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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ハイブリッド車
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20221220BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20221220BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20221220BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20221220BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20221220BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20221220BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20221220BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20221220BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20221220BHJP
   G06F 12/00 20060101ALI20221220BHJP
   G06F 12/06 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/445 ZHV
B60W10/08 900
B60L50/16
B60L15/20 S
B60L9/18 P
B60L3/00 J
H02P27/06
H02P5/46 H
G06F12/00 560B
G06F12/00 571A
G06F12/06 515J
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019097078
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020189601
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 幹夫
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-329884(JP,A)
【文献】特開2016-027278(JP,A)
【文献】特開昭63-200247(JP,A)
【文献】特開2018-156573(JP,A)
【文献】特開2001-327175(JP,A)
【文献】特開2014-011812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/50
B60K 6/445
B60W 10/08
B60L 50/16
B60L 15/20
B60L 9/18
B60L 3/00
H02P 27/06
H02P 5/46
G06F 12/00
G06F 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングギアとサンギアとキャリアを備えているプラネタリギアと、
前記キャリアに係合しているエンジンと、
前記サンギアに係合している第1モータジェネレータと、
前記リングギアに係合している第2モータジェネレータと、
前記リングギアに係合している車軸と、
複数の電力変換用のスイッチング素子を備えており、前記第1モータジェネレータに接続されているインバータと、
前記第1モータジェネレータの回転数に応じて変化する制御周期で前記インバータを制御する第1演算器と、
所定の一定周期で所定のデータを更新する第2演算器と、
前記第1演算器から第1速度でアクセス可能なローカルメモリと、
前記第1演算器と前記第2演算器と共通の通信線で接続されており前記第1速度よりも低速の第2速度でアクセス可能な共有メモリと、
を備えており、
前記第2演算器は、更新した前記データを前記一定周期で前記共有メモリに書き込み、
前記第1演算器は、
(1)前記第1モータジェネレータの回転数が所定の閾値回転数を下回っている間は、前記共有メモリから読み出した前記データに基づいて前記インバータを制御し、
(2)前記第1モータジェネレータの回転数が前記閾値回転数を超えた場合、前記データを前記共有メモリから前記ローカルメモリにコピーし、以後は前記ローカルメモリから読み出した前記データに基づいて前記インバータを制御することを特徴とするハイブリッド車。
【請求項2】
前記データは前記インバータの出力目標値であり、
複数の前記スイッチング素子のいずれかで異常が生じた場合、前記第2モータジェネレータで走行しながら、前記第1演算器は、
(1)前記第1モータジェネレータの回転数が前記閾値回転数を下回っている間は、前記共有メモリから読み出した前記出力目標値に基づいて、前記第1モータジェネレータが生成した電流が複数の前記スイッチング素子に分散して流れるように残りの前記スイッチング素子を制御し、
(2)前記第1モータジェネレータの回転数が前記閾値回転数を超えた場合、前記データを前記共有メモリから前記ローカルメモリにコピーし、以後は前記ローカルメモリから読み出した前記出力目標値に基づいて、前記第1モータジェネレータが生成した電流が複数の前記スイッチング素子に分散して流れるように残りの前記スイッチング素子を制御する、
請求項1に記載のハイブリッド車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ハイブリッド車に関する。特に、プラネタリギアと、エンジンと、第1/第2モータジェネレータを備えたハイブリッド車に関する。
【背景技術】
【0002】
プラネタリギアとエンジンと第1/第2モータジェネレータを備えているハイブリッド車が特許文献1に開示されている。エンジンは、プラネタリギアのキャリアに係合している。第1モータジェネレータはプラネタリギアのサンギアに係合している。第2モータジェネレータは、プラネタリギアのリングギアに係合している。リングギアは車軸にも係合している。第1/第2モータジェネレータは、トルクを出力する電動機として機能するとともに、状況に応じて発電機としても機能するので「モータジェネレータ」と称される。しかし以下では、説明を簡単にするため、「モータジェネレータ」を単純に「モータ」と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-329884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構造のハイブリッド車では、第1モータは、プラネタリギアを介してエンジンあるいは第2モータの出力トルクの反力を受ける。第1モータは、反力を利用して発電する。第1モータはインバータに接続されており、発電する場合には、回転数を抑制する向きに第1モータがトルクを出力するようにインバータが制御される。インバータで何らかの不具合を生じると第1モータの回転数を制御できなくなり、回転数が大きく上昇するおそれがある。一方、インバータの制御周期は第1モータの回転数で規定される特定周期よりも短くなければならない。インバータで何らかの不具合が生じた場合、第1モータが回転数を抑制するようにインバータを制御することはできないが、インバータの特定のスイッチング素子に過大な負荷が加わらないように、第1モータで発生した電流を他の複数のスイッチング素子に分散させる制御を実施できることが望ましい。ところが第1モータが過回転状態に陥っていると、インバータの制御周期を上記特定周期よりも短くすることができなくなり、インバータを全く制御できなくなるおそれがある。本明細書は、第1モータが過回転状態に陥ったときに、インバータの制御周期を通常よりも短くしてインバータの正常な残りのスイッチング素子を制御可能な状態に維持する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
制御周期を決定する要因の一つに、メモリへのアクセス速度が挙げられる。特に、共有メモリへのアクセスには時間がかかる。本明細書が開示する技術は、第1モータが過回転状態となる異常事態には、他の制御器とのデータ共有はできなくなるが直前のデータを高速アクセスが可能なローカルメモリへコピーし、ローカルメモリを使うことで制御周期を高速化する。
【0006】
本明細書が開示するハイブリッド車は、プラネタリギア、エンジン、第1/第2モータ(モータジェネレータ)、インバータ、第1/第2演算器、ローカルメモリ、共有メモリを備えている。プラネタリギアのキャリアはエンジンに係合している。プラネタリギアのサンギアは第1モータに係合している。プラネタリギアのリングギアは第2モータに係合している。リングギアは車軸にも係合している。インバータは第1モータに接続されている。インバータは電力変換用の複数のスイッチング素子を使って直流電力を第1モータの駆動電力に変換する。第1モータが発電するときには複数のスイッチング素子を使って交流の回線電力を直流電力に変換する。第1演算器は、第1モータの回転数に応じて変化する制御周期でインバータ(スイッチング素子)を制御する。第2演算器は、所定の一定周期で所定のデータを更新する。ローカルメモリは、第1演算器から第1速度でアクセス可能なメモリである。共有メモリは、第1演算器と第2演算器と共通の通信線で接続されており第1速度よりも低速の第2速度でアクセス可能なメモリである。
【0007】
第2演算器は、更新したデータを上記した一定周期で共有メモリに書き込む。第1演算器は、(1)第1モータの回転数が所定の閾値回転数を下回っている間は、共有メモリから読み出したデータに基づいてインバータを制御する。第1演算器は、(2)第1モータの回転数が閾値回転数を超えた場合、データを共有メモリからローカルメモリにコピーし、以後はローカルメモリから読み出したデータに基づいてインバータを制御する。
【0008】
インバータと第1モータが正常である間は、第1モータの回転数が閾値回転数を超えないように、インバータを制御することが可能である。一方、インバータに何らかの不具合が生じると、第1モータの回転数を抑えることができなくなり、閾値回転数を超える可能性がある。閾値回転数は、共有メモリへのアクセスを含む第1演算器の制御周波数(制御周期の逆数)の上限値よりもわずかに高い値に設定される。すなわち、第1モータの回転数が閾値回転数を大きく超えると第1演算器はインバータを全く制御できなくなる。そのような閾値回転数を超える異常事態では、第2演算器が更新する最新のデータを使えなくなっても、そのデータを高速アクセス可能なローカルメモリにコピーし、以後はそのデータを使って処理を実行することで、通常時よりも処理速度を高速化する。処理を高速化できるので、インバータを制御可能な回転数帯域(第1モータの回転数帯域)を拡張することができる。
【0009】
上記データの典型は、インバータの出力目標値である。すなわち、第2演算器は、一定周期毎にインバータの出力目標値を更新して共有メモリに書き込む。また、第1モータが過回転に陥る事態は、インバータの複数のスイッチング素子のいずれかで異常が生じた場合であり、そのような場合には、ハイブリッド車は、第2モータで走行を継続するモータ走行モードに移行する。先に述べたように、第1モータは第2モータの反力を受けて回転し、発電する。発電で発生した電流が特定のスイッチング素子に集中するとそのスイッチング素子が高温となる。そこで、第1演算器は、(1)第1モータの回転数が閾値回転数を下回っている間は、共有メモリから読み出した出力目標値に基づいて、第1モータが生成した電流が複数のスイッチング素子に分散して流れるように残りのスイッチング素子を制御する。第1演算器は、(2)第1モータの回転数が閾値回転数を超えた場合、データを共有メモリからローカルメモリにコピーし、以後はローカルメモリから読み出した出力目標値に基づいて、第1モータが生成した電流が複数のスイッチング素子に分散して流れるように残りのスイッチング素子を制御する。「残りのスイッチング素子」とは、異常を生じたスイッチング素子以外のスイッチング素子を意味する。上記の処理により、残りのスイッチング素子に加わる負荷を分散させることができる。
【0010】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例のハイブリッド車のブロック図である。
図2】アクセス先変更フラグのチェック処理のフローチャートである。
図3】インバータ制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して実施例のハイブリッド車2を説明する。図1に、ハイブリッド車2の駆動系のブロック図を示す。実施例のハイブリッド車2は、走行用にエンジン9と2個のモータ(第1モータ7と第2モータ8)を備えている。先に述べたように、第1モータ7と第2モータ8は、駆動トルクを出力する場合と、逆駆動されて発電する場合がある。発電する場合は、車両を減速させる向きのトルク(制動トルク)を発生する。
【0013】
エンジン9の出力軸と、第1、第2モータ7、8の出力軸は、動力分配機構20に連結されている。動力分配機構20の主要部品はプラネタリギア21である。エンジン9の出力軸は、プラネタリギア21のキャリア23に係合している。第1モータ7の出力軸は、プラネタリギア21のサンギア22に係合している。第2モータ8の出力軸は、ギア25を介してプラネタリギア21のリングギア24に係合している。リングギア24は、ギア26を介して車軸10にも係合している。車軸10は、デファレンシャルギア11を介して車輪12に連結している。
【0014】
エンジン9あるいは第2モータ8の出力トルクで走行するとき、第1モータ7はプラネタリギア21を介して反力を受ける。通常はその反力を利用して第1モータ7で発電する。発電で得た電力(回生電力)はバッテリ3の充電に使われる。ドライバがブレーキを踏んだときには車両の慣性エネルギを使って第2モータ8でも発電する。
【0015】
第1モータ7(第2モータ8)は三相交流モータであり、第1インバータ5(第2インバータ6)で駆動される。第1モータ7は第1インバータ5の交流端に接続されており、第2モータ8は第2インバータ6の交流端に接続されている。第1インバータ5と第2インバータ6の直流端には電圧コンバータ4の高圧端が接続されている。電圧コンバータ4の低圧端にはバッテリ3が接続されている。電圧コンバータ4は、複数の電力変換用のスイッチング素子4aによって、バッテリ3の電圧を昇圧してインバータ5、6に供給する昇圧機能と、インバータ5、6が出力する直流の回生電力を降圧してバッテリ3に供給する降圧機能を実現する。
【0016】
第1インバータ5は複数のスイッチング素子5aを備えており、直流端に印加された力流電力を交流に変換したり、交流端に印加された交流電力(第1モータ7が生成する回生電力)を直流に変換する。第2インバータ6も同様の機能を有している。図1では、電圧コンバータ4、第1インバータ5、第2インバータ6の回路構成の図示は省略しているが、それぞれが複数のスイッチング素子を有することを示すために、電圧コンバータ4にはスイッチング素子4aが描いてあり、インバータ5、6にはそれぞれスイッチング素子5a、6aが描いてある。
【0017】
電圧コンバータ4と第1インバータ5(複数のスイッチング素子4aと複数のスイッチング素子5a)は、第1制御器30で制御される。第2インバータ6(複数のスイッチング素子6a)は、第2制御器40で制御される。第1制御器30と第2制御器40は、通信線41を介して上位制御器42やエンジン制御器43と接続されている。
【0018】
上位制御器42は、アクセル開度や車速、バッテリ3の残量などから、エンジン9、第1モータ7、第2モータ8のそれぞれの出力目標値を決定し、対応する制御器へ目標値を与える。第1制御器30、第2制御器40、エンジン制御器43の各制御器は、与えられた目標値が実現するように、それぞれ、第1インバータ5(スイッチング素子5a)、第2インバータ6(スイッチング素子6a)、エンジン9を制御する。
【0019】
第1制御器30について説明する。第1制御器30は、複数の演算器(第1演算器31、第2演算器32、第3演算器33)が共通の通信線37で接続されているマルチコアタイプの演算装置である。複数の演算器(第1演算器31、第2演算器32、第3演算器33)は、共通の通信線37で共有メモリ38と接続されており、共有メモリ38を介してデータを共有することができる。一方、第1演算器31(第2演算器32、第3演算器33)は、独自のローカルメモリ34(35、36)を備えており、他の演算器と共有する必要のないデータは、ローカルメモリ34(35、36)に格納される。ローカルメモリ34(35、36)へのアクセス速度は第1速度である。一方、共有メモリ38へのアクセス速度は第1速度よりも遅い第2速度である。共有メモリよりもローカルメモリを活用することで、演算周期を短くすることができる。
【0020】
第2演算器32は、他の制御器との通信を担当する。第2演算器32は、上位制御器42から第1インバータ5の出力目標値と電圧コンバータ4の電圧比目標値を受信する。第2演算器32は、受信したデータ(出力目標値と電圧比目標値)を共有メモリ38へ格納する。第2演算器32は、一定の制御周期で上記した処理を繰り返す。
【0021】
第3演算器33は、電圧コンバータ4(スイッチング素子4a)の制御を担当する。第3演算器33は、共有メモリ38から電圧比目標値を読み出し、その電圧比目標値が実現されるように電圧コンバータ4(スイッチング素子4a)を制御する。スイッチング素子4aの駆動信号はPWM信号であり、第3演算器33は、電圧比目標値に対応したデューティ比のPWM信号を生成し、スイッチング素子4aへ供給する。第3演算器33の制御周期は、PWM信号を生成する際に用いるキャリア信号の周波数に依存して変化する。具体的には、キャリア周波数が高いほど、第3演算器33は制御周期を早める。
【0022】
第1演算器31は、第1インバータ5(複数のスイッチング素子5a)の制御を担当する。第1演算器31は、共有メモリ38から出力目標値を読み出し、その出力目標値が実現されるように第1インバータ5(スイッチング素子5a)を制御する。具体的には、第1演算器31は、出力目標値を第1モータ7の回転数目標値に変換し、その回転数目標値に対応する周波数の交流が出力されるように、スイッチング素子5aの駆動信号(PWM信号)のデューティ比を決定する。第1演算器31は、決定したデューティ比のPWM信号を所定の周期で第1インバータ5のスイッチング素子5aへ送る。
【0023】
第1演算器31の制御周期(演算周期)は、第1モータ7の回転数に規定される。すなわち、第1演算器31の制御周期は、第1モータ7の回転数で規定される特定周期よりも短くなければならない。第1演算器31の制御周期は、第1モータ7の回転数に依存して変化する。すなわち、第1演算器31は、第1モータ7の回転数が高いほど早い周期で第1インバータ5(スイッチング素子5a)を制御する。
【0024】
共有メモリ38へのアクセスを含む第1演算器31の制御周期の最短時間に対応する第1モータ7の回転数を閾値回転数と称する。すなわち、第1モータ7の回転数が閾値回転数を下回っている間は、第1演算器31は第1インバータ5を制御することができる。通常は、第1モータ7の回転数が閾値回転数を超えないように、第1モータ7の制動トルクが制御される。しかし、第1インバータ5に何らかの不具合が生じた場合、第1インバータ5を適切に制御することができなくなり、第1モータ7の回転数が閾値回転数を超えてしまう事態が生じ得る。第1インバータ5の不具合とは、例えば、複数のスイッチング素子5aのいずれかで生じた短絡故障(あるいは断線故障)などである。
【0025】
第1インバータ5で不具合が生じた場合、出力を制限してでも走行を継続できることが望ましい。そこで、上位制御器42は、第1インバータ5で不具合が生じた場合、第2モータ8のみで走行するモータ走行モードに移行する。モータ走行モードでは、エンジン9を停止するとともに、第2モータ8の出力上限値を通常時の値からさらに制限する。
【0026】
第1インバータ5で不具合が生じた場合、第1インバータ5(すなわち、第1モータ7)を適切に制御することができなくとも、第1モータ7が生成する回生電力の電流が複数のスイッチング素子5aのいずれかに集中することは避けられることが望ましい。そこで、複数のスイッチング素子5aに電流が分散して流れるように、制御可能な残りのスイッチング素子を制御できるとよい。一方、高速走行中に第1インバータ5で不具合が生じた場合、充分な制動トルクが実現できなくなり、第1モータ7の回転数が閾値回転数を超えてしまう場合がある。第1モータ7の回転数が閾値回転数を超えてしまうと、通常の演算周期では間に合わず、第1インバータ5の残りのスイッチング素子も制御不能となる。そこで、第1演算器31は、モータ走行モードのときに第1モータ7の回転数が閾値回転数を超えた場合は、共有メモリ38へのアクセスを中止して演算速度を高速化する。なお、共有メモリ38へのアクセスを中止するのに先立って、共有メモリ38に格納されているデータ(出力目標値のデータ)は、第1演算器31のローカルメモリ34へコピーしておく。その後は、第1演算器31は、ローカルメモリ34のデータを使って第1インバータ5の複数のスイッチング素子のうち、制御可能なスイッチング素子を制御する。
【0027】
上位制御器42は、第1インバータ5で不具合発生が検知されると、モータ走行モードに移行する。上位制御器42は、他の制御器(第1制御器30、第2制御器40、エンジン制御器43)に、モータ走行モードへの移行を指令する。指令を受信したエンジン制御器43は、エンジンを停止する。指令を受信した第2制御器40は、出力上限値を通常時よりも低く設定し、アクセル開度に応じて第2モータ8を制御する。
【0028】
モータ制御モードにおける第1制御器30の第1演算器31の処理を説明する。図2に、アクセス先のメモリを変更するフラグ(アクセス先変更フラグ)のチェック処理のフローチャートを示す。アクセス先変更フラグは、第1演算器31のプログラム内で用いられる変数であり、ローカルメモリ34にその領域が確保される。
【0029】
モータ走行モードになると、第1演算器31は、図2の処理を定期的に実行する。第1演算器31は、第1モータ7の回転数をチェックする(ステップS2)。第1モータ7の回転数が閾値回転数を超えている場合(ステップS2:YES)、第1演算器31は、アクセス先変更フラグに「ON」をセットする(ステップS3)。一方、第1モータ7の回転数が閾値回転数を下回っている場合(ステップS2:NO)、第1演算器31は、アクセス先変更フラグに「OFF」をセットする(ステップS4)。なお、図2のフローチャートでは、第1モータ7の回転数が閾値回転数に等しい場合はアクセス先変更フラグに「OFF」をセットする。第1モータ7の回転数が閾値回転数に等しい場合はアクセス先変更フラグに「ON」をセットするようにしてもよい。
【0030】
アクセス先変更フラグに「ON」あるいは「OFF」をセットしたら、図2の処理を終了する。
【0031】
第1演算器31は、図2の処理に続けて図3のフローチャートの処理を実行する。図3は、モータ走行モードにおけるインバータ制御のフローチャートである。なお、図3は、第1演算器31における処理を示しており、モータ走行モードでは、第2制御器40は出力を制御しつつ第2インバータ6(第2モータ8)を駆動する。
【0032】
第1演算器31は、まず、アクセス先変更フラグを参照する(ステップS12)。アクセス先変更フラグが「ON」でない場合(ステップS12:NO)、第1演算器31は、共有メモリのデータ(出力目標値)を読み出す(ステップS13)。そして、第1演算器31は、読み出した出力目標値に基づいて、第1モータ7が生成した電力の電流が残りのスイッチング素子5a(制御可能なスイッチング素子)に分散して流れるように、残りのスイッチング素子5aを制御する(ステップS14)。電流が複数のスイッチング素子に分散して流れるようにスイッチング素子5aを制御することを図3では電流分散制御と称している。
【0033】
アクセス先変更フラグが「ON」の場合(ステップS12:YES)、第1演算器31は、前回のアクセス先変更フラグが「OFF」であれば(ステップS15:YES)、共有メモリ38のデータ(出力目標値のデータ)をローカルメモリ34にコピーする(ステップS16)。そして、第1演算器31は、ローカルメモリ34のデータ(出力目標値)を読み出す(ステップS17)。そして、第1演算器31は、読み出した出力目標値に基づいて、第1モータ7が生成した電力の電流が残りのスイッチング素子(制御可能なスイッチング素子)に分散するように、残りのスイッチング素子を制御する(ステップS14)。
【0034】
前回のアクセス先変更フラグが「ON」であれば(ステップS15:NO)、第1演算器31は、ステップS16の処理をスキップし、ステップS17へ移行する。
【0035】
先に述べたように、第1演算器31によるローカルメモリ34へのアクセス速度は、共有メモリ38へのアクセス速度よりも速い。従ってローカルメモリ34を使った処理の周期は、共有メモリ38を使った処理の周期よりも早くなる。共有メモリ38のかわりにローカルメモリ34を使うことで、第1モータ7の回転数が閾値回転数を超えている場合であっても第1演算器31で第1インバータ5の残りのスイッチング素子5aを制御できる可能性が広がる。
【0036】
なお、ローカルメモリ34にコピーしたデータ(出力目標値)は更新されず、第1演算器31は不正確な出力目標値に基づいて第1インバータ5を制御することになる。第1インバータ5で異常が発生した事態では、第1インバータ5に流れる回生電流(第1モータ7が生成した電流)の分散が図れればよいので、出力目標値が不正確であってもよい。
【0037】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。第1インバータ5が、第1制御器30が制御するインバータに相当する。
【0038】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
2:ハイブリッド車 3:バッテリ 4:電圧コンバータ 4a、5a、6a:スイッチング素子 5、6:インバータ 7、8:モータ(モータジェネレータ) 9:エンジン 20:動力分配機構 21:プラネタリギア 22:サンギア 23:キャリア 24:リングギア 25、26:ギア 30:第1制御器 31:第1演算器 32:第2演算器 33:第3演算器 34:ローカルメモリ 37:通信線 38:共有メモリ 40:第2制御器 41:通信線 42:上位制御器 43:エンジン制御器
図1
図2
図3