(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】乗物用シートヒンジ機構
(51)【国際特許分類】
B60N 2/30 20060101AFI20221220BHJP
F16F 9/14 20060101ALI20221220BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20221220BHJP
F16C 11/10 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B60N2/30
F16F9/14 A
F16C11/04 F
F16C11/10 Z
(21)【出願番号】P 2019069789
(22)【出願日】2019-04-01
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲留 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 公
(72)【発明者】
【氏名】松井 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】千葉 繁
(72)【発明者】
【氏名】酒井 貴史
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-186642(JP,A)
【文献】特開2019-048585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0219456(US,A1)
【文献】特開2006-136552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/30
F16F 9/14
F16C 11/04
F16C 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートを乗物本体に起倒回転可能なように連結する乗物用シートヒンジ機構であって、
前記乗物本体に固定される基部と、
前記乗物用シートに固定される可動部と、
該可動部と前記基部とに水平方向に通されてこれらのうちの一方に溶接されると共に他方に回転可能なように支持される回転軸と、
該回転軸に通されて前記可動部に回転付勢力を作用させるスパイラルスプリングと、
前記回転軸に通されて前記スパイラルスプリングと軸方向に並ぶ熱影響部材と、を有し、
前記回転軸が、前記一方に溶接される第1の軸部と、該第1の軸部の
前記軸方向の一側に並んで前記一方に溶接される第2の軸部と、に分割され、前記第1の軸部が、前記一方に対する溶接状態かつ前記第2の軸部の非溶接状態において前記熱影響部材を前記一側から通してセット可能な組付け部を有する乗物用シートヒンジ機構。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートヒンジ機構であって、
前記第2の軸部に、前記スパイラルスプリングが
前記軸方向に通されてセットされる乗物用シートヒンジ機構。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の乗物用シートヒンジ機構であって、
前記一方が、
前記軸方向に対面する一対の内側板部を有し、前記他方が、前記一対の内側板部に
前記軸方向の外側から対面する一対の外側板部を有し、
前記第1の軸部が、片方の前記内側板部と前記外側板部とに
前記軸方向に通され、前記第2の軸部が、もう片方の前記内側板部と前記外側板部とに
前記軸方向に通され、
前記スパイラルスプリングと前記熱影響部材とが、前記一対の内側板部の間に配置される乗物用シートヒンジ機構。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の乗物用シートヒンジ機構であって、
前記第2の軸部が、前記スパイラルスプリングの内側の端部を回り止め可能に差し込める差込み部を有し、
前記第1の軸部が、前記差込み部を前記一側から内部に差し込んで嵌合させる筒状の嵌合部を有する乗物用シートヒンジ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートヒンジ機構に関する。詳しくは、乗物用シートを乗物本体に起倒回転可能なように連結する乗物用シートヒンジ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗物用シートにおいて、シートバックを前倒しした状態で、シート全体を前方へ跳ね上げることで、荷室と乗降スペースを拡大できる構成とされたものが知られている(特許文献1)。上記シート全体の跳ね上げは、シートクッションの前部をフロア上にヒンジ連結する左右一対のシートヒンジ機構の回転軸まわりの回転により行われる。上記シートヒンジ機構には、シート全体を上記跳ね上げ方向に付勢するスパイラルスプリングと、跳ね上げの回転速度を抑制するロータリ式のオイルリダンパと、が取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、ヒンジ機構の回転軸をフレームに溶接する際の溶接熱により、同回転軸に通されるオイルダンパの粘性減衰性能が低下するおそれがある。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、シートヒンジ機構の溶接結合される回転軸に熱影響部材を適切に組み付けられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の乗物用シートヒンジ機構は次の手段をとる。
【0006】
すなわち、本発明の乗物用シートヒンジ機構は、乗物用シートを乗物本体に起倒回転可能なように連結する乗物用シートヒンジ機構である。この乗物用シートヒンジ機構は、乗物本体に固定される基部と、乗物用シートに固定される可動部と、可動部と基部とに水平方向に通されてこれらのうちの一方に溶接されると共に他方に回転可能なように支持される回転軸と、回転軸に通されて可動部に回転付勢力を作用させるスパイラルスプリングと、回転軸に通されてスパイラルスプリングと軸方向に並ぶ熱影響部材と、を有する。回転軸が、一方に溶接される第1の軸部と、第1の軸部の軸方向の一側に並んで一方に溶接される第2の軸部と、に分割される。第1の軸部が、一方に対する溶接状態かつ第2の軸部の非溶接状態において熱影響部材を上記一側から通してセット可能な組付け部を有する。
【0007】
上記構成によれば、回転軸を第1の軸部と第2の軸部とに分割し、第1の軸部に一方に溶接した状態から熱影響部材をセットできる組付け部を設けたことで、一方に溶接される回転軸に対し、熱影響部材を入熱の影響なく組み付けることができる。
【0008】
また、本発明の乗物用シートヒンジ機構は、更に次のように構成されていても良い。第2の軸部に、スパイラルスプリングが軸方向に通されてセットされる。
【0009】
上記構成によれば、熱影響部材とスパイラルスプリングとを第1の軸部と第2の軸部とに分けて組み付けることで、第1の軸部と第2の軸部のそれぞれの軸長を短く抑えることができる。
【0010】
また、本発明の乗物用シートヒンジ機構は、更に次のように構成されていても良い。上記一方が、軸方向に対面する一対の内側板部を有し、他方が、一対の内側板部に軸方向の外側から対面する一対の外側板部を有する。第1の軸部が、片方の内側板部と外側板部とに軸方向に通され、第2の軸部が、もう片方の内側板部と外側板部とに軸方向に通される。スパイラルスプリングと熱影響部材とが、一対の内側板部の間に配置される。
【0011】
上記構成によれば、スパイラルスプリングと熱影響部材とを一対の内側板部間に収めたコンパクトな配置とすることができる。また、第1の軸部と第2の軸部とによって、基部を可動部に対して両端支持状に適切に連結することができる。
【0012】
また、本発明の乗物用シートヒンジ機構は、更に次のように構成されていても良い。第2の軸部が、スパイラルスプリングの内側の端部を回り止め可能に差し込める差込み部を有する。第1の軸部が、差込み部を上記一側から内部に差し込んで嵌合させる筒状の嵌合部を有する。
【0013】
上記構成によれば、第2の軸部にスパイラルスプリングの内側の端部を合理的に組み付けることができる。なおかつ、上記スパイラルスプリングの組み付けられた第2の軸部の差込み部を、第1の軸部の嵌合部に対して、高い構造強度を発揮できる状態に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る乗物用シートヒンジ機構の概略構成を表した斜視図である。
【
図6】第1の軸部にオイルダンパをセットした状態を表した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
《第1の実施形態》
(シートヒンジ機構10の概略構成について)
始めに、本発明の第1の実施形態に係るシートヒンジ機構10(本発明の「乗物用シートヒンジ機構」に相当する。)の構成について、
図1~
図6を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後上下左右等の各方向を示す場合には、各図中に示されたそれぞれの方向を指すものとする。また、「シート幅方向」と示す場合には、後述するシート1の左右方向を指すものとする。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係るシートヒンジ機構10は、自動車の右側座席を成すシート1(本発明の「乗物用シート」に相当する。)に適用されている。上記シート1は、着座乗員の背凭れ部を成すシートバック2と、着座部を成すシートクッション3と、を有する。上記シートバック2は、その左右両サイドの下端部が、不図示のリクライナを介してシートクッション3の左右両サイドの後端部に連結されている。それにより、シートバック2は、上記不図示のリクライナを介して、シートクッション3に対する背凭れ角度を調節可能とされる。
【0018】
シートクッション3は、その左右両サイドの前端部が、それぞれ、シートヒンジ機構10を介してフロアF(本発明の「乗物本体」に相当する。)上に起倒回転可能に連結されている。また、シートクッション3は、その左右両サイドの後端部にクッションロック機構3Aが設けられ、これらクッションロック機構3Aを介してフロアFに対して係脱可能とされる。上記シート1は、その着座使用される時には、上記シートクッション3がフロアF上に倒されてロックされると共に、シートバック2がシートクッション3から起立した姿勢に保持される。
【0019】
しかし、上記シート1は、その着座使用されない時には、使用者によりシートクッション3の右側部に設けられた不図示のレバーが操作されることで、次のようなタンブル姿勢へと切り換えられる。すなわち、上記シート1は、上記不図示のレバーが操作されることで、不図示のリクライナのロックが解除されて、シートバック2が前に倒される。更に、このシートバック2の前倒しの動きによって、クッションロック機構3Aのロックが解除されて、シートクッション3が前倒れしたシートバック2と共にシートヒンジ機構10により前に跳ね上げられる。
【0020】
上記跳ね上げにより、シート1の設置スペースが広く空けられて、図示しない後席の乗降スペースを拡大することができる。上記シート1の跳ね上げは、シートヒンジ機構10に設けられたスパイラルスプリング14の付勢力によりアシストされる。上記シートヒンジ機構10には、スパイラルスプリング14によるシート1の跳ね上げ速度に弾みが付き過ぎないように抑制するロータリ式のオイルダンパ15が設定されている。
【0021】
具体的には、上記シートヒンジ機構10は、シートクッション3の右サイドの前端部をフロアFに連結するアウタヒンジ10Bと、シートクッション3の左サイドの前端部をフロアFに連結するインナヒンジ10Aと、から成る。上記アウタヒンジ10Bとインナヒンジ10Aには、それぞれ、2本のスパイラルスプリング14が設けられ、アウタヒンジ10Bには、更に、オイルダンパ15が設けられている。上記アウタヒンジ10Bは、上記2本のスパイラルスプリング14とオイルダンパ15とが設けられる構成であっても、これらを軸方向にコンパクトに組み付けられるようになっている。
【0022】
(シートヒンジ機構10の具体的な構成について)
以下、上記アウタヒンジ10Bの具体的な構成について、詳しく説明する。
図1~
図4に示すように、アウタヒンジ10Bは、フロアF上に固定される金属製の基部11と、シートクッション3の下部に固定される金属製の可動部12と、これらの間に通されたシート幅方向に延びる金属製の回転軸13と、回転軸13に通されて軸方向に設けられる2本のスパイラルスプリング14及びオイルダンパ15と、によって構成される。
【0023】
図4~
図5に示すように、基部11は、フロアF上に当てられてボルト締結される底板部11Aと、底板部11Aの左右両サイドの縁部から立ち上がる外側板部11B,11Cと、を有する略U字状の板部材から成る。上記基部11は、
図5に示すように、底板部11Aと右側の外側板部11Bとが1枚のプレス材から成り、左側の外側板部11Cが別の1枚のプレス材から成り、これらが溶接によりひと繋ぎに合わされた構成とされる。
図2に示すように、上記基部11の前部には、1枚のプレス材から成るパッチ11Dが、U字の開口を前方から覆うように接合されている。
【0024】
図1~
図3及び
図5に示すように、上記基部11には、その両外側板部11B,11Cの間に、シート幅方向に延びる金属製の引掛軸11Eと補強軸11Fとが架け渡し状に通されて結合されている。上記引掛軸11Eは、2本のスパイラルスプリング14の外側の端部14Bをそれぞれ引掛けるための軸部とされる。また、補強軸11Fは、上記基部11の両外側板部11B,11Cの間に架け渡されることで、各外側板部11B,11Cの開きを防止する補強部材とされる。
【0025】
図2~
図5に示すように、可動部12は、シートクッション3の下部に当てられてボルト締結される天板部12Aと、天板部12Aの左右両サイドの縁部から垂下する内側板部12B,12Cと、を有する略逆U字状の板部材から成る。上記可動部12は、
図5に示すように、1枚のプレス材から成る。上記可動部12の左側の内側板部12Cには、前方に角状に張り出すストッパ12C1が形成されている。上記ストッパ12C1は、
図2に示すように、可動部12が基部11に対して跳ね上げ位置まで回転することで、基部11のパッチ11Dに形成された係止部11D1に突き当てられる。それにより、可動部12の基部11に対する跳ね上げが係止される。
【0026】
図4に示すように、回転軸13は、左右に分割された第1の軸部13Aと第2の軸部13Bとによって構成される。第1の軸部13Aは、基部11の右側の外側板部11Bと可動部12の右側の内側板部12Bとに通されて基部11を可動部12に対して回転可能に支持する。第2の軸部13Bは、基部11の左側の外側板部11Cと可動部12の左側の内側板部12Cとに通されて基部11を可動部12に対して回転可能に支持する。これら第1の軸部13Aと第2の軸部13Bとは、互いに同一軸線上に並んで設けられ、互いに軸方向に差し込まれて嵌合した状態に組み付けられる。
【0027】
そして、上記第1の軸部13Aには、その基部11の右側の内側板部12Bから左側に延びる脚部13A3に、オイルダンパ15が通されてセットされる。また、第2の軸部13Bには、その基部11の左側の内側板部12Cから右側に延びる脚部13A3に、スパイラルスプリング14が通されてセットされる。上記セットにより、オイルダンパ15とスパイラルスプリング14とが、基部11の左右の内側板部12B,12Cの間に収められた状態にセットされる。
【0028】
上記第1の軸部13Aは、円柱形状の頭部13A1と、頭部13A1よりひとまわり大きな円柱形状を成すフランジ部13A2と、フランジ部13A2よりひとまわり小さな角柱形状を成す脚部13A3とが、右側から左側に向かって軸方向に同心状に並ぶ形状とされる。頭部13A1は、第1の軸部13Aの右側の端部を成し、基部11の右側の外側板部11Bに左側から通されてブッシュ16Aを介して回転可能に支持される。ブッシュ16Aは、フランジ状の座を有した略円筒形状とされ、上記外側板部11Bに右側から通されて溶接されている(溶接部W)。
【0029】
フランジ部13A2は、可動部12の右側の内側板部12Bに軸方向に通されて溶接されている(溶接部W)。上記フランジ部13A2は、基部11の右側の外側板部11Bの左側面に当てられて、同外側板部11Bと可動部12の右側の内側板部12Bとの間に軸方向の隙間を確保するスペーサとして機能する。
【0030】
脚部13A3は、第1の軸部13Aの左側の端部を成し、第1の軸部13Aが可動部12の右側の内側板部12Bに溶接される位置にセットされた状態では、同内側板部12Bから左側へ延出する。上記脚部13A3は、
図5に示すように、その外周部に上記オイルダンパ15の中心部に形成された角孔形状の通し孔15B1が左側から通されることにより、その外周部上にオイルダンパ15がセットされる。
【0031】
詳しくは、上記オイルダンパ15は、粘性流体が内部に充填された円筒形状のハウジング15Aと、ハウジング15Aの中心部に設けられた相対回転可能なシャフト15Bと、を有する。上記オイルダンパ15は、上記ハウジング15Aに対してシャフト15Bが相対回転を生じるような負荷が外部から入力されることにより、内部の粘性流体が流動し、それに伴う粘性抵抗により両者の相対回転に抑制力を作用させる構成とされる。
【0032】
上記オイルダンパ15は、上記シャフト15Bの中心部に形成された角孔形状の通し孔15B1が上記第1の軸部13Aの脚部13A3に左側から通されることで、同シャフト15Bが第1の軸部13Aと回転方向に一体的な状態に連結される。更に、上記オイルダンパ15は、
図4に示すように、上記ハウジング15Aから右側に突出する係止ピン15A1が基部11の右側の外側板部11Bに左側から通されることにより、ハウジング15Aが基部11と回転方向に一体的な状態に連結される。
【0033】
それにより、オイルダンパ15は、上記第1の軸部13Aと一体的に溶接された可動部12が基部11に対して回転した際に、シャフト15Bとハウジング15Aとの間に相対回転を生じる負荷が入力されるようになっている。ここで、可動部12が、本発明の「一方」に相当し、基部11が、本発明の「他方」に相当する。また、脚部13A3が、本発明の「組付け部」に相当する。また、オイルダンパ15が、本発明の「熱影響部材」に相当する。
【0034】
第2の軸部13Bは、円柱形状の頭部13B1と、頭部13B1よりひとまわり大きな円柱形状を成すフランジ部13B2と、フランジ部13B2よりひとまわり小さな略円柱形状を成す脚部13B3とが、左側から右側に向かって軸方向に同心状に並ぶ形状とされる。頭部13B1は、第2の軸部13Bの左側の端部を成し、基部11の左側の外側板部11Cに右側から通されてブッシュ16Bを介して回転可能に支持される。ブッシュ16Bは、フランジ状の座を有した略円筒形状とされ、上記外側板部11Cに左側から通されて溶接されている(溶接部W)。
【0035】
フランジ部13B2は、可動部12の左側の内側板部12Cに軸方向に通されて溶接されている(溶接部W)。上記フランジ部13B2は、基部11の左側の外側板部11Cの右側面に当てられて、同外側板部11Cと可動部12の左側の内側板部12Cとの間に軸方向の隙間を確保するスペーサとして機能する。
【0036】
脚部13B3は、第2の軸部13Bの右側の端部を成し、第2の軸部13Bが可動部12の左側の内側板部12Cに溶接される位置にセットされた状態では、同内側板部12Cから右側へ延出する。上記脚部13B3には、その軸形状を径方向に2分割するように切り分けるスリット状の差込み孔13B4が形成されている。上記差込み孔13B4は、脚部13B3の右側の端部から左側の端部に亘って中心軸線上を通って軸方向に真っ直ぐ形成され、脚部13B3の右側の端部を右側に開口させる形状とされる。
【0037】
上記脚部13B3は、その差込み孔13B4内に2本のスパイラルスプリング14の内側の端部14Aが右側から差し込まれることにより、その周りに2本のスパイラルスプリング14が軸方向に並んだ状態にセットされる。詳しくは、上記組み付けにより、各スパイラルスプリング14の内側の端部14Aが、脚部13B3と回転方向に一体的となる状態に連結される。上記各スパイラルスプリング14は、
図1~
図3及び
図5に示すように、それらの外側の端部14Bが、上述した基部11に連結された引掛軸11Eに引掛けられて回転方向に一体的な状態に連結される。
【0038】
それにより、各スパイラルスプリング14は、第2の軸部13Bと一体的に溶接された可動部12に対し、常時、基部11に対して跳ね上げの回転方向への付勢力を作用させる構成とされる。
図4に示すように、各スパイラルスプリング14の間には、両者間の軸方向の隙間を確保する略円板形状のスペーサSが介設されている。同スペーサSも、その中心部が脚部13B3の差込み孔13B4に通されて、各スパイラルスプリング14の間にセットされている。ここで、上記脚部13B3が、本発明の「差込み部」に相当する。
【0039】
上記脚部13B3は、第2の軸部13Bが可動部12の左側の内側板部12Cに通されて溶接される位置にセットされることで、その右側の端部が第1の軸部13Aの脚部13A3の左側の端部に形成された円筒形状に凹む嵌合部13A4内に差し込まれる。それにより、第2の軸部13Bの脚部13B3が、第1の軸部13Aの脚部13A3により外周側から囲まれた状態に支持される。そしてそれにより、第2の軸部13Bの脚部13B3は、上記第1の軸部13Aの嵌合部13A4による外周側からの支持により、その差込み孔13B4の形成された右側の端部の開口の開きが抑えられる。
【0040】
(シートヒンジ機構10の組み付け手順について)
ところで、上記シートヒンジ機構10は、次の手順によって組み付けられている。すなわち、先ず、
図6に示すように、可動部12の右側の内側板部12Bに第1の軸部13Aのフランジ部13A2を通して溶接する(溶接部W)。同溶接により、第1の軸部13Aが可動部12の右側の内側板部12Bに一体的に結合され、その脚部13A3が右側の内側板部12Bから左側に延出した状態にセットされる。同状態では、脚部13A3の左側に延出した先の端部は、可動部12の左側の内側板部12Cまでは達しず、左側の内側板部12Cの右側面との間に軸方向の隙間Tが形成される。
【0041】
次に、上記隙間T内にオイルダンパ15を差し込んで、同オイルダンパ15の通し孔15B1を第1の軸部13Aの脚部13A3に左側から通してセットする。そしてその後に、
図4に示すように、第2の軸部13Bを可動部12の左側の内側板部12Cに差し込むと同時に、脚部13B3に2本のスパイラルスプリング14の内側の端部14Aをそれぞれ差し込んでセットする。そして、上記セット後に、第2の軸部13Bのフランジ部13B2を可動部12の左側の内側板部12Cに溶接する(溶接部W)。
【0042】
更に、上記可動部12に組み付けた第1の軸部13Aの頭部13A1を基部11の右側の外側板部11Bに差し込み、第2の軸部13Bの頭部13B1に基部11の左側の外側板部11Cを通してセットする。最後に、基部11の左側の外側板部11Cを基部11の底板部11Aに溶接する。以上の組み付けにより、可動部12が回転軸13を介して基部11に組み付けられる。
【0043】
上記のように、第1の軸部13Aが先に可動部12の右側の内側板部12Bに溶接されてからその脚部13A3にオイルダンパ15がセットされることで、第1の軸部13Aを可動部12に溶接するための溶接熱がオイルダンパ15に伝達されない。したがって、上記溶接熱の熱影響によってオイルダンパ15の粘性減衰性能が低下することを適切に防止することができる。
【0044】
(まとめ)
以上をまとめると、本実施形態に係るシートヒンジ機構10は、次のような構成となっている。すなわち、乗物用シート(1)を乗物本体(F)に起倒回転可能なように連結する乗物用シートヒンジ機構(10)である。
【0045】
この乗物用シートヒンジ機構(10)は、乗物本体(F)に固定される基部(11)と、乗物用シート(1)に固定される可動部(12)と、可動部(12)と基部(11)とに水平方向に通されてこれらのうちの一方(12)に溶接されると共に他方(11)に回転可能なように支持される回転軸(13)と、回転軸(13)に通されて可動部(12)に回転付勢力を作用させるスパイラルスプリング(14)と、回転軸(13)に通されてスパイラルスプリング(14)と軸方向に並ぶ熱影響部材(15)と、を有する。
【0046】
回転軸(13)が、一方(12)に溶接される第1の軸部(13A)と、第1の軸部(13A)の軸方向の一側に並んで一方(12)に溶接される第2の軸部(13B)と、に分割される。第1の軸部(13A)が、一方(12)に対する溶接状態かつ第2の軸部(13B)の非溶接状態において熱影響部材(15)を上記一側から通してセット可能な組付け部(13A3)を有する。
【0047】
上記構成によれば、回転軸(13)を第1の軸部(13A)と第2の軸部(13B)とに分割し、第1の軸部(13A)に一方(12)に溶接した状態から熱影響部材(15)をセットできる組付け部(13A3)を設けたことで、一方(12)に溶接される回転軸(13)に対し、熱影響部材(15)を入熱の影響なく組み付けることができる。
【0048】
また、第2の軸部(13B)に、スパイラルスプリング(14)が軸方向に通されてセットされる。上記構成によれば、熱影響部材(15)とスパイラルスプリング(14)とを第1の軸部(13A)と第2の軸部(13B)とに分けて組み付けることで、第1の軸部(13A)と第2の軸部(13B)のそれぞれの軸長を短く抑えることができる。
【0049】
また、上記一方(12)が、軸方向に対面する一対の内側板部(12B,12C)を有し、他方(11)が、一対の内側板部(12B,12C)に軸方向の外側から対面する一対の外側板部(11B,11C)を有する。第1の軸部(13A)が、片方の内側板部(12B)と外側板部(11B)とに軸方向に通され、第2の軸部(13B)が、もう片方の内側板部(12C)と外側板部(11C)とに軸方向に通される。スパイラルスプリング(14)と熱影響部材(15)とが、一対の内側板部(12B,12C)の間に配置される。
【0050】
上記構成によれば、スパイラルスプリング(14)と熱影響部材(15)とを一対の内側板部(12B,12C)間に収めたコンパクトな配置とすることができる。また、第1の軸部(13A)と第2の軸部(13B)とによって、基部(11)を可動部(12)に対して両端支持状に適切に連結することができる。
【0051】
また、第2の軸部(13B)が、スパイラルスプリング(14)の内側の端部(14A)を回り止め可能に差し込める差込み部(13B3)を有する。第1の軸部(13A)が、差込み部(13B3)を上記一側から内部に差し込んで嵌合させる筒状の嵌合部(13A4)を有する。
【0052】
上記構成によれば、第2の軸部(13B)にスパイラルスプリング(14)の内側の端部(14A)を合理的に組み付けることができる。なおかつ、上記スパイラルスプリング(14)の組み付けられた第2の軸部(13B)の差込み部(13B3)を、第1の軸部(13A)の嵌合部(13A4)に対して、高い構造強度を発揮できる状態に組み付けることができる。
【0053】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態のほか、以下に示す様々な形態で実施することができるものである。
【0054】
1.本発明の乗物用シートヒンジ機構は、鉄道等の自動車以外の車両や、航空機、船舶等の様々な乗物用に供されるシートにも広く適用することができるものである。また、乗物用シートヒンジ機構は、シートバックを前倒しした状態でシート全体を前方へ跳ね上げるタンブル機構として適用されるものの他、上記シートバックの前倒し状態でシート全体を側方へ跳ね上げるスペースアップ機構として適用されるものであっても良い。
【0055】
また、乗物用シートヒンジ機構は、シート全体ではなく、シートクッション単体を前後方向や側方へ跳ね上げるように構成されるものであっても良い。また、乗物用シートヒンジ機構は、シート全体をシートバックの前倒し状態ではなく後倒し状態で側方へ跳ね上げるように構成されるものであっても良い。
【0056】
2.基部が固定される乗物本体は、フロアの他、側壁であっても良い。また、可動部が固定される乗物用シートは、上述のようにシートクッションの他、シートバック等の他のシート構成部材であっても良い。回転軸の向きは、可動部の跳ね上げ方向に応じて適宜の水平方向に設定される。
【0057】
3.熱影響部材は、オイルダンパの他、溶接熱の入熱の影響によって性能劣化を生じ得る樹脂製のスペーサやゴム等の熱影響部材から成るものであっても良い。
【0058】
4.回転軸は、必ずしも第1の軸部と第2の軸部とが互いに軸方向に差し込まれて嵌合する構成となっていなくても良い。すなわち、第1の軸部と第2の軸部とは、互いに軸方向に離間して設けられる構成であっても良い。また、第1の軸部と第2の軸部との凹凸の嵌合構造は、どちら側に凸又は凹が設定される構成であっても良い。また、第1の軸部と第2の軸部との凹凸の嵌合構造は、凹凸の嵌合により回転方向に一体的となる嵌合であっても良い。
【0059】
5.回転軸は、基部(一方)に溶接されて可動部(他方)に回転可能なように支持される構成であっても良い。
【0060】
6.スパイラルスプリングは、1つ又は3つ以上設けられる構成であっても良い。また、第1の軸部は、オイルダンパ等の熱影響部材とスパイラルスプリングとが両方ともセットされる構成であっても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 シート(乗物用シート)
2 シートバック
3 シートクッション
3A クッションロック機構
10 シートヒンジ機構(乗物用シートヒンジ機構)
10A インナヒンジ
10B アウタヒンジ
11 基部(他方)
11A 底板部
11B 外側板部
11C 外側板部
11D パッチ
11D1 係止部
11E 引掛軸
11F 補強軸
12 可動部(一方)
12A 天板部
12B 内側板部
12C 内側板部
12C1 ストッパ
13 回転軸
13A 第1の軸部
13A1 頭部
13A2 フランジ部
13A3 脚部(組付け部)
13A4 嵌合部
13B 第2の軸部
13B1 頭部
13B2 フランジ部
13B3 脚部(差込み部)
13B4 差込み孔
14 スパイラルスプリング
14A 内側の端部
14B 外側の端部
15 オイルダンパ(熱影響部材)
15A ハウジング
15A1 係止ピン
15B シャフト
15B1 通し孔
16A ブッシュ
16B ブッシュ
F フロア(乗物本体)
W 溶接部
T 隙間
S スペーサ