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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】製紙用添加剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/20 20060101AFI20221220BHJP
   D21H 17/55 20060101ALI20221220BHJP
   D21H 17/56 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
D21H21/20
D21H17/55
D21H17/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019061950
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158936
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷 安尚
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-048981(JP,A)
【文献】特開2006-097218(JP,A)
【文献】特開2006-337437(JP,A)
【文献】特開2003-147692(JP,A)
【文献】特表平06-508864(JP,A)
【文献】特開平07-213870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
C08G 69/00 - 69/50
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和脂肪族モノアルコール(A)と、脂肪族二塩基酸及び/又はその誘導体(b1)、並びにアルキレンポリアミン(b2)の縮合物であるポリアミドポリアミン(B)との混合液に、エピハロヒドリン(C)を付加反応させ、次いで架橋反応させて反応生成物(D)を得る工程を含み、前記混合液が(B)成分100重量部に対して、(A)成分5~70重量部含む、製紙用添加剤の製造方法。
【請求項2】
(A)成分が、炭素数1~4のアルキル基を有する飽和脂肪族モノアルコールである、請求項1に記載の製紙用添加剤の製造方法。
【請求項3】
(B)成分及び(C)成分の使用比率が、((C)成分のエポキシ当量)/((B)成分の第2級アミン当量)=0.8~2.0である、請求項1又は2に記載の製紙用添加剤の製造方法。
【請求項4】
前記付加反応を温度5~40℃、及び前記架橋反応を温度40~80℃で行う請求項1~3のいずれかに記載の製紙用添加剤の製造方法。
【請求項5】
(D)成分の固形分濃度25重量%水溶液の温度25℃における粘度が、10~500mPa・sである請求項1~4のいずれかに記載の製紙用添加剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用添加剤の製造方に関する。

【背景技術】
【0002】
製紙用添加剤であるポリアミドポリアミン-エピハロヒドリン樹脂は、紙が水で濡れても破れない“湿潤紙力剤”として、ティッシュペーパーやタオルペーパー等の抄造の際に使用されている。一般的に、ポリアミドポリアミン-エピハロヒドリン樹脂は、ポリアミドポリアミンを含む水溶液にエピハロヒドリンを反応させることで得られる。しかしながら、このようにして得られるポリアミドポリアミン-エピハロヒドリン樹脂の水溶液中には、製造工程中にエピハロヒドリン由来の副生成物である1,3-ジハロ-2-プロパノール(ジハロヒドリンともいう。)、3-ハロ-1,2-プロパンジオール(モノハロヒドリンともいう。)が生じ、環境上好ましくなく、その低減が望まれている。
【0003】
これらを低減する製造方法としては、例えば、ポリアミドポリアミンを特定量のエピハロヒドリンと10~45℃で反応させた後、反応濃度を下げて、温度25~70℃で特定の粘度を有するまで反応させるもの(特許文献1)や、ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリンを20~40℃で反応させた後、塩基性物質、次いで酸及び水を加えて55~75℃で反応させるもの(特許文献2)等が開示されている。しかしながら、前記方法では、ジハロヒドリンとモノハロヒドリンの低減が不十分である、又はこれらを低減できても湿潤紙力効果に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平02-170825号公報
【文献】特開平06-001842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、紙の湿潤紙力効果を維持する製紙用添加剤を得られ、ジハロヒドリン及びモノハロヒドリンの含有量を低減できる製紙用添加剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討したところ、エピハロヒドリンを加える前に、特定のモノアルコールをポリアミドポリアミンの溶液中に含ませることにより、前記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の製紙用添加剤の製造方に関する。

【0007】
1.飽和脂肪族モノアルコール(A)と、脂肪族二塩基酸及び/又はその誘導体(b1)、並びにアルキレンポリアミン(b2)の縮合物であるポリアミドポリアミン(B)との混合液に、エピハロヒドリン(C)を付加反応させ、次いで架橋反応させて反応生成物(D)を得る工程を含み、前記混合液が(B)成分100重量部に対して、(A)成分5~70重量部含む、製紙用添加剤の製造方法。
【0008】
2.(A)成分が、炭素数1~4のアルキル基を有する飽和脂肪族モノアルコールである、前項1に記載の製紙用添加剤の製造方法。
【0009】
3.(B)成分及び(C)成分の使用比率が、((C)成分のエポキシ当量)/((B)成分の第2級アミン当量)=0.8~2.0である、前項1又は2に記載の製紙用添加剤の製造方法。
【0010】
4.前記付加反応を温度5~40℃、及び前記架橋反応を温度40~80℃で行う前項1~3のいずれかに記載の製紙用添加剤の製造方法。
【0011】
5.(D)成分の固形分濃度25重量%水溶液の温度25℃における粘度が、10~500mPa・sである前項1~4のいずれかに記載の製紙用添加剤の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製紙用添加剤の製造方法によれば、環境上好ましくないジハロヒドリン及びモノハロヒドリン(以下、これらをまとめて“ハロヒドリン”ともいう。)の含有量を低減でき、また得られた製紙用添加剤を用いて紙とした際に、湿潤紙力効果も維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製紙用添加剤の製造方法は、飽和脂肪族モノアルコール(A)(以下、(A)成分という。)と、特定のポリアミドポリアミン(B)(以下、(B)成分という。)との混合液に、エピハロヒドリン(C)(以下、(C)成分という。)を添加して付加反応させ、次いで架橋反応させて反応生成物(D)(以下、(D)成分という。)を得る工程を含むものである。
【0015】
(A)成分は、(B)成分及び(C)成分の反応時にハロヒドリンが生成することを抑制し、得られた製紙用添加剤中でのハロヒドリンの含有量を低減する成分である。
【0016】
(A)成分としては、飽和脂肪族モノアルコールであれば、特に限定されず、各種公知のものを使用できる。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール等の直鎖型飽和脂肪族モノアルコール;イソプロパノール、イソブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール等の分岐型飽和脂肪族モノアルコール等が挙げられる。これらは単独でも2種以上組み合わせても良い。中でも、水に溶解し、反応中にハロヒドリンを生成させにくくする点から、炭素数1~4のアルキル基を有する脂肪族モノアルコールが好ましく、炭素数1~3のアルキル基を有する脂肪族モノアルコール、すなわち、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノールがより好ましい。
【0017】
(A)成分の含有量は、(B)成分100重量部に対して、通常は5~70重量部である。含有量が5重量部未満であると、反応中にハロヒドリンが多く生成し、製紙用添加剤中のハロヒドリンの含有量が多くなる。また、含有量が70重量部を上回ると、紙の湿潤紙力効果が低下しやすい。また同様の点から、好ましくは10~65重量部である。
【0018】
また、ポリオールを併用しても良い。ポリオールとしては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族ジオール;エタン-1,1,2-トリオール、グリセリン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール等の脂肪族トリオール;エリスリトール等の脂肪族テトラオール等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を使用しても良い。また、ポリオールの含有量としては、特に限定されないが、(B)成分100重量部に対して、5重量部以下が好ましい。
【0019】
(B)成分は、ポリアミドポリアミンであり、脂肪族二塩基酸及び/又はその誘導体(b1)(以下、(b1)成分という。)、並びにアルキレンポリアミン(b2)(以下、(b2)成分という。)の縮合物である。
【0020】
(b1)成分は、特に限定されず、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の飽和脂肪族二塩基酸;イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪族二塩基酸等が挙げられる。また誘導体としては、例えば、前記脂肪族ジカルボン酸の無水物、メタノール、エタノール等の飽和脂肪族アルコールとのエステル等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。中でも、飽和脂肪族二塩基酸が好ましく、アジピン酸、セバシン酸がより好ましい。
【0021】
(b2)成分としては、特に限定されないが、少なくとも2つの第1級アミノ基を有するものが好ましい。このような(b2)成分としては、例えば、エチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、1,5-ペンタンジアミン(ペンタメチレンジアミン)、1,6-ヘキサンジアミン(ヘキサメチレンジアミン)等のモノアルキレンジアミン;ジアルキレントリアミン(ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン等)、トリアルキレンテトラミン(トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン等)、トリス(2-アミノアルキル)アミン(トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(2-アミノプロピル)アミン等)、テトラアルキレンペンタミン(テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン等)、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミンが挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。中でも、ジアルキレントリアミンが好ましく、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンがより好ましい。
【0022】
(b1)成分及び(b2)成分の使用モル比率としては、特に限定されず、通常は、(b2)/(b1)=0.8~1.5程度、好ましくは0.9~1.2程度である。
【0023】
(b1)成分及び(b2)成分との縮合反応は、特に限定されないが、通常は硫酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の触媒の存在下、又は不存在下に、反応温度が110~250℃程度で、反応時間が2~24時間程度で行われる。なお、得られた縮合物は、水、有機溶剤で希釈されていることが好ましい。希釈後の固形分濃度としては、20~80重量%程度である。
【0024】
水としては、特に限定されず、例えば、純水、イオン交換水、水道水、工業用水等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0025】
有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ジメチルスルホキシド、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。中でも、(B)成分を溶解しやすくする点から、メタノール、エタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0026】
こうして得られた(B)成分の物性としては、特に限定されないが、(B)成分と(C)成分との付加反応及び架橋反応を進行させることに加えて、増粘によるゲル化を抑える点から、例えば、固形分濃度50重量%水溶液の温度25℃における粘度が、200~1000mPa・s程度が好ましい。なお、粘度は、ブルック・フィールド粘度計(B型粘度計)で測定した値である(以下同様)。
【0027】
(C)成分としては、特に限定されず、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン等が挙げられる。
【0028】
(C)成分の使用量としては、特に限定されないが、ハロヒドリンが製造中に生じることを抑制し、また得られた製紙用添加剤を用いて紙とした際に、湿潤紙力効果を維持する点から、(B)成分及び(C)成分の使用比率で、((C)成分のエポキシ当量)/((B)成分の第2級アミン当量)=0.8~2.0程度が好ましく、0.9~1.6がより好ましく、0.9~1.3程度がさらに好ましい。
【0029】
本発明の製紙用添加剤の製造方法は、反応中にハロヒドリンを発生し難くするため、(A)成分と、(B)成分との混合液に、(C)成分を添加して付加反応させ、次いで、架橋反応させて(D)成分を得る工程を含む。以下、詳細に説明する。
【0030】
本発明の製紙用添加剤の製造方法においては、第一に(A)成分と(B)成分との混合液を調製する。前記混合液の調製方法としては、特に限定されず、例えば、(A)成分及び(B)成分を仕込んだ後に撹拌機等で混合する、(B)成分を先に仕込んで撹拌しながら(A)成分を加える等が挙げられる。前記混合液としては、(A)成分及び(B)成分のみからなるものでも良いが、水を加えた混合液とすることが好ましい。水としては、前述したものが挙げられる。また水を加えた場合、(A)成分及び(B)成分の合計固形分濃度を、(B)成分と(C)成分との反応性の点から、20~80重量%程度にすることが好ましく、30~70重量%程度にすることがより好ましい。
【0031】
混合液を調製する際の条件としては、特に限定されないが、例えば、室温以下が好ましい。また混合する時間としては、(A)成分及び(B)成分が均一になるまで混合するのであれば特に限定されない。
【0032】
次に、前記混合液に、(C)成分を付加反応させる。付加反応の方法としては、特に限定されないが、反応熱を制御して製紙用添加剤の増粘、ゲル化を抑制する点から、(C)成分を滴下することが好ましい。また、滴下時間としては、前記と同様の点から、0.5~5時間が好ましい。
【0033】
付加反応の条件としては、特に限定されないが、当該反応を優先的に進行させる点から、例えば、温度が5~40℃程度が好ましい。また、反応時間が0.5~24時間程度が好ましく、2~24時間程度がより好ましい。なお、反応温度は適宜、加熱又は冷却して設定すれば良い。また、付加反応における反応液の濃度としては、特に限定されないが、好ましくは30~70重量%程度である。
【0034】
次に、付加反応後の液を架橋反応させて(D)成分を得る。なお、本発明においては、生成する(D)成分の粘度を制御するために、付加反応の終了後に水を加えることが好ましい。水としては、前述したものが挙げられる。水を加えた場合、反応液の濃度を20~40重量%程度にすることが好ましい。
【0035】
架橋反応の条件としては、特に限定されないが、付加反応を適度にコントロールして進行させ、得られた製紙用添加剤を用いて得た紙が高い湿潤紙力効果を示す点から、例えば、温度が40~80℃程度が好ましく、40~70℃程度がより好ましい。また、反応時間が2~10時間程度が好ましく、2~6時間程度がより好ましい。なお、反応時間については、B型粘度計での反応溶液の粘度を測定して管理しても良い。
【0036】
なお、本発明の製紙用添加剤の製造方法においては、(A)成分は、(B)成分との混合液を調製する際に使用することに加えて、(C)成分の滴下途中もしくは滴下直後、付加反応、架橋反応の時に、適宜(A)成分を追加しても良い。
【0037】
また、前記の架橋反応においては、アミンを途中で添加しても良い。
【0038】
アミンとしては、特に限定されず、例えば、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン等の第1級アルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ-2-ヒドロキシブチルアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ベンジルエタノールアミン等の第2級アルカノールアミン;トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等の第3級アルカノールアミン;メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン等の第1級飽和脂肪族アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジn-プロピルアミン等の第2級飽和脂肪族アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリn-プロピルアミン等の第3級飽和脂肪族アミン等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。また、アミンの使用量としては、特に限定されないが、固形分重量で、(B)成分100重量部に対して、10重量部以下が好ましい。
【0039】
本発明の製紙用添加剤の製造方法は、(D)成分を得た後に、前述のアミン、pH調整剤、水等を添加しても良い。これらは、架橋反応の終了後でも、冷却しながらでも、冷却後でも添加できる。
【0040】
pH調整剤としては、特に限定されず、例えば、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸等の有機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等の有機塩基;アンモニア水溶液等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。なお、pHとしては、特に限定されないが、静置中に製紙用添加剤が増粘することを抑制する点から、2.5~4程度が好ましい。
【0041】
更に、得られた(D)成分には、更に消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、キレート剤等の各種公知の添加剤を添加しても良い。
【0042】
(D)成分の物性としては、特に限定されないが、例えば、固形分濃度が通常は5~40重量%程度、好ましくは10~30重量%程度である。
【0043】
また、(D)成分の固形分濃度25重量%水溶液の温度25℃における粘度が、保管安定性の点から、通常は、10~500mPa・s程度である。
【0044】
本発明の製紙用添加剤は、前記の製造方法により得られたものであり、(D)成分を含む溶液をそのまま、又は水等で更に希釈して使用できる。また、本発明の製紙用添加剤は、湿潤紙力剤として好適である。
【0045】
本発明の製紙用添加剤の物性としては、特に限定されないが、ハロヒドリンの含有量が、0.7重量%以下が好ましい。なお、本発明におけるハロヒドリンの含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)で測定した値である。
【0046】
本発明において、(B)成分との混合液を調整する際に(A)成分を用いると、ハロヒドリンの含有量が低減される理由については、溶媒和効果により、(A)成分が(C)成分中のハロゲン基、又は(B)成分及び(C)成分との付加反応時に遊離したハロゲン化物イオンを取り囲み、その結果、未反応の(C)成分がハロゲン化物イオンと反応することが抑えられるためと考えられる。
【0047】
本発明の製紙用添加剤は、紙抄造の過程で調整される各種公知のパルプスラリーに添加して使用される。パルプスラリーとしては、特に限定されず、例えば、広葉樹パルプ(L-BKP)、針葉樹パルプ(N-BKP)等の化学パルプ;砕木パルプ(GP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;段ボール古紙等の古紙パルプ等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0048】
製紙用添加剤の添加量としては、特に限定されず、通常は、パルプスラリーの固形分重量に対して、0.05~1重量%程度である。当該範囲とすることで、紙が優れた湿潤紙力効果を発揮する。
【0049】
また、前記のパルプスラリーには、必要に応じて、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等の水溶性アルミニウム化合物;ロジン、アルケニルケテンダイマー(AKD)等を被乳化物質としたエマルジョンサイズ剤;スチレン等の不飽和モノマーを重合させたポリマーサイズ剤;ポリアクリルアミド系紙力剤、澱粉類、硫酸や水酸化ナトリウム等のpH調整剤、歩留剤、タルク、クレー、カオリン、二酸化チタン、炭酸カルシウム等の填料を添加しても良い。
【実施例
【0050】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各例中「%」はいずれも重量基準である。
【0051】
(粘度)
ブルックフィールド型粘度計(東機産業(株)製)を用いて、25℃に調整したサンプルの粘度を測定した。
【0052】
(製紙用添加剤中((D)成分)中のハロヒドリンの含有量)
製紙用添加剤((D)成分)をガスクロマトグラフィー(製品名「HP6890/5973」、アジレント社製)で測定した。
【0053】
ジクロロヒドリン及びモノクロヒドリンについて、以下の保持時間(RT)に区切って面積値をそれぞれ求め、足し合わせた。
・ジクロロヒドリン(DCH):RT=23.5分付近のピーク
・モノクロロヒドリン(MCH):RT=10.8分付近のピーク
【0054】
製造例1(ポリアミドポリアミン(B-1)の製造)
温度計、冷却器、攪拌機および窒素導入管を備えたフラスコに、アジピン酸730g(5モル)およびジエチレントリアミン619g(6モル)を仕込み、生成する水を系外に除去しながら昇温し、120~200℃で5時間反応した後、水1200gを徐々に加えて固形分濃度50%のポリアミドポリアミン(B-1)を得た。(B-1)成分の粘度を表1に示す(以下同様)。
【0055】
製造例2~5
表1に示す組成で、製造例1と同様に合成し、ポリアミドポリアミン(B-2)~(B-5)をそれぞれ得た。
【0056】
【表1】
【0057】
表1における略号は、以下の化合物を意味する。
・AA:アジピン酸
・SA:セバシン酸
・DETA:ジエチレントリアミン
・DPTA:ジプロピレントリアミン
【0058】
実施例1
温度計、冷却器および撹拌機を備えた装置に、メタノール19g、(B-1)成分400g及びイオン交換水91gを仕込み、液温が15℃となるように撹拌しながら調整した。エピクロロヒドリン110g(当量比(エピクロロヒドリンのエポキシ当量)/((B-1)成分の第2級アミノ基当量)=1.2)を120分かけて滴下した後、32℃に昇温し、5時間付加反応させた。更に水475gを加えた後、60℃に昇温して3時間架橋反応させた。次いで、水155g、濃硫酸(固形分濃度:62.5%)20gを加えて冷却し、固形分濃度25%、pH2.7の(D-1)成分を得た。得られた(D-1)成分の物性を表2に示す(以下同様)。
【0059】
実施例2~12、比較例3~6
表2に示す成分で、実施例1と同様に行い、pH2.7の(D-2)~(D-12)、(E-3)~(E-6)成分をそれぞれ得た。
【0060】
比較例1
実施例1と同様の反応装置に、(B-1)成分400g及びイオン交換水110gを仕込み、20℃で撹拌した。15℃でエピクロロヒドリン110g(当量比(エピクロロヒドリンのエポキシ当量)/((B-1)成分の第2級アミノ基当量)=1.2)を90分かけて滴下した後、30℃に昇温し、2.5時間付加反応させた後、メタノール19g加えて、更に2.5時間付加反応させた。次いで、水456gを加えた後、60℃に昇温して3時間架橋反応させた。次いで、水155g、濃硫酸(固形分濃度:62.5%)20gを加えて冷却し、固形分濃度25%、粘度220mPa・s(25℃)、pH2.7の(E-1)成分を得た。
【0061】
比較例2
実施例1と同様の反応装置に、(B-1)成分400g及びイオン交換水110gを仕込み、20℃で撹拌した。15℃でエピクロロヒドリン110g(当量比(エピクロロヒドリンのエポキシ当量)/((B-1)成分の第2級アミノ基当量)=1.2)を90分かけて滴下した後、30℃に昇温し、5時間付加反応させた。次いで、メタノール19g及び水456gを加えた後、60℃に昇温して3時間架橋反応させた。次いで、水155g、濃硫酸(固形分濃度:62.5%)20gを加えて冷却し、固形分濃度25%、粘度210mPa・s(25℃)、pH2.7の(E-2)成分を得た。
【0062】
<抄紙評価>
固形分重量で、N-BKP/L-BKP=50/50の固形分濃度2重量%のパルプスラリーを叩解し、カナディアン・スタンダード・フリーネス(C.S.F)600mlに調整し、更に水道水を加えて、固形分濃度1重量%に調製した。このパルプスラリーへ、パルプスラリーの固形分重量に対して、各製紙用添加剤を0.3%添加し、抄紙機(タッピ・スタンダードシートマシン(丸形))でJIS P 8122に準じて、坪量20g/mとなるように抄紙した。このときの抄紙pHは7.0であった。次いで得られた湿紙をロールプレスにて0.5kg/cmでプレス脱水した。次いで、回転式乾燥機で110℃にて2分間乾燥させた。得られた紙を温度20℃、湿度50%の条件下に24時間調湿した後、湿潤紙力強度(湿潤裂断長)をJIS P 8135に準じて測定した。表2に結果を示す。
【0063】
【表2】
【0064】
*1 (A)成分の重量部については、(B)成分の固形分重量で100重量部に対する値で示す。
*2 ECHは、エピクロロヒドリンを意味する。
*3 (C)/(B)は、((C)成分のエポキシ当量)/((B)成分の第2級アミン当量)の値で示す。