(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20221220BHJP
B60N 2/06 20060101ALI20221220BHJP
B60N 2/16 20060101ALI20221220BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20221220BHJP
【FI】
B60N2/58
B60N2/06
B60N2/16
B60N2/90
(21)【出願番号】P 2019112045
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今枝 優介
(72)【発明者】
【氏名】松波 伸隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓介
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-030488(JP,A)
【文献】特開2015-182648(JP,A)
【文献】特開2014-148216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部となるシートクッションが、骨格をなすシートフレームと、前記シートフレームのシート内側に組付けられて配設されるインサイドシールドとを備え、
前記シートクッションは、前記インサイドシールドとともに、乗物床面に対して前後方向又は上下方向に移動可能な状態で設置されている乗物用シートにおいて、
前記インサイドシールドは、前記シートフレームに組付けられている本体部と、前記本体部から乗物床面に向けて延長している板状の可動片部とを有し、前記可動片部は、前記本体部に対して前記乗物床面から離れる方向に傾動可能とさ
れ、
硬質樹脂製の前記本体部は、前記シートフレームの後部においてシート幅方向に延びるリアパイプを嵌挿する嵌挿部を有し、前記可動片部は、前記本体部よりも柔軟な素材で形成され、
前記本体部には、前記本体部よりも柔軟な前記可動片部を固着している固着部位が設けられており、前記固着部位は、シート内側の第一固着面とシート外側の第二固着面とを有するとともに、前記第一固着面と前記第二固着面のいずれか一方が、前記一方とは異なる他方に比して一段高い位置に設けられている乗物用シート。
【請求項2】
前記リアパイプには、前記シートクッションを上下動させるリフタ機構のリンクが取付けられており、前記リンクの少なくとも一部は、シート幅方向において前記シートフレームと前記可動片部の間に配置されている請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
座部となるシートクッションが、骨格をなすシートフレームと、前記シートフレームのシート内側に組付けられて配設されるインサイドシールドとを備え、
前記シートクッションは、前記インサイドシールドとともに、乗物床面に対して前後方向又は上下方向に移動可能な状態で設置されている乗物用シートにおいて、
前記インサイドシールドは、前記シートフレームに組付けられている本体部と、前記本体部から乗物床面に向けて延長している板状の可動片部とを有し、前記可動片部は、前記本体部に対して前記乗物床面から離れる方向に傾動可能とされ、
前記可動片部のシートフレーム側への傾動を助長する助長部位が設けられており、
前記本体部には、前記本体部よりも柔軟な前記可動片部を固着している固着部位が設けられており、前記固着部位は、シート内側の第一固着面とシート外側の第二固着面とを有するとともに、前記第一固着面と前記第二固着面のいずれか一方が、前記一方とは異なる他方に比して一段高い位置に設けられている乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物床面に対して前後方向又は上下方向に移動可能な状態で設置されるシートクッションが、骨格をなすシートフレームと、シートフレームのシート内側に組付けられて配設されるインサイドシールドとを備えている乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の乗物用シートでは、座部となるシートクッションが、乗員の体格などに合わせて、乗物床面に対して前後方向又は上下方向に移動可能な状態で設置されていることが多い。例えば特許文献1に開示の乗物用シートでは、シートクッションが、骨格をなすシートフレームと、シートフレーム上のシートパッドと、シートパッドを被覆するシートカバーとを有している。そしてシートクッションは、シートフレームがスライドレールを介して乗物床面に設置されることで、このスライドレールによって乗物床面に対して前後にスライド移動することができる。またシートクッションは、シートフレームがスライドレールに対してシートリフタを介して連結されることで、このシートリフタによって、乗物床面に対して上下に移動することができる。そしてシートクッションの後端側には、リクライナを介して背凭れとなるシートバックが連結されており、さらにリクライナのシート外側は、シートフレームの側面に配設されたサイドシールドで被覆されている。
【0003】
また上述のシート構成では、特許文献2に開示されているインナカバーのように、板状のインサイドシールドがシートフレームのシート内側に配設されている場合がある。このインサイドシールドは、シートフレームの側面後部に組付けられた板状の部材であり、その下部が、縦板状に形成されて乗物床面側に向けて延長している。そして公知技術の構成では、シートクッションの上下前後動に追従して、サイドシールドとインサイドシールドとが乗物床面に対して相対移動することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6135571号公報
【文献】特開2004-57329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上述のシート構成では、乗物床面上に何らかの他部材が存在する場合、この他部材が、前後上下動の際のシートクッションに干渉することがある。例えば公知技術では、インサイドシールドが、シートフレームから乗物床面側に向けて延長している。このためシートクッションの移動の際には、インサイドシールドと他部材との強干渉が起こりやすく、この強干渉が原因となってインサイドシールドの下部が破損するおそれがあった。もっとも乗物床面の高さ位置を下げるように調整して、インサイドシールドと他部材の強干渉を回避することも考えられる。しかしそうすると乗物床面の下方の収容スペースが狭小となるなどして、各種の部材(例えば電池等の電装部品)を乗物に搭載しにくくなる。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、乗物床面の高さ位置に配慮しつつ、シートクッションの前後上下動の際に、乗物床面上の他部材とインサイドシールドとの強干渉を極力阻止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の乗物用シートは、座部となるシートクッションが、骨格をなすシートフレームと、シートフレームのシート内側に組付けられて配設されるインサイドシールドとを備えている。そしてシートクッションは、インサイドシールドとともに、乗物床面に対して前後方向又は上下方向に移動可能な状態で設置されている。この種のシート構成では、乗物床面の高さ位置に配慮しつつ、シートクッションの前後上下動の際に、乗物床面上の他部材とインサイドシールドとの強干渉を極力阻止することが望まれる。
【0007】
そこで本発明のインサイドシールドは、シートフレームに組付けられている本体部と、本体部から乗物床面に向けて延長している板状の可動片部とを有し、可動片部は、本体部に対して乗物床面から離れる方向に傾動可能とされている。本発明では、インサイドシールドの可動片部が、本体部に対して乗物床面から離れる方向に傾動可能である。このため乗物床面上の他部材に可動片部が干渉した際に、この可動片部が、他部材に押されてそれから離れるように傾動することができる。こうして本発明では、可動片部が他部材から離れるように傾動できるため、乗物床面の高さ位置が相対的に高い場合においても、インサイドシールドと他部材との強干渉を極力阻止することが可能となる。
【0008】
また第1発明の乗物用シートでは、硬質樹脂製の本体部は、シートフレームの後部においてシート幅方向に延びるリアパイプを嵌挿する嵌挿部を有し、可動片部は、本体部よりも柔軟な素材で形成されている。本発明では、硬質樹脂製の本体部の嵌挿部にリアパイプを嵌挿することで、インサイドシールドを、シートフレームにより安定的に組付けておくことが可能となる。そして可動片部を相対的に柔軟な素材で形成したことにより、この可動片部に、スムーズな傾動を可能にする可撓性を持たせることができる。
そして第1発明の乗物用シートの本体部には、本体部よりも柔軟な可動片部を固着している固着部位が設けられており、固着部位は、シート内側の第一固着面とシート外側の第二固着面とを有するとともに、第一固着面と第二固着面のいずれか一方が、一方とは異なる他方に比して一段高い位置に設けられている。本発明では、本体部に設けた固着部位を段差状としたことで、この固着部位に可動片部をより強固に固着して一体化しておくことができる。
【0009】
第2発明の乗物用シートは、第1発明の乗物用シートにおいて、リアパイプには、シートクッションを上下動させるリフタ機構のリンクが取付けられており、リンクの少なくとも一部は、シート幅方向においてシートフレームと可動片部の間に配置されている。本発明では、リフタ機構を取付けるためのリアパイプにインサイドシールドを嵌挿することができるため、シートの部品点数の削減に資する構成となる。またリフタ機構のリンクを、シートフレームと可動片部の間に配置して保護しておくことにより、リンクと他部材とが直に接触することを極力回避することができる。
【0010】
第3発明の乗物用シートは、座部となるシートクッションが、骨格をなすシートフレームと、シートフレームのシート内側に組付けられて配設されるインサイドシールドとを備え、シートクッションは、インサイドシールドとともに、乗物床面に対して前後方向又は上下方向に移動可能な状態で設置されている乗物用シートにおいて、インサイドシールドは、シートフレームに組付けられている本体部と、本体部から乗物床面に向けて延長している板状の可動片部とを有し、可動片部は、本体部に対して乗物床面から離れる方向に傾動可能とされ、可動片部のシートフレーム側への傾動を助長する助長部位が設けられており、本体部には、本体部よりも柔軟な可動片部を固着している固着部位が設けられており、固着部位は、シート内側の第一固着面とシート外側の第二固着面とを有するとともに、第一固着面と第二固着面のいずれか一方が、一方とは異なる他方に比して一段高い位置に設けられている。本発明では、可動片部を、助長部位によってシートフレーム側に傾動しやすくしている。そして可動片部が、シートフレーム側を覆うように傾くことで、シートフレーム又はその近傍の部材(例えばリフタ機構のリンク)と他部材とが直に接触することをより確実に回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る第1発明によれば、乗物床面の高さ位置に配慮しつつ、シートクッションの前後上下動の際に、乗物床面上の他部材とインサイドシールドとの強干渉を極力阻止することができる。また第1発明によれば、インサイドシールドの組付け性を確保しつつ、乗物床面上の他部材とインサイドシールドとの強干渉をより確実に阻止することができる。そして第1発明によれば、本体部に対する可動片部の優れた固着性を確保しつつ、乗物床面上の他部材とインサイドシールドとの強干渉をより確実に阻止することができる。また第2発明によれば、インサイドシールドの性能を確保しつつ、乗物床面上の他部材とインサイドシールドとの強干渉を極力阻止することができる。また第3発明によれば、インサイドシールドのより優れた性能を確保しつつ、乗物床面上の他部材とインサイドシールドとの強干渉を極力阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】乗物床面に設置された乗物用シートの斜視図である。
【
図2】乗物床面に設置された乗物用シートの概略透視側面図である。
【
図3】乗物床面に設置されたシートクッションの概略上面図である。
【
図4】シートパッドとシートカバーの斜視図である。
【
図5】シートクッションの一部を分解して示す斜視図である。
【
図7】インサイドシールドの一部透視上面図である。
【
図8】インサイドシールドの一部透視前面図である。
【
図10】固着部位を示すインサイドシールド一部の断面図である。
【
図11】上方位置にあるインサイドシールドとリフタ機構一部の側面図である。
【
図12】上方位置にあるインサイドシールドとシートフレームの断面図である。
【
図13】インサイドシールドとリンクとシートフレームの配置関係を示す概略断面図である。
【
図14】下方位置にあるインサイドシールドとリフタ機構一部の側面図である。
【
図15】下方位置にあるインサイドシールドとシートフレームの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1~
図15を参照して説明する。各図には、乗物用シートの前後方向と上下方向と左右方向を示す矢線を適宜図示する。
図1の乗物用シート2は、乗物室内に設置された内装品であり、シートクッション4と、シートバック6と、ヘッドレスト8とを有している。これらシート構成部材(4,6,8)は、各々、シート骨格をなすシートフレーム(4F,6F,8F)と、シート外形をなすシートパッド(4P,6P,8P)と、シートパッドを被覆するシートカバー(4S,6S,8S)を有する。そしてシートクッション4(詳細後述)の後部には、図示しないリクライナを介してシートバック6の下部が起倒可能に連結されている。また起立状態のシートバック6の上方にはヘッドレスト8が配設されている。
【0015】
[シートクッション、乗物床面]
図1に示すシートクッション4は、座部となる上方視で概ね矩形の部材であり、上述の基本構成4F,4P,4Sと、左右一対のサイドシールド40,50と、左右一対のインサイドシールド60,70とを有している(各部材の詳細は後述)。またシートクッション4は、
図2を参照して、後述するスライド機構SM及びリフタ機構LMを介して乗物床面FSに設置されており、乗物床面FSに対して前後方向又は上下方向に移動することが可能である。そして
図1~
図3に示す乗物床面FS上には、設置状態のシートクッション4の右方に、前後方向に長尺な直方体状のコンソール100が設けられている。またシートクッション4とコンソール100の後方の乗物床面FS上には、
図2及び
図3に示すように、防水等の目的で面状のサービスフォールカバー101が敷設されている。そして
図2を参照して、乗物室内における乗物床面FSの上下の位置(高さ位置H0)は、その下方に適宜の収容スペースを確保できるように設定されている。
【0016】
ところで
図2及び
図3に示す乗物室内においては、乗物床面FS上に何らかの他部材102が存在する場合があり、この他部材102が、前後移動又は上下移動の際のシートクッション4に干渉することがある。例えば
図2及び
図3を参照して、シートクッション4を上方に移動させていた場合、このシートクッション4の右側下方の乗物床面FS上に他部材102が存在することがある。このような場合には、シートクッション4の下方移動の際に、右側インサイドシールド60の下部側(後述の可動片部65)と他部材102との強干渉が起こりやすい状況となっている。そして右側インサイドシールド60と他部材102の強干渉は乗物床面FSの高さ位置H0が高くなるほど生じやすくなるが、乗物床面FSの高さ位置H0は、その下方の収容スペースとの関係から過度に低くすることは好ましくない。そこで本実施例では、後述の構成によって、乗物床面FSの高さ位置に配慮しつつ、シートクッション4の前後上下動の際に、乗物床面FS上の他部材102と右側インサイドシールド60との強干渉を極力阻止することとした。以下、各構成について詳述する。
【0017】
[基本構成]
図1に示すシートクッション4は、シートフレーム4F上にシートパッド4Pを配置し、このシートパッド4Pの外面をシートカバー4Sで被覆することで形成されている。ここでシートパッド4Pは、
図4に示すようにシート外形をなす上面視で略矩形の部材であり、ポリウレタンフォーム(密度:10kg/m
3~60kg/m
3)等の発泡樹脂で形成できる。またシートカバー4Sは、シートの意匠面を構成する面材であり、天然繊維又は合成繊維からなる布帛(織物,編物,不織布)や皮革(天然皮革,合成皮革)にて形成できる。そしてシートカバー4Sは、シートパッド4Pの外形に倣った袋状の部材であるとともに、その右側面をなす右カマチ部4SSには、被覆部材10と、バックル9用の帯材12と、右側サイドシールド用の覆い布14が取付けられている。
【0018】
ここで
図4に示す被覆部材10は、コンソール側(
図4の右側)に配置されている厚手の面材であり、右カマチ部4SSの前端側から後方に向けて延設されている。この被覆部材10は、側面視で前後に長尺な矩形状に形成されており、被覆部材10の上縁は右カマチ部4SSの下部に縫合され、被覆部材10の下縁は右カマチ部4SSの下縁から下方に突出している。また覆い布14は、被覆部材10の後端に取付けられている面材であり、後述する右側サイドシールド40の適宜の位置を覆うことができる。この覆い布14は、比較的柔軟で適度な表面粗さを有している面状部材であり、他部材との間に生じる摩擦が相対的に大きくなるように設定されている。また被覆部材10の後部上側の右カマチ部4SSには、前後に延びる帯材12が取付けられており、この帯材12の後端は、後述するシートフレーム側に係止可能である。そして帯材12と右カマチ部4SSの間の隙には、シートベルト用のバックル9が突出して配置される。このバックル9は、
図5に示すように概ね直方体状の部材であり、その下側には、板状の取付け片9aと、索状のケーブル9bとが取付けられている。
【0019】
[シートフレーム]
また
図5に示すシートフレーム4Fは、シート骨格をなす上方視で略矩形の枠体であり、金属や硬質樹脂などの剛性に優れる素材で形成できる(
図5では、便宜上、シートフレームと各サイドシールドと各インサイドシールドの主な構成のみを図示している)。このシートフレーム4Fは、左右一対のサイドフレーム4Fa,4Fbと、フロントフレーム4Fcと、フロントパイプ4Fdと、リアパイプ4Feとで形成されている。左右一対のサイドフレーム(右側サイドフレーム4Fa,左側サイドフレーム4Fb)は、それぞれシートフレーム4Fの側部骨格をなす部材である。これら各サイドフレーム4Fa,4Fbは、前後方向に長尺な縦板状に形成されており、シートの左側と右側とに分かれて対面状に配設されている。またフロントフレーム4Fcは、シートフレーム4Fの前部骨格をなす板状部位であり、各サイドフレーム4Fa,4Fbの前端に固定されて左右方向に延長している。
【0020】
[リアパイプ]
そして各サイドフレーム4Fa,4Fbの前部には、左右に延びる円筒状のフロントパイプ4Fdが掛け渡されて固定され、各サイドフレーム4Fa,4Fbの後部には、左右に延びる円筒状のリアパイプ4Feが掛け渡されて固定されている。これらフロントパイプ4Fdとリアパイプ4Feは、前後に適宜の間隔をあけて配置されているとともに、後述するリフタ機構LMを介してスライド機構SMに連結されている。なおフロントパイプ4Fdとリアパイプ4Feの間には前後方向に延びるSバネ(図示省略)が掛止され、このSバネによって、
図4に示すシートパッド4Pを下支えすることができる。
【0021】
[スライド機構]
図2及び
図5に示すスライド機構SMは、乗物床面FSに対してシートクッション4を前後動させる部材であり、シートクッション4の右側と左側にそれぞれ配設されている(各図では、便宜上、左右のスライド機構に共通の符号SMを付す)。例えば右側のスライド機構SMは、乗物床面FS側に固定されるロアレール20と、後述するリフタ機構LMを介してシートクッション4に取付けられるアッパレール21とを有している。ロアレール20は、前後方向に長尺とされている板状部材であり、断面視においては上側が解放したコ字形状に形成されている。またアッパレール21は、ロアレール20よりも短尺な前後に延びる板状部材であり、ロアレール20の上側に摺動可能な状態で組付けられている。なおアッパレール21の後部側には板状のバックル用ブラケット22が固定されており、このバックル用ブラケット22には、上述したバックル9の取付け片9aを傾倒可能な状態で取付けておくことができる。また左側のスライド機構SMも、右側のスライド機構SMと概ね同一の基本構成を備え、別のロアレール20xと別のアッパレール21xとを有している。そしてロアレール20(20x)に対してアッパレール21(21x)が摺動することで、シートクッション4が、乗物床面FSに対して前後にスライド移動することが可能となる。なおロアレール20(20x)に対するアッパレール21(21x)の摺動は、図示しないスライドロック機構によって規制することができる。
【0022】
[リフタ機構(リンク)]
図2及び
図5に示すリフタ機構LMは、乗物床面FSに対してシートクッション4を上下動させる部材であり、シートクッション4の右側と左側にそれぞれ配設されている(
図5では、便宜上、左右のリフタ機構に共通の符号LMを付す)。これら各リフタ機構LMは、四節リンクをなすように、前後一対のリンク31,32(31x,32x)をアッパレール21及びシートフレーム4Fに軸連結することで形成されている。例えば右側のリフタ機構LMは、上下に延びる前後一対のリンク(前側リンク31,後側リンク32)を有し、各リンク31,32が、フロントパイプ4Fd又はリアパイプ4Feと、アッパレール21とに軸連結されている。すなわち前側リンク31の下部は、アッパレール21の前側上面に設けられた前ブラケット33に軸連結され、前側リンク31の上部は、フロントパイプ4Fdに軸連結されている。また後側リンク32の下部は、アッパレール21の後側上面に設けられた後ブラケット34に軸連結され、前側リンク31の上部はリアパイプ4Feに軸連結されている。そして本実施例では、後側リンク32が、本発明のリンクに相当し、後述するように左右方向において右側サイドフレーム4Faと右側インサイドシールド60(可動片部65)との間に配置される。また左側のリフタ機構LMも、右側のリフタ機構LMと概ね同一の基本構成を備えている。すなわち左側のリフタ機構LMにおいても、前後一対の別のリンク31x,32xが、フロントパイプ4Fd又はリアパイプ4Feと、アッパレール21の各ブラケット33x,34xとに軸連結されている。
【0023】
そして
図2及び
図5を参照して、前側リンク31(31x)と後側リンク32(32x)とがアッパレール21の各ブラケット33,34等を基点に起立していくことで、シートクッション4が、乗物床面FSから次第に上方に移動していく。また前側リンク31(31x)と後側リンク32(32x)とがアッパレール21の各ブラケット33,34等を基点に後方に傾倒するにしたがって、シートクッション4が、乗物床面FS側である下方に移動していく。なお各リンク31,32(31x,32x)の起倒動作は、図示しないリフタロック機構によって規制することができる。
【0024】
[右側サイドシールド]
図1及び
図5に示す右側サイドシールド40は、シートクッション4のインナー側に当たる右側面のシート外側(各図の右側)に配設される硬質樹脂製の板状部材である。なお硬質樹脂の種類は、適度な剛性と硬度を有する限り特に限定しないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルを例示できる。この右側サイドシールド40は、後述する左側サイドシールド50に比して前後に短尺とされており、右側サイドフレーム4Faの後端側から前側に向けて配置され、本実施例では被覆部材10の後縁まで延設されている。そして右側サイドシールド40は、
図5に示すように、側部形状をなす外面41と、外面41の前側と下側を除く周縁から内向きに屈曲している周面42を有し、さらに右側サイドシールド40の前側と下側とは解放状とされている。そして右側サイドシールド40の外面41は、下部が概ね矩形をなし且つ上部が半円状に盛り上がっており、右側の後側リンク32及びリアパイプ4Feと、図示しないリクライナとを被覆することができる。また右側サイドシールド40の周面42は、外面41の上縁から後縁にかけての部分に連続的に形成されており、後側に形成されている周縁部分が後面43となっている。そして右側サイドシールド40の後面43の下部には丸穴状の挿設孔43H(貫通孔)が設けられており、この挿設孔43Hには、覆い布14固定用のクリップ状の固定具80の軸部分を挿設することができる。
【0025】
[左側サイドシールド]
図5に示す左側サイドシールド50は、シートクッション4のアウター側に当たる左側面のシート外側(
図5の左側)に配設される板状部材であり、硬質樹脂にて形成されて適度な剛性を備えている。この左側サイドシールド50は、前後方向に長尺な概ね矩形をなしており、左側サイドフレーム4Fbやリフタ機構LMを覆うように組付けられている。そして左側サイドシールド50の後部側は、上方に向けて半円状に盛り上がった形状を有しており、左側の後側リンク32x及びリアパイプ4Feと、図示しないリクライナとを被覆することができる。なお左側サイドシールド50の前部には、概ね矩形の窓部51が設けられている。この窓部51は、各種機構の操作用のパネル52が内側から組付けられることで塞がれている。
【0026】
[右側インサイドシールド]
図5に示す右側インサイドシールド60は、シートクッション4のインナー側に当たる右側面のシート内側(
図5の左側)に配設される板状部材であり、本発明のインサイドシールドに相当する。この右側インサイドシールド60は、後述するように、リアパイプ4Feを嵌挿した状態で、右側サイドフレーム4Faの左側に組付けられる。そして右側インサイドシールド60は、
図6~
図9に示すように、リアパイプ4Feを嵌挿可能な本体部61(嵌挿部62,縦板部63,固着部位64)と、本体部61から下方に延長している可動片部65と、助長部位66とを有している。
【0027】
[本体部(嵌挿部)]
図6~
図9に示す本体部61は、上方視において前後に長尺な矩形の板材であり、硬質樹脂にて形成されて適度な剛性を備えている。この本体部61の後部側には、リアパイプ4Feを嵌挿可能な嵌挿部62が設けられており、この嵌挿部62の左右の寸法は、本体部61のその他の部分に比して大きくなっている。すなわち嵌挿部62は、
図7を参照して、本体部61の右縁から左方に向けて形成されているとともに、嵌挿部62の左縁は、その他の本体部61の左縁よりも左方に突出している。そして嵌挿部62は、
図9を参照して、側面視において概ね横U字状に湾曲するように形成されており、リアパイプ4Feの上部と後部と下部にかけての部分を嵌込んで装着しておくことができる。さらに嵌挿部62の前側の上部には、後方且つ下方に向けて突出する上返し部62aが設けられ、嵌挿部62の前側の下部には、後方且つ上方に向けて突出する下返し部62bが設けられている。これら各返し部62a,62bは、リアパイプ4Feの前側に係止可能な部分であり、リアパイプ4Feの嵌挿部62からの抜け外れを阻止するために設けられている。
【0028】
また本体部61の上面右側には、
図5~
図9に示すように立壁状の縦板部63が上方に張り出すように設けられており、この縦板部63は、右側サイドフレーム4Faの内面側に対面状に配置することができる。この縦板部63の後側には、図示しないリクライナとの干渉を避けるためにU字状の切欠き状の凹部位63aが設けられ、この凹部位63aを境に縦板部63を前部と後部に区分けすることができる。そして縦板部63の前部の上縁には係止爪63bが設けられ、この係止爪63bは、右側サイドシールド40の上部側に係止可能とされている。また縦板部63の後部の端縁側には、左方に張り出す隠し板63cが設けられており、この隠し板63cによって右側サイドフレーム4Faを後方から覆っておくことができる。
【0029】
[可動片部]
図5~
図10に示す可動片部65は、本体部61の嵌挿部62の左縁から下方に延びている縦板状の部位であり、後述するように乗物床面から離れる方向に傾倒することが可能となっている(
図6では、便宜上、可動片部にハッチをつけてその他の部分と区別している)。この可動片部65は、側面視で概ね矩形に形成された縦板状の部位であり、嵌挿部62の下縁側(後述する固着部位64)に固着されて一体化されている。ここで可動片部65の前後の寸法は、嵌挿部62よりも大きくなっており、後述するように後側リンク32の広範囲の部分を覆うことが可能となっている。例えば
図6に示す可動片部65の前縁65aは、嵌挿部62の下縁から前方且つ下方に傾斜したのち下方に延長し、可動片部65の後縁65bは、嵌挿部62の下縁から下方に向かうにつれて次第に後方に傾斜している。また可動片部65の前縁65aと後縁65bの下端側はR付けがなされた状態で可動片部65の下縁65cにつながっており、この可動片部65の下縁65cは、前方に向かうにつれて次第に下方に傾斜している。そして可動片部65の上下の寸法は、後述するリフタ機構による下方移動時において、可動片部65の下縁65cが乗物床面に接しないように適度な寸法に設定されている。なお
図7を参照して、可動片部65の後部側は、その後縁65bに向かうにつれて次第に右側に向けて傾斜している。
【0030】
[助長部位]
そして
図8、
図10及び
図13を参照して、右側インサイドシールド60には、可動片部65の右側サイドフレーム4Faへの傾動を助長する助長部位66が設けられている。例えば本実施例の助長部位66は、可動片部65の下部の形状で構成されている。すなわち可動片部65の助長部位66までの部分は概ね上下に直線的に延びているが、助長部位66をなす可動片部65の下部は、下方に向かうにつれて次第に右側(右側サイドシールド40側)に向けて曲がった形状を有している。このため可動片部65下部(助長部位66)の左側に他部材102が接した場合、この可動片部65が、他部材102によって右方且つ上方にスムーズに押し上げられることとなる。このため可動片部65は、その上縁側(後述の固着部位64)を基点として、シートフレーム4Fの側面をなす右側サイドフレーム4Faに向けてスムーズに傾動することが可能となる。
【0031】
[可動片部の素材]
ここで
図10に示す可動片部65の素材は特に限定しないが、本実施例の可動片部65は、本体部61よりも柔軟な素材で形成されて適度な可撓性を有している。すなわち本体部61を硬質樹脂で形成した場合、可動片部65は、ゴム弾性を備えて適度に柔軟な素材で形成することができ、この種の素材として、各種のエラストマやゴム(天然ゴム,合成ゴム)を使用することができる。なおエラストマとして、スチレン系エラストマ(SBC)、オレフィン系エラストマ(TPO)、ポリ塩化ビニル系エラストマ(TPVC)、ウレタン系エラストマ(TPU)、ポリエステル系エラストマ(TPEE)、ポリアミド系エラストマ(TPAE)を例示でき、これらを単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0032】
[右側インサイドシールドの形成手法(固着部位)]
右側インサイドシールド60の形成手法は、用いられる素材によって適宜選択することができる。例えば
図9及び
図10を参照して、本体部61(嵌挿部62)を硬質樹脂で形成し、可動片部65をエラストマで形成する場合、右側インサイドシールド60は、インサート成形や二色成形などの手法で形成することが可能である。そして可動片部65は、本体部61の嵌挿部62に設けられている固着部位64にて一体化されている。この固着部位64は、嵌挿部62の下面を段差状とすることで形成されており、第一固着面641と第二固着面642と第三固着面643とを有している。第一固着面641は、嵌挿部62の下面のシート内側(
図10の左側)の平坦な部分であり、第二固着面642は、嵌挿部62の下面のシート外側(
図10の右側)の平坦な部分である。そして第一固着面641(一方)は、第二固着面642(他方)よりも一段高い位置に配置されており、これら両固着面641,642が、立壁状の第三固着面643にてつながっている。そして可動片部65の上縁側が、段差状に形成された固着部位64に固着されることで、例えば嵌挿部62の下面全てが平坦とされている場合に比して、本体部61と可動片部65とがより強固に固着して一体化されることとなる。
【0033】
[左側インサイドシールド]
また
図5に示す左側インサイドシールド70は、シートクッション4のアウター側に当たる左側面のシート内側(
図5の右側)に配設される板状部材である。この左側インサイドシールド70は、右側インサイドシールド60と外形が異なる以外は概ね同一の基本構成を有することができる。すなわち左側インサイドシールド70も、リアパイプ4Feを嵌挿可能な別の本体部71と、別の本体部71から下方に延長している別の可動片部75とを有することができる。
【0034】
[シートクッションの形成作業]
図1に示すシートクッション4の形成に際しては、各サイドシールド40,50と、各インサイドシールド60,70と、シートパッド4Pと、シートカバー4Sとを順次シートフレーム4Fに配設していく(インサイドシールドの配設については後述)。例えばシートフレーム4Fに右側サイドシールド40を組付けたのち、シートフレーム4F上にシートパッド4Pを配置する。そして
図1、
図4及び
図5を参照して、シートパッド4Pをシートカバー4Sで被覆する際に、右側サイドフレーム4Faを被覆部材10で被覆するとともに、右側サイドシールド40の適宜の位置を覆い布14で覆っておく。このとき覆い布14は、右側サイドシールド40の外面41の下側からその内側(左側)に回り込んで配置される。そして覆い布14の後側を、適度にテンションのかかった状態で右側サイドシールド40の後面43に配置したのち、クリップ状の固定具80で固定しておくことができる。そしてシートカバー4Sの下縁をシートフレーム側に掛止しつつ、左側サイドシールド50をシートフレーム4Fに組付ける。
【0035】
[インサイドシールドの配設]
また上述の各サイドシールド40,50の配設作業に前後して、
図5に示すシートフレーム4Fの適宜の位置に各インサイドシールド60,70を配設することができる。ここで各インサイドシールド60,70の配設手順は概ね同一であるため、右側インサイドシールド60を一例にその配設手順を説明する。この右側インサイドシールド60の配設に際しては、
図11~
図13を参照して、本体部61の嵌挿部62にリアパイプ4Feを嵌挿し、このリアパイプ4Feの前側に各返し部62a,62bを係止して抜け止めしておく。そして本体部61の縦板部63を右側サイドフレーム4Faの内面に対面状に配置しつつ、縦板部63の係止爪63bを右側サイドフレーム4Faの上部に係止する。こうして右側インサイドシールド60が、リアパイプ4Feに掛け止められた状態で右側サイドフレーム4Faに組付けられて、右側サイドシールドのシート内側に配設される。そして本実施例では、剛性に優れる硬質樹脂製の嵌挿部62にリアパイプ4Feを嵌挿しておくことで、右側インサイドシールド60を、シートフレーム4Fに安定的に組付けておくことが可能となる。こうして配設された右側インサイドシールド60では、可動片部65が本体部61から下方に延長し、右側サイドフレーム4Faのシート内側である左側に配置される。そしてこの状態のシートフレーム4Fをシート幅方向から見た場合、
図11及び
図13に示すように、リアパイプ4Feに軸連結された後側リンク32の上部後側32a(一部)が、右側サイドフレーム4Faと可動片部65の間に配置された状態となっている。そして
図5に示す左側インサイドシールド70も、同様の手順でリアパイプ4Feを嵌挿した状態で、左側サイドフレーム4Fbに組付けられる。
【0036】
[シートクッションの上下移動]
図1に示す乗物用シート2では、座部となるシートクッション4が、乗員の体格などに合わせて、乗物床面FSに対して前後方向又は上下方向に移動可能な状態で設置されている。例えば乗物用シート2に大柄な乗員が着座する場合には、乗員の目線の位置等を調整するために、
図2に示すシートクッション4を各リフタ機構LMによって下方に移動させていく。そしてこの種の構成では、乗物床面FS上に他部材102が存在する場合、この他部材102が、下方移動時のシートクッション4に干渉することがあり、このとき他部材102との強干渉によってシートクッション4が破損するおそれがある。特に本実施例の右側インサイドシールド60では、
図11~
図13に示すように、リアパイプ4Feに嵌挿されている本体部61から可動片部65が乗物床面FSに向けて延長している。このためシートクッション4の下方移動の際に、右側インサイドシールド60の下部側の可動片部65と他部材102との強干渉が起こりやすい状況となっている。そして可動片部65と他部材102の強干渉は乗物床面FSの高さ位置H0が高くなるほど生じやすくなるが、乗物床面FSの高さ位置H0は、その下方の収容スペースとの関係から過度に低くすることは好ましくない。
【0037】
そこで本実施例の右側インサイドシールド60は、
図13~
図15を参照して、シートフレーム4Fに組付けられている本体部61と、本体部61から乗物床面FSに向けて延長している可動片部65とを有し、可動片部65は、本体部61に対して乗物床面FSから離れる方向に傾動可能とされている。このためシートクッション4の下方移動の際に、右側インサイドシールド60の可動片部65が他部材102に干渉した場合、この可動片部65が、他部材102に押されてそれから離れるように上方に傾動することができる(傾動の向きは後述)。そして可動片部65は、相対的に柔軟な素材で形成されているため、スムーズな傾動を可能にする可撓性を持っている。このため本実施例では、他部材102からの押圧を受けた可動片部65が撓みながらスムーズに上方に傾動していくことができ、この可動片部65と他部材102との強干渉を極力回避することが可能となる。こうして本実施例では、可動片部65が他部材102から離れるように傾動できるため、乗物床面FSの高さ位置H0が相対的に高い場合においても、右側インサイドシールド60と他部材102との強干渉を極力阻止することが可能となる。
【0038】
[可動片部によるリンクの保護]
ところで上述の状況においては、他部材102が、シートフレーム4F側の部材に干渉するおそれがあるが、このような事態は極力阻止すべきであり、とりわけリフタ機構LMの後側リンク32との接触は極力阻止すべきである。そこで本実施例では、シートクッション4の下方移動の際に、リフタ機構LMの後側リンク32を、シートフレーム4Fと可動片部65の間に配置して保護している。さらに本実施例では、可動片部65を、助長部位66によってシートフレーム4F側である右上側に傾動しやすくしている。このため可動片部65が、他部材102に押されて右上側に傾動するにしたがって、右側サイドフレーム4Faやその近傍に位置する後側リンク32を下側から覆うように傾いていくことができる。こうして本実施例では、シートフレーム4F側を覆うように可動片部65が傾くことで、シートフレーム4Fや後側リンク32に他部材102が直に接触することをより確実に回避することが可能となる。
【0039】
[シートクッションの前後移動]
また
図2、
図3及び
図7を参照して、乗物用シート2に大柄な乗員が着座する場合、シートクッション4を、各スライド機構SMによって後方に移動させていく必要がある。このシートクッション4の後方移動の際にも、他部材102と右側インサイドシールド60が干渉した場合、この右側インサイドシールド60の可動片部65が、本体部61に対して乗物床面FSから離れる方向に傾動することができる。このとき
図3及び
図7を参照して、可動片部65の後部側を右側に曲げておくことで、他部材102からの荷重をより確実に受け止めることができる。このためシートクッション4の後方移動の際にも、可動片部65が傾動して他部材102から離れることにより、他部材102と右側インサイドシールド60の強干渉を極力阻止することができる。
【0040】
なお上述のシートクッション4の後方移動の際には、その後方の乗物床面FS上のコンソール寄りの部分に他部材102が存在することがある。このような場合には、シートクッション4の後方移動の際に、右側サイドシールド40の動きを利用して他部材102を後方のサービスフォールカバー101側に押し退けていく。このとき右側サイドシールド40は、相対的に柔軟で且つ適度な表面粗さを備えた覆い布14を介して他部材102に接触することとなる。そして覆い布14と他部材102の間に生じる摩擦にて、右側サイドシールド40の動きが他部材102にスムーズに伝わり、他部材102がそのままの位置にとどまってしまうことを極力回避することができる。
【0041】
以上説明した通り本実施例では、右側インサイドシールド60の可動片部65が、本体部61に対して乗物床面FSから離れる方向に傾動可能である。このため乗物床面FS上の他部材102に可動片部65が干渉した際に、この可動片部65が、他部材102に押されてそれから離れるように傾動することができる。こうして本実施例では、可動片部65が他部材102から離れるように傾動できるため、乗物床面FSの高さ位置が相対的に高い場合においても、右側インサイドシールド60と他部材102との強干渉を極力阻止することが可能となる。このため本実施例によれば、乗物床面FSの高さ位置に配慮しつつ、シートクッション4の前後上下動の際に、乗物床面FS上の他部材102と右側インサイドシールド60との強干渉を極力阻止することができる。そして本実施例の乗物用シート2によれば、乗物床面FSの高さ位置を調整してその下方の収容スペースを確保しつつも、シートクッション4のスライド量とリフタ量を十分に確保することが可能となり、シートの利便性の確保に資する構成となる。
【0042】
さらに本実施例では、硬質樹脂製の本体部61の嵌挿部62にリアパイプ4Feを嵌挿することで、右側インサイドシールド60を、シートフレーム4Fにより安定的に組付けておくことが可能となる。そして可動片部65を相対的に柔軟な素材で形成したことにより、この可動片部65に、スムーズな傾動を可能にする可撓性を持たせることができる。また本実施例では、リフタ機構LMを取付けるためのリアパイプ4Feに右側インサイドシールド60を嵌挿することができるため、シートの部品点数の削減に資する構成となる。またリフタ機構LMのリンク(32)を、シートフレーム4Fと可動片部65の間に配置して保護しておくことにより、リンク(32)と他部材102とが直に接触することを極力回避することができる。また本実施例では、可動片部65を、助長部位66によってシートフレーム4F側に傾動しやすくしている。そして可動片部65が、シートフレーム4F側を覆うように傾くことで、シートフレーム4F又はその近傍の部材(例えばリフタ機構LMのリンク(32))と他部材102とが直に接触することをより確実に回避することが可能となる。そして本実施例では、本体部61に設けた固着部位64を段差状としたことで、この固着部位64に可動片部65をより強固に固着して一体化しておくことができる。
【0043】
本実施形態の乗物用シート2は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、各サイドシールド40,50の構成を例示したが、各サイドシールドの構成を限定する趣旨ではない。例えば右側サイドシールドと左側サイドシールドは、概ね同一の寸法を有していてもよい。また本実施形態では、スライド機構SMとリフタ機構LMの構成を例示したが、これら各機構の構成も適宜変更可能である。例えばリフタ機構のリンクは、その一部又は全部が、シート幅方向において可動片部とシートフレームの間に配置されていてもよく、可動片部とシートフレームの間に配置されていなくともよい。
【0044】
また本実施形態では、各インサイドシールド60,70の構成を例示したが、各インサイドシールドの構成を限定する趣旨ではない。例えばインサイドシールドは、シートフレームの適宜の位置に組付けることができ、必ずしもリアパイプを嵌挿する必要はない。そして本実施例の構成は、左右(インナー側及びアウター側)のインサイドシールドの少なくとも一方に適用することが可能である。なおインナー側のインサイドシールドに本実施例の構成を適用する場合、アウター側のインサイドシールド(本実施例の左側インサイドシールド)では可動片部に相当する部分を省略することも可能である。なおインサイドシールドは、シートフレームの前部に配設することもでき、この場合には、インサイドシールドにフロントパイプを嵌挿しておくこともできる。
【0045】
また本実施例では、本体部61と可動片部65の構成を例示したが、これら各部の構成を限定する趣旨ではない。例えば本体部と可動片部とを同種の素材(例えば硬質樹脂)で形成し、これら両部を、可動片部の傾動が可能となるように蝶番状のヒンジ部やインテグラルヒンジ等で連結することもできる。またヒンジ部に、助長部位としてのターンオーバースプリングを設け、このターンオーバースプリングにて、可動片部をシートフレーム側に付勢したり起立するように付勢したりすることもできる。また可動片部の傾動の向きは、必ずしもシートフレーム側である必要はなく、必要に応じて助長部位を省略することも可能である。また本体部と可動片部とを異種の素材で形成する場合、本体部の固着部位(断面)は、本実施例のように段差状(階段状)とする場合のほか、ジグザグ状や湾曲状や平坦状とすることも可能である。なお固着部位は、シート内側の第一固着面と、第一固着面よりも一段高いシート外側の第二固着面と、これら両固着面の間に設けられた第三固着面とを有することもできる。なお可動片部の上側のみを異種の素材で形成することもでき、この場合には、可動片部の下側を剛性に優れる素材(硬質樹脂など)で形成することもできる。
【0046】
また本実施形態では、乗物用シート2の構成を例示したが、乗物用シートの構成も適宜変更可能であり、複数人用や一人用の乗物用シートに本発明の構成を適用できる。また乗物床面側の構成も適宜変更可能であり、コンソールやサービスフォールカバーは適宜省略することができる。そして本実施形態の構成は、車両や航空機や電車や船舶などの乗物用シート全般に適用できる。
【符号の説明】
【0047】
2 乗物用シート
4 シートクッション
6 シートバック
8 ヘッドレスト
4S シートカバー
4SS 右カマチ部
10 被覆部材
12 帯材
14 覆い布
4P シートパッド
4F シートフレーム
4Fa 右側サイドフレーム
4Fb 左側サイドフレーム
4Fc フロントフレーム
4Fd フロントパイプ
4Fe リアパイプ
9 バックル
9a 取付け片
9b ケーブル
SM スライド機構
20,20x ロアレール
21,21x アッパレール
22 バックル用ブラケット
LM リフタ機構
31,31x 前側リンク
32,32x 後側リンク
32a 後側リンクの上部後側(本発明のリンクの少なくとも一部)
33,33x 前ブラケット
34,34x 後ブラケット
40 右側サイドシールド
41 外面
42 周面
43 後面
43H 挿設孔
50 左側サイドシールド
51 窓部
52 パネル
60 右側インサイドシールド(本発明のインサイドシールド)
61 本体部
62 嵌挿部
62a 上返し部
62b 下返し部
63 縦板部
63a 凹部位
63b 係止爪
63c 隠し板
64 固着部位
641 第一固着面
642 第二固着面
643 第三固着面
65 可動片部
65a 前縁
65b 後縁
65c 下縁
66 助長部位
70 左側インサイドシールド
71 別の本体部
75 別の可動片部
80 固定具
FS 乗物床面
100 コンソール
101 サービスフォールカバー
102 他部材