(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】車両のルーフ構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/06 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
B62D25/06 C
(21)【出願番号】P 2019040583
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】奥山 智仁
(72)【発明者】
【氏名】元木 正紀
(72)【発明者】
【氏名】柴原 多衛
(72)【発明者】
【氏名】藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】小川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】田中 力
(72)【発明者】
【氏名】野中 隆治
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171154(JP,A)
【文献】特開2018-203230(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102018204280(DE,A1)
【文献】実開昭61-200780(JP,U)
【文献】登録実用新案第3194846(JP,U)
【文献】米国特許第09969442(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のルーフを構成するルーフ構造であって、
車体の幅方向に離間して配置され、前記ルーフの側部の骨格をそれぞれ構成する一対のルーフサイドレールと、
前記車体の前後方向に離間して配置され、前記ルーフの前端部および後端部の骨格をそれぞれ構成するフロントヘッダおよびリヤヘッダと、
前記一対のルーフサイドレール、前記フロントヘッダ、および前記リヤヘッダによって形成された開口部を覆うルーフパネルと、
前記ルーフパネルの周縁に接合されて当該ルーフパネルを支持する環状フレームと
を備え、
前記環状フレームは、前記ルーフパネルよりも高い剛性を有し、前記一対のルーフサイドレール、前記フロントヘッダ、および前記リヤヘッダに結合されており、
前記ルーフパネルは、前記環状フレームの上面に固定されたアウタパネルと、前記環状フレームの下面に固定されたインナパネルとから構成される
車両のルーフ構造。
【請求項2】
前記環状フレームは、前記ルーフパネルの周縁の面に沿って延びて当該周縁に接合されたパネル接合部と、当該パネル接合部から前記車体の上下方向に延びる縦板部とを含む断面形状を有する
請求項1に記載の車両のルーフ構造。
【請求項3】
前記環状フレームは、
前記アウタパネルおよび前記インナパネルの各周縁に接合された一対の前記パネル接合部と一対の前記縦板部とによって形成された中空の閉断面形状を有する請求項2に記載の車両のルーフ構造。
【請求項4】
前記環状フレームは、繊維強化樹脂によって形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の車両のルーフ構造。
【請求項5】
前記環状フレームは、前記開口部の内側に配置され、前記一対のルーフサイドレール、前記フロントヘッダおよび前記リヤヘッダに結合されている、
請求項1~4のいずれか1項に記載の車両のルーフ構造。
【請求項6】
前記ルーフサイドレールは、前記開口部の内側に突出するフランジ部を有し、
前記環状フレームは、前記フランジ部に締結される締結部を備えている、
請求項5に記載の車両のルーフ構造。
【請求項7】
前記環状フレームの上端は、前記ルーフサイドレールの上端と略同じ高さに位置しており、
前記環状フレームの下端は、前記フランジ部より下方に位置している
請求項6に記載の車両のルーフ構造。
【請求項8】
前記フランジ部よりも下方の位置で前記ルーフサイドレールと前記環状フレームとを連結する連結部材をさらに備えている、
請求項6または7に記載の車両のルーフ構造。
【請求項9】
前記ルーフパネルは、前記締結部まで延びて当該締結部に締結された側縁部を有し、
前記側縁部および前記締結部は、前記ルーフサイドレールの前記フランジ部に締結される、
請求項6~8のいずれか1項に記載の車両のルーフ構造。
【請求項10】
前記アウタパネルと前記環状フレームの上面の全面との間、及び前記インナパネルと前記環状フレームの下面の全面との間が、それぞれ接着剤を介して締結される請求項1~9のいずれか1項に記載の車両のルーフ構造。
【請求項11】
前記ルーフパネルは、透光性を有する請求項1~10のいずれか1項に記載の車両のルーフ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のルーフ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の側部に他の車両が衝突(すなわち側突)されたときにルーフで大きな荷重に耐えるために、ルーフの補強材として、一対のルーフサイドレール間に架橋されたルーフレインが設けられている。
【0003】
近年、ルーフパネルに透光性をもたせるためやルーフレインを無くしてルーフの意匠性を向上するためなどの種々の要求により、ルーフレイン以外の手段で補強されたルーフ構造が求められている。そこで、ルーフレインがない構造として、例えば特許文献1記載のルーフ構造などが提案されている。
【0004】
特許文献1記載のルーフ構造は、
図5~6に示されるように、車体のルーフの外周に中空枠状フレーム51を備えている。この中空枠状フレーム51は、中空の矩形断面の枠体であり、車体上端のフロントヘッダ52、リヤヘッダ53、および一対のルーフサイドレール54のそれぞれの上端に載置された状態でこれらルーフサイドレール54等に溶接されている。この中空枠状フレーム51がルーフレインの代わりにルーフの補強を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の車両のルーフ構造では、中空枠状フレーム51はルーフサイドレール54に対して上下方向に溶接されているので、車両側突時にルーフサイドレール54に大きな荷重がかかったときには中空枠状フレーム51との溶接部分に大きなせん断力が作用して溶接部分が破壊され、中空枠状フレーム51へ荷重が伝達されなくなるおそれがある。この場合、車両の側突性能を維持することが困難になる。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、ルーフレインを設けなくても車両の側突性能を維持することが可能な車両のルーフ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車両のルーフ構造は、車両のルーフを構成するルーフ構造であって、車体の幅方向に離間して配置され、前記ルーフの側部の骨格をそれぞれ構成する一対のルーフサイドレールと、前記車体の前後方向に離間して配置され、前記ルーフの前端部および後端部の骨格をそれぞれ構成するフロントヘッダおよびリヤヘッダと、前記一対のルーフサイドレール、前記フロントヘッダ、および前記リヤヘッダによって形成された開口部を覆うルーフパネルと、前記ルーフパネルの周縁に接合されて当該ルーフパネルを支持する環状フレームとを備え、前記環状フレームは、前記ルーフパネルよりも高い剛性を有し、前記一対のルーフサイドレール、前記フロントヘッダ、および前記リヤヘッダに結合されており、前記ルーフパネルは、前記環状フレームの上面に固定されたアウタパネルと、前記環状フレームの下面に固定されたインナパネルとから構成されることを特徴とする。
【0009】
かかる構成では、ルーフパネルは、アウタパネルとインナパネルとから構成された二重パネルであり、ルーフパネルよりも高剛性を有する環状フレームの上下方向の両面に固定されていることにより、環状フレームはねじり変形しにくくなるとともに、これらアウタパネルおよびインナパネルがたわみにくくなる。そのため、環状フレームからアウタパネルおよびインナパネルの両方へ効率よく面内力(すなわち、パネルの面内方向に作用する力)が伝わり、側突を含むその他の衝突の荷重を効率よく受けることが可能になり、車両の側突性能を向上することが可能である。したがって、一対のルーフサイドレール間に架橋されたルーフレインを設けなくても車両の側突性能を維持することが可能である。
【0010】
上記の車両のルーフ構造において、前記環状フレームは、前記ルーフパネルの周縁の面に沿って延びて当該周縁に接合されたパネル接合部と、当該パネル接合部から前記車体の上下方向に延びる縦板部とを含む断面形状を有するのが好ましい。
【0011】
かかる構成により、環状フレームは、ルーフパネルの周縁の面に沿って延びるパネル接合部と上下方向に延びる縦板部とを含む断面形状を有しているので、ねじりや曲げに強い断面形状の環状フレームが得られる。
【0012】
上記の車両のルーフ構造において、前記環状フレームは、前記アウタパネルおよび前記インナパネルの各周縁に接合された一対の前記パネル接合部と一対の前記縦板部とによって形成された中空の閉断面形状を有するのが好ましい。
【0013】
かかる構成により、環状フレームの剛性をより高くすることができるとともに、環状フレームの軽量化が可能になる。
【0014】
上記の車両のルーフ構造において、前記環状フレームは、繊維強化樹脂によって形成されているのが好ましい。
【0015】
環状フレームは、繊維強化樹脂によって形成されているので、スチール製のフレームと比較して軽量でかつ高い剛性を有する。
【0016】
上記の車両のルーフ構造において、前記環状フレームは、前記開口部の内側に配置され、前記一対のルーフサイドレール、前記フロントヘッダおよび前記リヤヘッダに結合されているのが好ましい。
【0017】
かかる構成では、環状レールは、一対のルーフサイドレール、フロントヘッダ、およびリヤヘッダによって形成された開口部の内側に配置された状態で、一対のルーフサイドレール、フロントヘッダおよびリヤヘッダに結合されている。これにより、車両側突時において、ルーフサイドレールが受ける荷重を開口部内側の環状フレームに確実に伝達し、高剛性の環状フレームおよびルーフパネルによって荷重に耐えることが可能である。したがって、車両の側突性能を確実に維持することが可能である。
【0018】
上記の車両のルーフ構造において、前記ルーフサイドレールは、前記開口部の内側に突出するフランジ部を有し、前記環状フレームは、前記フランジ部に締結される締結部を備えているのが好ましい。
【0019】
かかる構成により、車両側突時にルーフサイドレールにかかる荷重はフランジ部および締結部を介して環状フレームに確実に伝達することが可能である。
【0020】
上記の車両のルーフ構造において、前記環状フレームの上端は、前記ルーフサイドレールの上端と略同じ高さに位置しており、前記環状フレームの下端は、前記フランジ部より下方に位置しているのが好ましい。
【0021】
かかる構成により、環状フレームの締結部がルーフサイドレール側のフランジ部に締結されている構成において、環状フレームの上端がルーフサイドレールの上端と略同じ高さに位置するとともに環状フレームの下端がフランジ部より下方に位置するように環状フレームを配置することにより、環状フレームの高さを確保することが可能になり、環状フレームの剛性を向上することが可能である。
【0022】
上記の車両のルーフ構造において、前記フランジ部よりも下方の位置で前記ルーフサイドレールと前記環状フレームとを連結する連結部材をさらに備えているのが好ましい。
【0023】
かかる構成により、ルーフサイドレールは、フランジ部および連結部材の両方によって環状フレームに連結される。これにより、車両側突時にルーフサイドレールが受ける荷重は、フランジ部および連結部材の2つのルートを介して、環状フレームおよびルーフパネルのアウタパネルおよびインナパネルの両方に効率よく伝達することが可能である。
【0024】
上記の車両のルーフ構造において、前記ルーフパネルは、前記締結部まで延びて当該締結部に締結された側縁部を有し、前記側縁部および前記締結部は、前記ルーフサイドレールの前記フランジ部に締結されるのが好ましい。
【0025】
かかる構成により、ルーフパネルの側縁部および前記環状フレームの締結部の両方がルーフサイドレールのフランジ部に締結されているので、車両衝突時にルーフサイドレールが受ける荷重を環状フレームの本体部を介さずにルーフサイドレール直接伝達することが可能になり、荷重を環状フレームおよびルーフパネルの両方に確実に分散して受けることが可能になる。
【0026】
上記の車両のルーフ構造において、前記アウタパネルと前記環状フレームの上面の全面との間、及び前記インナパネルと前記環状フレームの下面の全面との間が、それぞれ接着剤を介して締結されるのが好ましい。
【0027】
かかる構成により、アウタパネルおよびインナパネルの両方を環状フレームの上面および下面の全面と接着することにより、環状フレームの上面および下面の全面からアウタパネルおよびインナパネルへ荷重伝達が可能になる。その結果、環状フレーム、アウタパネルおよびインナパネルの全体で荷重を効率よく受けることが可能になり、車体の剛性が向上する。
【0028】
上記の車両のルーフ構造において、前記ルーフパネルは、透光性を有するのが好ましい。
【0029】
かかる構成により、本構成では、一対のルーフサイドレール間を架橋するルーフレインがないので光透過の自由度が広がる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の車両のルーフ構造によれば、ルーフレインを設けなくても車両の側突性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両のルーフ構造の分解斜視図である。
【
図4】
図2~3の環状シート部分を構成する強化繊維シートの構造を示す分解斜視図である。
【
図5】従来の車両のルーフ構造を示す斜視図である。
【
図6】
図5の中空枠状フレームがルーフサイドレールの上面に溶接されている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0033】
本実施形態に係る車両のルーフ構造は、
図1に示されるように、車両のルーフ2を構成する構造であって、車体1の幅方向Yに離間して配置された一対のルーフサイドレール3と、車体1の前後方向Xに離間して配置されたフロントヘッダ4およびリヤヘッダ5と、パネルユニット30とを備えている。一対のルーフサイドレール3、フロントヘッダ4およびリヤヘッダ5によって、ルーフ2の矩形形状の開口部6が形成され、当該開口部6はパネルユニット30によって閉塞されている。
【0034】
一対のルーフサイドレール3は、車体1の幅方向Yに離間して配置され、ルーフ2の側部の骨格をそれぞれ構成するように車体1の前後方向Xに延びている。両側のルーフサイドレール3はそれぞれ、開口部6の内側に突出するフランジ部15(
図2参照)を有する。
【0035】
フロントヘッダ4およびリヤヘッダ5は、車体1の前後方向Xに離間して配置され、ルーフ2の前端部および後端部の骨格をそれぞれ構成するように車体の1の幅方向Yに延びている。フロントヘッダ4およびリヤヘッダ5もそれぞれ、開口部6の内側に突出するフランジ部15(
図3参照)を有する。
【0036】
パネルユニット30は、ルーフパネル7および環状フレーム8を備える。
【0037】
ルーフパネル7は、一対のルーフサイドレール3、フロントヘッダ4、およびリヤヘッダ5によって形成された開口部6を覆うことが可能な構成を有する。
【0038】
具体的には、本実施形態のルーフパネル7は、車体1の外部に露出するアウタパネル71と、車体1の内部に位置するインナパネル72とが環状フレーム8を挟んで上下方向Zに離間して配置された二重パネルによって構成されている。
【0039】
なお、本実施形態では、ルーフパネル7の例としてアウタパネル71およびインナパネル72を有する二重パネルを例にあげて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、1枚のルーフパネル、アウタパネル71のみであってもよい。
【0040】
ルーフパネル7を構成するアウタパネル71およびインナパネル72は、高い剛性(具体的には、高い曲げ剛性およびねじり剛性など)を有する透明または半透明の合成樹脂材料、例えば、ガラス繊維で強化された透明の合成樹脂からなる透明のFRPなどからなり、透光性を有する。また、アウタパネル71およびインナパネル72は、車体1の内側を向く内面にそれぞれ、調光および遮熱のためのフィルムが張られていてもよい。さらに、インナパネル72は、透過光によって所望の色や模様が浮かび上がるような特殊な処理を施されていてもよい。
【0041】
環状フレーム8は、
図1~3に示されるように、ルーフパネル7の周縁に接合されて当該ルーフパネル7を支持することが可能な構成を有する。
【0042】
環状フレーム8は、ルーフパネル7よりも高い剛性(具体的には、高い曲げ剛性およびねじり剛性など)を有する材料(例えば、炭素繊維で強化された合成樹脂(CFRP)などの繊維強化樹脂)で製造された環状の枠体(具体的には
図1に示されるように略矩形形状の枠体)である。
【0043】
環状フレーム8は、
図1の車体1の開口部6の内側に配置される。環状フレーム8は、
図2~3に示されるように、後述する締結部13および相手側のルーフサイドレール3等のフランジ部15を介して、一対のルーフサイドレール3に幅方向Yに隣接して結合されているとともに、フロントヘッダ4およびリヤヘッダ5に前後方向Xに隣接して結合されている。
【0044】
図2~3に示されるように、環状フレーム8は、具体的には、本体部9と、本体部9に一体に結合された締結部13とを備える。
【0045】
本体部9は、ルーフ2の開口部6の内側に向かう方向(すなわち、幅方向Yまたは前後方向X)に延び、ルーフパネル7のアウタパネル71およびインナパネル72の各周縁の面に沿って延びて各周縁に接合された上下一対のパネル接合部10と、当該パネル接合部10から車体1の上下方向Zに延びる一対の縦板部11とによって形成された中空閉断面の断面形状を有する。
【0046】
環状フレーム8の上面を構成するパネル接合部10には、アウタパネル71が固定され、環状フレーム8の下面を構成するパネル接合部10には、インナパネル72が固定されている。
【0047】
具体的には、環状フレーム8の本体部9の一対のパネル接合部10は、上下方向Zに離間して配置され、アウタパネル71およびインナパネル72と高剛性接着剤26によって強固に接着されている。
【0048】
締結部13は、本体部9の外周面からフランジ部15に向かう方向に突出している。締結部13は、開口部6の内側に突出するフランジ部15を介して、一対のルーフサイドレール3、フロントヘッダ4、およびリヤヘッダ5のそれぞれに締結されている。締結部13は、ルーフサイドレール3等から延びるそれぞれのフランジ部15の上面に上記と同様の高剛性接着剤26によって接着されている。
【0049】
本実施形態では、
図2に示されるように、環状フレーム8の上端16は、ルーフサイドレール3の上端3aと略同じ高さに位置している。さらに、環状フレーム8の下端17は、フランジ部15より下方に位置している。これにより、環状フレーム8は、高さを確保して環状フレーム8の剛性を確保することが可能である。
【0050】
また、本実施形態では、ルーフパネル7のうちアウタパネル71の側縁部71aが締結部13まで延びて当該締結部13の上面に重ね合されて締結され、側縁部71aおよび締結部13がルーフサイドレール3のフランジ部15の上面に重ね合されて締結される。側縁部71aと締結部13との間、および締結部13とフランジ部15との間は、それぞれ上記の高剛性接着剤26によって接着されている。これにより、車両衝突時にルーフサイドレール3が受けた荷重は、フランジ部15を介して環状フレーム8およびルーフパネル7(具体的にはアウタパネル71)に伝達することが可能である。
【0051】
さらに、上記の高剛性接着剤26による接着と併用して、側縁部71a、締結部13、および締結部13をボルトやリベットなどによってまとめて締結してもよい。
【0052】
また、本実施形態では、
図2に示されるように、ルーフパネル7のうちのアウタパネル71が環状フレーム8における本体部9のパネル接合部10に接合される部分18とアウタパネル71の側縁部71aが締結部13に締結している部分19との間には、ルーフパネル7と環状フレーム8によって閉断面の空間20が形成されている。アウタパネル71および環状フレーム8によって閉断面の空間20を囲む部分が形成されることにより、締結部13の周囲を補強することが可能である。
【0053】
なお、上記の閉断面の空間20は、インナパネル72および環状フレーム8によって形成してもよい。
【0054】
また、本実施形態では、
図1~2に示されるルーフサイドレール3のフランジ部15よりも下方の部分または当該ルーフサイドレール3の下方に連結されたBピラー21のいずれかの部分には、
図2に示されるように、車体1の内側にガセット22と呼ばれる連結部材が溶接などによって連結されている。
図2では、ガセット22は、Bピラー21に連結され、当該Bピラー21を介してルーフサイドレール3に間接的に連結されている。ガセット22の上端部分は、環状フレーム8およびルーフパネル7のうちのインナパネル72とともにボルト23によって機械的に結合されている。この構造では、ルーフサイドレール3は、フランジ部15およびガセット22の両方によって環状フレーム8に連結される。これにより、車両側突時にルーフサイドレール3およびBピラー21が受ける荷重は、フランジ部15およびガセット22の2つのルートを介して、環状フレーム8およびルーフパネル7のアウタパネル71のインナパネル72の両方に効率よく伝達することが可能である。
【0055】
なお、ボルト23に螺合されるナットとしては、環状フレーム8などにかしめて固定されたかしめナットなどを用いればよい。
【0056】
図3に示されるように、フロントヘッダ4のフランジ部15と環状フレーム8の締結部13とは、ボルト25を用いて機械的に締結されている。ボルト25は、例えば、締結部13にかしめて固定されたかしめボルトなどを用いればよい。ボルト25は、フランジ部15を貫通して下方に突出している。ボルト25には、フランジ部15の下方からナットが締結される。
【0057】
また、
図3に示されるように、アウタパネル71の前方側(
図3の左側)の端部は、フロントヘッダ4の上方まで延び、接着剤27によってフロントヘッダ4の上面に接着されている。接着剤27としては、アウタパネル71とフロントヘッダ4との隙間に外部から雨水等の侵入を阻止しうる程度のシール性を発揮する通常の接着剤を用いればよい。
【0058】
本実施形態では、環状フレーム8の本体部9は、中空の閉断面形状を有し、例えば
図2~4に示されるような中空の矩形断面形状を有する。
【0059】
中空の閉断面形状を有する本体部9は、CFRPなどの合成樹脂を含む材料で形成されている。本体部9は、環状に曲げられた繊維強化樹脂シートからなる環状シート部分12を備えている。
【0060】
環状シート部分12は、図4に示される積層シート40が環状に曲げられることによって形成される。
【0061】
積層シート40は、本発明の繊維強化樹脂シートの一実施態様であり、CFRPなどからなる単層シート41の積層体で構成されている。
【0062】
図4に示されるように、積層シート40を構成する各単層シート41は、CFRP製であって、互いに平行に延びる長繊維からなる複数の強化繊維(CFRPでは炭素繊維)42が合成樹脂43に含浸されて当該合成樹脂43によって覆われることによって製造されている。
【0063】
積層シート40は、各単層シート41の強化繊維42の延びる方向が互いに異なるように、単層シート41の向きを変えて複数の単層シート41を積層することによって構成されている。これにより、積層シート40は、互いに異なる方向に延びる強化繊維42を含む1枚の繊維強化樹脂シートを構成することが可能になる。
【0064】
なお、本発明の繊維強化樹脂シートは、積層シート40の代わりに、互いに異なる方向に延びるようにあらかじめ配置された複数の強化繊維42の中間体(例えば、強化繊維が格子状に編まれたものなど)が合成樹脂に含浸されたものであってもよい。
【0065】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車両のルーフ構造では、ルーフパネル7は、アウタパネル71とインナパネル72とから構成された二重パネルであり、ルーフパネル7よりも高剛性を有する環状フレーム8の上下方向の両面(本実施形態では、上下2面のパネル接合部10)に固定されていることにより、環状フレーム8はねじり変形しにくくなるとともに、これらアウタパネル71およびインナパネル72がたわみにくくなる。そのため、環状フレーム8からアウタパネル71およびインナパネル72の両方へ効率よく面内力(すなわち、パネルの面内方向に作用する力)が伝わり、側突を含むその他の衝突の荷重を効率よく受けることが可能になり、車両の側突性能を向上することが可能である。したがって、一対のルーフサイドレール3間に架橋されたルーフレインを設けなくても車両の側突性能を維持することが可能である。
【0066】
(2)
本実施形態の車両のルーフ構造では、環状フレーム8は、ルーフパネル7の周縁の面に沿って延びて当該周縁に接合されたパネル接合部10と、当該パネル接合部10から車体1の上下方向Zに延びる縦板部11とを含む断面形状を有する本体部9を有する。
【0067】
上記の構成では、環状フレーム8の本体部9は、ルーフパネル7の周縁の面に沿って延びるパネル接合部10と上下方向Zに延びる縦板部11とを含む断面形状を有しているので、ねじりや曲げに強い断面形状の環状フレーム8が得られる。
【0068】
(3)
本実施形態の車両のルーフ構造では、環状フレーム8の本体部9は、中空の閉断面形状を有するので、環状フレーム8の剛性(曲げ剛性およびねじり剛性など)をより高くすることができるとともに、環状フレーム8の軽量化が可能になる。
【0069】
(4)
本実施形態の車両のルーフ構造では、環状フレーム8は、一対のルーフサイドレール3、フロントヘッダ4、およびリヤヘッダ5によって形成された開口部6の内側に配置された状態で、一対のルーフサイドレール3に車体1の幅方向Yに隣接して結合するとともに、フロントヘッダ4およびリヤヘッダ5に車体1の前後方向Xに隣接して結合する。これにより、車両側突時において、ルーフサイドレール3が受ける荷重を開口部6内側の環状フレーム8に確実に伝達し、高剛性の環状フレーム8およびルーフパネル7によって荷重に耐えることが可能である。したがって、車両の側突性能を確実に維持することが可能である。
【0070】
(5)
本実施形態の車両のルーフ構造では、ルーフサイドレール3は、開口部6の内側に突出するフランジ部15を有する。締結部13は、フランジ部15に締結されている。かかる構成により、車両側突時にルーフサイドレール3にかかる荷重はフランジ部15および締結部13を介して環状フレーム8に確実に伝達することが可能である。
【0071】
また、本実施形態の締結部13は、一対のルーフサイドレール3、フロントヘッダ4、およびリヤヘッダ5のそれぞれに締結されている。そのため、車両衝突時に一対のルーフサイドレール3、フロントヘッダ4、およびリヤヘッダ5から締結部13を介して環状フレーム8へ確実に荷重伝達でき、高剛性の環状フレーム8およびルーフパネル7によってより確実に車両衝突時の荷重に耐えることが可能である。
【0072】
(6)
本実施形態の車両のルーフ構造では、環状フレーム8の上端16は、ルーフサイドレール3の上端3aと略同じ高さに位置している。環状フレーム8の下端17は、フランジ部15より下方に位置している。
【0073】
上記の構成では、環状フレーム8の締結部13がルーフサイドレール3側のフランジ部15に締結されている構成において、環状フレーム8の上端16がルーフサイドレール3の上端3aと略同じ高さに位置するとともに環状フレーム8の下端17がフランジ部15より下方に位置するように環状フレーム8を配置することにより、環状フレーム8の高さを確保することが可能になり、環状フレーム8の剛性(ねじり剛性および曲げ剛性など)を向上することが可能である。
【0074】
(7)
本実施形態の車両のルーフ構造は、フランジ部15よりも下方の位置でルーフサイドレール3と環状フレーム8とを連結する連結部材としてガセット22を備えている。
【0075】
かかる構成により、ルーフサイドレール3は、フランジ部15およびガセット22の両方によって環状フレーム8に連結される。これにより、車両側突時にルーフサイドレール3が受ける荷重は、フランジ部15およびガセット22の2つのルートを介して、環状フレーム8およびルーフパネル7のアウタパネル71およびインナパネル72の両方に効率よく伝達することが可能である。
【0076】
(8)
本実施形態の車両のルーフ構造では、ルーフパネル7(具体的には、アウタパネル71)は、締結部13まで延びて当該締結部13に締結された側縁部71aを有し、側縁部71aおよび締結部13がルーフサイドレール3のフランジ部15に締結される。
【0077】
上記の構成では、ルーフパネル7の側縁部71aおよび環状フレーム8の締結部13の両方がルーフサイドレール3のフランジ部15に締結されているので、車両衝突時にルーフサイドレール3が受ける荷重を環状フレーム8の本体部9を介さずにルーフサイドレール3直接伝達することが可能になり、荷重を環状フレーム8およびルーフパネル7の両方に確実に分散して受けることが可能になる。
【0078】
(9)
本実施形態の車両のルーフ構造では、アウタパネル71と環状フレーム8の上面側のパネル接合部10の全面との間、及びインナパネル72と環状フレーム8の下面側のパネル接合部10の全面との間が、それぞれ高剛性接着剤26を介して締結されている。
【0079】
かかる構成により、アウタパネル71およびインナパネル72の両方を環状フレーム8の上面および下面の全面と接着することにより、環状フレーム8の上面および下面の全面からアウタパネル71およびインナパネル72へ荷重伝達が可能になる。その結果、環状フレーム8、アウタパネル71およびインナパネル72の全体で荷重を効率よく受けることが可能になり、車体1の剛性が向上する。
【0080】
なお、上記の高剛性接着剤26と併用して、アウタパネル71と環状フレーム8との間、およびインナパネル72と環状フレーム8との間をボルトなどを用いてさらに機械的に締結してもよい。その場合、アウタパネル71およびインナパネル72へ荷重伝達がさらに良好になり、車体1の剛性がより向上する。
【0081】
(10)
本実施形態の車両のルーフ構造では、ルーフパネル7は、透光性を有する。かかる構成により、本構成では、一対のルーフサイドレール3間を架橋するルーフレインがないので光透過の自由度が広がる。
【0082】
(11)
本実施形態の車両のルーフ構造では、環状フレーム8は、CFRPなどの繊維強化樹脂で形成されているので、スチール製のフレームと比較して軽量でかつ高い剛性を有する。
【0083】
また、本実施形態の環状フレーム8の本体部9は、環状に曲げられた積層シート40を備えている。積層シート40は、長繊維からなる複数の強化繊維42と、当該複数の強化繊維42を覆う合成樹脂とを含み、複数の強化繊維42は少なくとも一部が異なる方向に延びる。この構成では、環状シート部分12を構成する積層シート40には異なる方向に延びる長繊維からなる複数の強化繊維42が含まれており、これらの強化繊維42が異なる方向からの荷重を受けることが可能になるので、環状フレーム8は側突を含むあらゆる方向の衝突に対する耐力が得られる。
【0084】
(12)
本実施形態の車両のルーフ構造では、ルーフパネル7が環状フレーム8における本体部9のパネル接合部10に接合される部分18と側縁部71aが締結部13に締結している部分19との間には、ルーフパネル7と環状フレーム8によって閉断面の空間20が形成されている。
【0085】
上記の構成では、ルーフパネル7が環状フレーム8の本体部9のパネル接合部10に接合される部分18と側縁部71aが締結部13に締結している部分19との間には、ルーフパネル7と環状フレーム8によって閉断面の空間20が形成されている。この閉断面の空間20を取り囲む部分によって締結部13の周囲が補強されることにより、締結部13の周囲において剛性(ねじり剛性および曲げ剛性など)を向上することが可能である。また、この閉断面の空間20を有していることにより、ルーフサイドレール3のフランジ部15に接合される環状フレーム8とルーフパネル7との間における組付け誤差を吸収することが可能である。
【0086】
例えば、上記の接合部分18、19において高弾性接着剤26の層が所定の範囲から若干はみ出しても上記の空間20ではみ出しを吸収するので、組み付け不良などの問題が生じにくくなる。
【符号の説明】
【0087】
1 車体
2 ルーフ
3 ルーフサイドレール
3a 上端
4 フロントヘッダ
5 リヤヘッダ
6 開口部
7 ルーフパネル
8 環状フレーム
9 本体部
10 パネル接合部
11 縦板部
12 環状シート部分
13 締結部
14 突合部
15 フランジ部
16 環状フレームの上端
17 環状フレームの下端
20 閉断面の空間
26 高剛性接着剤
27 接着剤
40 積層シート(繊維強化樹脂シート)
41 単層シート
42 強化繊維
43 合成樹脂
71 アウタパネル
71a 側縁部
72 インナパネル