(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】耐力壁及び壁面材
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
E04B2/56 605J
E04B2/56 643A
(21)【出願番号】P 2019033169
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 良道
(72)【発明者】
【氏名】藤内 繁明
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025057(JP,A)
【文献】特開2010-031473(JP,A)
【文献】特表2002-536574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56
E04C 2/30
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる一対の縦材と、
一対の前記縦材にそれぞれ接合され、縁部に環状リブが設けられた開口部が前記上下方向に間隔をあけて1列形成された壁面材と、
を備え、
前記開口部の形状は、偶数個の角部を有する多角形状であり、
前記壁面材には、前記上下方向に延びる直線に対して左右対称で且つ前記直線上に前記開口部の対向する前記角部の頂点同士が位置するように前記開口部が形成されている
と共に、前記上下方向に隣接する2つの前記開口部の間には前記2つの前記開口部以外の他の開口部が形成されていない、耐力壁。
【請求項2】
隣接する前記開口部の大きさが同じである、請求項1に記載の耐力壁。
【請求項3】
前記開口部は、角部の頂点を前記直線上に配置した正方形状である、請求項1又は請求項2に記載の耐力壁。
【請求項4】
前記上下方向に隣接する前記開口部の中心間距離が、一対の前記縦材と前記壁面材との接合点間の水平距離よりも短い、請求項1~3のいずれか1項に記載の耐力壁。
【請求項5】
上下方向に延びる一対の縦材にそれぞれ接合される壁面材であって、
前記上下方向に間隔をあけて形成され、偶数個の角部を有する多角形状の開口部と、
前記開口部の縁部に設けられた環状リブと、
を備え、
前記上下方向に延びる直線に対して左右対称で且つ前記直線上に前記開口部の対向する前記角部の頂点同士が位置している
と共に、前記上下方向に隣接する2つの前記開口部の間には前記2つの前記開口部以外の他の開口部が形成されていない、壁面材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐力壁及び壁面材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、物の上下の水平部材に接合される一対の縦材と、一対の縦材に接合され、複数のバーリング孔が上下に1列に形成された壁面材と、を備える耐力壁が開示されている。この耐力壁では、壁面材に形成されるバーリング孔の形状が円形とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、耐力壁の壁面材には、配管や配線のために複数の貫通孔が形成されていることがある。この貫通孔は、壁面材の耐力等を考慮して円形とされることが多い。しかし、市場では、円形の貫通孔を形成した耐力壁と比べて、地震の初期から終局までの耐力が略同等であり、さらに、軽量化も図れる耐力壁の開発が望まれている。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、地震の初期から終局までの耐力を確保しつつ、軽量化を図れる耐力壁及び壁面材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様の耐力壁は、上下方向に延びる一対の縦材と、一対の前記縦材にそれぞれ接合され、縁部に環状リブが設けられた開口部が前記上下方向に間隔をあけて1列形成された壁面材と、を備え、前記開口部の形状は、偶数個の角部を有する多角形状であり、前記壁面材には、前記上下方向に延びる直線に対して左右対称で且つ前記直線上に前記開口部の対向する前記角部の頂点同士が位置するように前記開口部が形成されている。
【0007】
第1態様の耐力壁では、壁面材に形成された開口部の形状を偶数個の角部を有する多角形状としているため、多角形状の開口部における内接円の大きさを円形の開口部の大きさ以上とすることで、円形の開口部よりも壁面材に対する開口面積を大きくすることができる。これにより、耐力壁の軽量化を図ることができる。
また、上記耐力壁では、多角形状の開口部を上下方向に延びる直線に対して左右対称で且つ当該直線上に対向する角部の頂点同士が位置するように壁面材に形成している。このため、上記耐力壁では、地震の初期から終局までの耐力を、円形の開口部が形成された壁面材を有する耐力壁と略同程度に確保することができる。
【0008】
本発明の第2態様の耐力壁は、第1態様の耐力壁において、隣接する前記開口部の大きさが同じである。
【0009】
第2態様の耐力壁では、隣接する開口部の大きさを同じ大きさにしていることから、例えば、隣接する開口部の大きさが異なる構成と比べて、開口部毎に作用する応力が一定となるため、地震の初期から終局までの耐力を確保しやすい。また、壁面材の製造も容易になる。
【0010】
本発明の第3態様の耐力壁は、第1態様又は第2態様の耐力壁において、前記開口部は、角部の頂点を前記直線上に配置した正方形状である。
【0011】
第3態様の耐力壁では、開口部の形状を上下方向に延びる直線上に角部の頂点を配置した正方形状としていることから、内接円の大きさが同一の正多角形状の中で最も開口面積を大きくすることができるため、軽量化をさらに図ることができる。
【0012】
本発明の第4態様の耐力壁は、第1態様~第3態様のいずれか一態様において、前記上下方向に隣接する前記開口部の中心間距離が、一対の前記縦材と前記壁面材との接合点間の水平距離よりも短い。
【0013】
第4態様の耐力壁では、壁面材において、上下方向に隣接する開口部の中心間距離を一対の縦材と壁面材との接合点間の水平距離よりも短くしている。このため、耐力壁に地震による水平荷重が耐力壁に伝達された際に、壁面材では、一方の縦材と壁面材との接合部と開口部との水平方向の中間部、及び、他方の縦材と壁面材との接合部と開口部との水平方向の中間部におけるせん断応力(ミーゼス応力)値が上下方向に隣接する開口部間の上下方向の中間部のせん断応力値よりも低くなる。これにより、一対の縦材に生じる水平方向へのせん断応力が低減される。その結果、壁面材において上下方向に隣接する開口部間の上下方向の中間部が変形する前に、壁面材と縦材との接合部が変形することが抑制され、地震エネルギーを安定して吸収することが可能となる。
【0014】
本発明の第5態様の壁面材は、上下方向に延びる一対の縦材にそれぞれ接合される壁面材であって、前記上下方向に間隔をあけて形成され、偶数個の角部を有する多角形状の開口部と、前記開口部の縁部に設けられた環状リブと、を備え、前記上下方向に延びる直線に対して左右対称で且つ前記直線上に前記開口部の対向する前記角部の頂点同士が位置している。
【0015】
第5態様の壁面材では、開口部の形状を偶数個の角部を有する多角形状としているため、多角形状の開口部における内接円の大きさを円形の開口部の大きさ以上とすることで、円形の開口部よりも壁面材に対する開口面積を大きくすることができる。これにより、壁面材の軽量化を図ることができる。
また、上記壁面材では、多角形状の開口部を上下方向に延びる直線に対して左右対称で且つ当該直線上に対向する角部の頂点同士が位置するように形成している。このため、上記壁面材では、地震の初期から終局までの耐力を、円形の開口部が形成された壁面材と略同程度に確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地震の初期から終局までの耐力を確保しつつ、軽量化を図れる耐力壁及び壁面材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態の耐力壁の正面図である。
【
図2】
図1に示される耐力壁の枠材の正面図である。
【
図3】
図1の矢印3Xで指し示す部分を拡大した拡大図である。
【
図4】地震の終局時において
図1に示される耐力壁の各部位に作用する力を矢印で示す
図3に対応する部分の拡大図である。
【
図5】
図1の5X-5X線に沿って切断した耐力壁の断面図である。
【
図6】
図1の6X-6X線に沿って切断した耐力壁の断面図である。
【
図7】本発明のその他の実施形態の耐力壁の開口部周辺の拡大図である。
【
図8】本発明のその他の実施形態の耐力壁の開口部周辺の拡大図である。
【
図9】比較例1の耐力壁の開口部周辺の拡大図である。
【
図10】比較例2の耐力壁の開口部周辺の拡大図である。
【
図11】比較例3の耐力壁の開口部周辺の拡大図である。
【
図12】比較例4の耐力壁の開口部周辺の拡大図である。
【
図13】比較例5の耐力壁の開口部周辺の拡大図である。
【
図14】耐力壁の層間変化角に対する水平荷重の変化の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1~
図6を用いて本発明の一実施形態に係る耐力壁及び壁面材について説明する。なお、図中に示された矢印Uは、本実施形態の耐力壁が適用される建物の上方向を示している。また、図中に示された矢印Wは、耐力壁の幅方向を示している。なお、本実施形態では、耐力壁の幅方向と建物の水平方向が一致している。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態の耐力壁20は、枠材22と、壁面材50と、を備えている。
【0020】
図1及び
図2に示されるように、枠材22は、矩形状に形成されている。この枠材22は、水平方向に間隔をあけて配置され、上下方向に延びる縦枠材24、26、28と、縦枠材24、26、28の各々の上端を水平方向につなぐ横枠材30と、縦枠材24、26、28の各々の下端を水平方向につなぐ横枠材32と、備えている。
【0021】
なお、本実施形態の縦枠材24、26、28は、本発明における縦材の一例である。
【0022】
(縦枠材24)
図2に示されるように、縦枠材24は、枠材22の幅方向(図中矢印W方向)一方側(
図2及び
図5では左側)の部分を形成している。なお、本実施形態では、枠材22の幅方向と耐力壁20の幅方向は一致している。
【0023】
この縦枠材24は、
図5及び
図6に示されるように、幅方向外側の外枠部分を形成する角形鋼管34と、幅方向内側の内枠部分を形成し、縦枠材26側(言い換えると、枠材22の幅方向他方側(
図2及び
図5では右側))が開放された断面がC字形状の形鋼36と、を備えている。
【0024】
角形鋼管34は、断面が正方形状とされており、枠材22の厚み方向(図中矢印T方向)に2つ並べて配置されている。これらの角形鋼管34は、溶接により接合されている。
【0025】
形鋼36は、リップ溝形鋼であり、ウェブ部36Aの外面が角形鋼管34の枠内側(枠材22の内側)の面に接合されている。具体的には、形鋼36は、2つの角形鋼管34にドリルねじ38を用いてそれぞれ接合されている。なお、本発明は上記構成に限定されず、例えば、溶接などの他の方法を用いて形鋼36と角形鋼管34を接合してもよい。また、形鋼36の内面には、断面C字状の補強部材40が接合されている。この補強部材40は、溝形鋼であり、ウェブ部40Aの外面及び両フランジ部40Bの外面が形鋼36のウェブ部36Aの内面及び両フランジ部36Bの内面にそれぞれ接合されている。なお、形鋼36と補強部材40の接合方法は、特に限定されない。例えば、溶接で形鋼36と補強部材40を接合してもよい。
【0026】
(縦枠材26)
図2に示されるように、縦枠材26は、縦枠材24と縦枠材28の間に配置されており、枠材22の幅方向中央部に位置する部分を形成している。
【0027】
この縦枠材26は、
図5及び
図6に示されるように、縦枠材28側(言い換えると、枠材22の幅方向他方側)が開放された断面がC字形状の形鋼42と、を備えている。
【0028】
(縦枠材28)
図2に示されるように、縦枠材28は、枠材22の幅方向他方側(
図2及び
図5では右側)の部分を形成している。
【0029】
この縦枠材28は、
図5及び
図6に示されるように、縦枠材26を挟んで縦枠材24と対称に構成されている。具体的には、縦枠材28は、外枠部分を形成する角形鋼管34と、内枠部分を形成し、縦枠材26側(言い換えると、枠材22の幅方向一方側(
図2及び
図5では左側))が開放された形鋼36と、形鋼36を補強する補強部材40とを備えている。
【0030】
図2に示されるように、横枠材30は、断面が矩形状の角形鋼管によって形成されている。この横枠材30には、縦枠材24、26、28の各々の上端がねじやボルト等のファスナー又は溶接等によって接合されている。
【0031】
図2に示されるように、横枠材32は、横枠材30と同様に、断面が矩形状の角形鋼管によって形成されている。この横枠材30には、縦枠材24、26、28の各々の下端がねじやボルト等のファスナー又は溶接等によって接合されている。
【0032】
図2に示されるように、枠材22は、横枠材30と横枠材32の水平方向の相対変位に対する剛性を補強するための補剛部材44、46を備えている。補剛部材44は、縦枠材24と縦枠材26との間で且つ上下方向の略中央部に配置されている。また、補剛部材44は、一端が縦枠材24にドリルねじ48で接合され、他端が縦枠材26にドリルねじ48で接合されている。一方、補剛部材46は、縦枠材24と縦枠材26との間で且つ上下方向の略中央部に配置されている。また、補剛部材46は、一端が縦枠材26に補剛部材44の他端と共にドリルねじ48で接合され、他端が縦枠材28にドリルねじ48で接合されている。なお、枠材22の剛性が確保される場合には、補剛部材44、46を省略してもよい。
【0033】
(壁面材50)
図1に示されるように、壁面材50は、矩形状に形成された鋼板であり、枠材22に接合されている。本実施形態の耐力壁20では、壁面材50を2枚用いており、一の壁面材50が縦枠材24と縦枠材26に接合され、他の壁面材50が縦枠材26と縦枠材28に接合されている。具体的には、一の壁面材50の幅方向の両端部が一対の縦材である縦枠材24及び縦枠材26にそれぞれ複数のドリルねじ52を用いて接合されている。また、他の壁面材50の幅方向の両端部が一対の縦材である縦枠材26及び縦枠材28にそれぞれ複数のドリルねじ52を用いて接合されている。なお、2枚の壁面材50は、同一寸法であるが、本発明はこの構成に限定されず、異なる寸法であってもよい。
【0034】
なお、一の壁面材50と縦枠材24及び縦枠材26との接合のためにドリルねじ52がねじ込まれた部分、及び、他の壁面材50と縦枠材26及び縦枠材28との接合のためにドリルねじ52がねじ込まれた部分を接合部60と称する。
【0035】
また、
図1及び
図3に示されるように、接合部60は、上下方向に間隔をあけて複数形成されている。なお、本実施形態の壁面材50では、接合部60が略一定の間隔で設けられているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、耐力壁に水平荷重が作用した場合にせん断力が大きく作用する領域に接合部を密に配置して、上下方向に隣接する接合部に作用するせん断力を均一に近づけてもよい。
【0036】
また、
図3に示されるように、壁面材50には、上下方向に間隔をあけて複数(本実施形態では7つ)の開口部54が形成されている。これら7つの開口部54は、上下方向に1列となるように形成されている。そして、1列に並んだ開口部54は、壁面材50の幅方向の中心に対してオフセットしている。換言すると、上下方向に隣接する開口部54の中心を通って上下方向に延びる直線SLが、幅方向の一方側又は他方側に寄っている(
図3では直線SLが右側に寄っている。)。
【0037】
図3に示されるように、開口部54は、偶数個の角部(隅部)54Aを有する多角形状とされている。なお、ここでいう「多角形状」には、角部が角張っている多角形及び角部が円弧状に湾曲している(丸まっている)多角形を含む。この開口部54は、上記直線SLに対して左右対称で且つ直線SL上に開口部54の対向する角部54Aの頂点54AE同士が位置するように壁面材50に形成されている。なお、本実施形態では、開口部54の形状が角部54Aの頂点54AEを直線SL上に配置した正方形状とされている。
【0038】
また、本実施形態では、上下方向に隣接する開口部54の大きさが同じ大きさとされている。なお、多角形状の開口部54の大きさは、内接円Cの直径が200mm以上となる大きさに設定されることが好ましい。
【0039】
また、
図5及び
図6に示されるように、開口部54の縁部には、壁面材50と一体に形成された環状リブ56が形成されている。本実施形態では、壁面材50となる鋼板にバーリング加工が実施されて開口部54及び環状リブ56が形成されている。なお、本発明は上記構成に限定されず、例えば、壁面材50となる鋼板にプレス加工で開口部を形成し、この開口部の縁部に多角形状の環状部材(筒状部材)を接合して開口部54及び環状リブ56を形成してもよい。
【0040】
また、上下方向に隣接する開口部54の中心間距離D1は、縦枠材24における接合部60と縦枠材26における接合部60との間の水平距離D2よりも短くなっている。
【0041】
図1に示されるように、一の壁面材50の上端部と他の壁面材50の上端部は、横枠材30にそれぞれ複数のドリルねじ52を用いて接合されている。そして、一の壁面材50の下端部と他の壁面材50の下端部は、横枠材32にそれぞれ複数のドリルねじ52を用いて接合されている。
【0042】
(本実施形態の作用並びに効果)
従来から耐力壁の壁面材には、配管や配線のために複数の開口部が形成されていることがある。これらの開口部は、壁面材の耐力等を考慮して円形とされることが多い。しかし、市場では、開口部が円形とされた壁面材を有する耐力壁と比べて、地震の初期から終局までの耐力が略同等であり、さらに、軽量化も図れる耐力壁の開発が望まれている。これらを考慮して本発明者らは、本発明の開発に至った。
【0043】
以下では、本実施形態の耐力壁20と比較例の耐力壁を対比しながら、本実施形態の作用並びに効果について説明する。まず、各比較例の耐力壁について説明する。比較例の耐力壁100は、
図9に示されるように、壁面材102に円形の開口部104が形成された耐力壁である。また、比較例の耐力壁110は、
図10に示されるように、壁面材112に正方形状の開口部114が形成されているが、直線SL上に開口部114の対向する角部114Aが位置していない耐力壁である。また、比較例の耐力壁120は、
図11に示されるように、壁面材132に正六角形の開口部124が形成されているが、直線SL上に開口部124の対向する角部124Aが位置していない耐力壁である。比較例の耐力壁130は、
図12に示されるように、壁面材132に楕円形の開口部134が形成されており、この開口部134の短軸が直線SLと一致している耐力壁である。比較例の耐力壁134は、
図13に示されるように、壁面材142に楕円形の開口部144が形成されており、この開口部144の長軸が直線SLと一致している耐力壁である。
なお、各比較例の耐力壁は、開口部の形状や対向する角部の向きを除いて本実施形態の耐力壁20と構成が同じである。
【0044】
本実施形態の耐力壁20では、壁面材50に形成された開口部54の形状を偶数個の角部54Aを有する多角形状としている。ここで、多角形状の開口部54の内接円(
図3において二点鎖線で示す内接円C)の大きさを、比較例の耐力壁100の開口部104との大きさ以上の大きさとすることで、円形の開口部104よりも壁面材84に対する開口面積を大きくできる。このようにして耐力壁20は、比較例の耐力壁100と比べて、軽量化を図ることができる。また、開口部54の開口面積が大きくなるため、増加部分にさらに配管や配線を通すことが可能となる。
【0045】
また、耐力壁20では、開口部54の形状を直線SL上に角部54Aの頂点54AEを配置した正方形状としていることから、内接円Cの大きさが同一の正多角形状の中で最も開口面積を大きくすることができる。このため、耐力壁20では、比較例の耐力壁100と比べて、軽量化をさらに図ることができる。
【0046】
また、耐力壁20では、多角形状の開口部54を直線SLに対して左右対称で且つ直線SL上に対向する角部54Aの頂点54AE同士が位置するように壁面材50に形成している。これにより、耐力壁20では、地震の初期から終局までの耐力を、比較例の耐力壁100と略同程度に確保することができる。具体的には、耐力壁20では、地震の初期段階(一例として、層間変形角1/300時)において、壁面材50の上下方向に隣接する開口部54間にせん断応力が集中する。このせん断応力が集中するメカニズムについては各比較例ともに共通である。一方で、開口部の圧縮抵抗力については、本実施形態の耐力壁20と比較例の耐力壁100が他の比較例の耐力壁と比べて高くなる。比較例の耐力壁100では、開口部104が円形のため、せん断応力が集中し難く、圧縮抵抗力CRが高いものと推定される。これに対して本実施形態の耐力壁20が比較例の耐力壁110よりも圧縮抵抗力CRが高いのは、直線SL上に角部54Aの頂点54AEが位置しているためと推定される。以上より、耐力壁20は、地震の初期段階において、比較例の耐力壁100と略同程度の耐力を確保することができる。
また、耐力壁20では、地震の終局段階(一例として、層間変形角1/100時)において、
図4に示されるように、壁面材50の上下方向に隣接する開口部54間を斜めに結ぶ方向に引張力TSが生じており、開口部54の圧縮抵抗力CRと、各接合部60に作用するせん断力SFとで力の釣合いが保たれている。比較例の耐力壁100も同様に力の釣合いが保たれている。一方で、比較例の耐力壁110、120、130、140では、開口部の圧縮抵抗力が本実施形態の耐力壁20よりも低いため、力の釣り合いが保たれにくい。すなわち、開口部の圧縮抵抗力の大きさが地震の初期から終局まで耐力壁の耐力に影響を与えていると推定される。このため、耐力壁20は、地震の初期から終局まで、比較例の耐力壁100と略同程度の耐力を確保することができる。なお、地震の初期から終局までの耐力が、本実施形態の耐力壁20と比較例の耐力壁100で略同程度となることについては後述する。
【0047】
また、耐力壁20では、上下方向に隣接する開口部54の大きさを同じ大きさにしていることから、例えば、隣接する開口部54の大きさが異なる構成と比べて、各開口部54に作用する応力を一定にできる。このため、耐力壁20では、地震の初期から終局までの耐力を確保しやすくなる。さらに、壁面材50の製造も容易になる。
【0048】
そして、耐力壁20では、中心間距離D1を水平距離D2よりも短くしていることから、地震による水平荷重が耐力壁20に伝達された際に、壁面材50において、接合部60と開口部54との水平方向の中間部のせん断応力(ミーゼス応力)値を上下方向に隣接する開口部54間の上下方向の中間部のせん断応力値よりも低くすることができる。これにより、一対の縦材(縦枠材24と縦枠材26、または縦枠材26と縦枠材28)に生じる水平方向へのせん断応力が低減される。その結果、壁面材50において上下方向に隣接する開口部54間の上下方向の中間部が変形する前に、壁面材50と一対の縦材との接合部60が変形することが抑制され、地震エネルギーを安定して吸収することが可能となる。
【0049】
前述の実施形態の耐力壁20では、枠材22と壁面材50との接合にドリルねじ52を用いているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、ドリルねじ52の代わり釘を用いてもよい。また、枠材22と壁面材50をスポット溶接で接合してもよい。スポット溶接を用いた場合は、枠材22と壁面材50の溶接された部分を接合部と称する。
【0050】
前述の実施形態の耐力壁20では、壁面材50に下孔を形成していないが、本発明はこの構成に限定されず、壁面材50に下孔又は孔開け用の目印を形成してもよい。
【0051】
前述の実施形態の耐力壁20では、開口部54の形状を角部54Aの頂点54AEを直線SL上に配置した正方形状としているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、
図7に示される耐力壁70のように、壁面材72に形成される開口部74の形状を対向する角部74Aの頂点74AEを直線SL上に配置した正六角形状としてもよい。すなわち、本発明の実施形態に係る耐力壁の開口部の形状は、対向する角部の頂点が直線SL上に配置されれば、正八角形状等の正多角形状であってもよい。
【0052】
前述の実施形態の耐力壁20は、壁面材50が枠材22に接合されて構成されているが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、
図8に示される耐力壁80のように、上下方向に延びて、それぞれの上端が建物の水平部材HM1に連結され、それぞれの下端が建物の水平部材HM2に連結される一対の縦材82にドリルねじ52を用いて壁面材84を接合してもよい。なお、壁面材84には、壁面材50と同様に、開口部54と環状リブ56が形成されている。このため、壁面材84は、耐力壁20と同様の作用並びに効果を得ることができる。
【0053】
次に本発明の耐力壁が地震の初期から終局までの耐力を確保できることを立証するため、有限要素解析によるシミュレーションを実施して耐力壁の層間変化角に対する水平荷重の変化の特性を得た。得られた特性については、
図14において水平荷重を縦軸、層間変化角を横軸としてグラフで示した。なお、シミュレーションした実施例及び比較例は、以下の通りである。
【0054】
実施例1:本発明に係る実施形態の耐力壁20と同じ構成であり、開口部の大きさを内接円の直径が200mmとなる大きさとした耐力壁である(
図3参照)。
実施例2:本発明に係る実施形態の耐力壁70と同じ構成であり、開口部の大きさを内接円の直径が200mmとなる大きさとした耐力壁である(
図7参照)。
比較例1:比較例の耐力壁100と同じ構成であり、開口部104の直径を200mmとした耐力壁(
図9参照)である。
比較例2:比較例の耐力壁110と同じ構成であり、開口部114の大きさを内接円の直径が200mmとなる大きさとした耐力壁である(
図10参照)。
比較例3:比較例の耐力壁120と同じ構成であり、開口部124の大きさを内接円の直径が200mmとなる大きさとした耐力壁である(
図11参照)。
比較例4:比較例の耐力壁130と同じ構成であり、開口部134の大きさを短軸の長さが200mmとなる大きさとした耐力壁である(
図12参照)。
比較例5:比較例の耐力壁140と同じ構成であり、開口部144の大きさを短軸の長さが200mmとなる大きさとした耐力壁である(
図13参照)。
【0055】
図14に示される通り、実施例1、2の耐力壁は、比較例2-5の耐力壁よりも層間変形角に対する水平荷重が高くなっている。
また、実施例1、2の耐力壁は、比較例1の耐力壁と層間変形角に対する水平荷重の値が近くなっている。すなわち、実施例1、2の耐力壁は、比較例1の耐力壁と地震の初期から終局までの耐力が略同程度であることが分かる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。例えば、前述の実施形態では、本発明の一実施形態に係る壁面材を耐力壁に用いているが、例えば、建物の床面や屋根面等のように面内剛性が必要となる部分に用いてもよい。
【符号の説明】
【0057】
20 耐力壁
24 縦枠材(縦材)
26 縦枠材(縦材)
28 縦枠材(縦材)
50 壁面材
54 開口部
54A 角部
54AE 頂点
56 環状リブ
70 耐力壁
72 壁面材
74 開口部
74A 角部
74AE 頂点
80 耐力壁
82 縦材
84 壁面材
SL 直線
D1 中心間距離
D2 水平距離