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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】連続鋳造用注湯装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20221220BHJP
   B22D 41/28 20060101ALI20221220BHJP
   B22D 41/50 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B22D11/10 340Z
B22D11/10 330B
B22D41/28
B22D41/50 520
B22D11/10 340A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019075463
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020171944
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 広大
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-129646(JP,A)
【文献】特開平11-239852(JP,A)
【文献】特開平01-113159(JP,A)
【文献】実開昭59-020958(JP,U)
【文献】特表平10-509650(JP,A)
【文献】米国特許第03436023(US,A)
【文献】特表2003-526516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
B22D 41/22-41/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を鋳型内に注湯するための連続鋳造用注湯装置であって、
溶融金属の流量を調整するスライディングゲートと、前記スライディングゲートの下方に設けられる浸漬ノズルとを有し、
前記スライディングゲートは溶融金属が通過する流路孔が形成された複数のプレートを有し、前記プレートのうちの少なくとも1枚のプレートは摺動が可能なスライド板であり、
それぞれのプレートにおける流路孔は、プレートの表面のうち、通過する溶融金属の上流側に位置する上流側表面に上流側表面開孔を形成し、下流側に位置する下流側表面に下流側表面開孔を形成し、上流側表面開孔図形の重心から下流側表面開孔図形の重心に向く方向を流路軸線方向とし、
プレートの摺動面に垂直な下流方向(以下「摺動面垂直下流方向」という。)と前記流路軸線方向とがなす流路軸線傾斜角度αが5°以上75°以下であり、
前記流路軸線方向を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向と呼び、スライディングゲートを閉とするときに前記スライド板を摺動する方向を摺動閉方向と呼び、摺動閉方向に対し、前記摺動面流路軸線方向が、前記摺動面垂直下流方向に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θ(±180度の範囲)と呼び、当該流路軸線回転角度θは、隣接するプレート間で異なっており、最も上流側のプレートのθをθ1、その一つ下流側のプレートのθをθ2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ3と順に番号を付け、ΔθN=θN-θN+1(Nは1以上の整数でプレートの枚数-1まで)としたとき、
角度ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満であって浸漬ノズル内に反時計回り旋回流を形成し、又は角度ΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であって浸漬ノズル内に時計回り旋回流を形成し、
前記浸漬ノズルは、浸漬ノズル底部に開孔させた単一の吐出孔を有してなることを特徴とする連続鋳造用注湯装置。
【請求項2】
前記浸漬ノズルの吐出孔形状は、浸漬ノズル内壁から吐出孔出口に向かって拡管状形状を有するように成形してなることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用注湯装置。
【請求項3】
スライディングゲートを形成するプレートの数が2枚もしくは3枚でありスライド板が1枚であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の連続鋳造用注湯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用注湯装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属、例えば溶鋼の連続鋳造においては、取鍋内に収容された溶鋼がタンディッシュに移注され、さらにタンディッシュから鋳型内に注入される。タンディッシュ底部にはスライディングゲートなどの流量調整機構が設けられ、スライディングゲートの下流側に浸漬ノズルが設けられ、浸漬ノズルの下端付近側部に、溶鋼を鋳型内に吐出する吐出孔が設けられている。
【0003】
大断面ブルーム連続鋳造やスラブ連続鋳造では浸漬ノズル側面に2孔の吐出孔を有し、吐出孔は通常、鋳型の幅方向(鋳片の幅方向)両側に向けて設けられる。これに対して、小断面ブルーム連続鋳造やビレット連続鋳造では、浸漬ノズル下端に、下方に向いた単孔の吐出孔が設けられる。以下「単孔浸漬ノズル」ともいう。本発明は、浸漬ノズルの吐出孔形状として単孔浸漬ノズルを用いた、連続鋳造用注湯装置を対象とする。
【0004】
単孔浸漬ノズルを用いた連続鋳造においては、吐出流がストランド内に深く浸入するとともに鋳型内溶鋼表面温度が低下しがちとなり、湯面は皮張りし始め、浮上する気泡や介在物を捕捉しやすくなる。その結果、鋳片中心部及び表層部の品質悪化や、モールドパウダーの滓化不良といった問題が生じることが知られている(非特許文献1参照)。さらに、ブレークアウトや浸漬ノズル破損といった操業上の問題につながる。
【0005】
特許文献1では、鋼の連続鋳造方法において使用される、内部に捩り板型旋回羽根を設置してノズル内を流下する溶鋼に旋回流を付与する連続鋳造用浸漬ノズルを「旋回流ノズル」と呼び、この旋回流ノズルを用いた連続鋳造方法について開示している。
特許文献1によると、筒状ノズルの底部に1つの吐出孔を有する単孔浸漬ノズルの場合に旋回流ノズルを適用すると、遠心力により吐出流が広がりながら吐出するので、吐出流速が低下し、吐出流が鋳片内に侵入する深さが低下するという、電磁ブレーキ的効果が得られる。この効果により、鋳型内における介在物の浮上が促進されたり(例えば非特許文献2)、鋳型内湯面(メニスカス)温度が上昇してモールドパウダーの溶融滓化が促進され鋳片肌が改善されたり、鋳片内部の温度が低下して等軸晶が増え鋳片中心部のポロシティ(引け巣)欠陥が減少したりするといった効果が期待されている。
さらに特許文献1によると、ノズル孔の内壁から吐出孔に向って拡管状断面を有するような単孔浸漬ノズルを用い、旋回流ノズルを用いた結果として、旋回しつつ流下する溶鋼が遠心力により横に広がりつつ吐出するので、吐出流により非金属介在物が鋳片の深くへ持ち込まれたり、鋳型内湯面(メニスカス)への溶鋼供給が不十分で温度が低下し気泡や非金属介在物の浮上分離が妨げられるといった問題が解消される。また、吐出孔近傍での溶鋼流の淀み域が小さくなるので、吐出孔への介在物付着も減少する。旋回しつつ流下する溶鋼が遠心力により横に広がりつつ吐出されるので、鋳型内湯面(メニスカス)への上昇流が生じて湯面温度が上昇し、気泡や非金属介在物の浮上分離を促進されるという効果が得られる。
【0006】
特許文献2には、タンディッシュから鋳型への注入過程にある中間ノズルの形状を工夫し浸漬ノズル内に旋回流を付与する方法が開示されているが、この方法は旋回を付与する機構の形状が複雑で製造が困難である。さらに、特許文献3には、スライディングゲートの流路に切り欠きを設けて溶鋼を旋回させる方法が開示されているが、この方法は壁面近傍の流れに限定的に旋回を付与するもので得られる旋回が弱いことや溝や切り欠きが溶損して旋回付与効果が維持できない。
【0007】
特許文献1においては、ノズル内部に捩り板型旋回羽根を設置した旋回流ノズルにおいて、旋回羽根捩りピッチPc、旋回羽根捩り角θ、旋回羽根の外径、旋回羽根の厚みを所定の範囲に規定した上で、旋回羽根下端と吐出孔との間において内径を絞り、タンディッシュと鋳型間の必要ヘッド予測値Hを所定の範囲内におさめた旋回流ノズルを使用して連続鋳造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-239690号公報
【文献】特開平07-303949号公報
【文献】特開2001-129646号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】塚口友一ら著「丸ビレット連続鋳造用旋回流浸漬ノズル」 鉄と鋼Vol.93(2007)No.9,pp575-582
【文献】A. Vaterlaus et al, 3rd Conf. on CC(1998), 715
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のように、浸漬ノズル内に捩り板型旋回羽根を設置することによって浸漬ノズル内を流下する溶湯流に旋回流を形成した上で、単孔浸漬ノズルを用いた連続鋳造を行うことにより、旋回しつつ流下する溶鋼が遠心力により横に広がりつつ吐出されるので、鋳型内湯面(メニスカス)への上昇流が生じて湯面温度が上昇し、気泡や非金属介在物の浮上分離を促進される。
また、加えて上記湯面温度上昇は湯面皮張りの抑制も期待され得る。
一方で、浸漬ノズル内に設けた捩り板型旋回羽根は溶損しやすく、効果が持続しないという課題があった。旋回羽根が溶損したときに浸漬ノズルを交換することとすると、浸漬ノズルの寿命が短くなるという問題が生じる。
【0011】
本発明は、浸漬ノズルやスライディングゲートの寿命を短縮することなく、浸漬ノズル内を流下する溶湯流に旋回流を付与することのできる、連続鋳造用注湯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]溶融金属を鋳型内に注湯するための連続鋳造用注湯装置であって、
溶融金属の流量を調整するスライディングゲートと、前記スライディングゲートの下方に設けられる浸漬ノズルとを有し、
前記スライディングゲートは溶融金属が通過する流路孔が形成された複数のプレートを有し、前記プレートのうちの少なくとも1枚のプレートは摺動が可能なスライド板であり、
それぞれのプレートにおける流路孔は、プレートの表面のうち、通過する溶融金属の上流側に位置する上流側表面に上流側表面開孔を形成し、下流側に位置する下流側表面に下流側表面開孔を形成し、上流側表面開孔図形の重心から下流側表面開孔図形の重心に向く方向を流路軸線方向とし、
プレートの摺動面に垂直な下流方向(以下「摺動面垂直下流方向」という。)と前記流路軸線方向とがなす流路軸線傾斜角度αが5°以上75°以下であり、
前記流路軸線方向を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向と呼び、スライディングゲートを閉とするときに前記スライド板を摺動する方向を摺動閉方向と呼び、摺動閉方向に対し、前記摺動面流路軸線方向が、前記摺動面垂直下流方向に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θ(±180度の範囲)と呼び、当該流路軸線回転角度θは、隣接するプレート間で異なっており、最も上流側のプレートのθをθ1、その一つ下流側のプレートのθをθ2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ3と順に番号を付け、ΔθN=θN-θN+1(Nは1以上の整数でプレートの枚数-1まで)としたとき、
角度ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満であって浸漬ノズル内に反時計回り旋回流を形成し、又は角度ΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であって浸漬ノズル内に時計回り旋回流を形成し、
前記浸漬ノズルは、浸漬ノズル底部に開孔させた単一の吐出孔を有してなることを特徴とする連続鋳造用注湯装置。
[2]前記浸漬ノズルの吐出孔形状は、浸漬ノズル内壁から吐出孔出口に向かって拡管状形状を有するように成形してなることを特徴とする[1]に記載の連続鋳造用注湯装置。
[3]スライディングゲートを形成するプレートの数が2枚もしくは3枚でありスライド板が1枚であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の連続鋳造用注湯装置。
【発明の効果】
【0013】
溶融金属を鋳型内に注湯するための連続鋳造用注湯装置として本発明を用いることにより、単孔浸漬ノズルを用いた連続鋳造を行うに際し、浸漬ノズルやスライディングゲートの寿命を短縮することなく、浸漬ノズル内を流下する溶湯流に旋回流を形成し、鋳型内湯面(メニスカス)への上昇流を形成して湯面温度を上昇し、気泡や非金属介在物の浮上分離を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の連続鋳造用注湯装置を示す概念断面図である。
図2】本発明の連続鋳造用注湯装置のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)は下固定板のそれぞれ平面図、(D)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図、(F)はF-F矢視断面図である。
図3】本発明の連続鋳造用注湯装置のスライディングゲートを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はC-C矢視図、(D)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図である。
図4】本発明のスライディングゲート内の流れを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はC-C矢視図、(D)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図である。
図5】本発明の連続鋳造用注湯装置のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図、(E)はE-E矢視断面図である。
図6】本発明の連続鋳造用注湯装置のスライディングゲートを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図である。
図7】本発明の上固定板の一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図、(D)はD-D矢視断面図である。
図8】比較例のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図、(E)はE-E矢視断面図である。
図9】比較例のスライディングゲートを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図である。
図10】従来のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)は下固定板のそれぞれ平面図、(D)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図、(F)はF-F矢視断面図である。
図11】従来のスライディングゲートを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はC-C矢視図、(D)はスライディングゲートと浸漬ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図である。
図12】本発明の連続鋳造用注湯装置の浸漬ノズルにおける吐出孔の形状を示す断面図である。
図13】吐出孔先端からの吐出流の流線を示す断面図であり、(A)は旋回流を形成した本発明例、(B)は旋回流を形成しない比較例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、図1に示すように、溶融金属を鋳型22内に注湯するための連続鋳造用注湯装置20であって、溶融金属の流量を調整するスライディングゲート1と、スライディングゲート1の下方に設けられる浸漬ノズル11とを有する。スライディングゲート1において旋回流を形成し、溶融金属が浸漬ノズル内孔12を旋回しつつ流下する。浸漬ノズル11は、その底部に下方に向かって開孔させた吐出孔13を有し、浸漬ノズル内孔12を流下する溶融金属が旋回流を形成ながら吐出孔13から吐出し、図13(A)に示すように、吐出流19が鋳型内の鋳造方向と水平方向に対して浸漬ノズル中心軸端から同心円状に拡がり、吐出することを可能にしている。
【0016】
《スライディングゲート》
まず、本発明のスライディングゲートについて、図1図11に基づいて説明する。
鋼等の溶融金属の連続鋳造におけるタンディッシュ21から鋳型22への溶融金属23の注入過程において、溶融金属23の流量を調整する目的でスライディングゲート1が用いられる。2枚もしくは3枚のプレート2を重ねて構成されたスライディングゲート1において、各プレート2には流路孔6が設けられている。スライディングゲート1を構成するプレートのうちのスライド板4を摺動させ、各プレートの流路孔6の重なりによってスライディングゲート1が「開」となっているとき、流路孔6の上流側から下流側に向けて溶融金属が流通する。プレート2の摺動面30に垂直で下流方向に向かう方向(摺動面垂直下流方向32)は、上から下に向かって鉛直下方に向いている。
【0017】
従来用いられているスライディングゲートにおいて、プレート2の流路孔6は、図10図11に示すように、通常はその内周形状が円筒形であり、円筒の軸方向は摺動面垂直下流方向32に平行に構成されている。これに対し本発明は、図2図9に示すように、流路孔6の向く方向を、摺動面垂直下流方向32からある角度を持った斜孔とし、摺動面30に投影した斜孔の方向を2枚ないしは3枚のプレートで異なった方向にしたものを適宜組み合わせることによって、スライディングゲート1及びその下流側の浸漬ノズル11内部の溶融金属流について、下流側に向かう流れのみでなく、周方向流速を付加し旋回流を形成するのである。
【0018】
流路孔6の断面形状として、通常は軸方向に垂直な断面が真円の円筒形状が用いられる。本発明のスライディングゲート1において、プレート2に形成される流路孔6は、円筒形状に限られるものではなく、また流路孔の軸方向についても、プレート内において変化するものであってもかまわない。そこでまず、プレート2に形成された流路孔6の軸線を定義することとする。
【0019】
図10によって、従来のスライディングゲート1の流路孔6について説明する。図10のスライディングゲート1は、3枚のプレート2を有し、上流側から上固定板3、スライド板4、下固定板5からなる。各プレート2には、断面が真円の円筒形状であって、円筒の軸方向が摺動面30に垂直下流方向(摺動面垂直下流方向32)に向いた流路孔6が形成されている。各プレートの上流側表面を上流面7u、下流側表面を下流面7dと呼ぶ。上流面7uにおいて流路孔6の内周面が形成する図形(上流側表面開孔)を上流開孔8uと呼ぶ。また、下流面7dにおいて流路孔6の内周面が形成する図形(下流側表面開孔)を下流開孔8dと呼ぶ。図10に示す例では流路孔6の円筒形状の軸線が摺動面に垂直であるため、図10(A)~(C)においては、上流開孔8uと下流開孔8dが重なっている。上流開孔8u、下流開孔8dの形状をそれぞれ図形と見なすと、当該図形の重心を定義することができる。それぞれ、上流側表面開孔図形重心を上流開孔重心9u、下流側表面開孔図形重心を下流開孔重心9dと呼ぶこととする。図10に示す例では、上流開孔8u、下流開孔8dともに図形形状が真円であるため、上流開孔重心9u、下流開孔重心9dは真円図形の中心と一致している。次に、上流開孔重心9uと下流開孔重心9dを通過し、下流側に向く方向を、流路軸線方向10と定義する。図10に示す例では、流路軸線方向10は摺動面垂直下流方向32と同じ方向となる。図10(F)おいて、一点鎖線で描写した線が流路軸線方向10である。
【0020】
次に図2によって、本発明のスライディングゲート1の流路孔6について説明する。図2のスライディングゲート1は、3枚のプレートを有し、上流側から上固定板3、スライド板4、下固定板5からなる。各プレートには、軸方向断面が真円の円筒形状であって、円筒の軸方向が摺動面垂直下流方向32から傾いた方向となる流路孔6が形成されている。図2(A)(F)により、上固定板3を例にとって説明する。図2(F)は図2(A)のF-F矢視断面図である。円筒の軸方向と摺動面垂直下流方向32とが傾いているため、図2(A)において上流開孔8uと、下流開孔8dが異なった位置に描かれている。軸方向断面が真円で、軸方向が摺動面垂直下流方向32から傾いた円筒形状であるため、上流開孔8uと下流開孔8dとはそれぞれ僅かに真円から外れた楕円を形成している。ただし、図面上は便宜上真円として描画している。上流開孔8uと下流開孔8dそれぞれの図形の重心を上流開孔重心9u、下流開孔重心9dとして定めることができる。さらに、上流開孔重心9uと下流開孔重心9dとを通過して下流側に向くように、流路軸線方向10を定めることができる。図2(F)において、一点鎖線で描写した線が流路軸線方向10である。図2に示す例では、流路軸線方向10は、流路孔6を形成する、軸方向断面が真円の円筒形状の軸線方向と一致している。ここにおいて、プレートの摺動面に垂直な下流方向(摺動面垂直下流方向32)と流路軸線方向10とがなす角度を流路軸線傾斜角度αとおく。ここで、流路軸線方向を定めるのに円の中心ではなく開孔重心を用いているのは、開孔形状が真円でない場合にも普遍的に流路軸線方向を定義するためである。
【0021】
図10に示す例では、上固定板3の下流開孔8dとスライド板4の上流開孔8u、スライド板4の下流開孔8dと下固定板5の上流開孔8uが、それぞれ一致するように、スライド板4の摺動位置が定まっており、即ちスライディングゲート1は全開の状態である(図10(D)参照)。図10に示すスライディングゲート1は、スライド板4を図の左方向に移動することにより、スライディングゲート1の開度を小さくすることができる。図11は、図10と同じスライディングゲート1について、開度を1/2とした状態を示している。スライド板4の位置をさらに図の左側に移動することにより、スライディングゲート1を全閉とすることができる。図2図3に示す例でも同様である。図2はスライディングゲート1が全開であり、上固定板3の下流開孔8dとスライド板4の上流開孔8u、スライド板4の下流開孔8dと下固定板5の上流開孔8uが、それぞれ一致するように、スライド板4の摺動位置が定まっている。図3図2と同じスライディングゲート1について、スライディングゲート1の開度が1/2の状態を示している。そこで、スライディングゲート1を閉とするときにスライド板4を摺動する方向を、以下「摺動閉方向33」と呼ぶ。
【0022】
図2に示す本発明の例では、流路軸線方向10が摺動面垂直下流方向32に対して流路軸線傾斜角度αで傾いているため、流路軸線方向10を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向31としたとき、摺動面流路軸線方向31を定めることができる。図2(A)~(C)、(F)それぞれ、摺動面流路軸線方向31を細線矢印で示している。なお、図2(A)~(C)では、摺動面流路軸線方向31は流路軸線方向10と重なっている。また、図10に示す例では、流路軸線方向10が摺動面垂直下流方向32を向いているため、図10(A)~(C)には摺動面流路軸線方向31が現れない。
【0023】
次に、摺動面流路軸線方向31と摺動閉方向33との間の角度関係について定義する。摺動閉方向33に対し、摺動面流路軸線方向31が、摺動面垂直下流方向32に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θと呼ぶ。流路軸線回転角度θは、±180°の範囲の角度として定義する。即ち、摺動面流路軸線方向31が、摺動面垂直下流方向32に見て時計回りに+180°を超える角度(θ’)となったときには、「θ=θ’-360°」として、角度θをマイナスの値として定める。角度θの下添え字として、最も上流側のプレートのθをθ1、その一つ下流側のプレートのθをθ2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ3と順に番号を付ける。代表してθNと表現するとき、Nは1以上の整数でスライディングゲート1のプレート枚数までの数値を意味する。図2に示す例では、上固定板3は角度θ1=-45°、スライド板4は角度θ2=+90°、下固定板5は角度θ3=-135°となる。
【0024】
さらに、スライディングゲート1において、相互に接する2枚のプレート間の流路軸線回転角度の関係について以下のように定義する。即ち、ΔθN=θN-θN+1としてΔθNを定める。ΔθNは、上記θNと同様、±180度の範囲の角度として定義する。即ち、ΔθNが+180°を超える角度(ΔθN’)となったときには、「ΔθN=ΔθN’-360°」として、ΔθNをマイナスの値として定める。また、ΔθNが-180°未満の角度(ΔθN’)となったときには、「ΔθN=ΔθN’+360°」として、ΔθNをプラスの値として定める。これにより、ΔθNは±180°の範囲内の数字となる。ここで、ΔθNが0°超+180°未満の場合には、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θNが反時計回りに変化していることを示す。逆に、ΔθNが-180°超0°未満の場合には、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θNが時計回りに変化していることを示す。図2に示す例では、Δθ1=θ1-θ2=-135°、Δθ2’=θ2-θ3=225°であるからΔθ2=Δθ2’-360°=-135°となる。Δθ1、Δθ2いずれも-180~0°の範囲内にあるので、流路軸線回転角度が時計回りに変化していることを示す。
【0025】
以上のような準備のもと、本発明のスライディングゲート1が具備すべき条件とその理由について説明する。
【0026】
従来のスライディングゲート1においては、図10図11に示すように、流路軸線方向10が摺動面に垂直であり、即ち流路軸線傾斜角度αが0°であり、傾きを有していなかった。それに対して本発明は、流路軸線方向10が摺動面垂直下流方向32に対して傾いており、流路軸線傾斜角度αが0°ではないことを第1の特徴とする。流路軸線が摺動面垂直下流方向32に対して傾いていることから、プレート内を流れる溶融金属は、摺動面垂直下流方向32の速度成分のみならず、摺動面垂直下流方向32に対して直角の速度成分(水平方向の速度成分)を有することとなる。本発明においては、流路軸線傾斜角度αが5°以上75°以下である。角度αを5°以上とすることにより、溶融金属は十分な水平方向の速度成分を持つこととなり、下記に示すように浸漬ノズル内における旋回流の形成を可能とする。角度αは、好ましくは15°以上、より好ましくは25°以上である。一方、角度αが大きすぎると耐火物の強度確保や損耗抑制の観点から好ましくないので、角度αを75°以下とする。角度αは、好ましくは65°以下、より好ましくは55°以下である。
【0027】
連続鋳造中のスライディングゲート1の開口状況について、タンディッシュ内の湯面レベルが一定で、一定鋳造速度で鋳造を行っている定常状態においては、スライディングゲートの開口を全開(図10参照)とするのではなく、開度を絞った状態(図11参照)で鋳造が行えるよう、スライディングゲート流路孔断面積の選択が行われている。図11はスライディングゲート1の開度が1/2である。この場合、スライディングゲート1の開口面積は、真円である流路孔の断面積の0.31倍と計算される。定常の連続鋳造中において、このように絞られた小断面が開口面積となる結果、スライディングゲート1のスライド板4よりも下流側については、流路内を小断面の高速な流れが流れていく状況となる。
【0028】
図3は、図2に示す形状の本発明のスライディングゲート1(開度全開)の開度を変更し、開度を1/2としたときのスライディングゲートを示している。図3(A)は図3(D)のA-A矢視図であり、上固定板3の下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれており、スライド板4については上流開孔8u(4)のみが同じく一部実線、一部破線で描かれている。図3(B)は図3(D)のB-B矢視図であり、スライド板4の上流開孔8uが全部実線、下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれており、下固定板5の上流開孔8uが同じく一部実線、一部破線で、下流開孔8dが全部破線で描かれている。図3(C)は図3(D)のC-C矢視図であり、下固定板5の上流開孔8uが全部実線、下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれている。
【0029】
図3に示すように開度を1/2としたときの、スライディングゲートの流路孔内及び浸漬ノズル内の溶融金属の流れについて、図4に基づいて説明を行う。図4において、図4(A)は図4(D)のA-A矢視図であり、上固定板3の下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれており、スライド板4については上流開孔8uのみが同じく一部実線、一部破線で描かれている。図4(B)は図4(D)のB-B矢視図であり、上固定板3の下流開孔8d(3)の位置が2点鎖線で示され、スライド板4の上流開孔8uが全部実線、下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれており、下固定板5の上流開孔8uが同じく一部実線、一部破線で、下流開孔8dが全部破線で描かれている。図4(C)は図4(D)のC-C矢視図であり、スライド板4の下流開孔8d(4)の位置が2点鎖線で示され、下固定板5の上流開孔8uが全部実線、下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれている。また、溶融金属の流線18が、図4(A)~(C)には太線矢印で、(D)(E)には太破線矢印で示されている。
【0030】
図2図3のスライディングゲート1については、前述のように、隣接する流路軸線回転角度θNの差ΔθNは、Δθ1=Δθ2=-135°であって、いずれもΔθNが-180°超0°未満であるから、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θNが時計回りに変化していることを示す。上固定板3の流路孔6内を流れる溶融金属流は、図4(A)に示すように、上固定板3の流路軸線方向10に沿って流れる。上固定板3とスライド板4の接触面では、上固定板3の下流開孔8d(図4(B)の2点鎖線)とスライド板4の上流開孔8u(図4(B)の実線)との重なり部(開口部)の小断面内を下流側に流下する。スライド板4の流路孔6内においては、上固定板3の下流開孔8d(図4(B)の2点鎖線)とスライド板4の上流開孔8u(図4(B)の実線)との重なり部(開口部)の小断面から流出した溶融金属流は、図4(B)に流線18を示すように、スライド板4の流路孔6の内側壁面(円筒面)に沿った旋回流を形成し、下流側の、スライド板4の下流開孔8d(図4(C)の2点鎖線)と下固定板5の上流開孔8u(図4(C)の実線)との重なり部(開口部)の小断面から、さらに下固定板5の流路孔6内に流出する。下固定板5の流路孔6内では、図4(C)に流線18を示すように、下固定板5の流路孔6の内側壁面(円筒面)に沿った旋回流を形成し、そのまま、下流側の浸漬ノズル11内に流出し、図4(D)(E)に示すように、流路内で流線18は旋回流を維持したまま、浸漬ノズル11内を下流側に移動していく。
【0031】
図11に示すような従来のスライディングゲート1を用いた場合、スライディングゲート1の開口部から流出する際に溶融金属流が有している運動エネルギーのすべてが下流方向に向かう流速に費やされている。それに対して、図3に示すような本発明のスライディングゲート1を用いた場合、スライディングゲート1から流出する際に、溶融金属流の運動エネルギーは下流方向に向かう流速と旋回して浸漬ノズルの内周面を旋回する旋回速度とに分散されるので、図11に示す従来のスライディングゲート1と比較し、下流方向に向かう流速を抑制することが可能となる。
【0032】
スライディングゲート1の流路孔6内に旋回流を形成し、スライディングゲート下流側の浸漬ノズル内においても旋回流を形成するための、隣接するプレートの流路軸線回転角度θN相互間の差である角度ΔθNの条件について説明する。前述のように、ΔθNは±180°の範囲内の角度として定義されている。ここにおいて、ΔθN=-10°超かつ+10°未満の場合には、流路軸線回転角度θNとθN+1の差異が小さすぎ、旋回流を形成できない。一方、ΔθNが+170°以上又は-170°以下の場合、ΔθNの絶対値が大きすぎ、かえって旋回流の形成を阻害することとなる。スライディングゲート1が2枚のプレートを有する場合、Δθ1のみが定義され、当該Δθ1が上記条件を満たしていれば良い。スライディングゲート1が3枚以上のプレートを有する場合、Δθ1に加え、Δθ2、さらにはそれ以上のΔθNが定義される。そして、ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満、又は角度ΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であることが必要である。これにより、プレートの1枚目と2枚目の流路軸線方向10が時計回りに変化するときには3枚目以降についても同じように時計回りに変化し、プレートの1枚目と2枚目の流路軸線方向10が反時計回りに変化するときには3枚目以降についても同じように反時計回りに変化するので、スライディングゲート内で旋回流を有効に形成することが可能となる。ΔθNのより好ましい範囲は、30°以上、165°未満、又は-165°超、-30°以下である。
【0033】
スライディングゲート1を形成するプレートの数は、2枚もしくは3枚であると好ましい。図2図4に示す例は、上述のとおり、プレートの数が3枚の場合である。図5図6は、プレートの数が2枚であり、上流側から1枚目が上固定板3、2枚目がスライド板4を構成している。図5は開度が全開、図6は開度が1/2の場合である。α=51.95°、θ1=-26.57°、θ2=+26.57°であり、Δθ1=-53.14°であって、時計回りの旋回流を形成することができる。スライディングゲート1を形成するプレートの数が2枚もしくは3枚であると好ましい理由は、スライディングゲートの絞り機構発現には最低2枚のプレートが必要であり、4枚以上のプレートは流量調整に不要で、プレート数の増加に伴いコストが上昇するからである。
【0034】
プレートに形成する流路孔6については、図7に示すような形状の流路孔6とすることもできる。図7は上固定板3の一例を示す。プレートの上流面7uから厚みの途中までは、流路孔6の形状は、断面真円の円筒形状であって、円筒の軸線が摺動面垂直下流方向32に向いている。プレートの下流面7dから厚みの途中までは、流路孔6の形状は、断面真円の円筒形状であって、円筒の軸線が摺動面垂直下流方向32から傾斜して形成されている。プレートの厚み途中において、上流面7uからの流路孔6と下流面7dからの流路孔6が段差なく接続されている。このような形状の流路孔6を有するプレートにおいても、図7(D)に示すように、上流側表面開孔図形の重心(上流開孔重心9u)から下流側表面開孔図形の重心(下流開孔重心9d)に向く方向を流路軸線方向10として定義することができる。
【0035】
なお、スライディングゲート1を構成するプレートの厚みは同一でもよいが、スライド板4が最も薄いなどプレート毎に厚みが異なっていても構わない。また、スライディングゲート各プレートの入口および出口の流路孔形状は同じ大きさの円でもよいが、これが楕円もしくは長円であっても、本発明の規定を満たす限りにおいては、旋回流を得ることが可能である。あるいはその開孔面積が各プレートの入口および出口で異なっていても構わない。
【0036】
角度αについては、全てのプレートで同一であっても異なっていても構わない。
【0037】
《水モデル実験》
連続鋳造中における、吐出流の水平方向成分を定量的に評価するため、1/1スケール水モデル実験装置を用いた粒子画像流速計測法による吐出孔付近の速度分布計測を行った。特に、ゲート内径をDとした時に吐出孔先端から1.0Dの位置における速度分布に注目し、その位置での水平方向速度成分の平均を「水平方向速度強さ」とした。ここで、連続鋳造の1/1スケールの水モデル実験は、フルード数Frとレイノルズ数Reが一致している観点から溶鋼流動を十分に再現している。
【0038】
スライディングゲートとして、浸漬ノズル内で旋回流を形成する本発明のスライディングゲート(以下「本発明ゲート」という。)と、従来から用いられている通常のスライディングゲート(以下「通常ゲート」という。)とを準備した。本発明ゲート、通常ゲートのいずれも、プレート厚みは35mm、プレートの流路孔径はφ50mmである。ここで、流路孔はプレートへの穴あけに使用するドリル径と一致する。
【0039】
プレート2の摺動面30に垂直な下流方向(摺動面垂直下流方向32)と流路軸線方向10とがなす流路軸線傾斜角度αについては、上固定板3のαをα1、スライド板4のαをα2、下固定板5のαをα3と順に番号を付ける。摺動面流路軸線方向31が摺動面垂直下流方向32に見て時計回りになす角度である流路軸線回転角度θについても同様に、上固定板3、スライド板4、下固定板5それぞれのθをθ1、θ2、θ3と順に番号を付ける。
【0040】
本発明ゲートは、図2図4に示す形状を有し、α1=α3=35.531°、α2=32°であり、θ1=36.101°、θ2=90°、θ3=-143.899°(36.101-180)であり、浸漬ノズル内孔に流下する溶鋼流に時計回りの旋回流を形成する。通常ゲートは、図10、11に示す形状を有し、α1=α2=α3=0°であり、θ1、θ2、θ3は値がない。
【0041】
浸漬ノズル11は、いずれも浸漬ノズル底部に下方に向けて吐出孔13が開孔する単孔浸漬ノズルを用いた。吐出孔13の形状として、図12に示す3種類を用いた。図12(A)は、吐出孔13が直管である。図12(B)(C)は、浸漬ノズル内壁から吐出孔出口に向かって拡管状形状を有している。図12(B)は吐出孔13が直線状に拡管する山型であり、図12(C)は吐出孔13が内壁から滑らかに曲線で開孔するラッパ型である。さらに、直管単孔浸漬ノズルについては、浸漬ノズル上方の内壁形状が単純な円筒である通常直管単孔浸漬ノズルと、浸漬ノズル上方に、特許文献1に示す羽根が形成されている羽根付き直管単孔浸漬ノズルの2種類を用意した。
【0042】
スライディングゲートと浸漬ノズルについて、表1に示すような組み合わせを準備し、それぞれで水モデル実験を行った。
【0043】
【表1】
【0044】
表1の試験条件C(本発明例)と試験条件E(比較例)のそれぞれについて、吐出孔13の下流側における吐出流19の流速と流れの方向を計測した。吐出孔の内径をD(=50mm)とし、吐出孔の出口、吐出孔から1.0D下方、吐出孔から2.0D下方における流速と流れの方向を計測し、結果の模式図を図13に示した。図13(A)は試験条件C(本発明例)、図13(B)は試験条件E(比較例)である。図13に示したように、通常ゲートを用い、旋回流を付与しない場合には、吐出孔13下方の吐出流19は、水平方向の流速成分を持たず、また下方に向かうにつれての流路の広がりも僅かである。それに対して、旋回流を付与した本発明の場合には、吐出孔13下方の吐出流19は、水平方向の流速成分を有し、また下方に向かうにつれての流路の広がりも大きくなることが明らかとなった。
【0045】
さらに表1の試験条件A~Eのすべてについて、水平方向速度成分強さと鋳造方向速度成分強さの計測結果を同じ表1に示す。
まず、単孔浸漬ノズルの吐出孔の出口形状が直管である場合について、スライディングゲート(以下単に「ゲート」とも呼称)と浸漬ノズル上部内部構造との組合せが旋回流に及ぼす影響を評価した。表1から明らかなように、浸漬ノズル上部内部構造が通常の円筒構造で通常ゲートとの組合せ(試験条件E)では鋳造方向に大きな吐出流速を示しているが、浸漬ノズル上部内部構造が羽根付きの構造で通常ゲートとの組合せ(試験条件D)及び本発明ゲートと浸漬ノズル上部内部構造が通常の円筒構造の組合せ(試験条件C)では、鋳造方向へ流れる流体の速度が小さくなることがわかる。これは、浸漬ノズル上部内部構造が通常の円筒構造で通常ゲートとの組合せ(試験条件E)で発生しなかった水平方向速度が浸漬ノズル内に旋回流を発生させる本発明ゲートと浸漬ノズル上部内部構造が通常の円筒構造の組合せ(試験条件C)で付加されたためだと考えられる。
次に、スライディングゲートとして本発明ゲートを用い、単孔浸漬ノズルの吐出孔の出口形状が及ぼす影響を評価した。単孔浸漬ノズルの吐出孔の出口形状に注目すると、出口形状が直管形状(試験条件C)であっても旋回の効果によって鋳造方向速度が抑制され、水平方向速度が付加されている。一方で、吐出孔の出口形状がラッパ型形状(試験条件A)や山型形状(試験条件B)だと、直管形状(試験条件C)に比べてより大きな鋳造方向速度の抑制効果と水平方向速度の増強効果が明らかになった。これは、壁付近の粘性によって、鋳造方向へ流れる流体がラッパ型形状や山型形状の壁に引き寄せられるように水平方向に向かう、コアンダ効果が発現しているためと考える。
【実施例
【0046】
取鍋溶鋼量が200トンのブルーム連続鋳造装置(2ストランド)において、本発明を適用した。鋳造する鋳片形状は、幅:250mm、厚み:250mmである。タンディッシュ容量は35トンであり、タンディッシュの底部に連続鋳造用注湯装置を設ける。連続鋳造用注湯装置は、溶融金属の流量を調整するスライディングゲートと、スライディングゲートの下方に設けられる浸漬ノズルとを有する。スライディングゲートは溶融金属が通過する流路孔が形成された3枚のプレートを有し、中央のプレートは摺動が可能なスライド板である。浸漬ノズルは、単孔浸漬ノズルである。
【0047】
スライディングゲートとして、前記水モデル実験と同様の本発明ゲート、通常ゲートを用いた。また、浸漬ノズルとして、前記水モデル実験と同様のノズルを用いた。
【0048】
湯面温度低下による湯面皮張りの評価方法として、鋳造後の鋳片中のパウダー巻き込み性欠陥の発生率を取り上げる。鋳片中のパウダー巻き込み性欠陥の発生率は、製品段階で判明するパウダー起因の欠陥発生率として評価した。連続鋳造用注湯装置のスライディングゲートとして通常ゲートを用い、浸漬ノズルとして通常ノズルを用いた条件(試験条件E)におけるパウダー巻き込み性欠陥の発生率を基準(1.0)とし、各条件のパウダー巻き込み性欠陥の発生率を指数化し、「鋳片品質」とした。
【0049】
連続鋳造用注湯装置の耐久性について、連続鋳造用注湯装置耐火物を交換なしで使用できる最長の鋳込み時間(以下「交換なし鋳込み時間」)に基づいて評価した。連続鋳造用注湯装置のスライディングゲートとして通常ゲートを用い、浸漬ノズルとして通常ノズルを用いた条件(試験条件E)における交換なし鋳込み時間を基準(1.0)とし、各条件の交換なし鋳込み時間を指数化し、「耐久性指数」とした。
【0050】
連続鋳造用注湯装置として使用したスライディングゲート、浸漬ノズルの条件、鋳造結果について表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から、鋳型への給湯流に旋回を発生させる羽根付きノズル(試験条件D)と本発明ゲート(試験条件A~C)では、鋳片品質が向上し、鋳型内湯面皮張りが減ったと推測できる。さらに、浸漬ノズルの出口形状を山型形状(試験条件B)やラッパ型形状(試験条件A)にすると、さらに鋳片品質が向上することがわかる。これは、表1に示されるように単孔浸漬ノズルの吐出孔の出口形状が山型形状やラッパ型形状であれば水平方向速度成分強さがより大きな値を示す傾向と一致している。つまり、吐出孔の出口形状が山型形状やラッパ型形状であれば、鋳型内湯面の熱供給量が増大し、鋳型内湯面の皮張りが防止されることを示唆している。また、耐火物耐久性に関しては、一番低い数値を示している羽根付きノズル(試験条件D)に比べて、本発明ゲート(試験条件A~C)は高い数値を示した。さらに、本発明ゲート(試験条件A~C)の耐火物耐久性指数は1.3と試験条件Eの通常ゲートよりも高い数値を示すことも明らかとなった。
【符号の説明】
【0053】
1 スライディングゲート
2 プレート
3 上固定板
4 スライド板
5 下固定板
6 流路孔
7u 上流面(上流側表面)
7d 下流面(下流側表面)
8u 上流開孔(上流側表面開孔)
8d 下流開孔(下流側表面開孔)
9u 上流開孔重心(上流側表面開孔図形重心)
9d 下流開孔重心(下流側表面海溝図面重心)
10 流路軸線方向
11 浸漬ノズル
12 浸漬ノズル内孔
13 吐出孔
18 流線
19 吐出流
20 連続鋳造用注湯装置
21 タンディッシュ
22 鋳型
23 溶融金属
30 摺動面
31 摺動面流路軸線方向
32 摺動面垂直下流方向
33 摺動閉方向
α 流路軸線傾斜角度
θ 流路軸線回転角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13