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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】合金薄帯片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20221220BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221220BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20221220BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20221220BHJP
   H02K 1/02 20060101ALN20221220BHJP
【FI】
C21D9/00 S
H01F41/02 C
C21D8/12 H
H02K15/02 Z
H02K1/02 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019039347
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020143318
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 修
(72)【発明者】
【氏名】高根沢 祐
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-213331(JP,A)
【文献】特開平03-146615(JP,A)
【文献】特開平07-320920(JP,A)
【文献】特開2017-141508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00-9/44,9/50
H01F 41/00-41/04
C21D 8/12,9/46
C22F 1/00
H01F 41/08,41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス合金薄帯片を結晶化した合金薄帯片の製造方法であって、
アモルファス合金薄帯片を準備する準備工程と、
前記アモルファス合金薄帯片の平面方向の一端から他端に至る途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、前記途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する第1熱処理工程と、
前記第1熱処理工程で加熱を停止した後に、前記アモルファス合金薄帯片の前記途中の箇所よりも前記他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する第2熱処理工程と、
を備えることを特徴とする合金薄帯片の製造方法。
【請求項2】
前記アモルファス合金薄帯片の前記途中の箇所よりも前記他端側の領域が前記アモルファス合金薄帯片の前記一端から前記途中の箇所までの領域よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の合金薄帯片の製造方法。
【請求項3】
前記第2熱処理工程においては、前記第1熱処理工程で加熱を停止してから0.1秒以上の時間が経過した後に、前記アモルファス合金薄帯片の前記途中の箇所よりも前記他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の合金薄帯片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス合金薄帯片を結晶化した合金薄帯片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アモルファス合金薄帯片は軟磁性材料であるため、単ロール法、双ロール法等の方法で製造された連続したアモルファス合金薄帯から打ち抜かれたアモルファス合金薄帯片が、例えば、モータのコア等に用いられている。また、アモルファス合金薄帯片を結晶化したナノ結晶合金薄帯片は、高い飽和磁束密度及び低い保磁力の両立が可能な軟磁性材料であるため、近年、ナノ結晶合金薄帯片が、それらのコアに用いられるようになっている。
【0003】
アモルファス合金薄帯片を結晶化開始温度以上の温度に加熱することにより結晶化することで、ナノ結晶合金薄帯片を製造する際には、アモルファス合金薄帯片の結晶化反応による放出熱が原因となって、合金薄帯片の過剰な温度上昇を招く結果、結晶粒の粗大化や化合物相の析出が生じることにより、軟磁気特性が劣化するおそれがある。
【0004】
このような問題に対処する方法として、例えば、特許文献1には、アモルファス合金薄帯片を挟んだプレートによりアモルファス合金薄帯片を加熱することで結晶化する方法において、結晶化反応による放出熱を両端のプレートに吸熱させる方法が記載されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、アモルファス合金薄帯片を炉内で高速で昇温することにより、アモルファス合金薄帯片を結晶化する方法が記載されている。このような方法では、アモルファス合金薄帯片の各位置を均一に加熱できれば、結晶化反応の放出熱による合金薄帯片の過剰な温度上昇を抑制できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-141508号公報
【文献】特開2018-125475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法のように、別に準備した吸熱部材を用いて結晶化反応による放出熱を吸熱させる操作を行うことにより、過剰な温度上昇を防ぎ、結晶粒の粗大化等を抑制する方法では、ナノ結晶合金薄帯片を高い生産性で製造することができない。
【0008】
また、特許文献2に記載されている方法のように、アモルファス合金薄帯片を炉内で昇温する方法では、実際には各位置を均一に加熱し結晶化することは困難である。このため、合金薄帯片では結晶化反応の放出熱を原因とする熱だまりが生じ、過剰な温度上昇を招く結果、軟磁気特性が劣化することがある。
【0009】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アモルファス合金薄帯片を結晶化したナノ結晶合金薄帯片を高い生産性で製造できる合金薄帯片の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明に係る合金薄帯片の製造方法は、アモルファス合金薄帯片を結晶化した合金薄帯片の製造方法であって、アモルファス合金薄帯片を準備する準備工程と、上記アモルファス合金薄帯片の一端から他端に至る途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、上記途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する第1熱処理工程と、上記第1熱処理工程で加熱を停止した後に、上記アモルファス合金薄帯片の上記途中の箇所よりも上記他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する第2熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アモルファス合金薄帯片を結晶化したナノ結晶合金薄帯片を高い生産性で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態の一例を示す概略工程図である。
図2】本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態の一例を示す概略工程図である。
図3】示差走査型熱量分析計(DSC)により測定されるアモルファス合金のDSC曲線を示すグラフである。
図4】参考例の合金薄帯片の製造方法を示す概略図である。
図5】本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態の他の例を示す概略工程図である。
図6】本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態の他の例を示す概略工程図である。
図7】本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態の他の例を示す概略工程図である。
図8】実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験で使用されたアモルファス合金薄帯片の一例を示す写真である。
図9】実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験を示す概略工程図である。
図10】実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験により作製された結晶化した合金薄帯片の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態について説明する。
【0014】
本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態は、アモルファス合金薄帯片を結晶化した合金薄帯片の製造方法であって、アモルファス合金薄帯片を準備する準備工程と、上記アモルファス合金薄帯片の一端から他端に至る途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、上記途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する第1熱処理工程と、上記第1熱処理工程で加熱を停止した後に、上記アモルファス合金薄帯片の上記途中の箇所よりも上記他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する第2熱処理工程と、を備えることを特徴とする。なお、以下では、アモルファス合金薄帯片の一端から他端に向かう方向に垂直な方向を「幅方向」と呼ぶことにする。
【0015】
まず、本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態について、例示して説明する。
ここで、図1(a)~図2(e)は、本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態の一例を示す概略工程図である。図3は、示差走査型熱量分析計(DSC)により測定されるアモルファス合金のDSC曲線の一例である。
【0016】
本実施形態の一例の製造方法においては、まず、一般的な方法で製造された連続したシート状のアモルファス合金薄帯(図示せず)を、プレス機(図示せず)で打ち抜くことによって、図1(a)に示されるようにアモルファス合金薄帯片2Aを準備する(準備工程)。アモルファス合金薄帯片2Aは、モータのステータコアを構成する環状の合金薄帯が分割された形状であるため、内縁(一端)2s側にティース部2t、外縁(他端)2e側バックヨーク部2bを有する。
【0017】
次に、図1(b)及び図1(c)に示されるように、アモルファス合金薄帯片2Aを常温の大気雰囲気下に置いた状態で、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sに対向する位置に固定された高温ガス源GSから、アモルファス合金薄帯片2Aに向けて、420℃の高温ガスGを風速2.5m/sで10秒間送風することにより、高温ガスGをアモルファス合金薄帯片2Aに当てた後に、図2(d)に示されるように高温ガスGを送風するのを停止する。このようにして、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから外縁2eに至る途中の箇所2mまで順に幅方向全域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、途中の箇所2mまで幅方向全域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時にアモルファス合金薄帯片2Aの加熱を停止する(第1熱処理工程)。これにより、アモルファス合金薄帯片2Aにおいて、内縁2sから途中の箇所2mまでの領域のアモルファス合金Aを結晶化することでナノ結晶合金Cにし、途中の箇所2mよりも外縁2e側の領域を結晶化開始温度未満の温度域に維持する。
【0018】
次に、図2(d)に示されるように、第1熱処理工程で高温ガスを送風するのを停止してから1秒間が経過した後に、図2(e)に示されるように、同位置に固定された同一の高温ガス源GSから、アモルファス合金薄帯片2Aに向けて、第1熱処理工程よりも高い450℃の高温ガスGを風速2.5m/sで10秒間送風することにより、高温ガスGをアモルファス合金薄帯片2Aに当てた後に、高温ガスGを送風するのを停止する。このようにして、第1熱処理工程で加熱を停止するタイミングよりも後のタイミングで、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから外縁2eまで順に幅方向全域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱することで、アモルファス合金薄帯片2Aの途中の箇所2mよりも外縁2e側の領域を含む全体を結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、その後に加熱を停止する(第2熱処理工程)。これにより、アモルファス合金薄帯片2Aの途中の箇所2mよりも外縁2e側の領域において、アモルファス合金Aを結晶化することでナノ結晶合金Cにする。以上により、アモルファス合金薄帯片2Aの全体を結晶したナノ結晶合金薄帯片2Cを製造する。
【0019】
従って、本実施形態に係る一例では、図3のDSC曲線からわかるように、第1熱処理工程の加熱でアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから途中の箇所2mまで順に結晶化反応による熱が放出される際に、その放出熱を結晶化開始温度未満の温度域に維持された途中の箇所2mよりも外縁2e側の領域に逃がすことができる。さらに、これによって、第2熱処理工程でアモルファス合金薄帯片2Aの全体を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する際に、内縁2sから途中の箇所2mまでは、結晶化反応による放出熱によりさらに昇温した温度(例えば、500℃程度)よりも低い温度域になるので、図3のDSC曲線からわかるように、途中の箇所2mよりも外縁2e側の領域の結晶化反応による熱が放出されても、その放出熱を途中の箇所2mよりも内縁2s側の領域に逃がすことができる。よって、アモルファス合金薄帯片2Aの結晶化において、別に準備した吸熱部材を用いて結晶化反応による放出熱を吸熱させる操作を行わなくても、過剰な温度上昇を防ぎ、結晶粒の粗大化や化合物相の析出を抑制できる。
【0020】
ここで、参考例の合金薄帯片の製造方法について、本実施形態に係る一例と異なる点を中心に説明する。図4は、参考例の合金薄帯片の製造方法を示す概略図である。
【0021】
参考例の合金薄帯片の製造方法においては、図4に示されるように、ステータコアを構成する環状の合金薄帯が分割された形状のアモルファス合金薄帯片2Aを常温の大気雰囲気下に置いた状態で、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sに対向する第1高温ガス源GS1から高温ガスGを送風することにより、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから外縁2eに至る途中の箇所2mまで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、途中の箇所2mまで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に高温ガスGの送風を停止する。そして、このようにして加熱を停止するタイミングよりも後のタイミングで、アモルファス合金薄帯片2Aの外縁2eに対向する第2高温ガス源GS2から高温ガスGを送風することにより、アモルファス合金薄帯片2Aの外縁2eから途中の箇所2mの直前まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱する。これにより、第1高温ガス源GS1による1番目の加熱でアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから途中の箇所2mまで順に結晶化反応による熱が放出される際に、その放出熱を結晶化開始温度未満の温度域に維持された途中の箇所2mよりも外縁2e側の領域に逃がすことができる。さらに、これによって、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから途中の箇所2mまでが、例えば、結晶化反応による放出熱によりさらに昇温した温度よりも低い温度域になるので、第2高温ガス源GS2による2番目の加熱でアモルファス合金薄帯片2Aの外縁2eから途中の箇所2mの直前まで順に結晶化反応による熱が放出される際に、その放出熱を途中の箇所2mよりも内縁2s側の領域に逃がすことができる。よって、本実施形態に係る一例と同様に、別に準備した吸熱部材を用いて吸熱させる操作を行わなくても、過剰な温度上昇を防ぐことができる。
【0022】
しかしながら、アモルファス合金薄帯片2Aを形状が異なる内縁2s及び外縁2eの両側から加熱するためには、高温ガス源として、異なる2種類の第1高温ガス源GS1及び第2高温ガス源GS2を内縁2s及び外縁2eに対向する位置に備える製造装置を使用する必要がある。また、それらのうちの一方の高温ガス源から高温ガスGを送風する時には、その高温ガスGが他方の高温ガス源により妨げられ円滑に送風されないことでアモルファス合金薄帯片2Aが適切に加熱されなくなることがないように、他方の高温ガス源を退避させる必要があるので、他方の高温ガス源を退避させる機構をさらに備える製造装置を使用する必要がある。従って、製造装置が複雑で高価なものになる。これに対して、本実施形態に係る一例では、高温ガス源として、内縁2sに対向する高温ガス源GSの1つのみを備え、その機構も不要な、簡単で安価な製造装置を使用できる。
【0023】
本実施形態においては、本実施形態に係る一例のように、第1熱処理工程において、アモルファス合金薄帯片の一端から他端に至る途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する。そして、第2熱処理工程において、第1熱処理工程で加熱を停止した後に、アモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する。これにより、第1熱処理工程の加熱でアモルファス合金薄帯片の一端から途中の箇所まで順に結晶化反応による熱が放出される際に、その放出熱を結晶化開始温度未満の温度域に維持された途中の箇所よりも他端側の領域に逃がすことができ、第2熱処理工程の加熱でアモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域の結晶化反応による熱が放出される際に、その放出熱を、例えば、結晶化反応による放出熱によりさらに昇温した温度よりも低い温度域になる途中の箇所よりも一端側の領域に逃がすことができる。よって、アモルファス合金薄帯片の結晶化において、別に準備した吸熱部材を用いて結晶化反応による放出熱を吸熱させる操作を行わなくても、過剰な温度上昇を防ぎ、結晶粒の粗大化や化合物相の析出を抑制できる。このため、アモルファス合金薄帯片を結晶化したナノ結晶合金薄帯片を高い生産性で製造できる。さらに、高温熱源としてアモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温熱源のみを備える簡単で安価な製造装置を使用できる。
【0024】
続いて、本実施形態に係る合金薄帯片の製造方法について、その条件を中心に詳細に説明する。
【0025】
1.準備工程
準備工程においては、アモルファス合金薄帯片を準備する。
【0026】
ここで、「アモルファス合金薄帯片」とは、例えば、単ロール法、双ロール法等の一般的な方法で製造された連続したシート状のアモルファス合金薄帯片から、例えば、モータ等の最終製品におけるコア等の部品に用いられる所望の形状に打ち抜かれた薄帯片を指す。
【0027】
アモルファス合金薄帯片は、所望の形状に打ち抜かれた薄帯片であれば特に限定されないが、例えば、モータにおけるステータコア又はロータコアを構成する薄帯、ステータコアを構成する薄帯がさらに周方向で分割された薄帯等が挙げられる。
【0028】
アモルファス合金薄帯片の材質は、アモルファス合金であれば特に限定されないが、例えば、Fe基アモルファス合金、Ni基アモルファス合金、Co基アモルファス合金等が挙げられる。中でもFe基アモルファス合金等が好ましい。ここで、「Fe基アモルファス合金」とは、Feを主成分とし、例えば、B、Si、C、P、Cu、Nb、Zr等の不純物を含有するものを意味する。「Ni基アモルファス合金」とは、Niを主成分とするものを意味する。「Co基アモルファス合金」とは、Coを主成分とするものを意味する。
【0029】
Fe基アモルファス合金は、例えば、Feの含有量が84原子%以上の範囲内であるものが好ましく、中でもFeの含有量がより多いものが好ましい。Feの含有量により、アモルファス合金薄帯片を結晶化した合金薄帯片の磁束密度が変わるからである。
【0030】
アモルファス合金薄帯片の平面サイズは、特に限定されないが、例えば、モータにおけるステータコア又はロータコアを構成する薄帯、ステータコアを構成する薄帯がさらに周方向で分割された薄帯の一般的な平面サイズ等が挙げられる。アモルファス合金薄帯片の厚さは、特に限定されないが、アモルファス合金薄帯片の材質等によって異なり、材質がFe基アモルファス合金である場合には、例えば、10μm以上100μm以下の範囲内であり、中でも20μm以上50μm以下の範囲内が好ましい。
【0031】
2.第1熱処理工程
第1熱処理工程においては、上記アモルファス合金薄帯片の一端から他端に至る途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、上記途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する。具体的には、アモルファス合金薄帯片の一端から他端に至る途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し当該温度域に結晶化に要する時間保持し、途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱し当該温度域に結晶化に要する時間保持した時に、途中の箇所よりも他端側の領域が結晶化開始温度以上の温度域にならないようにアモルファス合金薄帯片の加熱を停止する。
【0032】
ここで、「アモルファス合金薄帯片の一端」とは、アモルファス合金薄帯片の平面方向の一端を指し、「アモルファス合金薄帯片の他端」とは、アモルファス合金薄帯片の一端とは平面方向の反対側の端を指す。
【0033】
また、「結晶化開始温度」とは、アモルファス合金薄帯片を加熱した場合にその結晶化が開始する温度を指す。アモルファス合金薄帯片の結晶化反応は、アモルファス合金薄帯片の材質等によって異なり、材質がFe基アモルファス合金である場合には、例えば、微細なbccFe結晶を析出させる反応となる。結晶化開始温度は、アモルファス合金薄帯片の材質等及び加熱速度によって異なり、加熱速度が大きいと結晶化開始温度は高くなる傾向があるが、Fe基アモルファス合金である場合には、例えば、350℃~500℃の範囲内となる。
【0034】
結晶化開始温度以上の温度域は、特に限定されないが、化合物相析出開始温度未満の温度域が好ましい。化合物相の析出を抑制できるからである。ここで、「化合物相析出開始温度」とは、例えば、図3のDSC曲線に示されるような、結晶化開始後のアモルファス合金薄帯片をさらに加熱した場合に化合物相の析出が開始する温度を意味する。また、「化合物相」とは、例えば、Fe基アモルファス合金である場合におけるFe-B、Fe-P等の化合物相のように、結晶化開始後のアモルファス合金薄帯片をさらに加熱した場合に析出し、軟磁気特性を劣化させる化合物相を指す。
【0035】
結晶化開始温度以上化合物相析出開始温度未満の温度域は、特に限定されないが、アモルファス合金薄帯片の材質等によって異なり、材質がFe基アモルファス合金である場合には、例えば、結晶化開始温度以上結晶化開始温度+120℃以下の範囲内が好ましく、中でも結晶化開始温度+80℃以上結晶化開始温度+120℃以下の範囲内が好ましい。これらの範囲の下限以上であることにより、アモルファス合金薄帯片をより速く結晶化できるからである。また、これらの範囲の上限以下であることにより、結晶粒の粗大化を効果的に抑制できるからである。
【0036】
アモルファス合金薄帯片の途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する方法は、途中の箇所よりも他端側の領域が結晶化開始温度以上の温度域にならないようにアモルファス合金薄帯片の加熱を停止する方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、図2(d)に示されるように、アモルファス合金薄帯片に外部から熱が加えられることを一切停止する方法でもよいが、アモルファス合金薄帯片の一端から途中の箇所までの領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱しながら、結晶化開始温度以上の温度域の領域が途中の箇所よりも他端側にまで拡がるのを停止する方法でもよい。このような方法でも、途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度未満の温度域に維持できるので、一端から途中の箇所までの結晶化反応による放出熱を途中の箇所よりも他端側に逃がすことができるからである。なお、アモルファス合金薄帯片に外部から熱が加えられることを一切停止する方法であれば、アモルファス合金薄帯片が高温に長時間晒されることを抑制し、結晶粒の粗大化を抑制できる。
【0037】
アモルファス合金薄帯片の加熱方法は、特に限定されないが、例えば、高温ガスを当てる方法の他、誘導加熱による方法等が挙げられる。
【0038】
高温ガスを当てる方法は、例えば、図1(b)及び図1(c)に示されるようにアモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温ガス源からアモルファス合金薄帯片に向けて高温ガスを送風することにより、高温ガスをアモルファス合金薄帯片に当てる方法の他、高温ガス源をアモルファス合金薄帯片に対し移動させることにより、高温ガスをアモルファス合金薄帯片の一端から途中の箇所まで順に当てる方法等が挙げられる。加熱方法は、アモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温ガス源等の熱源により加熱する方法が好ましい。
【0039】
なお、高温ガス源等の熱源がアモルファス合金薄帯片の一端に対向する位置を変える方法は、熱源の位置をアモルファス合金薄帯片に対し相対的に変える方法であればよく、高温ガス源等の熱源をアモルファス合金薄帯片に対し移動させる方法は、熱源をアモルファス合金薄帯片に対し相対的に移動させる方法であればよい。また、高温ガス源は、例えば、工業用ドライヤー等が挙げられる。
【0040】
加熱条件は、アモルファス合金薄帯片の一端から途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する条件であれば特に限定されず、加熱方法によって異なるが、加熱方法が、アモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温ガス源からアモルファス合金薄帯片に向けて高温ガスを送風する方法である場合には、例えば、高温ガスの温度、高温ガスの風速、高温ガス源をアモルファス合金薄帯片の一端から離す距離、高温ガスの送風時間、及び第1熱処理工程を行う雰囲気の温度等を、アモルファス合金薄帯片の一端から途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止するように設定した条件が挙げられる。
【0041】
3.第2熱処理工程
第2熱処理工程においては、上記第1熱処理工程で加熱を停止した後に、上記アモルファス合金薄帯片の上記途中の箇所よりも上記他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する。具体的には、第1熱処理工程でアモルファス合金薄帯片の加熱を停止するタイミングよりも後のタイミングで、アモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱し当該温度域に結晶化に要する時間保持する。これにより、アモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域のアモルファス合金を結晶化することでナノ結晶合金にする。
【0042】
結晶化開始温度以上の温度域は、第1熱処理工程と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0043】
第2熱処理工程は、第1熱処理工程で加熱を停止した後に、アモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する工程であれば特に限定されないが、第1熱処理工程で加熱を停止してから0.1秒以上の時間が経過した後に、途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱することが好ましく、中でも0.5秒以上、特に1秒以上の時間が経過した後に加熱することが好ましい。アモルファス合金薄帯片の一端から途中の箇所までが十分に低い温度域になった後に、途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱するため、途中の箇所よりも他端側の領域の結晶化反応による放出熱を途中の箇所よりも一端側の領域に効果的に逃がすことができるからである。
【0044】
加熱方法は、特に限定されないが、例えば、高温ガスを当てる方法の他、誘導加熱による方法等が挙げられる。
【0045】
高温ガスを当てる方法は、例えば、図2(e)に示されるようにアモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温ガス源からアモルファス合金薄帯片に向けて高温ガスを送風することにより、高温ガスをアモルファス合金薄帯片に当てる方法の他、高温ガス源をアモルファス合金薄帯片に対し移動させることにより、高温ガスをアモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域に当てる方法等が挙げられる。
【0046】
加熱方法は、アモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温ガス源等の熱源により加熱する方法が好ましい。なお、高温ガス源等の熱源がアモルファス合金薄帯片の一端に対向する位置を変える方法、高温ガス源等の熱源をアモルファス合金薄帯片に対し移動させる方法、及び高温ガス源については、第1熱処理工程と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0047】
加熱条件は、アモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する条件であれば特に限定されず、加熱方法によって異なるが、加熱方法が、アモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温ガス源からアモルファス合金薄帯片に向けて高温ガスを送風する方法である場合には、例えば、高温ガスの温度、高温ガスの風速、高温ガス源をアモルファス合金薄帯片の一端から離す距離、高温ガスの送風時間、及び第2熱処理工程を行う雰囲気の温度等を、アモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱するように設定した条件が挙げられる。
【0048】
4.合金薄帯片の製造方法
本実施形態に係る合金薄帯片の製造方法においては、アモルファス合金薄帯片を結晶化したナノ結晶合金薄帯片を製造する。
【0049】
(1)ナノ結晶合金薄帯片
ここで、「ナノ結晶合金薄帯片」とは、化合物相の析出及び結晶粒の粗大化を実質的に生じさせずに微細な結晶粒を析出させることによって、所望の保磁力等の軟磁気特性が得られるものを意味する。ナノ結晶合金薄帯片の材質は、アモルファス合金薄帯片の材質等によって異なり、アモルファス合金薄帯片の材質がFe基アモルファス合金である場合には、例えば、Fe又はFe合金の結晶粒(例えば、微細なbccFe結晶等)及び非晶質相の混相組織を有するFe基ナノ結晶合金となる。
【0050】
ナノ結晶合金薄帯片の結晶粒の粒径は、所望の軟磁気特性が得られるのであれば特に限定されないが、材質等によって異なり、材質がFe基ナノ結晶合金である場合には、例えば、25nm以下の範囲内が好ましい。粗大化すると保磁力が劣化するからである。なお、結晶粒の粒径は、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた直接観察により測定できる。また、結晶粒の粒径は、ナノ結晶合金薄帯片の保磁力又は温度プロファイルから推定できる。
【0051】
ナノ結晶合金薄帯片の保磁力は、ナノ結晶合金薄帯片の材質等によって異なり、材質がFe基ナノ結晶合金である場合には、例えば、20A/m以下であり、中でも10A/m以下が好ましい。保磁力をこのように低くすることにより、例えば、モータ等のコアにおける損失を効果的に低減できるからである。なお、保磁力は、例えば、VSM(振動試料型磁力計)を用いて測定できる。
【0052】
(2)合金薄帯片の製造方法
合金薄帯片の製造方法のその他の条件等について説明する。
【0053】
合金薄帯片の製造方法が備える工程を行う雰囲気は、特に限定されないが、例えば、大気雰囲気等を挙げることができる。
【0054】
雰囲気の温度は、加熱を停止することにより、アモルファス合金薄帯片における加熱された部分が冷却される温度であれば特に限定されず、アモルファス合金薄帯片の材質等によって異なるが、材質がFe基アモルファス合金である場合には、例えば、370℃以下の範囲内が好ましく、中でも200℃以下の範囲内が好ましい。これらの範囲の上限以下であることにより、加熱を停止した時に、アモルファス合金薄帯片における加熱された部分が効果的に冷却されるからである。なお、雰囲気の温度は、常温でよい。「常温」とは、特に冷やしたり熱したりしない温度、すなわち屋内であれば室温、屋外であれば気温を指し、例えば、JIS Z 8703に規定されている20℃±15℃の範囲内の温度である。
【0055】
合金薄帯片の製造方法としては、第1熱処理工程及び第2熱処理工程の両工程の加熱方法が、例えば、図1図2に示される例のように、アモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温ガス源等の熱源により加熱する方法であるものが好ましい。簡単で安価な製造装置を使用できるからである。
【0056】
第1熱処理工程及び第2熱処理工程の両工程の加熱方法が、アモルファス合金薄帯片の一端に対向する熱源により加熱する方法である場合、両工程の加熱条件は、例えば、第1熱処理工程の加熱条件を相対的に弱い加熱条件とし、第2熱処理工程の加熱条件を相対的に強い加熱条件としたものとなる。
【0057】
このような両工程の加熱条件としては、加熱方法が、アモルファス合金薄帯片の一端に対向する高温ガス源からアモルファス合金薄帯片に向けて高温ガスを送風する方法である場合には、例えば、第2熱処理工程の高温ガスの温度を第1熱処理工程より高くしたもの、第2熱処理工程の高温ガスの風速を第1熱処理工程より速くしたもの、第2熱処理工程で高温ガス源をアモルファス合金薄帯片の一端から離す距離を第1熱処理工程より長くしたもの、及び第2熱処理工程の高温ガスの送風時間を第1熱処理工程より長くしたもの等が挙げられる。なお、両工程の加熱条件が、例えば、第2熱処理工程の高温ガスの温度を第1熱処理工程より高くしたもの、第2熱処理工程の高温ガスの風速を第1熱処理工程より速くしたもの、第2熱処理工程で高温ガス源をアモルファス合金薄帯片の一端から離す距離を第1熱処理工程より短くしたもの等であれば、第1熱処理工程で加熱を停止する時に高温ガスの送風を停止しなくてもよい。このような両工程の高温ガスの送風条件であれば、第1熱処理工程で加熱を停止する時に高温ガスの送風を停止せずに、両工程の高温ガスの送風条件を連続的に切り替える場合でも、第1熱処理工程において、結晶化開始温度以上の温度域の領域が途中の箇所よりも他端側にまで拡がるのを停止できるので、本実施形態の作用効果が得られるからである。
【0058】
なお、合金薄帯片の製造方法としては、各熱処理工程の加熱方法がアモルファス合金薄帯片の一端に対向する熱源により加熱する方法である場合、熱処理工程として、第1熱処理工程及び第2熱処理工程に加えて、さらにアモルファス合金薄帯片を結晶化する他の熱処理工程を備えるものでもよい。例えば、第1熱処理工程を、アモルファス合金薄帯片の一端から他端に至る第1の途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、第1の途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する第1熱処理工程とし、第2熱処理工程を、第1熱処理工程で加熱を停止した後に、アモルファス合金薄帯片の第1の途中の箇所から他端に至る第2の途中の箇所まで順に結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、第2の途中の箇所まで結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時に加熱を停止する第2熱処理工程とし、第2熱処理工程で加熱を停止した後に、アモルファス合金薄帯片の第2の途中の箇所よりも他端側の領域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱する第3熱処理工程をさらに備えるものでもよい。この例では、各熱処理工程の加熱条件は、例えば、第3熱処理工程、第2熱処理工程、及び第1熱処理工程の順に強い加熱条件となる。また、アモルファス合金薄帯片の第2の途中の箇所よりも他端側の領域は、同時に結晶化開始温度以上の温度域に加熱しても、結晶粒の粗大化が生じる過剰な温度上昇が起こらないような小さい面積が好ましい。
【0059】
図1及び図2に示される本実施形態の一例の製造方法では、第2熱処理工程で加熱するアモルファス合金薄帯片2Aの途中の箇所2mよりも外縁2e側の領域が、第1熱処理工程で加熱するアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから途中の箇所2mまでの領域よりも小さくなっている。合金薄帯片の製造方法は、例えば、この例のように、上記アモルファス合金薄帯片の上記途中の箇所よりも上記他端側の領域が上記アモルファス合金薄帯片の上記一端から上記途中の箇所までの領域よりも小さい方法が好ましい。第2熱処理工程の加熱で起こる途中の箇所よりも他端側の領域の結晶化反応による放出熱を途中の箇所よりも一端側の領域に逃がすことが容易になるので、過剰な温度上昇を効果的に抑制できるからである。また、例えば、この例のように、第2熱処理工程で加熱するアモルファス合金薄帯片の途中の箇所よりも他端側の領域は、同時に結晶化開始温度以上の温度域に加熱しても、結晶粒の粗大化が生じる過剰な温度上昇が起こらないような小さい面積が好ましい。
【0060】
ここで、図5(a)~図7(c)は、本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態の他の例を示す概略工程図である。
【0061】
本実施形態の他の例の製造方法においては、まず、図5(a)に示されるように、一般的な方法で製造された連続したシート状のアモルファス合金薄帯1(例えば、株式会社東北マグネット インスティテュート製NANOMET(厚さT:2.5μm))を、プレス機Pで打ち抜くことによって、複数枚(例えば、400枚)のアモルファス合金薄帯片2Aを準備する(準備工程)。アモルファス合金薄帯片2Aは、モータのステータコアを構成する環状の合金薄帯が周方向で1/3に分割された形状であるため、内縁(一端)側にティース部(図示せず)、外縁(他端)側にバックヨーク部(図示せず)を有する。
【0062】
次に、図5(b)に示されるように、複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aを積層することで積層体10Aを形成する。次に、図5(c)及び図6(d)に示されるように、積層体10Aを横向きとし、一組の板状部材からなる治具30を用いて、複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aを隣接する合金薄帯片間に1mmの隙間を設けた状態で周方向の両端を挟むことで固定する。
【0063】
次に、図6(e)に示されるように、治具30により固定された複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aを常温の大気雰囲気下の熱処理装置50内に置いた状態で、複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aの内縁に対向する位置に固定された高温ガス源(図示せず)から、複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aに向けて、420℃の高温ガス(図示せず)を風速2.5m/sで10秒間送風することにより、高温ガスを隣接するアモルファス合金薄帯片2Aの間の隙間に入り込ませるようにして複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aに当てた後に、高温ガスを送風するのを停止する。このようにして、複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aの内縁から外縁に至る途中の箇所まで順に幅方向全域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、途中の箇所まで幅方向全域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱した時にアモルファス合金薄帯片2Aの加熱を停止する(第1熱処理工程)。
【0064】
次に、第1熱処理工程で高温ガスを送風するのを停止してから1秒間が経過した後に、同位置に固定された同一の高温ガス源から、複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aに向けて、第1熱処理工程よりも高い450℃の高温ガス(図示せず)を風速2.5m/sで10秒間送風することにより、高温ガスを隣接するアモルファス合金薄帯片2Aの間の隙間に入り込ませるようにして複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aに当てた後に、高温ガスを送風するのを停止する。このようにして、第1熱処理工程で加熱を停止するタイミングよりも後のタイミングで、複数枚のアモルファス合金薄帯片2Aの内縁から外縁まで順に幅方向全域を結晶化開始温度以上の温度域に加熱することで、アモルファス合金薄帯片2Aの途中の箇所よりも外縁側の領域を含む全体を結晶化開始温度以上の温度域に加熱し、その後に加熱を停止する(第2熱処理工程)。以上により、複数のアモルファス合金薄帯片2Aの全体を結晶し、複数のナノ結晶合金薄帯片2Cを製造する。
【0065】
次に、図6(f)及び図7(g)に示されるように、複数のナノ結晶合金薄帯片2Cを圧力Fで互いに密着させた積層体10Bを形成した上で、熱処理装置50から取り出す。次に、積層体10Bにおける複数のナノ結晶合金薄帯片2Cを、図7(h)に示されるように転積することによりステータコア12を作製する。次に、図7(i)に示されるように、ステータコア12を、ロータ14、コイル(図示せず)、及びケース(図示せず)と組み合わせることによりモータ20を作製する。
【0066】
合金薄帯片の製造方法は、ここで説明した他の例のような製造方法が好ましい。アモルファス合金薄帯片を結晶化したナノ結晶合金薄帯片を複数枚一緒に製造できるので、ナノ結晶合金薄帯片の量産を容易に行うことができるからである。
【0067】
合金薄帯片の製造方法は、ナノ結晶合金薄帯片を製造できれば特に限定されないが、例えば、化合物相の析出及び結晶粒の粗大化を実質的に生じさせずに、アモルファス合金薄帯片の全体を結晶化し、ナノ結晶合金薄帯片の結晶粒を所望の粒径にする製造方法が好ましい。合金薄帯片の製造方法においては、化合物相の析出及び結晶粒の粗大化を実質的に生じさせずに、アモルファス合金薄帯片の全体を結晶化し、ナノ結晶合金薄帯片の結晶粒を所望の粒径にするために、ここまでに説明した条件だけではなく他の条件も好適に設定することができる。また、各条件を独立に好適に設定するだけでなく、各条件の組み合わせを好適に設定することもできる。
【実施例
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本実施形態に係る合金薄帯片の製造方法をさらに具体的に説明する。
【0069】
図8は、実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験で使用されたアモルファス合金薄帯片の一例を示す写真である。図8に示されるように、実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験で使用されたアモルファス合金薄帯片2Aは、モータのステータコアを構成する環状の合金薄帯が分割された形状を有する薄帯である。アモルファス合金薄帯片2Aは、アモルファス合金薄帯(株式会社東北マグネット インスティテュート製NANOMET)から打ち抜かれたものであり、そのサイズは下記の通りである。
【0070】
厚さT:2.5μm
全体の径方向の長さR1:26mm
バックヨーク部の径方向の長さR2:7mm
内縁の長さW1:15mm
外縁の長さW2:18mm
【0071】
実施例及び比較例の実験は、アモルファス合金薄帯片2Aを室温(20℃)の大気雰囲気下に置いた状態で行った。実施例及び比較例の実験では、工業用ドライヤー(BOSCH社製GHG 660LCD)に、吹出口(BOSCH社製1 609 201 795)を装着したものを高温ガス源として用いた。
【0072】
[実施例1]
ここで、図9(a)~図9(c)は、実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験を示す概略工程図である。
【0073】
実施例1の実験においては、まず、図9(a)に示されるように、アモルファス合金薄帯片2Aの角部をピンセットPSで把持し、工業用ドライヤーDをアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sに対向し内縁2sから距離L1=10mm離した位置に吹出口Fがくるように固定した上で、工業用ドライヤーDから、アモルファス合金薄帯片2Aに向けて、温度T1=420℃の高温ガスGを風速V1=2.5m/sで加熱時間t1=10秒間送風した後に、図9(b)に示されるように、高温ガスGを送風するのを停止した(第1熱処理工程)。
【0074】
次に、図9(b)に示されるように、第1熱処理工程で高温ガスGを送風するのを停止してから停止時間ts=1秒間が経過した後に、図9(c)に示されるように、工業用ドライヤーDをアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sに対向し内縁2sから距離L2=10mm離した位置に吹出口Fがくるように固定した上で、工業用ドライヤーDから、アモルファス合金薄帯片2Aに向けて、温度T2=450℃の高温ガスGを風速V2=2.5m/sで加熱時間t2=10秒間送風した後に、高温ガスGを送風するのを停止した(第2熱処理工程)。これにより、アモルファス合金薄帯片2Aを結晶化した合金薄帯片を作製した。
【0075】
[比較例1]
比較例1の実験は、第1熱処理工程において、高温ガスGの温度T1を450℃とした点を除いて実施例1と同様の条件で行った。
【0076】
[実施例2]
実施例2の実験においては、まず、図9(a)に示されるように、アモルファス合金薄帯片2Aの角部をピンセットPSで把持し、工業用ドライヤーDをアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sに対向し内縁2sから距離L1=10mm離した位置に吹出口Fがくるように固定した上で、工業用ドライヤーDから、アモルファス合金薄帯片2Aに向けて、温度T1=420℃の高温ガスGを風速V1=2.5m/sで加熱時間t1=10秒間送風した後に、図9(b)に示されるように、高温ガスGを送風するのを停止した(第1熱処理工程)。
【0077】
次に、図9(b)に示されるように、第1熱処理工程で高温ガスGを送風するのを停止してから停止時間ts=1秒間が経過した後に、図9(c)に示されるように、工業用ドライヤーDをアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sに対向し内縁2sから距離L2=10mm離した位置に吹出口Fがくるように固定した上で、工業用ドライヤーDから、アモルファス合金薄帯片2Aに向けて、温度T2=420℃の高温ガスGを風速V2=5m/sで加熱時間t2=10秒間送風した後に、高温ガスGを送風するのを停止した(第2熱処理工程)。これにより、アモルファス合金薄帯片2Aを結晶化した合金薄帯片を作製した。
【0078】
[比較例2]
比較例2の実験は、第1熱処理工程において、高温ガスGの風速V1を5m/sとした点を除いて実施例2と同様の条件で行った。
【0079】
[実施例3]
実施例3の実験においては、まず、図9(a)に示されるように、アモルファス合金薄帯片2Aの角部をピンセットPSで把持し、工業用ドライヤーDをアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sに対向し内縁2sから距離L1=30mm離した位置に吹出口Fがくるように固定した上で、工業用ドライヤーDから、アモルファス合金薄帯片2Aに向けて、温度T1=450℃の高温ガスGを風速V1=2.5m/sで加熱時間t1=10秒間送風した後に、図9(b)に示されるように、高温ガスGを送風するのを停止した(第1熱処理工程)。
【0080】
次に、図9(b)に示されるように、第1熱処理工程で高温ガスGを送風するのを停止してから停止時間ts=1秒間が経過した後に、図9(c)に示されるように、工業用ドライヤーDをアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sに対向し内縁2sから距離L2=10mm離した位置に吹出口Fがくるように固定した上で、工業用ドライヤーDから、アモルファス合金薄帯片2Aに向けて、温度T2=450℃の高温ガスGを風速V2=2.5m/sで加熱時間t2=10秒間送風した後に、高温ガスGを送風するのを停止した(第2熱処理工程)。これにより、アモルファス合金薄帯片2Aを結晶化した合金薄帯片を作製した。
【0081】
[比較例3]
比較例3の実験は、第1熱処理工程において、工業用ドライヤーDをアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから距離L1=10mm離した位置に吹出口Fがくるように固定した点を除いて実施例3と同様の条件で行った。
【0082】
[評価]
実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験、並びにそれらの実験により作製された結晶化した合金薄帯片を評価した結果について説明する。
【0083】
(外観観察)
実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験において、アモルファス合金薄帯片2Aの外観変化を目視で観察した。
【0084】
その結果、実施例1では、第1熱処理工程において、図8に示されるアモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから外縁2eに至る途中の箇所2mまで順に光沢のある銀色から光沢のある青色に変化していく様子が見られ、第2熱処理工程において、途中の箇所2mから外縁2eまで順に光沢のある銀色から光沢のある青色に変化していく様子が見られた。このことから、第1熱処理工程では、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから外縁2eに至る途中の箇所2mまで順に結晶化し、その際の結晶化反応による放出熱は途中の箇所2mよりも外縁2e側の領域に逃げることで、過剰な温度上昇が生じなかったと考えられる。また、第2熱処理工程では、途中の箇所2mから外縁2eまで順に結晶化し、その際の結晶化反応による放出熱は途中の箇所2mよりも内縁2s側の領域に逃げることで、過剰な温度上昇が生じなかったと考えられる。
【0085】
これに対し、比較例1では、第1熱処理工程において、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから外縁2eまで順に光沢のある銀色から光沢のある青色に変化していき、さらに外縁2e近傍が光沢のある青色から灰色に変化していく様子が見られ、第2熱処理工程において、アモルファス合金薄帯片2Aの外観は変化しなかった。このことから、第1熱処理工程では、アモルファス合金薄帯片2Aの内縁2sから外縁2eまで順に結晶化し、その際の結晶化反応による放出熱を原因として、外縁2e近傍で過剰な温度上昇が起こったと考えられる。また、第1熱処理工程でアモルファス合金薄帯片2Aの全体が結晶化したために、第2熱処理工程では、アモルファス合金薄帯片2Aは結晶化しなかったと考えられる。
【0086】
実施例2及び3では、第1熱処理工程及び第2熱処理工程における外観の変化が、実施例1と同様となった。比較例2及び3では、第1熱処理工程及び第2熱処理工程における外観の変化が、比較例1と同様となった。なお、図10は、実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験により作製された結晶化した合金薄帯片の一例を示す写真である。
【0087】
(飽和磁束密度及び保磁力)
実施例及び比較例の実験により作製された結晶化した合金薄帯片において、図10に示される内縁近傍の位置P1及び外縁近傍の位置P2の一部を切り出し、内縁近傍の位置P1及び外縁近傍の位置P2の飽和磁束密度及び保磁力をVSM(振動試料型磁力計)により測定した。それらの測定値及びその評価結果を、下記の表1に示す。なお、実施例及び比較例の合金薄帯片の製造方法の実験で使用された結晶化前のアモルファス合金薄帯片2Aの平面方向の各位置の飽和磁束密度及び保磁力について、VSMにより測定したところ、それぞれ1.7T未満及び6A/m未満であった。特に、実施例1の合金薄帯片の製造方法の実験で使用された結晶化前のアモルファス合金薄帯片2Aでは、内縁近傍の位置P1の飽和磁束密度及び保磁力がそれぞれ1.675T及び5.114A/mであり、外縁近傍の位置P2の飽和磁束密度及び保磁力がそれぞれ1.617T及び5.589A/mであった。
【0088】
【表1】
【0089】
上記の表1に示されるように、実施例1~3で作製した結晶化した合金薄帯片のいずれにおいても、内縁側の位置P1の飽和磁束密度及び外縁側の位置P2の飽和磁束密度の両方が目標範囲の下限(1.7T)以上となり、内縁側の位置P1の保磁力及び外縁側の位置P2の保磁力の両方が目標範囲の上限(10A/m)を超えることなく、目標範囲内となった。一方、比較例1~3で作製した結晶化した合金薄帯片のいずれにおいても、内縁側の位置P1の保磁力は目標範囲内となったが、外縁側の位置P2の保磁力が目標範囲の上限(10A/m)を大きく超えた。これらの外縁側の位置P2では、結晶粒の粗大化等が生じたと考えられる。
【0090】
以上、本発明に係る合金薄帯片の製造方法の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0091】
2A アモルファス合金薄帯片
2s アモルファス合金薄帯片の内縁(一端)
2e アモルファス合金薄帯片の外縁(他端)
2m アモルファス合金薄帯片の内縁から外縁に至る途中の箇所
GS 高温ガス源
G 高温ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10