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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ドラムブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 51/20 20060101AFI20221220BHJP
   F16D 65/06 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
F16D51/20
F16D65/06 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019074834
(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公開番号】P2020172971
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 陽敬
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-015193(JP,A)
【文献】特開2014-109312(JP,A)
【文献】特開2005-042782(JP,A)
【文献】特開2007-024194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転する円筒状のドラム本体と、
前記ドラム本体の内部において互いに対称的な位置に配置される円弧状の一対のシューウェブ、及び前記一対のシューウェブにおける前記ドラム本体の内周面と対向する部分に設けられているライニングを有する一対のブレーキシューと、
前記一対のシューウェブを前記ドラム本体の内周面に向けて押し出すことにより前記一対のブレーキシューの前記ライニングを前記ドラム本体の内周面に接触させる拡張機構と、を備え、
前記一対のシューウェブのそれぞれの両端が対向している部分のうち一方を第1対向部とし、前記一対のシューウェブのそれぞれの両端が対向している部分のうち他方を第2対向部とすると、前記一対のシューウェブの少なくとも一方は、前記第1対向部寄りに設けられている第1分割シューウェブと、前記第2対向部寄りに設けられている第2分割シューウェブとに分割されており、
1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブは、前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとの境界部分を中心として前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとを近接及び離間できるように前記境界部分に設けられる支持部材により接続され、
1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブには、前記支持部材を中心として前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとを近接及び離間させた状態で維持させる分割シュー距離調整機構が設けられ
前記分割シュー距離調整機構は、
1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブのそれぞれに接続され、先端部に雄ねじが設けられる棒状の接続部材と、
前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブのそれぞれに接続されている前記接続部材を連結する連結部材と、を備え、
前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブのそれぞれに接続される前記接続部材と、前記連結部材とは、同軸上に設けられ、
前記連結部材には、前記接続部材の前記先端部が挿通される挿通孔が設けられ、
前記挿通孔の内周面には、前記雄ねじが螺合される雌ねじが設けられていることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
車輪とともに回転する円筒状のドラム本体と、
前記ドラム本体の内部において互いに対称的な位置に配置される円弧状の一対のシューウェブ、及び前記一対のシューウェブにおける前記ドラム本体の内周面と対向する部分に設けられているライニングを有する一対のブレーキシューと、
前記一対のシューウェブを前記ドラム本体の内周面に向けて押し出すことにより前記一対のブレーキシューの前記ライニングを前記ドラム本体の内周面に接触させる拡張機構と、を備え、
前記一対のシューウェブのそれぞれの両端が対向している部分のうち一方を第1対向部とし、前記一対のシューウェブのそれぞれの両端が対向している部分のうち他方を第2対向部とすると、前記一対のシューウェブの少なくとも一方は、前記第1対向部寄りに設けられている第1分割シューウェブと、前記第2対向部寄りに設けられている第2分割シューウェブとに分割されており、
1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブは、前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとの境界部分を中心として前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとを近接及び離間できるように前記境界部分に設けられる支持部材により接続され、
1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブには、前記支持部材を中心として前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとを近接及び離間させた状態で維持させる分割シュー距離調整機構が設けられ
前記支持部材は、弾性力を有する弾性部材であることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項3】
車輪とともに回転する円筒状のドラム本体と、
前記ドラム本体の内部において互いに対称的な位置に配置される円弧状の一対のシューウェブ、及び前記一対のシューウェブにおける前記ドラム本体の内周面と対向する部分に設けられているライニングを有する一対のブレーキシューと、
前記一対のシューウェブを前記ドラム本体の内周面に向けて押し出すことにより前記一対のブレーキシューの前記ライニングを前記ドラム本体の内周面に接触させる拡張機構と、を備え、
前記一対のシューウェブのそれぞれの両端が対向している部分のうち一方を第1対向部とし、前記一対のシューウェブのそれぞれの両端が対向している部分のうち他方を第2対向部とすると、前記一対のシューウェブの少なくとも一方は、前記第1対向部寄りに設けられている第1分割シューウェブと、前記第2対向部寄りに設けられている第2分割シューウェブとに分割されており、
1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブは、前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとの境界部分を中心として前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとを近接及び離間できるように前記境界部分に設けられる支持部材により接続され、
1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブには、前記支持部材を中心として前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとを近接及び離間させた状態で維持させる分割シュー距離調整機構が設けられ
前記分割シュー距離調整機構は、
筒状の第1調整部材と、
前記第1調整部材の内部に嵌合される筒状の第2調整部材と、
位置決めピンと、を備え、
前記第1調整部材には、第1挿通孔が設けられ、
前記第2調整部材には、複数の第2挿通孔が設けられ、
前記第1調整部材が前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブのいずれか一方に固定され、且つ前記第2調整部材が前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブのいずれか他方に固定され、
全ての前記第2挿通孔のうち所定の前記第2挿通孔が前記第1挿通孔に重なった状態で前記位置決めピンを挿通することで前記第1調整部材と前記第2調整部材との位置関係を保持することを特徴とするドラムブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されるようなドラムブレーキが知られている。
上記のドラムブレーキは、車輪とともに回転するドラム本体としてのブレーキドラムと、ブレーキドラムの内部において互いに対称的な位置に配置される一対のシューウェブ、及び一対のシューウェブにおけるブレーキドラムの内周面と対向する部分に設けられているライニングを有する一対のブレーキシューとを備えている。また、ドラムブレーキは、一対のシューウェブをブレーキドラムの内周面に向けて押し出し、一対のブレーキシューのライニングをブレーキドラムの内周面に接触させる拡張機構としてのホイールシリンダを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-70335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ドラムブレーキにおいて、例えば一対のブレーキシューのライニングとブレーキドラムとの接触によりライニングの表面状態に変化が生じ、ドラム本体に作用する面圧が高くなってしまうことがある。そのため、ライニングとブレーキドラムとの間の摩擦力、及び車両の制動力が強くなってしまい、車両の制動時に急激にブレーキがかかる虞がある。
【0005】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、ドラム本体に作用する面圧を調整することができるブレーキ機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するドラムブレーキは、車輪とともに回転する円筒状のドラム本体と、前記ドラム本体の内部において互いに対称的な位置に配置される円弧状の一対のシューウェブ、及び前記一対のシューウェブにおける前記ドラム本体の内周面と対向する部分に設けられているライニングを有する一対のブレーキシューと、前記一対のシューウェブを前記ドラム本体の内周面に向けて押し出すことにより前記一対のブレーキシューの前記ライニングを前記ドラム本体の内周面に接触させる拡張機構と、を備え、前記一対のシューウェブのそれぞれの両端が対向している部分のうち一方を第1対向部とし、前記一対のシューウェブのそれぞれの両端が対向している部分のうち他方を第2対向部とすると、前記一対のシューウェブの少なくとも一方は、前記第1対向部寄りに設けられている第1分割シューウェブと、前記第2対向部寄りに設けられている第2分割シューウェブとに分割されており、1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブは、前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとの境界部分を中心として前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとを近接及び離間できるように前記境界部分に設けられる支持部材により接続され、1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブには、前記支持部材を中心として前記第1分割シューウェブと前記第2分割シューウェブとを近接及び離間させた状態で維持させる分割シュー距離調整機構が設けられている。
【0007】
これによれば、分割シュー距離調整機構により1つのブレーキシューが有する第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブを近接及び離間させた状態に維持させることができる。そのため、例えばライニングとドラム本体との間の摩擦力、ひいては制動力が強くなる場合、分割シュー距離調整機構により第1分割シューウェブと第2分割シューウェブとを近接させることで、ライニングがドラム本体の内周面に対して押し付けられる力が弱くなる。よって、ブレーキシューとドラム本体との間の面圧を小さくすることができる。また、例えばライニングとドラム本体との間の摩擦力、ひいては制動力が弱くなる場合、分割シュー距離調整機構により第1分割シューウェブと第2分割シューウェブとを離間させることで、ライニングがドラム本体の内周面に対して押し付けられる力が強くなる。よって、ブレーキシューとドラム本体との間の面圧を大きくすることができる。したがって、ドラム本体に作用する面圧を調整することができる。
【0008】
上記のドラムブレーキにおいて、前記分割シュー距離調整機構は、1つの前記ブレーキシューが有する前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブのそれぞれに接続され、先端部に雄ねじが設けられる棒状の接続部材と、前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブのそれぞれに接続されている前記接続部材を連結する連結部材と、を備え、前記第1分割シューウェブ及び前記第2分割シューウェブのそれぞれに接続される前記接続部材と、前記連結部材とは、同軸上に設けられ、前記連結部材には、前記接続部材の前記先端部が挿通される挿通孔が設けられ、前記挿通孔の内周面には、前記雄ねじが螺合される雌ねじが設けられているとよい。
【0009】
これによれば、1つのブレーキシューが有する第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブのそれぞれに接続されている接続部材と、第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブのそれぞれに接続されている接続部材を連結する連結部材とは、同軸上に設けられている。そして、接続部材の先端部と連結部材の挿通孔とは、雄ねじ及び雌ねじの構成により螺合されている。そのため、連結部材を接続部材の軸線を中心として所定方向に回転させることで接続部材の先端部が連結部材の挿通孔に対して挿入又は抜去される方向に移動する。例えば、接続部材の先端部が連結部材の挿通孔に対して挿入される方向に移動すると、第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブは、接続部材により連結部材に向けて近接する。よって、第1分割シューウェブと第2分割シューウェブとを近接させることができる。また、接続部材の先端部が連結部材の挿通孔に対して抜去される方向に移動すると、第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブは、接続部材により連結部材から離間する。よって、第1分割シューウェブと第2分割シューウェブとを離間させることができる。そして、接続部材の先端部と連結部材の挿通孔とは、雄ねじと雌ねじとが螺合される構成を有しているため、第1分割シューウェブと第2分割シューウェブとを近接及び離間させた状態で維持することができる。したがって、簡易的なねじの螺合の構成により第1分割シューウェブと第2分割シューウェブとを近接及び離間させることができる。
【0010】
上記のドラムブレーキにおいて、前記支持部材は、弾性力を有する弾性部材であるとよい。
例えば、分割シュー距離調整機構により第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブが近接及び離間させた状態に維持されている状態で、ドラムブレーキに外力が作用すると、第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブが近接及び離間させた状態を維持できないおそれがある。
【0011】
その点、これによれば、ドラムブレーキに作用した外力が第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブに伝達されたとしても弾性部材からなる支持部材により外力を吸収することができる。したがって、第1分割シューウェブ及び第2分割シューウェブの近接及び離間させた状態を維持しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、ドラム本体に作用する面圧を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ドラムブレーキの概略図。
図2】ドラムブレーキの面圧を示す概略図。
図3】分割シュー距離調整機構の断面図。
図4】分割シュー距離調整機構の作用を示した概略図。
図5】変更例における分割シュー距離調整機構の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ドラムブレーキを具体化した実施形態を図1図4にしたがって説明する。
図1に示すように、ドラムブレーキ10は、車両の制動力(ブレーキ力)を発生させる装置である。ドラムブレーキ10は、円筒状のドラム本体20と、一対のブレーキシュー30と、拡張機構40とを備えている。ドラム本体20は、車軸に固定されることで車輪とともに回転する。一対のブレーキシュー30は、ドラム本体20の内部において互いに対称的な位置に配置される板状の一対のシューウェブ31、及び一対のシューウェブ31におけるドラム本体20の内周面20aと対向する位置に設けられている円弧状のライニング32とを有している。拡張機構40は、一対のシューウェブ31をドラム本体20の内周面20aに向けて押し出すことにより一対のブレーキシュー30のライニング32をドラム本体20の内周面20aに接触させるホイールシリンダである。ホイールシリンダは、油圧機構41と、一対のシューウェブ31のそれぞれに接続される一対のロッド部42とを有している。ホイールシリンダは、車両のブレーキペダルが踏まれたとき、ホイールシリンダの油圧機構41に送り込まれた作動油により一対のロッド部42がドラム本体20の内周面20aに向けて延出するように構成されている。なお、車両に制動力を発生させない状況では、一対のブレーキシュー30のライニング32とドラム本体20の内周面20aとの間には隙間が形成されている。当該隙間を形成するために図示しないリターンスプリングが一対のブレーキシュー30をドラム本体20の内周面20aから離間するように常に復元力を発生させている。
【0015】
一対のシューウェブ31のそれぞれの両端が対向している部分のうち一方を第1対向部Aとし、一対のシューウェブ31のそれぞれの両端が対向している部分のうち他方を第2対向部Bとする。本実施形態では、第1対向部Aは一対のシューウェブ31のそれぞれが対向している部分のうち拡張機構40寄りに位置している部分である。一対のシューウェブ31は、第1対向部A寄りに設けられている第1分割シューウェブ31aと、第2対向部B寄りに設けられている第2分割シューウェブ31bとに分割されている。
【0016】
1つのブレーキシュー30が有する第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bは、その境界部分Tbに設けられている支持部材45により接続されている。支持部材45は、弾性力を有する弾性部材である。支持部材45は、具体的にウレタンゴム等の樹脂により構成されている。そのため、1つのブレーキシュー30が有する第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bは、境界部分Tbを中心として第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bを近接及び離間できるように支持部材45に支持されている。
【0017】
また、第1対向部Aにおいて、一対のブレーキシュー30のそれぞれが有する第1分割シューウェブ31aの端部が対向している。一対のブレーキシュー30が有する第1分割シューウェブ31aの端部同士は、アンカーピン80により互いに接続されている。また、第2対向部Bにおいて、一対のブレーキシュー30のそれぞれが有する第2分割シューウェブ31bの端部が対向している。一対のブレーキシュー30が有する第2分割シューウェブ31bの端部のそれぞれは、アンカーブロック81に接触している。
【0018】
次に、ドラムブレーキ10の動作について図2にしたがって説明する。なお、図2に説明の便宜上、ドラム本体20の内周面20aに作用する面圧の大きさを記載している。面圧の大きさは、拡張機構40の一対のロッド部42の延出量によって変化するが、図2に示す面圧の大きさは、車両のブレーキペダルが踏み込まれてドラム本体20の内周面20aに十分に面圧が作用している状態を一例として記載している。
【0019】
図2に示すように、車両のブレーキペダルが踏まれて拡張機構40が作動する。拡張機構40が一対のロッド部42が一対のシューウェブ31をドラム本体20の内周面20aに向けて押し出す。このとき、拡張機構40の一対のロッド部42は、上述した図示しないリターンスプリングの復元力に抗するように一対のシューウェブ31をドラム本体20の内周面20aに向けて押し出す。そして、一対のブレーキシュー30は、第1分割シューウェブ31a同士を接続しているアンカーピン80を中心としてドラム本体20の内周面20aに向けて回動するように押し広げられる。一対のブレーキシュー30の第2分割シューウェブ31bの端部は、アンカーブロック81から離間する。一対のブレーキシュー30のライニング32がドラム本体20の内周面20aに接触した段階でドラム本体20の内周面20aに面圧(図2の網掛けの領域)が作用する。ドラム本体20は車輪とともに回転するため、ドラム本体20の内周面20aとの間に摩擦力が作用する。当該摩擦力が車両の制動力(ブレーキ力)となる。
【0020】
ここで、ドラムブレーキ10において、例えば一対のブレーキシュー30のライニング32とドラム本体20との接触によりライニング32の表面状態に変化が生じ、面圧が高くなってしまうことがある(図2の白抜きの領域)。そのため、ライニング32とドラム本体20との間の摩擦力、及び車両の制動力が強くなってしまい、車両の制動時に急激にブレーキがかかる虞がある。本実施形態では、上記課題に鑑みてブレーキシューとドラム本体との間の面圧を調整することができる構成として分割シュー距離調整機構50が採用されている。なお、本実施形態では、一対のブレーキシュー30がそれぞれ有するライニング32の両方によりドラム本体20の内周面20aに作用させる面圧が高くなったときを前提としている。
【0021】
分割シュー距離調整機構50は、一対のブレーキシュー30のそれぞれに設けられている。分割シュー距離調整機構50は、1つのブレーキシュー30が有する第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bのそれぞれに接続される棒状の接続部材51と、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bのそれぞれに接続されている接続部材51を連結する連結部材52とを備えている。接続部材51は、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bに接続される固定部51aを有している。固定部51aは、例えば第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bの板厚方向を貫通するように設けられた固定孔に対して嵌め込まれるフック状の鉤部である。
【0022】
図3に示すように、分割シュー距離調整機構50の接続部材51と連結部材52とは、同軸上に設けられている。接続部材51の先端部51bには、雄ねじ51cが設けられている。連結部材52は、円筒状をなしている。連結部材52は、接続部材51の先端部51bが挿通される挿通孔52aが設けられている。挿通孔52aにおいて、連結部材52の両端部の内周面には、雌ねじ52bが設けられている。すなわち、接続部材51の先端部51bの雄ねじ51cと、連結部材52の挿通孔52aの雌ねじ52bとは互いに螺合している。また、本実施形態では、接続部材51及び連結部材52の軸線が延びる方向において、接続部材51の先端部51bにおける雄ねじ51cが設けられている範囲の長さは、連結部材52の挿通孔52aにおける雌ねじ52bが設けられている範囲の長さと同じである。そして、接続部材51の先端部51bの一部が連結部材52の挿通孔52aに挿通された状態に維持されている。そのため、分割シュー距離調整機構50において、連結部材52を接続部材51の軸線を中心として所定方向に回転させることで、接続部材51の先端部51bが連結部材52の挿通孔52aの内部に進入又は抜去される。
【0023】
図4に示すように、分割シュー距離調整機構50は、連結部材52の回転方向に応じて支持部材45を中心として第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接及び離間させた状態で維持させる。本実施形態では、図2にて説明したように、ドラム本体20の内周面20aに作用させる面圧が高くなったときを前提としているため、接続部材51の先端部51bが連結部材52の挿通孔52aに対して挿入される方向に連結部材52を回転させる。このようにすることで、第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとが支持部材45を中心として近接した状態に維持される。第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接させた状態にすることで、第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接させる前の状態(図4の二点鎖線で示す)と比較して、ライニング32の位置がドラム本体20の内周面20aから離間した位置に移動する(図4の実線で示す)。
【0024】
また、分割シュー距離調整機構50の連結部材52を回転させることで第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接及び離間させるタイミングとしては、車両が走行する前の状況、すなわちドラム本体20が回転していないタイミングである。分割シュー距離調整機構50により第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとの近接及び離間させる頻度は、ドラムブレーキ10のライニング32の表面状態や車両の制動力の発生状態に応じて適宜変更してもよい。なお、図3にて説明した接続部材51の先端部51bの一部が連結部材52の挿通孔52aに挿通された状態とは、第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接及び離間させる前の状態を前提としている。
【0025】
本実施形態では以下の作用及び効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、分割シュー距離調整機構50により1つのブレーキシュー30が有する第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bを近接及び離間させた状態に維持させることができる。そのため、例えばライニング32とドラム本体20との間の摩擦力、ひいては制動力が強くなる場合、分割シュー距離調整機構50により第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接させることで、ライニング32がドラム本体20の内周面20aに対して押し付けられる力が弱くなる。よって、ブレーキシュー30とドラム本体20との間の面圧を小さくすることができる。また、例えばライニング32とドラム本体20との間の摩擦力、ひいては制動力が弱くなる場合、分割シュー距離調整機構50により第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを離間させることで、ライニング32がドラム本体20の内周面20aに対して押し付けられる力が強くなる。よって、ブレーキシュー30とドラム本体20との間の面圧を大きくすることができる。したがって、ドラム本体20に作用する面圧を調整することができる。
【0026】
(2)本実施形態では、1つのブレーキシュー30が有する第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bのそれぞれに接続されている接続部材51と、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bのそれぞれに接続されている接続部材51を連結する連結部材52とは、同軸上に設けられている。そして、接続部材51の先端部51bと連結部材52の挿通孔52aとは、雄ねじ51c及び雌ねじ52bの構成により螺合されている。そのため、連結部材52を接続部材51の軸線を中心として所定方向に回転させることで接続部材51の先端部51bが連結部材52の挿通孔52aに対して挿入又は抜去される方向に移動する。例えば、接続部材51の先端部51bが連結部材52の挿通孔52aに対して挿入される方向に移動すると、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bは、接続部材51により連結部材52に向けて近接する。よって、第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接させることができる。また、接続部材51の先端部51bが連結部材52の挿通孔52aに対して抜去される方向に移動すると、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bは、接続部材51により連結部材52から離間する。よって、第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを離間させることができる。そして、接続部材51の先端部51bと連結部材52の挿通孔52aとは、雄ねじ51cと雌ねじ52bとが螺合される構成を有しているため、第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接及び離間させた状態で維持することができる。したがって、簡易的なねじの螺合の構成により第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接及び離間させることができる。
【0027】
(3)例えば、分割シュー距離調整機構50により第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bが近接及び離間させた状態に維持されている状態で、ドラムブレーキ10に外力が作用すると、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bが近接及び離間させた状態を維持できないおそれがある。
【0028】
その点、本実施形態では、ドラムブレーキ10に作用した外力が第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bに伝達されたとしても弾性部材からなる支持部材45により外力を吸収することができる。したがって、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bの近接及び離間させた状態を維持しやすくすることができる。
【0029】
(4)本実施形態では、(1)に記載するようにブレーキシュー30とドラム本体20との面圧を調整できる。よって、例えばドラム本体20の内周面20aに作用する面圧が高くなり、車両の制動力が急激に大きくなる状況や、制動力を発生させたときのブレーキ鳴きが発生する状況となったときにおいても、ブレーキシュー30とドラム本体20との間の面圧を分割シュー距離調整機構50により抑制できる。したがって、車両の制動時における制動力の急激な増加やブレーキ鳴きを抑制することができる。
【0030】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
〇 支持部材45は、弾性部材であったが、例えば第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとをピン等で接続するようにしてもよい。この場合、ピンは第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとが互いに近接及び離間できるように第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bを支持する。
【0031】
〇 分割シュー距離調整機構50において、接続部材51の先端部51bにおける雄ねじ51cが設けられている範囲の長さは、連結部材52の挿通孔52aにおける雌ねじ52bが設けられている範囲の長さと同じであったが、これに限らない。例えば、接続部材51の先端部51bにおける雄ねじ51cが設けられている範囲の長さを、連結部材52の挿通孔52aにおける雌ねじ52bが設けられている範囲の長さよりも短くしてもよい、又は長くしてもよい。第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとを近接及び離間させる前の状態を前提として、接続部材51の先端部51bの一部が連結部材52の挿通孔52aに挿通された状態に維持されていればどのように変更してもよい。
【0032】
〇 分割シュー距離調整機構50は、接続部材51と連結部材52とにより構成されていたが、これに限らない。例えば、以下のように変更してもよい。
図5に示すように、分割シュー距離調整機構50は、円筒状の第1調整部材61と、第1調整部材61の内部に嵌合される円筒状の第2調整部材62と、第1調整部材61と第2調整部材62との位置関係を保持する位置決めピン63とを備えるように変更してもよい。第2調整部材62は、第1調整部材61に対して挿抜自在に設けられている。第1調整部材61の先端部には、第1調整部材61の内部と外部とを連通する第1挿通孔61aが設けられている。第2調整部材62には、第2調整部材62の内部と外部とを連通する複数の第2挿通孔62aが設けられている。複数の第2挿通孔62aは、第2調整部材62を第1調整部材61の内部を挿抜させたときに第1挿通孔61aに連通するように配置されている。図示しない第1調整部材61及び第2調整部材62の端部は、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bのいずれかに固定されている。このように構成された分割シュー距離調整機構50では、第2調整部材62を第1調整部材61の内部に挿抜することで第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bを近接及び離間させる。そして、複数の第2挿通孔62aのうち所定の第2挿通孔62aが第1挿通孔61aに重なったときに位置決めピン63を第1挿通孔61aと所定の第2挿通孔62aとに挿通することで第1調整部材61と第2調整部材62との位置を維持する。そのため、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bを近接及び離間させた状態に維持することができる。このように変更しても本実施形態と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0033】
〇 また、分割シュー距離調整機構50は、1つのブレーキシュー30が有する第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bをワイヤーにより接続し、当該ワイヤー長さを調整する調整部を備える構成に変更してもよい。調整部は、例えばワイヤーを巻取可能な構成である。このように変更すると、接続部材51に変えてワイヤーを採用するため、分割シュー距離調整機構50の軽量化、ひいてはドラムブレーキ10の軽量化を実施できる。
【0034】
〇 本実施形態では、一対のシューウェブ31の両方が第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bに分割されていたが、これに限らない。例えば、一対のシューウェブ31の一方のみが第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bに分割される構成にしてもよい。そして、第1分割シューウェブ31a及び第2分割シューウェブ31bを本実施形態及び上記変更例における分割シュー距離調整機構により接続するとよい。
【0035】
〇 本実施形態では、第2対向部Bにおいて、アンカーブロック81を採用していたが、例えば一般的に知られている一対のシューウェブ31の間の距離を調整する調整機構を採用してもよい。本変更例の調整機構により一対のシューウェブ31の間の距離を調整すると、一対のブレーキシュー30のライニング32がドラム本体20の内周面20aに対して近接及び離間させることができるため、ブレーキシュー30とドラム本体20との面圧を調整することができる。しかし、車両の使用状況によっては車両の前進後退の頻度が異なり、一対のブレーキシュー30のそれぞれのライニング32のうち一方のみの表面性状に変化が生じることが考えられる。すなわち、本変更例の調整機構では、調整の必要のないライニング32についても意図せずドラム本体20の内周面20aに近接及び離間させてしまう虞がある。その点、本実施形態では、本変更例の調整機構を用いて一対のブレーキシュー30の間の距離を調整したとしても分割シュー距離調整機構50のいずれか一方で更に調整し直すことができる。本変更例の調整機構と、分割シュー距離調整機構50とを併用することでより細やかに第1分割シューウェブ31aと第2分割シューウェブ31bとの近接及び離間を調整することができる。
【0036】
〇 本実施形態は、第1分割シューウェブ31aの端部同士をアンカーピン80により接続しているが、割愛してもよい。この場合、拡張機構40が第1分割シューウェブ31aの端部同士を接続する機能を有することが好ましい。
【0037】
〇 拡張機構40は、ホイールシリンダであったが、例えば一般的に知られているカム機構に変更してもよい。
〇 本実施形態のドラムブレーキ10は、あらゆるドラムブレーキに変更することができる。例えば、リーディングトレーディング式のドラムブレーキ、デュオサーボ式のドラムブレーキ、デュアルツーリーディング式のドラムブレーキ等である。
【符号の説明】
【0038】
10…ドラムブレーキ、20…ドラム本体、20a…ドラム本体の内周面、30…ブレーキシュー、31…シューウェブ、31a…第1分割シューウェブ、31b…第2分割シューウェブ、32…ライニング、40…拡張機構、45…支持部材、50…分割シュー距離調整機構、51…接続部材、51b…接続部材の先端部、51c…雄ねじ、52…連結部材、52a…挿通孔、52b…雌ねじ、A…第1対向部、B…第2対向部、Tb…境界部分。
図1
図2
図3
図4
図5