(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/15 20160101AFI20221220BHJP
B60K 6/44 20071001ALI20221220BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20221220BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20221220BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20221220BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20221220BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20221220BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221220BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20221220BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20221220BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20221220BHJP
【FI】
B60W20/15
B60K6/44 ZHV
B60K6/46
B60K6/547
B60L15/20 J
B60L50/16
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/10 900
F02D29/00 C
F02D29/06 D
(21)【出願番号】P 2019172304
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】松原 亨
(72)【発明者】
【氏名】木村 考浩
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-247205(JP,A)
【文献】特開2016-130118(JP,A)
【文献】特開2015-193336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/15
B60K 6/44
B60K 6/46
B60K 6/547
B60L 15/20
B60L 50/16
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/10
F02D 29/00
F02D 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機を有するエンジンと、前記エンジンの回転速度を調整可能な回転機とを備えたハイブリッド車両の、制御装置であって、
前記エンジンの動作点が、前記エンジン及び前記回転機のそれぞれの所定上限回転速度に対して前記エンジンの回転速度の余裕代が確保された許容最大回転速度を超えない範囲内に前記エンジンの回転速度があるように且つ前記エンジンに要求される出力が前記エンジンから出力されるように設定された目標動作点となるように、前記エンジン及び前記回転機を制御すると共に、前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超えた場合には、前記エンジンの出力トルクを低減するように前記エンジンを制御する高回転抑制制御部と、
前記許容最大回転速度と前記エンジンの回転速度との速度差が、設定された余裕
回転速度差以下になった場合に、前記速度差が前記余裕
回転速度差よりも大きくなるように前記エンジンの動作点を変更するエンジン動作点変更部と、
前記過給機による過給圧に基づき前記過給圧が高いときには低いときに比べて前記余裕回転速度差を大きな値に設定する余裕回転速度差設定部と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記余裕
回転速度差設定部は、前記過給圧が高いほど前記余裕
回転速度差を大きな値に設定する
ことを特徴とする請求項
1のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
車両状態が、前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超え易い所定車両状態であるか否かを判定する状態判定部をさらに備え、
前記エンジン動作点変更部は、前記車両状態が前記所定車両状態であると判定され且つ前記速度差が前記余裕
回転速度差以下になった場合に、前記速度差が前記余裕
回転速度差よりも大きくなるように前記エンジンの動作点を変更する
ことを特徴とする請求項
1又は2のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記状態判定部は、前記エンジンの動力が伝達される駆動輪が滑り易い路面を前記ハイブリッド車両が走行しているか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項
3のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記状態判定部は、前記回転機が所定の出力制限を受けている状態であるか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定する
ことを特徴とする請求項
3又は4のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記ハイブリッド車両は、前記エンジンを駆動力源とすると共に、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた変速機を備え、
前記エンジン動作点変更部は、前記回転機の回転速度及び前記変速機の変速比を調節することにより前記エンジンの動作点を変更する
ことを特徴とする請求項1から
5の何れか1のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機付きエンジンと回転機とを備えたハイブリッド車両の、制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンの回転速度を調整可能な回転機とを備えたハイブリッド車両が知られている。例えば、特許文献1に記載された車両がそれである。この特許文献1には、エンジン及び回転機がそれぞれの所定上限回転速度を超えないように定められた許容最大回転速度を超えない範囲内にエンジンの回転速度があるように、且つ、エンジンに要求される出力がエンジンから出力されるように、エンジン及び回転機を制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載された技術のようにエンジン及び回転機を制御したとしても、車両状態によってはエンジンの回転速度が許容最大回転速度を超えて上昇する場合がある。このような場合には、エンジンの出力トルクを低減することが考えられる。しかしながら、エンジンが過給機を有している場合、過給圧の応答遅れに起因してエンジンの出力トルクの応答遅れが生じる為に、エンジンの出力トルクを低減するようにエンジンを制御したとしても、エンジンの回転速度又は回転機の回転速度がそれぞれの所定上限回転速度に到達する程にエンジンの回転速度が許容最大回転速度を超える高回転状態に陥り易くなるという恐れがあった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、エンジンの回転速度が許容最大回転速度を超える高回転状態に陥るのを抑制することができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)過給機を有するエンジンと、前記エンジンの回転速度を調整可能な回転機とを備えたハイブリッド車両の、制御装置であって、(b)前記エンジンの動作点が、前記エンジン及び前記回転機のそれぞれの所定上限回転速度に対して前記エンジンの回転速度の余裕代が確保された許容最大回転速度を超えない範囲内に前記エンジンの回転速度があるように且つ前記エンジンに要求される出力が前記エンジンから出力されるように設定された目標動作点となるように、前記エンジン及び前記回転機を制御すると共に、前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超えた場合には、前記エンジンの出力トルクを低減するように前記エンジンを制御する高回転抑制制御部と、(c)前記許容最大回転速度と前記エンジンの回転速度との速度差が、設定された余裕回転速度差以下になった場合に、前記速度差が前記余裕回転速度差よりも大きくなるように前記エンジンの動作点を変更するエンジン動作点変更部と、(d)前記過給機による過給圧に基づき前記過給圧が高いときには低いときに比べて前記余裕回転速度差を大きな値に設定する余裕回転速度差設定部と、を備えることにある。
【0008】
また、第2発明の要旨とするところは、前記第1発明において、前記余裕回転速度差設定部は、前記過給圧が高いほど前記余裕回転速度差を大きな値に設定することにある。
【0009】
また、第3発明の要旨とするところは、前記第1発明又は第2発明において、(a)車両状態が、前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超え易い所定車両状態であるか否かを判定する状態判定部をさらに備え、(b)前記エンジン動作点変更部は、前記車両状態が前記所定車両状態であると判定され且つ前記速度差が前記余裕回転速度差以下になった場合に、前記速度差が前記余裕回転速度差よりも大きくなるように前記エンジンの動作点を変更することにある。
【0010】
また、第4発明の要旨とするところは、前記第3発明において、前記状態判定部は、前記エンジンの動力が伝達される駆動輪が滑り易い路面を前記ハイブリッド車両が走行しているか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定することにある。
【0011】
また、第5発明の要旨とするところは、前記第3発明又は前記第4発明において、前記状態判定部は、前記回転機が所定の出力制限を受けている状態であるか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定することにある。
【0012】
また、第6発明の要旨とするところは、前記第1発明から前記第5発明の何れか1の発明において、(a)前記ハイブリッド車両は、前記エンジンを駆動力源とすると共に、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた変速機を備え、(b)前記エンジン動作点変更部は、前記回転機の回転速度及び前記変速機の変速比を調節することにより前記エンジンの動作点を変更することにある。
【発明の効果】
【0013】
第1発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、(b)前記エンジンの動作点が、前記エンジン及び前記回転機のそれぞれの所定上限回転速度に対して前記エンジンの回転速度の余裕代が確保された許容最大回転速度を超えない範囲内に前記エンジンの回転速度があるように且つ前記エンジンに要求される出力が前記エンジンから出力されるように設定された目標動作点となるように、前記エンジン及び前記回転機を制御すると共に、前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超えた場合には、前記エンジンの出力トルクを低減するように前記エンジンを制御する高回転抑制制御部と、(c)前記許容最大回転速度と前記エンジンの回転速度との速度差が、設定された余裕回転速度差以下になった場合に、前記速度差が前記余裕回転速度差よりも大きくなるように前記エンジンの動作点を変更するエンジン動作点変更部と、(d)前記過給機による過給圧に基づき前記過給圧が高いときには低いときに比べて前記余裕回転速度差を大きな値に設定する余裕回転速度差設定部と、を備える。このため、前記速度差が前記余裕回転速度差以下になった場合には、前記速度差が前記余裕回転速度差よりも大きくなるように前記エンジンの動作点が変更されるので、前記許容最大回転速度と前記エンジンの回転速度との差が前記余裕回転速度差以下になるのが抑制される。これによって、前記許容最大回転速度と前記エンジンの回転速度との差に比較的十分な余裕が確保されるので、過給圧の応答遅れにより前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。また、前記過給圧が高いときには低いときに比べて前記余裕回転速度差が大きな値に設定されるので、前記過給圧が低いときには高いときに比べて前記速度差が前記余裕回転速度差以下になり難くなる。これによって、前記過給圧が低いときには高いときに比べて前記エンジン動作点が変更され難くなるので、前記エンジンの動作点を変更することによる燃費性能の悪化を抑制しつつ、好適に前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。
【0015】
第2発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、前記余裕回転速度差設定部は、前記過給圧が高いほど前記余裕回転速度差を大きな値に設定するので、より好適に前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。
【0016】
第3発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、(a)車両状態が、前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超え易い所定車両状態であるか否かを判定する状態判定部をさらに備え、(b)前記エンジン動作点変更部は、前記車両状態が前記所定車両状態であると判定され且つ前記速度差が前記余裕回転速度差以下になった場合に、前記速度差が前記余裕回転速度差よりも大きくなるように前記エンジンの動作点を変更する。このため、前記エンジン動作点変更部では、前記車両状態が前記所定車両状態であると判定され且つ前記速度差が前記余裕回転速度差以下になった場合に前記エンジンの動作点が変更されるので、例えば前記速度差が前記余裕回転速度差以下になった場合に前記エンジンの動作点を変更するものに比較して、過度に前記エンジンの動作点が変更されるのを抑えることができる。
【0017】
第4発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、前記状態判定部は、前記エンジンの動力が伝達される駆動輪が滑り易い路面を前記ハイブリッド車両が走行しているか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定する。このため、前記駆動輪が滑り易い路面を前記ハイブリッド車両が走行しているときに、前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。
【0018】
第5発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、前記状態判定部は、前記回転機が所定の出力制限を受けている状態であるか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定する。このため、前記回転機が前記所定の出力制限を受けている状態であるときに、前記エンジンの回転速度が前記許容最大回転速度を超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。
【0019】
第6発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、(a)前記ハイブリッド車両は、前記エンジンを駆動力源とすると共に、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた変速機を備え、(b)前記エンジン動作点変更部は、前記回転機の回転速度及び前記変速機の変速比を調節することにより前記エンジンの動作点を変更する。このため、前記回転機の回転速度及び前記変速機の変速比を調整することによって、好適に前記エンジンの動作点を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図3】差動部における各回転要素の回転速度を相対的に表す共線図である。
【
図5】モータ走行とハイブリッド走行との切替制御に用いる動力源切替マップの一例を示す図である。
【
図6】各走行モードにおけるクラッチ及びブレーキの各作動状態を示す図表である。
【
図7】エンジン回転速度の使用可能領域の一例を示す図である。
【
図8】余裕回転速度差を設定するために用いられる余裕回転速度差設定マップの一例を示す図である。
【
図9】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジン回転速度が許容最大回転速度を超える高回転状態に陥るのを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。
【
図10】
図9のフローチャートに示す制御作動の一例を実行した場合のタイムチャートである。
【
図11】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であって、
図1の車両とは別の車両を説明する図である。
【
図12】
図11で例示した機械式有段変速部の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【
図13】
図11で例示した車両におけるエンジン回転速度の使用可能領域の一例を示す図であって、AT1速ギヤ段時の場合である。
【
図14】
図11で例示した車両におけるエンジン回転速度の使用可能領域の一例を示す図であって、AT2速ギヤ段時の場合である。
【
図15】
図11で例示した車両におけるエンジン回転速度の使用可能領域の一例を示す図であって、AT3速ギヤ段時の場合である。
【
図16】
図11で例示した車両におけるエンジン回転速度の使用可能領域の一例を示す図であって、AT4速ギヤ段時の場合である。
【
図17】
図11で例示した車両において、
図9のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図18】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であって、
図1や
図11の車両とは別の車両を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、エンジン12と第1回転機(回転機)MG1と第2回転機MG2と動力伝達装置14と駆動輪16とを備えるハイブリッド車両である。
【0023】
図2は、エンジン12の概略構成を説明する図である。
図2において、エンジン12は、車両10の走行用の動力源であり、過給機18を有するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関、すなわち過給機18付きエンジンである。エンジン12の吸気系には吸気管20が設けられており、吸気管20はエンジン本体12aに取り付けられた吸気マニホールド22に接続されている。エンジン12の排気系には排気管24が設けられており、排気管24はエンジン本体12aに取り付けられた排気マニホールド26に接続されている。過給機18は、吸気管20に設けられたコンプレッサー18cと排気管24に設けられたタービン18tとを有する、公知の排気タービン式の過給機すなわちターボチャージャーである。タービン18tは、排出ガスすなわち排気の流れにより回転駆動させられる。コンプレッサー18cは、タービン18tに連結されており、タービン18tによって回転駆動させられることでエンジン12への吸入空気すなわち吸気を圧縮する。
【0024】
排気管24には、タービン18tの上流側から下流側へタービン18tを迂回させて排気を流す為の排気バイパス28が並列に設けられている。排気バイパス28には、タービン18tを通過する排気と排気バイパス28を通過する排気との割合を連続的に制御する為のウェイストゲートバルブ(=WGV)30が設けられている。ウェイストゲートバルブ30は、後述する電子制御装置(制御装置)100によって不図示のアクチュエータが作動させられることにより弁開度が連続的に調節される。ウェイストゲートバルブ30の弁開度が大きい程、エンジン12の排気は排気バイパス28を通って排出され易くなる。従って、過給機18の過給作用が効くエンジン12の過給状態において、過給機18による過給圧Pchgはウェイストゲートバルブ30の弁開度が大きい程低くなる。過給機18による過給圧Pchgは、吸気の圧力であり、吸気管20内でのコンプレッサー18cの下流側気圧である。尚、過給圧Pchgの低い側は、例えば過給機18の過給作用が全く効いていないエンジン12の非過給状態における吸気の圧力となる側、見方を換えれば過給機18を有していないエンジンにおける吸気の圧力となる側である。
【0025】
吸気管20の入口にはエアクリーナ32が設けられ、エアクリーナ32よりも下流であってコンプレッサー18cよりも上流の吸気管20には、エンジン12の吸入空気量Qairを測定するエアフローメータ34が設けられている。コンプレッサー18cよりも下流の吸気管20には、吸気と外気又は冷却水とで熱交換を行うことで過給機18により圧縮された吸気を冷却する熱交換器であるインタークーラ36が設けられている。インタークーラ36よりも下流であって吸気マニホールド22よりも上流の吸気管20には、後述する電子制御装置100によって不図示のスロットルアクチュエータが作動させられることにより開閉制御される電子スロットル弁38が設けられている。インタークーラ36と電子スロットル弁38との間の吸気管20には、過給機18による過給圧Pchgを検出する過給圧センサ40、吸気の温度である吸気温度THairを検出する吸気温センサ42が設けられている。電子スロットル弁38の近傍例えばスロットルアクチュエータには、電子スロットル弁38の開度であるスロットル弁開度θthを検出するスロットル弁開度センサ44が設けられている。
【0026】
吸気管20には、コンプレッサー18cの下流側から上流側へコンプレッサー18cを迂回させて空気を再循環させる為の空気再循環バイパス46が並列に設けられている。空気再循環バイパス46には、例えば電子スロットル弁38の急閉時に開弁させられることによりサージの発生を抑制してコンプレッサー18cを保護する為のエアバイパスバルブ(=ABV)48が設けられている。
【0027】
エンジン12は、後述する電子制御装置100によって、電子スロットル弁38や燃料噴射装置や点火装置やウェイストゲートバルブ30等を含むエンジン制御装置50(
図1参照)が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0028】
図1に戻り、第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車両10の走行用の動力源となり得る。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置100によってインバータ52が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTg及び第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えば正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ54は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース56内に設けられている。
【0029】
動力伝達装置14は、ケース56内に、変速部58、差動部60、ドリブンギヤ62、ドリブン軸64、ファイナルギヤ66、ディファレンシャルギヤ68、リダクションギヤ70等を備えている。変速部58と差動部60とは、変速部58の入力回転部材である入力軸72と同軸心に配置されている。変速部58は、入力軸72などを介してエンジン12に連結されている。差動部60は、変速部58と直列に連結されている。ドリブンギヤ62は、差動部60の出力回転部材であるドライブギヤ74と噛み合っている。ドリブン軸64は、ドリブンギヤ62とファイナルギヤ66とを各々相対回転不能に固設する。ファイナルギヤ66は、ドリブンギヤ62よりも小径である。ディファレンシャルギヤ68は、デフリングギヤ68aを介してファイナルギヤ66と噛み合っている。リダクションギヤ70は、ドリブンギヤ62よりも小径であって、ドリブンギヤ62と噛み合っている。リダクションギヤ70には、入力軸72とは別にその入力軸72と平行に配置された、第2回転機MG2のロータ軸76が連結されており、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。又、動力伝達装置14は、ディファレンシャルギヤ68に連結された車軸78等を備えている。
【0030】
このように構成された動力伝達装置14は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式或いはRR(リヤエンジン・リヤドライブ)方式の車両に好適に用いられる。又、動力伝達装置14では、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2から各々出力される動力は、ドリブンギヤ62へ伝達され、そのドリブンギヤ62から、ファイナルギヤ66、ディファレンシャルギヤ68、車軸78等を順次介して駆動輪16へ伝達される。このように、第2回転機MG2は、駆動輪16に動力伝達可能に連結された回転機である。又、動力伝達装置14では、エンジン12、変速部58、差動部60、及び第1回転機MG1と、第2回転機MG2とが異なる軸心上に配置されることで、軸長が短縮化されている。又、第2回転機MG2の減速比を大きくとることができる。尚、上記動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。
【0031】
変速部58は、第1遊星歯車機構80、クラッチC1、及びブレーキB1を備えている。差動部60は、第2遊星歯車機構82を備えている。第1遊星歯車機構80は、第1サンギヤS1、第1ピニオンP1、第1ピニオンP1を自転及び公転可能に支持する第1キャリアCA1、第1ピニオンP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。第2遊星歯車機構82は、第2サンギヤS2、第2ピニオンP2、第2ピニオンP2を自転及び公転可能に支持する第2キャリアCA2、第2ピニオンP2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置である。
【0032】
第1遊星歯車機構80において、第1キャリアCA1は、入力軸72に一体的に連結されており、その入力軸72を介してエンジン12が動力伝達可能に連結された回転要素である。第1サンギヤS1は、ブレーキB1を介してケース56に選択的に連結される回転要素である。第1リングギヤR1は、差動部60の入力回転部材である第2遊星歯車機構82の第2キャリアCA2に連結された回転要素であり、変速部58の出力回転部材として機能する。又、第1キャリアCA1と第1サンギヤS1とは、クラッチC1を介して選択的に連結される。
【0033】
クラッチC1及びブレーキB1は、何れも湿式の摩擦係合装置であり、油圧アクチュエータによって係合制御される多板型の油圧式摩擦係合装置である。このクラッチC1及びブレーキB1は、車両10に備えられた油圧制御回路84が後述する電子制御装置100によって制御されることにより、その油圧制御回路84から出力される調圧された各油圧Pc1,Pb1に応じて、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
【0034】
クラッチC1及びブレーキB1が共に解放された状態においては、第1遊星歯車機構80の差動が許容される。よって、この状態では、第1サンギヤS1にてエンジントルクTeの反力トルクが取れない為、変速部58は機械的な動力伝達が不能な中立状態すなわちニュートラル状態とされる。又、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放された状態においては、第1遊星歯車機構80は各回転要素が一体回転させられる。よって、この状態では、エンジン12の回転は等速で第1リングギヤR1から第2キャリアCA2へ伝達される。一方で、クラッチC1が解放され且つブレーキB1が係合された状態においては、第1遊星歯車機構80は第1サンギヤS1の回転が止められ、第1リングギヤR1の回転が第1キャリアCA1の回転よりも増速される。よって、この状態では、エンジン12の回転は増速されて第1リングギヤR1から出力される。このように、変速部58は、変速比が「1.0」の直結状態となるローギヤと、変速比が例えば「0.7」のオーバードライブ状態となるハイギヤとに切り替えられる2段の有段変速機として機能する。又、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合された状態においては、第1遊星歯車機構80は各回転要素の回転が止められる。よって、この状態では、変速部58の出力回転部材である第1リングギヤR1の回転が停止させられることで、差動部60の入力回転部材である第2キャリアCA2の回転が停止させられる。
【0035】
第2遊星歯車機構82において、第2キャリアCA2は、変速部58の出力回転部材である第1リングギヤR1に連結された回転要素であり、差動部60の入力回転部材として機能する。第2サンギヤS2は、第1回転機MG1のロータ軸86に一体的に連結されており、第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された回転要素である。第2リングギヤR2は、ドライブギヤ74に一体的に連結されており、駆動輪16に動力伝達可能に連結された回転要素であり、差動部60の出力回転部材として機能する。第2遊星歯車機構82は、変速部58を介して第2キャリアCA2に入力されるエンジン12の動力を第1回転機MG1及びドライブギヤ74に機械的に分割する動力分割機構である。つまり、第2遊星歯車機構82は、エンジン12の動力を駆動輪16と第1回転機MG1とに分割して伝達する差動機構である。第2遊星歯車機構82において、第2キャリアCA2は入力要素として機能し、第2サンギヤS2は反力要素として機能し、第2リングギヤR2は出力要素として機能する。差動部60は、第2遊星歯車機構82に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とともに、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより第2遊星歯車機構82の差動状態が制御される電気式変速機構例えば電気式無段変速機を構成する。第1回転機MG1は、エンジン12の動力が伝達される回転機である。変速部58はオーバードライブであるので、第1回転機MG1の高トルク化が抑制される。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
【0036】
図3は、差動部60における各回転要素の回転速度を相対的に表す共線図である。
図3において、3本の縦線Y1、Y2、Y3は、差動部60を構成する第2遊星歯車機構82の3つの回転要素に対応している。縦線Y1は、第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結された第2回転要素RE2である第2サンギヤS2の回転速度を表している。縦線Y2は、変速部58を介してエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結された第1回転要素RE1である第2キャリアCA2の回転速度を表している。縦線Y3は、ドライブギヤ74(図中の「OUT」参照)と一体的に連結された第3回転要素RE3である第2リングギヤR2の回転速度を表している。ドライブギヤ74と噛み合うドリブンギヤ62には、リダクションギヤ70等を介して第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されている。第2キャリアCA2には、車両10に備えられた機械式のオイルポンプ(図中の「MOP」参照)が連結されている。この機械式のオイルポンプは、第2キャリアCA2の回転に伴って駆動されることで、クラッチC1及びブレーキB1の各係合作動や各部の潤滑や各部の冷却に用いられるオイルを供給する。第2キャリアCA2の回転が停止される場合には、車両10に備えられた電動式のオイルポンプ(不図示)によりオイルが供給される。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、第2遊星歯車機構82の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされると、キャリアとリングギヤとの間が歯車比ρに対応する間隔とされる。
【0037】
図3の実線Lefは、少なくともエンジン12を動力源として走行するハイブリッド走行(=HV走行)が可能な走行モードであるHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。又、
図3の実線Lerは、HV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。このHV走行モードでは、第2遊星歯車機構82において、例えば変速部58を介して第2キャリアCA2に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgが第2サンギヤS2に入力されると、第2リングギヤR2には正トルクのエンジン直達トルクTdが現れる。例えば、クラッチC1が係合され且つブレーキB1が解放されて変速部58が変速比「1.0」の直結状態とされている場合、第2キャリアCA2に入力されるエンジントルクTeに対して、反力トルクとなるMG1トルクTg(=-ρ/(1+ρ)×Te)が第2サンギヤS2に入力されると、第2リングギヤR2にはエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ)=-(1/ρ)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、ドリブンギヤ62に各々伝達されるエンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両10の駆動トルクとして駆動輪16へ伝達され得る。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ54に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ54からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。前進走行時のMG2トルクTmは正回転の正トルクとなる力行トルクであり、後進走行時のMG2トルクTmは負回転の負トルクとなる力行トルクである。
【0038】
差動部60は、電気的な無段変速機として作動させられ得る。例えば、HV走行モードにおいて、駆動輪16の回転に拘束されるドライブギヤ74の回転速度である出力回転速度Noに対して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることによって第1回転機MG1の回転速度つまり第2サンギヤS2の回転速度が上昇或いは低下させられると、第2キャリアCA2の回転速度が上昇或いは低下させられる。第2キャリアCA2は変速部58を介してエンジン12と連結されているので、第2キャリアCA2の回転速度が上昇或いは低下させられることで、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Neが上昇或いは低下させられる。従って、ハイブリッド走行では、エンジン動作点(動作点)OPengを効率の良い動作点に設定する制御を行うことが可能である。この種のハイブリッド形式は、機械分割式或いはスプリットタイプと称される。第1回転機MG1は、エンジン回転速度(回転速度)Neを制御可能な回転機つまりエンジン回転速度Neを調整可能な回転機である。動作点は、回転速度とトルクとで表される運転点であり、エンジン動作点OPengは、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。なお、差動部60及び変速部58は、差動部60と変速部58とを合わせた全体の変速機としてすなわち複合変速機61として見ることができる。複合変速機61では、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noに対する比の値を表す変速比γtA(=Ne/No)が変化させられるように、差動部60と変速部58とを制御することが可能である。複合変速機61は、エンジン12と駆動輪16との間の動力伝達経路に設けられた変速機である。
【0039】
図3の破線Lm1は、モータ走行(=EV走行)モードのうちの第2回転機MG2のみを動力源とするモータ走行が可能な単独駆動EVモードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。
図3の破線Lm2は、EV走行モードのうちの第1回転機MG1及び第2回転機MG2の両方を動力源とするモータ走行が可能な両駆動EVモードでの前進走行における各回転要素の相対速度の一例を示している。EV走行モードは、エンジン12の運転を停止した状態で第1回転機MG1及び第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を動力源として走行するモータ走行が可能な走行モードである。
【0040】
前記単独駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が共に解放されて変速部58がニュートラル状態とされることで差動部60もニュートラル状態とされ、この状態でMG2トルクTmが車両10の駆動トルクとして駆動輪16へ伝達され得る。単独駆動EVモードでは、例えば第1回転機MG1における引き摺り損失等を低減する為に、第1回転機MG1はゼロ回転に維持される。例えば第1回転機MG1をゼロ回転に維持する制御を行っても、差動部60はニュートラル状態であるので、駆動トルクに影響を与えない。
【0041】
前記両駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合されて第1遊星歯車機構80の各回転要素の回転が止められることで第2キャリアCA2はゼロ回転で停止状態とされ、この状態でMG1トルクTg及びMG2トルクTmが車両10の駆動トルクとして駆動輪16へ伝達され得る。
【0042】
図1に戻り、車両10は、更に、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2などの制御に関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置100を備えている。電子制御装置100は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置100は、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0043】
電子制御装置100には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエアフローメータ34、過給圧センサ40、吸気温センサ42、スロットル弁開度センサ44、エンジン回転速度センサ88、出力回転速度センサ90、各車輪速センサ91、MG1回転速度センサ92、MG2回転速度センサ94、MG1温度センサ95、MG2温度センサ96、アクセル開度センサ97、バッテリセンサ98など)による検出値に基づく各種信号等(例えば吸入空気量Qair、過給圧Pchg、吸気温度THair、スロットル弁開度θth、エンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、左右の駆動輪16及び左右の不図示の従動輪の各車輪速度Nwである車輪速度Nwdl,Nwdr,Nwsl,Nwsr、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nm、第1回転機MG1の温度例えばステータ温度であるMG1温度THg、第2回転機MG2の温度例えばステータ温度であるMG2温度THm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、バッテリ54の温度であるバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbatなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置100からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路84など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、クラッチC1及びブレーキB1の各々の作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Spなど)が、それぞれ出力される。
【0044】
電子制御装置100は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ54の充電状態を示す値としての充電状態値SOC[%]を算出する。又、電子制御装置100は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値SOCに基づいて、バッテリ54のパワーであるバッテリパワーPbatの使用可能な範囲を規定する充放電可能電力Win,Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能電力としての充電可能電力Win、及びバッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能電力としての放電可能電力Woutである。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程小さくされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程小さくされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電状態値SOCが高い領域では充電状態値SOCが高い程小さくされる。又、放電可能電力Woutは、例えば充電状態値SOCが低い領域では充電状態値SOCが低い程小さくされる。
【0045】
電子制御装置100は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部102を備えている。
【0046】
ハイブリッド制御部102は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部104としての機能と、インバータ52を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部106としての機能と、変速部58における動力伝達状態を切り替える動力伝達切替手段すなわち動力伝達切替部108としての機能とを含んでおり、それら制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0047】
ハイブリッド制御部102は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば駆動力マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで車両10に対して要求される駆動トルクTwである要求駆動トルクTwdemを算出する。この要求駆動トルクTwdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPwdemである。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。前記駆動力マップは、例えば前進走行用と後進走行用とで異なるマップが設定されている。
【0048】
ハイブリッド制御部102は、バッテリ54に対して要求される充放電パワーである要求充放電パワー等を考慮して、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2のうちの少なくとも1つの動力源によって要求駆動パワーPwdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。
【0049】
例えばHV走行モードにて走行させる場合、エンジン制御指令信号Seは、要求駆動パワーPwdemに要求充放電パワーやバッテリ54における充放電効率等を加味した要求エンジンパワーPedemを実現する、最適エンジン動作点OPengf等を考慮した目標エンジン回転速度Netgtにおける目標エンジントルクTetgtを出力するエンジンパワーPeの指令値である。又、回転機制御指令信号Smgは、エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度Netgtとする為の反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値、及び、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。HV走行モードにおけるMG1トルクTgは、例えばエンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度Netgtとなるように第1回転機MG1を作動させるフィードバック制御において算出される。HV走行モードにおけるMG2トルクTmは、例えばエンジン直達トルクTdによる駆動トルクTw分と合わせて要求駆動トルクTwdemが得られるように算出される。最適エンジン動作点OPengfは、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ54における充放電効率等を考慮した車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点OPengとして予め定められている。目標エンジン回転速度Netgtは、エンジン回転速度Neの目標値すなわちエンジン12の目標回転速度であり、目標エンジントルクTetgtは、エンジントルクTeの目標値である。エンジンパワーPeは、エンジン12の出力つまりパワーであり、要求エンジンパワーPedemは、エンジン12に要求される出力である。このように、車両10は、エンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度Netgtとなるように第1回転機MG1の反力トルクとなるMG1トルクTgを制御する車両である。
【0050】
図4は、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeを変数とする二次元座標上に、最適エンジン動作点OPengfの一例を示す図である。
図4において、実線Lengは、最適エンジン動作点OPengfの集まりを示している。等パワー線Lpw1,Lpw2,Lpw3は、各々、要求エンジンパワーPedemが要求エンジンパワーPe1,Pe2,Pe3であるときの一例を示している。点Aは、要求エンジンパワーPe1を最適エンジン動作点OPengf上で実現するときのエンジン動作点OPengAであり、点Bは、要求エンジンパワーPe3を最適エンジン動作点OPengf上で実現するときのエンジン動作点OPengBである。点A,Bは、各々、目標エンジン回転速度Netgtと目標エンジントルクTetgtとで表されるエンジン動作点OPengの目標値すなわち目標動作点としての目標エンジン動作点OPengtgtでもある。アクセル開度θaccの増大により、例えば目標エンジン動作点OPengtgtが点Aから点Bへ変化させられた場合、最適エンジン動作点OPengf上を通る経路aでエンジン動作点OPengが変化させられるように制御される。
【0051】
ハイブリッド制御部102は、走行モードとして、EV走行モード或いはHV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させて、各走行モードにて車両10を走行させる。例えば、ハイブリッド制御部102は、要求駆動パワーPwdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPwdemが予め定められた閾値以上となるハイブリッド走行領域にある場合には、HV走行モードを成立させる。ハイブリッド制御部102は、要求駆動パワーPwdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0052】
図5は、モータ走行とハイブリッド走行との切替制御に用いる動力源切替マップの一例を示す図である。
図5において、実線Lswpは、モータ走行とハイブリッド走行とを切り替える為のモータ走行領域とハイブリッド走行領域との境界線である。車速Vが比較的低く且つ要求駆動トルクTwdemが比較的小さい、要求駆動パワーPwdemが比較的小さな領域がモータ走行領域に予め定められている。車速Vが比較的高い又は要求駆動トルクTwdemが比較的大きい、要求駆動パワーPwdemが比較的大きな領域がハイブリッド走行領域に予め定められている。バッテリ54の充電状態値SOCがエンジン始動閾値未満となるとき又はエンジン12の暖機が必要なときには、
図5におけるモータ走行領域がハイブリッド走行領域に変更されても良い。
【0053】
ハイブリッド制御部102は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPwdemを実現できる場合には、単独駆動EVモードを成立させる。一方で、ハイブリッド制御部102は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみでは要求駆動パワーPwdemを実現できない場合には、両駆動EVモードを成立させる。ハイブリッド制御部102は、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPwdemを実現できるときであっても、第2回転機MG2のみを用いるよりも第1回転機MG1及び第2回転機MG2を併用した方が効率が良い場合には、両駆動EVモードを成立させても良い。
【0054】
ハイブリッド制御部102は、成立させた走行モードに基づいて、クラッチC1及びブレーキB1の各係合作動を制御する。ハイブリッド制御部102は、成立させた走行モードにて走行する為の動力伝達が可能となるように、クラッチC1及びブレーキB1を各々係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号Spを油圧制御回路84へ出力する。
【0055】
図6は、各走行モードにおけるクラッチC1及びブレーキB1の各作動状態を示す図表である。
図6において、○印はクラッチC1及びブレーキB1の各々の係合を示し、空欄は解放を示し、△印は回転停止状態のエンジン12を連れ回し状態とするエンジンブレーキの併用時に何れか一方を係合することを示している。又、「G」は第1回転機MG1を主にジェネレータとして機能させることを示し、「M」は第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々を駆動時には主にモータとして機能させ、回生時には主にジェネレータとして機能させることを示している。車両10は、走行モードとして、EV走行モード及びHV走行モードを選択的に実現することができる。EV走行モードは、単独駆動EVモードと両駆動EVモードとの2つのモードを有している。
【0056】
単独駆動EVモードは、クラッチC1及びブレーキB1が共に解放された状態で実現される。単独駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が解放されることで、変速部58がニュートラル状態とされる。変速部58がニュートラル状態とされると、差動部60は第1リングギヤR1に連結された第2キャリアCA2にてMG1トルクTgの反力トルクが取れないニュートラル状態とされる。この状態で、ハイブリッド制御部102は、第2回転機MG2から走行用のMG2トルクTmを出力させる(
図3の破線Lm1参照)。単独駆動EVモードでは、前進走行時に対して第2回転機MG2を逆回転させて後進走行することも可能である。
【0057】
単独駆動EVモードでは、第1リングギヤR1は第2キャリアCA2に連れ回されるが、変速部58はニュートラル状態であるので、エンジン12は連れ回されずゼロ回転で停止状態とされる。よって、単独駆動EVモードでの走行中に第2回転機MG2にて回生制御を行う場合、回生量を大きく取ることができる。単独駆動EVモードでの走行時に、バッテリ54が満充電状態となり回生エネルギーが取れない場合、エンジンブレーキを併用することが考えられる。エンジンブレーキを併用する場合は、ブレーキB1又はクラッチC1が係合される(
図6の「エンブレ併用」参照)。ブレーキB1又はクラッチC1が係合されると、エンジン12は連れ回し状態とされて、エンジンブレーキが作用させられる。
【0058】
両駆動EVモードは、クラッチC1及びブレーキB1が共に係合された状態で実現される。両駆動EVモードでは、クラッチC1及びブレーキB1が係合されることで、第1遊星歯車機構80の各回転要素の回転が停止させられ、エンジン12はゼロ回転で停止状態とされ、又、第1リングギヤR1に連結された第2キャリアCA2の回転も停止させられる。第2キャリアCA2の回転が停止させられると、第2キャリアCA2にてMG1トルクTgの反力トルクが取れる為、MG1トルクTgを第2リングギヤR2から機械的に出力させて駆動輪16へ伝達することができる。この状態で、ハイブリッド制御部102は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2から各々走行用のMG1トルクTg及びMG2トルクTmを出力させる(
図3の破線Lm2参照)。両駆動EVモードでは、前進走行時に対して第1回転機MG1及び第2回転機MG2を共に逆回転させて後進走行することも可能である。
【0059】
HV走行モードのロー状態は、クラッチC1が係合された状態且つブレーキB1が解放された状態で実現される。HV走行モードのロー状態では、クラッチC1が係合されることで、第1遊星歯車機構80の回転要素が一体回転させられ、変速部58は直結状態とされる。その為、エンジン12の回転は等速で第1リングギヤR1から第2キャリアCA2へ伝達される。HV走行モードのハイ状態は、ブレーキB1が係合された状態且つクラッチC1が解放された状態で実現される。HV走行モードのハイ状態では、ブレーキB1が係合されることで、第1サンギヤS1の回転が停止させられ、変速部58はオーバードライブ状態とされる。その為、エンジン12の回転は増速されて第1リングギヤR1から第2キャリアCA2へ伝達される。HV走行モードにおいて、ハイブリッド制御部102は、エンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを第1回転機MG1の発電により出力させると共に、第1回転機MG1の発電電力Wgにより第2回転機MG2からMG2トルクTmを出力させる(
図3の実線Lef参照)。HV走行モードでは例えばHV走行モードのロー状態では、前進走行時に対して第2回転機MG2を逆回転させて後進走行することも可能である(
図3の実線Ler参照)。HV走行モードでは、バッテリ54からの電力を用いたMG2トルクTmを更に付加して走行することも可能である。HV走行モードでは、例えば車速Vが比較的高く且つ要求駆動トルクTwdemが比較的小さいときには、HV走行モードのハイ状態が成立させられる。
【0060】
ここで、ハイブリッド制御部102は、エンジン回転速度Neがエンジン上限回転速度Nelimを超えないように、且つ、MG1回転速度NgがMG1上限回転速度Nglimを超えないように、エンジン12及び第1回転機MG1を制御する。エンジン上限回転速度Nelimは、例えばエンジン12の所定の定格で規定された、エンジン12の性能が低下し難くされる為の所定上限回転速度である。MG1上限回転速度Nglimは、例えば第1回転機MG1の所定の定格で規定された、第1回転機MG1の性能が低下し難くされる為の所定上限回転速度である。エンジン回転速度NeやMG1回転速度Ngは、
図3に示した共線図からも明らかなように、相互に関連するものであるので、例えばエンジン回転速度Neの使用可能領域を規定することで、エンジン回転速度Neはもちろんのこと、MG1回転速度NgがMG1上限回転速度Nglimを超えないようにすることができる。
【0061】
図7は、車速V及びエンジン回転速度Neを変数とする二次元座標上に、エンジン回転速度Neの使用可能領域の一例を示す図である。
図7において、車速Vつまり出力回転速度Noの低域では、エンジン回転速度Neが高くなっていくとき、エンジン回転速度Neがエンジン上限回転速度Nelimを超える前にMG1回転速度NgがMG1上限回転速度Nglimを超える為、エンジン回転速度NeはMG1上限回転速度Nglimに因って使用可能領域が規定される。車速Vが高くなる程、MG1上限回転速度Nglimに因って規定されるエンジン回転速度Neの使用可能領域はエンジン回転速度Neの高回転側へ広くされるが、エンジン12自体にも所定上限回転速度がある為、中車速域では、エンジン回転速度Neはエンジン上限回転速度Nelimに因って使用可能領域が規定される。一方で、エンジン回転速度Neの低域では、出力回転速度Noが高くなっていくとき、第2ピニオンP2の自転回転速度とエンジン回転速度Neに対応する第2キャリアCA2の回転速度つまり第2ピニオンP2の公転回転速度との回転速度差の絶対値である第2ピニオンP2の相対回転速度Np2が増大する為、エンジン回転速度Neは第2ピニオンP2の相対回転速度Np2のピニオン上限相対回転速度Np2limに因って使用可能領域が規定される。第2ピニオンP2の相対回転速度Np2のピニオン上限相対回転速度Np2limは、例えば第2ピニオンP2の性能が低下し難くされる為の予め定められた所定上限回転速度である。エンジン回転速度Neが高くなる程、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2のピニオン上限相対回転速度Np2limに因って規定されるエンジン回転速度Neの使用可能領域は高車速側へ広くされるが、第2回転機MG2にも所定上限回転速度がある為、高車速域では、エンジン回転速度NeはMG2上限回転速度Nmlimに因って使用可能領域が規定される。MG2上限回転速度Nmlimは、例えば第2回転機MG2の所定の定格で規定された、第2回転機MG2の性能が低下し難くされる為の所定上限回転速度である。
【0062】
図7に示したようなエンジン回転速度Neの使用可能領域における上限回転速度をエンジン回転速度Neが超えなければ、エンジン回転速度Neがエンジン上限回転速度Nelimを超えないように、且つ、MG1回転速度NgがMG1上限回転速度Nglimを超えないようにされ得る。本実施例では、より適切に、エンジン回転速度Neがエンジン上限回転速度Nelimを超えないように、且つ、MG1回転速度NgがMG1上限回転速度Nglimを超えないようにされ得る為に、ハイブリッド制御部102は、エンジン回転速度Neの使用可能領域における上限回転速度よりもマージンα分だけ低く設定されたエンジン回転速度Neの許容最大回転速度Nemaxを超えない範囲内にエンジン回転速度Neがあるように制御する。マージンαは、例えばエンジン回転速度Ne及びMG1回転速度Ngがそれぞれの所定上限回転速度を超えない為の予め定められたエンジン回転速度Neの余裕代である。エンジン12が許容最大回転速度Nemaxを超えない範囲内で制御されることで、第1回転機MG1はMG1上限回転速度Nglimからマージンβを減じたMG1回転速度Ngの許容最大回転速度Ngmaxを超えない範囲内で制御される。マージンβは、例えばMG1回転速度NgがMG1上限回転速度Nglimを超えない為の予め定められたMG1回転速度Ngの余裕代である。
【0063】
前述した目標エンジン動作点OPengtgtは、要求エンジンパワーPedemを実現する為のエンジン動作点OPengとして設定されるが、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超えない範囲内とされることも考慮して設定される。ハイブリッド制御部102は、エンジン動作点OPengが、エンジン12及び第1回転機MG1のそれぞれの所定上限回転速度に対してエンジン回転速度Neの余裕代(=マージンα)が確保された許容最大回転速度Nemaxを超えない範囲内にエンジン回転速度Neがあるように且つ要求エンジンパワーPedemがエンジン12から出力されるように設定された目標エンジン動作点OPengtgtとなるように、エンジン12及び第1回転機MG1を制御する高回転抑制制御手段すなわち高回転抑制制御部110として機能する。エンジン12の制御は、例えば目標エンジントルクTetgtを出力する為のエンジントルクTeの制御である。第1回転機MG1の制御は、例えばエンジン回転速度Neが目標エンジン回転速度Netgtとなるように第1回転機MG1を作動させるフィードバック制御によるMG1トルクTgの制御である。
【0064】
ところで、車両状態によってはエンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超えて上昇する場合がある。このような場合には、エンジントルクTeを低減することが考えられる。しかしながら、エンジン12は過給機18を有している為、エンジントルクTeを低減するようにエンジン12を制御したとしても、過給圧Pchgの応答遅れに起因してエンジン回転速度Ne又はMG1回転速度Ngがそれぞれの所定上限回転速度に到達する程にエンジン回転速度Neが高回転状態に陥り易くなるおそれがある。そこで、ハイブリッド制御部102は、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制するために、許容最大回転速度Nemaxとエンジン回転速度Neとの速度差である実回転速度差ΔN[rpm]が余裕回転速度差(余裕速度差)ΔNr[rpm]以下になった場合に実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも大きくなるようにエンジン動作点OPengを変更する。
【0065】
具体的には、電子制御装置100は、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制するという制御機能を実現する為に、ハイブリッド制御部102にエンジン動作点変更手段すなわちエンジン動作点変更部112を備え、且つ、電子制御装置100に余裕回転速度差設定手段すなわち余裕回転速度差設定部(余裕速度差設定部)114を備えている。なお、電子制御装置100には、状態判定手段すなわち状態判定部116がさらに備えられている。状態判定部116は、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超えたか否かを判定する。
【0066】
高回転抑制制御部110は、状態判定部116でエンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超えたと判定されると、エンジントルクTeを低減するようにエンジン12を制御する。高回転抑制制御部110は、例えば電子スロットル弁38の開度を低くすること、点火時期を遅角することなどの少なくとも1つのトルクダウン制御を行うことによってエンジントルクTeを低減する。又は、高回転抑制制御部110は、例えばエンジン12への燃料供給を停止するフューエルカット制御を行うことによってエンジントルクTeを低減する。
【0067】
状態判定部116は、車両状態が、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超え易い所定車両状態であるか否かを判定する。
【0068】
駆動輪16がスリップし易い路面つまり滑り易い路面を走行していると、駆動輪16の空転によって出力回転速度Noが高回転とされ、エンジン回転速度Neが高くされ易い。又は、駆動輪16が滑り易い路面を走行していると、駆動輪16のロックによって出力回転速度Noが低回転とされ、MG1回転速度Ngが高くされ易い。滑り易い路面は、駆動輪16が空転又はロックし易い路面であり、例えば低μ路、波状路、未舗装路等が想定される。
【0069】
状態判定部116は、駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているか否かに基づいて、車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定する。状態判定部116は、例えば駆動輪16の車輪速度Nwdl,Nwdrの平均車輪速度Nwdと従動輪の車輪速度Nwsl,Nwsrの平均車輪速度Nwsとの差がタイヤスリップが発生したと判断する為の予め定められたスリップ判定閾値を超えているか否かに基づいて、駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているか否かを判定する。或いは、車輪スリップ率SR(=(Nwd-Nws)/Nwd)、車輪速度Nwdl,Nwdr,Nwsl,Nwsrの変化速度、外気温度、路面温度、車両加速度などを用いて駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているか否かが判定されても良い。
【0070】
エンジン動作点変更部112には、変更条件成立判定手段すなわち変更条件成立判定部112aと、第1動作点演算手段すなわち第1動作点演算部112bと、第2動作点演算手段すなわち第2動作点演算部112cと、余裕判定手段すなわち余裕判定部112dと、が備えられている。エンジン動作点変更部112は、変更条件成立判定部112aでエンジン動作点OPengを変更する動作点変更条件CDが成立したと判定されると、例えばハイブリッド制御部102で最適エンジン動作点OPengfになるように制御されているエンジン動作点OPengが、第1動作点演算部112bで演算された第1目標エンジン動作点OPengtgt1又は第2動作点演算部112cで演算された第2目標エンジン動作点OPengtgt2となるように、エンジン動作点OPengを変更する。
【0071】
変更条件成立判定部112aは、予め設定された第1条件CD1と予め設定された第2条件CD2とがそれぞれ成立すると、動作点変更条件CDが成立したと判定する。第1条件CD1は、例えば、状態判定部116で車両状態が前記所定車両状態であると判定されると、成立するようになっている。又、第2条件CD2は、例えば、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差設定部114で設定された余裕回転速度差ΔNr以下(ΔN≦ΔNr)になると、成立するようになっている。
【0072】
なお、実回転速度差ΔNは、許容最大回転速度Nemax1[rpm]とエンジン回転速度Ne1[rpm]との速度差(Nemax1-Ne1)である。又、許容最大回転速度Nemax1は、例えば、
図7に示すエンジン回転速度Neの使用可能領域において、状態判定部116で車両状態が前記所定車両状態であると判定されたときに出力回転速度センサ90から検出される車速V1[km/h]であるときの上限回転速度よりもマージンα分だけ低く設定されたエンジン回転速度Neの許容最大回転速度Nemaxである。又、エンジン回転速度Ne1は、例えば、状態判定部116で車両状態が前記所定車両状態であると判定されたときにエンジン回転速度センサ88から検出されるエンジン回転速度Neである。
【0073】
又、余裕回転速度差設定部114は、状態判定部116で車両状態が前記所定車両状態であると判定されると、
図8に示す余裕回転速度差設定マップを用いて余裕回転速度差ΔNrを設定する。前記余裕回転速度差設定マップでは、車両走行中のエンジン回転速度Neと許容最大回転速度Nemaxとの間の余裕が小さいほど余裕回転速度差ΔNrが大きくなるように設定されており、前記余裕が大きいほど余裕回転速度差ΔNrが小さくなるように設定されている。又、前記余裕は、例えば車両走行中の路面の摩擦係数μで表すことができる。摩擦係数μが低いほどエンジン回転速度Neが高くなり易いので前記余裕が小さくなり、摩擦係数μが高いほどエンジン回転速度Neが高くなり難いので前記余裕が大きくなる。又、路面の摩擦係数μを車輪スリップ率SRで表しても良い。路面の摩擦係数μを車輪スリップ率SRで表す場合には、車輪スリップ率SRが大きいほど路面の摩擦係数μが低くなり、車輪スリップ率SRが小さいほど路面の摩擦係数μが高くなる。なお、路面の摩擦係数μ又は車輪スリップ率SRは、例えば、状態判定部116で各車輪速センサ91から検出される車輪速度Nwdl、Nwdr、Nwsl、Nwsrを用いて算出されるようになっている。
【0074】
なお、前記余裕回転速度差設定マップでは、状態判定部116で車両状態が前記所定車両状態であると判定されたときに過給圧センサ40から検出される過給圧Pchgに基づいて、例えば第1直線L1、第2直線L2、及び第3直線L3等を一部として含む複数の直線の中から1つの直線が選択されて、余裕回転速度差ΔNrが設定されるようになっている。第1直線L1、第2直線L2、第3直線L3は、前記複数の直線の中の一部の直線を示すものであり、前記余裕回転速度差設定マップでは他の直線を省略している。又、前記余裕回転速度差設定マップにおいて、前記複数の直線は、検出される過給圧Pchgが高いほど余裕回転速度差ΔNrを大きな値に設定するように、配置されている。第1直線L1は、検出される過給圧Pchgが比較的高くエンジントルクTeの応答性が比較的遅い場合を示す直線である。第3直線L3は、検出される過給圧Pchgが比較的低く例えば過給圧Pchgが零でありエンジントルクTeの応答性が比較的早い場合を示す直線である。第2直線L2は、検出される過給圧Pchgが、第1直線L1が選択される過給圧Pchgと第3直線L3が選択される過給圧Pchgとの間の中間である場合を示す直線である。すなわち、前記余裕回転速度差設定マップに示すように、余裕回転速度差設定部114は、検出される過給圧Pchgに基づき過給圧Pchgが高いときには低いときに比べて余裕回転速度差ΔNrを大きな値に設定し、且つ、検出される過給圧Pchgが高いほど余裕回転速度差ΔNrを大きな値に設定する。
【0075】
第1動作点演算部112bは、変更条件成立判定部112aで動作点変更条件CDが成立したと判定されると、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも大きくなるような第1目標エンジン動作点OPengtgt1を演算する。なお、第1目標エンジン動作点OPengtgt1は、第1目標エンジン回転速度Netgt1と第1目標エンジントルクTetgt1とで表される。第1目標エンジン回転速度Netgt1は、許容最大回転速度Nemax1から余裕回転速度差ΔNr及び予め設定された余裕回転速度Nemをそれぞれ減算したエンジン回転速度Neである(Netgt1=Nemax1-(ΔNr+Nem))。第1目標エンジントルクTetgt1は、例えば
図4において、変更条件成立判定部112aで動作点変更条件CDが成立したと判定されたときのエンジン動作点OPengを、エンジンパワーPeを同じにした状態でエンジン回転速度Neを第1目標エンジン回転速度Netgt1へ移動させたときのエンジントルクTeである。すなわち、第1動作点演算部112bは、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも余裕回転速度Nem分だけ大きくなるような第1目標エンジン動作点OPengtgt1を演算する。
【0076】
余裕判定部112dは、第1動作点演算部112bで第1目標エンジン動作点OPengtgt1が演算されると、その演算された第1目標エンジン動作点OPengtgt1になるようにエンジン動作点OPengを変更した場合において、他の回転要素の回転速度と所定上限回転速度との間に、例えば第2ピニオンP2の相対回転速度Np2とピニオン上限相対回転速度Np2limとの間に十分な余裕があるか否かを判定する。例えば、余裕判定部112dは、許容最大回転速度Np2maxと第2ピニオンP2の相対回転速度Np2との差が、予め設定された余裕回転速度差ΔNp2より大きいと、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2とピニオン上限相対回転速度Np2limとの間に十分な余裕があると判定する。なお、許容最大回転速度Np2maxは、ピニオン上限相対回転速度Np2limよりもマージンγ分だけ低く設定された第2ピニオンP2の相対回転速度Np2である。又、マージンγは、例えば第2ピニオンP2の相対回転速度Np2がピニオン上限相対回転速度Np2limを超えない為に予め定められた第2ピニオンP2の相対回転速度Np2の余裕代である。又、第1目標エンジン動作点OPengtgt1になるようにエンジン動作点OPengを変更した場合の第2ピニオンP2の相対回転速度Np2は、例えば第1目標エンジン回転速度Netgt1及びMG2回転速度Nm等から推定される。
【0077】
第2動作点演算部112cは、余裕判定部112dで他の回転要素の回転速度と所定上限回転速度との間に十分な余裕がないと判定されると、エンジン回転速度Ne1と許容最大回転速度Nemax1との間の余裕と、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2と許容最大回転速度Np2maxとの間の余裕と、が均等になるような第2目標エンジン動作点OPengtgt2を演算する。なお、第2目標エンジン動作点OPengtgt2は、第2目標エンジン回転速度Netgt2と第2目標エンジントルクTetgt2とで表される。第2目標エンジン回転速度Netgt2は、第2目標エンジン回転速度Netgt2と許容最大回転速度Nemax1との差と、第2目標エンジン動作点OPengtgt2になるようにエンジン動作点OPengを変更した場合の第2ピニオンP2の相対回転速度Np2と許容最大回転速度Np2maxとの差と、が同じになるエンジン回転速度Neである。第2目標エンジントルクTetgt2は、例えば
図4において、変更条件成立判定部112aで動作点変更条件CDが成立したと判定されたときのエンジン動作点OPengを、エンジンパワーPeを同じにした状態でエンジン回転速度Neを第2目標エンジン回転速度Netgt2へ移動させたときのエンジントルクTeである。なお、第2目標エンジン動作点OPengtgt2になるようにエンジン動作点OPengを変更した場合の第2ピニオンP2の相対回転速度Np2は、例えば第2目標エンジン回転速度Netgt2及びMG2回転速度Nm等から推定される。
【0078】
エンジン動作点変更部112は、余裕判定部112dで他の回転要素の回転速度と所定上限回転速度との間に十分な余裕があると判定されると、第1動作点演算部112bで演算された第1目標エンジン動作点OPengtgt1を目標エンジン動作点OPengtgtとして選択し、エンジン動作点OPengが第1目標エンジン動作点OPengtgt1になるように、第1回転機MG1のMG1回転速度NgすなわちMG1トルクTg及び複合変速機61の変速比γtAを調節することによりエンジン動作点OPengを変更する。例えば、エンジン動作点変更部112は、エンジン回転速度Neが第1目標エンジン回転速度Netgt1となり且つ変速比γtAが第1目標変速比γttgt1となるように、第1回転機MG1のMG1回転速度NgすなわちMG1トルクTg及び複合変速機61の変速比γtAを調節することによりエンジン動作点OPengを変更する。なお、第1目標変速比γttgt1は、第1目標エンジン回転速度Netgt1から出力回転速度No1を割った値(Netgt1/No1)である。出力回転速度No1は、変更条件成立判定部112aで動作点変更条件CDが成立したと判定されたときに出力回転速度センサ90から検出される出力回転速度Noである。
【0079】
又、エンジン動作点変更部112は、余裕判定部112dで他の回転要素の回転速度と所定上限回転速度との間に十分な余裕がないと判定されると、第2動作点演算部112cで演算された第2目標エンジン動作点OPengtgt2を目標エンジン動作点OPengtgtとして選択し、エンジン動作点OPengが第2目標エンジン動作点OPengtgt2になるように、第1回転機MG1のMG1回転速度NgすなわちMG1トルクTg及び複合変速機61の変速比γtAを調節することによりエンジン動作点OPengを変更する。例えば、エンジン動作点変更部112は、エンジン回転速度Neが第2目標エンジン回転速度Netgt2となり且つ変速比γtAが第2目標変速比γttgt2となるように、第1回転機MG1のMG1回転速度NgすなわちMG1トルクTg及び複合変速機61の変速比γtAを調節することによりエンジン動作点OPengを変更する。なお、第2目標変速比γttgt2は、第2目標エンジン回転速度Netgt2から出力回転速度No1を割った値(Netgt2/No1)である。
【0080】
図9は、電子制御装置100の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制する為の制御作動を説明するフローチャートである。又、
図10は、
図9のフローチャートに示す制御作動の一例を実行した場合のタイムチャートである。
【0081】
図9において、先ず、変更条件成立判定部112a及び状態判定部116の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているか否か、例えば低μ路を車両10が走行しているか否かが判定される。S10の判断が肯定される場合(
図10のt1時点)、すなわち駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行している場合には、変更条件成立判定部112aの機能に対応するS20が実行される。S10の判断が否定される場合、すなわち駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行していなく動作点変更条件CDが成立しない場合には、ハイブリッド制御部102の機能に対応するS30が実行される。S20では、許容最大回転速度Nemax1とエンジン回転速度Ne1との速度差である実回転速度差ΔNが演算される。次に、余裕回転速度差設定部114の機能に対応するS40が実行される。S40では、例えば
図8に示す余裕回転速度差設定マップを用いて余裕回転速度差ΔNrが設定される。次に、変更条件成立判定部112aの機能に対応するS50が実行される。S50では、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrより大きいか(ΔN>ΔNr)否かが判定される。S50の判断が肯定される場合、すなわち実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下でなく動作点変更条件CDが成立しない場合には、S30が実行される。S50の判断が否定される場合(
図10のt2時点)、すなわち実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下であり動作点変更条件CDが成立する場合には、第1動作点演算部112bの機能に対応するS60が実行される。S30では、目標エンジン動作点OPengtgtとして最適エンジン動作点OPengfが選択される。
【0082】
S60では、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも大きくなるような第1目標エンジン動作点OPengtgt1が演算される。次に、余裕判定部112dの機能に対応するS70が実行される。S70では、S60で演算された第1目標エンジン動作点OPengtgt1になるようにエンジン動作点OPengを変更した場合において、他の回転要素の回転速度と所定上限回転速度との間に十分な余裕がないか否か、すなわち他の回転要素の回転速度において十分な余裕がないか否かが判定される。S70の判断が肯定される場合、すなわち他の回転要素の回転速度と所定上限回転速度との間に十分な余裕がない場合には、第2動作点演算部112c及びエンジン動作点変更部112の機能に対応するS80が実行される。S70の判断が否定される場合、すなわち他の回転要素の回転速度と所定上限回転速度との間に十分な余裕がある場合には、エンジン動作点変更部112の機能に対応するS90が実行される。S80では、エンジン回転速度Neと許容最大回転速度Nemax1との間の余裕と、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2と許容最大回転速度Np2maxとの間の余裕と、が均等になるような第2目標エンジン動作点OPengtgt2が演算され、演算された第2目標エンジン動作点OPengtgt2が目標エンジン動作点OPengtgtとして選択される。S90では、S60で演算された第1目標エンジン動作点OPengtgt1が目標エンジン動作点OPengtgtとして選択される。次に、エンジン動作点変更部112及びハイブリッド制御部102の機能に対応するS100において、S30、S80、S90のいずれか1で選択された目標エンジン動作点OPengtgtとなるようにエンジン動作点OPengが変更される。
【0083】
上述のように、本実施例によれば、エンジン動作点OPengが、エンジン12及び第1回転機MG1のそれぞれの所定上限回転速度に対してエンジン回転速度Neの余裕代が確保された許容最大回転速度Nemaxを超えない範囲内にエンジン回転速度Neがあるように且つエンジン12に要求される出力がエンジン12から出力されるように設定された目標エンジン動作点OPengtgtとなるように、エンジン12及び第1回転機MG1を制御すると共に、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超えた場合には、エンジントルクTeを低減するようにエンジン12を制御する高回転抑制制御部110と、許容最大回転速度Nemaxとエンジン回転速度Neとの速度差すなわち実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になった場合に、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも大きくなるようにエンジン動作点OPengを変更するエンジン動作点変更部112と、を備える。このため、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になった場合には、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも大きくなるようにエンジン動作点OPengが変更されるので、許容最大回転速度Nemaxとエンジン回転速度Neとの差が余裕回転速度差ΔNr以下になるのが抑制される。これによって、許容最大回転速度Nemaxとエンジン回転速度Neとの差に比較的十分な余裕が確保されるので、過給圧Pchgの応答遅れによりエンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。
【0084】
また、本実施例によれば、過給機18による過給圧Pchgに基づき過給圧Pchgが高いときには低いときに比べて余裕回転速度差ΔNrを大きな値に設定する余裕回転速度差設定部114をさらに備える。このため、過給圧Pchgが高いときには低いときに比べて余裕回転速度差ΔNrが大きな値に設定されるので、過給圧Pchgが低いときには高いときに比べて実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になり難くなる。これによって、過給圧Pchgが低いときには高いときに比べてエンジン動作点OPengが変更され難くなるので、エンジン動作点OPengを変更することによる燃費性能の悪化を抑制しつつ、好適にエンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。
【0085】
また、本実施例によれば、余裕回転速度差設定部114は、過給圧Pchgが高いほど余裕回転速度差ΔNrを大きな値に設定するので、より好適にエンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。
【0086】
また、本実施例によれば、車両状態が、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超え易い所定車両状態であるか否かを判定する状態判定部116をさらに備え、エンジン動作点変更部112は、前記車両状態が前記所定車両状態であると判定され且つ実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になった場合に、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも大きくなるようにエンジン動作点OPengを変更する。このため、エンジン動作点変更部112では、前記車両状態が前記所定車両状態であると判定され且つ実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になった場合にエンジン動作点OPengが変更されるので、例えば実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になった場合にエンジン動作点OPengを変更するものに比較して、過度にエンジン動作点OPengが変更されるのを抑えることができる。
【0087】
また、本実施例によれば、状態判定部116は、エンジン12の動力が伝達される駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定する。このため、駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているときに、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制することができる。
【0088】
また、本実施例によれば、車両10は、エンジン12と駆動輪16との間の動力伝達経路に設けられた複合変速機61を備え、エンジン動作点変更部112は、第1回転機MG1のMG1回転速度Ng及び複合変速機61の変速比γtAを調節することによりエンジン動作点OPengを変更する。このため、第1回転機MG1のMG1回転速度Ng及び複合変速機61の変速比γtAを調整することによって、好適にエンジン動作点OPengを変更することができる。
【0089】
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0090】
本実施例では、前述の実施例1で示した車両10とは別の、
図11に示すような車両200を例示する。
図11は、本発明が適用される車両200の概略構成を説明する図である。
図11において、車両200は、エンジン202と第1回転機(回転機)MG1と第2回転機MG2と動力伝達装置204と駆動輪206とを備えるハイブリッド車両である。
【0091】
エンジン202、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2は、前述の実施例1で示したエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2と同様の構成である。エンジン202は、後述する電子制御装置240によって、車両200に備えられた電子スロットル弁や燃料噴射装置や点火装置やウェイストゲートバルブ等のエンジン制御装置208が制御されることによりエンジントルクTeが制御される。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両200に備えられたインバータ210を介して、車両200に備えられた蓄電装置としてのバッテリ212に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、電子制御装置240によってインバータ210が制御されることにより、MG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。
【0092】
動力伝達装置204は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース214内において共通の軸心上に直列に配設された、電気式無段変速部216及び機械式有段変速部218等を備えている。電気式無段変速部216は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン202に連結されている。機械式有段変速部218は、電気式無段変速部216の出力側に連結されている。又、動力伝達装置204は、機械式有段変速部218の出力回転部材である出力軸220に連結された差動歯車装置222、差動歯車装置222に連結された一対の車軸224等を備えている。動力伝達装置204において、エンジン202や第2回転機MG2から出力される動力は、機械式有段変速部218へ伝達され、その機械式有段変速部218から差動歯車装置222等を介して駆動輪206へ伝達される。このように構成された動力伝達装置204は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両に好適に用いられる。尚、以下、電気式無段変速部216を無段変速部216といい、機械式有段変速部218を有段変速部218という。又、無段変速部216や有段変速部218等は上記共通の軸心に対して略対称的に構成されており、
図11ではその軸心の下半分が省略されている。上記共通の軸心は、エンジン202のクランク軸、そのクランク軸に連結された連結軸226などの軸心である。
【0093】
無段変速部216は、エンジン202の動力を第1回転機MG1及び無段変速部216の出力回転部材である中間伝達部材228に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構230を備えている。第1回転機MG1は、エンジン202の動力が伝達される回転機である。中間伝達部材228には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。中間伝達部材228は、有段変速部218を介して駆動輪206に連結されているので、第2回転機MG2は、駆動輪206に動力伝達可能に連結された回転機である。又、差動機構230は、エンジン202の動力を駆動輪206と第1回転機MG1とに分割して伝達する差動機構である。無段変速部216は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構230の差動状態が制御される電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機つまりエンジン回転速度Neを調整可能な回転機である。
【0094】
差動機構230は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸226を介してエンジン202が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構230において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
【0095】
有段変速部218は、中間伝達部材228と駆動輪206との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機、つまり無段変速部216(差動機構230も同意)と駆動輪206との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式変速機構である。中間伝達部材228は、有段変速部218の入力回転部材としても機能する。有段変速部218は、例えば第1遊星歯車装置232及び第2遊星歯車装置234の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0096】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両200に備えられた油圧制御回路236内のソレノイドバルブSL1-SL4等から各々出力される調圧された係合装置CBの各係合油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量である係合トルクTcbが変化させられることで、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
【0097】
有段変速部218は、第1遊星歯車装置232及び第2遊星歯車装置234の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材228、ケース214、或いは出力軸220に連結されている。第1遊星歯車装置232の各回転要素は、第1サンギヤS1、第1キャリアCA1、第1リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置234の各回転要素は、第2サンギヤS2、第2キャリアCA2、第2リングギヤR2である。
【0098】
有段変速部218は、複数の係合装置の何れかが係合されることによって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度Noat)が異なる複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される。本実施例では、有段変速部218にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部218の入力回転速度であって、中間伝達部材228の回転速度と同値であり、又、MG2回転速度Nmと同値である。AT出力回転速度Noatは、有段変速部218の出力回転速度である出力軸220の回転速度であって、無段変速部216と有段変速部218とを合わせた全体の変速機である複合変速機(変速機)238の出力回転速度でもある。又、複合変速機238では、エンジン回転速度Neの出力回転速度Noatに対する比の値を表す変速比γtB(=Ne/Noat)が変化させられるように、無段変速部216と有段変速部218とを制御することが可能である。なお、変速比γtBは、直列に配置された、無段変速部216と有段変速部218とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部216の変速比γ0と有段変速部218の変速比γatとを乗算した値(γtB=γ0×γat)となる。γ0は、エンジン回転速度NeとMG2回転速度Nmとの比の値(Ne/Nm)である。複合変速機238は、エンジン202と駆動輪206との間の動力伝達経路に設けられた変速機である。
【0099】
有段変速部218は、例えば
図12の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。又、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。
図12の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。
図12において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部218のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
【0100】
有段変速部218は、後述する電子制御装置240によって、ドライバー(すなわち運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部218の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
【0101】
車両200は、更に、ワンウェイクラッチF0を備えている。ワンウェイクラッチF0は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構である。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン202のクランク軸と連結された、キャリアCA0と一体的に回転する連結軸226を、ケース214に対して固定することができるロック機構である。ワンウェイクラッチF0は、相対回転可能な2つの部材のうちの一方の部材が連結軸226に一体的に連結され、他方の部材がケース214に一体的に連結されている。ワンウェイクラッチF0は、エンジン202の運転時の回転方向である正回転方向に対して空転する一方で、エンジン202の運転時とは逆の回転方向に対して自動係合する。従って、ワンウェイクラッチF0の空転時には、エンジン202はケース214に対して相対回転可能な状態とされる。一方で、ワンウェイクラッチF0の係合時には、エンジン202はケース214に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ワンウェイクラッチF0の係合により、エンジン202はケース214に固定される。このように、ワンウェイクラッチF0は、エンジン202の運転時の回転方向となるキャリアCA0の正回転方向の回転を許容し且つキャリアCA0の負回転方向の回転を阻止する。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン202の正回転方向の回転を許容し且つ負回転方向の回転を阻止することができるロック機構である。
【0102】
車両200は、更に、エンジン202、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2などの制御に関連する車両200の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置240を備えている。電子制御装置240は、前述の実施例1で示した電子制御装置100と同様の構成である。電子制御装置240には、電子制御装置100に供給されると同様の各種信号等が供給される。電子制御装置240からは、電子制御装置100が出力すると同様の各種指令信号が出力される。電子制御装置240は、電子制御装置100が備える、ハイブリッド制御部102、余裕回転速度差設定部114、状態判定部116の各機能と同等の機能を有している。電子制御装置240は、前述の実施例1で示したような電子制御装置100によって実現されたと同様の、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制するという制御機能を実現することができる。
【0103】
ここで、車両200には無段変速部216の後段側に有段変速部218が直列に備えられている。従って、ある車速Vにおいて有段変速部218のATギヤ段が切り替えられると、無段変速部216の出力回転速度であるリングギヤR0の回転速度が変化させられる。そうすると、有段変速部218のATギヤ段の違いによって、エンジン回転速度Neの使用可能領域が変更させられる。
【0104】
図13,
図14,
図15,
図16は各々、車速V及びエンジン回転速度Neを変数とする二次元座標上に、エンジン回転速度Neの使用可能領域の一例を示す図であって、前述の実施例1における
図7とは別の実施例である。
図13は有段変速部218がAT1速ギヤ段時の場合であり、
図14は有段変速部218がAT2速ギヤ段時の場合であり、
図15は有段変速部218がAT3速ギヤ段時の場合であり、
図16は有段変速部218がAT4速ギヤ段時の場合である。
図13,
図14,
図15,
図16において、エンジン回転速度Neの使用可能領域が規定される基本的な考え方は
図7を例示して説明した通りである。ある車速Vにおいて有段変速部218のATギヤ段がハイ側である程、無段変速部216の出力回転速度であるリングギヤR0の回転速度が低くされる。従って、エンジン回転速度Neの低域では、ATギヤ段がハイ側である程、第2ピニオンP2の相対回転速度の上限回転速度に因って規定されるエンジン回転速度Neの使用可能領域が高車速側に広くされている。AT3速ギヤ段時やAT4速ギヤ段時の場合には、リングギヤR0の回転速度が低くされることでエンジン回転速度NeはMG2上限回転速度Nmlimに因っては使用可能領域が規定されないが、車両200における最高車速に因ってエンジン回転速度Neは使用可能領域が規定されている。有段変速部218のATギヤ段がハイ側であることでリングギヤR0の回転速度が低くされるとMG1回転速度Ngが高くなり易い為、低車速域では、ATギヤ段がハイ側である程、MG1上限回転速度Nglimに因って規定されるエンジン回転速度Neの使用可能領域は高回転側の制限が大きくされている。
【0105】
図17は、車両200において、前述の実施例1における
図9のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図17は、駆動輪206が滑ったことによって駆動輪206が滑り易い路面を車両200が走行しているとの判定を行い、複合変速機238を変速させてエンジン動作点OPengを変更させる場合の一例を示す図である。
図17において、ta1時点は、駆動輪206が滑って、駆動輪206が滑り易い路面を車両200が走行していると判定(スリップ判定)された時点を示している。又、ta2時点は、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になって動作点変更条件CDが成立し、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも大きくなるようにエンジン動作点OPengを変更させるために複合変速機238で変速が開始された時点を示している。又、ta3時点は、複合変速機238で変速が終了された時点を示している。本実施例では、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になると、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNrよりも大きくなるようエンジン動作点OPengが変更される。このため、本実施例では、許容最大回転速度Nemaxとエンジン回転速度Neとの差に比較的十分な余裕が確保されるので、過給圧Pchgの応答遅れによりエンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制することができるという前述の実施例1と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0106】
本実施例では、前述の実施例1で示した車両10とは別の、
図18に示すような車両300を例示する。
図18は、本発明が適用される車両300の概略構成を説明する図である。
図18において、車両300は、エンジン302と発電機304とモータ306と動力伝達装置308と駆動輪310とを備えるシリーズ式のハイブリッド車両である。
【0107】
エンジン302は、前述の実施例1で示したエンジン12と同様の構成である。エンジン302は、後述する電子制御装置318によって、車両300に備えられた電子スロットル弁や燃料噴射装置や点火装置やウェイストゲートバルブ等のエンジン制御装置312が制御されることによりエンジントルクTeが制御される。エンジン302は、駆動輪310とは機械的に連結されていない。
【0108】
発電機304は、専ら発電機としての機能を有する回転電気機械である。発電機304は、エンジン302と機械的に連結されており、エンジン302の動力が伝達される第1回転機(回転機)である。発電機304は、エンジン302によって回転駆動されることで、エンジン302の動力によって発電させられる。発電機304は、エンジン回転速度Neを制御可能な第1回転機つまりエンジン回転速度Neを調整可能な第1回転機である。モータ306は、電動機としての機能及び発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。モータ306は、動力伝達装置308を介して駆動輪310に動力伝達可能に連結された第2回転機である。発電機304及びモータ306は、各々、車両300に備えられたインバータ314を介して、車両300に備えられた蓄電装置としてのバッテリ316に接続されている。発電機304及びモータ306は、各々、電子制御装置318によってインバータ314が制御されることにより、発電機304の出力トルクである発電機トルクTgr及びモータ306の出力トルクであるモータトルクTmtが制御される。発電機304の発電電力Wgrは、バッテリ316に充電されたり、モータ306にて消費される。モータ306は、発電電力Wgrの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgrに加えてバッテリ316からの電力を用いて、モータトルクTmtを出力する。このように、モータ306は、発電機304の発電電力Wgrによって駆動させられる。
【0109】
車両300は、更に、エンジン302、発電機304、及びモータ306などの制御に関連する車両300の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置318を備えている。電子制御装置318は、前述の実施例1で示した電子制御装置100と略同様の構成である。電子制御装置318には、電子制御装置100に供給されると同様の各種信号等が供給される。電子制御装置318からは、電子制御装置100が出力すると同様の各種指令信号が出力される。電子制御装置318は、電子制御装置100が備える、ハイブリッド制御部102、余裕回転速度差設定部114、状態判定部116の各機能と同等の機能を有している。電子制御装置318は、前述の実施例1で示したような電子制御装置100によって実現されたと同様の、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを抑制するという制御機能を実現することができる。
【0110】
車両300では、エンジン302は駆動輪310とは機械的に連結されていない為、駆動輪310の空転に因ってエンジン回転速度Neが高くされるという現象は生じない。一方で、発電機304が所定の出力制限を受けていると、エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度Netgtとする為の発電機304の制御を適切に行えず、エンジン回転速度Neが高くされ易い。従って、車両300では、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超え易い所定車両状態となるか否かの判定については、駆動輪310が滑り易い路面を車両300が走行しているか否かは想定されず、発電機304が前記所定の出力制限を受けている状態であるか否かが想定される。
【0111】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0112】
例えば、前述の実施例1において、状態判定部116は、駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定していた。例えば、状態判定部116は、第1回転機MG1が所定の出力制限を受けている状態であるか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定しても良い。なお、前記所定の出力制限は、例えばエンジントルクTeに対する反力トルクとなるMG1トルクTgを出力するときの第1回転機MG1の発電又は力行が適切に行えないような出力制限である。第1回転機MG1が前記所定の出力制限を受けていると、エンジン回転速度Neを目標エンジン回転速度Netgtとする為の第1回転機MG1の制御を適切に行えず、エンジン回転速度Neが高くされ易い。又、第1回転機MG1の発電又は力行が適切に行えないような出力制限としては、例えばMG1温度THgが所定の常用温度域THgraを外れるような第1回転機MG1が高温又は低温とされている状態、又は、バッテリ温度THbatが所定の常用温度域THbatraを外れるようなバッテリ54が高温又は低温とされている状態が想定される。所定の常用温度域THgraは、第1回転機MG1の常用域であり、第1回転機MG1の出力がMG1温度THgに因って小さくされない予め定められた第1回転機MG1の温度域である。所定の常用温度域THbatraは、バッテリ54の常用域であり、充放電可能電力Win,Woutがバッテリ温度THbatに因って小さくされない予め定められたバッテリ54の温度域である。このような状態判定部116を備える電子制御装置100によれば、第1回転機MG1が前記所定の出力制限を受けている状態であるときに、エンジン回転速度Neが許容最大回転速度Nemaxを超える高回転状態に陥るのを好適に抑制することができる。なお、状態判定部116において、第1回転機MG1が前記所定の出力制限を受けている状態であるか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定する場合には、余裕回転速度差ΔNrを設定する際に、
図8に示す余裕回転速度差設定マップに換えて、例えば、MG1温度THgが所定の常用温度域THgraから外れる程、又は、バッテリ温度THbatが所定の常用温度域THbatraから外れる程、余裕回転速度差ΔNrが大きくなるように設定された余裕回転速度差設定マップを使用しても良い。
【0113】
また、前述の実施例1において、状態判定部116は、駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定していた。例えば、状態判定部116は、駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているか否かと、第1回転機MG1が前記所定の出力制限を受けている状態であるか否かと、に基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定しても良い。なお、状態判定部116では、駆動輪16が滑り易い路面を車両10が走行しているという条件と、第1回転機MG1が前記所定の出力制限を受けている状態であるという条件との少なくとも1つ条件が成立すると、前記車両状態が前記所定車両状態であると判定するようになっている。
【0114】
また、前述の実施例1の変更条件成立判定部112aにおいて、動作点変更条件CDは、第1条件CD1と第2条件CD2とがそれぞれ成立すると、成立していた。しかしながら、動作点変更条件CDは、第2条件CD2が成立しただけでも、成立するようにしても良い。すなわち、動作点変更条件CDは、状態判定部116で前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かに係わらず、実回転速度差ΔNが余裕回転速度差ΔNr以下になると、成立するようにしても良い。
【0115】
また、前述の実施例1の余裕回転速度差設定部114において、余裕回転速度差ΔNrは、例えば
図8に示す余裕回転速度差設定マップを用いて適宜設定されていたが、例えば予め設定された1つの余裕回転速度差ΔNrが常時使用されても良い。
【0116】
また、前述の実施例1の余裕判定部112dでは、他の回転要素の回転速度の一例として第2ピニオンP2の相対回転速度Np2が用いられていた。例えば、余裕判定部112dでは、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2にかえて、例えばMG1回転速度Ng、MG2回転速度Nm等の他の回転要素の回転速度が用いられても良い。
【0117】
また、前述の実施例1の第2動作点演算部112cでは、エンジン回転速度Neと許容最大回転速度Nemaxとの間の余裕と、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2と許容最大回転速度Np2maxとの間の余裕と、が均等になるように第2目標エンジン動作点OPengtgt2が演算されていた。例えば、第2目標エンジン動作点OPengtgt2は、エンジン回転速度Neと許容最大回転速度Nemaxとの間の余裕と、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2と許容最大回転速度Np2maxとの間の余裕と、が均等にならないように、例えば、エンジン回転速度Neと許容最大回転速度Nemaxとの間の余裕が、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2と許容最大回転速度Np2maxとの間の余裕に対して例えば2倍又は1/2倍等になるように演算しても良い。すなわち、第2目標エンジン動作点OPengtgt2において、エンジン回転速度Neと許容最大回転速度Nemaxとの間の余裕と、第2ピニオンP2の相対回転速度Np2と許容最大回転速度Np2maxとの間の余裕との比を適宜変更しても良い。
【0118】
また、前述の実施例2において、状態判定部116は、駆動輪206が滑り易い路面を車両200が走行しているか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定していた。例えば、状態判定部116は、自動変速機である有段変速部218がギヤ段制限を受けている状態であるか否かに基づいて、前記車両状態が前記所定車両状態であるか否かを判定しても良い。なお、前記ギヤ段制限とは、有段変速部218で用いられるオイルの油温が低い場合において、有段変速部218の入力回転部材である中間伝達部材228の回転速度を高回転にして前記オイルの油温を昇温させるために、有段変速部218のギヤ段を低いギヤ段に制限することである。前記オイルの油温が低いと、有段変速部218で実行される変速制御の制御性が低下する。なお、有段変速部218がギヤ段制限を受けていると、有段変速部218のギヤ段が低いギヤ段に制限されるので、エンジン回転速度Neが高くされ易い。
【0119】
また、前述の実施例1において、車両10は、車両200のように、変速部58を備えず、エンジン12が差動部60に連結される車両であっても良い。差動部60は、第2遊星歯車機構82の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により差動作用が制限され得る機構であっても良い。又、第2遊星歯車機構82は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、第2遊星歯車機構82は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、第2遊星歯車機構82は、エンジン12によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及びドライブギヤ74が各々連結された差動歯車装置であっても良い。又、第2遊星歯車機構82は、2以上の遊星歯車装置がそれらを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、それらの遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、回転機、駆動輪が動力伝達可能に連結される機構であっても良い。
【0120】
また、前述の実施例2では、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構としてワンウェイクラッチF0を例示したが、この態様に限らない。このロック機構は、例えば連結軸226とケース214とを選択的に連結する、噛合式クラッチ、クラッチやブレーキなどの油圧式摩擦係合装置、乾式の係合装置、電磁式摩擦係合装置、磁粉式クラッチなどの係合装置であっても良い。或いは、車両200は、必ずしもワンウェイクラッチF0を備える必要はない。
【0121】
また、前述の実施例2では、差動機構230と駆動輪206との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機として有段変速部218を例示したが、この態様に限らない。この自動変速機は、例えば同期噛合型平行2軸式自動変速機、その同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備える公知のDCT(Dual Clutch Transmission)、公知のベルト式の無段変速機などの自動変速機であっても良い。
【0122】
また、前述の実施例3において、車両300では、エンジン302は駆動輪310とは機械的に連結されていないが、この態様に限らない。例えば、車両300では、クラッチを介してエンジン302と駆動輪310とを連結する構成とし、例えば高速走行時にそのクラッチを係合してエンジン302の動力を機械的に駆動輪310へ伝達しても良い。又、動力伝達装置308は、自動変速機を備えていても良い。
【0123】
また、前述の実施例1において、排気タービン式の過給機18に加えて、エンジン或いは電動機によって回転駆動される機械ポンプ式の過給機が設けられていても良い。
【0124】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0125】
10、200、300:車両(ハイブリッド車両)
12、202、302:エンジン
16、206、310:駆動輪
18:過給機
61、238:複合変速機(変速機)
100、240、318:電子制御装置(制御装置)
110:高回転抑制制御部
112:エンジン動作点変更部
112a:変更条件成立判定部
114:余裕回転速度差設定部(余裕速度差設定部)
116:状態判定部
304:発電機(回転機)
MG1:第1回転機(回転機)
Ne:エンジン回転速度(回転速度)
Nemax:許容最大回転速度
Ng:MG1回転速度(回転速度)
OPeng:エンジン動作点(動作点)
OPengtgt:目標エンジン動作点(目標動作点)
Pchg:過給圧
Te:エンジントルク(出力トルク)
ΔN:実回転速度差(速度差)
ΔNr:余裕回転速度差(余裕速度差)
γtA、γtB:変速比