(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】薄肉鋳片の連続鋳造装置及び薄肉鋳片の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
B22D11/06 340A
(21)【出願番号】P 2019022334
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚越 一基
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-163554(JP,A)
【文献】特開昭64-087043(JP,A)
【文献】特開昭60-092052(JP,A)
【文献】特開昭61-074757(JP,A)
【文献】特開昭61-049755(JP,A)
【文献】特表平06-503274(JP,A)
【文献】実開平05-060645(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の回転鋳型と、前記回転鋳型の両端に接する固定堰とを有し、
前記1対の回転鋳型のギャップ最小部の上部に、回転鋳型と固定堰とで囲まれた溶湯溜まりを形成し、前記溶湯溜まり中に金属溶湯を供給し、前記回転鋳型を回転させることにより、前記ギャップ最小部を経由して薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の連続鋳造装置であって、
さらに金属条材供給装置と、前記固定堰中に貫通する金属条材貫通孔とを有し、当該金属条材貫通孔は、一方の開口部は前記金属条材供給装置に向かって開口し、他方の開口部は前記溶湯溜まり内であって前記ギャップ最小部の上部に向かって開口し、前記金属条材供給装置は、前記金属条材貫通孔を通して金属条材を前記ギャップ最小部の直上に供給
し、
前記ギャップ最小部とは、前記一対の回転鋳型間の内、前記一対の回転鋳型間の距離が最小となる部位であり、
前記ギャップ最小部の直上とは、前記出口開口部の上端と前記ギャップ最小部との間の高さ方向距離が前記ギャップ最小部のギャップの10倍以下の範囲内の位置であることを特徴とする薄肉鋳片の連続鋳造装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の薄肉鋳片の連続鋳造装置を用いた薄肉鋳片の連続鋳造方法であって、
前記金属条材供給装置で供給する金属条材は、金属製の線材、矩形材、管材、撚り線のいずれかであることを特徴とする薄肉鋳片の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記金属条材供給装置で供給する金属条材は中実の条材であり、前記ギャップ最小部のギャップと同等又はそれ以下の外径であることを特徴とする請求項
2に記載の薄肉鋳片の連続鋳造方法。
【請求項4】
前記金属条材供給装置で供給する金属条材は、溶湯溜まりに供給する金属溶湯と同じ成分であることを特徴とする請求項
2又は請求項
3に記載の薄肉鋳片の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉鋳片の連続鋳造装置及び薄肉鋳片の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
省工程・省エネルギーの観点から、最終品に近い薄板を鋳造段階で製造する技術、すなわちニアネットシェイプ連続鋳造の開発が行われている。このうち、薄板系のニアネットシェイプ連続鋳造として有力なものとして、いわゆるストリップ連続鋳造法が知られている。ストリップ連続鋳造法とは、溶湯と鋳型ロール(あるいはベルト)を直接接触させて凝固させ、鋳造厚0.1~10mm程度に連続鋳造するニアネットシェイプ連続鋳造法である(非特許文献1)。以下、ここでは「薄肉鋳片の連続鋳造」と呼ぶ。薄肉鋳片の連続鋳造方法としては、双ロール式連続鋳造方法、単ロール式連続鋳造方法、双ベルト式連続鋳造方法、単ベルト式連続鋳造方法などが知られている。
【0003】
双ロール式(双ドラム式ともいう。)連続鋳造装置を用いた薄肉鋳片の連続鋳造においては、
図1、
図5に示すように互いに逆方向に回転する一対のロール1により区画された溶湯溜まりに、溶湯を供給することにより薄肉鋳片5を鋳造するようになっている。単ロール連続鋳造方法は1本のロールを用い、何種類かの方法が提案されている。双ベルト式連続鋳造方法は、
図4に示すように、互いに逆方向に回転する一対のベルト10により区画された溶湯溜まりに、溶湯を供給することにより薄肉鋳片5を鋳造するようになっている。単ベルト式連続鋳造方法は、1本のベルトを鋳型に用い、高Mn高張力炭素鋼の実用化開発が進められている(以上、非特許文献1)。以下、薄肉鋳片の連続鋳造方法のうち、双ロール式連続鋳造装置を例にとって説明を行う。
【0004】
双ロール式連続鋳造装置による薄肉鋳片の連続鋳造においては、
図1に示すように、一対のロール1(回転鋳型31)を配置し、ロール間の最近接距離(ギャップ最小部20のギャップ)が鋳造する薄肉鋳片厚みとなる。ロール1の両端に固定堰2(サイド堰ともいう。)を押し付けて溶湯溜まり3を形成し、溶湯溜まり3に溶湯を連続的に供給しながら一対のロール1を互いに反対方向に回転させる。ロール周面に沿って生成した一対の凝固シェル23をロール間の最近接部位(ギャップ最小部20)で圧着し鋳片とする。
【0005】
特許文献1には、双ロール式連続鋳造設備において、ロールと同期して下降するフープ材と、フープ材を案内するガイドロールとガイド部材を具備した設備が開示されている。フープ材により、サイドダム(固定堰)と水冷ドラム(ロール)間の湯差しや凝固シェルの形成を防止する。金属薄板(薄肉鋳片)の両端にフープ材を鋳ぐるまれたものが形成される。
【0006】
特許文献2には、双ロール式連続鋳造方法において、サイドシール板(上記固定堰)を通して帯状または線状の消耗材を溶湯の両端部に下向きに連続して供給する方法が開示されている。消耗材が凝固シェルとともに移動するために凝固シェルの移動抵抗が小さく、しかも凝固シェルがサイドシール板に擦られる量が少ないためにサイドシールの消耗が少なく、凝固シェルの下降動作がスムーズに行われるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭58-163554号公報
【文献】特開昭64-87043号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】第5版鉄鋼便覧 第1巻 製銑・製鋼、第456~457頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
薄肉鋳片の連続鋳造によって鋳造された薄肉鋳片は、鋳造後は機械的強度が弱く脆弱である。そのため、1対の回転鋳型31から引き抜かれた薄肉鋳片は、
図5に示すように、引張応力がかからないようにループを形成させ、第1ピンチロール14によって支持されている。このように注意深く扱っているとはいえ、鋳片にかかる張力が限界以上だと破断を生じることがある。また、第1ピンチロール14からインライン圧延機15との間には10N/mm
2程度の最低張力が付与されている。特に板の端部では蛇行などで最も張力がかかりやすく、搬送中に端部を起点に板破断に至るケースが多い。
【0010】
本発明は、薄肉鋳片の連続鋳造において、鋳造した鋳片の破断を防止することのできる、薄肉鋳片の連続鋳造装置及び薄肉鋳片の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
回転する1対のロール又は1対のベルトを、以下総称して「1対の回転鋳型」という。
[1]1対の回転鋳型と、前記回転鋳型の両端に接する固定堰とを有し、
前記1対の回転鋳型のギャップ最小部の上部に、回転鋳型と固定堰とで囲まれた溶湯溜まりを形成し、前記溶湯溜まり中に金属溶湯を供給し、前記回転鋳型を回転させることにより、前記ギャップ最小部を経由して薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の連続鋳造装置であって、
さらに金属条材供給装置と、前記固定堰中に貫通する金属条材貫通孔とを有し、当該金属条材貫通孔は、一方の開口部は前記金属条材供給装置に向かって開口し、他方の開口部は前記溶湯溜まり内であって前記ギャップ最小部の上部に向かって開口し、前記金属条材供給装置は、前記金属条材貫通孔を通して金属条材を前記ギャップ最小部の直上に供給し、
前記ギャップ最小部とは、前記一対の回転鋳型間の内、前記一対の回転鋳型間の距離が最小となる部位であり、
前記ギャップ最小部の直上とは、前記出口開口部の上端と前記ギャップ最小部との間の高さ方向距離が前記ギャップ最小部のギャップの10倍以下の範囲内の位置であることを特徴とする薄肉鋳片の連続鋳造装置。
【0013】
[2][1]に記載の薄肉鋳片の連続鋳造装置を用いた薄肉鋳片の連続鋳造方法であって、
前記金属条材供給装置で供給する金属条材は、金属製の線材、矩形材、管材、撚り線のいずれかであることを特徴とする薄肉鋳片の連続鋳造方法。
[3]前記金属条材供給装置で供給する金属条材は中実の条材であり、前記ギャップ最小部のギャップと同等又はそれ以下の外径であることを特徴とする[2]に記載の薄肉鋳片の連続鋳造方法。
[4]前記金属条材供給装置で供給する金属条材は、溶湯溜まりに供給する金属溶湯と同じ成分であることを特徴とする[2]又は[3]に記載の薄肉鋳片の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、薄肉鋳片の連続鋳造において、固定堰を貫通する金属条材貫通孔を設け、金属条材貫通孔の出口開口部をギャップ最小部の直上に設け、金属条材を金属条材貫通孔を通してギャップ最小部付近の溶湯溜まり内に供給することにより、鋳造した薄肉鋳片の幅方向端部に金属条材が配置されるので、鋳造した鋳片の破断を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明を適用した双ロール式連続鋳造の状況を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は正面断面図を示す。
【
図2】本発明を適用した双ロール式連続鋳造の状況を示す図であり、(A)はA-A矢視正面断面図、(B)はB-B矢視側面断面図、(C)はC-C矢視平面断面図、(D)はD-D矢視平面断面図、(E)はE-E矢視平面断面図を示す。
【
図3】本発明を適用した双ロール式連続鋳造の状況を示す図であり、(A)は正面断面図、(B)~(D)はA-A矢視断面図であり、金属条材の断面形状が、(B)は円形断面の線材、(C)は管材、(D)は矩形材の場合である。
【
図4】本発明を適用した双ベルト式連続鋳造の状況を示す斜視図である。
【
図5】双ロール式連続鋳造であって、インライン圧延機を備えたものを示す概念図である。
【
図6】本発明を適用した双ロール式連続鋳造の状況を示す正面断面図である。
【
図7】本発明を適用した双ロール式連続鋳造の状況を示す図であり、(A)は正面断面図、(B)はB-B矢視平面断面図、(C)はC-C矢視平面断面図を示す。
【
図8】本発明を適用した双ロール式連続鋳造の状況を示す正面断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1~
図5に基づいて本発明の第1の実施形態について説明を行う。
本発明が対象とする薄肉鋳片の連続鋳造装置は、回転する1対のロールを用いる双ロール式連続鋳造装置(
図1参照)、又は1対のベルトを用いる双ベルト式連続鋳造装置(
図4参照)である。1対のロール1又はベルト10を回転させ、ロール1又はベルト10に凝固シェル23を形成しつつ薄肉鋳片5を連続鋳造することから、回転する1対のロール1又は1対のベルト10を総称して「1対の回転鋳型31」という。1対の回転鋳型31は、その表面が上部から下部に向かって距離が近接し、最も接近した部分においてギャップ最小部20を形成する。以下、
図1、
図2、
図5に基づいて双ロール式連続鋳造装置の場合を例にとって説明する。
【0017】
薄肉鋳片の連続鋳造装置はさらに、回転鋳型31(ロール1)の両端に接する固定堰2を有し、1対の回転鋳型31のギャップ最小部20の上部には、回転鋳型31と固定堰2とで囲まれた溶湯溜まり3を形成する。レードル12からタンディッシュ13を経由して溶湯溜まり3中に金属溶湯を供給すると、回転鋳型31に接する部分で溶湯が凝固し、凝固シェル23が形成される。回転鋳型31を相互に反対方向に回転させることにより、回転鋳型31表面に形成された凝固シェル23は回転鋳型31とともに移動し、ギャップ最小部20で両方の回転鋳型31表面の凝固シェル23が圧着して薄肉鋳片5となり、ギャップ最小部20から下方に薄肉鋳片5が排出される。形成された薄肉鋳片5は、第1ピンチロール14を経てインライン圧延機15において圧延され、第2ピンチロール16を経由し巻取機17で巻き取られる。
【0018】
前述のとおり、薄肉鋳片の連続鋳造によって鋳造された薄肉鋳片5は、鋳造後は引張強度がきわめて低く、脆弱である。そのため、1対の回転鋳型31から引き抜かれた薄肉鋳片5は、
図5に示すように、ギャップ最小部20から第1ピンチロール14までの間にたるみ部を設け、意図しない引張応力が薄肉鋳片にかからないように支持されている。このように注意深く扱っているとはいえ、鋳片にかかる張力が限界以上だと破断を生じることがある。また、第1ピンチロール14からインライン圧延機15との間には10N/mm
2程度の最低張力が付与されている。そのため、特に板の端部では蛇行などで最も張力がかかりやすく、搬送中に端部を起点に板破断に至るケースが多い。
【0019】
薄肉鋳片5の両端部に一定の引張強度があれば破断を低減できると予想される。ただし、特許文献1に記載のように、溶湯溜まりの上部からフープ材を供給し、薄肉鋳片の両端をフープ材で鋳ぐるむような形態を採用したのでは次のような課題が生じる。即ち、フープ材は固定堰の役目を果たすため溶鋼溜り以上の幅が必要でありこの幅は薄肉鋳片の厚みより著しく大きくこのフープ材で鋳ぐるむために後工程でトリミング切除する範囲が極めて大きくなり、製造歩留まりを低下させる原因となる。さらに、フープ材をU型に変形させるためにはフープを略直線状に送りながら変形させる必要があり鋳型ロールの円弧とは形状が一致しないため鋳型ロールにフープを密着させることは難しく円弧部に接したフープに皺が生じて湯差しが発生する可能性が高い。一方、この発明を応用しフープ材で鋳ぐるまれた部分に溶湯が入り込まないようにした場合では、溶湯起因の鋳片部分とフープ材起因の鋳片部分とが良好な接合を形成せず、鋳造後に鋳片に張力がかかった場合に十分に支持し得ない。
【0020】
また、特許文献2に記載の発明は、サイドシール板(固定堰)を通して消耗材を溶湯の両端部に下向きに連続して供給する。消耗材がサイドシールと凝固シェルとの間に介在されて凝固シェルとともに移動し、これによって凝固シェルの移動抵抗が小さくなり、サイドシールの摩耗の問題を少なくするものである(同文献第2頁右上欄参照)。このような効果を発揮するために溶湯溜りの上部から消耗材を供給する必要がある。しかしながら、溶湯溜りの上部から消耗材を供給してしまうと溶湯の熱影響で消耗材の強度が低下し、鋳造後の鋳片の張力による破断防止の観点からは十分に鋳片を支持し得ない、という問題を有している。
【0021】
そこで本発明においては、薄肉鋳片5の両端部に補強材として金属条材7を付着させることを着想した。ここで金属条材7とは、材質が金属であり、形状が長尺の材料である。金属条材7の断面形状については、円形(楕円形を含む)、矩形(正方形、長方形)、筒状、撚り線状のものを用いることができる。ただし、金属条材7は溶湯溜まりの上部から溶湯溜まり内に挿入するのではなく、
図1に示すように、溶湯が回転鋳型31のギャップ最小部20で薄板状に形成される手前の溶融部が残る位置に合わせ、固定堰2内を通して供給する。そのため本発明の薄肉鋳片の連続鋳造装置においては、金属条材供給装置6を有し、さらに固定堰2中に貫通する金属条材貫通孔19を有し、金属条材貫通孔19は、一方の開口部は金属条材供給装置6に向かって開口し、他方の開口部(出口開口部21)が溶湯溜まり3内であってギャップ最小部20の直上に開口する。金属条材供給装置6から金属条材貫通孔19を通して金属条材7を溶湯溜まり3内のギャップ最小部20の直上に供給することができる。
【0022】
図2に示すように、金属条材貫通孔19に導入された金属条材7は、出口開口部21から溶湯溜まり3内に供給される。ギャップ最小部20の直上で溶湯溜まり3内に供給された金属条材7は、出口開口部21から溶湯溜まり3内に入った直後に、溶湯溜まり3内の溶融金属、及び回転鋳型表面に形成された凝固シェル23と接触する(
図2(D))。金属条材7と凝固シェル23との間に介在する溶融金属の凝固に伴い、金属条材7と凝固シェル23とは接着される。回転鋳型31(ロール1)の回転に伴って、金属条材7と凝固シェル23はともにギャップ最小部20内に導入される。1対の回転鋳型31それぞれの表面に形成された凝固シェル23は、ギャップ最小部20において相互に接触し圧着される。ギャップ最小部20から下部に導かれた薄肉鋳片5において、金属条材部分(板に溶着した金属条材7’)は薄肉鋳片5の幅方向端部を構成することとなる(
図2(E))。
【0023】
金属条材7は、鋳造する薄肉鋳片5と同種の金属からなる。溶湯溜まり3に供給される溶融金属が溶鋼であり、薄肉鋳片5が鋼鋳片であれば、金属条材7としても鋼を用いる。金属条材7が溶湯溜まり3内の溶融金属と接する側は、溶融金属が凝固するに応じて金属条材7が凝固シェル23と溶着するが、反対側(金属条材7が固定堰2と接する側)は、金属条材7が溶融するほどの加熱を受けないので、金属条材7の大部分は残存し必要な引張強度を得ることができる。
【0024】
金属条材貫通孔19から溶湯溜まり3内に導入された金属条材7は、回転鋳型31の回転によってギャップ最小部20から引き抜かれるので、鋳造を開始した後の定常状態においては、金属条材7を金属条材貫通孔19へ押し込む力を付与する必要がない。そのため、金属条材供給装置6としては、
図1に示すように、金属条材7が巻き取られて収納されていればよく、鋳造開始時にピンチロール8によって固定堰2の金属条材貫通孔19に導入すれば、以後は回転鋳型31の回転に伴って溶湯溜まり内に引き込まれていく。
【0025】
鋳造された薄肉鋳片5の幅方向端部は金属条材(板に溶着した金属条材7’)によって構成されるため、端部に金属条材を有しない通常の薄肉鋳片と比較し、幅端部の強度が増大し、張力による板破断の懸念がなくなるため、従来より以上に板材に張力を掛けることが可能となる。鋳造された薄肉鋳片5に張力を付与することができるので、蛇行検出や張力制御の容易化が図れ、搬送や板厚の安定化が図れる。
【0026】
本発明では、金属条材貫通孔19の出口開口部21をギャップ最小部20の直上に設ける。これにより、出口開口部21から溶湯溜まり3内に供給された金属条材7は、溶湯溜まり3内において直ちに凝固シェル23及び溶融金属と接触する。溶湯溜まり3内に供給された金属条材7は短時間でギャップ最小部20に到達するので、ギャップ最小部20に到達するまでの間に金属条材7が溶融金属の高温にさらされる時間が短く、高温暴露による金属条材の材質変化を最小に抑えることができる。そこで本発明では、出口開口部上端22とギャップ最小部20との間の高さ方向距離は、ギャップ最小部20のギャップの10倍以下とすると好ましい。一方、出口開口部上端22がギャップ最小部20に対して高さが低すぎると、1対の回転鋳型31に形成された両方の凝固シェル23の間隔が狭すぎるので、金属条材7と薄肉鋳片端部の接続を良好に行うことができない。そのため、出口開口部上端22とギャップ最小部20との間の高さ方向距離は、ギャップ最小部20のギャップの1.0倍以上とすると好ましい。
【0027】
前述のように、金属条材7の断面形状については、円形(楕円形を含む)、矩形(正方形、長方形)、筒状、撚り線状のものを用いることができる。断面が円形(楕円形を含む)であれば、金属条材7を線材と呼ぶことができる。断面が矩形(正方形、長方形)であれば、金属条材7を矩形材と呼ぶことができる。断面が筒状であれば、金属条材7を管材と呼ぶことができる。断面が筒状、あるいは撚り線状のもの以外の断面である場合、「中実の条材」と呼ぶことができる。
【0028】
図3は、金属条材7の断面3種類について、
図3(A)のA-A断面における平面断面形状を示している。
図3(B)は金属条材7が断面円形の中実線材の場合であり、
図3(C)は金属条材7が断面筒状の管材の場合であり、
図3(D)は金属条材7が断面長方形の矩形材(長方形の短辺を鋳片厚さ方向に配置)の場合である。
【0029】
金属条材7が中実の条材である場合(
図3(B))には、鋳片厚み方向における金属条材7の外径をギャップ最小部20のギャップと同等又はそれ以下の外径とすると好ましい。これにより、金属条材7がギャップ最小部20を容易に通過することができるようになる。ギャップ最小部20から引き出される薄肉鋳片5の厚さは、ギャップ最小部20のギャップと等しい。そのため、鋳片厚み方向における金属条材7の外径がギャップ最小部20のギャップより小さい場合には、引き出された薄肉鋳片5をインライン圧延機15で圧延するに際し、圧延後の板厚を金属条材7の外径と同等またはそれ以上とすることにより、インライン圧延機での金属条材7部分を圧下することがないので、インライン圧延機の圧下力を過大に設ける必要がなく、好ましい。一方、インライン圧延機で十分な圧下力を付与できる場合は金属条材7の厚みを鋳造時の鋳片厚みと同等にしてインライン圧延で延伸させてもよい。
【0030】
金属条材7が管材の場合(
図3(C))または撚り線の場合には、インライン圧延機15で薄肉鋳片5の金属条材7部分を圧下したときに断面形状が容易に変形可能なので、インライン圧延機15で圧延するに際しても、圧延後の板厚を金属条材7の外径よりも小さくすることが容易である。同様の理由により、金属条材7が管材または撚り線の場合には、鋳片厚み方向における金属条材7の外径がギャップ最小部20のギャップよりも大きくても、ギャップ最小部通過時に金属条材が容易に変形し、通過が可能になる。
【0031】
金属条材供給装置6で供給する金属条材7は、溶湯溜まり3に供給する金属溶湯と同じ成分であると好ましい。これにより、鋳造した薄肉鋳片5を板材として使用するに際し、端部の金属条材部分を端部トリムすることなく、使用することができる。一方、後工程で端部トリムを行う場合であれば、金属条材7の成分が金属溶湯の成分(薄肉鋳片の成分)と異なる成分とすることが可能である。
【0032】
金属条材貫通孔19の内径は、内部を通過する金属条材7の外径の1.002~1.2倍の範囲とすると好ましい。1.002倍以上であれば軸のすき間ばめに相当し、金属条材7をスムーズに通過させることができる。一方、1.2倍を超えると、穴と金属条材7とのすき間に溶湯が入り込み供給阻害を引き起こす可能性がある。金属条材7の外径がギャップ最小部20のギャップと等しい外径である場合、金属条材貫通孔19の内径は、前記ギャップ最小部20のギャップの1.002~1.2倍の範囲にあると好ましい。
【0033】
薄肉鋳片の連続鋳造装置が双ベルト式連続鋳造装置である場合について、本発明を適用したものを
図4に示す。
図4に示す双ベルト式連続鋳造装置は、1対のベルト10を有し、それぞれのベルト10はロール(9a、9b、9c)によって保持されている。1対のベルト10の両端には固定堰2が設けられ、1対のベルト10と固定堰2とで溶湯溜まり3が形成される。溶湯溜まり3部分において、ベルト10は溶湯溜まり3の外側からベルトガイド兼水冷装置11でガイドされている。ベルト10を溶湯溜まり3部分で下方に向かうように回転させることにより、1対のベルト10は1対の回転鋳型31を構成する。ベルト10表面に形成された凝固シェルはベルト10とともに下降し、ギャップ最小部において両方の凝固シェルが圧着され、薄肉鋳片5として下方に排出される。固定堰2には金属条材貫通孔19を有し、金属条材供給装置6から繰り出された金属条材7は、ピンチロール8に導かれ、金属条材貫通孔内に導かれる。金属条材貫通孔の出口開口部から溶湯溜まり3内に導かれた金属条材7の挙動については、双ロール式連続鋳造装置の場合について上述したとおりである。
【0034】
本発明の第2の実施形態について以下に説明する。第2の実施形態は、1対の回転鋳型31と、回転鋳型31の両端に接する固定堰2とを有し、前記1対の回転鋳型のギャップ最小部20の上部に、回転鋳型と固定堰2とで囲まれた溶湯溜まり3を形成し、溶湯溜まり3中に金属溶湯を供給し、前記回転鋳型を回転させることにより、ギャップ最小部20を経由して薄肉鋳片5を製造する薄肉鋳片の連続鋳造装置であって、さらに金属条材供給装置6と、固定堰2中に貫通する金属条材貫通孔19と、金属条材7を薄肉鋳片5の端部に付着させる付着手段40とを有し、金属条材貫通孔19は、一方の開口部は金属条材供給装置6に向かって開口し、他方の開口部(出口開口部21)はギャップ最小部20よりも下流側に向かって開口し、金属条材供給装置6は、金属条材貫通孔19を通して金属条材7をギャップ最小部20よりもの下流側の薄肉鋳片5に供給し、付着手段40は、金属条材供給装置6によって供給された金属条材7を薄肉鋳片5に付着させることを特徴とする薄肉鋳片の連続鋳造装置である。
第2の実施形態が対象とする薄肉鋳片の連続鋳造装置は、1対の回転鋳型31として、回転する1対のロール1を用いる双ロール式連続鋳造装置(
図1(A)参照)、又は1対のベルト10を用いる双ベルト式連続鋳造装置(
図4参照)である。
【0035】
以下、第2の実施形態について、
図6~8に基づいて双ロール式連続鋳造装置の場合を例にとって説明する。
第2の実施形態の双ロール式連続鋳造装置は、金属条材7をギャップ最小部20よりも下流側に供給する点、および、金属条材を薄肉鋳片の端部に付着させる付着手段40として、固定堰2が例えば押さえロール41(圧着装置42)を備えている点において、前述の実施形態の双ロール式連続鋳造装置と相違する。
【0036】
第2の実施形態においては、薄肉鋳片5の両端部に補強材として金属条材7をギャップ最小部よりも下流側で付着させる。この際、金属条材7は溶湯溜まり3内を通過しない。金属条材7は溶湯溜まり3内を通過しないため、溶湯の熱影響で金属条材7の強度が低下することが抑制される。したがって、鋳造後の薄肉鋳片5の両端部に張力が加わったとしても、第2の実施形態は第1の実施形態よりも薄肉鋳片5の破断を確実に防ぐことができる。
【0037】
第2の実施形態の双ロール式連続鋳造装置においては、固定堰2中に貫通する金属条材貫通孔19を有し、金属条材貫通孔19は、一方の開口部は金属条材供給装置6に向かって開口し、他方の開口部(出口開口部21)は、ギャップ最小部20よりも下流側、好ましくはギャップ最小部20の直下に開口する。ギャップ最小部20の直下とは、鋳造速度1m/sの場合、5s経過するまでの範囲をいい、具体的には、ギャップ最小部20から約1000mm程度下流の範囲内である。
【0038】
好ましい形態において、
図7に示すように、金属条材貫通孔19の出口開口部21はギャップ最小部20の直下に開口しているため、金属条材7はギャップ最小部20の直下に供給される。ギャップ最小部20の直下では薄肉鋳片5の顕熱が十分利用できるため、薄肉鋳片5の顕熱を利用して加熱し金属条材7を圧着することができる。
【0039】
第2の実施形態の双ロール式連続鋳造装置は、
図6に示すように金属条材供給装置6を有し、金属条材供給装置6から金属条材貫通孔19を通して金属条材7をギャップ最小部20よりも下流側に供給することができる。
図7に示す好ましい実施形態では、金属条材貫通孔19に導入された金属条材7は、出口開口部21からギャップ最小部20の直下に供給される。ギャップ最小部20の直下に供給された金属条材7は、薄肉鋳片5と接触する。
【0040】
第2の実施形態の双ロール式連続鋳造装置においては、固定堰2は、金属条材7を薄肉鋳片5に付着させる付着手段40として押さえロール41を備えている。押さえロール41は、出口開口部21よりも下流側に設けられている。このためギャップ最小部20の直下に金属条材7が供給されると、金属条材7は押さえロール41によって薄肉鋳片の端部に押付けられる。ギャップ最小部20の直下では薄肉鋳片5は高温であるため、押さえロール41によって薄肉鋳片5の端部に金属条材7を押付けることで、金属条材7は薄肉鋳片5の端部に圧着される。
【0041】
なお、上述の第2の実施形態では、ギャップ最小部の直下の薄肉鋳片の温度を利用することで金属条材を薄肉鋳片の端部に圧着する場合について説明した。しかし、これに限られない。例えば、付着手段40は、薄肉鋳片両端部を昇温加熱する加熱装置43と、加熱装置43よりも下流側に配置され加熱装置43によって加熱された薄肉鋳片5の端部に金属条材7を圧着させる圧着装置42とを備えることができる。
具体的には、
図8に示すように、圧着装置42としての押さえロール41の直上に、薄肉鋳片両端部を昇温加熱する加熱装置43として、薄肉鋳片5の端部を昇温可能な装置を設け、薄肉鋳片5の端部を若干溶融するまで昇温し金属条材7を押付け溶着することとしても良い。なお、昇温可能な装置として、例えば酸素トーチや、ガストーチ等のトーチ44が想定される(
図8参照)。このように、押さえロール41の直上に薄肉鋳片の端部を昇温可能な装置(トーチ44)を設けた場合、金属条材7の供給位置はギャップ最小部20の直下でなくても、ギャップ最小部20よりも下流側であれば良い。具体的には、ギャップ最小部20から数10メートル下流の位置に金属条材の供給位置を設定した場合であっても、薄肉鋳片の端部に金属条材を付着することができる。
【0042】
第2の実施の形態においても、前記第1の実施の形態と同様、金属条材供給装置6で供給する金属条材は、金属製の線材、矩形材、管材、撚り線を用いることができる。また、金属条材供給装置6で供給する金属条材が中実の条材である場合、ギャップ最小部20のギャップと同等又はそれ以下の外径とすると好ましい。さらに、金属条材供給装置6で供給する金属条材7は、溶湯溜まり3に供給する金属溶湯と同じ成分であると好ましい。
【符号の説明】
【0043】
1 ロール
2 固定堰
3 溶湯溜まり
5 薄肉鋳片
6 金属条材供給装置
7 金属条材
7’板に溶着した金属条材
8 ピンチロール
9a ロール
9b ロール
9c ロール
10 ベルト
11 ベルトガイド兼水冷装置
12 レードル
13 タンディッシュ
14 第1ピンチロール
15 インライン圧延機
16 第2ピンチロール
17 巻取機
19 金属条材貫通孔
20 ギャップ最小部
21 出口開口部
22 出口開口部上端
23 凝固シェル
31 回転鋳型
40 付着手段
41 押さえロール
42 圧着装置
43 加熱装置
44 トーチ