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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/41 20060101AFI20221220BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20221220BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20221220BHJP
【FI】
G01S7/41
G01S13/34
G01S13/931
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019074875
(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公開番号】P2020173163
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤津 聖也
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-098571(JP,A)
【文献】特開2014-106120(JP,A)
【文献】特開2008-128946(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0153447(US,A1)
【文献】特開2006-007818(JP,A)
【文献】特開2014-139536(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007828(WO,A1)
【文献】特開2017-090066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種類以上の変調方式を用い、予め設定された処理サイクル毎に、各変調方式による変調波をレーダ波として送受信することで得られる信号を解析することで、周波数を座標軸とする1次元スペクトラム及び周波数及び方位を座標軸とする2次元スペクトラムのうち少なくとも一方を、前記変調方式毎に生成するように構成されたスペクトラム生成部(70:S110~S160)と、
前記スペクトラム生成部にて生成される複数のスペクトラムから同一物標に基づくと推定されるピークの組み合わせを一つ以上抽出し、抽出された前記ピークの組み合わせ毎に、該ピークが有する情報から算出される距離及び方位を含む瞬時値を生成するように構成された瞬時値生成部(70:S170~S180)と、
前回の処理サイクルまでに生成された物標及び物標候補と前記瞬時値生成部にて生成された前記瞬時値との履歴接続の有無を判定することで、前記物標及び前記物標候補を生成及び消滅させるように構成された接続判定部(70:S190)と、
前記接続判定部にて前記物標及び前記物標候補である物標等との履歴接続が確認された前記瞬時値である接続瞬時値のそれぞれについて、前記接続瞬時値に対応づけられる情報、及び前記接続判定部にて前記接続瞬時値との履歴接続が確認された前記物標及び前記物標候補である物標等に対応づけられる情報のうち少なくとも一方を用いて、予め決められた一種類以上の特徴量を抽出するように構成された特徴量抽出部(70:S330~S380)と、
前記特徴量毎に予め生成された虚像分布及び実像分布が記憶される分布記憶部(72)と、
前記接続判定部にて生成される前記物標等毎に、該物標等に関する前記特徴量抽出部での抽出結果を用いて、前記虚像分布から虚像確率と前記実像分布から実像確率とをそれぞれ算出し、算出された前記虚像確率と前記実像確率とを統合した結果に従って、前記物標等が虚像であるか否かを判定するように構成された虚像判定部(70:S390~S410)と、
を備え、
前記虚像分布は、前記特徴量が与えられたときに、該特徴量の抽出元が虚像である確率を表す分布であり、
前記実像分布は、前記特徴量が与えられたときに、該特徴量の抽出元が実像である確率を表す分布であり、
前記虚像は、アンビギュイティにより実際より近い位置で検出される瞬時値であり、
前記実像は、実際の位置で検出される瞬時値であり、
前記特徴量は、前記虚像分布と前記実像分布とが異なった分布形状を有するものが用いられる、
レーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記変調方式には、FMCW変調が少なくとも含まれ、
前記スペクトラム生成部は、前記FMCW変調におけるアップチャープ及びダウンチャープを異なる変調方式として、それぞれについて前記2次元スペクトラムを生成する
レーダ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ装置であって、
前記スペクトラム生成部は、前記アップチャープ及び前記ダウンチャープ毎にFFTを実行することで周波数ビンが距離及び相対速度に対応するスペクトラムであるUP-FFTスペクトラム及びDN-FFTスペクトラムを前記1次元スペクトラムとして生成し、前記UP-FFTスペクトラム及びDN-FFTスペクトラムをそれぞれ前記周波数ビン毎に方位展開することで、前記アップチャープの2次元スペクトラムであるUPスペクトラム及び前記ダウンチャープの2次元スペクトラムであるDNスペクトラムを生成するように構成された、
レーダ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーダ装置であって、
前記瞬時値生成部にて生成される前記瞬時値には、前記DNスペクトラム上のピークと、前記UPスペクトラム上のピークとが少なくとも含まれ、
前記特徴量抽出部は、前記DNスペクトラム上のピークの信号レベルから、前記UPスペクトラム上のピークに対応する前記UP-FFTスペクトラム上のピークの信号レベルを減算した値を、前記特徴量の一つとして抽出する
レーダ装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のレーダ装置であって、
前記瞬時値生成部にて生成される前記瞬時値には、前記U P スペクトラム上のピークが少なくとも含まれ、
前記特徴量抽出部は、前記UPスペクトラム上のピークの信号レベルを、前記特徴量の一つとして抽出する
レーダ装置。
【請求項6】
請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載のレーダ装置であって、 前記瞬時値生成部にて生成される瞬時値には、前記DNスペクトラム上のピークが少なくとも含まれ、
前記特徴量抽出部は、前記DNスペクトラム上のピークの信号レベルを、前記特徴量の一つとして抽出する
レーダ装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のレーダ装置であって、
当該レーダ装置は移動体に搭載され、前記移動体が直進する方向とは直交する方向における位置を横位置として、
前記特徴量抽出部は、前記物標等の横位置を、前記特徴量の一つとして抽出する
レーダ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のレーダ装置であって、
前記物標等の移動方向及び移動速度から推定される、前記物標等が前記移動体まで到達した時の横位置を到達横位置として、
前記特徴量抽出部は、前記物標等の到達横位置を、前記特徴量の一つとして抽出する
レーダ装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のレーダ装置であって、
前記特徴量が複数用いられ、
前記虚像判定部は、着目する前記物標等を着目物標等として、前記着目物標等に対応づけられた前記特徴量毎に算出される前記虚像確率及び前記実像確率を、ナイーブベイズにより統合した統合虚像確率を用いて、前記着目物標等が虚像であるか否かを判定するように構成された、
レーダ装置。
【請求項10】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のレーダ装置であって、
前記特徴量が複数用いられ、
前記虚像判定部は、着目する前記物標等を着目物標等として、前記着目物標等に対応づけられたすべての前記特徴量についての前記虚像確率を合成した合成虚像確率と、前記着目物標等に対応づけられたすべての前記特徴量について前記実像確率を合成した合成実像確率との比であるベイズ比を用いて、前記着目物標等が虚像であるか否かを判定するように構成された、
レーダ装置。
【請求項11】
請求項10に記載のレーダ装置であって、
前記虚像判定部は、前記ベイズ比に対して、値の急激な変化を抑制するフィルタ処理を施し、前記フィルタ処理後のベイズ比を用いて、前記着目物標等が虚像であるか否かを判定するように構成された、
レーダ装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載のレーダ装置であって、
前記分布記憶部には、前記物標等までの距離に対応づけて、前記特徴量毎に、複数種類の前記虚像分布及び前記実像分布が記憶され、
前記虚像判定部は、前記瞬時値から特定される前記物標等までの距離に応じて選択された前記虚像分布及び前記実像分布を用いて、前記虚像確率及び前記実像確率を算出するように構成された、
レーダ装置。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載のレーダ装置であって、
前記変調方式には、受信信号から、位相折返しによる曖昧さを有した情報が検出される変調が少なくとも含まれる
レーダ装置。
【請求項14】
請求項13に記載のレーダ装置であって、
前記変調方式には、多周波CW変調又はFCM変調が少なくとも含まれる
レーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体に搭載されるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるレーダ装置として、2周波CW(以下、2FCW)等のように、信号の位相差、換言すれば差信号の位相を利用して距離を算出する方式が知られている。位相を利用して求められる距離は、位相折返しによる曖昧性(以下、アンビギュイティ)が含まれる。具体的には、検出された位相がθである場合、実際の位相はθ+2π・n(nは整数)である可能性があり、これを区別できない。つまり、信号の位相が1回転する距離が検知上限距離となり、検知上限距離より遠くに位置するターゲットは、位相折返しによって、検知上限距離内の距離として誤検出される。
【0003】
これに対して、特許文献1には、アンビギュイティを有するレーダ方式と、アンビギュイティを生じないFMCW方式とを併用し、各方式での検出結果を、マッチングすることで、精度の高い測定結果を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-3873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者等の詳細な検討の結果、特許文献1に記載の従来技術には、以下の課題があることが見出された。即ち、従来技術を適用して2FCW及びFCM等のアンビギュイティを有するレーダ方式とFMCWとを組み合わせた車載レーダ装置では、2FCWでの検出結果と、FMCWでの検出結果をマッチングする際に、方位や電力を指標として、これらの指標が近いもの同士をマッチングする。
【0006】
2FCWにおいて距離の折返しが生じるような遠距離ターゲットからの反射波は、通常であれば、電波の拡散により電力が小さくなるため、電力の違いによって、FMCWでの検出結果とのミスマッチングが抑制される。
【0007】
ところが、トンネル等の壁面に囲われた空間では、遠距離ターゲットからの反射波は、拡散せずに壁面で繰り返し反射されて伝搬されるため、十分に減衰されずに受信される。しかも、まっすぐな形状のトンネル内では、近距離に位置する天井からの反射波も、遠方のターゲットからの反射波もほぼ真後ろから到来するため、両者は、略同一方位で検出される。
【0008】
つまり、2FCWで検出される遠距離ターゲットからの反射波、すなわち、アンビギュイティにより実際より近い位置で検出される虚像と、トンネルの天井などからの反射波とは、方位も電力も類似するため、ミスマッチングが生じる場合がある。その結果、実際より近い位置で検出される虚像の位置が、実際のターゲットの位置として誤検出されることで、誤警報の発生等、運転支援制御を誤作動させる原因となる。
【0009】
本開示の1つの局面は、レーダ装置において、測定結果のアンビギュイティに基づく誤検出を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様は、レーダ装置であって、スペクトラム生成部(70:S110~S160)と、瞬時値生成部(70:S170~S180)と、接続判定部(70:S190)と、特徴量抽出部(70:S330~S380)と、分布記憶部(72)と、虚像判定部(70:S390~S420)と、を備える。スペクトラム生成部は、1種類以上の変調方式を用い、予め設定された処理サイクル毎に、各変調方式による変調波をレーダ波として送受信することで得られる信号を解析することで、1次元スペクトラム及び2次元スペクトラムのうち少なくとも一方を生成する。瞬時値生成部は、変調方式毎に生成される1次元スペクトラム及び2次元スペクトラムのうち少なくとも一方からピークを抽出することで、一つ以上の瞬時値を生成する。接続判定部は、前回の処理サイクルまでに生成された物標及び物標候補と瞬時値生成部にて生成された瞬時値との履歴接続の有無を判定することで、物標及び物標候補を生成及び消滅させる。特徴量抽出部は、瞬時値生成部にて生成された瞬時値に対応づけられる情報、及び接続判定部にて生成された前記物標及び物標候補である物標等に対応づけられる情報のうち少なくとも一方を用いて、予め決められた一種類以上の特徴量を抽出する。分布記憶部には、特徴量毎に予め生成された虚像分布及び実像分布が記憶される。虚像判定部は、接続判定部にて生成される物標等毎に、該物標等に関する特徴量抽出部での抽出結果を用いて、虚像分布から虚像確率と実像分布から実像確率とをそれぞれ算出する。更に、虚像判定部は、算出された虚像確率と実像確率とを統合した結果に従って、物標等が虚像であるか否かを判定する。虚像分布は、特徴量が与えられたときに、特徴量の抽出元が虚像である確率を表す分布である。実像分布は、特徴量が与えられたときに、特徴量の抽出元が実像である確率を表す分布である。特徴量は、虚像分布と実像分布とが異なった分布形状を有するものが用いられる。
【0011】
このような構成によれば、物標等が虚像であるか否かを、物標等の特徴量及び該物標等との履歴接続がある瞬時値の特徴量を用いて判定するため、判定精度を向上させることができる。その結果、瞬時値のアンビギュイティによって発生する虚像が、実像として誤検出されることを抑制できる。なお、1次元スペクトラム及び2次元スペクトラムの座標軸に対応づけられる物理量は、変調方式によって異なる。1次元スペクトラムの座標軸は、例えば、2FCWでは相対速度に対応づけられ、FMCWでは距離及び相対速度に対応づけられる。また、2次元スペクトラムの座標軸は、例えば、2FCWでは相対速度と方位とに対応づけられ、FMCWでは、距離及び相対速度と方位とに対応づけられ、FCMでは、距離と相対速度とに対応づけられる。なお、FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略であり、CWは、Continuous Waveの略であり、FCMは、Fast-Chirp Modulationの略である。2FCWの2Fは、2つの周波数という意味である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】車載システムの構成を示すブロック図である。
図2】使用するレーダ波の変調方式に関する説明図である。
図3】物標検出処理のフローチャートである。
図4】物標検出処理で生成されるFFTスペクトラムや方位展開された2次元スペクトラムを例示する説明図である。
図5】第3特徴量である横位置及び第4特徴量である到達横位置を示す説明図である。
図6】実像分布及び虚像分布の生成に関する説明図である。
図7】第1特徴量の実像分布及び虚像分布を、長距離用及び近距離用について示すグラフである。
図8】第2特徴量の実像分布及び虚像分布を、長距離用及び近距離用について示すグラフである。
図9】第3特徴量の実像分布及び虚像分布を、長距離用及び近距離用について示すグラフである。
図10】第4特徴量の実像分布及び虚像分布を、長距離用及び近距離用について示すグラフである。
図11】第5特徴量の実像分布及び虚像分布を示すグラフである。
図12】第1実施形態における虚像判定処理のフローチャートである。
図13】第2実施形態における虚像判定処理のフローチャートである。
図14】処理対象の物標等が実像である場合に算出された統合虚像確率と、フィルタ処理前及びフィルタ処理後のログベイズ比とを処理サイクル毎にプロットしたグラフである。
図15】処理対象の物標等が虚像である場合に算出された統合虚像確率と、フィルタ処理前及びフィルタ処理後のログベイズ比とを処理サイクル毎にプロットしたグラフである。
図16】他の特徴量の実像分布及び虚像分布を、長距離用及び近距離用について示すグラフである。
図17】他の特徴量の実像分布及び虚像分布を、長距離用及び近距離用について示すグラフである。
図18】他の特徴量の実像分布及び虚像分布を、長距離用及び近距離用について示すグラフである。
図19】他の特徴量の実像分布及び虚像分布を、長距離用及び近距離用について示すグラフである。
図20】物標等が実像である場合及び虚像である場合について、2種類の特徴量に対する分布を示すと共に、特徴量の設定の仕方により実像分布及び虚像分布の形状が異なることを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
車載システム1は、図1に示すように、レーダ装置10と運転支援ECU100とを備える。ECUは、Electronic Control Unitの略である。この車載システム1は、移動体である四輪自動車等の車両に搭載される。レーダ装置10は、例えば、車両の後端かつ左右端のそれぞれに取り付けられ、レーダ装置10の検知範囲内に車両の直進方向に沿った後方向、及び直進方向に直交する横方向が含まれるように配置される。レーダ装置10が搭載された車両を自車ともいう。
【0014】
レーダ装置10は、レーダ波を発射して反射波を受信し、その受信信号に基づいて、レーダ波を反射した物標までの距離R、物標の速度V、物標の方位θを観測する。レーダ装置10は、これらの観測値(R,V,θ)から、横位置x、縦位置y、横速度Vx、縦速度Vyの推定値を算出し、これら推定値(x,y,Vx,Vy)を運転支援ECU100に入力する。なお、横位置xは、車載システム1を搭載する車両の車幅方向に沿った位置であり、縦位置yは、車両の進行方向に沿った位置である。
【0015】
運転支援ECU100は、レーダ装置10から入力される各物標の推定値(x,y,Vx,Vy)に基づいて、運転者による車両の運転を支援するための各種処理を実行する。運転支援に関する処理としては、例えば、接近物があることを運転者に警報を発する処理や、ブレーキシステムやステアリングシステム等を制御することにより、接近物との衝突回避のための車両制御を実行する処理等がある。
【0016】
レーダ装置10は、送信回路20と、分配器30と、送信アンテナ40と、受信アンテナ50と、受信回路60と、処理ユニット70と、出力ユニット80とを備える。
送信回路20は、送信アンテナ40に送信信号Ssを供給するための回路である。送信回路20は、ミリ波帯の高周波信号を、送信アンテナ40の上流に位置する分配器30に入力する。具体的に、送信回路20は、図2に示すように、予め設定された処理サイクルごとに、周波数が三角波状に増加、減少するように周波数変調された高周波信号を生成する第1変調期間と、周波数が交互に切り替わる高周波信号を生成する第2変調期間とを交互に繰り返し、生成された高周波信号を分配器30に入力する。なお、処理サイクルは、第1変調期間と第2変調期間との合計期間より長く設定されており、第2変調期間の終了後、次の処理サイクルの第1変調期間が始まるまでの期間を処理期間という。
【0017】
つまり、レーダ装置10は、第1変調期間では第1変調波としてFMCWを送受信するFMCWレーダとして動作し、第2変調期間では第2変調波として2周波CW(以下、2FCW)を送信する2FCWレーダとして動作する。なお、2FCWで使用される2つの周波数は、所定の上限距離(例えば、150m)の範囲で、距離を一意に測定できるように設定される。2FCWで使用する周波数が異なる二つの信号を、以下では、第1信号及び第2信号という。また、FMCWの波形は、上限距離より十分に長い距離の範囲で、距離を一意に特定できるように設定される。
【0018】
図1に戻り、分配器30は、送信回路20から入力される高周波信号を、送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する。
送信アンテナ40は、分配器30から供給される送信信号Ssに基づいて、送信信号Ssに対応する周波数のレーダ波を発射する。
【0019】
受信アンテナ50は、物標にて反射されたレーダ波である反射波を受信するためのアンテナである。この受信アンテナ50は、複数のアンテナ素子51が一列に配置されたリニアアレーアンテナとして構成される。各アンテナ素子51による反射波の受信信号Srは、受信回路60に入力される。
【0020】
受信回路60は、受信アンテナ50を構成する各アンテナ素子51から入力される受信信号Srを処理して、アンテナ素子51毎のビート信号BTを生成し出力する。具体的に、受信回路60は、アンテナ素子51毎に、当該アンテナ素子51から入力される受信信号Srと分配器30から入力されるローカル信号Lとをミキサ61を用いて混合することにより、アンテナ素子51毎のビート信号BTを生成して出力する。
【0021】
但し、ビート信号BTを出力するまでの過程には、受信信号Srを増幅する過程、ビート信号BTから不要な信号成分を除去する過程、及び、ビート信号BTをデジタルデータに変換する過程が含まれる。このように、受信回路60は、生成したアンテナ素子51毎のビート信号BTをデジタルデータに変換して出力する。出力されたアンテナ素子51毎のビート信号BTは、処理ユニット70に入力される。以下では、第1変調期間に取得されるビート信号BTのA/D変換データを第1変調データ、第2変調期間に取得されるビート信号BTのA/D変換データを第2変調データという。
【0022】
処理ユニット70は、CPU71と、例えば、RAM又はROM等の半導体メモリ(以下、メモリ72)と、を有するマイクロコンピュータを備える。処理ユニット70の各機能は、CPU71が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ72が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムが実行されることで、プログラムに対応する方法が実行される。なお、処理ユニット70は、1つのマイクロコンピュータを備えてもよいし、複数のマイクロコンピュータを備えてもよい。また、処理ユニット70は、高速フーリエ変換(以下、FFT)処理等を実行するコプロセッサを備えてもよい。
【0023】
処理ユニット70は、アンテナ素子51毎のビート信号BTを解析することにより、レーダ波を反射した物標毎の推定値(x,y,Vx,Vy)を算出する物標検出処理を少なくとも実行する。
【0024】
処理ユニット70に含まれる各部の機能を実現する手法はソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の機能は、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。例えば、上記機能がハードウェアである電子回路によって実現される場合、その電子回路は、デジタル回路、又はアナログ回路、あるいはこれらの組合せによって実現されてもよい。
【0025】
[1-2.処理]
[1-2-1.物標検出処理]
処理ユニット70が実行する物標検出処理を、図3のフローチャートを用いて説明する。
【0026】
本処理は、車載システム1が起動すると、処理サイクル毎に繰り返し実行される。
本処理が起動すると、処理ユニット70は、S110にて、第1変調期間が終了したか否か、即ち、第1変調データの取得が終了したか否かを判定する。処理ユニット70は、第1変調データの取得が終了していなければ、同ステップを繰り返すことで待機し、第1変調データの取得が終了していれば、処理をS120に移行する。
【0027】
S120では、処理ユニット70は、第1変調データを、アンテナ素子51毎、かつ、アップチャープ及びダウンチャープのそれぞれについて周波数解析処理を実行することでパワースペクトラムを算出する。
【0028】
ここでは、周波数解析処理としてFFT処理を実行する。FFTは、Fast Fourier Transformの略である。FFTによって得られるパワースペクトラムをFFTスペクトラムという。FFTスペクトラムでは、反射波のパワーが周波数ビン毎に表される。周波数ビンは、FFTスペクトラムの単位目盛りとなる周波数範囲であり、FFTの対象となるデータのサンプル数とサンプリング周波数とによって決まる。
【0029】
なお、アップチャープは、FMCWにおいて、時間とともに周波数が増加する信号であり、ダウンチャープは、FMCWにおいて、時間とともに周波数が減少する信号である。以下では、アップチャープのFFTペクトラムをUP-FFTスペクトラム及びダウンチャープのFFTペクトラムをDN-FFTスペクトラムという。これらUP-FFTスペクトラム及びDM-FFTスペクトラムが1次元スペクトラムに相当する。
【0030】
処理ユニット70は、UP-FFTスペクトラム及びDN-FFTスペクトラムのそれぞれについて、各アンテナ素子51から得られたFFTスペクトラムを平均した平均FFTスペクトラムを算出する。更に、処理ユニット70は、平均FFTスペクトラム上で信号レベルが予め設定された閾値以上となるピークを有する周波数ビンを抽出する。ここでいう信号レベルは、単純にピークの電力でもよいし、ノイズフロアに対するピークの電力比でもよい。以下、同様である。
【0031】
続くS130では、処理ユニット70は、S120にて算出されたUP-FFTスペクトラム及びDN-FFTスペクトラムのそれぞれについて、方位演算を実行する。
方位演算では、各チャネルの同一周波数ビンで検出されるピークの位相が、チャネル毎に異なることを利用して方位展開する。この方位演算により、周波数ビン及び方位を座標軸とする2次元スペクトラムを生成する。方位演算にはMUSIC等の高分解アルゴリズムを用いてもよい。MUSICは、Multiple Signal Classificationの略である。これに限らず、ビームフォーミング等を用いてもよい。また、方位演算は、少なくとも、先のS120にてFFTスペクトラム上でピークが検出された全ての周波数ビンについて実行する。以下では、アップチャープの2次元スペクトラムをUPスペクトラム、ダウンチャープの2次元スペクトラムをDNスペクトラムという。
【0032】
続くS140では、処理ユニット70は、第2変調期間が終了したか否か、即ち、第2変調データの取得が終了したか否かを判定する。処理ユニット70は、第2変調期間が終了していなければ、同ステップを繰り返すことで待機し、第2変調期間が終了していれば、処理をS150に移行する。
【0033】
S150では、処理ユニット70は、第2変調データをアンテナ素子51毎かつ第1信号及び第2信号のそれぞれについて周波数解析処理を実行してパワースペクトラムを生成し、パワースペクトラム上のピークを検出する。ここでは、S120と同様に、周波数解析処理としてFFT処理を用いる。このFFT処理の結果として得られるFFTスペクトラムも1次元スペクトラムに相当する。
【0034】
なお、2FCWにおける第1信号及び第2信号の周波数は十分に接近しているため、第1信号から検出されるドップラ周波数と、第2信号から検出されるドップラ周波数とは、略同じ大きさとなる。つまり、第1信号のFFTスペクトラムと第2信号のFFTスペクトラムでは、同じ周波数ビンにてピークが検出される。つまり、第1信号のFFTスペクトラムと第2信号のFFTスペクトラムとは、同様の形状となるため、図4には、一方のFFTスペクトラムのみを示す。
【0035】
そして、第1信号及び第2信号のそれぞれについて、アンテナ素子51毎に得られたFFTスペクトラムを平均化した平均FFTスペクトルを算出し、パワーが予め設定された閾値以上となるピークを有する周波数ビンを抽出する。
【0036】
更に、二つの平均FFTスペクトラムから同一周波数ビンにて検出される2つのピーク周波数成分の位相差Δθから距離を算出する。但し、実際の位相差は、Δθであるか2nπ+Δθであるかを区別できないため、位相差Δθから算出される距離は、位相折返しによる曖昧さ(以下、アンビギュイティ)を有する。nは整数である。
【0037】
続くS160では、処理ユニット70は、第1信号及び第2信号のいずれか一方のFFTスペクトラム(以下、MF-FFTスペクトラム)を用い、S130と同様に、方位演算を実行する。この方位演算により、生成される2次元ペクトラムを、MFスペクトラムという。方位演算は、少なくとも、先のS150にてMF-FFTスペクトラム上でピークが検出された全ての周波数ビンについて実行する。
【0038】
続くS170では、処理ユニット70は、S130にて生成されたUPスペクトラム及びDNスペクトラム、並びにS160にて生成されたMFスペクトラムから、予め設定された閾値以上のパワーを有する全てのピークを抽出する。
【0039】
続くS180では、処理ユニット70は、S170にて抽出されたピーク間で、同一物標に基づくと推定されるピーク同士を対応づけるピークマッチングを行うことで、当該処理サイクルでの瞬時値を生成する。
【0040】
なお、UPスペクトラムとDNスペクトラムとで抽出される同一の反射点に基づくピークは、いずれも同一方位で検出され、かつ、反射点と自車両との相対速度に応じて検出される周波数ビンが変化する。
【0041】
具体的には、反射点と自車両との相対速度がゼロである場合、ピークが検出される周波数ビンは、UPスペクトラムとDNスペクトラムとで同じとなる。反射点が自車両に接近中である場合、ピークが検出される周波数ビンは、UPスペクトラムの方がDNスペクトラムより低くなる。反射点が自車両から離隔中である場合、ピークが検出される周波数ビンは、UPスペクトラムの方がDNスペクトラムより高くなる。これは、ドップラシフトによりアップチャープで検出される周波数とダウンチャープで検出される周波数との大小関係が変化するFMCWの特性に基づく。但し、反射点と自車両との相対速度がゼロである場合、2FCWでのピークは、低周波ノイズに埋もれて検出できないため、FMCWのピークとのマッチングが不能となる。この場合、FMCWの中だけで、即ち、UPスペクトラムのピークとDNスペクトラムのピークとのマッチングが行われる。
【0042】
以下では、XXスペクトラム上のピークをXXピークという。但し、XXは、MF-FFT、UP-FFT、DN-FFT、MF、UP、及びDNのいずれかを表す。
そして、MFピークに対応するUPピーク及びDNピークがいずれも抽出された場合の瞬時値を(MF,UP,DN)で表し、MFピークに対応するUPピークのみが抽出された場合の瞬時値を(MF,UP)で表し、MFピークに対応するDNピークのみが抽出された場合の瞬時値を(MF,DN)で表す。
【0043】
更に、MFピークを用いることなく、UPピークとDNピークとを用いて、FMCWレーダにおける公知の手法を用いたペアマッチングも行う。これにより抽出される瞬時値を(UP,DN)で表す。
【0044】
続くS190では、処理ユニット70は、S180で生成された瞬時値を用いて、トラッキングを実行する。トラッキングでは、前回の処理サイクルで検出された物標及び物標候補(以下、物標等)から、今回の処理サイクルで物標等が検出されることが予測される距離及び方位(以下、予測位置)を算出する。また、瞬時値からその瞬時値により表される反射点(以下、ピーク対応点)の距離及び方位(以下、検出位置)を算出する。そして、予測位置と検出位置との差が予め設定された許容範囲内にあれば、物標等と瞬時値とは、同一の対象からの反射であると対応づけ、履歴接続を実施する。そして、どの物標にも対応づけることができなければ、新規に検出された履歴接続がない瞬時値であるとして、その瞬時値を新たな物標候補とする。また、物標候補は、所定回の処理サイクルに渡って履歴接続が確認された場合に、正式な物標として認識される。
【0045】
続くS200では、処理ユニット70は、S190にて生成された物標等のそれぞれに虚像フラグFを付与して、その虚像フラグを初期化する。具体的には、全ての虚像フラグFを、物標等が虚像ではないこと(即ち、実像であること)を示すオフに設定する。
【0046】
続くS210では、処理ユニット70は、自車両が走行している周囲の状況が折返し環境であるか否かを判定する。折返し環境とは、瞬時値から算出される距離に、アンビギュイティが生じる可能性がある環境のことである。具体的には、トンネル内など、壁面に囲まれた環境である。折返し環境であるか否かの判定は、レーダで得られる信号を解析することによって行ってもよい。また、レーダで得られる信号の代わりに、例えば、車載カメラの画像を用いてもよいし、自車両の位置情報と地図情報とを用いてもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。処理ユニット70は、折返し環境であると判定した場合は、処理をS220に移行し、折返し環境ではないと判定した場合は、処理をS230に移行する。
【0047】
S220では、処理ユニット70は、物標等毎に、その物標等が虚像であるか否かを判定して、虚像フラグを更新する虚像判定処理を実行して、処理をS230に進める。
S230では、処理ユニット70は、S190でのトラッキングによって検出された物標に関する推定値(x,y.Vx.Vy)を生成し、出力ユニット80を介して運転支援ECU100に出力して、処理を終了する。推定値には、虚像フラグFが含まれてもよい。
【0048】
なお、運転支援ECU100では、推定値に虚像フラグFが含まれる場合、例えば、虚像フラグを警報オンオフ情報として用い、虚像フラグFがオンに設定された推定値(すなわち、物標)については、警報の対象から除外してもよい。なお、虚像フラグFは、警報に限らず、その他の種々の制御に用いることができる。
【0049】
[1-2-2.特徴量/実像分布/虚像分布]
処理ユニット70が、先のS220で実行する虚像判定処理について説明する前に、虚像判定に使用する特徴量、実像分布、虚像分布、及び虚像出現確率について説明する。
【0050】
特徴量は、MFスペクトラム、UPスペクトラム及びDNスペクトラムから抽出される情報、並びに、これらのスペクトラムを生成する過程で得られるMF-FFTスペクトラム、UP-FFTスペクトラム、DN-FFTスペクトラムから得られる情報を組み合わせて演算することによって得られる。ここでは、5つの特徴量について説明する。5つの特徴量を第1~第5特徴量D1~D5という。
【0051】
第1特徴量D1は、瞬時値が(MF,UP,DN)又は(UP,DN)の場合、即ち、瞬時値に、UPピークとDNピークとがいずれも含まれる場合に算出される。具体的には、DNピークのピークレベルをPddとし、UPピークに対応するUP-FFTピークのピークレベルをPfuとして、(1)式を用いて算出される値である。
【0052】
D1=Pdd-Pfu (1)
第1特徴量D1は、以下の事実を利用した判定を実現するための特徴量である。すなわち、瞬時値により特定されるピーク対応点が実像であれば、方位展開後のピークレベルPddは、方位展開前のピークレベルPfu以下となる確率が高い。これに対して、ピーク対応点が虚像であれば、その大小関係に逆転が生じる確率が実像に比べて高いという事実である。
【0053】
第2特徴量D2~第5特徴量D5は、すべての物標等について算出される。
第2特徴量D2は、(2)式に示すように、UPピークに対応するUP-FFTピークのピークレベルであるPfuを第2特徴量D2とする。
【0054】
D2=Pfu (2)
第3特徴量D3は、(3)式に示すように、DNピークに対応するDN-FFTピークのピークレベルであるPfdを第3特徴量D3とする。
【0055】
D3=Pfd (3)
つまり、第2特徴量D2及び第3特徴量D3は、UP-FFTピーク及びDN-FFTピークのピークレベルは、ピーク対応点が実像である場合の方が虚像である場合より大きい傾向があるという事実を利用した判定を実現するための特徴量である。
【0056】
第4特徴量D4は、物標等の横位置xである。横位置xは、自車の車幅方向の位置であり、レーダ装置10から見た自車の真後ろ方向を横位置0mとして表される。なお、横位置xの代わりに物標等が位置する方位θを用いてもよいが、後述する実像分布及び虚像分布を正規分布で表すには、横位置xが適する。
【0057】
第4特徴量D4は、以下の事実を利用した判定を実現するための特徴量である。すなわち、図5に示すように、虚像の発生元となる実体は、上限距離より遠くに存在し、レーダ装置10の真後ろ、つまり横位置0m付近で検出され易い。これに対して、警報等の対象として注意すべき車両M1は、隣接レーンを走行している可能性が高いという事実である。
【0058】
第5特徴量D5は、物標等の到達横位置である。到達横位置は、物標等の縦位置と横位置と移動速度と移動方向とから推定される、その物標等が自車の後端に到達した時の予測横位置である。なお、縦位置は、自車の車長方向の位置である。
【0059】
第5特徴量D5は、以下の事実を利用した判定を実現するための特徴量である。すなわち、図5に示すように、虚像であれば横位置0m付近が到達横位置となる。これに対して、隣接車線を走行し、自車両を追い越そうとしている車両M1や、車線変更をしようとしている車両M2は、横位置0mから離れた位置が到達横位置となる可能性が高いという事実である。
【0060】
実像分布は、i=1~5として、特徴量Diが与えられたときに、その特徴量Diの抽出元となったピーク対応点が実像である確率(以下、実像確率)を、正規分布にて表現したものである。
【0061】
虚像分布は、特徴量Diが与えられたときに、その特徴量Diの抽出元となったピーク対応点が虚像である確率(以下、虚像確率)を、正規分布にて表現したものである。
実像出現確率P(R)は、全ての物標等の中で実像が出現する確率であり、虚像出現確率P(I)は、全ての物標等の中で虚像が出現する確率である。
【0062】
実像分布、虚像分布、実像出現確率P(R)、及び虚像出現確率P(I)は、学習により予め生成され、処理ユニット70のメモリ72に記憶される。
学習では、まず、トンネル内及びトンネル外を走行しながら、レーダ装置10を作動させることで得られる測定結果から瞬時値を生成すると共に、生成された瞬時値を用いたトラッキングによって物標等を生成する。そして、生成された瞬時値や物標等から推定される各FFTピークのピークパワーのそれぞれについて各特徴量D1~D3を求める。更に、それら瞬時値や物標等から推定される各FFTピークのピークパワーとの履歴接続を有する物標等が実像であるか虚像であるかの正解を表す教師データ付きの特徴量D1~D3を蓄積する。また、生成された物標等のそれぞれについて特徴量D4,D5を求め、それら物標等が実像であるか虚像であるかの正解を表す教師データ付きの特徴量D4,D5を蓄積する。
【0063】
このようにして蓄積された教師データ付きの特徴量D1~D5を用いて、図6に示すように、特徴量Di毎に、実像を表す特徴量Diのヒストグラムと、虚像を表す特徴量Diのヒストグラムとを作成する。更に、実像を表すヒストグラムを正規分布に変換することで実像分布を生成し、虚像を表すヒストグラムを正規分布に変換することで虚像分布を生成する。実像出現確率P(R)及び虚像出現確率P(I)は、上記学習で得られるデータを用いて算出される。
【0064】
各特徴量D1~D5の実像分布及び虚像分布を、図7図11に例示する。以下では、特徴量Diが与えられたときの実像確率をP(Di|R)、虚像確率をP(Di|I)で表す。各分布の横軸は、D1では差分のピークレベルを表す信号強度であり、D2,D3ではピークレベルを表す信号強度であり、D4,D5は横位置xである。なお、実像分布及び虚像分布は、遠距離用及び近距離用について別々に用意され、メモリ72に記憶される。
【0065】
[1-2-3.虚像判定処理]
処理ユニット70が実行する虚像判定処理を、図12のフローチャートを用いて説明する。
【0066】
S310では、処理ユニット70は、S180にて抽出された物標等のうち、以下のS320からS410の処理を実施していない物標等を選択する。以下、選択された物標等を選択物標等という。
【0067】
続く320では、S190のトラッキング処理により選択物標との履歴接続が確認された瞬時値(以下、接続瞬時値)が存在するか否かを判定する。処理ユニット70は、S320にて肯定判定した場合は、処理をS330に移行し、S320にて否定判定した場合は、処理をS420に移行する。
【0068】
S330では、処理ユニット70は、選択物標等について算出される距離に応じて、遠距離用分布及び近距離用分布のいずれかを選択する。例えば、距離が50m以内であれば近距離用分布を選択し、距離が50mを超えていれば遠距離用分布を選択する。以下のS340~S380の処理では、ここで選択された実像分布及び虚像分布が用いられる。
【0069】
続くS340では、処理ユニット70は、選択物標等に対する接続瞬時値について第1特徴量D1を算出し、算出された第1特徴量D1と、第1特徴量D1の実像分布及び虚像分布に基づいて実像確率P(D1|R)及び虚像確率P(D1|I)を算出する。
【0070】
続くS350では、処理ユニット70は、選択物標等に対する接続瞬時値について第2特徴量D2を算出し、算出された第2特徴量D2と、第2特徴量の実像分布及び虚像分布に基づいて実像確率P(D2|R)及び虚像確率P(D2|I)を算出する。
【0071】
続くS360では、処理ユニット70は、選択物標等に対する接続瞬時値について第3特徴量D3を算出し、算出された第3特徴量D3と、第3特徴量の実像分布及び虚像分布に基づいて実像確率P(D3|R)及び虚像確率P(D3|I)を算出する。
【0072】
続くS370では、処理ユニット70は、選択物標等について第4特徴量D4を算出し、算出された第4特徴量D4と、第4特徴量の実像分布及び虚像分布に基づいて実像確率P(D4|R)及び虚像確率P(D4|I)を算出する。
【0073】
続くS380では、処理ユニット70は、選択物標等について第5特徴量D5を算出し、算出された第5特徴量D5と、第1特徴量D5の実像分布及び虚像分布に基づいて実像確率P(D5|R)及び虚像確率P(D5|I)を算出する。
【0074】
続くS390では、処理ユニット70は、(4)~(6)式に従って、統合虚像確率PGを算出する。この式では、実像確率及び虚像確率が独立した事象であると仮定して、ベイズ推定を適用するナイーブベイズを用いて、選択物標等が虚像である確率を算出する。
【0075】
PG=P(I)×P(D|I)/(P(D|I)+P(D|R)) (4)
P(D|I)=P(D1|I)×P(D2|I)×P(D3|I)×P(D4|I) ×P(D5|I) (5)
P(D|R)=P(D1|R)×P(D2|R)×P(D3|R)×P(D4|R)×P(D5|R) (6)
(5)式は、全ての特徴量についての虚像確率を合成した合成虚像確率を表し、(6)式は、全ての特徴量について実像確率を合成した合成実像確率を表す。但し、(5)式及び(6)式の代わりに、(7)式及び(8)式を用いることで、演算量を削減すると共に、ソフトウェア上の桁落ちを抑制してもよい。
【0076】
P(D|I)=exp(log P(D|I))
log P(D|I)=log P(D1|I)+log P(D2|I)+log P(D3|I)+log P(D4|I) +log P(D5|I)
(7)
P(D|R)=exp(log P(D|R))
log P(D|R)=log P(D1|R)+log P(D2|R)+log P(D3|R)+log P(D4|R) +log P(D5|R)
(8)
続くS400では、処理ユニット70は、S390にて算出された選択物標等の統合虚像確率PGが、予め設定された閾値THより大きいか否かを判定する。統合虚像確率PGが閾値THより大きければ、処理をS410に移行し、統合虚像確率PGが閾値TH以下であれば、処理をS420に移行する。
【0077】
S410では、処理ユニット70は、選択物標等に付与された虚像フラグFをオンに更新して、処理をS420に進める。
S420では、処理ユニット70は、先のS310にて、全ての物標等が選択済みであるか否かを判定する。選択済みではない物標等が存在する場合は、S310に処理を移行し、全ての物標等が選択済みであれば、処理を終了する。
【0078】
[1-3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1a)レーダ装置10は、FMCW方式のアップチャープ及びダウンチャープ、並びに2FCW方式の受信信号から、距離及び方位について展開した2次元スペクトラムをそれぞれ生成し、これら複数の2次元スペクトラム上のピークを、マッチングすることで瞬時値を生成する。更に、瞬時値を用いたトラッキングによって物標等を生成し、生成された物標等が虚像であるか否かを、統合虚像確率PGを用いて判定する。なお、統合虚像確率PGは、瞬時値からから抽出される特徴量D1~D3、及び物標等から抽出される特徴量D4,D5のそれぞれについて、実像確率(Di|R)及び虚像確率P(Di|I)を算出し、これらを統合することで算出される値である。このため、レーダ装置10によれば、瞬時値を生成する際のピークのミスマッチング等による物標の誤検出を抑制でき、その結果、誤検出に基づく運転支援制御の誤作動を抑制できる。
【0079】
(1b)レーダ装置10では、実像確率P(Di|R)及び虚像確率P(Di|I)を統合する際に、各事象が独立である仮定するナイーブベイズの手法を利用する。このため、特徴量Diの追加削除を簡単に行うことができ、虚像判定の精度を適宜調整できる。
【0080】
[2.第2実施形態]
[2-1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0081】
前述した第1実施形態では、虚像の判定に統合虚像確率PGを用いる。これに対し、第2実施形態では、ログベイズ比を用いる点で、第1実施形態と相違する。つまり、虚像判定処理の内容が一部相違する。
【0082】
[2-2.処理]
処理ユニット70が、図12に示した第1実施形態の虚像判定処理に代えて実行する第2実施形態の虚像判定処理について、図13のフローチャートを用いて説明する。なお、S310~S380及びS410~S420の処理は、第1実施形態での処理と同様であるため、説明を省略する。
【0083】
S380に続くS392では、処理ユニット70は、(9)(10)式に従って、ログベイズ比LBを算出する。但し、log P(D|I)及びlog P(D|R)は、上述の(7)(8)式を用いて算出する。
【0084】
LB=TH+log P(D|I)-log P(D|R) (9)
TH=log P(I)-log P(R)+A (10)
(10)式におけるAは、実験的に設定される定数であり、0であってもよい。THは、閾値であり、LBが正値であれば虚像、LBが負値であれば実像と判定できるように設定される。
【0085】
続くS394では処理ユニット70は、ログベイズ比LBに対して、値の急激な変化を抑制するフィルタ処理を実行する。なお、S392にて算出されたログベイズ比をLB[n]、フィルタ処理後のログベイズ比をLBf[n]、前回の処理サイクルで算出されたフィルタ処理後のログベイズ比をLBf[n-1]で表す。また、係数αは、0<α≦1の実数である。フィルタ処理では、(11)式に示す演算を実行する。フィルタ処理後のログベイズ比LBf[n]を、単にログベイズ比LBfとも表記する。
【0086】
LBf[n]=α×LB[n]+(1-α)LBf[n-1] (11)
続くS402では、処理ユニット70は、S394にて算出された選択物標等のログベイズ比LBfが0より大きいか否かを判定する。ログベイズ比LBfが0より大きければ、選択物標等は虚像であるとして、処理をS410に移行し、ログベイズ比LBfが0以下であれば、選択物標等は実像であるとして、処理をS420に移行する。
【0087】
[2-3.動作例]
図14及び図15は、上側のグラフが(4)式によって算出されるゴースト確率PG、下側のグラフは、(9)式によって算出されるフィルタ処理前のログベイズ比LB、及び(11)式によって算出されるフィルタ処理後のログベイズ比LBfを、処理サイクル毎にプロットした結果を示す。なお、図14は、処理の対象となる物標等が実像である場合、図15は、処理の対象となる物標等が虚像である場合を示す。
【0088】
図14に示すように25番目の処理サイクルでは、外乱により、物標等が実像であるにも関わらず、ゴースト確率PGが50%を超える大きな値となると共に、ログベイズ比LBが正値となる。つまり、ゴースト確率PGやフィルタ処理前のログベイズ比LBを用いて虚像であるか否かの判定を行った場合に、誤った判定結果が得られる可能性がある。これに対して、フィルタ処理後のログベイズ比LBfは負値のままであり、正しい判定結果が得られる。
【0089】
なお、(10)式のパラメータAを調整することで、閾値THを変化させることができる。例えば、A=0に設定した場合、実像を誤って虚像であると誤判定する確率と、逆に虚像を実像であると誤判定する確率とが等しくなる。但し、実際には、ゴーストを実像であると誤判定してシステムが無駄に作動するより、実像を虚像と誤判定してシステムが作動しない方が、より問題である可能性が高い。このため、A>0に設定すること、すなわち、図14において、閾値THをプラス側にシフトさせることで、実像を虚像であると誤判定する確率をより低下させてもよい。
【0090】
[2-4.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1a)(1b)を奏し、さらに、以下の効果を奏する。
【0091】
(2a)ログベイズ比LBfは、今回の処理サイクルで得られたフィルタ処理前のログベイズ比LB[n]と前回の処理サイクルで得られたフィルタ処理後のログベイズ比LBf[n-1]とを、係数αを用いて混合するフィルタ処理を行うことで算出する。このため、外乱により異常なログベイズ比LB[n]が突発的に算出されたとしても、虚像判定が直ちに追従することがなく、安定した判定結果を得ることができる。
【0092】
(2b)ログベイズ比LBfを用いることで、統合虚像確率PGを用いる場合と比較して、より演算量を削減できる。
(2c)ログベイズ比LBの演算に、閾値THが組み込まれており、閾値THの調整も簡易に行うことができる。
【0093】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0094】
(3a)上記実施形態では、ログベイズ比LBの算出に用いる特徴量として、第1~第5特徴量D1~D5を用いるが、実像分布と虚像分布との間に明確な違いが生じる特徴量であればよい。また、統合虚像確率PGの算出に用いる特徴量の数も、5個に限定されるものではなく、1~4個でも、6個以上でもよい。
【0095】
例えば、図16に示すように、MF-FFTピークのピークレベルを、特徴量として用いてもよい。図17に示すように、UP-FFTピークのピークレベルから、MF-FFTピークのピークレベルを減算した値を、特徴量として用いてもよい。図18に示すように、DN-FFTピークのピークレベルからMF-FFTピークのピークレベルを減算した値を、特徴量として用いてもよい。図19に示すように、UP-FFTピークのピークレベルから、DN-FFTピークのピークレベルを減算した値を、特徴量として用いてもよい。
【0096】
ここで、二つの特徴量A,Bに対して実像及び虚像が、図20に示すように分布する場合、特徴量Aを単独で用いた場合は、図中aで示す実像分布及び虚像分布が得られ、特徴量Bを単独で用いた場合は、図中bで示す実像分布及び虚像分布が得られる。更に、両者の差分を用いた場合は、図中cで示す実像分布及び虚像分布が得られる。つまり、特徴量間の演算を行うことで、同じ分布であっても、より両者の差が明らかと成るような見方で分布を切り取ることができる。従って、このような視点を考慮して、特徴量を設定してもよい。
【0097】
(3b)上記実施形態では、レーダ装置によって検出される距離がアンビギュイティを有する場合について説明したが、速度または方位がアンビギュイティを有する場合に適用してもよい。
【0098】
(3c)上記実施形態では、第2変調として2FCWを用いたが、本開示は、これに限定されるものではなく、第2変調として測定結果にアンビギュイティを有するFCM等の他のレーダ方式を用いてもよい。
(3d)上記実施形態では、第1変調としてFMCWを用いたが、本開示は、これに限定されるものではなく、少なくとも第2変調と異なっていれば、第1変調として、どのようなレーダ方式用いてもよい。また、上記実施形態では、2種類のレーダ方式を組み合わせた場合について説明したが、3種類以上のレーダ方式を組み合わせてもよい。
【0099】
(3e)上記実施形態では、2FCWとFMCWのアップチャープ及びダウンチャープのそれぞれから検出されるピークをマッチングして瞬時値を生成するが、本開示は、これに限定されるものではない。例えば、FMCWのアップチャープを第1変調、ダウンチャープを第2変調とみなして、両チャープから検出されるピークのみをマッチングして瞬時値を生成するレーダ装置に適用してもよい。
【0100】
(3f)上記実施形態では、複数の変調方式のそれぞれにて抽出されるピークをマッチングした結果から瞬時値が生成されるが、他のピークとのマッチングを行うことなく、単一の変調方式にて抽出されるピークから、瞬時値が生成されてもよい。
【0101】
(3g)上記実施形態では、実像分布及び虚像分布を、特徴量毎に、遠距離用及び近距離用の二つが用意されるが、本開示は、これに限定されるものではない。例えば、距離によって分けることなく、特徴量毎に、実像分布及び虚像分布を一つだけ用意されてもよい。また、距離をより細分化して、特徴量毎に、実像分布及び虚像分布が三つ以上ずつ用意されてもよい。
【0102】
(3h)上記実施形態において、(7)(8)式を用いて、log確率であるlog P(D|R)及びlog P(D|I)を求めた場合、非常に小さな値になり易い。但し、最終的に算出される統合虚像確率PGは、これらの値の比で求められる。従って、logP(Di|R)及びlogP(D|I)の中で最大値を、MAXとして、それぞれから最大値を減じた結果を、log確率として用いてもよい。
【0103】
(3i)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0104】
(3j)上述したレーダ装置の他、当該レーダ装置を構成要素とするシステム、当該レーダ装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、虚像判定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0105】
1…車載システム、10…レーダ装置、20…送信回路、30…分配器、40…送信アンテナ、50…受信アンテナ、51…アンテナ素子、60…受信回路、61…ミキサ、70…処理ユニット、71…CPU、72…メモリ、80…出力ユニット、100…運転支援ECU。
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