(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20221220BHJP
B41J 2/205 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/205
(21)【出願番号】P 2019014488
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真
(72)【発明者】
【氏名】古畑 義治
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-079614(JP,A)
【文献】特開2013-244714(JP,A)
【文献】特開平11-208029(JP,A)
【文献】特開2012-171264(JP,A)
【文献】特開2017-105018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルを有する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドを主走査方向へ往復移動させるヘッド走査機構と、
被記録媒体を前記主走査方向と直交する副走査方向へ搬送する媒体搬送機構と、
制御部と、
被記録媒体に形成する画像の画像データを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、1回のパスにおいて、
前記吐出ヘッドを前記主走査方向に沿った第1方向へ移動させつつ、前記吐出ヘッドから液体を吐出させる記録処理と、
前記記録処理の終了後、前記吐出ヘッドを、前記主走査方向に沿った第2方向への移動を経て、次回のパスの前記記録処理の開始位置まで移動させるセット処理と、
被記録媒体を前記副走査方向へ搬送する媒体搬送処理と、
を実行し、
更に前記制御部は、
前記記録処理の開始位置における前記ノズルの位置から前記第1方向へ所定距離の範囲を影響領域とし、前記ノズルから吐出される1つの液滴が第1量である第1液滴、及び、1つの液滴が前記第1量よりも多い第2量である第2液滴を吐出させて被記録媒体に画像を形成するとき、
今回のパスの前記セット処理において、前記影響領域に、前記吐出ヘッドを前記第2方向へ移動させながら、前記影響領域に対応する画像を形成する前記第1液滴及び前記第2液滴のうち前記第1液滴のみを吐出させて第1部分画像を形成し、
次回のパスの前記記録処理において、前記第1部分画像が形成されている前記影響領域に、前記吐出ヘッドを前記第1方向へ移動させながら前記第2液滴を吐出させて、前記第1部分画像を補完して前記影響領域に対応する画像を構成する第2部分画像を形成し、かつ、前記影響領域に対して前記第1方向に位置する影響外領域には、前記吐出ヘッドを前記第1方向へ移動させながら前記第1液滴及び前記第2液滴を吐出させて前記影響外領域に対応する画像を形成する、
液体吐出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記影響領域から前記第1方向へ所定距離の範囲を遷移領域とし、今回のパスの前記セット処理において前記遷移領域で吐出される前記第1液滴の量を第1吐出量とし、次回のパスの前記記録処理において前記遷移領域で吐出される前記第1液滴の量を第2吐出量とし、前記第1吐出量と前記第2吐出量とを合わせた量を前記画像データが指示する指示吐出量としたとき、
今回のパスの前記セット処理において、前記遷移領域に、前記吐出ヘッドを前記第2方向へ移動させながら、前記遷移領域に対応する画像を形成する前記第1液滴及び前記第2液滴のうち前記第1液滴のみを、前記指示吐出量に対する前記第1吐出量の割合が前記影響領域に向かって大きくなるように吐出させて第1階調画像を形成し、
次回のパスの前記記録処理において、前記第1階調画像が形成されている前記遷移領域に、前記吐出ヘッドを前記第1方向へ移動させながら前記第1液滴及び前記第2液滴を吐出させて、前記第1階調画像を補完して前記遷移領域に対応する画像を構成する第2階調画像を形成する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記影響領域における単位面積当たりの前記第1液滴の吐出量が多いほど、前記遷移領域の面積を広く設定する、
請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記記録処理の終了後に前記媒体搬送処理を開始し、
前記記録処理の終了からの経過時間が、前記媒体搬送処理において前記被記録媒体を搬送する時間以上になってから、前記セット処理における前記第1液滴の吐出を開始する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記媒体搬送処理において前記被記録媒体の搬送に要する時間を第1時間とし、前記記録処理の終了から前記セット処理における前記第1液滴の吐出を開始するまでの時間を第2時間としたとき、
前記第2時間が前記第1時間以上となるように、前記記録処理の終了から前記セット処理における前記第1液滴の吐出を開始するまでの間における前記吐出ヘッドの移動距離を設定する、
請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記媒体搬送処理において前記被記録媒体の搬送に要する時間を第1時間とし、前記記録処理の終了から前記セット処理における前記第1液滴の吐出を開始するまでの時間を第2時間としたとき、
前記第2時間が前記第1時間以上となるように、前記記録処理の終了から前記セット処理における前記第1液滴の吐出を開始するまでの間において前記吐出ヘッドの移動を停止する、
請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記記録処理の終了位置における前記ノズルの位置よりも前記第2方向側に、前記セット処理で前記第1液滴の吐出を開始する開始位置における前記ノズルの位置があるように、前記吐出ヘッドの位置を調整する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記記録処理において前記吐出ヘッドが移動する速度を第1移動速度とし、前記セット処理において前記吐出ヘッドが移動する速度を第2移動速度としたとき、
前記第2移動速度が前記第1移動速度よりも速い場合、少なくとも前記影響領域では、前記記録処理で形成される画像と同じ解像度を有する画像を、前記第2移動速度で形成する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記記録処理において前記吐出ヘッドが移動する速度を第1移動速度とし、前記セット処理において前記吐出ヘッドが移動する速度を第2移動速度としたとき、
前記第2移動速度が前記第1移動速度よりも速い場合、少なくとも前記影響領域では、前記吐出ヘッドが移動する速度を前記第1移動速度と同じ速度に設定する、
請求項1~7のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク等の液体を吐出する液体吐出装置として、特許文献1に記載されたような構成を備えるものがある。この液体吐出装置は、記録ヘッドを搭載したキャリッジを主走査方向へ移動させつつ、記録ヘッドからインク滴を吐出させる。この後、記録シートは、副走査方向へ搬送される。この吐出動作を伴う記録ヘッドの移動(印刷動作)と記録シートの搬送(搬送動作)を複数回繰り返すことで、記録シートの全面を印刷する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像形成に際して、キャリッジは、主走査方向に往復移動する。このとき、キャリッジの移動に伴って、キャリッジの周辺には、空気の流れが生じる。キャリッジが往路の移動を始めるときにも、先の復路を移動するキャリッジを追いかけた空気流が残っている。そして、この空気流は、続く往路で吐出される液滴に作用して、その着弾位置をずらす虞がある。しかも、近年では、印刷の更なる高解像度化が求められている。そのため、小径の液滴が多用されるようになり、空気流による着弾ずれへの対策が必要となってきた。
【0005】
そこで本発明は、吐出ヘッドの移動に伴う空気流が、吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾位置に与える影響を抑制することのできる液体吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る液体吐出装置は、複数のノズルを有する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドを主走査方向へ往復移動させるヘッド走査機構と、被記録媒体を前記主走査方向と直交する副走査方向へ搬送する媒体搬送機構と、制御部と、被記録媒体に形成する画像の画像データを記憶する記憶部と、を備え、前記制御部は、1回のパスにおいて、前記吐出ヘッドを前記主走査方向に沿った第1方向へ移動させつつ、前記吐出ヘッドから液体を吐出させる記録処理と、前記記録処理の終了後、前記吐出ヘッドを、前記主走査方向に沿った第2方向への移動を経て、次回のパスの前記記録処理の開始位置まで移動させるセット処理と、被記録媒体を前記副走査方向へ搬送する媒体搬送処理と、を実行し、更に前記制御部は、前記記録処理の開始位置における前記ノズルの位置から前記第1方向へ所定距離の範囲を影響領域とし、前記ノズルから吐出される1つの液滴が第1量である第1液滴、及び、1つの液滴が前記第1量よりも多い第2量である第2液滴を吐出させて被記録媒体に画像を形成するとき、今回のパスの前記セット処理において、前記影響領域に、前記吐出ヘッドを前記第2方向へ移動させながら、前記影響領域に対応する画像を形成する前記第1液滴及び前記第2液滴のうち前記第1液滴のみを吐出させて第1部分画像を形成し、次回のパスの前記記録処理において、前記第1部分画像が形成されている前記影響領域に、前記吐出ヘッドを前記第1方向へ移動させながら前記第2液滴を吐出させて、前記第1部分画像を補完して前記影響領域に対応する画像を構成する第2部分画像を形成し、かつ、前記影響領域に対して前記第1方向に位置する影響外領域には、前記吐出ヘッドを前記第1方向へ移動させながら前記第1液滴及び前記第2液滴を吐出させて前記影響外領域に対応する画像を形成する。
【0007】
このような構成とすると、第1液滴は空気流の影響を受け易いところ、記録処理の開始前のセット処理において、第1液滴による第1部分画像を予め形成しておく。このため、第1液滴は、セット処理による空気流に影響されないため、所望の位置に着弾できる。続く記録処理において、第2液滴を吐出し、第1部分画像を補完する第2部分画像を形成する。そのため、空気流による乱れの無い画像を形成できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吐出ヘッドの移動に伴う空気流が、吐出ヘッドから吐出される液滴の着弾位置に与える影響を抑制することのできる液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る液体吐出装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、液体吐出装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、液体吐出装置を上方から見たときの被記録媒体及び液体吐出ヘッドを示している。
【
図4】
図4は、印刷処理の基本動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、印刷処理中の液体吐出ヘッドの動作を説明する模式図である。
【
図6】
図6は、画像の形成手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、変形例1に係る液体吐出装置における印刷処理中の液体吐出ヘッドの動作を説明する模式図である。
【
図8】
図8は、実施の形態2に係る液体吐出装置における印刷処理中の液体吐出ヘッドの動作を説明する模式図である。
【
図9】
図9は、実施の形態3に係る液体吐出装置における印刷処理中の液体吐出ヘッドの動作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態に係る液体吐出装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下では液体吐出装置として、インクを被記録媒体へ吐出するインク吐出装置を例として説明する。
【0011】
[液体吐出装置の構成]
図1は、液体吐出装置1の模式図である。
図1において、紙面に直交する方向が主走査方向であり、左から右に向かう方向が搬送方向であり、主走査方向及び搬送方向(副走査方向)に直交する方向が上下方向である。搬送方向は、主走査方向に直交する。ここで、キャリッジ12は、主走査方向に往復移動する。被記録媒体Pは、搬送方向に沿って、プラテン11上を搬送される。
【0012】
液体吐出装置1は、下から順に、給紙トレイ10、プラテン11及びキャリッジ12が組み付けられている。給紙トレイ10は、複数の被記録媒体Pを収容する。給紙トレイ10の上方には、左右方向に長寸のプラテン11が設けられている。プラテン11は、平板部材であり、搬送される被記録媒体Pを下から支える。プラテン11のさらに上方には、キャリッジ12が配置されている。キャリッジ12は、液体吐出ヘッド13等が搭載されている。また、プラテン11の搬送方向下流側には、排紙トレイ14が設けられており、記録を終えた被記録媒体Pを受け取る。
【0013】
給紙トレイ10から排紙トレイ14までの経路が、シート搬送路20である。シート搬送路20は、上流から湾曲パス21、ストレートパス22、及びエンドパス23の3つのパスに分割できる。このうち、ストレートパス22では、被記録媒体Pが、プラテン11に載置され、所定間隔を介して液体吐出ヘッド13と対向する。液体吐出ヘッド13からは、液滴101が吐出され、被記録媒体Pには、画像が形成されることになる。
【0014】
液体吐出装置1は、被記録媒体Pを搬送するシート搬送機構として、給送ローラ30、搬送ローラ31及び排出ローラ34を備えている。具体的には、給送ローラ30が、給紙トレイ10の直上に設けられている。搬送ローラ31は、ピンチローラ32と組んで搬送ローラ部33を構成し、湾曲パス21とストレートパス22とを繋いでいる。排出ローラ34は、拍車ローラ35と組んで排出ローラ部36を構成し、ストレートパス22とエンドパス23を繋いでいる。
【0015】
ここで、シート搬送機構が駆動されると、給送ローラ30によって、被記録媒体Pが給紙トレイ10から湾曲パス21に繰り出される。被記録媒体Pは、搬送ローラ部33により、プラテン11上に載置され、液体吐出ヘッド13により画像が記録される。記録済みの被記録媒体Pは、排出ローラ部36によって、排紙トレイ14に排出される。
【0016】
液体吐出装置1は、液体吐出ヘッド13を往復移動するヘッド走査機構として、キャリッジ12、ガイド部材(不図示)及び無端ベルト(不図示)を備えている。ヘッド走査機構は、シート搬送路20を横切るように、液体吐出ヘッド13を往復移動する。
【0017】
具体的には、ヘッド走査機構のガイド部材は、2つの平行な支持棒である。支持棒は、搬送方向と直交して配置され、キャリッジ12が摺動自在に取り付けられている。無端ベルトは、支持棒と平行に配置され、キャリッジ12が固定されている。後述のキャリッジモータ51(
図2)が回転すると、無担ベルトが走行し、キャリッジ12も支持棒に沿って移動する。
【0018】
図2は、液体吐出装置1の機能的構成を示すブロック図である。液体吐出装置1の制御部40は、第1基板と第2基板を備え、第1基板にはCPU41、ROM42、RAM43(本発明に係る「記憶部」)、及びEEPROM44が実装され、第2基板にはASIC45が実装されている。ASIC45には、2つのモータドライバIC46,47とヘッドドライバIC48が接続されている。モータドライバIC46は搬送モータ50を駆動し、モータドライバIC47はキャリッジモータ51を駆動する。ヘッドドライバIC48は、液体吐出ヘッド13のアクチュエータ13aを駆動する。
【0019】
液体吐出装置1の制御部40は、ユーザ又は他の通信装置から印刷指令を受けると、CPU41が、RAM43に対応する画像データを記憶させると共に、ROM42に記憶されたプログラムに基づいて各種の実行指令をASIC45へ出力する。ASIC45は、この指令に基づいて、各ドライバIC46~48を制御する。
【0020】
これにより、被記録媒体Pの繰り出しと搬送、この搬送に同期したインクの吐出等、記録処理が実行される。具体的には、モータドライバIC46は、搬送モータ50を駆動して、3つのローラ30、31、34を回転させる。モータドライバIC47は、キャリッジモータ51を駆動して、キャリッジ12を主走査方向へ移動させる。ヘッドドライバIC48は、アクチュエータ13aを駆動して、メニスカスの振動やインクを吐出させる。
【0021】
また、液体吐出装置1は、種々のセンサ(例えば、被記録媒体Pの位置検出用の先端検出センサ、キャリッジの位置検出用のエンコーダ等)を備える。制御部40は、これらセンサからの信号に基づき、上記各ドライバIC46~48を同期して制御し、被記録媒体Pに画像を形成する。
【0022】
なお、上述した構成のうち、キャリッジモータ51は、キャリッジ12、ガイド部材及び無端ベルトとともに、本発明に係る「ヘッド走査機構」の構成要素である。また、上述の搬送モータ50は、3つのローラ30、31、34とともに、本発明に係る「媒体搬送機構」の構成要素である。
【0023】
図3は、液体吐出ヘッド13を上方から見た図である。液体吐出ヘッド13は、下面がノズル面である。ノズル面には、複数のノズル15が開口している。複数のノズル15は、副走査方向に配列して、ノズル列16を構成している。さらに、複数のノズル列16が、主走査方向に等間隔で並ぶ。本実施の形態では、4つのノズル列16が、液体の種類(ブラック、イエロー、シアン、マゼンダ)ごとに設けられている。
【0024】
なお、キャリッジ12の移動経路は、被記録媒体Pの両側に及ぶ。主走査方向の一方端には、保管位置がある。保管位置では、液体吐出ヘッド13は、ノズル面がキャップに覆われる。また、他方端には、メンテナンスポートが設置されている。ここでは、液体吐出ヘッド13は、メンテナンス(フラッシングやパージ)処理が施される。
【0025】
[印刷時の動作フロー]
次に、液体吐出装置1が印刷指令に基づいて実行する印刷処理について説明する。
図4は、動作の流れを示すフローチャートである。
【0026】
図4に示すように、印刷指令を受け付けると、制御部40は、印刷前処理を実行する(ステップS10)。このとき、制御部40は、メニスカスの調整と記録データの生成を行う。
【0027】
制御部40は、キャリッジモータ51を駆動して、液体吐出ヘッド13を保管位置からメンテナンスポートに移す。メンテナンスポートでは、制御部40が、アクチュエータ13aを駆動して、フラッシング(吐出特性の回復動作)を行う。これにより、ノズル15は、新鮮なインクでメニスカスが形成される。
【0028】
その後、制御部40は、キャリッジモータ51を駆動して、液体吐出ヘッド13を保管位置の方向(ここでは、第1方向)に向けて移動させる。このとき、液体吐出ヘッド13は、最初の吐出位置(最初のパスの始点)に到達前には、所定の速度まで加速される。
【0029】
制御部40は、この間、画像データをRAM43に記憶する。制御部40は、この画像データに基づいて、最初のパス用の記録データを生成し、RAM43に記憶する。この後、1つの被記録媒体P全体の画像形成が完了するまで、パス毎の記録データが生成されていくことになる。
【0030】
制御部40は、さらに、搬送モータ50を駆動して、最初の被記録媒体Pを繰り出す。被記録媒体Pは、給紙トレイ10からストレートパス22に供給される。この給紙処理は、メニスカス調整や記録データの生成と同期して行われる。具体的には、液体吐出ヘッド13が最初のパスの始点に到達した時点で、少なくとも初めの記録データが準備されており、被記録媒体Pはプラテン11上に載置されている。このとき、被記録媒体Pは、最初の画像形成領域が液体吐出ヘッド13と対向可能な位置にある。
【0031】
制御部40は、液体吐出ヘッド13が最初のパスの始点に到達すると、最初の画像形成を開始する。最初のパスにおいて、制御部40は、キャリッジモータ51を駆動して、液体吐出ヘッド13を第1方向へ定速で移動させる。これに同期して、制御部40は、アクチュエータ13aを駆動して、ノズル15から液体を吐出させる。被記録媒体Pには、初めの記録データに基づいて、画像が帯状に形成されていく(ステップS11)。なお、液体吐出ヘッド13の移動と液体の吐出との同期は、エンコーダからの信号に基づく。
【0032】
なお、印刷処理の1つの「パス」とは、1つの記録処理と、これに続く1つのセット処理(後述)及び1つの搬送処理(後述)からなる一組の処理である。
【0033】
ここで、記録処理とは、画像データに従って、画像形成領域に画像を形成する処理である。液体吐出ヘッド13は、第1方向に定速で移動し、この間に画像が形成される。縁無印刷の場合、第1方向に関して、被記録媒体Pの上流端が記録処理の開始位置となる。一方、被記録媒体Pの下流端が、記録処理の終了位置となる。
【0034】
セット処理とは、2つの記録処理を繋ぐ処理である。液体吐出ヘッド13が、1つの記録処理の終了位置から、次の記録処理の開始位置まで移動される。このとき、液体吐出ヘッド13の移動には、第2方向への移動が含まれる。本実施の形態では、第2方向への移動中、液体吐出ヘッド13が、限定された範囲で画像形成を行う。
【0035】
また、搬送処理とは、被記録媒体Pを副走査方向へ搬送する処理である。被記録媒体Pの搬送は、記録処理の終了時点に開始される。このときの搬送距離は、帯状に画定される画像形成領域の幅に相当する。このセット処理及び搬送処理によって、液体吐出ヘッド13は、次回のパスの始点(次の記録処理の開始位置)に到達する。
【0036】
制御部40は、最初の記録処理(S11)を終了すると、全パスの記録処理が終了したか否かを判定する(ステップS12)。終了していなければ(S12:NO)、制御部40は、セット処理(ステップS13)及び搬送処理(ステップS14)を行い、次の記録処理に移る。
【0037】
なお、
図4では便宜上、セット処理と搬送処理とを直列的に記載している。本実施形態の搬送処理は、上述のように、セット処理と同時に始めている。もちろん、搬送処理及びセット処理に要する時間によっては、搬送処理は、セット処理を行っている間に、開始して終了させるとしてもよい。この後、制御部40は、次のパスの始点(ここでは、第1方向に関して、被記録媒体Pの上流端)から、再び記録処理(S11)を実行する。
【0038】
制御部40は、S11~S14で示す一連の処理を、繰り返し実行する。そして、全パスの記録処理が終了すると(S12:YES)、制御部40は、搬送モータ50を駆動して、被記録媒体Pを排紙トレイ14へ排出(ステップS15)する。これで、1つの被記録媒体Pに対する印刷処理を終了する。
【0039】
ここで、印刷すべき被記録媒体Pが残っている場合、制御部40は、処理をステップS10に戻す。印刷前処理として、新規の画像を形成する場合は、新たな記録データの生成及び被記録媒体Pの供給が行われる。同じ画像を形成する場合は、RAM43から最初のパス用の記録データが呼び出される。なお、メニスカスの調整は、必要に応じて行われる。この後、制御部40は、処理をステップS11に移す。
【0040】
印刷すべき被記録媒体Pが無ければ、制御部40は、印刷処理を完了する。例えば、液体吐出ヘッド13は、保管位置に戻され、そのノズル面がキャップで覆われる。液体吐出ヘッド13の使用履歴によっては、保管位置への収納の前に、液体吐出ヘッド13をメンテナンスポートに一旦移し、そのノズル面の汚れを取ったり、メニスカスを調整してもよい。
【0041】
このような印刷処理において、セット処理では、キャリッジ12の移動に伴った空気流が生じる。このため、このセット処理に引き続いて、記録処理が行われると、吐出される液滴の飛翔が空気流に影響される。液滴のサイズが小さい程、また、着弾までの距離が長い程、この影響を強く受ける。そこで、このような影響を受ける領域を、影響領域Aと設定した。そして、空気流の影響を考慮した印刷処理では、
図6の処理が行われる。
【0042】
つまり、影響領域Aとは、セット処理直後に記録処理を行うとき、認識可能な程に液滴の着弾ずれを起こす空気流が残留している領域である。影響領域Aは、記録処理の開始位置におけるノズル15の位置から第1方向へ所定距離aの範囲である。
【0043】
被記録媒体Pの画像は、1つの液滴量が第1量である第1液滴、及び、1つの液滴量が第1量よりも多い第2量である第2液滴を吐出させて形成される。以下の説明では、第1液滴を小液滴と称し、第2液滴を中液滴及び大液滴と称することもある。大液滴は中液滴よりも液量が多い。
【0044】
図6のフローチャートによれば、制御部40は、はじめに(ステップS20)、未処理のパスの記録データを取得する。この記録データには、少なくとも次回のパスの記録データが含まれる。記録データの取得は、今回のパス中に行われる。なお、記録データは、RAM43から呼び出されてもよいし、新たに画像データから生成されてもよい。なお、セット処理及び搬送処理も、同時に開始される。
【0045】
ここで、印刷のスループットを上げるため、セット処理時間は短くしたい。そのため、セット処理において、キャリッジの停止位置前後の加減速を短時間で行い、その移動もより高速に行えばよい。しかし、次の記録処理を実行するとき、このようなセット処理が先行すると、残留する空気流の影響を受けやすくなる。この空気流は、液滴に対して、着弾不良を誘発する要因となる。
【0046】
このため、ステップS21で、制御部40は、この記録データを解析し、空気流による影響領域を抽出する。この間、キャリッジ12に対するセット処理及び被記録媒体Pに対する搬送処理が進行している。このうち、搬送処理は、ノズル15が影響領域Aに達する前に完了する。もちろん、上述の次の記録データの取得、解析及び影響領域Aの抽出も、ノズル15が影響領域Aに達する前に完了する。
【0047】
さらに、キャリッジ12は、今回のセット処理中に、次回のパスの記録処理における影響領域A(直前に抽出された影響領域A)に到達することになる。つまり、ノズル15の位置が、次回のパスの記録処理における影響領域Aであれば(ステップS22:YES)、制御部40は、アクチュエータ13aを駆動して、影響領域Aに第1部分画像を形成する(ステップS23)。第1部分画像は、液体吐出ヘッド13が第2方向へ移動しながら形成される。このとき、影響領域Aに対応する画像を形成する第1液滴及び第2液滴のうち、第1液滴のみが用いられる。
【0048】
さらに、キャリッジ12は移動され、次回のパスの記録処理の開始位置に達する。これで今回のパスに係る処理が完了し、これよりは、次回のパスに係る処理が始まる。なお、この地点(次回のパスの開始位置)は、抽出された影響領域Aの端でもある。
【0049】
さらに処理は進んで、ノズル15の位置が、次回のパスの記録処理の影響領域であれば(ステップS23:NO、S24:YES)、制御部40は、アクチュエータ13aを駆動して、影響領域Aに第2部分画像を形成する(ステップS23)。第2部分画像は、液体吐出ヘッド13が第1方向へ移動しながら形成される。このとき、第2部分画像は、第1部分画像を補完する画像であって、その形成には第2液滴が用いられる。このように、影響領域Aに対応する画像は、第1部分画像に第2部分画像を重ねて完成される。さらに、キャリッジ12は、第1方向に移動され、影響外領域に入る。
【0050】
つまり、ノズル15の位置が、次回のパスの記録処理の影響外領域であれば(ステップS24:NO、S26:YES)、制御部40は、アクチュエータ13aを駆動して、次回のパスの記録データに基づく画像を形成する(ステップS23)。この画像は、液体吐出ヘッド13が第1方向へ移動しながら形成される。このとき、第1液滴及び第2液滴が用いられる。
【0051】
このように、1つのパスにおいて、次のパスに係る記録データの準備が完了し、特に、記録処理に続くセット処理において、キャリッジ12が次のパスに係る影響領域Aに達する前に、準備された記録データからの当該影響領域Aの抽出及び搬送処理が完了する。さらに、影響領域Aに対応する画像は、2つにデータ分割されて形成される。一方の画像(第1部分画像)は、1つのパスのセット処理中に形成される。他方の画像(第2部分画像)は、次のパスの記録処理中に形成される。このとき、前者はサイズの小さい第1液滴により形成され、後者はサイズの大きい第2液滴で形成される。そのため、最終的に得られる画像は、上述の空気流の影響が目立たない。
【0052】
図5は、画像形成時の液体吐出ヘッド13の動きについて、より具体的に説明する模式図である。最初のパスでは、先行するセット処理が存在しない。そのため、残留する空気流の影響は、考えなくてよい。記録処理が対象とする領域全体が、記録データに基づいて、画像が形成される。そこで、動きの説明は、今回のパスにおけるセット処理から始める。なお、液体吐出ヘッド13は、画像形成に際して、被記録媒体Pを常に横切るとし、印刷形態は縁無印刷とする。
【0053】
図5(a)には、液体吐出ヘッド13の停止位置P10、P12が示されている。この位置P10、P12は、液体吐出ヘッド13の移動方向の転換点であり、移動速度がゼロとなる地点である。位置P10では、移動方向が、第1方向から第2方向へ切替わる。位置P12では、移動方向が、第2方向から第1方向へ切替わる。また、位置P10側の被記録媒体Pの端が、搬送処理及びセット処理の開始位置(記録処理の終了位置)である。一方、位置P12側の被記録媒体Pの端が、セット処理の終了位置(記録処理の開始位置)である。
【0054】
液体吐出ヘッド13は、上述したように、セット処理において、主走査方向に沿って往復移動する。液体吐出ヘッド13は、記録処理終了直後は、第1方向に移動して、位置P10に至る。その後、液体吐出ヘッド13は、反転して第2方向に移動する。液体吐出ヘッド13は、位置P12に達したのち、折り返して位置P12側の被記録媒体Pの端に至る。この間、被記録媒体Pは、搬送処理により、帯状に画定される画像形成領域の幅だけ、副走査方向に搬送される。なお、第2方向への移動では、液体吐出ヘッド13は、一定の速度で移動する。
【0055】
第2方向への移動途中には、位置P11が設定されている。この位置P11は、影響領域Aにおける第1方向側の端である。液体吐出ヘッド13は、位置P11に達すると、第2方向への定速移動を継続しながら、小液滴(第1液滴に相当)のみを吐出する。このとき、小液滴は、分割された次回の記録処理用の記録データ(分割データ1)に基づいて、吐出される。この小液滴によって、第1部分画像ei1(影響領域Aに対応する画像eiの部分画像)が、第2方向へ印刷されていく。第1部分画像ei1が形成された後、液体吐出ヘッド13は、一定の加速度で減速して、位置P12で折り返す。その後、液体吐出ヘッド13は、一定の加速度で加速しながら、影響領域Aにおける第2方向側の端(位置P13)に至る。
【0056】
ところで、本実施形態では、記録処理が終了すると、搬送処理が始まる。搬送処理は、液体吐出ヘッド13が、位置11に達する前に完了する。この間、液体吐出ヘッド13は、被記録媒体P上を斜めに移動する。なお、この搬送処理は、液体吐出ヘッド13が影響領域Aの端に達する前に完了すればよく、その開始時点は記録処理終了後の任意の時点でよい。そのため、
図5では、便宜上、搬送処理が、位置10から始まるように表現してある。
【0057】
液体吐出ヘッド13は、
図5(b)に示すように、位置P13から、次回のパスの記録処理を開始する。このとき、液体吐出ヘッド13は、第1方向への定速で移動する。ここで、このパスは、既に影響領域A内に第1部分画像ei1があり、これに画像を重ねて形成する。液体吐出ヘッド13は、画像ei1において第2方向の端(位置P14)に達すると、第2部分画像ei2の形成を始める。画像ei2の形成は、中液滴及び大液滴(第2液滴に相当)が用いられる。このとき、中液滴及び大液滴は、分割データ2(分割データ1と対を成すデータ)に基づいて、吐出される。第2部分画像ei2は、第1部分画像ei1を補完する。これにより、影響領域Aに対応する画像eiが完成する。この画像eiは、記録データが指示する画像である。
【0058】
第2部分画像ei2の形成後、
図5(b)に示すように、液体吐出ヘッド13が、影響領域Aにおいて第1方向側の端(位置P15)に達すると、影響外領域に対応する画像oiの形成が始まる。このとき、液体吐出ヘッド13は、第1方向への定速移動を継続しながら、小液滴、中液滴及び大液滴を吐出する。各液滴は、今回の記録処理用の記録データに基づいて、吐出される。これにより、画像oiが形成される。
【0059】
画像oiが形成された後、液体吐出ヘッド13は、被記録媒体Pにおいて第1方向の端から減速を始める。この減速は、一定の加速度で行われる。この被記録媒体Pの端は、現在のパスにおける記録処理の終点であり、且つ、セット処理の始点でもある。
【0060】
その後、液体吐出ヘッド13は、被記録媒体Pにおいて第1方向の端に到達すると、上述のように、このパスでのセット処理及び搬送処理を開始する。このように、液体吐出装置1は、1つのパスにて、記録処理(液体吐出ヘッド13の定速移動と液滴の吐出)、及びセット処理(液体吐出ヘッド13の、減速、定速移動を挟む2回の反転、加速)などを行う。これを複数回繰り返して、
図5(c)に示すように、1つの画像が被記録媒体Pに形成される。
【0061】
なお、
図5において、液体吐出ヘッド13の移動形態により、画像形成の対象領域(液滴が吐出されうる領域)が被記録媒体Pの主操作方向の全幅であり、この間の液体吐出ヘッド13の動作が、
図4中の記録処理(S11)に該当する。しかし、この移動形態はこれに限らず、印刷時間を短縮する観点から、画像及びその近傍のみで往復移動することがある。このとき、「記録処理」は、最初の液滴を吐出したときから、最後の液滴を吐出するまでの動作である。いずれの形態でも、液体吐出ヘッド13は、部分画像を形成するため、定速移動とこれに同期した液体の吐出を行う。
【0062】
このような構成とすると、空気流が残留する影響領域Aでは、今回のパスのセット処理において、第1液滴のみを吐出し、第1部分画像ei1を形成する。そして、続くパスの記録処理において、第1液滴よりサイズの大きい第2液滴を吐出して、第2部分画像ei2を形成し、第1部分画像ei1を補完する。これにより、所望の印刷時間を維持したまま、空気流による画像の乱れを抑制することができる。
【0063】
また、上述の記録処理では、影響外領域において、第1液滴及び第2液滴で画像oiを形成する。これにより、影響領域Aの合成画像eiと、影響外領域の画像oiとの境界は目立ちにくく、画質低下を抑制することができる。
【0064】
<変形例1>
ここで、搬送処理において、被記録媒体Pの搬送に要する時間を第1時間とする。また、セット処理において、記録処理の終了から第1液滴の吐出を開始するまでの時間を第2時間とする。
【0065】
変形例1に係る液体吐出装置1では、制御部40は、記録処理の終了後に搬送処理を開始する。この際、制御部40は、記録処理の終了からの経過時間が、第1時間以上になってから、セット処理の影響領域Aにおける吐出を開始する。
【0066】
具体的には、
図5の例では、記録処理が終了すると、セット処理を開始する。位置P10において、液体吐出ヘッド13は、移動方向を第2方向へ反転する。その後、液体吐出ヘッド13が影響領域Aに達すると、第1液滴の吐出を開始する。このとき、既に、搬送処理は完了している。これに対し、例えば、制御部40は、セット処理における移動距離を調整し、第2時間を第1時間以上にする。
【0067】
これにより、第2時間が第1時間よりも短い場合、
図7に示すように、制御部40は、液体吐出ヘッド13の移動方向の転換点として、新たに位置P10αを設定する。位置P10αは、位置P10から第1方向に距離αの地点である。これにより、セット処理では、距離αの区間を往復する時間分、第2時間が増える。よって、被記録媒体Pの搬送完了後に、液体吐出ヘッド13は、影響領域Aに達する。影響領域Aにおいて、液体吐出ヘッド13は、確実に静止した被記録媒体Pに対して、第1液滴を吐出できる。
【0068】
また、別の方法として、制御部40は、液体吐出ヘッド13を一時的に停止して、第2時間を第1時間以上にする。液体吐出ヘッド13の一時停止は、記録処理の終了からセット処理で吐出を開始するまでの間において行われる。例えば、液体吐出ヘッド13は、位置P10で所定時間だけ待機する。第2時間が第1時間よりも短いと、制御部40は、第2時間が第1時間よりも長くなるように、所定時間を設定する。よって、被記録媒体Pの搬送完了後に、液体吐出ヘッド13は、影響領域Aに達する。影響領域Aにおいて、液体吐出ヘッド13は、確実に静止した被記録媒体Pに対して、第1液滴を吐出できる。
【0069】
なお、制御部40は、第2時間が第1時間以上とするために、液体吐出ヘッド13の移動距離及び停止時間の調整を行ってもよい。被記録媒体Pのサイズが小さくなると、第1時間及び第2時間の大小関係が逆転する虞がある。しかし、これによれば、被記録媒体Pの搬送完了後に、液体吐出ヘッド13は、影響領域Aに達する。被記録媒体Pのサイズによらず、被記録媒体Pの搬送完了後に、液体吐出ヘッド13は、影響領域Aに達する。
【0070】
<変形例2>
ここで、記録処理において液体吐出ヘッド13が移動する速度を第1移動速度とする。また、セット処理において液体吐出ヘッド13が移動する速度を第2移動速度とする。
【0071】
変形例2に係る液体吐出装置1では、第1移動速度及び第2移動速度が異なる場合、制御部40は、影響領域Aにおいて、セット処理で形成される第1部分画像ei1を、続く記録処理で形成される第2部分画像ei2と同じ解像度で形成する。
【0072】
例えば、印刷時間の短縮化の観点から、第2移動速度が、第1移動速度よりも速く設定されることがある。この場合、セット処理及び記録処理において、同じ駆動信号でアクチュエータ13aを駆動すると、液滴の着弾位置が互いにずれてしまう。
【0073】
そこで、第1移動速度と第2移動速度との違いに応じて、セット処理時の駆動信号を調整する。例えば、駆動周波数が高く設定される。これにより、2つの部分画像ei1、ei2が同じ解像度で形成される。さらに移動速度の違いに応じて、セット処理時において、液滴の吐出タイミングが若干早められる。あるいは、駆動電圧を高くしてもよい。これにより、セット処理及び記録処理において、重なり合わされる液滴同士が、位置ずれすることなく、同じ位置に着弾する。つまり、2つの部分画像ei1、ei2による補完が、正確に行われる。
【0074】
<変形例3>
変形例3に係る液体吐出装置1では、第2移動速度が第1移動速度と異なる場合、制御部40は、少なくとも影響領域Aにおいて、第2移動速度を第1移動速度と同じに設定する。
【0075】
具体的には、影響外領域では、液体吐出ヘッド13が、第2移動速度で移動する。これより、セット処理時間の短縮化を図ることができる。一方、影響領域Aでは、液体吐出ヘッド13が、第1移動速度で移動する。これにより、液体吐出ヘッド13は、記録処理時と同じ吐出タイミングで吐出する。このため、セット処理及び記録処理において、アクチュエータ13aを同じ駆動信号で駆動でき、液滴の着弾位置も一致させられる。よって、影響領域Aでは、2つの部分画像ei1、ei2を、同じ解像度にできる。
【0076】
なお、影響領域Aよりも第1方向側において液体吐出ヘッド13の移動速度を、第1移動速度から第2移動速度へ変更してもよい。
【0077】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る液体吐出装置1では、
図8に示すように、影響領域Aに隣接して、遷移領域Bを設定する。遷移領域Bは、影響領域Aから第1方向へ所定距離の範囲である。そして、遷移領域Bに対して、制御部40は、今回のパスのセット処理で第1階調画像ti1を形成し、続く記録処理で第2階調画像ti2を形成する。第1階調画像ti1は、第1液滴について第1吐出量で形成される。一方、第2階調画像ti2は、第1液滴について第2吐出量で形成される。第1吐出量と第2吐出量とを加えると、遷移領域Bに対応する画像において、第1液滴について画像データが指示する指示吐出量となる。
【0078】
第1階調画像ti1は、第1液滴のみで形成される。このとき、指示吐出量に対する第1吐出量の割合が、影響領域Aに向かって大きくなるように調整される。第2階調画像ti2は、第1液滴及び第2液滴で形成される。このとき、第1液滴については、指示吐出量に対する第1吐出量の割合が、影響領域Aに向かって小さくなる。この第2階調画像ti2は、第1階調画像ti1を補完して、遷移領域Bに対応する画像tiを構成する。
【0079】
図8は、画像形成時の液体吐出ヘッド13の動きについて、より具体的に説明する模式図である。最初のパスでは、先行するセット処理が存在しない。そのため、残留する空気流の影響は、考えなくてよい。そこで、動きの説明は、今回のパスにおけるセット処理から始める。なお、液体吐出ヘッド13は、画像形成に際して、被記録媒体Pを常に横切るとし、印刷形態は縁無印刷とする。
【0080】
図8(a)は、液体吐出ヘッド13の停止位置P20、P23が示されている。この位置P20、P23は、
図5(a)の位置P10、P12に相当し、液体吐出ヘッド13の移動方向の転換点(移動速度がゼロとなる地点)である。また、位置P20側の被記録媒体Pの端が、搬送処理及びセット処理の開始位置(記録処理の終了位置)である。一方、位置P23側の被記録媒体Pの端が、セット処理の終了位置(記録処理の開始位置)である。
【0081】
なお、記録処理及びセット処理において、液体吐出ヘッド13の移動形態(加速、減速、定速移動等)は、上述の実施形態と同様である。搬送処理においても、上述と同様の動作が行われる。
【0082】
第2方向への移動途中には、2つの位置P21、P22が設定されている。このうち、位置P21は、遷移領域Bにおける第1方向側の端である。位置P22は、影響領域Aにおける第1方向側の端である。そして、液体吐出ヘッド13は、位置P21に達すると、第2方向への定速移動を継続しながら、小液滴(第1液滴に相当)のみを吐出する。このとき、小液滴は、分割された次回の記録処理用の記録データ(分割データ21)に基づいて、吐出される。これにより、第1階調画像ti1(遷移領域Bに対応する画像tiの部分画像)と第1部分画像ei1(影響領域Aに対応する画像eiの部分画像)が、第2方向へ順に印刷されていく。
【0083】
第1部分画像ei1が形成された後、液体吐出ヘッド13は、一定の加速度で減速して、位置P23で折り返す。その後、液体吐出ヘッド13は、一定の加速度で加速しながら、影響領域Aにおける第2方向側の端(位置P24)に至る。
【0084】
液体吐出ヘッド13は、
図8(b)に示すように、位置P24から、次回のパスの記録処理を開始する。このとき、液体吐出ヘッド13は、第1方向への定速で移動する。既に、このパスは、影響領域A内の第1部分画像ei1、及び遷移領域B内には第1階調画像ti1が形成されている。液体吐出ヘッド13は、これらに重ねて、対となる部分画像を形成する。
【0085】
液体吐出ヘッド13は、画像ei1において第2方向側の端(位置P25)に達すると、第2部分画像ei2の形成を始める。画像ei2は、中液滴及び大液滴で形成される。画像ei2は、分割データ22(分割データ21と対を成すデータ)に基づいて、形成される。これにより、第2部分画像ei2は、第1部分画像ei1を補完する。
【0086】
続いて、液体吐出ヘッド13は、第1階調画像ti1において第2方向側の端(位置P26)に達すると、第2階調画像ti2の形成を始める。画像ti2は、小液滴、中液滴及び大液滴で形成される。ただし、小液滴については、記録データが指示する液滴量に関して、第1階調画像ti1を補完する分布を持つ。このときも、各液滴は、分割データ22に基づいて、吐出される。第2階調画像ti2は、第1階調画像ti1を補完する。これにより、
図8(c)に示すように、影響領域Aには画像eiが完成し、遷移領域Bには画像eiが完成する。2つの画像ei、tiは、記録データが指示する画像である。
【0087】
液体吐出ヘッド13が、さらに第1方向への定速移動を継続し、影響外領域(影響領域A及び遷移領域B以外の領域)の第2方向側の端(位置P21)に達する。ここから、液体吐出ヘッド13は、記録データに基づいて、画像oiの形成を始める。このとき、小液滴、中液滴及び大液滴が使用される。これにより、影響外領域には、画像oiが形成される。この後、液体吐出ヘッド13は、被記録媒体Pにおいて第1方向側の端から減速を始める。この減速は、一定の加速度で行われる。この被記録媒体Pの端は、現在のパスにおける記録処理の終点であり、且つ、セット処理及び搬送処理の始点でもある。
【0088】
このように、液体吐出装置1は、1つのパスにて、記録処理に続くセット処理及び搬送処理を繰り返す。これにより、画像ei、ti、oiが印刷されていき、
図8(c)に示すように、1つの画像を被記録媒体Pに形成される。
【0089】
このような構成とすると、遷移領域Bにおいて、指示吐出量に対する第1液滴の第1吐出量の割合を、影響領域Aに向かって大きくしている。これにより、影響領域Aの近傍では、小液滴の濃度が、第1部分画像ei1に等しい又は近くなる。よって、影響領域Aと遷移領域Bとの境目が、目立たなくなる。これにより、画像の品質向上が図られる。
【0090】
一方、遷移領域Bの第2階調画像ti2において、指示吐出量に対する第1液滴の第1吐出量の割合を、影響外領域に向かって大きくしている。これにより、遷移領域Bと影響外領域との境目が、目立たなくなる。これにより、画像の品質向上が図られる。
【0091】
なお、パスにおいては、影響領域Aの画像eiと遷移領域Bの画像tiとが主走査方向において連続していない場合がある。この場合、今回のセット処理において第1階調画像ti1を形成せずに、続く記録処理において画像tiを形成してもよい。
【0092】
<変形例4>
変形例4に係る液体吐出装置1では、制御部40は、影響領域Aにおける単位面積当たりの第1液滴の吐出量(第1吐出量)が多いほど、遷移領域Bの面積を広く設定する。例えば、遷移領域Bを主走査方向に長くする。
【0093】
これにより、第1液滴について、指示吐出量に対する第1吐出量の割合の変化率(傾き)が小さくなる。遷移領域Bでは、領域内の色目が記録データの指示する色目に近いものとなり、色変化による画質の低下を低減できる。
【0094】
(実施の形態3)
以上の実施形態では、記録処理の範囲は、被記録媒体Pの全幅であった。しかし、本実施の形態3では、記録処理の範囲が、主走査方向に関して、画像の両端間である。このとき、セット処理において、折り返し位置もパス毎に変わる。この場合、液体吐出ヘッド13は、被記録媒体P上でも、折り返すことになる。
【0095】
さらに、実施の形態3に係る液体吐出装置1では、制御部40は、搬送処理の終了時点が、続くセット処理での吐出を開始する時点(部分画像の形成開始時点)に対して、同じか、又はそれ以前となるように調整する。
【0096】
液体吐出装置1の動作について、
図9を用いて、記録処理の範囲がパス毎に変化する場合の例を説明する。加えて、影響領域Aに隣接して遷移領域Bを有する場合の例を説明する。
【0097】
図9に示すように、液体吐出ヘッド13は、実線HLに沿って移動する。実線HLにおいて、図中の円弧は、液体吐出ヘッド13の反転を示している。なお、最初のパス(パス(1))では、実線HLで示すように、液体吐出ヘッド13が、メンテナンスポート側(
図9において、被記録媒体Pの左側)から被記録媒体P内に侵入する。このとき、残留する空気流は存在しない。記録処理では、液体吐出ヘッド13の移動に伴い、記録データの指示する画像が形成される。そこで、主な動きの説明は、今回のパスにおけるセット処理から始める。
【0098】
まず、制御部40は、最初のパス(パス(1))の記録処理が終了するまでに、2つ目のパス(パス(2))用の記録データを用意する。制御部40は、この記録データに基づいて、パス(2)で形成される画像の範囲RIを抽出する。そして、制御部40は、この範囲RIに応じて、記録処理の終了位置FP1及び開始位置FP2を設定する。このとき、画像範囲RI内に、影響領域Aも設定される。
【0099】
このうち、記録処理の終了位置FP1は、パス(2)において、記録処理終了時のノズル位置であり、セット処理及び搬送処理の開始位置でもある。一方、記録処理の開始位置FP2は、パス(2)における記録処理開始時のノズル位置であり、パス(1)におけるセット処理の終了位置でもある。
【0100】
ここで、
図9において、符号DLは液体吐出ヘッド13の減速に要する距離を示し、符号ALは液体吐出ヘッド13の加速に要する距離を示す。ここでは、距離DL=距離ALとした。また、符号S1は搬送処理完了時のノズル位置を示し、符号R1は記録処理終了後の折返し時のノズル位置を示し、符号R2は記録処理開始前の折返し時のノズル位置を示し、符号E1は記録処理終了後の折返し時の修正されたノズル位置を示し、符号A1は影響領域Aの第1方向の端を示す。
【0101】
さらに、制御部40は、パス(1)の記録処理終了後の折返し位置(記録処理の終了位置FP1から第1方向に距離DL(AL)の位置)R1及び搬送処理終了時のノズル位置S1を仮設定する。続いて、制御部40は、影響領域Aの第1方向側の端A1と仮のノズル位置S1の位置関係から、改めて折返し位置R1(又は、E1)を決定する。
【0102】
このとき、折返し位置R1は、ノズル位置が影響領域Aに達する前に搬送処理が完了しない場合、位置R1より第1方向側の位置(記録処理の終了位置FP1から第1方向に距離DL(AL)+αの位置)E1に変更される。液体吐出ヘッド13の移動距離が、長くなる。そのため、搬送処理完了時点で、ノズル位置(この場合、位置S1)は、影響領域Aの第1方向側の端A1、又は端A1より第1方向側にある。
【0103】
続いて、制御部40は、パス(2)について、記録処理開始前の折返し位置R2を設定する。このとき、折返し位置R2は、パス(2)における記録処理の開始位置FP2を基準に決まる。折返し位置R2は、パス(2)の開始位置FP2より第2方向に距離DL(AL)の位置である。
【0104】
具体的には、
図9に示すように、パス(1)の記録処理終了位置FP1を基準に2つのパス(1)、(2)を比較すると、パス(1)のノズル位置S1は、パス(2)の影響領域Aの端A1に対して、第1方向側にある。
【0105】
そこで、液体吐出ヘッド13は、パス(1)の記録処理が終了すると、位置FP1から減速し、折返し位置R1で反転する。記録処理終了時点で、搬送処理が始まる。さらに、液体吐出ヘッド13は、パス(2)の端A1に達すると、第2方向に向かって第1部分画像ei1を形成し始める。画像ei1の形成が終わると、液体吐出ヘッド13は、折返し位置R2で反転する。この位置R2は、パス(2)の開始位置FP2より第2方向に距離DL(AL)の位置である。
【0106】
続いて、パス(2)の記録処理終了位置FP1を基準に2つのパス(2)、(3)を比較すると、パス(2)のノズル位置S1は、パス(3)の影響領域Aの端A1に対して、第2方向側にある。
【0107】
そこで、液体吐出ヘッド13は、パス(2)の記録処理が終了すると、位置FP1から減速し、修正された折返し位置E1で反転する。このとき、修正されたノズル位置S1は、ちょうど端A1に一致する。記録処理終了時点で、搬送処理が始まる。さらに、液体吐出ヘッド13は、パス(2)の端A1に達すると、第2方向に向かって第1部分画像ei1を形成し始める。画像ei1の形成が終わると、液体吐出ヘッド13は、折返し位置R2で反転する。この位置R2は、パス(3)の開始位置FP2より第2方向に距離DL(AL)の位置である。
【0108】
なお、上記では、折返し位置R1を折返し位置E1に変更する場合、2つの折返し位置R1、E1間の間隔は、変更前のノズル位置S1と端A1都の間隔とした。しかし、これに限定されない。例えば、修正されたノズル位置S1が端A1の第1方向側になるように、折返し位置R1に対する折返し位置E1の変位量を任意に設定してもよいし、この変位量を固定幅の倍数により設定してもよい。
【0109】
また、上記では、搬送処理終了時点のノズル位置S1が、影響領域Aの端A1、又は端A1の第1方向側に位置するように、液体吐出ヘッド13の走査距離を延長した。しかし、これに限らない。例えば、制御部40は、第2時間が第1時間以上となるように、記録処理の終了からセット処理における第1液滴の吐出を開始するまでの間において、液体吐出ヘッド13の移動を一時的に停止する。この場合、ノズル位置S1は、影響領域Aの端A1から第1方向側に距離AL(DL)の位置であってもよい。
【0110】
さらに、
図7と同様に、影響領域Aに隣接して遷移領域Bを設けてもよい。この場合も、上述のようにパス毎の記録データから、画像範囲RIを抽出する。このとき、画像範囲RIには、影響領域Aに加えて、遷移領域Bも設定する。この後、搬送処理終了時点のノズル位置S1と、遷移領域Bの第1方向側の端A1との位置関係により、記録処理終了後の折返し位置R1を設定すればよい。これにより、上述と同様の効果を享受できる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、インクジェット式プリンタ等の液体吐出装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 :液体吐出装置
13 :液体吐出ヘッド(吐出ヘッド)
12 :キャリッジ(ヘッド走査機構)
30 :給送ローラ(媒体搬送機構)
31 :搬送ローラ(媒体搬送機構)
34 :排出ローラ(媒体搬送機構)
40 :制御部
43 :RAM(記憶部)
50 :搬送モータ(媒体搬送機構)
51 :キャリッジモータ(ヘッド走査機構)