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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】R‐T‐B系永久磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20221220BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20221220BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221220BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20221220BHJP
   B22F 1/00 20220101ALN20221220BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20221220BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
C22C33/02 J
C22C33/02 K
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019050064
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020155476
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 光
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-15169(JP,A)
【文献】特開2015-119132(JP,A)
【文献】特開2016-17203(JP,A)
【文献】特開2014-132628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
C22C 38/00
C22C 33/02
B22F 1/00
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素R、遷移金属元素T、B、及びGaを含有するR‐T‐B系永久磁石であって、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、
前記R‐T‐B系永久磁石は、Nd、T及びBを含む複数の主相粒子と、複数の前記主相粒子に囲まれた粒界と、を備え、
少なくとも一部の前記粒界は、第一Tリッチ相を含み、
少なくとも一部の前記粒界は、第二Tリッチ相を含み、
少なくとも一部の前記粒界は、Tプア相を含み、
前記第一Tリッチ相は、Ndと、Gaと、Fe及びCoのうち少なくとも一種と、を含み、且つ下記式1を満たす相であり、
前記第二Tリッチ相は、Ndと、Gaと、Fe及びCoのうち少なくとも一種と、を含み、且つ下記式2を満たす相であり、
前記Tプア相は、Ndを含み、且つ下記式3を満たす相であり、
前記第一Tリッチ相、前記第二Tリッチ相及び前記Tプア相は、下記式4を満たし、
前記第一Tリッチ相及び前記第二Tリッチ相は、下記式5を満たす、
R‐T‐B系永久磁石。
1.7≦[T]/[R]≦3.0 (1)
0.8≦[T]/[R]≦1.5 (2)
0.0≦[T]/[R]≦0.6 (3)
[前記式1中の[T]は、前記第一Tリッチ相におけるFe及びCoの濃度の合計であり、前記式1中の[R]は、前記第一Tリッチ相におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計であり、前記式2中の[T]は、前記第二Tリッチ相におけるFe及びCoの濃度の合計であり、前記式2中の[R]は、前記第二Tリッチ相におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計であり、前記式3中の[T]は、前記Tプア相におけるFe及びCoの濃度の合計であり、前記式3中の[R]は、前記Tプア相におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計であり、前記式1、前記式2及び前記式3中の[T]及び[R]其々の単位は、原子%である。]
0.30≦(S1+S2)/(S1+S2+S3)≦0.80 (4)
0.20≦S2/(S1+S2)≦0.80 (5)
[前記式4及び前記式5中のS1は、前記R‐T‐B系永久磁石の断面に露出する前記第一Tリッチ相の面積の合計であり、前記式4及び前記式5中のS2は、前記R‐T‐B系永久磁石の前記断面に露出する前記第二Tリッチ相の面積の合計であり、前記式4中のS3は、前記R‐T‐B系永久磁石の前記断面に露出する前記Tプア相の面積の合計である。]
【請求項2】
前記R‐T‐B系永久磁石は、前記粒界として、三つ以上の前記主相粒子に囲まれた粒界多重点を備え、
前記第二Tリッチ相及び前記Tプア相の両方が、一つの前記粒界多重点内に存在する、
請求項1に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項3】
29.50~33.00質量%のR、
0.70~0.95質量%のB、
0.03~0.60質量%のAl、
0.01~1.50質量%のCu、
0.00~3.00質量%のCo、
0.10~1.00質量%のGa、
0.05~0.30質量%のC、
0.03~0.40質量%のO、及び
残部からなり、
前記残部が、Feのみ、又はFe及びその他の元素である、
請求項1又は2に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項4】
重希土類元素の含有量の合計が、0.00質量%以上1.00質量%以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。
【請求項5】
前記Tプア相が、Cu及びGaのうち少なくとも一種を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のR‐T‐B系永久磁石。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも希土類元素R、遷移金属元素T及びホウ素Bを含むR‐T‐B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
R‐T‐B系永久磁石は、優れた磁気特性を有することから、ハイブリッド車、電気自動車、電子機器又は家電製品等に搭載されるモータ又はアクチュエーター等に使用されている。モータ等に使用されるR‐T‐B系永久磁石には、高温の環境下においても高い保磁力を有することが要求される。
【0003】
R‐T‐B系永久磁石の高温での保磁力(HcJ)を向上させる手法として、R14B相を構成する軽希土類元素(Nd又はPr)の一部を、Dy又はTb等の重希土類元素で置換して、R14B相の磁気異方性を向上させることが知られている。近年では、多量の重希土類元素を要する高保磁力型のR‐T‐B系永久磁石の需要が急速に拡大しつつある。
【0004】
しかしながら、重希土類元素は、資源として特定の国に偏在しており、その産出量が限られている。したがって、重希土類元素は、軽希土類元素と比較して高価であり、その供給量は安定しない。そのため、重希土類元素の含有量が少ない場合であっても、高温において高い保磁力を有するR‐T‐B系永久磁石が求められている。
【0005】
例えば下記特許文献1には、重希土類元素を使用せずに高い保磁力を有する永久磁石の一例が開示されている。特許文献1に記載の永久磁石は主相及び粒界相を備え、粒界相は、希土類元素の合計原子濃度が70原子%以上であるRリッチ相と、希土類元素の合計原子濃度が25~35原子%である強磁性の遷移金属リッチ相と、を含む。この粒界相中の遷移金属リッチ相の面積率は、40%以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014‐132628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、R‐T‐B系永久磁石における重希土類元素の含有量が少ない場合に、車載用駆動モータ等が曝される高温環境下において十分に高い保磁力を達成することは困難であった。
【0008】
本発明は、R‐T‐B系永久磁石における重希土類元素の含有量が少ない場合であっても、高温において高い保磁力を有するR‐T‐B系永久磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係るR‐T‐B系永久磁石は、希土類元素R、遷移金属元素T、B、及びGaを含有するR‐T‐B系永久磁石であって、R‐T‐B系永久磁石は、Rとして、少なくともNdを含有し、R‐T‐B系永久磁石は、Tとして、少なくともFeを含有し、R‐T‐B系永久磁石は、Nd、T及びBを含む複数の主相粒子と、複数の主相粒子に囲まれた粒界と、を備え、少なくとも一部の粒界は、第一Tリッチ(T rich)相を含み、少なくとも一部の粒界は、第二Tリッチ相を含み、少なくとも一部の粒界は、Tプア(T pооr)相を含み、第一Tリッチ相は、Ndと、Gaと、Fe及びCoのうち少なくとも一種と、を含み、且つ下記式1を満たす相であり、第二Tリッチ相は、Ndと、Gaと、Fe及びCoのうち少なくとも一種と、を含み、且つ下記式2を満たす相であり、Tプア相は、Ndを含み、且つ下記式3を満たす相であり、第一Tリッチ相、第二Tリッチ相及びTプア相は、下記式4を満たし、第一Tリッチ相及び第二Tリッチ相は、下記式5を満たす。
1.7≦[T]/[R]≦3.0 (1)
0.8≦[T]/[R]≦1.5 (2)
0.0≦[T]/[R]≦0.6 (3)
[式1中の[T]は、第一Tリッチ相におけるFe及びCoの濃度の合計であり、式1中の[R]は、第一Tリッチ相におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計であり、式2中の[T]は、第二Tリッチ相におけるFe及びCoの濃度の合計であり、式2中の[R]は、第二Tリッチ相におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計であり、式3中の[T]は、Tプア相におけるFe及びCoの濃度の合計であり、式3中の[R]は、Tプア相におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計であり、式1、式2及び式3中の[T]及び[R]其々の単位は、原子%である。]
0.30≦(S1+S2)/(S1+S2+S3)≦0.80 (4)
0.20≦S2/(S1+S2)≦0.80 (5)
[式4及び式5中のS1は、R‐T‐B系永久磁石の断面に露出する第一Tリッチ相の面積の合計であり、式4及び式5中のS2は、R‐T‐B系永久磁石の断面に露出する第二Tリッチ相の面積の合計であり、式4中のS3は、R‐T‐B系永久磁石の断面に露出するTプア相の面積の合計である。]
【0010】
R‐T‐B系永久磁石は、粒界として、三つ以上の主相粒子に囲まれた粒界多重点を備えてよく、第二Tリッチ相及びTプア相の両方が、一つの粒界多重点内に存在してよい。
【0011】
R‐T‐B系永久磁石は、29.50~33.00質量%のR、0.70~0.95質量%のB、0.03~0.60質量%のAl、0.01~1.50質量%のCu、0.00~3.00質量%のCo、0.10~1.00質量%のGa、0.05~0.30質量%のC、0.03~0.40質量%のO、及び残部からなっていてよく、残部が、Feのみ、又はFe及びその他の元素であってよい。
【0012】
R‐T‐B系永久磁石における重希土類元素の含有量の合計は、0.00質量%以上1.00質量%以下であってよい。
【0013】
Tプア相が、Cu及びGaのうち少なくとも一種を含んでよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、R‐T‐B系永久磁石における重希土類元素の含有量が少ない場合であっても、高温において高い保磁力を有するR‐T‐B系永久磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係るR‐T‐B系永久磁石の模式的な斜視図であり、図1中の(b)は、図1中の(a)に示されるR‐T‐B系永久磁石の断面の模式図(b‐b線方向の矢視図)である。
図2図2は、図1中の(b)に示されるR‐T‐B系永久磁石の断面の一部(領域II)の模式的な拡大図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係るR‐T‐B系永久磁石の製造方法が備える焼結工程及び時効(aging)処理工程を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施例3のR‐T‐B系永久磁石の断面の一部であり、走査型電子顕微鏡で撮影された画像である。
図5図5中の(a)は、図4に示さる断面に露出する第一Tリッチ相及び第二Tリッチ相を示す画像であり、図5中の(b)は、図4に示さる断面に露出する第二Tリッチ相を示す画像であり、図5中の(c)は、図4に示さる断面に露出する第一Tリッチ相を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。図面において、同等の構成要素には同等の符号を付す。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「永久磁石」はいずれも、「R‐T‐B系永久磁石」を意味する。以下に記載の「濃度」(単位:原子%)は、「含有量」と言い換えられてよい。
【0017】
(永久磁石)
本実施形態に係る永久磁石は、少なくとも希土類元素(R)、遷移金属元素(T)、ホウ素(B)、及びガリウム(Ga)を含有する。
【0018】
永久磁石は、希土類元素Rとして、少なくともネオジム(Nd)を含有する。永久磁石は、Ndに加えて、さらに他の希土類元素Rを含んでもよい。他の希土類元素Rは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0019】
永久磁石は、遷移金属元素Tとして、少なくとも鉄(Fe)を含有する。永久磁石は、遷移金属元素Tとして、Fe及びコバルト(Co)の両方を含有してもよい。
【0020】
図1中の(a)は、本実施形態に係る直方体状の永久磁石2の模式的な斜視図であり、図1中の(b)は、永久磁石2の断面2csの模式図であり、図2は、永久磁石2の断面2csの一部(領域II)の拡大図である。永久磁石2の形状は、直方体に限定されない。例えば、永久磁石2の形状は、例えば、立方体、矩形(板)、多角柱、アークセグメント、扇、環状扇形(annular sector)状、球、円板、円柱、筒、リング、又はカプセルであってよい。永久磁石2の断面の形状は、例えば、多角形、円弧(円弦)、弓形、アーチ形、C字形、又は円であってよい。
【0021】
図2に示されるように、永久磁石2は、複数(多数)の主相粒子4を備える。主相粒子4は、少なくともNd、T及びBを含む。主相粒子4は、R14Bの結晶を含んでよい。R14Bの結晶は、単結晶又は多結晶であってよい。主相粒子4は、R14Bの結晶のみからなっていてよい。R14Bは、例えば、(Nd1-xPr(Fe1-yCo14Bと表されてよく、xは0以上1未満であってよく、yは0以上1未満であってよい。主相粒子4は、Nd、T及びBに加えて他の元素を含んでもよい。主相粒子4内の組成は均一であってよい。主相粒子4内の組成は不均一であってもよい。例えば、主相粒子4におけるNd、T及びBそれぞれの濃度分布が勾配を有していてもよい。
【0022】
永久磁石2は、複数の主相粒子4に囲まれた粒界を備える。永久磁石2は、複数(多数)の粒界を備えてよい。永久磁石2は、粒界として、粒界多重点6を備えてよい。粒界多重点6は、三つ以上の主相粒子4に囲まれた粒界である。永久磁石2は、複数(多数)の粒界多重点6を備えてよい。永久磁石2は、粒界として、二粒子粒界10を備えてよい。二粒子粒界10は、隣り合う二つの主相粒子4の間に位置する粒界である。永久磁石2は、複数(多数)の二粒子粒界10を備えてよい。
【0023】
以下の通り、粒界相の種類としては、第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3及びTプア相5が存在する。
【0024】
少なくとも一部の粒界は、第一Tリッチ相1を含む。粒界多重点6が第一Tリッチ相1を含んでよい。二粒子粒界10が第一Tリッチ相1を含んでもよい。第一Tリッチ相1は、Ndと、Gaと、Fe及びCoのうち少なくとも一種と、を含み、且つ下記の式1又は式1aを満たす相である。式1及び式1a中の[T]は、第一Tリッチ相1におけるFe及びCoの濃度の合計である。式1及び式1a中の[R]は、第一Tリッチ相1におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計である。式1及び式1a中の[T]及び[R]其々の単位は、原子%である。第一Tリッチ相1は、Tとして、Fe及びCoのうち一種のみを含んでよい。第一Tリッチ相1は、Tとして、Fe及びCoの両方を含んでもよい。第一Tリッチ相1は、Rとして、Ndのみを含んでよい。第一Tリッチ相1は、Rとして、Ndに加えて、Pr、Tb及びDyからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。第一Tリッチ相1は、R13Gaを含む相であってよい。第一Tリッチ相1は、R13Gaのみからなる相であってもよい。R13Gaは、例えば、NdFe13Gaであってよい。
1.7≦[T]/[R]≦3.0 (1)
1.7≦[T]/[R]≦2.4 (1a)
【0025】
少なくとも一部の粒界は、第二Tリッチ相3を含む。粒界多重点6が第二Tリッチ相3を含んでよい。第二Tリッチ相3は二粒子粒界10に形成され難い傾向があるが、一部の二粒子粒界10が第二Tリッチ相3を含んでもよい。第二Tリッチ相3は、Ndと、Gaと、Fe及びCoのうち少なくとも一種と、を含み、且つ下記の式2又は式2aを満たす相である。式2及び式2a中の[T]は、第二Tリッチ相3におけるFe及びCoの濃度の合計である。式2及び式2a中の[R]は、第二Tリッチ相3におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計である。式2及び式2a中の[T]及び[R]其々の単位は、原子%である。第二Tリッチ相3は、Tとして、Fe及びCoのうち一種のみを含んでよい。第二Tリッチ相3は、Tとして、Fe及びCoの両方を含んでもよい。第二Tリッチ相3は、Rとして、Ndのみを含んでよい。第二Tリッチ相3は、Rとして、Ndに加えて、Pr、Tb及びDyからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。
0.8≦[T]/[R]≦1.5 (2)
0.9≦[T]/[R]≦1.4 (2a)
【0026】
少なくとも一部の粒界は、Tプア相5を含む。粒界多重点6がTプア相5を含んでよく、二粒子粒界10がTプア相5を含んでもよい。Tプア相5は、Ndを含み、且つ下記式3又は式3aを満たす相である。式3及び式3a中の[T]は、Tプア相5におけるFe及びCoの濃度の合計である。式3及び式3a中の[R]は、Tプア相5におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計である。式3及び式3a中の[T]及び[R]其々の単位は、原子%である。Tプア相5は、Tとして、Fe及びCoのいずれも含まなくてよい。Tプア相5は、Tとして、Fe及びCoのうち一種のみを含んでもよい。Tプア相5は、Tとして、Fe及びCoの両方を含んでもよい。Tプア相5は、Rとして、Ndのみを含んでよい。Tプア相5は、Rとして、Ndに加えて、Pr、Tb及びDyからなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。Tプア相5は、Gaを含まなくてよい。Tプア相5は、Gaを含んでもよい。Tプア相5は、Oを含んでよい。Tプア相5は、Oを含まなくてもよい。Tプア相5は、式3又は式3aを満たし、且つ下記式4を満たす相であってよい。式4中の[O]は、Tプア相5におけるOの濃度であり、式4中の[R]は、Tプア相5におけるNd、Pr、Tb及びDyの濃度の合計であり、式4中の[O]及び[R]其々の単位は、原子%である。
0.0≦[T]/[R]≦0.6 (3)
0.2≦[T]/[R]≦0.4 (3a)
0.0≦[O]/[R]<0.35 (4)
【0027】
第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3及びTプア相5は、組成の違いに基づいて客観的且つ明確に識別される全く異なる相である。図4に示されるように、第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3及びTプア相5は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された永久磁石の断面の画像における明暗の差に基づいて識別される。図4中の黒い部分は、主相粒子の断面である。
【0028】
永久磁石2が粒界相として第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3を含むことにより、永久磁石2は室温及び高温において高い保磁力を有することができる。室温とは、例えば、0℃以上40℃以下であってよい。高温とは、例えば、100℃以上200℃以下であってよい。第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3の含有によって保磁力が増加する理由は、以下の通りである。ただし、保磁力が増加する理由は、以下のメカニズムに限定されない。
【0029】
永久磁石2の製造過程(焼結工程及び時効処理工程)において、第一Tリッチ相1が形成される。第一Tリッチ相1は、他の粒界相に比べて多量のT(例えばFe)を含むにもかかわらず、第一Tリッチ相1の磁化は、従来の粒界相に比べて低い。第一Tリッチ相1に接する粒界相中のTは、第一Tリッチ相1の形成のために消費される。つまり、第一Tリッチ相1の形成に伴って、Tプア相5におけるTの濃度が減少する。その結果、Tプア相5の磁化も減少する。磁化が低い第一Tリッチ相1及びTプア相5が、隣り合う二つ以上の主相粒子4(R14Bの結晶粒)の間に存在することにより、主相粒子4同士の磁気的な結合が分断される。つまり、隣り合う二つ以上のR14Bの結晶粒が、磁化の低い粒界を介して、互いに分離される。以上の理由により、永久磁石2が第一Tリッチ相1を含有することにより、室温及び高温での永久磁石2の保磁力が向上する。
【0030】
第二Tリッチ相3は、焼結工程に続く時効処理工程が終了した後、焼結体の冷却に伴って粒界中に析出する、と推測される。第二Tリッチ相3が析出する際に、第二Tリッチ相3はその周囲のTプア相5からFeを奪う。つまり、第二Tリッチ相3の析出に伴って、Tプア相5におけるFeの濃度がさらに低下する。その結果、Tプア相5の磁化は、第二Tリッチ相3が析出する前のTプア相に比べてさらに低下する。したがって、第二Tリッチ相3が形成されることにより、主相粒子4の間に位置するTプア相5の磁化がさらに低下する。その結果、主相粒子4同士の磁気的な結合が分断される。つまり、隣り合う二つ以上のR14Bの結晶粒が、磁化が低いTプア相5を介して、互いに分離される。以上の理由から、永久磁石2が第二Tリッチ相3及びTプア相5を含有することにより、室温及び高温での永久磁石2の保磁力が向上する。
【0031】
上記の通り、Tプア相5は第二Tリッチ相3の周囲に形成され易いので、第二Tリッチ相3及びTプア相5の両方が、一つの粒界多重点6内に存在し易い。第二Tリッチ相3及びTプア相5の両方が、一つの粒界多重点6内に存在することにより、室温及び高温での永久磁石2の保磁力が向上し易い。同様の理由から、第二Tリッチ相3及びTプア相5のみが、一つの粒界多重点6内に存在してよい。つまり、一つの粒界多重点6が、第二Tリッチ相3及びTプア相5のみからなっていてよい。
【0032】
第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3、及びTプア相5が、一つの粒界多重点6内に存在してよい。一つの粒界多重点6が、第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3、及びTプア相5のみからなっていてもよい。第一Tリッチ相1及びTプア相5の両方が、一つの粒界多重点6内に存在してよい。一つの粒界多重点6が、第一Tリッチ相1及びTプア相5のみからなっていてもよい。第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3、及びTプア相5のうち第一Tリッチ相1のみが、一つの粒界多重点6内に存在してよい。一つの粒界多重点6が、第一Tリッチ相1のみからなっていてもよい。第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3、及びTプア相5のうちTプア相5のみが、一つの粒界多重点6内に存在してよい。一つの粒界多重点6が、Tプア相5のみからなっていてもよい。永久磁石2がこれらの粒界多重点6を含むことにより、室温及び高温での永久磁石2の保磁力が向上し易い。粒界は、第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3、及びTプア相5とは異なる他の相を含んでよい。他の相は、例えばZr又はTiの炭化物、もしくはZr又はTiのホウ化物であってよい。
【0033】
少なくとも一部のTプア相5は、銅(Cu)及びGaのうち少なくとも一種を含んでよい。Tプア相5が、Cu及びGaのうち少なくとも一種を含む場合、室温及び高温での永久磁石2の保磁力が向上し易い。例えば、永久磁石2がCuを含む場合、Tプア相5もCuを含み易い。焼結体の冷却過程で、初期粒界相中の一部のGaが、第二Tリッチ相3の析出のために消費されることなく残存した場合、Tプア相5はGaを含み易い。
【0034】
第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3及びTプア相5は、下記の式4又は式4aを満たし、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3は、下記の式5又は式5aを満たす。式4、式4a、式5及び式5a中のS1は、永久磁石2の断面2csに露出する第一Tリッチ相1の面積の合計である。式4、式4a、式5及び式5a中のS2は、永久磁石2の断面2csに露出する第二Tリッチ相3の面積の合計である。式4及び式4a中のS3は、永久磁石2の断面2csに露出するTプア相5の面積の合計である。
0.30≦(S1+S2)/(S1+S2+S3)≦0.80 (4)
0.35≦(S1+S2)/(S1+S2+S3)≦0.77 (4a)
0.20≦S2/(S1+S2)≦0.80 (5)
0.25≦S2/(S1+S2)≦0.77 (5a)
【0035】
(S1+S2)/(S1+S2+S3)が0.30以上であることにより、高温での永久磁石2の保磁力が高い。(S1+S2)/(S1+S2+S3)が0.80以下であることにより、永久磁石2は、高い残留磁束密度と、高温での高い保磁力を有することができる。S2/(S1+S2)が0.20以上であることにより、高温での永久磁石2の保磁力が高い。S2/(S1+S2)が0.20未満である場合、第一Tリッチ相1が相対的に多過ぎるため、高温での保磁力が低い。第一Tリッチ相1が相対的に多過ぎる場合、残留磁束密度も低い傾向がある。主相粒子4(R14Bの結晶粒)中のTが、第一Tリッチ相1の形成のために消費され過ぎて、主相粒子4の体積比率が減少するからである。S2/(S1+S2)が0.80以下であることにより、高温での永久磁石2の保磁力が高い。S2/(S1+S2)が0.80よりも大きい場合、第一Tリッチ相1が相対的に少な過ぎるため、室温及び高温での永久磁石2の保磁力が低い。第一Tリッチ相1からなる厚い二粒子粒界10が少なく、隣接する主相粒子4が二粒子粒界10によって十分に磁気的に分離されないからである。S2/(S1+S2)が0.80よりも大きい場合、残留磁束密度も低い。
【0036】
永久磁石2が高い残留磁束密度と高温での高い保磁力を有するメカニズムは、上記のメカニズムに限定されるものではない。
【0037】
S1、S2及びS3の測定のために、永久磁石2の断面2csの画像がSEMによって撮影される。永久磁石2の断面2csの一部の画像は、図4に示される。図4に示されるように、第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3及びTプア相5は、SEMで撮影された反射電子像における明暗の差に基づいて識別される。明るさが同等である部分は、同じ相とみなされる。したがって、永久磁石2の断面2csに露出する粒界相を反射電子像の明るさに基づいて三値化(trinarize)することにより、第一Tリッチ相1、第二Tリッチ相3及びTプア相5其々の面積を測定することができる。主相粒子4及び粒界相も、反射電子像における明暗の差に基づいて識別される。図5中の(b)及び図5中の(c)は、図4に示される粒界相の三値化によって得られた画像である。図5中の(b)における白い領域は、第二Tリッチ相3である。図5中の(c)における白い領域は、第一Tリッチ相1である。図5中の(a)も、図4に示される断面に対応する。図5中の(a)における白い領域は、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3である。粒界相の三値化は、手動で行われてもよい。粒界相の三値化は、画像解析ソフトウェアによって行われてもよい。S1、S2及びS3其々の測定は、画像解析ソフトウェアによって行われてよい。画像解析ソフトとして、例えば、株式会社マウンテック製のMac‐Viewが用いられてよい。S1、S2及びS3は、必ずしも永久磁石2の断面2csの全体において測定されなくてもよい。つまり、永久磁石2の断面2csの任意の一部分において、S1、S2及びS3が測定されてよい。
【0038】
主相粒子4の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上10.0μm以下であってよい。永久磁石2における主相粒子4の体積の割合の合計は、特に限定されないが、例えば、75体積%以上100体積%未満であってよい。
【0039】
上述の技術的特徴を有する永久磁石2は、重希土類元素を含有しない場合であっても、高温において十分に高い保磁力を有することができる。ただし、高温における永久磁石2の保磁力を更に増加させるために、永久磁石2が重希土類元素を含有してもよい。ただし、重希土類元素の含有量が多すぎる場合、残留磁束密度が減少する傾向がある。例えば、永久磁石2における重希土類元素の含有量の合計は、0.00質量%以上1.00質量%以下であってよい。重希土類元素の使用を極力控えることで、重希土類元素を使用することの資源リスクを軽減できる。重希土類元素は、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0040】
上述された主相粒子4及び粒界相其々の組成は、エネルギー分散型X線分光(EDS)器を用いて永久磁石2の断面2csを分析することによって特定されてよい。
【0041】
永久磁石2の全体の具体的な組成は、以下に説明される。ただし、永久磁石2の組成の範囲は以下に限定されるものではない。上述した粒界相の組成及び面積に起因する本発明の効果が得られる限りにおいて、永久磁石2の組成は以下の組成の範囲を外れてもよい。
【0042】
永久磁石におけるRの含有量は、29.50~33.00質量%であってよい。永久磁石がRとして重希土類元素を含む場合、重希土類元素も含む全ての希土類元素の合計の含有量が29.5~33質量%であってよい。Rの含有量がこの範囲であることにより、残留磁束密度及び保磁力が増加する傾向にある。Rの含有量が少なすぎる場合、主相粒子(R14B)が形成され難く、軟磁性を有するα‐Fe相が形成され易い。その結果、保磁力が減少する傾向がある。一方、Rの含有量が多すぎる場合、主相粒子の体積比率が低くなり、残留磁束密度が減少する傾向がある。主相粒子の体積比率が高くなり、残留磁束密度が高まり易いことから、Rの含有量は、30.00~32.50質量%であってもよい。残留磁束密度及び保磁力が増加し易いことから、全希土類元素Rに占めるNd及びPrの割合の合計は、80~100原子%又は95~100原子%であってよい。
【0043】
永久磁石におけるBの含有量は、0.70~0.95質量%であってよい。Bの含有量が、R14Bで表される主相の組成の化学量論比よりも少ないことで、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3が形成され易く、保磁力が向上し易い。Bの含有量が少なすぎる場合、R17相が析出し易く、保磁力が減少する傾向がある。一方、Bの含有量が多すぎる場合、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3が十分に形成され難く、保磁力が減少する傾向がある。残留磁束密度及び保磁力が増加し易いことから、Bの含有量は、0.75~0.90質量%又は0.80~0.88質量%であってもよい。
【0044】
永久磁石は、アルミニウム(Al)を含有してもよい。永久磁石におけるAlの含有量は、0.03~0.60質量%、又は0.03~0.30質量%以下であってよい。Alの含有量が上記範囲であることにより、永久磁石の保磁力及び耐食性が向上し易い。
【0045】
永久磁石におけるCuの含有量は0.01~1.50質量%、又は0.03~1.00質量%、又は0.05~0.50質量%であってよい。Cuの含有量が上記範囲であることにより、永久磁石の保磁力、耐食性及び温度特性が向上し易い。室温及び高温での保磁力が高まり易いことから、Cuの含有量は、0.01~0.50質量%であってもよい。
【0046】
永久磁石におけるCoの含有量は、0.00~3.00質量%であってよい。Coは、Feと同様に、主相粒子(R14Bの結晶粒)を構成する遷移金属元素Tであってよい。永久磁石がCoを含ことにより、永久磁石のキュリー温度が向上し易い、また永久磁石がCoを含ことにより、粒界相の耐食性が向上し易く、永久磁石全体の耐食性が向上し易い。これら効果が得られ易いことから、永久磁石におけるCoの含有量は、0.30~2.50質量%であってもよい。
【0047】
Gaの含有量は、0.10~1.00質量%、又は0.20~0.80質量%であってよい。Gaの含有量が少なすぎる場合、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3が十分に形成されず、保磁力が減少する傾向がある。Gaの含有量が多すぎる場合、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3が過剰に形成され、主相の体積比率が減少し、残留磁束密度が減少する傾向がある。残留磁束密度及び保磁力が増加し易いことから、Gaの含有量は、0.20~0.80質量%であってもよい。
【0048】
永久磁石は、炭素(C)を含有してよい。永久磁石におけるCの含有量は、0.05~0.30質量%、または0.10~0.25質量%であってよい。Cの含有量が少なすぎる場合、R17相が析出し易く、保磁力が減少する傾向がある。Cの含有量が多すぎる場合、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3が十分に形成されず、保磁力が減少する傾向がある。保磁力が向上し易いことから、Cの含有量は0.10~0.25質量%であってよい。
【0049】
永久磁石におけるOの含有量は、0.03~0.40質量%であってよい。Oの含有量が少なすぎる場合、永久磁石の耐食性が低減する傾向がある、Oの含有量が多過ぎる場合、保磁力が減少する傾向がある。耐食性及び保磁力が向上し易いことから、Oの含有量は、0.05~0.30質量%、又は0.05~0.25質量%であってもよい。
【0050】
永久磁石は窒素(N)を含有してもよい。永久磁石におけるNの含有量は、0.00~0.15質量%であってよい。Nの含有量が多すぎる場合、保磁力が減少する傾向にある。
【0051】
永久磁石から上述の元素を除いた残部は、Feのみ、又はFe及びその他の元素であってよい。永久磁石が十分な磁気特性を有するためには、残部のうち、Fe以外の元素の含有量の合計は、永久磁石の全質量に対して5質量%以下であってよい。
【0052】
永久磁石はジルコニウム(Zr)を含有してよい。永久磁石におけるZrの含有量は、0.00~1.50質量%、又は0.03~0.80質量%、又は0.10~0.60質量%であってよい。Zrは、永久磁石の製造過程(焼結工程)で、主相粒子(結晶粒)の異常粒成長を抑制し、永久磁石の組織を均一且つ微細にして、永久磁石の磁気特性を向上させる。
【0053】
永久磁石は、チタン(Ti)を含有してよい。永久磁石におけるTiの含有量は、0.00~1.50質量%、又は0.03~0.80質量%、又は0.10~0.60質量%であってよい。Tiは、永久磁石の製造過程(焼結工程)で、主相粒子(結晶粒)の異常粒成長を抑制し、永久磁石の組織を均一且つ微細にして、永久磁石の磁気特性を向上させる。
【0054】
永久磁石は、不可避不純物として、マンガン(Mn)、カルシウム(Ca)、ニッケル(Ni)、ケイ素(Si)、塩素(Cl)、硫黄(S)及びフッ素(F)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。永久磁石における不可避不純物の含有量の合計は、0.001~0.50質量%であってよい。
【0055】
以上の永久磁石全体の組成は、例えば、蛍光X線(XRF)分析法、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法、及び不活性ガス融解‐非分散型赤外線吸収(NDIR)法によって特定されてよい。
【0056】
本実施形態に係る永久磁石は、モータ又はアクチュエーター等に適用されてよい。例えば、永久磁石は、ハイブリッド自動車、電気自動車、ハードディスクドライブ、磁気共鳴画像装置(MRI)、スマートフォン、デジタルカメラ、薄型TV、スキャナー、エアコン、ヒートポンプ、冷蔵庫、掃除機、洗濯乾燥機、エレベーター及び風力発電機等の様々な分野で利用される。
【0057】
(永久磁石の製造方法)
以下では、上述の永久磁石の製造方法が説明される。
【0058】
上述の永久磁石を構成する各元素を含む金属(原料金属)から、原料合金を作製する。原料合金は、ストリップキャスティング法によって作製されてよい。原料金属は、例えば、希土類元素の単体(金属単体)、希土類元素を含む合金、純鉄、フェロボロン、又はこれらを含む合金であってよい。これらの原料金属を、所望の永久磁石の組成に一致するように秤量する。
【0059】
原料合金として、主相合金及び粒界相合金が用いられてよい。つまり、二合金法によって永久磁石が製造されてよい。永久磁石に含まれる主相粒子は、主相合金の粉末に由来する。永久磁石に含まれる粒界は、粒界相合金の粉末に由来する。ただし、永久磁石に含まれる主相粒子の組成は、主相合金の組成と必ずしも一致せず、永久磁石に含まれる粒界相の組成は、粒界相合金の組成と必ずしも一致しない。後述される焼結工程及び時効処理工程において、主相合金及び粒界相合金其々の組成が変化し得るからである。
【0060】
以下の理由により、粒界相合金はBを含んでよい。
【0061】
永久磁石の製造過程では、主相合金及び粒界相合金其々の粉末から形成された成形体が焼結される。本実施形態に係る永久磁石を得るためには、成形体が低温で長時間にわたって焼結されることが好ましい。低温とは、960℃以上990℃以下である。長時間とは、72時間以上200時間以下である。粒界相合金がBを含む場合、低温において主相合金と粒界相合金との間での元素の移動又は交換が進行し易く、低温において各合金の溶解、R14B及び粒界相の析出が促進される。したがって、粒界相合金がBを含む場合、成形体の焼結温度が低温であっても、緻密な焼結体が形成され易い。粒界相合金がBを含む場合、主相合金中のBの含有量は、従来の主相合金におけるBの含有量よりも少なくてよい。粒界相合金がBを含む場合、粒界相合金は、Zr及びTiを含まなくてよい。粒界相合金がB、Zr及びTiを含む場合、粒界相合金中のBがZr及びTiと結合し易いため、R14Bが形成され難く、永久磁石の保磁力及び残留磁束密度が減少し易い。粒界相合金中のBの含有量は、0.1~0.3質量%であってよい。Bの含有量が0.1質量%未満である場合、第二Tリッチ相3が形成され難い。Bの含有量が0.3質量%より多い場合、永久磁石の角形比(Hk/HcJ)が減少し易い。
【0062】
粒界相合金はCoを含んでよい。粒界相合金中のCoの含有量は、10~40質量%であってよい。Coの含有量が10質量%未満である場合、第二Tリッチ相3が形成され難い。Coの含有量が40質量%より多い場合、永久磁石の室温での角形比(Hk/HcJ)が減少し易い。
【0063】
上記の各原料合金を粉砕して、原料合金粉末を準備する。原料合金を、粗粉砕工程及び微粉砕工程の二段階で粉砕してよい。粗粉砕工程では、水素が原料合金へ吸蔵される。水素の吸蔵後、原料合金を加熱により脱水素する。脱水素により、原料合金が粉砕される。主相合金及び粒界相合金其々の粗粉砕工程が個別に実施されてよい。主相合金の脱水素温度は300~400℃であってよい。主相合金の脱水素温度が300℃未満である場合、主相合金中に水素が残存し易く、焼結工程において焼結体中の水素が焼結体の亀裂(クラック)を引き起こし易い。主相合金の脱水素温度が400℃より高い場合、第二Tリッチ相3が形成され難い。粒界相合金の脱水素温度は500~600℃であってよい。粒界相合金の脱水素温度が500℃未満である場合、第二Tリッチ相3が形成され難い。粒界相合金の脱水素温度が600℃より高い場合、粗粉砕工程において粒界相合金の粉末同士が焼結する可能性があり、粒界相合金が十分に粉砕されない。
【0064】
粗粉砕工程においては、原料合金の粒径が数百μm程度となるまで原料合金を粉砕する。粗粉砕工程に続く微粉砕工程では、原料合金を、その平均粒径が3~5μmとなるまで更に粉砕する。微粉砕工程では、例えば、ジェットミルを用いてよい。原料合金を、粗粉砕工程と微粉砕工程の2段階で粉砕しなくてもよい。例えば、微粉砕工程のみを行ってもよい。
【0065】
主相合金の粉末及び粒界相合金の粉末は、所定の比率で混合される。所定の比率とは、主相合金及び粒界相合金の混合物の全体的な組成が、目的とする永久磁石の組成に略一致する比率である。以下に記載の原料合金粉末は、主相合金及び粒界相合金の混合物を意味する。
【0066】
上述の方法で得られた原料合金粉末を磁場中で成形して、成形体を得る。例えば、金型内の原料合金粉末に磁場を印加しながら、原料合金粉末を金型で加圧することにより、成形体を得る。金型が原料合金粉末に及ぼす圧力は、30~300MPaであってよい。原料合金粉末に印加される磁場の強さは、950~1600kA/mであってよい。
【0067】
本実施形態に係る永久磁石が備える特徴的な粒界相は、以下の通り、焼結工程に続く二段階の時効処理工程を経ることによって形成されてよい。焼結工程及び時効処理工程の温度の経時的なプロファイルは、図3に示される。焼結工程及び時効処理工程の詳細は以下の通りである。
【0068】
焼結工程では、上述の成形体を、真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結させて、焼結体を得る。焼結条件は、目的とする永久磁石の組成、原料合金の粉砕方法及び粒度等に応じて、適宜設定されてよい。S2/(S1+S2)が0.20以上0.80以下であるためには、焼結温度Tsは、960~990℃又は960~980であってよい。焼結温度Tsが960℃未満である場合、第二Tリッチ相3が過剰に形成され易く、S2/(S1+S2)が0.80を超え易い。焼結温度Tsが990℃より高い場合、第二Tリッチ相3が形成され難く、S2/(S1+S2)が0.20未満になり易い。960~990℃の範囲内である焼結温度Tsは、従来の焼結温度(例えば1000~1100℃)より低いため、成形体が焼結し難い。したがって、成形体を低い焼結温度Tsで十分に焼結させるために、焼結工程では成形体が長時間加熱される。成形体を低い焼結温度Tsで十分に焼結させるためには、焼結時間は72~200時間であってよい。
【0069】
時効処理工程は、第一時効処理と、第一時効処理に続く第二時効処理とから構成されてよい。二段階の時効処理工程では、焼結体を、真空又は不活性ガス雰囲気中で加熱する。図3に示されるように、第一時効処理では、焼結体を第一温度T1で加熱する。第二時効処理では、焼結体を第二温度T2で加熱する。第一温度T1は第二温度T2よりも高い。
【0070】
第一温度T1は、700~940℃又は800~920℃であってよい。第一温度T1が低すぎる場合、第二Tリッチ相3が形成され難く、S2/(S1+S2)が0.20未満になり易い。その結果、高温での保磁力が低下する。第一温度T1が高すぎる場合、第二Tリッチ相3が形成され難く、S2/(S1+S2)が0.20未満になり易く、高温での保磁力が低下する。
【0071】
第二温度T2は、450~570℃又は470~540℃であってよい。第二温度T2が低すぎる場合、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3が形成され難く、(S1+S2)/(S1+S2+S3)が0.30未満になり易い。その結果、高温での保磁力が低下する。第二温度T2が高すぎる場合、第一Tリッチ相1及び第二Tリッチ相3が過剰に形成され易く、(S1+S2)/(S1+S2+S3)が0.80を超え易い。その結果、高温での保磁力が低下する。
【0072】
図3に示されるように、焼結工程を開始するために、雰囲気の温度をTs未満の温度(例えば室温)からTsまで上げる場合、昇温速度は0.1~20℃/分であってよい。「雰囲気の温度」とは、焼結体の周りの雰囲気の温度であり、例えば加熱炉内の温度である。焼結工程後、雰囲気の温度をTsからT1未満の温度(例えば室温)まで下げる場合、降温速度は1~50℃/分であってよい。第一時効処理を開始するために、雰囲気の温度をT1未満の温度(例えば室温)からT1まで上げる場合、昇温速度は0.1~20℃/分であってよい。第一時効処理後、雰囲気の温度をT1からT2未満の温度(例えば室温)まで下げる場合、降温速度は1~50℃/分であってよい。第二時効処理を開始するために、雰囲気の温度をT2未満の温度(例えば室温)からT2まで上げる場合、昇温速度は0.1~50℃/分であってよい。第一時効処理後、雰囲気の温度をT1からT2まで下げて、第一時効処理に連続して第二時効処理を実施してもよい。第二時効処理後、時効処理の雰囲気の温度をT2から室温まで下げる場合、降温速度は1~50℃/分であってよい。T2から室温までの降温速度が高いことにより、第二Tリッチ相3が形成され易く、S2/(S1+S2)が0.20以上0.80以下になり易い。焼結工程、第一時効処理及び第二時効処理における昇温速度及び降温速度が上記の範囲内であることにより、上記式4及び式5が満たされ易い。
【0073】
以上の方法により、本実施形態に係る永久磁石が得られる。
【0074】
重希土類元素を含む永久磁石を製造する場合、重希土類元素又はその化合物(例えば水素化物)を上記の焼結体の表面に付着させた後、焼結体を加熱してもよい。この熱拡散処理により、重希土類元素を焼結体の表面から内部へ拡散させることができる。例えば、焼結工程に続いて熱拡散処理を実施した後、第一時効処理及び第二時効処理を実施してよい。第一時効処理に続いて熱拡散処理を実施した後、第二時効処理を実施してもよい。
【0075】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、R‐T‐B系永久磁石は、熱間加工磁石であってよい。
【実施例
【0076】
以下では実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0077】
(実施例3)
[永久磁石の作製]
ストリップキャスティング法により、永久磁石の原料金属から主相合金A及び粒界相合金Aを作製した。原料金属の秤量により、主相合金A及び粒界相合金A其々の組成を調整した。主相合金A中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金A中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。下記の表1中のRは、Nd及びPrを意味する。Nd、Pr、Fe、Co、Ga、Al、Cu及びZr其々の濃度は、蛍光X線分析により測定した。Bの濃度は、ICP発光分析により測定した。
【0078】
以下の通り、主相合金A及び粒界相合金Aは、別々に粉砕された。以下の水素粉砕処理から焼結工程までの各工程は、酸素濃度が100ppm未満である非酸化的雰囲気下で実施した。
【0079】
水素を主相合金Aへ吸蔵させた後、Ar雰囲気中において主相合金Aを350℃で1時間加熱して脱水素することにより、主相合金粉末を得た。つまり粗粉砕工程として、水素粉砕処理を行った。以下では、主相合金の脱水素温度が、tmと表記される。粉砕助剤としてオレイン酸アミドを主相合金粉末へ添加して、これらを混合した。続く微粉砕工程では、ジェットミルを用いて、主相合金粉末の平均粒径を4μmに調整した。
【0080】
水素を粒界相合金Aへ吸蔵させた後、Ar雰囲気中において粒界相合金Aを550℃で1時間加熱して脱水素することにより、粒界相合金粉末を得た。つまり粗粉砕工程として、水素粉砕処理を行った。以下では、粒界相合金の脱水素温度が、tgと表記される。粉砕助剤としてオレイン酸アミドを粒界相合金粉末へ添加して、これらを混合した。続く微粉砕工程では、ジェットミルを用いて、粒界相合金粉末の平均粒径を4μmに調整した。
【0081】
主相合金及び粒界相合金の混合物の全体的な組成が、永久磁石の組成に一致するように、主相合金粉末及び粒界相合金粉末が秤量された。永久磁石の組成は、下記表1に示される。これらを混合することにより、原料合金粉末を得た。
【0082】
成形工程では、原料合金粉末を金型内に充填した。そして、1200kA/mの磁場を金型内の原料粉末へ印加しながら、原料粉末を120MPaで加圧することにより、成形体を得た。
【0083】
焼結工程では、真空中において成形体を焼結温度Tsで72時間加熱してから急冷することにより、焼結体を得た。実施例3のTsは、下記表3に示される。
【0084】
時効処理工程として、第一時効処理と、第一時効処理に続く第二時効処理を実施した。第一時効処理及び第二時効処理のいずれにおいても、焼結体をAr雰囲気中で加熱した。
【0085】
第一時効処理では、焼結体を900℃(第一温度T1)で60分間加熱した。
【0086】
第二時効処理では、第二温度T2で焼結体を60分間加熱した。実施例3のT2は、下記表1に示される。
【0087】
以上の方法により、実施例3の永久磁石を得た。
【0088】
[永久磁石の組成分析]
蛍光X線分析及びICP発光分析により、永久磁石全体の組成を分析した。永久磁石中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に一致した。
【0089】
[磁気特性の測定]
23℃(室温)における永久磁石の残留磁束密度(Br)を測定した。Brの単位は、mTである。また150℃(高温)における永久磁石の及び保磁力(HcJ)及び角形比(Hk/HcJ)を測定した。HcJの単位は、kA/mである。Br及びHcJの測定には、B‐Hトレーサーを用いた。実施例3のBr、HcJ及びHk/HcJは、下記表3に示される。
【0090】
[永久磁石の断面の分析]
永久磁石を、その磁化方向に対して垂直に切断した。永久磁石の断面をイオンミリングで削り、断面に形成された酸化物等の不純物を除去した。続いて、永久磁石の断面の一部の領域を、走査電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分光(EDS)装置で分析した。分析された領域全体の寸法は、縦50.8μm×横38.1μm程度であった。分析された領域は、永久磁石の表面からの深さが300μmを超える領域であった、換言すれば、分析された領域は、永久磁石の断面のうち、断面の外縁(外周部)からの距離が300μmを超える領域であった。SEMとしては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のショットキー走査電子顕微鏡「SU5000」を用いた。EDS装置としては、株式会社堀場製作所製の「エネルギー分散型X線分析装置EMAX Evolution/EMAX ENERGY(EMAX X-MaxN検出器仕様)」を用いた。測定条件は以下のように設定した。
電子線の加速電圧: 15kV
スポット強度: 30
ワーキングディスタンス: 10mm
【0091】
SEMによって撮影された永久磁石の断面の一部の領域は、図4に示される。実施例3の永久磁石は、多数の主相粒子と、複数の主相粒子に囲まれた粒界と、を備えていた。各主相粒子は、(Nd1-xPr(Fe1-yCo14Bの結晶粒であった。xは0以上1未満であり、yは0以上1未満であった。主相粒子は、後述する第一Tリッチ相、第二Tリッチ相、Tプア相のいずれの相よりも暗い(黒い)箇所であった。一部の粒界は、第一Tリッチ相を含んでいた。第一Tリッチ相は、主相粒子より明るいが、粒界相の中では最も暗い箇所(暗い灰色の部分)であった。一部の粒界は、第二Tリッチ相を含んでいた。第二Tリッチ相は、粒界相の中では第一Tリッチ相の次に明るい箇所(明るい灰色の部分)であった。一部の粒界は、Tプア相を含んでいた。Tプア相は粒界相の中は最も明るい箇所(白い部分)であった。一部の粒界相は、ZrC相を含んでいた。ZrC相は主相粒子よりも暗い箇所(黒い部分)であった。ZrC相の粒径は0.05μm以下であった。第二Tリッチ相及びTプア相の両方が、一つの粒界多重点内に存在する箇所もあった。下記の表2中の測定点1~4は、図4の断面に露出する第一Tリッチ相に相当する。下記の表2中の測定点5~8は、図4の断面に露出する第二Tリッチ相に相当する。下記の表2中の測定点9~14は、図4の断面に露出するTプア相に相当する。
【0092】
SEMで分析された上記の領域が、電界放射型透過電子顕微鏡(FE‐TEM)及びエネルギー分散型X線分光(TEM‐EDS)装置によって分析された。TEM‐EDSにより、上記測定点1~14其々の組成が特定された。FE‐TEMとしては、FEI社製のTitan G2が用いられた。TEM‐EDS装置としては、FEI社製のSuper‐Xが用いられた。分析に用いられた電子線の加速電圧は、300kVであった。各測定点における各元素の濃度及び[T]/[R]は、下記表2に示される。下記の表2中の[R]は、各測定点におけるNd及びPrの濃度の合計である。表2中の[T]は、各測定点におけるFe及びCoの濃度の合計である。表2中の[M]は、表2に記載された全元素のうちR及びTを除く元素の濃度の合計である。
【0093】
図4の断面において、S1、S2及びS3其々が測定された。上述の通り、第一Tリッチ相、第二Tリッチ相及びTプア相は、SEMで撮影された反射電子像における明暗の差に基づいて識別された。S1、S2及びS3其々の測定のために、粒界相の三値化が手作業で行われた。S1、S2及びS3其々は画像解析ソフトによって測定された。画像解析ソフトとしては、株式会社マウンテック製のMac-Viewが用いられた。実施例3のS1、S2、S3、(S1+S2)/(S1+S2+S3)及びS2/(S1+S2)は、下記表3に示される。表3中のS1、S2及びS3は、図4の断面全体の面積に対する相対値である。つまり、図4の断面全体の面積は100%であり、表3中のS1、S2及びS3は、図4の断面における第一Tリッチ相、第二Tリッチ相及びTプア相其々の面積の割合である。
【0094】
(実施例1、2、4~11及び比較例1~11)
実施例6の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金C及び粒界相合金Cが用いられた。主相合金C中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金C中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金Cは、15質量%Coを含んでいた。
【0095】
実施例7の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金D及び粒界相合金Dが用いられた。主相合金D中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金D中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金Dは、35質量%のCoを含んでいた。
【0096】
実施例8の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金E及び粒界相合金Eが用いられた。主相合金E中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金E中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金Eは、0.15質量%のボロン(B)を含んでいた。
【0097】
実施例9の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金F及び粒界相合金Fが用いられた。主相合金F中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金F中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金Fは、0.25質量%のボロン(B)を含んでいた。
【0098】
比較例1の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金B及び粒界相合金Bが用いられた。主相合金B中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金B中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金Bは、4.0質量%のZrを含んでいた。
【0099】
比較例6の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、合金A’のみが用いられた。つまり、比較例6の永久磁石は一合金法によって作製された。合金A’中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。
【0100】
比較例7の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金G及び粒界相合金Gが用いられた。主相合金G中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金G中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金Gは、5質量%のCoを含んでいた。
【0101】
実施例10の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金H及び粒界相合金Hが用いられた。主相合金H中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金H中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金Hは、50質量%のCoを含んでいた。
【0102】
比較例8の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金I及び粒界相合金Iが用いられた。主相合金I中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金I中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。
【0103】
実施例11の永久磁石の原料として、主相合金A及び粒界相合金Aの代わりに、主相合金J及び粒界相合金Jが用いられた。主相合金J中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金J中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に調整された。粒界相合金Fは、0.50質量%のボロン(B)を含んでいた。
【0104】
実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々の主相合金の脱水素温度tmは、下記表3に示される温度であった。ただし比較例6では、一種類の合金(合金A’)のみが用いられたので、比較例6のtmは、合金A’の脱水素温度を意味する。実施例1、2、4~11並びに比較例1~5及び7~11其々の粒界相合金の脱水素温度tgは、下記表3に示される温度であった。実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々の焼結温度Tsは、下記表3に示される温度であった。実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々の第二温度T2は、下記表3に示される温度であった。
【0105】
上記の事項を除いて実施例3と同様の方法で、実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々の永久磁石が作製された。
【0106】
実施例3と同様の方法で、実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々の永久磁石全体の組成を分析した。実施例1、2、4~11及び比較例1~11のいずれの場合も、永久磁石中の各元素の濃度は、下記表1に示される値に一致した。
【0107】
実施例3と同様の方法で、実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々の永久磁石のBr、HcJ及びHk/HcJを測定した。実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々のBr、HcJ及びHk/HcJは、下記表3に示される。
【0108】
実施例3と同様の方法で、実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々の永久磁石の断面を分析した。
【0109】
実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々の永久磁石は、多数の主相粒子と、複数の主相粒子に囲まれた粒界と、を備えていた。実施例1、2、4~11及び比較例2~11其々の永久磁石は、粒界相として、第一Tリッチ相、第二Tリッチ相及びTプア相を含んでいた。比較例1の永久磁石は、粒界相として、第一Tリッチ相及びTプア相を含んでいた。しかし比較例1の永久磁石は、第二Tリッチ相を含んでいなかった。全ての実施例及び比較例の分析の結果は、第一Tリッチ相の[T]/[R]が1.7以上3.0以下であることを示していた。全ての実施例及び比較例の分析の結果は、第二Tリッチ相の[T]/[R]が0.8以上1.5以下であることを示していた。全ての実施例及び比較例の分析の結果は、Tプア相の[T]/[R]が0.0以上0.6以下であることを示していた。
【0110】
実施例1、2、4~11及び比較例1~11其々のS1、S2、S3、(S1+S2)/(S1+S2+S3)及びS2/(S1+S2)は、下記表3に示される。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明に係るR‐T‐B系永久磁石は、磁気特性に優れるため、例えば、ハイブリッド車又は電気自動車に搭載されるモータに適用される。
【符号の説明】
【0115】
2…R‐T‐B系永久磁石、2cs…R‐T‐B系永久磁石の断面、1…第一Tリッチ相、3…第二Tリッチ相、4…主相粒子、5…Tプア相、6…粒界多重点、10…二粒子粒界。

図1
図2
図3
図4
図5