(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20221220BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M1/08 A
H02M1/08 341B
(21)【出願番号】P 2019077881
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 翔直
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-068097(JP,A)
【文献】特開2016-220101(JP,A)
【文献】特開2009-081969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に並列に接続され、電流に対する特性が相違する第1のスイッチ回路及び第2のスイッチ回路と、
前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路に流れる電流の電流値を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された前記電流値を電流閾値と比較する比較部と、
電力変換装置の出力電圧を一定にするための基準電圧指令に、前記電流閾値での前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路とのオン電圧の差を補正する補正値を付加することによって、補正電圧指令を演算する指令補正部と、
前記電流検出部により検出された前記電流値が前記電流閾値をクロスすることが前記比較部により検出されると、前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路のうち、停止中の一方のスイッチ回路を前記補正電圧指令に従って動作させ、且つ、動作中の他方のスイッチ回路を停止させる指令部とを備える、電力変換装置。
【請求項2】
前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路の各温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出された各温度を用いて、前記補正値を演算する補正演算部とを備える、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路の各温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出された各温度を用いて、前記電流閾値を演算する閾値演算部を備える、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路の各温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出された各温度を用いて、前記補正値と前記電流閾値を演算する演算部を備える、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電流閾値は、第1の電流閾値と、前記第1の電流閾値とは異なる第2の電流閾値とを含み、
前記指令補正部は、前記第1の電流閾値での前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路とのオン電圧の差を補正する第1の補正値を前記基準電圧指令に付加することによって、第1の補正電圧指令を演算し、前記第2の電流閾値での前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路とのオン電圧の差を補正する第2の補正値を前記基準電圧指令に付加することによって、第2の補正電圧指令を演算し、
前記指令部は、前記電流検出部により検出された前記電流値が前記第1の電流閾値をクロスすることが前記比較部により検出されると、停止中の前記一方のスイッチ回路を前記第1の補正電圧指令に従って動作させ、且つ、動作中の前記他方のスイッチ回路を停止させ、前記電流検出部により検出された前記電流値が前記第2の電流閾値をクロスすることが前記比較部により検出されると、動作中の前記一方のスイッチ回路を停止させ、且つ、停止中の前記他方のスイッチ回路を前記第2の補正電圧指令に従って動作させる、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第1のスイッチ回路の電流に対する特性を表す第1のカーブと前記第2のスイッチ回路の電流に対する特性を表す第2のカーブとが交差するときの交差電流値は、前記第1の電流閾値と前記第2の電流閾値との間にある、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第1のスイッチ回路の電流に対する特性と前記第2のスイッチ回路の電流に対する特性とは、それぞれの回路のオン電圧特性である、請求項1から6のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記第1のスイッチ回路の電流に対する特性と前記第2のスイッチ回路の電流に対する特性とは、それぞれの回路の損失特性である、請求項1から6のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路とのうち少なくとも一方は、ワイドバンドギャップデバイスである少なくとも一つのスイッチング素子を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、特許文献1に記載された従来の電力変換装置の回路図である。
図8に示す電力変換装置は、バッテリ3の直流電力を交流に変換してモータ2を駆動するブリッジインバータである。このブリッジインバータは、IGBT(S1~S6)のそれぞれにMOSFET(F1~F6)が並列に接続された三相分のアームA1,A2,A3を備える。
【0003】
図9は、特許文献1に記載された従来の電力変換装置の動作説明図である。
図9によれば、IGBTは、電流に関係なくオン電圧がほぼ一定になる特性を有するのに対し、MOSFETは、オン電圧が電流に対して比例する特性を有する。この点に着目し、特許文献1の技術は、MOSFET(F1~F6)のオン電圧とIGBT(S1~S6)のオン電圧とがバランスする電流値Itを境に、MOSFET(F1~F6)を動作させるのかIGBT(S1~S6)を動作させるのかを切り替える。このように、特許文献1の技術は、検出された電流が基準の電流値It以下か否かにより、動作させるスイッチ回路を切り替えることで、電流の大小にかかわらず運転効率の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回路の誤差やヒステリシスの設定によって、基準の電流値Itからずれた電流値で、動作させるスイッチ回路が切り替わる場合がある。このような場合、切り替え時の電流が同一でもオン電圧はIGBTとMOSFETとで相違するので、電力変換装置の出力電圧が変動するおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、スイッチ回路を切り替える時の出力電圧の変動を抑制可能な電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
相互に並列に接続され、電流に対する特性が相違する第1のスイッチ回路及び第2のスイッチ回路と、
前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路に流れる電流の電流値を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された前記電流値を電流閾値と比較する比較部と、
電力変換装置の出力電圧を一定にするための基準電圧指令に、前記電流閾値での前記第1のスイッチ回路及び第2のスイッチ回路のオン電圧の差を補正する補正値を付加することによって、補正電圧指令を演算する指令補正部と、
前記電流検出部により検出された前記電流値が前記電流閾値をクロスすることが前記比較部により検出されると、前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路のうち、停止中の一方のスイッチ回路を前記補正電圧指令に従って動作させ、且つ、動作中の他方のスイッチ回路を停止させる指令部とを備える、電力変換装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、スイッチ回路を切り替える時の出力電圧の変動を抑制可能な電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電力変換装置の構成を例示する回路図である。
【
図2】制御回路の構成を例示する制御ブロック図である。
【
図3A】第1のスイッチ回路のスイッチング素子の電流とオン電圧との関係を例示する特性図である。
【
図3B】第2のスイッチ回路のスイッチング素子の電流とオン電圧との関係を例示する特性図である。
【
図4】スイッチング素子の電流とオン電圧との関係を例示する特性比較図である。
【
図5】スイッチング素子の電流と損失との関係を例示する特性比較図である。
【
図6A】第1のスイッチ回路に補正なしで切り替える場合の動作を例示するタイムチャートである。
【
図6B】第1のスイッチ回路に補正ありで切り替える場合の動作を例示するタイムチャートである。
【
図7A】第2のスイッチ回路に補正なしで切り替える場合の動作を例示するタイムチャートである。
【
図7B】第2のスイッチ回路に補正ありで切り替える場合の動作を例示するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、一実施形態における電力変換装置の構成例を示す図である。
図1において、電力変換装置1は、一次側に直流電源100が接続され、二次側に出力負荷200が接続された絶縁型のDC-DCコンバータである。電力変換装置1は、直流電源100から入力される直流(DC)を、出力負荷200へ出力する直流(DC)に変換する。
【0012】
電力変換装置1は、直列に接続されるコンデンサ16,17と、コンデンサ16,17の直列回路に並列に接続される第1のスイッチ回路11と、第1のスイッチ回路11に並列に接続される第2のスイッチ回路21とを一次側に備える。
【0013】
コンデンサ16,17の直列回路は、その両端で直流電源100からの入力電力を受け、直流電圧が印加される。第1のスイッチ回路11は、第1のダイオード11cが並列に接続される第1のスイッチング素子11aと、第2のダイオード11dが並列に接続される第2のスイッチング素子11bとが直列に接続される回路を有する。第2のスイッチ回路21は、第3のダイオード21cが並列に接続される第3のスイッチング素子21aと、第4のダイオード21dが並列に接続される第4のスイッチング素子21bとが直列に接続される回路を有する。
【0014】
図1では、スイッチング素子11a,11bにSiC-MOSFETが使用され、ダイオード11c,11dにSiCショットキーバリアダイオードが使用される形態が例示されている。一方、スイッチング素子21a,21bにSi-IGBTが使用され、ダイオード21c,21dにSiダイオードが使用される形態が例示されている。SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などのワイドバンドギャップデバイスをスイッチング素子に適用することにより、スイッチング素子の損失が低減される。なお、MOSFETは、Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略語であり、IGBTは、Insulated Gate Bipolar Transistorの略語である。
【0015】
第1のスイッチング素子11aと第2のスイッチング素子11bとの相互の接続点(中点)及び第3のスイッチング素子21aと第4のスイッチング素子21bとの相互の接続点(中点)は、絶縁トランス19の一次側巻線の一端に接続されている。一方、コンデンサ16とコンデンサ17との相互の接続点(中点)は、絶縁トランス19の一次側巻線の他端に接続されている。
【0016】
電力変換装置1は、CT(Current Transformer)等の交流電流検出器22と、サーミスタ等の温度検出器24,25とを備える。交流電流検出器22は、第1のスイッチ回路11と第2のスイッチ回路21とに流れる電流を測定し、その測定された電流の電流値に対応する電流測定値を制御回路30に出力する。
図1に示す形態では、交流電流検出器22は、スイッチ回路11,21と絶縁トランス19との間の通流電流を測定する。第1の温度検出器24は、第1のスイッチ回路11の温度を測定し、その測定された温度に対応する温度測定値を制御回路30に出力する。第2の温度検出器25は、第2のスイッチ回路21の温度を測定し、その測定された温度に対応する温度測定値を制御回路30に出力する。
【0017】
電力変換装置1は、整流ダイオード12~15を含む整流回路と、整流回路の正側に直列に接続される平滑リアクトル20と、整流回路に平滑リアクトル20を介して並列に接続される平滑コンデンサ18とを二次側に備える。直列に接続された整流ダイオード12,14の中点は、絶縁トランス19の二次側巻線の一端に接続され、直列に接続された整流ダイオード13,15の中点は、絶縁トランス19の二次側巻線の他端に接続される。整流ダイオード12,13のカソード側には、平滑リアクトル20の一端が接続されている。平滑リアクトル20の他端(出力側端部)には、平滑コンデンサ18の一端が接続され、整流ダイオード14,15のアノード側には、平滑コンデンサ18の他端が接続されている。
【0018】
電力変換装置1は、電力変換装置1の出力電圧を検出する直流電圧検出器23を備える。直流電圧検出器23は、電力変換装置1の出力電圧(言い換えれば、平滑コンデンサ18の電圧)を測定し、その測定された電圧に対応する電圧測定値を制御回路30に出力する。
【0019】
電力変換装置1は、制御回路30、第1の駆動回路40及び第2の駆動回路50を備える。制御回路30は、交流電流検出器22と直流電圧検出器23のそれぞれから入力される測定値に基づいて、電力変換装置1の出力電圧を一定に制御する第1のスイッチ回路11及び第2のスイッチ回路21用のPWM(Pulse Width Modulation)信号を演算する。第1の駆動回路40は、制御回路30にて演算された第1のスイッチ回路11用PWM信号に従って、第1のスイッチ回路11内のスイッチング素子11a,11bのスイッチングを制御する。第2の駆動回路50は、制御回路30にて演算された第2のスイッチ回路21用PWM信号に従って、第2のスイッチ回路21内のスイッチング素子21a,21bのスイッチングを制御する。
【0020】
図2は、制御回路30の構成を例示する制御ブロック図である。次に、
図2に示す制御回路30の構成について説明する。
【0021】
制御回路30は、スイッチ切替演算部300、絶対値演算部301、ローパスフィルタ302,311,317、切替制御部303、比較器305,306,313,319、RS型のフリップフロップ307、電圧指令演算部308、スイッチ310,314,316,320、加算器312,318、キャリア生成器321を有する。
図2に示す制御回路30の各機能は、メモリに読み出し可能に記憶されるプログラムによってCPU等のプロセッサが動作することにより実現される。
【0022】
交流電流検出器22(
図1参照)から入力される電流測定値iaは、絶対値演算部301にて絶対値に変換され、ローパスフィルタ302によりキャリア周波数成分を除去するフィルタ処理が施される。フィルタ処理後の結果である電流値Iaは、スイッチ切替演算部300に出力される。このように、交流電流検出器22、絶対値演算部301及びローパスフィルタ302によって、第1のスイッチ回路11及び第2のスイッチ回路21に流れる電流の電流値Iaを検出する電流検出部が形成される。
【0023】
切替制御部303は、温度検出器24で検出された第1のスイッチ回路11の温度T1と、温度検出器25で検出された第2のスイッチ回路21の温度T2とを用いて、電流閾値Ith1,Ith2を演算する閾値演算部を有する。第1の電流閾値Ith1は、動作させるスイッチ回路を第2のスイッチ回路21から第1のスイッチ回路11に切り替えるための切り替え閾値である。第2の電流閾値Ith2は、動作させるスイッチ回路を第1のスイッチ回路11から第2のスイッチ回路21に切り替えるための切り替え閾値である。電流閾値Ith1,Ith2は、スイッチ切替演算部300に出力される。
【0024】
また、切替制御部303は、温度検出器24で検出された第1のスイッチ回路11の温度T1と、温度検出器25で検出された第2のスイッチ回路21の温度T2とを用いて、基準補正値Vr1o,Vr2oを演算する基準補正演算部を有する。第1の基準補正値Vr1oは、第2のスイッチ回路21から第1のスイッチ回路11に切り替えた時に電力変換装置1の出力電圧に生じる電圧差分の補正に使用される値である。第2の基準補正値Vr2oは、第1のスイッチ回路11から第2のスイッチ回路21に切り替えた時に電力変換装置1の出力電圧に生じる電圧差分の補正に使用される値である。第1の基準補正値Vr1oは、第1の指令生成部330に出力され、第2の基準補正値Vr2oは、第2の指令生成部340に出力される。
【0025】
次に、切替制御部303により行われる、電流閾値Ith1,Ith2及び基準補正値Vr1o,Vr2oの演算方法の一例について説明する。
【0026】
図3Aは、第1のスイッチ回路11のスイッチング素子の電流とオン電圧との関係を例示する特性図である。
図3Bは、第2のスイッチ回路21のスイッチング素子の電流とオン電圧との関係を例示する特性図である。スイッチング素子のオン電圧とは、スイッチング素子のオン状態での主電極間の電圧を表し、MOSFETの場合、ドレイン-ソース間の電圧であり、IGBTの場合、コレクタ-エミッタ間の電圧である。
【0027】
第1のスイッチ回路11と第2のスイッチ回路21の電流‐電圧特性(すなわち、スイッチング素子のオン状態で主電極間に流れる電流に対するオン電圧)は、
図3A,3Bに示すように、温度によって変化する。そのため、切替制御部303は、第1のスイッチ回路11の温度T1を用いて、第1のスイッチ回路11の電流‐電圧特性(以下、特性C1とも称する)の補正を行う。同様に、切替制御部303は、第2のスイッチ回路21の温度T2を用いて、第2のスイッチ回路21の電流‐電圧特性(以下、特性C2とも称する)の補正を行う。
【0028】
例えば、切替制御部303は、温度毎にメモリに格納された特性C1を表す特性データの中から、検出された温度T1に対応する特性C1を表す特性データを選択する。同様に、切替制御部303は、温度毎にメモリに格納された特性C2を表す特性データの中から、検出された温度T2に対応する特性C2を表す特性データを選択する。
【0029】
次に、切替制御部303は、温度補正により選択されたスイッチ回路11,21の各々の特性データを用いて、特性C1を表す第1のカーブと特性C2を表す第2のカーブとが交差するときの交差電流値Ithを導出する(
図4参照)。切替制御部303は、第1の電流閾値Ith1を、交差電流値Ithよりも低い値に設定し、第2の電流閾値Ith2を、交差電流値Ithよりも高い値に設定する。例えば
図4に示すように、スイッチ回路の温度が150℃の場合は、交差電流値Ithは、90Aである。このとき、第1の電流閾値Ith1は、交差電流値Ithよりも低い値である70Aに設定され、第2の電流閾値Ith2は、交差電流値Ithよりも高い値である110Aに設定されてもよい。
【0030】
次に、切替制御部303は、第1の電流閾値Ith1における第1のスイッチ回路11のオン電圧と第2のスイッチ回路21のオン電圧との差(オン電圧差分ΔV1)を補正する第1の基準補正値Vr1oを演算する。同様に、切替制御部303は、第2の電流閾値Ith2における第1のスイッチ回路11のオン電圧と第2のスイッチ回路21のオン電圧との差(オン電圧差分ΔV2)を補正する第2の基準補正値Vr2oを演算する。なお、スイッチ回路のオン電圧とは、当該スイッチ回路に含まれる一又は複数のスイッチング素子のオン電圧の和を表す。
【0031】
スイッチ切替演算部300は、比較器305,306と、フリップフロップ307とを有する。比較器305,306は、電流値Iaを電流閾値Ith1,Ith2と比較する比較部である。
【0032】
スイッチ切替演算部300は、ローパスフィルタ302の結果である電流値Iaと第1の電流閾値Ith1とを比較器306で比較する。電流値Iaが第1の電流閾値Ith1よりも低い場合、ハイレベルの信号がフリップフロップ307のリセット端子に入力される(R=1)。これにより、フリップフロップ307は、停止中の第1のスイッチ回路11を動作させ、且つ、動作中の第2のスイッチ回路21を停止させる信号F(Q=0(ローレベル))を出力する。信号Fが出力されると、スイッチ310,314,316,320は、接点Tから接点Fに切り替わる。
【0033】
一方、スイッチ切替演算部300は、ローパスフィルタ302の結果である電流値Iaと第2の電流閾値Ith2とを比較器305で比較する。電流値Iaが第2の電流閾値Ith2よりも高い場合、ハイレベルの信号がフリップフロップ307のセット端子に入力される(S=1)。これにより、フリップフロップ307は、停止中の第2のスイッチ回路21を動作させ、且つ、停止中の第1のスイッチ回路11を停止させる信号T(Q=1(ハイレベル))を出力する。信号Tが出力されると、スイッチ310,314,316,320は、接点Fから接点Tに切り替わる。
【0034】
このように、第1の電流閾値Ith1及び第2の電流閾値Ith2によりヒステリシス特性を持たせて、動作させるスイッチ回路を切り替えることが可能となる。これにより、安定したスイッチ回路を切り替えることができ、スイッチング素子の損失及び発熱を抑えることができる。その結果、例えば、電力変換装置を冷却する冷却体の軽量化と電力変換装置の効率向上が可能となる。
【0035】
電圧指令演算部308は、直流電圧検出器23で検出された出力電圧Voの電圧値に基づいて、出力電圧Voの電圧値を一定にするための基準電圧指令Viを演算する。
【0036】
第1のスイッチ回路11用の第1の指令生成部330は、第1の基準補正値Vr1oに基づいて、基準電圧指令Viに付加する第1の補正値Vr1をローパスフィルタ317により演算する第1の指令補正部を有する。第1の指令補正部は、基準電圧指令Viに第1の補正値Vr1を加算器318にて加算することによって、第1のスイッチ回路11用の第1の補正電圧指令Vi1を演算する。キャリア生成器321は、所定のキャリア周波数の三角波キャリアを出力する。第1の補正電圧指令Vi1と三角波キャリアとは、比較器319にて大小比較され、その比較結果が、第1のスイッチ回路11へ与える第1のパルス指令P1として作成される。第1のパルス指令P1は、第1の駆動回路40に第1のPWM信号として出力される。
【0037】
図6Aは、第1の補正値Vr1を使用せずに、動作させるスイッチ回路を第2のスイッチ回路21から第1のスイッチ回路11に切り替える具体的な動作を例示する(比較例)。電流値Iaが第1の電流閾値Ith1より大きい場合は、第1のスイッチ回路11は停止し、第2のスイッチ回路21は動作している。次に、電流値Iaが第1の電流閾値Ith1をクロスして下回ると、第1のスイッチ回路11は動作し、第2のスイッチ回路21は停止する。この切り替え時、出力電圧Voは、第1の電流閾値Ith1におけるオン電圧差分ΔV1(オン電圧の低下)により、一時的に変動(上昇)する(a11参照)。その後、出力電圧Voが一定になるように電圧指令演算部308からの基準電圧指令Viが変化するので(a12,a13参照)、出力電圧Voは次第に元の一定値に戻る。
【0038】
図6Bは、第1の補正値Vr1を使用して、動作させるスイッチ回路を第2のスイッチ回路21から第1のスイッチ回路11に切り替える具体的な動作を例示する(実施例)。電流値Iaが第1の電流閾値Ith1より大きい場合は、第1のスイッチ回路11は停止し、第2のスイッチ回路21は動作している。次に、電流値Iaが第1の電流閾値Ith1をクロスして下回ると、第1のスイッチ回路11は動作し、第2のスイッチ回路21は停止する。この切り替え時、第1の補正値Vr1が第1のスイッチ回路11用の基準電圧指令Viに加算されることで(a15,a16参照)、出力電圧Voの変動は抑制され略一定に保たれる(a14参照)。その後、加算器318にて加算される第1の補正値Vr1は、第1の基準補正値Vr1oから0にスイッチ316により切り替わり、ローパスフィルタ317によって徐々に0となる(a16参照)。そして、加算器318にて加算される第1の補正値Vr1は、電圧指令演算部308にて補償される。
【0039】
したがって、第1の電流閾値Ith1におけるオン電圧差分ΔV1を、第1の補正値Vr1を用いて予め補償することで、スイッチ回路の切り替え時の出力電圧Voの変動の抑制が可能となる。
【0040】
一方、
図2において、第2のスイッチ回路21用の第2の指令生成部340は、第2の基準補正値Vr2oに基づいて、基準電圧指令Viに付加する第2の補正値Vr2をローパスフィルタ311により演算する第2の指令補正部を有する。第2の指令補正部は、基準電圧指令Viに第2の補正値Vr2を加算器312にて加算することによって、第2のスイッチ回路21用の第2の補正電圧指令Vi2を演算する。第2の補正電圧指令Vi2と三角波キャリアとは、比較器313にて大小比較され、その比較結果が、第2のスイッチ回路21へ与える第2のパルス指令P2として作成される。第2のパルス指令P2は、第2の駆動回路50に第2のPWM信号として出力される。
【0041】
図7Aは、第2の補正値Vr2を使用せずに、動作させるスイッチ回路を第1のスイッチ回路11から第2のスイッチ回路21に切り替える具体的な動作を例示する(比較例)。電流値Iaが第2の電流閾値Ith2より小さい場合は、第1のスイッチ回路11は動作し、第2のスイッチ回路21は停止している。次に、電流値Iaが第2の電流閾値Ith2をクロスして上回ると、第1のスイッチ回路11は停止し、第2のスイッチ回路21は停止する。この切り替え時、出力電圧Voは、第2の電流閾値Ith2におけるオン電圧差分ΔV2(オン電圧の低下)により、一時的に変動(上昇)する(a21参照)。その後、出力電圧Voが一定になるように電圧指令演算部308からの基準電圧指令Viが変化するので(a22,a23参照)、出力電圧Voは次第に元の一定値に戻る。
【0042】
図7Bは、第2の補正値Vr2を使用して、動作させるスイッチ回路を第1のスイッチ回路11から第2のスイッチ回路21に切り替える具体的な動作を例示する(実施例)。電流値Iaが第2の電流閾値Ith2より小さい場合は、第1のスイッチ回路11は動作し、第2のスイッチ回路21は停止している。次に、電流値Iaが第2の電流閾値Ith2をクロスして上回ると、第1のスイッチ回路11は停止し、第2のスイッチ回路21は動作する。この切り替え時、第2の補正値Vr2が第2のスイッチ回路21用の基準電圧指令Viに加算されることで(a25,a26参照)、出力電圧Voの変動は抑制され略一定に保たれる(a24参照)。その後、加算器312にて加算される第2の補正値Vr2は、第2の基準補正値Vr2oから0にスイッチ310により切り替わり、ローパスフィルタ311によって徐々に0となる(a27参照)。そして、加算器312にて加算される第2の補正値Vr2は、電圧指令演算部308にて補償される。
【0043】
したがって、第2の電流閾値Ith2におけるオン電圧差分ΔV2を、第2の補正値Vr2を用いて予め補償することで、スイッチ回路の切り替え時の出力電圧Voの変動の抑制が可能となる。
【0044】
このように、電力変換装置1は、相互に並列に接続され、電流に対するオン電圧特性が相違する第1のスイッチ回路及び第2のスイッチ回路と、前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路に流れる電流の電流値を検出する電流検出部と、前記電流検出部により検出された前記電流値を電流閾値と比較する比較部と、電力変換装置の出力電圧を一定にするための基準電圧指令に、前記電流閾値での前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路とのオン電圧の差を補正する補正値を付加することによって、補正電圧指令を演算する指令補正部と、前記電流検出部により検出された前記電流値が前記電流閾値をクロスすることが前記比較部により検出されると、前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路のうち、停止中の一方のスイッチ回路を前記補正電圧指令に従って動作させ、且つ、動作中の他方のスイッチ回路を停止させる指令部とを備える。したがって、前記第1のスイッチ回路と前記第2のスイッチ回路のうち、動作させるスイッチ回路を、一方のスイッチ回路から他方のスイッチ回路に切り替える時の出力電圧の変動を抑制することができる。
【0045】
なお、上記の説明では、スイッチング回路の電流‐オン電圧特性を利用してスイッチ回路を切り替えたが、
図5に示すスイッチング回路の電流‐損失特性を利用してスイッチ回路を切り替えてもよい。この場合、第1のスイッチ回路11と第2のスイッチ回路21の電流‐損失特性(すなわち、スイッチング素子のオン状態で主電極間に流れる電流に対して生ずる損失)も、温度によって変化する。そのため、切替制御部303は、第1のスイッチ回路11の温度T1を用いて、第1のスイッチ回路11の電流‐損失特性(以下、特性D1とも称する)の補正を行う。同様に、切替制御部303は、第2のスイッチ回路21の温度T2を用いて、第2のスイッチ回路21の電流‐損失特性(以下、特性D2とも称する)の補正を行う。
【0046】
例えば、切替制御部303は、温度毎にメモリに格納された特性D1を表す特性データの中から、検出された温度T1に対応する特性D1を表す特性データを選択する。同様に、切替制御部303は、温度毎にメモリに格納された特性D2を表す特性データの中から、検出された温度T2に対応する特性D2を表す特性データを選択する。
【0047】
次に、切替制御部303は、温度補正により選択されたスイッチ回路11,21の各々の特性データを用いて、特性D1を表す第1のカーブと特性D2を表す第2のカーブとが交差するときの交差電流値Ithを導出する(
図5参照)。切替制御部303は、第1の電流閾値Ith1を、交差電流値Ithよりも低い値に設定し、第2の電流閾値Ith2を、交差電流値Ithよりも高い値に設定する。
【0048】
次に、切替制御部303は、第1の電流閾値Ith1における第1のスイッチ回路11のオン電圧と第2のスイッチ回路21のオン電圧との差(オン電圧差分ΔL1)を補正する第1の基準補正値Vr1oを演算する。同様に、切替制御部303は、第2の電流閾値Ith2における第1のスイッチ回路11のオン電圧と第2のスイッチ回路21のオン電圧との差(オン電圧差分ΔL2)を補正する第2の基準補正値Vr2oを演算する。なお、スイッチ回路の損失とは、当該スイッチ回路に含まれる一又は複数のスイッチング素子の損失の和を表す。これ以降の制御については、上述と同様である。
【0049】
以上、電力変換装置を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【0050】
例えば、電力変換装置は、直流を直流に変換するDC-DCコンバータに限られない。その具体例として、直流を交流に変換するインバータ、入力電圧を昇圧して出力する昇圧コンバータ、入力電圧を降圧して出力する降圧コンバータ、入力電圧を昇圧又は降圧して出力する昇降圧コンバータなどがある。また、第1のスイッチ回路と第2のスイッチ回路とのそれぞれに含まれるスイッチング素子の個数は、複数に限られず(上述のDC-DCコンバータの場合、2個)、一つでもよい(例えば、昇圧チョッパなどのコンバータの場合)。
【0051】
また、電力変換装置は、鉄道車両や自動車等の移動体で使用されてもよいし、サーボなどの電子機器で使用されてもよい。
【0052】
また、第1のスイッチ回路と第2のスイッチ回路は、電流に対する特性が相違していれば、いずれのスイッチ回路にも同種のスイッチング素子(例えば、サイズ違いの同種のスイッチング素子)を用いてもよい。
【0053】
また、上述の実施形態では、温度補正を実施してスイッチ回路の切り替えを実施しているが、温度補正をせずに、スイッチ回路の切り替えを行ってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 電力変換装置
11 第1のスイッチ回路
11a,11b スイッチング素子
11c,11d ダイオード
12,13,14,15 整流ダイオード
16,17,18 コンデンサ
19 絶縁トランス
20 平滑リアクトル
21 第2のスイッチ回路
21a,21b スイッチング素子
21c,21d ダイオード
22 交流電流検出器
23 直流電圧検出器
24,25 温度検出器
30 制御回路
40,50 駆動回路
100 直流電源
200 出力負荷
300 スイッチ切替演算部
301 絶対値演算部
302,311,317 ローパスフィルタ
303 切替制御部
305,306,313,319 比較器
307 フリップフロップ
308 電圧指令演算部
310,314,316,320 スイッチ
312,318 加算器
321 キャリア生成器
330 第1の指令生成部
340 第2の指令生成部