇する。これによりクーラ内水温T2が第1閾値温度Tα以上になると、その温度に応じて流量制御バルブ75が「減量モード」又は「通常モード」で制御される(ステップS13~S19)。これにより、第2冷却水経路63を通じて冷却水の循環が開始される。
【0084】
[6.作用効果]
以上説明したように、当実施形態のエンジン(冷却装置60)によれば、エンジンの始動後、エンジン本体1の壁面温度T1が、SPCCI燃焼に適した設定壁面温度Ta以上になるまでは、少なくともラジエータ71を経由する第1冷却水経路62について冷却水の循環が開始されることがない。そのため、エンジン始動後、エンジン本体1の暖気(昇温)を促進させることができる。
【0085】
しかも、エンジン本体1の壁面温度T1がSPCCI燃焼に適した設定壁面温度Ta以上になる前にEGRガスの還流が開始され、これによりEGRクーラ52のクーラ内水温T2が第1閾値温度Tα以上とった場合には、流量制御バルブ75が開弁されて第2冷却水経路63を通じた冷却水の循環が開始される。そのため、エンジンの暖機中に、EGRクーラ52内の冷却水が沸騰してEGRクーラ52が変形し、これによりEGRクーラ52にクラックが生じるといった事態の発生が未然に防止される。従って、上記エンジンによれば、冷間時のエンジンの暖機を促進させること、すなわちSPCCI燃焼の燃焼状態を適切に安定化させながら、冷却水の温度上昇に伴うEGRクーラ52の損傷を未然に防止することができる。
【0086】
特に、上記エンジンによれば、クーラ内水温T2に応じて流量制御バルブ75の開度が「通常モード」と「減量モード」との二段階に制御されるので、エンジン本体1の暖気促進を著しく阻害することなく、EGRクーラ52の損傷を防止できるという利点がある。すなわち、クーラ内水温T2が第1閾値温度Tα以上となった時点で一律に流量制御バルブ75を「通常モード」として全開にすることも考えられる。しかし、EGRクーラ52を経由する第2冷却水経路63は、第1冷却水経路62(ブロック側ウォータジャケット62a)から冷却水を分流させる経路であるため、クーラ内水温T2が僅かに第1閾値温度Tαを超えた段階で流量制御バルブ75を「通常モード」に切り替える場合には、ブロック側ウォータジャケット62a内の冷却水の流量増大によりエンジン本体1の暖気促進が阻害されることが考えられる。この点、クーラ内水温T2に応じて流量制御バルブ75の開度が「通常モード」と「減量モード」との二段階に切り替えられる上記制御によれば、第2冷却水経路63における冷却水の流量を、クーラ内水温T2の温度に応じた合理的な流量とすることができる。従って、エンジン本体1の暖気促進を著しく阻害することなく、EGRクーラ52の損傷を防止することが可能となる。
【0087】
[7.変形例等]
上記実施形態では、水温センサSN5からの情報(冷却水の温度)に基づき、演算部101がエンジン本体1の壁面温度(燃焼室近傍の壁面温度)を算出する。すなわち、上述の通り演算部101が本発明の第1温度取得部に相当する。しかし、第1温度取得部の構成はこれに限定されない。例えば、第1温度取得部として、エンジン本体1に壁面温度を直接検出するセンサを設けてもよい。また、第1温度取得部は、冷却水の温度以外の物理量、例えばエンジンオイルの油温に基づいてエンジン本体1の壁面温度を特定するものであってもよい。
【0088】
上記実施形態では、EGR温度センサSN6、EGR流量センサSN7及び水温センサSN5からの情報(EGR温度、EGR流量(外部EGR流量)及び冷却水の水温)などに基づき、演算部101がEGRクーラ52内の冷却水の温度を算出する。すなわち、上述の通り演算部101が本発明の第2温度取得部に相当する。しかし、第2温度取得部の構成はこれに限定されない。例えば、第2温度取得部として、EGRクーラ52に冷却水の温度を直接検出するセンサを設けてもよい。
【0089】
上記実施形態中で示している設定壁面温度Ta、第1閾値温度Tα、第2閾値温度Tβなどの具体的な数値はあくまでも例示である。具体的な温度は、エンジン本体1や冷却装置60の具体的な構成に応じて適宜変更可能である。
【0090】
上記実施形態では、本発明に係る冷却装置を部分圧縮着火燃焼(SPCCI燃焼)が可能なエンジンに適用した例について説明したが、本発明に係る冷却装置は、勿論、全運転領域の燃焼形態がSI燃焼となるように制御されるエンジンについても適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 エンジン本体
3 シリンダブロック
4 シリンダヘッド
60 冷却装置
61 ウォータポンプ
62 第1冷却水経路
63 第2冷却水経路
64 第3冷却水経路
100 PCM
101 演算部
102 燃焼制御部
103 冷却水制御部
Ta 設定壁面温度(設定温度)
Tα 第1閾値温度(閾値温度)
Tβ 第2閾値温度