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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電圧変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H02M3/155 W
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019044141
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020150601
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 理知
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/175888(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0667844(KR,B1)
【文献】特開2017-60303(JP,A)
【文献】特開2014-241707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側と出力側とに対して並列に接続される複数の駆動相を有する電圧変換部と、
同一のタイマクロックを用いて同一の周期かつ所定の位相差を有するように複数のPWMタイマの計測を開始すると共に各PWMタイマのタイマ値に基づいて駆動信号を生成して対応する駆動相に出力する制御部と、
を備える電圧変換装置であって、
前記制御部は、前記複数の駆動相のうち比較対象の2つの駆動相における現在のPWMタイマのタイマ値を、前記2つの駆動相の一方を基準相とすると共に他方を比較相として前記基準相,前記比較相,前記基準相の順に取得し、該取得したPWMタイマのタイマ値から前記2つの駆動相におけるPWMタイマの位相差のとり得る範囲を位相差範囲として設定し、該設定した位相差範囲内に前記所定の位相差が含まれるか否かにより前記2つの駆動相におけるPWMタイマの位相差が正常であるか否かを判定する、
電圧変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力側と出力側とに対して並列に接続される複数の駆動相を有する電圧変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電圧変換装置としては、電源(入力側)と平滑コンデンサ(出力側)とに対して並列に接続された複数個の駆動相(昇圧チョッパ回路)を有する電圧変換部と、電圧変換部の動作を制御する制御部と、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、制御部は、同一のキャリア周波数で均等な位相差を有する複数個の駆動信号(パルス信号)を生成し、生成した駆動信号を対応する駆動相に供給することで電圧変換部の動作を制御している。これにより、リアクトルを流れる電流の変動幅(リップル電流)を小さくし、平滑コンデンサの発熱を抑制することができるとしている。また、電圧変換装置は、キャリア周波数の切り替えが要求されると、複数個の駆動信号において、切り替え前のキャリア周波数の信号と切り替え後のキャリア周波数の信号との間に調整信号を1周期挿入することによりキャリア周波数を切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-108517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した電圧変換装置では、複数個の駆動相においてそれぞれ生成される駆動信号の位相差が適正値から外れると、位相差が適正であるか否かを判定する手段がないため、電圧変換部の動作が適正に行なわれているかを確認することが困難である。
【0005】
本発明の電圧変換装置は、同一の周期かつ所定の位相差を有するPWMタイマを生成すると共に生成したPWMタイマのタイマ値に基づいて駆動信号を生成して対応する駆動相を制御するものにおいて、PWMタイマの位相差が適正であるか否かを簡易な処理により判定できるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電圧変換装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電圧変換装置は、
入力側と出力側とに対して並列に接続される複数の駆動相を有する電圧変換部と、
同一のタイマクロックを用いて同一の周期かつ所定の位相差を有するように複数のPWMタイマの計測を開始すると共に各PWMタイマのタイマ値に基づいて駆動信号を生成して対応する駆動相に出力する制御部と、
を備える電圧変換装置であって、
前記制御部は、前記複数の駆動相のうち比較対象の2つの駆動相における現在のPWMタイマのタイマ値を、前記2つの駆動相の一方を基準相とすると共に他方を比較相として前記基準相,前記比較相,前記基準相の順に取得し、該取得したPWMタイマのタイマ値から前記2つの駆動相におけるPWMタイマの位相差のとり得る範囲を位相差範囲として設定し、該設定した位相差範囲内に前記所定の位相差が含まれるか否かにより前記2つの駆動相におけるPWMタイマの位相差が正常であるか否かを判定する、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の電圧変換装置では、同一のタイマクロックを用いて同一の周期かつ所定の位相差を有するように複数のPWMタイマの計測を開始すると共に各PWMタイマのタイマ値に基づいて駆動信号を生成して対応する駆動相に出力する制御部を備える。この制御部は、複数の駆動相のうち比較対象の2つの駆動相における現在のPWMタイマのタイマ値を、基準相,比較相,基準相の順に取得し、取得したPWMタイマのタイマ値から2つの駆動相におけるPWMタイマの位相差のとり得る位相差範囲を設定し、設定した位相差範囲内に上記の所定の位相差が含まれるか否かにより2つの駆動相におけるPWMタイマの位相差が正常であるか否かを判定する。これにより、専用の回路用いることなく、簡易な処理によって各駆動相のPWMタイマの位相差が適正であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例としての電圧変換装置20の構成の概略を示す構成図である。
図2】制御部40の構成の概略を示す構成図である。
図3】PWMタイマを用いて駆動信号が生成される様子を示す説明図である。
図4】制御部40のCPU41により実行される制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図5】各相PWMタイマの計測の様子を示す説明図である。
図6】位相差ずれ判定処理の一例を示すフローチャートである。
図7】基準相PWMタイマと比較相PWMタイマとを示す説明図である。
図8】基準相PWMタイマのタイマ値と比較相PWMタイマのタイマ値との取得タイミングのバリエーションを示す説明図である。
図9】位相差ずれ無し判定と位相差ずれ有り判定の様子を示す説明図である。
図10】位相差補正の様子を示す説明図である。
図11】基準相PWMタイマのタイマ値と比較相PWMタイマのタイマ値の取得タイミングを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0011】
図1は、本発明の一実施例としての電圧変換装置20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電圧変換装置20は、図示するように、直流電源12に接続された低電圧系電力ライン14と平滑コンデンサ16に接続された高電圧系電力ライン18とに接続され、低電圧系電力ライン14の電圧を昇圧して高電圧系電力ライン18に供給する昇圧コンバータ30と、昇圧コンバータ30を制御する制御部40と、を備える。電圧変換装置20は、例えば、走行用のモータを備える電動車両において、燃料電池や二次電池の電圧を昇圧して当該モータを駆動するインバータに供給するものとして構成することができる。
【0012】
昇圧コンバータ30は、図1に示すように、低電圧系電力ライン14と高電圧径電力ライン18とに対して並列に接続される複数個(図の例では4個)の昇圧相31a~31dを有する多相昇圧コンバータとして構成される。なお、N個(Nは、2以上の整数)の昇圧相を備える場合、各昇圧相をそれぞれS0相,S1相,…,SN-1相とも称する。昇圧相31a~31dは、いずれも、リアクトル32と、スイッチング素子33と、整流用のダイオード34と、スイッチング素子33をスイッチングする駆動回路35とを有する昇圧チョッパ回路として構成され、パルス幅変調(PWM)制御を用いて駆動回路35によりスイッチング素子33がスイッチングされることにより、低電圧系電力ライン14の電圧を昇圧して高電圧系電力ライン18に供給する。スイッチング素子33は、本実施例では、還流ダイオードを有するIGBTにより構成される。なお、直流電源12を二次電池により構成した場合、昇圧コンバータ30は、低電圧系電力ライン14の電圧を昇圧して高電圧系電力ライン18に供給すると共に、高電圧系電力ライン18の電圧を降圧して低電圧系電力ライン14に供給可能な昇降圧チョッパ回路として構成されてもよい。
【0013】
制御部40は、マイクロコンピュータとして構成される。この制御部40は、図2に示すように、電圧変換装置20全体の制御を司るCPU41と、発振回路42からの発振信号を元にCPU41等の動作に必要なメインクロックを生成するメインクロック発振器43と、メインクロック発振器42からのメインクロックを分周して後述するPWMタイマを生成するためのタイマクロックを生成する分周器44と、昇圧相31a~31dの駆動回路35にそれぞれ駆動信号(PWM信号)を出力する駆動信号出力部50と、を備える。
【0014】
駆動信号出力部50は、図2に示すように、複数個の昇圧相31a~31dのうち対応する昇圧相の駆動回路35に駆動信号を出力する複数個(実施例では、4個)の駆動信号出力部51a~51dを有する。各駆動信号出力部51a~51dは、いずれも、分周器44により生成される共通のタイマクロックからPWMタイマを生成するPWMタイマ生成部52と、PWMタイマ生成部52により生成されたPWMタイマのタイマ値に基づいて駆動信号を生成して対応する昇圧相の駆動回路35へ出力する駆動信号生成部54と、を有する。
【0015】
図3は、PWMタイマを用いて駆動信号が生成される様子を示す説明図である。PWMタイマは、本実施例では、初期値(値0)から単位時間(タイマの分解能)ごとに値1ずつカウントアップするカウントアップタイマとして構成される。なお、PWMタイマは、初期値から単位時間ごとに値1ずつカウントダウンするカウントダウンタイマとして構成されてもよい。PWMタイマ生成部52は、CPU41からPWMタイマ周期にかかる設定値(PWMタイマ周期設定値)を入力し、PWMタイマのタイマ値がPWMタイマ周期設定値に到達すると、タイマ値を初期値に戻す。駆動信号生成部54は、CPU41から対応する昇圧相をスイッチング制御する際のデューティにかかる設定値(デューティ設定値)を入力し、PWMタイマのタイマ値が初期値からデューティ設定値に到達するまでオンとし、デューティ設定値から初期値に戻るまでオフとするパルス信号を駆動信号として生成して対応する昇圧相の駆動回路35に出力する。各昇圧相31a~31dに出力する駆動信号の周期を同一とすると共に位相差を均等とすることにより、リアクトル31に流れる電流の脈動(リップル電流)を小さくすることができ、平滑コンデンサ16の発熱を抑制することができる。
【0016】
次に、こうして構成された実施例の電圧変換装置20の動作について説明する。図4は、制御部40のCPU41により実行される制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、実施例の電圧変換装置20を備えるシステムの起動が指示されたときに実行される。
【0017】
制御ルーチンが実行されると、CPU41は、まず、S0~SN-1相のPMWタイマ周期設定値を初期周期T0~TN-1に設定すると共に各相においてPWMタイマの位相を調整するための位相調整値d0,1~dN-2,N-1を設定し、S0~SN-1相のPWMタイマ生成部52にPWMタイマの計測の開始を指示する(ステップS100)。Sn相の初期周期Tnは、Sn-1相の初期周期Tn-1を用いて次式(1)を満たすように設定される。但し、次のステップS110を実行するのに十分な時間が確保されるように設定される。Sn(n=1,2,…,N-1)相のPWMタイマ生成部52に対する指示は、本実施例では、Sn-1相に対して位相調整値dn-1,nだけずれたタイミングで設定値に応じたPWMタイマ周期でタイマの計測を開始するように指示することにより行なう。位相調整値dn-1,nは、Sn-1相の計測を開始してからSn相の計測を開始するまでにPWMタイマのタイマ値が進む時間を考慮したものであり、予めプログラムの実行時間を解析し或いは実験的に求めた値が設定される。こうしてS0~SN-1相のPMWタイマの計測を開始すると、次に、S0~SN-1相のPMWタイマ周期設定値を全相で周期Tに再設定する(ステップS110)。これにより、Sn相のPMWタイマは、2周期目以降から同一の周期TかつSn-1相とSn相との間で位相差(T/N)をもって計測されることになる。例えば、N=4の場合、S0,S1,S2,S3相の各相のPWMタイマは、図5から導き出せるように、初期周期T1は、次式(2)で示され、初期周期T2は、次式(3)で示され、初期周期T3は、次式(4)で示される。したがって、S0,S1,S2,S3相の2周期目にPWMタイマ周期を全相で周期Tに再設定することで、図5に示すように、各相のPWMタイマを同一の周期Tかつ位相差(T/4)を有するように計測させることができる。
【0018】
Tn=Tn-1+(T/N)-dn-1,n …(1)
T1=T0+(T/4)-d0,1 …(2)
T2=T1+(T/4)-d1,2 …(3)
T3=T2+(T/4)-d2,3 …(4)
【0019】
続いて、S0~SN-1相の昇圧動作を行なう(ステップS120)。昇圧動作は、平滑コンデンサ16の目標電圧に応じたデューティ設定値を設定して、各相の駆動信号生成部54に出力することにより行なわれる。そして、所定の判定条件が成立したか否かを判定する(ステップS130)。なお、判定条件は、昇圧コンバータ30が起動された直後に成立するものとしたり、前回の判定が実行されてからの経過時間が所定時間に達したときに成立するものとしたり、PWMタイマ周期設定値が変更されたときに成立するものとしたりすることができる。判定条件が成立したと判定すると、S0~SN-1相の位相差が適正か否かを判定するための位相差ずれ判定処理を実行する(ステップS140)。
【0020】
図6は、位相差ずれ判定処理の一例を示すフローチャートである。位相差ずれ判定処理は、まず、変数iを値0に初期化する(ステップS200)。続いて、S0,S1,…,SN-1相のうちSi相を基準相とすると共に当該基準相に対して比較する比較相をSi+1相とし、Si相,Si+1相,Si相の順にPWMタイマのタイマ値Qi,0,Qi+1,0,Qi、1をPWMタイマ生成部52から取得する(ステップS210)。そして、取得したタイマ値Qi,0,Qi+1,0,Qi、1を換算係数αを用いて次式(5)~(7)により時間換算する(ステップS220)。ここで、換算係数αは、図7の一点鎖線で囲まれた部分拡大図に示すように、PWMタイマが値1だけカウントするのに要する時間、すなわちタイマの分解能である。
【0021】
ti,0=Qi,0・α …(5)
ti+1,0=Qi+1,0・α …(6)
ti,1=Qi,1・α …(7)
【0022】
次に、基準相(Si相)と比較相(Si+1相)とにおいてそれぞれ取得したタイマ値ti,0,ti+1,0,ti、1に基づいて基準相(Si相)と比較相(Si+1相)との間の実際の位相差δi,i+1の取りうる下限値δi,i+1_minと上限値δi,i+1_maxとを次式(8),(9)により設定する(ステップS230)。位相差δi,i+1の計算式は、タイマ値ti,0,ti+1,0,ti、1のそれぞれの大小関係によって図8に示す3つのパターンが存在する。すなわち、図8(a)に示すように、ti,0≧ti+1,0かつti,0≦ti,1のとき、ti,0≦δi,i+1+ti+1,0≦ti,1が成立するから、位相差δi,i+1は、次式(10)で示される。また、図8(b)に示すように、ti,0≧ti+1,0かつti,0≧ti,1のとき、ti,0≦δi,i+1+ti+1,0≦T+ti,1が成立するから、位相差δi,i+1は、次式(11)で示される。さらに、図8(c)に示すように、ti,0≦ti+1,0かつti,0≦ti,1のとき、T+ti,0≦δi,i+1+ti+1,0≦T+ti,1が成立するから、位相差δi,i+1は、次式(12)で示される。タイマ値ti,0,ti+1,0,ti、1が周期Tで循環することを考えると、任意のt(0≦t≦T)は、次式(13)により示される。但し、mod(a,b)は、a/bの剰余である。また、式(13)により式(14)も成立する。式(13)より、式(10),(11)中の「ti,0-ti+1,0」は、「mod((T+ti,0-ti+1,0),T)」に置き換えることができ、式(12)中の「T+ti,0-ti+1,0」は、「mod((2・T+ti,0-ti+1,0),T)」に置き換えることができる。また、同様に、式(10)中の「ti,1-ti+1,0」は、「mod((T+ti,1-ti+1,0),T)」に置き換えることができ、式(11),(12)中の「T+ti,1-ti+1,0」は、「mod((2・T+ti,1-ti+1,0),T)」に置き換えることができる。式(14)より、mod((T+ti,0-ti+1,0),T)=mod((2・T+ti,0-ti+1,0),T)が成立し、mod((T+ti,1-ti+1,0),T)=mod((2・T+ti,1-ti+1,0),T)が成立するから、式(10)~(12)は、次式(15)にまとめることができ、式(8),(9)が求まる。
【0023】
δi,i+1_min=mod((T+ti,0-ti+1,0),T) …(8)
δi,i+1_max=mod((T+ti,1-ti+1,0),T) …(9)
ti,0-ti+1,0≦δi,i+1≦ti,1-ti+1,0 …(10)
ti,0-ti+1,0≦δi,i+1≦T+ti,1-ti+1,0 …(11)
T+ti,0-ti+1,0≦δi,i+1≦T+ti,1-ti+1,0 …(12)
t=mod(T+t,T) …(13)
mod(T+t,T)=mod(2・T+t,T) …(14)
mod((T+ti,0-ti+1,0),T)≦δi,i+1≦mod((T+ti,1-ti+1,0),T) …(15)
【0024】
こうして実際の位相差δi,i+1の取りうる下限値δi,i+1_minと上限値δi,i+1_maxとを設定すると、位相差δi,i+1の適正値T/Nが下限値δi,i+1_minと上限値δi,i+1_maxとにより定まる実位相差範囲内にあるか否かを判定する(ステップS240)。適正値T/Nが実位相差範囲内にあると判定すると(図9(a)参照)、Si相とSi+1相との間に適正値T/Nに対する位相差ずれが生じていないと判定し(ステップS250)、変数iが値N-1以上であるか否かを判定する(ステップS280)。変数iが値N-1未満であると判定すると、変数iを値1だけインクリメントすることにより、基準相であるSi相と比較相であるSi+1相とをそれぞれ更新し、ステップS210に戻って処理を繰り返す。ステップS240において、適正値T/Nが実位相差範囲内にないと判定すると(図9(b)参照)、Si相とSi+1相との間に適正値T/Nに対する位相差ずれが生じていると判定し(ステップS260)、Si相(基準相)に対してSi+1相(比較相)の位相を調整するための位相調整値γi+1を設定する(ステップS270)。位相調整値γi+1は、本実施例では、図9(b)に示すように、下限値δi,i+1_minと上限値δi,i+1_maxとの中央値(δi,i+1_min+δi,i+1_max)/2と適正値T/Nとの差分により算出するものとした。
【0025】
図4の制御ルーチンに戻って、位相差ずれ判定処理の結果、位相差ずれが生じていないと判定すると、ステップS120に戻って、昇圧制御を行なう。一方、位相差ずれ判定処理の結果、位相差ずれが生じていると判定すると、Si相に対して位相差ずれが生じているSi+1相の位相を補正する位相補正処理を行なって(ステップS170)、ステップS120に戻る。位相補正処理は、図10に示すように、Si+1相に対して周期Tに位相調整値γi+1を加えたPWMタイマ周期を1周期分挿入することにより行なわれる。
【0026】
以上説明した本実施例の電圧変換装置20では、N個の昇圧相S0,S1,…,SN-1のうちSi相(i=0,1,…,N-2)を基準相とすると共にSi+1相を比較相として、現在のPWMタイマのタイマ値をSi相,Si+1相,Si相の順に取得し、取得したPWMタイマのタイマ値ti,0,ti+1,0,ti、1からSi相とSi+1相との間の実際の位相差δi,i+1のとり得る範囲(実位相差範囲)を設定し、設定した範囲内に適正値T/Nが含まれるか否かにより基準相と比較相とのPWMタイマの位相差が正常であるか否かを判定する。これにより、専用の回路用いることなく、簡易な処理によって各昇圧相のPWMタイマの位相差が適正であるか否かを判定することができる。また、PMWタイマの位相差δi,i+1が適正でないときには、比較相であるSi+1相の位相を調整することにより、Si相とSi+1相との間のPWMタイマの位相差を適正値T/Nに修正することができる。
【0027】
なお、本実施例では、PWMタイマのタイマ値ti,0,ti+1,0,ti、1からSi相とSi+1相との間の実際の位相差δi,i+1のとり得る下限値δi,i+1_minと上限値δi,i+1_maxとを設定し、位相差δi,i+1の適正値T/Nが下限値δi,i+1_minと上限値δi,i+1_maxとにより定まる範囲内にあるか否かにより位相差ずれが生じているか否かを判定するものとした。しかし、図11に示すように、PWMタイマの分解能に対してタイマ値ti,0,ti+1,0,ti、1の取得間隔が十分に小さく、Si相の1回目と2回目とにそれぞれ取得されるタイマ値ti,0,ti、1が同値である場合、式(15)は、次式(16)で示される。したがって、位相差ずれ判定処理では、式(16)により求まる位相差δi,i+1が適正値T/Nと一致する場合に、Si相とSi+1との間に位相差ずれが生じていないと判定することができ、位相差δi,i+1が適正値T/Nと一致しない場合に、位相差ずれが生じていると判定することができる。
【0028】
δi,i+1=mod((T+ti,0-ti+1,0),T) …(16)
【0029】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、昇圧コンバータ30が「電圧変換部」に相当し、昇圧相31a~31dが「駆動相」に相当し、制御部40が「制御部」に相当する。
【0030】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0031】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、電圧変換装置の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
12 直流電源、14 低電圧系電力ライン、16 平滑コンデンサ、18 高電圧系電力ライン、20 電圧変換装置、30 昇圧コンバータ、31a~31d 昇圧相、32 リアクトル、33 スイッチング素子、34 ダイオード、35 駆動回路、40 制御部、41 CPU、42 発振回路、43 メインクロック発振器、44 分周器、50,51a~51d 駆動信号出力部、52 PWMタイマ生成部、54 駆動信号生成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11