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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】溶銑の精錬方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/30 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
C21C5/30 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019087848
(22)【出願日】2019-05-07
(65)【公開番号】P2020183560
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】貞本 峻秀
(72)【発明者】
【氏名】位 一平
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-147913(JP,A)
【文献】特開平01-263213(JP,A)
【文献】特開2007-239020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内にメインランス及びサブランスを挿入し、前記メインランスから酸素を吹き込むとともに、サブランスによって溶銑成分及び溶銑温度を測定し、溶銑の吹錬を実施する溶銑の精錬方法であって、
静止状態の溶銑面から前記メインランスの下端までの距離をH(mm)、前記メインランスの下端に設けられ、酸素ガスを吐出するノズルの最小断面積位置の直径をd(mm)、前記ノズルの出口直径をd(mm)、前記ノズルの最小断面積位置における酸素ガスの線流速をV(m/s)、前記ノズルの吐出角度(メインランスの軸線に対する角度)をθ(°)とし、以下の(1)~(3)式により、前記ノズルから吐出された酸素ジェットの溶銑面における到達領域である火点の半径R(mm)、前記火点の外周縁と前記サブランスの挿入位置との最近接距離l(mm)、前記火点の中心から前記サブランスの挿入位置との距離l(mm)、前記火点の凹み深さL(mm)を算出し、
(1)式:R=H/cosθ×tan(12°)+0.5×d
(2)式:l=l-R
(3)式:d×V=0.73×(L+H)×L0.5
上述の(1)式及び(2)式で算出された前記火点の外周縁と前記サブランスの挿入位置との最近接距離l(mm)が、(3)式で規定された前記火点の凹み深さL(mm)に対して、
(4)式:l+1600>3×L
を満足することを特徴とする溶銑の精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器内にメインランス及びサブランスを挿入し、前記メインランスから酸素を吹き込むとともに、サブランスによって溶銑成分及び溶銑温度を測定し、溶銑の吹錬を実施する溶銑の精錬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶銑中の不純物成分を除去する方法として、転炉内に溶銑を装入し、この転炉の上方開口部から挿入されたメインランスを用いて、転炉内に酸素を吹き込んで、溶銑中の不純物を酸素と反応させて除去する酸素吹錬(酸化精錬)が行われている。
このとき、メインランスとともに、転炉内にサブランスを挿入し、このサブランスによって、吹錬中の溶銑温度の測定を実施したり、溶銑をサンプリングして成分組成を分析したりして、転炉操業の制御を行っている。
【0003】
精度良く温度測定や成分分析を実施するためには、サブランスを健全な状態に維持する必要がある。
しかしながら、吹錬時には、メインランスから吹き込んだ酸素によって溶銑が飛散し、サブランスに地金が付着することがあった。サブランスに地金が付着すると、サブランス先端に取り付けるプローブとの接触の悪化、サブランスの昇降不良、サブランスの劣化等により、サブランスを安定して使用できなくなるおそれがあった。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1~3は、サブランスへの地金付着を抑制する技術が提案されている。
特許文献1においては、サブランス使用時にメインランスからの上吹き酸素量と底吹きガス量を減少させることによって溶鋼の飛散を回避し、サブランスへの地金付着の抑制を図っている。
特許文献2においては、転炉排ガス流量とガス分析値から脱炭速度が顕著に変化する脱炭遷移点を予測し、予測した脱炭遷移点でサブランスによる溶鋼成分、溶鋼温度の測定を行い、測定中は送酸流量または底吹きガス流量を減少させることにより、サブランスへの地金付着の抑制を図っている。
【0005】
また、特許文献3においては、メインランスの軸中心とメインランス酸素吹出しノズル孔の中心を結んだ線を鉄浴面に投影した線と、サブランス浸漬部分の軸心とメインランス酸素吹出しノズル孔の中心を結んだ線を鉄浴面に投影した線と、がなす角を10°以上とすることで、メインランスの流量を低下させることなく、サブランスへの地金付着の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平04-147913号公報
【文献】特開平01-263213号公報
【文献】特開2007-239020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1、2においては、サブランス使用時に、メインランスからの送酸流量及び底吹きガス流量を減少させているが、サブランスの挿入位置によっては、サブランスへの地金付着を十分に抑制することができないおそれがあった。また、送酸流量及び底吹きガス流量を減少させるために、反応性が低下してしまい、吹錬を効率良く行うことができないおそれがあった。
一方、特許文献3においては、転炉吹錬時の地金飛散がメインランスの軸心と酸素吹出ノズル孔の中心を結んだ方向に多いとして、サブランスの挿入位置をその方向からずらすことで、送酸流量を減少させることなく、サブランスへの地金付着を減少させるように構成されているが、安定して地金の付着を抑制することは困難であった。
【0008】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、送酸流量を必要以上に減少させることなくサブランスへの地金の付着を安定して抑制でき、吹錬を良好に実施することが可能な溶銑の精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、サブランスの挿入位置とメインランスからの酸素ジェットの到達位置との幾何学的関係と、酸素ジェットのエネルギーの大きさを表す凹み深さとの関係を規定することで、サブランスへの地金付着を安定して抑制可能であるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の溶銑の精錬方法は、反応容器内にメインランス及びサブランスを挿入し、前記メインランスから酸素を吹き込むとともに、サブランスによって溶銑成分及び溶銑温度を測定し、溶銑の吹錬を実施する溶銑の精錬方法であって、静止状態の溶銑面から前記メインランスの下端までの距離をH(mm)、前記メインランスの下端に設けられ、酸素ガスを吐出するノズルの最小断面積位置の直径をd(mm)、前記ノズルの出口直径をd(mm)、前記ノズルの最小断面積位置における酸素ガスの線流速をV(m/s)、前記ノズルの吐出角度(メインランスの軸線に対する角度)をθ(°)とし、以下の(1)~(3)式により、前記ノズルから吐出された酸素ジェットの溶銑面における到達領域である火点の半径R(mm)、前記火点の外周縁と前記サブランスの挿入位置との最近接距離l(mm)、前記火点の中心から前記サブランスの挿入位置との距離l(mm)、前記火点の凹み深さL(mm)を算出し、
(1)式:R=H/cosθ×tan(12°)+0.5×d
(2)式:l=l-R
(3)式:d×V=0.73×(L+H)×L0.5
上述の(1)式及び(2)式で算出された前記火点の外周縁と前記サブランスの挿入位置との最近接距離l(mm)が、(3)式で規定された前記火点の凹み深さL(mm)に対して、
(4)式:l+1600>3×L
を満足することを特徴としている。
【0011】
この構成の溶銑の精錬方法によれば、上述の(1)~(3)式で算出された前記火点の外周縁と前記サブランスの挿入位置との最近接距離l(mm)、及び、前記火点の凹み深さL(mm)が、上述の(4)式を満足するように吹錬を実施しているので、酸素ジェットが溶銑面に衝突した際の溶銑の飛散によってサブランスに地金が付着することを安定して抑制することが可能となる。
なお、火点の外周縁とサブランスの挿入位置との最近接距離lは、火点の外周縁の外側にサブランスが位置する場合には正の値を示し、火点の外周縁の内側にサブランスが位置する場合には負の値を示すことになる。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、本発明によれば、送酸流量を必要以上に減少させることなくサブランスへの地金の付着を安定して抑制でき、吹錬を良好に実施することが可能な溶銑の精錬方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態である溶銑の脱燐処理方法を実施する溶銑処理設備の一例を示す説明図である。
図2】メインランスの先端に配設されるランスチップの概略説明図である。
図3】火点とサブランスの挿入位置の関係を示す説明図である。
図4】火点位置を示す説明図である。(a)が側面図、(b)が上面図である。
図5】火点の外周縁とサブランスの挿入位置との最近接距離l及び火点の凹み深さLと、サブランスへの地金付着の有無との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1に、本実施形態である溶銑の精錬方法を実施する溶銑処理設備を示す。
この溶銑処理設備10は、溶銑1が貯留される転炉11と、転炉11内へ酸素を供給するメインランス20と、転炉11内の溶銑1の温度測定、及び、成分分析を実施するサンプル採取するサブランス15と、を備えている。
【0016】
メインランス20の下端には、図1及び図2に示すように、ランスチップ21が配設されている。
このランスチップ21には、酸素ガスを吐出するための複数のノズル22が配設されている。本実施形態では、複数のノズル22が、メインランス20の先端面において、軸線を中心とした円の周方向に等間隔に配設されている。
このノズル22においては、図2に示すように、その内径が変化するように構成されている。
【0017】
本実施形態の溶銑処理設備10において、メインランス20から酸素ガスを吹き込むと、図1及び図3に示すように、酸素ジェット3が溶銑面に到達することで、火点5が形成される。この火点5においては、酸素ジェット3によって下方に向けて凹むことになる。この火点5の凹み深さをL(mm)とする。
ここで、溶銑1に酸素を吹き込んで吹錬を実施する際には、サブランス15を用いて、溶銑1の温度測定、成分分析のために溶銑1のサンプリングを実施する。
【0018】
メインランス20からの酸素ガスを吹き込むと、酸素ジェット3によって溶銑1が飛散し、飛散した溶銑1がサブランス15に付着して地金が生成することがあり、サブランス15での温度測定やサンプリングが安定して実施できなくなるおそれがある。そこで、本発明者らは、サブランス15への地金の付着を抑制するための条件を検討した。酸素ジェットによる溶銑の飛散は火点の凹み深さに関係し、また火点の外周縁から飛散が生じると推定した。
【0019】
図1に示すように、静止状態の溶銑面からメインランス20の下端までの距離をH(mm)、火点5の凹み深さをL(mm)とする。
また、図2に示すように、ノズル22の最小断面積位置の直径をd(mm)、ノズル22の出口直径をd(mm)とする。図4(a)に示すように、ノズル22の吐出角度(メインランス20の軸線に対する角度)をθ(°)とする。
さらに、図3に示すように、火点5の半径をR(mm)、この火点5の外周縁とサブランスの挿入位置15との最近接距離をl(mm)、火点5の中心からサブランス15の挿入位置との距離をl(mm)とする。
また、ノズル22の最小断面積位置における酸素の線流速をV(m/s)とする。酸素の線流速V(m/s)は送酸速度をノズル22の最小断面積の総和で除することで算出することができる。
【0020】
このとき、以下の(1)~(3)式によって、火点5の半径R(mm)、火点5の外周縁とサブランス15の挿入位置との最近接距離l(mm)、火点5の中心からサブランス15の挿入位置との距離l(mm)、火点5の凹み深さL(mm)を算出する。
(1)式:R=H/cosθ×tan(12°)+0.5×d
(2)式:l=l-R
(3)式:d×V=0.73×(L+H)×L0.5
【0021】
(1)式:R=H/cosθ×tan(12°)+0.5×dは、火点5の半径Rを規定したものである。
メインランス20の下端に配設されたランスチップ21のノズル22から吐出される酸素ジェット3は、おおむね12°の角度をもって拡散するので、拡散角度を12°として溶銑面における火点5の半径を計算した。
【0022】
(2)式:l=l-Rは、火点5の外周縁とサブランスの挿入位置15との最近接距離l(mm)を規定したものである。なお、火点5の外周縁とサブランス15の挿入位置との最近接距離lは、火点5の外周縁の外側にサブランス15が位置する場合には正の値を示し、火点5の外周縁の内側にサブランス15が位置する場合には負の値を示すことになる。
ここで、火点5の中心位置とサブランス挿入位置15の関係は、ランスチップのノズルの配置と、ノズル22の吐出角度θとメインランス20の下端と溶銑面との距離Hから求められるメインランス中心軸の溶銑面への投影点と火点5の中心までの距離(H×tanθ)とから、図4(b)に示すように決まり、サブランス15の挿入位置と最も近い火点5の中心までとの距離lを求めることができる。
【0023】
(3)式:d×V=0.73×(L+H)×L0.5は、酸素ジェット3の吹付圧と溶銑の静圧との釣り合いの式であり、例えば、日刊工業新聞社発行の「鉄冶金反応工学」に記載されている。この(3)式を展開することにより、酸素ジェット3による凹み深さLが求められる。
【0024】
以上のようにして求められるlとLについて、サブランスへの地金付着との関係を調査した。lとLを変えて試験を行い、サブランスへの地金付着の有無を調査し整理した結果を図5に示す。地金の付着が認められないものを「〇」、地金の付着が認められたものを「●」と表記した。直線は、「〇」と「●」の境界に引いたものであり、l+1600=3×Lを示す。
図5より、サブランスへの地金付着を抑制できる条件として、以下の(4)式を見出した。
(4)式:l+1600>3×L
【0025】
この(4)式:l+1600>3×Lは、凹み深さLを考慮して、サブランス15の挿入位置を規定したものである。
サブランス15への地金の付着を抑制するためには、凹み深さLが小さい場合には、サブランス15の挿入位置の火点5の外周縁からの距離を小さくしてもよいが、凹み深さLが大きい場合には、サブランス15の挿入位置の火点5の外周縁からの距離を大きくする必要がある。
【0026】
以上のような構成とされた本実施形態である溶銑の精錬方法によれば、上述の(1)~(3)式で算出された火点5の外周縁と前記サブランスの挿入位置との最近接距離l(mm)、及び、火点5の凹み深さL(mm)が、上述の(4)式を満足するように吹錬を実施しているので、メインランス20からの酸素ジェットのエネルギーの大きさを表す凹み深さLを考慮して、サブランス15の挿入位置とメインランス20からの酸素ジェット3の到達位置との幾何学的関係が設定されることになり、酸素ジェット3が溶銑面に衝突した際の溶銑の飛散によってサブランス15に地金が付着することを安定して抑制することが可能となる。
よって、送酸流量を必要以上に減少させることなくサブランス15への地金の付着を安定して抑制でき、吹錬を良好に実施することが可能となる。
【0027】
以上、本発明の実施形態である溶銑の精錬方法について、具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例
【0028】
以下、本発明の吹錬方法の効果を確認するために行った試験結果について説明する。
溶銑処理装置として、410tの溶銑を転炉にて吹錬し、メインランスから酸素ガスを吹き込んだ。メインランスは、酸素ガスを吐出するノズルが5孔もしくは6孔あるものを用いた。また、サブランスは吹錬末期に使用した。
そして、吹錬終了後に、サブランスへの地金の付着状態を目視で判定した。評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
(4)式を満足する場合には、サブランスへの地金の付着を抑制できることが確認された。また、送酸速度を必要以上に小さくすることなく、サブランスへの地金の付着を抑制することができ、酸素吹き込みによる吹錬を効率良く実施可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0031】
1 溶銑
3 酸素ジェット
5 火点
11 転炉(反応容器)
15 サブランス
20 メインランス
22 ノズル
図1
図2
図3
図4
図5