(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-19
(45)【発行日】2022-12-27
(54)【発明の名称】トロリ線検測装置及びトロリ線検測方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/04 20060101AFI20221220BHJP
【FI】
G01B11/04 101H
(21)【出願番号】P 2019178222
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】川畑 匠朗
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-015336(JP,A)
【文献】特開2016-176746(JP,A)
【文献】特開平06-307832(JP,A)
【文献】特開2009-103499(JP,A)
【文献】特開2008-281461(JP,A)
【文献】特開2015-094612(JP,A)
【文献】特開2007-271445(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109684905(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
B60M 1/28
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線を撮像するラインセンサを備え、当該ラインセンサにより撮像された画像を入力画像としてこれを基に前記トロリ線を検測する、トロリ線検測装置であって、
前記入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像を生成する、ラインセンサ画像生成部と、
当該ラインセンサ画像に対して複数の画像処理機能を順次実行するに際し、その実行順序が、画像処理実行手順として複数登録された、画像処理実行手順記憶部と、
前記複数の画像処理実行手順の各々に従って、前記ラインセンサ画像を入力として前記画像処理機能を実行することにより、前記トロリ線の摩耗領域を抽出し、前記複数の画像処理実行手順の各々に対応した複数の摩耗領域抽出画像を生成する、摩耗領域抽出画像生成部と、
前記複数の摩耗領域抽出画像の各々の評価値を計算して最も評価値の高い前記摩耗領域抽出画像を選択する、摩耗領域抽出画像評価部と、
選択された前記摩耗領域抽出画像を基に、前記トロリ線の残存直径と偏位のいずれか一方または双方を算出する、トロリ線検測部と、
を備える、トロリ線検測装置。
【請求項2】
前記複数の画像処理実行手順の各々には、0以上のコントラスト調整処理と、0以上の背景・ノイズ除去処理と、1以上の二値化処理と、及び0以上の補間処理が、この順に実行されるように登録されている、請求項1に記載のトロリ線検測装置。
【請求項3】
前記複数の画像処理実行手順の各々には優先度が対応付けられて記憶されており、
前記摩耗領域抽出画像評価部は、同一の前記評価値が複数の前記摩耗領域抽出画像に対して算出された場合には、前記優先度が高い前記画像処理実行手順に対応した前記摩耗領域抽出画像を、前記最も評価値の高い前記摩耗領域抽出画像として選択する、請求項1または2に記載のトロリ線検測装置。
【請求項4】
前記摩耗領域抽出画像評価部は、前記複数の摩耗領域抽出画像の各々に対し、前記摩耗領域の数を計算し、前記摩耗領域の数と、実際の前記トロリ線の本数との差が小さい場合に、前記評価値が高くなるように前記評価値を計算する、請求項1から3のいずれか一項に記載のトロリ線検測装置。
【請求項5】
前記摩耗領域抽出画像評価部は、前記複数の摩耗領域抽出画像の各々に対し、前記摩耗領域が前記トロリ線に近い画像上の特徴を有することを示す指標であるトロリ線尤度を計算し、当該トロリ線尤度が高い場合に、前記評価値が高くなるように前記評価値を計算する、請求項1から3のいずれか一項に記載のトロリ線検測装置。
【請求項6】
前記画像処理実行手順記憶部には、前記ラインセンサにより前記画像を撮像する際の複数の異なる環境の各々に対応して、前記画像処理実行手順が登録され、
前記ラインセンサ画像を基に、前記入力画像が撮像された前記環境を判定する環境判定部を更に備え、
前記摩耗領域抽出画像生成部は、判定された前記環境に対応する前記画像処理実行手順に従って前記摩耗領域抽出画像を生成する、請求項1から5のいずれか一項に記載のトロリ線検測装置。
【請求項7】
トロリ線を撮像するラインセンサにより撮像された画像を入力画像としてこれを基に前記トロリ線を検測する、トロリ線検測方法であって、
前記入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像を生成し、
当該ラインセンサ画像に対して複数の画像処理機能を順次実行するに際し、その実行順序が、画像処理実行手順として複数登録され、当該複数の画像処理実行手順の各々に従って、前記ラインセンサ画像を入力として前記画像処理機能を実行することにより、前記トロリ線の摩耗領域を抽出し、前記複数の画像処理実行手順の各々に対応した複数の摩耗領域抽出画像を生成し、
前記複数の摩耗領域抽出画像の各々の評価値を計算して最も評価値の高い前記摩耗領域抽出画像を選択し、
選択された前記摩耗領域抽出画像を基に、前記トロリ線の残存直径と偏位のいずれか一方または双方を算出する、トロリ線検測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線検測装置及びトロリ線検測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道車両は、線路上を走行するに際し、線路の上方に設けられたトロリ線からパンタグラフ等の集電装置を介して給電されることで、動力を得る。電気鉄道車両が通過するたびに、集電装置がトロリ線の下面に対して滑動する。このため、電気鉄道車両を継続して運用すると、トロリ線は徐々に摩耗し、最終的には破断する。したがって、トロリ線には摩耗限界が設定されており、トロリ線の残存直径が管理値を下回った場合には、トロリ線は新品に交換される。
一方、集電装置の接触部も摩耗するため、接触部が一か所に集中しないように、トロリ線はレール直角方向にジグザグに偏位させて設置しており、この偏位量も管理されている。
これらの、トロリ線の検査測定を作業員が手作業で行うには、多大な手間を要する。したがって、トロリ線の自動検測装置やシステムが、運用されている。
【0003】
上記のような装置においては、電気鉄道車両の上方に、トロリ線の下側に位置する摩耗領域を照射する照明と、当該照明により照射された摩耗領域を撮像するラインセンサが設けられることがある。ラインセンサは、上向きに、走査線がトロリ線を横切るように設けられ、ラインセンサにより撮像された画像を時系列的に並べてラインセンサ画像が生成される。このラインセンサ画像に画像処理を適用した上で、例えばトロリ線の高さや太さ等のトロリ線の仕様に関する既知のデータを用いることで、トロリ線の偏位や残存直径が計算される。
例えば、特許文献1に、上記のような装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような装置においては、ラインセンサは上向きに設けられているため、ラインセンサ画像中の背景には、基本的には空が写されるが、場合によっては周囲の建築物や樹木など、空以外の物体が写り込むことがある。
また、トロリ線を撮像する時間帯に依存して、背景の輝度値が大きく変動する。例えば、晴れた昼間であれば輝度値は高くなるが、曇りであると輝度値は低くなるし、夜間やトンネル内等では輝度値は更に低下する。
【0006】
このように、ラインセンサ画像の背景の輝度値や、空以外の物体の写り込みの程度が、上記装置を実行させる線路区間や天候に依存して大きく異なる。
摩耗領域を正確に抽出するためには、基本的には、このような背景の影響を考慮し、処理対象となる画像に適した画像処理アルゴリズムやパラメータを、適宜選択するのが望ましい。
しかし、作業員が画像を都度確認して、これに適する画像処理アルゴリズムやパラメータを選択するのは、大きな工数を要する。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ラインセンサにより撮像された画像を基にトロリ線の残存直径や偏位を測定するに際し、入力された画像に適した画像処理機能を取捨選択する工数を低減する、トロリ線検測装置及びトロリ線検測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、トロリ線を撮像するラインセンサを備え、当該ラインセンサにより撮像された画像を入力画像としてこれを基に前記トロリ線を検測する、トロリ線検測装置であって、前記入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像を生成する、ラインセンサ画像生成部と、当該ラインセンサ画像に対して複数の画像処理機能を順次実行するに際し、その実行順序が、画像処理実行手順として複数登録された、画像処理実行手順記憶部と、前記複数の画像処理実行手順の各々に従って、前記ラインセンサ画像を入力として前記画像処理機能を実行することにより、前記トロリ線の摩耗領域を抽出し、前記複数の画像処理実行手順の各々に対応した複数の摩耗領域抽出画像を生成する、摩耗領域抽出画像生成部と、前記複数の摩耗領域抽出画像の各々の評価値を計算して最も評価値の高い前記摩耗領域抽出画像を選択する、摩耗領域抽出画像評価部と、選択された前記摩耗領域抽出画像を基に、前記トロリ線の残存直径と偏位のいずれか一方または双方を算出する、トロリ線検測部と、を備える、トロリ線検測装置を提供する。
また、本発明は、トロリ線を撮像するラインセンサにより撮像された画像を入力画像としてこれを基に前記トロリ線を検測する、トロリ線検測方法であって、前記入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像を生成し、当該ラインセンサ画像に対して複数の画像処理機能を順次実行するに際し、その実行順序が、画像処理実行手順として複数登録され、当該複数の画像処理実行手順の各々に従って、前記ラインセンサ画像を入力として前記画像処理機能を実行することにより、前記トロリ線の摩耗領域を抽出し、前記複数の画像処理実行手順の各々に対応した複数の摩耗領域抽出画像を生成し、前記複数の摩耗領域抽出画像の各々の評価値を計算して最も評価値の高い前記摩耗領域抽出画像を選択し、選択された前記摩耗領域抽出画像を基に、前記トロリ線の残存直径と偏位のいずれか一方または双方を算出する、トロリ線検測方法を提供する。
上記のような構成によれば、複数の画像処理実行手順の各々に対して摩耗領域抽出画像が生成され、これらの摩耗領域抽出画像の各々に対して評価値が計算されて、最も評価値の高い摩耗領域抽出画像が選択され、これを基にトロリ線の残存直径と偏位のいずれか一方または双方が算出される。すなわち、画像処理実行手順の数に対応する数の摩耗領域抽出画像が生成され、その中から残存直径や偏位の評価に最も適した摩耗領域抽出画像が残存直径や偏位の評価対象として選択される。結果として、複数登録された画像処理実行手順のうち、処理対象となるラインセンサ画像の処理に適する画像処理実行手順の処理結果が、摩耗領域抽出画像として選ばれる。
このように、処理対象となるラインセンサ画像に適する画像処理機能の組合せを作業員が試行錯誤の上で選択せずとも、トロリ線の残存直径や偏位の算出に適した摩耗領域抽出画像を生成し、残存直径や偏位を測定可能であるため、作業員による、入力された画像に適した画像処理機能を取捨選択する工数を低減可能である。
【0009】
本発明の一態様においては、前記複数の画像処理実行手順の各々には、0以上のコントラスト調整処理と、0以上の背景・ノイズ除去処理と、1以上の二値化処理と、及び0以上の補間処理が、この順に実行されるように登録されている。
上記のような構成によれば、上記のようなトロリ線検測装置を適切に実現可能である。
【0010】
本発明の別の態様においては、前記複数の画像処理実行手順の各々には優先度が対応付けられて記憶されており、前記摩耗領域抽出画像評価部は、同一の前記評価値が複数の前記摩耗領域抽出画像に対して算出された場合には、前記優先度が高い前記画像処理実行手順に対応した前記摩耗領域抽出画像を、前記最も評価値の高い前記摩耗領域抽出画像として選択する。
上記のような構成によれば、同一の評価値が複数の摩耗領域抽出画像に対して算出された場合には、優先度が高い画像処理実行手順に対応した摩耗領域抽出画像を、最も評価値の高い摩耗領域抽出画像として選択する。このため、同様な評価値を有するような摩耗領域抽出画像が複数あった場合でも、優先度が高い画像処理実行手順に対応した摩耗領域抽出画像が選択されるので、残存直径や偏位の評価に適した摩耗領域抽出画像が選択されやすくなる。
【0011】
本発明の別の態様においては、前記摩耗領域抽出画像評価部は、前記複数の摩耗領域抽出画像の各々に対し、前記摩耗領域の数を計算し、前記摩耗領域の数と、実際の前記トロリ線の本数との差が小さい場合に、前記評価値が高くなるように前記評価値を計算する。
上記のような構成によれば、実際のトロリ線の本数と摩耗領域の数が一致する摩耗領域抽出画像が、残存直径や偏位を算出する摩耗領域抽出画像として選択されやすくなる。このため、トロリ線の摩耗領域の抽出精度が向上し、残存直径や偏位の算出精度も向上する。
【0012】
本発明の別の態様においては、前記摩耗領域抽出画像評価部は、前記複数の摩耗領域抽出画像の各々に対し、前記摩耗領域が前記トロリ線に近い画像上の特徴を有することを示す指標であるトロリ線尤度を計算し、当該トロリ線尤度が高い場合に、前記評価値が高くなるように前記評価値を計算する。
上記のような構成によれば、実際のトロリ線の外観に摩耗領域の画像上の特徴が近い摩耗領域抽出画像が、残存直径や偏位を算出する摩耗領域抽出画像として選択されやすくなる。このため、トロリ線の摩耗領域の抽出精度が向上し、残存直径や偏位の算出精度も向上する。
【0013】
本発明の別の態様においては、前記画像処理実行手順記憶部には、前記ラインセンサにより前記画像を撮像する際の複数の異なる環境の各々に対応して、前記画像処理実行手順が登録され、前記ラインセンサ画像を基に、前記入力画像が撮像された前記環境を判定する環境判定部を更に備え、前記摩耗領域抽出画像生成部は、判定された前記環境に対応する前記画像処理実行手順に従って前記摩耗領域抽出画像を生成する。
上記のような構成によれば、環境に応じて、適切な画像処理実行手順が選択され、これに対応した摩耗領域抽出画像が生成されるようになるため、残存直径や偏位の算出精度が向上するとともに処理時間を短縮または処理負荷を低減することが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ラインセンサにより撮像された画像を基にトロリ線の残存直径や偏位を測定するに際し、入力された画像に適した画像処理機能を取捨選択する工数を低減する、トロリ線検測装置及びトロリ線検測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態におけるトロリ線検測装置が搭載された電気鉄道車両の走行環境を示す説明図である。
【
図3】上記トロリ線検測装置のラインセンサにより撮像された画像を基に生成された、ラインセンサ画像の例である。
【
図4】上記トロリ線検測装置の、画像処理実行手順記憶部の説明図である。
【
図5】上記トロリ線検測装置の、摩耗領域抽出画像評価部において使用されるコストを表す表である。
【
図6】(a)は、上記トロリ線検測装置の、トロリ線偏位算出部の説明図であり、(b)は、上記トロリ線検測装置の、トロリ線残存直径算出部の説明図である。
【
図7】上記トロリ線検測装置を用いて動作される、上記トロリ線検測方法のフローチャートである。
【
図8】上記実施形態の第1変形例に関する、ラインセンサ画像の説明図の他の例である。
【
図9】上記実施形態の第1変形例に関する、ラインセンサ画像の説明図の他の例である。
【
図10】上記実施形態の第1変形例に関する、ラインセンサ画像の説明図の他の例である。
【
図11】上記実施形態の第1変形例に関するトロリ線検測装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態におけるトロリ線検測装置20が搭載された、トロリ線の検測を行う検査車両1の走行環境を示す説明図である。
検査車両1は、地面に敷設された一対の線路2上を走行する。線路2の側には、線路2に沿って間隔をおいて、複数の電柱3が立設されている。電柱3にはビーム5や曲引き金具6が設けられている。ビーム5の上方には、検査車両1に電力を供給するための電力線であるき電線4が、線路2の延びる方向Rに沿って延在し、ビーム5に支持されて設けられている。ビーム5や曲引き金具6の下側には、同様に線路2の延びる方向Rに沿って延在するように、次に説明するトロリ線9を吊架する吊架線7が、ビーム5や曲引き金具6に支持されて設けられている。吊架線7には、線路2の延びる方向Rに略一定の間隔をおいて、複数のハンガ8が吊架されて設けられている。
トロリ線9は、これら複数のハンガ8に、一定の張力を有するように吊架されて、吊架線7の下側に、吊架線7と略平行となるように設けられている。トロリ線9には、図示されないき電分岐線によって、き電線4から電力が供給される。
検査車両1の上面1aには、パンタグラフ等の集電装置1bが設けられており、検査車両1が走行中に集電装置1bがトロリ線9に接触することで、トロリ線9から検査車両1に電力が供給される。
【0017】
トロリ線9は、一対の線路2に対して、例えば1本、または2本が並走して、設けられる。検査車両1をはじめとした電気鉄道車両の走行中に、電力の供給元となるトロリ線9が、線路2の延びる方向Rにおいて隣接する次のトロリ線9へと移り変わる際に、電力の供給がなされない区間が生じることを防ぐため、トロリ線9はその端部において、隣接する他のトロリ線9と、線路2の延びる方向Rに沿ってオーバーラップして設けられる。このため、本実施形態においては、トロリ線9は、一対の線路2に対して、最大4本がオーバーラップして設けられる区間があり得る。これ以外にも、線路の分岐に対応したトロリ線9の分岐箇所を撮影した際にも、通常の区間よりも多い本数のトロリ線9が撮像され得る。
トロリ線9が線路2と平行に設けられていると、集電装置1bのトロリ線9と接する部分が限定されるため、集電装置1bの限られた部分が偏って摩耗し損傷するおそれがある。これを防ぐため、トロリ線9は線路2の延びる方向Rに沿って、緩やかにジグザグに蛇行するように設けられている。トロリ線9においては、この蛇行により生じる、一対の線路2間の中心に対するトロリ線9の左右の偏りである偏位が、厳重に管理されている。
【0018】
検査車両1をはじめとした電気鉄道車両が通過するたびに、集電装置1bがトロリ線9の下面に対して滑動する。このため、電気鉄道車両を継続して運用すると、トロリ線9は徐々に摩耗し、最終的には破断する。したがって、トロリ線9には摩耗限界が設定されており、トロリ線9の残存直径が管理値を下回った場合には、トロリ線9は新品に交換される。
本実施形態におけるトロリ線検測装置20は、トロリ線9の残存直径や偏位を測定することで、トロリ線9を検測する。
図2は、トロリ線検測装置20のブロック図である。
図1、
図2に示されるように、トロリ線検測装置20は、照明21、ラインセンサ22、及び制御装置23を備えている。
【0019】
照明21は、検査車両1の上面1aに、光を上方に向けて照射するように設けられている。次に説明するラインセンサ22によってトロリ線9を撮像した際に、トロリ線9の下側の、集電装置1bが滑動することによりトロリ線9が摩耗して平面状に形成された摩耗領域が、照明21の光を反射することにより、明るい領域として表示されるように撮像される。
【0020】
ラインセンサ22は、照明21と同様に、検査車両1の上面1aに設けられている。ラインセンサ22は、縦方向に1画素、横方向に複数の、例えば8192画素の画素数で構成される画像を撮像するカメラである。本実施形態においては、ラインセンサ22は、グレースケールの画像を撮像するため、各画素は1つの輝度値を有している。
ラインセンサ22は、鉛直方向上向きに、かつ走査線22aの方向22bが線路2の延びる方向Rに直交して、図示されない枕木の延在する方向と同一となるように設けられている。これにより、ラインセンサ22の走査線22aがトロリ線9を横切るようになっている。
ラインセンサ22は、検査車両1の走行中に、短い時間間隔をおいて連続的に、トロリ線9を撮像する。ラインセンサ22により撮像された画像は、入力画像として、制御装置23に送信される。
【0021】
制御装置23は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置である。制御装置23は、検査車両1に搭載されている。
検査車両1は、ラインセンサ画像生成部30、摩耗領域抽出画像生成部31、画像処理実行手順記憶部32、摩耗領域抽出画像評価部33、トロリ線偏位算出部(トロリ線検測部)34、及びトロリ線残存直径算出部(トロリ線検測部)35を備えている。
【0022】
ラインセンサ画像生成部30は、ラインセンサ22から入力画像を受信し、これを縦方向に時系列的に、例えば1000ラインを並べ、ラインセンサ画像を生成する。
図3は、ラインセンサ画像50の説明図である。ラインセンサ画像50において、横方向Xは、ラインセンサ22の走査線22aの方向22bであり、縦方向Yは、時系列の方向、すなわち入力画像が並べられる方向である。
【0023】
図3に示されるラインセンサ画像50には、最も手前に、トロリ線9が撮像されている。トロリ線9は新品の状態においては略円形の断面を有しており、その下側が集電装置1bの滑動によって削られて、平面状の摩耗領域9aとなっている。摩耗領域9aには、照明21により光が照射されるため、明るく撮像されている。トロリ線9の、摩耗領域9aの両側には、摩耗領域9aの幅方向端部から外側へと湾曲しながら上方へと続くトロリ線9の表面9bが撮像されている。
図3のラインセンサ画像50においては、トロリ線9が曲引き金具6により屈曲する部分が撮像されている。
トロリ線9の奥には、吊架線7が撮像されている。吊架線7のさらに奥には、き電線4と、これらを支持するビーム5、曲引き金具6が撮像されている。ビーム5と曲引き金具6は、ラインセンサ22の撮像間隔の影響で、実際よりも細く撮像されている。
トロリ線9、吊架線7、き電線4、ビーム5、及び曲引き金具6の背景として、空10が撮像されている。本ラインセンサ画像50においては、明るい昼間に撮像されているため、空10は高い輝度値で明るく表示されている。
【0024】
ラインセンサ画像生成部30は、このようなラインセンサ画像50を生成し、摩耗領域抽出画像生成部31へと送信する。
【0025】
摩耗領域抽出画像生成部31は、ラインセンサ画像50を受信し、ラインセンサ画像50を入力として様々な画像処理機能を実行することにより、トロリ線9の摩耗領域9aを抽出し、摩耗領域抽出画像を生成する。
摩耗領域抽出画像生成部31は、画像処理部40と後処理部41を備えている。
画像処理部40は、様々な画像処理機能が、選択的に実行可能に構成されている。画像処理部40は、コントラスト調整処理部40A、背景・ノイズ除去処理部40B、二値化処理部40C、及び補間処理部40Dを備えている。
【0026】
コントラスト調整処理部40Aは、画像の階調を調整することを目的とした、1以上の画像処理機能が、選択的に実行可能に構成されている。
コントラスト調整処理としては、例えば、ガンマ値に応じた適切なカーブに画像の階調を補正するガンマ補正処理や、輝度値を正規化することで、階調を調整する処理を適用することができる。
コントラスト調整処理部40Aに含まれるコントラスト調整処理は、上記として示したものに限られない。
【0027】
背景・ノイズ除去処理部40Bは、背景に撮像された建造物等の、架線とは異なる物体や、ノイズを除去することを目的とした、1以上の画像処理機能が、選択的に実行可能に構成されている。
背景・ノイズ除去処理としては、例えば、グレースケール画像を収縮、膨張させてオープニングした後に、膨張収縮させる元となる画像を減算するGSTH(グレースケールトップハット)処理を適用することができる。
背景・ノイズ除去処理部40Bに含まれる背景・ノイズ除去処理は、上記として示したものに限られない。
【0028】
二値化処理部40Cは、複数の階調の画像を、例えば白と黒の2つの階調に変換して、摩耗領域9aのみを抽出することを目的とした、1以上の画像処理機能が、選択的に実行可能に構成されている。
二値化処理としては、例えば、画像に対して輝度値のヒストグラムを生成し、背景と摩耗領域9aの各々に関するクラス内分散とクラス間分散の分散比が最大となるように、画像に応じて二値化の閾値を決定する、判別分析二値化処理を適用することができる。
二値化処理部40Cに含まれる二値化処理は、上記として示したものに限られない。
【0029】
補間処理部40Dは、二値化処理部40Cにおける二値化処理が実行されて、摩耗領域9aであると想定される領域が抽出された画像を対象として、本来は1つの摩耗領域9aと想定される領域が複数の領域に分断されているような場合に、これらをつなぎ合わせることで、摩耗領域9aの形状を補間することを目的とした、1以上の画像処理機能が、選択的に実行可能に構成されている。
補間処理としては、画像を横方向Xに膨張、収縮させることで、横方向Xに近接して分断されて表されている領域をつなぎ合わせる、クロージング処理や、領域が縦方向Yに、縞状、あるいは波状に、分断されて表されている場合に、これをつなぎ合わせる、波状摩耗補間処理を適用することができる。
補間処理部40Dに含まれる補間処理は、上記として示したものに限られない。
【0030】
これらのコントラスト調整処理部40A、背景・ノイズ除去処理部40B、二値化処理部40C、及び補間処理部40Dに含まれる各画像処理機能は、画像処理実行手順記憶部32に登録された、各画像処理機能を実行する際の実行順序である処理パターン(画像処理実行手順)Mに従って実行される。
図4は、画像処理実行手順記憶部32の説明図である。画像処理実行手順記憶部32は、処理保存部32a、パラメータセット保存部32b、及び処理パターン登録部32cを備えている。
【0031】
処理保存部32aには、既に説明したコントラスト調整処理部40A、背景・ノイズ除去処理部40B、二値化処理部40C、及び補間処理部40Dの各々において実行される、画像処理機能の各々が保存されている。
図4の処理保存部32aにおいては、上記の各処理部40A、40B、40C、40Dのいずれかに含まれる、PR1からPRXまでの、X個の画像処理機能PR1~PRXが保存されている。
また、パラメータセット保存部32bには、処理保存部32aに保存されている各画像処理機能PR1~PRXの、実際の実行時に使用され得るパラメータセットが格納されている。
図4のパラメータセット保存部32bにおいては、処理保存部32aに保存されたX個の画像処理機能PR1~PRXのいずれかまたは複数において使用される、PS1からPSYまでの、Y種類のパラメータセットが保存されている。
【0032】
処理パターン登録部32cには、ラインセンサ画像50を処理するに際し、上記の各画像処理機能を実行する際の処理パターンMが複数個、保存されている。
図4の処理パターン登録部32cにおいては、M1からMLまでの、L個の処理パターンM1~MLが保存されている。
図4においては、これらL個の処理パターンM1~MLのうち、1つ目の処理パターンM1に着目して示されている。処理パターンM1は、画像処理機能P1から画像処理機能PZまでの、Z個の画像処理機能P1~PZを順に実行するように登録されている。ここで、処理パターンM1中の画像処理機能P1は、処理保存部32a内の画像処理機能PR1と、パラメータセット保存部32b内のパラメータセットPS2を参照するようになっている。これは、処理パターンM1における画像処理機能P1は、実際には処理保存部32aに保存されている画像処理機能PR1が、パラメータセットPS2が適用されて実行されることを示している。
また、1つ目の処理パターンM1中の、2番目に実行される画像処理機能P2においては、処理保存部32aに保存されている画像処理機能PRXのみが参照されており、パラメータセット保存部32bのパラメータセットは参照されていない。このように、処理パターンM中に、処理保存部32aに保存された画像処理機能PR1~PRXが登録されるに際し、パラメータセット保存部32b内のパラメータセットは必ずしも対応付けられて参照されなくとも構わない。
【0033】
詳説は省略するが、処理パターンM2~MLについても、処理パターンM1と同様に、処理保存部32aとパラメータセット保存部32bを参照して実行される画像処理機能を表現することにより構成されている。
処理パターン登録部32cに保存された各処理パターンM1~MLの各々において、実行される画像処理機能の数は、固定長ではなく可変長である。すなわち、各処理パターンM1~MLの各々において実行される画像処理機能の数は、基本的には互いに異なっている。
【0034】
このように、処理パターンMは、画像処理機能、または、画像処理機能と当該画像処理機能において使用されるパラメータセットの組み合わせが、複数個、順序付けられて登録されることにより構成されている。このように、処理パターンMは、ラインセンサ画像50を処理するに際し各画像処理機能の実行順序が、画像処理機能の各々が実際にどのように実行されるかを示すパラメータセットとともに登録された画像処理実行手順Mであるといえる。以降においては、処理パターンMを、画像処理実行手順Mと呼称する。
【0035】
上記のように、各画像処理機能は、コントラスト調整処理、背景・ノイズ除去処理、二値化処理、補間処理のいずれかを目的とした処理に分類される。各画像処理実行手順Mにおいては、画像処理機能は、この処理分類の順に実行されるように、登録されている。例えば、二値化処理を実行した後にコントラスト調整を実行しても基本的には意味がないため、二値化処理部40Cに含まれる画像処理機能を実行した後に、コントラスト調整処理部40Aに含まれる画像処理機能が実行されるような画像処理実行手順Mは、基本的には登録されない。
また、摩耗領域9aを抽出するためには、最低限、二値化処理は実行される必要がある。換言すれば、画像処理実行手順Mには、二値化処理部40Cに含まれる画像処理機能が最低1回は実行され、他の処理部40A、40B、40Dに含まれる画像処理機能は必要に応じて、すなわち0回以上実行されるような、画像処理機能の順序が登録される。
このように、複数の画像処理実行手順Mの各々には、0以上のコントラスト調整処理と、0以上の背景・ノイズ除去処理と、1以上の二値化処理と、及び0以上の補間処理が、この順に実行されるように登録されている。
【0036】
更には、各処理部40A、40B、40C、40Dに含まれる画像処理機能の各々は、複数回実行されるように、画像処理機能の順序が登録されていてもよい。例えば、補間処理部40Dにおいて、クロージング処理によって横方向Xに分断されている領域をつなぎ合わせた後に、波状摩耗補間処理によって縦方向Yに分断されている領域をつなぎ合わせるように、画像処理実行手順Mを構築することもあり得る。
あるいは、同一の画像処理機能が、同一のパラメータセットで、あるいはパラメータセットを変えて、連続して、あるいは同一の処理分類に含まれる他の画像処理機能の実行を挟んで、複数回実行されるように、画像処理実行手順Mに登録されていてもよい。
【0037】
画像処理実行手順Mは、各処理部40A、40B、40C、40D内の画像処理機能間で、全ての組み合わせの処理手順が実現されるように、複数が登録されている。
これら複数の画像処理実行手順Mの各々においては、摩耗領域9aを抽出する精度や、ラインセンサ画像50の背景等の状況に対する適性も様々に異なる。このため、複数の画像処理実行手順Mの各々には、優先度が対応付けられて記憶されている。
例えば、背景の輝度値に大きく影響されず、常に一定以上の摩耗領域9a抽出精度を発揮できる画像処理実行手順Mは、優先度を高く設定することが考えられる。
このように、優先度は、摩耗領域9aの抽出精度が高いと考えられるものほど高くなるように設定されている。
【0038】
上記のようにして、画像処理部40は、画像処理実行手順Mを各々実行し、各画像処理実行手順Mに対応した処理画像を生成して、後処理部41に送信する。
【0039】
後処理部41は、画像処理部40から処理画像を受信し、エッジ抽出を行って摩耗領域9aを抽出し、当該処理画像に摩耗領域9aが複数抽出されれば摩耗領域9aごとに、摩耗領域9aの縦方向Yの長さを算出する。
既に説明したように、本実施形態においては、最大4本のトロリ線9がオーバーラップして設けられている可能性がある。すなわち、1枚のラインセンサ画像50に、最大4本のトロリ線9が撮像され得る。このため、後処理部41は、摩耗領域9aが5本以上抽出された場合においては、長さが長い順から4つの領域を摩耗領域9aとして扱い、これより長さが短い他の領域は摩耗領域9aではないと見做す。
後処理部41は、エッジ抽出後の画像を摩耗領域抽出画像として、これに対応する摩耗領域9aの数や、各摩耗領域9aの縦方向Yの、始点座標と終点座標を含む長さ情報、当該摩耗領域抽出画像に対応する画像処理実行手順Mに関する情報とともに、摩耗領域抽出画像評価部33に送信する。
【0040】
このように、摩耗領域抽出画像生成部31は、画像処理部40と後処理部41により、複数の画像処理実行手順Mの各々に従って、ラインセンサ画像50を入力として画像処理機能を実行することにより、トロリ線9の摩耗領域を抽出し、複数の画像処理実行手順Mの各々に対応した複数の摩耗領域抽出画像を生成する。
【0041】
摩耗領域抽出画像評価部33は、複数の画像処理実行手順Mの各々に対応する摩耗領域抽出画像と、関連する各情報を受信し、受信した複数の摩耗領域抽出画像の各々の評価値を計算して、最も評価値の高い摩耗領域抽出画像を選択する。
各摩耗領域抽出画像には、摩耗領域抽出画像生成部31において、当該摩耗領域抽出画像に何個の摩耗領域9aが撮像されたかの判断が、対応付けられて摩耗領域抽出画像評価部33に送信されている。摩耗領域抽出画像評価部33は、各摩耗領域抽出画像に対し、当該摩耗領域抽出画像中の摩耗領域9aの数と、摩耗領域抽出画像が撮像された実際の現場におけるトロリ線9の本数とを比較し、摩耗領域抽出画像の評価値を計算する。
【0042】
図5は、摩耗領域抽出画像評価部33において評価値の計算に使用されるコスト表である。
摩耗領域抽出画像評価部33は、各摩耗領域抽出画像に対し、縦方向Yに1画素分の行ずつ、すなわち1ラインずつ閲覧し、各ライン中に何個の摩耗領域9aが撮像されているかを、摩耗領域抽出画像に対応付けて摩耗領域抽出画像生成部31から受信した、各摩耗領域9aの縦方向Yの始点座標と終点座標を含む長さ情報を基に、計算する。
摩耗領域抽出画像評価部33は、各ラインに対し、この計算された、当該ラインに含まれる摩耗領域9aの個数と、実際のトロリ線9の本数とを用いて、
図5に示されるコスト表からコストを算出する。例えば、実際にトロリ線9が2本あるにもかかわらず、当該ラインにおいて摩耗領域9aが3個抽出されている場合には、コストを1とする。
【0043】
図5に示されるように、摩耗領域9aの個数と実際のトロリ線9の本数の差分が小さいほどコストの値が小さくなるように、コスト表は設計されている。すなわち、本実施形態においては、コストは低ければ低いほど摩耗領域9aの抽出精度が高いことを意味する。
また、実際にトロリ線9が設けられているにもかかわらず、摩耗領域9aを1つも抽出できない場合、すなわち摩耗領域9aが0個抽出された場合に対しては、摩耗領域9aの抽出漏れを抑制するために、一律で他よりも高いコストが設定されている。
【0044】
摩耗領域抽出画像評価部33は、各摩耗領域抽出画像に対し、上記のように計算された全てのラインのコストを累積し、ライン数すなわち縦方向Yの画素数で除算することで、1ライン当たりの平均コスト、すなわち評価値を算出する。
摩耗領域抽出画像評価部33は、全ての摩耗領域抽出画像のなかで、最も評価値が小さいものを、最も適切に摩耗領域9aが抽出された画像と判断する。
【0045】
このように、摩耗領域抽出画像評価部33は、複数の摩耗領域抽出画像の各々に対し、摩耗領域9aの数を計算し、摩耗領域9aの数と、実際のトロリ線9の本数との差が小さい場合に、評価値が高くなるように評価値を計算する。
ここで、複数の摩耗領域抽出画像に対して同一の評価値が計算され、これが他よりも低い評価値であるため、結果として評価値が最も低い摩耗領域抽出画像が複数存在することがある。このような場合においては、各摩耗領域抽出画像に対応する画像処理実行手順Mの優先度を参照し、優先度が高い画像処理実行手順Mに対応する摩耗領域抽出画像を、最も評価値が高い摩耗領域抽出画像として選択する。
【0046】
摩耗領域抽出画像評価部33は、最も評価値が高い摩耗領域抽出画像に対し、各摩耗領域9aの重心座標と摩耗面幅を計算し、最も評価値が高い摩耗領域抽出画像とともに、トロリ線偏位算出部34とトロリ線残存直径算出部35に送信する。
【0047】
トロリ線偏位算出部34は、最も評価値が高いものとして選択された摩耗領域抽出画像を受信し、これを基に、トロリ線9の偏位を計算する。
図6(a)は、偏位の算出原理の説明図である。
偏位D(単位:mm)は、摩耗領域抽出画像評価部33から受信した摩耗領域9aの重心座標d(単位:画素)と、事前に設定されたパラメータである、線路2からラインセンサ22のセンサ面22cまでの距離hs(mm)、ラインセンサ22のレンズの焦点距離f(mm)、ラインセンサ22のセンサ面22cの長さs(mm)、ラインセンサ22の画素数p(画素)、及び、本トロリ線検測装置20以外の他の測定装置により計算された、線路2からトロリ線9までの距離h(mm)を用いて、次式により表される。
【数1】
【0048】
トロリ線偏位算出部34は、上記のようにトロリ線9の偏位を計算し、トロリ線9が、摩耗領域抽出画像に対応する実際の場所において許容される偏位の範囲内に位置しているか否かを判定する。
トロリ線9が許容される偏位の範囲内に位置していない場合は異常であると判断し、記録する。
【0049】
トロリ線残存直径算出部35は、最も評価値が高いものとして選択された摩耗領域抽出画像を受信し、これを基に、トロリ線9の残存直径を算出する。
図6(b)は、残存直径の算出原理の説明図である。
本実施形態においては、トロリ線9の残存直径、すなわち摩耗後のトロリ線9の高さを、残存直径として計算する。
トロリ線残存直径算出部35は、トロリ線偏位算出部34と同様な原理で、摩耗領域抽出画像評価部33から受信した摩耗領域9aの重心座標d(画素)と摩耗面幅w(画素)を基に、トロリ線9の実際の摩耗面幅W(mm)を計算する。トロリ線9の残存直径Dr(mm)は、この摩耗面幅W(mm)と、トロリ線9の半径を用いて、次式により表される。
【数2】
【0050】
トロリ線残存直径算出部35は、上記のようにトロリ線9の残存直径を計算し、残存直径が管理値を下回っていないか判定する。
残存直径が管理値を下回っている場合は異常であると判断し、その旨を記録する。
【0051】
次に、
図1~
図6、及び
図7を用いて、上記のトロリ線検測装置20を用いたトロリ線検測方法を説明する。
図7は、本実施形態におけるトロリ線検測方法のフローチャートである。
【0052】
処理が開始されると(ステップS1)、ラインセンサ画像生成部30は、ラインセンサ22から入力画像を受信し、これを縦方向に時系列的に、例えば1000ラインを並べ、ラインセンサ画像を生成し、摩耗領域抽出画像生成部31へと送信する。
摩耗領域抽出画像生成部31は、ラインセンサ画像50を受信し、ラインセンサ画像50を入力として様々な画像処理機能を実行することにより、トロリ線9の摩耗領域9aを抽出し、摩耗領域抽出画像を生成する(ステップS3)。
摩耗領域抽出画像生成部31は、エッジ抽出後の画像を摩耗領域抽出画像として、これに対応する摩耗領域9aの数や、各摩耗領域9aの縦方向Yの、始点座標と終点座標を含む長さ情報、当該摩耗領域抽出画像に対応する画像処理実行手順Mに関する情報とともに、摩耗領域抽出画像評価部33に送信する。
【0053】
摩耗領域抽出画像評価部33は、複数の画像処理実行手順Mの各々に対応する摩耗領域抽出画像と、関連する各情報を受信し、受信した複数の摩耗領域抽出画像の各々の評価値を計算する(ステップS5)。
【0054】
上記の、摩耗領域抽出画像の生成と評価は、画像処理実行手順記憶部32に記憶された、全ての画像処理実行手順Mに対して実行される。
ステップS7においては、全ての画像処理実行手順Mに対して、摩耗領域抽出画像の生成と評価が実行されたかが判定される。未実行の画像処理実行手順Mがある場合には(ステップS7のNo)、ステップS3に遷移し、未実行の画像処理実行手順Mに対する処理が続行される。
未実行の画像処理実行手順Mがなければ、次に説明するステップS9へと遷移する。
【0055】
ステップS9においては、摩耗領域抽出画像評価部33が、全ての摩耗領域抽出画像のなかで、最も評価値が小さいものを、最も適切に摩耗領域9aが抽出された画像と判断する。
摩耗領域抽出画像評価部33は、最も評価値が高い摩耗領域抽出画像に対し、各摩耗領域9aの重心座標と摩耗面幅を計算し、最も評価値が高い摩耗領域抽出画像とともに、トロリ線偏位算出部34とトロリ線残存直径算出部35に送信する。
【0056】
トロリ線偏位算出部34は、最も評価値が高いものとして選択された摩耗領域抽出画像を受信し、これを基に、トロリ線9の偏位を計算する(ステップS11)。
また、トロリ線残存直径算出部35は、最も評価値が高いものとして選択された摩耗領域抽出画像を受信し、これを基に、トロリ線9の残存直径を算出する(ステップS13)。
【0057】
次に、上記のトロリ線検測装置20及びトロリ線検測方法の効果について説明する。
【0058】
本実施形態におけるトロリ線検測装置20は、トロリ線9を撮像するラインセンサ22を備え、ラインセンサ22により撮像された画像を入力画像としてこれを基にトロリ線9を検測する、トロリ線検測装置20であって、入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像50を生成する、ラインセンサ画像生成部30と、ラインセンサ画像50に対して複数の画像処理機能を順次実行するに際し、その実行順序が、画像処理実行手順Mとして複数登録された、画像処理実行手順記憶部32と、複数の画像処理実行手順Mの各々に従って、ラインセンサ画像50を入力として画像処理機能を実行することにより、トロリ線9の摩耗領域9aを抽出し、複数の画像処理実行手順Mの各々に対応した複数の摩耗領域抽出画像を生成する、摩耗領域抽出画像生成部31と、複数の摩耗領域抽出画像の各々の評価値を計算して最も評価値の高い摩耗領域抽出画像を選択する、摩耗領域抽出画像評価部33と、選択された摩耗領域抽出画像を基に、トロリ線9の残存直径と偏位の双方を算出する、トロリ線検測部34、35と、を備える。
また、本実施形態におけるトロリ線検測方法は、トロリ線9を撮像するラインセンサ22により撮像された画像を入力画像としてこれを基にトロリ線9を検測する、トロリ線検測方法であって、入力画像を時系列的に並べてラインセンサ画像50を生成し、ラインセンサ画像50に対して複数の画像処理機能を順次実行するに際し、その実行順序が、画像処理実行手順Mとして複数登録され、複数の画像処理実行手順Mの各々に従って、ラインセンサ画像50を入力として画像処理機能を実行することにより、トロリ線9の摩耗領域9aを抽出し、複数の画像処理実行手順Mの各々に対応した複数の摩耗領域抽出画像を生成し、複数の摩耗領域抽出画像の各々の評価値を計算して最も評価値の高い摩耗領域抽出画像を選択し、選択された摩耗領域抽出画像を基に、トロリ線9の残存直径と偏位の双方を算出する。
上記のような構成によれば、複数の画像処理実行手順Mの各々に対して摩耗領域抽出画像が生成され、これらの摩耗領域抽出画像の各々に対して評価値が計算されて、最も評価値の高い摩耗領域抽出画像が選択され、これを基にトロリ線9の残存直径と偏位の双方が算出される。すなわち、画像処理実行手順Mの数に対応する数の摩耗領域抽出画像が生成され、その中から残存直径や偏位の評価に最も適した摩耗領域抽出画像が残存直径や偏位の評価対象として選択される。結果として、複数登録された画像処理実行手順Mのうち、処理対象となるラインセンサ画像50の処理に適する画像処理実行手順Mの処理結果が、摩耗領域抽出画像として選ばれる。
このように、処理対象となるラインセンサ画像50に適する画像処理機能の組合せを作業員が試行錯誤の上で選択せずとも、トロリ線9の残存直径や偏位の算出に適した摩耗領域抽出画像を生成し、残存直径や偏位を測定可能であるため、作業員による、入力された画像に適した画像処理機能を取捨選択する工数を低減可能である。
【0059】
また、複数の画像処理実行手順Mの各々には優先度が対応付けられて記憶されており、摩耗領域抽出画像評価部33は、同一の評価値が複数の摩耗領域抽出画像に対して算出された場合には、優先度が高い画像処理実行手順Mに対応した摩耗領域抽出画像を、最も評価値の高い摩耗領域抽出画像として選択する。
上記のような構成によれば、同一の評価値が複数の摩耗領域抽出画像に対して算出された場合には、優先度が高い画像処理実行手順Mに対応した摩耗領域抽出画像を、最も評価値の高い摩耗領域抽出画像として選択する。このため、同様な評価値を有するような摩耗領域抽出画像が複数あった場合でも、優先度が高い画像処理実行手順Mに対応した摩耗領域抽出画像が選択されるので、残存直径や偏位の評価に適した摩耗領域抽出画像が選択されやすくなる。
【0060】
また、摩耗領域抽出画像評価部33は、複数の摩耗領域抽出画像の各々に対し、摩耗領域9aの数を計算し、摩耗領域9aの数と、実際のトロリ線9の本数との差が小さい場合に、評価値が高くなるように評価値を計算する。
上記のような構成によれば、実際のトロリ線9の本数と摩耗領域9aの数が一致する摩耗領域抽出画像が、残存直径や偏位を算出する摩耗領域抽出画像として選択されやすくなる。このため、トロリ線9の摩耗領域9aの抽出精度が向上し、残存直径や偏位の算出精度も向上する。
【0061】
[実施形態の第1変形例]
次に、
図8~
図11を用いて、上記実施形態として示したトロリ線検測装置20及びトロリ線検測方法の第1変形例を説明する。
図8は、本変形例に関するラインセンサ画像の例であり、上記実施形態において用いた
図3のラインセンサ画像50は明るい昼間に撮像されたものであるのに対し、
図8のラインセンサ画像50Aは暗い昼間に撮像されたものである。
図9は、本変形例に関するラインセンサ画像の例であり、夜間に撮像されたラインセンサ画像50Bである。
図10は、本変形例に関するラインセンサ画像の例であり、昼間にトンネルへ入ろうとする瞬間に撮像されたラインセンサ画像50Cである。
図11は、本変形例におけるトロリ線検測装置60のブロック図である。
本変形例におけるトロリ線検測装置60は、上記実施形態のトロリ線検測装置20とは、画像処理実行手順記憶部64には、ラインセンサ22により画像を撮像する際の複数の異なる環境の各々に対応して、画像処理実行手順Mが登録され、制御装置61は、ラインセンサ画像50、50A、50B、50Cを基に、入力画像が撮像された環境を判定する環境判定部62を更に備え、摩耗領域抽出画像生成部63は、判定された環境に対応する画像処理実行手順Mに従って摩耗領域抽出画像を生成する点が異なっている。
【0062】
環境判定部62は、ラインセンサ画像生成部30によって生成されたラインセンサ画像50、50A、50B、50Cを基に、環境を判定する。
本変形例においては、環境判定部62は、
図3、
図8、
図9、及び
図10に示されるような、夜またはトンネル、暗い昼間、明るい昼間、昼間でトンネルに突入する瞬間、及びその他の状況の、5種類の環境を判定する。
この判定のために、環境判定部62は、ラインセンサ画像50、50A、50B、50Cのヒストグラムを計算し、平均値、最頻値、2番目に頻度が高い輝度値、3番目に頻度が高い輝度値を算出する。その後、事前に設定された、夜判定閾値、暗い昼間判定閾値、明るい昼間判定閾値の各々と、算出された値の各々を次のように比較して、環境を判定する。
【0063】
環境判定部62は、次の判定式の全てが同時に満たされる場合に、ラインセンサ画像50Bに対応する環境が夜またはトンネルであると判定する。
0 ≦ 平均値 ≦ 夜判定閾値
0 ≦ 最頻値 ≦ 夜判定閾値
0 ≦ 2番目に頻度が高い輝度値 ≦ 夜判定閾値
0 ≦ 3番目に頻度が高い輝度値 ≦ 夜判定閾値
【0064】
環境判定部62は、次の判定式の全てが同時に満たされる場合に、ラインセンサ画像50Aに対応する環境が暗い昼間であると判定する。
夜判定閾値 < 平均値 ≦ 暗い昼間判定閾値
夜判定閾値 < 最頻値 ≦ 暗い昼間判定閾値
夜判定閾値 < 2番目に頻度が高い輝度値 ≦ 暗い昼間判定閾値
夜判定閾値 < 3番目に頻度が高い輝度値 ≦ 暗い昼間判定閾値
【0065】
環境判定部62は、次の判定式の全てが同時に満たされる場合に、ラインセンサ画像50に対応する環境が明るい昼間であると判定する。
明るい昼間判定閾値 < 平均値
明るい昼間判定閾値 < 最頻値
明るい昼間判定閾値 < 2番目に頻度が高い輝度値
明るい昼間判定閾値 < 3番目に頻度が高い輝度値
【0066】
環境判定部62は、次の判定式の全てが同時に満たされる場合に、ラインセンサ画像50Cに対応する環境が昼間でトンネルに突入する瞬間であると判定する。
夜判定閾値 < 平均値 ≦ 輝度値の最大値(例えば、255)
0 ≦ 最頻値 ≦ 夜判定閾値
0 ≦ 2番目に頻度が高い輝度値 ≦ 夜判定閾値
0 ≦ 3番目に頻度が高い輝度値 ≦ 夜判定閾値
【0067】
環境判定部62は、上記いずれの環境にも該当しない場合には、その他の環境であると判定する。
環境判定部62は、判定した結果の環境を、摩耗領域抽出画像生成部63に送信する。
【0068】
背景の輝度値は、トロリ線9を撮像する時間帯に依存して大きく変動する。例えば、晴れた昼間であれば輝度値は高くなるが、曇りであると輝度値は低くなるし、夜間やトンネル内等では輝度値は更に低下する。
このように、ラインセンサ画像50、50A、50B、50Cの背景の輝度値が、天候や時間等の環境に依存して大きく変化する。環境によってラインセンサ画像50、50A、50B、50Cの性質が異なるため、ラインセンサ画像50、50A、50B、50Cを適切に処理できる画像処理機能の組み合わせは、基本的に異なるものとなる。
本変形例においては、画像処理実行手順記憶部64には、想定される環境ごとに、環境の各々に対応するように、当該環境において摩耗領域抽出画像の生成に適した画像処理実行手順Mが複数、格納されている。
【0069】
摩耗領域抽出画像生成部63は、環境判定部62から、判定された環境を受信する。
摩耗領域抽出画像生成部63は、判定された環境を基に、これに対応する、複数の画像処理実行手順Mを画像処理実行手順記憶部64から取得する。
摩耗領域抽出画像生成部63は、判定された環境に対応する複数の画像処理実行手順Mに対して、上記実施形態と同様な手順で、複数の画像処理実行手順Mの各々に対する摩耗領域抽出画像を生成する。すなわち、摩耗領域抽出画像生成部63は、判定された環境以外の環境に対応する画像処理実行手順Mは実行しない。
【0070】
本第1変形例が、既に説明した実施形態と同様な効果を奏することは言うまでもない。
特に、本変形例の構成によれば、環境に応じて、適切な画像処理実行手順が選択され、これに対応した摩耗領域抽出画像が生成されるようになるため、残存直径や偏位の算出精度が向上するとともに処理時間を短縮または処理負荷を低減することが可能である。
また、選択された環境に対応しない画像処理実行手順Mは実行されないため、トロリ線検測装置60の実行に要する処理時間やメモリを低減可能である。
【0071】
[実施形態の第2変形例]
次に、上記実施形態として示したトロリ線検測装置20及びトロリ線検測方法の第2変形例を説明する。本第2変形例におけるトロリ線検測装置は、上記実施形態のトロリ線検測装置20とは、摩耗領域抽出画像評価部の処理内容が異なっている。
上記実施形態においては、摩耗領域抽出画像評価部33は、複数の摩耗領域抽出画像の各々に対し、摩耗領域9aの数を計算し、摩耗領域9aの数と、実際のトロリ線9の本数との差が小さい場合に、評価値が高くなるように評価値を計算した。本変形例においては、これに替えて、摩耗領域抽出画像評価部は、複数の摩耗領域抽出画像の各々に対し、摩耗領域9aがトロリ線9に近い画像上の特徴を有することを示す指標であるトロリ線尤度を計算し、トロリ線尤度が高い場合に、評価値が高くなるように評価値を計算する。
また、摩耗領域抽出画像生成部の後処理部41は、摩耗領域9aの縦方向Yの長さを算出するとともに、ラインごとの摩耗領域9aの幅を算出する点も異なっている。
【0072】
上記のように、トロリ線尤度は、摩耗領域9aがどれだけトロリ線9に近い画像上の特徴を有することを示す指標である。本変形例においては、複数の異なる要因を計算し、これらに重みを付けて加算することで、トロリ線尤度を適切に計算している。
トロリ線尤度を計算する一つの要因としては、例えば、ラインセンサ画像50における摩耗領域9aと考えられる領域の、縦方向Y方向の長さが挙げられる。すなわち、縦方向Y方向に長ければ長いほど、これはトロリ線9らしいものであり、当該領域は摩耗領域9aである可能性が高いと考えられる。
【0073】
トロリ線尤度を計算する他の要因としては、例えば、ラインセンサ画像50内の摩耗領域9aと考えられる領域の偏位量、またはその微分値が挙げられる。上記のように、トロリ線9はもともとジグザグに蛇行するように設けられてはいるが、この蛇行の想定された傾斜角度以上に摩耗領域9aと考えられる領域が大きく傾いている場合には、これはトロリ線9らしくないものであり、当該領域は摩耗領域9aである可能性が低いと考えられる。
【0074】
トロリ線尤度を計算する他の要因としては、例えば、ラインセンサ画像50内の摩耗領域9aと考えられる領域の平均輝度値が挙げられる。この平均輝度値が想定される値に近いほど、これはトロリ線9らしいものであり、当該領域は摩耗領域9aである可能性が高いと考えられる。
【0075】
トロリ線尤度を計算する他の要因としては、例えば、ラインセンサ画像50内の摩耗領域9aと考えられる領域の幅の、縦方向Yにおけるラインごとの変動量、またはその微分値が挙げられる。摩耗領域9aは、基本的には幅が略一定となることが多いため、幅の変動量が大きければ、これはトロリ線9らしくないものであり、当該領域は摩耗領域9aである可能性が低いと考えられる。この幅の変動量の計算には、後処理部41により算出された、ラインごとの摩耗領域9aの幅の値が使用される。
【0076】
上記のような要因の総数をNとし、各要因の値をai(i=1、2、…、N)、重みをwi(i=1、2、…、N)とすると、摩耗領域抽出画像評価部は、次式により、トロリ線尤度Eを評価値として計算する。
【数3】
【0077】
摩耗領域抽出画像評価部は、最も評価値すなわちトロリ線尤度が高い摩耗領域抽出画像を選択し、これを基に、トロリ線偏位算出部34、トロリ線残存直径算出部35は、上記実施形態と同様に、偏位や残存直径を測定する。
【0078】
本第2変形例が、既に説明した実施形態と同様な効果を奏することは言うまでもない。
特に、本変形例の構成によれば、実際のトロリ線9の外観に摩耗領域9aの画像上の特徴が近い摩耗領域抽出画像が、残存直径や偏位を算出する摩耗領域抽出画像として選択されやすくなる。このため、トロリ線9の摩耗領域9aの抽出精度が向上し、残存直径や偏位の算出精度も向上する。
【0079】
なお、本発明のトロリ線検測装置及びトロリ線検測方法は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。
【0080】
例えば、上記実施形態においては、後処理部41は説明の都合上、摩耗領域抽出画像生成部31に含まれるように説明したが、これに限られない。後処理部41は、摩耗領域抽出画像評価部33に含まれていてもいいし、摩耗領域抽出画像生成部31、摩耗領域抽出画像評価部33の各々とは独立した機能として構成されていてもいい。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない限り、制御装置23内の構成が変更されてもよいのは、言うまでもない。
また、上記実施形態においては、トロリ線検測装置はトロリ線偏位算出部34とトロリ線残存直径測定部35の双方を備え、トロリ線9の残存直径と偏位の双方を算出するように構成されていたが、これに限られない。トロリ線検測装置は、例えば、トロリ線の残存直径と偏位のいずれか一方のみを算出するように構成されていても構わない。
【0081】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態及び各変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
例えば、上記第2変形例は、上記実施形態の変形例として説明したが、上記第1変形例の更なる変形例としてもよい。すなわち、トロリ線検測装置は、環境判定部を備えて環境を判定する構成としつつ、同時に、摩耗領域抽出画像評価部において、トロリ線尤度を基に摩耗領域抽出画像を評価するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 検査車両
9 トロリ線
9a 摩耗領域
20、60 トロリ線検測装置
21 照明
22 ラインセンサ
23、61 制御装置
30 ラインセンサ画像生成部
31、63 摩耗領域抽出画像生成部
32、64 画像処理実行手順記憶部
33 摩耗領域抽出画像評価部
34 トロリ線偏位算出部(トロリ線検測部)
35 トロリ線残存直径算出部(トロリ線検測部)
40 画像処理部
40A コントラスト調整処理部
40B 背景・ノイズ除去処理部
40C 二値化処理部
40D 補間処理部
41 後処理部
50、50A、50B、50C ラインセンサ画像
62 環境判定部
M、M1、M2、M3 画像処理実行手順